半導体レーザ - ehime universityakitsu.ee.ehime-u.ac.jp/lect/m/optlect16_10.pdf2...

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1 半導体レーザ 半導体レーザの歴史 1957年 半導体レーザの提案と特許 西沢潤一、渡辺寧 (東北大学) 1962年 ホモ接合による注入型半導体レーザ (GE,MIT,IBM,イリノイ大) 1970年 ダブルヘテロ接合による半導体レーザの室温連続発振 1976年 InGaAsP/InPによる1μ帯レーザ Hsieh (MIT) 1980年 動的単一モードの研究 末松安晴(東工大) 1986年 (In,Al,Ga)P/(In,Ga)Pによる可視光レーザ(赤色)室温連続発振 東芝、NEC、SONY (International Symposium on GaAs and Related Compounds, 軽井沢) 1990年代 面発光レーザ 伊賀健一(東工大)、量子井戸レーザ 1993年 (In,Ga)Nによる青色レーザ 中村修二 (日亜化学) 半導体レーザの構造の特徴 現在の半導体レーザの構造の代表例を図1に示す。これはストライプ型レーザと呼ばれる。エピタキ シャル成長法により、III-V 化合物基板(図1ではInP)上に、ダブルヘテロ構造が形成される。成 長後に、電流狭さくの為に幅2-20μmのストライプ型電極が形成され、電極直下の部分のみ発光す るようになっている。このために小さな素子電流で発振に必要な電流密度(しきい値電流密度)が実現 される。素子はファブリペロー型共振器を形成している。このためにウエハーは機械的な劈開により2 つの平行な(110)面がつくられる。この劈開面の ミラーが共振器を形成し、この端面よりレーザ光が取 り出される構造となっている。 図1 ストライプ型レーザ 図2 ダブルヘテロ構造のエネルギーバン ドと屈折率

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    半導体レーザ

    半導体レーザの歴史

    1957年 半導体レーザの提案と特許 西沢潤一、渡辺寧 (東北大学)

    1962年 ホモ接合による注入型半導体レーザ (GE,MIT,IBM,イリノイ大)

    1970年 ダブルヘテロ接合による半導体レーザの室温連続発振

    1976年 InGaAsP/InPによる1μ帯レーザ Hsieh (MIT)

    1980年 動的単一モードの研究 末松安晴(東工大)

    1986年 (In,Al,Ga)P/(In,Ga)Pによる可視光レーザ(赤色)室温連続発振

    東芝、NEC、SONY (International Symposium on GaAs and Related Compounds, 軽井沢)

    1990年代 面発光レーザ 伊賀健一(東工大)、量子井戸レーザ

    1993年 (In,Ga)Nによる青色レーザ 中村修二 (日亜化学)

    半導体レーザの構造の特徴

    現在の半導体レーザの構造の代表例を図1に示す。これはストライプ型レーザと呼ばれる。エピタキ

    シャル成長法により、III-V 化合物基板(図1ではInP)上に、ダブルヘテロ構造が形成される。成

    長後に、電流狭さくの為に幅2-20μmのストライプ型電極が形成され、電極直下の部分のみ発光す

    るようになっている。このために小さな素子電流で発振に必要な電流密度(しきい値電流密度)が実現

    される。素子はファブリペロー型共振器を形成している。このためにウエハーは機械的な劈開により2

    つの平行な(110)面がつくられる。この劈開面の

    ミラーが共振器を形成し、この端面よりレーザ光が取

    り出される構造となっている。

    図1 ストライプ型レーザ

    図2 ダブルヘテロ構造のエネルギーバン

    ドと屈折率

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    発振しきい値と効率

    半導体レーザが発振するための条件は、光

    が共振器を1往復して得られた利得と損失

    が等しくなる条件である。(図3参照)

