ウニ卵を用いての重金属汚染の測定 - 岡山大学学術...

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ウニ卵 を用いての重金属汚染の測定

岡山大学医学部第一生理学教室(指 導:西 田勇教授)

岸 田 昭

(昭和53年10月12日 受稿)

ウニの受精卵 は,種 々の物理化学的刺激 に対 して

極 めて敏感に反応 す る.例 えば,金 属製 のバケツで

採水 した海水中では,発 生 は進行 しない し,電 気刺

激 による採卵で,電 極に金属銅 を使用す ると発生 は

進行 しない.温 度 に対 して も,生 息温度 より低 いと

発生速度は遅 くな り, 5℃ 以下 にな ると発生 は停止

する.又,生 息温度 より高 い と発生速度は早 ま り,

30℃ を越 えると不等分割卵 が出現 し,正 常な発生 は

見 られな くな る.こ の他, pH,圧 力,及 び重金属 イ

オンの濃度の影響 も強 く受 ける.

ウニの種類は,世 界 の海 に広 く分布 し,種(speci

es)に よって成熟時 期は異 って居 るが,種 を選べば,

ほ とん ど四季 を通 じて実験材料 として使用可能 であ

る.卵 細胞 は大 きく,倍 率100倍 の顕微鏡で分裂装

置の消長が,観 察可能であ り,且 つ,発 生速度 も早

く,受 精後夏期 で24時 間,冬 期 で48時 間以内に骨格

の形成 が始 ま り,奇 形の出現を調べ ることが可能 で

ある.以 上 の様な理由か ら,最 近,海 水の汚染度 の

生物学 的測定 にウニの受精卵が用 い られ るようにな

って来 た.

瀬戸内海 は,近 年急速な産業 開発の進 められて来

た地方であ り,従 って人口の集 中 も著 しい.外 海 と

は3つ の海峡 によってのみ開口 し,海 水の拡散 も悪

く,産 業廃棄物や生活廃棄物 その他 による汚染で富

栄養化が進 み,そ の結果毎年の如 く赤潮の発生が見

られ る.又 一方,重 金属汚 染 も進行 し,各 地に銅 イ

オンを多量 に含 んだ ミドリガキの発生 が見 られ る.

この様 な瀬戸 内海 の現実 を把握 し,こ の現状に対処

すべ く1972年度 か ら中,四 国の国立大学 の一致 した

協力体制 の下 に,瀬 戸内海の汚染 と指標生物の動態

に関す る研究 が開始 された.す でに村上等(1976)20)

に よってその一部 は発表 されたよ うに,我 々は,ウ

ニの受精卵 を用 い,そ の発生に及ぼす重金属の影響

を分担 し調査 を進 めて来 た.そ の結果,重 金属 イオ

ンは,ウ ニの発生 を著 し く阻害 す る事 が明 らかにな

り,その無毒 化の方法 の開発が強 く要求 されて いる.

今回,著 者 は,生 活廃棄物 の蓄積 した汚泥(ヘ ドロ)

及び,パ ルプ工場 か らの産業廃棄物 としてのヘ ドロ

が,水 銀,カ ドミウム,銅,亜 鉛等の重 金属 を吸着

し,重 金属汚染 を軽 減 させる効果のあ ることを見 い

出 したの で,こ こに報告 する.

材料及び方法

この実験は, 1972年7月 か ら1978年8月 にかけて

岡山県玉野市渋川にあ る岡山大学理学 部附属臨海実

験所 で毎年夏期 と冬期 に行 った ものであ る.ウ ニは,

臨海実験所の周辺で採集 された ものを用 いた.夏 期

(7月8月)に は,サ ンシ ョウウニ(Temnopleurus

toreumatics)を 用 い,又,冬 期(1月, 2月, 3月)

には,パ フンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)

