潮汐・高潮・波浪結合モデルによる土佐湾異常高潮...

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海 岸 工 学 論 文 集,第55巻(2008) 土 木 学 会,321-325 潮汐 ・高潮 ・波浪結合モデルによる土佐湾異常高潮の追算 Storm Surge Simulations Occurred in the Tosa Bay by Using Surge-Wave-Tide Coupled Model 沫 列1・ 安 田 誠 宏2・ 間瀬 肇3 Soo Youl KIM, Tomohiro YASUDA and Hajime MASE The storm surge residual of 2.35m was recorded during Typhoon Anita (T7010) at Katsurahama in the Tosa Bay. The surge could not be explained by usual meteorological forces. The inclusion of the wave-induced radiation stress was nec- essary. This study examined the effects of waves and tidal variations for estimating the abnormal storm surge by using a coupled model between strom surges and waves together with the tidal variations, named as the SuWAT (Surge-WAve- Tide coupled model), and clarified those effects on the storm surge. 1. じめ 四国南岸 に来襲 した台風7010号 は,高 知県の桂浜で 2.35mに も及ぶ潮位偏差を記録 した.外 洋に面 した海岸 で この よ う な潮 位 偏 差 が 生 じた こ と は まれ で あ り,多 の再現 シ ミュ レー シ ョンが試 み られ た.こ れまで明 らか に され た と こ ろ で は,気 圧低下 と吹き寄せのみを考慮す る シ ミュ レー シ ョ ンで は再 現 で きな い こ と,密 度成層の 影 響 は 小 さ い こ と,波 に よ るwave setupの 影 響 が 重 要 であ る ことで ある(山 下 ・別宮,1996;柴 木 ら,2001). 従 来 の 研 究 に お け るwave setupの 効 果 は,波 の推算を っ てradiation stressを 求 め て お き,高 潮の運動方程式 にradiation stressに よ る応 力 項 を導 入 して 高 潮 計 算 を行 う こ と で考 慮 す る.こ う した解 析 に よ り,wave setupの 効果が重要であることが示 された. 本 研 究 で は,高 潮計算 と波浪計算 を結合 し,ま た同時 に潮 汐 変 動 も考 慮 した,潮 汐 ・高潮 ・波浪結合モデル (SuWAT: Surge-WAve-Tide coupled model)に よ り,台 7010号 に よ る土 佐 湾 沿 岸 の 高 潮 追 算 を 行 う もの で あ り, 異常潮位偏差の再現性,そ の潮位偏差 に及ぼす潮汐変動 や 波 浪 の影 響 につ い て検 討 す る. 2. 潮汐 ・高 潮 ・波浪結合モデル (1) 計算モデルの概要 大潮汐変動の中で,高 潮 に よ る海 面 上 昇 を適 切 に計 算 しよ う とす る と,波 と潮 汐,高 潮の相互干渉を考慮する 必 要 が あ る.そ こで,潮 汐 の影 響 につ いて は,予 め開 境 界 に お け る潮 汐 に よ る水 位 変 動 を 与 え て,計 算 領 域 の潮 位 変 化 を初 期 条 件 の 影 響 が な くな る ま で計 算 し,そ の後, 台 風 に よ る気 圧 低 下 と風 速 を海 面 に作 用 さ せ て,高 潮の 計 算 を 行 う.高 潮 計 算 モ デ ル に は,後 藤 ・佐 藤(1993) に よ る非 線 形 長 波 モ デ ル を用 い た. 高 潮 に対 す る波 浪 の影 響 に つ いて は,高 潮推算モデル と波 浪 推 算 モ デ ル(SWAN: Simulating WAves の計算において,相 互 に必要 な デー タを互 い にや り取 り す る双 方 向結 合 と して考 慮 した.計 算の高精度化のため に計 算 領 域 を ネ ス テ ィ ング し,各 計 算 領 域 をMPI (Message Passing Interface)に よ っ て 並 ル 開 発 を した(金 ら,2007).こ うした計算フローを図-1 に示 した. (2) 計算モデルの特徴 こ こで,柴 木 ら(2001)の 高 潮 推 算 モ デ ル と比 較 して, SuWATモ デ ル の 特 徴 を示 す と,以 下 の よ うで あ る. 1) 高潮 の運動方程 にradiation stress項 を 導 入 と波 浪 を 同 時 に 独 立 に 計 算 す る.柴 木 らのモデル (2001)は,波 浪 と高 潮 は別 々 に 計 算 す る.す な わ ち, ま ず 波 浪 推 算 を実 施 し,radiation stressの空 間 系 列 デ ー タ を求め て お き,こ れを高潮推算時に取 り込 む こ とで,波 の 影 響 を考 慮 す る. 2) 波 浪 モ デ ル に 用 い る水 深 は,同 時 に計 算 す る 高 潮 計 算 結 果 を用 い るの で,常 に変 化 して い る.柴 木 らの方 法 で は,波 浪推算において高潮の影響は考慮せず,水 深 は時 間 的 に 一 定 で あ る. 3) 本 推 算 モ デ ル で は,高 潮 と波 浪 は デ ー タ を や り取 り して い る(結 合 して い る).柴 木 らの モ デ ル は カ ップ リ ング は 考 慮 して い な い が,特 徴 と して,鉛 直方向に 3層 に分割 した連続式 と運動方程式の数値計算により 密 度 成 層 の 効 果 を考 慮 で き る よ うに な って い る.本 算 モ デ ル で は,こ れまでの研究により,密 度成層の影 響 は 大 き くな い こ と,お よびすべての計算領域 で波浪 と高 潮 が カ ップ リン グ した計 算 は 時 間 が か か る こ とか ら,密 度 成 層 の影 響 は考 慮 しな い. 1正 会員 博(工)鳥 取大学助教 工学部社会開発システム工 学科 2正 会員 博(工)京 都大学助教 防災研究所 3正 会員 工博 京都大学教授 防災研究所

