夏季東南アジアモンスーンとユーラシア上層の大気 …...161 (1 1 7 )...

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159 と呼んだ。小坂・松田(2004)は,亜熱帯で東風シアか 2004)は,亜熱帯で東風シアか )は,亜熱帯で東風シアか つ下層で西風でそれが中緯度西風領域とつながったよう な理想的な基本場を考え,定常応答を計算した結果,PJ PJ パターン的な波列が出現することをモデルで示した。 近年は,夏季における東アジアでの高度場について PJ パターンの他に, Enomoto et al. 2003)や榎本(2005パターンの他に, Enomoto et al. 2003)や榎本(2005Enomoto et al. 2003)や榎本(20052003)や榎本(20052003)や榎本(2005)や榎本(20052005により,以下のことが述べられた。北半球夏季モンスー ンに伴い,東地中海やアラル海において,下降流が生じ る。この下降流は,アジアジェットの入口に位置し,定 常ロスビー波の波源となり,8 月におけるアジアジェッ 8 月におけるアジアジェッ 月におけるアジアジェッ トは定常ロスビー波の伝播に好都合であることから定常 ロスビー波は,アジアジェット上を伝播し,その終点が 小笠原高気圧であると主張した。上記のようなパターン は,シルクロードパターンと呼ばれている。 ところで,成層圏と対流圏の相互作用を論じた研究 は,北半球冬季におけるものが多い。例えば,Niwano Niwano 1 はじめに 日本を含む東アジアにおける夏季の天候は,主に北太 平洋高気圧の動向に左右されるが,1980 年代以降の暑夏 1980 年代以降の暑夏 年代以降の暑夏 にはチベット高気圧の張り出しが顕著である例も存在す ることが指摘されている(西森, 1997)。 1997)。 )。つまり,チベット 高気圧の動向も重要であるといえる。また, Zhang et al. Zhang et al. 2002)では,チベット高気圧の中心位置分布には経度 2002)では,チベット高気圧の中心位置分布には経度 )では,チベット高気圧の中心位置分布には経度 方向に 2 つの山をもつことがわかった。それぞれ,イラ ンモード,チベットモードと呼んだ。その 2 つのモー ドと東アジアの気候偏差との関連性についても言及され ている。 また, Nitta 1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ Nitta 1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ 1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ 1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ )は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ リピン付近から,北東方向に移動し,20° N 付近の亜熱 20° N 付近の亜熱 付近の亜熱 帯域に達した時に,中国・日本を含む東アジア域では, 高気圧性偏差になると述べている。これを PJ パターン PJ パターン パターン 森 岳史 ・山川 修治 ** Using Southeast Asian Summer Monsoon index defined by convection activity in and around the Philippine Sea from 1982 to 2005, the relationship between Southeast Asian Summer monsoon and the upper troposphere to the lower strato- sphere over Asia was analyzed. In the strong monsoon years, the tropical easterly jet in the upper layer tends to become strong, and an anomaly wave track which is negative in South Asia and positive in East Asia tends to appear. The statisti- cally significant area of easterly anomaly wind caused by its anomaly wave track reaches the easterly wind area in the stratosphere, to the south of positive geopotential height anomaly over East Asia. Besides, in the nearby upper tropo- Besides, in the nearby upper tropo- Besides, in the nearby upper tropo- sphere to the tropopause, the northward divergence over the Mediterranean region of the subtropical high pressure zone affects activities of the polar jet stream and the Eurasian polar fronts, therefore a positive precipitation anomaly west of Lake Baykal may influence vorticity anomaly over East Asia. Keywords : Southeast Asian Summer Monsoon, the upper troposphere, the lower stratosphere, East Asia, Southeast Asian Summer Monsoon, the upper troposphere, the lower stratosphere, East Asia, geopotential height anomaly, vorticity anomaly 夏季東南アジアモンスーンとユーラシア上層の大気場との関連性 The Relationship between Southeast Asian Summer Monsoon and Upper Atmospheric F ield over Eurasia Takeshi MORI and Shuji YAMAKAWA ** Received September 30, 2006Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3 25 40 Sakurajosui Setagaya ku, Tokyo, 156 8550 Japan ** Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3 25 40 Sakurajosui Setagaya ku, Tokyo, 156 8550 Japan 日本大学大学院総合基礎科学研究科: 156 156 8550 東京都世田谷区桜上水3 東京都世田谷区桜上水3 25 40 ** 日本大学文理学部地球システム科学科: 156 156 8550 東京都世田谷区桜上水3 東京都世田谷区桜上水3 25 40 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.42 2007pp.159 166 115

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─ ─159 ( )

と呼んだ。小坂・松田(2004)は,亜熱帯で東風シアか2004)は,亜熱帯で東風シアか)は,亜熱帯で東風シアか

つ下層で西風でそれが中緯度西風領域とつながったよう

な理想的な基本場を考え,定常応答を計算した結果,PJPJ

パターン的な波列が出現することをモデルで示した。

近年は,夏季における東アジアでの高度場について

PJパターンの他に,Enomoto et al.(2003)や榎本(2005)パターンの他に,Enomoto et al.(2003)や榎本(2005)Enomoto et al.(2003)や榎本(2005)(2003)や榎本(2005)2003)や榎本(2005))や榎本(2005)2005))

