fdtd法による アンテナモデリングに関する研究 · ez(0,z 0) ez(∆,z 0) ex(∆/2,z...
TRANSCRIPT
卒業論文
FDTD法によるアンテナモデリングに関する研究
指導教官 新井 宏之 教授
平成15年2月28日提出
9944158 横尾 雄司
要約
近年,計算機の著しい進歩により注目されている電磁界解析手法に FDTD法 (Finite Dif-
ference Time Domain method)がある.FDTD法はマックスウェルの方程式を時間及び空
間で差分化し,時間応答で解析を行う解析手法であり,アルゴリズムが比較的簡単なこと
や,解析のモデル化に特別な知識を必要としないことなどからアンテナ解析手法として有
効な手法となっている.
FDTD法において曲線形状などの直交セルに一致しない解析対象を解析する場合,一般
に階段近似を用いていた.しかし,階段近似を用いて解析精度を向上させるためにはセル
サイズを小さくする必要があり,それに伴い多くの計算機資源が必要となる.そこで,セル
の形状に一致しない部分にのみファラデー則を適用した式を用いて解析を行うCP-FDTD
法が提案された.
本論文では,最初にCP-FDTD法に用いられるファラデー則に基づく計算式の導出を行っ
たのちに,Hz 成分についてのみ CP-FDTD法を適用する簡略化を行った.さらにこの簡
略化した計算式を従来の FDTD法のアルゴリズムに組み込む方法を説明する.次に,CP-
FDTD法と階段近似の精度について検討を行うため,逆 Fアンテナの解析を行った.階段
近似を用いて解析を行った場合と比較して,共振周波数の誤差を 0.4%低減できCP-FDTD
法の有効性を確認した.また,モデリングにおいて導体表面上の磁界の法線成分を 0にす
ることが重要である事が分かった.
次に,逆 Fアンテナとダイポールアンテナの相互結合解析及び実験を行った.逆 Fアン
テナからのダイポールの高さが増加するにつれて相互結合が減少する.また,ダイポール
の位置について,E面方向のアンテナ部分中央もしくは対角線上に置いた場合が最も相互結
合が増加する.高さ λ/10(15mm)の時,最適な相互結合となった.CP-FDTD法を導入す
ることでの相互結合解析に与える影響については,相互結合の値はほぼ変化がなく,ピー
クの周波数が約 15MHz低域にシフトするという結果になった.しかし,実験値と解析値の
間に大きな誤差があることから精度の向上が図れたかについて検討するのには問題がある.
これより,相互結合測定実験においてアンテナ単体としての特性の一致や,アンテナ間の
距離と相対的な位置を正確に測定することが重要である事を明らかにした.
i
目 次
第 1章 序論 1
第 2章 CP-FDTD法による解析法 8
2.1 CP-FDTD法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
2.1.1 ファラデー則による計算式導出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
2.1.2 簡略化された CP-FDTD法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
2.2 解析におけるモデリング法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
2.2.1 CP-FDTD法の適用法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
2.2.2 CP-FDTD法と階段近似の比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
2.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
第 3章 平面逆Fアンテナとの相互結合解析 25
3.1 平面逆 Fアンテナの基礎特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
3.1.1 整合条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
3.1.2 入力特性及び放射指向性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27
3.2 平面逆 Fアンテナとダイポールの相互結合特性 . . . . . . . . . . . . . . . 29
3.2.1 E面方向に置いた場合の相互結合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
3.2.2 H面方向に置いた場合の相互結合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32
3.2.3 対角線方向に置いた場合の相互結合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
3.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37
第 4章 結論 38
謝辞 39
参考文献 40
ii
第 1 章
序論
現在,電磁界解析手法として一般的に利用されているものとして,モーメント法,有限
要素法,FDTD法 (Finite Difference Time Domain method)などが挙げられる.近年,特
に注目されている手法が FDTD法である.FDTD法はマックスウェルの方程式を時間及び
空間で差分化し,時間応答で解析を行う解析手法であり,アンテナ設計のみならず電磁波
散乱問題,電波伝播問題,電波干渉問題,マイクロ波回路解析及び設計,超高速オプトエ
レクトロニクス分野など幅広い分野で使用されている.
これまでアンテナ解析に主に用いられてきた,モーメント法などのスペクトル領域にお
ける解析手法は解析構造ごとに積分方程式の定式化を行う必要があり,また,一度の解析
において一つの周波数特性しか得られないという欠点があった.これに対して FDTD法は
リープフロッグアルゴリズムと呼ばれるアルゴリズムを利用している.このアルゴリズム
は半時刻前の半セルずれた磁界から電界を計算し,さらに半時刻前の半セルずれた電界か
ら磁界を計算するという手順を交互に繰り返すという比較的簡単なアルゴリズムである.
一般的に時間領域の差分法では,波の伝搬と共に波の振幅が減衰する現象が現れる.リー
プフロッグアルゴリズムの大きな特徴として,この現象が現れないことが挙げられる.ま
た,解析領域内をメッシュ構造で分割することで,同一のアルゴリズムで複雑な構造のア
ンテナを解析することが可能であるという長所がある.
また,電界及び磁界という二つのパラメータが必要となるということから,計算機資源
を多く必要とすることや,それに伴い計算時間が増加するといった欠点も存在する.しか
し,最近の急速な計算機の発達や,高性能な計算機が安価になったことなどから,FDTD
法が注目され実際に数多くの研究が報告されている.
1
FDTD法において曲線状などの直交セルの形状に一致しない構造のアンテナを解析する
場合,階段近似を用いるのが一般的である.しかし,階段近似を行う際にはセルサイズを十
分に細かくしなければ解析精度が落ちてしまう.そのため,精度上げるために多くの計算
機資源が必要となり計算時間も長くなってしまう.これを解決するために,円筒形座標や
球面座標系を用いて円形素子のモデリングが可能となる FDTD法が提案されている.しか
し,これらのアルゴリズムは直交座標系に比べて計算時間が長いという欠点がある.そこ
で,直交セルの形状に合わない部分のみに以前とは異なるアルゴリズムを用いる方法が提
案された [1].このような方法は CP(Contour-Path)-FDTDや C(Conformal)FDTDと呼ば
れている.この方法を用いることで,計算機資源の効率化や計算精度の向上が期待できる.
例として論文 [1]で取り上げられている図 1.1と図 1.2のような場合について説明する.図
1.1は,FDTD法に用いられる単位格子よりも小さな半径 rを持つワイヤ状の導体を示して
いる.このワイヤ状の導体の解析を行うために以下のような仮定を用いて定式化を行う.
• ワイヤ中心からの半径距離 rの近傍電磁界Ex,Ez,Hyが 1/rに比例する.
• z軸方向について Ez,Hyは一次的に分布する.
この仮定を用いて Ex,Ez,Hyを定式化すると次のように表せる.
