ほ場で測定したスペクトルによる -...

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小平正和*, 澁澤栄 国立大学法人 東京農工大学 大学院 農学研究院 *Corresponding Author, E-mail: [email protected] ほ場で測定したスペクトルによる 多項目回帰モデル推定と土壌マップ 参考文献 1 Kuang, B., Mahmood, H. S., Quraishi, M. Z., Hoogmoed, W. B., Mouazen, A. M., van Henten, E. J., 2012. Sensing soil properties in the laboratory, in situ, and on-line: a review. Advances in Agronomy, 114, 155-223. 謝辞 本研究は、革新的技術開発・緊急展事業(うち地域戦略プロジェクト)の研究課題「農業IoTによる県特産野菜「サトイモ」の高品質安定多収技術の確立と地域への展開」(ID番号16822280)の成果の一部である。 背景と目的ほ場内の生育や農産物品質のばらつきが可視化され始め、土壌においても要求が高まっている。慣行型土壌マッピングでは、土壌試料 採取労力、費用、分析期間が課題である。位置情報付きスペクトル利用型土壌マッピングは、生産者の作業体系に合わせた高精細な土壌マッピングを可能 とした。本研究では、土壌診断34項目の回帰モデル推定結果と、ほ場間、ほ場内の相対値としてのばらつき把握による営農戦略の生産者判断例を示す。 装置・解析手法 供試装置:自走型軽量土壌分析システム(SAS3000:Fig.1) 測定波長領域:350~1700nm、 速度:1Km/h、 測定間隔:3秒毎、 土壌深度:0.15m、 位置情報:DGPS、 GISソフト:簡易GIS表示機能(Fig.2) 供試ほ場:埼玉県狭山市サトイモ輪作ほ場、 土壌試料数:100(3農家、9筆) 回帰モデル推定:The Unscrambler V9.8 (CAMO, Norway) 2次微分(Savitzky-Golay法、スムージングポイント21)、 PLS解析(Full cross-validation) 34項目の回帰モデル推定結果(Table 1、2) 吸光度はFig.3、解析波長領域(500~1600nm)の2次微分吸光度はFig.4であった。 遊離酸化鉄と硝酸態窒素、熱水可溶性ホウ素の回帰モデルは、R 2 >0.82を満たせなかった。 ※1:R 2 >0.82の回帰モデルは、ローカル回帰モデルとして使用可能 土壌診断にも利用可能なローカル回帰モデルは、有効態リン酸(Fig.5)と交換性苦土、塩基飽和度、 石灰・苦土比、苦土・加里比であった(基準値は、栽培地域や作物、品種で異なる)。 第34回近赤外フォーラム 北海道大学 学術交流会館 1F 2018年11月20日(火)~22日(木) 標準 過剰 不足 分類 位置情報付きスペクトル利用型土壌マッピング 1筆管理型マップ ラインマップ グリッドマップ 3秒毎に データ取得 100m:約100データ取得 作業体系に合わせた土壌マッピングによる可変作業の可能 Fig.2 簡易GIS表示機能 慣行型土壌マッピング 5点混合土壌1サンプル 公定法土壌分析 約1ヶ月 1筆管理型マップ 1筆34項目の土壌分析費用2万円(研究機関向け) GAP 合筆判断 農地基盤整備 農地集約・集積 作物・品種選定 環境保全型農業 局所管理など 営農戦略 Fig.1 SAS3000 サトイモ品種の土垂は、窒素が多いと草丈、葉および親芋の成長が旺盛 になり、子芋、孫芋は小ぶりになる。当初①に土垂、②に蓮葉の定植を予定 したが、窒素の影響を受け難い品種の蓮葉を①に定植した。(Fig.6) ほ場⑧の東側は、過去に客土を行った経緯があり、西側はサトイモが小 さい特徴があった。予測値土壌マップのばらつきも東西に分かれたことか ら、生産者は畝立て方向を東西から南北方向に変更した。