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Title ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作 ・誘導への社会学 : ポケモンGOの社会学(3) Author(s) 圓田, 浩二 Citation 沖縄大学法経学部紀要(28): 39-53 Issue Date 2018-03 URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/22367 Rights 沖縄大学法経学部

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Title ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学 : ポケモンGOの社会学(3)

Author(s) 圓田, 浩二

Citation 沖縄大学法経学部紀要(28): 39-53

Issue Date 2018-03

URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/22367

Rights 沖縄大学法経学部

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要約

 本稿は、2017年8月に横浜で開催された、ゲームアプリ「ポケモンGO」イベント「Pokémon

GO PARK」に参加した調査報告をまとめ、今後のポケモンGOの可能性とその問題点を指摘す

る。Pokémon GO PARKは成功に終わったが、その背景には、イベント参加者の想定外の多さ

に対応した主催側の巧みな運営があった。このイベントは当初想定されていたイベントの内容と

は異なっていたが、結果的は大成功を収めることができた。ポケモンの出現場所と種類と数をコ

ントロールすることで、人間の欲望をコントロールし、人の流れと移動を作りだした。このイベ

ントのフィールドワークから、「監視・管理から操作・誘導へ」という問題についての社会学的

考察を展開した。現代社会はPokémon GO PARKで露わになった人間の欲望のコントロールと

誘導があらゆる場面でなされている社会である。ゲームアプリとしてのポケモンGOの新しい点

は、ヴァーチャルでありつつも、現実社会に浸透し、現実世界の人間=トレーナーを行動させ、

監視・管理し、操作し、行動させることにある。

Abstract

 This paper summarizes the survey on those who participated in the game application

“Pokémon GO” event “Pokémon GO PARK” held in Yokohama in August 2017, and points

out the problems and possibilities of the future of Pokemon GO. Although Pokémon

GO PARK was overall a success, this was due to good management by the organizer

corresponding to the unexpectedly large number of event participants in the background.

【論文】

ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から

操作・誘導への社会学-ポケモンGOの社会学③-

The Sociology from monitoring and management to operation and instruction

in “Pokémon GO PARK:YOKOHAMA”

- Sociology of Pokémon GO ③-

圓 田 浩 二*1

Koji MARUTA

専 門 分 野:社会学

キーワード:ポケモン GO、横浜、監視社会論、欲望、移動

KeyWords:Pokémon GO, Yokohama, Surveillance Sociological theory, Desire, Movement

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沖縄大学法経学部紀要 第28号

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This event was different from the contents of the event assumed at first, but it was

successful as a result. By controlling the appearance place and types of Pokémon, and the

number of Pokemon, Pokémon GO controlled human desires and created human’s flow and

movement. From the fieldwork of this event, we have developed sociological considerations

about problems from “monitoring, management of operation, and instruction”. The

contemporary society is a society where control and induction of human desires exposed

in Pokémon GO PARK can be done anywhere. A new point of Pokémon GO as a game

application is to penetrate real society while acting, monitoring, managing, manipulating,

and acting in the real world of human = trainers though it is virtual.

1.問題の所在

 「横浜みなとみらいエリアに登場! 赤

レンガパークを「カントーパーク」、カッ

プヌードルミュージアムパークを「ジョ

ウトパーク」として、『Pokémon GO』を

思いっきり楽しめる! カントーパークで

は、『ポケットモンスター 赤・緑・青・ピ

カチュウ』のカントー地方のポケモンが、

ジョウトパークでは、『ポケットモンスター

金・銀』のジョウト地方のポケモンが、い

つもより多く発見できるようだ。日本では

姿を見ることができない「バリヤード」が、

イベント開催期間だけ特別に「Pokémon

GO PARK」で出現するようだ。この機会

にぜひ捕まえよう!」。2017年8月9日(水)から8月15日(火)の10:00から18:00までの間、

横浜みなとみらいにある赤レンガパークとカップヌードルミュージアムパークの2会場で、ポケ

モンゴーパークが開催された。ちなみに、参加費は無料であった。イベントは、大きな事件や事

故もなく、230万人を超える人々を集めた。ナイアンティック社は、ポケモンGOのホームページ

のブログで、「200万以上のトレーナーの皆さんが集まり」と発表した。横浜市は、株式会社ポケ

モンと提携し、2014年から「ピカチュウ大量発生チュウ!」を開催していた。今年度(2017年)は、

スマホアプリ『ポケモンGO』を製作したナイアンティック社がこれに便乗する形で、ポケモン

ゴーパークが開催された。2016年度の「ピカチュウ大量発生チュウ!」が179万人の人々を集め

たことから考えると、230万人という数字は、約50万人を上乗せした形である。

 2017年7月22日、ナイアンティック社がアメリカ合衆国・シカゴで行ったイベントには、約

2万人ポケモントレーナーが参加したが、回線接続不良によって、イベントは失敗に終わった。

会場内は接続不良でポケモンGOが起動できず、参加者はポケモンを捕獲できなくなった。ナイ

アンティック社は、参加者に、伝説のポケモン「ルギア」の配布と、参加費である20ドルのチケッ

ト代の払い戻しと100ドル分のポケコインの提供を約束した。

画像1 Pokémon GO PARKの入り口2017.8.10 筆者撮影

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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 本稿では、シカゴでのイベントが失敗したのに対し、横浜でのイベントが成功した理由を探る。

