グローバルスタンダード最前線 次世代光アクセスシ...

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NTT技術ジャーナル 2015.1 74 グローバルスタンダード最前線 伝送容量の増大,多種サービスの 収容および柔軟なネットワーク運用 を目指し,現在標準化団体において 活発な審議が進められている次世代 光アクセスシステム(NG-PON2)の 標準化動向について報告します. 将来光アクセス システム 将来光アクセスシステムについては, 伝送容量10 Gbit/s級のPON(Passive Optical Network) シ ス テ ム ま で は IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineering)およびITU-T (International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)で標準化が 完了しています.最先端の光アクセス システムとして,現在,10 Gbit/s級 のPONシステムをベースに,波長多 重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)技術を導入し伝送容量 の増大とサービス拡張性を強化した40 Gbit/s級 のPONの 標 準 化 がFSAN (Full Service Access Networks),およ びITU-T SG15/Q2(Study Group15/ Question2) で 議 論 さ れ て い ま す. FSANは,将来光アクセスシステムの 技術について議論を行う業界団体で, 合意形成された方式や技術をITU-T に提案することで,国際標準化活動に 貢献しています. 次世代光アクセスシステム (NG-PON2) 40 Gbit/s級PONシステムは,次世 代光アクセスシステム(NG-PON2: Next Generation-PON2)と呼称され ており,2010年にFSANで議論が開 始され,ITU-TではG.989シリーズと して標準化が進められています. G.989シリーズを構成する各勧告と 標準化ステータスを表1 に示します. G.989は,G.989シリーズに用いられ る用語の定義を規定し,2015年 7 月 に 合 意(consent) す る 予 定 で す. G.989.1は,NG-PON2の シ ス テ ム 要 求 条 件 を 規 定 し,2013年 3 月 承 認 (approval)済みであり,G.989シリー ズでは現時点(2014年12月)で唯一 勧告化が完了しています. G.989.2は,NG-PON2の 波 長 配 置 やシステムのパワーバジェットなどの 物理層仕様を規定し,2013年12月に 合意済みです.承認に向けた最終コメ ント審議において,技術課題を解決す る審議に多くの時間を割いたため, 2014年12月に承認されました. ま た,G.989.3はNG-PON2の 波 長 および帯域の割当プロトコルなどを含 む 伝 送 コ ン バ ー ジ ェ ン ス(TC: Transmission Convergence) 層 を 規 定 し,2014年12月 のITU-T SG15本 会議でも活発な審議が行われました. このようなステータスから,G.989シ リーズのすべての勧告化が完了するの は,2015〜2016年となる見込みです. ■システム構成 NG-PON2のシステムイメージを1 に示します.従来のPONシステム では,マス(一般)ユーザ向けのみに サービスを展開していましたが,NG- PON2ではマスユーザに加えて,ビジ ネスユーザおよびモバイルユーザも同 一の光アクセスシステムにより収容す 表 1  G.989シリーズ各勧告と標準化ステータス 勧告番号 勧告名称 説 明 標準化ステータス G.989 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2) : Definitions, abbreviations and acronyms NG-PON2(G.989シリーズ) で用いられる用語や定義 2015年 7 月合意予定 G.989.1 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2) : General requirements NG-PON2の要求条件 2012年 7 月合意済 2013年 3 月承認済 G.989.2 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2) : Physical-layer specifications NG-PON2の物理層仕様 2013年12月合意済 2014年12月承認済 G.989.3 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2) : Transmission-Convergence (TC) -layer specifications NG-PON2の伝送コンバー ジェンス(TC)層仕様 2015年 7 月合意予定 次世代光アクセスシステム(NG-PON2)の 標準化動向 /可 じゅんいち NTTアクセスサービスシステム研究所

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NTT技術ジャーナル 2015.174

グローバルスタンダード最前線

伝送容量の増大,多種サービスの収容および柔軟なネットワーク運用を目指し,現在標準化団体において活発な審議が進められている次世代光アクセスシステム(NG-PON2)の標準化動向について報告します.