(Fig.6、7) F:要因数、 N:土壌試料数、 RMSERoot mean square errorVal:ValidationR 2 :決定係数 Table 1 34項目の回帰モデル推定結果 (Full cross validation) 1 pH 6.0 6.5 7 90 5.9 7.2 0.142 0.84 2 リン酸吸収係数 700 以下 10 89 1540 2359 65.40 0.83 3 置換酸度 6 60 0.31 0.94 0.071 0.82 4 乾燥密度 7 72 0.83 1.00 0.015 0.83 5 塩基置換容量 me/100g 20 30 8 87 29.1 49.0 2.077 0.83 6 電気伝導率 mS/cm 0.2 0.7 5 57 0.1 0.2 0.012 0.83 7 % 5 80 27.3 44.9 1.616 0.83 8 シルト % 4 58 30.1 40.0 0.901 0.83 9 粘土 % 6 72 21.7 35.5 1.080 0.82 10 含水比 % 8 77 35.4 51.8 1.172 0.83 11 有機物含有量 % 6 84 15.5 20.8 0.635 0.82 12 腐植率 % 3 以上 9 90 4.4 10.0 0.393 0.90 13 ナトリウム率 % 20 以下 7 83 0.1 0.4 0.025 0.85 14 遊離酸化鉄 % 0.8 2.0 2 50 4.1 4.6 0.107 0.37 15 炭素率 % 8 91 10.6 13.6 0.285 0.83 16 全炭素 % 10 99 2.5 6.6 0.319 0.85 17 全窒素 % 9 98 0.2 0.5 0.026 0.82 18 熱水抽出窒素 mg /100g 5 7 8 82 4.8 12.2 0.843 0.83 19 硝酸態窒素 mg /100g 10 以下 3 50 0.2 1.1 0.148 0.65 20 アンモニア態窒素 mg /100g 6 61 2.4 5.8 0.371 0.82 21 有効態ケイ酸 mg /100g 15 30 8 95 81 196 13.243 0.84 22 有効態リン酸 mg /100g 10 30 3 68 0.6 54.4 5.141 0.83 23 交換性加里 mg /100g 15 30 6 86 22 110 9.979 0.83 24 交換性石灰 mg /100g 200 300 8 96 255 1295 111.55 0.82 25 交換性苦土 mg /100g 25 45 4 79 0.8 98.5 8.241 0.82 26 交換性ナトリウム mg /100g 15 以下 4 88 1.5 5.0 0.407 0.83 27 可溶性亜鉛 ppm 2 40 6 77 5 19 1.487 0.82 28 易還元性マンガン ppm 50 500 7 98 17.6 92.5 8.19 0.83 29 熱水可溶性ホウ素 ppm 0.5 1.0 1 50 0.3 0.4 0.016 0.78 30 可溶性銅 ppm 0.5 8.0 8 93 0.2 2.7 0.290 0.82 31 塩基飽和度 % 60 80 7 74 48 110 6.364 0.82 32 石灰飽和度 % 40 60 8 81 39 103 6.602 0.84 33 苦土・加里比 当量比 2 以上 9 74 1.6 4.2 0.293 0.84 34 石灰・苦土比 当量比 6 以下 10 93 3.6 21.0 2.230 0.83 項目 基準値 畑作 単位 F N RMSE val R 2 val アウトライヤー 除外後分析値 範囲 ばらつき把握による営農戦略の生産者判断例 課題 ●基準値を含む幅広い土壌分析値のスペクトルデータ収集 ●回帰モデル最適化(解析波長範囲、前処理など) Fig.6 4項目の予測値土壌マップ Fig.3 吸光度スペクトル(N=100) Fig.4 2次微分吸光度スペクトル(N=100) (1/10000) Table 2 回帰モデル評価分類方法 ※1 評価分類 R 2 Val 信頼できる 0.90 使用可能 0.820.90 おおよその予測可能 0.660.81 高いか低いかの区別可 0.500.65 不可 0.50 2017年12月測定 まとめ ●31/34項目は、R 2 >0.82のローカル回帰モデルを得た。 ●予測値土壌マップが、生産者に活用された。 P-30 2015/11 2018/3 Fig.7 畝立て方向の変更 Fig.5 有効態リン酸の検量線と土壌診断基準値 基準値範囲

