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1 オンライン 2. 2. SGLT2 阻害薬は近位尿細管の S1 領域に存在する SGLT2 による Na および糖の 再吸収を阻害し,尿中に糖を"捨てさせる"働きを介して血糖降下作用を示す. SGLT2 阻害薬については,EMPA-REG や CANVAS といった大規模試験で心血管イベ ントの抑制作用および腎保護作用が示されている ○a 血圧は収縮期・拡張期ともに低下を示し,これは Na 利尿を介したものと 思われる. ×b 重症腎機能低下(一般に eGFR 30 未満)では血糖降下作用は消失するが, 体重減少作用は示される. ○c Empagliflozin による EMPA-REG や Canagliflozin による CANVAS といった 大規模試験において有意の心血管イベントの抑制作用が示された. ×d 高齢者にも投与可能である.むしろインスリン分泌増強作用を介さない 血糖降下作用により低血糖が起こりにくい点から高齢者に対しても投与が好ま しい状況は少なくない. ×e 血糖コントロールは改善するが,尿糖排泄促進を介した作用が中心と考 えられている.インスリン分泌亢進作用は示さず,むしろ糖毒性改善の結果内 因性インスリン分泌は低下する場合が多い.なお体重減少作用も有するが,体 重減少と HbA1c の改善については相関しない場合が多い ●SGLT2阻害薬は利尿作用を有するため,脳血管障害が特に多いアジア人におけ る安全性が懸念されたが,EMPA-REG のアジア人を中心にしたサブ解析では,脳 血管障害の増加は示されなかった.その一方で CANVAS 試験では下肢切断リスク の上昇が示唆され,こちらについては現時点では見解が定まっておらず,今後 の推移を見守ることとなる. 3. ●GPA は臨床的には目・耳・鼻の上気道病変,肺(腫瘤性陰影)・気管支の 下気道病変,腎病変(壊死性半月体形成性腎炎),病理学的には壊死性血管炎 と肉芽腫形成を特徴とする. ●GPA で副腎皮質ステロイドに加えて使用される免疫抑制薬としてはシクロホ スファミドが第 1 選択薬となる. ●抗 CD20 抗体であるリツキシマブも難治性,再発性の場合には選択され,欧米 ではシクロホスファミドと並び寛解導入療法に選択される.

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オンライン 2. 2.SGLT2 阻害薬は近位尿細管の S1 領域に存在する SGLT2 による Na および糖の

再吸収を阻害し,尿中に糖を"捨てさせる"働きを介して血糖降下作用を示す.

SGLT2 阻害薬については,EMPA-REG や CANVAS といった大規模試験で心血管イベ

ントの抑制作用および腎保護作用が示されている

○a 血圧は収縮期・拡張期ともに低下を示し,これは Na 利尿を介したものと

思われる.

×b 重症腎機能低下(一般に eGFR30 未満)では血糖降下作用は消失するが,

体重減少作用は示される.

○c EmpagliflozinによるEMPA-REGや CanagliflozinによるCANVASといった

大規模試験において有意の心血管イベントの抑制作用が示された.

×d 高齢者にも投与可能である.むしろインスリン分泌増強作用を介さない

血糖降下作用により低血糖が起こりにくい点から高齢者に対しても投与が好ま

しい状況は少なくない.

×e 血糖コントロールは改善するが,尿糖排泄促進を介した作用が中心と考

えられている.インスリン分泌亢進作用は示さず,むしろ糖毒性改善の結果内

因性インスリン分泌は低下する場合が多い.なお体重減少作用も有するが,体

重減少と HbA1c の改善については相関しない場合が多い

●SGLT2 阻害薬は利尿作用を有するため,脳血管障害が特に多いアジア人におけ

る安全性が懸念されたが,EMPA-REG のアジア人を中心にしたサブ解析では,脳

血管障害の増加は示されなかった.その一方で CANVAS 試験では下肢切断リスク

の上昇が示唆され,こちらについては現時点では見解が定まっておらず,今後

の推移を見守ることとなる.

3.●GPA は臨床的には目・耳・鼻の上気道病変,肺(腫瘤性陰影)・気管支の

下気道病変,腎病変(壊死性半月体形成性腎炎),病理学的には壊死性血管炎

と肉芽腫形成を特徴とする.

●GPA で副腎皮質ステロイドに加えて使用される免疫抑制薬としてはシクロホ

スファミドが第 1選択薬となる.

●抗 CD20 抗体であるリツキシマブも難治性,再発性の場合には選択され,欧米

ではシクロホスファミドと並び寛解導入療法に選択される.

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補足事項

●抗好中球細胞質抗体(ANCA)には MPO(myeloperoxidase)-ANCA と PR3

(proteinase3)-ANCA の 2 つのサブタイプがある.MPO-ANCA は顕微鏡的多発

血管炎,PR3-ANCA は GPA の疾患特異的自己抗体として知られていたが,日本の

GPA 症例では MPO-ANCA 陽性が約半数を占める.

4. アスピリン喘息 この患者に使用すべきでない薬剤はどれか.2 つ選べ. a インドメタシン内服 b セレコキシブ内服 c メチルプレドニゾロン注射 d デキサメタゾン注射 e ベタメタゾン注射 アスピリン喘息はアスピリンに対するアレルギーではなく,COX-1 阻害作用をも

つ NSAIDs により,強い気道症状を呈する不耐症である.そのため,選択的 COX-2

阻害薬は安全に使用できる.また,アスピリン喘息患者はコハク酸エステル構

造をもつステロイドにより発作を生じやすいという特徴もある

×a 強い COX-1 阻害作用を有するため,禁忌である.don't

○b 選択的 COX-2 阻害薬であり,安全と考えられているが,重症不安定例で

は増悪したとの報告がある.

×c コハク酸エステル型ステロイドであり,使用を避けるべきである.

○d,e リン酸エステル型ステロイドであり,安全と考えられているが,溶

液の添加物に注意が必要なため,急速静注は避けなければいけない.

基本事項

■ アスピリン喘息に対する消炎薬の適応

分類

コハク酸エステル型ステロイ

(禁忌)

リン酸エステル型ステロ

イド

(投与時は添加物に注意)

ヒドロコルチゾンソル・コーテフ®,サクシゾン®

など

水溶性ハイドロコートン®な

プレドニゾロン 水溶性プレドニン®など -

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メチルプレドニゾロ

ン ソル・メドロール®など -

デキサメタゾン - デカドロン®など

ベタメタゾン - リンデロン®など

※以上の薬剤は全て静注薬である.ここでは示していないが,ステロイド内服

薬については非エステル型なので安全に使用可能である.

5.Maturityonsetdiabetesofyoung〈MODY〉について正しいのはどれか.2

つ選べ

a 日本人で も多い MODY は MODY1 である. b MODY5 の原因遺伝子は HNF-1βである. c MODY5 では腎囊胞や腎機能障害が起こりやすい. d MODY5 の遺伝子異常はアジア人では報告されていない. e MODY のうち原因遺伝子が同定されたのは 3 種類である Maturityonsetdiabetesofyoung(MODY)は常染色体優性遺伝(AD:autosomal

dominant)形式を取り,若年発症(25 歳以下)を特徴とする,単一遺伝子の変

異により発症するインスリン非依存性糖尿病である.遺伝性糖尿病の代表とし

て,糖尿病の遺伝的成因の解明において注目されてきたが,MODY の症例は一定

の頻度で存在し,特に MODY5 は特徴的な臨床像を呈するため,疾患として見過

ごされてはならない.

×a HNF-1α変異である MODY3 が多いとされている.

○b MODY5 は染色体領域 17q12 に存在する HNF-1βの変異が原因である.

○c MODY5 は腎囊胞が特徴で,多発性囊胞腎が鑑別に挙がる.

×d MODY5 の 初の家系はわが国から報告された.

×e MODY に何種類あるかは見解が分かれるが,少なくとも 6種類は原因遺伝

子が同定されている.

●commondiseaseの代表である糖尿病の遺伝的原因検索はMODYの検索を通じて

原因遺伝子を同定する時代から,genomewideassociationanalysis(GWAS)

で多くの疾患感受性領域が同定される時代に移り,さらにはエクソーム解析や

次世代シーケンサーの時代に移ろうとしている.

6. 急性腎障害の早期診断に有用な尿中バイオマーカーはどれか.2 つ選べ. a クレアチニン b Ⅳ型コラーゲン

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c NTX(I 型コラーゲン架橋 N-テロペプチド) d L-FABP(L-type fatty acid-binding protein) e NGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin) 急性腎障害の診断は血清クレアチニン値の上昇と尿量減少に基づいておこなわ

れるが,診断のついた段階で治療介入のタイミングを逃していることが多いた

め,より鋭敏なバイオマーカーによる早期診断が早期治療介入に重要と考えら

れている.近年,急性腎障害の新規尿中バイオマーカーとして,尿中 L-FABP ま

た尿中 NGAL が保険収載された.いずれも尿中β2ミクログロブリンや尿中 NAG

などの従来の尿中バイオマーカーより,急性腎障害の早期診断に有用であるこ

とが報告されている.

×a 尿中クレアチニンは,様々な尿中物質の一日排泄量を知る際の補正など

に用いる.尿中クレアチニンの単独の評価では腎障害マーカーにはならない.

×b 尿中Ⅳ型コラーゲンは,糖尿病性腎症の早期診断マーカーとして注目さ

れている.

×c 尿中 NTX は骨吸収状態の有用なマーカーとなり,骨粗鬆症治療の際に用

いられることが多い.

○d 尿中L-FABPは急性腎障害の鋭敏なバイオマーカーとして保険収載された.

○e 尿中 NGAL は急性腎障害の鋭敏なバイオマーカーとして保険収載された.

「急性腎障害診療ガイドライン 2016」においては,急性腎障害診断に関して従

来の診断基準よりも生命予後の予測に優れた KDIGO 基準を用いることが提案さ

れている.KDIGO基準では,①48時間以内の血清クレアチニン増加量≧0.3mg/dL,

②7 日以内の血清クレアチニン基礎値からの 1.5 倍上昇,③6時間以上持続する

尿量低下(0.5mL/kg/時以下)のいずれか一つを満たせば急性腎障害と診断し,

その程度により病期を 3段階に分けている.尿中 L-FABP や尿中 NGAL は,この

基準により AKI が診断される前から上昇し始めることが報告されており,より

早期の診断に有用な可能性がある.

■ AKI 病期(KDIGO 分類)(E92)

病期 血清クレアチニン 尿量

1基礎値の 1.5〜1.9 倍

または≧0.3mg/dL の増加 6〜12 時間で<0.5mL/kg/時

2 基礎値の 2.0〜2.9 倍 12 時間以上で<0.5mL/kg/時

3 基礎値の 3倍 24 時間以上で<0.3mL/kg/時

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または≧4.0mg/dL の増加

または腎代替療法の開始

または,18 歳未満の患者では eGFR

<35mL/分/1.73m2の低下

または 12 時間以上の無尿

日本腎臓学会/KDIGO ガイドライン全訳版作成ワーキングチーム監訳:

急性腎障害のための KDIGO 診療ガイドライン:p.9〜10,東京医学社,2014

7.正しい組合せはどれか.2 つ選べ. a 抗 Scl-70 抗体 - 臓器障害が少ない限局性強皮症 b 抗 U1-RNP 抗体 - 混合性結合組織病 c 抗セントロメア抗体 - 皮膚潰瘍を伴う全身性強皮症 d 抗 RNA ポリメラーゼⅢ抗体 - 腎障害を伴う全身性強皮症 e 抗アミノアシル tRNA 合成酵素〈ARS〉抗体 - 間質性肺炎を伴う全身性

強皮症 近年,全身性強皮症に関する抗体が保険収載された.抗 RNA ポリメラーゼⅢ抗

体は腎クリーゼを伴う全身性強皮症に関連する抗体で,速やかな治療介入を要

する.

×a 抗 Scl-70 抗体は皮膚潰瘍を伴う全身性強皮症に関連する抗体で,日本人

では強皮症の約 30%が陽性である.

○b 抗 U1-RNP 抗体は混合性結合組織病に関連する抗体である.

×c 抗セントロメア抗体は臓器障害が少ない限局性強皮症に関連する抗体で,

日本人では強皮症の約 30%が陽性である.

○d 抗 RNAポリメラーゼⅢ抗体は,腎クリーゼを伴う全身性強皮症に関連し,

強皮症の約 5%が陽性である.このような症例では,アンジオテンシン変換酵素

阻害薬などによる速やかな治療介入を要する.

×e 抗アミノアシル tRNA 合成酵素(ARS)抗体は多発性筋炎および皮膚筋炎

に特異的に検出され,慢性の間質性肺炎を高率に併発する.

8.PCSK9 阻害薬について正しいのはどれか.2 つ選べ.

a 同薬投与により血中 PCSK9 濃度は低下する.

b スタチン系薬剤との併用が原則となっている.

c 家族性高コレステロール血症のみが保険適用となっている.

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d 同薬は LDL 受容体のみならず VLDL 受容体にも作用する.

e 高感度 CRP は同薬の投与開始後より低下することが知られている.

2016 年に登場した PCSK9 阻害薬は強力な LDL 低下作用で注目を集めている.本

剤は PCSK9 による肝の LDL 受容体の分解を阻害し,LDL 受容体による LDL-C の取

り込みを促進して血中 LDL-C を低下させる.本剤の特徴と適切な使用について

理解を深めておくことは内科医として必要なことである.

×a 血中の PCSK9は抗体でトラップされるため PCSK9の血中濃度は上昇する.