により,以下のことが述べられた。北半球夏季モンスー

ンに伴い,東地中海やアラル海において,下降流が生じ

る。この下降流は,アジアジェットの入口に位置し,定

常ロスビー波の波源となり,8月におけるアジアジェッ8月におけるアジアジェッ月におけるアジアジェッ

トは定常ロスビー波の伝播に好都合であることから定常

ロスビー波は,アジアジェット上を伝播し,その終点が

小笠原高気圧であると主張した。上記のようなパターン

は,シルクロードパターンと呼ばれている。

ところで,成層圏と対流圏の相互作用を論じた研究

は,北半球冬季におけるものが多い。例えば,NiwanoNiwano

1 はじめに

日本を含む東アジアにおける夏季の天候は,主に北太

平洋高気圧の動向に左右されるが,1980年代以降の暑夏1980年代以降の暑夏年代以降の暑夏

にはチベット高気圧の張り出しが顕著である例も存在す

ることが指摘されている(西森,1997)。1997)。)。つまり,チベット

高気圧の動向も重要であるといえる。また,Zhang et al.Zhang et al.

(2002)では,チベット高気圧の中心位置分布には経度2002)では,チベット高気圧の中心位置分布には経度)では,チベット高気圧の中心位置分布には経度

方向に 2つの山をもつことがわかった。それぞれ,イラ

ンモード,チベットモードと呼んだ。その 2つのモー

ドと東アジアの気候偏差との関連性についても言及され

ている。

また,Nitta(1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィNitta(1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ(1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ1987)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ)は,熱帯西太平洋の対流活動がフィ

リピン付近から,北東方向に移動し,20°N付近の亜熱20°N付近の亜熱付近の亜熱

帯域に達した時に,中国・日本を含む東アジア域では,

高気圧性偏差になると述べている。これをPJパターンPJパターンパターン

森 岳史*・山川 修治**

Using Southeast Asian Summer Monsoon index defined by convection activity in and around the Philippine Sea from 1982 to 2005, the relationship between Southeast Asian Summer monsoon and the upper troposphere to the lower strato-sphere over Asia was analyzed. In the strong monsoon years, the tropical easterly jet in the upper layer tends to become strong, and an anomaly wave track which is negative in South Asia and positive in East Asia tends to appear. The statisti-cally significant area of easterly anomaly wind caused by its anomaly wave track reaches the easterly wind area in the stratosphere, to the south of positive geopotential height anomaly over East Asia. Besides, in the nearby upper tropo- Besides, in the nearby upper tropo-Besides, in the nearby upper tropo-sphere to the tropopause, the northward divergence over the Mediterranean region of the subtropical high pressure zone affects activities of the polar jet stream and the Eurasian polar fronts, therefore a positive precipitation anomaly west of Lake Baykal may influence vorticity anomaly over East Asia.

Keywords : Southeast Asian Summer Monsoon, the upper troposphere, the lower stratosphere, East Asia,Southeast Asian Summer Monsoon, the upper troposphere, the lower stratosphere, East Asia,

      geopotential height anomaly, vorticity anomaly

夏季東南アジアモンスーンとユーラシア上層の大気場との関連性

The Relationship between Southeast Asian Summer Monsoon andUpper Atmospheric Field over Eurasia

Takeshi MORI* and Shuji YAMAKAWA**

(Received September 30, 2006)

* Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550 Japan

** Depar tment of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550 Japan

* 日本大学大学院総合基礎科学研究科 :: 〒156156-8550 東京都世田谷区桜上水3 東京都世田谷区桜上水33-25-40 ** 日本大学文理学部地球システム科学科 :: 〒156156-8550 東京都世田谷区桜上水3 東京都世田谷区桜上水33-25-40

日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要

No.42 (2007) pp.159-166

115

森 岳史・山川 修治

─ ─160( )

and Takahashi(1998)は,大気大循環モデルを用いて,(1998)は,大気大循環モデルを用いて,1998)は,大気大循環モデルを用いて,)は,大気大循環モデルを用いて,

赤道準 2年周期振動(QBO)が北半球冬季の循環へ及ぼQBO)が北半球冬季の循環へ及ぼ)が北半球冬季の循環へ及ぼ

す影響について調べた。しかし,北半球夏季における成

層圏と対流圏の相互作用を論じた研究は,Terao(1999)Terao(1999)(1999)1999))

によって,チベット高原北東部における対流圏と成層圏

の質量交換現象について述べられた例があるが,モン

スーン域の圏界面付近を中心としたものに限られる。ま

た,井上ほか(2004)は,QBOとチベット高気圧・イン2004)は,QBOとチベット高気圧・イン)は,QBOとチベット高気圧・インQBOとチベット高気圧・インとチベット高気圧・イン