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Page 1: ほ場で測定したスペクトルによる - web.tuat.ac.jpweb.tuat.ac.jp/~sakaes/shibuken/files/LTSTINFO-SAS.pdf · (Savitzky-Golay法、スムージングポイント21)

小平正和*, 澁澤栄

国立大学法人 東京農工大学 大学院 農学研究院 *Corresponding Author, E-mail: [email protected]

ほ場で測定したスペクトルによる 多項目回帰モデル推定と土壌マップ

参考文献 ※1 Kuang, B., Mahmood, H. S., Quraishi, M. Z., Hoogmoed, W. B., Mouazen, A. M., van Henten, E. J., 2012. Sensing soil properties in the laboratory, in situ, and on-line: a review. Advances in Agronomy, 114, 155-223.

謝辞 本研究は、革新的技術開発・緊急展事業(うち地域戦略プロジェクト)の研究課題「農業IoTによる県特産野菜「サトイモ」の高品質安定多収技術の確立と地域への展開」(ID番号16822280)の成果の一部である。

背景と目的:ほ場内の生育や農産物品質のばらつきが可視化され始め、土壌においても要求が高まっている。慣行型土壌マッピングでは、土壌試料

採取労力、費用、分析期間が課題である。位置情報付きスペクトル利用型土壌マッピングは、生産者の作業体系に合わせた高精細な土壌マッピングを可能とした。本研究では、土壌診断34項目の回帰モデル推定結果と、ほ場間、ほ場内の相対値としてのばらつき把握による営農戦略の生産者判断例を示す。

装置・解析手法 供試装置:自走型軽量土壌分析システム(SAS3000:Fig.1) 測定波長領域:350~1700nm、 速度:1Km/h、 測定間隔:3秒毎、 土壌深度:0.15m、 位置情報:DGPS、 GISソフト:簡易GIS表示機能(Fig.2) 供試ほ場:埼玉県狭山市サトイモ輪作ほ場、 土壌試料数:100(3農家、9筆) 回帰モデル推定:The Unscrambler V9.8 (CAMO, Norway) 2次微分(Savitzky-Golay法、スムージングポイント21)、 PLS解析(Full cross-validation)

34項目の回帰モデル推定結果(Table 1、2)

●吸光度はFig.3、解析波長領域(500~1600nm)の2次微分吸光度はFig.4であった。 ●遊離酸化鉄と硝酸態窒素、熱水可溶性ホウ素の回帰モデルは、R2>0.82を満たせなかった。 ※1:R2>0.82の回帰モデルは、ローカル回帰モデルとして使用可能 ●土壌診断にも利用可能なローカル回帰モデルは、有効態リン酸(Fig.5)と交換性苦土、塩基飽和度、石灰・苦土比、苦土・加里比であった(基準値は、栽培地域や作物、品種で異なる)。

第34回近赤外フォーラム 北海道大学 学術交流会館 1F

2018年11月20日(火)~22日(木)

標準

過剰

不足

分類

位置情報付きスペクトル利用型土壌マッピング

1筆管理型マップ ラインマップ グリッドマップ

3秒毎に データ取得

100m:約100データ取得 作業体系に合わせた土壌マッピングによる可変作業の可能

Fig.2 簡易GIS表示機能

慣行型土壌マッピング

5点混合土壌1サンプル

公定法土壌分析 約1ヶ月

1筆管理型マップ

1筆34項目の土壌分析費用2万円(研究機関向け)

GAP 合筆判断

農地基盤整備 農地集約・集積 作物・品種選定 環境保全型農業 局所管理など

営農戦略

Fig.1 SAS3000

●サトイモ品種の土垂は、窒素が多いと草丈、葉および親芋の成長が旺盛になり、子芋、孫芋は小ぶりになる。当初①に土垂、②に蓮葉の定植を予定したが、窒素の影響を受け難い品種の蓮葉を①に定植した。(Fig.6) ●ほ場⑧の東側は、過去に客土を行った経緯があり、西側はサトイモが小さい特徴があった。予測値土壌マップのばらつきも東西に分かれたことから、生産者は畝立て方向を東西から南北方向に変更した。(Fig.6、7)

F:要因数、 N:土壌試料数、 RMSE:Root mean square error、 Val:Validation、 R2:決定係数

Table 1 34項目の回帰モデル推定結果 (Full cross validation)