を用 いた.採 集 して来た ウニは,実 験所 内の水槽で

飼育 し,長 期飼育の場合 は,海 草 を飼料 として与 え

た.夏 期 には実験室の温度 を25℃ ±1℃,冬 期 には

20℃ ±1℃ に保 った恒温室 の中で実験 を行った.ウ

ニは,山 本(1949)37)の 方法 に従 い体表面 に附着 して

い るか も知れない精子を殺 す目的で,ま ず水道水 で

体表 面を洗 い,ピ ンセ ッ トで口蓋 を除去 し,発 生 の

阻害因子 を含 むと云われている体腔液 を除去 し,海

水 を満 した牛乳瓶に生殖 孔を下面 にして乗せ る. 0.5

MKC1溶 液1mlを 体腔内に注入 し,排 卵又は,排 精

を行 った.得 られ た未受精卵 は,数 回〓過海水 で自

然放置による沈澱洗滌 を行った.精 子は, 0.5MKCl

に よる放精 を認 めると直 ちにペ トリー皿 に移 し,い

わゆ るdry spermと して保存 した.実 験の順序 を述

べ ると,先 づ受精率の検定を行 う.保 存 して ある未

受精卵の沈澱 して いる瓶 を攪拌 混合 し,卵 浮遊液 を

作 る.直 径9cmの ペ トリー皿に15mlの 海水 を 入れ,

これに卵浮遊液5mlを 加 え計26m1と す る.こ れ に海

水5mlにdry sperm 1滴 を加え攪拌 し,この精子液

を2滴 滴下 し卵浮遊液 とよ く攪拌す る. 5分 後 に顕

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微鏡下(倍 率100倍)で 受精膜 の隆起 している細胞数

か ら受精率 を求 めた.受 精率や発生 の段 階の測定 は,

卵200個 を基準 として算定 した.実験 に使用す る卵 は,

常に受精率98%以 上 の もの を用いた. 1回 の実験 に

は1個 体か ら得 られた卵 を用いた.重 金属塩の発生

に及ぼす影響 を調べ るためには,組 成 の決 って いる

人 工海 水 を用 いるのが理 想 的で あるが,例 えば,

Herbest氏 人工海水 中では,受 精 や,ご く初期の卵

割は天然海水中 と差 がな く進行す るが, blastula期

か ら以後 は次第 に発 生 の進 行に遅 れが生 じ始 め,

gluteus期 まで発 生 を進行 させ る事は出来 ない.発

生段階 で最初に奇 形が出現す るのは, blastula後 期

か らpluteus期 に至 る間 であるので,や むを得ず天

然海水 を〓紙で〓過 した〓過海水を使用 することに

した.発 生 の各段階は,岡 田,宮 内(1958)31),村上等

(1976)20)の標準 図譜 を基準に して調べ た.

金属塩 は,全 て和光試薬工業社製の試薬特級 を用

いた.村 上等(1976)20)の 報告 した ように ウニ卵の発

生に対 して特 に阻害作用 の著 しい, HgCl2, CuCl2,

CdCl2,及 びZnCl2を 選ん で用いた.塩 濃度 は最終

濃度 が10-3M~10-6Mと なるよ うに〓過海水 に溶解

して用 いた. CuCl2は, 10-3Mの 濃度では白濁 を生

じているが10-5M以 下 の濃度 とな ると白濁は認 めら

れなかった.他 の金属塩は全て海水 に可溶であった.

玉野市 日比港に生活廃棄物の流入する河口があ り,

干潮時には干上 る個 所があ る.又 玉野市渋川 に も生

活廃棄物 の沈澱 した汚泥 が干潮時には干上 る個所が

ある.こ の2点 を定点 として夏期及び冬期 に汚泥 を

採集 した.夏 期には,干 潮時に多 くの カニ類が生息

している.冬 期に おいてはカキや緑藻類 が生息 し,

満潮時 にはエビや汽水 に生息す る小魚類 の遊泳が見

られ る.パ ルプ工場 の廃棄物の沈澱汚泥 は,香 川大

学農学部岡市友利助教授が毎年定点観測 して居 られ

る愛媛県伊予三島市豊浜沖の2定 点か ら採集 され た

汚泥 を恵与 して もらった物 を用いた.夏 期 に採集 し

た汚泥 を-20℃ に凍結保存 し,冬 期 に採集 した汚泥

と比較 し又冬期に採集 した汚泥 を-20℃ に凍結保存

し,夏 期 に採集 した汚泥 と比較検 討 も試 みた.

重金属塩 を汚泥に吸着 させ る実験 は,湿 った状態

の汚泥50gを ビーカーに取 り, 10-2M~10-5Mの 重金

属塩溶液50mlと 攪拌 し30分 間放置後,東 洋 〓紙No. 2

で〓過 し,その〓液 を用いて,卵浮遊液18mlに2mlの

割 で加 え,最 終濃度 が10-3M~10-5M溶 液 とな るよ

うにして用いた.ウ ニ卵の発生に及 ぼす重金属の影

響は,所 定の濃度 の重金属 を含んだ卵浮遊液 を作 り

10分 間放 置 して 加 精 し, 5分 後 に受 精 率 の 測定, 2

時 間後 に8~16細 胞 期 へ の 進 行 率 の 測 定, 8時 間後

にswimming blastulaへ の 進 行 率 の 測 定, 24時 間 後

にpluteus期 へ の 進 行 状 態 と奇 形 の有 無 を調 べ た.

