ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品...

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-1- ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告 平成15年4月24日 特許庁総務部技術調査課 第1章 ライフサイエンス分野の世界の特許出願動向 第1節 調査対象範囲 ~21 世紀はライフサイエンスの時代 生命・健康、食糧、環境に関わる技術~ 20 世紀は「エレクトロニクスの時代」であったと評される。それに対し、21 世紀は「生 命科学即ちライフサイエンスの時代」となるといわれている。20 世紀エレクトロニクス技術 の革命的発展により市民生活は豊かになり、快適な暮らしを手に入れることができるように なった。その一方で医療・高齢化問題、環境問題、食糧問題やエネルギー問題など人類が直 面する課題も浮き彫りになってきている。こうした課題解決のキーとなるのがライフサイエ ンスである。ライフサイエンスは、医薬品、食品、化学品、環境などの幅広い産業分野への 応用が期待される技術分野であり、我が国でも「科学技術基本計画」 1 における重点4分野の 一つとしてあげられている。 ライフサイエンスは人間生活の基本である「生命・健康」、「食糧」、「環境」に深く関わる 技術分野であり、予想もされない新しい技術が登場し、そこから新しい産業が創出される可 能性が高い。経済産業省の予測でも 2001 年には 1.3 兆円であった我が国のライフサイエンス 分野の市場規模が 2010 年には 25 兆円に拡大し、その時点での世界市場は約 230 兆円に達す ることが見込まれている ※1 ライフサイエンス分野の技術開発の重要性は世界各国で共通に認識するところであり、政 策的にも各国でライフサイエンス振興策が打ち出されている。特に米国ではクリントン政権 下、1994 年に「バイオテクノロジー研究イニシアテイブ(Biotechnology for Century-the U.S. Biotechnology Research Initiativ 」を打ち出し、バイオ重視の姿勢を いち早く明らかにし世界をリードするようになった。これに触発されて、欧州では 2002 年に 「欧州バイオ戦略(Life sciences and biotechnology A strategy for Europe-」 2 が制定、 我が国でも 2002 年 12 月に「バイオテクノロジー戦略大綱」 3 が定められた。最近では中国も 著しい躍進を遂げている。 これまでのライフサイエンスの歴史を見てみると、自然界の生物およびその成分を分析し て有用なものを利用する生物化学の時代を経て、1970 年代後半からはそれらを遺伝子レベル で改変して有用物質を創出する遺伝子工学の時代を迎えた。1990 年代後半から 2000 年の初 めにかけては、生命の仕組みを丸ごと理解して活かすためにヒトを始め動植物・微生物の染 色体を構成している DNA の配列を地図にして示そうとするゲノム解析の時代が到来し、現在 ではそれらの遺伝子および遺伝子産物である蛋白質の機能を解析しようとするポスト・ゲノ ム時代に突入している。 ※1 バイオテクノロジー戦略大綱(内閣府 2002 年) 3

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Page 1: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告

平成15年4月24日

特許庁総務部技術調査課

第1章 ライフサイエンス分野の世界の特許出願動向

第1節 調査対象範囲

~21 世紀はライフサイエンスの時代 生命・健康、食糧、環境に関わる技術~

20 世紀は「エレクトロニクスの時代」であったと評される。それに対し、21 世紀は「生

命科学即ちライフサイエンスの時代」となるといわれている。20 世紀エレクトロニクス技術

の革命的発展により市民生活は豊かになり、快適な暮らしを手に入れることができるように

なった。その一方で医療・高齢化問題、環境問題、食糧問題やエネルギー問題など人類が直

面する課題も浮き彫りになってきている。こうした課題解決のキーとなるのがライフサイエ

ンスである。ライフサイエンスは、医薬品、食品、化学品、環境などの幅広い産業分野への

応用が期待される技術分野であり、我が国でも「科学技術基本計画」1における重点4分野の

一つとしてあげられている。

ライフサイエンスは人間生活の基本である「生命・健康」、「食糧」、「環境」に深く関わる

技術分野であり、予想もされない新しい技術が登場し、そこから新しい産業が創出される可

能性が高い。経済産業省の予測でも 2001 年には 1.3 兆円であった我が国のライフサイエンス

分野の市場規模が 2010 年には 25 兆円に拡大し、その時点での世界市場は約 230 兆円に達す

ることが見込まれている※1。

ライフサイエンス分野の技術開発の重要性は世界各国で共通に認識するところであり、政

策的にも各国でライフサイエンス振興策が打ち出されている。特に米国ではクリントン政権

下、1994 年に「バイオテクノロジー研究イニシアテイブ(Biotechnology for the 21st

Century-the U.S. Biotechnology Research Initiative)」を打ち出し、バイオ重視の姿勢を

いち早く明らかにし世界をリードするようになった。これに触発されて、欧州では 2002 年に

「欧州バイオ戦略(Life sciences and biotechnology –A strategy for Europe-」2が制定、

我が国でも 2002 年 12 月に「バイオテクノロジー戦略大綱」3が定められた。最近では中国も

著しい躍進を遂げている。

これまでのライフサイエンスの歴史を見てみると、自然界の生物およびその成分を分析し

て有用なものを利用する生物化学の時代を経て、1970 年代後半からはそれらを遺伝子レベル

で改変して有用物質を創出する遺伝子工学の時代を迎えた。1990 年代後半から 2000 年の初

めにかけては、生命の仕組みを丸ごと理解して活かすためにヒトを始め動植物・微生物の染

色体を構成している DNA の配列を地図にして示そうとするゲノム解析の時代が到来し、現在

ではそれらの遺伝子および遺伝子産物である蛋白質の機能を解析しようとするポスト・ゲノ

ム時代に突入している。

※1バイオテクノロジー戦略大綱(内閣府 2002 年)3

Page 2: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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本調査ではこれまで特許出願技術動向調査で取り上げた「バイオテクノロジー基幹技術」、

「ポスト・ゲノム関連技術」※2を含め対象技術分野を広くライフサイエンス全般に設定した。

~ライフサイエンスの技術俯瞰図 遺伝子工学が中核技術~

本調査においてはライフサイエンスの中核技術である「遺伝子工学技術」や「遺伝子解析

技術」、「発生工学技術」、「蛋白工学技術」、「糖鎖工学技術」、「遺伝子機能解析技術」、「蛋白

質構造解析技術」、「蛋白質機能解析技術」、「糖鎖遺伝子技術」、「ゲノム創薬技術」、「遺伝子

治療・診断技術」、「ナノバイオテクノロジー」、「バイオインフォマティクス」、「細胞」、「微

生物・酵素」、「組換え植物」、「組換え動物」、「バイオ医薬品」、「バイオ化学品」等のライフ

サイエンスに含まれる技術について特許出願を中心に技術動向調査を実施した。個々の技術

の相互の関連性、応用分野についてはその関係を俯瞰図(図-1)に示した。中でも「ゲノム

創薬」、「糖鎖」、「グリーンバイオケミストリー」はライフサイエンスに含まれる多くの技術

が集積した技術であり、また RNAi 技術は今後医療分野への展開が期待される新規な技術であ

ることから、いずれもライフサイエンス分野における注目技術として取り上げ、詳細な解析

を行った。

図-1 ライフサイエンス技術俯瞰図

細胞

分析装置

診断 遺伝子治療・診断

食品・農業

環境・化学品

・蛋白質解析技術(プロテオーム)

・遺伝子機能解析技術

・ゲノム/遺伝子解析技術

バイオインフ

ォマテ

ィクス

応用

(糖蛋白質)

(蛋白質)

(ゲノム)

医薬品

ドラッグデザイン

コンビケム

微生物・酵素

クローン

発生工学

トランスジェニック動物

基礎

遺伝子工学

組換え植物

臓器移植

ヒトに

ES細胞

SNPs

蛋白質立体構造解析

蛋白質工学

:詳細調査項目

再生医療

グリーンバイオケミストリー

RNAi

糖鎖遺伝子

ゲノム創薬技術

糖鎖工学技術

バイオ化学品 バイオ医薬品

ナノバイオテクノロジー

※2これまでの特許出願技術動向調査においては、平成 12 年度は「遺伝子組換え技術」を中心に「遺伝子解析技術」、「発生

工学技術」等のバイオテクノロジー中核技術である「バイオテクノロジー基幹技術」について調査が行われた。平成 13 年

度には遺伝子の構造解析(ゲノム解析)以降、技術開発が加速されている「遺伝子機能解析」、「蛋白質解析技術」、「糖鎖

工学技術」、「バイオインフォマティクス」やそれらの技術の応用である「ゲノム創薬技術」、「遺伝子治療・遺伝子診断技

術」等の技術を含む「ポスト・ゲノム関連技術」について調査が行われた。

Page 3: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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~ライフサイエンスの技術概要および特許出願件数~

表-2 ライフサイエンス関連技術の技術概要 技術名 技術概要

遺伝子工学技術

遺伝子の試験管内組換え技術、遺伝子工学に関するDNA/RNA、ベクター/プラスミド、宿主

等およびその調製、使用(方法)、それにより得られた/そこで使用する新規遺伝子/蛋白

遺伝子解析技術 SNPs、多型を含む遺伝子の配列等、DNA構造情報を解析する技術、その過程に用いられるバ

イオインフォマティクス技術

発生工学技術 分子レベルで発生/分化を研究する発生学の知見に基づく細胞の操作/分化/増殖、その技

術を応用して得られた新規な動物や細胞

蛋白工学技術 蛋白質の構造の一部を人為的に改変して蛋白質の機能を改変する技術、その過程に用いられ

るバイオインフォマティクス技術、それにより得られた改変体(遺伝子、蛋白質)

バイオテクノロジー

基幹技術

糖鎖工学技術 糖鎖およびその構造/機能解析、糖鎖合成関連遺伝子、糖鎖を修飾することにより蛋白質や

細胞の機能に変化をもたらす技術、それにより得られた糖鎖等、およびその生産

遺伝子機能解析技術 遺伝子機能を実験的に解析する機能解析技術

蛋白質構造解析技術 蛋白質の配列と高次構造を決定する技術、蛋白質の構造/機能をインシリコで解析する技術

(プロテインインフォマティクス)

蛋白質機能解析技術 蛋白質の機能を実験的に解析する技術

糖鎖遺伝子技術 糖鎖の生合成、転移に関与する酵素遺伝子/蛋白質とそれに関連する技術、その利用

ゲノム創薬技術 疾患関連遺伝子の同定技術、得られた新規遺伝子/蛋白質、ポスト・ゲノム関連技術により

医薬のリード化合物を探索、決定、最適化する技術

遺伝子治療・診断技術 遺伝子導入により疾病を治療したり、遺伝情報により診断を行う技術

ポスト・ゲノム

関連技術

ナノバイオテクノロジー 分子や細胞の観察、測定、機能解析技術、分子や細胞の操作技術、ナノ構造体作成技術

バイオインフォマティクス

wetの系で得られた遺伝子、蛋白質、糖鎖等のデータより構造/機能に関する情報を得る技

術、上記情報を集積したデータベース、上記データベースより有用な情報を抽出/表示する

技術、上記過程において利用される要素技術

細胞 ライフサイエンス分野で用いられる動植物、ヒト細胞/組織、外来遺伝子による修飾を受け

た上記細胞、その培養装置

微生物・酵素 微生物、酵素、およびその生物触媒機能を利用して有用物質を製造する技術

組換え植物 遺伝子組換え技術を応用した植物の育種改変、そのための要素技術

組換え動物 遺伝子組換え技術を応用した動物の育種改変、そのための要素技術

バイオ医薬品 バイオ医薬品およびそれを製造するバイオプロセス技術

その他の技術

バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術

図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

注:

・世界各国に出願された特許出願を優先権主張年が

1991 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

・特許出願技術動向調査「バイオテクノロジー基幹技

術」「ポスト・ゲノム関連技術」(特許庁)を参照。

;バイオテクノロジー基幹技術

;ポスト・ゲノム関連技術

;ライフサイエンス関連技術

48,288件

18,303件

105,708件

遺伝子解析

(構造解析

ナノバイオテクノロジー

遺伝子工学

微生物/酵素

バイオ化学品 バイオ医薬品

細胞

組換え植物

13,463

6 ,749

1 ,323 4 ,193

14 ,505

8 ,806

27 ,533

バイオインフォ

マティ

クス

1,306

962

1 ,815

23 ,161

3 ,96951 ,914

45 ,948

組換え動物3,080

発生工学

糖鎖工学

蛋白工学

糖鎖遺伝子

蛋白機能解析

蛋白構造解析

ゲノム創薬

遺伝子治療

437

機能解析

3,912

40 ,692

4 ,310

Page 4: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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第2節 ライフサイエンス分野の出願動向

1.世界の状況

~ゲノム関連技術の動向 伸びる中国、立ち後れる日本~

世界に出願されたライフサイエンス関連技術に関する特許は右肩上がりに増加しており、

1995 年以降増加が加速されている。これをゲノム関連技術※で見ると、1996 年以降の出願件

数の伸びが著しく、2000 年には 1991 年の 4.7 倍の約 12,000 件の特許が出願されている。出

願人の国籍別に年平均伸び率を見ると、米国(16%)、欧州(16%)、中国(67%)に対し、

日本は8%でその差は大きく開いている。出願人国籍別 10 年間累積の出願比率でも日本は

16%と米国、欧州に次いで第3位、最近 2000 年では 13%と減少、中国に抜かれ第4位と後

退している。これに対し 1999 年以降中国の伸びが際立っている(図-4,5)。 ※ゲノム関連技術:バイオテクノロジー基幹技術+ポスト・ゲノム関連技術

図-4 ゲノム関連技術の日米欧出願人国籍別の出願状況(世界全体)

図-5 ライフサイエンスの日米欧中出願人国籍別の出願状況(世界全体)

注:・世界各国に出願された特許出願の内、日本、米国、欧州、中国の出願人による

出願を分析。優先権主張年が 1980 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

・年平均伸び率とは 1991 年から 2000 年の伸び率の平均。

出願人国籍別出願比率1991-2000年

日本16%

米国51%

欧州20%

その他5%

中国8%

2000年

日本13%

米国41%

欧州16%

中国27%

その他3%

1991年

日本24%

米国52%

欧州20%

中国0%

その他4%

ゲノム関連技術の出願件数推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

出願件数

(日米欧中

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

出願件数

(ライフサイエンス・バイオ

基幹+ポストゲノム

(全世界

))

