evaluation of the combination of demand...

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1.はじめに わが国では 1960 年代頃からモータリゼーション が急速に進展した結果,都市内公共交通の利用者が 減少し,都市内の移動を対象とした運行距離の短い バス路線の廃止といった大きな影響を受けた.また, ロードサイドショップの立地に代表されるような郊 外型立地に依存した都市構造に変化し,その進行に 拍車がかかった.これにより,自動車を利用できな い高齢者等の交通弱者にとっては生活を脅かされる 場合も見られることとなった. そこで近年,バスを運行する程の時空間的需要密 度が得られない低密地域において,利用者の要望に 応じて運行経路や運行時刻を決定して運行するデマ ンド型交通(DRT: Demand Responsive Transit)長谷川大輔:〒305-8573 茨城県つくば市天王台 1-1-1 総合研究棟 B722 号室 筑波大学大学院システム情報工学研究科 Tel029-853-5600 (8203) E-mail : [email protected] 注目されている.ただし,デマンド型交通は利用者 数の増加に伴って運行効率の低下につながる点から, バスと組み合わせた適材適所な公共交通網形成が期 待されている. デマンド型交通の研究としては,秋山ら(2009)が, 町田市や八戸市など地域特性の異なる都市でケース スタディを行い,地域の公共交通計画にあり方につ いて多くの事例を対象とした実証的な考察を示して いるが,理論的な論拠についての研究例は乏しい. また,長谷川・鈴木(2013)はデマンド型交通の大型・ 小型車両の併用による運行効率性の向上など,デマ ンド型交通の運行効率性の特徴を分析し,長谷川・ 鈴木(2016)はバスサービスの導入によるデマンド型 交通利用者への利便性を定量的に示したが,路線形 状の違いによる評価,およびバスとデマンド交通, 双方の提供バランスの決定については課題が残る. さらに,パーソントリップ調査等の対称外となる地 方部においては計画の基礎情報となる地域内流動の 実態も把握が困難である点から,近年ではモバイル 空間統計等,高頻度・細密に収集可能なデータの活 地域内 OD フローを考慮した地域公共交通システムにおける バス・デマンド交通併用の効果分析 長谷川大輔・鈴木勉 Evaluation of the Combination of Demand Responsive Transit and Bus Service Using Local OD Flow Daisuke HASEGAWA and Tsutomu SUZUKI Abstract: This paper aims to show the impact on effectiveness when the bus service is combined with DRT. First, we estimate a pattern of OD flow from the mobile spatial statistics data. Second, we locate start and end points using facility location models and connect the route between them using the shortest path model with the constraint of the number of capturing flow. Then, we analyze the number of DRT vehicles using vehicle routing problem. The results of these analyses show the route shape and the terminal point pattern capturing effective OD flow. Keywords:地域公共交通(local transportation), 運搬経路問題(vehicle routing problem), デマ ンド型交通(demand responsive transit)

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Page 1: Evaluation of the Combination of Demand …gisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/D25.pdf1.はじめに わが国では1960 年代頃からモータリゼーション

1.はじめに

わが国では 1960 年代頃からモータリゼーション

が急速に進展した結果,都市内公共交通の利用者が

減少し,都市内の移動を対象とした運行距離の短い

バス路線の廃止といった大きな影響を受けた.また,

ロードサイドショップの立地に代表されるような郊

外型立地に依存した都市構造に変化し,その進行に

拍車がかかった.これにより,自動車を利用できな

い高齢者等の交通弱者にとっては生活を脅かされる

場合も見られることとなった.

そこで近年,バスを運行する程の時空間的需要密

度が得られない低密地域において,利用者の要望に

応じて運行経路や運行時刻を決定して運行するデマ

ンド型交通(DRT: Demand Responsive Transit)が

長谷川大輔:〒305-8573 茨城県つくば市天王台 1-1-1

総合研究棟 B722 号室

筑波大学大学院システム情報工学研究科

Tel:029-853-5600 (8203)

E-mail : [email protected]

注目されている.ただし,デマンド型交通は利用者

数の増加に伴って運行効率の低下につながる点から,

バスと組み合わせた適材適所な公共交通網形成が期

待されている.

デマンド型交通の研究としては,秋山ら(2009)が,

町田市や八戸市など地域特性の異なる都市でケース

スタディを行い,地域の公共交通計画にあり方につ

いて多くの事例を対象とした実証的な考察を示して

いるが,理論的な論拠についての研究例は乏しい.

また,長谷川・鈴木(2013)はデマンド型交通の大型・

小型車両の併用による運行効率性の向上など,デマ

ンド型交通の運行効率性の特徴を分析し,長谷川・

鈴木(2016)はバスサービスの導入によるデマンド型

交通利用者への利便性を定量的に示したが,路線形

状の違いによる評価,およびバスとデマンド交通,

双方の提供バランスの決定については課題が残る.

