シニア市場攻略法 - fisc.jp · 市場 アッパーシニア 市場 長寿化で 拡大する...

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2 プレシニア市場 シニアというよりハイパーミドル(超中年)向けに、職 能訓練センター、士業教育産業、体力維持・補完商品、 旅行、教養セミナー、フィットネスクラブ、アンチエイ ジング商品などが伸びる。 ミッドシニア市場 資産の有無で所得格差が生じるから、資産活用サービス、 家事簡略化家電、バリアフリー住宅、ゆとり旅行、フルサー ビス喫茶店、ゲームセンター、遊戯型デイサービスなど への需要が増加。 アッパーシニア市場 自由時間が均一的に伸び、生活支援需要も増加するから、 在宅生活支援、在宅介護、施設介護、終活、介護付き旅行、 施設向けの芸能・娯楽サービスなどが伸びる。 寿65 20 24 10 20 20 24 25 30 35 65 74 75 84 85 退退65 調24 退退退CONTENTS 01 特集 シニア市場攻略法 ~企業事例から着眼点を探る シニアビジネスで成功する市場戦略 ①ものづくりの視点 柳澤織ネーム(株) /(株)西村金属/(株)KANZACC/ 第一織物(株)/ (株)下村漆器店 ②シニアはコミュニケーションを重視する (株)ウォンツ・ジャパン/(有)ケア・フレンズ ③小売業界のシニアビジネス 13 完成への道のり (株)ウタ 15 若手のチカラ。シニアのチカラ。 (株)米五 17 アジアを攻める! 第4回 18 飛躍する経営者たち 第4回 19 読者のひろば 第4回 私が刺激を受けたことば 20 インフォメーション 人口減少時代に突入した国内では、今後、65歳以上のシニア層が増加していくと見込まれており、産業面 ではシニアをターゲットとするビジネスが注目されるようになりました。元気なシニアの多様なニーズに 的確に対応した商品・サービスを提供することでビジネスチャンスを掴む企業も増えています。今回は、 企業の取り組みを通し、シニアを取り込むビジネス展開のポイントを探っていきます。 ・・・ 調プレシニア 市場 アッパーシニア 市場 長寿化で 拡大する 需  要 ミッドシニア 市場 表紙写真:柳澤織ネーム株式会社の織ネーム商品 執筆者  古田 隆彦 現代社会研究所(東京都)所長。名古屋大学法学部卒、八幡製鉄() (現・新日鉄)、 ()社会工学研究所を経て、1984年より現職。2010年まで青森大学社会学部 教授を兼務。各省庁の審議会や研究会の委員、東京都「東京ブランド」検討委員 長、青森県政策マーケティング委員長などの公職を勤める。 『“増子・中年化”社会のマーケティング』、『日本人はどこまで減るか』、『人口 減少逆転ビジネス』、『人口減少社会のマーケティング』などの著書がある。 シニア市場攻略法 ~企業事例から着眼点を探る

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Page 1: シニア市場攻略法 - fisc.jp · 市場 アッパーシニア 市場 長寿化で 拡大する 需 要 ミッドシニア 市場 執筆者 古田 隆彦 氏 現代社会研究所(東京都)所長。名古屋大学法学部卒、八幡製鉄(株(現・新日鉄)、)

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プレシニア市場 シニアというよりハイパーミドル(超中年)向けに、職能訓練センター、士業教育産業、体力維持・補完商品、旅行、教養セミナー、フィットネスクラブ、アンチエイジング商品などが伸びる。

ミッドシニア市場 資産の有無で所得格差が生じるから、資産活用サービス、家事簡略化家電、バリアフリー住宅、ゆとり旅行、フルサービス喫茶店、ゲームセンター、遊戯型デイサービスなどへの需要が増加。

アッパーシニア市場 自由時間が均一的に伸び、生活支援需要も増加するから、在宅生活支援、在宅介護、施設介護、終活、介護付き旅行、施設向けの芸能・娯楽サービスなどが伸びる。