ライフサイエンス全世界 日本 米国 欧州 中国 バイオ基幹+ポストゲノム全世界

1991年

日本33%

米国38%

欧州19%

中国1%

その他9%

2000年

日本17%

米国39%

欧州18%

中国20%

その他6%

1991-2000年

日本23%

米国44%

中国6%

その他8%

欧州19%

1991-2000年の出願件数年平均伸び率

2%

12%

11%

36%

10%

0% 10% 20% 30% 40%

日本

米国

欧州

中国

全世界出願人国籍

年平均伸び率

ライフサイエンス関連技術出願件数推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

19801981 198219831984 19851986 19871988 198919901991 19921993 19941995 199619971998 19992000

優先権主張年

出願件数

(日米欧中

0

5,000

10,000

15,000

20,000

出願件数

(全世界

日本 米国 欧州 中国 全世界出願人国籍:

注:・世界各国に出願された特許出願の内、日本、米国、欧州、中国の

出願人による出願を分析。

・優先権主張年が 1980 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

・年平均伸び率とは 1991 年から 2000 年の伸び率の平均。

1991-2000年の出願件数年平均伸び率

8%

67%

16%

16%

16%

0% 20% 40% 60% 80%

日本

米国

欧州

中国

全世界出願人国籍

年平均伸び率

Page 5: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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~外国出願している特許出願(コア出願)の少ない日本 低い PCT 出願の利用率~

国際特許出願(PCT 出願)を含む外国出願をコア出願※とし、出願人国籍別に日米欧中の出

願動向を比較した。日本のライフサイエンス分野におけるコア出願比率は増加傾向にあり

(20%(1991 年)から 36%(2000 年)(図-6))、他の分野と比べても高い(全分野のコア出願

比率は 8.9%(1994-1998 年)(特許庁行政年次報告者 2002 年版))。しかしながら、米、欧に

比べ、依然として内国出願比率が高く、コア出願件数は中国に追いつかれつつある(図-7,8)。

コア出願中のPCT出願比率も増加しているが、(29%(1991年)から71%(2000年))、米、欧、中

と比べると低い値となっている(米98%、欧 92%、中 99%)。ライフサイエンス分野は特に世界

への発信が期待される分野であり(全分野のコア出願中のPCT 出願比率は 12%(日本、1994-1998

年)(特許庁行政年次報告者2002年版))、PCT出願を利用した一層の海外展開が必要である。 ※ 出願人が自国以外に外国に向けて出願したものをコア出願としている。出願人がその技術を重要と考えグローバルに権利確

保を求めているもので、質的に高度な特許出願と考えられる。

図-6 ライフサイエンス分野の出願人国籍別コア出願の比率

日本 米国 欧州 中国

PCT 出願件数(2000 年) 1,148 件 6,345 件 2,767 件 929 件

コア出願中の PCT 利用率(2000 年) 71% 98% 92% 99%

図-7 世界に出願されたライフサイエンス特許におけるコア出願件数推移と年平均伸び率

図-8 ライフサイエンス・コア出願の日米欧中出願人国籍別出願比率(世界全体)

注:・世界各国に出願された特許

出願の内、日本、米国、欧

州、中国の出願人が国際出

願或いは海外出願した特許

出願(米国は特許)を分析。

・優先権主張年が 1991 年~

2000 年を対象に、

WPINDEX(STN)で検索。

1991-2000年

日本10%

米国56%

欧州26%

中国2%

その他6%

日本は外国への出願比率が

小さい。PCT 出願を利用した

より一層の海外展開が

必要。

注:・世界各国に出願されたライフ

サイエンス分野の特許出願の

内、日本、米国、欧州、中国

の出願人が国際出願或いは海

外出願した特許出願(米国は

特許)を分析。

・優先権主張年が 1991 年、2000

年を対象に、WPINDEX(STN)で

検索。

1991~2000年の出願件数年平均伸び率

10%

15%

12%

48%

14%

0% 20% 40% 60%

日本

米国

欧州

中国

全世界出願人国籍

年平均伸び率

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

願件

(日米

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

出願

(世

日本 米国 欧州 中国 世界出願人

国籍:

日本 1991年 2,289件

内国出願のみ80%

コア出願20%

米国 1991年 2,695件

コア出願70%

内国出願のみ30%

欧州 1991年 1,302件

コア出願81%

内国出願のみ19%

中国 1991年 82件

コア出願10%

内国出願のみ90%

日本 2000年 3,148件

内国出願のみ64%

コア出願36%

米国 2000年 7,053件

コア出願90%

内国出願のみ10%

欧州 2000年 3,214件

コア出願86%

内国出願のみ14%

中国 2000年 3,620件

コア出願26%

内国出願のみ74%

1991年

欧州30%

米国53%

日本13%

中国0.2%

その他4%

2000年

その他6%

中国8%

日本10%

米国53%

欧州23%

Page 6: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-6-

~米、欧に席巻される日本特許 米国での特許取得は減少~

1991 年から 2000 年までに、日本、米国、欧州に出願されたライフサイエンス関連特許出

願件数(米国は特許登録件数)はそれぞれ、45,828 件、40,860 件、47,026 件である。日本

に出願された特許出願においては、内国人による出願が 48%(全分野は 90%)と外国からの

出願が多く、1997 年には外国からの出願が 63%と外国人優位の傾向が一層加速されている。

一方、米国で登録された特許においては内国人による出願が 72%(全分野は 56%)と高い値

で、さらに 1997 年には 76%にまで達し内国人優位が際立っている。米国特許においては内

国人のシェアが上昇した分、日本のシェアは下降しており、ライフサイエンスで最大の市場

となる米国での特許取得が減少している(図-9)。

図-9 ライフサイエンスの日本、米国、欧州への特許出願における出願人国籍別出願構成

図-10 ライフサイエンスの日本、米国、欧州で登録された特許における権利者国籍別特許権取得構成

ライフサイエンス

出願構造

日本:外国人優位

(全分野と反対)

米国:内国人優位

注:

・日本、米国、欧州で取得され

た特許の内、日本、米国、欧

州、中国の権利者による特許

を分析。

・年は特許登録された年。

・特許権取得年が 1991 年~2001

年を対象に WPINDEX(STN)で

検索。

注:・日本、米国、欧州に

出願された特許出願

(米国は特許)の内、

日本、米国、欧州、

中国の出願人による

出願を分析。

・年は各国への出願年。

・出願年が 1991 年~

2000 年を対象に

WPINDEX(STN)で検

索。

・ 全分野の件数は、日

本、米国、欧州特許

庁の年次報告書によ

る。

日本での登録 1991-2001

日本63%

米国21%

欧州16%

その他0.1%

中国0.1%

欧州での登録 1991-2001

日本17%

米国43%

欧州40%

中国0.2%

その他0.4%

米国での登録 1991-2001

欧州19%

米国71%

日本10%

中国0.2%

その他0.5%

1991年

日本80%

米国8%

欧州11%

その他1%

1,180件

2001年

日本54%

その他1%

米国26%

欧州19%

中国0.1%

1,577件

1991年

欧州20% 日本

16%

その他1%

米国63%

1,844件

2001年

日本7%

中国0.2%

欧州19%

米国74%

その他0.5%

7,931件

1991年

米国31%

日本27%

欧州41%

その他1%

822件

2001年

日本11%

中国1%

欧州44%

米国44%

1,478件

日本への出願 1991-2000年

日本48%

米国32%

欧州19%

中国0.2%

その他1%

米国での登録 1991-2000

米国72%

欧州18%

日本9%

中国0.2%

その他1%

欧州への出願 1991-2000年

日本10%

米国49%

欧州39%

中国0.2%

その他2%

全分野

内国人90%

外国人10%

全分野

内国人56%

外国人44%

全分野

内国人50%

外国人50%

1991年

欧州22%

米国67%

中国0.2% 日本

11%

その他0%

3,107件

1997年

米国76%

日本8%

中国0.1%欧州

15%

その他1%

5,259件

1991年

米国29%

欧州19%

その他0%

日本52%

中国0.2%

4,375件

1997年

日本37%

米国41%

欧州21%

中国0.1%

その他1%

5,952件

1997年

米国54%

欧州36%

中国0.2% 日本

8%

その他2%

5,836件

1991年

米国47%

欧州39%

その他1% 日本

13%

中国0.2%

3,105件

Page 7: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-7-

~ポスト・ゲノム化の動き 加速する米国~

世界に出願されたライフサイエンス関連特許の内、バイオテクノロジー基幹技術および、

解読したゲノムを応用する技術であるポスト・ゲノム関連技術の年次出願経緯をみると、共

に 2000 年に急激な伸びを示している※。また、その比率でも、2000 年には 60%、31%にな

り、中でも、ポスト・ゲノム関連技術の比率が大きくなっている。これを、出願人国籍別に

日、米、欧を比較すると、米国の伸びが著しく(年平均伸び率 27%)、バイオテクノロジー

基幹技術をベースにして広がるポスト・ゲノム関連技術の重要性が読みとれる。

一方、日本においては、ポスト・ゲノム関連技術の伸びは年平均伸び率 19%、ポスト・ゲ

ノム関連技術の占める比率が 2000 年で 13%と、世界的にポスト・ゲノム化へと技術の広が

りが進む中、日本ではそうした広がりが遅れることが懸念される(図-11)。 ※ バイオテクノロジー基幹技術とポスト・ゲノム関連技術は重複の部分がある。ここで示している数値は重複部分をそれぞれ

含む。

図-11 日米欧国籍別ライフサイエンス、バイオテクノロジー基幹技術、ポスト・ゲノム関連技術の出

願件数推移(世界全体)

27%

25%

28%

19%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30%

日本

米国

欧州

全世界

出願人国籍

年平均伸び率

ポスト・ゲノム関連技術の出願件数年平均伸び率 (1991~2000 年)

注:・世界各国に出願された特許出願の内、日本、米国、欧州の出願人による出願を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

出願人国籍:世界全体

0

4,000

8,000

12,000

16,000

20,000

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

出願件数

バイオテクノオロジ ー基幹技術 ポストゲノム関連技術

ライフサイエンス全体

ライフサイエンス関連特許に占める比率

36% 37% 38% 40% 41%

47%

53%55% 56%

60%

9% 10% 10% 11% 12%15%

22%24%

27%31%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

出願件数比率

バイオテクノオロジー基幹技術 ポストゲノム関連技術

出願人国籍:日本

13%

4%0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

バイオテクノオロジー基幹技術 ポストゲノム関連技術

ポストゲノム比率

ライフサイエンス全体

出願人国籍:米国

14%

37%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

バイオテクノオロジー基幹技術 ポストゲノム関連技術

ポストゲノム比率

ライフサイエンス全体

出願人国籍:欧州

12%

30%

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

優先権主張年

バイオテクノオロジー基幹技術 ポストゲノム関連技術

ポストゲノム比率

ライフサイエンス全体

Page 8: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-8-

2.日米欧競争力比較(ライフサイエンスおよびゲノム関連技術)

~ライフサイエンス特許で優位に立つ米国~

日本、米国、欧州のライフサイエンス分野における 10 年間の特許出願変化の状況をまと

めたのが図-12 である。ゲノム関連技術の成長率では日本からの出願は9%の伸びを示して

いるが、米国、欧州ともに 16%とその差は大きい。出願シェアでは外国出願をしている出願

(コア出願)も含めて米国が半数以上のシェアを占めており米国優位が際だっている。日本

は特許出願シェアでは 16%と欧州と肩を並べているが、コア出願では 10%と低い値で欧州と

の差も大きく開いている。日米で登録された特許についての 1991 年と 2000 年の比較におい

ては、日本は両地域とも大きくシェアを下げている。一方、米国は、両地域においてシェア

を伸ばしており、米国が全ての地域においてシェアで優位にたっている状況となっている。

医薬品市場においても、米国は世界シェアを伸ばしており、日本は減少している(図-13)。

図-12 ライフサイエンス特許の変化

出願人

国籍

ゲノム関連技術

成長率

(出願)

ゲノム関連技術

特許出願シェア

(10 年間の累積)

コア出願シェア

(10 年間の累積)

日本で登録された

特許のシェア

米国で登録された

特許のシェア

日本

9% 16% 10%

-26% -9%

米国

16% 51% 56%

17% 10%

欧州

16% 20% 26%

8% -1% ゲノム関連成長率 :1991 年から 2000 年までに世界に出願されたゲノム関連特許の出願人国籍別出願件数の年平均伸び率

ゲノム関連出願シェア :世界に出願された特許出願の国籍別出願比率(優先権主張年 1991 年~2000 年の累積)

コア出願シェア :世界に出願されたコア出願の国籍別出願比率(優先権主張年 1991 年~2000 年の累積)

日本登録特許シェア:日本で登録された特許の国籍別登録比率(登録年 2001 年と 1991 年を比較)

米国登録特許シェア:米国で登録された特許の国籍別登録比率(登録年 2001 年と 1991 年を比較)

・WPINDEX(STN)で検索

図-13 世界の医薬品売り上げにおける日米欧製薬企業のシェア 2000年 2001年

本社国籍 売り上げ(100万$) 売り上げ比率 売り上げ(100万$) 売り上げ比率

日本 21,296 9% 21,192 8%

米国 96,068 41% 123,154 45%

欧州 116,424 50% 128,919 47%

合計 233,788 100% 252,073 100%

注:売り上げ比率:医薬品売り上げ米国上位8社、欧州上位 10 社、日本上位 10 社の製薬企業の売り上げの合計を 100 とした。

出典:米国、欧州:各社アニュアルレポート。 日本:有価証券報告書。

2000年

米国41%

欧州50%

日本9%

2001年

米国45%

欧州47%

日本8%

Page 9: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-9-

3.中国における特許出願動向

~2000 年・中国出願人の出願急増、欧米製薬企業も中国市場に注目~

中国出願人が中国国内外に出願したライフサイエンス分野における特許出願件数は、1999

年より急激に立ち上がり2000年も前年比3倍以上の伸びを示し3,000件を突破した。同様に、

外国出願をしている出願(コア出願)比率も 1999 年には 30%台を突破、この傾向はライフ

サイエンス分野に顕著に見られ、出願の大幅増加と相俟って海外での権利確保に対する意識

が高まっていることが窺われる(図-14,15)。

欧米主要製薬企業が中国へ出願する特許出願は増え続け、個別企業の全出願件数に対する

中国への出願比率は 2000 年には 40%を越え、中国市場への関心の高さが窺われる(図-16)。

図-14 日米欧中の内国人出願におけるライフサイエンス分野の比率(1991,2000 年)

図-15 中国出願人のライフサイエンス分野の出願件数とコア出願、PCT 出願(全世界)

注:・世界各国に出願された特許出願の内、中国出願人による出願を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

図-16 日米欧主要製薬企業の中国への出願件数

【参考】中国出願人全分野の出願件数と

コア出願、PCT出願比率(全世界)

ライフサイエンス分野の比率

日本: 0.8%

中国:16.1%

中国はライフサイエンス

分野に注力!

