発達加速現象の研究...

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発達加速現象の研究 -第12回全国初潮調査結果- 平成23年2月第13回全国初潮調査資料 大阪大学大学院人間科学研究科・比較発達心理学研究室

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発達加速現象の研究-第12回全国初潮調査結果-

• 平成23年2月第13回全国初潮調査資料

• 大阪大学大学院人間科学研究科・比較発達心理学研究室

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発達加速現象とは何か

1.年間加速現象として

-時代差-

(身長・体重、初潮・精通、歯芽・視力、鼻背鼻底角、体型の細長化、短頭化、その他 )

2.発達勾配現象として

-集団差・文化差-

(国内外の地域差、社会階層差、その他)

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発達勾配現象

• 青森・秋田や沖縄は、初潮年齢が低い傾向が見られる。

• 滋賀や佐賀は遅い傾向が見られる

• 東京・大阪は昭和30年代には、早い傾向が見られた。

• 市部・郡部の差はほとんどない。

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思春期(puberty)

• 青年期(adolescence)開始の指標

• 思春期をはさむ少年期・青年期発達の進化

(大人になるための学習期間の拡大)

◎第二次性徴の発現期

(代表的指標:初潮・初経、精通)◎大人になるための青年期の発達課題

(青年期における性的同一性、性役割の確立)

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大阪大学人間科学部における全国初潮調査

• 昭和36年以来、継続調査(過去12回実施)

• 現在は小学校4年生から中学3年生の6学年対象、3年間隔

• 学校単位で無作為抽出

• 全国47都道府県の市部・郡部94地域対象

• 2008年2月・第12回調査協力者

41、798人(母集団の1.2%)

• 過去12回の累計3、019、937人-おそらく世界で最大の継続的調査-

• 既潮率50%到達年齢の推定が可能

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1.調査方法

• 調査対象 小学校3030校、中学校2820校、計5850校

• 調査学年 小学校4,5,6年、中学校1,2,3年生

• 調査時期 平成20年1月に送付し、2月中に全国一斉に調査した。

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2.結果

• 今回の調査でも47都道府県から小学校547校、中学校629校、計1073校(回収率18.3%)のご協力により、のべ42,024人の個

人資料を得た。ただし、初潮・初経に関する有効回答者は41,798人(有効回収率99.5%)であった。

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3.全国平均初潮年齢

• 全国集計の結果、小学校4年生の既潮率は6.7%(前回6.8)%、5年生25.4(24.8)%、6年生58.3(57.4)%、中学校1年生83.4(82.4)%、2年生95.2(95.0)%、3年生98.8(98.5)%であった。全学年1%以下の変動であった。これらの学年別既潮率からプロビット法(対数変換なし)により推定した平均初潮年齢(初潮年齢の有り無しのみで計算する50%推定年齢、中央値)は、12歳2.3ヵ月(標準偏差1歳3.4ヵ月)で、前回の12歳2.6ヵ月とほとんど変化していない(表1参照)。1997年以降、12歳2.0ヵ月前後で推移している。

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イギリスにおける男子の身長

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欧米における初潮年齢の推移

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17歳平均身長の推移-文部科学省

135140145150155160165170175

1900 1939 1948 1982 1994 2008

調査年

cm 女子

男子

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日本女性の初潮年齢の推移

11

12

13

14

15

明治

22年

昭和

4年学

昭和

17年

学生

1961

年19

64年

1967

年19

72年

1977

年19

82年

1987

年19

92年

1997

年20

02年

2005

年20

08年

調査年

平均

初潮

年齢

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市部・郡部別1961-2008

11.5

12

12.5

13

13.5

14

1961

1964

196719

72

1977

198219

87

1992

199720

02

2005

2008

調査年

平均初潮年齢

市部

郡部

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来潮学年の分布

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

~小

学3年

小学

4年

小学

5年

小学

6年

中学

1年

中学

2年

中学

3年

来潮学年の分布

1997年

2002年

2005年

2008年

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学年別既潮率の推移

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

小4 小5 小6 中1 中2 中3

学年

既潮

率(%

) 1961

1982

2002

2005

2008

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同一学年内での既潮率の差

0

10

20

30

40

50

60

70

80

小4・

3月生

小4・

4月生

小5・

3月生

小5・

4月生

小6・

3月生

小6・

4月生

小学校の学年

既潮率(%)