そして、ネットアプリを利用したイベント運営の難しさと、横浜でのイベントの成功から、スマ

ホ普及社会での人の流れをコントロールする戦略と戦術を考察する。最後に、これらの考察から、

社会学における監視社会論を援用しながら分析を進め、ポケモンGOのもつヴァーチャル世界か

ら現実への侵食が、新しい社会的次元を呈示していることに言及する。

2.ポケモンゴーパーク「横浜」の仕組み

 筆者は、このイベントに2017年8月9日と10日に参加した。9日の午前中は、平日ということ

もあって、会場内(赤レンガパークとカップヌードルミュージアムパーク)はスマホでポケモン

GOを操作しながら、自由に移動できた。中には、自転車で移動するトレーナーもいた。イベン

トで「けっこう人が集まってきている」という感じだった。この会場では、レアポケモンが濃い

密度で出現していた。赤レンガ倉庫では、ヨーロッパ地

域でしか捕獲できないバリヤードが登場し、会場内では、

おなじみのピカチュウやヨーギラス、ラッキー、メリー

プなどのレアポケモン、そして横浜イベント限定のY、O、

K、H、A、Mの文字を形取ったアンノーンという「超」

がつくようなレアポケモン(26体存在し、アルファベッ

ト文字を形取っている、今回はYOKOHAMAのアルファ

ベット文字)が出現した。ポケモンGOトレーナーにとっ

ての、イベントの目玉は、これらのレアポケモンとポケ

ストップやジムから得られる2キロ卵からのレアポケモ

ンの孵化、そして、イベント限定の焦げ(日焼けしたよ

うな茶色に色づけされた)ピカチュウとピチュウであっ

た。

 しかし、午後になると、多くの人が会場内に集まり、

歩く速度も制限されるようになった。自転車で会場内を

移動することは困難になっていた。また、通信障害がド

コモユーザーに現れ、午後3時頃には、ドコモユーザー

に限っては、会場内の赤レンガ倉庫の、ステージ・イベ

ント会場では、ポケモンGOがプレイできなくなった*2。

いったん、会場から離れ、夜に再び訪れてみると、18時

までの時間制限はなくなり24時間プレイ可能となってい

た。回線はつながり、ポケモンGOはプレイできた。

 翌10日は、平日の10時前にもかかわらず多くの人が訪れていた。11時にもなると、赤レンガ倉

庫付近では、ドコモ回線がつながらなくなった。また、歩く速度は集団移動のゆっくりしたペー

スと変わっていった。この日に、イベント限定のカイリューレイドが会場内で開催されたが、回

線エラーで終了することができなかったユーザーが続出した。多くのユーザーが会場内で、回線

トラブルによるエラーの続出で、プレイ自体ができなくなっていた。ドコモだけでなく、AUや

画像2 横浜イベントで捕獲したY型アンノーン 2017.8.9

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沖縄大学法経学部紀要 第28号

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ソフトバンク(画像5にあるように、ソフトバンクは最初から回線中継車を用意していた。その

ため3大キャリアのうち、最もユーザー被害が少なかった)まで障害が発生した。

 運営側は、会場内(赤レンガパークとカップヌードルミュージアムパーク)にのみ出現してい

たレアポケモンをみなとみらい全域に広めていった。9日の夜には、みなとみらいの一部、JR

桜木町駅から関内駅の南側にまで範囲を広げていった。また、10日には昼までに、横浜スタジア

ムや山下公園まで、その範囲を広げた。全くつながらなくなったドコモは、11日にドコモの中継

車を出すことを公式に発表した。反対に、ポケモンGOの公式スポンサーであるソフトバンクは、

会場内に中継車を配置していた。3大キャリアのうち、比較的よくつながっていたのがソフトバ

ンクであった。ソフトバンクは、会場用にwifiも提供していた。予想外のポケモンGOトレーナー

の多さに、最終日あたりでは、赤レンガパー

クにはバリヤードのみが出現するようになっ

た。初日と二日目に、会場内に集まっていた

人々は、みなとみらい全域に散らばるように

コントロールされた。また、日中だけでなく、

夜間もレアポケモンが捕獲できるように対応

した。場所と時間の操作によって、人々の流

れをコントロールした。

 また、ポケモンゴーパーク内に、特別に設

置されたジム(最初は4つ、二日目には6つ

に増加)やポケストップは、4日目の12日に

は撤去された。これは、運営側の予想を超え

た人の多さに対応して、会場内にジムを増設

することで対応しようとしたが、回線の問題

があり、会場内に、人がずっと滞在しないよ

うにする措置であったと思う。ジムにタッチ

すると、ジムバッチを獲得できるのであるが、

これらのイベント限定のジムバッチはポケモ

ンゴーパーク期間の後半に訪れた人には手に

入らない物となった。

3.「横浜みなとみらい21」という場所とイベント「ピカチュウ大量発生チュウ!」

 ナイアンティック社は、ポケモンGOのホームページのブログで、「200万以上のトレーナーの

皆さんが集まり」、横浜市が300万人以上訪れた(「ピカチュウ大量発生チュウ!」とのイベント

とを合わせた数である)と公表している。そこには、200万人、あるいは300万人というを人数を、

7日間で集めることのできる場所の問題がある。

 会場となった横浜みなとみらい地区は、ウィキペディア日本語版によると、「神奈川県横浜市

の西区と中区にまたがり、横浜港に面している地域である。略称は、「みなとみらい21」、「みな

とみらい」、「MM21」など」とされている。区域として、「ランドマークタワーや日産本社ビル

画像3 Pokémon GO PARK内に設置された特設ジム2017.8.9 筆者撮影

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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などがありオフィスビル開発を推進する「中央地区」と赤レンガ倉庫やコスモワールドなどがあ