    レーザ発振に必要な活性層の利得 gth

    光の閉じこめ係数 ξ

    共振器長 l 端面の反射率 R1,R2

    次式の左辺は、損失を含む一巡利得であり、

    これが1となることが発振条件である。

    R1,R2 exp{(gthξ-α) 2l }=1

    両辺の対数をとり

    In R1,R2+(gthξ-α) 2l=0 が得られるこの式を変形することに

    より発振条件として、

    gthξ=α-(1/2l) In R1,R2

    gthξ = α + (1/l)ln 1/√R1R2

    が得られる。

    しきい値利得係数 gth を小さくして、小さなしきい値電流密度(Jth)でレーザ発振を実現するためには、

    光の閉じこめ係数ξを大きくする、光吸収係数αを小さくする、端面の反射率を大きくする、共振器長

    を長くすることが重要である。

    また、利得係数gは、活性層内のキャリア密度Nに比例し増加する。 比例定数を A0とすると。

    g= A0 (N-Ng) = A0N-αin

    ここで Ngはバンド間吸収をうち消して利得が生ずるキャリア濃度で、これをαinに含める。

    キャリアの寿命をτsとすると、活性層内のキャリア濃度 Nは、

    N=(τs /e・d)J

    で与えられる。 ここで、Jは注入電流密度、eは電荷密度である。

    τsがNに反比例し、τs = (Beff・N)-1であることを考慮すれば、

    となり、利得と注入電流密度が関係づけられる。ここで、Beffは有効再結合係数と呼ばれる。 g = gthのときの電流密度がしきい値電流密度 Jthとなるので、Jthは次式で与えられる。

    しきい値電流密度は活性層の厚さdが小さいほど減少する。これとは逆に、dが 0.1mm 以下になると Jth

    図3 半導体レーザでのファブリペロー共振器による

    レーザ発振条件

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    が増加する。これは光の閉じこめ係数が低下するため

    である。図4に、しきい値電流密度の活性層厚d依存性を示す。 図4より Jthの最小値は d=0.1-0.2μm であることがわかり、通常この値を用いる。 Jthはdにより変化するため、性能評価には Jth/dを用いることが多い。この値が 4-5KA/cm2/μm 程度以下であれば、これは良質のレーザである。

    しきい値電流の温度依存性

    半導体レーザのしきい値電流は温度上昇により低下

    する(図5参照)。 これは図5の下図で示されるよ

    うに次式で表される、

    Ith=I0 exp(T/T0)

    と表わされる。ここでT0は特性温度と呼ばれ、半導体レーザの温度に対する性能を示す。T0の値は、AlGaAs/GaAsレ ー ザ で 130-180K 程 度 で あ り 比 較 的 高 い が 、

    InGaAsP/InP レーザでは 50-70K と低い。これは主にダブ

    ルへテロ接合におけるキャリアの閉じこめ効果を反映し

    ており、キャリアの障壁が AlGaAs/GaAs レーザで 300meV

    と十分高いことに対してInGaAsP/InPレーザでは150meV

    と低いことによる。これは InGaAsP/InP レーザでは、温

    度が高くなれば、ダブルヘテロ接合での障壁を通り越す

    キャリアが増加し拡散電流が増加し、輻射再結合電流が

    減少する為である。光通信用の InGaAsP/InP レーザでは、

    ペルチェ素子を用いた電子冷却による厳密な温度調節が

    行われている。

    微分量子効率

    しきい値電流とともに半導体レーザの性能を示すパラメータに微分量子効率ηdがある。ηdは半導体レ

    ーザの光出力-電流特性(L-I特性)の直線部分の傾きで与えられる。

    ΔI/eは活性層に注入されるキャリア数であり、ΔL/ħωは単位時間当たりレーザ共振器から放出される光子数である。ηdを共振器のパラメータで記述すると次のように表される。

