外国旅行の動向 - japan national tourism …中国 第 1章 外国旅行の動向

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58 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 外国旅行の動向 1 中…国 1 外国旅行の現状と展望 ①中国人の訪日旅行の概況 ■中国人の出境旅行(外国への旅行に加え、香港・マカオ・ 台湾への渡航を含む。以下同様)者数は 2014 年に初めて 1 億人を突破し、2017 年には約 1 億 4,273 万人に達した。 ■中国人にとって、かつて出境旅行は一種の社会的地位を表 すものであったが、経済発展に伴う所得の向上等により、 現在では都市部の一般市民が気軽に出境旅行を楽しめ る段階に達している。 ■中国発の出境旅行を分析する場合、市場経済的な観点だ けでなく、社会主義国として出入国が制度的に管理されて いる面を考慮する必要がある。出境旅行の目的地は、中国 文化和旅遊部(中国国家旅遊局と中国文化部が 2018 年 3 月に組織統合し設立)が「出境旅行目的地国家・地域指定 (ApprovedDestinationStatus:ADS)」により管理してい る。1983 年に香港、1984 年にマカオへの親族訪問旅行 が解禁された後、1988 年のタイを皮切りに次々と開放さ れ、2017 年 1 月時点で 151 の国と地域が出境旅行の目的 地に指定されている。また、66 の国と地域が中国国民に 対する査証の免除もしくは優遇政策を行っている。 ■中国人出境旅行者数の推移 人数 (人) 伸率 (%) うち私用旅行人数 (人) 伸率 (%) 2012 年 83,181,700 18.4 77,055,100 20.2 2013 年 98,185,200 18.0 91,970,800 19.4 2014 年 116,593,200 18.7 110,029,100 19.6 2015 年 127,860,000 9.7 121,720,000 10.6 2016 年 135,130,000 5.7 128,500,000 5.6 2017 年 142,727,400 5.6 135,815,600 5.7 資料:中国国家統計局 注 :… 本表の出境旅行者数は、外国旅行者数に加え、香港・マカオ・ 台湾への渡航者数を含む。 ■中国国家旅遊局(当時)および各国・地域観光局等の統計 によると、2017 年の中国人の出境旅行先は、香港・マカ オ・台湾が 6,938 万人(日帰り客を含む)と全体の半数以 上を占めた。特に香港は約 4,445 万人と、出境旅行者全 体の 31.1% を占め、1983 年の親族訪問旅行開始から一貫 して最も身近な出境旅行先である。 ■香港・マカオ・台湾を除く 2017 年の渡航者数は約 6,113 万人であり、国別で見ると、上位10カ国は、タイ(985 万)、 日本(736 万)、韓国(417 万)、ベトナム(401万)、シンガ ポール(323 万)、米国(317 万)、イタリア(308 万人)、マ レーシア(228万)、フランス(211万人)、インドネシア(209 万)、ドイツ(156万人)、ロシア(148万)、豪州(136万)、 スペイン(132万人)、カンボジア(121万人)の順であった。 また、タイ、日本、韓国、ベトナム、インドネシア、ロシア、 カンボジア、モルディブでは、インバウンドに占める割合で 中国は 1 位であった。 ■日本では、2015 年のような「爆買い」が収束したと報じら れているが、未だに中国人の出境旅行中の消費額は高く、 世界中で注目を集めている。その背景として、主要通貨に 対する人民元の上昇という為替要因に加えて、安全・品質 に対する信頼性並びにデザイン・機能性の面で、外国製品 及び外資系企業の製品は、価格が高くても質が良いため人 気があることが挙げられる。 ■中国政府は国内産業を保護するため、外国製品に対して 高い関税を課している一方で、外資系企業は中国国内で の販売価格を自国より高めに設定していることもあって、 旅行先で買うほうが中国国内で買うよりも割安になる。そ のため、出境旅行中に日用品や高級ブランド品などをまと め買いする傾向が見られる。旅行中の消費額が高額となる ことから、世界中の国と地域が中国人旅行者の誘致にし のぎを削っている。 ■中国人の訪日観光旅行は 2000 年 9 月に開始され、この 間、訪日中国人数は 2000 年の 35 万人から 2017 年には 735.6 万人(JNTO 統計)と約 21 倍に増えた。2015 年か ら国・地域別訪日客数で中国は首位となっている。 ■訪日観光旅行は、団体観光旅行が 2000 年 9 月に北京市・ 上海市・広東省の住民に限定して開始され、2004 年 9 月 に天津市・遼寧省・山東省・江蘇省・浙江省、2005 年 7 月 には中国全土へと、居住地域ごとに段階的に開放された。 ■2009 年 7 月には、訪日個人観光への要望の高まりに応じ て、個人観光旅行が開始された。数次査証の発給条件が 段階的に緩和され、沖縄県への宿泊が要件となる個人観 光数次査証(2011 年 7月〜)、東北 3 県(宮城県、岩手 県、福島県)への宿泊を要件とする個人観光数次査証 (2012 年 7月〜、2017 年 5 月には東北 6 県に拡大)、相 当な高所得者を対象とした個人観光数次査証(2015 年 1 月〜)、十分な経済力を有する人を対象とした数次査証 (2017 年 5 月〜)が発給されるようになった。 ■2015 年 1 月には、法務大臣が指定するクルーズ船の外国 人乗客を対象として、簡易な手続きで上陸を認める「船舶 観光上陸許可」制度が開始された。査証が不要になったこ