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Page 1: 潮汐・高潮・波浪結合モデルによる土佐湾異常高潮 …library.jsce.or.jp/jsce/open/00008/2008/55-0321.pdfP7 P2 P4 P6 P8 図-6 全潮位変化に関する観測結果および推算結果の比較

海岸工学論文集,第55巻(2008)

土木学会,321-325

潮汐 ・高潮 ・波浪結合モデルによる土佐湾異常高潮の追算

Storm Surge Simulations Occurred in the Tosa Bay by Using Surge-Wave-Tide Coupled Model

金 沫列1・ 安 田誠宏2・ 間瀬 肇3

Soo Youl KIM, Tomohiro YASUDA and Hajime MASE

The storm surge residual of 2.35m was recorded during Typhoon Anita (T7010) at Katsurahama in the Tosa Bay. Thesurge could not be explained by usual meteorological forces. The inclusion of the wave-induced radiation stress was nec-essary. This study examined the effects of waves and tidal variations for estimating the abnormal storm surge by usinga coupled model between strom surges and waves together with the tidal variations, named as the SuWAT (Surge-WAve-Tide coupled model), and clarified those effects on the storm surge.

1. は じ め に

四国南岸 に来襲 した台風7010号 は,高 知 県の桂 浜で

2.35mに も及ぶ潮 位偏差 を記録 した.外 洋 に面 した海岸

で このよ うな潮位偏 差が生 じた ことはまれで あ り,多 く

の再現 シ ミュ レー シ ョンが試 み られ た.こ れまで明 らか

に された ところで は,気 圧低下 と吹 き寄せ のみを考慮す

る シ ミュ レー ションで は再現 で きな いこと,密 度成層 の

影 響 は小 さ い こと,波 によ るwave setupの 影 響 が重要

であ る ことで ある(山 下 ・別宮,1996;柴 木 ら,2001).

従 来 の研究 にお け るwave setupの 効果 は,波 の推 算 を

行 ってradiation stressを求 めて お き,高 潮 の運動 方程式

にradiation stressによ る応 力項 を導 入 して高潮計 算 を行

うことで考 慮す る.こ う した解 析 によ り,wave setupの

効果が重要 であ ることが示 された.