○b HMG-CoA還元酵素阻害薬には肝のLDL受容体の発現を増強する作用があり,

LDL受容体の分解を阻害するPCSK9阻害薬と併用するとLDL低下の効果が増強す

るため併用が原則である.

×c 保険適用は家族性高コレステロール血症のみならず高コレステロール血

症である.ただし,心血管イベントの発現リスクが高く,HMG-CoA 還元酵素阻害

薬で効果不十分な場合に限る,とされている.

○d LDL 受容体のリサイクリングを促進し,LDL の処理を高めるのが主作用だ

が,VLDL 受容体に対する作用もあり,VLDL コレステロールも低下を示すとされ

ている.

×e 高感度 CRP に対しては,スタチンは低下作用を示す一方で,本薬は変化

を示さない.むしろ投与開始後早期(半年以内)では上昇作用を示すとの報告

もある.

●第 2 のスタチンかと鳴り物入りで登場した PCSK9 阻害薬であるが,価格の高

さと保険適用が足かせとなっている印象は否めない.ただし LDL 低下作用は確

実であり,またスタチンでは低下しない Lp(a)の低下作用と相まって,今後広

く用いられるようになると予想される.

●高感度 CRP は CRP と同じ蛋白質を測定するが,CRP よりも低濃度で測定するこ

とができるため,CRP では検出できない心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を早期に

発見することができる

9.J-DOIT3 について正しいのはどれか.2 つ選べ. a 大血管障害の既往例は対象外であった. b インクレチン系薬剤は使われていなかった. c 重症低血糖の発症率は年 0.1%未満であった. d 心血管イベント,腎イベント,網膜症イベントが有意に低下していた. e 死因の約 60%は悪性新生物であり,強化療法群・従来治療群での群間差は認められなかっ

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た.

解法の要点

日本で行われた糖尿病の大規模介入試験である J-DOIT3(2 型糖尿病患者を対象

とした血管イベント抑制のための強化療法と従来療法とのランダム化比較試験)

の成績が 2017 年に発表された.そこで示されたのは,現在の日本の糖尿病臨床

の実情と実力であり,日常臨床において重要な情報を与えてくれる試験である.

(D46)

選択肢解説

×a 1 割程度は大血管障害の既往のある二次予防の症例であった.

×b GLP-1 受容体作動薬は約 4%,DPP-4 阻害薬は 50%以上の症例に投与され

ていた.

○c 強化療法群で低血糖の報告が多かったものの,重症低血糖の発症率は強

化療法群・従来治療群いずれにおいても年 0.1%未満であった.

×d 心血管イベントについては発症数が少なく有意な低下は示されなかった

が,脳血管イベントについては有意な低下が確認された.

○e 悪性新生物による死亡が強化療法群・従来治療群いずれにおいても 2/3

を占めており,糖尿病診療における悪性疾患の早期診断の重要性が再確認され

た.

●J-DOIT3 では全体としてのイベント発症率の低さから有意差は示されなかっ

た.わが国において,糖尿病発症早期から介入を行えば,従来療法群において

さえも血管障害はかなりの程度予防可能であること,また重症低血糖の少なさ

は欧米に比してもきめ細やかな臨床が日常的に行われていることを反映してい

ると考えられる.一方で死因における悪性疾患の割合の高さは注目されるべき

である.今後も本試験のサブ解析が継続的に発表されていくものと考えられる.

10.潰瘍・壊死を伴う重症下肢虚血(criticallimbischemia;CLI)(Fontain

Ⅳ度)の場合,保存的治療では救肢不可能のため,治療の第一選択は血行再建

術であり,MRAやCT検査などで動脈病変を評価したうえで待機的に施行される.

潰瘍・壊死を伴わない症候性 ASO(FontainⅡ・Ⅲ度)では,血管拡張作用兼抗

血小板作用を有するシロスタゾール投与下での積極的歩行運動の励行と,3〜6

ヵ月の経過観察の後,これらが無効あるいは不十分と認められた場合には血行

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再建術が行われる.なお,緊急血行再建術は急性動脈閉塞に対して適応となり,

ASO などの慢性的に進行する動脈閉塞症に対しては通常待機的な血行再建術が

行われる.

●ASO 患者では,全身の動脈に硬化性病変が生じており,脳心血管合併症のリス

クが高く,生命予後が不良である.ABI0.9 以下の場合には下肢 ASO を疑い,精

査をすることが望ましい.

■ Fontaine 分類と Rutherford 分類(慢性動脈閉塞の病期分類)

Fontaine 分類 Rutherford 分類

重症度 臨床所見 重症度 カテゴリー 臨床所見

Ⅰ 無症状 0 0 無症状

Ⅱ 間欠跛行 Ⅰ

1 軽度跛行

2 中等度跛行

3 高度跛行

Ⅲ 安静時疼痛 Ⅱ 4 虚血性安静時痛

Ⅳ 潰瘍・壊死 Ⅲ5 限局性組織欠損

6 広範囲組織欠損

11.

B 型肝炎訴訟(集団予防接種等により B 型肝炎に罹患した方に対する国からの給付金制

度)について正しいのはどれか.2 つ選べ.

a B 型肝炎の既往があれば現在感染していなくても給付対象となる.

b 無症候性キャリアの場合は対象外である.

c genotype によらず給付金の対象となる.

d 集団予防接種の証明として母子健康手帳や予防接種台帳がない場合,陳述書や接種

痕意見書で行うこともできる.

e 集団予防接種による一次感染者である母親から母子感染により B 型肝炎ウイルスに

持続感染している場合(二次感染者)も給付対象となる.

1948 年(昭和 23 年)7 月 1 日から 1988 年(昭和 63 年)1 月 27 日までの間,7 歳になるまでに

集団予防接種(予防接種またはツベルクリン反応検査)の際の注射器の連続使用により B 型肝

炎に感染した方(一次感染者)とその方から母子感染した方(二次感染者)に対し,平成 24 年

1 月 13 日から『特定 B 型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法』が施行され,

病態に応じて 50 万〜3600 万円を支給することとなった.

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×a B 型肝炎に持続感染している方が救済対象であり,一過性の感染歴がある

だけでは救済対象とはならない.6ヵ月以上の間隔を空けて HBs 抗原陽性,

HBV-DNA 陽性,HBe 抗原陽性,または HBc 抗体高力価陽性が必要である.

×b 無症候性キャリアから支給対象となっている.

×c genotypeAe の B 型肝炎は成人後の感染であっても約 10%が持続感染を

し,日本では 1996 年(平成 8年)以降に感染例が確認されている.そのため 1996

年(平成 8年)1月 1日以降に B型肝炎ウイルス感染が確認された対象者で

genotypeAe の場合,成人後の感染と判断され支給対象にはならない.

○d この訴訟による国の責任期間は『予防接種法』の施行日である 1948 年(昭

和 23 年)7月 1日から,注射筒の 1人ごとの取り換えを指導した 1988 年(昭和

63 年)1月 27 日までの期間であり,この期間内に予防接種を受けたことを確認

する証明資料として母子健康手帳または予防接種台帳,もしくは陳述書と接種

痕意見書で行うことができる.

○e 一次感染者である母親からの感染であることが医学的知見を踏まえて認

定される必要があり,出生直後に B型肝炎に持続感染していたことか,原告と

母親の B型肝炎ウイルスの塩基配列を比較した血液検査が必要である.

●厚生労働省健康局結核感染課:B型肝炎の手引き 平成 24 年 2 月 再改訂.

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou/b-kanen/dl/b-kanen_

tebiki-zentai.pdf(2018 年 6 月閲覧)

12.

13. 透析中のC型肝炎患者の治療に用いる直接型抗ウイルス薬(Directactingantivirus〈DAA〉)

として適切でないのはどれか.2 つ選べ.

慢性腎臓病(chronickidneydiseases:CKD)患者における HCV 感染率は一般

人口より高く,4%〜8%と報告されており,腎機能が低下し CKD のステージが

進行するほど HCV 抗体陽性率は上昇することが知られている.HCV 感染は透析患

者では生命予後を悪化させていることが明らかになっており,抗ウイルス療法

は HCV 感染者本人の生命予後を改善するのみならず,感染源をなくすという意

味合いもあり積極的に行うことが推奨されている.

daclatasvir、asunaprevir、sofosbuvir、ledipasvir、ombitasvir、dasabuvir

プレビル(previr)」→NS3阻害剤

アスビル(asvir)」→NS5A阻害剤

ブビル(buvir)」→NS5B阻害剤

a ソホスブビル/レジパスビル配合剤(ハーボニー®)

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b ダグラタスビル/アスナプレビル/ベクラブビル(ジメンシー®)

c エルバスビル(エレルサ®)+グラゾプレビル(グラジナ®)

d ソホスブビル(ソバルディー®)+リバビリン併用

e グレカプレビル/ピブレンタスビル(マヴィレット®)

×a ソホスブビル/レジパスビル配合剤はゲノタイプ 1・2型の C型慢性肝炎・

代償性肝硬変に対し適応を持ち Sustainedviralresponse(SVR)率は 95〜98%

である.重度の腎機能障害(eGFR<30mL/分/1.73m2)または透析を必要とする腎

不全の患者には投与禁忌である.don't

○b ダグラタスビル/アスナプレビル/ベクラブビルはゲノタイプ 1型の C型

慢性肝炎・代償性肝硬変に対し適応を持ち,SVR 率は 95〜100%である.クレア

チニンクリアランス 50mL/min 未満の腎機能障害では慎重投与となるが,使用不

可ではない.

○c エルバスビル+グラゾプレビルはゲノタイプ 1型の C型慢性肝炎・代償

性肝硬変に対し適応を持ち,SVR 率は 93〜100%である.腎臓への影響は少なく

透析患者でも使用可能である.

×d ソホスブビル+リバビリン併用はゲノタイプ 2型の C型慢性肝炎・代償

性肝硬変に対し適応を持ち SVR 率は 94.1%である.重度の腎機能障害(eGFR<

30mL/分/1.73m2)または透析を必要とする腎不全の患者には投与禁忌である.

don't

○e グレカプレビル/ピブレンタスビルはゲノタイプ 1〜6型の C型慢性肝

炎・代償性肝硬変に対し適応を持ち SVR 率は 1型で 99.1%,2型で 97.8%,3

型で 83.3%である.腎臓への影響は少なく透析患者でも使用可能である.

国内で使用可能な IFN フリー製剤

薬剤名製造販売

承認年月

HCV

genotype

代謝・排

泄経路

SVR 率

(治癒

率)

安全

性・禁忌

ソホスブビル(ソバルデ

ィ®)・リバビリン 2015/5 2 型12

腎排泄95%

【禁忌】

腎障害患

者ソホスブビル・レジパス

ビル(ハーボニー®) 2015/9 1・2 型 >95%

エルバスビル・グラゾプ2016/9 1 型 肝代謝 -

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レビル

ダクラタスビル・アスナ

プレビル・べクラブビル

(ジメンシー®) 2016/12

肝障害

(++)

グレカプレビル・ピブレ

ンタスビル(マヴィレッ

ト®) 2017/9 1〜6 型

8〜

12

週 -

参考

●日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編:C型肝炎治療ガイドラ

イン(第 6版・簡易版)

https://www.jsh.or.jp/files/uploads/Breif_C_v6.pdf(2018 年 6 月閲覧)

14.遠隔転移を有する切除不能進行膵癌の治療に用いる薬剤はどれか.2 つ選べ.

a ボルテゾミブ

b ゲムシタビン

c スニチニブ

d シスプラチン

e ナブパクリタキセル

2016 年に膵癌診療ガイドライン第 3版が出版され,遠隔転移を有する切除不能

進行膵癌の一次治療として,FOLFIRINOX 療法,またはゲムシタビン+ナブパク

リタキセル併用療法が推奨されている.

×a 多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫の治療に用いる.

○b 切除不能膵癌の治療はゲムシタビンと他剤との併用療法が基本となって

いる.

×c 消化管間質腫瘍(GIST)や腎臓癌の治療に用いる.

×d 切除不能胆道癌に対してはゲムシタビン+シスプラチン併用療法が推奨

されている.

○e MPACT 試験において,遠隔転移を有する切除不能膵癌に対し,ゲムシタビ

ン+ナブパクリタキセル併用療法はゲムシタビン単独療法と比較して全生存期

間の有意な延長を認めた(8.5 ヵ月vs6.7 ヵ月).

●遠隔転移を有する膵癌の一次治療としては,FOLFIRINOX 療法またはゲムシタ

ビン+ナブパクリタキセル併用療法が推奨されているが,全身状態などの個々

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の患者の状態によって,上記 2つの治療を行うことが適さない患者には,ゲム

シタビン単独療法,ゲムシタビン+エルロチニブ併用療法,または S-1 単独療

法を行うことが推奨されている.

FOLFIRINOX 療法:レボホリナート(l-LV)+フルオロウラシル(5-FU)+イリノテカン

(CPT-11)+オキサリプラチン(L-OHP)

15.経口血糖降下薬のうち,インスリン分泌を刺激することなく血糖降下作用を示すの

はどれか.3 つ選べ.

a ビグアナイド薬

b グリニド系薬

c チアゾリジン誘導薬

d SGLT2 阻害薬

e DPP-4 阻害薬

○a 主として肝臓の糖新生を抑制することにより血糖降下作用を発揮する.

×b 速効性にインスリン分泌を刺激作用する.スルホニル尿素(SU)薬と比

較して作用持続時間は短い.

○c 主に筋肉や脂肪組織に作用してインスリン抵抗性を改善することにより

血糖降下作用を発揮する.