る「新港地区」、そごうやスカイビルがある68街区の「横浜駅東口地区」(出島地区)に分けられ

る」。そのの面積は、「約1.86㎢(約186ha)、そのうち埋め立て部は約0.76㎢(約76ha)」である*3。

また、2014年度に策定された「横浜市都心臨海部再生マスタープラン」では「みなとみらい21地

区」として、都心臨海部五地区のうちの一つに指定されている。

 「横浜みなとみらい21」は、集客実人員と観光消費が2016年度に3,614万人、3,195億円となっ

ている[横浜市文化観光局 2016]。また、1997年に都市景観100選を受賞している。そこは、年

間3,000万人を超える人々が訪れる観光地であり、3,000億円以上の経済効果を生み出す場所である。

 横浜みなとみらい21地区は、都心部にあり、優れた景観をもっている。映画やドラマのロケ地

としても、有名である。また、東京駅や羽田空港からも近く、外国人観光客を呼び込むことので

きるホテルや施設、交通の高い利便性をもっている。そして、イベントやMICEなどの誘致にも

積極的に取り込んでいる。

 「ピカチュウ大量発生チュウ!」のイベントは、2014年に株式会社ポケモンと横浜市が協力協

定を締結し、2014年から2016年まで行われた。2017年度には株式会社ポケモンとナイアンティッ

ク社の企画で「ポケモンGOパーク」がイベント「ピカチュウだけじゃない ピカチュウ大量発

生チュウ!」に加わる形で今回のイベントが成立した。2017年4月に、横浜市に打診があったと

いう(2017.9.25 筆者聞き取り)。横浜市側は、赤レンガ倉庫とカップヌードルミュージアム横

浜を提供し、ポケモンGO側は二つの施設と、その周辺をポケモンGOパークに設定した。赤レ

ンガ倉庫をカントー地方のポケモン、カップヌードルミュージアム横浜をジョウト地方のポケモ

ンが発生するようにした。

 横浜市側は、ポケモンGO効果でイベント「ピカチュウ大量発生チュウ!」が昨年より1日短

い日程で開催される予定だが、昨年度の約180万人(一日あたり22.4万人)に50万人プラスした

230万人の人出を予想していた。しかし、ナイアンティック社の公式発表ではポケモンGOトレー

ナーは延べ200万人、横浜市の発表では300万人という予想外の数字が算出された。ポケモンGO

は、日本で2016年7月22日にリリースされ、日本中を熱狂させ、数々の話題と事件と社会現象を

引き起こした。それからおよそ半月後に開催された横浜のイベント「ピカチュウ大量発生チュ

ウ!」は180万人を集め、一昨年度の2015年の約200万人(2016年より開催期間が1日多い)であっ

た。2016年のイベントでは、ポケモンGO効果を見ることはできない。

 2017年度の「ピカチュウ大量発生チュウ!」のイベントの人出の多さと熱狂、そして数々の

トラブルは、ポケモンGOの影響だと考えることができる。7日間(8月9日から15日まで)で

300万人、1日当たり約43万人、2016年度のポケモンGOなしのイベントでの一日当たりの動員数

22.4万人を考慮に入れると、純粋にポケモンGOで遊ぶためにみなとみらい地区を訪れたポケモ

ンGOユーザー数は、およそ1日20万人と考えることができる。そこに、「ピカチュウ大量発生チュ

ウ!」のイベント目的に訪れ、スマートフォンやタブレット端末を起動して、ポケモンGOで遊

んでみたというユーザー層の存在を考えると、ナイアンティック社の公式発表の200万人、横浜

市の発表の300万人というの数字を理解できる。

 2017年7月22日に、ナイアンティック社がアメリカ合衆国・シカゴで行ったイベントでの約

2万人という数字と横浜の200万人という数字を比べれば、その規模の違いがわかる。加えて、

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沖縄大学法経学部紀要 第28号

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シカゴイベントが回線接続不良によって失敗に終わったが、横浜イベントは同じような回線不良

に見舞われたが、上手に対処することによって、イベント自体を期間終了まで行い、終えること

ができた。

 その理由は、シカゴイベントの失敗の経験から得られた教訓と、ポケモンGOパーク内から、

みなとみらい地区全域へと、イベント発生ポケモンの範囲を広げたナイアンティック社と株式会

社ポケモンの対応にある。しかし、本当の成功の要因は、みなとみらい地区全域を利用できた地

の利にある。前年度までの「ピカチュウ大量発生チュウ!」のイベントがみなとみらい地区の陸・

海・空を利用したイベントであり、みなとみらい地区を訪れた人々を吸収できるキャパシティ(土

地の広さ、交通の利便性、障害物の少なさ)をもつ。みなとみらい地区の北半分には、商業施設

や官公庁、スタジアム、公園などが集まっており、みなとみらい地区全域へとイベント発生ポケ

モンの範囲を広げることができたのである。もちろん、その地域に住む一般住民からの苦情(渋

滞、路駐、歩行者の道路占拠、歩きスマホなど)は数多くあった。今回のイベントの問題点の一

つは一般住民の居住とその生活への干渉がある。

 ナイアンティック社にとってラッキー(カントー地方のレアポケモン、横浜のイベントでは大

量に発生していた)だったことは、「ピカチュウ大量発生チュウ!」のイベントで200万人という

人的規模のイベントを成功させていた株式会社ポケモンの協力を得られ、みなとみらい21という

地域で開催できたことだった。もし、このイベントが赤レンガ倉庫とカップヌードルミュージア

ム横浜の二つの施設とその付近だけで開催されたならば、シカゴのイベントの二の舞になってい

ただろう。初日の午後には、ドコモユーザーのスマートフォンやタブレット端末はつながらなく

なり、ポケモンGOで遊ぶことはおろか、電話をかけることさえ困難になっていた。しかし、イ

ベント発生ポケモンが発生する地域を、徐々に広げていくことで、特定の場所(赤レンガ倉庫

とカップヌードルミュージアム横浜)への人の集中を防ぎ、ポケモンGOトレーナーをみなとみ

らい地区内に拡散させることによって、ポケモンGOイベント目的で全国からみなとみらいまで

やって来たのに、ゲームアプリすら起動できないという事態を回避できたのである。

 今回の株式会社ポケモンが主催する「ピカチュウ大量発生チュウ!」にコラボレーションした

「Pokémon GO PARK」と「Pokémon GO STADIUM」*4ポケモンGOスタジアム(2017年8月

14日に開催)の成功は、みなとみらい地区という場所に負うところが大きい。結果的に、イベン

トに参加したユーザーの満足度も高く、ナイアンティック社の公式発表で200万人、横浜市の発

表で300万人という人々を動員できた。水曜日という平日であった初日の様子を見てから、イベ

ントに参加するかどうかを決めようというトレーナーたちをみなとみらい地区に集めることがで

きた。

4.「Pokémon GO PARK」ポケモンゴーパークの変容

4-1.イベントのスケジュールとその内容の変更

 筆者は、Pokémon GO PARKを、計画的には失敗したが、企画的には成功したと見ている。

日程ごとの問題点と、その対応を見てみよう。

 初日の8月9日は平日であった。天候は晴れで、猛暑の日となった。イベントは10時から開催

ということもあって、10時前には人が徐々に集まりだしていた。赤レンガ倉庫の横の広場には、「ピ

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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カチュウ大量発生チュウ!」のイベント用

