アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理 ·...

8
アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理 及川 渉,竹内柴一,宅見 章,善林智範,石川祥久 小室文稔 ,椛沢 第57巻 第9号(2006)別刷

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Page 1: アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理 · き層を構成するFe合金との熱膨張率の相違から,加熱の過 程でめっき面に図2に示すような大きさ50~80μm,亀裂幅

アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理

及川 渉,竹内柴一,宅見 章,善林智範,石川祥久

       小室文稔 ,椛沢 均

表 面 技 術 第57巻 第9号(2006)別刷

Page 2: アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理 · き層を構成するFe合金との熱膨張率の相違から,加熱の過 程でめっき面に図2に示すような大きさ50~80μm,亀裂幅

vol.57,Na9,2006

S 〃 a 〃 j - J I J

受賞記念講演会シ

ルア

r W r W J - ・ 〃 ● 〃 ♂

リーズ

ミニウム合金の耐摩耗性改善を目的とした表面改質処理

及川 渉*,竹内条一*,宅見 章*,

       小室文稔**,椛沢

善林智範*,石川祥久‘

均¨’

   *日本プレーテック㈱(〒329-2756 栃木県那須塩原市西三島7-334)

¨㈱ムロ・コーポレーション烏山工場(〒321-0627 栃木県那須烏山市南1-12-25)

      ***㈱日本テクノ(〒349-0133 埼玉県蓮田市関戸3986)

On the Surface Modification for Wear Resistance of Aluminium AIloys

Wataru OIKAWA゛, EiichiTAKEUCHI゛, Akira TAKUMI゛, Tomonori ZEMBAYASHI゛

   Yoshihisa ISHIKAWAI, Fumjtoshi KOMURO“, HitoshiKABASAlyAI・゛

 ‘Nippon Platec Co.,Ltd.(7-334,Nishimishima,Nasushiobara-shi,Tochigj 329-2756)

 ¨Muro Corporation(1-12-25,Minamj,Nasukarasuyama-shi,Tochigi 321-0627)

II‘Nih。n Techno Co.,Ltd.〔3986,Uruido,Hasuda-shi,Saitama 349一〇133〕

xejlsords : lron A11oy Platjng,Diffusion Treatment, Sulphonitrjding,Crack on P】ating