注:・日米欧の主要製薬企業が中国に出願した特許出願、および世界に出願した特許出願を分析。

・公開年が 1991 年~2001 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

82 134 188 186 174 182 204350

901

3,620

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000優先権主張年

出願件数

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

コア特許出願・PCT出願比率

ライフサイエンス分野 ライフサイエンス分野コア出願ライフサイエンス分野コア出願比率 ライフサイエンス分野PCT出願比率

D社(医薬品・スイス)

0

20

40

60

80

100

120

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

公開年

出願件数

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

出願比率

中国への出願件数 中国への出願比率 日本への出願比率

C社(医薬品・日本)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

公開年

出願件数

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

出願比率

中国への出願件数 中国への出願比率 欧州への出願比率

B社(医薬品・米国)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

公開年

出願件数

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

出願比率

中国への出願件数 中国への出願比率 日本への出願比率

6,797

9,392

11,16810,252

9,1807,882

10,239

12,438

14,603

22,520

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000優先権主張年

出願件数

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

コア特許出願比率

全分野 全分野のコア出願

全分野のコア出願比率 全分野のPCT出願比率

日本(1991年)335,933件

その他99.3%

ライフサイエンス0.7%

米国(1991年)87,955件

その他97%

ライフサイエンス3%

欧州(1991年)27,103件

ライフサイエンス4.8%

その他95.2%

中国(1991年)6,797件

ライフサイエンス1.2%

その他98.8%

日本(2000年)387,364件

その他99.2%

ライフサイエンス0.8%

米国(2000年)164,795件

ライフサイエンス4.3%

その他95.7%

欧州(2000年)49,760件

ライフサイエンス6.5%

その他93.5%

中国(2000年)22,520件

ライフサイエンス16.1%

その他83.9%

Page 10: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-10-

コラム(1) -中国のバイオテクノロジー、ヒト cDNA の上海、イネゲノムの北京-

1.ヒト cDNA 関連特許

中国からのライフサイエンス関連特許出願に関しては、その大半が Mao Yumin(毛裕民)、Xie Yi

(謝穀)の両氏を発明者とするものである。両氏は上海・復旦大学の研究者であると同時に、大規模

ゲノム解析、ゲノム創薬、DNA チップ、バイオインフォマティクス等を手がける複数のバイオテクノ

ロジー・ベンチャー企業群を傘下に擁する United Gene Holdings 社を設立し、幅広くバイオビジネス

にも参入している。両氏による出願はヒト cDNA をクレームする遺伝子・蛋白質に限られており、その

他の発明者による出願は医薬、遺伝子・蛋白質がほぼ同数であった(表-17)。ヒト cDNA 関連特許出願

のうち PCT 出願(中国語)されており、その内日米欧のいずれかに移行しているものは 2002 年 12 月

時点で2件であった。①は、大規模かつ全面的な cDNA クローニング/塩基配列決定という基盤技術に

関するものであり、②はその結果取得された新規ヒト遺伝子に関する発明である(表-18)。

表-17 発明者が Mao、Xie 氏およびそれ以外の出願の内容 分野 Mao、Xie その他の出願人

医薬・医療 1 17

遺伝子・蛋白質・遺伝子組換え 879 19

分析・診断 - 9

その他 2 2

注:2000 年以降中国の出願人が PCT 出願した特許。WPINDEX(STN)で検索。

表-18 上海バイオベンチャー出願の海外公開特許 発明の名称 出願人 特許番号 優先権日

サブトラクションを繰り返すことにより

大規模の cDNA クローニングとシーケンシング

を行う方法

Shanghai Bioorigin Gene

Development Co. Ltd.

特表 2002-537821

(WO 2000052200 に対応) 19990226

Novel polypeptide – human SHC protein 43 and polynucleotide

encoding it

Biowindow Gene

Development Inc. Shanghai

EP 1251178A

(WO 2001046441 に対応) 19991222

2.イネゲノム関連特許

中国は日本を中心とする国際イネゲノム解読プロジェクトに参加する一方、独自に長粒種(Oryza

sativa L. ssp. indica)のゲノム解読を行ってきた。解読の主体は北京の中国科学院 Beijing Genomics

Institute/Center of Genomics and Bioinformatics4であり、draft sequence は 2002 年に発表され

(Science, vol.296(2002), 79-92)、データベースも公開されている5。この中国独自のイネゲノムプ

ロジェクトの成果(イネ由来 cDNA 等)が、特許出願されているかを調査したところ、プロジェクトに

参加している浙江大学(Zhejiang University)からイネ cDNA 搭載の DNA チップ(CN 1364935 等)が

出願されているが、現時点(2003 年2月末)ではプロジェクトに由来すると思われる集中的な特許出

願は認められなかった。

3. 精華大学

同じく北京の精華大学(Tsinghua University)もライフサイエンスに力を入れているが、同大学

からのライフサイエンス出願は、1991-2000 年で 45 件、うち医薬・医療が 15 件、遺伝子・蛋白質・

組換えが 10 件、分析・診断が8件、その他が 12 件で特定分野に集中しての出願傾向は見られなかっ

た。

Page 11: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-11-

4.日本に期待される分野

~日本のシェアが高いのは糖鎖、微生物・酵素、バイオ化学品~

ライフサイエンス分野の出願を 19 の個別技術項目ごとに 1991 年~2000 年の 10 年間の累

積件数でみると、微生物・酵素、バイオ医薬品、バイオ化学品、細胞といったバイオテクノ

ロジーの製品関連特許が約 60%を占め、残りの 40%がバイオテクノロジー基幹、ポスト・ゲ

ノム関連の技術となっている。日本からの出願件数の多いのは微生物・酵素、バイオ化学品、

遺伝子工学、バイオ医薬品等の世界的にも出願件数の多い分野である。

一方、国籍別のシェアでは、いずれも米国が 30%以上、多くは 60%近いシェアを有し、

欧州が 20%前後、日本が 10~15%前後のシェアを占めている。日本のシェアが高いのは糖鎖

工学、糖鎖遺伝子、バイオインフォマティクス、微生物・酵素、バイオ化学品などである。

中国の出願はここ数年急速に立ち上がってきており、2000 年においては遺伝子機能解析、

遺伝子治療・診断、バイオ医薬品分野では米国を抜いて第1位となっている(図-19,20)。

図-19 ライフサイエンス個別技術の出願件数と比率(全世界)

図-20 ライフサイエンス個別技術の日米欧中出願人国籍別シェア(全世界)

1991年

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

遺伝

子工

遺伝

子解

析技

発生

工学

技術

蛋白

工学

技術

糖鎖

工学

技術

遺伝

子機

能解

析技

蛋白

質構

造解

析技

蛋白

質機

能解

析技

糖鎖

遺伝

子技

ゲノ

ム創

薬技

遺伝

子治

療・診

断技

ナノ

バイ

オテ

クノ

ロジ

バイ

オイ

ンフ

ォマ

ティ

クス

細胞

微生

物・酵

組換

え植

組換

え動

バイ

オ医

薬品

バイ

オ化

学品

出願件数比率

その他

中国

欧州

米国

日本

2000年

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

遺伝

子工

遺伝

子解

析技

発生

工学

技術

蛋白

工学

技術

糖鎖

工学

技術

遺伝

子機

能解

析技

蛋白

質構

造解

析技

蛋白

質機

能解

析技

糖鎖

遺伝

子技

ゲノ

ム創

薬技

遺伝

子治

療・診

断技

ナノ

バイ

オテ

クノ

ロジ

バイ

オイ

ンフ

ォマ

ティ

クス

細胞

微生

物・酵

組換

え植

組換

え動

バイ

オ医

薬品

バイ

オ化

学品

出願件数比率

その他

中国

欧州

米国

日本

バイオ医薬品17.7%

バイオ化学品10.6%

微生物・酵素20.4%

組換え植物0.7%

組換え動物1.7%

糖鎖遺伝子技術0.2%ゲノム創薬技術

5.2%遺伝子治療・診断技術

1.2%

蛋白質機能解析技術1.5%

蛋白質構造解析技術2.6%

発生工学技術1.6%

遺伝子解析技術5.6%

遺伝子工学15.7%

蛋白工学技術3.4%

ナノバイオテクノロジー0.4%

バイオインフォマティクス

1%

糖鎖工学技術0.5%

遺伝子機能解析技術1.5%

細胞8.9%

バイオ基幹技術

ポスト・ゲノム関連技術

注:・世界各国に出願された特許出願の内、日本、米国、欧州、中国の出願人

による出願を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

1991-2000年

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

遺伝

子工

遺伝

子解

析技

発生

工学

技術

蛋白

工学

技術

糖鎖

工学

技術

遺伝

子機

能解

析技

蛋白

質構

造解

析技

蛋白

質機

能解

析技

糖鎖

遺伝

子技

ゲノ

ム創

薬技

遺伝

子治

療・診

断技

ナノ

バイ

オテ

クノ

ロジ

バイ

オイ

ンフ

ォマ

ティ

クス

細胞

微生

物・酵

組換

え植

組換

え動

バイ

オ医

薬品

バイ

オ化

学品

出願件数比率

その他

中国

欧州

米国

日本

バイオテクノロジー基幹技術

ポスト・ゲノム関連技術

注:・世界各国に出願された特許出願を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

日本のシェアの

高い技術

遺伝

子工

遺伝

子解

析技

発生

工学

技術

蛋白

工学

技術

糖鎖

工学

技術

遺伝

子機

能解

析技

蛋白

質構

造解

析技

蛋白

質機

能解

析技

糖鎖

遺伝

子技

ゲノ

ム創

薬技

遺伝

子治

療・診

断技

ナノ

バイ

オテ

クノ

ロジ

バイ

オイ

ンフ

ォマ

ティ

クス

細胞

微生

物・酵

組換

え植

組換

え動

バイ

オ医

薬品

バイ

オ化

学品

中国

日本

米国

欧州

7,194

1,780829

955 3,745

15,918

6,100

8,024

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

出願件数

出願人国籍

バイオテクノロジー基幹技術

ポスト・ゲノム関連技術

Page 12: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-12-

~ライフサイエンス分野の重要特許 日本に求められるのは独創性~

ライフサイエンス分野の重要特許とされるものを図-21 にまとめた。1980~1990 年代を通

じて重要な発明は、基礎的な発明に関しては欧米の大学・公共研究機関、応用的な発明は企

業、それもベンチャー企業がなしたものが多い。近年、日本人による発明もいくつか入って

きているが、より多くの独創性のある競争力のある特許出願が求められている。

図-21 ライフサイエンス分野の重要特許の変遷

注:特許行政年次報告書(1998 年版)特許庁、バイオテク基本特許(平成 10 年3月)(財)バイオインダストリー協会、

米国特許の被引用回数の多い特許、有識者へのヒアリングを基にダイヤリサーチマーテック作成。

乳中での外来蛋白質発現ジェンザイム

(米)特許2874751

('87)

DNAチップアフィメトリックス

(米)US 5744305

( '89)

遺伝子配列情報データシステム

インサイト(米)

US 5817479( '96)

ヒト由来のESTsインサイト

(米)US 5817479

( '96)

遺伝子組換え方法

スタンフォード大学(米)

US 4237224( '74)

発ガンマウスハーバード大学

(米)特公平5-48093

( '84)

クローン動物製造

エンジバラ大学(イギリス)US6146888

( '93)

Tiプラスミドマックス・プランク

(ドイツ)特公平2-58917

( '83)

パーティクルガンデュポン

(米)特許2517813

( '90)

PCR法ホフマン-ロシュ

(スイス)特公平4-67957

( '85)

アンチセンス法モルキュラー・

バイオシステムズ(米)

特許2547714( '82)

リボザイム法ユニバーシティ

パテンツ(米)

特許253096( '86)

C型肝炎診断薬カイロン(米)

特公平5-81600( '87)

遺伝子治療方法アメリカ合衆国

(米)特許2949440

( '88)

除草剤耐性植物モンサント

(米)特許2615013

( '85)

エレクトロポレーション

ノバルティス(スイス)

特許3038479( '84)

組換えG-CSFキリン・アムジェン

(日・米)特公平3-31437

( '83)

組換えEPOキリン・

アムジェン(日・米)

特公平2-17156 ( '83)

組換えヒトTPAジェネンティック

(米)特公昭62-16931

( '82)

組換えインターフェロン

バイオジェン(オランダ)

特公平3-21150 ( '80)

DNA組換えによる蛋白質生産

ハーバード大学(米)

特公昭62-46160( '78)

~1980 ~1990 ~2000

クローンヒツジロスリン研究所

(イギリス)特表2000-

506722('95)

植物アンチセンス調節

カルジーン(米)

特許2702921( '86)

遺伝子多重導入法日本製紙

(日)特許3256952

( '95)

植物による抗体生産スクリプス研究所

(米)US6417429

( '98)

完全長cDNAヘリックス研究所

(日)特開2002-17375

( '99)

C型肝炎ワクチンインノジェネティクス

(ベルギー)特表平7-508423

( '93)

インスリン誘導体ノボ・ノルディスク

(デンマーク)特表平11-502110

( '95)

等温PCR栄研化学

(日)特開平10-337186

( '97)

遺伝子工学技術

遺伝子クローニング手法

エール大学(米)US 4394443

( '80)

粒子による遺伝子導入

コーネル大学US 4945050

( '84)

蛋白組換え生産法

コロンビア大学(米)

US 4399216( '80)

zygoteの形質転換法

オハイオ大学(米)US 4873191

( '82)

display手法プロテイン エンジニアリング(米)

US 5223409( '89)

核酸検出診断法オリオン

(フィンランド)US 4563419

( '81)

カプセル化手法デーモン

(米)US 4352883US 4391909

( '78)

組換えIL-2変異体

シータス(米)US 4518584

( '82)

組換えモノクローナル抗体

テキサス学(米)US 4474893

( '81)

組換え免疫グロブリン

ジェネンティック(米)

US 4816567 ( '81)

1本鎖抗体ジェネックス(米)

US 4946778 ( '86)

発生工学

遺伝子機能解析技術

遺伝子治療・診断

バイオインフォマティックス

組換え植物

組換え動物

バイオ医薬品

糖鎖工学

β1, 4-galactosy1transferase

human慶應義塾大学特開平2-27987

( '88)

ST3Gal III human協和発酵工業

(日)特許 3131322

('91)

変形EPOキリンアムジェン

(日・米)特許 2938572

( '94)

バイオ化学品 アクリルアミド日東化学工業

(日)特公昭62-31913

( '79)

7-アミノセファロスポラン酸

旭化成(日)