ドモンスーンの関係について述べている。

成層圏と対流圏の相互作用を論じることは,長期予報

に役立てるためにも重要なことであると考えられる。特

に,北半球夏季において,チベット高原付近は,成層圏

と対流圏の相互作用が最も活発な地域の一つであると考

えられる。さらに,インドモンスーンとチベット高気圧

の関係については,研究されてきているが,東南アジア

モンスーンによるチベット高気圧への影響については,

ほとんど議論されてこなかった。

そこで本研究では,北半球夏季において,東南アジア

モンスーンと成層圏を含めたアジア域の上層大気場との

関連性を明らかにすることを目的とする。ここでは主

に,東西風に注目して,夏半球亜熱帯における成層圏東

風との関連性を述べた。

2 データと解析方法

NCEP/NCAR reanalysis Dataにおける月平均の高度における月平均の高度

場,東西風,南北風,鉛直 P速度,降水量,OLRを使用P速度,降水量,OLRを使用速度,降水量,OLRを使用OLRを使用を使用

した。対象期間は1982~2005年の6~9月とした。1982~2005年の6~9月とした。~2005年の6~9月とした。2005年の6~9月とした。年の6~9月とした。6~9月とした。~9月とした。9月とした。月とした。

また,Wang and Fan(1999)において,東南アジアモWang and Fan(1999)において,東南アジアモ(1999)において,東南アジアモ1999)において,東南アジアモ)において,東南アジアモ

ンスーンの対流活動の指標として定義されたconvectionconvection

index2(10~ 20°N,115~ 140°Eにおける6~ 9月の(10~ 20°N,115~ 140°Eにおける6~ 9月の10~ 20°N,115~ 140°Eにおける6~ 9月の~ 20°N,115~ 140°Eにおける6~ 9月の20°N,115~ 140°Eにおける6~ 9月の,115~ 140°Eにおける6~ 9月の115~ 140°Eにおける6~ 9月の~ 140°Eにおける6~ 9月の140°Eにおける6~ 9月のにおける6~ 9月の6~ 9月の~ 9月の9月の月の

OLR 偏差の符号を反転したもの)を使用した。(図 1)偏差の符号を反転したもの)を使用した。(図 1)

convection index2を正規化した値(標準偏差を規格化を正規化した値(標準偏差を規格化

した値であり,標準偏差で表示した)が,0.65付近で分0.65付近で分付近で分

かれていたことから,その値が,0.65以上の年をPosi-0.65以上の年をPosi-以上の年をPosi-Posi-

tive years,,-0.65以下の年をNegative yearsと定義する。以下の年をNegative yearsと定義する。Negative yearsと定義する。と定義する。

ここで,Positive[Negative]yearsは対流が活発[不活発]Positive[Negative]yearsは対流が活発[不活発][Negative]yearsは対流が活発[不活発]Negative]yearsは対流が活発[不活発]]yearsは対流が活発[不活発] yearsは対流が活発[不活発]は対流が活発[不活発]

である年に対応する。時系列でOLRを正規化・符号反OLRを正規化・符号反を正規化・符号反

転した値を検討してみた結果(図 2),Positive yearsは,Positive yearsは,は,

1984・1985・1994・1999・2000・2001・2005年,Negative・1985・1994・1999・2000・2001・2005年,Negative1985・1994・1999・2000・2001・2005年,Negative・1994・1999・2000・2001・2005年,Negative1994・1999・2000・2001・2005年,Negative・1999・2000・2001・2005年,Negative1999・2000・2001・2005年,Negative・2000・2001・2005年,Negative2000・2001・2005年,Negative・2001・2005年,Negative2001・2005年,Negative・2005年,Negative2005年,Negative年,NegativeNegative

yearsは,1982・1983・1987・1993・1996・1997・1998年がは,1982・1983・1987・1993・1996・1997・1998年が1982・1983・1987・1993・1996・1997・1998年が・1983・1987・1993・1996・1997・1998年が1983・1987・1993・1996・1997・1998年が・1987・1993・1996・1997・1998年が1987・1993・1996・1997・1998年が・1993・1996・1997・1998年が1993・1996・1997・1998年が・1996・1997・1998年が1996・1997・1998年が・1997・1998年が1997・1998年が・1998年が1998年が年が

選択された。Positive years, Negative yearsにおける6~Positive years, Negative yearsにおける6~における6~6~~

9月平均のコンポジット図(平面図,緯度帯平均図,経月平均のコンポジット図(平面図,緯度帯平均図,経

度高度断面図,緯度高度断面図)を作成した。その際,

各パターン年において,パターン年平均値と全対象年平

均値の差が統計的に95%の水準で有意(以下,統計的に95%の水準で有意(以下,統計的に%の水準で有意(以下,統計的に

有意)な領域も図示した。

さらに,東西風 ,南北風から渦度を計算し,Takaya and,南北風から渦度を計算し,Takaya and南北風から渦度を計算し,Takaya andTakaya and

Nakamura(2001)で用いられたWave Activity Fluxの図を(2001)で用いられたWave Activity Fluxの図を2001)で用いられたWave Activity Fluxの図を)で用いられたWave Activity Fluxの図をWave Activity Fluxの図をの図を

作成し,プラネタリー波の伝播の様子を調べた。

3 結果・考察

(1)モンスーンに伴う北半球の東西風緯度帯平均

まず,モンスーンというリージョナルな現象が,グ

ローバルな気候とどのように関係しているのかに着目す

る。そのために,Positive years,Negative yearsにおけるPositive years,Negative yearsにおける,Negative yearsにおけるNegative yearsにおけるにおける

