アプタマー創薬が抗体医薬を凌駕する? -...

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  • 新たなるバイオ医薬品開発

    がん、先天性免疫不全、網膜疾患などを対象に、アデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルスなどを用いた臨床試験が、計 2000 例を超えている。

    細胞治療用医薬品失われた組織を再生するために用いる細胞のこと。日本では、名古屋大学医学部の上田実教授らが開発した自家培養皮膚が、2007 年に医薬品として承認された。1 平方センチの正常皮膚組織から、2 週間で 100 平方センチ以上の培養皮膚シートを作ることができるとされ、重度の熱傷などに適応される。

    アプタマーRNA の立体構造を利用して、抗体と同様に作用させるもの。2004 年にアメリカで加齢黄斑変性症の薬「マクジェン(バイオベンチャーのアイテック社が開発し、フェーズ 2 以降はファイザー社による)」が承認された。この薬は、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とし、有害な血管新生を阻害する。日本でも 2008 年に承認された。

    アプタマー創薬が抗体医薬を凌駕する?アプタマーについて、もう少し詳しくみてみよう。RNAの医薬品応用としては、まず 1980 年代に、疾患遺伝子の一部と相補的な 2 本鎖の RNA 断片を用いることで、その発現を抑制しようとする「アンチセンス RNA 医薬品」の開発が試みられたが、成功例はなかった。その後、2 本鎖の短い RNA(siRNA)の利用も検討されたがうまくいかず、この春にロシュ社やノバルティス社などの大手が、この分野から相次いで撤退した。 一方のアプタマー医薬品は、RNA の塩基配列ではなく立体構造を利用するという点で、これまでの核酸医薬品とは決定的に異なり、抗体医薬品の躍進に後押しされるかたちで研究が進んでいる。「たとえば、40 塩基対からなるRNA 断片をランダムに作ると、4 の 40 乗通りの組み合

    わせができることになり、各々が任意の立体構造をとります。この集団のなかから、標的とするタンパク質にフィットするものをつり上げ(セレックス法という)、改変を加えて抗体医薬品のように使うというのがアプタマー医薬品の基本的な考え方です 1」。東京大学 医科学研究所 遺伝子動態分野の中村義一教授は、そう話す。 アプタマー医薬品は抗体医薬品にくらべて分子量が格段に小さく、糖鎖や低分子の代謝産物を標的とするものを作ることも可能とされる。このことは、アプタマー医薬品が、細胞表面だけでなく、内部に入って機能を発揮する可能性をも示唆しており、抗体医薬品を凌駕するポテンシャルを感じさせる。しかもアプタマー医薬品は、研究室レベルで大量に化学合成でき、抗体産生のような大がかりな培養設備は必要ない。 早い段階で「RNA の造形力」に注目していた中村教授は、

    図1:免疫グロブリン(IgG)タンパク質とRNAアプタマー複合体のX線結晶構造2つのRNAアプタマー(黄)がヒトIgGの定常領域(白)を挟み込むようにして結合している。また、RNAアプタマーにはカルシウムイオン(緑)が結合して正しい形が保持されている。

    (図版提供 : 中村義一教授)