特公平5-27395 ( '84)

1,3-プロパンジオールデュポン、ジェネンコア

(米)特表2001-503636

( '97)

ナノバイオテクノロジー高感度

バイオセンサアメリカ合衆国

(米)US5103174

('90)

ドラッグデリバリーナノキャリア

(日)特許3310303

( '98)

半導体ナノ粒子クォンタムドット

(米)US6274323

( '00)

微生物シュードモナス属細

菌の培養法山田秀明

日東化学工業(日)特公昭61-43998

( '83)

スレオニン生産大腸菌アセソ・ナウチノ・イスルド

研究所(ロシア)

特公平1-20871 ( '79)

超好熱菌DNAポリメラーゼホフマン-ロシュ

(スイス)特公平7-108220

( '90)

遺伝子導入動物製造

ハーバード大学(米)

US 4736866( '84)

遺伝子治療方法アメリカ合衆国

(米)US5399346

( '94)

Page 13: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-13-

ライスサイエンス分野の日本人の特許出願状況に関連して出願件数の成長率とシェアを表

-22 にまとめた。技術分野別にみると、糖鎖工学技術(糖鎖遺伝子を内数で含む)、微生物・

酵素、バイオ化学品のシェアが高い。バイオインフォマティクスはシェア、成長率共に比較

的高い。出願成長率では、遺伝子機能解析技術、蛋白質機能・構造解析技術の伸びが大きい。

これらの技術も米国特許においてはシェア、出願成長率共に低い(表-22,図-23)。

表-22 日本の出願人におけるライフサイエンス個別技術の特許出願状況(1991-2000 年)

世界出願 コア出願 米国特許

(登録)

日本特許

(出願)

日本特許

(出願)

個別技術

出願

シェア

出願

成長率

出願

シェア

出願

成長率

出願

シェア

出願

成長率

内国人

シェア

出願

成長率

技術別

シェア

遺伝子工学 18% 12.7% 10% 20% 8% 12% 35% 10% 15.4%

遺伝子解析技術 12% 15.6% 6% 25% 6% 11% 35% 10% 3.8%

発生工学技術 9% 26.8% 7% 43% 4% 25% 21% 23% 1.2%

蛋白工学技術 9% 9.4% 5% 24% 5% 6% 29% 4% 2.1%

糖鎖工学技術 46% -3.4% 24% 1% 23% -9% 66% -4% 0.7%

遺伝子機能解析技術 9% 41.4% 6% 60% 5% 44% 33% 34% 0.7%

蛋白質構造解析技術 9% 30.9% 6% 23% 4% 6% 20% 12% 2.1%

蛋白質機能解析技術 8% 27.0% 6% 45% 3% 24% 22% 31% 1.0%

糖鎖遺伝子技術 25% 16.6% 17% 21% 16% 27% 46% 11% 0.2%

ゲノム創薬技術 7% 21.4% 5% 25% 4% 10% 16% 19% 4.6%

遺伝子治療・診断技術 6% 70.1% 4% 61% 4% 47% 14% 64% 1.0%

ナノバイオテクノロジー 9% 5.3% 4% 3% 4% -9% 22% 3% 0.3%

バイオインフォマティクス 22% 25.1% 13% 29% 10% 6% 48% 21% 0.5%

細胞 17% 8.4% 9% 18% 6% 10% 32% 3% 9.5%

微生物・酵素 31% 0.1% 13% 7% 11% 3% 55% -3% 24.1%

組換え植物 13% 10.1% 8% 17% 7% 23% 29% 10% 0.6%

組換え動物 14% 19.3% 9% 26% 7% 14% 24% 14% 1.8%

バイオ医薬品 14% 10.3% 8% 13% 7% 7% 29% 12% 16.6%

バイオ化学品 30% -3.7% 14% 5% 12% 2% 48% -5% 13.7%

図-23 日本の出願人における注目分野の出願シェアと成長率の状況

日本が優位にある技術分野における日米欧出願人別比較

出願人国籍 世界シェア 出願成長率 日本特許出願シェア

技術分野 日本 米国 欧州 日本 米国 欧州 日本 米国 欧州

糖鎖工学 ①46% ②32% ③18% ①66% ②19% ③14%

遺伝子機能解析 ②41% ③35% ①45% ②33% ①48% ③18%

蛋白質構造解析技術 ②31% ①34% ③30% ③20% ①60% ②22%

バイオインフォマティクス ②22% ①66% ③13% ③25% ①34% ②33% ①48% ②44% ③ 7%

微生物・酵素 ②31% ①37% ③19% ①55% ②28% ③16%

バイオ化学品 ②30% ①43% ③19% ①48% ②32% ③18%

注:

・成長率:出願人国籍別出

願件数の年平均伸び率

(1991-2000 年)。

・シェア:出願人国籍別出

願比率(1991-2000 年)。

・コア出願:コア出願の国

籍別出願比率(1991-2000

年)。

・技術別シェア:19 技術分

野のライフサイエンス分

野に占める出願比率。

・優先権主張年が 1991 年~

2000 年を対象に、

WPINDEX(STN)で検索。

日本が優位にある技

術分野。

-20%

0%

20%

40%

60%

80%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

国籍別世界シェア

出願成長率

糖鎖工学技術

微生物・酵素

バイオ化学品

遺伝子機能解析技術

バイオインフォマティクス

バイオインフォマティクス(米国)

バイオ化学品(米国)

微生物・酵素(米国)糖鎖工学技術(米国)

遺伝子機能解析技術(米国)

遺伝子治療・診断技術 世界への出願と出願成長率

0%

10%

20%

30%

0% 20% 40% 60% 80%

日本への出願国籍別シェア

米国での登録国籍別シ

ェア

糖鎖工学技術

微生物・酵素バイオ化学品

バイオインフォマティクス

遺伝子解析技術

糖鎖遺伝子技術

遺伝子機能解析技術

遺伝子工学技術

日本への出願と米国での登録状況

糖鎖工学は世界1の

シェアを保有。

微生物・酵素、バイオ

化学品は世界シェア

で米国と拮抗

■:日本の出願人、◆:米国の出願人

Page 14: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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~日本に期待される分野~

これまで見てきたように日本はライフサイエンス分野において米国に遅れをとっている。

そうした中で、日本が後れを取り戻すためにどの分野に注力すべきかについて解析する。

ゲノム創薬技術を構成する技術として、バイオインフォマティクス、遺伝子・蛋白質解析

技術がある。バイオインフォマティクスは世界シェアでは米国を大きく下回っているが、成

長率では米国と拮抗しており、遺伝子機能解析技術では日本から重要特許である完全長 cDNA

技術が出願されている。蛋白質解析技術はゲノム創薬にとって特に重要な技術であり、遺伝

子機能解析技術と共に日本の出願人による出願伸び率は高い。また、有識者にヒアリングし

た結果からは、医療分野に注力する必要があることが指摘されていることから、ゲノム創薬

技術を日本に期待される技術分野として挙げた。

糖鎖工学技術は、表-22 に示した出願件数のシェアと伸び率、コア出願比率と伸び率およ

び技術シェアの全ての指標を満足してはいないが、日本が強い技術分野として挙げられる。

有識者ヒアリングにおいても日本の技術の優位性、今後のライフサイエンスにおける重要性

が指摘されており、日本に期待される分野と考えられる。

バイオ化学品、微生物・酵素技術はグリーンバイオケミストリーを構成する技術であり、

従来から日本が強い技術と言える。世界出願において米国に拮抗している点からも、今後そ

の優位性を活かして日本に期待される技術分野である。

ナノバイオテクノロジーは日本が技術的に優位なナノテクノロジーをライフサイエンス

分野に活かせる技術である。現在の世界出願シェアは低いが、今後日本に期待される技術分

野の1つである(図-24)。

図-24 ライフサイエンスにおいて日本に期待される分野 技術水準

分野 特徴 項目 劣 優

出願シェア

出願伸び率

重要特許

ゲノム創薬

(バイオインフォマ

ティクス、遺伝子・

蛋白質解析含む)

遺伝子機能解析・蛋白質解析やバイオインフォマティクス、コンビナトリアルケミストリー等複数の技術を組み合わせることが必要。重要な要素となるcDNA関連では、日本は完全長cDNA取得に関する重要特許を出願しており(完全長cDNA(ヘリックス研究所):特開2002-17375)、技術的な強みがある。 有識者ヒア

出願シェア

出願伸び率

重要特許 糖鎖工学

糖鎖遺伝子ライブラリーについては重要特許を含め日本からの特許出願が多く、技術的蓄積がある。糖鎖研究に関わる国家プロジェクトが推進される等、日本が国際競争力を強めつつある(ST3 GalⅢ(協和発酵工業):特許3131322(1991)、変形EPO(キリンアムジェン):特許2938572(1994))。 有識者ヒア

出願シェア

出願伸び率

重要特許

グリーンバイオ

ケミストリー

(バイオ化学品、

微生物・酵素)

将来的に市場の拡大が期待される分野。従来日本は微生物・酵素利用の分野で世界をリードしてきた実績があり、先端的ライフサイエンス技術を導入して引き続き技術的優位性を維持する必要がある(アクリルアミド生産菌、シュードモナス細菌の培養法(日東化学、山田秀明):特許1375105、特許1375106)。 有識者ヒア

出願シェア

出願伸び率

重要特許

バイオ

インフォマティクス

日本が得意とする装置技術をベースに強化が進められているIT技術をバイオ分野に応用する技術であり、日本からの特許出願が活発な分野である。

有識者ヒア

出願シェア

出願伸び率

重要特許

ナノバイオ

テクノロジー

ナノ技術とバイオ技術の融合分野。現時点ではやや劣勢であ

るが、まだ出願件数の規模は小さいので、日本が得意とする

加工技術を利用して、今後の更なる技術開発の進展を期待し

たい。 有識者ヒア

注:・有識者ヒアリングおよび特許出願動向の調査結果に基づいて、「日本に期待される分野」を選定抽出。

・技術水準の は、総合的な技術水準を示す。

Page 15: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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第3節 ライフサイエンス分野の研究開発リーダー

~出願人ランキング Top10 上位は中国ベンチャー、欧州製薬、米国大学~

表-25 ライフサイエンスの出願人ランキング(世界上位 10) 順位 出願人(国籍) 種別 業種等 出願件数

1 上海博容基因開発有限公司(中国) ベンチャー企業 医薬品 2,306

2 GLAXO SMITHKLINE(イギリス) 大手企業 医薬品 1,620

3 UNIV CALIFORNIA(米国) 大学 - 1,224

4 AVENTIS PHARMA SA(ドイツ) 大手企業 医薬品 1,182

5 上海博徳基因開発有限公司(中国) ベンチャー企業 医薬品 1,120

6 INCYTE GENOMICS INC(米国) ベンチャー企業 医薬品 931

7 US DEPT HEALTH & HUMAN SERVICES(米国) 公的機関 - 917

8 MERCK(米国) 大手企業 医薬品 906

9 NOVO NORDISK(デンマーク) 大手企業 医薬品 812

10 HUMAN GENOME SCI(米国) ベンチャー企業 医薬品 765

16

20

三菱化学(株)(日本)

武田薬品工業(株)(日本)

大手企業

大手企業

医薬品

化学品

559

490

~日本はベンチャーや大学等の出願が増加 開発主体は化学、医薬品、食品の大手企業~

日米上位 100、欧州上位 50 の主要出願人の出願人種別では、日本、欧州は大手企業が多数を

占めるのに対し、米国は、大学・公的機関、ベンチャー企業が多い。日本は、大学・公的機関、

ベンチャー企業からの出願が増加しているものの、まだ大手企業中心の出願構造である。

外国出願(国際特許出願(PCT 出願)含む)※は、どの出願人種別においても増加しているが、

依然として内国出願比率が高い。PCT 出願の利用についても増加傾向にあるが、十分に利用さ

れているとは言い難い(外国出願中の PCT 出願比率(2000 年):大学・公的機関 69%、ベンチ

ャー企業 56%、大手企業 69%)(図-26)。 ※ p5の「コア出願」に相当する。

図-26 ライフサイエンスの日米欧国籍別出願人種別の出願比率と企業の業種

注:・世界各国に出願された特許出願の内、日本、米国出願人の出願件数上位 100 企業(機関)、欧州 50 企業(機関)を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

大手・ベンチャー

企業の業種

日本

医薬品23.8%

化学27.9%

食料品21.1%

ベンチャー企業3%

大手企業97%

医薬品1.0% 化学

0.4%

その他0.4%

サービス業1.1%

その他4.0%

繊維製品7.2%

電気機器7.1%

機器4.5%

水産・農林業1.6%

ベンチャー企業

米国

医薬品29.7%

ベンチャー企業44%

大手企業56%

医薬品46.7%

水産・農林業7.4%

化学7.4%

サービス業1.6%

食料品1.4%

機器4.7%

水産・農林業1.0%

欧州

化学13.9%

大手企業97%

ベンチャー企業3%

化学0.7%

医薬品2.6%

食料品4.0%水産・農林業

0.9%

医薬品77.9%

ベンチャー企業

1991 年~2000 年

上海博容基因開発有限公司

(中国)が第1位で 1999 年以降

急激に出願件数が増加。イギリ

スの Glaxo SmithKline が第2

位。日本の出願人はトップ 10 に

含まれていない。

大学・公的機関 1991年142件

PCT出願1% 外国出願

9%

内国出願のみ91%

ベンチャー企業 1991年19件

内国出願のみ95%

外国出願5%

PCT出願5%

大手企業 1991年1,648件

PCT出願5%

外国出願19%

内国出願のみ81%

大学・公的機関 2000年526件

外国出願25%

PCT出願17%

内国出願のみ75%

ベンチャー企業 2000年58件

PCT出願16%

外国出願28%

内国出願のみ72%

大手企業 2000年1,532件

PCT出願29%

外国出願42%内国出願

のみ58%

日本1991年大学・公的

機関

8%

大手企業

91%

ベンチャー企業

1%

米国1991年

大学・公的

機関51%

ベンチャー

企業

20%

大手企業

29%

欧州1991年

ベンチャー

企業

8%

大学・公的

機関

21%

大手企業

71%

日本2000年

ベンチャー

企業3%大手企業

72%

大学・公的

機関25%

米国2000年

大手企業

21%

ベンチャー企業

45%

大学・公的機関

34%

欧州2000年

大手企業

60%

大学・公的

機関29%

ベンチャー

企業11%

出願人種別(日米欧) PCT 出願を含む外国出願比率(日本の出願人)

