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ガバナンス論 ( 赤 尾 )② メディアのガバナンス

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ガバナンス論 ( 赤尾 )②

メディアのガバナンス

本日のメニュー

①パブリック・アクセスの法理

②パブリック・アクセスの事例

③メディアと NPO

まとめ小リポート

マスメディア ( 公 ) の変質近代の統治機構 ( ガバメント) は工業社会の生産様式を反映中央集権 ( 中央官僚機構による統制 )

大量生産・大量消費 ( 規格品化 )時間厳守 ( テレビ・ラジオが時間統制 )

工業社会→情報社会への移行にともない,統治の仕組みが変化

メディアのガバナンスの概念

民①

② ③

ガバナンスの類型

①官から民間へ委託民営化・指定管理者の受け皿

②官と民の隙間 ( ニッチ )役割分担が不明な領域。官と民の調整役 ( コーディネーター )

③民の役割補完採算性・効率性を前提とする民間事業からこぼれ落ちた領域

①パブリック・

アクセス

マスメディア

市民

情報

アクセス権

オルタナティブ・メディア

パブリック・アクセス(PA) とは?一般市民が一定のルールによって自主的に企画・制作したコンテンツを,新聞社・放送局を通して提供できる権利( アクセス権の一つ )

自由・公平にマスメディアに参加できる権利 ( アクセス権) の回復

メディア・リテラシーは PAを含む

アクセス権の 6 類型

①批判・抗議・要求

②公正な価格での「意見広告」枠

③反論権 ( 訂正要求が前提 )

④ 紙面・番組参加 ( 狭義のPA)

⑤ 運営参加

⑥編集・編成参加堀部政男 (1978) 『アクセス権とは何か』 ( 岩波書店 )

新聞投稿欄は?

取捨選択・修正

など編集権は新

聞社側にある投稿すれば必ず

採用されるという保証がない擬似的なパブリック・アクセスと言えるが,システムとして不十分

「言論の自由」の本旨

少数意見や平凡な出来事がメディアから排除されると,言論の自由市場で,思想と思想のぶつかる確率が低くなる

何か言いたいことを持つ者は誰でもメディアを使う権利があり,メディアはそのことを保証する社会的責任がある

ウィルバー = シュラム (1957 年 )『マス・コミュニケーションの社会的責任』

石鹸箱民主主義

石鹸箱を即席の演説台にして,駅や公園など人が集まる場所で,市民が自由に街頭で意見を主張し,それを聴き,議論すること=言論の自由の〈街頭演説モデル〉

今はビール・ケースとハンドマイク ?

警察による恣意的排除が横行

知る権利

知る権利= ( メディアを通じて )知らされる権利 ( 受信 )+知らせる権利 (発信 ) の二つの権利で構成

メディアは,市民の「知らされる権利」の委任・代行には熱心だが,発信には冷淡(知っていながら知らんぷり ? )。受信に受け手の意向がどこまで反映しているのか ?

市民共有の財産

放送:市民共有の財産である電波(周波数帯域 ) を一企業(法人)が専有して事業を展開する。放送はビジネスであると同時に公共財でもある→市民の要望に応じてスペースを提供する義務

新聞:民間企業の営利事業ではあるが,再販制が認められるなど公共性も。購読料が事業を支える。知る権利を付託

パブリック・アクセスの歴史

60 年代アメリカの公民権運動1971 年 : ボストンの公共放送「 WGBH」が『キャッチ 44 』という市民制作番組

ケーブルテレビに PAch. 設置を義務化

市民運動家が免許付与 (更新 ) 時に,地方議会などを通じて PAch.を設置

全米で約 2500の PA センター

ヨーロッパの事情

フランス。「 OSF: 国境のない電波」公認の自由テレビ (1日3時間の放送 )

イギリス。 BBC「コミュニティ番組部」 (75 年開始の『オープンドア』 )

ドイツ。州単位でオープン・チャンネル制度。公共放送受信料の 2 %を資金として提供

韓国の『開かれたチャンネル』韓国放送公社 (KBS) が 2001 年から開始 (基本的に毎週・ 30分・全国向け )

KBSは番組内容には容喙せず責任も負わず,制作費も負担しない(約 100 万円を放送発展基金から助成可 )

運営主体は KBS 視聴者委員会の「視聴者番組運営協議会」

損害補償保険への加入義務あり

パブリック・アクセスの「負」質の低い (稚拙な ) ,下品な,極端にアート志向で独善的な番組が多い ?

