<成果報告書> - sat-data.spacesat-data.space/pdf/report_ube_detail.pdf · 1 sentinel-2 21...
TRANSCRIPT
<成果報告書>
平成 30年度経済産業省衛星データ統合活用実証事業
衛星・地上データによるバイオマス資源の地産地消で儲かる林業
2019年(平成 31年)3月 13日
実証プロジェクト代表
宇部興産コンサルタント株式会社
目次
1.実証プロジェクト概要 ................................................................................................... 1
1-1.プロジェクト背景................................................................................................ 1
1-2.プロジェクト体制................................................................................................ 1
1-3.プロジェクト概要................................................................................................ 2
2.事業実施内容:衛星データ解析 ..................................................................................... 3
2-1.衛星データ解析 ................................................................................................... 3
2-1-1.衛星データ ................................................................................................ 3
2-1-2.地上データ ................................................................................................ 4
2-1-3.教師データ作成 ........................................................................................ 4
2-1-4.衛星データ解析内容 ................................................................................. 5
2-2.衛星データ評価 ................................................................................................... 5
2-1-5.数値評価(平成 29 年度) ....................................................................... 5
2-1-6.数値評価(平成 30 年度) ....................................................................... 6
2-1-7.現地調査(衛星データ解析結果検証) .................................................... 7
3.事業実施内容:森林資源情報システム構築・実証 ....................................................... 8
3-1.森林資源情報システム全体概要 .......................................................................... 8
3-2.衛星データ・地上データ融合システム ............................................................... 9
3-3.現地調査支援システム .................................................................................... 10
3-4.現地評価(ユーザビリティ、他) .................................................................. 13
