6.植食動物の有効利用 6.1 ウニの有効利用...6.1 ウニの有効利用...

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6.植食動物の有効利用 ここでは、磯焼け対策で除去される植食動物の有効利用の方法について解説する。 6.1 ウニの有効利用 E1で除去されるウニは、食用ウニの場合は「深浅移植」または「肥育」による身入り の改善を、非食用ウニの場合は「肥料」や「餌料」などの有効利用を検討する。 【解説】 食用のエゾバフンウニやキタムラサキウニ などは、除去したとしても「深浅移植」、また は「肥育」によって身入り改善を行うことが多 い。一方、非食用のガンガゼ(※一部の地域で は食用とされている)やナガウニは、水中で潰 すか、廃棄処分されることが多い。しかし、処 分費等の削減や創意工夫で有効に利用される ことが望ましい。 1)深浅移植 除去された身入りの悪いウニ(図 6-1)を沖側(深所)から岸側(浅所)の藻場へ移植し、 海藻を食べさせて身が肥ったところで再び採り上げる行為が古くから各地で盛んに行われ ている。移植にあたっては、移植先の藻場が磯焼けにならないように、移植する量と必要 な餌料海藻の量(技術ノート6-1)を考慮するとともに、身入り改善後にはすべて漁獲する。 2)肥育 除去された身入りの悪いウニを、特定の場所で給餌することにより、身入りを改善させ る技術である。肥育を行う場所や施設として、漁港内に小規模なカゴを設置して行う場合 (コラム 6-1)や平磯を粗放的に利用する例(コラム 6-2)がある。肥育用の餌料には、海 藻のほか、高タンパクの魚肉が利用される場合が多い。ただし、魚肉などを与えると、生 殖巣が急速に発達する反面、味が悪くなるため、出荷前にコンブなどを与え、生殖巣の味 を良くする工夫がされている。肥育に必要なコンブの量は、技術ノート 6-1 を参考にする。 3)餌料 ガンガゼはイシダイ用の釣り餌として利用されているので、魚類餌料として期待される。 実際に、ガンガゼを殻ごとローラーにかけてすり潰し、養殖魚用のペレット餌料に添加す る試みがあり、市販の餌料と同等の成長効果があることが示されている(コラム 6-3)。 図 6-1 身入りの悪いウニ - 154 -

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Page 1: 6.植食動物の有効利用 6.1 ウニの有効利用...6.1 ウニの有効利用 E1で除去されるウニは、食用ウニの場合は「深浅移植」または「肥育」による身入り