Hy(x, z) = Hy
(∆
2, z0
)·(∆
2
)·1x· [1 + c1 · (z − z0)] (1.1)
Ex
(x, z0 ± ∆
2
)= Ex
(∆
2, z0 ± ∆
2
)·(∆
2
)·1x
(1.2)
Ez(0, z) = 0 (1.3)
Ez(∆, z) = Ez(∆, z0) · [1 + c2 · (z − z0)] (1.4)
ただし,c1,c2は任意の定数.
以上の式を用いて経路Cについてファラデー則を適用させると次の式が導かれる.
Hn+ 1
2y
(∆
2, z0
)= H
n− 12
y
(∆
2, z0
)
+∆t
µ0∆·En
x
(∆
2, z0 − ∆
2
)−En
x
(∆
2, z0 +
∆
2
)+
2
ln(
∆r0
)Enz (∆, z0)
(1.5)
このアルゴリズムではワイヤに隣接するセルについてはこの計算式を,それ以外のセルに
おいては通常の FDTD法の計算式を用いて計算を行う.
上記で述べた計算式は二次元空間において定式化を行っている.これを三次元空間に拡
張するためには,ワイヤを含む他の三つの断面についても同様の手法で計算式が求める事
で拡張が可能となる.
2
Ez(∆,z0)Ez(0,z0)
Ex(∆/2,z0+∆/2)
Ex(∆/2,z0-∆/2)
Hy(∆/2,z0)
∆
x = 0
x = r0
z
xy
C
図 1.1 : ワイヤモデル
次に,図 1.2は厚みのない導体上に単位格子よりも小さな幅 gのスロットが存在する場
合を示している.図 1.2に示したファラデー則を適用する経路C1,C2,C3それぞれについ
て計算式が異なるので順に説明する.前提として導体内部の電界成分及び磁界成分は 0で
あるものとする.
最初に導体の端部における場合 (C1)について説明する.この時,次の仮定を用いて定式
化を行う.
• Ey,Hzは y軸方向について変化がない.
• x軸方向について Ex,Hzは一次的に分布する.
この仮定を用いて経路C1にファラデー則を適用させると次の式が導かれる.
Hn+ 1
2z (x, y0) = H
n− 12
z (x, y0)
+∆t
µ0∆(
∆2
+ α)
En
y (x − ∆
2, y0)·
(∆
2+ α
)−En
y (x +∆
2, y0)·
(∆
2+ α
)
−Enx (x, y0 − ∆
2)·∆
(1.6)
3
次にスロットの開口における場合 (C2)について説明する.この時,次の仮定を用いて定式
化を行う.
• Eyは y軸方向について変化がない.
• x軸方向について Exは一次的に分布する.
• Hzは経路C2内の自由空間部分の平均値である.
この仮定を用いて経路C2にファラデー則を適用させると次の式が導かれる.
Hn+ 1
2z (x0, y0) = H
n− 12
z (x0, y0)
+∆t
µ0
∆ ·
(∆2
+ α)+g ·
(∆2− α
)En
x (x0, , y0 +∆
2)·g − En
x (x0, y0 − ∆
2)·∆
+Eny (x0 − ∆
2, y0)·
(∆
2+ α
)−En
y (x0 +∆
2, y0)·
(∆
2+ α
)(1.7)
次にスロットの内部における場合 (C3)について説明する.この時,次の仮定を用いて定式
化を行う.
• Ex,Hzは x軸方向について変化がない.
• y軸方向についてHzは一次的に分布する.
この仮定を用いて経路C3にファラデー則を適用させると次の式が導かれる.
Hn+ 1
2z (x0, y) = H
n− 12
z (x0, y)
+∆t
µ0g∆
En
x (x0, , y +∆
2)·g − En
x (x0, y − ∆
2)·g
(1.8)
これらの計算式を用いて導体の端部における磁界を計算を行い,他のセルについては通常
の FDTD法による計算を行う.計算式は一見複雑に見えるが,積分経路内部の面積と積分
経路の辺の長さを求めて,それらを係数として計算を行っているので比較的簡単な式であ
るといえる.
4
Ex
Ex
Ex
ExEx
0
0 0
EyEyEyEyHzHz
Hz
C1 C2
C3
gslot gap
x0 x0+∆/2x0-∆/2x x+∆/2x-∆/2
y0
y0+∆/2
y0-∆/2
y
y+∆/2
y-∆/2
y0+α
Conducting screen Conducting screen
図 1.2 : スロットモデル
上記の論文ではグリッドに対して導体が平行な場合の CP-FDTD法であるが,図 1.3に
示すようなグリッドに対して導体が傾いた場合の研究も報告されている [2].基本的には磁
界成分を計算する場合に,図に示した積分路においてファラデー則を適用するという上記
の論文と同様の手法であるが,モデリングの際に導体がどのようにグリッドを横切るかに
よって場合分けされ,それぞれの計算式は極めて複雑となっている.そこで,グリッドに合
わない部分の電界,磁界成分のうちHz成分にのみ適用する方法が報告されている [3].こ
れらの方法については第二章において詳しく説明する.
5
Ex,Ey
Hz
図 1.3 : CP-FDTD
ここで紹介した研究は,このCP-FDTD法を用いたアンテナ単体の解析についての検討
が主であり,CP-FDTD法を用いた複数のアンテナ間の相互結合解析についての検討を行っ
ていない.
アンテナ間の相互結合解析ではアンテナの位置が図 1.4のようにグリッドに対して傾い
ている場合が考えられる.図 1.4ではダイポールがグリッド対してに傾いるので,給電部
がグリッドに対して傾いてしまっている.給電部がグリッドに対して傾いた場合の線上ア
ンテナを FDTD法により解析する方法はあまり一般的ではない.そこで,パッチアンテナ
をグリッドに対して傾け階段近似を用いてモデリングを行い,ダイポールをグリッドに合
うような形で解析することで相互結合解析が可能となる.
そこで,パッチアンテナなどの板状のアンテナがグリッドに対して傾けた場合について
階段近似を用いて解析するよりも,CP-FDTD法を適用し解析を行えば解析精度の向上が
計れると考えられる.
6
Dipole Antenna
Patch Antenna
x
x
y
y
z
z
Feed
図 1.4 : 相互結合解析例
本研究では,この CP-FDTD法を用いて逆 Fアンテナの解析を行い,CP-FDTD法の有
効性を検討する.加えて,CP-FDTD法を導入した逆 Fアンテナとダイポールアンテナの
相互結合解析を行い,相互結合解析に与える影響について検討する.また,相互結合測定
の実験における誤差の要因について検討する.