3-5.GNSS 精度検証 ............................................................................................... 14
3-6.3D 地上レーザスキャナ実証 ........................................................................... 15
4.事業化への取組 .......................................................................................................... 17
4-1.事業化の方向性 ............................................................................................... 17
4-2.本事業のスケジュール(実績、予定) ........................................................... 17
4-3.事業実施後のゴール ........................................................................................ 18
4-4.マーケットへの波及効果 ................................................................................. 19
4-5.官公庁、自治体への要望事項 ......................................................................... 20
1
1.実証プロジェクト概要
1-1.プロジェクト背景
平成 24 年、FIT(固定価格買取制度)の導入によりバイオマス発電所の建設が進んでい
る。山口県においても現状 3 箇所、2022 年までには追加 4 箇所の建設が予定されている。
よってバイオマス資源の需要はあるが、現状では大量・安価に仕入れ可能な海外からの輸
入(パーム椰子殻等)で賄うことが多くなっている。一方、優れた自然環境が残る山口県
宇部市、美祢市においては、宇部市は竹害、美祢市は人工林の荒廃(やまぐち森林ビジョ
ン H16)に悩まされており、林地残材も多く残っている。バイオマス資源が地元にあるにも
かかわらず、活用されていないのが現状である。
本事業では、衛星・地上データを活用した森林資源情報システムの構築および森林コン
サルティングサービスの実証を行う。地元の林業事業者が効率のよい森林・竹林の伐採を
行うことで、儲かる林業を実現する。同時に当社がサービスによる対価を得てビジネスを
横展開する。あわせて地域の里山問題、鳥獣被害等、社会問題の解決を目指す。
1-2.プロジェクト体制
プロジェクト体制を図1、それぞれの組織における人員数および役割を表1に示す。プ
ロジェクトの利用者は自治体として宇部市および美祢市。民間企業として、宇部市・美祢
市・山陽小野田市をテリトリとし森林事業を展開するカルスト森林組合、宇部市で竹林の
伐採を事業とする三輝トラスト株式会社の計 4団体が参画する。
サービス提供は、実証プロジェクトの代表企業である宇部興産コンサルタント株式会社
(UIC)と株式会社ニュージャパンナレッジ(NJK)、株式会社常盤商会が連携し、衛星デ
ータ解析・実証および森林資源情報システムの構築を行った。山口県農林総合技術センタ
ー(農林)、地独)山口県産業技術センター(県産技)、山口大学応用衛星リモートセンシン
グ研究センター(山大)が各々の専門分野において、宇宙システム開発利用推進機構(JSS)
が外部支援機関として衛星データ解析において、技術支援を行った。
図1 プロジェクト体制
2
1-3.プロジェクト概要
プロジェクトの実施においては「衛星・地上データ解析」と「森林資源情報システム構
築」の二点に大別される。
1) 衛星・地上データ解析
森林資源を「竹林」「人工林(スギ、ヒノキ)」に対象を絞り、分布(面積)の抽出
を行った。概要は以下、a)、b)の通り。
a) 竹林:
昨年度(平成 29年度)内閣府の実証事業において、宇部市の分布データを抽出し
たが、今年度(平成 30年度)は、美祢市の分布を抽出した。事業化に向けて低コス
トで行えるよう実証を行った。
b) 人工林:
人工林においては、宇部市、美祢市双方の抽出を行った。
2) 森林資源情報システム構築・実証
林業事業者が、解析した竹林、人工林分布を背景地図として活用し“土地境界確認”
“作業日報報告”等のコスト削減が行える「森林資源情報システム」の構築を行った。
1)2)を活用し、当社が森林コンサルタントとして地元の林業事業者あるいは自治体に森
林資源情報提供を行うことでその対価を得る。ひいては地元のバイオマス発電所にバイオ
マス資源が安定供給され、あわせて自治体の森林経営管理に寄与するといったビジネスモ
