プログラミング演習課題への評価コメントを活用した授業 ... -...

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プログラミング演習課題への評価コメントを活用した授業支援の検討 勝間田 仁 1 加藤 利康 1 Investigation of Course Support Using Evaluation Comments in Programming Exercises Masashi Katsumata Toshiyasu Kato Abstract Programming subjects are often compulsory in information-systems-related courses at universities, and because there are many course participants, in addition to faculty members, student assistants (SAs) provide learning support for programming exercises. In the department to which the authors belong, a team teaching approach has been adopted for delivering the programming course involving multiple faculty members and SAs; the approach centers around the solving of programming assignments. It is extremely important for the faculty members and SAs to share a common understanding of the instruction content. In this study, we focus on a programming course framework that centers on solving programming assignments. We observe the features of the instruction content by assignment using the appearance frequency of words and conduct co-occurring network analysis using the comments stored on the assignment submission system used for the course. Thus, we demonstrate the possibility of course support for faculty members and SAs and learning support for students. KeywordsProgramming exercises, Team teaching, Co-occurring network analysis, Course support 1.はじめに 大学におけるプログラミングの授業は,講義と演 習を組み合わせて行われることが一般的である.特 に,情報系の学科ではプログラミング科目は必修科 目になっていることが多く,履修者数も多いことか ら,教員に加えてスチューデントアシスタント (Student Assistant,以後 SA と記す)が演習時の 学習支援の役割を担っている.そのため,教員と SA が学習指導における共通認識を持つことが不可欠と なる. 著者らの所属する日本工業大学工学部情報工学科 では,2013 年度より初年次向けのプログラミング科 目において,能動的学習 [1],[2] を促すことを目的に, * 1 日本工業大学 Nippon Institute of Technology 学生のペースでプログラミング課題を中心に学習す る授業の体制を構築し,複数の教員と SAによるチー ムティーチングを実践している.この授業では,学 生はプログラミング課題を中心に個々に学習を進め, プログラムコードを課題提出システムへ提出する. 教員と SAは課題提出システムを利用して,提出され たプログラムコードを評価し,再提出を要する場合 はプログラムの改善に向けたコメントを与える. この授業は 200 名を超える学生を複数のクラスに 分けて同時に並行して授業を進めるため,複数の教 員と SA の間で指導内容の共有を図ることが授業を 運営する上で重要となってくる. 著者らは,このように授業で利用されている課題 38

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  • プログラミング演習課題への評価コメントを活用した授業支援の検討 勝間田 仁*1 加藤 利康*1

    Investigation of Course Support Using Evaluation Comments in Programming Exercises

    Masashi Katsumata Toshiyasu Kato

    Abstract:Programming subjects are often compulsory in information-systems-related courses at universities, and because there are many course participants, in addition to faculty members, student assistants (SAs) provide learning support for programming exercises. In the department to which the authors belong, a team teaching approach has been adopted for delivering the programming course involving multiple faculty members and SAs; the approach centers around the solving of programming assignments. It is extremely important for the faculty members and SAs to share a common understanding of the instruction content. In this study, we focus on a programming course framework that centers on solving programming assignments. We observe the features of the instruction content by assignment using the appearance frequency of words and conduct co-occurring network analysis using the comments stored on the assignment submission system used for the course. Thus, we demonstrate the possibility of course support for faculty members and SAs and learning support for students. Keywords:Programming exercises, Team teaching, Co-occurring network analysis, Course support

    1.はじめに 大学におけるプログラミングの授業は,講義と演

    習を組み合わせて行われることが一般的である.特

    に,情報系の学科ではプログラミング科目は必修科

    目になっていることが多く,履修者数も多いことか

    ら,教員に加えてスチューデントアシスタント

    (Student Assistant,以後 SA と記す)が演習時の

    学習支援の役割を担っている.そのため,教員と SA

    が学習指導における共通認識を持つことが不可欠と

    なる.

    著者らの所属する日本工業大学工学部情報工学科

    では,2013 年度より初年次向けのプログラミング科

    目において,能動的学習[1],[2]を促すことを目的に,

    *1 日本工業大学 Nippon Institute of Technology

    学生のペースでプログラミング課題を中心に学習す

    る授業の体制を構築し,複数の教員と SA によるチー

    ムティーチングを実践している.この授業では,学

    生はプログラミング課題を中心に個々に学習を進め,

    プログラムコードを課題提出システムへ提出する.