冬 期 の パ フ ン ウ ニ を用 い た 実 験 で は48時 間 後 に

pluteusの 奇 形 の有 無 を調 べ た.全 て の 実 験 は ウニ

の個 体 を変 え3回 測 定 し,そ の平 均 値 と して求 め た.

又湿 状 態 の 汚 泥100gを 取 り, 100℃ の乾 燥 器 の 中

で24時 間 乾 燥 させ 水 分 含有 量 を調 べ た.又,汚 泥 の

重 金 属 吸 着 の 状 態 を調 べ るた め に,汚 泥100gを 取

り〓 過 海 水 と混 合 し攪拌 して カ ラムに つ め, 30分 放

置 後, 0.29M HgCl2, 0.20M CuCl2, 0.29M CdCl2

及 び0.26M ZnCl2の 溶 液 を250ml流 し, 10mlづ つ に

別 け る カ ラ ム ク ロマ トグ ラ フ ィー を行 い, 10ml溶 出

液 か ら0.5mlを 取 り,上 野(1972)36)の キ レー ト滴 定

法 に従 い,夫 々 の 金属 の定 量 分 析 を行 った.又,汚

泥1g当 り幾mgの 重 金 属 を吸 着 す る能 力 が あ る か を

調 べ る 目的 で 汚泥50gを 取 り, 0.2~0.3Mの 重 金 属

溶 液50mlと 攪 拌 放 置 し, 30分 後 に 〓過 して 〓液 を取

り,〓 液 中 に 含 ま れ る重 金 属 を定 量分 析 して,吸 着

した重 金 属 の 重量 を求 め た.

実 験 成 績

重 金 属塩 が ウ ニ卵 の発 生 を完 全 に 阻害 す る濃 度 閾

値 は, Hgで10-6M, Cuで10-5Mで あ る. Cdはblas

tula期 ま で は10-4Mの 濃 度 で も発 生 は正 常 海 水 中 と

差 が な く進 行 す るが, blastula期 か らswimming

blastulaに な り,更 にpluteus期 へ と進 行 し骨 格 の

形 成 期 に な る と,こ こで 発 生 の 阻 害 が生 じ,こ の 濃

度 閾 値 は10-5Mで あ る. Znは10-5Mで あ る事,及 び,

サ ン シ ョウ ウニ とパ フ ン ウ ニの 間 に は,重 金 属 に よ

る発 生 阻 害 の濃 度 閾値 に差 が 認 め られ な い事 等 は,

村 上 ら(1976)20)に よ って す で に 報告 した.今,汚 泥

と所 定 の 濃度 の重 金 属 塩 と混 合 攪拌 し〓過 し た〓 液

を作 用 させ て,ウ ニ卵 の 発 生 に 及 ぼ す影 響 を調 べ,

1976年 の3月,玉 野 市 日比 及 び玉 野市 渋 川 で採 集 し

た汚 泥 を用 い た場 合 の結 果 を表1,表2に 示 し た.

汚 泥 の 〓液 そ の もの は表 に示 して あ るよ うに全 く影

響 が な い こ とが判 る. Hgの 場 合,発 生 阻害 の 閾 値 濃

度 が10-6Mで あ っ た もの が,汚 泥 処 理 す る こ とに よ

り10-4Mの 濃 度 で全 く影 響 が 無 くな って い る. 10-3M

の濃 度 に お い て も8細 胞 ま では,正 常 と差 が な く進

行 す るが,次 第 に発 生 の遅 延 が 生 じ始 め,受 精 させ

て8時 間 後 のswimming blastula期 に な る と,汚 泥

処 理 の 卵 は 未 だ桑 実 期 に止 って い る.そ して48時 間

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ウニ卵 を用 いての重金属 汚染 の測定 185

後 のpluteus期 で調べ ると,発 生 の遅れ は更 に著 し

くな り, prism型 幼生 にまで しか進行 していない.し

か も腸 管が外部 に露 出した外腸胚が8%認 め られた.

Cuの 場合, 10-5Mが 発生阻害 の閾値濃度で あったの

が, 10-3Mの 濃度 で も全 く影響 が無 くなって お り,

汚泥 がCuイ オンを吸着 してい ることが判 る. Cdは

10-5Mが10-4Mに 改良 され, Znは 汚泥処理 による発

生阻害の軽減作用 をほとん ど受 けていない. 1976年

8月 に調べた結果 を表3に 示す. Hgの 場合, 10-6M

が10-Mに, Cuは10-5Mが10-3Mに, Cdは10-5Mが

10-2Mに, Znは 冬期 に調 べた ものと同 じく改善 が認

め られない.冬 期及 び夏期 に共通 してZnは10-3Mの

濃度では精子の運動 が停止 して居 り,受 精 その もの

を阻害 してい る.冬 期 に採集 した汚泥 を-20℃ で凍

結保存 し,夏 期に採集 した新鮮な汚泥 と重金属吸着

度 の活性度 を比較 して見 ると表4に 示 すよ うな結果

を得 た.こ の実験 は1977年 度 に行 った ものである.