    ここでR1からの出力を考える。式よりηdはR1が小さいほど大きいことがわかる。しかし、光出力は

    共振器の2つの端面より放出される為、R1=R2のときに利用できる光は1/2であり、ηdの値は最

    大で50%である(実際には30-45%)。また上式より、R1とR2を一定に保った条件で、ηdの

    図4 しきい値電流密度の活性層厚d依存性

    図5 半導体レーザの温度特性

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    値を増加させることができることがわかる。

    半導体レーザの縦モード

    半導体レーザでは、発振条件で述べたよ

    うに利得が損失を超えたときに発振が起

    こる。ファブリペロー共振器では、進行波

    と反射波の干渉により定在波が生じてい

    る。屈折率nの半導体中での光の波長はλ/nであるので、共振器長lを用いると定在波が生じる条件は、

    mλ/2n=l

    で示される。ここで整数mはlに入る波の数を示す。従ってmで指定される多くのモードがレーザの共振器に存在する。これが、

    縦モードと呼ばれる。従って、利得が損失

    を超えた波長における全ての縦モードが

    同時に発振する。これはマルチ縦モード発

    振と呼ばれている。上式を微分することに

    より、mとm+1の波長間隔Δλが次式で

    与えられる。

    図6にしきい値電流付近での半導体レー

    ザの放出スペクトルを示す。しきい値電流

    以下では半導体レーザは自然放出により

    発光している為、発光はバンド間遷移によ

    るものであり、ブロードである(半値半幅

    の理論値は1.8kT)。この状態では、半導体レーザは発光ダイオードとして動

    作している。素子電流がしきい値電流を越

    えると、誘導放出が生じ、発光線幅が減少

    していく様子が図6に示されている。

    図7に高分解能測定によるDHレーザ

    の発振スペクトルを示す。素子電流145mAでは、

    先に述べたようなマルチ縦モードの発振スペクトル

    がみられる。波長間隔Δλは7.5Åである。

    素子電流を増加させると特定のモードがエンハン

    スされる様子が分かる。これは図8に示すように、

    利得スペクトルが鋭くなり短波長へシフトする為で

    ある。従って、電流を増加させると短波長のモード

    が優先的に発振することがわかる。

    また後に述べるが、利得導波型レーザに比べて、

    屈折率導波型レーザの方が単一モードに近い発振を

    する。また、温度変化などによるゲインスペクトル

    により、発振モードが飛ぶことによる発振波長のΔ

    λのシフトが生じ、これはモードホッピングと呼ば

    れる。モードホッピングにより生じる雑音はモード

    図7 DHレーザの発振スペクトル(高分解能)