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58 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

外国旅行の動向第 1 章中…国

1 外国旅行の現状と展望①中国人の訪日旅行の概況■中国人の出境旅行(外国への旅行に加え、香港・マカオ・

台湾への渡航を含む。以下同様)者数は 2014 年に初めて1 億人を突破し、2017 年には約 1 億 4,273 万人に達した。

■中国人にとって、かつて出境旅行は一種の社会的地位を表すものであったが、経済発展に伴う所得の向上等により、現在では都市部の一般市民が気軽に出境旅行を楽しめる段階に達している。

■中国発の出境旅行を分析する場合、市場経済的な観点だけでなく、社会主義国として出入国が制度的に管理されている面を考慮する必要がある。出境旅行の目的地は、中国文化和旅遊部(中国国家旅遊局と中国文化部が 2018 年 3月に組織統合し設立)が「出境旅行目的地国家・地域指定

(ApprovedDestinationStatus:ADS)」により管理している。1983 年に香港、1984 年にマカオへの親族訪問旅行が解禁された後、1988 年のタイを皮切りに次 と々開放され、2017 年 1月時点で 151の国と地域が出境旅行の目的地に指定されている。また、66 の国と地域が中国国民に対する査証の免除もしくは優遇政策を行っている。

■中国人出境旅行者数の推移

人数(人)

伸率(%)

うち私用旅行人数(人)

伸率(%)

2012年 83,181,700 18.4 77,055,100 20.22013 年 98,185,200 18.0 91,970,800 19.42014 年 116,593,200 18.7 110,029,100 19.62015 年 127,860,000 9.7 121,720,000 10.62016 年 135,130,000 5.7 128,500,000 5.62017 年 142,727,400 5.6 135,815,600 5.7資料:中国国家統計局注 :…本表の出境旅行者数は、外国旅行者数に加え、香港・マカオ・

台湾への渡航者数を含む。

■中国国家旅遊局(当時)および各国・地域観光局等の統計によると、2017 年の中国人の出境旅行先は、香港・マカオ・台湾が 6,938 万人(日帰り客を含む)と全体の半数以上を占めた。特に香港は約 4,445 万人と、出境旅行者全体の 31.1% を占め、1983 年の親族訪問旅行開始から一貫して最も身近な出境旅行先である。

■香港・マカオ・台湾を除く2017 年の渡航者数は約 6,113万人であり、国別で見ると、上位 10カ国は、タイ(985 万)、日本(736 万)、韓国(417 万)、ベトナム(401万)、シンガ

ポール(323 万)、米国(317 万)、イタリア(308 万人)、マレーシア(228 万)、フランス(211万人)、インドネシア(209万)、ドイツ(156 万人)、ロシア(148 万)、豪州(136 万)、スペイン(132 万人)、カンボジア(121万人)の順であった。また、タイ、日本、韓国、ベトナム、インドネシア、ロシア、カンボジア、モルディブでは、インバウンドに占める割合で中国は 1 位であった。

■日本では、2015 年のような「爆買い」が収束したと報じられているが、未だに中国人の出境旅行中の消費額は高く、世界中で注目を集めている。その背景として、主要通貨に対する人民元の上昇という為替要因に加えて、安全・品質に対する信頼性並びにデザイン・機能性の面で、外国製品及び外資系企業の製品は、価格が高くても質が良いため人気があることが挙げられる。

■中国政府は国内産業を保護するため、外国製品に対して高い関税を課している一方で、外資系企業は中国国内での販売価格を自国より高めに設定していることもあって、旅行先で買うほうが中国国内で買うよりも割安になる。そのため、出境旅行中に日用品や高級ブランド品などをまとめ買いする傾向が見られる。旅行中の消費額が高額となることから、世界中の国と地域が中国人旅行者の誘致にしのぎを削っている。

■中国人の訪日観光旅行は 2000 年 9 月に開始され、この間、訪日中国人数は 2000 年の 35 万人から2017 年には735.6 万人(JNTO 統計)と約 21 倍に増えた。2015 年から国・地域別訪日客数で中国は首位となっている。

■訪日観光旅行は、団体観光旅行が 2000 年 9 月に北京市・上海市・広東省の住民に限定して開始され、2004 年 9 月に天津市・遼寧省・山東省・江蘇省・浙江省、2005 年 7月には中国全土へと、居住地域ごとに段階的に開放された。

■2009 年 7月には、訪日個人観光への要望の高まりに応じて、個人観光旅行が開始された。数次査証の発給条件が段階的に緩和され、沖縄県への宿泊が要件となる個人観光数次査証(2011 年 7月〜)、東北 3 県(宮城県、岩手県、福島県)への宿泊を要件とする個人観光数次査証

(2012 年 7月〜、2017 年 5月には東北 6 県に拡大)、相当な高所得者を対象とした個人観光数次査証(2015 年 1月〜)、十分な経済力を有する人を対象とした数次査証

(2017 年 5月〜)が発給されるようになった。■2015 年 1月には、法務大臣が指定するクルーズ船の外国

人乗客を対象として、簡易な手続きで上陸を認める「船舶観光上陸許可」制度が開始された。査証が不要になったこ

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 59

韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

ともあり、初年度の 2015 年は中国から日本へのクルーズ客が 100 万人を超え、2016 年には 169 万人、2017 年には224 万人(いずれも推計値)と順調に推移した。「船舶観光上陸許可」制度が、中国からのクルーズ旅行の需要拡大につながった。(訪日クルーズ旅行については、第 1 章「5外国旅行の旅行形態別特色 ③クルーズ旅行」も参照)。