6.植食動物の有効利用

ここでは、磯焼け対策で除去される植食動物の有効利用の方法について解説する。

6.1 ウニの有効利用

E1で除去されるウニは、食用ウニの場合は「深浅移植」または「肥育」による身入り

の改善を、非食用ウニの場合は「肥料」や「餌料」などの有効利用を検討する。

【解説】

食用のエゾバフンウニやキタムラサキウニ

などは、除去したとしても「深浅移植」、また

は「肥育」によって身入り改善を行うことが多

い。一方、非食用のガンガゼ(※一部の地域で

は食用とされている)やナガウニは、水中で潰

すか、廃棄処分されることが多い。しかし、処

分費等の削減や創意工夫で有効に利用される

ことが望ましい。

1)深浅移植

除去された身入りの悪いウニ(図 6-1)を沖側(深所)から岸側(浅所)の藻場へ移植し、

海藻を食べさせて身が肥ったところで再び採り上げる行為が古くから各地で盛んに行われ

ている。移植にあたっては、移植先の藻場が磯焼けにならないように、移植する量と必要

な餌料海藻の量(技術ノート 6-1)を考慮するとともに、身入り改善後にはすべて漁獲する。

2)肥育

除去された身入りの悪いウニを、特定の場所で給餌することにより、身入りを改善させ

る技術である。肥育を行う場所や施設として、漁港内に小規模なカゴを設置して行う場合

(コラム 6-1)や平磯を粗放的に利用する例(コラム 6-2)がある。肥育用の餌料には、海

藻のほか、高タンパクの魚肉が利用される場合が多い。ただし、魚肉などを与えると、生

殖巣が急速に発達する反面、味が悪くなるため、出荷前にコンブなどを与え、生殖巣の味

を良くする工夫がされている。肥育に必要なコンブの量は、技術ノート 6-1を参考にする。

3)餌料

ガンガゼはイシダイ用の釣り餌として利用されているので、魚類餌料として期待される。

実際に、ガンガゼを殻ごとローラーにかけてすり潰し、養殖魚用のペレット餌料に添加す

る試みがあり、市販の餌料と同等の成長効果があることが示されている(コラム 6-3)。

図 6-1 身入りの悪いウニ

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4)堆肥・肥料

身入りの悪いウニでも、ウニ殻には

窒素やリン、マグネシウムなどの植物

の生長に必要な栄養素が多く含まれ

ている。ウニ殻は、昔から沿岸の畑や

果樹園などで肥料や土壌改良材とし

て利用されている。堆肥とは、家畜ふ

ん尿、米ぬか、魚カス、家庭生ゴミ

などを堆積し、これを好気性微生物

(空気のある状態で活動する微生

物)によって分解させたものを指す。

肥料取締法では、ウニ堆肥の場合は特

殊肥料として扱われる。

ウニ堆肥は、牛ふん堆肥に比べて、

窒素、カリが少なく、代わりに苦土(マ

グネシウム)や粗灰分(ミネラル分)が多い。また、殻を含むので石灰も多く、透水性、

通気性の土壌改良効果が期待できる(図 6-2)。

ウニは腐敗が早く強烈な悪臭を放ちやすいので、堆肥化するにあたっては、腐葉土と混

和させて臭いを抑えるとよい。ただし、腐葉土の代わりに炭素の多いわら、米ぬかなどを

使い過ぎると、土壌にすき込んだ際に窒素飢餓になりやすいので注意する。ウニの堆肥化

の作業の流れは図 6-3のとおりである。

①真水で塩分除去

(5分間ほど浸漬)

②ウニと腐葉土を交互に

堆積させて混和させる

(割合は 1:1)

③雨水の浸入防止と保

温のためシートで覆う

④適宜、切り返しを行い

土の中に空気を入れる

図 6-3 ウニ肥料の作成手順

堆肥の腐熟度は、色が黒褐色から黒色、棘が抜けて中身の形状が認められない、殻が脆

い、堆肥臭(土のような臭い)がすることで判断する。堆肥となるまでには、気温が関係

するが、およそ 2 か月から 6 か月を要する。

ウニ堆肥は、単独で利用するのではなく、牛糞や鶏糞、あるいは化学肥料と混合し、互

いの成分を補うように施用することが望ましい。

図 6-2 肥料成分レーダーチャート

0%

50%

100%

150%

200%

250%pH

窒素全量

りん酸全量

加里全量苦土

炭素窒素比

粗灰分

乳用牛糞 ウニ

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【技術ノート 6-1】キタムラサキウニの身入り改善に必要なコンブ餌料の算定方法

ウニの身入り改善を目的とした給餌量は、水温、ウニのサイズと量(個体数)によって、概

ね計算することができる。

○必要給餌量の計算例

【算定式】

給餌量(g)=ウニ重量(g)×個体数(個)×日間摂餌率×給餌日数(日)

【計算条件】

キタムラサキウニ:殻径 50 ㎜、重量 65g、10,000 個体(10 個㎡、30m四方)

日間摂餌率:5%

給餌期間:100 日

給餌量(g)=65×9,000×0.05×100=2,925,000g=2.93t

ゆえに、1日当り約 29kg のコンブが必要となる。

○日間摂餌率

町口(1997)は、キタムラサキウニのコン

ブの摂餌量について、体重 3~45g のウニ

を用いた飼育実験から、水温 2~26℃の範

囲で体重の 2~30%の値を得ている。体重

当たりの摂餌率は、小型の個体ほど高い値

を示し、水温が 2~22℃度の範囲では水温

が高いほど高い値を示すが、それ以上では

低下する(図 1)。このことは、ウニの海

藻に対する摂餌圧は、単位面積当たりのウ

ニのバイオマス(生物量)が同じでも、小

型個体が高密度に生息しているほど高く、

春から夏にかけての水温上昇期に摂食圧

が高まることを示している。また、キタム

ラサキウニは、他の海藻と比べて 3 倍以上

コンブを好んで食べている(表 1)。

以上の結果から、日間摂餌率は、ウニのサイズや水温、エサとする海藻種によって大きく異

なることがわかる。

町口(1997):磯焼けに及ぼす棘皮動物の餌料海藻摂餌選択性と摂餌圧の影響,磯焼け発生機

構の解明と予測技術の開発,農林水産技術会議事務局,研究成果 317,49-59.