東西風の緯度帯平均図を作成した。なお,東西風は西風

が正,東風を負で示す。図 3は,Positive yearsの6~9Positive yearsの6~9の6~96~9~99

月平均における緯度帯平均東西風の緯度高度断面図であ

る。太線で囲まれた領域は統計的に有意な領域を示す。

この図によると,Positive yearsの30~40°N付近においPositive yearsの30~40°N付近においの30~40°N付近におい30~40°N付近におい~40°N付近におい40°N付近におい付近におい

て,統計的に有意な東風偏差の領域が1000~15hPa付1000~15hPa付~15hPa付15hPa付付

近まで達していることがわかった。それは,偏西風帯の

南側と夏半球成層圏東風に対応する領域である。つま

り,偏西風帯の南側で統計的に有意な東風偏差の領域

が,地表付近~下部成層圏まで達しているといえる。

116

図 1 convection index2の定義領域

図 22 定義領域における正規化・符合反転したOLR値OLR値値

convection index2

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

OLR補正値

-3

-2

-1

0

1

2

3

─ ─161 ( )

夏季東南アジアモンスーンとユーラシア上層の大気場との関連性

図 4は,Negative yearsの6~9月平均における緯度帯Negative yearsの6~9月平均における緯度帯の6~9月平均における緯度帯6~9月平均における緯度帯~9月平均における緯度帯9月平均における緯度帯月平均における緯度帯

平均東西風の緯度高度断面図を示す。太線で囲まれた領

域は,統計的に有意な領域を示す。Positive years(図3)Positive years(図3)(図3)

と比較して統計的に有意な領域は少なく,偏差パターン

がほぼ逆であるが,30°N付近の統計的に有意な西風偏30°N付近の統計的に有意な西風偏付近の統計的に有意な西風偏

差の領域は750~140hPa付近にとどまっていた。750~140hPa付近にとどまっていた。~140hPa付近にとどまっていた。140hPa付近にとどまっていた。付近にとどまっていた。

つまり,東南アジアモンスーンの強弱は,北半球中緯

度における全球規模の成層圏までの東西風と対応関係が

あることがわかった。また,そのシグナルは NegativeNegative

yearsよりもPositive yearsの方が強いといえる。ここかよりもPositive yearsの方が強いといえる。ここかPositive yearsの方が強いといえる。ここかの方が強いといえる。ここか

らは,主にPositive yearsのみについて述べていく。Positive yearsのみについて述べていく。のみについて述べていく。

(2)モンスーンに伴う東西風の経度高度断面図2)モンスーンに伴う東西風の経度高度断面図)モンスーンに伴う東西風の経度高度断面図

そこで,Positive yearsにおける東西風の経度高度断面Positive yearsにおける東西風の経度高度断面における東西風の経度高度断面

図で確認してみる。その代表例として,図 5は,Posi-Posi-

tive years の6~9月平均における10°Nの東西風の経度の6~9月平均における10°Nの東西風の経度6~9月平均における10°Nの東西風の経度~9月平均における10°Nの東西風の経度9月平均における10°Nの東西風の経度月平均における10°Nの東西風の経度10°Nの東西風の経度の東西風の経度

高度断面図を示し,図 6は,Positive yearsの6~9月平Positive yearsの6~9月平の6~9月平6~9月平~9月平9月平月平

均における30°Nの東西風の経度高度断面図を示す。太30°Nの東西風の経度高度断面図を示す。太の東西風の経度高度断面図を示す。太

線で囲まれた領域は統計的に有意な領域を示す。これら

の図と,他の緯度における図を比較すると,20°E付近に20°E付近に付近に

図 3 Positive yearsの6~9月平均でみた東西風緯度帯平均の緯度高度断面図

   細実線は西風,細点線は東風。陰影は偏差,太線で囲

まれたところは偏差が統計的に有意な領域。。

図 4 Negative yearsの6~9月平均でみた東西風緯度帯平均の緯度高度断面図

   細実線は西風,細点線は東風。陰影は偏差,太線で囲

まれたところは偏差が統計的に有意な領域。

図 6 Positive yearsの6~ 9月平均でみた30°Nにおける東西風の経度高度断面図

   細実線は西風,細点線は東風。陰影は偏差,太線で囲

まれたところは偏差が統計的に有意な領域。

図 5 Positive yearsの6~ 9月平均でみた10°Nにおける東西風の経度高度断面図

   細実線は西風,細点線は東風。陰影は偏差,太線で囲

まれたところは偏差が統計的に有意な領域。

117

森 岳史・山川 修治

─ ─162( )

おいて,低緯度(赤道域~10°N付近)では,下層(100010°N付近)では,下層(1000付近)では,下層(10001000

~500hPa付近)でモンスーン西風が統計的に有意な西500hPa付近)でモンスーン西風が統計的に有意な西付近)でモンスーン西風が統計的に有意な西

風偏差,上層(350~85hPa付近)で熱帯東風ジェット350~85hPa付近)で熱帯東風ジェット~85hPa付近)で熱帯東風ジェット85hPa付近)で熱帯東風ジェット付近)で熱帯東風ジェット

が統計的に有意な東風偏差になっている。また,中緯度

(25~35°N付近)では,120°E付近において,偏西風と25~35°N付近)では,120°E付近において,偏西風と~35°N付近)では,120°E付近において,偏西風と35°N付近)では,120°E付近において,偏西風と付近)では,120°E付近において,偏西風と120°E付近において,偏西風と付近において,偏西風と

