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2 1 Volume 8 Issue 2 プログラムマネジメントが有効に機能していれば、 具体的かつ測定可能なベネフィットが得られるはずです。 ところが実際には、多くのプログラムで、 期待をはるかに下回る効率しか実現できていません。 今日のプログラムマネジメントが 繰り返し似たような問題に直面しているなか、 テクノロジーの進化によって、 多額の費用を必要とする複雑なプロジェクトは、 ますます増加の一途をたどっています。 本稿では、プログラムマネジメントに 包括的アプローチを導入することによって、 典型的な落とし穴を回避し、 プログラムの成功率を高める方法を説明します。 包括的アプローチ による プログラムマネジメント 2 著者 Ian Finlay Senior Manager, Advisory — Performance Improvement, EY, US Matt White Senior, Advisory — Performance Improvement, EY, US Raymond Valbuena Senior, Advisory — Performance Improvement, EY, US Sejal Thakker Senior, Advisory — Performance Improvement, EY, US 和訳監修 EY アドバイザリー株式会社 シニアマネージャー 小林 宏之 マネージャー 西田 大志 Volume 8 Issue 2 1

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21 Volume 8 │ Issue 2

プログラムマネジメントが有効に機能していれば、

具体的かつ測定可能なベネフィットが得られるはずです。

ところが実際には、多くのプログラムで、

期待をはるかに下回る効率しか実現できていません。

今日のプログラムマネジメントが

繰り返し似たような問題に直面しているなか、

テクノロジーの進化によって、

多額の費用を必要とする複雑なプロジェクトは、

ますます増加の一途をたどっています。

本稿では、プログラムマネジメントに

包括的アプローチを導入することによって、

典型的な落とし穴を回避し、

プログラムの成功率を高める方法を説明します。

包括的アプローチによるプログラムマネジメント

2

著者Ian Finlay Senior Manager, Advisory — Performance Improvement, EY, US

Matt White Senior, Advisory — Performance Improvement, EY, US

Raymond Valbuena Senior, Advisory — Performance Improvement, EY, US

Sejal Thakker Senior, Advisory — Performance Improvement, EY, US

和訳監修EYアドバイザリー株式会社シニアマネージャー 小林 宏之マネージャー 西田 大志

Volume 8 │ Issue 21

43 Volume 8 │ Issue 2

A holistic approach to program management

プログラム環境

一貫性

連 携

敏捷性自 信

プロ

ジェクト環境

相反する要求を最小限に抑えるために、投資、リスク、リソースに関する重要な決定を下すための情報をすぐに入手できるか?

透明性

想定外のプログラム変更や急ぎの判断をできる限り減らす、あるいは完全になくす方法はあるか?

社内のあちこちから矛盾する情報を受け取るのではなく、単一の情報源から信頼できる情報を入手できないか?

プログラムが組織の戦略目標と一致していることをどうすれば確認できるか?

信頼性、正確性、適時性を備えたデータ

シームレスな 情報共有

リソースの需給管理

事業上のベネフィットを実現できるという自信

付加価値を生み出すプロジェクト

ポートフォリオ環境

どうすれば取締役会に約束したベネフィットを実現できるという自信を持てるか?

グローバルチームの連携を強化し、全社規模での一貫性を高めるためにはどうすればよいか?Pプロジェクト/プログラムマネジメ

ントは数千年前から行われており、古くは紀元前2570年のギザの大ピラミッドまでさかのぼることができます。しかし、定型化された手法やテ

クニックがプロジェクトマネジメントに用いられるようになったのは、クリティカル・パス・メソッド(CPM)が開発され、米国プロジェクトマネジメント協会(PMI)が設立された1950年代、1960年代以降のことです。1

テクノロジーや市場が進化し、プログラムが複雑性を増すにつれて、同時並行で進む作業を追いかけながら、大規模プログラム全体を見通すことはますます困難になっています。ビジネスが変化するスピードに対処するために、プログラムの数、複雑さ、コストは大幅に増加していますが、半数を超える企業エグゼクティブが、大規模なプログラムを適切に遂行できないことが事業