注:世界各国に出願された特許出願を分

析。優先権主張年が 1991 年~2000

年を対象に、WPINDEX(STN)で検索。

Page 16: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-16-

~成長期にあるライフサイエンス・出願人数も急増。牽引役は欧米企業(機関)~

1991年から2000年の1年毎の出願件数と出願人数の関係を日米欧中の出願人毎に示す(図

-27)。さらに日米欧の上位5社(機関)について個別技術毎に出願件数のランキングを記号

で表した(図-28)。

図-27 ライフサイエンスの出願件数と出願人数の関係 (日米欧中国籍別)

図-28 ライフサイエンスの上位出願人と技術相関図 国籍:日米欧(上位5)

日米欧中4ヶ国とも出願

人数、出願件数は増加してお

り、中でも米国の伸びが著し

い。日本は 1999 年以降出願

件数、出願人数共に伸び、

2000 年には出願件数で欧州

に追いついているが、出願人

数では未だ大きな開きがあ

る。

注:・世界各国に出願された特許出願の内、

日本、米国、欧州、中国の出願人の

出願件数、出願人数を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を

対象に、WPINDEX(STN)で検索。

注:・世界各国に出願された特許出願の内、日本、

米国、欧州の上位5出願人を分析。

・優先権主張年が 1991 年~2000 年を対象に、

WPINDEX(STN)で検索。

日本では全体的に上位ラン

キングを占める技術が少ない

が、その中で、微生物・酵素、

バイオ化学品は健闘している。

米国は世界ランキングで上

位に位置している。第1位のカ

リフォルニア大学は、19 技術の

うち遺伝子治療・診断技術を除

く 18 技術が世界トップ 10 位以

内に入っている。

欧州も第1位の Glaxo Smith

Kline と第2位の Aventis Phar

ma は多くの技術分野で世界トッ

プ 10 位以内に入っている。

出願件数ランキング  ◎:世界10以内 ○:11-20位 □:21-30位 △:31-40位

出願人国籍

出願人

三菱化学㈱

武田薬品工業㈱

科学技術振興事業団

味の素㈱

経済産業省産業技術総合研究所

UNIV CALIFORNIA

INCYTE GENOMICS INC

US DEPT HEALTH & HUMAN SERVICES

MERCK

HUMAN GENOME SCI

GLAXO SMITHKLINE

AVENTIS PHARMA SA

NOVO NORDISK

HOFFMANN LA ROCHE

BAYER

種別 大手

企業

大手

企業

大手

企業

ベン

チャ

公的

機関

大手

企業

ベン

チャ

大手

企業

大手

企業

大手

企業

大手

企業

大手

企業

        業種

関連技術

化学

医薬品

食料品

医薬品

公的機関

医薬品

医薬品

医薬品

医薬品

医薬品

医薬品

医薬品

ライフサイエンス全体 ○ ○ □ □ □ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○

遺伝子工学技術 □ △ □ △ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ △

遺伝子解析技術 ◎ ◎ ○ △ ○ ◎ ○ ○ □

発生工学技術 □ □ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ○

蛋白工学技術 ◎ △ ◎ □ ◎ ◎ ◎ ○

糖鎖工学技術 ○ □ ◎ ◎ ◎ □ △

遺伝子機能解析技術 □ ◎ ◎ ○ △ ○ □

蛋白質構造解析技術 □ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ △ ◎

蛋白質機能解析技術 □ □ ◎ ◎ ◎ ◎ △ ◎ ○ ◎

糖鎖遺伝子技術 □ ○ ◎ ○ ◎ ◎

ゲノム創薬技術 ○ △ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ □

遺伝子治療・診断技術 ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○

ナノバイオテクノロジー ◎ ◎ ◎ △

バイオインフォマティクス □ ◎ ○ △ ◎ △

細胞 ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ □ ○

微生物・酵素 ○ ○ □ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○

組換え植物 △ ◎ ◎ □

組換え動物 △ ◎ ◎ ◎ ◎ □ ◎ ◎ ○ □ ○

バイオ医薬品 ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ □ ○ ○

バイオ化学品 ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ △

欧州日本 米国

ポスト・ゲノム関連技術

バイオテクノロジー

基幹技術

公的機関

大学

公的機関

その他の技術

◎ ○ □

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

出願人数

出願件数

日本

米国

欧州

中国

2000年

1991年

1991年

2000年

1991年

出願人国籍

1996年

2000年2000年

1991年

日本

2000

2400

2800

3200

500 1000 1500

出願人数

出願件数

1993年

1991年

1998年

2000年

1997年

1999年

Page 17: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-17-

第2章 産業活動の現状と今後

第1節 日米欧中の産業政策

~産業政策の変遷 世界はライフサイエンス分野を重視~

表-29 米・欧・日・中の産業政策 国 年 産業政策 内容

1971 NASDAQの設立 先端技術関連株式市場

1980 バイ・ドール法 政府資金による成果の実施機関への帰属

1980年代 プロパテント政策 知的財産権の保護、強化

1986 技術移転法 官学の研究成果の企業独占権、TLO、ベンチャー育成

1994-1996 バイオ研究イニシアティブ バイオ技術重視の方針

米国

1999 大統領令「バイオ製品の開発・推進」 バイオ製品・バイオエネルギーの開発強化

1985 EUREKA 新規産業創出のための国際共同研究システム

1984-2002 ECフレームワークプログラム 科学技術協力推進

1990-1998 BIOTECH 1&2 バイオ技術開発推進 欧州

2002 欧州バイオ戦略 研究成果の移転促進

1998 大学等技術移転促進法 大学からの技術移転促進

1999 産業活力再生特別措置法 日本版バイ・ドール法

1999 バイオテクノロジー産業の創造に向けた基

本戦略 関係5省庁連携によるバイオ産業育成策

2000 日本新生のための新発展政策 バイオテクノロジーの重要性位置づけ

2002 BT戦略大綱 研究開発、産業化、国民理解の3戦略

日本

2002 知的財産基本法 知的財産の創造、保護、活用。知的財産戦略本部設置

1986 863計画 新興技術領域の研究開発、技術集積地帯の設立

1988 たいまつ

火炬計画 ハイテク産業の産業化、開発区の成立

1991 八五計画 研究成果の商業化率向上、ハイテク製品の売り上げ増、輸出比

率増

1995 江沢民主席令「科学教育立国」 科学技術は第一の生産力として、重要方針の位置づけ

1995 江沢民主席令「教育法」 すべての教育機関法人化

1999 朱首相「科学技術立国」政策 ハイテクゾーン全国整備

2000~ 米国在住者呼び戻し政策 ベンチャー設立促進、ハイテク技術導入

中国

2001 第2次特許法改正 知財権保護強化

1.米国の産業政策

米国では、ヤングレポート(1985 年)を代表例として、知的財産権の保護・強化を謳った

「プロパテント政策」がいちはやく推進され、1980 年にはバイ・ドール法※が施行されてい

る。バイオテクノロジーについては、1993 年からのクリントン政権は、バイオ技術を国家の

将来を担う重要技術の一つとする基本方針を明示し(「バイオ技術研究イニシアティブ」(1994

年)6、「2001 年度予算教書」7では関連予算が 30%増額されている。ブッシュ新政権において

もこうした方針は継続され、2002年度のNIHの予算は過去3年では最大の増額となっており、

「2003 年度予算大統領案」8においては、NIH の予算は前年比 16%の増加となっている。 ※ バイ・ドール法:政府資金による研究成果に関わる特許を大学等の研究機関に帰属させることを可能にしたものであり、多

くの大学において TLO が設置される契機となった。

2.欧州の産業政策

欧州では、特許制度の近代化によって知的財産権の保護強化を進めるべきとした EU コミ

ュニケ9が 1999 年2月に発表されている。

科学技術政策の面では、1985 年に新規産業創出のための欧州での共同研究システムとして、

EUREKA(European Research Coordination Agency,1985)10が設置されている。1990 年からは

市場化を重視したバイオ技術開発の推進施策である BIOTECH 1 and 2 が開始され、1997 年か

らは資金・税制面で支援して国際競争力の強化を図る中小企業支援施策が開始されている。

2002 年1月には研究成果や発明を新製品やサービスに円滑に移転することを目指した「欧州

Page 18: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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バイオ戦略」※が発表されている。 ※ 欧州委員会がバイオ関連コンサルテーションを踏まえて策定した戦略で、研究資源の移動、官民共同研究を促進するために

は、知的財産権ルールが重要としている。

3.日本の産業政策

日本では、1997 年に「21 世紀の知的財産権を考える懇談会」報告書(特許庁)が報告さ

れて以降、プロパテント政策が積極的に推進されている※。

バイオテクノロジーについては、「新規・成長 15 分野」(「経済構造の変革と創造のため

の行動計画/(1997 年5月閣議決定)」)の一つに位置づけられ、1999 年7月には「バイオテ

クノロジー産業の創造に向けた基本戦略」が関係5省庁のもとで決定されている。最近では、

「科学技術総合戦略(2001 年3月/総合科学技術会議答申)」においても、バイオテクノロ

ジーが重点四分野の一つとして提示されている。2002 年7月にはバイオテクノロジー分野で

日本が世界をリードするための戦略(研究開発、産業化、国民理解)をうち立てるために首

相直属の「BT 戦略会議」が設置され、2002 年 12 月には行動計画を明示した「バイオテクノ

ロジー戦略大綱」3 が制定された。知的財産に関連しては、2002 年に総合科学技術会議にお

いて「知的財産戦略専門調査会」11を設置、さらに首相直属の「知的財産戦略会議」12が設置

され、知的財産紛争の早期解決や判決の統一に向け実質的な「特許裁判所」を創設する方向

を打ち出している。2002 年 12 月には「知的財産基本法」13が制定され、この中には知的財産

の創造、保護および活用の計画的推進、小泉首相を本部長とする知的財産戦略本部14の設置が定

められた。 ※大学等からの技術移転の促進施策という観点では、1998 年の大学等技術移転促進法(TLO 法)や 1999 年の産業活力再生特別

措置法(日本版バイ・ドール法)の制定、国立大学研究者の兼業規制緩和(産業技術力強化法)の他、特許権の帰属に関す

る施策等が実施されている。

4.中国の産業政策

中国においては 1986 年に「863 計画」がスタートし、「新興技術領域」の研究開発、技術

集積地帯を築く新興産業の発展、長期発展性のある基礎研究プロジェクトの推進が図られて

いる。1988 年にはハイテク研究の産業化を目的とした「た い ま つ

火炬計画」が開始され、研究開発

の成果を迅速に産業化するインキュベーターシステムが生み出された。1991 年からの「八五

計画」では、10 年間で研究成果の商業化率を 30%から 50%に引き上げる、ハイテク製品の

総売上高を 4,000 億元、輸出比率を4%から 8%に引き上げる等具体的な目標が掲げられて

いる。1995 年には江沢民主席が「科学教育立国」戦略を打ち出した。これは今後 15 年間の

重要方針として位置づけられている。同じ 1995 年には「教育法」が発令され、すべての教育

機関が法人化された。1999 年から朱首相により「科学技術立国」政策が強調され、バイオテ

クノロジー、情報通信などのハイテクゾーンを全国配備する方針が表明されている。2000 年

前後からは、ベンチャー設立促進、ハイテク技術導入をめざして米国在住の研究者の呼び戻

し政策がとられて、帰国研究者に国内研究機関の主要ポストがあてられている。2001 年7月

に知的財産権保護の強化を図る第二次改正特許法が施行され、2001 年 12 月には WTO に加盟

した。中国科学院の研究予算は年間約 1,440 億円でそのうちバイオ関係は 18%(約 260 億円)

であるが、2008 年まで毎年1%ずつ増やして 24%に高める方針である15。

Page 19: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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第2節 安全・倫理に関わる指針

~欠かせない安全倫理の視点~

(1)生物多様性条約

1992 年6月、生物の多様性を守ることを目的とした「生物多様性条約(Convention on

Biological Diversity)」16を作ることが決議された。この内容は、2000 年1月、「カルタヘ

ナ議定書(バイオセイフティ議定書)」として正式に採択され、2002 年4月、第6回生物多

様性条約締結国会議で、遺伝資源などの利益配分などに関する規定、ボンガイドラインが採

択された。

(2)遺伝子組換え

1976 年米国 NIH が制定した「組換え DNA 実験ガイドライン」17を受けて、日本では 1979 年

に科学技術庁が「組換え DNA 実験指針」18を、同年文部省が「大学等における組換え DNA 実

験指針」19をそれぞれ定めている。1986 年に通産省は「組換え DNA 技術工業化指針」20、厚生

省は「組換え DNA 技術応用医薬品の製造のための指針」21を、1989 年には農林水産省が「農

林水産分野等における組換え体の利用のための指針」22を定めている

(3)クローン人間と ES 細胞と倫理

クローン人間と ES 細胞に関する各国の規制に関して表-30 にまとめた。

表-30 クローン人間と ES 細胞に関する各国の規制 国 政策

フランス

・「生命倫理法」(1994 年成立)23;クローン人間の作成は禁止、観察以外のヒトの胚研究につ

いても禁止

・ヒトのクローン胚作成を禁止する改正法案が議会に提出、胚からの ES 細胞株を樹立する研究

を「認める」内容の改正法案を議会に提出

ドイツ

・ヒトのクローン胚作成、クローン人間作成ともに禁止することが法律に明記

・ES 細胞については、厳しく制限されているが、ヒト ES 細胞の輸入を認める方向の法律が 2002

年 7 月 1 日施行、許認可を得て承認されれば、ヒト ES 細胞の輸入が可能となった

イギリス

・クローン人間作成禁止を法律で明示

・ヒト胚の研究目的での使用、研究目的によるヒトのクローン胚作成は許可制、研究用途での

ヒトのクローン胚の作成が 2001 年認可、条件は激しいが、ヒトのクローン胚から ES 細胞を

樹立することも可能

米国

・クローン人間作成に関する研究には公的助成を認めないという大統領令を発布

・2001 年、クローン人間作成禁止法案が下院で可決され、上院で審議中

・ヒト ES 細胞については、新たな ES 細胞樹立は認めないが、既に存在するヒト ES 細胞を使用

する研究には、公的助成金を認めるという方針

カナダ

・クローン胚の作成を保健相令で禁止

・クローン人間作成に関する規制法案を、2002 年議会に提出

・ES 細胞については、2002 年 3 月 CIHR(Canadian Institute of Health Research)24がガイ

ドラインを作成し、ヒト ES 細胞の樹立は許可制の方向

日本

・クローン人間の作成は法律により禁止、ヒトのクローン胚などは特定胚として法律に基づく

指針による規制、ES 細胞研究は、きびしい条件下で認める指針を策定

・2000 年 11 月には、クローン技術規制法(ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律

案)25が成立

Page 20: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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安全・倫理面から考えられた規制に関する、欧州、米国、国際動向、および日本の動向に