の舞台が設置され、テントではポケモン

グッズの販売やGoplus*5の使用体験コー

ナーが設けられた。また、会場限定の特別

なレイドとして、イノムー、リングマ、ヘ

ルガー、ソーナンスのレイドが開催された。

また、ピカチュウが捕獲画面で、かなりの

低確率で、日焼けした姿に変身する「焦げ

ピカチュウ」が実装された。しかし、午後

には人が集まりすぎて大混雑した。ドコモ

回線がつながりにくくなり、赤レンガ倉庫

当たりのバリアード出現区域近くでは、携

帯会社のキャリアによっては通信障害が起

こるようになった。このあまりの人の多さ

に、運営側は、会場内(赤レンガパークと

カップヌードルミュージアムパーク)にの

み出現していたレアポケモンをみなとみら

い全域に広め、24時間に変更に変更した。

18時までの出現時間を無期延長し、区域を

広げる形で、想定外の人の多さに対応した。

 10日には、会場内に設置された特設ジム

を4つから6つに増やし、カイリューやピ

カチュウ、ニャースなどの、イベント限定

のレイドが開催された。9日の様子をネッ

トやSNSで知ったポケモンGO・トレー

ナーは「このイベントに参加せねばならな

い」と判断し、人の多さはさらに増した。

午前中には、会場内ではスマホがつながら

ない状態になった。もっともユーザーが多いドコモ回線が影響を受け、ポケモンGOが遊べなく

なり、携帯による通話も不可能になった。多くのトレーナーが会場内から、会場外へと出て、レ

アポケモンを捕獲した。ドコモは、緊急事態対応として、8月11日の正午から15日にかけて移動

基地局車を会場内に派遣し、輻輳の解消を目指すと発表した。

 11日は山の日の休日でさらに多くの人々が押しかけることになった。「赤レンガとカップヌー

ドルの歩道もビッシリで動けん」や「街全体えらいことになっとる」、「ハッキリ言って想像以上

の客。ディズニーランドより歩けん」とネットに報告されるほどであった。午前にはドコモの移

動基地局車が到着したが、午後から回線良化に努めたが、回線の混雑解消とはならなかった。し

たがって、ドコモユーザーの不満は解消できなかった。またauのユーザーにも回線障害が生じ

た。「赤レンガからみなとみらい駅迄で、繋がったのは2回」だけという状況だった。「しかもポ

画像4 ポケモンGOで集まったトレーナーたち2017.8.9.15時時点 2017.8.9 筆者撮影

画像5 イベント会場内のソフトバンクの回線中継車 2017.8.9 筆者撮影

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沖縄大学法経学部紀要 第28号

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ケストやポケモンを2~3タップでクルクル」とゲーム画面で回線不良が生じた。また、運営側

は、これ以上の混雑を避けるため、特別なレイドバトルが行われた特設ジムを削除したようだっ

た。パーク内の特設ジム撤去され、そこで得られるジムバッジ入手ができなくなった。特別なレ

イドバトルはみなとみらい全域で行われていたため、パーク内に長居する必要がなくなったト

レーナーたちは、パーク内でバリヤードを捕獲して、パーク外でその他のレアポケモンが捕獲す

るというパターンで行動した。その日に、ポケモンサーチツールの『magical GO*6』が配信され、

トレーナーたちはレアポケモンの出現位置とその個体値を把握できるようになり、ポケモン捕獲

の難易度が大幅に下がった。

 12日は、土曜日でさらに人が増し、運営側は会場を変更・縮小し、カップヌードルミュージア

ムパークに存在したジョウトエリアを消して、カントーエリアのポケモンが出現するはずだった

赤レンガパークに統合した。そして、カントーエリアがバリヤード専用エリアとなった。これに

よって、ポケモンGO・トレーナーは、みなとみらい全域に広がって、ポケモンGOをプレイした。

この事態によって、当初運営側が計画していたポケモンGOパークは失敗したと言ってよい。

 13日は日曜日で、アンノーンバグの発見されたというか、その方法が確認された。ポケモン

GOパークではイベント限定で、アルファベット26文字を形取ったアンノーンというレアポケモ

ンが、イベント会場となった横浜(YOKOHAMA)に由来して、AHKMOの5文字が出現して

いた。しかし、アンノーンをタップし、捕獲画面で、スマホやタブレット端末のGPS接続を切り、

モンスターボールを投げて捕獲すると、別の文字となって、捕獲されるというバグが明らかになっ

た。初日の9日から通信状況が悪かったため、AHKMO文字以外のアンノーンの捕獲例がネッ

トで報告されていた。EUROPEという文字に変換される。例えば、Y型のアンノーンは、U型

のアンノーンに変わる。ヨーロッパ各地用のイベント「SAFARI ZONE」として用意されてい

るEUROPE各文字に変化する。つまり、このバグを利用すれば、Pokémon GO PARKとその周

辺では、AHKMO以外のEPRUのアンノーンを捕獲でき、計10種類のアンノーンを捕獲できた。

筆者は、このバグはナイアンティックのプログラマーが意図的に仕組んだものと考えている。14

日の夜には、バグとして、運営側がこの現象を解消した。相変わらずの混雑で、夕方から朝まで

の通信状況の良い夜間の時間帯にトレーナーが訪れるという行動パターンが多く見られた。

 14日には、今回のイベントの目玉でもある、Pokémon GO STADIUMが夕刻から開催され

た。運営側が横浜スタジアムを貸し切り、抽選によって全国からポケモン・トレーナーを呼び集

め、伝説のポケモン「ミュウツー」をお披露目し、当選したトレーナーたちに、そのレイドバト

ルと捕獲に挑戦させるという企画だった。当選者一人につき、4人までスタジアムに入場でき

た。そこで、ネットオークションで入場の権利を、同伴権として1名20,500円(https://page.

auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/q169446717 2017年11月17日閲覧)で販売する者もいた。当