      Face,Friction,Wear Resjstance, Aluminjum A11oys

           1.はじめに

 自動車をはじめとする輸送機類は省資源,省エネルギー,

あるいは地球温暖化抑制などの観点から,重要な一つの手法

として軽量化が進められ,この目的に沿い,かつ,リサイク

ルの面をも含めてAI合金の活用が効果的と考えられている。

しかしこの場合,機能部品の材料として利用するときは,機

械的な強さの上から検討の余地が十分残されている。例えば,

摺動部材として用いるに当たっては耐摩耗性改善のための表

面改質処理が必要となる。

 AI合金の耐摩耗性を目的とした表面改質処理には古くか

ら行われてきた陽極酸化処理をはじめ,プラズマ窒化,イオ

ンビームミキシングなど多くの方法が挙げられるl'。

 さて,ここで述べる開発技術は汎用技術として一般に普及

されている電気めっきによる鉄系合金めっき,ならびにこれ

に熱拡散処理,あるいは窒化系の表面熱処理に属するガス浸

硫窒化処理を複合させることにより,めっき皮膜の密着性の

強化および耐摩耗性に優れた表面層を得ることを目的として

開発を試みたものである。

 以下,その結果について述べる。

  2.AI合金へのFeおよびFe-Cr合金めっき

 2.1 めっき条件の決定

 めっき条件の設定は,まず,ハルセル試験法にしたがって

めっき液の組成,液温,電流密度などを検討し,表1に示す

↑第113回講演大会(会期:平成18年3月15日~17日,会

 場:東洋大学川越キャンパス)における「平成18年度技術賞

 受賞記念講演会」での講演内容をまとめていただいたもので

 す。

643

ようなFeおよびFe-8%Cr合金めっき条件を決定した。以

下,これらの条件に従ってめっき処理を行った。なお,Fe

めっきの場合,液の主要成分である硫酸第一鉄の代わりに塩

化第一鉄を主要成分とするときは300HV程度の軟質なFe

めっき層を得ることが可能となる。

 2.2 めっき下地の検討

 AI合金にFeもしくはFe-Cr合金めっきを施す際,めっき層

の密着性を向上させる観点から下地めっきの影響を検討した。

 試験片は幅30×長さ120×厚さ1mmのA1100P材を用い,

下地めっきにNi(厚さ7~8μm)または無電解Ni-Pめっき

(厚さ,約2μm)を施した上にFeめっきしたもの,および,

直接AI上にFeめっきを行ったものを作製した。このとき

のFeめっき層の厚さは3者とも約10μmである。

 密着性の評価は加熱一冷却方式に依って行った。すなわち,

N2雰囲気中,560°Cで5h加熱後,20°Cの水中に急冷し,

めっき層のはく離状態を観察した。その結果によると,下地

表1 FeおよびFe-8%Cr合金めっきのめっき条件

試験,測定項目 Feめっき Fe-8%Cr合金めっき

めっき液組成

硫酸第一鉄  250g/dm3

塩化第一鉄  40g/dm3

塩化アンモニウム20g/dm3

L-アルコビン酸 3g/dm3

クエン酸    1g/dm3

塩基性硫酸クロム(III)

      200g/dm3

硫酸第一鉄40g/dm3

電流密度(A/d�) 2 5

液温   (゜C) 40~50 40~50

めっき時間(min〉 60 35

めっき厚さ(μm) 約20 約20

めっき硬さ(HV) 500~700 750~800

-29一一

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644 受賞記念講演会シリーズ

にNiめっきを施したものはNiめっき層から完全にはく離

を起こしている。また,これほどではないが,Ni-Pめっき

下地のものは素地のAIと下地めっき層の界面からはく離寸

前の状態にあるものが多く認められた。

 これに対して,AI素地に直接Feめっきを施したものは

AIとFeの熱膨張率の違いからFeめっき面に50~100μm

の大きさをもった亀甲模様の亀裂が観察されるが,剥離現象

は全く検出されなかった。

 これらの結果から,以下の実験はすべてAI合金素地に直

接FeまたはFe一Cr合金めっきを施すこととした。

 2.3 めっき一拡散複合処理

 めっき界面における素地金属とめっき金属との相互拡散は

めっき皮膜の密着性を強化するうえから極めて有効な手法と

いえる。図1は一例としてA5052PにFe-8%Cr合金めっき

を施したのち,N2雰囲気中500てで3h拡散処理したもので,

めっき界面をEPMAにより線分析を行った結果,約10μm

の相互拡散層が認められる。この状態からみて,めっき皮膜

の密着強さは極めて高いものと判断された。

 これに加えて,先にも述べたごとく素地のAI合金とめっ

き層を構成するFe合金との熱膨張率の相違から,加熱の過

程でめっき面に図2に示すような大きさ50~80μm,亀裂幅

3μm前後の亀甲模様を呈する亀裂が発生するが,潤滑下の

摩擦過程において亀裂が油道としての役割を果し,低摩擦,

耐摩耗性の改善に優れた状態が維持されるものと推察される。

なお,この現象は次項で述べるガス浸硫窒化処理したものに

も認められる。

 2.4 めっき一浸硫窒化複合処理

 窒化系の表面熱処理のうちから,凝着抑制作用に優れた特

性を有するガス浸硫窒化処理を選び,採用した2'`4'。

 厚さ15~20μmのFeあるいはFe-8%Cr合金めっきを施

(9d3)iSSXEQ4

図中の数字はカウントフルスケール

FeKa(600cps)

CrKa(400cps)

         距離(μm)

Fe-8%Cr合金めっき(約20μm)

拡散条件;600℃・3h窒素雰囲気中で処理

図1 500で一一3h,N,雰囲気中で拡散処理を施したFe・・8%Cr合

   金めっき層とAI合金素地との界面に現れた相互拡散現象

表面技術

したものについて,450および500°Cで3~5hガス浸硫窒化

処理を行った。使用した雰囲気はNH。15L/minと浸硫性

ガス(N,で希釈されたH2S;667ppm)0.33L/minの混合雰

囲気である。また,処理終了後は酸化を防ぐため常温まで

N,の流気中で冷却した。

 図3は一例として500てで3h処理したFe-8%Cr合金

、鰐叫占

図2 400°C-1h真空中で加熱した際,Fe-8%Cr合金めっき面に

   現れた亀甲模様の亀裂

y●xa:S剔X狛aJX・:S-XXX3 .lごlsS AIKa

図3 500°C 5hガス浸硫窒化処理したFe-8%Cr合金めっき層

   内のNおよびSの浸入状態とめっき界面における相互拡

   散現象

一一ぶトー

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vol.57,N119,2006 アルミニウム合金の耐摩耗性改善を目的とした表面改質処理