Hgの 場合, 10-6Mで あった閾値濃度 が10-4Mに 改善

されている点は同 じであ るが, 10-3Mと なると夏期

に採集 した新鮮な汚 泥で処理 した場合, 24時間後幼

生 の運動は緩慢であ るがpluteus期 にまで進行 して

い るのに対 し,冬 期 に採集 し,保 存 していた汚泥で

処理 した場合には,受 精 率の阻害 と発生の進行の阻

害 が強 く現れて居 り,汚 泥による発生阻害の軽減作

用が劣 って いることが判 る.同 様 の現 象は, Cu及 び

Cdで も認め られた. Znの 場合, 1976年 度 の夏の結

果 では10-4Mで 発生の阻害が現 れていたのが1977年

度 においては, swimming blustola期 までは正常海

水 中 と差 が無 く進行 している.し か しpluteus期 に

な ると発生の阻害が現 れて来て いることが判 り,汚

泥を採集す る年度によ る阻害作用の軽減度 に差 を生

じている.

愛媛県伊予三島市豊浜沖 で1977年8月 に採集 した

パルプ工場の産業廃棄物 の蓄積沈澱 している汚泥 を

-20℃ で凍結保存 し1978年3月 及び1978年7月 に融

解 して,前 述 と同様 の方法 で重金属塩 と混合 〓過 し,

その〓液 について,ウ ニ卵 の発生阻害作 用に及 ぼす

効果 を調べ た. 1978年3月 のパ フンウニは,正 常海

水 中で受精 させた場合,受 精率 は, 100%に 近 い値

が得 られ たに もかかわ らず,以 後の卵割 が不等分裂

を くり返 した り,或 は発生 の進行が,他 の年 と比べ

ると著 し く遅延が生 じた.同 様の結果は, 1975年 の

2月 に調べ た時 も現れた.異 常寒波の襲来 のため,

一時 的にウニの成体が寒波 に暴露 されたために起 る

現象 であるのか否か,原 因は未だ不明であ る. 1978

Table 1. Hemicentrotus eggs. March 1976.

at 21•Ž.

Table 1. Comparison of the early development

of sea urchin eggs in natural sea water and in filtrate of slag suspension in natural sea water (1:1, weight per volume).

f. m.: fertility counted as elevated fertilization membrane (%) 5min after

insemination.8-cell: 8 cell stage (%), 2 hours after

insemination.s. b.: swimming blastula stage(%), 8 hours

after insemination.

pluteus: observed 24 hours after insemination.

年7月 に サ ン シ ョウウ ニ を用 いて 行 った実 験 成 績 を

表5に 示 す.工 場 の排 水 口か ら最 も近 い港 内 で採 集

した汚 泥 は,生 活 廃棄 物 の沈 澱 して い る汚 泥 と同 じ

く黒 色 で異 臭 を放 って い る.湾 内 で は あ る が,工 場

か ら沖 に約1㎞ 離 れ た定 点 か ら採 集 した汚 泥 は灰 白

色 の沈 澱 物 で あ り,異 臭 は著 し くは な い。 こ の両 者

に つ い て調 べ た と ころ,表5に 示 す よう に,港 内 の

汚 泥 に関 して は,表2, 3, 4に 示 した よ うにHgで

10-6Mの 閾 値 濃 度 が10-4Mに ま で改 善 され て い る.そ

して, 10-3Mに お い て も, swimming blastulaま で

は発 生 が 正 常 海 水 中 と同様 に進 行 す るが,以 後 の発

生 が停 止 し,い わ ゆ るpermanent blastulaが 出

現 す る.こ れ はCdCl2の10-5M以 上 の濃 度 に 曝 し た

時 に現 れ る現 象 と同様 で あ り,骨 格 の 形成 が 阻害 さ

れ て い る もの と考 え られ る. Cuの 場 合, 10-5Mが

10-4Mと 改 善 され て い る.受 精 後24時 間 で正 常 海 水

中 で はpluteus期 に な って い る の に対 し, CuCl2の

10-3Mに お いて はHgCl2の 場 合 と同 様permanent

blastula期 で止 って い る. Cdに 関 して は, 10-4Mで

permanent blastulaが 出 現 し,汚 泥 処 理 効果 が 認 め

られ な い.こ れ に反 し,今 まで, Znに 関 して は汚 泥

処 理 効 果 が現 れ な か った の に対 し, 10-4Mで も正 常

海 水 中 と同 様 に 発 生 が 進 行 した.又, 10-3Mで 精 子

の運 動 の停 止 が 認 め られ て い た の が,港 内 の 汚 泥 で

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188 岸 田 昭

Table 5. Reduction effect of heavy metal inhibition on developing sea urchin eggs . Slag was

obtained from industrial effluents (paper mill), in August 1977 and kept at -20•Ž until

July 1978.