日横浜スタジアムの近辺では、当選できなかったトレーナーや伝説のポケモン*7を手に入れた

いというトレーナーたちが、同伴をお願いしたり、同伴する行為を金銭で買うという行為が見

られた。当日、運営側は、横浜スタジアム周辺のポケソースを、イベント用から通常の状態に

戻し、トレーナーたちの集合を防ぎ、モバイルデータ通信回線の安定を図った。Pokémon GO

STADIUMが回線不良によって、シカゴの二の舞にならないために行った措置であった。その

せいか、Pokémon GO STADIUMは、イベントとして、スケジュール通りに終了した。この日

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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をもって、カイリューなどのイベント専用のレイドも終了した。

 15日は、イベント最終日であった。Pokémon GO PARKは、予定通り、18時に終了した。アンノー

ンバグは前日の夜には対処され、これを聞きつけてやってきたトレーナーを失望させた。

こうして、7日間のイベントは終了した。初日の猛暑に、後半は雨にたたられたイベントであっ

たが、200万以上のトレーナーを集めることができた。イベント中、ポケモンGOのトレーナーに

とっては、想定外の出来事が多く発生し、楽しめたイベントであった。予想以上の人出のために

通信障害が発生し、特設ジムの撤去や、カントーエリアとジョウトエリアの変更と消滅などによっ

て計画的には失敗したが、当初の想定以上の人を収集することができ、各社スポンサーにもアピー

ルできたので、企画的には成功したと見ている。

4-2.ポケモンGOの人間哲学と人の移動を操ること

 ポケモンGOは、シンプルな人間哲学によって、ゲームがコントロールされている。それは、「人

は欲望によって動く」、「人の欲望は果てしがない」、「期待を行動に変える」ことだ。このゲーム

アプリは、ポケソースを減らしたり増やしたり、出現するポケモンの種類を変更したりと、ポケ

モンの出現場所と数を操作することで、人の移動をコントロールしている。これが顕著に表れた

のが、ポケモンゴーパークでの人の集中を分散させるために用いられた、ポケソースの変更とレ

アポケモン出現範囲拡大であった。

 このような欲望のコントロールによる、プレイヤー(ポケモン・トレーナー)の移動や行動変

化は、ポケモンゴーパーク以外でも見られるものであった。人の欲望をコントロールすることで、

人の行動と流れのコントロ-ルできる。例えば、ポケモンGOでは、ポケモン・トレーナーは次

のような行動パターンをとることが多い。「レアポケモンをせめて一匹ほしい」と思っていたが、

それをゲットできた。ゲーム内では、ポケモンの能力(個体値)*8についての4段階の評価がな

される。すると、「1番評価がほしい」となり、それを手に入れると、最高の攻撃能力を示す「攻

撃値15のF個体がほしい」となり、それを手に入れると、最高の能力をもった「個体値100%が

ほしい」となる。これがポケモンGOの「やりこみ」要素となる場合が多い。「人の欲望は果てし

がない」という人間哲学に基づいて、ポケモンGOに「はまる」トレーナーたちを作り出している。

 上の段落のゲーム設定は、他のゲームでも多く見られる設定である。ポケモンGOは、実際に

現実空間を移動するので、他のゲームとは違った体験を可能にしている。普段、イベント期間中

や特別な場所以外では、ポケモンGOにおけるポケモンの出現は、「日常=自然」を装って「ポッ

ポ」や「コラッタ」などのポケモンを比較的よく見かける。「ラプラス」や「カビゴン」といっ

たレアのポケモンの出現は、ナイアンティック社の「さじ加減」一つで出現させることができる。

東北のイベントではラプラスが、熊本・大分のイベントではカビゴンが大量に出現した。

 ところが、ポケモンゴーパークで見られたのは、普段見ることがない、レアポケモンたちが至

る所に現れるという「非日常」であった。4-1では、ポケモンゴーパークの日程に従い、何が

どう起こってきたかを見てきたが、人の集中や混雑、回線がつながらない状況などは、ナイアン

ティック社がポケソースを操作・変更することで、トレーナーたちの「レアポケモンを思う存分、

捕獲したい」という欲望をコントロールして、ポケモンゴーパーク外に、トレーナーたちを誘導

させた。ポケモンGOが教えた教訓があるとすれば、「人は自ら欲望のために動く。欲望の対象を

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沖縄大学法経学部紀要 第28号

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コントロールすれば、人の移動をコントロールできる」ということである。