本研究 では,高 潮計算 と波浪計算 を結合 し,ま た同時

に潮 汐変動 も考慮 した,潮 汐 ・高 潮 ・波 浪 結合 モ デル

(SuWAT: Surge-WAve-Tide coupled model)に よ り,台 風

7010号 に よる土佐 湾沿岸 の高潮追算 を行 うもので あ り,

異常潮位偏 差の再現性,そ の潮位偏差 に及 ぼす潮 汐変動

や波浪 の影 響 につ いて検 討す る.

2. 潮 汐 ・高 潮 ・波 浪 結 合 モ デ ル

(1) 計算 モデルの概要

大 潮汐変動 の中で,高 潮 によ る海面上昇 を適切 に計算

しよ うとす ると,波 と潮汐,高 潮 の相互干渉 を考慮す る

必要 が ある.そ こで,潮 汐 の影響 につ いて は,予 め開境

界 にお ける潮汐 によ る水位変動 を与え て,計 算 領域 の潮

位 変化 を初期条件 の影響が な くな るまで計算 し,そ の後,

台風 による気圧 低下 と風速 を海 面 に作用 させて,高 潮 の

計 算 を行 う.高 潮計 算 モデル に は,後 藤 ・佐 藤(1993)

に よる非線形長 波 モデルを用 いた.

高潮 に対 す る波浪 の影響 につ いて は,高 潮推算 モデル

と波浪推算 モデル(SWAN: Simulating WAves Nearshore)

の計算 において,相 互 に必要 な デー タを互 い にや り取 り

す る双方 向結 合 と して考慮 した.計 算 の高精度化 のため

に計 算 領 域 を ネ ス テ ィ ング し,各 計 算 領 域 をMPI

(Message Passing Interface)に よ って並 列計 算 す るモデ

ル開発 を した(金 ら,2007).こ うした計算 フローを図-1

に示 した.

(2) 計算 モデルの特徴

ここで,柴 木 ら(2001)の 高潮推算 モ デルと比較 して,

SuWATモ デルの特徴 を示 す と,以 下 のよ うで ある.

1) 高潮 の運動方程 式 にradiation stress項を導入 し,高 潮

と波 浪 を同 時 に独 立 に計 算 す る.柴 木 らの モ デ ル

(2001)は,波 浪 と高潮 は別 々に計算 す る.す なわ ち,

まず波 浪推算 を実 施 し,radiation stressの空 間 的な時

系列 データを求め て おき,こ れを高潮推算 時 に取 り込

む ことで,波 の影響 を考慮 す る.

2) 波浪 モ デルに用 い る水深 は,同 時 に計算 す る高潮計

算結果 を用 い るので,常 に変 化 している.柴 木 らの方

法で は,波 浪 推算 において高潮 の影響 は考慮せず,水

深 は時間 的に一定 である.

3) 本推 算 モデル で は,高 潮 と波浪 は デー タをや り取 り

して いる(結 合 してい る).柴 木 らの モデル は カ ップ

リングは考慮 して いないが,特 徴 として,鉛 直方 向に

3層 に分割 した連続式 と運動方程 式の数値 計算 によ り

密度成層 の効果 を考 慮で きるよ うにな って いる.本 推

算 モデルで は,こ れまでの研究 によ り,密 度成層 の影

響 は大 き くない こと,お よびすべての計算領域 で波浪

と高潮が カ ップ リング した計算 は時間がか か ることか

ら,密 度成層 の影 響 は考慮 しない.