■訪日中国人の旅行先は、初訪日の場合、東京、富士山、京都、大阪などを巡るゴールデンルートが圧倒的に多い。一方で、中国内の訪日旅行の先進地域である北京市、上海市、江蘇省、浙江省、広東省などでは、訪日旅行経験者が増えた結果、ゴールデンルートの占める割合が相対的に下がってきている。代わって人気が上昇しているのが、関東、北海道、関西、九州、沖縄といった地域を一つだけ訪問する滞在型ツアー、ゴールデンルート商品の変形版(東海道の代わりに長野県、岐阜県、和歌山県などを通る)などである。

■近年は福岡、長崎を中心に、九州を寄港地とするクルーズ船商品が人気を集めている。クルーズ旅行は当初、日本と韓国を合わせて訪問する形が多かったが、2017 年以降、中国政府による訪韓制限の影響から、日本の 2 都市を訪問する形が多くなっている。そのため、寄港地は福岡、長崎が依然として主流ではあるが、佐世保、鹿児島、熊本、宮崎などの九州各県や沖縄、それに一部では、広島、高知、神戸、大阪、清水や、境港、舞鶴などの日本海側の都市も寄港地となっている。

■訪日中国人の個人観光旅行は、個人のこだわりを追求する傾向が強い。団体観光旅行と旅行の質(宿泊先、体験など)の面では異なるものの、旅行先自体には大きな違いがなく、東京、箱根、富士山、北海道、関西、沖縄などが人気となっている。また、訪日回数が多いリピーターほど、地方への訪問率が上がる傾向にある。

②中国国内における訪日団体観光旅行の有力市場とその特性

②−1 北京市■都市としての歴史が古く、元、明、清朝の各時代に都が置

かれていたことから、市の中心部には歴史的な建造物が至るところに残る。2008 年に中国初となるオリンピックが開催され、都市のインフラ整備が一気に加速した。中心部や郊外で再開発も進んでいる。中国の都市のうち、北京の一人当たりの GRP(Gross Regional Product 域内総生産額:以下、GRPと省略する。)は第 1 位、北京の都市住民の平均可処分所得は上海に次ぐ第 2 位である。進出日系企業および在留邦人数(8,450人)も多い。

■北京市には、中国の主要旅行会社の総社(本社)が多く、自社で集客・催行するほかに、地方の子会社や関連旅行会社から送客してもらい、ツアーを成立させる場合が多い。中国では全般的に、中小都市の旅行会社が周辺大都市の有力な旅行会社の旅行商品を購入し、客を集めて大都市に送り、ツアーを成立させるという方式がよく見られるが、北京は集客範囲が中国全土にわたっており、特にその傾向が強い。

■政治の中心地であることから、外資系企業や全国規模の企業の本社機能が置かれることが多く、視察を含めた商用やインセンティブによる訪日旅行の需要が多い。2019 年 2月時点で、北京市と日本の間は 9 つの定期航空路線(新千歳、仙台、成田、羽田、中部、関西、広島、福岡、那覇)で結ばれている。ゴールデンルートが主力商品であるが、関東滞在型、関西滞在型、北海道ツアーも人気がある。

■2017 年 5月より、これまでの団体観光査証、個人観光査証、相当な高所得者を対象とする個人観光数次査証、東北 3 県個人観光数次査証、沖縄個人観光数次査証に加え、十分な経済力を有する人を対象とする数次査証の新設や、東北個人観光数次査証の対象地域の 3 県から 6 県への拡大等、発給条件が緩和された。これにより、個人数次査証を取得したリピーター旅行者の増加が顕著となっている。

■季節により、桜観賞ツアー、クルーズツアーなどが人気である。

■中国全土からの訪日個人観光客のうち、北京からの旅行者は 2 割弱を占める。

②− 2 天津市■中国の四つの直轄市の一つであり、華北地方(中国北部地

方)最大の港を有する。北京市の南東約 120km に位置し、2008 年には北京⇔天津間に高速鉄道が開通して、北京までの所要時間は片道約 30 分となった。天津港に隣接する地域には、トヨタ自動車などの有力企業が進出しており、急速な経済成長を遂げている。1 人当たりの GRP は中国国内で北京、上海に次ぐ第 3 位、都市住民の平均可処分所得は第 4 位であった(2017 年)。

■北京市に隣接することから、天津市と北京市の旅行会社は競合関係にあるが、天津の中小旅行会社の中には、北京の大手旅行会社のツアー団に合流させて催行する方式をとっている所もある。

■天津市は都市計画として国際観光産業の振興に力を入れており、クルーズ船の誘致に積極的である。2015 年以降、

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60 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

日本行きのクルーズ船が数多く出港しているが、上海や広州と異なり、地理的要因から、最も航海時間が短い九州のみへのクルーズ船が大半を占める。販売商品は、ゴールデンルートが主力となっているが、クルーズツアーの人気も高い。