 しかし、この現象は、何もポケモンGOに限ったことではないのではないだろうか。現代社会

には、人々の欲望をコントロールすることで、消費させたり、移動させたりするメカニズムが、

すでに社会の至る場面や箇所に設置され、人々は自らの欲望と意思によって行動していると自覚

しているが、実は「そう思わされている」、「操作せられている」のではないだろうか。その意味

で、ポケモンGOは現代社会の縮図というか、現代社会をゲーム化したものと考えることができ

るだろう。

5.ポケモンゴーパークの成功と社会学的課題

5-1.人の流れのコントロール

 筆者が特に重要だと思った、ポケモンゴーパークの参加者の声をネットから拾ってみよう。「リ

アルな人集めでも限度があるわ ほのぼのピカチュウイベントを破壊してどうするw」。この意

見は、前年まで開催されていたイベント「ピカチュウ大量発生チュウ!」にポケモンGOイベン

ト「ポケモンゴーパーク」が加わったため、人が集中し、「ピカチュウ大量発生チュウ!」の雰

囲気やコンセプトを壊したという意見である。「ピカチュウ大量発生チュウ!」の参加者は、小

学校高学年ぐらいまでの子供たちとその父母たちである。「ポケモンゴーパーク」の参加者は、

20代から60代までの人々で、微妙に年齢層がずれている。「ピカチュウ大量発生チュウ!」と「ポ

ケモンゴーパーク」のコラボは、300万人以上集めたという実績から見れば、成功したといえる

だろう。特に、ポケモンブランドの強さを誇示できたのは大きかった。

 「石巻も悪くは無かったけど横浜の方が色んな要素があって、面白いイベントだったな。アク

ティブユーザーがまだこれだけいる、行動力もある、楽しんでいるという点で、長生きしている

ゲームだと思う」。10万人を集めた東北復興イベントでは、レアポケモン「ラプラス」が大量に

出現した。「横浜の方が色んな要素ががあって、面白いイベント」というコメントには、4-1

で見たような日ごとにアクシデントというか、予期せぬ大きな変化があったからである。そして、

アクティブユーザーが全国から横浜に集まり、いろいろな出来事を体験できた。そして、ポケモ

ンGOというゲーム・コンテンツ自体が「短期間」のブームで終わるのではなく、「長期間」続く

要素をもっていることを、参加者に確認させた。

 一方で、地域住民などからの苦情も相次いだ。路駐、交通違反、歩きスマホなどである。幸い

にも大きな事故はなく、「苦情が130件以上って意外と少なくね?」という意見が上がった。レア

で高個体値をもつポケモンが登場すると、トレーナーたちの集まり、私有地や施設内に侵入する

行為や目的地まで「車でGO」し、路駐するなどといったマナーも悪かった。今後の改善点だろう。

 しかし、イベントとして、ポケモンゴーパークは大成功だった。欲しいポケモンが沸くから人

が集まる。そして、通信障害が生じ、みんながポケモンGOで遊べなくなる。この事態を、主催

者側はレアポケモンの出現範囲と時間を広げることで対応した。開催から二日目には、みなとみ

らい全域にレアが沸くようになった。ポケソースとポケモンの出現を操作することで、人の移動

と流れをコントロールした。

 一方で、もう一つの重大イベントであった14日の「ポケモンスタジアム」では、故意に横浜ス

タジアムとその周囲にレアポケモンが沸かないようにした。それまでは、レアポケモンが多く出

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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現し、人々が集まっていた。ポケモンGOの画面上では、通常の状態になり、日常的に見られる

ポケモンが出現するようにした。これは、シカゴのイベントのような通信障害が発生しないよう

に、横浜スタジアムとその周辺から一般トレーナーを誘導するためだった。

 想定外の人々が集中することで、横浜のポケモンゴーパークとポケモンスタジアムでは、露骨

な「人の誘導」が行われた。この誘導によって、この二つのイベントは成功を収めることができ

た。しかし、可視化されたこの操作は、私たちの日常で不可視化されて行われている可能性を示

唆した。私たちは自らの意思で「そうしている」のではなく、不可視の操作によって「そうさせ

られている」かもしれない。

5-2.監視・管理から操作・誘導へ

 ポケモンGOの場合、人間がポケモンGOというゲームアプリを遊んでいるのではなく、人間

がポケモンGOに遊ばされ、その意図と行動を操作されている。そして、開発元のナイアンティッ

ク社を通じて、世界で6,500万人というポケモンGOのトレーナーのゲーム操作と移動が記録され、

何かに利用されているかもしれない。同じように、ペットは、人間に飼われているのではなく、

人間がペットに依存し、人間がペットに寄生している。この発想は、社会学では、主体-従属論

と監視社会論につながる発想である。

 ポケモンGOというゲームアプリの特徴の一つは、トレーナーである個々の人間の行動の可視

化である。ゲームアプリ内にある「冒険ノート」を見れば、トレーナーの行動が記録され、時系

列的に見ることができる。今日、人々がインターネットを利用して買い物やゲーム、検索、動画

視聴、音楽聴取などをするたびに、その行動は、記録されていく。

 社会のIT化によって、人々のプライヴァシーは可視化されていく。従って、「今日のプライ

ヴァシー概念は、「移動しなくてもよいこと」、「見られずにすむこと」と密接に結びついている」

[Bogard 1996=1998 p.222]。ポケモンGOは、位置ゲームであるため、実際に社会の中を移動

し、ポケモンが現れレイドが行われる場所=「現地」に行かなければならない(トレーナーが不

正ツールを使って、ゲームキャラクターであるトレーナーがその場所にいるようにゲームアプリ

に認識させるという位置偽装を行っている場合は除く)。ポケモンGOはトレーナーの「生身の姿」

を可視化する。ポケモンGOのトレーナーであることを人に知られる(可視化される)ことを恐

れて、人目に隠れてプレーするトレーナーも多い。現実に平日の午前中にレイドバトルに参加し

てみると、老若男女に関わらず人の多さとその服装や持ち物から読み取れる、トレーナーの社会

階層の多様性に驚かされることがある。

 このトレーナーのプライヴァシーの可視化という観点から、自律的な監視が強化されると予想

される。フーコーはその著作『監獄の誕生』で「パノプティコン*9」という概念を用いて近代

社会における見えない権力と監視について論じた。しかし、現代社会は、ボガーダスの言うとこ

ろの「テレマティーク社会*10」であり、私たちの言うところではIT社会である。この社会では

近代社会における監視・管理のシステムがさらに強化され、「超監視・管理社会」が出現する。「テ

レマティーク社会での超管理の最もわかりやすい手軽な例は、ヴィデオゲームやヴァーチャル・

リアリティのテクノロジーだろう。操作者と機械のあいだに築かれた回路の管理だ」[Bogard 

1996=1998 p.59-60]。ポケモンGOは、まさに、「操作者と機械のあいだに築かれた回路」であり、

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インターフェイスである。ポケモンGOは位置ゲームであり、AR技術を使った現実社会へのゲー

ム世界の侵食を可能にさせるゲームである。私たちは、ポケモンGOによって監視・管理されて

いる。そのトレーナーがどこに住んでいるのか、どこのある学校や会社に通っているのか、食事

はどこでとるのか、日用品はどこで買うのか、休日はどう過ごしているのかなど、もしトレーナー

がポケモンGOを起動していればその行動は記録され、そのことが管理者であるナイアンティッ

ク社にはわかってしまう。「ヴァーチャル・リアリティは、純粋な監視空間を約束する。(中略)