デルが成り立つ。これがまさに本事業のビジネスモデルであり、概要図を図2.に示す。
図2.本事業のビジネスモデル概要
3
2.事業実施内容:衛星データ解析
2-1.衛星データ解析
衛星データの解析イメージを、図3.に示す。
図3.衛星データ解析イメージ
昨年度の実証事業経験より、解析精度向上のためのポイントは以下の 4 点とした。
1) 衛星データ:
雲のない画像の選択が必須であり、竹林、人工林の特長の出る時期を選定する。
2) 地上データ:
国交省・地理院オープンデータ、自治体保有データ等(ある程度の精度がある)。
3) 教師データ:
竹林、人工林が特定できる地点をピクセル単位でできるだけ多く抽出する。
4) 衛星データ解析:
分類手法をいくつかトライし、評価を行う。
2-1-1.衛星データ
本プロジェクトで用いた衛星データを表1に示す。事業化を念頭にした場合、ユーザ
に安価な価格で提供するためには、無償の衛星データの利用が望ましく、欧州の
Sentinel-2 を使用した解析・評価を実施した。Sentinel-2 を選択した理由は、昨年度の
内閣府実証事業において、竹林の抽出に最適な衛星データであったため。また現時点で
有償ではあるが、将来、安価(または無償)となる可能性を持つ高解像度衛星について
も解析・評価を実施した。Pleiades および DigitalGlobe 社の WorldView-2 を使用した。
表1.衛星データ
No 衛 星 名 分解能 観測幅 区分 時期 地域 用途
1 Sentinel-2 20m 290km 無償 2016.7 美祢市 竹林
2018.6 宇部市・美祢市 人工林
2 Pleiades 2m/0.5m 20km 有償 2017.1 宇部市・美祢市(一部) 人工林
3 WorldView-2 2m/0.5m 18km 有償 2015.4 宇部市・美祢市
(一部。25㎢)
人工林
4
2-1-2.地上データ
本プロジェクトで用いた地上データを表2に示す。山口県提供データについては、実
証プロジェクトでの活用に限定することが条件となっている。それ以外のデータに関し
ては自作またはオープンデータを用いた。
表2.地上データ(全て電子データ)
No 地上データ 提供元 用途 範囲
1 森林
(林班・小班・作業道)
山口県 ・GIS 搭載(土地境界確認)
・人工林解析評価
宇部市・美祢市
2 竹林 山口県 ・GIS 搭載(解析結果評価)
・竹林解析評価
宇部市・美祢市
3 人工林 自作(航空写真
を下絵)
・人工林解析評価
スギ:208 件
ヒノキ:228 件
宇部市・美祢市
市境
4 ドローン写真 自作(県産技に
よる撮影・解析)
・竹林、人工林
解析結果評価
宇部市・美祢市
一部
5 標高、傾斜 基盤地図情報 ・評価、検証用 宇部市・美祢市
6 植生調査 生物多様性セン
ター(環境省)
・解析結果クレンジング用
(ゴルフ場を除く、等)
宇部市・美祢市
2-1-3.教師データ作成
昨年度の実証事業により、宇部市の竹林抽出を行った際、「竹(モウソウ)」「竹(マダ
ケ)」「針葉樹」「広葉樹」の教師データをそれぞれ 100 点作成した。教師データ作成イ
メージを図4.に示す。
図4.教師データ作成(イメージ)
教師データの構築においては、抽出対象となる樹木、樹種の特性を把握し、航空写真
(および地上データ)で位置決めをした後、衛星画像から抽出する作業を手作業で実施
することとなる。事業化において他県等、他地区への展開に際し、この作業を行うこと
が考えられるが、その際手作業のコストが発生し、その対価をユーザに求めることにな
ると、高額なサービス提供となり導入が進まない懸念がある。したがって今年度の実証
事業では、昨年度作成した教師データが他地区の解析・抽出に利用できるかどうか、美
5
祢市をターゲットとし、実証を行った。
また人工林においては、今年度新たに教師データを抽出した。小班データの内、公社・
公団データを軸にスギ、ヒノキを判読し、地上データと教師データを新たに作成した。
教師データについては、スギ、ヒノキそれぞれ 70 点を抽出した。
2-1-4.衛星データ解析内容
衛星データ解析内容について、表3.に示す。
表3.衛星データ解析
No 衛 星 名 解析パタ
ーン数
解析ツ
ール
バンド 座標系 分類方法
1 Sentinel-2 21 QGIS 2,3,4,5,6,
7,8a,11,12 EPSG32652
/WGS84
最尤法、最短距離法
2 Pleiades 14 QGIS/
Python
1~4/パン
クロマテ
ィック
EPSG32652
/WGS84
最尤法、SAM 法、テクス
チャ解析
3 WorldView-2 2 QGIS 1~8 EPSG32652
/WGS84
最尤法/9 ピクセル以下
ふるい掛け
2-2.衛星データ評価
2-1-5.数値評価(平成 29 年度)
今年度の数値評価を行う前に、まず、図5.に昨年度の衛星データ解析結果を示す。
図5.衛星データ解析結果(H29 年度内閣府実証事業)
この評価方法は、衛星データ解析結果をラスタからベクタへ変換し、地上データとの