めっき層の窒素ならびに硫黄の侵入,拡散状態をEPMAに

より線分析を行った結果である。これによると,表面より数

μmの厚さをもったSKα線強度の高い層が存在し,X線回

折により同定された反応生成物はFel,.XS,FeSから成り,そ

の下層のNKα線の高い領域からはEFe2_3N,y'Fe,Nの存

在が認められた。また,めっき界面における相互拡散層の厚

みは約2μmで,前掲図1のN2雰囲気中での拡散層の厚み

に比較して1/5程度となる。これは窒化物から成る層の生成

によりFe中におけるAIの拡散が抑えられたためと考えら

れる。なお,これと同様な現象はFeめっき皮膜からも観察

される。

 また,これらの処理によって得られた化合物層の厚みを光

学顕微鏡により計測するとFeめっきの場合は20μm弱,Fe

-8%Cr合金めっきのものは15~18μmとなり,処理温度の

高いものほど厚くなる傾向がみられる。

 化合物層の硬さについては,500てで処理したFe-8%Cr

合金めっき層が1100~1150HVで最も硬く,Feめっき層は

770~840HVであった。

    3.Fe合金めっき層の摩擦・摩耗特性

 3,1 摩擦・摩耗試験の方法5)

 摩擦・摩耗試験は図4に示す試験片を用い,鈴木式摩耗試

験機に類似した摩擦方式,機能をもつ試験機により潤滑すべ

り摩擦・摩耗試験を行った。

(lu”05r4)lc’99W4pa%8‐9al114

faa

▽▽▽仕上げ

摩純度の軌跡単位;mm

仁払⊇[回

【A】回転試験片(A6052P)(B)固定試験片(S45C,HQr)