○d 腎臓の近位尿細管において,糖の再吸収を阻害し血糖降下作用を発揮す

る.

×e 腸管由来インクレチンの分解を阻害することにより,血糖上昇に起因す

るインスリン分泌を増強する

16.褐色細胞腫およびパラガングリオーマについて正しいのはどれか.2 つ選べ.

a 大部分は良性腫瘍である.

b コハク酸脱水素酵素(SDH)遺伝子の変異はパラガングリオーマに多い.

c 褐色細胞腫はアドレナリン分泌優位の腫瘍が多い.

d 123I-MIBG シンチグラフィはパラガングリオーマの診断には有用でない.

e 高血圧のコントロールにはβ遮断薬が第一選択である.

×a 新 WHO 分類では,いずれも悪性腫瘍と位置づけられた.

○b SDH遺伝子の変異は主としてパラガングリオーマで認められる.

○c 褐色細胞腫はアドレナリン優位,パラガングリオーマはノルアドレナリ

ン優位の腫瘍が多い.

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×d 123I-MIBG シンチグラフィは褐色細胞腫,パラガングリオーマいずれの診

断にも有用である.

×e 第一選択はα遮断薬で,β遮断薬の単独投与は禁忌である

●褐色細胞腫とパラガングリオーマは,いずれも転移の可能性がある悪性腫瘍

として位置づけられるようになった.したがって良性・悪性に関する従来の 10%

ルール(10%が悪性)は過去の概念である.

●遺伝性異常との関連も知見が集積し,家族性の頻度が増加している(この点

でも 10%ルールは通用しない).褐色細胞腫(副腎性)では RET,SF1,VHL遺

伝子の変異が,パラガングリオーマでは SDH(SDHB,SDHC,SDHD)遺伝子の変異

が多い.家族性,孤発性,いずれの場合にも認められる.

●両疾患ともカテコールアミンを合成するため 123I-MIBG シンチグラフィは有用

である.しかし褐色細胞腫の多くがアドレナリンまで合成が進むのに対し,パ

ラガングリオーマではノルアドレナリンまたはドパミンで止まることが多い.

カテコールアミン過剰による高血圧はα受容体刺激による血管収縮により生じ

るためα遮断薬が有用である.β遮断薬は血管拡張作用を有するβ2受容体を遮

断して高血圧を増悪させるため禁忌である

●褐色細胞腫とパラガングリオーマは基本的に悪性と位置づけられたが,中で

も腫瘍径の大きい例(>5cm),ノルアドレナリン・ドパミン産生性の例(分化

度が低い),SDHB遺伝子変異を有する例,ならびに高齢者は悪性腫瘍としての

リスクが高い.

17.家族性の多発性内分泌腫瘍症 1 型〈MEN1〉に認められる病変において,浸透率が比

較的低い(30%未満)のはどれか.2 つ選べ.

a 原発性副甲状腺機能亢進症

b 膵消化管内分泌腫瘍

c 下垂体腺腫

d 副腎皮質腫瘍

e 胸腺・気管支神経内分泌腫瘍

×a 浸透率が約 95%と も高い.大部分が良性である.

×b 浸透率は約 60%で,時に悪性である.

×c 浸透率は約 40〜50%で,プロラクチノーマが も多い.悪性はまれであ

る.

○d 浸透率 20%と低く,悪性はまれである.

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○e 浸透率は 10%以下と低いが,胸腺腫瘍は悪性のことが多い.

MEN1 型は腫瘍抑制遺伝子 MEN1(蛋白名は MENIN)遺伝子の変異により種々の内

分泌臓器(一部は非内分泌臓器)に過形成,腺腫,癌を発症する常染色体優性

遺伝性疾患である.家族性の例における腫瘍発症の浸透率は臓器ごとに異なる

ことが統計的に知られている

●家族性のMEN1型では,診断の契機となった腫瘍以外の病変を含め,早期診断,

早期治療を目的としたサーベイランスを行う必要がある.これは患者本人のみ

ならず,まだ発症していない血縁者に関しても同様である.

●腫瘍性病変の多くは過形成または良性腫瘍であるが,膵内分泌腫瘍の一部と

胸腺腫瘍は悪性化することがあり,これが本疾患の予後決定因子となる.

補足事項

●MEN1 型と診断された場合は,外科的治療,薬物治療,他の部位の腫瘍発症の

定期的な検索のみならず,血縁者の発症前診断を含む遺伝子診断や遺伝カウン

セリングなど,横断的かつ長期にわたる医療の提供が必要となる.このため,

臨床遺伝専門医を含めたチーム医療の管理下で診療を行うことが望ましい.

19.

両葉に多発する肝細胞癌に対し,TACE を 6 回施行するも治療効果を認めない 79

歳男性の患者.C型肝炎の既往歴があり,12 年前にインターフェロン治療で完

治している.検査所見からは Child-Pugh 分類グレード A(5点)で肝予備能は

保たれている.

●肝細胞癌に保険適用のある分子標的薬は長らくソラフェニブのみだったが,2017 年レ

ゴラフェニブ(ただし保険適用はソラフェニブ治療歴のある症例)が,2018 年レンバチ

ニブが承認された.ただし,分子標的薬は ChildB ないし C の症例に対する安全性は十

分に担保されていない.

補足事項

●抗ウイルス治療によって C 型肝炎ウイルスが排除されたのちに肝細胞癌を発症するこ

とはもはや珍しくはなく,直接型抗ウイルス薬によって治療対象年齢が上がった現在で

は十分注意しなければならない.

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アルブミン 3.8g/dL,総ビリルビン 0.8mg/dL,PT75%(基準 80〜120)

20.遠隔転移を有する膵癌に対するFOLFIRINOX療法で用いられる薬剤として誤

っているのはどれか.1つ選べ.

a オキサリプラチン

b フルオロウラシル

c イリノテカン

d ゲムシタビン

e (レボ)ホリナート

FOLFIRINOX 療法(オキサリプラチン,イリノテカン塩酸塩,フルオロウラシル,

(レボ)ホリナートカルシウム併用療法)は局所進行切除膵癌および遠隔転移

を有する膵癌の一次治療として推奨されているが,解法のポイントは本治療に

ゲムシタビンが含まれていないことである.全てのレジメンを覚えるのは難し

いが,このポイントを知っていれば正解できる.

●FOLFIRINOX 療法は,治療効果は優れているものの血球減少を初めとした有害

事象の多さから,承認された直後より欧米でも 初から減量したレジメン

(modifiedFOLFIRINOX)での報告がされている.多くはフルオロウラシルの急

速静注を除くものやイリノテカンを減量したものであり,有害事象が減じ安全

性が向上したが有効性はオリジナルに劣らなかったとする報告もある.

21.全身型の古典的 Fabry 病はまれである.しかし,わが国において心

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臓にのみ障害が生じる心 Fabry 病はさほどまれではない(わが国での心

性左室肥大の約 3%).また,X 連鎖性劣性遺伝だが女性での発症が稀に

みられることも注意する. ×a X 連鎖性劣性遺伝で,原則男性に発症する.しかしヘテロ接合体では,女性での

発症も低頻度ではない.

○b α-GalactosidaseA 欠損が原因であり,現在は酵素補充療法が可能である.

○c 胸腹部や大腿部の皮膚に特徴的な赤褐色の被角血管腫(Angiokeratoma)を生じ

る.また低汗症を伴いやすい.

○d 著しい求心性左室肥大から両室肥大のパターンをとる.初期には張障害,末期に

は収縮能低下を生じる.

○e 50 歳ごろまでに腎不全に陥ることが多い

22.PCI

チエノピリジン系抗血小板薬のうち,従来のクロピドグレル(プラビックス®)

は,効果発現が遅く,わが国の人口の約 18%に薬効がほとんどない,poor

responder(代謝酵素(CYP2C19)の欠損による)が存在する.しかし,新しく

開発されたプラスグレル(エフィエント®)は効果発現が早く(1時間以内),

poorresponder がほぼないため,薬効の個体差が少なく,有用である.

チクロピジン(パナルジン®)は,1日 3回投与が基本であるが,肝障害,白血

球減少,血小板減少といった副作用が危惧されるため,現在ほとんど使用され

ない.シロスタゾール(プレタール®)は,ホスホジエステラーゼ阻害作用によ

り AMP を安定化し,抗血小板作用を有する他,心拍増加作用もある(時に動悸

の原因となる).

24.B 型肝炎について正しいのはどれか.1 つ選べ.

a B 型肝炎感染からの肝発癌は減少傾向にある.

b わが国における急性肝不全の成因として も多い.

c わが国ではユニバーサルワクチンは行われていない.

d 核酸アナログ製剤を使用する場合第一選択薬はラミブジンである.

e 既往感染者でも HBs 抗体単独陽性であれば再活性化は起こらない.

×a C 型肝炎からの肝発癌が減少している一方,B型肝炎からの肝発癌は依然

として減少していない.

○b 原因はウイルス性肝炎が約 50%と 多で,その中でも B型肝炎ウイルス

が も多い.次に自己免疫性肝炎(約 15%),薬剤性肝障害(約 10%)が続く.

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×c 日本でも 2016 年 10 月から 0歳児を対象とした HBV ワクチンの定期接種

(ユニバーサルワクチン)が開始されている.

×d 新のガイドライン(日本肝臓学会 B型肝炎治療ガイドライン第 3版)

では核酸アナログ製剤の第一選択はエンテカビル(ETV),テノホビル・ジソプ

ロキシルエステル・フマル酸(TDF),テノホビル・アラフェナミド(TAF)の

いずれかである.ラミブジンは耐性変異ウイルス出現頻度が高いため使用され

ない.

×e HBV ワクチン接種既往者を除き,HBs 抗体単独陽性者でも再活性化のリス

クはある.

●HBV 既往感染者(HBs 抗原陰性,かつ HBc 抗体または HBs 抗体陽性)において,

HBV の再活性化により生じる肝炎を denovoB 型肝炎という.ステロイドを始め

とする免疫抑制薬,抗リウマチ薬,抗ウイルス薬,生物学的製剤,拒絶反応阻

止薬,および抗がん薬などの使用例にみられることがあるため,これらの使用

の前には HB 関連マーカーや肝機能検査を行う.薬剤投与中もフォロー検査を行

う.

25.高リスク骨髄異形成症候群〈IPSS-Rhigh,veryhigh〉に対する治療薬として適

切なのはどれか.1 つ選べ.

a アザシチジン

b レナリドミド

c ダルベポエチン

d シクロスポリン

e エルトロンボパグ

全生存期間が短い高リスク骨髄異形成症候群(MDS)において生命予後を延長し

うる治療オプションは造血幹細胞移植を除けばアザシチジンのみである.

選択肢解説

○a 支持療法のみと比較して有意に生存期間を延長することが示されている.

×b MDS の中でも 5q-症候群の第 1選択であり,輸血依存からの脱却のみでな

く,クローンの減少がみられ,長期奏効例では白血病化や死亡リスクを減少す

る.

×c 低リスクMDSで貧血改善に用いられる.血中エリスロポエチンが500mU/ml

以下の症例でよく奏効する.

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×d 低リスク MDS で免疫異常の関与が疑われる症例に用いられる(保険適用

外).

×e 2017 年日本で再生不良性貧血に対する適応が追加された.再生不良性貧

血では血小板増加のみではなく,好中球,赤血球の増加も認められ,造血幹細

胞への作用が想定されている.このため MDS では異常造血幹細胞への作用が懸

念されている.

●骨髄異形成症候群は造血幹細胞の腫瘍化によって生じ,近年の次世代シーケ

ンサーによる解析で多様な遺伝子異常が関与していることが示されている.分

子病態の多様性を反映して個々の症例の経過も様々であり,予後予測が治療戦

略を立てるうえで重要である.予後予測モデルの中でも頻用されているのが国

際予後判定システム(InternationalPrognosticScoringSystem;IPSS)と改

訂 IPSS(IPSS-R)である.通常 IPSS で INT-1 と High,IPSS-R で high/veryhigh

を高リスク MDS と呼び,平均生存期間(OS)は 2年未満である.造血幹細胞の

腫瘍化なので完治が望めるのは唯一,造血幹細胞移植であるが,MDS は高齢者が

多く適応となる症例は少ない.アザシチジンは DNA メチル化阻害薬で,高リス

ク MDS において輸血などのベストサポーティブケアと比較して初めて有意に OS

を延長することが示された.反応例では血球数の回復がみられ,輸血依存から

脱却するものもある.

×a 漿液性囊胞腫瘍は造影効果のある充実性腫瘤様所見を呈し,蜂の巣状の

構造がみられる.

×b 膵管内乳頭粘液腫瘍は多房性囊胞を呈し,高齢男性の膵頭部に多い.主

膵管型では膵管の拡張が,分枝型では多房性囊胞(ぶどうの房状)がみられる.

×c 粘液性囊胞腫瘍は単房性で内部に隔壁や cystincyst 所見を呈し,若年

〜中年女性の膵尾部に多い

×d 慢性膵炎では膵管拡張,膵石や膵萎縮を認める.

○e 被包化壊死は急性膵炎後の局所合併症の一つであり,壊死性膵炎発症後 1

ヵ月以降に形成される.CT ではいびつな多房性・囊胞様構造物として認められ

る.

造影剤腎症

●造影剤腎症とは,ヨード造影剤投与後,72 時間以内に血清クレアチニン値が

前値より 0.5mg/dL 以上,または 25%以上増加した場合と定義される.