    図6 しきい値電流付近での半導体レーザの放出スペ

    クトル

    図8 光学利得スペクトル

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    ホッピング雑音と呼ばれる。

    また、直流では単一モードの発振をしていても、変調をかけることによりマルチモードの発振に変化

    することがおこる。従って変調時における単一モード発振が光通信用の半導体レーザに必要とされる。

    このように変調時において単一モード発振の動作を行うことを動的単一モード発振と言う。この為には

    波長選択性を持たせるために回折格子を半導体レーザに組込むことが必要とされる。活性層に回折格子

    を組み込んだレーザを分布帰還型レーザ(Distributed Feed Back: DFB)レーザ、活性層の外部に回折

    格子を組み込んだレーザを分布ブラッグ反射型レーザ(Distributed Brag Reflection: DBR)と呼ぶ。

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    横モード制御とストライプ構造

    半導体レーザの発振領域をストライプ状に制限して素子電流の低減化を行う半導体レーザの素子構

    造をストライプ構造と言う(図1参照)。縦長いストライプ領域を用いることで発振方向に垂直な面内

    でのモードである横モードの制御を同時に行う。

    ストライプ型電極を用いて電流注入を行う電極ストライプレーザのように、電流注入領域のみの利得

    をあげて、利得分布を用いて光を導波する構造を、利得導波型のストライプレーザと言う。

    利得導波型レーザのL-I特性には図9に示す

    ような折れ曲がりが生じる。これは素子電流の変化

    に伴って横モードが変化することが原因である。こ

    の様子を図9(b)に示す。

    利得導波型でもストライプ幅を狭くすることに

    より、キンクの発生する電流を高くすることができ

    る。

    接合と平行方向に屈折率分布をもたせるように

    素子に導波構造をつくり込んだ半導体レーザを、屈

    折率導波型レーザと言う。

    利得導波型レーザの利得分布の不均質さに比べ

    て、屈折率導波型レーザでは導波効果を強くして、

    高次の横モードを遮断することにより横モードの

    均質化を行う為に、横モードは安定になり高注入レ

    ベルまで基準横モードが維持される。代表例を図1

    0に示す。

    この代表例として埋め込み型(BH型)レーザ構

    造がある。BHレーザでは、幅1-3μmのストラ

    イプ状の活性層の領域を、屈折率の高い禁制帯幅の

    広い半導体で取り囲んだ構造をしている。活性層と

    クラッド領域の横方向の屈折率の差により、光導波

    路が構成されるために横モードが安定化される。さ

    らに、注入キャリアは横方向に形成されたダブルヘ

    テロ構造によるキャリアの閉じこめ効果により、横

    方向への拡散が抑制されるため、しきい値電流は低

    くなり、また素子効率も高くなる。素子のしきい値

    電流は、通常で10-30mA程度である。この構

    造をつくるためには、エピタキシャル成長でダブル

    ヘテロ構造を作製した後、エッチングによりストラ

    イプ領域を残してエピ層を取り除く。その後、再度エピタキシャル成長により、クラッド領域を成長す

    る。これを埋め込み成長という。

    他の屈折率導波型レーザの構造として、

    TJS(Transverse Junction Stripe)型

    CSP(Channeled-Substrate Planner)型

    PCW(Plano-Convex Waveguide)型

    があり、これらの構造では屈折率導波構造とともに電流を発光領域に有効に注入する為の電流制限機構

    をもっている。

    理論的には、横モードが十分安定化されていれば縦モードも単一になることが予測される。実際に屈

    折率導波型レーザでは発振スペクトルが単一モードになりやすい。屈折率導波型レーザの発振スペクト

    ルを図11に示す。

    また、表1に利得導波型と屈折率導波型レーザの比較を示す。

    図9 利得導波型ストライプレーザにみられる

    素子電流の変化に伴う横モードの変化。

    図10 屈折率導波型レーザにより横モード制御を

    行った素子構造例

  • 7

    半導体レーザの静特性

    屈折率導波型レーザの発振スペクトルは図11に示すように、しきい値近傍の素子電流では多くの縦

    モードの同時発振がみられる。素子電流をしきい値電流より増加させるに従って、1つの縦モード発振

    線の強度が上昇し、他のモードの強度が相対的に低くなる。さらに図11では1.25Ith でほぼ単一

    モードの発振が実現されている。これは特定の発振モードの強い光電界の為に、そのモードの誘導放出

    が促進され、その為に他のモードの利得が抑制される為である。高注入電流では、この光強度比は10

    00倍に達し、きれいな単一モードの発振が実現される。これはきわめて単色性が高いことを示してい

    る。

    図11でみられるように、注入電流の増加にともなって、発振モードは順番に長波長の縦モードにジ

    ャンプする。これは、電流増加による発熱の為に活性層の温度が上昇し、活性層のバンドギャップエネ

    ルギーが減少することにより、利得スペクトルが長波長にシフトすることによる。図13に発振波長の

    温度依存性を示す。素子温度の上昇に伴い、発振波長が縦モードのジャンプに伴い、数Åずつモードの

    とびと繰り返しながら、長波長にシフトする。平均の波長の温度依存性は、AlGaAs レーザで3Å/℃、

    InGaAsP レーザで4-5Å/℃程度である。なお、屈折率の温度変化による波長の長波長シフトの割合

    は1Å/℃程度である。

    図11 屈折率導波型レーザの発振ス

    ペクトル

    表1 利得導波型と屈折率導波型レーザの比較

    図12 主発振モードと隣接発振モ

    ードの光強度の入力電流依存性

    図13 発振波長の温度依存性

  • 8

    近視野像と遠視野像

    近視野像

    レーザの端面に沿った光強度分布

    遠視野像

    レーザから遠く離れた位置での光強度分布

    活性層の厚さ:0.1~0.2μm:光波長以下

    ストライプの幅:数μm~数十μm:光波長より大

    横に長い矩形の発振領域

    近視野像:横モードを反映した横に長い矩形

    遠視野像:光の回折により近視野像がフーリエ変換された

    形状、縦長のパターン

    図14 半導体レーザの出射ビーム

    図15 半導体レーザの出射ビームの半

    値全角の活性層厚d/λ依存性

  • 9

    変調特性

    半導体レーザに電流を注入してパルス変調を行うと、

    図16に示すように、時間応答波形に数GHzの振動

    がみられることがある。これを緩和振動という。これ

    は、光とキャリアの相互作用に適度の位相差があるこ

    とに原因がある。

    緩和振動は、半導体レーザの変調帯域幅を制限する

    などの実用上の問題となる。しかし半導体レーザの初

    期的な開発段階で緩和振動は問題になったが、緩和振

    動は狭ストライプ構造により抑制されて現在は改善さ

    れている。

    半導体レーザの周波数応答は、小信号を仮定すれば、

    となる。ここで、ωro2 は、

    である。

    ここで、τsはキャリアの寿命、τpは光子の寿命である。

    半導体レーザの変調感度の周波数依存性を図17に示

    す。共振現象(ピーキング)がみられ、変調感度は共振状

    周波数frで最大になる。fr以上では変調感度は急激に減少する。したがって共振状周波数fr は直接変調周波数の上限とみなすことができる。変調感度の最大値Fp を共振状ピーク値という。