本論文の構成を示す.第二章では,CP-FDTD法に用いられる計算式の導出,及び簡略
化を行った計算式の導出を行う.また,実際に逆 Fアンテナに CP-FDTD法を適用し解析
を行い,階段近似を用いた解析結果との比較検討を行う.第三章では,前章で解析を行っ
た逆 Fアンテナとダイポールアンテナとの相互結合について解析,実験を行い,その誤差
について検討する.さらに,CP-FDTD法を導入することでの影響を検討する.最後に第
四章を結論とする.
7
第 2 章
CP-FDTD法による解析法
本章ではアンテナ導体が直交セルに一致しない場合に適用される CP-FDTD法につい
て説明する.まず CP-FDTD法に用いられる計算式の導出方法について説明する.次に,
CP-FDTD法を用いて逆 Fアンテナを解析した結果と階段近似を用いて解析した結果を比
較検討を行う.
2.1 CP-FDTD法
2.1.1 ファラデー則による計算式導出
アンテナ導体の形状が直交セルに一致しない部分について,正確にモデリングを行うた
めに式 (2.3)に示すファラデー則を時間,空間について差分化した計算式を用いる [2].そ
れ以外のセルに一致する部分については式 (2.1),(2.2)を時間,空間について差分化した通
常の FDTD法を適用する.
∂H
∂t= −1
µ∇× E (2.1)
∂E
∂t=
1
ε∇× H (2.2)
∮C
E · dl = −µ∂
∂t
∫S
H · dS (2.3)
ここで,Cは線積分を表し,Sは面積分を表す.
導体がセルをどのように横切るかによって CP-FDTD法を適用して計算を行う成分が異
なる.そこでグループを (1)~(5)に分けて解説する.
8
(1)グループ A
図 2.1に示すように導体がセルを横切る場合,つまり左隣のセルのHzが導体内に含まれず,
現在考えているセル内だけを横切るような場合をグループ Aとする.
ここで CP-FDTD法を適用し計算する成分はHn+ 1
2z (i, j, k),H
n+ 12
x (i, j, k),Hn+ 1
2x (i, j, k−
1)である.なお,Hn+ 1
2x (i, j, k)は En
y (i, j, k)の半セル上部,Hn+ 1
2x (i, j, k − 1)は En
y (i, j, k)
の半セル下部に位置する成分である.それぞれの計算式を式 (2.4),(2.5),(2.6)に示す.
Hn+ 1
2z (i, j, k)は式 (2.3)のファラデー則を図 2.1におけるABCDAの経路で行うことより
導出される.Hn+ 1
2x (i, j, k),H
n+ 12
x (i, j, k − 1)については半セル上部もしくは半セル下部に
位置することから計算する際に用いるセルサイズを実際の線分の長さに置き換えることで
導出される.ここで,lABと lCDは線分AB及び線分 CDの長さ,SABCDは四角形ABCD
の面積,dx,dy,dzはセルサイズ,∆tはタイムステップ幅とする.
Hn+ 1
2z (i, j, k) = H
n− 12
z (i, j, k)
+∆t
µ · SABCD
[−En
x (i, j, k) · dx − Eny (i + 1, j, k) · lCD − En
y (i, j, k) · lAB]
(2.4)
Hn+ 1
2x (i, j, k) = H
n− 12
x (i, j, k)
+∆t
µdydz
[En
y (i, j, k + 1) · dy − Eny (i, j, k) · lAB
−Enz (i, j + 1, k) · dz − En
z (i, j, k) · dz]
(2.5)
Hn+ 1
2x (i, j, k − 1) = H
n− 12
x (i, j, k − 1)
+∆t
µdydz
[En
y (i, j, k) · lAB − Eny (i, j, k − 1) · dy
−Enz (i, j + 1, k − 1) · dz − En
z (i, j, k − 1) · dz]
(2.6)
9
A
B C
D
Ex(i,j,k)
Ey(i,j,k) Ey(i,j+1,k)Hz(i,j,k)
図 2.1 : グループ A
(1)グループ B
図 2.2に示すように導体がセルを横切る場合,つまり左隣のセルのHzが導体内に含まれず,
現在考えているセルを横切り,さらに上隣のセルを横切るような場合をグループ Bとする.
ここで CP-FDTD法を適用し計算する成分はHn+ 1
2z (i, j, k),En
x (i, j + 1, k),Hn+ 1
2y (i, j +
1, k),Hn+ 1
2y (i, j +1, k−1),H
n+ 12
x (i, j, k),Hn+ 1
2x (i, j, k−1)である.なお,H
n+ 12
y (i, j +1, k)
は Enx (i, j + 1, k)の半セル上部,H
n+ 12
y (i, j + 1, k − 1)は Enx (i, j + 1, k)の半セル下部に位置
する成分である.Hn+ 1
2z (i, j, k)は式 (2.4),En
x (i, j + 1, k)は式 (2.7),Hn+ 1
2y (i, j + 1, k)は式
(2.8),Hn+ 1
2y (i, j + 1, k− 1)は式 (2.9),H
n+ 12
x (i, j, k)は式 (2.5),Hn+ 1
2x (i, j, k− 1)は式 (2.6)
を用いて計算する.
Hn+ 1
2z (i, j, k)は,グループ Aの場合と同様に式 (2.3)のファラデー則を図 2.2のABCDA
の経路で周回積分行うことで導出される.次に Enx (i, j + 1, k)は,図 2.2の ABCDEFGA
の経路で周回積分することで導出される.またこの成分は線分 EGの中点に位置するもの
とする.Hn+ 1
2y (i, j + 1, k),H
n+ 12
y (i, j + 1, k − 1)は,グループ Aにおける Hn+ 1
2x (i, j, k),
Hn+ 1
2x (i, j, k − 1)と同様の考え方から導出できる.この時,式 (2.7)で求めたEn
x (i, j + 1, k)
を用いて計算を行う.ただし,線分 EGが 0の場合には Enx (i, j + 1, k),H
n+ 12
y (i, j + 1, k),
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1)はこの計算を行わない.H
n+ 12
x (i, j, k),Hn+ 1
2x (i, j, k − 1)に関してはグ
ループ Aの場合と同様である.
10
Enx (i, j + 1, k) =
1
lEG
Enx (i, j, k) · dx + En
y (i + 1, j, k) · dy − Eny (i, j, k) · lAB
+µ · SABCDEG
∆tHn+ 1
2z (i, j, k) − H
n− 12
z (i, j, k) (2.7)
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k) = H
n− 12
y (i, j + 1, k)
+∆t
µdxdz
[En
z (i + 1, j + 1, k) · dz − Enz (i, j + 1, k) · dz
−Enx (i, j + 1, k + 1) · dx − En
x (i, j + 1, k) · lEG]
(2.8)
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1) = H
n− 12
y (i, j + 1, k − 1)
+∆t
µdxdz
[En
z (i + 1, j + 1, k − 1) · dz − Enz (i, j + 1, k − 1) · dz
−Enx (i, j + 1, k) · lEG − En
x (i, j + 1, k − 1) · dx]
(2.9)
A
B C
D
Ex(i,j,k)
Ey(i,j,k) Ey(i,j+1,k)Hz(i,j,k)
EG F
Ex(i,j+1,k)
図 2.2 : グループ B
11
(1)グループ C
図 2.3に示すように導体がセルを横切る場合,つまり左隣のセルのHzが導体内に含まれず,
現在考えているセルの上隣のセルをだけを横切るような場合をグループ Cとする.