Table 6. Reduction effects of heavy metal inhibition on developing sea urchin eggs. Slag was

obtained from the bottom of a 1Km offing from a paper mill in August 1977 and kept at

-20•Ž until July 1978.

処 理 す る こ とに よ り,受 精 は正 常 に行 わ れ るよ うに

な り,か つ,発 生 もswimming blastula期 ま で は

正 常 に進 行 す る よ うにな った.し か し,受 精 後24時

間 で はpermanent blastula期 に止 り,後 の発 生 は

進 行 しな い.工 場 よ り約1㎞ 沖 で採 集 し た汚 泥 につ

いて は,表6に 示 す よ うに, Hgに 対 して は全 く無 効

で あ り, Cuで は10-5Mが10-4Mへ と改 善 され て い る.

しか し, Znに つ いて は 全 く無効 で あ った.

正 常海 水 中 で発 生 を進 行 させ た場 合 のpluteus期

の 幼 生 と, Hgを 港 内 の汚 泥 で 処 理 し10-3Mでper

manent blastulaで 発 生 の 停止 して い る状 態 を 示 す

と写 真 の よ うに な る. swimming blastulaとper

manent blastulaを 比 較 す る と, permanent bla

stulaは 運動 が緩 慢 で あ り,且 つ 一 方 向へ の回 転 運 動

を して い る場 合 が多 い.時 と して 巨大 なblastulaの

現 れ る場 合 もあ る.

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ウ ニ 卵 を 用 い て の 重 金 属 汚 染 の 測 定 1 8 9

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190 岸 田 昭

1976年3月 及び8月 に玉野市 日比港に注 ぐ河 口の

定点 で採集 した生活 廃棄物 の沈澱 した汚泥 を100℃

で24時 間乾燥 させ水分含有量 を調べた ところ,夫 々

49.9%及 び48.8%で あった.又, 1977年8月 に採集

した工業廃棄物の沈澱 した汚泥 につ いては,伊 予三

島市 の港内 は49.6%,沖 の定点 で37.2%の 水分 含有

率を示 した.

1976年3月 及 び8月 に玉野市 日比港 に注 ぐ河 口の

定点で採集 した汚泥 でカラムを作 り, Hg, Cu, Cd,

及 びZnの 吸着 をカラムクロマ トグラフ ィーで測定

した結 果を図1-8に 示す. Hg, Cd,及 びZnは 最初

か ら溶媒(〓 過海水)に 溶か した重金属 の濃度の約

20%の 濃度の重金属 が検出 されてい る.吸 着曲線か

らもわか るように,汚 泥 は,重 金属を良 く吸着す る

能力の あることがわかる. Cuは,吸 着度 が大 きいよ

うに見 られ るが, 0.2Mの 溶液 は白濁 を生 じて居 り,

カラム中 に沈澱 して吸着 されたため と思 われ る.次

に1976年3月 に 日比港に注 ぐ河 口の定点で採集 した

汚泥1gが 各金属 を幾mg吸 着す る能力があるか を調

べた結果 を図9に 示す.汚 泥50gと0.2M~0.3Mの

各重 金属溶液100mlを 混合攪拌 し, 30分放置後 〓紙

Fig. 1. Column chromatogram of HgCl2 solution

on slag column (100g). Slag was obtained from Hibi-harbor in March 1976.Solvent: 0.29M HgCl2. Fraction volume 10ml. Detection: chelate titration. Ordinate: saturation as 0.29M=100%.

Fig. 2. Elution pattern of HgCl2 solution from

slag column. Slag was obtained from Hibi

harbor in August 1976. Eluted with 0.29M

HgCl2 in 10ml fraction and detected by

chelate titration method. Ordinate same

as Fig. 1.

Fig-3. Column chromatography of CuCl2 on

slag column, eluted with 0.2M CuCl2.

Slag was obtained in March 1976.

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ウニ卵を用いての重金属汚染 の測定 191

Fig. 4. Same as Fig. 3. Slag was obtained in

August 1976.

Fig. 5. The elution profile of the slag chro

matography of CdCl2, eluted with 0.29M

CdCl2. 10ml fraction were collected. Cd

was analyzed bye chelate titration method.

Slag was obtained in March 1976 from

Hibi-harbor.

Fig. 6. Slag was obtained in August 1976.

Others are the same as Fig. 5.