1正 会 員 博(工)鳥 取大学助教 工学部社会開発システム工

学科

2正 会 員 博(工)京 都大学助教 防災研究所

3正 会 員 工博 京都大学教授 防災研究所

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322 海 岸 工 学 論 文 集  第55巻(2008)

図-1  潮 汐 ・高潮 ・波 浪結 合 モデルSuWATの 計算 フ ロー

(a) 第1お よび第2計 算領域

(b) 第3お よび第4計 算領域

(c) 第5お よび第6計 算領域

図-2 計算領域 と台風経路

表-1 計算領域の位置,格 子サイズ及 び格子数

表-2  高潮推算の計算条件

3. 台風7010号 による土佐湾 にお ける高潮 ・波浪 推算

(1) 土 佐湾沿岸 にお ける高潮観 測結果

土佐湾沿 岸 には検潮所 が複数 あ り,当 時 の高潮 が記 録

され た.潮 位 偏差 の観測値 の うち,浦 戸 湾 口の桂浜 で は

これまで の最大 の値 で あ る235cmを 記録 した.ま た,

浦戸湾 内の横 浜,若 松 町にお いて も潮位 変動が観測 され

てい た.そ の ほか,土 佐清 水,下 田,上 川 口,室 戸,手

結にお いて も潮位変動が観 測 されて いた.

(2) 高潮計 算条件

図-2に6段 階 の計算 領域 図を示す.第1計 算 領域図 に

おいて は台風7010号 の経路,第3及 び第4計 算領域 図 に

は観 測点P1~P4,第5及 び第6計 算領 域図 に は観 測点

P5~P8の 位置 を示 す.こ れ らの観 測点P1~P8は,土 佐

清水,下 田,上 川 口,室 戸,桂 浜,横 浜,若 松 町お よび

手結 であ る.1段 階小 さな計算 領域の格子 サ イズは,大

きな計 算領域 の1/3に な るよ うに した.計 算領域,メ ッ

シュサイズお よび格子数 を表-1に 示 した.

高潮偏差 に及 ぼす潮汐 変動 および波 浪の影響 を調 べ る

ために,表-2に 示 す5種 類 の数 値計算 を行 った.例 え

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潮汐 ・高潮 ・波浪結合モデルによる土佐湾異常高潮の追算 323

(a)足 摺 (b)空 港 (c)室 戸岬

図-3  高潮推算に用いる風 ・気圧時系列 と観測結果の比較

(a) 潮位偏差の最大値 の空 間分布(CaseTWPRとCaseOTの 差)

(b) 有義波高 の最大値 の空 間分布(CaseTWPR)

図-4  結合 モデルSuWATに よる第5領 域での最大高潮偏差

の空間分布および第1領 域での有義波高の空間分布

ば,CaseTWPRは,潮 汐 変動,風,気 圧低下 お よび波

浪 のす べて を取 り入 れ て計算 す るケー スで あ り,Case

WPRは 風,気 圧 低下,波 浪 を考 慮 した もの であ る.こ

の2つ は高 潮偏差 を比較 す る ことによ り,潮 汐変動 の影

響 を知 ることが で きる.

図-5 沿岸域(第5領 域)での有義波高の空間分布(Case TWPR)

高 潮計算 は1970年8月20日6:00か ら21日20:00ま で

行 った.潮 汐 を考慮 す る計算 において は,潮 汐変 動が定

常 になるまで,前 もって行 ってお く.計 算時 間間隔 は,潮

汐 ・高 潮計算 において は1s,波 浪計算 において は300s

と し,高 潮 と波の情報 のや り取 りは300sお きに行 う.

台風 モ デルは,藤 井 ・光 田(1986)の それを用 い た.気

圧 と海 上風 につ いて,観 測結果 と高潮 ・波浪計 算 に用 い

た推算結 果 との比較 を図-3に 示す.風 速が ピー クに達

す る前の様子 に相 違が見 られる.特 に近傍 を台風が通過

した足摺 において,推 算結果 が過大評価 とな って いる.

風速 が ピークを過 ぎた後 の両者 の時間変化 は良 く一致 し

てい る.風 向 に関 して は,3地 点 と も両者 は良 くあって

い る.ま た,気 圧低下 に関 して も両者 は良 く一致 してい

ることが確 かめ られ た.