拡大の足かせになっていると考えています。2

テクノロジーによってプロジェクトの実施における課題は一掃されると言われています。しかし図1は、今日の組織が直面している問題が、プログラムマネージャーやプロジェクトマネージャーといった職業が誕生した当時と変わっていないことを示しています。

問題1: プログラムの透明性の不足多くのエグゼクティブが、プログラムを十分に

把握できない、または信頼できる単一の情報源にアクセスできないという状況に置かれています。最新の正確な情報を容易に入手することができなければ、プログラムの現状を正しく判断した上で意思決定を行うことは困難です。

図1. プログラムマネージャーが直面している課題

1. D. Haughey, “A brief history of project management,” Project Smart, 2010, https://www.projectsmart.co.uk/brief-history-of-project-management.php, accessed March 2016.

2. EYフォーチュン500企業の大規模資本建設プロジェクトに関するEYサーベイ、米国政府調査、ガートナーグループ調査。

65 Volume 8 │ Issue 2

A holistic approach to program management

問題2: 一貫性と連携の不足プログラムに一貫性がなく、チーム間の連携

が取れていないために組織の効率が低下することは珍しいことではありません。事実、部門横断的なチームの75%弱は十分に機能しておらず、5つの領域(予算順守、スケジュール順守、仕様への適合、顧客の期待の達成、企業目標との整合性の維持)のうち、少なくとも3つの領域で失敗しています。3

問題3: 自信と敏捷性の不足最新の正確な情報を確認できないため、多く

のエグゼクティブが事実に基づかない判断を迫られています。報告が届くのを待っている間に、判断のタイミングを逃すこともあります。このために、プログラムエグゼクティブは上層部に約束した目標を達成する自信を持てないことが少なくありません。

包括的アプローチがもたらす    ソリューション上記のような問題を軽減し、プログラムの成

功率を高めるためには、より包括的なアプローチでプログラムマネジメントに取り組む必要があります(図2参照)。プログラムの初期段階で、意思決定を容易にするようなガバナンス構造を構築すること、プログラムを確実に実施するためのプロセスを整備すること、ステークホルダーの連携を促し目指すベネフィットの実現を支援する共通のテクノロジープラットフォームを構築することはその一例です。

• プログラムマネジメントとガバナンスの確立された手法があれば、プログラムを組織全体の戦略と一致させやすくなります。

• プログラムマネジメントに包括的アプローチを導入することは、結果とベネフィットを最大化する助けとなります。

• 自動化は一貫性を高め、プログラムマネジメントプロセスの標準化を促進します。

• ダッシュボードとレポーティングは、連携を強化し、透明性を高めます。

• 適切な組織構造、プロセス、文化があれば、ビジネスにおける受け入れやステークホルダーの賛同を得やすくなります。

• 変化の人的側面を全体的な視点から管理することは、プログラムが望ましいベネフィットを継続的に実現する助けとなります。

ガバナンス

テク

ノロジー

プロセス

図2. プログラムを円滑に実施するためには、3つのキー要素をバランスよく融合させることが必要

3. B. Tabrizi, “75% of cross-functional teams are dysfunctional,” Harvard Business Review, 2015, https://hbr.org/2015/06/75-of-cross-functional-teams-are-dysfunctional, accessed March 2016.

強固なガバナンス構造は連携と成功の土台です。プログラムに参加するメンバーが 自分の果たすべき役割をはっきりと理解する ことができるからです。

ガバナンスから始める大規模なプログラムに取り組むときは、まず

強固なガバナンス構造を構築する必要があります。その際は、関連するすべてのプログラムとポートフォリオについて、役割、責任、意思決定の権限を明確にすることが欠かせません。強固なガバナンス構造があれば、意思決定が

