アルジェリア東西高速道路建設プロジェクト

－海外・超大型突貫プロジェクトの課題－

鹿島建設（株）海外支店 石田 稔

ジャミラ遺跡 凱旋門コンスタンチン シディ・ムシド橋

工事位置図アンナバ

アンモニアプラント工事

1. プロジェクト概要チュニジアとモロッコを結ぶ1,200kmの高速道路

東工区はBBAからチュニジアまでの400km

プロジェクト概要

高速道路整備工事（西工区・中工区・東工区）の内、東工区（延長399㎞）の高速道路新設工事（一部調査・詳細設計含む）

1‐1. アルジェリア高速道路ネットワーク2025年

1‐2. 東工区ルート

BBASetif

Constantine Skikda Annaba

Camp1

Camp2Camp3

Camp4

Camp5

Camp6Camp7

• 企業社：アルジェリア公共事業省高速道路公団

• コンサルタント：ANAS（伊）

• 請負者：鹿島・大成・西松・ハザマ・伊藤忠JV• 資金源：アルジェリア政府自己資金

• 工事金額：約5,400億円（税込）

• 契約工期：2006/9/18～2010/8/22（47ヶ月）

• 契約形態：数量精算方式（BQ契約）

1‐3. プロジェクト概要

1‐4．主要工事数量

【本線数量】（本契約）• 【区間】BBA～チュニジア国境399km• 【道路】片側3車線、上下6車線の高速道路• 【トンネル】3ヶ所×上下2本＝6本、

（1,909＋295＋2,504.5）×2＝9,417m• 【本線橋】43ヶ所×上下2本＝86本、

（総延長4,424m×2＝8,848m）• 【土工事】約11,000万m3

（東京ドーム約89個分強）• 【コンクリート工事】約200万m3

（東京ドーム約1.6個分）【インターチェンジ等追加工事土工事数量】（追加契約）

約1,500万m3（東京ドーム約12個分強）

1‐5．プロジェクトの特徴

• 調査、設計、膨大な施工数量を４６ヶ月で完成

• シーリング（上限価格）による契約上の縛り

• 基本設計未完（仕様・規格不整合）のまま発注

→土質調査、地形図作製から設計やり直し

• フランス規格の適用、フランス語

• イスラム・社会主義名残（意思決定遅延）

• 技術仕様書厳守（適合材料不足も軽減措置なし）

• The Engineerに権限移譲されず

• 発注者代表者に全権限集中（1200km掌握)• 大統領プロジェクト（政治的判断）

国別人員配置（2010年4月末）

日本 816 ネパール 53 スペイン 3

アルジェリア 19,308 ミヤンマー 7 ポルトガル 3

マレーシア 123 バングラデシュ 57 イギリス 3

フィリピン 1,371 韓国 1 スイス 1

インド 460 中国 16 パキスタン 2

インドネシア 1,293 台湾 3 メキシコ 1

ベトナム 1,177 エジプト 10 モーリシャス 1

タイ 783 モロッコ 1 ロシア 1

シンガポール 2 ルーマニア 22 第3国人計 5,607

スリランカ 209 フランス 4 合計 25,731

機械配置（2010年4月末）ブルドーザー 263 クラッシングプラント 8 生コン車 309

ホイールローダー 170 クラッシングプラント 7 給油車 76

油圧ショベル 672 移動式クラッシャー 37 ビチュメンローリー 67

ダンプトラック 1,945 バッチングプラント 22 散水車 142

モーターグレーダー 89 ミキシングプラント 13 セメントローリー 93

コンパクター 429 アスファルトプラント 17 トラック 138

クローラードリル 29 その他 58 トラクター 49

モータースクレイパー 14 プラント 計 162 トレーラー 60

スタビライザー 4 ジャンボ 19 ユニッククレーン 127

アスファルトフィニッシャ 53 コンクリート吹付機 19 コンクリートポンプ 42

その他舗装機械 75 ジャイアントブレーカー 91 フォークリフト 24

重機 計 3,743 送風機 38 高所作業車 24