    教員と SA は課題提出システムを利用して,提出され

    たプログラムコードを評価し,再提出を要する場合

    はプログラムの改善に向けたコメントを与える.

    この授業は 200 名を超える学生を複数のクラスに

    分けて同時に並行して授業を進めるため,複数の教

    員と SA の間で指導内容の共有を図ることが授業を

    運営する上で重要となってくる.

    著者らは,このように授業で利用されている課題

    38

  • 提出システムに蓄積された課題の評価コメントを利

    用して,教員や SA のための授業支援や学生への学習

    支援に活用できると考えている.本論文では,プロ

    グラミング課題を解くことを中心に学習するプログ

    ラミングの授業の取組みについて取り上げ,授業で

    利用している課題提出システムに蓄積された課題の

    評価コメントを対象に単語の出現頻度と共起ネット

    ワーク分析により課題ごとの指摘内容の特徴を見出

    し,教員と SAを対象とした授業支援と学生を対象と

    した学習支援の可能性について示す.

    2.多様な学生を対象とした プログラミング教育の課題

    プログラミングの授業における演習時間では,学

    生は提示された課題に対するプログラミングを行う.

    課題に対して難なくプログラミングができる学生や

    自らの力で課題のプログラミングができない学生も

    いるため,演習時間における多様な学生を対象とし

    た授業支援のためのシステムの開発や能動的学習の

    仕組みを取り入れた授業の実践が行われている. プログラミングの授業における学生の理解度を考

    慮した研究として,匂坂ら[3]は,学習者の過去の解

    答データから作られた診断モデルから学習者の理解

    度を判定し,理解度に応じた学習アドバイスを提示

    する Web システムの有効性について報告している.このシステムにより,診断,アドバイス,学習を繰

    り返すことで学習者を良い方向へ導くことが可能で

    あることを示唆している.出口ら[4]は,個々の学習

    者の理解状況に応じて演習課題を出題するシステム

    を提案している.学習意欲が低い学生と学習意欲の

    高い学生の両方に適応して演習課題を選出する仕組

    みになっており,学習者の学習継続率と理解力の向

    上を実際の授業での運用により確認している. 能動的学習の仕組みをプログラミングの授業に取

    り入れた事例として,林ら[5]は,反転授業の仕組み

    を取り入れたプログラミングの授業の取組みを報告

    している.この授業は,プログラミングの基本的な

    学習事項は学生に予習として行わせ,授業での解説

    時間を短くし,演習時間に基本課題を終えたら発展

    課題は宿題にしてもよい方針としている.このよう

    な方針により,演習時間内に基本課題を終えること

    ができない学生に対してティーチングアシスタント

    の重点的な指導を行えるような工夫をしている. 著者らが所属する学科では,毎年,工業高校から

    一定の入学者があり,プログラミングの高いスキル

    を身に付けている学生からコンピュータに不慣れな

    学生まで様々な学生を対象として授業を進める必要

    がある.このような多様な学生を対象として,授業

    開始時のクラス分けで授業を進めても,理解度や学

    習意欲などの要因により学生の理解度にあった授業

    の進度を維持することが難しい.そのため,履修者

    全員を対象に,授業の前半に学生のペースでプログ

    ラミング課題を中心に取組む授業を実施し,後半は

    理解度に応じたクラス分けとクラスごとの学習方針

    により授業を進めている.この授業の前半では,学

    生が課題を中心に学習を進めていくため,複数の教

    員と SA との間で学習指導の共有を図ることが重要となる.

    3.学生のペースで課題を中心に取組む

    プログラミングの授業 3.1 授業概要

    本学科では,1年生を対象とした必修科目として

    「プログラミング技術・演習Ⅰ」(100 分,2 コマ),「プログラミング技術・演習Ⅱ」(100 分,2 コマ)を設置している.本論文では,春学期に開講してい

    る「プログラミング技術・演習Ⅰ」の授業について

    説明する.この授業の目的は,C 言語を利用して,変数,配列,制御構造を使った基本的なアルゴリズ

    ムの理解とそのプログラミングを行う知識と技術の

    習得である. 授業で扱う課題の内容を表1に示す.6回目の授

    業までに,変数の使用,演算規則,条件分岐,繰り

    返し処理,配列などの基本概念とそれらを使った基

    本的なアルゴリズムを学習する内容になっている.

