イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイ …...ムワーク(career...
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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第60集・第1号(2011年)
本稿の目的は、イングランドとスコットランドの比較対照から、イギリスの中等教育段階におけ
るキャリア教育およびキャリア・ガイダンス(CEG)の提供における政策方針の影響と課題を明ら
かにすることである。イギリスの CEG は、学校と外部サービスとのパートナーシップと各学校に
おける弾力的提供形態が大きな特徴である。学校における個別化やカリキュラムの弾力化が進み、
地域による多様性や学校によるばらつき、そして CEG 提供に携わる者の負担が大きくなってきて
いる。さらに、CEG の提供に関しては、産業界の意向、若者に対する社会的政策の諸側面、教師の
役割の変化、行政組織の改変などさまざまな政策的影響が色濃く現れており、こうした政府の方針
がどのように CEG の学校内での提供における課題を構成しているかを明らかにした。
キーワード:キャリア教育、キャリア・ガイダンス、イギリス、スコットランド、コネクシオンズ
1.はじめに 本稿は、イギリス1の中等教育段階におけるキャリア教育およびキャリア・ガイダンスの提供につ
いて、イングランドとスコットランドの比較対照からそれぞれの特徴を明らかにし、キャリア教育
とキャリア・ガイダンスに対する政策方針の影響と提供における課題を明らかにすることを目的と
する。
若者の雇用や進学をめぐる環境が激変し、先進諸国の教育政策においてはキャリアや仕事に関す
る学習の提供と改善が重点領域となっている。しかし、キャリア教育の重要性が今後ますます高く
なるという認識が共有される一方で、実際は若者に対する、特に学校におけるキャリア教育の提供
やその運用に関しては取り組みが十分であるとは言えず、カリキュラムの見直しを含む積極的な推
進のための課題が山積している2。
イギリスにおけるキャリア教育とキャリア・ガイダンスは学校と学校外のキャリア・サービスと
のパートナーシップ・アプローチが高く評価されているが(OECD,�2004)、その一方で、政策運営の
影響を受け、その提供をめぐって模索が続いている。特に2010年に労働党から保守党へと政権が交
代し、教育政策も大きな転換点を迎えることとなった。イングランドでは、労働党政権下(1997 〜
教育学研究科 博士課程後期
イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題―イングランドとスコットランドの比較対照から―
白 幡 真 紀
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
2010)の2008年9月に中等教育カリキュラムが改訂され、2つの新しいプログラムがキー・ステージ
3(11歳から14歳、第7 〜 9学年、以下 KS3)とキー・ステージ4(14歳から16歳、第10 〜 11学年、以
下 KS4)に導入された。これは、PSHE 教育(Personal,�Social,�Health�and�Economic�Education)3の
中の「個人の福利(Personal�Wellbeing)」プログラムと「経済的福利と金銭管理能力(Economic�
Wellbeing�and�Financial�Capability)」プログラムである。キャリア教育は「経済的福利と金銭管理
能力」プログラムにおいて提供されることになった。しかし、2010年11月、保守党政権は学校教育
に関する白書『教えることの重要性(The Importance of Teaching)』を発表し(DfE,�2010)、キャリ
ア教育を含むPSHE教育について大幅な見直しを提言した。さらに、イングランドの学外からのキャ
リア・ガイダンスの提供に大きな貢献をしたコネクシオンズ(Connexions)・サービスも保守党政権
の下で新しいキャリア・サービスへと形を変えることとなった。こうした状況を鑑み、本稿は政府
のキャリア教育に対する方針がどのように学校における提供に対して影響を与えているかを考察し
ていく。
本稿は以下のように検討を進めていく。第一に、イングランドとスコットランドのそれぞれにお
けるキャリア教育およびキャリア・ガイダンスの提供の枠組みやその態様について確認する。イン
グランドに関しては2008年カリキュラム改訂前の実施状況を中心に分析を行い、ガイダンスにおい
てもコネクシオンズが行った支援形態について確認する。第二に、雇用可能性やキャリア教育をめ
ぐる政策的動向と、両地域における特徴の共通点・相違点についてそれぞれ検討を行い、政府の方
針がキャリア教育・ガイダンスの提供にどのような影響を与え、提供にかかわる課題を形成してい
るかを明らかにする。
なお、イングランドではキャリア教育とキャリア・ガイダンスは両輪でひとつの「キャリア教育・
ガイダンス(以下、CEG と略称)」プログラムであるが、キャリア教育とガイダンスは区別して検討
する。
2.中等教育段階におけるキャリア教育とキャリア・ガイダンスの提供4
⑴用語・定義・到達枠組み
①イングランドにおける careers�education
イギリスでは、キャリア教育をめぐって多様な定義が混在してきたのが実状である。
イングランドにおいては、キャリア形成に関わるプログラムは内容が広範にわたり、学校カリキュ
ラムではいくつかの学習が相互関連している。キャリア教育に関する政府直轄の支援プログラム 5
が教師向けの冊子を発行しており、イングランドにおける11歳から19歳の生徒に対するキャリア
教育が簡潔に定義されている(CESP,�2005:�2-3)。「キャリア(careers)」とは「学習や仕事を通した
個人の発達」として定義され、学校における「キャリア教育(careers�education)」とは、「キャリア
を計画・管理するための知識を獲得し、スキルを身につけるためのカリキュラムにおける計画的プ
ログラム」である。
1977年、全国キャリア教育・カウンセリング研究所(National� Institute� for�Careers�Education�
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and�Counselling:�NICEC)がキャリア教育を4つの要素から定義し(Law�and�Watts,�1977:�8-10�/�
2003)、この4つの要素 DOTS から成る学習モデルを、イギリス政府は長らくキャリア教育モデル
として採用してきた(DfES,�2003a)。DOTS モデルとは、「意思決定学習(decision�learning)D」「機
会認識(opportunity�awareness)O」「移行のための学習(transition� learning)T」「自己認識(self�
awareness)S」の4要素から構成される。後に学校カリキュラム評価局(School�Curriculum�and�
Assessment�Authority:�SCAA、当時)6によって、この4要素は現在の文脈により適合する3つの要
素として組み直された。現在は中等教育におけるキャリア教育枠組みにおける目標は、表1のよう
にこの3要素「自己啓発(self�development)」「キャリア探索(career�exploration)」「キャリア・マネ
ジメント」が挙げられている(DfES,�2003a:�8�/�DfES,�2004)。この3つの要素はキャリア教育の中核
的構成要素であると位置付けられているが、他のキャリアや職業に関連する学習においてもこの3
要素に向けての目標が定められている。
表1. イングランドとスコットランドにおけるDOTSモデルの要素
イングランド
・�自己啓発(self�development):自分自身のことや自分に影響を与えていることが何かを理解すること。・キャリア探索(career�exploration):学習と労働の機会について調べること。・�キャリア・マネジメント(career�management):自分がどのように変わっていき、どのような方面に進んで
いくのかをコントロールできるように計画を立て、それを絶えず見直していくこと。
スコットランド