将来光アクセス システム

将来光アクセスシステムについては,伝送容量10 Gbit/s級のPON(Passive Optical Network)システムまではIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineering)およびITU-T

(International Telecommunication U n i o n - T e l e c o m m u n i c a t i o n Standardization Sector)で標準化が完了しています.最先端の光アクセスシステムとして,現在,10 Gbit/s級のPONシステムをベースに,波長多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)技術を導入し伝送容量の増大とサービス拡張性を強化した40 Gbit/s級 のPONの 標 準 化 がFSAN

(Full Service Access Networks),およ

びITU-T SG15/Q2(Study Group15/Question2) で 議 論 さ れ て い ま す.FSANは,将来光アクセスシステムの技術について議論を行う業界団体で,合意形成された方式や技術をITU-Tに提案することで,国際標準化活動に貢献しています.

次世代光アクセスシステム (NG-PON2)

40 Gbit/s級PONシステムは,次世代光アクセスシステム(NG-PON2: Next Generation-PON2)と呼称されており,2010年にFSANで議論が開始され,ITU-TではG.989シリーズとして標準化が進められています.

G.989シリーズを構成する各勧告と標準化ステータスを表 1 に示します.G.989は,G.989シリーズに用いられる用語の定義を規定し,2015年 7 月に 合 意(consent) す る 予 定 で す.G.989.1は,NG-PON2のシステム要求 条 件 を 規 定 し,2013年 3 月 承 認

(approval)済みであり,G.989シリーズでは現時点(2014年12月)で唯一

勧告化が完了しています.G.989.2は,NG-PON2の波長配置

やシステムのパワーバジェットなどの物理層仕様を規定し,2013年12月に合意済みです.承認に向けた最終コメント審議において,技術課題を解決する審議に多くの時間を割いたため,2014年12月に承認されました.

ま た,G.989.3はNG-PON2の 波 長および帯域の割当プロトコルなどを含む 伝 送 コ ン バ ー ジ ェ ン ス(TC: Transmission Convergence) 層 を 規定 し,2014年12月 のITU-T SG15本会議でも活発な審議が行われました.このようなステータスから,G.989シリーズのすべての勧告化が完了するのは,2015〜2016年となる見込みです.■システム構成

NG-PON2のシステムイメージを図1 に示します.従来のPONシステムでは,マス(一般)ユーザ向けのみにサービスを展開していましたが,NG-PON2ではマスユーザに加えて,ビジネスユーザおよびモバイルユーザも同一の光アクセスシステムにより収容す

表 1  G.989シリーズ各勧告と標準化ステータス

勧告番号 勧告名称 説 明 標準化ステータス

G.989 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2): Definitions, abbreviations and acronyms

NG-PON2(G.989シリーズ)で用いられる用語や定義 2015年 7 月合意予定

G.989.1 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2): General requirements NG-PON2の要求条件 2012年 7 月合意済

2013年 3 月承認済

G.989.2 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2): Physical-layer specifications NG-PON2の物理層仕様 2013年12月合意済

2014年12月承認済

G.989.340-Gigabit-capable passive optical networks

(NG-PON2): Transmission-Convergence (TC)-layer specifications

NG-PON2の伝送コンバージェンス(TC)層仕様 2015年 7 月合意予定

次世代光アクセスシステム(NG-PON2)の標準化動向

浅あ さ か

香 航こ う た

太 /可か

児に

淳じゅんいち

一NTTアクセスサービスシステム研究所

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NTT技術ジャーナル 2015.1 75

ることを想定しています.NG-PON2の基本システムは,従来の時分割多重

(TDM: Time Division Multiplexing)技 術 に 加 え てWDM技 術 を 用 い たTDMとWDMの ハ イ ブ リ ッ ドPON

(TWDM-PON: Time and Wavelength Division Multiplexing-PON)システムですが,モバイルなど厳しい伝送遅延条件が要求されるサービスについてはオプションとして規定されている

Point-to-Point(PtP)型のWDM(PtP WDM)オーバレイの適用が期待されています.また,NG-PON2においては,WDM技術の導入に伴い,在庫管理コストの低減および誤接続防止の観点から,光加入者線ネットワーク装置