ヴァーチャル・システムが私たちに約束するのは、果てしない世界、完全な管理、あらゆる偶発

性、変数、経路を本質的に視野におさめることだ。これこそ、完全で妄想的な管理、すなわち超

管理を説明する」[Bogard 1996=1998 p.66]。

 しかし、このことは、インターネットにつながれてGPS機能をオンにした、スマートフォン

やタブレット端末をもっていれば、ポケモンGOだけでなく、その他のアプリでも可能なことな

のだ。「パノプティコン的システムとちがって、コンピュータによる管理の「構築」は、そして

空間時間関係の秩序は、ヴァーチャルなものだ。コンピュータの場合、管理はネットワークとい

う観点からより適切に理解できる。言いかえると、「記録する」機械とその操作者、観察者と被

観察者といった外的で偶発的な関係ではなく、全体として解すべき人間と機械のインターフェイ

スのセットとして考えるほうがよい」[Bogard 1996=1998 p.59]。最近話題の「ビッグデータ」

もこれに該当する。

 監視の「シミュレーション*11は「未来完了」の想像に、つまり、未来をすでに終わったもの

として投影することにかかわっている。それは究極的には、時間(速度と距離)の征服だ」[Bogard

 1996=1998 p.61]。ここで言うシミュレーションとは、ボカーダスの次の記述「監視テクノロ

ジー(走査)とシミュレーション・テクノロジー(整列、記録、再生)」[Bogard 1996=1998 

p.188]からわかるように、「整列、記録、再生(再現)」のことである。ヴァーチャル・リアリティ

の中では、時間と空間的距離はプレーヤーの思いのままになる。日本のどこかにいて「アメリカ

のニューヨーク」にいたり、はては宇宙や未来世界、異世界にも行くことが可能であり、また、

中年男性が「10代の女の子」になるなど、生物・人種・年齢や性別も自由に変えられる。である

から、ヴァーチャル・リアリティは、「現実の効果を犠牲にして、ハイパーリアルでの絶対的な

力を手にする」[Bogard 1996=1998 p.124]ことができる。

 しかし、さまざまな人間の行動が監視・管理され、記録される社会において、ゲームアプリと

してのポケモンGOの新しい点は、ヴァーチャルでありつつも、現実社会に浸透し、現実世界の

人間=トレーナーを監視・管理し、操作し、行動させることにある。ポケモンGOでは、トレーナー

である個々の人間の行動が可視化され、監視・管理され、操作・誘導される。特定のポケモンを

獲得する、レイドバトルに参加しポケモンを倒す、他色ジムを破壊し自色ジムを構築するなど、

ポケモンGOは、ゲームそのものよりも、時間と移動にコストがかかるゲームなのである。しかし、

そのことがゲーム内での快楽と現実社会の快楽とを一致させる。そのことがポケモンGOの面白

さである。

 先ほどの主体-従属論と監視社会論の議論の脈絡で言えば、超監視社会が実現され、ヴァーチャ

ル・リアリティの中ですること・できることから得られる快楽に飽きた人々が現実社会を利用し

て、自分では管理・操作できない害悪(理不尽な出来事:家族、仕事、人間関係などで生じるト

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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ラブル)から逃れつつ、現実社会と重ね合わされたポケモンGOというゲームアプリを利用して

(させられて)、社会とそれを行うトレーナーたちと「戯れている」のである。現実社会をポケモ

ンGOで書き換えて、現実社会を(「で」はなく)遊んでいるのである。この事態をさらなる超監

視社会として見なし、監視・管理から操作・誘導へとさらに進んだ状態とみることができる。

 2017年の8月に神奈川県横浜市で開催されたポケモンゴーパークにおける、イベントポケモン

の出現の場所と時間を状況に応じて操作することで、参加したトレーナーたちの行動を操作・誘

導したことはまさにその例である。しかし、この事態は新しい人間の社会的行動を出現させた。

監視のシミュレーションが究極的には時間(速度と距離)の征服に行き着くはずであるが、ポケ

モンGOでは恣意的に時間をかけ、トレーナーが今いる場所と目的地(ポケモンの居場所やジム)

との距離を縮め、空間を物理的に移動させる。そのことがゲームの面白さとなっており、また別

の面白さとしてその場所での出会いや新しい人間関係の構築も可能にしている。これも超監視社

会が生み出した産物と言い切ることもできるが、筆者は、そこにゲームアプリのシステムとその

条件に制約され支配されながらも、他のゲームで得られない遊び方とその副産物を生み出し、「社

会現象*12」となったポケモンGOとそのトレーナーたちのある種の創意工夫と自由を見る。この

創意工夫と自由と快楽は、ヴァーチャル・リアリティを現実社会に重ね合わせたことから、その

身体を用いて、コストをかけて時間と距離と場所とを消費する・しなければならいことから誕生

した。これはヴァーチャル・リアリティにおける超監視・管理社会の実現したため、「疲れ」や「し

んどさ」などの苦痛がこの社会に生きる人間に必要であること、その苦痛を快楽に変える工夫に

人間が喜びを見いだすことを示している。これは、ヴァーチャル化と超監視社会化が進む社会で

の、ヴァーチャル世界と現実社会が重なり合い融合した結果、生じた新しい社会的次元なのであ

る。今後、この観点から研究を進めていきたい。

2018.1.16脱稿*13

           *1 沖縄大学法経学部法経学科 教授*2 2017年6月末時点での、大手3社の契約数は、NTTドコモ75,113,600件、KDDI(au)

49,109,100件、ソフトバンクモバイル38,889,300件となっており、ドコモ回線が46%を占め

ている。ユーザー数が多いドコモで、回線不良が起きたことは狭い地域で、多くの人々が、

同時に、ポケモンGOという多くの通信量を使用するアプリを起動したためであると考えら

れる。*3 歴史的経緯は、1965年に横浜市の六大事業の一つとして、当地区の再開発構想が出た。1979

年に「横浜市都心臨海部総合整備計画」基本構想発表し、1981年に一般公募により事業名が「み

なとみらい21」に決定した。1983年11月に「みなとみらい21」事業着工し、1984年に埋立事

業の礎石沈定式(起工式)が行われ、株式会社横浜みなとみらい21設立された。*4 Pokémon GO STADIUMは、2017年8月14日に、横浜スタジアムで行われたイベントであ