・�自分に気づくこと(Awareness�of�self):個人の価値、願望、長所やこれから何を身につけるべきかなどを見極め、それを特定できること。また、キャリア・パスを選択し進んでいく際にこうしたことを生かしていけること。・�機会に気づくこと(Awareness�of�opportunity):地域的・全国的・国際的な教育・訓練・雇用機会の正確で新
しい情報を手に入れ、情報とそのソースの価値を見極められるようにすること。・�キャリアに関する意思決定を理解すること(Understanding�career�decision�making):意思決定にもいろい
ろな方法があることや、選択に際しては家族・友人・学校/カレッジ・コミュニティの影響があることを考え、キャリアの文脈から戦略的に意思決定を行えるようにすること。・�移行を理解すること(Understanding�transitions):生活の変化や移行、段階によってキャリアに必要なもの
を理解する。キャリア・アクションプランを実行するためのガイダンスや情報、実際の機会にアクセスできるようにすること。
(DfES,�2003a:�8�/�DfES,�2004および�Learning�and�Teaching�Scotland,�2001:�6から訳出)
②スコットランドにおける career�education
2001年11月、スコットランド政府は『スコットランドにおけるキャリア教育:ナショナル・フレー
ムワーク(Career Education in Scotland: A National Framework、以下、ナショナル・フレームワー
ク)』を公刊した(Learning�and�Teaching�Scotland,�2001)。この文書はスコットランド初のキャリ
ア教育に関する公式文書であり、教育・ヨーロッパ・外務担当大臣(Minister�for�Education,�Europe�
and�External�Affairs)と企業・生涯学習担当大臣(Minister�for�Enterprise�and�lifelong�learning)の
共管によって刊行されたものである。現在もキャリア教育は基本的にこのナショナル・フレームワー
クに則って提供されている。
イギリスではキャリア教育に対して careers�education という用語を使用してきた7。しかし、こ
のナショナル・フレームワークにおいてはこの用語を伝統的な careers�education から career�
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
education へと転換しており(Learning�and�Teaching�Scotland,�2001:�1)、学識者らはこれを重要な
変化と位置付けている(Howieson�and�Semple,�2008:�453)。
careers�education は一般的に中等学校で使われてきた用語である。ナショナル・フレームワーク
ではこれをより広義に解釈させ、中等学校段階を含むあらゆる年齢に対してキャリア教育の必要性
を訴えるため、用語の変更を行った(Learning�and�Teaching�Scotland,�2001:�1)。それまでキャリ
ア教育の役割とは、主に学校を卒業する若者の職業選択を助けるものとして考えられてきたが、広
い見方では、キャリア教育とは将来のキャリア形成のための知識、理解、スキル、気質を育成するも
のである。このような見方は、人々が職業人生でキャリアを積み重ねる中で、幾度かの転職を経験
することが一般的になってきた社会の変化が前提となっている(ibid)。
キャリア教育を中等学校段階に限定せず、より広い年齢層で提供しようという方向性は、キャリ
ア教育の定義および提供枠組みにもみられる特徴である。ナショナル・フレームワークではそれぞ
れの用語を以下のように定義している。まず、「キャリア(career)」とは、「仕事と生活を通してつ
くりあげる一連の選択と経験。教育・訓練や有償あるいは無償の労働を含む」として定義される。
「キャリア教育(career�education)」とは、「若者が将来の計画を効果的に作り上げ実施できるよう、
彼らが必要とするキャリア・マネジメント・スキルを学び実践する機会を提供すること。また、勉
強のコース選択や学校卒業後の選択をするにあたって、彼らのスキルを育成し訓練することを支援
する」ことである(op.cit: 2)。
イングランドは DOTS モデルから発展した3要素を CEG の目標としてあげていたが、表1に示
したように、スコットランドではこの DOTS モデルを独自に発展させた4つの目標が示されている
(op.cit: 6)。
また、イングランドにおけるナショナル・フレームワーク『イングランドにおけるキャリア教育・
ガイダンス:11歳から19歳のナショナル・フレームワーク(Careers Education and Guidance in
England: A National Framework 11-19)』(DfES,�2003a)は11歳から19歳までと主に中等段階に関
するものとして発行されたのに対し、スコットランドの場合は発行当初から、上述したようにより
広い年齢層がキャリア教育に携わるよう、就学前教育の5歳以前から18歳まで、4つの大きい目標
にあわせそれぞれの到達目標と学習枠組みが提示された。イングランドも現在では5歳からキャリ
アに関する一貫した学習を行うことが目標とされている。
⑵中等学校におけるキャリア教育の提供
①イングランドのキャリア教育の提供状況
全ての維持学校8では、第9学年から第11学年の全ての生徒に対してカリキュラムの中で CEG プ
ログラムを提供する法的義務を負っている(1997年教育法)。しかし、この法定指導要件(statutory�
requirement)はナショナル・カリキュラムの中には含まれていないため、キャリア教育のための法
で定められた学習プログラムはない。しかし、2003年に教育技能省(Department� for�Education�
and�Skills:�DfES、当時)9が11歳から19歳に対する CEG のためのナショナル・フレームワークを発
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表し(DfES,�2003a)、2004年9月からは第7学年と第8学年の生徒にもこれが適用されるようになった。
学校でのキャリア教育の提供には、大きく分けて3つのモデルが提示されている。第一には、キャ
リア教育のモジュールを、健康教育や性教育、シティズンシップなどの個人の発達カリキュラムの
中に取り入れること。第二には、学年主任(form�tutor)による個別指導プログラムに組み込むこと。
第三には、PSHE・キャリア教師のチームが授業を行う一貫したコースを提供するため、個人の発
達に関係した他のカリキュラムと一体化することである(CESP,�2005:�5)。例えば次のような実施
形態があるが、他の学習と組み合わせて行うのが一般的である(DfES,�2004:�2.1)。例えば、「少人数
個別指導の時間にキャリア活動を行う」、「PSHE とシティズンシップの中にキャリアの単元を入れ
る」「教科学習(英語、科学、ICT など)の中にキャリア活動を組み込む」、「職業コースの中でキャ
リア活動を行う」、「コネクシオンズ資料センターでキャリア活動を行う」、「特別イベントやカリキュ
ラム外活動(保護者参観日、就職説明・相談会や進学説明会、インダストリー・デイ10、職場体験など)
に組み込む」など実施形態は多岐にわたる。就職に直接必要なテクニック(面接、履歴書、プレゼン
テーション)のみだけではなく、仕事や社会に対する理解や認識を育むことができるよう、広範な活
動をとおして学習が行われる。
キャリア・ガイダンスは「キャリア教育によって培った知識とスキルを使い、学習と仕事につい
て個人が正しい選択が出来るよう支援する」活動である(CESP,�2005:�2-3)。イングランドの維持学
校と生徒指導引受ユニット(PRUs)、およびカレッジはコネクシオンズ・サービスとのパートナー
シップの下でキャリア・ガイダンスを行い、最新のキャリア情報を提供することが法で定められて
いる(1997教育法、2000年学習技能法)。それぞれの個人のニーズに合うよう、チューター、教師、
講師、トレイナー、パーソナル・アドバイザーなどのさまざまなスタッフによってガイダンスが提
供される。
ガイダンスは1対1か小グループで、チュートリアルなど時間割の中で行われるか、個別にセッショ
ンを行う。若者が特別な問題を抱えているときや進路に悩んでいるときは個別セッションのほうが