図4 試験で使用した摩擦・摩耗試験片

2000

1600

-112oo

-0 0 0

8 0 0

6 0 0

巨″=葦登

400

200

 0

(mO(X)1×)糖ぶs翠蔓

   Sl

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&‐‐‐‐j‐‐.‐‐‐‐i‐j

0  0 0 0

10 f Q QI

’L

10 o

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0.5

0.4

0.3

  9g

  o

一孝葦僣

0.1

645

 試験条件は接触圧力を0.196MPaに一定とし,高負荷条

件の試験に限り0.49MPaとした。また,摩擦速度は

0.50~4.00m/sの範囲で変化させ,摩擦距離50000mを限

度として,試験の過程で摩擦係数が0.20以下の値を維持し

ている状態までの連続摩擦距離,ならびにその時点での比摩

耗量と摩耗痕の深さを計測した。したがって,試験の途中で

瞬間的にでも摩擦係数が0.20を超える値が計測されたとき

はその時点で試験を中止し,比摩耗量などを測定した。

 試験では,まず実験を始める直前に約20°Cに保たれた潤

滑油(7.5W30SE)の中へ回転試験片(表面処理を施したA

5052P)を15s浸潰し,次ぎにこれを取り出して10s垂直に

保持(以後,これを1回塗布と記す)することにより余分な油

を除去したのちに試験機に取り付け,所定の負荷を掛けて摩

擦・摩耗試験を行った。なお,この試験方式の欠点は摩擦速

度,すなわち,回転試験片の回転数が高くなるにともなって

遠心力により油が飛散することであり,これが摩擦,摩耗に

影響を資すことが予測されるが,今回の試験では特にこのた

めの補正は行っていない。

 回転試験片の比摩耗量ならびに摩耗痕の深さは触針式仕上

げ面粗さ試験機を活用して,直径方向に沿って8箇所摩耗痕

の形態(摩耗痕の幅と深さ)を測定し,その値から平均値を算

出した。なお,これと組合せる固定試験片は焼入焼戻処理に

より,組織を微細パーライトとしたS45Cで,均質材であ

ると仮定して化学天秤により摩耗減量を秤量し,その結果か

ら比摩耗量を計算により求めた。なお,このときの比重を

7.8g/cm3とした。また,焼人焼戻しにより微細パーライト

としたことは摩擦面温度が焼戻温度にの実験では600°C)に

達するまでは組織変化が起こらず,これによって試験結果に

及ぼす不安定要素を軽減させたものである。

 3.2 めっき皮膜の摩擦・摩耗特性

 まず,FeめっきおよびFe-8%Cr合金めっきを施したま

まのものについて摩耗試験を行った。

 この場合,Feめっきの表面には亀甲模様の亀裂は認めら

れないが,Fe-8%Cr合金めっき面には前掲図2と類似の形

状をもった大きさ100~150μm,亀裂幅1μm程度の亀甲模

様をもった亀裂が観察される。

 図5は一例としてFe-8%Cr合金めっきを施したままの試

験片について摩擦特性を検討した結果を示したものである。

j1 1

二千¨ ▽几 |

摩擦距離

\ヤ べ 入≒ \

\k

ノ    1-

 llll

ペビ

llll▽フド 大衆:

0 0,5 1.0   1.5 2.0摩擦速度(�s)

3.0 4,0

試験片:回転,Aj5052PにFa・S%Cr合金め・っきt20μmj

    固定,S46C(HQT)

摩擦条件:p,0.196MPa供試油.7.5W30SE 実験開始直前1回油塗布

図5 Fe8%Cr合金めっきを施したA5052Pの潤滑・すべり摩擦特性

              一一31-

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646 受賞記念講演会シリーズ

これによると,摩擦速度0.50~1.00m/sでは摩擦係数が

0.06~0.10の範囲に安定した状態が摩擦距離50000mまで

維持される。しかし,これよりも高速の1.50m/sになると

距離49000m付近で瞬間的ではあるが摩擦係数が0.20を越

える現象がみられるようになり,この時点で試験を中止した。

なお,この現象は摩擦速度が高くなるほど短距離側で発生す

るようになる。たとえば,速度4.00m/sでは距離14500m

付近で0.20を超す摩擦係数が認められた。

 これに対して,めっき時に亀裂が存在しないFeめっき試

験片では摩耗の進行が著しく,速度0.50m/sにおいて摩擦

係数が0.20を超える状態が観察された。

 以上の結果から,めっきしたままのものでも,めっき面に

亀甲模様の亀裂が存在するものは,それが大きく,かつ,亀

裂幅が細いものであっても抽選としての役割を果し,低摩擦

でしかも耐摩耗性に優れた状態の得られることが確認された。

 3.3 熱拡散処理を施しためっき皮膜の摩擦・摩耗特性

 2.2項で述べたようにめっきと熱拡散処理を複合させた

ものは,まず,めっき界面において素地金属とめっき金属と

の間に相互拡散が起こり,このためにめっき皮膜の密着強さ

が著しく改善されることおよび,素地のAI合金とめっき皮

膜のFe合金とは熱膨張率が異なるため,めっき面には前掲

図2にみられるような亀甲模様を呈する亀裂が発生し,潤滑

2000

1600

巨首領奢

1200

800

400

200

 0

0 0 0

Q g Q

   (Eooo’×)

F

10

0.50

0.40

  3

0

  0

(ぷー

 .20

疆10膏

0.10

表面技術

下においてこれが仙遊となるなど,潤滑・すべり摩擦の観点

から何れの現象も有効といえる。

 図6はFeめっき後.N2雰囲気中,50()゜Cで3h熱拡散処

理を施した回転試験片を用いて摩擦・摩耗試験を行ったとき

に得られた摩擦特性を示したものである。これによると,

めっき面に現れた亀甲横様の亀裂は先Sこも述べたごとく一辺

が50~80μmに細分化され。かつ,亀裂幅が約3μmに拡張

されていることから,仙道としての効果はさらに大きくなり。

速度0.50~2.00m/sでは距離50000mまで摩擦係数が0.20

を超すことはなく,概ね0.05~0.10の範囲に安定した値を

採ることが認められた。しかし,これよりも高速域では

0.20以上の摩擦係数の現れる距離が急激に減少し,速度400

m/sでは5000m付近で摩擦係数の0.20以上に達する現象

が観察された。

 これに対して,Fe-8%Cr合金めっきを施したのち500°C

で3h拡散処理を行ったものは図7に示すように速度2.50

m/s以下の領域で距離50000mまで摩擦係数が0.20を超す

ことはなく,0.04~0.07の範囲に安定していることが認め

られた。しかしながら,これよりも高速域では摩擦係数の平

均値が約0.05を維持しているにも拘らず,瞬間的には0.20

を超えることがあり,その距離は47000~43000mで,前掲

図6のFeめっきと比べて明らかに摩擦挙動に相違がみられ

1、j L  4  j W・WrT¬- レ

)自大\

. \\づ“T N宋に↓-

総回

へ-

 l l

岨/ \戸0 0.5 1.0 1、5 2.0 3、0

                  摩擦適度{㎡l}

試験片:翻転,A5062PにF・(硬質)め・っき【SOlm】,50()℃・Sh拡散処理

     固定,S45C(HQT)