4. 高 潮 推算 結 果 お よ び潮 汐 変 動 と波 浪 の影 響

図-4(a)お よび(b)は,そ れぞ れ第5領 域 の潮位 偏差 の

最大値 の空 間分布 および第1領 域 の有義 波高の最大値 の

空間分布 を示 した ものであ る.こ れ らの計 算結果 は,潮

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324 海 岸 工 学 論 文 集  第55巻(2008)

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図-6  全潮位変化 に関する観測結果および推算結果の比較

図-7 最大潮位偏差に及ぼす潮汐変動の影響

汐変動,高 潮,波 浪 を結 合 した計算結果 で ある.有 義 波

高 は,外 洋で25mを 超 えて いる.図-5は,沿 岸域(第5

領域)で の有義波高 の空 間分布 を示 した ものであ る.外

洋で25mを 超 えて いた ものが,水 深 が浅 くなる につ れ

て砕波 によ り減少 して い く様子が良 くわか る.

よ り詳 細 に推算結 果 を検討 す るた めに,図-6に8地

点にお ける潮位 変化 に関 す る観測結果 と各 種推算結果 を

示す.観 測結果 は○印,潮 汐変動 と波浪 を考慮 した推算

結果 は実線,潮 汐変動 を考慮 す るが波浪 を考慮 しない推

算結 果を点線,気 象外力 を用 いな い潮汐変 動のみ の計算

結果 を破線 で示 して ある.

地 点P1~P4は 第3計 算 領域 および第4計 算領域 にあ

り,解 析 解像 度 は1350mお よ び450mと 粗 く,観 測地

点 と計 算結 果 出力点 の不 一致 のため もあ り,特 に地点

P2~P4で 観測 結果 と推 算結果 の一致度 が悪 い.P2地 点

図-8 最大潮位偏差に及ぼす波浪の影響

にお いて は,観 測 結果 の精度 にも問題 があ りそうで あ る.

その他 の地点P5~P8に おいて は,潮 汐 変動 と波 浪 を考

慮 した推算結果 は,観 測結果 と良 く一致 して いる.地 点

P5の 桂浜 で の値 も再 現で きてい る.な お,河 口のP7地

点 で は固定境界 を設定 したため(実 際 は上 流 に開 いて い

る),P6と と もに推 算結果 と実測結果 の対応 が少 し悪 く

な ってい る.

図-7で は,最 大 潮位偏差 に及 ぼす潮汐変動 の影響 を見

るた めに,Case TWPRとCase WPRの 推算 結果,お よ

び観測結 果 を比較 した.こ こでは,波 浪 の影響 は考慮 さ

れ てい る.こ れ らの結 果か ら,潮 汐変動 自体 がその振幅

が1mと そ れ ほど大 き くない ため,Case TWPRとCase

WPRの 推算結果 はあ ま り変 わ らな い.

図-8に は,潮 位偏 差 の最大 値 に関 して,Case TWPR

とCase TWPの 推算 結果 および観測結果 を比較 した もの

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潮汐 ・高潮 ・波浪結合モデルによる土佐湾異常高潮の追算 325

(a) CaseTWPRの 計算 結果

(b) 気象要因による水位上昇

(c) 波浪による水位上昇

図-9 最大高潮偏差の空間分布

を示 す.こ こでは,潮 汐変動 の影響 は考慮 されてい る.

地点P1~P4は 先 に述 べ たよ うに観 測結果 が大 き くな っ

てお り,推 算結果 とあ ま り一致 して いないが,波 浪 の影

響 を取 り入れ る と潮位偏差が大 き くなる ことが見 られる.

地 点P5~P7に お いて は,湾 奥 の地点P7を 除 いて,波

浪 の影響 を考慮 す ると潮位偏差 が大 き くな り,観 測結果

と良 く一致す る.