る。抽選によって選ばれたトレーナーたちが横浜スタジアムに集い、伝説のポケモン「ミュ

ウツー」を、レイドバトルによって倒し、捕獲するというイベントであった。電子メールに

よって応募し、当選したトレーナーは合計4人までを連れて、スタジアムに入場できた。

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沖縄大学法経学部紀要 第28号

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*5 ポケモンGOにおけるアイテムの収集とポケモンの獲得と卵孵化を自動化できるアイテムで

ある。製造は任天堂で、定価3,500円である。*6 以前に、アポケモンの出現位置とその個体値を把握できるポケモンサーチアプリ『P-GO

SEARCH』(通称「ピゴサ」)があったが、ポケモンGO運営側の要請にもとづき7月23日に

終了した。同じ内容のアプリが、タイトルを変え、『MagicalGO』(通称「マジゴ」)と名前

を変えて登場した。*7 伝説のポケモンが横浜スタジアムにおいて世界で初めて登場することはわかっていたが、そ

のポケモンが「ミュウツー」か「ホウオウ」かは、イベント開始時までわからなかった。*8 ポケモンGOでは、すべてのポケモンに、隠しパラメータとして個体値が設定されている。

0から15までの攻撃、防御、HP(ヒットポイント、体力や生命力を表す数値)である。ポ

ケモンGOでは、ゲームの設定上、ポケモン同士のバトルでは攻撃値が重視される。10から

15までの数値をABCDEFと表記するトレーナーも多い。ゲーム画面では、ポケモンの名前

の変更の際の字数制限があり、ABCDEFを使いポケモンの名前とその個体を表現する。「ピ

カチュウFAD」などである。*9 「パノプティコンとは、功利主義者ベンサムが夢想した「完全な刑務所」の建築モデルで、

そこでは時間と空間、光と可視性の綿密な編成を中心に、権力が機能している。可視性は罠

になる。犯罪者は一人にされ、自分自身の行動を取り締まるよう誘導され、従順な身体とい

う「臣下」に変容させられる」[Bogard 1996=1998 p.35]。*10 筆者注。télécommunication(電気通信)とinformatique(情報科学)とを融合させた造語

である。電気通信と情報処理の融合と一体化とによって生じる高度情報化社会のことを指す。*11 監視のシミュレーションとは次のようなことを意味している。「観察者を準備すること、観

察者を見る訓練をすること、そして最後には観察者の眼になりきること、これが「監視のシ

ミュレーション」という想像である」[Bogard 1996=1998 p.93]。*12 社会現象としてのポケモンGOの分析については、圓田浩二「社会現象としての「ポケゴー」

の分析」を参照のこと。*13 この原稿は、2017年8月16日時点の情報を元に執筆されている。一般的に、ネットゲームは、

その性質上、短期間に、頻繁に、そして不定期に、アップデートが行われ、ゲームのデザイ

ンやシステムの根本的な変更が行われることがある。2018年2月のアップデートでは、アン

ノーンに記号型が2種類(?と!)が追加された。2017年11月には鳥取砂丘で大規模イベン

トが開催された。筆者は、これにも参加したが、その報告と考察は別の機会にもうけたい。

また、ゲーム制作会社が経済的な利潤を生み出せなければ、ネット上からゲームは消えてな

くなる。

文献

Bogard,William, 1996, The Simulation of surveillance:Hypercontrol in telematic societies,

Cambridge University Press;ウィリアム・ボガード 1998 田畑暁生訳 『監視ゲーム:

プライヴァシーの終焉』 アスペクト

Foucault,Michel, 1975, Nissance de la clinique, Presses Universitaires de France;ミッシェル・

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ポケモンゴーパーク「横浜」にみる監視・管理から操作・誘導への社会学

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フーコー 1969 神谷実恵子訳 『離礁医学の誕生』 みすず書房

Foucault,Michel, 1963, Surveiller et punir: Naissance de la prison, Gallimard;ミッシェル・フー

コー 1977 田村俶訳 『監獄の誕生 監視と処罰』 新潮社

圓田浩二 2017 「社会現象としての「ポケゴー」の分析-ポケモンGOの社会学①-」『沖縄大

学法経学部紀要第27号』pp19-32

圓田浩二 2017 「「歩く」ことの復権-ポケモンGOの社会学②-」 『沖縄大学法経学部紀要第

27号』pp33-45

Urry,John, 1995,Comsuming Places Routledge;ジョン・アーリ 2003 吉原直樹・大澤喜信

監訳 『場所を消費する』 法政大学出版局

Urry,John, 2007,“Mobilities” Polity Press;ジョン・アーリ 2015 吉原直樹・伊藤嘉高訳 『モ

ビリティーズ:移動の社会学』 作品社

Urry,John and Larsen,Jonas, 2011, The Tourist Gazw 3.0, Sage Publications;ジョン・アー

リ&ヨーナス・ラースン 2014 加太宏邦訳 『観光のまなざし[増補改訂版]』 法政大学

出版会

横浜市文化観光局 2016 『ANNUAL REPORT2016』

参照ウェブページ

ITmedia 2017 「「Pokémon GO」のシカゴイベント、接続できずに払い戻しと100ドル分の

ポケコインの謝罪」 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1707/23/news014.html

(2017.8.21参照)

携帯電話番号検索 2017 「直近の携帯キャリア3社のシェア動向」http://denwa-bangou.

com/carrier-share (2017.8.21参照)

「ポケモンGO、MAUは6500万人と2017年前半も引き続き好調。DAUは500万の分析も」http://

pk-mn.com/n/pokemon-go-mau-dau-2017-zenhan/(2017.12.15参照)

ウィキペディア「みなとみらい21」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E6%B5%9C%

E3%81%BF%E3%81%AA%E3%81%A8%E3%81%BF%E3%82%89%E3%81%8421(2017.10.19参照)

「横浜市と株式会社ポケモンが協力協定を締結」http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/

outline/miryoku/0609kisyahappyou.pdf (2017.8.21参照)

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沖縄大学法経学部紀要 第28号