摩擦条件:p,0.19aMP・僑試油,7.5W30SE 実験開始直前1回油塗布

4.0

図6 500で-3h熱拡散処理を施したFeめっき皮膜の潤滑・すべり摩擦特性

2000

1600

1二)巨砦葦薔

800

600

400

200

 0

50

  (J4)

-0  0

4  3

 (tuOOOI×)駿20

一〇  4

0  0

0.3

聶0.2啄葦著

」  10

i葦冊

0.1

 試験片

摩擦条件

>∩’  昂

摩擦距離 >ド\

≒叶べ

系数一汗

ぐ1

    l μFIS

し径卜 /こ・~J1

一一

l  lへ●

    |0

0.5 1.0 1.5 2.0 3.0 4、0

              摩擦速度(m/s)

回転,A5052PにFe-8%Cr合金めっき500℃・3h拡散処理固定,S45C(HQT)

p,0.196MPa供試油,7.5W30SE 実験開始直前1回油塗布

図7 500°C-3h熱拡散処理を施したFe、8%Cr合金めっき皮膜の潤滑・すべり摩擦特性

                  一一32一一

Page 6: アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理 · き層を構成するFe合金との熱膨張率の相違から,加熱の過 程でめっき面に図2に示すような大きさ50~80μm,亀裂幅