ここで CP-FDTD法を適用し計算する成分はHn+ 1
2z (i, j, k),En
x (i, j + 1, k),Hn+ 1
2y (i, j +
1, k),Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1),H
n+ 12
x (i, j + 1, k),Hn+ 1
2x (i, j + 1, k − 1)である.H
n+ 12
z (i, j, k)
は式 (2.4),,Enx (i, j + 1, k)は式 (2.10),H
n+ 12
y (i, j + 1, k)は式 (2.11),Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1)
は式 (2.12)Hn+ 1
2x (i, j, k)は式 (2.13),H
n+ 12
x (i, j, k − 1)は式 (2.14)を用いて計算する.
Hn+ 1
2z (i, j, k)は,グループ Aの場合と同様に式 (2.3)のファラデー則を図2.3のABCDAの
経路で周回積分行うことで導出される.次にEnx (i, j +1, k)は,グループ Bと同様に導出さ
れるが,図 2.3のGBCEFGの経路で周回積分を行う.Hn+ 1
2y (i, j+1, k),H
n+ 12
y (i, j+1, k−1)
は,グループ AにおけるHn+ 1
2x (i, j, k),H
n+ 12
x (i, j, k−1)と同様の考え方から導出できる.こ
の時,式 (2.10)で求めたEnx (i, j+1, k)を用いて計算を行う.H
n+ 12
x (i, j, k),Hn+ 1
2x (i, j, k−1)
はグループ AにおけるHn+ 1
2x (i, j+1, k),H
n+ 12
x (i, j+1, k−1)と同様の考え方で導出される.
線分AGが 0でない場合にのみ計算され,この計算に用いられるEnx (i, j +1, k)はEn
x (i, j, k)
で近似し計算する.
Enx (i, j + 1, k) = En
x (i, j, k) + Eny (i + 1, j, k) · dy
dx− En
y (i, j, k) · dy
dx
+µ · dy
∆tHn+ 1
2z (i, j, k) − H
n− 12
z (i, j, k) (2.10)
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k) = H
n− 12
y (i, j + 1, k)
+∆t
µdxdz
[En
z (i + 1, j + 1, k) · dz − Enz (i, j + 1, k) · dz
−Enx (i, j + 1, k + 1) · dx − En
x (i, j + 1, k) · dx]
(2.11)
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1) = H
n− 12
y (i, j + 1, k − 1)
+∆t
µdxdz
[En
z (i + 1, j + 1, k − 1) · dz − Enz (i, j + 1, k − 1) · dz
−Enx (i, j + 1, k) · dx − En
x (i, j + 1, k − 1) · dx]
(2.12)
Hn+ 1
2x (i, j + 1, k) = H
n− 12
x (i, j + 1, k)
+∆t
µdydz
[En
y (i, j + 1, k + 1) · dy − Eny (i, j + 1, k) · lAG
−Enz (i, j + 2, k) · dz − En
z (i, j + 1, k) · dz]
(2.13)
Hn+ 1
2x (i, j + 1, k − 1) = H
n− 12
x (i, j + 1, k − 1)
+∆t
µdydz
[En
y (i, j + 1, k) · lAG − Eny (i, j + 1, k − 1) · dy
−Enz (i, j + 2, k − 1) · dz − En
z (i, j + 1, k − 1) · dz]
(2.14)
12
A
B C
D
Ex(i,j,k)
Ey(i,j,k) Ey(i,j+1,k)Hz(i,j,k)
EGF
Ex(i,j+1,k)
図 2.3 : グループ C
(1)グループ D
図 2.4に示すように導体がセルを横切る場合,つまり左隣のセルのHzが導体内に含まれて
いて,現在考えているセル内だけを横切るような場合をグループ Dとする.
ここで CP-FDTD法を適用し計算する成分はHn+ 1
2z (i, j, k),H
n+ 12
x (i, j, k),Hn+ 1
2x (i, j, k−
1)である.それぞれ,式 (2.4),(2.5),(2.6)を用いて計算する.
ここまではグループ Aと同様であり,計算式の導出も同様である.しかし,線分ABにお
ける電界Eny (i, j, k)が通常の FDTDを用いて計算できない時にはEn
y (i, j−1, k)で近似を行
い計算を行う.また,Hn+ 1
2x (i, j, k),H
n+ 12
x (i, j, k−1)についてもEny (i, j, k)をEn
y (i, j−1, k)
で近似し計算する.
13
A
B C
D
Ex(i,j,k)
Ey(i,j,k)
Ey(i,j+1,k)Hz(i,j,k)
図 2.4 : グループ D
(1)グループ E
図 2.5に示すように導体がセルを横切る場合,つまり左隣のセルのHzが導体内に含まれて
いて,現在考えているセルを横切り,さらに上隣のセルを横切るような場合をグループ E
とする.
ここで CP-FDTD法を適用し計算する成分はHn+ 1
2z (i, j, k),En
x (i, j + 1, k),Hn+ 1
2y (i, j +
1, k),Hn+ 1
2y (i, j+1, k−1),H
n+ 12
x (i, j, k),Hn+ 1
2x (i, j, k−1)である.H
n+ 12
z (i, j, k)は式 (2.4),
Enx (i, j + 1, k)は式 (2.7),H
n+ 12
y (i, j + 1, k)は式 (2.8),Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1)は式 (2.9),
Hn+ 1
2x (i, j, k)は式 (2.5),H
n+ 12
x (i, j, k − 1)は式 (2.6)を用いて計算する.
ここまではグループ Bと同様であり,計算式の導出法も同様である.しかし,グループ
Dと同様の理由の場合に Eny (i, j, k)を En
y (i, j − 1, k)で近似を行い計算を行う.また,他の
成分についてもEny (i, j, k)を En
y (i, j − 1, k)で近似し計算する.
14
A
B C
D
Ex(i,j,k)
Ey(i,j,k) Ey(i,j+1,k)Hz(i,j,k)
EG F
Ex(i,j+1,k)
図 2.5 : グループ E
以上をまとめると表 2.1のようになる.
グループ A~Eを 90°,180°,270°回転させたような導体の形状についても以上に述べ
たような方法で計算式を導出することができる.また,導体の縁と x軸が 45°以上となる
ような場合には x軸と y軸を入れ替えて考える必要がある.