ついて図-31 に示す。

図-31 ライフサイエンス分野の安全・倫理に係わる指針・提言

国際動向

米国の動向

1974年ポール・パー

ク提案

1976年「組換えDNA実験ガイドライン」

(NIH)

1985年「遺伝子治療ガイドライ

ン」

1993年「WHOヒト研究倫理ガイドライン」

1995年「WTO-TRIPS」

1997年「ヒトゲノム人権宣言」(UNESCO)

1998年「バイオ発明指令」

(EU)

1979年「組換えDNA実験指

針」科技庁

1986年「組換えDNA技術工業化指針」通産省

1986年「組換えDNA技術応用医薬品製造のための指針」厚生省

1989年「農林水産分野における組換え体利用指針」

農水省

1996年「組換えDNA実験指針」改訂

科技庁

1998年「大学等における組換えDNA実験指針」改訂

文部省

1994年6月「大学等における遺伝子治療ガイドライン」

文部省

ES細胞

1998年11月ヒトES細胞発表

(米)

1999年1月ヒト胚研究小委(生命倫理委)

ヒトゲノム

クローン

2001年3月「ヒトゲノム・遺伝子解析倫理指針」文部科学省、厚生労働省、経済産業省

1997年ドリー発表(英)

1997年生命倫理委設置(科学技術会議)

2000年11月「クローン技術規制法」

成立

1980 1990

1994年「バイオ

エシックス」(EU)

2000年

1979年「大学等における組換えDNA実験指針」文部省

1975年アシロマ会議

遺伝子治療

1994年2月「遺伝子治療臨床研究に関する

指針」厚生省

2000年「遺伝子治療臨床研究に関する指針」

改訂厚生省

1999年5月「大学等における遺伝子治療ガイドライン」改訂

文部省

2001年9月「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」

文部科学省

1997年「ヒト胚研究規制法」

1999年「遺伝子解析研究ガイドライン」

遺伝子組換え

2001年ヒトクローン全面禁止法案

2001年研究用途でヒト・クローン胚作製認める

(英)

2001年6月クローン胚の取扱いに関する指針案文部科学省

1995年11月バイオセイフティ作業

部会

1999年2月特別締約国会議(カルタヘナ)

2000年1月バイオセイフティ議定書

2001年10月第2回政府間

会合改変体管理の

義務化

1992年「生物多様性条約」

2001年11月ヒトクローン胚作製禁止総合科学技術

会議

1999年ヒトゲノム研究

小委員会(生命倫理委)

1999年「ヒトゲノムに関する基本原

則」(生命倫理委)

2002年4月COP6

ボンガイドライン採択

2002年11月ヒトクローン個体産生禁止条約作成先送り(国連)

2002年7月ヒトクローン個体禁止報告書(米国生命倫理諮問委)

2002年5月ヒトES細胞研究で4機

関に助成金(NIH)

2002年5月ヒトクローン関連特許(4件)の存在公表(米

国Patent Watch)

2002年12月ヒトES細胞研究認める(豪)

2002年4月京大ヒトES細胞研究計画承認文部科学省

日本の動向

欧州の動向 2001年組換え食品に対する規制法

(EU)

2002年2月ヒトクローン胚の作成を厳密な管理下認める

(英)

Page 21: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-21-

第3章 大学に期待される知的財産活動

第1節 大学発論文数と特許出願活動

~論文数の多い研究者は特許出願活動も活発 課題は大学での知財管理体制~

1991~2001年に発行されたライフサイエンス主要雑誌に掲載された論文数上位100人の日

米研究者について論文数と特許出願活動を分析した。日米を比較すると、論文数では日本は

米国の約 80%、特許数では米国の約 90%※で、論文数の多い日本の大学の研究者からの特許

出願活動は米国と比較しても遜色無く行われている。これら特許の出願人を調べると米国は

大学が権利者になっているケースが多く、日本は国内企業が多い。大学で生まれた特許をさ

らに発展させるには大学出願人の増加で産学連携が対等に行われること、そのためには TLO

の活動をより活発に推進し戦略的知財管理を行うことが重要である(図-32,33)。 ※米国特許の特許権付与率が出願件数に対して 51.6%(2000 年米国内国人特許の登録数/出願数、米国特許庁・年次報告書26よ

り)であることから、これを根拠に算出。

図-32 大学発論文数上位から見た研究者毎の論文数と特許出願件数(論文数上位 100 人を解析)

日本 米国

論文数上位 100 人の論文数合計 5,767 件 7,459 件

特許出願数合計 1,025 件(出願) 587 件(登録)

図-33 大学の研究者が発明者となっている日米特許出願の出願人種別

注:・1つのドットは1人の研究者を表す。

・各ドットの位置は、その研究者が 1991 年~2001 年に主要雑誌に発表した論文数と、日本に出願した特許出願の数

(日本の大学)および米国で特許権を取得した数(米国の大学)を表す。

・論文数は CAPLUS(STN)(雑誌発行年:1991-2001 年)、日本特許は PATOLIS(公開年:1991-2001 年)、米国特許は

USPATFULL(STN)(登録年:1991-2001 年)で検索。

日本の大学の発明者

個人+大学0.1%

個人+公的機関0.6%

大学1.3%

国内企業+大学0.9%

国内企業+公的機関5.4%

公的機関+大学0.1%

国内企業+個人8.9%

外国1.5%

個人11.5%

公的機関14.9%

国内企業54.8%

共同出願

米国の大学の発明者

米国企業7.8%

公的機関5.0%

個人4.8%

米国企業+公的機関0.4% 外国

0.9%

公的機関+大学2.1%

米国企業+大学7.8%

大学71.1%

共同出願

注:日本特許 PATOLIS(公開年:1991-2001 年)

米国特許 USPATFULL(STN)(登録年:

1991-2001 年)で検索。

大学からの発明は

日本:55%が企業

米国:71%が大学

日本の大学は大学独

自の知財管理が

必要!

日本の大学

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

0 50 100 150 200

論文数

日本特許出願件数

米国の大学

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

0 50 100 150

論文数

米国特許取得件数

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第4章 バイオベンチャー企業の動向

第1節 日米欧の概況

バイオテクノロジーの振興にとってベンチャー企業は、最先端技術開発の担い手や、大企

業のカバーしきれない要素技術への投資リスク分散など大きな役割を果たしているが、先進

の米国においてはベンチャー企業がその発展の形として転進している状況が見られる。日本

と似た状況からスタートした欧州では着実に成果をあげつつあり、2010 年までにバイオベン

チャー1,000 社の設立を目指す日本も参考にすべき点が多い。

欧米では、バイオベンチャーの育成にベンチャーキャピタルとインキュベーターが大きな

役割を果たしてきた(表-34)。

日米欧の出願件数上位のバイオベンチャーと出願件数を比較してみると、米国バイオベン

チャーの圧倒的な出願件数は別として、日本のバイオベンチャーは欧州企業と比べても低い

状況となっている(表-35)。アドバンストスキンリサーチ研究所、ディナベック研究所、ヘ

リックス研究所はそれぞれ医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構、基盤技術研究促進セ

ンターの出資を受けたいわば「官製ベンチャー企業」であり、純粋な民間企業となると 10

件未満の出願が大半である。 注:ベンチャーの定義:一般に創業してから 10~20 年以内の技術開発型の中小企業。創薬リード化合物や DNA チップ等製品や

技術を提供するタイプと臨床試験受託等の研究をサポートするタイプがある。

表-34 日米欧のバイオベンチャー育成環境の比較 日 本 米 国 欧 州

バイオベンチャー数 約 300 約 2,000 約 2,500

ベンチャーキャピタル投資額/GDP(%) 0.02% 0.55%

ベルギー 0.14%

イギリス 0.12%

スウエーデン 0.1%

ベンチャーキャピタルのバイオテクノロジ

ーへの投資額(総額%)1

4,180 百万円

3.5%

$2.8bn

13%

1.0bn ユーロ

2.9%

インキュベーター数 2 113 約 1,000 950

TLO 数 3 31 142 約 1001 日本:(財)ベンチャーエンタープライズセンター 平成 13 年度ベンチャー・ワン・ストップ・サービス提供事業 ベンチ

ャーキャピタル投資状況調査報告書概要(http://www.vec.or.jp/investment.html) 新規投資先分野。

米国:http://www.nvca.org、http://www.pwcmoneytree.com、欧州:EVCA-2001(http://www.evca.com)。 2 日本:(財)日本立地センター 地域プラットフォーム実態調査報告書(http://www.janbo.gr.jp/research/200201_1.html)

2002 年 2 月現在、米国:Best Practices’ in Business Incubation: Lessons (yet to be) Learned, Rustam Lalkaka (2001)(http://www.urban-entreprise2001.be)、欧州:European Commission Business Incubators Database

(http://europa.eu.int/comm/enterprise/bi/index.htm)、2001 年末推定値。 3 日本:認定 TLO 数(2003 年 3 月 10 日;(http://www.jpo.go.jp/kanren/index.htm))。

米国:AUTM 編”Licensing Survey 2000”(http:www.autm.net/index_ie.html)。

表-35 【参考】日米欧のバイオベンチャーの特許出願件数(1991-2000 年) 日 本 米 国 欧 州

企業名(設立年) 出願件数 企業名(設立年) 出願件数 企業名(設立年) 出願件数

1 フ ゚ レ シ シ ゙ ョ ン シ ス テ ム サ イ エ ン ス

(1985) 45

INCYTE GENOMICS

(1991) 931 GENSET(フランス・1989) 94

2 アドバンストスキンリサーチ研究所

(1990) 40

HUMAN GENOME SCI

(1992) 765 TRANSGENE(フランス) 92

3 ヘリックス研究所(1996) 34 MILLENNIUM PHARM

(1993) 559

INNOGENETICS

(ベルギー・1985) 87

4 デイナベック研究所

(1995) 30 GENENTECH(1976) 531

EPIGENOMICS

(ドイツ・1998) 53

5 医薬分子設計研究所

(1995) 29 CHIRON(1981) 476

INTROGENE

(オランダ・1993) 45

注:米国、欧州:WPINDEX(STN)で検索。日本:PATOLIS で検索。

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-23-

第2節 米国のバイオベンチャー企業

~R&D 資金の調達が企業転進を後押し~

2001年の時点で株式を公開している米国バイオテクノロジー企業は300社を超えているが、

収入が$500 million を超えるものは 10社程度、大半の企業は収入$50 million 以下である27。

企業として発展していくためには、private(ベンチャーキャピタル、大手製薬企業への技術

供与/提携)あるいは public(株式発行)に資金を獲得し、技術開発を行い製品を生み出し

ていかねばならないが、資金を調達するためには、将来性を期待させる魅力のある企業であ

ることを証明しなくてはならないが、創業時のビジネスモデルでは対応できないことが多い。

そこで合併・買収、ビジネスモデルの変更により業態の変換を行う例が多くなってきた。米

国バイオベンチャー企業がどのように転進を図っているかの例を表-36 にまとめる。

表-36 米国バイオベンチャー企業転進のタイプ タイプ 企業例と概要

合併・買収 ・Celera Genomics→Axys Pharmaceuticals を買収してゲノム解読/データベース企業から製

薬会社への転進を図る

・Vertex Pharmaceuticals→細胞ベースの探索技術を有する Aurora Biosciences を買収、drug

discovery 能力を強化

・Sequenom→population genomics の Gemini Genomics を買収して遺伝子解析機能を強化、Axiom

Biotechnologies を買収して化合物開発能力を獲得

・Genzyme→Pharming を買収して動物利用蛋白質生産技術を拡充

・Millenium Pharmaceuticals→Leukosaite、Camidge Discovery Chemistry、COR Therapeutics

との合併で技術のポートフォリオを拡大

業態変換 ・Hyseq→DNA チップ開発からスタートし、Hyseq Pharmaceuticals に社名変更、製薬企業への

脱皮を図る、Variagenix と合併して社名を Nuvelo に変更、技術、候補化合物を拡充

・Human Genome Sciences→ヒト遺伝子解析、他社への提供から自社開発、医薬企業へ脱皮

ヒトゲノム解読で大きな役割を果たした J.C.Venter が Celera 社の業態変換に伴い退社し、

新たな研究所を設立するなど、業態変換が人材の流動化を促し新たなバイオベンチャー誕生

の引き金となることも珍しくない。

第3節 欧州のバイオベンチャー企業

~着実に増える欧州バイオベンチャー、ベンチャーキャピタルも寄与~

欧州のバイオベンチャー企業数は 2,517 社にのぼり、ドイツ、イギリス、フランスに多く

の企業が設立されている。ライフサイエンス分野への取り組みが遅れたドイツにおいて、欧

州の中でもっとも多くのベンチャー企業が設立されていることは注目される(表-37)。特に

蛋白質や DNA などポスト・ゲノム技術に関わる企業が多い。BioRegio 政策※1や 2001 年に行

われた The German Employee’s Invention Law※2の改正等が有効に働いていると思われる。

欧州のベンチャーキャピタルの投資額は総額で約 35 billion ユーロ(2000 年)、うちバイ

オテクノロジー分野への投資は毎年約2倍の伸びを示し1 billion ユーロで3%を占めて

おり、対 GDP のベンチャーキャピタル投資額を見ると米国に比べると低いが日本よりは遙か

に高い投資額となっている。 ※1 地域間の競争と地域内における強い連結を基本的なコンセプトとして特定の地域に集中的に研究開発や起業を支援する施

策。

※2 従来全ての発見は発明者に帰するとして大学教授の特典を認めていたものを、大学人の発明は大学に帰属することに改定

された。

Page 24: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

-24-

表-37 技術分野別欧州バイオベンチャー企業数

細胞・

組織工学動植物 DNA 蛋白質

プロセスバイ

オテクノロジー

化学合

成*1)

バイオインフ

ォマティクス 機器*2) 分析*3) 合計

EU-15 436 189 349 504 218 177 126 233 97 2,329

ドイツ 93 60 114 170 38 62 44 50 32 663

イギリス 117 30 60 87 53 34 25 88 17 511

フランス 82 41 85 107 61 36 30 24 18 484

スウェーデン 47 7 20 24 14 20 12 19 16 179

スイス 25 5 11 17 11 4 7 27 5 112

イタリア 24 16 13 18 16 8 3 14 1 113

他 *4) 16 4 13 19 8 4 5 5 2 76

合計 477 198 373 540 237 185 138 265 104 2,517

注:*1)化学合成(含コンビケム、光学活性化合物合成)、 *2)機器(含医療機器、 PCR)、 *3)分析(環境、食品分析)。

*4)東欧諸国(8)、アイスランド、ノルウェー、ポルトガル。

出典:Biotechnology Information Database 2001,BID,University of Siena (http://www.unisi.it)