5つの視点から    

シニア市場を読む

 平均寿命が伸びて、65歳以

上のいわゆる「高齢者」が増え

ています。全国では2010

年の2948万人から20年に

は3612万人に増加します

(国立社会保障・人口問題研

究所・平成24年推計)。福井

県でも、10年の20万人から

20年には24万人になります

(同・平成25年推計)。この年

齢層を対象にしたビジネスを

考える場合、基本的な視点と

して、5つのポイントが浮か

んできます。

 第1は高齢者で年齢層別の

3グループに分ける。シニア

市場は人生後期の30〜35年に

わたっていますから、一つに

ひっくるめて対応するのは無

理です。少なくとも、65〜74

歳のプレシニア層、75〜84歳

のミッドシニア層、85歳以上

のアッパーシニア層の、3つ

に分けることが必要でしょ

う。

 第2は所得・資産水準に

配慮する。この年代になる

と、退職や引退で所得が減っ

てきます。65歳以上の世帯所

得は300万円未満が6割、

300万円以上600万円未

満が3割です(厚生労働省・

国民生活基礎調査・平成24

年)。また年齢が上がるにつ

れて、所得の内容や水準が変

わります。プレシニアでも、

給与や個人所得のある層と年

金オンリー層では格差があり

ます。ミッドからアッパーに

上がるにつれて、年金オン

リーと資産所有者の間では格

差が拡大します。

 第3は時間的余裕を考え

る。シニア層では退職や引退

に伴って、自由時間が増えま

す。プレシニアでは再就職や

ボランティアなどで個人差が

大きいのですが、ミッド、アッ

パーになると次第に均等化

し、誰もが自由時間を享受す

るようになります。

 第4は必需的需要と選択的

需要を分ける。必需とは日々

の暮らしに欠くことのできな

い要素、例えば基礎的な衣食

住に関わる商品やサービスで

す。他方、選択とは、暮らし

にゆとりができた時に楽しむ

要素、例えば遊びや学びなど

に関わるものです。シニア層

では、年齢が上がるにつれて

両者の比重が変わります。プ

レシニアでは必需と選択がほ

ぼ半々ですが、ミッド、アッ

パーになると、次第に必需が

増えて選択が減り、ついには

必需オンリーになります。

 第5は生活支援需要が増え

る。シニア層と他の年齢層と

の最大の違いは、自らの暮ら

しを営むために、家族や他人

からの応援や支援が必要にな

 