表 2.1 : CP-FDTD適用成分とその計算式
適用成分 GroupA GroupB GroupC GroupD GroupE
Eny (i, j, k) —– —– —– En
y (i, j − 1, k) Eny (i, j − 1, k)
Hn+ 1
2z (i, j, k) 式 (2.4) 式 (2.4) 式 (2.4) 式 (2.4) 式 (2.4)
Enx (i, j + 1, k) —– 式 (2.7) 式 (2.10) —– 式 (2.7)
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k) —– 式 (2.8) 式 (2.11) —– 式 (2.8)
Hn+ 1
2y (i, j + 1, k − 1) —– 式 (2.9) 式 (2.12) —– 式 (2.9)
Hn+ 1
2x (i, j, k) 式 (2.5) 式 (2.5) —– 式 (2.5) 式 (2.5)
Hn+ 1
2x (i, j, k − 1) 式 (2.6) 式 (2.6) —– 式 (2.6) 式 (2.6)
Eny (i, j + 1, k) —– —– En
y (i, j, k) —– —–
Hn+ 1
2x (i, j + 1, k) —– —– 式 (2.13) —– —–
Hn+ 1
2x (i, j + 1, k − 1) —– —– 式 (2.14) —– —–
15
2.1.2 簡略化されたCP-FDTD法
2.1.1で述べた方法は極めて場合分けが複雑であるので,Hz成分のみに CP-FDTD法を
適用させた方法が報告されている [3].図 2.6のような場合,ファラデー則を Hzについて
のみ適用し ,計算式として式 (2.16)を用いる.また,図 2.7や図 2.8のように面積分の値が
1セルの半分以下の場合には,隣のセルと合体させ積分路を設定し,計算式として式 (2.17)
を用いる.なお,式 (2.17)は図 2.7の (a)の場合の計算式である.また,Courantの安定よ
り式 (2.15)を用いてタイムステップ幅を決定している.ただし,cは光速とする.
このアルゴリズムでは,x軸と導体の縁のなす角が変わったとしても,計算式の導出が
極めて簡単であるという利点がある.ただし,導体と x軸のなす角が 45°以上となる場合
については合体させるセルは図 2.8のように隣のセルと合体させる必要がある.
∆t =0.9
c√
( 1dx
)2 + ( 1dy
)2 + ( 1dz
)2(2.15)
Hn+ 1
2z (i, j, k) = H
n− 12
z (i, j, k) +∆t
µ · SFBCE
[−En
x (i, j, k) · lBC
−Eny (i + 1, j, k) · lCE − En
y (i, j, k) · lBF]
(2.16)
Hn+ 1
2z (i, j, k) = H
n− 12
z (i, j, k) +∆t
µ · (SBCD + SABDEF )
[En
x (i, j + 1, k) · lAF
−Eny (i + 1, j, k) · lEF − En
y (i, j, k) · (lAB + lBC)]
(2.17)
Hz(i,j,k)
Ey(i,j,k) Ey(i,j+1,k)
Ex(i,j,k)
A
B C
D
E
F
図 2.6 : CP-FDTD適用セル例 1
16
A
BC
D
E
F
A B C
D
EF(a)
ABC
D
E F(b)
(c)
A
BC
D
E
F
(d)
図 2.7 : CP-FDTD適用セル例 2(45 °以下の時)
A
B C
D
EF
A B
CD E F
(a)
AB
CD
E
F
(b)
(c)
A
BC
DE
F
(d)
図 2.8 : CP-FDTD適用セル例 3(45 °以上の時)
17
2.2 解析におけるモデリング法
前節においてCP-FDTD法に用いる計算式の導出を行った.本節では実際に通常のFDTD
アルゴリズムに CP-FDTD法を組み込む方法について解説し,そのアルゴリズムを用いた
解析結果を示し,検討を行う.
2.2.1 CP-FDTD法の適用法
前節において CP-FDTD法に用いる計算式の導出を行ったので,実際に簡略化された
CP-FDTD法をアンテナ解析のアルゴリズムに組み込む方法を詳しく述べる.本研究で作
成したアルゴリズムのフローチャートを図 2.9に示す.通常の FDTD法のアルゴリズムに
おいてHz 成分を計算する際に,CP-FDTD法適用セルであった場合には CP-FDTD法に
基づいた計算式を用い,そうでない場合には通常の FDTD法の計算式を用いる.電界磁界
の計算終了後に導体表面の電界及び磁界をゼロにするのは階段近似で表現しきれない部分
の導体を表現するためである.なお,導体表面上の磁界の法線成分は導体より半セル上部
に存在するものとする.
具体例として図 2.10を用いて説明する.通常の階段近似を用いる場合,階段近似で表現
されるのは四角形ACFDの部分までである.しかし,実際にはセルDEJG内の磁界成分は
導体内部に存在するため実際には 0である必要がある.そこで,階段近似をセル DEJGま
で広げるとすると CP-FDTD法を適用し計算に用いられるべき辺 IJの電界成分が 0となっ
てしまう.そのため,セル DEJG内の磁界のみを 0にし,その周囲のセルの電界について
は辺 DE,辺 DGの成分のみを 0にする必要がある.以上のことから,ステップにおける
電界,磁界の解析終了後に導体表面の電界の接線成分と磁界の法線成分を 0にする必要が
ある.
なお,FDTD法において導体表面上の電界の接線成分,磁界の法線成分を 0にすること
に問題はない.なぜなら,通常アンテナなどの完全導体をモデリングする際には,その表
面電界の接線成分を 0としてモデリングするからである.さらに,その電界成分を用いて
導体の半セル上部に存在する磁界の法線成分を計算するので結果的に磁界の法線成分は 0
になる.
18
E
H
CP
Hz
0
Y
N
0
図 2.9 : CP-FDTD法を用いたアルゴリズムのフローチャート
: Hz
: Ex,Ey
A
B
C
D
E
F
G
H
I J
K
L
M
N
図 2.10 : CP適用方法
19
2.2.2 CP-FDTD法と階段近似の比較
CP-FDTD法を実際にアンテナモデリングに適用し,その有効性を確認するために図 2.11
に示す逆Fアンテナの解析を行った.次の三つの場合について解析を行い比較検討を行った.
• セルの形状に合ったモデリングの解析 (図 2.11)
• 階段近似を用いてモデリングを行った解析 (図 2.12)
• 階段近似を行った上で CP-FDTD法を適用した解析 (図 2.12)
また,この逆 Fアンテナを実際に作製した実験結果と比較を行った.
FDTDの解析条件を表 2.2に示す.