Fig. 7. The elution profile on the slag column

of ZnCl2, eluted with 0.26M ZnCl2. Slag

was obtained from Hibi-harbor in March

1976.

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192 岸 田 昭

Fig. 8. Slag was obtained in August 1976.

Others are the same as Fig. 7.

Fig. 9. Absorption rate of heavy metals by slag . Ordinate indicates absorbed metals (mg)

per slag (g)

で 〓過 し,〓 液中の重 金属 を定量分析 し,吸 着mg数

を求 めた ものである.い ずれの場合 も高濃度 の溶液

を用いた時,吸 着mg数 も大 となって いる.

考 察

近年重金属汚染 に より,急 性或は慢性 の中毒事件

が発生 し,重 金属処理 の問題は世界 的に注 目を浴び

る よ うに な って来 た.そ して,こ の 重 金 属汚 染 の生

物 学 的検 定法 に つ い て多 くの試 み が な され て い る.

例 えば,培 養 細 胞 を 用 い る 方 法 につ いて は 黒 田 ら

(1976)17),稲 本 ら(1976)7)が あ る.種 々 の 海産 動 物,

エ ビ,カ ニ,カ キ等 を用 い,鰓 や 他 の組 織 へ の 吸収,

酸 素 消 費,或 は50%致 死 濃 度 等 に つ い て はBryan

(1971)2),赤 血 球 に つ い て はManiloffら(1970)18)等

の 報 告 が あ る.一 方, Heilbrunnら(1957)5)が ウ ニ

卵 や ゴ カ イ類 の卵 は人 工 受 精 させ る と同 調分 裂 を く

り返 して発 生 が進 行 す る事 か ら,生 物 学 的活 性 物 質

の 検 定 に 人工 受 精 させ た卵 細 胞 が 最 も適 した材 料 で

あ る と報 告 して以 来,多 くの 研 究者 が卵 細 胞 を利 用

す るよ うにな っ た.し か し,未 だ その 検 定法 が統 一

され て い るわ けで は な い.

重 金 属 塩 は生 体 に入 り,ア ミノ基,カ ル ボ キ シー

ル基,ペ プ タイ ドのO基, N基, OH基,或 は-SH

基 と結 合 し,種 々の 作 用 を現 わす よ うに な る と考 え

られ るが,生 体 内 に も微 量 は常 に含 まれ て 居 り,特 に

Znは, OtsukaとIbata (1968)32), IbataとOtsuka

(1968)6), Otsuka等(1975)33)に よ る と,ラ ッ トの脳 の

海 馬 領域 に多 量.に含 まれ て い る こ とを報 告 して い る.

又, 65Znを 腹 腔 内 に 与 え ると海 馬 の 苔 状 線維 終 末 に

特 異 的 に と りこま れ る と述 べ て い る. Danscher等

(1975, 1976)3,4)は,ラ ッ トの 海 馬 領域,特 に扁 桃

体 に乾 燥 重 量 当 りZnは 約1000ppm, Cuは 約25ppm,

Pbも 約20ppm含 まれ て い る と報 告 して い る.又,

MorisawaとMori (1972)9)に よれ ば, Znは 精 子

の尾 部 と中 間 部 に, Cuは 中間 部 にの み と り込 まれ,

FeとZnは 尾 部 の 微 小 管 蛋 白 と結 合 す る と 云 う.

AltmanとDittmer編 のBiology data book

(1974)1)に よれ ば,ヒ トの 血 中 にHg: 0.5μg/100ml,

Cu: 89-98μg/100ml, Cd: 0.5~0.85μg/100ml,

Zn: 50g-660μg/100mlは,正 常 状 態 で 存 在 して い る

こ と を示 して い る.一 方,生 体 に重 金 属 塩 を作 用 さ

せ て の 影響 に つ いて の 報 告 は移 しい. Merck Index

(1968)34)に よ る と, HgCl2は ラ ッ トを用 い,経 口投

与 でLD50が37mg/kg, CdCl2は 同 じく88mg/kg, Zn

Cl2は 静 脈 内 注 射 で75mg/kgと 記 され て い る.今 回

の実 験 に関 連 した報 告 として は,椙 山(1950)34)はCu

存在 下 で ウ ニ卵 の 受精 を行 うと,受 精膜 の 隆起 が抑

制 され多 精 現 象 が生 じ,そ の ため 分 裂 は正 常 に進 行

しな くな ると云 う報 告 をしている.又, Bryan (1971)2),

Thrascher (1973)35),等は 多 くの海 産 動 物 は10~100

ppmのCuイ オ ン溶 液 中で は2時 間 以 内 に死 滅 し,ウ

ニ卵 の発 生 はZnの0.06ppmの 濃度 でpluteus期 に25

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ウニ卵 を用いての重金属汚染の測定 193

%も の奇 形 を生 じ る. Cuは0.01ppm以 上 の濃 度 で ウ

ニ の幼 生 の生 長 を抑 制 し,魚 類 はCuで0 .002ppm,

Znで0.003ppmの 濃 度 を探 知 し,逃 走 す る等 が 明 ら

か とな っ て い る.