■2019 年 2 月時点で、天津市と日本の間は 7 つの定期航空路線(新千歳、青森、成田、羽田、中部、関西、那覇)で結ばれている。

②− 3 遼寧省(省都:瀋陽市、代表的都市:大連市)■北京市の東方から北東方に位置し、中国最北端の海岸を

有し、中国・東北地域の中心となっている省である。緯度は日本の北東北から道央の範囲にある。1人当たりのGRPは中国国内で第 14 位であった(2017 年)。

■東北地域の中心都市である瀋陽市は、「中華人民共和国」が建国されてから、重工業などの国有企業を中心に中国経済の発展を担ってきた。改革開放政策により、大連市など一部の沿岸都市には外国資本・技術がいち早く導入されたが、内陸都市である瀋陽市では外資の導入が遅れると共に、企業の設備や技術が老朽化し、国有企業改革により大量の失業者が出るなど、沿岸都市と比べて経済発展の速度が遅れていた。しかし、2003 年より中国政府が東北振興策を実施したこともあり、2013 年まで経済成長率

(前年比)が 10% を上回るなど、目覚ましい成長を遂げてきた。

■瀋陽市では、早くから訪日旅行需要が多かったため、比較的成熟市場となっている。個人旅行需要も拡大しているが、旅行の流行は北京よりも2 年程度遅れていると言われる。訪日旅行はゴールデンルートが主流の旅行地となっているが、多様化が進んでおり、北海道、沖縄への旅行商品も人気が高い。また、高速鉄道が発達しているため、吉林省や黒竜江省から瀋陽発のツアーに参加する人もいる。

■2019 年 2 月時点で、瀋陽市と日本の間は 3 つの定期航空路線(成田、中部、関西)で結ばれている。

■大連市は、東北地域の輸出入拠点としての立地を生かし、東北地域ではいち早く経済発展を遂げてきた。日系企業の進出が盛んであり、在留邦人(4,840人)も多い。旅行分野では、訪中日本人の受け入れ実績が豊富な旅行会社が多いこともあり、訪日ツアーの催行にも熱心である。

■大連市は古くから知日的な都市であるため、日本の旅行先は、ゴールデンルートの他に、東京滞在、北海道、中部横断(石川、岐阜、長野、静岡、東京)など、多様である。中国・東北地域において、訪日旅行の流行の先端を行っている。

■2019 年 2 月時点で、大連市と日本の間は 7 つの定期航空路線(成田、富山、中部、関西、広島、北九州、福岡)で結ばれている。

②− 4 山東省(省都:済南市、代表的都市:青島市)■北京市の南方から南東方、上海市の北西方から北方に位

置し、黄海と渤海に面した省である。1 人当たりの GRPは中国国内で第 9 位であった(2017 年)。

■中国屈指の経済力がある山東省の中心都市である青島市は、天然の良港を有し、外資系企業が数多く進出しており、経済成長が著しい。

■訪日旅行を取り扱う旅行会社自体は少ないものの、煙台市や威海市などの都市も吸収しながら、送客実績を上げている。旅行の流行は北京よりも2年程度遅れていると言われる。

■訪日旅行に関しては、ゴールデンルートの他に、「ゴールデンルート+北海道」、「ゴールデンルート+福岡」の旅行商品が主流となっている。個人旅行者の増加に伴い、関西滞在型、関東滞在型なども人気が高い。

■2019 年 2 月時点で、青島市と日本の間は 4 つの定期航空路線(成田、中部、関西、福岡)、煙台市と日本の間も 4つの定期航空路線(静岡、中部、関西、福岡)で結ばれている。済南市と関西空港の間にも定期航空路線がある。

②− 5 上海市■中国経済の中心地、世界有数の経済都市である。都市住

民の平均可処分所得は中国国内トップ、1 人当たりの GRPは北京市に次いで国内第 2 位であった(2017 年)。進出している日系企業や在留邦人も多く、日本との経済交流の中心地域であると言える。

■上海市旅游局の統計によると、市内旅行会社が手配した2017 年の出境旅行者数は 544.9 万人であった。

■上海市は訪日旅行に関して、旅行の流行の先頭を走っている。また、個人旅行化が非常に進んでいる。

■日本国内の旅行先は、東京、関西、北海道、沖縄、九州、東北など、各方面にわたっている。

■流通している旅行商品のジャンルは、価格に値頃感があることもあって、桜・紅葉観賞ツアーやクルーズツアーをはじめ、多岐にわたっている。

■2019 年 2月時点で、上海市の浦東空港と日本の間は 21の定期航空路線(新千歳、花巻、仙台、茨城、成田、羽田、新潟、富山、小松、静岡、中部、関西、岡山、広島、高松、松山、福岡、佐賀、長崎、鹿児島、那覇)で結ばれている。また、上海市の虹橋空港と羽田空港の間にも定

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 61

韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

期航空路線がある。

②− 6 江蘇省(省都:南京市)■上海市の北方から北西方に位置している。省都である南京

市をはじめ、蘇州市、無錫市などへ外資系企業が多数進出しており、経済成長が著しい地域である。1 人当たりのGRP は中国国内第 4 位、都市住民の平均可処分所得は第 3 位であった(2017 年)。

■近年、個人旅行化が進んでいるが、旅行の流行は上海よりも1 年〜 2 年遅れていると言われる。

■2019 年 2 月時点で、南京市と日本の間は 5 つの定期航空路線(新千歳、成田、中部、関西、那覇)で結ばれている。また、無錫市と関西空港、揚州市と関西空港、南通市と関西空港の間にも定期航空路線がある。

②−7 浙江省(省都:杭州市)■上海市の南方から南西方に位置している。中小企業経営

者などを中心に、購買力の高い富裕層が多く居住している。1 人当たりの GRP は中国国内第 5 位、都市住民の平均可処分所得は第 5 位であった(2017 年)。