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●造影剤腎症の発症リスクファクターを知っておくことが重要である.上記以

外に,利尿薬や NSAIDs の使用を覚えておく必要がある.一方,RAS 阻害薬は GFR

を低下させる場合があるが,造影剤腎症の発症リスクファクターになるとの報

告はない.

29.

収縮能の保持されている心不全〔 新の急性・慢性心不全診療ガイドライン

(2017 年改訂版)では左室駆出率 50%以上〕に対しては,様々な薬剤介入試験

が行われたが,有意な長期予後改善効果を示すに至った薬剤は非常に少ない.

したがって,現段階で ClassⅠ適応として推奨される薬剤は,「自覚症状改善を

目的」とした利尿薬のみである.

30.

現在左冠動脈主幹部および 3枝病変に対する治療選択は,SYNTAX 試験の結果な

どから「冠動脈の複雑性」と「心臓手術リスク」に基づいてハートチーム(内

科・外科・麻酔科・メディカルスタッフなど多職種チーム)で議論し,総合的

判断を行うことが推奨されている.また,糖尿病症例では冠動脈バイパス術の

方が長期成績がよい.本症例は糖尿病の既往をもつ冠動脈高度複雑病変(SYNTAX

スコア≧33 点),低手術リスク(STS スコア<4%)から,長期予後を鑑みて,

冠動脈バイパス術を選択するのがベストである.

●冠動脈病変の解剖学的な所見を客観的に評価できる指標として,SYNTAX スコ

アが頻用される.冠動脈造影所見をもとに狭窄病変部位,病変数,病変の複雑

性をスコア化し,算出する(「参考」の項目 URL 参照).SYNTAX スコア 22 点以

下を低スコア,23〜32 点と中間スコア,33 点以上を高スコアと分類する.SYNTAX

試験における 5年の追跡結果において,低スコア層での心血管イベント発生率

は,CABG 群は 28.6%であり,PCI 群の 32.1%と比較して有意差は認めず(p=

0.43),中間スコア,高スコア層では PCI 群の方が CABG 群よりイベント発生率

は高い結果となった(中間スコア:25.8%vs36.0%,p=0.008,高スコア:

26.8vs44.0%,p<0.0001).欧米のガイドラインでは,NSTEACS に対する血

行再建術の選択において,SYNTAX スコアによる評価とハートチームでの議論を

強く推奨している(ClassⅠ).その他,周術期リスク評価の指標として EuroSCORE

や STS リスクスコアがあり,ともにウェブページでリスク評価が可能である.

これらの指標や患者の社会的背景なども含めて,包括的な評価を行い,患者に

とって 適な冠血行再建術を検討する.

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PulmonaryEmbolismSeverityIndex(PESI)

パラメーター PESI SimplifiedPESI

年齢 年齢(年) 1 点(年齢>80 歳)

男性 +10 点

担癌の既往 +30 点 1 点

慢性心不全もしくは

呼吸心不全の既往 +10 点 1 点

脈拍≧110bpm +20 点 1 点

収縮期血圧<100mmHg+30 点 1 点

呼吸数>30 回/分 +20 点

体温<36℃ +20 点

精神状態悪化 +60 点

経皮酸素飽和度<90%+20 点 1 点

30 日死亡率

ClassⅠ <65 点:0-1.6%

ClassⅡ 65-85 点:1.7-3.5%

ClassⅢ 86-105 点:3.2-7.1%

ClassⅣ 106-125 点:4.0-11.4%

ClassⅤ >125 点:10.0-24.5%

30 日死亡率

0 点 :1.0%

1 点以上:10.9%

■ 急性 PTE のリスクレベルと治療アプローチ

KonstantinidesS,etal.:2014ESCguidelineonthediagnosisandmanagement

ofacutepulmonaryembolism.Thetaskforceforthediagnosisandmanagement

oftheEuropeanSocietyofCadiology(ESC)EndorsedbytheEuropean

RespiratorySociety(ERS).EurHeartJ2014;35(43):3030-73 より引用

改変

32.

巨細胞性動脈炎あるいは高安動脈炎では副腎皮質ステロイド治療が基本的な治

療薬剤である.しかし,副腎皮質ステロイドのみでは病勢のコントロールが不

十分であったり,副腎皮質ステロイド減量中に再発したりすることがある.近

年,抗 interleukin(IL)-6 受容体抗体であるトシリズマブが副腎皮質ステロ

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イドの減量を進め,寛解を維持し,再発を抑制する効果があること報告され,

日本でも保険適用となった.

選択肢解説

○a IL-6 受容体に対する抗体であるトシリズマブ(アクテムラ®)は高安動脈

炎の再発リスクを下げる効果,巨細胞性動脈炎の副腎皮質ステロイド減量を進

め寛解を維持する効果が報告され(GiACTAstudy,TAKTstudy),日本では 2017

年に保険適用(副腎皮質ステロイドによる適切な治療を行っても活動性を有す

る場合,副腎皮質ステロイドの治療継続が困難な場合)となった.

×b 可溶性 Bリンパ球刺激因子(BLyS)に対する抗体製剤であり,自己抗体

陽性の全身性エリテマトーデスに使用される.

×c 関節リウマチに用いられる CTLA-4 製剤である.CTLA-4 は活性化 T細胞上

に発現しT細胞に負のシグナルを伝達する分子で,CTLA-4製剤はT細胞上のCD28

と抗原提示細胞上の CD80,CD86 との相互作用を阻害し T細胞の活性化を抑制す

る.

×d B 細胞上の分子である CD20 に対する抗体製剤であり,悪性リンパ腫のほ

かに難治性血管炎症候群に使用される.B細胞系のリンパ腫を破壊するほかに抗

体産生細胞へ分化する B細胞を破壊し自己抗体を低下させる効果がある.

×e 腫瘍壊死因子である tumornecrosisfactor(TNF)-αに対する抗体製

剤であり TNF-αを介する炎症反応を抑制する.関節リウマチのほか,クローン

病,ベーチェット病,強直性脊椎炎,乾癬などに使用される.

a トシリズマブ

b ベリムマブ

c アバタセプト

d リツキシマブ

e インフリキシマブ

33.

①70 歳男性(→高齢男性)

②5 年前からの筋力低下と手の震え(→神経筋疾患を想起する)

③両上肢の細かい振戦(→球脊髄性筋萎縮症に特徴的である)

④近位筋の筋萎縮(→球脊髄性筋萎縮症では神経原性だが近位筋優位の筋萎縮

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を呈する)

⑤女性化乳房(→球脊髄性筋萎縮症で特徴的である)

○a 球脊髄性筋萎縮症は X連鎖劣性遺伝である.

×b X 連鎖優性遺伝疾患は Rett 症候群が有名である.

×c 常染色体優性遺伝疾患には脊髄小脳変性症の多く(SCA1,MJD,DRPLA な

ど)や筋強直性筋ジストロフィーなどがある.

×d 常染色体劣性遺伝には Gaucher 病や Niemann-Pick 病などがある.

×e ミトコンドリア遺伝の疾患は母系遺伝が特徴で,Leigh 脳症や MELAS など

がある.

●球脊髄性筋萎縮症はリュープリン SR®(リュープロレリン酢酸塩)が神経症状

の進行抑制に対して保険収載されている.

○a ステロイド依存または離脱困難例では,免疫調整薬(アザチオプリン)

による寛解維持療法が行われる.

×b 潰瘍性大腸炎に関連した関節炎に対しメトトレキサートを使用した報告

はあるが,潰瘍性大腸炎自体に使用することは一般的ではない.

○c ステロイド抵抗性の難治性の潰瘍性大腸炎に対してインフリキシマブを

始めとした抗 TNF-α抗体製剤が使用される.

○d 十分量の 5-ASA 製剤で症状の改善がない場合はステロイドの投与が推奨

されるが,寛解維持目的で長期投与することは副作用の観点から望ましくない.

○e 5-ASA 製剤は種々の剤形があるが,寛解導入,寛解維持いずれにも使用さ

れ,潰瘍性大腸炎の治療において中心的な役割を果たす.

基本事項など

基本事項

●潰瘍性大腸炎の診断は,臨床症状と特徴的な内視鏡所見によりなされる.治

療の導入にあたっては,炎症の活動性,病変の罹患範囲,全身状態の重症度の

評価が必要である.炎症を寛解させ,粘膜治癒(mucosalhealing)を維持する

ことが治療の目標となる.

●炎症の活動性,病変の罹患範囲は主として大腸内視鏡検査にて評価される.

罹患範囲は原則として直腸から連続しており,罹患範囲に応じて,直腸炎型,

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遠位大腸炎型(S状結腸まで),左側大腸炎型(脾湾曲まで),全大腸炎型に分

類される(遠位大腸炎型は左側大腸炎型に分類される場合もある).いずれの

病型においても,また寛解導入,寛解維持いずれにおいても,治療の基本は 5-ASA

製剤である.経口投与が基本であるが,病変が直腸など遠位に限局する場合は,

注腸製剤や坐剤も使用される.

●5-ASA にて寛解が得られない場合はステロイド(経口もしくは注腸)も使用さ

れるが,寛解維持療法としてのステロイドの長期使用は望ましくない.ステロ

イド依存例(ステロイドの減量によって再燃)や抵抗例では,5-ASA 製剤との併

用にて,免疫調節薬(アザチオプリン),免疫抑制薬(タクロリムス),抗 TNF-α

抗体製剤,血球成分除去療法(顆粒球吸着療法など)が使用される.内科的治

療で改善が困難な場合,手術も選択される.

■ 潰瘍性大腸炎の重症度分類

重 症 中等症 軽 症

①排便回数6 回以上

重症と軽症の中間

4 回以下

②顕血便 (+++) (+)〜(-)

③発熱 37.5℃以上 37.5℃以上の発熱がない

④頻脈 90/分以上 90/分以上の頻脈なし

⑤貧血 Hb 10g/dL 以下 Hb 10g/dL 以下の貧血なし

⑥赤沈 30mm/時間以上 正常

重症度

軽 症:上記の 6項目を全て満たすもの

中等症:上記の軽症、重症の中間にあたるもの

重 症:①及び②の他に、全身症状である③又は④のいずれかを満たし、かつ 6

項目のうち 4項目を満たすもの

劇 症:重症の中でも特に症状が激しく重篤なものをいう.発症の経過により

急性電撃型と再燃劇症型に分けられる.

劇症の診断基準は

(1)重症基準を満たしている.

(2)15 回/日以上の血性下痢が続いている.

(3)38.5℃以上の持続する高熱である.

(4)10,000/mm3 以上の白血球増多がある.

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(5)強い腹痛がある.

参考:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業難治性炎症性腸

管障害に関する調査研究

■ 平成 28 年度潰瘍性大腸炎治療指針(内科)

寛解導入療法

軽 症 中等症 重 症 劇 症

左側

大腸

炎型 全大

腸炎

経口剤:5-ASA 製剤 注腸剤:5-ASA 注腸,ステロイド

注腸 ※中等症で炎症反応が強い場合や

上記で改善ない場合はプレドニゾ

ロン経口投与 ※さらに改善なければ重症または

ステロイド抵抗例への治療を行う ※直腸部に炎症を有する場合はペ

ンタサ坐剤が有用

・プレドニゾロン点

滴静注 ※状態に応じ以下の

薬剤を併用 経口剤:5-ASA 製剤 注腸剤:5-ASA 注腸,

ステロイド注腸 ※改善なければ劇症

またはステロイド抵

抗例の治療を行う ※状態により手術適

応の検討

・緊急手術の適応を検

討 ※外科医と連携のも

と,状況が許せば以下

の治療を試みてもよ

い. ・ステロイド大量静注

療法 ・タクロリムス経口 ・シクロスポリン持続

静注療法* ※上記で改善なければ

手術

直腸

炎型

経口剤:5-ASA 製剤 坐 剤:5-ASA 坐剤,ステロイド坐剤 注腸剤:5-ASA 注腸,ステロイド注腸 ※安易なステロイド全身投与は避ける

ステロイド依存例 ステロイド抵抗例

難治

免疫調節薬:アザチオプリン・

6-MP* ※(上記で改善しない場合): 血球成分除去療法・タクロリムス

経口・インフリキシマブ点滴静

注・アダリムマブ皮下注射を考慮

してもよい

中等症:血球成分除去療法・タクロリムス

経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリ

ムマブ皮下注射 重 症:血球成分除去療法・タクロリムス

経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリ

ムマブ皮下注射・シクロスポリン持続静注

療法*

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※アザチオプリン・6-MP*の併用を考慮する ※改善がなければ手術を考慮

緩解維持療法

非難治例 難治例

5-ASA 製剤(経口剤・注

腸剤・坐剤)

5-ASA 製剤(経口剤・注腸剤・坐剤) 免疫調節薬(アザチオプリン,6-MP*),インフリキシマブ

点滴静注**,アダリムマブ皮下注射**

*:現在保険適用には含まれていない**:インフリキシマブ・アダリムマブで寛解導入した場合

5-ASA 経口剤(ペンタサ®顆粒/錠,アサコール®錠,サラゾピリン®錠,リアルダ

®錠),5-ASA 注腸剤(ペンタサ®注腸),5-ASA 坐剤(ペンタサ®坐剤,サラゾ

ピリン®坐剤)

ステロイド注腸剤(プレドネマ®注腸,ステロネマ®注腸),ステロイド坐剤(リ

ンデロン®坐剤)

参考:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業難治性炎症性腸

管障害に関する調査研究

補足事項

●5-ASA 製剤には種々の剤形があるが,1日 1回投与が可能な新たな pH 依存型

5-ASA 放出調節製剤であるリアルダ®が 2016 年 9 月に承認された.