成層圏東風における統計的に有意な東風偏差が800~800~~

40hPa付近まで存在することがわかる。つまり,東風偏付近まで存在することがわかる。つまり,東風偏

差の統計的に有意な領域は,東南アジアモンスーン域に

おける亜熱帯では,対流圏上層付近にとどまっている

が,中緯度においては,下部成層圏にまで達しているこ

とから,現象として西風領域(ジェット気流)が北にシ

フトしたため,その南側に見かけ上の東風偏差が生じた

ためであると考えられる。

(3)モンスーンに伴うアジア域の循環場の変動

図 7は,Positive yearsの6~9月平均における200hPaPositive yearsの6~9月平均における200hPaの6~9月平均における200hPa6~9月平均における200hPa~9月平均における200hPa9月平均における200hPa月平均における200hPa200hPa

面等圧面高度場の分布を示し,太線で囲まれた領域は統

計的に有意な領域を示す。これによると,Positive yearsPositive years

の200hPaにおいて,南アジアで統計的に有意な負偏差,200hPaにおいて,南アジアで統計的に有意な負偏差,において,南アジアで統計的に有意な負偏差,

東アジアで統計的に有意な正偏差という高度偏差波列が

存在しており,イラン付近にも有意な正偏差が存在して

いることがわかる。図 8はPositive yearsの6~9月平均Positive yearsの6~9月平均の6~9月平均6~9月平均~9月平均9月平均月平均

におけるOLRの分布を示し,太線で囲まれた領域は統OLRの分布を示し,太線で囲まれた領域は統の分布を示し,太線で囲まれた領域は統

計的に有意な領域を示す。これによると,フィリピン付

近で有意な負偏差(対流活動活発)で,日本付近で有意

な正偏差(対流活動不活発)であることがわかる。図 9

は,Positive yearsの6~9月平均における降水量の分布Positive yearsの6~9月平均における降水量の分布の6~9月平均における降水量の分布6~9月平均における降水量の分布~9月平均における降水量の分布9月平均における降水量の分布月平均における降水量の分布

を示し,太線で囲まれた領域は統計的に有意な領域を示

す。これによると,フィリピン付近で統計的に有意な正

偏差(多雨)であることがわかる。図10は,PositivePositive

yearsの6~9月平均における300hPa面鉛直P速度の分の6~9月平均における300hPa面鉛直P速度の分6~9月平均における300hPa面鉛直P速度の分~9月平均における300hPa面鉛直P速度の分9月平均における300hPa面鉛直P速度の分月平均における300hPa面鉛直P速度の分300hPa面鉛直P速度の分面鉛直P速度の分P速度の分速度の分

布を示し,太線で囲まれた領域は統計的に有意な領域を

示す。これによると,フィリピン海や台湾付近で統計的

に有意な負偏差(上昇流活発)であることがわかる。図

に示していないが,Negative yearsでは,その逆のパターNegative yearsでは,その逆のパターでは,その逆のパター

ンがみられ,高度場に関しては,特に上層では有意な領

域がほとんどみられなかった。つまり,200hPa面等圧面200hPa面等圧面面等圧面

高度場の南アジア・東アジアにおける偏差とOLR,降OLR,降,降

水量,鉛直P速度にほぼ対応関係があることがわかった。P速度にほぼ対応関係があることがわかった。速度にほぼ対応関係があることがわかった。

さらに,図11は,Positive yearsの6~9月平均におけPositive yearsの6~9月平均におけの6~9月平均におけ6~9月平均におけ~9月平均におけ9月平均におけ月平均におけ

る200hPa面風ベクトルを示し,太線で囲まれた領域は200hPa面風ベクトルを示し,太線で囲まれた領域は面風ベクトルを示し,太線で囲まれた領域は

東西風偏差が統計的に有意な領域を示す。この図と他の

等圧面の図を比較すると,50~500hPa面では,25°N付50~500hPa面では,25°N付~500hPa面では,25°N付500hPa面では,25°N付面では,25°N付25°N付付

図 8 Positive yearsの6~9月平均でみたOLRの分布 陰影は偏差,太線で囲まれたところは偏差が統計的に

有意な領域。

図 9 Positive yearsの6~9月平均でみた降水量の分布 陰影は偏差,太線で囲まれたところは偏差が統計的に

有意な領域。

図 7 Positive yearsの6~ 9月平均でみた200hPa面等圧面高度場の分布

陰影は偏差,太線で囲まれたところは偏差が統計的に有意な領域。

118

─ ─163 ( )

夏季東南アジアモンスーンとユーラシア上層の大気場との関連性

近を中心として有意な東風偏差の領域が明瞭に存在し,

特に70~300 hPa付近では,風ベクトルが北側で西風・70~300 hPa付近では,風ベクトルが北側で西風・~300 hPa付近では,風ベクトルが北側で西風・300 hPa付近では,風ベクトルが北側で西風・付近では,風ベクトルが北側で西風・

南側で東風になっている。また,図12は,Positive yearsPositive years

の6~ 9月平均における850 hPa面風ベクトルを示し,6~ 9月平均における850 hPa面風ベクトルを示し,~ 9月平均における850 hPa面風ベクトルを示し,9月平均における850 hPa面風ベクトルを示し,月平均における850 hPa面風ベクトルを示し,850 hPa面風ベクトルを示し,面風ベクトルを示し,