第4節 日本のバイオベンチャー企業

~量質共に成長途上の日本のバイオベンチャー 知的財産の確立がカギ~

(財)バイオインダストリー協会の調査によると、2002 年 12 月現在において日本のバイ

オベンチャーは 333 社に達している。これらのバイオベンチャーについてカテゴリー別に設

立年次、大学発ベンチャー数、上場企業数を表-38 にまとめた。1996 年以降に多くのベンチ

ャー企業が設立されているが、特に創薬関連、バイオインフォマティクスのベンチャーの設

立が際だっている。

表-38 日本のバイオベンチャーの事業内容と設立年

設立年次 カテゴリー 企業数

~90 91~95 96~00 01~ 不明

大学発ベン

チャー数 上場企業数

創薬関連 55 5 9 18 10 13 7 2

バイオインフォマティクス 27 3 2 14 8 2

治療技術関連 21 3 2 5 2 9 2

医療用具関連 8 1 3 4

診断機器・試薬 21 7 2 6 1 5 3

研究機器・試薬 59 19 5 14 2 19 2

DNAチップ 10 1 1 6 1 1 1

食品 30 7 6 8 9

動植物 28 11 8 7 1 1

環境 48 10 5 15 1 17 3

サポート 20 3 1 10 2 4

その他 6 6

合計 333 70 41 106 28 88 20 2

注:(財)バイオインダストリー協会調査資料(http://www.jba.or.jp/oshirase/bv333.pdf)を基にダイヤリサーチマーテック

作成。

日本のバイオベンチャーは 300 社を越えたが、米国のそれは約 2,000 社であり、未だ数的

に劣る。さらに日本の大手企業の提携相手として欧米のベンチャー企業が大きな対象になっ

ているのに対して、日本のベンチャー企業はほとんど対象となっていない※。また日米のラ

イフサイエンス分野における出願人種別出願比率をみると、米国のベンチャー企業からの出

願が 26%を占めているのに対し、日本のベンチャー企業からの出願はわずか2%を占めるに

過ぎず(図-26)、米国に比べ日本のベンチャー企業の研究開発の不活発さが示されている。 ※出典:平成 12 年度特許出願技術動向調査「バイオテクノロジー基幹技術」,p151,(2001 年3月)特許庁。

Page 25: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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また日本のバイオベンチャー企業においては、米国の主要なベンチャー企業と比較してみ

ると特許出願件数が少ないことと同時に、出願はしても審査請求の比率が小さい(防衛的出

願)、海外出願が少ない(活用不十分)等特許の活用も不活発な状況となっている(表-39)。

表-39 日本のバイオベンチャーの特許出願から事業化までの状況

日本特許 海外特許

アクション 1社平均件数 アクション 1社平均件数

出願中 6.24 仮出願中 0.72

公開中 4.16 出願中 1.97

審査請求中 1.38 登録済み 0.89

登録済み 1.74 事業化 0.07

事業化 2.37

出典:経済産業研究所調査報告(独立行政法人経済産業研究所が 65 社のバイオベンチャーを対象に行ったアンケート調査)。

コラム(2) -プロテオーム-

プロテオーム(proteome)は 1994 年に提起された概念であるが、蛋白質の動的・静的な挙動(発現

のレベル、発現の場所、翻訳後の修飾、蛋白質同士の相互作用等)を大スケール(massive & parallel)

で比較検討することにより、疾病/病態、細胞プロセス/ネットワーク等、生命現象に関する全体的

かつ統合的な知識を蛋白質レベルで得ることを目指す学問である。プロテオミクスに用いられる技術

は、ある場に存在する蛋白質を全て決定、カタログ化するための分離・同定・定量、動的な変動を再

構成するための技術と、蛋白質と蛋白質、その他の分子との相互作用を検出・同定する技術に大別さ

れる。遺伝子の数に比べて蛋白質の数ははるかに多いので、生じるデータは膨大であり、バイオイン

フォマティクスも重要な基盤技術となる。

世界各国で行われているプロテオーム解析の国際交流・調和を図り、プロテオミクスのもたらす知

識の正しい理解と社会への普及を目指すための受け皿として 2001 年 Human Proteome Organization

(HUPO)28が発足し、活動を開始している。HUPO では、(1) 血漿、肝臓等、モデル組織を選定し、そ

こに存在する蛋白質 5,000 種を局在性、翻訳後修飾、蛋白質-蛋白質相互作用を含めて同定・定量する

という目標を立て、そのために必要な資源と技術を規定する、(2) プロテオームを記述するためにす

べての研究者が「同じ認識で話をする」のに必要なデータ形式/表示法/アノテーションの標準化に

ついて、データの作成者、プロバイダー、ソフトウエア開発者、学術雑誌の出版社を交えて論議を行

う等、優先して取り組むべき5つの initiative を選定している。

HUPO は、世界各国のプロテオーム研究者の自主的な活動を尊重する研究者の連帯組織の色彩が強

く、「標準化」という動きがどこまで影響力を持ちうるものか現時点では不明であるが、プロテオーム

を採用した「規格」といったものに発展する可能性がないわけではない。2003 年2月には日本プロテ

オーム機構(JHUPO)29主催で「第1回日本ヒトプロテオーム学会」が開催されるに到ったが、これま

で電気泳動、質量分析などプロテオームの要素技術に分散して行われていた研究活動をプロテオーム

という括りで統合し、韓国、中国が活発に活動している HUPO を始めとする国際的なプロテオーム解析

の動きの中で日本として一定のプレゼンスを確立しておくことも重要であろう。

Page 26: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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第5章 注目技術分野の技術開発

第1節 RNA 干渉

RNAi(RNA interference)は、標的遺伝子と相同な二本鎖 RNA(double-stranded RNA;dsRNA)

を細胞内に導入すると、標的遺伝子の転写産物である mRNA の相同部分が特異的に分解され遺

伝子発現が抑制されるという現象であり、米国 Carnegie Institution の Fire らにより 1998

年に線虫(Caenorhabditis elegans)を用いた実験で初めて見出された。2001 年にドイツ Max

Planck Institute の Tuschl らにより 21 塩基長の dsRNA(siRNA)により哺乳動物培養細胞に

おいて RNAi が機能するのが見出されて以来、低分子 RNA が生体内で果たしている機能の解明

が進んできている。実用面では、遺伝子の発現抑制による遺伝子機能の大規模解析が行われ

るなどポスト・ゲノムの有力な研究ツールとして利用が進んでいるほか、2002 年に入ってか

らは、遺伝子治療(HIV ウイルスの増殖抑制など)などの論文発表が相次ぎ応用面でも研究

が活発化している。

RNAi が注目をもって迎えられたのは、これまで DNA の情報を蛋白質に伝える「中間体」的

役割のみと考えられていた RNA、しかも数十塩基長の小さな dsRNA 断片が細胞機能の維持に

大きな役割を果たしているということがわかってきたことにある。実用面では、dsRNA を細

胞内に注入するだけの RNAi による遺伝子ノックダウンは、従来の相同組換え利用の煩雑な操

作を伴う遺伝子ノックアウトに比べて非常に簡便である点が評価されている(図-40)。

図-40 RNAi の概要

RNAi の応用分野

(1)発現抑制(ノックダウン)によるポスト・ゲノムの遺伝子機能解析

・特定遺伝子ノックダウン

(Kennerdell & Carthew 1998 他多数)

・ゲノムワイドな網羅的ノックダウン

(Fraser et al. 2000、Gonczy et al. 2000 他)

(2)遺伝子治療

・HIV-1 の増殖抑制

(Lee et al. 2002、Novina et al. 2002、Jacque et al. 2002)

・事前投与によるポリオウイルスの感染抑制(Gitlin et al. 2002)

dsRNA

DICERによる切断

siRNA duplex (21~23nt)

蛋白質複合体形成

蛋白質

P

P

ターゲット認識

P

mRNA

標的mRNAの切断

RISC

P

mRNAの分解

P

P

** 重要特許 **

1. 特表 2002/516062

(Carnegie Inst.ほか)

標的と相同な dsRNA によ

り遺伝子発現を抑制

2. US 2002/086356A (Whitehead Inst.)

RNAi 効果を有する 21~23

塩基長の RNA

RNAi 技術のイメージ

Page 27: ライフサイエンスに関する特許出願技術動向調査報告€¦ · バイオ化学品 生物的手法による化学品およびその生産技術 図-3 特許調査対象範囲と特許出願件数

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第2節 ゲノム情報を利用した創薬技術開発

創薬には創薬ターゲットの探索、リード化合物の創出、臨床開発という大きな3つのステ

ップが存在し、1つの医薬を創出するためには長期にわたる開発が必要となる。そのことは

ヒトゲノム情報がほぼ解読され、ゲノム情報の利用により、医薬開発の確度が高まり、開発

期間を短縮できると言われている現在においても同様である。

ゲノム情報を利用した創薬スキームとそれに関わる技術要素および技術的課題を図-41 に

例示する。ゲノム情報は創薬のどのステップにも大きな影響を与え、またそこには多くの要

素技術開発が関わっているが、このスキーム全てを経由して製品が完成した例はみられず、

ゲノム情報を利用して創薬を効率的に行うにはまだまだ大きな課題が残っている。また、創

薬企業自体全ての技術を自社保有しているわけではなく、技術開発が不十分でボトルネック

となっている部分も多いので、創薬企業と個別技術をもつベンチャー企業との提携が頻繁に

行われれば、さらに生ずるビジネスチャンスも大きいと考えられる。

図-41 ゲノム情報を利用した創薬技術開発

開発技術要素    ・既開発技術

遺伝子増幅 ・PCR(特公平4-67957、特公平4-67960、特許2622327)

組換え技術 ・遺伝子組換え(US4237224)

cDNAクローニング ・ヒト完全長cDNA遺伝子発現解析 ・DNAチップ(US5424186)

SNPs ・解析技術:Invader法(US584617、US6001567) ・SNPs DB(The SNPs Consortium:http://snp.cshl.org)

High-th roughput screen ingコンビナトリアルケミストリー ・固相法<J.Am.Chem.Soc ,,85 ,2149,(1963)>

・パラレル合成法<Proc.Natl.Acad.Sci. ,81 ,3998,(1984)>

・スプリット合成法<ProteinRes ,37 ,487,(1991)> ・医薬候補ライブラリー(US5288514)

・創薬分子デザイン

ケモインフォマティクス ・標的分子結合薬剤デザイン(US9630849)

遺伝子と薬剤の応答性・P450等医薬代謝関連遺伝子発現解析(US5912120)

・副作用等関連遺伝子多型解析

・バイオマーカー発現解析・バイオインフォマティクス

機能推定

・ 遺伝子発現プロファイル ・TOF-MASS(特公平4-50982)

・モデル動物(アルツハイマーモデルマウス US5625121)

・トランスジェニック動物(抗ガン剤スクリーニング用マウスUS3736866)

蛋白質相互作用 ・2-Hybrid System(US5283173)

・ビーズによるターゲットスクリーニング(特許03086427)

・定量的PCR ・マイクロアレイ(US5744305)

蛋白質構造決定 ・X線結晶構造解析

・NMR構造解析

蛋白質構造推定 ・ ホモロジーモデリング

・ 蛋白質の無細胞系による合成

技術的課題   ・開発が期待される技術

疾患を再現するモデル動物の作成

原因遺伝子の効果的除去

結晶化

 ・High-throughputな結晶化条件のスクリーニング

 ・結晶化不可能な蛋白質の構造決定→NMR法 ・可溶性蛋白質への不溶性物質の導入

NMRによる構造決定における分子量制限

・生体内での蛋白質の再現 ・水溶液状態での蛋白質の構造

蛋白質のユラギ →NMRで一部解決、解像度の向上が必要構造の精度 →X線、NMRの解像度の向上の必要性

ノーベル賞

ゲノム情報を利用した創薬技術完成度

前臨体

ヒット・リード

化合物の決定

および最適化

ターゲットの探索

臨床

薬理ゲノミクス

リード候補

化合物の同定と最

適化

・レセプター

高い低い

完成度

標的の決定

再現性の良い比較可能な遺伝子増幅技術

 

疾患遺伝子の同定

 ・High-throughputな疾患由来変動遺伝子スクリーニング手法 ・機能解析手法

SNPsの特定 ・ 高感度・高精度・多量処理可能な配列同定技術

 ・SNPsとその疾患との関連を探索する技術

膜蛋白質の無細胞系による合成

レセプターの機能特定技術

レセプター精製技術レセプターアッセイ系構築

化学的阻害剤・ 同定された標的分子に対する合理的な薬剤デザイン

・多種類の化学物質の合成およびそのスクリーニング

薬剤代謝とその応答機構の解明

・ 細胞膜受容体と核内受容体の機能解明・薬剤トランスポーターの機能解明

・臨床開発への応用

(特許番号)→特許

<雑誌名, 巻, 頁, (年)>→文献

製品

抗体抗体医薬 ・ファージディスプレイ(CAT社:特許3176917) ・遺伝子組換えによる抗体作成

(Cabilly特許:US6331415)

・ヒト化抗体(MRC特許:US5225539) ・ヒト抗体ライブラリー(CAT社:特許3176917)

抗体医薬

・ 免疫原性の少ない抗体開発 ・High-Throughputな抗体作成技術

ターゲット遺伝子の機能解析蛋白質構造決定・推定

創薬ターゲット分子探索

抗体医薬医薬品

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第3節 次世代バイオプロセス -グリーンバイオケミストリー-

グリーンバイオケミストリーは生物触媒を利用した化学品の生産と定義され、石油資源の

枯渇、環境汚染への懸念が高まっている現在、注目を集めている。グリーンバイオケミスト

リーの概念に新規な技術開発の状況を加えて図-42 に示した。従来は生物機能をそのまま利

用することが多かったが、それでは適用範囲が限定される。近年遺伝子組換え技術からスタ

ートした蛋白工学技術、進化分子工学、さらにはゲノム解析の結果や極限微生物の利用、遺

伝子資源の探索等新規な技術を応用して、本来生物にとって不得手なケミカルプロセスをバ

イオプロセスに置き換える試みが活発になってきている。進化分子工学においては基本特許

とされるカウフマン特許が出願されており、生物資源以外からの遺伝子資源の収集法も開発

されている。また海外の大手企業により繊維の原料である 1,3-プロパンジオールのバイオプ

ロセスが開発されている。

このグリーンバイオケミストリーは、本来日本の得意分野である酵素工学技術やバイオリ

アクター技術などをベースとしてこれに最新のバイオ技術を組み合わせる技術であり、日本

の強みが生かせる分野である。

図-42 グリーンバイオケミストリーの概念図

A B

環境サンプル

A

C

Target DNAs

Expression

DNAライブラリー

C

Screening

US.5,958,672US.6,030,779(Biopanning, cell-free reaction)