■浙江省旅游局の統計によると、省内旅行会社が手配した2017 年の出境旅行者数は 243.9 万人であった。訪日旅行者数は 2017 年に 49.2 万人で、タイ、ベトナムへの旅行者に次いで第 3 位となっている。

■杭州市を中心に個人旅行化が進んでいるが、旅行トレンドは上海よりも1 年〜 2 年遅れていると言われる。

■2019 年 2 月時点で、杭州市と日本の間は 6 つの定期航空路線(旭川、新千歳、成田、静岡、関西、那覇)、寧波市と日本の間は 3 つの定期航空路線(静岡、中部、関空)で結ばれている。

②− 8 広東省(省都:広州市)■広東省は人口が 1 億人を超える中国最大の省であり、華南

地区の政治・経済の中心地である。省の中央部・珠江デルタを中心に、広州をはじめ、深圳、東莞、仏山といった大都市がある。1 人当たりの GRP は中国国内第 7 位、都市住民の平均可処分所得は第 6 位であった(2017 年)。

■広東省は「広東文化」の中心でもあり、省内では多くの人が「普通語」とは異なる「広東語」を話している。隣接する香港特別行政区の広東語によるテレビ番組も、広東省の一般家庭で広く視聴されているため、香港からの情報流入が多く、流行も香港のそれと似通う傾向が強いのが特徴である。

■訪日旅行に対する広東省住民の関心事の一つとして、「雪

に対する強い憧れ」が挙げられる。雪が珍しい広東省では、冬に北海道へ行って雪を見る旅行商品の人気が高い。旧正月の連休に合わせて、毎年、チャーター便を利用した北海道へのツアー商品が定番化している。

■年間を通じて、白川郷を中心とした中部(昇龍道)へのツアー商品が増加している。

■2018 年 9 月に、深圳⇔香港間を結ぶ広深港高速鉄道が開通した。また、2018 年 10 月に、広東省珠海と香港・マカオを結ぶ海上大橋「港珠澳大橋」が開通した。これらにより、広東省の珠江デルタ一帯から香港空港へ行きやすくなった。

■訪日旅行の特徴について考える場合、「広州および深圳」の 2 都市と「その他の都市」とで分けて考える必要がある。

■「広州および深圳」の 2 都市は、団体旅行、個人旅行とも、新しい旅行商品の造成意欲・造成能力が高い旅行会社が多い。訪日旅行の行き先は、従来から人気のある東京⇔大阪間のゴールデンルートや北海道だけでなく、沖縄、九州、中部(昇龍道)、さらには東北などへの分散化が進んでいる。深圳と香港の間の交通便は便利で、香港からの航空路線は充実しているため、深圳の旅行会社は香港発着便を利用する旅行商品を数多く造成している。訪日旅行の多様化の一助となっている。

■「その他の都市」は、広州や深圳ほど旅行地の分散化が進んでいない。訪日旅行商品は、ゴールデンルートと北海道

(特に冬季)が主流であるが、中部(昇龍道)への旅行商品の造成も増加している。東莞や中山から香港空港への交通便も便利であるため、香港発着便を利用した旅行商品も積極的に造成されている。

■広東省の弱みとしては、北京・上海と比較して日本との間の航空路線が少ないことである。2019 年 2 月時点で、広州市と日本の間は 4 つの定期航空路線(成田・羽田・中部

(上海経由)・関西)、深圳市と日本の間は 2 定期航空路線(成田・関西)で結ばれている。航空路線の拡充が今後の課題である。

2 旅行に対する一般消費者の考え方■中国では、経済発展により所得が上昇したこと、ビザの緩

和、海外旅行料金も価格競争で下がったことなどから、中国人が旅行へ出かけやすくなってきている。国内のインフラも高速鉄道網や空港・航空路線網が整備され、オンライン予約の普及、格安航空券の流通増などを背景に、行き先の遠距離化や多様化が促進され、国内外を問わず、旅行需要が拡大してきた。

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62 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

■中国の人口(2017 年末)は 13 億人 9,008 万人で、このうち休日に外国旅行ができる人々は中間所得層以上となる。調査会社「ユーロモニターインターナショナル」の調査によると、2017 年の世帯当たりの年間可処分所得が 1万米ドル以上を記録したのは、全世帯の 57.1%であった。

■中国では都市と農村の格差が大きいため、家族で外国旅行に繰り返し行ける人は、都市の住民が中心となる。2017年の全人口のうち、都市部の常住人口は 8 億 1,347 万人、農村部の常住人口は 5 億 7,661万人であった。

■訪日旅行の誘致対象は、この 8 億人超の都市住民のうち、中間層以上の人 と々なる。今後も、この層の人々は増加するものと推測される。

■中国人にとって旅行とはどんな存在か、何を目的とするのかを交わす言葉がインターネット上にあふれている。中国人がよく利用する情報共有サイト「知乎(ジーフー)」「豆瓣(ドウバン)」「捜狐(ソウフー)」やその他の旅行情報共有サイトなどで「人はなぜ旅をするのか」を中国のウェブサイトで検索すると、一度に 20 以上のウェブサイトと共に、数百単位の書き込みがある。多く見られるキーワードは、未知の空間に身を置くこと、美しい風景や各地の人々の暮らしに触れ、大自然に囲まれて温泉やその土地のものを味わい体験すること、動物などの生き物との出会い、安全でくつろげる空間で家族や友人と旧正月や夏休みなどに記念の時間を過ごす、未知の自分を発見する、など多岐にわたる。旅慣れた人の投稿があったり、日本に数年住んでいる中国人学生が、訪日する中国人のために旅のアドバイスをしていたりする例もある。