太線で囲まれた領域は東西風偏差が統計的に有意な領域

を示す。この図と他の等圧面の図を比較すると,600~600~~

1000 hPa面付近では,アラビア海・インド半島・ベン面付近では,アラビア海・インド半島・ベン

ガル湾付近において,モンスーンによる西風が強化され

ていた。また,南シナ海においては,モンスーン域にお

いて,統計的に有意な西風偏差になっている。つまり,

南西モンスーンの強化を示しているといえる。NegativeNegative

yearsでは,Positive yearsに比べて統計的に有意な領域では,Positive yearsに比べて統計的に有意な領域Positive yearsに比べて統計的に有意な領域に比べて統計的に有意な領域

の規模は小さくなるが,上記とほぼ逆の偏差パターン

だった。

そこで,図13は,Positive yearsの6~9月平均におけPositive yearsの6~9月平均におけの6~9月平均におけ6~9月平均におけ~9月平均におけ9月平均におけ月平均におけ

る120°Eの東西風の緯度高度断面図を示す。この図と他120°Eの東西風の緯度高度断面図を示す。この図と他の東西風の緯度高度断面図を示す。この図と他

の経度における図を比較すると,Positive yearsでは,100 Positive yearsでは,100では,100100

~120°Eの0~20°N付近で上層の熱帯東風ジェッ120°Eの0~20°N付近で上層の熱帯東風ジェッの0~20°N付近で上層の熱帯東風ジェッ0~20°N付近で上層の熱帯東風ジェッ~20°N付近で上層の熱帯東風ジェッ20°N付近で上層の熱帯東風ジェッ付近で上層の熱帯東風ジェットが強

化(統計的に有意な東風偏差)し,下層の南西モンスーン

も強化(統計的に有意な西風偏差)している。また,偏

西風帯の南側(20~30°N付近)で25hPa付近まで有意な20~30°N付近)で25hPa付近まで有意な~30°N付近)で25hPa付近まで有意な30°N付近)で25hPa付近まで有意な付近)で25hPa付近まで有意な25hPa付近まで有意な付近まで有意な

東風偏差になっていた。200hPaの高度場において,東200hPaの高度場において,東の高度場において,東

図13 Positive yearsの6~9月平均でみた120°Eにおける東西風の緯度高度断面図

   細実線は西風,細点線は東風。陰影は偏差,太線で囲

まれたところは偏差が統計的に有意な領域。

図12 Positive yearsの6~ 9月平均でみた850hPa面風ベクトルの分布

右下の矢印の長さは10m/sを示す。陰影は東西風偏差,太線で囲まれたところは東西風偏差が統計的に有

意な領域。

図11 Positive yearsの6~ 9月平均でみた200hPa面風ベクトルの分布

右下の矢印の長さは30m/sを示す。陰影は東西風偏差,太線で囲まれたところは東西風偏差が統計的に有意な領域。

図10 Positive yearsの6~9月平均でみた300hPa面鉛直P速度の分布

陰影は偏差,太線で囲まれたところは偏差が統計的に有意な領域。

119

森 岳史・山川 修治

─ ─164( )

アジアで有意な正偏差がみられたが,その南側の東風偏

差域に対応するものと推測される。その上端は成層圏東

風領域に相当する。つまり,Positive yearsにおける20Positive yearsにおける20における2020

~30°N付近の統計的に有意な東風偏差は西風ジェット30°N付近の統計的に有意な東風偏差は西風ジェット付近の統計的に有意な東風偏差は西風ジェット

の北偏とそれに伴う,より低緯度の東風領域が北側へ拡

大したことによるものであると考えられる。

Negative yearsの東西風の緯度高度断面図では,Posi-の東西風の緯度高度断面図では,Posi-Posi-

tive yearsとは,ほぼ逆の偏差パターン(上層の熱帯東風とは,ほぼ逆の偏差パターン(上層の熱帯東風

ジェットが弱化(統計的に有意な西風偏差)し,下層の南

西モンスーンも弱化(統計的に有意な東風偏差))がみら

れたが,偏西風帯の南側における有意な西風偏差領域

は,Positive yearsほどは上空まで達していなかった(20Positive yearsほどは上空まで達していなかった(20ほどは上空まで達していなかった(2020

~ 30°N付近の60hPa付近まで)。これは,上述した30°N付近の60hPa付近まで)。これは,上述した付近の60hPa付近まで)。これは,上述した60hPa付近まで)。これは,上述した付近まで)。これは,上述した

Negative yearsの高度場の偏差パターンにおいて,東アの高度場の偏差パターンにおいて,東ア

ジアでは負偏差であったので,その南側の西風域に対応

するものと推測されるが,その高度場の負偏差が有意で

ないことと,平面図における東西風偏差の有意な領域

も,Positive yearsほど明瞭には出現しなかったことにはPositive yearsほど明瞭には出現しなかったことにはほど明瞭には出現しなかったことには

対応関係があると述べてもよいだろう。また,それは,

成層圏東風領域に少ししかさしかかっていない。上記の

ようなパターンが95~115°E付近まで存在する。偏西95~115°E付近まで存在する。偏西~115°E付近まで存在する。偏西115°E付近まで存在する。偏西付近まで存在する。偏西