一般的である。ガイダンスはスケジュールに基づいたプログラムの一部としても、あるいは相談の
形でも受けることができる。若者にとって重要なことは人生の節目に関する選択の前に、フォーマ
ルな形でもインフォーマルな形でも誰かと話をする機会を持つことである。インフォーマルなガイ
ダンスとは、例えば教師や他のスタッフ、友人、親、保護者、メンターや雇用主などと相談すること
である(DfES,�2004:�2.2)。
優れたガイダンスを行っている学校やカレッジでは、管理チームや相談記録システム(プログレ
ス・ファイルやキャリア・ポートフォリオ)などのメカニズムが機能しており、若者の支援を効果的
に行っている(op. cit�:�5.2)。
キャリア教育に対する法定指導要件がないため、各学校はさまざまな方法によってキャリア教育
を行っており、その学習の内容や成果に関しては教育水準監査局(Ofsted)11の監察を受けない。
CEG に関しては全国テストもないため、生徒の活動を直接観察し、知識や理解度、スキルや態度な
どを判定しなければならない(Ofsted,�2001:�7)。そのため、各学校やカレッジは自己評価や同僚に
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
よる評価システム、そしてその記録に関しても工夫を行っている。一般に学校は、第7学年から第
11学年のカリキュラムにある全ての科目と活動状況を年次報告書によって保護者に詳細を知らせ
るため、CEG についての学習状況や成果についてはこの中で報告される(DfES,�2004:�5.4)。教育
水準監査局は各学校の自己評価のための指針を公刊し、キャリア教育の評価の仕方について例示し
ている(Ofsted,�2001:�7)。
学校で提供されるキャリア・ワークは以下の4つであり、通常はキャリア教育に携わる教師やコー
ディネーターがこれを担当する。第一に、カリキュラムの中でのキャリア教育、第二に、キャリア・
ライブラリーなどによるキャリア情報提供12、第三に、コネクシオンズとの連携によるキャリア・ガ
イダンス、最後に、職場体験を含む職業関連学習である。学外支援サービスは充実しているものの、
実際の提供に携わるのは各校のキャリア教師、コーディネーターである。教育技能省が発行した
2004年の冊子によると、キャリア教育を専門とする教科教師はほとんどいないとされている(DfES,�
2004:�6.3)。誰もキャリア教育を教える者として教師教育を受けておらず、自分の教師人生のスター
トにおいてキャリア教育の役割を引き受ける者もほとんどいないのである。大体が教歴の中でその
役割を引き受け、仕事の中でキャリア教育に関する経験を積んでいく(ibid)。すなわち、キャリア
教育に関しては、現職研修が主流なのである。ほとんどのキャリア・プログラムが別の専門スタッ
フ(教科教師、ICT スタッフ、図書館員、特別支援教育コーディネーター、学習支援スタッフなど)や、
組織外の人々(卒業生、一般企業など)の協力によって行われる。学校の中における CEG プログラ
ムの提供に関しては各学校によってそれぞれ様相が異なるが、学校内のキャリア・コーディネーター
が統括して責任を負っているのが一般的である。
②スコットランドのキャリア教育の提供状況
中等学校段階におけるキャリア教育の提供は原則的に各学校の裁量に任されており、PSE プロ
グラムの一部として行われるのが一般的であったが、2004年に公刊されたイニシアチブ『カリキュ
ラムの中の卓越(A Curriculum for Excellence)』(Scottish�Executive,�2004)以降は、カリキュラム
の中の自由度が増し、より個人のニーズに沿った形や教科横断型による形など、授業の中での提供
形態が変化しつつある(Howieson�and�Semple,�2008:�455-456)。学校カリキュラムにおいては教科
横断型学習であるエンタープライズ関連学習(Enterprise� in�Education)13の中にキャリアのモ
ジュールが組み込まれている。
歴史的に、キャリア教育の提供は、スタンダード・グレード14の教科を選択する中等学校2年
(Secondary�2:�S2)と、義務教育後の進路選択を考える中等学校4年(S4)に主な焦点が当てられてき
た。カリキュラムのフレキシビリティが大きくなり、またより早い段階で教科選択を迫られる必要
も出てきたことが、こうした状況に影響を与えた。学校教育の早い段階から「個人化/個別化
(personalisation)」と「選択」を強化する動きは、S5と S6において学校が直面していたキャリア教育
の課題を浮かび上がらせることとなった。義務教育終了段階における生徒の学力達成度、就職意識
(career� intention)、職業スキルの熟練度などのばらつきが著しく、このことは、プログラムの設計
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においても提供においてもキャリア教育をより困難なものにしている(ibid)。
キャリア教育の提供に関しては、通常、PSE プログラムの提供の関係から、学校のシニア・マネ
ジメント・チームが責任を負っている。しかし S2での PSE プログラムや S5 / S6でのキャリア教
育は個人のパストラル・ケア・スタッフが任される傾向にある。こうしたパストラル・ケア・スタッ
フによるキャリア教育の提供は、過去には程度の差があったものの、現在ではより一般的になって
きている(ibid)。
進路相談や就職情報の収集のみにキャリア教育を利用するだけではなく、ナショナル・フレーム
ワークは各教科にキャリア教育の要素を取り入れる場合、表2のような例も提示し、より弾力的な
運用を推進している(Learning�and�Teaching�Scotland,�2001:�10)。
表2. 各教科におけるキャリア教育の取り組み例(スコットランド)
英語 手紙を書く、履歴書を書くなどのスキルを育成する
数学 学校卒業者の労働市場情報や市場機会を調査するためのデータの取り扱い
現代社会 地域的・全国的・国際的な雇用の変化について調査する
科学 経済における科学的調査のインパクトについて学ぶ
ビジネス経営 金融とビジネスにおけるテクノロジーのインパクトについて学ぶ
宗教 仕事とサービス、レジャー、家族の間のバランスについて、個人から、家族から、コミュニティから見た価値を見直す
家庭と経済 学生や社会人として独立した生活が営めるような準備について学ぶ
アートとデザイン キャリア・ライブラリーのポスターやディスプレイをデザインする
体育 レジャーと仕事、学習のバランスについて、ライフスタイルの価値観について考察する
(Learning�and�Teaching�Scotland,�2001:�10より訳出)
センプルらが行った調査によると、学校で行われているキャリアのモジュールでもっとも一般的
なのはキャリア・ライブラリーで88%、次に将来の仕事の機会について話し合うことが68%、そし
てキャリア・アドバイザーとのインタビューが66%となっている(Semple�et al,�2002:�27-28)。
⑶外部サービスとのパートナーシップ・アプローチ
イギリスでは、キャリア・ガイダンスはパートナーシップ・アプローチによって提供されている。
ひとつは学習プロバイダー(学校、カレッジ、訓練プロバイダーなど)が、そして他方で学外のガイ
ダンス・サービスによるものである。学習プロバイダーは、若者についての知識や教授学習につい
ての専門性を生かし、学外ガイダンス・サービスは学習や労働の機会に関する知識と、ガイダンス
提供の専門性を生かしている。こうしたアプローチは少なくとも、地方当局キャリア・サービスが
設立された1973年までさかのぼることができる(Andrews,�2008:�2)。
①イングランドにおけるコネクシオンズ15
コネクシオンズ・サービスは旧労働党政権の政策方向性を象徴するサービスとして「若者にアド
バイスや手助けを行い、大人としての生活や職業への潤滑な移行を支援する」ことを目的として
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
2001年に開始され、13歳から19歳の全ての若者の包括的支援を行うこととなった。支援活動の実
施主体は地方のコネクシオンズ・パートナーシップ(以下、パートナーシップ)である。パートナー
シップは、地方自治体や学校などの公的機関、そしてキャリア・カンパニーや訓練プロバイダーな
どの民間組織、ボランティア団体やチャリティなどのボランタリー組織によって構成され、企画運