表 2.2 : 解析条件FDTD 階段近似 CP-FDTD
セルサイズ dx = dy = dz = 1mm dx = dy = dz = 1mm dx = dy = dz = 1mm
解析空間 90 × 70 × 34 94 × 100 × 34 94 × 100 × 34
給電方法 ギャップ給電 ギャップ給電 ギャップ給電
給電波形 単極ガウシアン 単極ガウシアン 単極ガウシアン
吸収境界条件 PML8層 PML8層 PML8層
Wg
Wp
LgLp
H
S1
S2
x
yz
Short PinFeed
図 2.11 : 逆 Fアンテナの構造
Wg=60,Wp=30,Lg=40,Lp=20,H=4,S1=2,S2=14 unit:[mm]
20
Wg
Wp
Lg
Lp
S1
S2
Feed
Short Pin
56.3
x
y
z
図 2.12 : 階段近似を用いた逆 Fアンテナ
Wg=60,Wp=30,Lg=40,Lp=20,H=4,S1=2,S2=14 unit:[mm]
CP-FDTD
FDTDStair-Approx.
mea.
Ret
urn
Lo
ss [
dB
]
Frequency [GHz]1.8 2 2.2
0
-10
-20
-30
図 2.13 : リターンロスの比較
21
それぞれのリターンロスの解析結果を図 2.13に示す.また,それぞれの解析における共振
周波数及びリターンロスが −10dBにおける帯域幅を表 2.3に示す.表 2.3より CP-FDTD
法を用いた計算結果が,セルに一致した通常の FDTD法の計算結果及び実験結果とほぼ一
致することが分かる.CP-FDTD法を導入することで,階段近似を用いた場合の解析値と
実験値の誤差を 0.4%低減することができる.ただし,帯域幅について誤差が大きいが,給
電ピン及びショートピンの太さを考慮に入れて解析を行うことで精度向上が期待できる [5].
表 2.3 : 解析結果の比較FDTD 階段近似 CP-FDTD 実験結果
共振周波数 [GHz] 1.987 2.007 1.985 1.992
−10dB帯域幅 [MHz] 36.0 36.6 35.5 66.0
共振周波数誤差 [%] 0.25 0.75 0.35 0
−10dB帯域幅誤差 [%] 45.5 44.5 46.2 0
22
次に,導体表面の磁界の法線成分を 0にしなかった場合についての解析結果を図 2.14に
示す.ここで,導体表面の磁界を 0として CP-FDTD法を適用したものを CP-FDTD(1),
導体表面の磁界を 0とせずに CP-FDTD法を適用したものをCP-FDTD(2)とする.図 2.14
より,導体表面の磁界を 0とせずに CP-FDTD法を適用したものは階段近似とほぼ変化が
なく,導体表面の磁界を 0としてCP-FDTD法を適用した場合には通常のモデリングを行っ
て解析したものに良く一致している.この事から導体表面の磁界の法線成分を 0にするこ
とが重要であることが分かる.
0
-10
-20
-302 2.21.8
CP-FDTD(1)
FDTDStair-Approx.
CP-FDTD(2)
Frequency [GHz]
Ret
urn
Lo
ss [
dB
]
図 2.14 : リターンロスの比較
23
2.3 まとめ
CP-FDTD法を導入することで,階段近似を用いた解析結果の誤差を 0.4%低減するこ
とができ,簡略化された CP-FDTD法が有効であることを示した.導体内部に存在する磁
界の法線成分を 0にするという過程が極めて重要であることが分かった.
しかし,CP適用セルの位置の決定や,面積計算,辺の長さ計算,導体表面上の電界,磁
界を 0にする際に注意深いモデリングが必要となるので,これらの処理を自動的に判別し
て行えるようなプログラムの作成が必要である.
24
第 3 章
平面逆Fアンテナとの相互結合解析
本章では前章で解析に用いた逆Fアンテナの基礎特性についての解析結果を示す.次に,
この逆 Fアンテナとダイポールアンテナとの相互結合についての解析結果を示し,この結
果より CP-FDTD法を導入することでの相互結合計算に与える影響を検討する.
3.1 平面逆Fアンテナの基礎特性
この節では前章の解析に用いた逆 Fアンテナの整合条件,入力特性,放射指向性といっ
たアンテナの基本的な特性について解析を行った結果を示す.
3.1.1 整合条件
前章で解析に用いた逆 Fアンテナ (図 2.11)のショートピンの位置を変化させ整合状態,
共振周波数がどのように変化するか解析を行った.外側のピンを固定し,つまりS2=14mm
とした時,内側のピンの位置を変化させた場合の解析結果を図 3.2に示す.次に内側のピ
ンを固定し,つまり S1=2mmとした時,外側のピンの位置を変化させた場合の解析結果を
図 3.1に示す.なお,この解析における解析条件は表 2.2に示した FDTDの項と同じ条件
で行った.
外側のピンを固定し内側のピンの位置を変化させた場合,整合状態が変化している様子
が分かる.内側のピンを固定し外側のピンの位置を変化させた場合,共振周波数が変化し
ている様子が分かる.この時,1mmずつピンを外側に動かすと約 30~35MHzずつ高周波
側に共振周波数が増加する.この事から逆 Fアンテナは短絡ピンの位置を変化させること
で整合状態や共振周波数を変化させることができるアンテナだと言える.
25
Frequency [GHz]
Ret
urn
Lo
ss [
dB
]
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
S1=2mm
S1=4mmS1=5mm
S1=3mm
図 3.1 : S2を固定し S1を変化させた時のリターンロス特性
Frequency [GHz]
Ret
urn
Lo
ss [
dB
]
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
S2=12mm
S2=14mmS2=15mm
S2=13mm
S2=16mm
図 3.2 : S1を固定し S2を変化させた時のリターンロス特性
26
3.1.2 入力特性及び放射指向性
図 2.11に示す逆 Fアンテナのインピーダンス特性を図 3.3に示す.共振周波数における
インピーダンスの実部は約 50Ω,虚部は約-4.6Ωとなった.これは,よく整合が取れている
と言える.
次にアンテナ部における電流分布を図 3.4に示す.電流は給電ピン及び短絡ピン周辺に
強くのっていることが見て取れる.ここで,この電流分布より,zx平面を E面,yz平面を
H面と定義する.
次に E面及び H面の指向性を図 3.5に示す.この指向性は 2GHzで共振するパッチアン
テナと比較するとかなり広角に放射している指向性となった.
Imp
edan
ce [Ω
]
Frequency [GHz]
0
1.5 2.5
50
100
2
Re
Im
図 3.3 : インピーダンス特性
27
0 1.0
x
y
z
図 3.4 : 電流分布
Eθ
Eφ
0
-10
-20
-30
[dB]
0
90
180
270
[deg.]
0
-10
-20
-30
[dB]
0
90
180
270
[deg.]
E zx H yz
図 3.5 : 指向性
28
3.2 平面逆Fアンテナとダイポールの相互結合特性
図 2.11に示す平面逆 Fアンテナとダイポールアンテナとの相互結合の解析を行った.ダ
イポールを逆 Fアンテナの対角線上に置いた場合には,階段近似を用いた解析と 2章で述
べた簡略化された CP-FDTD法を用いて解析を行っている.