高齢者を対象にした「シニアビジネス」が急拡大しています。彼らの需要を的確につかみ、それ

にふさわしい商品やサービスを開発・提供していくには、どのような視点と発想が必要なので

しょうか。

ることです。プレシニアはと

もかくも、ミッドからアッ

パーへ進むにつれて、生活支

援や介護の需要が急上昇して

きます。

年齢別の特性を  

キャッチする

 5つの視点から、年齢階層

別に期待されるビジネスの方

向を展望してみましょう。

 プレシニア層では、従来は

老人とみなされていた人たち

が、体力、知力、財力、気力、

精力の〝五力〞を充分に維持し

ており、シニアというより、

むしろ「ハイパーミドル(超中

年)」です。彼らの間では本格

的なシニア生活に入る前に再

就職や自営業、あるいは勉

学、トレーニング、遊びなど

で、まだまだ中年期を楽しも

うとする人たちが増えていま

すから、それぞれの生活態様

で所得や自由時間が大きく変

わります。このため、必需分

野では職能訓練センター、士

業教育産業、体力維持・補完

商品などが、また選択分野で

は旅行、教養セミナー、フィッ

トネスクラブ、アンチエイジ

ング商品などへの需要が強

まってきます。

 ミッドシニア層になると、

大半が引退生活に入りますか

ら、自由時間は一斉に拡大し

ます。年金生活者が多くなり

所得は均一化しますが、資産

の有無で格差も生じます。こ

のため、必需分野では資産活

用サービス、家事簡略化家

電、バリアフリー住宅、認

知症予防商品などが、また選

択分野ではミッドシニア向け

IT教室、ゆとり旅行、フル

サービス喫茶店、ゲームセン

ター、遊戯型デイサービス、

孫と遊べる遊戯施設などへの

需要が増加します。

 アッパーシニア層に至る

と、資産の有無で所得格差が

広がりますが、自由時間は均

一的に伸び、生活支援需要も

次第に増えてきます。そこ

で、必需分野では在宅生活支

援(住宅改造、買い物代行、

炊事・洗濯・掃除・身の回り

支援、食事宅配、訪問理・美

容、緊急通報など)、在宅介

護(介護・看護・入浴などの

訪問サービス、福祉機器レン

タル、デイサービスなど)、

施設介護(有料老人ホーム、

グループホーム、サービス付

き高齢者住宅、地域交流型老

人福祉施設など)、そして終

CONTENTS

01 特集 シニア市場攻略法 ~企業事例から着眼点を探る シニアビジネスで成功する市場戦略 ①ものづくりの視点  柳澤織ネーム(株)/(株)西村金属/(株)KANZACC/  第一織物(株)/(株)下村漆器店   ②シニアはコミュニケーションを重視する  (株)ウォンツ・ジャパン/(有)ケア・フレンズ   ③小売業界のシニアビジネス

13 完成への道のり (株)ウタ15 若手のチカラ。シニアのチカラ。 (株)米五17 アジアを攻める! 第4回18 飛躍する経営者たち 第4回19 読者のひろば第4回私が刺激を受けたことば20 インフォメーション他

人口減少時代に突入した国内では、今後、65歳以上のシニア層が増加していくと見込まれており、産業面ではシニアをターゲットとするビジネスが注目されるようになりました。元気なシニアの多様なニーズに的確に対応した商品・サービスを提供することでビジネスチャンスを掴む企業も増えています。今回は、企業の取り組みを通し、シニアを取り込むビジネス展開のポイントを探っていきます。

活(葬儀、墓地紹介など)の需

要が拡大してきます。一方、

この年齢層の生き甲斐を提供

する選択分野として、介護つ

きの旅行、スポーツや趣味の

各種教室、施設向けの芸能・

娯楽サービスなどが求められ

ます。

グループ別に     

強弱をつける!

 以上のように、シニア市場

といっても、年齢によって極

めて多様な需要が広がってい

ます。プレシニアでは「シニ

シニアビジネスで成功する市場戦略

ア」とよばれることさえ嫌っ

ていますから、「シニア向け」

とか「シニアのための・・・

」と

いった呼びかけはむしろ逆効

果でしょう。逆にミッドシニ

アやアッパーシニアになる

と、社会からの保護を求める

願望が高まってきますから、

「シニア」を強調した方が有

効なケースも増えてきます。

 シニアビジネスには、ヤン

グやミドル向けビジネスに比

べて、いっそうきめ細かな配

慮が求められるのです。

プレシニア市場

アッパーシニア市場

長寿化で拡大する需  要

ミッドシニア市場

表紙写真:柳澤織ネーム株式会社の織ネーム商品

執筆者 古田 隆彦 氏

現代社会研究所(東京都)所長。名古屋大学法学部卒、八幡製鉄(株)(現・新日鉄)、(株)社会工学研究所を経て、1984年より現職。2010年まで青森大学社会学部教授を兼務。各省庁の審議会や研究会の委員、東京都「東京ブランド」検討委員長、青森県政策マーケティング委員長などの公職を勤める。『“増子・中年化”社会のマーケティング』、『日本人はどこまで減るか』、『人口減少逆転ビジネス』、『人口減少社会のマーケティング』などの著書がある。

シニア市場攻略法~企業事例から着眼点を探る