面積比率で評価した。地上データの精度については、昨年度事業の現地調査で非常に精
度が高いことを確認している(地上データが存在し、衛星データが存在しない 18 箇所に
ついて、現地調査でいずれも竹林の存在を確認できたため)。図5では赤枠で示している
箇所は、この精度が高い地上データに対して、衛星データでどこまで復元できたかを示
している数値であり、75%以上(単一エリア中の竹林存在率)の場合、Sentinel-2、
WorldView-2 いずれも 70%以上の数値であることは、比較的高い数値であり、事業に資
する情報が得ることができたと評価した。青枠は、衛星データの抽出率が地上データに
比べて高い場合、数値が高くなる指標である(よって 100%に近い数値が望ましい)。青
枠の数値が高く、赤枠の数値が高くなるのは、衛星データの抽出率が高いことを示して
いるが、図5の結果については、131%、113%といずれも高くなく、衛星データの解析
結果が地上データの結果を復元し、また地上データで発見できていない竹林エリア抽出
の可能性もあることを示している(昨年度の現地調査では、82 箇所の調査地点に対し、
37 箇所の新たな竹林エリアを衛星データで発見できた)。
6
2-1-6.数値評価(平成 30 年度)
図6.に今年度の衛星データ解析結果を示す。
図6.衛星データ解析結果(H30 年度経産省実証事業)
今年度の評価は経産省からの助言もあり、物体検出の精度評価などに用いられる IoU
(Intersection over Union)を使った評価を実施した。その結果を図6.に示す。この
結果と図5.に示した昨年度の実証結果(赤枠)を比較することで、本事業の解析結果
について評価を実施した。以下にその結果を示す。
7
1) 美祢市竹林解析結果(Sentinel-2、2016/7/21):
宇部市の教師データを使用して美祢市の解析を実施し、この結果を得た。
昨年度の実証結果と比べ、再現率は 3%程度落ちているが、そん色ない結果
である。よって教師データの横展開は行えると評価した。
2) 人工林解析結果(Sentinel-2、2018/6/1):
昨年度のデータと比較しても、再現率は 90%と非常に高い。さらに IoU も
65%と高い数値となっている。これは衛星データの抽出率が高いことを示して
いる。ただし人工林の地上データは、今回自作したデータであり、必ずしも人
工林を完全に網羅しているわけではない。このため衛星データが存在し、地上
データが存在しないと示しているエリアについては、人工林が存在する可能性
がある。当該箇所については、現地調査で評価することが妥当と考える。
3) 人工林解析結果(WorldView-2、2015/4/2):
②と同様の結果であり、同じく現地調査での評価が必要と考える。
4) 人工林解析結果(Pleiades、2015/1):
再現率が 29%と低く、地上データを再現できていない結果となった。これは
画像中に森林の影の部分が多く、当該箇所が誤判定されたものと考える。
2-1-7.現地調査(衛星データ解析結果検証)
図7に現地調査(衛星データ解析結果検証)の結果を示す。
図7.現地調査結果(衛星データ解析結果検証)
この調査は、衛星データが存在し、地上データが存在しない竹林、人工林について、
現地を訪問し、実際の竹林、人工林の存在を確認するという内容である。
結果を図 7.に示す。この結果から、Sentinel-2 は 86%、WorldView-2 は 100%の衛
星データ正答率であることが分かった。サンプル数はそれぞれ 7、17 と少ないが、人工
林の衛星データ解析結果と地上データと一致していない場合に、衛星データ解析結果が
正しい場合が大半を占め、人工林の衛星データ解析結果の妥当性が示唆された。
8
3.事業実施内容:森林資源情報システム構築・実証
3-1.森林資源情報システム全体概要
解析した衛星データの活用手段として、林業事業者が、解析した竹林、人工林分布を背
景地図として設定し、“土地境界確認”“作業日報報告”等が行える「森林資源情報システ
ム」を構築した。概要を図2.に示す。
図2.森林資源情報システム概要
1) GIS システム(クラウド):
GIS サーバについては、月額契約のクラウドシステム(GMO クラウド社)を使
用し、GIS ソフトウェア(ESRI ジャパン社販売:ArcGIS for Developer)をインス
トールして構築した。
2) ①衛星データ・地上データ融合システム:
衛星データの解析後、GIS システムとして使いやすいデータにするために、ラスベ
ク変換(ラスタ⇒ベクタ変換)およびデータクレンジング処理を行う。本事業では、
この処理を手動でなく、自動で一括処理が行えるツールを構築した。
3) ②現地調査支援システム:
林業事業者が、森林・竹林現地で土地境界確認、作業日報として活用可能なシステ
ムを構築した。Android で稼働するアプリであり、市販のスマホ、タブレットに搭載