VOI.57,N0.9,2006 アルミニウム合金の耐摩耗性改善を目的とした表面改質処理

た。

 図8はこのときの摩耗特性を現わしたものである。この結

果によると,回転試験片の比摩耗量は速度0.50~2.00m/s

の範囲においておおよそ5×10-11m�/N.mmで,これを摩

耗痕の深さで現わすと約0.50μmとなり,明らかにめっき

層内での摩耗ということになる。また,これよりも高速側で

は速度が高くなるにともなって摩耗損失には増加の傾向がみ

られるようになる。しかしこの場合,摩耗が最も激しく起こ

る速度4.00m/sでも摩耗痕深さは3.0μm程度で,前述と

同様,めっき層内の摩耗を現わしている。

 これに対して,相手側の固定試験片の摩耗は極めて微量で,

おおよそ6×10-15~2×10-13mm3/N.mmの範囲にある。

 3.4 めっきーガス浸硫窒化複合処理皮膜の摩擦一摩耗特

    性

 めっき層の表面改質とめっき界面の相互拡散による密着強

さの改善を兼てFeおよびFe-8%Cr合金めっきを施した回

転試験片を500°Cで3hガス浸硫窒化処理し,これらについ

てすべり摩擦・摩耗試験を行った。なお,表面層の状態は概

ね前掲図2および3と同じである。

 図9はFe-8%Cr合金めっきの回転試験片について摩擦特

性を求めたもので,速度2.50m/s以下の速度界域では摩擦

5×1ひ・・ 5×10‘19

  10

(ululN/suim)一忿柵奴(?g海域Q`回

j  10

(un“N/JI“u)144柵j(ご’海瓢徊ヨ

101・

5×1(戸

647

係数の平均値が0.02~0.03で,連続摩擦距離50000mまで

瞬間的といえども0.20を超すことはない。しかし,3.00

m/sより高速側では50000mに達する以前に0.20を超す摩

擦係数が現れるようになる。しかしこの場合でも,摩擦係数

の平均値は0.04~0.05の低い値を示す。これを前掲図7の

熱拡散処理したものと比較すると約1/2の低い値となってい

る。この現象は浸硫窒化処理によってめっき層の表面付近に

生成されたFeS,Fel_。Sなどの硫化物の影響で,これら反

応性生物の存在により摩擦面間で生ずる凝着現象が抑制され

たことに起因している。

 また,このときの摩耗特性を図10に示す。これによると

摩擦速度2.50m/s以下の領域における比摩耗量は4~7×

10-11m�/N.mmの範囲にある。この値を摩耗痕の深さを

もって表すと0.40~0.70μmで,摩耗は浸硫窒化層内で起

きていることを現わしている。しかし,これよりも高速側で

は激しい摩耗が現れ,比摩耗量は3.00m/sのとき3.5×

10-9mm3/N.mm,また4.00m/sでは10-8mm3/N.mmとな

り,いずれも摩耗痕深さは図中に記載してあるようにめっき

層の厚さよりも大きく,めっき皮膜は完全に摩耗損失してい

ることを現わしている。この主な原因として挙げられるもの

に摩耗粉末として脱落した硬質の窒化物が摩擦面間に介在し

mTm¬-r¬一大|・1』| 11・1 1 ・  |-  試験片:回転A5052PにFe-8%Cr合金めっき(20μm)  2.9μ

゛   600℃・3h拡散処理      1

-    固定’s45c’Hcyr , |  ひ``ヽヽ]  1

 摩耗条件p0196MP供試油75W30SEI

   実●開始直前1回油塗あ    /   |  ?

摩耗痕深さニO’57μ゜iFX

” gいX

千∧牛-

-0.42μ

ふぐ

 j l

 j l l l

 l l

レレ・

5×10・'・0 0.5

1.0 1.5 2.0 3.0

                         摩擦速度(m/s)

図8 500°C-3h熱拡散処理を施したFe-8%Cr合金めっき皮膜の潤滑・すべり摩耗特性

2000

1a00

(SS)

1200

50

巨首領嗇

800

400

200

 0

40 30

(“'0001×)

 20

糖一s葦膏

10

 0

0.251

 0.20

-2 0.15

1二

ニレT;叫 \\

べ ``-゛--べ

y‾叶

・.4j、 ↓づ千ドトド叶七千二40 0.5 1.0 1.5 2.0

3.0 4.0

                ●馥適度g㎡・l

 試験片:回転,AS051PにFe・S%Cr合金め・っき.5圖℃-ahガス浸硫蜜化

      固定,S45C,HQT.

摩擦条件:p,0.19gMPa.供試油,7.5W30SE.実験開始直前I回議●右

図9 500で・3hガス浸硫窒化処理を施したFe-8%Cr合金めっき皮膜の潤滑・すべり摩擦特性

                    一一ベレー-

Page 7: アルミニウム合金の耐摩耗|生改善を目的とした表面改質処理 · き層を構成するFe合金との熱膨張率の相違から,加熱の過 程でめっき面に図2に示すような大きさ50~80μm,亀裂幅

648 受賞記念講演会シリーズ

てアプレシブ摩耗を生じたためと判断される。

 他方,固定試験片の損耗は傾向的には回転試験片のそれと

類似しているが,前述と同様極めて少ないことが認められた。

 3.5 高負荷条件下の摩擦・摩耗特性に及ぼす複合処理

    の影響

 高負荷条件といえども素地がAI合金である関係から鉄鋼

材料を対象とするような負荷は難しいと判断し,この試験で

は接触圧力を0.49MPaとしたときのFe系合金めっきの潤

滑・すべり摩耗試験を行った。

 試験では上述の結果から最も優れた摩擦・摩耗特性を有す

る500てで3hガス浸硫窒化処理を施したFe-8%Cr合金

めっき処理のA5052P回転試験片について検討を加えた。こ

のときの試験条件は接触圧力を除き,他は前述までのものと

同じである。

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    供試油,7.5W30SE.  3S)00

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図10 500°C-3hガス漫硫窒化処理を施したFe-8%Cr合金めっ