■一時大ブームとなった買物や、限定的な有名観光地をお仕着せで回るツアーでは窮屈な思いをしたと発言した人も多かった。

■こうした志向を受けて、旅行業者のウェブサイトには、「自由行」(航空券とホテルを予約し、それ以外は自分で行程を決めることを楽しむ自由旅行型パッケージツアー)の訪日旅行商品が豊富に揃えられている。

■中国人にとって旅行の意義付けは、行き先で様 な々体験すること自体を価値と考えるように変化している。特に治安面で安心な日本は、小さな子供連れの家族旅行をする人も多い。未就学児を連れていく場合でも、日本は、子供に見聞を広めさせると同時に、外国旅行とはいえ生活環境が近いという意味で、大人も子供もリラックスして楽しめる行先になっている。

3 一般消費者の志向の変化①生活の安定志向■近年、中国の一般消費者の間では、堅実で安定した生活

を望む傾向が見られる。経済成長が鈍化している上、住宅・教育への経済的負担の増大や、高齢化社会の進行による老後の生活設計への注目の高まりなどがその背景にあると考えられる。それゆえ、生活面で安定性のある公務員が就職先として注目され、2018 年の国家公務員試験は、競争倍率が過去最高の 4,000 倍と報じられた。

■サラリーマンも安定した職業形態と考えられており、世帯年収も高い。2017 年 12 月に中騰信金融信用信息服務(上海)有限公司と中国家庭金融調査与研究中心(CHFS)が共同で発表した「中国工薪階層信貸発展報告」*1(サラ リーマン層のクレジットの発展状況をビッグデータから分析したレポート)によると、中国のサラリーマンの平均世帯年収は 251.6 万円(15.4 万元)で、非サラリーマン世帯の平均世帯年収 129.1万円(7.9 万元)の約 2 倍多い。それがゆえ、サラリーマン層は訪日旅行の有望層と位置付けられる。

*1:… 「中国工薪階層信貸発展報告」… …http://www.askci.com/news/finance/20171228/…090620114937.shtml

②スマートフォンの普及■中国では近年、固定電話の契約数が減り続けており、2015

年には 2 億 3,097 万件と、2011 年から約 5,000 万件減少した。一方、携帯電話(スマートフォンを含む)の契約件数は、2015 年には 13 億 574 万件で、2011 年の 9 億 8,600万件と比べて、普及率は 21.1ポイント高い 93.2% を占め た。*2

■スマートフォンは2010 年代に、情報収集や通信のみならず、ショッピングの決済手段としても不可欠な存在となった。経済産業省が2018 年 4月に発表した「キャッシュレス・ビジョン」によれば、世界各国のキャッシュレス決済比率のうち、日本は 18.4% と少ないのに対し、中国では 60.0% と高くなっており、訪日旅行中にスマホなどによるキャッシュレス決済を希望する中国人旅行者は同程度かあるいはさらに多いと考えられる。

■観光庁の「訪日外国人消費動向調査」(2017 年)によると、訪日旅行をする際も、「中国人観光客が訪日旅行中に役立った旅行情報源」として、スマートフォン(70.9%)が第 1位を占めた。

■スマートフォンの普及と共に、モバイル通信規格が「3G」、「LTE」、「4G」へと進化してきた。世界に先駆けて「5G」の

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 63

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第1章 外国旅行の動向

普及も図られている。通信の高速化・大容量化により、動画や音楽の視聴、一般ユーザーのブログ・SNS(旅行関連を含む)への投稿や閲覧などが増加している。旅行情報の収集も、旅行サイトの数から利用者の多さが計り知れる。

■中国の携帯電話・スマートフォンは、SIMフリーになっている。SIM カードの差替も自由にできることから、外国旅行の際にも、旅行先で使える仕様の SIM カードを購入して、個人のスマートフォンでインターネットに接続している人も多い。

■日本の大手携帯通信会社の回線を利用する SIM が旅行者向けに多種販売されているので、外出先ではそれを使用してデータ通信によるネット閲覧、チャットや通話を利用する人がいるほか、Wi-Fi ルーターをレンタルしたり、Wi-Fi環境がある場所ではそれを使用したりして、旅行先での通信手段を確保している人が多い。

*2:… ITU…World…Telecommunication/ICT…Indicators…Database,…2016

③動画共有サイトの人気■中国では、様々な情報をインターネット上の記事や動画共

有サイトから得ることが日常となっている。年代を問わず、映画やテレビドラマは「土豆網(www.tudou.com)」、「優酷網(www.youku.com)」などの人気動画共有サイトで鑑賞するのが一般的である。「愛奇芸(www.Aiqiyi.com)」などの動画サイトでは、放映権を取得して最新映画などを配信している。

■世界的な動画共有サービスの(YouTube)ユーチューブや、日本のニコニコ動画などは、中国政府による検閲の対象となっており、中国国内からはアクセスできない。また、Facebook(フェイスブック)、LINE(ライン)、Twitter(ツイッター)は、中国では基本的に使えない。