可能である。携帯電波不通エリアにおいても GNSS 捕捉が行える場合に使用可能な
仕様として構築した(海外展開を念頭に置いている)。
4) ③伐採・道開・運搬計画策定支援システム:
林業事業者が、現地情報を携帯電波疎通エリア内で 3)で取得したデータをアップロ
ードすることで、事務所に即座に現地情報を再現できるシステム。Web ブラウザで稼
働するシステムであるため、個々のパソコンへのインストールは不要である。
9
3-2.衛星データ・地上データ融合システム
図10.に衛星データ・地上データ融合システム概要を示す。
図10.衛星データ・地上データ融合システム概要
衛星データ解析後に出力されるデータのデータ形式は、ラスタデータと言われるいわゆ
る画像としての情報である。これでは面積計算や属性情報の付与が行えない。よってこれ
を森林資源情報システム(以下、本システムと称す)として搭載するために、ベクターデ
ータ変換(図10.①)およびその他処理(図10.②~④)を自動で行う一括変換ツー
ルを構築した。構築は GIS 製品“ArcGIS for Desktop”の ModelBuilder を使用した。
この処理を自動で行うツールとして構築することにより、手作業での処理を行う必要が
なく、データ作成の省力化が可能となる。仮に手作業での処理の場合、昨年度実証事業の
実績では手作業でおよそ 1 日~2 日かかるが、本ツールでは数分で完了する。事業化を行う
場合、手作業のコストはユーザに対価を要求することになり、結果、導入に支障をきたす
ことなる。よって本事業では、事業化を行う上で欠かせないツールの構築が行えた。
ただし他県等、他地区の衛星データ解析において、このツールの汎用性についての検証
は行えていなが、ツールの仕様上、大掛かりな修正が必要ではない汎用性は確保できたも
のと評価する。
10
3-3.現地調査支援システム
本事業で構築した現地調査支援システムの画面フローおよび機能一覧を図11.に示す。
図11.現地調査支援システム 画面フローおよび機能一覧
ユーザインターフェースについては昨年度の実証事業で高評価を得た「調査レポート形
式」を採用した。調査開始~終了までの歩行軌跡および写真・位置を一つのレポートとし
て記録する方式である。これにより、同一日同一場所における複数人の調査記録、および、
同一日複数個所の調査記録が行える。また作業概要を 250 文字まで記録でき、タイトル、
調査員所属、氏名等の報告も行えるため、作業日報としての活用が可能となる。
特有の機能については、まず携帯電波不通エリアにおいても使用可能な「オフライン機
能」である。あらかじめ事務所で背景地図を切り出して使用でき、解析した衛星データを
背景地図に設定できる。その他「杭情報」として記録が行える点も挙げられる。写真登録
時に「杭」のチェックを入れることができ、これにより事務所 PC 画面で杭情報のシンボル
表示が行える。また今後、自治体の地籍調査の参考記録にもなり、自治体への提供が行え
る。杭情報の記録についてのフローを図12.に示す。
11
図12.杭情報の記録と地籍調査への活用(提案)
国内から海外まで幅広いニーズを見据え、必要最低限の機能実装が行えたと評価する。
課題はオンライン時のレスポンスが数秒かかるケースが見られた点である。オンライン機
能は携帯電波疎通状態(ネットワーク)やタブレットなどのハードウェアに依存する点は
否めないが、GIS ベンダとコミュニケーションを進めながら改善してゆく。
12
3-4.伐採・道開・運搬計画策定支援システム
事務所で活用する伐採・道開・運搬計画策定支援システムの画面フローおよび機能一覧
を図13.に示す。
図13.伐採、道開、運搬計画策定支援システム 画面フローおよび機能一覧
Web ブラウザで稼働する WebGIS のシステム構成とした。この構成により、各 PC への
インストールが不要となり、導入コストを抑えることが行える。
GIS データは現地調査システムのアップロードボタン押下により、携帯疎通エリアでデ
ータがアップロードされ、事務所側の PC で閲覧可能となる。ただしデータの編集について
は、現時点では利用者側では行えない仕様としている(スマホ、タブレットからの一方通
行)。データ編集が必要な場合、システム管理者が手動で行う運用である。
ユーザ ID / パスワードによる利用者管理については、今回は GIS ソフトウェアの標準機
能をそのまま採用した。
13
3-4.現地評価(ユーザビリティ、他)
本事業の現地評価フィールドを図14.に示す。
図14.竹林、人工林 現地評価フィールド
竹林検証は三輝トラスト株式会社、人工林検証はカルスト森林組合の支援により、現地
立ち入り許可の取得ならびに草刈りなどの実証準備を行っていただき、実証が行えた。
竹林現地では土地境界の確認に本システムを利用した。これまで紙地図で行っていた作
業に比べると、タブレットで現在位置が把握でき、竹林、人工林位置が大まかでも確認で
きることで、これまで 1 日かかっていた作業が 1 時間ですむと高評価を得た。ただ図14.