さらに,パーソントリップ調査等の対称外となる地

方部においては計画の基礎情報となる地域内流動の

実態も把握が困難である点から,近年ではモバイル

空間統計等,高頻度・細密に収集可能なデータの活

地域内 OD フローを考慮した地域公共交通システムにおける

バス・デマンド交通併用の効果分析

長谷川大輔・鈴木勉

Evaluation of the Combination of Demand Responsive Transit and Bus Service Using Local OD Flow

Daisuke HASEGAWA and Tsutomu SUZUKI

Abstract: This paper aims to show the impact on effectiveness when the bus service is combined

with DRT. First, we estimate a pattern of OD flow from the mobile spatial statistics data. Second,

we locate start and end points using facility location models and connect the route between them

using the shortest path model with the constraint of the number of capturing flow. Then, we

analyze the number of DRT vehicles using vehicle routing problem. The results of these analyses

show the route shape and the terminal point pattern capturing effective OD flow.

Keywords:地域公共交通(local transportation), 運搬経路問題(vehicle routing problem), デマ

ンド型交通(demand responsive transit)

Page 2: Evaluation of the Combination of Demand …gisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/D25.pdf1.はじめに わが国では1960 年代頃からモータリゼーション

用が清家ら(2013)等で検討されている.

そこで本研究では,全国で取得可能なモバイル空

間統計を基に地域 OD フローを推定した上で,フロー

を考慮したバスルートを設計する.バスルートを設

計した際の路線長と,バスで捕捉できない需要を一

定割合カヴァーするデマンド交通が必要な車両台数

を一元的なフレームにて評価することを目的とする.

2.モバイル空間統計を用いた OD フロー推定

本研究が対象とする茨城県A市は南北約15km,

東西 20km にわたり,面積 205.35km2 である.市

内には東西南北に鉄道,市内全域を運行領域とし

たデマンドタクシー,中央部から南東へ路線バス

が運行されている.A 市町丁目の代表点 208 点を

ノードとし,ノード間の OD フローをモバイル空

間統計を用いて推計する.当データは携帯電話の

台数に NTT ドコモの普及率を加味した滞在人口

を推計したもので,メッシュ単位で性別・年代

別・居住地別人口の 1 時間単位の変動の観測が可

能である.本研究では A 市 2015 年 9 月 1 日 11 時

の 1km メッシュ・居住大字別滞在人口データ基に,

町丁目単位に面積按分したデータを地域内 OD デ

ータとして用い,その結果を図1に示す.なお,

この OD フローは一時間毎のデータではなく,11

時までに居住地から滞在地まで移動した総量と

なる.

3. フローを考慮したバスルート設計

3.1.起終点ハブの配置

所与の OD フローを一定水準捕捉するための最

小バス路線長を求める.その際,路線はノードの

中からフローが最も集中する箇所に配置するメ

インハブと,郊外部に配置するサブハブを起終点

とし,その間に他のノードを経由するものとする.

p 個のメインハブは,ノード間のフロー量と距離

の積を最小化するように,p-median 型配置モデル

を用いて位置を決定する.また,q 個のサブハブ

は,鈴木(2011)のモデルを参考に,p 個のメインハ

ブを既存施設として扱った q 個の施設を,以下の

(p, q)-median 型配置モデル,

min

(1)

s.t.

∀ ∈ (2)

∀ , ∈ (3)

(4)

(5)

∀ ∈ (6)

あるいは以下の(p, q)-center 型配置モデルによっ

て配置を決定する.

min L (7)

s.t. (2), (3), (4), (5), (6)

∀ , ∈ (8)

ただし,

:ノード i のハブ j 利用を示す(0-1)変数

:ノード j がハブかどうかを表す(0-1)変数

:ノード j に関するバイナリの(0-1)変数

1

図1 A 市町丁目間 OD フロー

(2015 年 9 月 1 日 11 時)

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:ij 間道路距離(m)

:ij 間 OD フロー(人)

L :最大路線長(m)

である.

3.2.フローを捕捉する路線網の構築

ハブ同士を結ぶ路線は,前章で述べた A 市町丁

目代表点のノード間を結ぶドロネー網をエッジ

とした有向グラフ G=(V, E)と各枝(i, j)上に,以下

で定式化される,捕捉フロー量を制約とした最短

経路問題で求める. なお,ノード数| | 208,エ

ッジ数| | 1208である.

min

(9)

s.t.