水 質 汚 濁 の面 か ら,ウ ニ卵 の発 生 に及 ぼ す 重 金 属

の 影 響 に 関 す る報 告 と して は, 1972年 か らの 西 田

(1972)21),西 田,村 上(1973)22),西 田,村 上(1974)23),

西 田,村 上(1975)24),西 田,村 上(1976)25)村 上 等

(1976)20)西 田,村 上,岸 田(1977)26),沢 田(1972)27)

が あ る.こ れ らに よ る と,重 金 属 は塩 化 物,酢 酸塩

に よ る差 は な く,ウ ニの 発 生 阻害 作 用 の 大 きな重 金

属 は, Hg, Cu, Cd, Cr, Ni, Znが 上 げ られ る.そ

して,単 独 で作 用 させ た場 合 と2つ の 重 金 属 を 複合

して作 用 させ た場 合 と を比較 す る と, 2種 の重 金 属

を複合 して作 用 させ た場 合 の方 が,発 生 の 阻害 作 用

は 増加 され る.そ して,奇 形 の 出現 率 も高 くな る.

Hgに 関 して は, Cu, Cd,及 びZnを 共 存 させ た と き

阻 害作 用 が最 も強 く現 れ る. Cuに 関 して は, Cdと

共 存 させ た場 合. Cdに 関 して は, Zn, CrとNiと 共

存 させ た場 合.そ して, ZnとNiの 共 存 して い る場 合

に 最 も強 く発 生 の 阻 害 作 用 が 現 れ る.こ れ らの内

Hg, Cu, Cd, Znの 組合 せが阻害作用,或 は奇形の

出現率 が高 く現 れ る.先 の報告村上等(1976)20)に

も述べ たよ うに汚泥 を海水 と混合攪拌 し,そ の〓液

にCdを 加 える と, Cd単 独 の場 合, permanent

blastulaで 発生が停止す るCdの 濃度において も発

生は進行 し,骨 格 形成 が見 られ ると云 う.今 回の著

者の実験 では,汚 泥 と重 金属塩溶液 とを混合攪拌 し,

その〓液 を用い ると,こ の発生阻害の軽減作用が更

に著 しく現 れ ることがわか った.こ の 原 因につい

ては種 々の ことが考 えられ る.汚 泥は固形物が約50

%で あ り,こ の中には粒状の砂 もあるであろ うが,

黒色で異臭 を放っていることか ら種 々の微生物 の生

息が考 えられ,こ の微生物 への吸着,異 臭の原 因 と

して硫化物,特 にH2Sガ ス,或 は-SH, -COOH,炭

化 された微粒子へ の吸着.多 孔質化 され た微粒子へ

の吸着等が考 えられ る.パ ルプ工場 の産業廃棄物 に

ついて も,パ ルプ工場が必要 に しているのは,木 材

中のパルプ即 ちセル ローズであ って,水,ア ルカ リ,

酸処理等 によって可溶性物質 とな る糖類,脂 質類,

蛋白質や核酸等 は,廃 棄物 として処理 されてい る.

これ らが沈澱 し,腐 敗が進行すれば,微 生物の増殖,

H2Sガ スの発生等が起 る.従 って,こ の汚泥に重金

属が吸着 され る もの と考 えられ る.玉 野市 日比及 び

渋川 の生活廃棄物の汚泥 と伊予三 島布 のパルプ工場

廃棄物の汚泥の重金属吸着程度 の生物学的検定 を比

較す ると, Hg, Cu, Cdで は同一結果 が得 られてい る.

Znは,パ ルプ工場 の廃棄物汚泥の方が良 く吸着 して

いた.こ の差は;玉 野市 には三井金属 日比精錬所が

あ り, Cuの 精錬 を行 って居 り,廃 液中にZnが 含 ま

れて いることも考 えられ る.又,パ ルプ工場か ら1

km離 れた沖の汚泥 は重金属の吸着作用 が低いことは,

海流 によって汚泥 中の微生物や有機物が流出 したた

めや,今 迄沈 澱物 として存在 していた巨大分子が,

腐敗が進行 して低分子 とな り,海 水中 に溶出 したた

め等が考 えられる.