図-9に 改 めて,最 大潮位 偏差 の空 間分布 に関 す る推

算 結果 を調 べ る.(a)図 はCaseTWPRの 潮汐 変動 と波 浪

の影響 が入 ってお り,こ の第5計 算領域 にお いて,観 測

結果 と良 く一致 した.(b)図 で はCase TWPとCase OT

の結果 か ら気 象要因 のみによ る最大潮位偏 差 を示 した も

ので ある.潮 汐変動 の影 響 は小 さい ことが今回 わか った

ので,こ の推 算結果 は,従 来の潮汐変 動を考慮 しない高

潮推算 モデル による結 果 に対応す る.こ の図か ら,改 め

て気象要因 だけで は,土 佐湾 において観測 された最大潮

位 偏 差 を再 現 で きな い こ とが わ か る.(c)図 は,Case

TWPRとCase TWPの 結果か ら得 られ る最大潮 位偏差 の

差 を求め,波 浪 の影響 のみによ る潮位偏差 を求め た もの

であ る.こ の図に よると沿岸 で は波浪 の影響 によ り水位

が50cm~100cm上 昇 す ることがわか る.

5. ま とめ

本研 究で は,潮 汐 ・高 潮 ・波浪結 合 モデル(SuWAT:

Surge-WAve-Tide coupled model)に よ り,台 風7010号 に

よる土佐湾 沿岸の高潮追算 を行 い,異 常 潮位偏差 の再 現

性 に及 ぼす潮汐変動 や波浪 の影響 について検討 した.ま

ず,本 推算 モ デルの特徴 を従来 モデル と比較 して示 した.

高潮偏差 に及 ぼす潮 汐変 動 および波浪の影響 を調 べ る

ために,潮 汐変動,風,気 圧低下 およ び波浪 のすべてを

取 り入 れた推算結果 と,潮 汐変動 を入れな い,あ るい は,

波浪 の影響 を入 れない推算結果 との相互比較,お よび観

測 結 果 との比 較 を行 った.そ の結 果,解 析 解 像 度 が

1350mお よび450mと 粗い,大 領域 では観 測結果 と推算

結果 との一致度 が悪 か ったが,最 も解像度 の高 い計算領

域 にお いて は,潮 汐 変動 と波浪 を考 慮 した推算 結果 は,

観測 結果 と良 く一致 し,桂 浜 での異常値 もほぼ再現で き

た.潮 汐変動 はその振 幅が1mと それ ほど大 き くな いた

め,波 浪 の影響 の方 が重要 であ った.

本 研究 を行 うに当 た り,(株)エ コーの柴木 秀之博士 に

は,貴 重 なデー タや ご助言 をいただ き,こ こに感謝 いた

します.ま た,本 研究 は,科 学研 究費基盤 研究(B)(代

表:山 下隆 男広 島大学 教授)及 び第3著 者 が代表 の科学

研 究費 基盤 研究(B)に よ る研 究 の一部 で あ るこ とを こ

こに付記 し,感 謝 いた します.

参 考 文 献

金 珠列 ・高山知司 ・安田誠宏 ・間瀬 肇 (2007): 高潮 と波

浪に及ぼす大潮汐変動の影響 に関す る研究, 海岸工学論

文集, 第54巻, pp.276-280.

後藤智明 ・佐藤一央 (1993): 三陸沿岸 を対象 とした津波数値

計算 システムの開発, 港研報告, 第32巻, 第2号, pp.3-

44.

柴木秀之 ・加藤史訓 ・山田浩次 (2001): 密度成層 とWave

Setupを 考慮 した土佐湾異常高潮の推算, 海岸工学論文

集, 第48巻, pp.286-290.

藤井 健 ・光 田 寧 (1986): 台風の確率モデルの作成 とそれ

による強風の シミュレション, 京大防災研年報, 第29号

B-1, pp.229-239.

山下隆男 ・別宮 功 (1996): 台風7010号 の土佐湾における高

潮の追算一推算誤差は波浪か成層か?-, 海岸工学論文

集, 第43巻, pp.261-265.

SWAN: A numerical wave model for obtaining realistic estimates of

wave parameters in coastal areas, lakes and estuaries from given

wind-, bottom-, and current conditions, Delft University of

Technology, http://fluidmechanics.tudelft.nl/swan/default.htm.