   き皮膜の潤滑・すべり摩耗特性

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表面技術

 図11に摩擦特性を検討した結果を示す。これによると,

速度0.30~I.50m/sの低速域では距離50000mまでの連続

運転で摩擦係数は約0.025にほぼ一定した状態が保たれ,

0.20を超すことはない。しかしこれよりも高速側では摩擦

係数の平均値が0.03~0.06の範囲にあるにも拘らず,瞬間

的であっても0.20を超す現象がみられるようになる。たと

えば,摩擦係数の平均値が0.03の速度2.00m/sでは距離

38000m付近で,また速度3.00または4.00m/sでは何れも

距離12000m前後において0.20を超す状態が観察されるよ

うになる。殊に4.00mノsではその値が約0.38にまで達する。

 この結果から,広範囲に亘る摩擦条件の下において摩擦係

数の平均が低い値を保ち得ることは,前述と同様,浸硫窒化

処理によって摩擦面に生成された硫化物による凝着抑制効果,

ならびにその下層に存在する硬質な窒化物の強化作用による

ものと考えられる。

 次に上述の試験で得た摩耗特性を図12に示す。これによ

ると。摩擦係数が0.025に安定している速度1.50m/s以下

における比摩耗量はおおよそ2~4×10-Ilm�/N.mmで,

このときの摩耗痕深さは0.54~0.78μmの範囲にあり。何

れも浸硫窒化層内の摩耗である。

 しかし,摩擦係数が0.20を超すような現象が現れるよう

になると摩耗損失も激しくなり,速度の増すにともなって比

摩純量は急激に増加する。すなわち,速度2.00m/sでは

1.5×10-gmmリN.mm,また,4.00m/sでは1.5×10‘自

m�/N.mmとなる。これを摩耗痕の深さをもって現わすと,

図中に記載したように25~85μmとなり,何れもめっき層

が完全に損耗し,AI合金素地の摩耗となる。

    4.AI合金への表面改質技術の応用例

 4.1 ピストンヘの応用

 自動車や自動2輪車の軽量化を目的としてAI合金をはじ

めとする軽合金や合成樹脂類が構造材あるいは機能材料とし

て広く利用される傾向にある。

 本技術応用の対象として先ずピストンが挙げられる。すな

わち,最近,シリンダーライナーレスのエンジンが検討され,

このためAI合金同士の組合せを避けることからシリンダー

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図11 500で-3hガス浸硫窒化処理を施したFe-8%Cr合金めっき皮膜の高負荷条件下における潤滑・すべり摩擦特性

                         -・-・34-

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35-

vol.57,Na9,2006

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アルミニウム合金の耐摩耗性改善を目的とした表面改質処理

摩擦条件:p,0.49MPa供試油,7.5WaOSE

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試験片回転,A5052PにFe-8%Cr合金めっき500℃-3hガス浸硫窒化

    固定,S45C,HQT

図12 50『C-3hガス浸硫窒化処理を施したFe-8%Cr合金めっ

   き皮膜の高負荷条件下における潤滑・すべり摩耗特性

もしくはピストンの何れか一方の摺動面に耐摩耗性のための

表面改質処理が必要となる。この開発研究ではこの目的に

沿ってピストンのスカートの部分に厚さ約15μmのFeめっ

きを施し,一部の自動2輪車に適応し,国内は勿論,海外で

も生産,販売している。図13にFeめっきしたピストンを

示す。通常はこれに初期なじみをよくするため厚さ2~3μm

のSnめっきを施したものが実用に供されている。

 4.2 レース用自動2輔車のブレーキディスクヘの応用

 従来,レース用自動2輪車のブレーキディスクには鉄鋼材

料が汎用されてきた。そのためコーナリングにはディスクの

遠心力が大きく作用し,ドライバーにとっては大きな負担と

なる。これを軽減させる目的から特殊な組成,方法をもって

AI合金から成るディスクを製造し,これに優れた耐摩耗性

と適正な制動性を持たせるためにFe-8%Cr合金めっき,ガ

ス浸硫窒化の複合処理を施した。図14は2000年,鈴鹿サー

キットで行われたレース終了後のブレーキディスクを示した

もので,摩耗の形跡はほとんど認められなかった。

           5.あとがき

 機能材料として用いるAI合金の低摩擦,耐摩耗性を改善

するための手法として,汎用技術に属するFeまたはFe-Cr

図13 スカートの部分にFeめっきを施したピストン(次工程で

   Snめっきを施し,完成)

図14 Fe一一8%Cr合金めっき後,ガス浸硫窒化処理を施したブレ

   ーキディスク(レース終了後のディスクには摩耗痕はほと

   んど検出されない)

合金の電気めっきと熱拡散あるいはガス浸硫窒化を複合させ

た処理を行うことにより,潤滑すべり摩擦・摩耗の下で優れ

た特性を得ることを可能にした。この技術はピストンやブ

レーキディスクに応用し,効果を挙げることができた。

                   (2006-6-2 受理)

           文  献

1〕恒川好樹:まてりあ,36,730〔1995〕.

2〕片桐敏夫,藤井京子,石渡伸一,大関泰之,竹内柴一:日本金属

 学会誌,51,930(1987).

3)椛沢均:熱処理,36,383(1996).

4)野口奉夫:熱処理,38,198(1998).

5)竹内柴一,及川 渉,小重文稔,椛沢 均:熱処理.44,239

 (20{}4).

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