(左上)にもあるように、特に竹林が密集していて視界が狭いエリアでは GNSS の補足が
安定せず時間を要した。当該条件下における GNSS 捕捉が行え、位置精度が向上すること
で林業事業体が悩む土地境界確認の作業コスト改善に大きくつながることが実証できた。
人工林現地では、約 1ha 程度の範囲の土地境界確認を想定し、13 本の杭を打つことで実
証を行った。本システムの実証では、現地状況を簡単に記録できる点は評価されたが、両
手が塞がってしまう点、また竹林現地と同じく GNSS 捕捉精度の劣化による位置特定難と
いう点でユーザビリティの妨げになってしまうことが実証できた。このうち両手が塞がっ
ている点については、現地用タブレットケースの導入により、安全性を確保したうえで利
用できる実証でき、課題の解決が行えた(図15.参照)。
(竹林検証:宇部市伊佐地) (人工林検証:美祢市東山)
14
また三輝トラスト株式会社、カルスト森林組合双方とも山口県のスマホアプリを使用し
ており、この点からの要望としては、「小班データ等、森林レイヤの属性情報が確認できる
こと」「距離、面積計測が行えること」があがった。前者について、本システムでは属性デ
ータの確認はあくまで生データのコードであり名称が確認できないという点がネックとな
っている。無論、システム的には実装可能である。後者も同じく実装可能であるが、いず
れも現地調査支援システムの構築においては、できるだけシンプルに現地情報を収集する
機能に絞り込んだため、今回は双方と構築対象から外した。今後もユーザニーズとのバラ
ンスを取りながら実装を検討したい。
3-5.GNSS 精度検証
本事業で使用したタブレット、スマホ(3 機種、4 計測)およびコンパス測量、3D 地上
レーザスキャナで計測した GNSS 位置精度結果を図16.に示す。
図15.現地用タブレットの活用
図16.GNSS精度評価(距離)
(タブレット:3機種平均誤差 8m。
コンパス測量誤差 0.5m、、3D地上レーザスキャナー:誤差 0.08m)
15
本実証は人工林検証を行った美祢市東山で実施した(図14.右図)。評価基準とする正
答座標は当社測量チームが現地測量を実施した値を採用した。現状、森林事業者が現地で
計測する材積についてはコンパス測量により取得しているが、コンパスとロープを使った
人的作業で労力を要する。これを本システムで代替できないか、タブレットを持って歩き
ながら情報収集を行えればコスト削減につながるのではないかと要望があった。
しかし結論から言うと、タブレット、スマホでは位置ずれが大きく(距離平均 8m)現時
点では適用が行えないことを実証できた。土地境界確認も含めて GNSS 捕捉困難な森林現
地でサブメートル精度が捕捉できれば、林業事業体へのコスト削減および本システムの圧
倒的なマーケット拡大に繋がる。したがって、実証事業以降の取組として、外部 GNSS 機
器とタブレットを Bluetooth で接続し、タブレットの位置精度向上が行えるのではないか
と情報を得たため、再度の実証を行う予定である。
3-6.3D 地上レーザスキャナ実証
カルスト森林組合、三輝トラスト株式会社の見解により、当社が森林コンサルティング
サービスを展開する上で、材積情報の提供が必須であることが分かった。ただし現状の衛
星データからの取得は困難であり、3D 地上レーザスキャナの実証を行うこととなった。機
器は woodinfo 社の 3D walker を選定し、同社により計測・解析を実施し、当社が評価した。
機器スペックについては図17.に示す。
実証は3-4.(および上図)で示す美祢市東山のフィールドで実施した。初日(12/19)
は現地踏査により、事前に設置した 13 本の杭下に青色のブルーシートを配置した。当日草
刈りは実施せず、反射板の設置は行わなかった。二日目(12/21)の計測においては。3D
地上レーザスキャナを図15.真ん中写真のように担いで約1ha の外周を回った後、林内
を概ね左右 10m(計 20m)間隔とするように歩行し計測した。方向転換する場合は、撮影
前後の目標物が一致するよう、ゆっくり転換するといった注意点があるとのこと。
図17.3D 地上レーザスキャナ(woodinfo社製“3D Walder”)
16