1 pH ― 6.0~6.5 7 90 5.9 ~ 7.2 0.142 0.842 リン酸吸収係数 ― 700以下 10 89 1540 ~ 2359 65.40 0.833 置換酸度 ― ― 6 60 0.31 ~ 0.94 0.071 0.824 乾燥密度 ― ― 7 72 0.83 ~ 1.00 0.015 0.835 塩基置換容量 me/100g 20~30 8 87 29.1 ~ 49.0 2.077 0.836 電気伝導率 mS/cm 0.2~0.7 5 57 0.1 ~ 0.2 0.012 0.837 砂 % ― 5 80 27.3 ~ 44.9 1.616 0.838 シルト % ― 4 58 30.1 ~ 40.0 0.901 0.839 粘土 % ― 6 72 21.7 ~ 35.5 1.080 0.82

10 含水比 % ― 8 77 35.4 ~ 51.8 1.172 0.8311 有機物含有量 % ― 6 84 15.5 ~ 20.8 0.635 0.8212 腐植率 % 3以上 9 90 4.4 ~ 10.0 0.393 0.9013 ナトリウム率 % 20以下 7 83 0.1 ~ 0.4 0.025 0.8514 遊離酸化鉄 % 0.8~2.0 2 50 4.1 ~ 4.6 0.107 0.3715 炭素率 % ― 8 91 10.6 ~ 13.6 0.285 0.8316 全炭素 % ― 10 99 2.5 ~ 6.6 0.319 0.8517 全窒素 % ― 9 98 0.2 ~ 0.5 0.026 0.8218 熱水抽出窒素 mg /100g 5~7 8 82 4.8 ~ 12.2 0.843 0.8319 硝酸態窒素 mg /100g 10以下 3 50 0.2 ~ 1.1 0.148 0.6520 アンモニア態窒素 mg /100g ― 6 61 2.4 ~ 5.8 0.371 0.8221 有効態ケイ酸 mg /100g 15~30 8 95 81 ~ 196 13.243 0.8422 有効態リン酸 mg /100g 10~30 3 68 0.6 ~ 54.4 5.141 0.8323 交換性加里 mg /100g 15~30 6 86 22 ~ 110 9.979 0.8324 交換性石灰 mg /100g 200~300 8 96 255 ~ 1295 111.55 0.8225 交換性苦土 mg /100g 25~45 4 79 0.8 ~ 98.5 8.241 0.8226 交換性ナトリウム mg /100g 15以下 4 88 1.5 ~ 5.0 0.407 0.8327 可溶性亜鉛 ppm 2~40 6 77 5 ~ 19 1.487 0.8228 易還元性マンガン ppm 50~500 7 98 17.6 ~ 92.5 8.19 0.8329 熱水可溶性ホウ素 ppm 0.5~1.0 1 50 0.3 ~ 0.4 0.016 0.7830 可溶性銅 ppm 0.5~8.0 8 93 0.2 ~ 2.7 0.290 0.8231 塩基飽和度 % 60~80 7 74 48 ~ 110 6.364 0.8232 石灰飽和度 % 40~60 8 81 39 ~ 103 6.602 0.8433 苦土・加里比 当量比 2以上 9 74 1.6 ~ 4.2 0.293 0.8434 石灰・苦土比 当量比 6以下 10 93 3.6 ~ 21.0 2.230 0.83

項目基準値畑作

単位 F N RMSEval R2val

アウトライヤー除外後分析値

範囲

ばらつき把握による営農戦略の生産者判断例

課題 ●基準値を含む幅広い土壌分析値のスペクトルデータ収集 ●回帰モデル最適化(解析波長範囲、前処理など)

Fig.6 4項目の予測値土壌マップ

Fig.3 吸光度スペクトル(N=100)

Fig.4 2次微分吸光度スペクトル(N=100)

(1/10000)

Table 2 回帰モデル評価分類方法※1

評価分類 R2Val

信頼できる > 0.90使用可能 0.82-0.90おおよその予測可能 0.66-0.81高いか低いかの区別可 0.50-0.65不可 < 0.50

2017年12月測定

まとめ ●31/34項目は、R2>0.82のローカル回帰モデルを得た。 ●予測値土壌マップが、生産者に活用された。

P-30

2015/11

⑧⑧

2018/3

Fig.7 畝立て方向の変更

Fig.5 有効態リン酸の検量線と土壌診断基準値

基準値範囲