容易になるだけでなく、説明責任の所在も明確になります。図3は、適切なガバナンスが構築されているプログラムでは、上層部が最も高い権限を持ち、日常的な意思決定の大半はプロジェクトレベルで行われることを示しています。プログラムレベルで下された決定が上層部によりサポートされていることがわかっているので、プロジェクトマネージャーは個々のプロジェクトの成功に注力できます。一方、プロジェクトレベルの決定はしかるべき担当者が下せるようにすることで、プログラムリーダーも時間とエネルギーを節約するこができます。適切なガバナンス構造があれば、プログラム

と組織全体の戦略・イニシアチブを連動させる

ことも可能です。ガバナンス構造が確立されていれば、組織が戦略上の方向性を変更したときや、新しい施策を導入したときも、それに合わせてプログラムの優先順位を変更することができます。例えば、企業の予算に変更が生じた際は、プログラムのエグゼクティブリーダーシップは経営陣と連携して、予算に合わせてプログラムのスコープを拡大または縮小し、その判断を指揮系統に沿って関係者に伝えることができます。また、プログラムの規模が大きくなり、参加す

るグループやベンダー、パートナーが増えた場合も、ガバナンス構造があれば、新しいメンバーがどのようにコミュニケーションをとり、意思決定すればよいかを明確に示すことができます。強固なガバナンス構造は連携と成功の土台です。プログラムに参加するメンバーが自分の果たすべき役割をはっきりと理解することができるからです。新しいプロジェクトマネージャーは誰に報告すればよいかを理解し、新しいベンダーはプログラムの意思決定権限が誰にあるのかを迅速に把握することができるでしょう。

プログラムマネジメントプロセスが構築されていれば、 コミュニケーションや情報共有は自然に行われます。 コミュニケーションの問題を解決するために何度も会議を開く必要はありません

87 Volume 8 │ Issue 2

A holistic approach to program management

定性的コントロール

ネフィットを実現する責任をプロジェクトマネージャーに負わせることになります。こうした双方向の説明責任関係が機能するた

めには、プログラムマネジメントプロセスが組織に根付いている必要があります。そのためには、適切なチェンジマネジメントの手法を取り入れ、組織が変化を受け入れられるようにしなければなりません。プログラムを支える人々のスキルとテクノロジーを適合させ、段階的にプロセスの成熟度を高めることで、プロセスは組織に根付きます(図4参照)。高度なプロセスを導入しても、プログラムチームにそのプロセスを利用できるだけのスキルセットやテクノロジーがなければ、チームに大きな負担をかけることになります。一方、貧弱なプロセスしかなければ、リスクを事前に緩和できず、トラブルが起きてから受け身で反応することになり、手に負えない問題を引き起こす可能性があります。

プロセスを利用して        パフォーマンスを改善するプログラムマネジメントプロセスは、プログラ

ムを一貫性のある体系的な方法で運用するためのガイドラインです。このようなプロセスが組織内に構築されていれば、コミュニケーションや情報共有は自然に行われます。コミュニケーションの問題を解決するために何度も会議を開く必要はありません。また、プログラムの標準化により、プロジェクトマネージャーと上層部双方に相互の説明責任の遂行を促すことができます。

プロジェクトマネージャーは、プログラムマネジメントのプロセスを使って、上層部が承認した業務の計画と実行を管理します。チームが解決できない問題に直面したときは、あらかじめ定められたエスカレーションの経路に沿って上層部に支援を求めます。一方、上層部はプログラムマネジメントプロセスを使ってプロジェクトのポートフォリオを管理します。例えばレポーティングのプロセスは、上層部がプロジェクトのKPI(Key Performance Indicator:主要業績指標)を把握できるようにする一方で、プロジェクトのベ

図4. プログラムマネジメントのプロセスの成熟度

秩序がなく、問題に場当たり的に対処する環境

標準的なプロジェクトプランニングとマネジメント

標準的な手法やテクニックと一貫性のある成果物

統合的かつ測定、反復、持続可能なプロセス

プロジェクトのレビューやKPIから得た情報に基づく最適化

1

2

3

4

5

図3. ガバナンスモデルにおける定性的・定量的コントロール

権限レベル

意思決定の数

プロジェクトリード

プログラム リーダーシップチーム

ステアリング コミッティー

エグゼクティブ スポンサーグループ

 定量的コントロール〈スコープ、スケジュール、予算 〉

ガバナンス構造が確立されていれば、組織が戦略上の 方向性を変更したときや、 新しい施策を導入したときも、それに合わせてプログラムの優先順位を変更することができます。