既潮率

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思春期変化への考 察:未潮群・既潮群とも中2で性別受容の肯定率が最低となる

ことから、女性性の発達に、思春期における発達的転換点が存在し、文化・社会的影響が窺われる。とりわけ未潮者に発達転換点が存在することは、他の身体的思春期変化の影響は無視できないものの、文化・社会的な影響の可能性を示したものとしても考えられる。思春期前後に女子の興味や関心が大きく変化し、保育士や幼稚園教諭のような子どもに関わる職業への関心が初潮の直前に強まる傾向も見られる。子どもから青年・大人への変化とともに、性別受容や子どもへの関心のような思春期特有の心理も存在すると考えられる。性別受容を含め、心理的思春期変化に初潮の影響は見られるものの、他の身体的思春期変化や文化・社会的な影響との相互影響と考えられる。

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性別受容・満月齢別’08

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

11912

312

713

113

513

914

314

715

115

515

916

316

717

117

517

918

318

7

満月齢

比率

はい

いいえ

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性別受容1987-2008

0

10

20

30

40

50

60

70

80

10 11 12 13 14 15

年齢

1987

1992

1997

2002

2005

2008

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発達加速現象の原因論

• 日照説・気候説

• 栄養説(タンパク、脂肪、砂糖、その他)

• 都市人間累積仮説

• ヘテロシス(雑種強勢説)• 都市化外傷説、刺激・ストレス要因説

• 進化発達心理学的原因論

• その他

• 発達加速の生起しない環境もある

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発達加速現象の現状

• 近年、日本を含む先進諸国では、いわゆる発達加速現象は停止傾向にある。日本では1980年代から、17歳平均身長はほとんど伸びていない。ただし、平成期にはいってから、初潮年齢が低下し、12歳前後まで低年齢化している。世界でも有数の早い性成熟傾向を示していると考えられる。

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女子の思春期変化

• 思春期成長スパート(小4-5:このころに平均身長が男子を上回る)

• スポ-ツへの関心低下、音楽への関心上昇

• 子どもに関わる職業への関心上昇(小6ピーク)

• 初潮(小6にピーク、男子の精通は約1-2年遅い)

• 性別受容が最低水準(中2)、男子には見られない、このころに平均身長が男子を下回る。)

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平成の発達加速現象

• 本調査の結果からすると、近年の体格の向上の見られない初潮年齢の低下と、子ども期における肥満や睡眠、朝食のような健康習慣の悪化が関係していると思われる。

• その意味で、女子の初潮現象は、個人の発達指標であるとともに、個人や集団の健康指標として、また発達環境の変化の指標としての意味づけもできる。

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考察

• 1992年の調査で、それまで12歳6ヵ月前後で停滞傾向にあった日本の女子初潮年齢は、新たな低年齢化傾向を示した。この新しい低年齢化傾向は、身長の伸びをほとんど伴わないところが、従来の発達加速現象とは異なるものであった。

• 今回の調査で、初潮年齢は、様々な変化がみられるものの、12歳2.0ヵ月前後で新たな停滞傾向にあると考えられる。

• 小学校段階では、いわゆる早生まれと遅生まれで、発達段階に差が見られる。

• 中学校卒業時に日本全国で5,000-6,000人前後の未潮者が存在すると推定され、なんらかの支援の必要性があると考えられる。

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第13回全国調査(2011年2月)に、ご協力お願いいたします

問い合わせ先:hinorin@hus.osaka-u.ac.Jp