利己主義・地域エゴ・偏執的な思想に基づいた番組

宗教・政治などのプロパガンダに利用

  →放送法第三条の 2の「番組編集準則」に抵   触する危険性

逆に,毒にも薬にもならない風物詩的なリポート番組

③日本におけるパブリック・アクセスの事例

中海テレビ放送(ケーブル)Ch.14 PAch. ( パブリック・アクセス・チャンネル ) 。1992 年開始

「 P ・ A ・ Cはまるごと市民のみなさんのチャンネルです! 地元の文化団体や青年団体など 37 団体の P ・ A ・ C番組運営協議会を中心として、公民館や学校の放送部、個人の投稿作品を放送しています」

中海テレビ P ・ A ・ C

チャンネル Daichi

碧海・西尾幡豆市民放送局(刈谷 )

NPO 法人。ケーブルテレビ「キャッチネットワーク」を利用わが町ビデオで拝見 ( 投稿型 )じゃんじゃん PR( 参加型 )マガジン Daichi( 情報番組 )なつかしフィルム ( アーカイブ )

ケーブルネット鈴鹿

『チョット言わせて !―テレビ掲示板―』 (15分番組, 1組当たり1分 )

「イベント告知や彼氏・彼女の募集、子犬・子猫もらってくださ~いなど、あなたの言いたいことをテレビで言ってみませんか ?この番組は、あなたの胸の内に秘めた( !? )想いを、み~んなに伝えられる、市民参加型番組です」

『新発見伝くまもと』

熊本朝日放送 (KAB) 。 2000 年 4月~

企画・取材・編集・出演のすべてを住民ディレクターを中心に製作する 15分番組 (金曜 17:34 ~ )のコーナー

プロのディレクターとともに「何を伝えたいか」「そのためにはどうすればよいか」を話あいながらVTRをまとめ,発信したい情報をスタジオで直接伝える

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くまもと未来

『新発見伝くまもと』を支える NPO

地域情報の発信者である「住民ディレクター」の養成を核に総合的なまちづくりを応援する

ビデオ制作講座 (地域情報を文章や映像、音声、活字で制作、発信する技術をもった人材を養成 )

今後に向けて

パブリック・アクセスは“自由市場”では実現する可能性が低い (当事者の“情熱”に依存する )

言論・表現の自由や公平は政策・制度的な枠組みによってしか現実化しない?

市民 (NPO) が議会・政府に働きかけを強め,新たな枠組みを作るべき

中間総括

NHK・民放にも本来は PAch.の義務化を求めていいはず (県域/全国 )

新聞も〈読者の声〉欄や〈意見広告〉だけでなく,紙面の編集権を市民に委ねる PA 面( orCJ)を創設するべき

インターネットで〈知らせうる機会〉が生まれたとはいえ,マスメディアへのアクセスは次元を異にする問題

とくに NHKは…

国民が支払う受信料で運営される「公共放送」である

受信料には「発信料」も含まれているとみる考えもあり,PA に積極的に取り組むべき

NPO などメディアの担い手にも,受信料収入を還付すべき

②メディアと NPO

メディアと NPO

①メディア (インフラ ) を担うブロードバンド設備を敷設・運用する

②メディアを運営するコミュニティ FMなどを運営する

③メディアで発信するパブリック・アクセスの受け皿となる

④メディア利用を支援するメディア・リテラシー教育など

①インフラを担う

有線放送電話施設 (NTT電話に先行 /補完 /ADSL/IP マルチキャスト )農漁業協同組合 /市町村による運営から任意団体・有線放送電話事業組合へ

光ファイバ加入者線網, WLL( 広帯域無線 ) でも,NTTの計画を先取り

インターネット・プロバイダ→IP マルチキャスト運営局

有線放送電話とは

有線放送施設 (銅線 ) に,電話交換機能を付加した「通信・放送一体施設」

1950 ~ 60 年代に電電公社電話普及が遅れた郡部の自助メディア。同一施設内の通話は無料。公社電話との接続通話も

多くは 90 年代に使命を終えたが,長野県などでは残存。栄村では ADSL化を実現し,「 IP 放送」でテレビを再送信

屋代有線放送電話組合

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(S33設立 )

今後の可能性

ブロードバンド化が遅れる(商業的に成立しにくい )地域はある !

自治体などの支援を受け, WLL, WiMAXなど無線系インフラを用いて,地域の情報インフラを担う NPO は必ず必要となる

情報格差を地域住民が埋める自助努力になるが

②メディアを運営する

コミュニティ FMは全国で 231局。地域資本が経営し,地域密着放送を目指す。自治体による災害時の広報手段としても注目され, 2/3は市町村が株主

赤字経営局がまだ過半を超えるので( 広告に値する番組が開発できていない ) ,住民参加は「ボランティアによる仕事の分担・手伝い」=運営経費の節減に偏する

京都コミュニティ放送

NPO が運営主体。 ( 広告 ) 営業担当の株式会社も併設

「京都まちなか」のコミュニティ再活性化が目的

低料金で放送時間枠を市民に販売し,パブリック・アクセスの媒体としても機能する

FMわぃわぃ

神戸市長田区。 1996年 1 月開局日本,韓国 /朝鮮,ベトナム,中国,タガログ,スペイン,ポルトガル,英語など 10 カ国語の多言語・多文化放送局

ヨボセヨ (Y:もしもし )+ ユーメン (Y:友愛 ) 。多様性の重視と少数者の尊重

小学生から 70代まで 150 人を超えるボランティアがサポート

対比:インターネットラジオ浜松のブラジル人コミュニティでは,インターネット・ラジオの利用が盛ん (FM Haro!でも番組があるが *)