営に携わる。学校での情報提供やキャリア・ガイダンスは、パートナーシップと契約をしているパー
ソナル・アドバイザー(以下 PA)と呼ばれる相談員が行う。キャリア教育に関わるスタッフの研修
にもパートナーシップが重要な役割を負っており、専門職あるいは非専門職のための現職研修(in-
service�training:�INSET)の運営・促進事業など、CEG に関わる学外からの支援基盤が構築された。
13歳から19歳の全ての若者はコネクシオンズ・サービスの PA から支援を受けることができる 16。
ひとりの PA が何人かの若者を継続的に担当し、1対1の首尾一貫した支援体制が取られる。この
支援とは、若者にとって正しいコースと機会を選択するキャリア・アドバイスと実際の手助けばか
りではなく、若者が幅広い人格の形成に関わる活動(スポーツ、芸術、ボランティア)に関わること
が出来るよう支援したり、若者が抱えるさまざまな問題(金銭、ドラッグ乱用、性の問題、ホームレス)
にも手助けを行ったりする。学校における PA の役割は情報提供とガイダンスであるが、パートナー
シップの支援活動の詳細は具体的に学校との契約内容によって決められる。
パートナーシップに参加する支援機関は、進路追跡データベース CCIS(Connexions�Customer�
Information�System)と呼ばれる若者の個人情報を集約した追跡データベースを作成し、この情報
を利用して支援機関のネットワーク化を行っている。若者への支援はこの CCIS に基づいて行われ
ており、個人情報を厳しく管理する中、13歳から19歳の若者の個人情報(名前・性別・住所など)と
学習状況を把握し、同時にサービスの利用状況とその際の各パートナー組織との連携状況や他組織
への紹介履歴を記録する。
このようなガイダンス・サービスの提供や周辺支援に対する内外の評価は高かったが、2010年に
政権が交代し、保守党政権によってキャリア・サービスの移行が行われることとなった。
②キャリア・スコットランドの役割とキャリア・ガイダンス17
2002年4月、キャリア・サービス、エデュケーション・ビジネス・パートナーシップ、成人ガイダ
ンス・ネットワーク(Adult�Guidance�Networks)、地方学習パートナーシップ(Local�Learning�
Partnerships:�LLP)が一つになり、キャリア・スコットランドとして、キャリアに関連するサービス
を提供する世界最大規模の組織としてスタートした18。キャリア・スコットランドは公的資金によ
りその活動経費を賄っており、全ての年齢層に対してキャリア・ガイダンスを提供することとなっ
た。スコットランドのガイダンスに関する方向性は2005年の『幸福、安全、可能性の達成(Happy,
Safe and Achieving their Potential: The report of the National Review of Guidance)』(Scottish�
Executive,�2005)での提言が大きく反映することとなった。
キャリア・スコットランドは、イングランドにおけるコネクシオンズ同様、キャリア・ガイダンス
における大きな役割を負っている。中等学校の生徒に対してはキャリア・アドバイザーが個別面談
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に応じている。小学校におけるキャリア教育は比較的新しい試みであるが、少数ながらこの直接提
供も行っている。
キャリア・スコットランドの役割は、ガイダンスやレッスンの直接提供だけではない。むしろ、
すべてのキャリア・ワークとその周辺支援がキャリア・スコットランドの重要な役割である。キャ
リア・インフォメーションの提供および管理、労働市場情報の提供、カリキュラムにおけるキャリ
ア教育プログラムの企画や支援、キャリア教育の提供に関わるスタッフの訓練や現職研修など、学
校での取り組みに対する包括的な支援を行っている。また、教材やプログラム開発も重要な仕事で
ある。キャリア・スコットランドはナショナル・フレームワークに則って、キャリアボックスとい
われる3歳から18歳までのキャリア教育のプログラムの教材を開発し、それを各学校に提供してい
る。32ある全ての地方当局が何らかの形でこのキャリアボックスを使用している。キャリアボッ
クスはそのままの形で使うだけではなく、それぞれの地域的で使用している教材や現存のプログラ
ムと組み合わせて提供するのが一般的である。
3.政策方針の影響からみたCEGの提供の特徴と課題⑴労働党政権下での雇用可能性をめぐる政策的動向とCEG
イギリスの社会において若者をめぐる問題は非常に深刻であり、労働党政権は若者の雇用可能性
の開発にとりわけ重点を置いた数々の政策に着手した。
雇用可能性の向上が労働党政権の政策目標の中心に掲げられ、数々の政策提言や政策文書に頻繁
に登場する用語であるにも関わらず、イギリス政府は雇用可能性とは何であるかという定義の公式
な統一見解を出していない。異なる省庁や政策執行機関がそれぞれのプログラムに関連させ雇用可
能性を独自に定義して使用しているのである。その中でも研究者に引用されるのは、教育雇用省
(DfEE)の研究報告書『雇用可能性:政策分析のための枠組み(Employability :Developing a
Framework for Policy Analysis)』(Hillage�and�Pollard,�1998)19における定義である(Finn,�2000:�
387)。この報告書で示された雇用可能性の定義は、「初職に就くため、雇用を持続させるため、(必
要なら)新しい職を得るための能力を有すること」である(Hillage�and�Pollard,�1998)。報告書はさ
らに初職就業時に必要な能力として、まずは学校教育で学習するキー・スキル(key�skills)20、そし
て仕事の世界を理解し、興味を広げることをあげている。雇用を持続させる能力とは、同じ組織に
いながら新しい仕事に適応できるよう、自分の仕事と役割の移行(Transition)ができること、さら
に人々が(必要なら)新しい職を得るため、あるいは組織から組織への転職、組織内での異動などを
管理できるよう、労働市場において自立していることが必要であるとしている。この定義をより簡
潔にするならば、雇用可能性とは「満足できる仕事に就き、それを持続させる能力がある」ことであ
ろう。さらに報告書は、就労や持続的雇用に関連するスキルとして次の3つのスキルをあげている。
第一に、キャリア・マネジメント・スキル、第二に、求職情報収集スキル(Job�search�skills)、第三に、
労働市場の動向に敏感に対応する戦略的アプローチである(ibid)。
キャリア・マネジメントは、上記 CEG プログラムの中で学習することが定められている。求職
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
情報収集スキルは CEG プログラムにおけるキャリア探索とも密接に関連している。適職を見つめ
るためにフォーマルあるいはインフォーマルなネットワークにアクセスすることは、雇用可能性や
求職活動にとって重要な要素であると報告書は指摘する(Hillage�and�Pollard,�1998)。各中等学校
ではキャリア・コーディネーターがキャリア・ライブラリーを管理し、キャリアや仕事に関する情
報収集を生徒が円滑に行えるよう支援している(Andrews:�2005)。そして、戦略的アプローチとは、
労働市場の発展に適応しつつ、労働市場の好機に対して現実的に対応できることである(Hillage�
and�Pollard,�1998)。報告書は、さらに人々がどういった職業に就くか、あるいはどのような場所で
働くかに関しても適応できる意欲があることが望ましいとしている。さらに、雇用可能性のために
報告書が重要視するスキルはプレゼンテーションである。履歴書の書き方や面接時の振る舞いの他、
資格や職業体験などの要素、あるいは自分の長所や意気込みをどれだけ効果的にアピールすること
が出来るか、というスキルであり、これも CEG プログラムで学習することが求められている。
以上のようなスキルを中等学校段階で効果的に習得するため、学校単位でもさまざまな取り組み
がなされることとなった。しかし、これらのスキルは確かに就労に際して重要であろうが、政府の
推進する雇用可能性の向上とはこうした就職時に必要な直接的テクニックの習得のみを指している
のではないことは明らかであろう。
1997年の政権奪取以来、労働党政権は社会的公正と経済的成功を目指した政策を立案し、好景気