US.6,168,919(Liquid phase screeing)US.6,174,673(Encapsulation, FACS)

US.6,057,103(preselection of microorganisms, FACS)

US.6,054,267(Biopanning)

(Mutagenesis)

A C

グリーンバイオケミストリーの進展

進化分子工学基本特許

(カウフマン特許)

E. coli

O

OH

OH

OH

CH2OH

OH

CH2OH

CHO H

CH2OH

CHO

CH2

CH2 OH

CH2OH

CH2

CH2OH

H 2O NADH NAD+

dhaB dhaT

Yeast

グルコース グリセリン 3-ヒドロキシプロピルアルデヒド(HPA)

1,3-プロパンジオール(PDO)

DuPont US5663362

Genencor WO98121341

改良

dhaB dhaT

dhaT

dhaB

原料

トウモロコシ

Sorona 3GT

4.5万トンプラント2002年稼働予定

DuPont

Genencore

Diversa

遺伝子組み換え

進化分子工学改変

新規バイオプロセス開発事例

1,3 プロパンジオール製法(発酵法)

新規遺伝子資源収集法

バイオプロセス(従来型)

スクリーニング 変異 遺伝子組換え

代謝工学

通常微生物 複合微生物

極限微生物

(生物反応)

動物工場

植物工場

メタゲノム

進化分子工学

蛋白工学

バイオプロセス化

広がり

ケミカルプロセス

遺伝子資源

US 5814,476(1998.09.29)

US 5824514(1998.10.20)

US 5723323(1998.03.03)

US 5817,484(1998.10.06)

無作為に作製された、リガンドに対する結合力を持つペプチド、ポリペプチド又は蛋白質及びそれらの組成物を同定する方法

無作為に作製された、予め方向付けられた性質を持つペプチド、ポリペプチド又は蛋白質の製造プロセス

無作為に作製された転写または翻訳生産物

少なくとも1つの無作為ポリヌクレオチド配列からなる発現ベクターを生産するプロセス

現在権利はAppliedMolecular Evolution社が所有

PCT/CH85/00099(1985.06.17)

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第6章 提言

世界的にライフサイエンスの重要性が認識され、研究開発促進のための取り組みが強化さ

れている状況下、日本においては当該分野における特許出願の世界シェアが下がる等、ライ

フサイエンス分野の国際競争力の低下が懸念されている。しかし、日本でも近年遺伝子解析

分野、植物バイオ分野で世界から注目される重要な特許が出願され始めており、今後の巻き

返しの萌芽が見え始めている。こうした傾向を助長するためには、日本が比較的強いと思わ

れる分野に限られた資源を投入すると同時に、大学・公的研究機関、ライフサイエンス関連

企業において、より基礎的な分野で排他力があり、波及効果が大きい特許を出願し、ライフ

サイエンス分野における国際競争力を高めることが必要である。

以下に、今後日本が目指すべき方向性について提言する。

【提言1】日本の強みを活かした国際競争力強化

○ ライフサイエンス分野で日本が取り残されないためには、日本の強みを活かした技術分野

を中心にキャッチアップしていくべきである。世界の研究開発の動向は遺伝子解析を中心

とする技術を基にポスト・ゲノム型へと広がっていく傾向にあるが、日本は米、欧に比べ

ポスト・ゲノム技術の広がりに遅れが見られ、その遅れをキャッチアップする必要がある。

そして、その際には全分野のキャッチアップではなく、まず分野を選択してその中でポス

ト・ゲノム型へと技術を広げるべきと考える。

中でもバイオインフォマティクス、遺伝子・蛋白質解析技術を含む「ゲノム創薬」、特許

出願シェア等の幾つかの指標で優位にある「糖鎖工学」、および従来から技術的優位性があ

るバイオ化学品、微生物・酵素技術を中心とした「グリーンバイオケミストリー」は日本

に期待される技術分野である。

○ 特に「ゲノム創薬」分野については、ビジネスチャンスを見極めて、ビジネスへ参入する

ことが必要である。ライフサイエンス技術の応用がもっとも期待される医療分野に属する

「ゲノム創薬」のプロセスでは技術的に未完成な部分も多く、ベンチャー企業等にとって

もビジネスチャンスの多い分野である。また、我が国が技術的に優位な完全長 cDNA 技術

も活かすことができ、これからの日本に期待される重点分野である。

○ ライフサイエンス分野ではグローバル化が強く求められるが、とりわけ医療分野において

はグローバルな視点に立って海外への展開が重要である。日本は外国への出願(コア出願)

の状況を見ても内国中心の出願構造となっており、米、欧の出願人のようなグローバルな

戦略を講じる必要がある。また中国への進出状況を見ても必ずしも十分でない状況にある。

図-43 国際競争力の強化

・国際競争力向上 ・ビジネスチャンスの創出(ベンチャー等)

・ポスト・ゲノムへの 広がり・グローバルな特許戦略

 <日本の強み>  ・ゲノム創薬 (バイオインフォマティクス、遺伝子・蛋白質解析を含む)  ・糖鎖工学  ・グリーンバイオケミストリー(バイオ化学品、微生物・酵素)

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【提言2】新需要創出型の産業技術(グリーンバイオケミストリー、ナノバイオテクノロ

ジー)の強化

○ 今後ライフサイエンス分野で新規に需要が創出される技術としてグリーンバイオケミス

トリーとナノバイオテクノロジーを強化する必要がある。従来から日本は微生物・酵素利

用の分野では世界をリードする技術力を保有してきており、また、日本の主要な研究開発

主体は医薬品だけではなく、化学、食品企業である。その優位性を利用して、「健康」「環

境」「食糧」といった観点で新需要を創出する産業技術を強化する必要がある。医療用薬

品等の開発だけではなく診断用技術、大衆薬、医薬部外品、栄養機能食品、一般食品等を

含むトータルな製品技術や、再生可能なバイオマスを資源としてバイオプロセスにより化

学品・食品を製造することを目指すグリーンバイオケミストリーは、今後日本が引き続き技

術的優位性を維持しなければならない重点分野である。

ナノバイオテクノロジーは、日本が得意とするナノテクノロジーと加工技術をバイオ技

術と融合させる技術である。原子間力顕微鏡・光ピンセットをはじめとする微少な領域の

測定機器・実験機器、DNA チップやプロテインチップへの応用、DDS 等に用いられる微少担

体・粒子を中心とした材料等にも広がり、今後大きな需要が創出されることが期待され、

日本が重点指向すべき分野である。

図-44 バイオプロセスの重要性

【提言 3】大学における研究開発の充実、TLO 機能の強化(大学発の研究成果を広く活用)

○ 日本の大学におけるライフサイエンス分野の主要な雑誌に掲載された論文は、近年その数

は増加の傾向にあるが、米国に比べ 1/4 程度である。また、ライフサイエンス分野の重要

特許をみるとほとんどが欧米からの出願によるもので、その多くは大学発の特許である。

大学における研究開発を更に充実させ、重要特許と見なされる基本的な特許、広い応用が

期待される特許を出願することが重要である。

○ 日本の大学の研究成果を、広く活用できるように TLO の機能を強化する必要がある。優秀

な研究者(論文上位 100 人)の特許出願傾向は、米国の対応する優秀な研究者と比べても

遜色がない。しかしながら、日本の研究者による特許出願の大部分は企業に実施権を譲っ

たうえでの出願であり、大学の研究成果の活用先としては限定されている。こうした特許

出願の形態は特許の活用という面では特定の企業に限定される等制限されることが多く

(企業の判断で、特許が死蔵する可能性がある)、よりオープンに利用して技術を発展さ

せることがが望まれる。即ち、従来のような企業に頼る形でなく、特許を大学帰属とする

一方で、技術移転のための TLO 活動を活発化させ、大学独自に戦略的な特許出願および特

ケミカルプロセス

・資源問題解決への寄与

・健康な社会増進

・環境問題への対応

バイオプロセスへの転換

 微生物学・酵素学 ゲノム科学・遺伝子工学 蛋白質工学・ …

新規需要の創出

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許の活用を行う必要がある。

図-45 大学技術シーズの展開

【提言 4】バイオベンチャー育成のための環境整備

○ 数の面から進展の見られる日本ベンチャーのおかれた環境を、ベンチャー企業をさらに質

的に向上させるために整備する必要がある。日本におけるバイオベンチャーの設立は 300

社を超え、その動きは活発化してきているものの、米国、欧州におけるバイオベンチャー

がそれぞれ 2,000 社、2,500 社を数えることと比較すると大きな開きがある。特に欧州に

おいては、日本と同様に米国に遅れてベンチャー企業が創出されてきたのにも関わらず、そ

のベンチャー企業の進展は、数の面から見ても、その企業群のステップアップについても目

覚ましいものがある。

今後、我が国バイオベンチャー企業の更なる発展のためには、米国、欧州の如くベンチ

ャーキャピタル、インキュベーターの整備等、ベンチャーを質的に進化させるような環境

を整備する必要がある。その際には、米国ベンチャーのバイオインフォマティクスを利用

した研究サポート型から創薬・探索型ベンチャーへの転身といった変化や、中国の躍進を

支えている背景となっている、大規模インキュベーターの充実、ベンチャーキャピタルの

集中投資、大学法人化を1年間で達成する等、政策実施の速さと徹底、海外技術者の呼び

戻し等先端技術のキャッチアップに国をあげて取り組むという状況に学ぶべきものがある。

○ 日本のバイオベンチャーとしては、保有する技術をビジネスにするまでの間の特許戦略を

構築する必要がある。日本のバイオベンチャーが持つ特許出願の状況をみると、米国のベ

ンチャーと比較してその数は非常に少なく、また出願はしても審査請求を行わない、海外出

願をしない等、その対応が十分ではない。一般にバイオベンチャーは、情報系ベンチャー

と比べて、ビジネスの成功までにより長期間かかるが、その間、特許取得、その特許を中

心とした応用研究およびその特許取得といった保有技術を確たるものとすることが必要

である。

技術の活用される機会が拡大

大学の発明

<従来>特定企業との提携 企業からの特許出願

<今後>大学の独自性の欠如技術の発展に限界

TLO機能の強化

産業応用(大学発ベンチャー)

産業応用

大学技術シーズの展開

関連出願

研究開発の更なる発展 ニーズとシーズの

マッチング

大学、TLOからの特許出願

技術の応用分野の拡大

企業との提携

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図-46 日米欧のバイオベンチャーを取り巻く状況

国 バイオ

ベンチャー数

ベンチャー

キャピタル投資

インキュ

ベーター数 特許出願 業態

日本 300(○) △ △ △ 大企業サポート型

米国 2,000(◎) ◎ ◎ ◎ シーズ探索型

欧州 2,500(◎) ○ ◎ △ ―

参考文献、URL 1 科学技術基本計画 http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/ http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/kihonkei/kihonkei.htm

2 欧州バイオ戦略 http://europa.eu.int/comm/biotechnology/pdf/doc_en.pdf (document) http://europa.eu.int/comm/biotechnology/pdf/ecworkshopsreports_en.pdf(working reports) http://europa.eu.int/comm/biotechnology/pdf/com2002-27_en.pdf (policy paper)

3 バイオテクノロジー戦略大綱 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/bt/index.html 4 http://www.genomics.org.cn:8080/bgi/english/main.htm 5 http://btn.genomics.org.cn/rice/ 6 バイオ技術研究イニシアティブ White House の HP には Clinton 政権時代のものが載っていないので、関連する記事のみ。 http://www.ibiblio.org/pub/archives/whitehouse-papers/1993/Apr/Six-Major-RandD-Initiatives-Included-in-Presidents-FY94-Bdgt (SIX MAJOR R&D INITIATIVES INCLUDED IN PRESIDENT'S FY'94 BUDGET) http://www.cfsan.fda.gov/~lrd/whbio53.html (2000 年 3 月の記事) http://www.nsf.gov/sbe/srs/seind93/chap4/doc/4d393.htm

7 2001 年度予算教書 http://www.nih.gov/news/budgetfy2003/2003NIHpresbudget.htm (NIH の報告) http://www.nih.gov/news/budgetfy2003/2003NIHpresbudget.pdf(NIH の報告、PDF) http://w3.access.gpo.gov/usbudget/fy2001/pdf/hhs.pdf (Department of Health and Human Services, except Social Security) http://w3.access.gpo.gov/usbudget/fy2001/maindown.html (2001 年 full)

8 2003 年度予算大統領案 http://w3.access.gpo.gov/usbudget/fy2003/maindown.html (2003 年 full) 9 EU コミュニケ http://www.jpo.go.jp/saikin/comm.htm http://www.jpo.go.jp/saikin/comm.htm http://www.jpo.go.jp/tousi/nenzi2000/1/1-4-7.pdf

10 EUREKA(European Research Coordination Agency) http://www.eureka.be/ifs/files/ifs/jsp-bin/eureka/ifs/jsps/publicHome.jsp 11 知的財産戦略専門調査会 http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/ip/imain.html 12 知的財産戦略会議 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki/ 13 知的財産基本法:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/hourei/kihon.html 14 知的財産戦略本部 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ 15 (財)国際開発高等教育機構「中国におけるバイオ戦略と開発」2002 年3月 16 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.himl 17 http://www4.od.nih.gov/oba/rac/guidelines/guidejan01.htm 18 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/11/06/990640a.htm 19 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/dna.htm 20 http://www.s.affrc.go.jp/docs/sentan/guide/guide.htm 21 http://www.biodic.go.jp/cbd/s1/k/s1k01.pdf 22 http://www.s.affrc.go.jp/docs/sentan/guide/guide.htm 23 橳島次郎 先端医療のルール,38(2001),講談社 24 CIHR ガイドライン http://www.cihr-irsc.gc.ca/publications/ethics/stem_cell/stem_cell_recommendations_e .pdf 25 ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/index.htm 26 http://www.uspto.gov/web/offices/ac/ido/oeip/taf/us_stat.pdf 27 Nature Biotechnology vol.20 (2002), 551-555 28 http://www.hupo.org 29 http://www.jhupo.org

課題 ◆ ベンチャーをサポートする環境整備 ◆ ベンチャーの役割変化への対応 ◆ 特許取得による保有技術の確保

【お問い合わせ先】特許庁 総務部 技術調査課 技術動向班

TEL:03-3581-1101(内 2155) FAX:03-3580-5741

E-mail:[email protected]