3.2.1 E面方向に置いた場合の相互結合
まず,ダイポールを図 3.6に示すように E面方向に置いた場合について,ダイポールの
逆 Fアンテナからの高さ h,及びダイポールの逆 Fアンテナの端部からの距離 dを変化さ
せ解析を行った.その解析結果を図 3.7に示す.解析結果より端部からの距離 dの値によ
らず,高さ hの増加に伴い相互結合が単調に減少している事が分かる.相互結合,アンテ
ナ単体としての帯域幅の観点から最適と考えられる部分を拡大したグラフを図 3.8に示す.
これより,dをアンテナ中心に近づける程,相互結合が増加することが分かった.また,ど
の dの値においても高さ hが 15mm(λ/10)の時,相互結合が最適となることが分かった.
h
Wg
x
y
z
Short PinFeed
d
Lg
Wp
Lp
H
z
x
y
D
S2
S1
図 3.6 : E面方向にダイポールを置いた解析モデル
Wg=60,Wp=30,Lg=40,Lp=20,H=4,S1=2,S2=14,D=70 unit:[mm]
29
d=0mm
d=5mm
d=10mm
d=15mm
d=20mm
0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
-2
-4
-6
-8
-10
-12
Mu
tual
Co
up
lin
g [
dB
]
h [λ]図 3.7 : E面方向にダイポールを置いた場合の解析結果
d=0mm
d=5mm
d=10mm
d=15mm
d=20mm
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
h [λ]0.075 0.1 0.125
-1
-1.5
-2.5
-3
-4
-2
-3.5
図 3.8 : E面方向にダイポールを置いた場合の解析結果 (拡大図)
30
次に,この解析結果を実証するため同様の条件で実験を行った.なお,ダイポールの位
置は解析より最適と得られた逆Fアンテナの中央,つまり d=10mmに置いて解析及び実験
を行った.その実験結果と解析結果の比較を図 3.9に示す.結果を比較すると hの増加に
伴い相互結合が減少するという傾向はよく一致している.
しかし,詳細な値としてはどの場合においても約 2~3dBの誤差が存在している.そこ
でこの誤差を考察するためにダイポール単体でのリターンロス特性の比較を図 3.10に示す.
図 3.10における誤差については,FDTD法を用いてダイポールをモデリングする際に太さ
が 0の線状導体としているのに対して,実験に用いた標準ダイポールには太さが存在し,給
電部分にも導体が存在していることが理由として挙げられる.ダイポール単体での誤差が
大きい事が相互結合における誤差の理由になっていると考えれる.図 3.9において,アン
テナ間の距離が大きくなるほど誤差が小さくなっていることから,ダイポールの給電部分
の導体の影響が大きいと考えられる.また,実験を行う際に逆 Fアンテナとダイポール間
の距離を正確に測定できないことや,二つのアンテナの相対的な位置を正確に決定できな
い事などが考えられる.
h=10mm
h=15mm
h=20mm
h=25mm
h=30mm
h=10mm
h=15mm
h=20mm
h=25mm
h=30mm
0
-10
-20
-30
0
-10
-20
-301.5 2 2.5 1.5 2 2.5
Frequency [GHz]Frequency [GHz]
Mu
tual
Co
up
lin
g [
dB
]
Mu
tual
Co
up
lin
g [
dB
]
図 3.9 : 解析結果と実験結果の比較
31
cal.
mea.
0
-10
-20
-301.5 2 2.5
Frequency [GHz]
Ret
urn
Lo
ss [
dB
]
図 3.10 : ダイポールアンテナのリターンロス特性
3.2.2 H面方向に置いた場合の相互結合
次に,ダイポールを図 3.11に示すように H面方向に置いた場合について,E面方向に置
いた場合と同様に,ダイポールの逆 Fアンテナからの高さ h,及びダイポールの逆 Fアン
テナの端部からの距離 dを変化させ解析を行った.その解析結果を図 3.12に示す.解析結
果より,E面方向に置いた場合と同様に端部からの距離 dの値によらず,高さ hの増加に伴
い相互結合が単調に減少していることが分かる.また,ダイポールを E面方向に置いた場
合に比べてどの場合においても相互結合が小さくなっている.なお,E面方向にダイポー
ルを置いた場合についてはアンテナ中心に置いた場合が最適となったが,H面方向に置い
た場合については完全な中心ではなく,d=10~15mmの間で最適となることが分かった.
32
h
x
y
z
Short PinFeed
d
z
x
y
D
Wg
Wp
Lg Lp
H
S2
S1
図 3.11 : H面方向にダイポールを置いた解析モデル
Wg=60,Wp=30,Lg=40,Lp=20,H=4,S1=2,S2=14,D=70 unit:[mm]
d=0mm
d=5mm
d=10mm
d=13mm
d=15mm
d=20mm
d=25mm
d=30mm
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
h [λ]0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
-2
-4
-6
-8
-10
-12
図 3.12 : H面方向にダイポールを置いた場合の解析結果
33
次に,E面方向に置いた場合と同様に実験を行った.なお,ダイポールを逆 Fアンテナ
の中央,つまり d=15mmに置いて解析及び実験を行った.解析結果と実験結果の比較を図
3.13に示す.なお,ダイポールを E面方向に置いた場合の結果と比較すると,E面に置い
た場合と同様に hの増加に伴い相互結合が減少するという傾向はよく一致している.しか
し,E面方向においた場合と同様にどの場合においても 2~3dBの誤差が見られる.この理
由についても E面方向に置いた場合と同様に,図 3.10に示したダイポール単体としての特
性の誤差,二つのアンテナの相対的な位置が正確に決定,及び測定できないという点が挙
げられる.
h= 10mm
h= 20mm
h= 30mm
0
-10
-20
-30
0
-10
-20
-30
h= 10mm
h= 20mm
h= 30mm
1.5 2 2.5 1.5 2 2.5
Frequency [GHz] Frequency [GHz]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
図 3.13 : 解析結果と実験結果の比較
34
3.2.3 対角線方向に置いた場合の相互結合
次に,ダイポールを図 3.14に示すように対角線上に置いた場合について,ダイポールの
逆Fアンテナからの高さ hを変化させ解析を行った.この時に逆Fアンテナについて階段近
似を用いた場合と CP-FDTD法を用いた場合の二通りの解析結果,及び同様の条件で行っ
た実験結果を図 3.15に示す.図 3.15よりE面方向に置いた場合の相互結合とほぼ同等の値
が得られる事がわかる.また,E面方向,H面方向に置いた場合と同様に,高さ hの増加
につれて相互結合が減少している.この傾向は実験結果と同様のものとなった.
CP-FDTD法を導入することによって,結合のピークにおける周波数が約 15MHz低域に
シフトするという結果になった.しかし,実験結果との誤差が大きいため,CP-FDTD法
を導入した方が精度が上がっているのかを議論するのが難しい結果となってしまった.