(ONU:Optical Network Unit)のカラーレス化が仕様化されています.■要求条件

G.989.1で規定された要求条件の抜

粋を表 2 に示します(1).TWDM-PONにおける波長多重数は上り ・ 下り各4 (オプションで各 8 )であり,伝送速度は 3 パターンを仕様化しています.例えば波長当りの上り ・ 下り伝送速度10 Gbit/s(上り ・ 下り総帯域40 Gbit/s)はビジネスユーザ向けに,波長当りの上り伝送速度2.5 Gbit/s(上り総帯域10 Gbit/s),下り伝送速度10 Gbit/s(下り総帯域40 Gbit/s)はマスユーザ向けへの適用が考えられます.分岐数および伝送距離はそれぞれ256分岐以上および40 km以上を支持することを仕様化していますが,アプリケーションによって最適な伝送速度,分岐数,伝送距離は異なります.そのため,下り総帯域40 Gbit/s,伝送距離20 km,分岐数64など支持すべき組み合わせについても仕様化しています.■波長装置

NG-PON2の 物 理 層 仕 様 で あ るG.989.2においては,波長配置が図 2のように規定されます.既存のPONシステムや10 Gbit/s級PONとの共存を図るため,NG-PON2向けの波長域は,TWDM-PON用 に 上 り1524〜1544 nm(Wide Banad option)および下り1596〜1603 nmが規定されます.上り波長域については,ONUに適用する波長可変技術や波長チャネル間隔(最小50 GHz, 最大200 GHz)に応じて, Wide Band optionに 加えてReduced Band option(1528〜1540 nm), Narrow Band option(1532〜1540 nm)の 3 種類が仕様化されます.

表 2  NG-PON2の要求条件(G.989.1より抜粋)

システム TWDM-PON (基本システム)PtP WDM オーバレイ (オプション)

総帯域(波長数 4 の場合)

下り40 G (10 G × 4 λ), 上り40 G (10 G × 4 λ)下り40 G (10 G × 4 λ), 上り10 G (2.5 G × 4 λ)下り10 G (2.5G × 4 λ), 上り10 G (2.5 G × 4 λ)

分岐数 1:256 伝送距離 40 km

共存 すべての既存PONシステム(映像配信システム含む)

サービス マスユーザ,ビジネスユーザ,モバイルバックホウルほか

BBU: Baseband UnitRRH: Remote Radio Head

図 1  NG-PON2のシステムイメージ

TWDMTWDMTWDMTWDM

PtP WDM

ルータモバイルサービス

ビジネスユーザ

ONU

マスユーザ BBU

RRH

OLT

PtP WDM オーバレイ

上位ネットワーク

モバイル

 ネットワーク

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グローバルスタンダード最前線

NG-PON2では上り波長域にC帯が使われることになるため, 1 波長当りの伝送速度が10 Gbit/sの場合は,ONU送信器に外部変調方式を適用するなど,波長分散耐性の向上を図る必要があります.また,PtP WDM用には,既存PONシステムなどとの共存を図ることを想定した「Shared spectrum」として1603〜1625 nmが規定され,さらに,グリーンフィールド向けを想定し た「Expanded spectrum」 と し て1524〜1625 nmが規定されます.なお,PtP WDMについては,波長域のみが規定され,波長数,上り ・ 下りの波長配置および波長チャネル間隔は規定されません.

NG-PON2のTC層 仕 様 で あ る

G.989.3は,ITU-Tで勧告化された10 Gbit/s級PONシステムのTC層仕様G.987.3をベースに,波長の割当プロトコルを補充するコンセプトで標準化が進められています.具体的には,波長IDの規定法,ONU初期登録時の波長割当法,サービス運用中のONUの波長切替シーケンスなどが補充される予定です.