トラッククレーン 86 自由断面掘削機 9 その他 90

クローラークレーン 9 覆工用型枠 9 作業用車両 計 1,241

ボーリングマシーン 9 覆工用足場 9 一般機械 計 3,125

杭打ち機 6 その他 36 乗用車両 計 Vehicle Total 1,554

移動式重機 計 110 トンネル機械 計 230 全重機・車両 計 10,165

開通状況

工区全体路線・キャンプ位置図

Ｃａｍｐ-１ Ｃａｍｐ-２

Ｃａｍｐ-３Ｃａｍｐ-４

Ｃａｍｐ-５

Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

2. 施工状況

12工区 PK32付近 GC3夜間施工（２００９年８月）

12工区 PK18付近 GB （基層）施工（２００９年８月）

2-1. Camp1 施工状況

Camp１ (11工区 PK53) GB施工（2010年3月）

Camp１ (11工区 ＯＡ39.2) 本線橋（2010年3月）

Camp１ (11工区 ＯＡ62.1) 跨線橋（2010年3月）

Camp１ (11工区 PK43) ｺﾝｸﾘｰﾄﾊﾞﾘｱ準備工（2010年3月）

Camp１ (11工区 PK62) 排水工（2010年3月）

工区全体路線・キャンプ位置図

Ｃａｍｐ-１ Ｃａｍｐ-２

Ｃａｍｐ-３Ｃａｍｐ-４

Ｃａｍｐ-５

Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

2‐2. Camp2 施工状況

８工区 PK160付近 CDF仕上げ（２００９年８月）

１０工区 PK102付近 GC3夜間施工（２００９年８月）

Camp-２

Camp２ (10工区PK92) ＧＣ３施工（2009年10月）

Camp２ (9工区ＩＣ15) ｲﾝﾀｰﾁｪﾝｼﾞ施工（2009年12月）

Camp２ (9工区PK129‐142) 開通式典（2010年1月）

Camp２ (9工区PK129‐142) 開通式典（2010年1月）

Camp２ (9工区PK129‐142) 開通式典（2010年1月）

Camp２ (9工区PK129‐142) 開通区間（2010年1月）

Camp２ (9工区PK129‐142) 開通区間（2010年1月）

Camp２ (8工区 PK146) ＣＤＦ施工（2010年3月）

Camp２ (8工区PK167) ＧＣ３施工（2010年3月）

Camp２ (8工区PK146) GB施工（2010年3月）

Camp２ (8工区PK158) ｺﾝｸﾘｰﾄﾊﾞﾘｱ（2010年3月）

Camp２ (8工区PK167) 法面保護工（2010年3月）

工区全体路線・キャンプ位置図

Ｃａｍｐ-１ Ｃａｍｐ-２

Ｃａｍｐ-３Ｃａｍｐ-４

Ｃａｍｐ-５

Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

2‐3. Camp3 施工状況

開削トンネル全景（２００９年８月）

OA192.1本線橋全景（２００９年８月）

Camp３ (5工区 PK189) ＣＤＦ施工（2010年3月）

Camp３ (5工区 PK196) 路肩砕石（2010年3月）

Camp３ (5工区 ＯＡ192.1) 本線橋（2010年3月）

Camp３ (5工区 PK194) 開削トンネル（2010年3月）

Camp３ (5工区 ＯＡ188.1) 本線橋（2010年3月）

工区全体路線・キャンプ位置図

Ｃａｍｐ-１ Ｃａｍｐ-２

Ｃａｍｐ-３Ｃａｍｐ-４

Ｃａｍｐ-５

Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

2‐4. Camp4 施工状況

Sec4-2 OA201.2本線（２００９年８月）

T3左トンネル二次巻きｺﾝｸﾘｰﾄ（２００９年８月）

Camp４ (4工区 Ｔ1北) 右トンネル（2010年3月）

Camp-４Ｔ１トンネル南 切羽

Ｔ１トンネル中 アルジライト

Camp-４

Ｔ１トンネル南 ＦＩＴ施工Camp-４

Camp-４Ｔ1トンネル中 インバート施工