図 1 キタムラサキウニの海藻摂餌率と

水温との関係

表 1 キタムラサキウニの海藻種別日間摂餌率

0

5

10

15

20

25

30

35

0 10 20 30

水温(℃)

摂餌率(%

・日)

45g

10g

3g

水温

ナガコンブ

(褐藻)

アナメ

(褐藻)

アナアオサ

(緑藻)

アカバ

(紅藻)

3℃ 0.99% 0.38% 0.27% 0.13%

14℃ 4.45% 1.56% 1.26% 0.10%

殻径 50-56mm、体重 55-85g

重量別摂餌率(%・日)

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【コラム 6-1】カゴを用いたウニの肥育事例

北海道せたな町では、キタムラサキウニのカゴ養殖(畜養)を実施している。1992 年頃に

キタムラサキウニの単価が下落したため、価格の向上を見込み、ウニの流通量が少ない 5 月の

連休前後に出荷する体制を整備した。1998 年まで試行錯誤を繰り返し、1999 年からカゴ養殖

を開始した。

カゴ養殖に使用するカゴは、長さ 300 ㎝、直径 60 ㎝の円柱形状で、ウニや餌料を容易に出

し入れできる蓋が付いている(図 1)。カゴ内部は、50 ㎝間隔で 6 個のマスに仕切られ、各マ

スにウニを収容して定期的に給餌を行っている。給餌は、時期によって餌料を変え、10~2 月

中旬まではホッケ、2 月以降は乾燥コンブや近隣の養殖コンブを与えて味を調えている。

この取り組みにより、需要が大きい 5 月の連休中に、高価格で出荷することができた。また、

海象条件が悪化して出漁できない場合でも、安定したウニの出荷ができるようになった。

図 1 カゴ養殖用篭

表 1 時期別の給餌状況

伊勢(2008):篭による蓄養,磯焼けを起こすウニ(藤田ら編),成山堂書店,200-204.

10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月

360個ホッケ 3kg/3日

(1日1個あたり約3g)

乾燥コンブ3kg/週

(1日1個あたり約1.2g)

生コンブ15kg/週

(1日1個あたり約6g)

収容数/篭給 餌 状 況

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【コラム 6-2】増殖溝を利用したウニ肥育事例

岩手県洋野町種市宿戸地区には、生産性が低い干出する平磯を掘削して溝を整備したウニ・

アワビ対象の大規模増殖場(増殖溝方式)がある。溝(底辺部の幅 4.0m深さ 0.6~0.9m)

には、波のエネルギーで海水流動を起こさせる構造になっている。この増殖溝は、徹底した共

同管理のもと、ウニの肥育場として利用されている。

利用方法は、人工種苗された稚ウニを増殖場の沖合(水深 10m 以深)に放流し、漁獲サイズ

に達したら潜水採捕して増殖溝へ移植する。半年後に、移植ウニは豊富な海藻を食べて身入

り・色合いが向上し、老若男女の組合員総出で、全数が漁獲され出荷されている(図 1)。

図 1 増殖溝を利用したウニの肥育

(磯焼けシンポジウム「ウニを獲って藻場を回復しよう」 藤原氏発表資料から作成)

久慈良助(2008):海と共に 宿戸漁業協同組合 55 年の歩み.

増殖溝

側面に生える

豊富な海藻

コンブ用ブロック

ウニ用ブロック

増殖溝

増殖溝での漁獲風景

干出した場所での漁獲風景

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【コラム 6-3】★ガンガゼを利用した養殖用餌料

鹿児島県では、ガンガゼの有効利用を図るために、魚類の養殖用餌料を開発した。2004 年

には、餌料添加用ガンガゼペーストを作成し、このペーストを用いて DP(ドライペレット(固

形配合飼料))を試作(図 1)した。また、2005 年には、EP(エクストルーダ処理固形配合飼

料)を試作(図 2)。ブリを対象とした飼育試験を実施し、餌料効率を求めた。

表 1 に飼育結果を示す。2005 年度に実施した試験では、2004 年度の試験に比べ、飼料のE

P化に伴い増肉係数がかなり向上した。対象区と試験区の比較では、2004 年度試験では試験

区の増重率が対照区に比べて落ちた感があるが、日間増重率、日間摂餌率、増肉係数(飼料転

換効率)は、試験区も対照区と遜色ない値となった。試験範囲ではガンガゼの添加によるブリ

の摂餌や成長への阻害は認められない。未利用のガンガゼを魚類餌料として活用しようとした

取り組みの事例であるが、必然性に乏しく、実用化には至っていない。

表 1 飼育結果

森嶋・田中(2008)ガンガゼを魚の餌に,磯焼けを起こすウニ(藤田ら編),成山堂書店,247-252.