④日常的な SNS の活用、モバイル決済(スマホ決済)■中国で一般消費者に特によく使われているSNSは、「微博(ウェイボー)」と「微信(ウィーチャット)」である。微信の運営会社である騰訊(テンセント)が 2018 年 6 月末に発表した結果によると、2018年3月末時点での微信(ウィーチャット)のアクティブな利用者数は 10 億 5,800 万人に上った。スマートフォン利用者の大半が利用していることになる。こうした SNS は、訪日旅行の誘致活動を展開する上で考慮すべき対象と言える。

■中国人は SNS を日常的に利用している。特によく使われているSNS のチャットアプリ微信(ウィーチャット)は情報収集・情報交換の手段としてのみならず、微信支付(ウィーチャットペイ)というキャッシュレス決済システムも利用で

き、注文や決済を行う手段としての利用も広まっている。キャッシュレス決済のアプリとしてはアリババ社が運営する支付宝(アリペイ)もよく使われている。

■モバイル決済*3 は、中国で最も広く使われているデビットカード「銀聯カード」の普及により、デビットカード機能が普及した延長線上にある。携帯電話の番号と個人情報が結び付き、信用情報のデータベースと瞬時に照合されるため、商品の代金支払いだけでなく、タクシーやホテルの予約、シェア自転車の貸し出し、ビジネス上の仕入代金の融資なども即時にできるなど、社会生活全般に浸透している。

■中国で広く利用されているモバイル決済は、アリペイ(支付宝)とウィーチャットペイ(微信支付)である。これらの決済サービスは、スマートフォンの種々のアプリと連動し、飲食、買い物、公共サービスなどの場面でも支払いが現金を使わずにできる。

■モバイル決済は、日本でもコンビニなどを中心に利用できる場所が増えてはいるが、幅広く利用できないことから、訪日中国人が日本滞在中に不便さを感じる場面が多いと思われる。モバイル決済ができる環境を整えることが求められている。

*3:… モバイル決済には、スマートフォンの画面に表示されるバーコードやQRコードを店頭に設置した機器で読み取って決済する方法や、消費者が店頭に設置されたQRコードを読み取って、支払金額を指定し決済する方法などがある。

⑤自動車の普及、旅行中の車での移動の需要増■自動車の個人所有が普及し、自家用車で旅行する人が急

増している。中国汽車工業協会によると、中国の 2017 年の自動車販売台数は約 2,842 万台で、世界 1 位を維持した。100 世帯当たりの保有台数は 2016 年末時点で 37台、都市部では 70 台を超えている(中国公安部交通管理局)。

■中国では近年、都市部の地下鉄や、都市間の高速道路・高速鉄道が整備されつつある。しかし、都市近郊では公共交通網の整備が途上段階にあり、近郊から都市部に通勤する際は自家用車を利用する人が多い。

■運転中には、カーラジオやスマートフォンでラジオを聞く人が多く、一部の旅行会社では、通勤時間帯に広告を流している。ラジオは有力な広告媒体の一つである。

■中国は国際免許証の条約(ジュネーブ条約、ウィーン条約)に加盟しておらず、日中間には相互の国の国際免許証が有効となる協定などもないことから、中国人は中国の運転免許証を使って、日本国内でレンタカーなどの自動車を運転することができない。しかし、自動車での移動を望む個人旅行者が増えているため、中国系の旅行会社がオンライン広告を使って、運転手付きの自動車を手配する旅行商品を

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64 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

販売している。

4 気候 ・風土が外国旅行に与える影響■広大な中国には多様な自然が散在するため、外国旅行の

行先としてどこを選ぶかは、住んでいる場所の気候・風土の影響は一定程度ある。

■中国は草原、砂漠、山岳、湖、川などの様々な自然環境と、1万 4,000 km を超える海岸線を擁している。東西、南北とも距離が長く、地形が各地で大きく異なる。気候は、東部が温暖で雨が多い海洋性気候、西部が昼夜や年間の高低差が大きい乾燥した内陸性気候であり、また、最北端が寒帯、最南端が熱帯となっている。気候や風土の違いが、衣食住の面で多様な生活様式をもたらしてきた。

■冬期に気温が氷点下となる北京などの華北地域や、ハルビン・瀋陽 ・大連などの東北地域では、温暖な気候の東南アジアなどが人気であるのに対し、年間を通して温暖な広東省などの華南地域では、夏に涼しい環境を求めて、また冬に憧れの雪を求めて、北海道などへの旅行が人気である。

■中国には歴史的名勝地や世界遺産が多い。ただし、外国の名勝地や世界遺産は中国のものとは異なる文化に触れることができるため、魅力を感じる。

■2000 年代以降、国内の高速道路や高速鉄道が発達したことにより、自然環境を利用して新たに観光開発が進められた地域へ、多くの国内観光客が足を運ぶようになっている。

■都市に住む中国人にとっては、美しい自然の中で過ごしたいという要望が一般的に強い。外国旅行の行先を選ぶ際に、美しい自然の有無が意思決定に影響を与えることがある。

■中国では、西部地方を除くと地震が少なく、地震に慣れていないため、大きな震災が発生した際には、該当地への旅行を取りやめることがある。

5 外国旅行の旅行形態別特色①個人旅行■中国人の個人旅行が認められている主な国と地域は、香

港、マカオ、タイ、シンガポール、豪州、ニュージーランド、ヨーロッパ諸国、米国、韓国、台湾、日本などであるが、一部の東南アジア諸国を除き、入国には査証が必要となる。査証の取得条件などは各国により異なるが、個人旅行が進んでいる東南アジア諸国以外にも、韓国、台湾、米