    6 回目までの学習内容を履修者全員に習得して欲し

    39

  • い内容としており,この学習内容の理解がそれ以降

    の学習内容の理解に大きな影響を与えるため,6 回

    目までの学習内容の理解度を確認するテストを実施

    し,それ以降は,テストの結果によりクラスを再編

    成し,理解度に応じた授業を行う方針としている. 学生は事前学習教材として与えられる動画教材と

    Web 教材を学習し,授業時間に学生のペースで課題に取組む.表1に示した課題は授業回に行う課題の

    目安であり,意欲的に取り組む学生は先の授業の課

    題に取り掛かるように指導している.課題 27 までの課題に合格した学生には,プログラミング技術・

    演習Ⅱの課題を行うように指導を行い,全ての課題

    を終えた学生には,ソフトウェア作品(ゲームプロ

    グラムやグラフィクス処理の作品)を作ることを春

    学期,秋学期を通したプログラミングの授業の最終

    目標としている. 3.2 クラス編成と授業の進め方

    2016 年度の履修者は 232 名であり,再履修者 11

    名を含む.授業の開始時にプログラミング学習の経

    験や基本的なアルゴリズムの理解度を調査し,その

    結果により,クラス分けを行う.授業開始時にクラ

    ス分けを行う理由は,プログラミングの知識やスキ

    ルが同程度の学生を同じクラスすることで授業運営

    を行い易くするためである.クラスを担当する教員

    と SA の人数,学生数を表2に示す.

    プログラミング学習の経験があり,基本的なアル

    ゴリズムの理解度が高い学生を教室Aに割り振り,

    その他の学生は基本的なアルゴリズムの理解度が同

    程度の学生を教室B,教室C,教室Dへと割り振っ

    た.再履修者は基本的なアルゴリズムの考え方の理

    解が不十分であると判断して教室Dへ割り振った.

    8回目以降の授業は理解度テストの結果によりク

    表 1 課題内容

    授業回 課題内容

    1 回 プログラミングの基礎と開発環境の操作

    2 回

    課題 1 逐次処理 金種計算

    課題 2 逐次処理 10 進数の 2 進数変換

    課題 3 5 つの値の最大値を求める

    3 回

    課題 4 閏年判定(if, else の利用)

    課題 5 閏年判定(if, else if の利用)

    課題 6 二次方程式の解を求める

    4 回

    課題 7 最大値を求める(配列の利用)

    課題 8 for 文を使って総和を求める

    課題 9 配列の要素の値の総和を求める

    5 回

    課題 10 for 文を使って金種計算

    課題 11 for 文を使って 10 進数の 2 進数変換

    (入力する数が 2047 まで)

    課題 12 for 文を使って 10 進数の 2 進数変換

    (入力する数の上限なし)

    課題 13 配列の値の最大値を求める

    6 回

    課題 14 〇記号を使った四角形の表示

    課題 15 〇記号を使った三角形の表示

    課題 16 〇記号を使った逆三角形の表示

    課題 17 “-”と”*”記号を使った三角形の表示

    7 回 理解度テスト

    8 回

    から

    14 回

    課題 18 線形探索法

    課題 19 二分探索法

    課題 20 配列データの入れ替え

    課題 21 選択ソート法

    課題 22 文字列の長さを数える

    課題 23 文字列のコピー

    課題 24 文字列の比較

    課題 25 文字列の結合

    課題 26 文字列処理(文字列の反転処理)

    課題 27 switch 文と列挙型

    表 2 教室の学生数と教員,SA の人数

    40

  • ラスが再編され,クラスごとによって指導方法も変

    わる.そのため,本論文では履修者全員が同一の方

    式で授業を行う6回までの授業内容について説明を

    行う.

    ① 事前学習の実施

    学生は授業に先立って,授業回ごとに指定した課

    題に関する事前学習教材を使って学習し,分からな

    いことを授業中に質問する.事前学習の指示は,授

    業時間におけるアナウンスと掲示により行った.事

    前学習の内容には,課題となるプログラムの手続き

    に対する考え方とそのプログラムに対応した日本語

    による手続表現が含まれている.この学習内容を含

    む教材として,PowerPoint によるスライド形式の教

    材と動画教材を作成した.スライド形式の教材は,

    課題に対する細かい説明が記述されているのが特徴

    であり,ファイル共有サービス Docs.com を利用し

    て,Web サイトへアクセスできる環境であればノー

    ト PC やスマートフォンから閲覧できるように準備

    した.以後,スライド形式の教材を Web 教材と呼ぶ.