本機器による計測(以下、デジタル計測と称す)後の解析結果を、図18.に示す。
計測範囲内の材積、本数については、これまで林業事業体が行ってきた計測方法(以下、
アナログ計測と称す)で取得していた材積、本数などの情報が、PC 上にわかりやすく表現
できることが確認できた。またアナログ計測では取得できず、デジタル計測でしか取得で
きない立木 1 本単位の位置(x,y)、直径、樹高、材積、矢高においても同様に確認が行えた。
数値評価に関しては、アナログ計測による材積結果は 728 ㎥本、デジタル計測では 471
㎥であり、差異が 257 ㎥(デジタル計測基準で 54%)と大きな誤差であった。この原因と
考えられるのは、樹高がアナログ計測 22m 固定に対し、デジタル計測では平均 18m の差
異が影響している点が挙げられる。またアナログ計測では数か所に絞って図った材積を面
積割合で乗算する手法に対し、デジタル計測では計測範囲中の立木 1 本 1 本を合計して算
出している点が異なる。したがってデジタル計測の数値で面積が少なかったのは、人工林
が存在していない箇所を厳密に計測したためではないかと考えられる。
いずれにしてもデジタル計測により、具体的な間伐計画立案や、伐採前の見積算出等に
おいて、短時間で正確な情報が算出できる点が確認できた。よって、3D 地上レーザスキャ
ナを活用して取得した森林資源情報は、林業事業者、自治体で有効活用可能な森林コンサ
ルティングサービスとして提供できるということが実証できた。
4
図18.3D点群データ解析結果
(3D地上レーザスキャナ計測による)
17
4.事業化への取組
4-1.事業化の方向性
本事業に対する事業化の方向性として、以下の 3 点を挙げる。
いずれも、森林コンサルティングサービスとしての位置づけにより、林業事業者、自治
体へのサービス提供を実施する。
4-2.本事業のスケジュール(実績、予定)
事業化へのスケジュールについては、実証当初作成したスケジュールに沿って進める。
本事業のスケジュール(実績、予定)を図19.に示す。
図19.本事業のスケジュール(実績、予定)
18
【サービス開始までに必要なタスク】
1) 販促活動(ユーザ開拓等)
本事業のサービス利用ユーザである宇部市、美祢市、カルスト森林組合、三輝トラス
ト株式会社をはじめ県内を中心とした林業事業体および自治体への販促活動を行う。自
治体の森林経営管理法対応は喫緊の課題であり、まず現状ヒヤリングから始める。
2) オープンデータ化推進
衛星データ解析・評価に加え、林業事業体が日ごろから利用している林班、小班等、
森林情報(森林簿情報)の活用が必須であり、自治体に対してこれらのオープンデータ
化を推進し、本システム事業化後に活用できるよう折衝する。
3) 計画支援サービス検討
林業事業者が自治体に提出する森林経営計画において、計画区域策定および書類作成
にコストをかけずに作成できるような計画支援サービスを検討し、提供する。
バイオマス資源として高い値段でバイオマス発電所に販売するためには、森林経営計
画区域内(30ha 以上)の間伐資源(竹林含む)である必要がある。これが未利用材の扱
いとなり 32 円 kwh(小規模発電所の場合は 40 円 kwh)で販売可能となる。未利用材で
ない場合は、一般材として 21 円 kwh となり、同じバイオマス資源でも 2/3 の値段でしか
売れない。したがって森林経営計画作成は、林業事業者の経営に非常に重要な位置づけ
となっている。
そのために、以下の情報を統合し、計画区域の算出および提出資料の基となる情報提
供を行う。
・森林情報(林班、小班など)のデータ抽出
・山の持ち主把握(小班、地籍など)
・地形把握が行える(傾斜、道路)
4) 本番システム構築
現状の GIS クラウドは年間サブスクリプション製品であり、開発環境として利用を継
続する。契約ユーザに対しては、本番環境を構築する必要があり、半年で構築する。
その他、前述3-5.で示した GNSS 外部機器検証も実施する予定。
4-3.事業実施後のゴール
サービス開始後 3 年間で年間 20 百万の事業を目指す。1 ユーザ当たり年間 48 万円(月
額 4 万円)をベースとし、初年度(2019 年 10 月~2020 年 9 月)2.4 百万(県内中心:5