の後押しもあって失業率の低下を実現することができた。しかし、単に低水準資格取得者の訓練プ
ログラムの供給だけでは根本的な問題解決にならないことは産業界からも指摘されている(CBI,�
2002)。スキル水準の全体的向上のために、より高い水準でのスキル習得を期待される者への対応
と排除層の底上げという二極での積極的対応が政府に求められたのである。
キャリアや労働の構造変化と職業能力のミスマッチに対応するための方策のひとつとして、政府
による労働力需給調整機能を強化することがあげられる。しかし特に若年層の教育・訓練を検討す
る場合、教育分野の主要関心のひとつとして、学校と職場の関係、いわゆる教育プログラムと生産
体系間の連続性をいかに保持するかという問題がある。グローバル市場を睨みつつ、国内産業の国
際競争力を強化すべく人的資源を開発する経済社会政策における「労働市場」「雇用」と、教育・文化
政策における「教育」「訓練」の相互関係の調整は、職業教育・訓練分野において政策策定を困難にす
る要因のひとつであった。
そこで、ニューレイバーは教育に関わる部分に産業界の意向を積極的に取り入れ、職業関連学習、
CEG、キー・スキル、エンタープライズ学習などをカリキュラムの中に取り入れてきた。経済に関
する知識や金銭管理能力、起業のためのスキルを若年層の雇用可能性向上とキャリア形成のために
中心に位置付ける傾向は、2008年のカリキュラム改訂や基本的方針に大きく影響を与えることと
なった。さらに、こうしたカリキュラムには学習の個人化・個別化や一人ひとりに合わせた(tailor-
made)取り組みという基本方針が色濃く出されており、学校教育において柔軟性と機会の多様性を
確保するよう提言が成されている(DfES,�2003b)。こうした動向は、学校教育に対して、第一に、経
済や社会に対する知識や理解に加え、社会的能力の育成、第二に、個別の対応を重視したキャリア
― ―67
� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第60集・第1号(2011年)
形成に関する指導、という2点を特に要請するものとなった。
学校教育における経済や科学、キャリアへの強い志向性は、政府の知識経済に適応可能な人材の
育成に対する強い姿勢が窺えるものとなった。また、『21世紀のスキル—我々の可能性に気づけ:
個人、雇用主、国家(21st Century Skills —Realising Our Potential: Individuals, Employers, Nation
−)』(DfES�et al.,�2003)や、報告書『グローバル経済における万人のための繁栄:世界水準のスキル
(Prosperity for all in the global economy ― world class skill)』(通称 Leitch�Review�of�Skills、以下、
リーチ報告書と略称)(HM�Treasury,�2006)など一連の政府文書は、イギリスの低いスキル水準の
要因が現行の教育・訓練システムにあると指摘し、学校・カレッジ・大学など教育システム基盤の拡
充と一貫性のある総合的な改革の必要を訴えている。
しかし、産業界の学校教育カリキュラムへの強い働きかけや、継続・高等教育の拡充推進などの
一連の動向は、学校教育段階で習得が期待されるスキルや能力が学校を離れてからは習得が困難で
あることを端的に示している。リーチ報告書は成人のスキルに焦点をあてて調査を行ったものであ
るが、若年者に対して有効な教育を行うことがいかに重要であるかを認識する結果となったと報告
書は述べている(HM�Treasury,�2006:�4)。そのため、第三期以降の労働党政権は、特に子どもの貧
困の解消や若年層におけるキャリア形成に対する意識改革など、政策の焦点をより若い層へとシフ
トし、予算増加措置や学校改革へと大きく乗り出すのである。これは、半ば固定化された社会階層
において、社会移動性を高めるにはより若い層からの働きかけが重要であるとの認識からである。
キャリア教育に関しても、より低年齢層からの取り組みが求められることとなった。
こうした雇用可能性をめぐる政策的動向が CEG の推進に大きく影響を与えることとなる。特に、
イギリス政府は公共サービス改革や生涯学習政策に際して、情報・アドバイス・ガイダンス
(Information,�Advice�and�Guidance:�以下、IAG と略称)を重視しており、成人学習領域の、特に不
利益層や成人を中心とした学習支援では、IAG を利用したカスタマイズされたサービス提供に関
して政策効果を大きくあげることに成功している21。学校段階でもキャリア・ガイダンスにおける
外部サービスが持つ個人への対応ノウハウや、幅広い IAG 支援体制は CEG 提供における大きな支
柱を成すことになった。
⑵CEG提供における政策的動向の影響
①両地域に共通する政策的動向
イングランドとスコットランドに共通する学校カリキュラムにおけるキャリア教育の特徴は、第
一にキャリア教育とキャリア・ガイダンスを両輪としていることである。第二に、パートナーシップ・
アプローチによる学校外からの支援・協力体制があることである。ガイダンスのみならず、現職研
修や教材開発など CEG 提供全般における周辺支援から直接提供まで学外のキャリア・サービスが
大きな役割を果たしている。第三に、キャリア教育の提供に関してフレキシビリティが非常に大き
いことである。この特徴は特にイングランドにおいて顕著である。どのような学習をどうやって提
供するかは、基本的に学校の裁量にすべて任される。この3点が、イギリスの CEG を大きく特徴付
― ―68
イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
けている柱である。
また、両地域に共通して看取できるここ数年の動向として、以下の3点を指摘することが出来る。
第一に、カリキュラムの弾力化による個人化・個別化の進行である。イングランドの『14-19�機会
と卓越(14-19 Opportunity and excellence)』(DfES,�2003b)とスコットランドの『カリキュラムの中
の卓越』(Scottish�Executive,�2004)では、政府の意向としてカリキュラムにおける柔軟性と機会の
多様性を確保するよう提案がなされた。さらに学校においても個人化・個別化を重視する基本方針
が打ち出されている。上述したように、中等カリキュラムにおけるキャリア教育は提供に関して各
学校の裁量が重視され、非常に柔軟に運用されていることがひとつの特徴であるが、こうした傾向
はますます強くなりつつある。スコットランドでは PSE プログラムの一部として行われるのが一
般的であったものの、2004年のイニシアチブ以降は、カリキュラムの中の自由度が増し、より個人
のニーズに沿った形や教科横断型による形など、授業の中での提供形態が変化してきている
(Howieson�and�Semple,�2008:�455-456)。
第二に、キャリア教育を経済や労働に関する学習に組み込む試みが行われていることである。イ
ングランドでは、中等カリキュラムでキャリアや職業に関連して教えられてきたいくつかの学習を、
個人の発達に関わる学習(personal�development� learning)やプログラムの、特に経済と金銭に関連
した枠組みの中で一貫性を持たせるようにカリキュラム改訂を行ったのが最近の大きな動向であ
る。イングランドでは、カリキュラムにおける相互関連領域についてより一貫したアプローチを支
援するため、資格カリキュラム局(QCA、当時)がキャリア教育を含む自己啓発学習に焦点を当てた
カリキュラム全要素の位置付けについて見直しをし、ひとつの提案としてキャリア教育を職業関連
学習やエンタープライズ学習の枠組みの中で「経済の福利」に組み込むことが検討されたという経
緯があり、これが2008年のカリキュラム改訂につながった(Andrews,�2006b)。スコットランドでは、
キャリア教育はエンタープライズ関連学習(Enterprise�in�Education)の中のプログラムとして提供
されている。キャリア教育の提供には経済や労働に関連する学習に関する報告書『成功への決意
(Determined to Succeed: A review of Enterprise in Education)』(Scottish�Executive,�2002a)の基
本方針が反映している。すなわち、CEG の提供には教育政策ばかりでなく、グローバル経済を視