今回の実験 で,ウ ニ卵の発生 を指標 として,海 水

の重金属汚染 の程度 を生物学的 な検定法で知 る こと

が出来 ることが判 ったのであるが,重 金属塩 を廃棄

物 として放出 してい る周辺 の汚泥は,重 金属 を高濃

度に吸着 しているこ.とが考 えられ,そ の処理 には充

分注意 しなければな らない と思われ る.又,新 たに

工場 を建設す る場合,パ ル プ工場 と重金属鉱業所 を

同一箇所に作 り廃液 を混合 し,汚 泥処理 を充分 に行

えば,海 水の汚染 を防 ぐことが可能 とな るか も知 れ

ない.

重金属以外 の海水汚濁を生物学的に検定 する方法

としては,沢 田(1975)27) SawadaとOhtsu (1975

a, b)28, 29),小林(1970)8), Kobayashi (1971)9),小林

(1972)10),小林(1973)11), Kobayashi (1974)12),小林

(1974)13)小林(1975)l4),小林,藤 永(1976)15),等の報

告が ある.い ずれ もウニ卵 や貝の卵 を利用 した方法

である.し か し,受 精率の測定一 つについて も,卵

細胞数や精子濃度 を如何に して一 定に保つか,そ し

て,発 生 を進行 させ る温度 を一定 に保つ必要 がある

か否か,発 生 を進行 させ る容器及 び容量等 を規定す

る必要 があるか否か等必 ず しも一定条件 で行 われ て

はいない,早 急に,関 連研究者の意見の統一 が望 ま

れ るゆ えんである.

結 論

パ フンウニ及 びサ ンショウウニの卵を用い,重 金

属汚染の生物学的測定を行 った.生 活廃棄物 やパル

プ工場の廃棄物の沈澱 している汚泥 と,重 金属塩溶

液 を混合攪拌 することに より,重 金属に よるウニ卵

の発生の阻害作用 を軽減 させ るこ との出来 ることが

判明 した.

HgCl2は, 10-6Mが 発生を完全 に阻止す る閾値濃

度 であったものが,汚 泥処理 をす ることに より10-4M

まで軽減 させ ることが出来,奇 形の出現 も見 られな

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194 岸 田 昭

くな っ た.

CuC12は, 10-5Mが 閾 値 濃度 で あった もの が, 10-4M

に軽 減 させ る こと が出 来 た.

CdCl2は, blastula以 後 骨 格 形成 を阻 害 す る閾 値

濃 度 が10-5Mで あ っ たの を汚 泥 処 理 す る こと に よ り

10-4Mに 軽 減 出来 た.

ZnCleに 関 して は,閾 値 濃 度 が10-5Mで あ っ たの

が 日比 港 の 汚 泥 で は 軽 減作 用 は わず か で あ っ た が,

パ ル プ工 場 の廃 棄 物 の 沈 澱 した汚 泥 で は10-4Mに 軽

減 され た.

稿 を終 わるに当 た り,終 始御 懇篤な る御 指導 と御校 閲

を賜 った西 田勇教授 並びに村上 哲英助教授 に深 く感 謝致

します.

な お,こ の研究 を行 うに 当 り,昭 和50年 度文部省特 定

研究(1),課 題番 号, 012014,藤 山班,昭 和51年 度文

部省特定研 究(1),課 題番 号, 111317,藤 山班,並 び

に昭和52年 度 文部省特 定研究(1),課 題番号, 210517,

橋本班,の 援 助 を受 けた.こ こに記 して感 謝の意 を表 わ

す.

文 献

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196 岸 田 昭

Bioassay by sea urchin eggs for heavy metal pollution

Akira KISIDA

Department of Physiology, Okayama University Medical School

(Director: Prof. I.Nisida)

The effects of HgCl2, CuCl2,CdCl2 and ZnCl2 on the fertilization, cell division and pluteus

formation of eggs from the sea urchins, Hemicentrotus purcherrimus and Temnopleurus toreu

matics, were studied. Inhibition of the development of sea urchin eggs by these heavy metals

was ameliorized by slag from both paper manufacturing effluent and the ended at the river mouth.

The development of sea urchin eggs was completely inhibited by HgCl2 at 10-6M. A con

centration of 10-4M was needed for this inhibitory effect after HgCl2 had been mixed with

slag. Abnormalities of larvae were not observed with a concentration of 10-4M.

The critical concentration of CuCl2 was 10-5M. This dose to 10-4M after treatment

with slag.

CdCl2 caused complete inhibition of spicule formation at 10-5M, resulting in the for

mation of permanent blastulae. A concentration of 10-4M was needed to obtain the same

effects after slag treatment.

The critical concentration of ZnCl2 was 10-5M. The same effect was obtained with this

concentration even after the addition of-slag from river mouth slag, whereas after the addition

of paper mill effluent, a concentration of 10-4M was needed.