●注腸ステロイド(ブデソニド)製剤として,フォーム(泡)状の注腸製剤で

あるレクタブル®が 2017 年 12 月に承認された.

●難治性の潰瘍性大腸炎に対して使用される抗 TNF-α製剤として,従来使用可

能であったインフリキシマブ(レミケード®)およびアダリムマブ(ヒュミラ®)

に加え,2017 年 3 月にゴリムマブ(シンポニー®)が承認された.

36.免疫チェックポイント阻害薬による副作用で正しいのはどれか.1 つ選べ.

a 治療開始 1 ヵ月以内に発症することが多い.

b 治療終了後には認められない.

c 甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン補充は一時的でよいことが多い.

d 大腸炎に対しては止痢薬であるロペラミドを使用する.

e 間質性肺炎に対してのステロイドは効果が高い.

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×a 副作用の発症時期は定まっていないため,常に注意が必要である.

×b 治療終了後,しばらくたって副作用が発症することもあるので注意が必

要である.

×c 甲状腺ホルモンの補充は一生にわたって必要になることが多い.

×d 大腸炎に対してはステロイドが必要であり,効果が乏しければインフリ

キシマブも考慮される.

○e 間質性肺炎に対するステロイドの効果は高い.ただし,早期減量・中止

により再増悪することもあるので注意が必要である.

2016 年 1 月,日本臨床腫瘍学会と日本糖尿病学会の連名で,免疫チェックポイ

ント阻害薬による劇症1型糖尿病発症の危険性について改めて注意喚起された.

劇症 1型糖尿病の可能性が念頭にないと,偶発的な高血糖や通常の 2型糖尿病

として誤った対応がなされる危険性もあるため,注意が必要である.

37.

肺癌において,喀血を認める場合に,使用を避けるべき薬剤はどれか.1 つ選べ.

a ゲフィチニブ

b ニボルマブ

c ベバシズマブ

d パクリタキセル

e ゲムシタビン

×a 間質性肺炎がベースにあれば注意が必要であるが,喀血していても使用

できる.

×b 間質性肺炎がベースにある場合や自己免疫性疾患がある場合などには注

意が必要であるが,喀血していても使用できる.

○c 喀血症例では使用できない.また,扁平上皮癌の場合にも臨床試験で喀

血死を認めたために使用できない.以前は脳転移がある場合も脳出血のリスク

が高いとのことで禁忌とされていたが,現在は使用できる.

×d 重篤な骨髄抑制を合併している場合では禁忌であるが,喀血症例では問

題なく使用できる.

×e 胸部単純 X線写真で明らかで臨床症状のある間質性肺炎,重篤な骨髄抑

制を合併している場合や胸部放射線治療を行っている場合では禁忌であるが,

喀血では使用できる.

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■ 間質性肺炎の場合に注意が必要な抗癌薬

慎重投与:EGFR 阻害薬(ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ,オシメルチ

ニブ),ALK 阻害薬(クリゾチニブ,アレクチニブ,セリチニブ),免疫チェックポ

イント阻害薬(ニボルマブ,ペムブロリズマブ,アテゾリズマブ)

禁忌 don't:イリノテカン,ゲムシタビン,アムルビシン

※クリゾチニブは ROS1 阻害薬でもある.

※ゲムシタビン,アムルビシンは「胸部単純 X線写真で明らかで,かつ臨床症

状のある間質性肺炎」に対し禁忌とされている.

■ 肺癌治療に用いる抗癌薬の注意点(I114)

EGFR 阻害薬:ゲフィチニブ(イレッサ®),エルロチニブ(タルセバ®),アファ

チニブ(ジオトリフ®),オシメルチニブ(タグリッソ®)

※副作用:皮疹,下痢,肝機能障害.特に間質性肺炎,角膜穿孔に注意.

ALK 阻害薬:クリゾチニブ(ザーコリ®),アレクチニブ(アレセンサ®),セリチ

ニブ(ジカディア®)

※副作用:下痢,悪心,嘔吐,血球減少.特に間質性肺炎,肝機能障害,視力障害

に注意.

ROS1 阻害薬:クリゾチニブ(ザーコリ®)

血管新生阻害薬:ベバシズマブ(アバスチン®),ラムシルマブ(サイラムザ®)

※副作用:出血.妊婦には禁忌.don't

免疫チェックポイント阻害薬:ニボルマブ(オプジーボ®),ペムブロリズマブ(キ

イトルーダ®),アテゾリズマブ(テセントリク®)

※EGFR-TKI,ALK 阻害薬,免疫チェックポイント阻害薬では,間質性肺炎などの

副作用を認める場合があるため,投与開始時には臨床所見(咳嗽,息切れなど)

の観察,定期的な胸部 X線写真などにより十分に注意する.

※免疫チェックポイント阻害薬では免疫関連有害事象に注意が必要.(肝障害,

神経障害,糖尿病,下垂体機能障害,甲状腺機能障害,大腸炎など)

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は,男性に発症し,舌筋や四肢近位筋優位の筋萎縮,

CK 値の上昇のほか,女性化乳房などを特徴とする.X染色体長腕上のアンドロ

ゲン受容体(AR)遺伝子における CAG リピートの異常延長を原因とする運動ニ

ューロン疾患であり,伸長ポリグルタミン鎖を有する異常 AR 蛋白質がテストス

テロンと結合し,運動神経細胞の核内に蓄積して,細胞死をきたすことが病態

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と考えられている.従来,前立腺がんなどに使用されていたテストステロン分

泌を抑制するリュープロレリンの臨床試験で,一部,有効性が示唆されるデー

タが発表され,2017 年に新たに保険適用となった.

43.①ニボルマブ投与 6日目(→免疫チェックポイント阻害薬による irAE)

②眼瞼下垂,眼球運動障害(→重症筋無力症の眼筋症状)

③構音,嚥下障害(→重症筋無力症の球麻痺症状)

④易疲労性(→重症筋無力症の四肢筋症状)

⑤腱反射正常(→重症筋無力症では腱反射は正常)

解法の要点

抗PD-1抗体のニボルマブ投与開始後に眼瞼下垂,複視,球麻痺症状,易疲労

感がみられるようになった.臨床症状からは重症筋無力症が疑われる

44.

BNP は①利尿作用,②血管拡張作用,③レニン・アンジオテンシン・アルドステ

ロン系抑制作用,を有する生理活性物質である.主に心室の負荷によって分泌

が亢進し,血中濃度が上昇するため,心不全のバイオマーカーとして有用であ

る.ただし,腎不全では,BNP 上昇が認められると,クリアランスの低下により

血中濃度が上昇するため,検査結果の解釈に注意が必要である.

脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉およびその血中濃度について正しいのはどれか.1 つ選べ.

a 腎不全の指標となる.

b 血清を用いて測定する.

c 主に心室から分泌される.

d 基準値は 40pg/mL 以下である.

e 透析患者では透析後に低下し,ドライウェイトの指標となる.

×a 腎不全の指標としては,推定糸球体濾過量(eGFR)が用いられる.BNP は

左室拡張末期圧をよく反映し,心不全の補助診断法として有用である.

×b BNP は血漿濃度を測定する.

○c BNP の約 90%は心室から,約 10%は心房から分泌される.

×d 血漿 BNP 濃度の基準値は 18.4pg/mL 以下である.

×e 心房性利尿ペプチド(ANP)は,透析中の除水に伴い速やかに低下するた

め,透析における体液量の管理に有用である.除水による BNP の変化は軽度で

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あるため,臨床的にはむしろ透析に伴う合併心疾患のマーカーとして用いられ

ることが多い.

46.梅毒について正しいのはどれか.1つ選べ.

a ワクチンによる予防が可能である.

b 2017 年度の国内感染者は 5,000 人以上である.

c ワッセルマン反応は感染後 1週間以内に陽性となる.

d 感染力は第 3期以降も強い.

e 生物学的偽陽性では,ワッセルマン反応陰性,FTA-ABS 陽性となる.

×a 梅毒はスピロヘータの一種であるトレポネーマ(TreponemaPallidum)

の感染により発症する.ワクチンは開発されていない.

○b 近年,国内における梅毒感染数が急激に増加しており,注意喚起がなさ

れている.感染経路は,異性間および同性間性交渉,母子垂直感染である.

×c ワッセルマン反応を含めた STS 三法の梅毒検査は,感染後 4〜6週で陽性

になることが多く,感染直後では陰性になることを銘記すべきである.

×d 感染力は,第 1期および第 2期で強い.第 3期になると弱いか,消失し

てしまう.

×e 生物学的偽陽性(BiologicalFalsePositive=BFP)は,種々の膠原病

(特に SLE)や妊娠中でみられる.非特異的なカルジオリピンを抗原としたワッ

セルマン反応などの STS 三法では陽性であるが,特異的な Treponema を抗原と

した TPHA や FTA-ABS では陰性となる.

48.血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉に特徴的な検査所見として誤っているの

はどれか.1つ選べ. a LD 上昇 b eGFR 低下 c 出血時間延長 d ADAMTS13 活性低下 e ハプトグロビン高値 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は ADAMTS13 の活性低下により超高分子量 vWF

多量体が増加して血小板血栓が多発する疾患である.典型例では①血小板減少

による出血傾向,②細小血管障害性溶血性貧血,③腎機能障害,④動揺性の精

神神経症状,⑤発熱の五徴がみられる

○a 破砕赤血球を伴う細小血管障害性溶血性貧血により LD は上昇する.

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○b 腎機能障害により eGFR は低下する.

○c 血小板減少により出血時間は延長する.

○d 先天性 TTP では ADAMTS13 の遺伝子異常,後天性 TTP では ADAMTS13 に対

する自己抗体(インヒビター)により ADAMTS13 活性は低下する.

×e 破砕赤血球を伴う細小血管障害性溶血性貧血によりハプトグロビンは低

値となる.

49.常染色体優性多発性囊胞腎〈ADPKD〉において進行抑制効果のある薬剤はどれか.1 つ選べ.

a トルバプタン

b リツキシマブ

c エンパグリフロジン

d 副腎皮質ステロイド

e ミコフェノール酸モフェチル

選択肢の内容を確認!!!

○a 解法の要点参照.

×b 抗 CD20 抗体であり Bリンパ球を抑制する.近年,難治性ネフローゼ症候

群で保険適用となったが ADPKD での有効性の報告はない.

×c ナトリウム・グルコース共輸送体阻害作用を有する糖尿病治療薬(SGLT2

阻害薬)である.糖尿病性腎症患者において心血管病抑制効果が示され,腎保

護効果の可能性も示唆されている薬物である.しかし,ADPKD での有効性の報告

はない.(D44)

×d 副腎皮質ステロイドは様々な免疫異常を伴う腎疾患に有効だが,ADPKD に

は無効である.

×e ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)はループス腎炎に新たに保険

適用となった免疫抑制薬であるが ADPKD には無効である

50.直接経口抗凝固薬〈DOAC〉について誤っているのはどれか.1 つ選べ.

a 使用時には必ずクレアチニンクリアランスをチェックする.

b CHADS2スコア 3 点以上で適応となる.

c CHA2DS2-VASc スコア 2 点以上で適応となる.

d 直接的な拮抗薬は存在しない.

e 機械弁による弁置換後には使用できない.

○a ほぼ全部が腎排泄性のため,Ccr をチェックし,高度に低下している場合

overdose となるため,使用できない.

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×b CHADS2スコア 1点以上が適応となる.

○c CHADS2スコア 0-1 点の場合を補うために提唱されたのが CHA2DS2-VASc ス

コアで,2点以上が適応となる.

○d ワルファリンに対するビタミン Kのような直接的な拮抗薬はなく,

overdose の場合,新鮮凍結血漿(FFP)を用いることが多い.

○e 僧帽弁狭窄症(MS)や人工弁置換術後の AF には用いられない.

52.

70 歳,Ⅳ期非小細胞肺癌,EGFR 遺伝子変異陽性,PS2,PD-L1≧50%症例に対する 適な一次

治療はどれか.1 つ選べ.

a 細胞障害性抗癌薬

b EGFR-TKI

c オシメルチニブ

d ペムブロリズマブ

e Bestsupportivecare

肺癌診療ガイドラインは毎年新薬の登場,エビデンスの発表によって改訂され,

現在では 2017 年版が 新である.Ⅳ期非小細胞肺癌に対する薬物療法は基本的

考え方を身につけておくと応用が利くのでぜひ知っておきたい

×a,○b Ⅳ 期非小細胞肺癌に対する薬物療法の原則は,EGFR 遺伝子変異,

ALK 遺伝子転座,ROS1 遺伝子転座,BRAF 遺伝子変異といった,癌発生の原因と

なるドライバー遺伝子変異のあるものに対しては,そのキナーゼ阻害薬を細胞

障害性抗癌薬より優先して用いるのが原則である.本症例は EGFR 遺伝子変異陽

性であるので,EGFR-TKI を一次治療で用いる.

×c オシメルチニブは EGFR-TKI の 1 種ではあるが,EGFR 遺伝子変異に加えて

T790M という耐性遺伝子も阻害する第 3世代 EGFR-TKI である.現在のガイドラ

インでは,一次治療 EGFR-TKI 耐性または増悪後の T790M 変異陽性例に限って保

険適用が認められているため,本症例の一次治療では用いない.

×d ペムブロリズマブは免疫チェックポイント阻害薬である.遺伝子変異陽

性例に対しては,免疫チェックポイント阻害薬をキナーゼ阻害薬に優先して勧

めるだけの根拠がなく,第一選択にはならない.