野に入れた社会・経済政策の方針が色濃く出ることになった。産業界の強い意向や、教育政策と経
済政策を強く結節する政府の方向性が CEG の位置づけからも看取できる。
第三に、学校の教員をめぐる環境の変化があげられる。このことが学校における CEG の提供に
大きく影響を与えることとなった。
知識経済を前提として教員の専門職性を高める国際的な動きが高まっている。イングランドの学
校におけるワークフォース・リモデリングとは、2003年に中央政府・地方当局・教員組合の間で結
ばれた協定22に基づき、学校内におけるある種の雑用的な仕事(備品発注、コピー、総務等)を、教師
以外の者を雇用して任せることで、教師が本来の仕事に集中できるようにした取り組みである。し
かし、キャリア・コーディネーターの仕事は「教える」以外の仕事が少なくない。キャリア・ライブ
ラリーの管理、キャリア教育の計画策定や他の教科との調整、ガイダンスの記録作りや、職場体験
― ―69
� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第60集・第1号(2011年)
の調整などその業務は広範にわたる(Andrews,�2005�/�NICEC,�2004)。教科教師の負担を軽減する
一方で、キャリア・コーディネーターやキャリア・スタッフが、本来教師がやるべきでない広範な業
務をこなす人員としてみなされているケースもある(Andrews,�2006a)23。
スコットランドでも同様に、教師の待遇や制度の改革を提言した2000年のマクローン報告 24を受
けてマクローン協定(McCrone�Agreement)が打ち出され(Scottish�Executive,�2002b)、教師や学
校の裁量が大きくなり、分業体制が進んでいる。これを受け、スコットランドのガイダンス・シス
テムの様相は変化した。かつては、キャリア教育とキャリア・ガイダンスはある程度決まった形で
行われていたが、現在はガイダンス・サポートに単一のモデルはなく、各学校がどのようにキャリア・
スコットランドと連携していくか、学内でどのようなサポート体制を構築するかについては、地域
によっても、さらには地方当局管轄内でもそれぞれの独自性が求められることとなった(Howieson�
and�Semple,�2008:�455-456�/�2006)。
②両地域の発展プロセスの相違点
キャリアや職業に関する学習は特に地域経済やコミュニティとの関連が重要であるため、地域に
よる多様性の大きい学習となっている。イングランドとスコットランドでは、特に政策上の重点領
域の違いや学校カリキュラムにおける発展プロセスの違いがある。
第一に、若者のキャリア支援に関して、領域横断的に支援するか、継続性を重視するかの違いが
ある。スコットランドの政策傾向として、キャリア教育の概念と提供対象が拡大している。また、
スコットランドでは特に義務教育終了時点での各生徒の成績や将来に対する意識の差が著しいこと
が課題として指摘されてきた。そのため、切迫した必要のある S2と S4以外でもキャリア教育が重
要視されており、特に低年齢層への提供の必要性が訴えられている。キャリア・ガイダンスに関し
ても同様の傾向はあり、キャリア・スコットランドのガイダンスは若者だけではなく成人も対象に
なっている。キャリア・スコットランドでは、全ての年齢層にあまねくガイダンスを提供すること
がコンセプトとなっており、若者を支援の中心としたイングランドのコネクシオンズとの違いを浮
き彫りにしている。これは、キャリア・スコットランドとコネクスオンズの設立の経緯や理念の違
いによるものである。スコットランドのキャリア・スコットランドは対象年齢層の異なるいくつか
のガイダンスに関する機関を統合することで発足した。さらに、キャリア・スコットランドは成人
を含むスキルに関する包括的支援体制であるスキルズ・ディベロプメント・スコットランド(Skills�
Development�Scotland)に統合され、スキルや職業、キャリアに関するより統合的なサービスの一環
としての位置づけを確保する。
イングランドの CEG、特にキャリア・ガイダンスは、学校から職業への潤滑な移行を支援するた
めだけではなく、機会均等や社会的包摂を前提として、若年者貧困や NEET への取り組み、若年雇
用対策・自立への移行支援としての側面があった。コネクシオンズでは特に若者の取りこぼしのな
いよう、この年齢層に対して集中的にかつ包括的・総合的にケアを行うアプローチを採用した。コ
ネクシオンズ・サービスの理念は、今までそれぞれが独自に行ってきた若者に関する専門機関のサー
― ―70
イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
ビスを横断的に結びつけ、整合性と一体性のある政策を届けることにあった(日本労働研究機構 ,�
2003:�80-108)。イングランドでは、義務教育後の学習や訓練や成人教育のカリキュラムにおいて、
成人と若者を分離する歴史的傾向があることが指摘されている(パリ ,�1995:�77)。義務教育後の学
習や訓練に対する企画調整と財政支援を担う学習技能協議会(Learning�and�Skills�Councils:�LSC)
は、年齢や学校階梯によらずスキルと学習に関わる包括的支援を行う初の単一財政支援機関として
2000年の学習技能協議会法(Learning�and�Skills�Council�Act)により設立したが、2010年に19歳以
上の学習と訓練に関わる技能財政局(Skills�Funding�Agency)と16歳から19歳の若者の教育・訓練
を管轄する若者学習局(Young�People’s�Learning�Agency:�YPLA)に改組された。これは、イング
ランドにおいて若者に対する公的資金の投入に関する正当性がより高く位置づけられ、成人と区別
して政策執行を行う必要があったことが一因である25。
イングランドの CEG は学校の内外で、また支援組織内部でも「パートナーシップ」をキーワード
に、若者を集中的に支援するのが特徴である。対してスコットランドでも NEET 問題はイングラ
ンドより深刻であるが、キャリア・スコットランドはコネクシオンズとはアプローチが異なる。コ
ネクシオンズが領域横断的に若年者層を支援するのなら、キャリア・スコットランドは全ての年齢
層、すべてのステージにおいて人々のキャリアに関する支援を行うことが目標とされた。
こうしたガイダンスに対する支援の方向性の違いが実際の提供における大きな差異として現れて
いるわけではない。しかし、若者のキャリア形成をどのような政策枠組みに位置づけるかという観
点は、CEG の提供にも影響を与えることになる。これは他の教科と異なり、学校の CEG における
外部支援サービスの役割が大きいためである。特に、イングランドでは保守党政権の下でキャリア・
サービスが移行されるが、予算の削減が発表され、さらにコネクシオンズで働いていた多くの人員
が整理されることもあり、充実したサービスを維持できるかの懸念もある 26。
第二に、学校の中で、誰がキャリア教育やガイダンスに携わるかの違いがある。スコットランド
では、キャリア・ガイダンスを行う教師は教科教師の仕事をしながら、生徒の個人的、社会的、カリ
キュラムのあるいは職業に関わるガイダンスの責任を負っているのが一般的であった(Howieson�
and�Semple,�2006:�36-37)。イングランドでは、通常、キャリア・スタッフは教科教師とは別になっ
ている。スコットランドでガイダンスを行う教師は、一般にキャリア教育を含む PSE プログラム
に関する責任を負い、さらにキャリア・サービスとの連携も行わなければならなかった。こうした
構造はマクローン協定以降変わりつつあるが、完全に分業体制になったわけではない。
一方で、イングランドのキャリア・コーディネーターは、学内でのキャリア・プログラム推進のた
め、学内の図書館員、PSHE コーディネーター、学習達成記録担当などと相談・協働するばかりで
はなく、職場体験や進路相談のための学外の FE カレッジや訓練プロバイダー、企業の採用担当と
の連絡調整やネットワークの構築など、広範囲にわたる業務が求められている(NICEC,�2004:�3)。
キャリア・コーディネーターは外部との連携役として、また管理職として重要な役割が認識されて
いる一方で、カリキュラムの策定においては学校業務の専門家でもなければならない。しかし、ほ
とんどの教師はキャリア教育の専門的養成を受けているわけではなく、専門的経歴を持つ教師では
― ―71
� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第60集・第1号(2011年)
ないキャリア・コーディネーターの採用に関しても、カリキュラム策定や教科教師との連携などの
課題が残っている(Andrews,�2006a)。
⑶CEG提供における課題
ここまで検討してきたように、学校内でキャリア教育に携わる者の負担はますます大きくなる傾
向にある。イギリスは、キャリア教育とキャリア・ガイダンスに関する学校外からの支援が充実し
ており、各学校において生徒一人一人に対する独自の取り組みが推進されているが、政府方針の影
響を受けやすいこと、地域や学校による取り組みのばらつきがあること 27、そして学内でキャリア
教育やキャリア・ガイダンスに関わる者の負担が大きいことが課題として指摘できる 28。しかし、
これは上記のカリキュラムのフレキシビリティや個別化のサービスを重視する傾向、あるいは若者
に関する政策方針、そして行政サービスの財政緊縮などと深く関連するものであり、今後ますます
この傾向は強くなるであろうことが予想される。個別対応や学校での弾力性に富んだ提供形態は、
裏を返せば高コストで高負荷であり、提供における問題点となりやすい。スコットランドのキャリ
ア教育の提供に関する調査は、各学校が上記で述べたようなさまざまなキャリアに関するアクティ
ビティを、学校ごとに、また学校内でも弾力的に提供していることを明らかにしたが、すべての生
徒が同じアクティビティや学習機会にアクセスできているわけではないと調査を行ったセンプルら
は指摘している(Semple�et al,�2002:�30-31)。これは同一のカリキュラムの下で CEG の機会を十分
に享受できない生徒がいるという根本的な問題を示している。
CEG をモジュールとして各学校が教科に取り入れつつ弾力的に提供する形態は高く評価される
一方で、提供におけるばらつきや困難、教師の負担となっている。このことは学校カリキュラムに
おいていかに職業との接続を成していくかという CEG のカリキュラムにおける位置づけの課題、
そして教育行政と労働行政の連携における困難など、アカデミック・ボケーショナルの分断の問題
と密接に関連がある。イングランドにおいては、キャリア教育は政策方針ばかりでなく担当省庁や
行政組織改変による影響が他の教科よりも比較的大きく、このことがカリキュラム上の位置づけを
弱くしてきたことが指摘されている(Andrews,�2006b)。また、スコットランドでも CEG は教科上
の扱いが比較的小さく、これは教育とも、産業界と関連するエンタープライズ学習とも切り離され
てきたためであるとの指摘がある(Semple�et al,�2002:�3)。
イングランドにおける CEG のナショナル・フレームワークは、学校への法的就学年数を超えて
19歳まで拡張するための、最初で唯一のカリキュラム・ガイダンスであった(DfES,�2003a)。政策
の意思は、シックス・フォームの学校ばかりではなく、カレッジや職業訓練に就いている16歳から
19歳までの学習者にもこれを適用するべきということであった。同時に、学校がカリキュラムの中
でキャリア教育を提供するための法的指導要件が拡張された。イングランドのキャリア教育に対す
る政策責任は、学校カリキュラムのその他全ての科目に政策責任を負っていた教育技能省の部署と
は異なった部署に置かれていたため、こうした導入がより容易であったとアンドリュースは指摘す
る(Andrews,�2006b)。前述したように、キャリア教育を除く全てのカリキュラムの責任を負って
― ―72
イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
いたのが教育科学省であった時代に、キャリア教育はキャリア・サービスを管轄する雇用省の部署
が責任を負っていた。1990年代の半ば、教育省(DfE)が雇用省と合併し教育雇用省となったときに
も、カリキュラム課と連携していたものの、キャリア教育に関する政策責任は別の部署の担当のま
まだった。のちに教育雇用省が教育技能省と労働年金省(DWP)に分かれたとき、キャリア教育に
関する責任は教育技能省に残ったが別の部署におかれたのである(ibid.)。アンドリュースは、キャ
リア教育のカリキュラム上の位置づけが比較的弱い一因が、他の教科と異なる担当部署が主導的役
割を担ってきたためであると指摘する(ibid.)。2008年のカリキュラム改訂により、CEG は PSHE
教育の一環として提供されることになったが、保守党政権が2010年に打ち出した白書では PSHE
教育は大幅な見直しが提言され(DfE,�2010)、CEG もその見直しの対象となった。さらに、コネク
シオンズ・サービスの終了に伴い、2011年には保守党政権はキャリア・アドバイスに対する組織改
変に伴う予算削減を打ち出し、学校関係者を大いに困惑させることとなった 29。
CEG はその重要性が認識されているにも関わらず、カリキュラムにおける位置づけは弱く、政策
方針の影響を比較的受けやすい。キャリア形成に関する問題は、政府の重視する若者の問題や社会
移動性、労働や社会格差の問題など、周辺の重層的社会問題と深く関わってくるため、政策的には
重視される領域である。しかし、実際の提供においてはエンタープライズ学習や職業関連学習など
他の教科と時間割の中の限られた時間を争わなければならず、各学校の教科策定においても困難が
あることが報告されている(Andrews�2006a�/�2006b)。さらに、イングランドのガイダンス・サー
ビスにおける予算削減を引き合いに出すまでもなく、学校においても政府にとってもコストのかか
る取り組みなのである。
しかし、こうした傾向は学校における職業的な学習の位置づけをどのように確保するか、そして
キャリア形成に対する指導や体制の確保がいかに困難であるかを象徴しており、これらの課題が今
後の政策的焦点となるであろうことが指摘できる。さらに両地域に共通する CEG の提供課題は、
今後、若者のキャリア形成や就労支援に対し政府がどのように対応していくべきかの示唆も含まれ
る。
本稿は、イングランドとスコットランドの比較という観点から主に制度に関する検討と政策方針
の影響を分析する作業を行ったが現地調査は行っていない。また、キャリア・サービスの移行やカ
リキュラム改訂後の最新動向も調査の必要がある。今後の課題としたい。
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ない表記についてはイングランドのことを述べている。あえて「イギリス」と書いている場合はスコットランドも
含む全域を指している。なお、ウェールズと北アイルランドについては、今回直接は検討していない。
2� わが国では平成11年度中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年12月)
で初めて「キャリア教育」という文言が登場した。ここで学校種間の接続ばかりでなく学校と職業との接続も視野
に入れ、学校におけるキャリア教育推進の重要性の認識がもたれた。平成16年1月に「キャリア教育の推進に関す
る総合的調査研究協力者会議報告書」が公表され、「初等中等教育におけるキャリア教育の推進」を提言するととも
に学校におけるキャリア教育等推進に向けた課題や意義等もここで明らかにされた。http://www.mext.go.jp/a_
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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第60集・第1号(2011年)
menu/shotou/career/06122006.htm�【最終アクセス2011年9月20日】また国立教育政策研究所の報告書(国立教育政
策研究所 ,�2008:�8-9)も参照。
3� カリキュラム改訂以前は人格・社会性の発達及び健康教育(PSHE:�Personal,�Social�and�Health�Education)で、こ
こに経済が追加される。2008年以降の PSHE にはシティズンシップ、ドラッグ・アルコール・タバコ、精神的健康
と福利、栄養と運動、個人財務、安全、性教育などが含まれていることとなった。
4� イングランドの CEG の取り組みについては、国立教育政策研究所のキャリア教育に関する報告書も参照のこと
(白幡他 ,�2010)。
5� 公式 HP の CEGNET は、キャリア教育に携わる者のために、資料や情報の提供を行っている。http://www.