Wg
Wp
Lg
Lp
S1
S2
Feed
Short Pin
56.3
x
y
z
D
h
H
x
y
z
図 3.14 : 対角線上に置いた解析モデル
Wg=60,Wp=30,Lg=40,Lp=20,H=4,S1=2,S2=14,D=70 unit:[mm]
35
CP-FDTD
Stair-Approx.
mea.
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
CP-FDTD
Stair-Approx.
mea.
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
CP-FDTD
Stair-Approx.
mea.
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
CP-FDTD
Stair-Approx.
mea.
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
CP-FDTD
Stair-Approx.
mea.
1.5 2 2.5
0
-10
-20
-30
Frequency [GHz]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
Frequency [GHz]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
Frequency [GHz] Frequency [GHz]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
Frequency [GHz]
Mutu
al C
oupli
ng [
dB
]
h=10mm h=15mm
h=20mm h=25mm
h=30mm
図 3.15 : 対角線上に置いた場合の解析結果
36
3.3 まとめ
E面方向,H面方向,対角線上に置いたどの場合においても,高さ hの増加に伴い相互
結合が減少するといいことが分かった.E面方向,H面方向,対角線上に置いた場合の相
互結合の最大値を表 3.1にまとめる.ただし,E面方向,H面方向に関してはダイポールを
アンテナ部中央に置いた場合とする.表 3.1より,対角線上に置いた場合と E面方向に置
いた場合がほぼ同等の結合の大きさになり,H面方向に置いた場合が小さくなることが分
かった.この結果から,ダイポールがより多く逆 Fアンテナと重なる場合の方が結合が大
きくなるのではないかと考えた.
CP-FDTD法を導入することでの影響については,相互結合の値はほぼ変化せず,ピー
クの周波数が約 15MHz低域にシフトするという結果になった.実験結果と解析結果の間に
約 2~3dBの誤差が存在するので誤差を小さくし,相互結合計算における CP-FDTD法の
影響を明確にする必要がある.実験における測定誤差を小さくするために,実験方法の見
直しや解析結果と実験結果のよく一致するアンテナ素子を用いての実験などが今後の課題
である.
表 3.1 : 相互結合比較h=10mm h=20mm h=30mm
E面方向 解析 [dB] -1.99 -3.85 -8.11
実験 [dB] -5.03 -6.72 -8.43
H面方向 解析 [dB] -6.15 -7.64 -9.37
実験 [dB] -7.98 -9.37 -11.06
階段近似 [dB] -2.02 -4.41 -6.88
対角線上 CP-FDTD[dB] -2.12 -4.26 -6.59
実験 [dB] -3.87 -6.70 -8.30
37
第 4 章
結論
本論文では,セルの形状に一致しないアンテナ形状の解析に用いられるCP-FDTD法につ
いて検討を行った.階段近似では表現しきれないが,本来導体内部に存在し値が 0であるべ
き磁界法線成分を 0とすることが解析精度の向上に重要なことを明らかにした.CP-FDTD
法の適用成分は Hz 成分のみでも精度を向上させることができ,階段近似の場合と比較し
て誤差を 0.4%低減させることができた.
次に,逆Fアンテナとダイポールの相互結合解析及び実験を行い検討を行った.ダイポー
ルの高さを高くするにつれて結合が小さくなることが分かった.また,E面方向にダイポー
ルを置いた場合,または対角線上にダイポールを置いた場合が最も結合が大きくなること
が分かった.アンテナ単体としての帯域幅の観点から,E面方向の中央もしくは対角線上
にダイポールを置き高さ λ/10(15mm)に置いた場合が最適であると分かった.相互結合解
析に CP-FDTD法を導入することで相互結合のピークにおける周波数が約 15MHz低域に
シフトする結果が得られた.しかし,精度の向上については実験値との誤差が大きく,判
断するのが難しい結果となった.誤差の理由として,ダイポールも FDTD法でモデリング
する際に太さ 0の線状導体でモデリングしているのに対して,実験に用いた標準ダイポー
ルは太さが存在し給電部にも導体が存在してることからアンテナ単体としての特性に誤差
が存在していることが挙げられる.特に、アンテナ間の距離を大きくすると誤差が小さく
なっていることから、ダイポールの給電部分の導体の影響が大きいと考えられる。また,測
定の際に逆 Fアンテナとダイポール間の距離,相対的な位置が正確に決定できなかったこ
とが考えられる.
今後の課題として,相互結合解析におけるCP-FDTD法の影響を検討するため,実験結
果と解析結果のよく一致するアンテナ素子を用いて解析,実験を行う必要がある.また,相
互結合測定実験での誤差を少なくするために測定の際の二つのアンテナの位置を正確に測
定できるような測定方法を考える必要がある.
38
謝辞
本研究を進めるにあたり、厳しくかつ丁寧に御指導下さった新井宏之教授に深く感謝致
します。
また研究生活全般に渡って御指導下さったD2の道下尚文先輩に深く感謝致します。
最後に研究生活を共に過ごした新井研究室,市毛研究室の皆様に深く感謝致します。
39
参考文献
[1] Allen Taflove,Korada R. Umashankar,Benjamin Beker,Fady Harfoush,Kane S.
Yee,“Detailed FD-TD Analysis of Electromagnetic Fields Penetrating Narrow Slots
and Lapped Joints in Thick Conducting Screens”,IEEE Trans,Antennas and Prop-
agation,Vol.36,No.2,pp.247-257,February,1988
[2] Jiayuan Fang and Jishi Ren,“A Locally Conformed Finite-Difference Time-Domain
Algorithm of Modeling Arbitrary Shape Planar Metal Strips”,IEEE Trans,Mi-
crowave Theory and Techniques,Vol.41,No.5,pp.830-837,May,1993
[3] 岸岡 典子,“ストリップダイポールアンテナの FDTD解析法に関する研究”,横浜国
立大学電子情報工学科,平成 12年度修士論文
[4] 村松 慎太郎,“平面逆F型アンテナの可変整合法に関する研究”,横浜国立大学電子情
報工学科,平成 12年度卒業論文
[5] 道下 尚文,“地板付アンテナの FDTD解析における給電モデルの研究”,横浜国立大
学電子情報工学科,平成 10年度卒業論文
[6] Thomas G. Jurgens,Allen Taflove,Korada Umashanker,Thomas G. Moore,“Finite-
Differemce Time-Domain Modeling of Curved Surfaces”,IEEE Trans,Antennas and
Propagation,Vol.40,No.4,pp.357-366,April,1992
[7] 宇野 亨,“FDTD法による電磁界およびアンテナ解析”,コロナ社,1998
[8] 新井宏之,新アンテナ工学,総合電子出版社,1996
40