×e ドライバー遺伝子変異のある症例に対するキナーゼ阻害薬治療は,確実

な効果と PS の改善効果が期待されることから,本症例のような PS2 以上の PS

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不良症例でもキナーゼ阻害薬投与が推奨されている.

●肺癌ガイドラインは,毎年のように発売される新薬の登場に伴い,毎年改訂

されている.一時は一次治療の推奨が統一されていなかったが,現在では比較

的シンプルに統一されているのでまとめて覚えておくとよい.

①ドライバー遺伝子変異のあるものに対しては,そのキナーゼ阻害薬を細胞障害性

抗癌薬より優先して用いるのが原則である.PS2〜4 であっても同様である.

②遺伝子変異陰性,もしくは不明症例では,PD-L1 陽性細胞の割合を確認し,50%以

上ならば免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブを一次治療に用い

る.PS2 でも同様である.

③遺伝子変異陰性,もしくは不明,かつ PD-L1<50%の症例では,細胞障害性抗癌薬

を選択する.

④一次治療で EGFR-TKI 治療を行った症例のうち,EGFR-TKI 耐性または増悪後の

T790M 変異陽性例に限って,2次治療にオシメルチニブを用いる.T790M 変異陰性,

もしくは不明例では,2次治療に細胞障害性抗癌薬を用いる.

54.胸部 CT では,囊胞性変化,および小粒状影が散在している.胸腔鏡下肺生

検による病理組織所見では,紡錐形の細胞による浸潤,および肉芽腫形成を認

める.

この疾患の治療として誤っているのはどれか.1つ選べ.

a 禁煙

b 肺移植

c ステロイド

d シロリムス

e メトトレキサート

肺ランゲルハンス細胞組織球症

選択肢解説

○a 禁煙だけでも軽快する症例が多い.

○b 若年重症例では肺移植の適応がある.

○c 禁煙で軽快しない進行例にはステロイドを使用する.

×d シロリムスは同じ囊胞性疾患でもリンパ脈管筋腫症(LAM)に対する分子

標的薬として用いられる.

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○e 進行例ではメトトレキサートなどの免疫抑制薬が使用されることがある.

●胸部画像で囊胞性変化を呈する疾患は COPD,リンパ脈管筋腫症(LAM),それ

に肺ランゲルハンス細胞組織球症が挙げられる.

●LAM は若年女性に多く,気胸や息切れ症状で発見されることが多く,病理組織

では平滑筋様の LAM 細胞の増殖を認める.(I92)(I27,28)

●肺ランゲルハンス細胞組織球症は,喫煙男性に多く,画像では囊胞以外に小

粒状影を認めることが多く,病理組織では S-100 や CD-1a 陽性で紡錘形のラン

ゲルハンス細胞増殖,肉芽腫形成を認める.

55.結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉について正しい

のはどれか.1つ選べ.

a 5 歳以下では偽陽性が多い.

b BCG 接種によって偽陽性になる.

c 一生に 1回限り測定可能である.

d 結核の既往に影響を受けない.

e ツベルクリン反応とくらべて特異度が高い.

●IGRA は一般臨床でもよく使われており,なじみの検査といえるかもしれない

が,上記解説にある注意点に加えて,あくまで IGRA は結核菌感染の有無を確認

するための検査であり,肺結核の診断には使えない(感染と発病の区別ができ

ない)ということに注意が必要である.

■ 結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離試験(IGRA:

Interferon-GammaReleaseAssay)(I73〜74)

●結核感染の確率の評価や治療適応を判断するための補助診断として用いる.

●QFT は全血を,T-spot は血液から分離したリンパ球を用いる.

●ツベルクリン反応とは異なり,BCG 接種の既往の影響を受けない.また,体外での

測定のためブースター効果がなく,繰り返し測定可能.

※ただし既感染でも陽性になる.

※非結核性抗酸菌の M.kansasii,M.marinumなど,結核菌以外でも陽性となる.

56.末梢血で好酸球増多をきたさないのはどれか.1つ選べ.

a 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症〈EGPA〉

b 肺吸虫症

c 鳥飼病

d アレルギー性気管支肺アスペルギルス症

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e 慢性好酸球性肺炎

○a 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以前は Churg-Strauss 症候群,アレル

ギー性肉芽腫性血管炎とよばれていた)では末梢血好酸球増多をきたす.(F82)

○b 肺吸虫症では末梢血好酸球増多をきたす.(H127)

×c 鳥飼病(過敏性肺炎)では末梢血好酸球増多をきたさない.Ⅲ型,Ⅳ型

アレルギーが関与する.(I125)

○d アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は末梢血好酸球増多をきたす.

(I82)

○e 慢性好酸球性肺炎では末梢血好酸球増多をきたす.急性好酸球性肺炎で

は末梢血好酸球増多をきたさないこともある.

■ 好酸球性肺炎の病因による分類(I123)

原因が特定さ

れるもの

アレルギー性気管支肺真菌症(アスペルギルスなど)

寄生虫(回虫,肺吸虫,ミクロフィラリアなど)

薬剤性

原因不明のも

急性好酸球性肺炎(AEP:acuteeosinophilicpneumonia)

慢性好酸球性肺炎(CEP:chroniceosinophilicpneumonia)

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA:Eosinophilic

GranulomatosiswithPolyangiitis)

特発性好酸球増加症候群(HES:hypereosinophilicsyndrome)

58.○a メトトレキサートに関連したリンパ増殖性疾患では EB ウイルスの活

性化を認めることが多い.血中のウイルス DNA や病理組織で EBER(EBV-encoded

smallRNA)陽性などの所見を認めることがある.

×b メトトレキサートで帯状疱疹を認めることはあるが,本例のように皮疹

を生じないままリンパ節腫大をきたすことはない.

×c 副腎皮質ステロイド大量療法でみられることがあるが,メトトレキサー

トに関連して再活性化を生じることはまれである.

×d 口唇に水疱を生じることが多いが,本例では皮疹は認めない.

×e ヒトヘルペスウイルス-6は抗けいれん薬,サラゾスルファピリジン,ア

ロプリノールなどの特定の薬剤に関連して再活性化を生じることが知られてい

る(druginducedhypersensitivitysyndrome:DIHS).DIHS では末梢血液中

に異形リンパ球の出現と好酸球数増多を認めることが多い.

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●関節リウマチでは薬剤性のリンパ増殖性疾患以外にも悪性リンパ腫のリスク

が高いとされており,関節リウマチの活動性に関連することが報告されている

61.

●V1〜V4 で典型的な ST 上昇が認められ,Ⅱ,Ⅲ,aVFでは reciprocalchange

がみられる.異常 Q波,冠性 T波はまだ認められず,発症 2時間前後の前壁中

隔の ST 上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の所見として合致するものである.

心電図上,前壁中隔梗塞であることは間違いなく,左冠動脈前下行枝(LAD)の

閉塞もしくは高度狭窄を生じているものと考えられる.右冠動脈の病変では下

壁梗塞,左冠動脈回旋枝の病変では側壁梗塞が生じる.左冠動脈主幹部病変の

場合,広範囲な前側壁梗塞が生じ心原性ショックに陥ることが多い.

●全収縮期雑音は他に TR(三尖弁閉塞不全)でも生じるが,この場合, 強点

は胸骨下端にあり,吸気で増強(Rivero-Carvallo 徴候)する.

補足事項

●VSP の危険因子としては,①高齢者,②女性,③高血圧の既往,④左室肥大,

⑤初回の心筋梗塞,⑥LAD の一枝病変,⑦側副血行路の発達が乏しいこと,など

が挙げられる.なお VSP,急性 MR とも 10 日〜2週間後の根治的開胸手術が必要

となる.早期に施行すると,死亡率が上昇することが知られている.

■ 急性心筋梗塞後の心室中隔穿孔と乳頭筋不全,断裂による急性僧帽弁

閉鎖不全

心室中隔穿孔(VSP) 急性僧帽弁閉鎖不全(MR)

梗塞

部位前壁中隔 下壁

発症

時期3〜5 日 3〜5 日

心雑

音全(汎)収縮期雑音 全(汎)収縮期雑音

心雑

音の

聴取

部位前胸壁 心尖部→左腋窩へ放散

検 ・カラーDoppler 心エコー図でモザ・カラーDoppler 心エコー図でモザイク色の

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査イク色の LV→RV 血流

・Swan-Ganz カテーテルで右房→右

室で O2stepup

LV→LA 逆流

・Swan-Ganz カテーテルで巨大 v波(心室波

形化)

・ドパミン

・ドブタミン

・IABP

・VSP 閉鎖術(2〜3週後)

・ドパミン

・ドブタミン

・IABP

・MVR/MVplasty(2〜3 週後)

高齢女性,一枝(LAD)病変,初回

AMI,LVH,HTN,側副血行不良のと

き,多い.

前乳頭筋は LAD,LCX の二重支配,後乳頭筋

は RCA の単独支配→RCA 閉塞による AMI では

後乳頭障害(+)→MR

64.

○a 憩室炎から続発する化膿性門脈炎.門脈右枝が血栓により閉塞し,血栓

性静脈炎となっている.

×b 肝細胞癌の場合は門脈内の腫瘍に動脈血流が認められるが,本症例では

認められない.また肝細胞癌による門脈浸潤の場合,PIVKA-Ⅱなど腫瘍マーカ

ーの著しい増加が認められることが多い.

×c 本症例では胆管ではなく,門脈が主体の病変であり,画像的な総胆管結

石とは異なる.

×d 画像 Bのみでは憩室炎と大腸癌の鑑別は困難であるが,肝内病変は転移

性肝癌の所見を認めない.

×e 特発性門脈圧亢進症の場合,側副血行路の発達,著明な脾動静脈の拡張

を認める.本症例では血球も保たれており,脾機能亢進の所見を認めない.

○a ATⅢ低下(<70%)を伴う門脈血栓症の場合,ATⅢ投与により門脈血栓

の改善効果が認められる.

○b 化膿性門脈炎の治療の基本は感染源のコントロールと抗菌薬の投与によ

り行われる.

×c ソラフェニブ(ネクサバール®)は肝細胞癌に適応をもつ分子標的薬であ

り,門脈浸潤をきたした場合でも適応となる.本症例では門脈内病変に血流が

認められず,肝細胞癌の門脈浸潤とは異なる.

×d ウルソデオキシコール酸は原発性胆汁性胆管炎(PBC),原発性胆汁性硬

化性胆管炎(PSC)の場合に使われる薬剤である.

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×e 動注用シスプラチン製剤は肝細胞がんの治療の際にカテーテルやリザー

バーポートを介して経動脈的に投与される.

●化膿性門脈炎は門脈系静脈の血栓性静脈炎であり,①腹腔内感染症や,②肝

硬変,悪性腫瘍,先天性あるいは後天性の血栓性訴因により生じた門脈血栓へ

の二次感染が原因となる.腹腔内感染症としては憩室炎,急性虫垂炎,急性膵

炎,胆管炎,炎症性腸疾患,消化管穿孔,骨盤腹膜炎などが誘因となる.腹腔

内感染を契機に隣接する静脈の感染性血栓性静脈が惹起され,門脈まで進展す

ることで発症する.また肝内に波及した炎症は肝膿瘍の原因となる.門脈炎は

まれで,症状も腹痛・発熱など非特異的であることから診断が遅れることが多

い.化膿性門脈炎の治療の基本は感染源のコントロールと抗菌薬の投与である.

門脈血栓に対する治療効果に関しては抗凝固療法としてヘパリン,ワルファリ

ンの投与に加え抗凝固因子アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)が低下していた場合,

ATⅢ製剤(献血ノンスロン®)の補充が 2017 年 8 月に効能追加された.

66.

血小板 20.2 万.出血時間 1 分(基準 7 分以下),PT11.0 秒(基準 10〜14),

APTT70.0 秒(基準対照 32.2),血漿フィブリノゲン 296mg/dL(基準 200〜400),

血清 FDP3.3μg/mL(基準 10以下),第Ⅷ因子活性 1%以下,第Ⅸ因子活性 100%.

抗核抗体陰性,抗カルジオリピン抗体陰性.

①76 歳の女性(→先天性の血友病は否定的)

②突然殿部から左下腿にかけて出血斑が広範囲に出現し,疼痛が増強(→筋肉

内出血を考える)

③赤血球365 万,Hb11.0g/dL,Ht32.8%(→軽度の正球性貧血)

④血小板20.2 万,出血時間 1分(→一次止血に異常を認めない)

⑤PT11.0 秒,APTT70.0 秒,第Ⅷ因子活性 1%以下(→第Ⅷ因子活性の低下に

よる APTT 延長)

⑥抗核抗体陰性,抗カルジオリピン抗体陰性(→全身性エリテマトーデス,抗

リン脂質抗体症候群は否定的)

[問題 1]

○a 女性の場合は分娩後に発症することもあるが,男女ともに高齢者に多い

のが特徴である.

×b 発症率に性差はない.

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×c 関節内出血は先天性血友病 Aでは多いが,後天性血友病 Aではまれで,

皮下出血と筋肉内出血が多い.

×d 約 1割が脳・消化管出血で死亡するため,診断がつき次第,速やかに高

次医療機関に搬送することが望ましい.

○e 先天性血友病 Aでは,患者血漿に正常血漿を加えていくと(37℃で 2時

間保温),容易に APTT が短縮してグラフが下に凸形となる.一方,後天性血友

病 Aではインヒビターを保有するため,先天性と比べて APTT が正常化しにくく

なり,グラフは直線形あるいは上に凸形となる.外注検査である第Ⅷ因子イン

ヒビター測定は,結果判明に数日かかるが,施設内で施行できる APTT クロスミ

キシング試験(保険適用あり)は当日に大まかな鑑別診断ができるため極めて

有用である.