ユーザ)、2 年目(2020 年 10 月~2021 年 9 月)7.2 百万(県外含む:追加 15 ユーザ)、3
年目(2021 年 10 月~2022 年 9 月):14.4 百万(海外含む:追加 30 ユーザ)をゴールとし
たい。地元の林業事業体に月額 4 万円の支出は厳しいことが予想されるが、3D 地上レーザ
スキャナを使用した森林コンサルティング事業で補えないかと考えている。
19
4-4.マーケットへの波及効果
1) バイオマス発電所
今後稼働予定の防府(2019 年)、下関(2022 年)、出光石油(2022 年)いずれも海
外からのバイオマスが主体であり、県内のバイオマス資源は防府の年間 4 万 t のみであ
る。しかし県内のある林業事業者からは、海外バイオマスは価格変動、高騰の傾向にあ
り、国内のバイオマス資源利用が高まるのではないかと予想している。山口県はスマー
ト林業協議会を設立し、県内バイオマス資源を増産したい意向と見受ける。
衛星データから求められる人工林、竹林分布により森林経営計画を効率よく策定し、
認可を得ることで、衛星データによる林業事業者の儲かる林業に繋がるビジネスモデル
が構築される。
2) 自治体の森林経営管理
H31 年度より森林経営管理法(財源:森林環境譲与税)が施行され、自治体により持
ち主不明の山について管理を行うことになる。その際に必要な情報が林相区分図および
土地境界情報となる。林相区分図については、衛星データから抽出した人工林、竹林分
布ではおよばず、今回実証した 3D 地上レーザスキャナおよび無人ヘリやドローンを使
用した上空からのレーザスキャナが合わせて必要となると確認した。ただし、3D 地上
レーザスキャナで調査する際に、大まかな分布については、衛星データの抽出情報が役
立つのではないか。また将来、より解像度の高い衛星データが無償で使うことができれ
ば、林相区分図作成に衛星データがより寄与することも考えられる。
自治体による森林経営管理が進むことで、売れる山は材木およびバイオマス資源を効
率よく輩出でき、災害の元となる林地残材が少なくなる。売れない山は自治体が管理す
ることにより、里山保全、鳥獣被害対策など、効率の良い森林管理が行われることにな
る。結果、衛星データが社会貢献することに繋がる。
20
4-5.官公庁、自治体への要望事項
本事業を経てリストアップした官公庁、自治体への要望事項を以下に列記する。
先に示したように、ユーザが求める森林資源情報においては、衛星データだけでなく、
レーザスキャナとの合わせ技によるソリューション提供が必要なマーケットとなっている。
しかしレーザスキャナは高額であり、今回使用した 3D 地上レーザスキャナはソフト込みで
600 万円かかり、これを上空から航空機で飛ばす場合、数千万円かかることになる。無人ヘ
リ、ドローンで飛行する場合は、航空機よりは価格が抑えられるが、ドローンに搭載する
レーザスキャナも 1000 万円クラスが現状となっている。よってせっかくの森林経営管理法
も森林環境譲与税が財源とはいえ、情報取得に多額の費用がかかり、予算を圧迫している
状況と察する。この現状を無償で提供される高解像度衛星データが解決することができれ
ば、樹種、樹高、材積などの情報を取得するためにかかるコストを圧倒的に抑えることが
可能となる。それが1)の要望に繋がっている。
また衛星データ加工のコストを抑えるために、竹林、人工林の教師データ、解析結果デ
ータ、加工後のデータ含めた流通促進が必要と考えている。これについては、共通プラッ
トフォーム上に誰もがデータを登録でき、誰もが利用できる仕組みを構築し、登録した企
業が利用数によってインセンティブが発生する仕組みを構築すれば、衛星データ加工のコ
ストが抑えられ、事業化を行う民間企業の増加に繋がるのではないかと考える。それが2)
の要望である。1)2)あわせて、今後の衛星データ提供について、さらなる発展を要望
する。
3)で示した“地上データの公開(オープンデータ化)“については、現状、北海道、静
岡県で森林資源情報(林班、小班等)のオープンデータ化が行われているとの情報を得て
いる。これを山口県含めた全国で促進し、そのオープンデータを使って林業事業者が作成
する森林経営計画や土地境界情報を自治体に戻す仕組みができれば、全体最適を生み、自
治体、民間双方のコスト削減に繋がるものと考える。
以 上