cegnet.co.uk/ 【最終アクセス2011年9月20日】
6� 1995年、学校カリキュラム・評価当局(School�Curriculum�and�Assessment�Authority:�SCAA)は全国職業資格協
議会(NCVQ)と統合し、資格カリキュラム局(The�Qualifications�and�Curriculum�Authority:�QCA)となる。2008年、
資格カリキュラム局が改組され、資格と試験を管轄する資格試験監督局(Office�of�the�Qualifications�and�
Examinations�Regulator:�Ofqual)が発足し、カリキュラムを管轄するのは資格カリキュラム開発局(QCDA)となっ
た。
7� アメリカや他の英語圏諸国では Career�Education が多く使われている。
8� 特別支援学校と生徒指導引受ユニット(Pupil�Referral�Unit:�PRUs)を含む。PRUs とは、学校とは異なる、問題
行動を抱える児童・生徒を受け入れる組織体である。地方当局が委託し、教育省に登録され教育水準監査局の監察
を受ける。
9� 教育に関する責任は1964年から1992年までは教育科学省(Department�of�Education�and�Science:�DES)にあっ
たが、1992年に科学に関する責任が他省庁に移ったため名称を教育省(Department�for�Education:�DfE)とし、1995
年に雇用省(Department�of�Employment:�DE)と合併し教育雇用省(Department�for�Education�and�Employment:�
DfEE)となった。2001年に、雇用に関しては新たに雇用年金省(Department�for�Work�and�Pensions:�DWP)が創設
されたため、教育技能省(Department�for�Education�and�Skills:�DfES)として再編された。2007年6月に教育技能省
は子ども学校家庭省(Department� for�Children,�Schools�and�Families:�DCSF)と研究大学技能省(Department� for�
Innovation,�Universities�and�Skills:�DIUS)に再編された。さらに2009年6月5日に革新大学技能省 DIUS とビジネ
ス企業規制改革省(Department�for�Business,�Enterprise�&�Regulatory�Reform:�BERR)とが合併して、ビジネス革
新技能省(Department�for�Business�Innovation�and�Skills:�BIS)に改組される。2010年5月には保守党政権の下で子
ども学校家庭省は教育省(Department�for�Education)となる。
10� 企業が行う新製品や新技術の見本市または企業向けセミナーなど。自動車関係ではモーター・ショーなどがある。
11� キャリア教育は法定指導要件がなく教育水準監査局の監察を受けないため、各学校が独自の自己評価を行ってい
る。教育水準監査局(Ofsted)は2007年4月に4つの監察機関(Commission�for�Social�Care�Inspection:�CSCI、Adult�
Learning� Inspectorate:�ALI、Children�and�Family�Court�Advisory� and�Support�Service:�CAFCASS、Her�
Majesty’s� Inspectorate�of�Court�Administration:�HMICA)の 統 合 に よ っ て、以 前 の Office�for�Standards� in�
Education から包括的監察機関 Office�for�Standards�in�Education,�Children’s�Services�and�Skills として一新した。
Ofsted という略称は引き続き使用されているため、本報告では2007年以前の Ofsted は Office�for�Standards� in�
Education を指すものとする。統合以前は、独立学校やカレッジにおける CEG の監察は Office�for�Standards� in�
Education が、訓練プロバイダーへの監察とコネクシオンズへの監察は成人学習監察局(ALI)がそれぞれ担当して
いた。現在は一括して Ofsted が行う。
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
12� 1997年教育法でキャリア・ライブラリーを介した情報提供が各学校に義務付けられている。
13� この中ではキャリア教育のほかに、エンタープライズ学習(enterprising�teaching�and� learning)、起業家学習
(Entrepreneurial�learning)、仕事に基盤を置く職業学習(Work-based�vocational�learning)が含まれる。
14� スコットランドでは義務教育終了時である中等学校4年(Secondary�4:�S4)の終わりに、SCE(Scottish�
Certificate�of�Education)のスタンダード・グレード(Standard�Grade)という試験を受験する。成績は1 〜 7で評価
され、グレード1が最高で7が不合格である。この段階で大学進学、職業訓練学校入学、または就職の進路を選択する。
大学進学希望者は、その後1学年の学習で SCE のハイヤー・グレード(Higher�Grade:通称 “ ハイヤーズ ”)を4 〜 5
科目受験する。そのうち3 〜 5科目を合格すれば、スコットランドの大学に入学できる(標準17歳)。
15� ここでのコネクシオンズについての記述は旧コネクシオンズ・ダイレクトの HP、梶間と堀のイギリスのキャリ
ア教育に関する著書(梶間、堀 ,�2006)、日本労働研究機構のコネクシオンズに関する記述、(日本労働研究機構 ,�
2003)および内閣府のコネクシオンズに関する調査(内閣府,2006)などを参照している。
www.connexions-direct.com/�【旧 HP:最終アクセス2011年6月1日】
16� 学習困難や障害を持つ若者は25歳までサービスを受けることができる。
17� ここでのキャリア・スコットランドに関する記述は、Howieson と Semple の論考(Howieson�and�Semple,�2006)
および旧キャリア・スコットランドの公式 HP およびスキルズ・ディベロプメントのキャリアに関する HP マイ・ワー
ルド・オブ・ワークを参照した。
http://www.careers-scotland.org.uk/�【 旧 HP: 最 終 ア ク セ ス2010年5月5日 】、http://myworldofwork.
skillsdevelopmentscotland.co.uk/�【最終アクセス2011年9月20日】
18� 2007年には Scottish�University�for�Industry、Scottish�Enterprise と Highlands�and�Islands�Enterprise のスキル
に関わる部分が統合し、Skills�Development�Scotland として発足する。その後、キャリア・スコットランドも統合し、
スキルや仕事関連の学習に関する統合的なサービスを提供することとなった。
19� 本論文が参照したのは Research�Brief の方である(Hillage�and�Pollard,�1998)。
20� 6つのキー・スキル「数的処理力(Application�of�number)」「コミュニケーション(Communication)」「情報技術
(Information�and�communication�technology)」「自己の学びとパフォーマンスの向上(Improving�own� learning�
and�performance)」「問題解決(Problem�solving)」「共同作業力(Working�with�others)」は、キャリア教育、エンター
プライズ教育、職業関連学習(WRL)の全ての学習と密接に関連している。QCA は、キャリア教育を構成する
DOTS モデルの3要素全てにキー・スキルの習得が貢献することを強調している(QCA,�2001:�1)。
21� 例えば、オンライン学習サービスのラーンダイレクト(learndirect)では、学習プログラムの提供に当たり充実し
た IAG サービスが利用者の学習への動機付けに大いに貢献したという調査結果も報告されている(Dhillon,�2004�/�
Goodison,�2004)。
22� Raising standards and tackling workload: A national agreement�(the�National�Agreement).
23� キャリア教育研究の第一人者であるアンドリュースは、この教師ではないキャリア・コーディネーターとワーク
フォース・リモデリングの関係に注目し、数々の調査を行っている(Andrews,�2005)。
24� Scottish�Executive�Education�Department� (2000)�Teaching Profession for the 21st Century: Report of the
Committee of Inquiry into Professional Conditions of Service for Teachers�(the�McCrone�Report),�HMSO.�
25 しかし、技能財政局はビジネス革新技能省(当時)の、YPLA は子ども学校家庭省(当時)がそれぞれ管轄しており、
担当省庁が業務を分割し改組した影響もこの再編に看取出来る。
26� BBC�News,�9�August�2011,�Careers service at risk of 'destruction' warning.
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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第60集・第1号(2011年)
http://www.bbc.co.uk/news/education-14446649 【最終アクセス2011年9月20日】
27� ‘Tony�Watts� on� impartial� careers� advice� at� risk’,�Guardian,� Jan� 29,� 2008.� http://www.guardian.co.uk/
education/2008/jan/29/furthereducation.educationguardian2�【最終アクセス2011年9月20日】
28� イングランドの特にキャリア・コーディネーターをめぐる課題については、白幡の別稿(2009)において詳細を述
べている。
29� BBC�News,�9�August�2011,�Careers�service�at�risk�of�'destruction'�warning.
http://www.bbc.co.uk/news/education-14446649 【最終アクセス2011年9月20日】
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イギリス中等教育段階におけるキャリア教育・ガイダンスの課題
� This�paper�discusses� the�current� issues�encountered� in�delivering�careers�education�and�
guidance� (CEG)� in� secondary� schools� in�England�and�Scotland.�CEG� is�provided� through�a�
partnership�between� schools� and� external� services.�As� the�British�government�promotes�
curriculum�flexibility�and�personalised� learning� in�schools,�each�school�provides�CEG�in�various�
ways�according� to� its�policy,�and� its�careers�coordinators�or�careers� teachers�can� freely�use�
external�services�in�order�to�effectively�develop�and�deliver�comprehensive�CEG.
� In�policy�statements,�CEG�in�schools�can�play�the�certain�role�for�the�social�issues�of�young�
people.�In�practice,�however,�its�delivery�involves�many�complex�issues�and�difficulties.�The�type�
of�CEG�provided�varies�not�only�between�but�also�within�schools.�While�providing�CEG�tailored�
to� the�needs�of� the�students� is�beneficial,� not�all� students�have�access� to� the�same�range�of�
opportunities.�
� This� paper� compares� the�delivery� of�CEG� in�England� and�Scotland� and�describes� the�
development�of�recent�CEG�policies.�These�countries’�differences�with�respect�to�CEG�issues�are�
reflected� in�not�only�their�policies�but�also� their�different�conceptualization�of� the�partnership�
system.�This�paper�shows�that� in�both�countries,�CEG�has�been�considerably�affected�by�the�
following�recent�policies�and�social� issues:� the�changing�role�of�teachers,�curriculum�policy,�and�
reform�of� the�administrative�structure.�Consequently,� the� role�and�responsibility�of� careers�
coordinators�has�become�more�complicated.
Keywords:Careers�education,�Career�guidance,�Connexions,�Careers�Scotland
The�Issues�of�Delivering�Careers�Education�and�Guidance� in�
Secondary�Schools�in�England�and�Scotland
Maki�SHIRAHATA(Graduate�student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)