    一方,動画教材は,事前学習時に気楽な気持ちで

    視聴してもらうことを目的として作成した.アルゴ

    リズムの考え方やプログラミング技法などのワンポ

    イントアドバイスをパペット(片腕遣い人形)によ

    る掛け合いを中心に進行する構成とした.この動画

    教材は,YouTube により視聴できるように準備した.

    いずれの教材も 15 分程度で閲覧や視聴ができるよ

    うに配慮し,授業を担当する教員が作成した.

    ② 事前学習状況の調査

    授業開始直後に,事前学習の実施状況の調査を行

    った.事前学習の調査の時間を利用して,事前学習

    時にノートに書き出した内容を教員と SA が机間を

    周り確認し,事前学習の内容に対する質問に対して

    回答するようにした.

    ③ プログラミング課題

    学生には授業回ごとに指定した課題(表1)に取

    組むように指示した.完成した課題は,3.3 節で説

    明する課題提出システムへ提出し,教員や SA から評

    価を受ける.

    ④ 確認テストの実施(授業終了 20 分前)

    授業回ごとに指定した課題に関わるプログラミン

    グの知識や概念,アルゴリズムの考え方に対する理

    解度を確認するためのテストを実施した.このテス

    トは,マークシート形式のペーパーテストにより実

    施した.テストの問題数は 10 問とした.

    3.3 課題提出システムによる課題管理

    授業で利用している課題の提示,提出,進捗状況

    の確認を行う課題提出システムについて述べる.

    教員と SA は,課題提出システムに提出されたプロ

    グラミング課題に対して,課題の合否判定,再提出

    のためのコメントを書き込む.図1に課題を評価す

    る時の課題評価フォームを示す.学生の進捗状況は,

    履修者全体やクラスごとに把握可能である.

    学生は課題の提出状況と課題の合否結果が確認で

    きる.課題が不合格の学生は,教員や SA からのコメ

    ントを参考にしてプログラムを修正し,合格判定が

    得られるまで課題に取組む.

    課題提出システムは PHP と MySQL を利用して開発

    し,課題の提出時間,コメントの履歴,合格までに

    要する時間をデータベースに記録し,課題の取組み

    状況を把握できる仕様となっている.今後の授業支

    援や学生への学習支援を検討する際に,課題提出シ

    ステムのデータベースに記録されているデータを活

    用できる.

    4.課題の評価コメントを活用した授業支援の検討

    授業に関わる学習記録を活用した研究[6],[7],[8]は,

    学習者の達成度の評価,将来的な能力の予測,隠さ

    れた問題の発見に役立つとして期待されている.

    4.1 分析の目的と対象

    本論文では,課題提出システムに蓄積された課題

    41

  • の評価コメントを対象とした単語の出現頻度と共起

    ネットワーク分析から,課題テーマごとの教員と SA

    の指摘内容の傾向について考察する.

    分析対象は,2016 年度の春学期に実施したプログ

    ラミング技術・演習Ⅰの2回から6回までの授業で

    指定した課題(表1)の評価コメントとする.6回

    までの授業を対象とした理由は,履修者全員が6回

    までの課題に取組んでいるからである.

    授業回に対応した課題テーマと評価コメント数を

    表3に示す.課題の評価コメント数は,課題テーマ

    ごとに与えられた複数の課題の評価コメントの件数

    をまとめたものである.

    4.2 分析結果と考察

    課題テーマごとの評価コメントの単語の出現頻度

    の結果を表4~表8,共起ネットワーク分析の結果

    を図2~図6に示す.分析には統計解析ソフトウェ

    アの Rを利用した.