〈可視性、ステークホルダーの範囲、オーディエンスのリーチ〉

109 Volume 8 │ Issue 2

A holistic approach to program management

シンプルなソリューション

明確な最終目標

制約事項の認識

有効なチェンジマネジメント

成功の条件 ► 明確な最終目標:大規模かつ複雑なプログラムマネジメントやソリューションに取り組む際は、まず最終目標を定義し、それを常に意識するようにします。プログラムマネジメントに関する限り、すべてのプログラムに適用できる万能のソリューションはありません。必要とされることが何かによって、ソリューションの内容は変わってきます。

► シンプルなソリューション:プログラムマネジメントソリューションに必要以上の機能を盛り込むことは、実施自体が困難になるので避けるべきです。

► 有効なチェンジマネジメント:どのようなプログラムマネジメントソリューションを導入するにせよ、チェンジマネジメントを避けて通ることはできません。企業は自社の状況に合わせて、時間をかけて、社内のプロセス、テクノロジー、人材のスキルレベルの成熟度を上げることに注力する必要があります。

► 制約事項の認識:プログラムマネジメントソリューションを導入する前に、さまざまな制約事項が存在しうることを十分に認識し、意識するようにしましょう。そうした制約事項は、リソースや財務面のものから、組織のプログラムマネジメント能力の欠如まで、多岐にわたります。

まとめ ► プログラムマネジメントへの包括的なアプローチには、ガバナンス、プロセス、テクノロジーのバランスが必要です。

► 強固なガバナンス構造が構築されていれば、意思決定の系統がはっきりし、プログラムを効果的にマネジメントできます。

► 効率的なプロセスは、プログラムの実施を標準化するだけでなく、プログラムの進化に合わせて成熟していきます。

► テクノロジーを有効に活用するためには、人々が十分な知識を持っていることと、合理的なプロセスの両方が必要です。

プログラムマネジメントが 有効に機能するためには、 連携とコミュニケーションが不可欠です。

テクノロジーを使ってプロセスの流れを自動化すれば、プロセスの成熟度をさらに高めることができます。自動化は人為的なエラーを減らすため、結果として一貫性が向上し、標準化が進みます。さらにダッシュボードを活用すれば、プロセス間の連携を強化し、透明性を高めることも可能です。

テクノロジーを使って       オペレーションを効率化する今日の組織は大量の情報やデータにあふれて

いますが、ツールやテクノロジーを活用すれば、これらの情報を分析し、意思決定に役立つ有用な情報を引き出すことができます。

しかし、ツールとテクノロジーさえあれば、すべてが解決するわけではありません。あまりにも多くのプロジェクトマネージャーやプログラムマネージャーがテクノロジーを過信し、レポートや図表によって失敗プロジェクトを救うことができると思い込んでいます。ツールを活用するためには、適切なプロセスと人材が必要です。多くの組織が何百万ドルもの資金をツールに費やしながら、チェンジマネジメントの失敗、プログラムマネジメントプロセスの未整備、チームメンバーの専門知識やスキルの不足といった理由から、これらのツールを有効に活用できていません。

これらのツールが適切なトレーニング、プロセス、人材と組み合わさったとき、組織は適切な判断を迅速に下し、チームは目指す成果を達成できるという自信を持つことができるようになります。図5は、適切なテクノロジーを導入することで、洞察をもたらす分析、透明性の高いコミュニケーション、シームレスな連携、有用なレポーティング、そしてタイムリーな情報提供が可能に

なることを示しています。

図5. 適切なテクノロジーは、強力なガバナンスと共通プロセスがもたらすメリットを増幅させる

プロセス

シームレスな連携 洞察をもたらす

分析透明性の高い

コミュニケーション有用な

レポーティングタイムリーな

情報

ガバナンス

テクノロジー