Camp４ (4工区 Ｔ３) 左トンネル（2010年3月）

Camp４ (4工区 PK204) 盛土工（2010年3月）

Camp４ (4工区 PK208) ｶﾙﾊﾞｰﾄ埋め戻し（2010年3月）

工区全体路線・キャンプ位置図

Ｃａｍｐ-１ Ｃａｍｐ-２

Ｃａｍｐ-３Ｃａｍｐ-４

Ｃａｍｐ-５Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

2‐5. Camp5/6 施工状況

4工区 OA 223.1 本線橋PC桁架設状況（２００９年８月）

T4中[横坑]トンネル（左線） FIT施工状況（２００９年８月）

Camp５・６ (4工区 PK230) ＣＤＦ施工（2010年3月）

Camp５・６ (4工区 ＯＡ216) 本線橋（2010年3月）

Camp５・６ (4工区 Ｔ４北) 左トンネル（2010年3月）

Camp-５

Ｔ４トンネル南 切羽（マール）

Camp-５Ｔ４トンネル北 坑口

Camp５・６ (4 工区 PK218) 盛土工（2010年3月）

Camp５・６ (4工区 PK245) 地すべり状況（2010年3月）

Camp７ (1工区 ＯＡ416.1)  横断ｶﾙﾊﾞｰﾄ（2010年3月）

工区全体路線・キャンプ位置図

Ｃａｍｐ-１ Ｃａｍｐ-２

Ｃａｍｐ-３Ｃａｍｐ-４

Ｃａｍｐ-５

Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

2‐6. Camp7 施工状況

1工区 OA 396.1 本線橋（２００９年８月）

2工区 PK347付近土工事（２００９年８月）

Camp-7 チュニジア国境

Camp7 (1工区 PK385) 切土工（2010年3月）

Camp-7

Camp7 (1工区 PK386) 岩砕盛土工（2010年3月）

Camp-7

Camp-7

Camp-7

Camp7 (1工区 ＯＡ394.1) 本線橋下部工（2010年3月）

Camp-7

Camp-7

Camp-7

Camp-7

Camp-7 ゲルマ原石山プラント

Ｃａｍｐ-６ Ｃａｍｐ-７

Ｂａｓｅ Ｃａｍｐアインシャルシャル原石山

シェフィア原石山

ゲルマ原石山

Camp-7 ゲルマストックヤード

3. 工事推進上の課題１）技術課題

地すべり地帯の大土工（Marl,Algilite) Camp4,5,6,7トンネル変状（Algilite,Marl）、補助工法 Camp4,5洪水エリア盛土（400万m3の良質石材） Camp7,6舗装の品質（骨材品質） 全Camp

２）資材調達上の課題 全Camp骨材調達（品質、物量）

盛土材の不足（Schists, Marl,A材の転用）Camp3,5,6建設資材ｽﾄｯｸ（ﾋﾞﾁｭｰﾒﾝ、ｾﾒﾝﾄ、骨材、ｴﾏﾙｼﾞｮﾝ）

３）契約上の課題 全Campクレーム・追加費用の取下げ

EOTの獲得

3-1. 工事推進上の課題

シスト（Schiste）の盛土転用許可

ブルドーザによる破砕 岩塊除去および含水比調整）

Camp5/6の沿線は破砕性シスト山であること、長距離運搬の許可が得られないことから盛土材の調達が出来ず施工が進まない。2008年6月から協議2008年11月4m、12月5m、2009年7月10mまで許可された。それ以上は不許可。客土山許可遅れ。工程圧迫

3-2. 工事推進上の課題

GC3施工機械の選定

ブル＋グレーダ グレーダ フィニッシャー

高さ +5 ～－10mm転圧減量 9 ～18mm施工時間 4時間40分

高さ +31 ～－5mm転圧減量 8 ～20mm施工時間 5時間10分

高さ +20 ～－11mm転圧減量 29 ～42mm施工時間 4時間20分

GC3を提案した2007年9月からDPNはﾌｨﾆｯｼｬｰを使用するべきと発言（根拠不明）GC3の施工はフランスの実績とIT施工が可能であることからグレーダ施工を提案（CJL)試験施工結果もﾌﾞﾙ+ｸﾞﾚｰﾀﾞが良好であったが根拠なくﾌｨﾆｯｼｬｰの使用を指示（2009年3月）→ﾌｨﾆｯｼｬｰ調達追加費用の発生と1年以上の無意味な論争の繰り返し