    図 1 課題提出システムの課題評価フォーム

    表4 逐次処理の課題を対象とした 単語の出現頻度

    抽出語 件数 割合

    処理 114 14%

    不要 113 14%

    インデント 104 13%

    無駄 94 12%

    意味 80 10%

    表5 分岐処理の課題を対象とした 単語の出現頻度

    抽出語 件数 割合

    文 312 17%

    if 301 17%

    else 245 14%

    インデント 177 10%

    字 145 8%

    表3 課題テーマごとの評価コメント数

    授業回 課題テーマ 評価コメント数

    第2回 逐次処理 787

    第3回 条件分岐 1813

    第4回 配列と繰返し処理 480

    第5回 繰返し処理(応用) 1045

    第6回 二重の繰返し処理 582

    42

  • 単語の出現頻度の結果では上位に抽出されていな

    いが,共起ネットワークに表示されている語句があ

    る.共起ネットワークでは,共起語として頻度分析

    が行われているためである.課題として提出された

    プログラムに対する評価コメントからは,コメント

    の文章中の数字だけを抽出しても,それが変数の値

    なのか行数なのかが判断できない.共起ネットワー

    ク分析では数字の共起語を抽出できることから,プ

    表6 配列と繰返し処理の課題を対象とした

    単語の出現頻度

    抽出語 件数 割合

    字 34 7%

    配列 33 7%

    文 33 7%

    要素 31 6%

    インデント 30 6%

    表7 繰返し処理(応用)の課題 を対象とした単語の出現頻度

    抽出語 件数 割合

    文 216 21%

    bin 128 12%

    for 115 11%

    表示 114 11%

    処理 94 9%

    zzzzz 図 2 逐 次 処 理 の 課 題 を 対 象 と し た

    共起ネットワーク

    図3 条件分岐の課題を対象とした

    共起ネットワーク

    図4 配列と繰返し処理の課題を対象とした

    共起ネットワーク

    表8 二重の繰返し処理の課題を 対象とした単語の出現頻度

    抽出語 件数 割合

    i 75 13%

    = 63 11%

    j 53 9%

    インデント 50 9%

    文 44 8%

    43

  • ログラムを対象としたコメントを分析する際に有用

    である.なお,どの課題テーマにおいても「行」と

    「目」の語句の頻度割合が高いため,結果から除外

    した.

    単語の出現頻度と共起ネットワーク分析によって

    得られる特徴的な語句とその関連語句の結びつきか

    ら,課題テーマごとの教員と SA の指摘内容の傾向に

    ついて考察を次に述べる.

    逐次処理をテーマとした場合,単語の出現頻度(表

    4)と共起ネットワーク(図2)から,「1の意味」,

    「無駄な演算」,「不要な処理」が特徴的な語句とし

    て分かる.金種計算,基数変換の課題が対象となっ

    ており,教員と SA は「1で割る」処理が書かれたプ

    ログラムコードに対して,「無駄な演算」や「不要な

    処理」は必要ないことを指摘していることが考えら

    れる.

    条件分岐をテーマとした場合,単語の出現頻度(表

    5)と共起ネットワーク(図3)から,「動作確認」,

    「400 の倍数」が特徴的な語句として分かる.閏年

    判定の課題2題と二次方程式の解を求める課題1題

    が対象となっており,教員と SA は閏年判定や二次方

    程式の解の判定に必要となるいくつかの値を入力し

    て正しい出力結果となることを検証する動作確認が

    十分に行われていないことを指摘していると考えら

    れる.

    配列と繰返し処理をテーマとした場合,単語の出

    現頻度(表6)と共起ネットワーク(図4)から,

    「初期化」,「配列の要素番号」,「動作確認」が特徴

    的な語句として分かる.ここで対象となる課題は,

    配列の要素番号の理解と for 文を使った配列データ

    の処理についての理解が求められる.そのため,教

    員と SA は for 文におけるループ変数の初期化が適

    切な箇所で行われていないことや for 文におけるル

    ープ変数と配列の要素番号の対応が取れていないこ

    とを指摘していると考えられる.

    繰返し処理(応用)をテーマとした場合,単語の

    出現頻度(表7)と共起ネットワーク(図5)から,

    「実行例」,「札と玉」,「if 文の中」,「要素番号」が

    特徴的な語句と分かる.金種計算,基数変換の課題

    を繰返し処理を使ってプログラミングする課題と配

    列に格納された値から最大値を見つける課題が対象

    となる.金種計算では出力例として「1000 円 x 枚」,

    「500 円玉 y 枚」などと出力する実行例が問題に提

    示されており,教員と SA は紙幣と硬貨を区分した出

    力結果となっていないことを指摘していると考えら

    れる.また,最大値を求める課題では,繰返し処理

    の中で if 文を使い,配列の要素番号をもとにした比

    較を行うことがあることから,配列の要素番号を適

    切に扱えていないことを指摘していると考えられる.