,

(10)

∀ , ∈ (11)

(12)

(13)

ただし,

:エッジ ij の路線割当を表す(0-1)変数

:ノード(k,l)の路線割当を表す(0-1)変数

s :起点ノード(サブハブ)

t :終点ノード(メインハブ)

:ij 間道路距離(m)

:kl 間 OD フロー(人) ( 1)

α :OD フロー捕捉制約(人)

とし,αをパラメータとして与える.α=0 の場合

は最短経路問題と同義だが,αが大きくなるにつ

れて路線の迂回が増える.

3.3.配送計画問題によるデマンドタクシー車両台

数の算出

前節の式から求めたバスルートで結ばれてい

る場合にはフローを捕捉できるものとし,それ以

外のフローを一定割合捕捉するために必要なデ

マンドタクシーの車両台数を,配送計画問題によ

って求める.巡回地点 n はノード間(i, j) の OD に

対して,フロー量をもとに発生確率 0.0018(平成

28 年度茨城県公共交通活性化指針より引用した

乗合バス分担率 0.02 を,用いたモバイル空間統計

データの経過時間数 11 で除したもの)で需要を

発生させるモンテカルロシミュレーション(100

回施行)を行い決定する.そして,久保(2007)を参

考に以下の車両台数の最小化を目的関数とした

配送計画問題を解く.

min (14)

s.t.

∀ ∈ (15)

∀ ∈

1 (16)

(17)

∀ ∈

1 (18)

1 (19)

ただし,

m :車両台数

:ノード(i,j)の路線割当を表す変数

( はデポからの路線を表す)

:ij 間道路距離(m)

:車両あたり距離制約(m)

であり,β=15000 とする.

p=1, q=(1, 2...8),α=(0, 20, 40, 60, 80)と変化させ

たときの,(p, q)-median 型,(p, q)-center 型配置モ

デルでサブハブを配置した場合の路線長と 1km

あたり捕捉フローの関係を図2に,その中から捕

捉フローが高く,効率の良い路線のパターンを図

3に示す.なお,求解には Gurobi 7.0 for python,

CPU は Intel Xeon E5-2603 1.8GHz を用いた.これ

を見ると,(p, q)-center 型の方が路線長が短くなる

が,その分捕捉できる OD フローが増加し,1km

あたり捕捉フローで見ると効率的であることが

∈ 0, 1

∈ 0, 1, 2

2

2

∀ , ∈

0

110

∀ , ∈

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図3 バス路線網構築結果

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 20 40 60 80 100 120 140

1km

あた

り捕

捉フ

ロー

数(人

/km)

路線長(km)

ABC

D

3.6

3.8

4

4.2

4.4

4.6

4.8

5

0 20 40 60 80 100 120 140

平均

車両

台数

(台)

路線長(km)

図2 バス路線長と

1km あたり捕捉フロー数の関係

図4 バス路線長と

デマンドタクシー車両台数の関係

Length(人)Flow(人)

F/L(人/km) 70.5523

Acenter820

q (箇所)

α (人)

model

78.42415533

B C Dmedian center center

1969 61967.9995 54.5540 41.5830

0

50.5592 36.0927 14.88593438

6 3 240 40

ルート メインハブ サブハブ

示された.もっとも効率が良い q=8,α=20 の場合

においては全 OD フローの 16.7% (=5533 / 33187)

を捕捉した.

また,図4にバス路線長とデマンドタクシー平

均車両台数の関係を示す.こちらも (p, q)-center

型の方が必要台数を減少することが示された.た

だし,バス路線が無い場合との車両台数の差は 1

台程度しか生じず,バス路線によるデマンドタク

シー運行効率の改善は小さいことが示された.

4.おわりに

本研究では地域 OD フローを考慮したバス路線

網の構築,デマンドタクシー車両台数の導出を一

元的なフレームで行い,(p, q)-center 型配置モデル

による路線網構築の効率性を示した.

なお,本研究はトヨタ自動車(株)と筑波大学

の共同研究事業「次世代社会システムとモビリテ

ィのあり方研究」および JSPS 科研費 25242029,

16J02064 の研究成果の一部である.

参考文献

秋山哲男・吉田樹・猪井博登・竹内龍介(2009):生活支援

の地域公共交通,学芸出版社. 長谷川大輔・鈴木勉(2013):運行シミュレーションによる

地域公共交通の運行方式の比較: 茨城県常総市を対象

としたケーススタディ, GIS-理論と応用,21(1),9−19. 長谷川大輔・鈴木勉(2016):デマンド型交通と組み合わせ

たバス輸送導入効果分析,地理情報システム学会講演論

文集, B-2-2. 清家剛・三牧浩也・原裕介・森田祥子(2013):基礎自治体

におけるモバイル空間統計の活用可能性に関する研

究. 日本建築学会技術報告集, 19(42), 737-742. 久保幹雄 (2007). サプライ・チェイン最適化ハンドブック, 朝倉書店.