波長切替による 高機能化

NG-PON2では,波長ごとに異なるONUを製造 ・ 管理する必要をなくすために,ONUの送信器および受信器に波長可変機能を持たせることを必須としています.そのため,波長可変送

信器および受信器の低コスト化が重要となる一方で,サービス運用中にONUの波長可変機能により割当波長を切り替えることで,NG-PON2システムの高機能化が期待されています.高機能化の一例として,波長切替による 光 加 入 者 線 終 端 装 置(OLT: Optical Line Terminal)プロテクション(高信頼性化)技術を図 3 に示します.通常時に,OLTを構成する 3 つの光加入者ユニット(OSU: Optical Subscriber Unit)盤は,それぞれ 3つの異なる波長が割当てられて運用されており,OSU#1, OSU#2, OSU# 3は, そ れ ぞ れONU1, ONU2お よ びONU3,ONU4と通信を行っているとします.ここで,OSU# 2 に故障が発

(nm)

図 2  NG-PON2の波長配置

1200 13001260 1360 1480 16251400 1500 1600

上り

上り

上り 下り

下り

下り

TWDM

PtP WDMオーバレイ

TWDM

NG-PON2(G.989.2)

10G-EPONXG-PON

GE-PONG-PON

GE-PON,G-PON

G-PON

Shared spectrum:1603~1625 nm

1596~1603 nm

Wide: 1524~1544 nm

Reduced: 1524~1540 nm

Narrow: 1532~1540 nm

Regular: 1260~1360 nm

Reduced: 1290~1330 nm

Narrow: 1300~1320 nm

1260~1280 nm1575~1580 nm

Expanded spectrum: 1524~1625 nm

Video1550~1560 nm

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NTT技術ジャーナル 2015.1 77

生した際には,通信断絶を防ぐために,ONU2およびONU3は,それぞれ波長を切り替える(ONU2はλ2uからλ1u

へ,ONU3はλ2uからλ3uへ切り替える)ことにより別のOSU(ONU2はOSU# 1 ,ONU3はOSU# 3 )に接続され,通信を継続することが可能となります.

従来のPONシステムにおけるプロテクションでは,冗長性確保のために予備OLTと光スイッチを導入する必要がありましたが,NG-PON2におけるプロテクションは,ONUの波長を切り替えるだけで実現可能なため,予備系の装置類が不要となる特長があります.このほかにも,トラフィックが少ない場合に,すべてのONUを同一の波長に切り替えて同一のOSU盤に接続することにより,ほかのOSU盤をスリープモードで運用する低消費電力化技術も期待されます.これらの機能を実現するうえでは,波長切替を

行っている間に通信への影響を与えないことが求められるため,ONUの波長可変送信器および受信器には,高速な波長切替機能が求められます.

一方で,このようなサービス運用中の波長切替は行わずに,ONUの初期登録時のみ波長切替を行う場合は,ONUに高速な波長切替機能は不要となります.これらの背景のもとに,G.989.2では,ONUに波長切替時間クラスが規定されます.波長切替時間クラスは 3 段階にカテゴライズされ,クラス 1 , 2 ,および 3 は,それぞれ<10 μs, 10 μs 〜25 ms, 25 ms〜 1 sと規定されます.このようなクラス分けは,ネットワークの高機能化に必要な波長切替時間への要求条件と,現状の波長可変送受信器の性能に基づいて行われています.

今後の展望

ここでは,将来光アクセスシステムの最新標準化動向として,NG-PON2について紹介しました.今後は,G.989シリーズの改訂(Amendment)文書の審議を通じて,主にPtP WDMの仕様化が進展するものと思われます.NTTでは,将来光アクセスシステムの審議に積極的に参画し,国際標準化活動に貢献していきます.

■参考文献(1) ITU-T Recommendation G.989.1:“40-Gigabit-

capable passive optical networks (NG-PON2): General requirements,” 2013.

図 3  波長切替によるOLTプロテクション技術

故障発生

波長 1(λ1u)に切り替え

波長 3(λ3u)に切り替え

OLT

OSU #1ONU1

ONU2

ONU3

ONU4

OSU #2

OSU #3

λ1u

λ2u

λ3u

λ2u

故障修理OLT

OSU #1ONU1

ONU2

ONU3

ONU4

OSU #2

OSU #3

λ1u

λ1u

λ3u

λ3u