[問題 2]

×a 血小板数正常,出血時間正常の病態には適応がない.

○b 第Ⅷ因子と第Ⅸ因子が関与する凝固経路を迂回して止血できるバイパス

製剤として有用である.

×c インヒビター力価が低く,かつ第Ⅷ因子活性が検出される場合は,血液

凝固第Ⅷ因子製剤の使用も考慮されるが,本例のように第Ⅷ因子活性が 1%以下

の場合は一般的ではない.

×d 先天性および後天性血液凝固第 XⅢ因子欠乏による出血傾向に用いられ

る製剤である.なお,第XⅢ因子欠乏では本例と異なりPTもAPTTも正常である.

○e 複数の凝固因子(第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹおよび各々の活性型因子)を含む活

性型プロトロンビン複合体製剤であり,バイパス止血療法として用いられる.

●後天性血友病 Aは,血液凝固第Ⅷ因子に対する自己抗体が原因で発症する自

己免疫疾患である.原因不明の特発性が約半数を占める.残りの半数は,膠原

病(全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群,関節リウマチなど),悪

性腫瘍,妊娠・分娩,薬剤性が基礎疾患となる.

●臨床的な特徴は,先天性血友病と異なり,突然の出血症状発症である.ただ

し,約 3割は出血症状が軽く,術前検査などで APTT が延長していることを契機

に偶然発見されることがある.血液検査上は,血小板数および出血時間正常で

あり,凝固系スクリーニング検査も APTT の延長以外に異常を認めないのが特徴

である.バイパス止血療法の有効性は約 9割と高く,速やかに診断して適切に

治療を開始できれば失血死を回避でき救命することができる.それだけに APTT

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延長を伴う突然発症の出血症状では本疾患を常に疑い,早期診断,早期治療に

結び付けることが重要である.

■ APTT 延長を示す疾患の鑑別診断

第 Ⅷ 因子

活性

第 Ⅷ 因子

インヒビ

ター

VWF

活性APTT クロスミキシング試験

先天性血

友病 A 低下 陰性 正常 容易に補正(下に凸形)

後天性血

友病 A低下 陽性 正常

補正されない(直線形あるいは上に凸形:

正常血漿混合直後に比べて 37℃2 時間後で

上に凸形が顕著)

VWD 低下 陰性 低下

抗リン脂

質抗体症

候群

正常ない

し見かけ

上低下

陰性ないし

偽陽性 正常

補正されない(直線形あるいは上に凸形:

正常血漿混合直後と 37℃2 時間後ではほぼ

同じ形)

68.

右下肺野に斑状影を認める.両側肺野に reversedhalosign(中心部のすりガ

ラス陰影をリング状に高吸収域が取り囲む)を認める.

1 診断はどれか.1つ選べ.

a 特発性肺線維症〈IPF〉

b 非特異性間質性肺炎〈NSIP〉

c 特発性器質化肺炎〈COP〉

d 肺ランゲルハンス細胞組織球症〈PLCH〉

e 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症〈EGPA〉

2 適切な治療はどれか.1つ選べ.

a メチルプレドニゾロン 1g/日×3日間(パルス療法)

b 免疫抑制薬のパルス療法

c ピルフェニドン内服

d プレドニゾロン 0.5mg/kg 内服

e ニンテダニブ内

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[問題 1]

×a 特発性肺線維症(IPF)では下肺野,末梢優位に線状・網状陰影がみられ

るが,蜂巣肺が特徴的であるため,本症例については除外される.(I95)(I29)

×b 非特異性間質性肺炎(NSIP)では両側末梢優位に多発すりガラス陰影,

細かい網状陰影がみられる.本症例の所見とは異なる.(I97)

○c 画像所見と病理所見より特発性器質化肺炎(COP)と考えられる.(I97)

×d 肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)の病態は,肺間質および気腔に

おけるランゲルハンス細胞の増殖である.画像の特徴は中肺野および上肺野に

みられる左右対称性の結節陰影,囊胞性変化である.(G78)(I61)

×e 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA,以前は Churg-Strauss 症候群,

アレルギー性肉芽腫性血管炎とよばれていた)では末梢血好酸球増多をきたす.

喘息症状+血管炎症状が本疾患の特徴である.(F82)(F14)

[問題 2]

×a,○d COP はステロイドによく反応する.パルス療法の必要はない.

×b 通常,COP の治療に免疫抑制薬は用いられない.

×c,e 特発性肺線維症の慢性安定期の治療薬である.

70.

①1 週間前に沖縄旅行にいった際,海水浴や河川でのレジャー(→海や川などの

水を介した感染症などを示唆)

②高熱と結膜充血,筋肉痛(→リケッチア感染症,蚊が媒介するウイルス性出

血熱,Weil 病で認めることが多い)

③皮膚はやや黄染,眼球結膜に黄疸,総ビリルビン 6.2mg/dL(→溶血性貧血や

肝機能障害,閉塞性黄疸,感染症などが鑑別に挙げられる)

④蛋白 3+(→腎障害,Wile 病などでみられる)

⑤リケッチア IgM,IgG は陰性(→リケッチア感染症は否定)

病歴がまずポイントとなる.約 1週間の潜伏期をもつ急性感染症で,水との関

連があること,沖縄が侵淫地域であることが予想される.著明な高熱や筋肉痛

に加えて出血(結膜充血),黄疸,蛋白尿といった Weil 病(レプトスピラ症の

重症型)の三徴があることから,レプトスピラ症がまず挙げられる.ツツガム

シ病などのリケッチア症も考えられるが,刺し口や紅斑もなく,否定的である.

1 原因微生物はどれか.1つ選べ.

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a Borreliaburgdorferi

b Orientiatsutsugamushi

c Leptospirainterrogans

d Mycobacteriumtuberculosis

e Neiseriameningitis

2 この微生物を媒介する動物はどれか.1つ選べ.

a ネズミ

b ヘビ

c オウム

d ヒトスジシマカ

e サワガニ

[問題 1]

×a ライム病の原因菌である.

×b ツツガムシ病の原因菌である.

○c レプトスピラ症の原因菌である.

×d 結核の原因菌である.

×e 髄膜炎菌の原因菌である.

[問題 2]

○a ネズミなどの尿から排泄されたレプトスピラが経皮的に感染することに

より生じる.

×b ペットの爬虫類が食中毒の原因菌となるサルモネラ菌を媒介することが

ある.

×c オウム病の原因菌となる Chlamydiapsittaciを媒介しうる.

×d デング熱,チクングニア熱,ジカウイルス感染症などの原因ウイルスと

なる各ウイルスを媒介しうる.

×e 肺吸虫症を引き起こすウェステルマン肺吸虫や宮崎肺吸虫の第二宿主と

なる

●レプトスピラ症(leptospirosis)は,Leptospirainterrogansなどのヒトに

対して病原性をもつレプトスピラ(病原性レプトスピラ)の感染による人獣共

通感染症である.感冒様症状のみがみられる軽症型(秋疫)から,黄疸,出血,

腎障害を呈する重症型(Wile 病)まで臨床症状は様々である.病原性レプトス

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ピラは保菌動物(ネズミなど)の腎臓に保菌され,尿中に排出される.ヒトへ

の感染は,保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的あるいは経口的に生

じる.保菌はイヌやブタなどペットや家畜でも起こりうる.また,治療は一般

的にドキシサイクリンが用いられるが,重症ではペニシリン系薬の点滴薬も使

用される.レプトスピラ症の治療にペニシリン系薬を用いた場合は,

Jarisch-Herxheimer 反応(スピロヘータ感染時にペニシリン系薬を投与するこ

とで起こる反応.破壊された菌体成分による発熱や悪寒,頭痛,低血圧などの

症状がみられる.)がみられることがあるので,注意が必要である.

73-74.

高度の低ナトリウム血症では低浸透圧ストレスによる細胞障害が生じ,骨格筋

由来の高 CK 血症を合併することが多い.

入院翌日の頭部 MRI でトルコ鞍内に占拠性病変を認め,ガドリニウム造影で強

い造影効果を示した.

この患者について正しいのはどれか.1つ選べ.

a グルココルチコイド補充後に多尿が出現することはまれである.

b 全ての下垂体前葉ホルモン分泌が障害されることが多い.

c 定位放射線治療は選択肢の一つである.

d ソマトスタチンアナログは治療の選択肢の一つである.

e Hardy 手術による腫瘤摘除は標準的治療の一つである.

[問題 2]

○a 免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎では中枢性尿崩症を合併す

ることはまれである.

×b 下垂体前葉ホルモン系のうち一部が障害されることが多い.

×c 下垂体炎に対し放射線治療が行われることはない.

×d 機能性下垂体腺腫と異なりソマトスタチンアナログの適応とはならない.

×e 下垂体炎に対し生検が行われることはあるが,腫瘤自体の摘除術は行わ

れない.

●免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害は,自己免疫性下垂体炎,自

己免疫性甲状腺炎,1型糖尿病の 3つが代表的である.このうち 1型糖尿病は主

として抗 PD1/PD-L1 抗体治療に合併するのに対し,下垂体炎は抗 CTLA4 抗体使

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用中に発症しやすい.甲状腺機能障害はいずれの薬剤でも生じるが,特に

PD1/PD-L1 抗体と抗 CTLA4 抗体の併用時に高頻度となる.

●抗 CTLA4 抗体に起因する下垂体炎は治療早期ないし遅発性のいずれでも発症

し,主として下垂体前葉の ACTH,TSH 産生細胞が障害される.リンパ球性漏斗

下垂体後葉炎と異なり後葉機能障害を合併しないため,中枢性尿崩症の合併は

まれである.臨床的には副腎不全および中枢性甲状腺機能低下症の病像を呈し,

特に前者は対応が遅れると予後不良となるため注意が必要である.

●下垂体炎の治療に関しいまだ確定的なコンセンサスはない.薬理量ステロイ

ド投与は,一時的に有効であっても長期予後を改善するという明確な根拠は得

られていない.一般的には,通常のステロイド補充療法が行われる.甲状腺機

能低下症を合併すれば,甲状腺ホルモン補充をあわせて行う.

補足事項

●免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害のうち下垂体機能障害と 1型

糖尿病は,発症すれば永続的な治療が必要となり,また対応を誤ると予後に影

響することもある.薬剤の使用開始前に,患者に十分な説明を行っておくこと

が望ましい.

75.

1 この症例について正しいのはどれか.1つ選べ.

a 白色人種において発生頻度が高い.

b 男女比は,ほぼ 1:1である.

c 第 5染色体に異常を認める.

d 空腹時に発作を生じやすい.

e 夜間に致死的心室性不整脈を起こしやすい.

2 治療方針として正しいのはどれか.2 つ選べ.

a 頻回の動悸発作には,イソプロテレノールを用いる.

b 心室性不整脈には,リドカインの点滴静注が著効を示す.

c カテーテルアブレーションが有効である.

d DDD 型永久ペースメーカーの植込みを行う.

e 植え込み型除細動器の適応である.

[問題 1]

×a 人種的に東洋人,特に日本人での頻度が高いといわれる.

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×b 男女比は,ほぼ 9:1で男性の方が明らかに女性より多い.

×c 第 3染色体上にある遺伝子異常(SCN5A)が本症の原因とされるが,現在

は他の遺伝子異常(CACNA1C,CACNB2,GPD1-L,SCN1B,KCNE3,SCNE3B)も発見

されている.

×d 空腹,飢餓状態より満腹状態,高血糖の状態が病状の悪化を招くといわ

れている(満腹試験).

○e 致死性の心室頻拍,心室細動を生じることが知られており,突然死の原

因となる.夜間に起こしやすい傾向もあり,「朝起きてこないと思ったら,寝

床で亡くなっていた」という経過も多い.

[問題 2]

○a 一般的に,抗不整脈の効果は限定的といわれている.頻回の頻脈発作

(electricalstorm)には,自脈の心拍数を増加させるために,緊急で行うイ

ソプロテレノールの点滴が有効である,これにより,とりあえず VT,VF を防ぎ,

可及的速やかに ICD(植込み型除細動器)の留置を行う.

×b 一般的に,リドカインは心室性不整脈の治療に有効だが,本症例におけ

る VT,VF の治療にはあまり有効ではない.

×c 副伝導路や re-entry 回路を有する頻拍性不整脈ではなく,カテーテルア

ブレーションは有効ではない.

×d 洞不全症候群(SSS)や完全房室ブロックでは,心房,心室両方をペーシ

ングする DDD 型ペースメーカーの植込みを行うのが一般的である.が,本症に

よる VT,VF を予防するのには無効である.

○e 本症に対する,ほぼ唯一の根本的治療方法と考えてよい.

●1992 年に,スペイン・バルセロナ大学の Brugada 医師ら(3人兄弟)によっ

て発表された症候群である.coved 型の方が saddleback 型より特異度が高く,

予後不良である.ピルジカイニド(サンリズム®:Na チャネル遮断薬)による負

荷試験が診断上有用で,これにより saddleback 型が coved 型になれば診断確

定である.

補足事項

●抗不整脈薬の一つであるキニジンは,古典的な抗不整脈薬であるが,本症の

慢性期薬物治療薬として有効である.

●運動によっても coved 型の心電図変化は抑制され,病態の改善がみられる.