    緩和振動周波数は、共振状周波数fr とほぼ一致する。これは、緩和振動が、半導体レーザでの共振現象によって

    生じていることに起因している為である。

    共振状周波数frは近似的に次式で与えられる。

    共振状周波数fr は数GHzであり図18に示すようにバイアス電流の増加に伴い上昇する。

    図17 半導体レーザの変調感度の周

    波数依存性

    図16 半導体レーザのパルス変調特性

    図18 半導体レーザの共振状周波数

    のバイアス電流依存性

  • 10

    図19に半導体レーザの変調時の発振スペクトルを示す。半導体レーザは直流動作時には単一縦モード

    発振となりやすいが、直接変調を行うと発信縦モード数が増加する。これは、変調に伴って活性層の利

    得が著しく変動し、複数の縦モードにおいて、過渡的に光学利得が共振器損失を上回るからである。

    このような、スペクトルの広がりを動的スペクトル広がりという。動的スペクトル広がりは AlGaAs レ

    ーザで2nm程度、InGaAsP レーザで10nm程度である。

    この広がりは、光通信用の1.55μm帯の半導体レーザでは光帯域が制限される場合に問題になる。

    このような場合には、変調下でも単一スペクトルが維持される動的単一モードレーザが用いられる。

    図19 半導体レーザの変調時の発振ス

    ペクトル

  • 11

    動的単一モードレーザ

    また、直流では単一モードの発振をしていても、変調をかけることによりマルチモードの発振に変化す

    ることがおこる。従って変調時における単一モード発振が光通信用の半導体レーザに必要とされる。こ

    のように変調時において単一モード発振の動作を行うことを動的単一モード発振と言う。この為には波

    長選択性を持たせるために回折格子を半導体レーザに組込むことが必要とされる。活性層に回折格子を

    組み込んだレーザを分布帰還型レーザ(Distributed Feed Back: DFB)レーザ(図20(b))、活性層

    の外部に回折格子を組み込んだレーザを分布ブラッグ反射型レーザ(Distributed Brag Reflection:

    DBR)と呼ぶ(図20(a))。また図20(c)は異なる長さの2つのレーザ共振器を結合させた複合共

    振器レーザである。

    これらの構造では、共振器のQ値が各共振モードで異なり、特定の共振モードのQ値を高くできる。

    そのため発振モードが1つに選択される。さらに、隣接共振モードとのQ値の差の為に、直接変調時に

    利得が激しく変動していても、安定な単一縦モード発振が維持される。

    図21に InGaAsP DFBレーザの直接変調時の発振スペクトルを示す(1.6GHz正弦波変調時)。

    活性層の屈折率変動の為に線幅が広がってみえるが、縦モードは1つであり、モード数の増加はみられ

    ない。この線幅の広がりを動的波長シフトまたはチャーピングという。

    図20 動的単一モードレーザの例

    図21InGaAsP DFBレーザの直接変調時の発振スペクト

    ル。 I/Ith=1.2 変調度 m=100%

  • 12

    半導体レーザの雑音

    半導体レーザの雑音には、量子雑音、分配雑音、モードホッピング雑音、戻り光雑音、等がある。

    量子雑音は、ランダムな自然放出仮定の統計的ゆらぎに起因するものであり、電流でみるとしきい値

    電流でピーク値を持ち、周波数的には共振状周波数で最大値をとる。

    分配雑音は、利得導波型レーザのように、複数の縦モードで発振する半導体レーザでは、個々の発振

    モードの一種のモード競合に基づく強度変動が生じることにより生じる雑音である。

    モードホッピング雑音は、縦モードが次のモードにジャンプするときに発生するもので、モードが移

    る瞬間に2つのモード間での電力のやりとりが原因となる。

    図22に半導体レーザに一定のバイアスを印加しながら温度を変えたときの相対雑音強度RINを示す。

    相対雑音強度 RIN は次式で定義される。

    ここでPは平均光出力、ΔPは光出力のゆらぎ、Bは帯域幅である。

    図22の雑音のベースラインは量子雑音によるもので、スパイクのような瞬時的な雑音は温度変化に伴

    うモードホッピング雑音である。

    半導体レーザの可干渉性が向上するにつれて、外部の反射点から光がレーザ内に戻されると、位相に

    より大きな雑音が生じる。これを戻り雑音という。この雑音は、レーザ光出力のうち、端面に戻ってく

    る戻り光量の割合(光帰還率)が 0.01~1%の範囲で大きく、RIN=10-11に達する激しい雑音が生じる。

    1%以上では雑音レベルが量子雑音より一桁大きくなるが、安定化して雑音ピークは現れなくなる。これ

    は、戻り光量が増加すると多モード発振となり、干渉性が悪化するためである。この対策として、光ア

    イソレータを用いる方法、や利得導波型の採用、高速変調による多モード化により戻り光雑音の影響を

    除去する、などが行われる。

    図22 半導体レーザの相対雑音強度 RIN の温度依存性(戻

    り光無し)ベースラインは量子雑音に、スパイクはモードホ

    ッピング雑音に対応する。