飼育期間

水温 19.8~26.1℃ 23.4~29.0℃

試験区 対照区 試験区 対照区 試験区

飼育日数 60 60 60 60

給餌日数 38 40 37 37

尾数 開始時 20 20 20 20

終了時 18.5 19.0 20 19

平均体重 開始時 420.0 411.6 173.2 183.0

標準偏差 48.9 42.7 21.0 24.2

終了時 642.1 620.3 367.5 389.8

標準偏差 87.5 114.2 55.5 57.2

生残率(%) 92.5 95.0 100.0 95.0

総給餌量(g) 11.465 10.827 7.181 7.494

増重率(%) 52.9 50.7 112.2 113.1

日間増重率(%)* 0.7 0.7 1.3 1.3

日間摂餌率(%) 1.9 1.8 2.2 2.2

飼料転換効率(%) 37.2 37.6 54.1 53.8

増肉係数 2.7 2.7 1.8 1.9

*;日間増重率(%)=〔 In(終了時平均体重)- In(開始時平均体重)〕×100/飼育日数

2004年10月4日~12月2日 2005年8月31日~10月29日

図 1 DP(ドライペレット) 図 2 EP(エクストルーダ処理固形配合飼料)

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【コラム 6-4】ガンガゼの棘を利用した染め物

ウニ染めは岩手県宮古市でキタムラサキウニの殻や棘を用いて開発された(田川,2008)。

三重県尾鷲市早田地区でも、2010 年頃から、磯焼け対策で除去されるガンガゼの棘のみを利

用したガンガゼ染めを始めた。地域住民にガンガゼ染め教室を開きながら、藻場の保全活動も

紹介しているが、最近では保全活動が功を奏してガンガゼが減り、原料の確保が難しくなって

いる。ガンガゼ染めの作業手順は図1のとおり。スカーフ以外にも、様々な布地に、上品でや

わらかな色合いのあずき色に染めることができる(図 2)。

図 1 ガンガゼ染めの作業工程(スカーフ)

図 2 ガンガゼ染めの作品

(ビジョン早田実行委員会(尾鷲漁業協同組合早田支所内)より提供された資料から作成)

田川(2008):ウニ染め,磯焼けを起こすウニ(藤田ら編),成山堂書店,252-256.

【染色液の作り方】

・水 40ℓに氷酢酸 1ℓ

を混ぜた水溶液に

湿ったままの棘 3kg

を入れ、時々混ぜな

がら一晩置く。

・一晩置いた液は布

で 3 回濾し、冷凍し

て保存する。

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【コラム 6-5】★ウニを堆肥化した事例

山口県長門市では、環境生態系保全活動で除去されたウニを肥料の原料にして、鶏ふん

と米ぬかをブレンドした二次発酵堆肥を販売している。

夏野菜の官能評価(n=19)

ホウレンソウの官能評価(n=10)

鹿児島県阿久根市では、磯焼け対策で除去されたウニを堆肥化しており、これを使って栽

培した野菜の官能評価を行った。その結果、ウニ堆肥で作った野菜は、概ねおいしいという

評価が得られている。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

焼きナス(牛肥)

焼きナス(ウニ肥)

ナス(牛肥)

ナス(ウニ肥)

ピーマン(牛肥)

ピーマン(ウニ肥)