風帯の北側においても,200hPa面等圧面高度場高度偏200hPa面等圧面高度場高度偏面等圧面高度場高度偏

差パターンに対応する東西風偏差がみられた(PositivePositive

yearsは西風偏差・Negative yearsは東風偏差)が,有意は西風偏差・Negative yearsは東風偏差)が,有意Negative yearsは東風偏差)が,有意は東風偏差)が,有意

な領域はほとんど存在しなかった。

以上のことから,Positive yearsでは,亜熱帯において,Positive yearsでは,亜熱帯において,では,亜熱帯において,

下層の南西モンスーンが強く,上層の亜熱帯東風ジェッ

トが強く,南アジアで負偏差,東アジアで正偏差である

という統計的に有意な高度偏差波列が出現していて,

Negative yearsでは,ほぼその逆であったことから,つでは,ほぼその逆であったことから,つ

まり,上記で述べた小坂・松田(2004)の亜熱帯におけ2004)の亜熱帯におけ)の亜熱帯におけ

る上層で東風,下層で西風でそれらが中緯度における西

風領域(偏西風帯)とつながったような基本場のときに,

PJパターン的波列が出現することをモデルで示した結果パターン的波列が出現することをモデルで示した結果

と,本研究における結果である,東南アジアモンスーン

域において,下層で西風強化,上層で東風強化時(PositivePositive

years)では,南アジアで負偏差,東アジアで正偏差であ)では,南アジアで負偏差,東アジアで正偏差であ

るという統計的に有意な高度偏差波列が出現していたと

いう結果は,ほぼ一致していることがわかる。

つまり,東南アジアモンスーンの強い年は,その上層

の熱帯東風ジェットも強くなりやすく,PJパターンに似 PJパターンに似パターンに似

た高度偏差波列が出現しやすいといえる。また,中緯度

において,Positive yearsでは,有意な東風偏差が成層圏Positive yearsでは,有意な東風偏差が成層圏では,有意な東風偏差が成層圏

東風領域まで達している(Negative yearsでも有意な西Negative yearsでも有意な西でも有意な西

風領域が成層圏東風領域に少しさしかかっていた)とい

うことは,東アジアの高度偏差と成層圏における東西風

に関係がある可能性がある。

東アジアの高度偏差の要因には,主に対流圏の現象で

あるPJパターンやシルクロードパターンによるものがPJパターンやシルクロードパターンによるものがパターンやシルクロードパターンによるものが

従来の研究で明らかにされつつあるが,本研究における

上記の結果では,成層圏との関係の可能性も重要である

ことがわかった。

(4)モンスーンに伴うWave Activity Fluxの変動4)モンスーンに伴うWave Activity Fluxの変動)モンスーンに伴うWave Activity Fluxの変動Wave Activity Fluxの変動の変動

そこで,東アジアにおける高度偏差の成因を探るため

に,Takaya and Nakamura(2001)によるWave ActivityTakaya and Nakamura(2001)によるWave Activity(2001)によるWave Activity2001)によるWave Activity)によるWave ActivityWave Activity

Fluxを用いてプラネタリー波の伝播を検討した。を用いてプラネタリー波の伝播を検討した。

図14は,Positive yearsの6~9月平均における100hPaPositive yearsの6~9月平均における100hPaの6~9月平均における100hPa6~9月平均における100hPa~9月平均における100hPa9月平均における100hPa月平均における100hPa100hPa

図15 Positive yearsの6~ 9月平均でみた500hPa面Wave Activity Fluxの分布

右下の矢印の長さは1 m2/s2を示す。陰影は渦度偏差

×10 5,太線で囲まれたところは渦度偏差が統計的に

有意な領域。

図14 Positive yearsの6~ 9月平均でみた100hPa面 Wave Activity Fluxの分布

右下の矢印の長さは2 m2/s2を示す。陰影は渦度偏差

×10 5,太線で囲まれたところは渦度偏差が統計的に

有意な領域。

120

─ ─165 ( )

夏季東南アジアモンスーンとユーラシア上層の大気場との関連性

面Wave Activity Fluxの分布を示すが,その際,渦度偏Wave Activity Fluxの分布を示すが,その際,渦度偏の分布を示すが,その際,渦度偏

差の図と重ね合わせ,考察した。なお,渦度は,北半球

では反時計回りの回転が正,時計回りの回転が負である

ような変数であり,低気圧性で正,高気圧性では負とな

る。この図から,バイカル湖の西方付近が波源になって

いることがわかる。そして,渦度が正偏差になっている

こと,ならびに図 9より,その付近では降水量が正偏差

であることから,それが波源の要因の 1 つとして機能

し,波が伝播していくと考えられる。そして,その北東

にある,渦度正偏差へ波が伝播していることがわかる。

このようなパターンは,70・150・300・500hPaでも確70・150・300・500hPaでも確・150・300・500hPaでも確150・300・500hPaでも確・300・500hPaでも確300・500hPaでも確・500hPaでも確500hPaでも確でも確