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80-81.喘息と COPD のオーバーラップ(ACO)に合併した市中肺炎

1 本症例の急性期治療として適切な組み合わせはどれか.1つ選べ.

a 外来,マクロライド系経口薬

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b 外来,セフェム系経口薬

c 入院,スルバクタム・アンピシリン

d 入院,カルバペネム系薬

e ICU 管理,タゾバクタム・ピペラシリン+ニューキノロン系

2 治療にて症状は軽快し,退院することとなった.今後外来通院するにあたり,

安定期の治療として誤っているのはどれか.2 つ選べ.

a ICS

b ICS/LABA

c LABA

d LAMA/LABA

e ICS/LABA/LAMA

[問題 1]

×a,b,d,e,○c 日常生活を市井で送っていた症例に起こった肺炎で

あり,市中肺炎である.A-DROP では Age(83 歳),Dehydration(BUN27mg/dL),

Respiration(SpO287%)の 3 項目を満たすことから一般病棟入院適応である.

また,非定型肺炎を疑う項目は乏しい.一般病棟入院患者群のエンピリック治

療における抗菌薬の選択は,①スルバクタム・アンピシリン,②セフトリアキ

ソンまたはセフォタキシム,③レボフロキサシンである.非定型肺炎が疑われ

る場合はミノサイクリンやアジスロマイシン,レボフロキサシンが選択される.

(I56,57)

[問題 2]

○a,b,e,×c,d 重喫煙歴,年齢,変動性あり,呼気 NO 高値より,本

症例は ACO と診断できる.ACO の安定期治療において重要なことは,「喘息の要

素があるため,ICS を必ず用いる」ということである.ICS を併用せずに,LAMA

や LABA を単独投与あるいは併用すると,発作や増悪の危険があるため禁忌とい

ってよい.don't(I122)

①数年前から感冒後に咳や痰が長引く(→繰り返し,変動性)

②これまで著患なく,自宅で生活を送っていた(→自宅で生活しており,入院

や介護とは無縁)

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③1 週間前より食欲低下,倦怠感,前日より咽頭痛,咳嗽,38℃台の発熱,今朝

より呼吸困難感(→急性発症の呼吸器疾患)

④喫煙は 20 本/日を 65 年間(→65pack-years の重喫煙者)

⑤呼吸数 32 回/分,SpO287%(roomair)(→頻呼吸,呼吸不全)

⑥呼吸音は両側に wheezes と左下肺に coarsecrackles を聴取する(→閉塞性

肺疾患の存在と気道内分泌物の存在を想定する)

⑦白血球 13,900,CRP12.9mg/dL(→炎症所見あり,肺炎か)

⑧尿素窒素 27mg/dL,クレアチニン 0.82mg/dL(→脱水あり)

⑨昨年行われた肺機能検査:%VC95%,FEV1%57.6%(→安定期に閉塞性換気

障害あり)

⑩呼気中 NO 濃度71ppb(基準値 38ppb 未満)(→喘息の存在を疑う)

quickSOFA(qSOFA:呼吸数22 回/分以上、精神状態の変化、収縮期血圧 100mmHg

以下の 3点について、2点該当すれば敗血症を疑う)

A(Age=年齢):男性 70 歳以上・女性 75 歳以上

D(Dehydration=脱水):BUN21mg/dL 以上または脱水あり

R(Respiration=呼吸):SpO290%以下または PaO260Torr 以下

O(Orientation=見当識):意識障害あり

P(Pressure=血圧):収縮期血圧90mmHg 以下

上記の 5項目のうち 1項目に該当すれば 1点、2項目に該当すれば 2点というよ

うに計算し、点数をつけます。

5 点満点です。

スコア0は軽症であり、外来治療となります。

スコア1~2は中等症であり、外来治療か入院治療のどちらかになります。

スコア3は重症であり、入院治療となります。

スコア4~5は超重症であり、入院して ICU で治療します。

肺炎の場合、外来で治療を行うか入院で治療を行うかはこのように A-DROP を用

いて判断されています。

A-DROP スコアを計算するときの注意点

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ショックがある場合、すなわち、収縮期血圧90mmHg 以下で Pの項目に当てはま

る場合、1項目のみの該当でも超重症(スコア4~5)に相当します。

呼吸は酸素投与をしていない状態で評価します。

CURB-65

他に肺炎の重症度を判定して入院治療か外来治療かを判断する指標に CURB-65

というものもあります。

CRUB-65 も 4 つのチェック項目の英語の頭文字と数字をつなげたものです。

C(Confusion=混乱):意識障害あり

U(Urea=尿素):BUN20mg/dl 以上

R(Respiratoryrate=呼吸回数):呼吸回数30 回/分以上

B(Bloodpressure=血圧):収縮期血圧90mmHg 未満または拡張期血圧が 60mmHg

未満

65:65 歳以上

これらの 5つの項目のうち、2項目以上当てはまる場合には入院しての治療がお

すすめされます。

該当なしか 1項目しか当てはまらない場合、軽症と判断されますので、外来治

療がおすすめされます。

細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別

鑑別に用いる

項目

1.年齢60歳未満

2.基礎疾患がない、あるいは、軽微

3.頑固な咳がある

4.胸部聴診上所見が乏しい

5. 痰がない、あるいは、迅速診断法で原因菌

が証明されない

6.末梢血白血球数が 10,000/μL 未満である

鑑別 非定型肺炎疑い 細菌性肺炎疑い

1-6 6項目中 4項目以上 3項目以下

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1-5 5項目中 3項目以上 2項目以下

6項目を使用した場合の非定型肺炎の感度は 77.9%,特異度は 93.0%

5項目を使用した場合の非定型肺炎の感度は 83.9%,特異度は 87.0%

●『喘息と COPD のオーバーラップ(AsthmaandCOPDOverlap:ACO)診断と治

療の手引き 2018』(日本呼吸器学会)によると,ACO の診断手順は,以下の通

りである.(I23,27)

①40 歳以上で咳,痰,息切れなどの呼吸器症状がある,あるいは 1秒率<70%,②

胸部 X線写真で他疾患を除外,③気管支拡張薬投与後の 1秒率<70%であることの 3

点を確認したうえで,以下の「COPD の特徴」,「喘息の特徴」両方に当てはまるも

のを ACO と診断する.

●COPD の特徴

1.喫煙歴(10pack-years 以上)または大気汚染曝露

2.胸部 CT で気腫性変化(低吸収域)を認める

3.拡散障害

→3 項目のうちいずれか 1項目があれば COPD と考える

●喘息の特徴

1.変動性・発作性

2.40 歳以前の喘息の既往

3.FeNO>35ppb

→3 項目のうち 2項目があれば喘息と考える,1項目しか満たさない場合,以下のう

ち 2項目以上を満たせば喘息と考える

4-1.通年性アレルギー性鼻炎

4-2.気道可逆性

4-3.末梢血好酸球高値

4-4.IgE 高値

市中肺炎

外来:ユナシン錠(典型細菌性肺炎)orオーグメンチン

(スルタミシリンorアモキシシリン・クラブラン酸)

非定型肺炎:クラリス、ジスロマック

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クラリスロマイシン、アジスロマイシン

慢性の呼吸器疾患がある場合には第一選択薬:ジェニナック(ガレノキサシン)、

アベロックス(モキシフロキサシン)、クラビット(レボフロキサシン)、グレー

スビット(シタフロキサシン)、オゼックス(トスフロキサシン)

一般病棟入院

ユナシン(スルバクタム、アンピシリン)

ロセフィン(セフトリアキソン)

レボフロキサシン(クラビット)

非定型肺炎が疑われる場合

ミノマイシン(ミノサイクリン)

ジスロマック(アジスロマイシン)

クラビット(レボフロキサシン)

院内肺炎/医療・介護関連肺炎における耐性菌リスク

1.過去 90 日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴

2.過去 90 日以内に 2日以上の入院歴

3.免疫抑制状態

4.活動性の低下(PS>3、バーセル指数<50、歩行不能、経管栄養/中心静脈栄

養法

上記の2項目以上に該当した場合、耐性菌の高リスク群と判断する

82-83.

1 この患者で認められる眼所見の活動性と相関の高い臨床指標はどれか.1つ

選べ.

a TRAb

b TSAb

c TSbAb(TSH 受容体阻害抗体)

d 抗サイログロブリン抗体

e 抗 TPO 抗体

2 現時点の診療方針として適切でないのはどれか.2 つ選べ.

a 眼科医との連携による重症度の評価

b 甲状腺機能亢進症に対する放射性ヨード内照射治療

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c 眼球突出に対する眼窩部放射線外照射療法

d 眼球突出に対するステロイドパルス治療

e 禁煙の指導

甲状腺眼症(Basedow 眼症)

選択肢解説

[問題 1]

×a Basedow 病の診断と活動性の指標として有用であるが,甲状腺眼症の病勢

を必ずしも反映しない.

○b 甲状腺眼症の活動性の指標として有用であることが知られている.

×c 甲状腺腫大を伴わない慢性甲状腺炎の診断に用いられる(保険未収載).

×d 自己免疫性甲状腺疾患の存在診断に有用であるが,甲状腺眼症の活動性

の指標とはならない.

×e 抗サイログロブリン抗体と同様,甲状腺眼症の活動性の指標とはならな

い.

[問題 2]

○a 甲状腺眼症は悪化すると視機能に重大な影響を及ぼすため,眼科との連

携は必須である.

×b 甲状腺眼症を合併する Basedow 病を内照射で治療すると,眼症が悪化す

る危険がある.

×c 甲状腺眼症の治療オプションの 1つであるが,原則として 35 歳以上の患

者が対象となる.

○d 甲状腺眼症の標準的治療の 1つである.

○e 喫煙は甲状腺眼症を悪化させるため,禁煙指導は重要である.

参考

*1 日本甲状腺学会・日本内分泌学会:甲状腺クリーゼ診療ガイドライン 2017.

南江堂,2017.

*2 「バセドウ病悪性眼球突出症の出題基準と治療指針」作成委員会:バセド

ウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針 2018(第 2次案).

http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou02.pdf(2018 年 6 月閲覧)

84-85.SubclinicalCushingsyndrome

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1 この患者に外来で施行するスクリーニング検査として有用なのはどれか.2

つ選べ.

a 血中コルチゾール基礎値の測定

b 血中アルドステロン基礎値の測定

c 血中 DHEA-S 測定

d 一晩 1mg デキサメタゾン抑制試験〈DST〉

e 尿中総メタネフリン測定

2 検査所見(外来時):血液生化学所見;Na140mEq/L,K4.3mEq/L,Cl102mEq/L,

午前9時血中コルチゾール12.7μg/dL,アルドステロン86pg/mL(基準45〜106),

尿中総メタネフリン120μg/gCr(基準 500 未満),血中 DHEA-S104g/dL(基準

38〜313),一晩1mgデキサメタゾン抑制試験後の翌朝血中コルチゾール2.6g/dL.

確定診断のために有用な検査はどれか.1つ選べ.

a 副腎アドステロールシンチグラフィ

b 選択的副腎静脈サンプリング

c 血中 ACTH,コルチゾールの日内変動測定

d 一晩 8mg デキサメタゾン抑制試験

e CRH 負荷試験

[問題 1]

○a 副腎偶発腫では,血中コルチゾール基礎値の測定は必須である.

×b アルドステロン基礎値は測定が望ましいが,本例は原発性アルドステロ

ン症の臨床所見に乏しい.

×c 偶発腫のスクリーニング検査として必須であるが,単独では鑑別診断の

決め手にならない.

○d 副腎偶発腫は subclinicalCushing 症候群の有無が問題となるため,ス

クリーニングとして重要である.

×e 尿中カテコールアミンや代謝産物は測定が望ましいが,本例は褐色細胞

腫を疑わせる臨床所見に乏しい.

[問題 2]

×a 1mgDST 後のコルチゾールが 3μg/dL 以上のときに診断的価値がある.

×b 原発性アルドステロン症の確定診断を目的として行われる検査である.

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○c 1mgDST 後のコルチゾールが 1.8〜3μg/dL の際に,ACTH 基礎値の抑制と

コルチゾール日内変動消失の所見が診断に重要である.

×d subclinicalCushing 症候群の診断には,大量 DST は行わない.

×e コルチゾール自律性分泌によるACTH分泌抑制の有無と程度を評価するに

は有用であるが,確定診断の決め手とはならない.

●subclinicalCushing 症候群(SCS)の新たな診断ガイドラインが作成され,

診断アルゴリズムが作成された.それによると,一晩 1mgDST 後の翌朝血中コ

ルチゾール抑制が極めて弱い(≧5)場合はそれだけで,比較的弱い(3≦DST<

5)場合は ACTH 分泌抑制,コルチゾール日内リズム消失,血中 DHEA-S 低値(ACTH

分泌低下を反映),アドステロールシンチグラフィ左右差の存在,以上のいず

れか 1つの傍証をもとに SCS と診断する

●一方,一晩 1mgDST 後の翌朝血中コルチゾール抑制が比較的強い(1.8≦DST≦3)

場合は,ACTH,コルチゾールの日内変動を評価して ACTH 分泌が抑制され,かつ

ACTH・日内変動の消失を認めた場合のみ,SCS と診断できる.術後の病理所見か

ら後方視的に診断する方法もある.

補足事項

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●下垂体性 Cushing 症候群(Cushing 病)に関しても Cushing 徴候を呈さないサ

ブクリニカルな例(SCD:subclinicalCushingdisease)の存在が明らかにさ

れ,ガイドラインも作成されている.下垂体性の場合,一晩 0.5mgDST を行い,

翌朝コルチゾール値>3μg/dL をスクリーニングの基準としている.

参考

●柳瀬敏彦他:副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)新診断基準.

日本内分泌学会雑誌2017;93(Suppl.September):1-18.