「目的聴取」でメディアは成立しても,「偶然聴取」によるコミュニティ以外の人との交流の場としては限界*『 20Trans a Hot 』 ( 土曜 22 ~ 24 時 )

実は「トランスアメリカインターナショナル放送」 ( 名古屋 ) の制作

③メディアで発信する

武蔵野三鷹ケーブルテレビで2001 年から。『月刊わがまちジャーナル』

NPO 「むさしのみたか市民テレビ局」が局側と「パートナーシップ協定」を締結し,編集権を委譲される

市民団体の責任で,市民から企画を募り,番組を制作していく。オフィスはメディア・アクセス・センターに

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④メディア利用を支援する映画という文化

フィルム・コミッション事業――映画制作支援事業 (ロケーション・サービス ) を通じて,観光振興,映像文化振興を図る

コミュニティ・シネマ事業――民間の映画館事業が撤退し「観たい映画が劇場で観られない」状況( メディア・アクセス権の衰退 )を,市民の共同事業として改善していく

フィルム・コミッション(FC)伊豆映画・テレビ・ CMなどのロケ支援事業・エキストラ調達など

FCは自治体単位で設置するケースが多いが,伊豆広域圏を対象に NPO で開始し,コンソーシアムを結成 ( 市町担当者に体験学習機会も )

コミッション料は徴収できない

支援実績は累計 350件以上

静岡フィルムコミッション ( : / / . - . / )ne t ht t p www s hi zuoka f c ne t

静岡県内の FCの他の運営母体 NPO 法人フィルム微助人小山町 FC( 産業観光課 )フィルムサポート島田 (島田市

商工会議所青年部 ) FC静岡市シーサイト (牧之原市産業経済部商工観光課 )

浜名湖えんため 浜名湖ロケ応援団(舘山寺温泉観光協会 )

コミュニティシネマ

「文化芸術振興基本法」施行(01 年 12 月 ) を受け,地域の映画・映像文化を担う組織(非営利団体 )

公設公営の例も (山口市 *)金沢市 ( コミュニティシネマ推進委員会 ) ,北見市(NPO ,シアターボイス ) など,全国で 180 団体が CC 支援センターに登録

* 山口情報芸術センター

経済性と市民文化

シネマ・コンプレックスは経営合理性を重視 (超拡大公開)

都市部のシアターは単館系の芸術的・文化的な映画を公開

地方都市では,劇場で鑑賞することができない映画が増えていく

そのギャップを NPO で埋める

たかさきコミュニティシネマ58席の「シネマテークたかさき」。 NPO が経営する初の映画館。 06年に第二スクリーン(35 席 ) も

地方銀行支店跡地の地権者の協力を得て,建物を改装して利用

「多様な映画を観たい」という少数派にどれだけ行政が支援するか

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本日の小リポート (1/3)

メディア関連で活躍しているNPO を探して,その活動の概要をリポートしよう ! (独自取材大歓迎 ! )

Webを持つ NPO にはリンクを。授業で紹介しなかった NPO を推奨

3題からどれか一つを選ぶ。締切は 7 月 21日(火 )14:24:59

小リポート (2/3)

浜松市 (静岡県 ) でパブリック・アクセス・チャンネルを実現するためには,どんな行動をすべきで,実現した暁にはどんな番組を放送すべきだろう ?

小リポート (3/3)

日本でパブリック・アクセスの考え方が浸透し,根付いてこなかったのはなぜだろう ? 市民側の問題 ? メディア側の問題 ? 研究者の問題 ? 市民運動家の問題 ? 言論の風土の問題 ?

(1)(2)(3) いずれかの設問を選び,ごく短文 (200字程度) で OK

注意点

「ないものを想像せよ」とは無理な話だが,パブリック・アクセス=地域生活情報ではない !

YouTube, UStreamなど,動画をネットで流すサービスが開発されたからといって,放送局への PA の意義が薄れたわけではない !

参考文献

津田正夫・平塚千尋 (2002) 『パブリック・アクセスを学ぶ人のために』世界思想社

民衆のメディア連絡会 (1996)―『市民メディア入門 あなたが発

信者 !―』創風社出版児島和人・宮崎寿子 (1998) 『表

―現する市民たち 地域からの映像―発信 』日本放送出版協会 (NHKブ

ックス )津田正夫 (2001) 『メディア・アクセスと NPO』リベルタ出版