認された。

また,図14において北半球中緯度に現れている高気

圧性の帯状地帯は,チベット高気圧によって一部強化さ

れた亜熱帯高圧帯に対応するものとして捉えられる。そ

の日本付近の南方発散(統計的に有意な領域)は,PJパPJパパ

ターンの結果として重要な意味をもっている。一方,同

高圧帯の西方に目を向けると,熱帯東風ジェットの西縁

部にあたる地中海付近上空における北方発散が顕著であ

るが,その北側の寒帯ジェット(ユーラシア寒帯前線を

付随する)に向かうロスビー応答として解釈できる。上

記の降水量正偏差域へ繋がりうる現象として注目に値す

る。

図15はPositive yearsの6~9月平均における500hPaPositive yearsの6~9月平均における500hPaの6~9月平均における500hPa6~9月平均における500hPa~9月平均における500hPa9月平均における500hPa月平均における500hPa500hPa

Wave Activity Fluxを示す。これによると,南シナ海の統を示す。これによると,南シナ海の統

計的に有意な渦度正偏差,東アジアの統計的に有意な渦

度負偏差が認められ,フィリピン付近から東アジアへ波

の伝播を確認できる。これは,ハドレー循環の強化とし

て捉えられる。また,寒帯ジェットとユーラシア寒帯前

線帯に沿うロスビー波の伝播が,上記のバイカル湖西方

における波源と多雨域にリンクしている状況を認識でき

る。

4 まとめ

本研究では,フィリピン海付近の対流活動の強弱に

よって定義された東南アジアモンスーンの指数を使用し

て,Positive years, Negative yearsに分類し,東南アジアPositive years, Negative yearsに分類し,東南アジアに分類し,東南アジア

モンスーンと東アジアを中心とした北半球大気場との関

連性を対流圏上層~下部成層圏に着目して解析を行っ

た。

・ Positive yearsにおいて,東南アジアモンスーン域でPositive yearsにおいて,東南アジアモンスーン域でにおいて,東南アジアモンスーン域で

は,上層の熱帯東風ジェットが強化され,対流圏上層

では高度場が南アジアで負偏差,東アジアで正偏差が

出現しやすいことがわかった(Negative yearsではほNegative yearsではほではほ

ぼ逆のパターンだった)。これは,小坂・松田(2004)2004))

の結果とほぼ一致する。

・ 中緯度において,Positive[Negative]yearsでは偏西風Positive [Negative]yearsでは偏西風[Negative]yearsでは偏西風Negative]yearsでは偏西風]yearsでは偏西風 yearsでは偏西風では偏西風

帯かつ東アジアにおける200hPa面等圧面高度場の正200hPa面等圧面高度場の正面等圧面高度場の正

偏差[負偏差]の南側で有意な東風[西風]偏差になっ

ていた。Negative yearsでは,有意な領域が成層圏まNegative yearsでは,有意な領域が成層圏までは,有意な領域が成層圏ま

でほとんど出現していないが,Positive yearsでは,夏Positive yearsでは,夏では,夏

半球成層圏東風域にまで達していたので,PositivePositive

yearsの方が,そのシグナルが強いといえる。その現の方が,そのシグナルが強いといえる。その現

象は,東アジアの高度場の偏差が,Positive yearsではPositive yearsではでは

有意な領域が明瞭であった。両パターン年とも東西風

において,偏西風帯の南側では,有意な領域が存在し

ていた。

・ Takaya and Nakamura(2001)による,Wave ActivityTakaya and Nakamura(2001)による,Wave Activity(2001)による,Wave Activity2001)による,Wave Activity)による,Wave ActivityWave Activity

Fluxを用いたところ,Positive yearsにおける東アジアを用いたところ,Positive yearsにおける東アジアPositive yearsにおける東アジアにおける東アジア

の高度場の正偏差の要因としては,亜熱帯高圧帯の地

中海域上空における熱帯東風ジェットが寒帯ジェット

へロスビー応答していることが挙げられる。また,そ

の寒帯ジェットに伴うロスビー波の伝播が,バイカル

湖西方における降水量正偏差にリンクし,それが日本

上空の高圧場の形成に関与している可能性も求められ

た。

5 今後の課題

本稿は統計解析に主眼を置いているので,モンスーン

の強弱と東アジア上空の高度場正偏差との関係を力学的

に解明するまでには至っていない。バイカル湖西方にお

ける降水量正偏差が本当に日本上空の高圧場と関係して

いるのかを明らかにするために,Wave Activity FluxのzWave Activity Fluxのzのzz

成分を含む図も作成予定である。これを使用すると,モ

ンスーンと東アジアの高度偏差との関係が明らかにな

り,Positive yearsにおける東西風偏差の統計的に有意なPositive yearsにおける東西風偏差の統計的に有意なにおける東西風偏差の統計的に有意な

領域が下部成層圏まで達していたことなど,対流圏から

成層圏までの連続的変化を確認できるので,メカニズム

の解明につながるであろう。

バイカル湖の西方に存在する降水量正偏差から,その

上空への発散・高気圧の水平移流をみるために,渦度収

支解析が必要である。また,イラン付近にも出現してい

る高度場の正偏差の要因解析も含め,高気圧の形成には

温度場も重要になってくるので,熱収支解析の必要もあ

る。

謝辞

本学文理学部非常勤講師の加藤央之先生には大変貴重なご

教示を賜りました。また,気候気象システム研究室の関係者

の方々からも多くの助言をいただきました。厚く感謝の意を

表明します。

121

森 岳史・山川 修治

─ ─166( )

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