3-3. 工事推進上の課題

Ｔ１トンネル南坑口（地山の大変形）

Algilite

3-4. 工事推進上の課題地すべり（PK211)

地滑り規模：幅≒140m, 斜面長≒200m滑り土塊量：約20.6万m3

3‐5. 工事推進上の課題洪水域盛土（延長26km)

岩砕盛土が400万m3必

要になるが、国家統制品の火薬の供給不足、石材品質（すり減抵抗、粘土鉱物量）の要求が厳しく適合材料の所要量調達が困難

4‐1. プロジェクト実施組織

Control Externe

監査

←（請負者提出資料に全責任を負う）

4‐2. プロジェクト実施組織の課題

• 発注者には大規模な高速道路建設プロジェクト経験者不在。

• 意思決定者は土木技術者でない。技術判断はコンサルタント任せ。数量査定は検査官が実施するが、技術仕様書との照合のみ

• 基本設計はAMO、詳細設計と施工管理はBCSが所掌するが工程遅延責任は負わない

• 発注者は政治判断による方針変更が頻発

→意思決定の遅れや工事の手戻りが発生

（最終的な決定者が誰なのか判らない）

5‐1. 基本設計（APD)

• 契約後受領した基本設計は仕様・規格が不整合であり、詳細設計に先立ち基本設計のやり直しが必要であった

• 地形図、調査ボーリング、室内試験に膨大な時間を要した上、設計最適化要求のため承認に2年を要した【2006年9月～2008年8月】

→工程遅延の要因

5‐2. 詳細設計（DEX)

• 詳細設計はDPE（東工区）とBCS（施工管理コンサルタント）の承認が必要

• BCSは2008年10月配置、2009年1月から機能

（2007年1月から約2年間BCS不在のまま、DEX図面の承認なく施工→後から手戻りが発生）

• 基本設計の承認が有りながらDPEまたはBCSが設計の見直しを要求（排水カルバートなど）

→施工出来高査定はBCSであるので指示に従わざるを得ないが、大幅な工程影響が発生

6‐1. 技術仕様書（１）

• フランスの高速道路の技術仕様書を流用

• 入札図書はBQの整理のみで技術仕様書の適合化検討は実施されていない

• サイト条件や膨大な施工数量、施工工程が考慮されていない

• 材料品質不適合→膨大な資材調達の足かせ

• 検査頻度・数量膨大→ラボ容量を超過

6‐2. 技術仕様書（２）

• 骨材品質要求が高く、適合材料が不足

（市中骨材はほとんど使用できない。少しでも規格値を外れると使用許可されない）

• 盛土材料の規格が厳しく、適合材料が不足

（85%は捨土→膨大な客土→近隣に客土山なし

→遠距離客土山申請→許可下りない（輸送費）

• 洪水域盛土構造（盛土基礎に高品質石材要求）

→火薬不足に加え岩砕は品質不適合、

砕石製造では工程は不成立であるが、

技術仕様書と異なる代案は不許可

7. The Engineerの機能

• 契約上The Engineerは、技術的、契約的な判断と指示権限を有する

• The Engineer（BCS)は配置されているが契約にある権限は与えられていない。実質的なThe Engineerの権限は発注者代表者の一元管理下にあり、異論を挟めば排除される

一方的な発注者判断の強要

（早期竣工要求、追加工事の強要、工程遅延や追加費用責任を請負者に強要）

8. COJAALの弱点＝日本土木界の課題

1. 超大型工事の調査～設計～調達～施工の上流から下流までを計画・遂行するマネージメント・総合力の不足

2. EU、仏規格の知識に乏しく、性悪説に不慣れである（アフリカ仏語圏経験不足）

3. 国内における小割り・工種別発注に起因した総合力の欠如（舗装、トンネル設備、道路施設など未経験）

4. 国内の充実した調達環境に起因した材料調達のノーハウの欠如（骨材、砂の生産、ビチューメン、セメントの調達とストック）

5. 中国工区と比較して国家レベルの関与が限定され、日本土木界の総合力を結集することは容易でない（技術顧問団の編成、COJAAL組織への人員派遣等）