大変おいしい おいしい ふつう あまりおいしくない

0% 20% 40% 60% 80% 100%

対照区

化成肥料

牛堆肥

ウニ堆肥

大変おいしい おいしい ふつう あまりおいしくない

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6.2 植食性魚類の有効利用

植食性魚類は、食用にする地域が限られており、磯臭いなどの理由で一般の市場に出回

ることが少ない。しかし、漁獲後の処理で臭みは軽減でき、調理や加工の工夫により有効

に利用できる。植食性魚類の除去を促進するには、まず有効利用を促進する。

【解説】

植食性魚類は、身が磯臭く、処理にコツがいるため、食用としてはあまり好まれず、水

産物としての価値が低い。また、水揚げ量が多獲性大衆魚のように安定していないため、

市場流通の開拓も難しい。しかし、植食性魚類は一部の地域では昔から食べられており、

臭みも軽減する調理法が考案されている。このため、アイデア次第では地産地消の有望な

商品と成り得る。参考までに、主な植食性魚類の伝統的な利用方法を紹介する(表 6-1)。こ

のほかにも、最近では、蒲鉾製品の原料として期待されている(コラム 6-8)。

表 6-1 主な植食性魚類の伝統的な利用方法

アイゴ イスズミ類 ブダイ ニザダイ

利用の

盛んな

地域

紀伊半島沿岸、香川県

東讃地域~徳島県、松

山市周辺、高知県の室

戸・足摺岬周辺、九州

沿岸全域(特に東シナ

海側)、沖縄県

伊豆諸島や静岡県、和

歌山県、高知県、沖縄

千葉県以南の太平洋側

九州沿岸全域、沖縄県

千葉県、伊豆諸島、静

岡県、高知県、鹿児島

県など

留意点

独特の臭味は漁獲直後

に内臓を取り出すと防

げる。橙の煮汁に漬け

る、味噌を使う、皮を

焼く方法もある。

特になし

臭みはなく、一般的に

食用とされている魚種

と同様に多くの調理方

法がある。

皮が厚く硬いので、剥

がす。関東ではあまり

食用にされないが、関

西ではあらいなどにさ

れ好まれる。

料理

焼き切り、刺身、あら

い、たたき、味噌汁、

煮物、揚げ物、焼物

刺身、たたき、揚物、

煮物、焼物、汁物、鍋

、酢物 ※小笠原諸島

のピーマカ、大分県や

長崎県小値賀の焼き切

り料理は有名

刺身、たたき、揚物、

煮物、焼物、汁物、鍋

、蒸し、酢物

刺身、揚物、煮物、

焼物、鍋、蒸し、酢物

加工

塩辛、干物(特に和歌

山県一夜干し)、味噌

漬け、練り製品

漬物、干物、練り製品

干物

漬物、干物

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【コラム 6-6】★植食性魚類の試食会

静岡県御前崎市海鮮なぶら市場で行わ

れたアイゴ試食会では、アイゴの活き作

り、押し寿司、南蛮漬け、一夜干しなど

が試食された(図 1)。参加者からは、「全

然臭みがない」「棄てられている魚とは

思えない」「幅広い料理に利用できる」

などの驚きの声が聞かれている。

また、福岡の大学生にイスズミを試食

してもらったところ、事前情報としてイ

スズミには独特の臭みがあると聞いて

いたが、多くの学生たちが「言われなけ

れば気にならない」と評価した(図 2)。それどころか、学生によっては“海藻を食べる=

ヘルシー”といったプラスイメージの方が強く、同じ白身魚のマダイ等と比較して魅力を

感じたようであった(図 3)。このことから、植食性魚類の普及が進み、漁獲へのインセンテ

ィブが働き、植食性魚類の漁獲が進むことを期待したが、実際には、試食会は一時のイベント

に終わってしまっている。この結果について、流通の専門家に尋ねると、「得てして、商品に

関わる人たちは、限られた世界の中で近視眼的な思考に陥りがちである。漁業関係者ならだれ

でも魚を捌ける・捌くべきだと思いがちであるし、“藻場”や“磯焼け”、“アイゴ”や“イ

スズミ”など、あまり知られていない用語や魚名が一般的にも通用すると思いがちである。し

かし、実際には、馴染みのない環境問題や魚の名前で消費者の関心を惹きつけることはできな

い」という。植食性魚類の普及を進めるのであれば、消費者の視点から、何が新しく、魅力的

であるのかを発信することが大事である。

図 2 試食会場の様子(中村学園大学) 図 3 学生の試食会アンケート結果

15

17

3 3

0

イスズミのお刺身は美味しい?

図 1 試食会場の様子(海鮮なぶら市場)

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【コラム 6-7】★植食性魚類を使った商品や料理

植食性魚類は、地域によっては以前から商品化して販売されたり、料理されたりしている。

アイゴの干物(和歌山県)

アイゴ生食用(沖縄県)

アイゴのムニエル(長崎県)

イスズミの一夜干し(東京都八丈島)

イスズミの皮焼き(長崎県五島)

イスズミのすき焼き(和歌山県)

ニザダイを使ったすり身(鹿児島県)

ブダイ味噌漬け(静岡県)

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【コラム 6-8】★植食性魚類の加工品

大型で藻場への採食圧が高いイスズミ類の有効利用を図るため、産官学が連携して商品開発を

行った。

商品開発にあたっては、マーケティングを学ぶ大学生からアイデアをもらい、出張帰りのおつ

まみや土産品として、サラリーマンや旅行者をターゲットにした販売戦略を企画した。こうして

出来あがったのが、ノトイスズミを 20~30%配合した薩摩

揚げ「たべてみ天」(図 1)で、博多駅のキオスクで販売

されている。パッケージには学生たちの元気な写真を使用

し、水産庁が選定する「Fast Fish」の認定も受け、手軽

においしく食べられて、磯焼けのことも知ってもらえるよ

うになった。

図 1 たべてみ天

対馬市の峰東部漁協女性部キッチンは、夏場の大型定置で獲れるアイゴを冷凍庫で保存し、地

元の学校給食にアイゴフライとして提供している。半解凍状態での調理なので、臭いはさほど気

にならない。最近では、販路を拡げるため、東京海洋大学の生協でも販売されている(図 2)。

図 2 アイゴフライ

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