    二重の繰返し処理をテーマとした場合,単語の出

    現頻度(表8)と共起ネットワーク(図6)から,

    図5 繰返し処理(応用)の課題を対象 とした共起ネットワーク

    図6 二重の繰返し処理の課題を対象

    とした共起ネットワーク

    44

  • 「空白行の削除」,「インデントの確認」が特徴的な

    語句と分かる.for 文を使った二重の繰返し処理を

    学習することが目的であり,テキストによる図形描

    画を行う課題が対象であるため,教員と SA からは,

    for 文を使った二重の繰返し処理のプログラムコー

    ドにおいて,無駄な空行が入っていたり,インデン

    トの仕方が適切でないことが指摘されており,プロ

    グラムの可読性を意識した指摘が行われていること

    が考えられる.

    これらのことから,課題提出システムに蓄積され

    た課題の評価コメントから複数の教員と SA による

    課題の指摘内容をお互いに認識できるようになると

    考えられる.授業回ごとの課題への平均コメント数

    が 940 以上となるコメントの記録データからこれら

    の指摘内容を教員と SA の全員が把握することは困

    難である.課題提出システムに蓄積されたコメント

    から得られる単語の出現頻度と共起ネットワーク図

    を提示することにより,学生への指導内容の共有化

    が促進するようになる.また,学生に対しても教員

    や SA によるコメントのポイントが提供できるよう

    になる. 本論文では授業回ごとの授業支援を目的と

    して,授業回ごとに指定した複数の課題の評価コメ

    ントを対象として分析を行ったが,1つの課題の評

    価コメントを対象に分析することでその課題だけの

    特徴的な指摘内容を把握することができる.

    4.3 課題評価コメントの活用方法

    上記に述べた分析手法を確立し,システム化する

    ことにより,課題提出システムに記録されている課

    題の評価コメントを活用した授業支援や学習支援へ

    の活用が期待できる.本節では,教員,SA,学生を対

    象として,課題評価コメントを活用して実現可能と

    なる授業支援や学習支援について次に示す.

    ① 教員への授業支援

    課題ごとに学生が陥りやすいミスの傾向が過去の

    指導履歴から発見でき,課題内容や事前学習教材へ

    の補足や改善へ結びつけることが可能となる.

    ② SA への授業支援

    プログラミングの授業は,講義と演習の時間が設

    けられているのが一般的であり,SA やティーチング

    アシスタントが演習時における学生への学習支援を

    行っている[9].

    課題のテーマごとに学生がつまずき易い個所を事

    前に SA へ提示することが可能となり,課題の評価や

    授業中における学習支援が効率良く行われることが

    期待できる.特に,SA を初めて担当する学生には,

    他の教員や SA の学習指導内容を把握することは有

    効である.

    ③ 学生への学習支援

    課題ごとのミスの傾向を学生へ提示することによ

    り,学生が課題を提出する際に自らプログラムの確

    認を行うことを促すことができる.作成したプログ

    ラムを多角的に検証する力を身に付けることにもつ

    ながる.

    5.おわりに

    本論文では,学生のペースでプログラミング課題

    に取組むことを中心としたプログラミングの授業の

    取組みについて取り上げ,課題提出システムに蓄積

    されている課題の評価コメントの単語の出現頻度と

    共起ネットワークから指摘内容の傾向について把握

    できることを示し,授業支援や学習支援の可能性に

    ついて示唆した.今後は,課題の評価コメントの詳

    細な分析を進めるとともに,実際の授業支援,学習

    支援に向けた検討を行うことを課題とする.

    参考文献

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    an experience report about exploring the

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    著者紹介

    勝間田 仁(非会員)

    1997 年北海道大学大学院工学研

    究科博士後期課程修了.博士

    (工学).現在,日本工業大学工

    学部情報工学科准教授,グルー

    プウェア,教育情報システム等

    の研究に従事.情報処理学会会

    員.

    加藤 利康(学術会員)

    2003 年日本工業大学大学院博士前期課程修了.2003 年株式会社ノアシステムにおいて Web システムの開発に従事.2005 年神田情報ビジネス専門学校情報デザ

    イン科教諭.2014 年日本工業大学大学院博士後期課程修了.博士

    (工学).2014 年より日本工業大学講師.現在に至る.学習分析の

    研究に従事.日本 e-Learning 学会,情報処理学会,教育システム

    情報学会,学習分析学会各会員.

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