国などは中国人に対する査証取得手続きの緩和を進めており、その影響もあって、中国人の個人旅行需要が拡大している。

■口コミによる情報拡散力が強い中国では、中国語版旅行専門サイトの旅行体験記が充実しており、個人旅行に関する実用的な情報としてよく参考にされている。旅程を自動的に組んでくれるアプリの登場も、個人旅行者増の背景として挙げられる。

■日本で個人旅行をする場合、個人観光査証を取得するのが一般的であるが、査証発給の条件として、一定の経済力を有していることが必要となる。また、査証制度上、事前に宿泊先や行程を決めておくことが求められる。訪日旅行はかつて手配旅行が主流であったが、現在では個人観光査証の取得と、航空券、ホテルがセットになったパッケージの個人旅行商品が充実していることから、多くの訪日個人旅行者に利用されている。

■個人観光査証の範囲内で、または個人観光査証を取得せず別の査証を取得して自由に訪日個人旅行をすることも、場合によっては可能である。2011年以降発給されている数次の個人観光査証は、同査証の有効期限内に 2 回目以降の訪日旅行をした場合、旅行会社を通さなくても自己手配による旅行が可能となる。また、商用査証、親族訪問査証を取得して訪日し、個人で観光旅行をする人もいる。

■個人観光査証は 2009 年 7月に導入されてから、条件が数回にわたって緩和されてきた。訪日旅行の需要が多く、旅行内容の多様化が進んでいる北京、上海、広東省を中心に、訪日個人旅行の需要が拡大していることもあり、2016年には訪日中国人観光客の個人、団体の旅行形態が逆転した。今後も、個人旅行者の割合の増加と、数次査証を用いたリピーターの増加が予想される。

②パッケージツアー(団体旅行)■個人旅行が増加傾向にあるものの、個人旅行査証の取得

の難しさや旅行経費、言葉の不安などの問題から、団体旅行にも一定のニーズがあり、特に内陸の地方都市では団体旅行の割合が高い。

■中国人が旅行地を決める際に最も重視するのは、一般的には旅行商品の価格と旅行地の知名度である。そのため、有名な都市や訪問地への関心は高いが、旅行の詳しい内容については深い関心を示さない人もまだ多く見られる。

■訪日旅行に関して言えば、一般的な団体旅行の形態は、およそ 20人〜 40人程度の人数で組織される。個人観光査証の取得条件を満たさない場合は団体旅行に参加せざるを得ないため、必ずしも言葉や価格の問題だけで団体旅行

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 65

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第1章 外国旅行の動向

を選択しているとは限らない。■日本の査証制度上、旅行中に添乗員がいない自由行動は

認められていない。全行程に添乗員が付くことから、個人旅行とは異なり、事前に旅行情報を収集することは少ない。

■ツアーの中に知名度の高い観光地が最低限含まれていれば、個々の旅行地にそれほど深い関心を示さない人が多い。

■中国で販売されている訪日パッケージツアーは、ゴールデンルート(東京⇔大阪間)、北海道、沖縄などの知名度が高い旅行地が主流を占めている。ツアーの日程は、ゴールデンルート、北海道で 5 泊〜 6 泊、沖縄で 3 泊〜 4 泊である。リピーターを対象とした九州、中部(昇龍道)などへのツアーも、販売数が増えている。

■ショッピングを目的とする東京や大阪など大都市滞在型のツアーは、個人観光査証の条件緩和により、パッケージツアーとしての販売が下火になっている。代わって、ショッピングを主目的とせず、少人数でベテランの添乗員が同行する上質なツアーや、体験型の観光魅力を含む親子旅行などに人気が出ている。

③クルーズ旅行■クルーズ旅行は、クルーズ船の華やかな雰囲気やショー、

カジノといった船内活動を楽しめることと、一度に複数の国や都市を回れるお得感や、荷物の重量制限がなく大量に買い物ができることなどから、中国で定番の旅行形態となりつつある。

■訪問先は、日本、台湾、香港、タイ、マレーシア、シンガポールなどの近距離が主流である。クルーズ旅行といっても、日本でイメージするような富裕層向けというよりかは、中流層向けのカジュアルクルーズが主流である。

■中国から日本へのクルーズ旅行は、九州・沖縄を中心に、1カ所ないし2カ所に寄港する4日間〜6日間の団体ツアーが主流を占めている。出発地は、上海、天津、アモイ(厦門)が多く、そのうち上海が全体の約 6 割を占めている。大連、青島、温州や、深圳、南沙などの広東省から出港するクルーズもある。

■中国から日本へのクルーズ船の航路は、クルーズ船運航会社である「コスタクルーズ社(本社イタリア)」が最初に開拓し、現在では、「ロイヤル・カリビアン社(本社米国)」、「プリンセス・クルーズ社(本社米国)」、「スタークルーズ社(本社香港)」など、多くのクルーズ船運航会社が参入している。

■中国から日本へのクルーズ船は、2017 年から訪韓旅行商品の販売が制限されるようになった。それまでは韓国 1港と日本 1 港の組み合わせで運航されるのが一般的であっ

たが、日本のみに寄港するルートとなり、福岡、北九州、佐世保、長崎、熊本、鹿児島、宮崎などの九州各都市への寄港が多い。

■広東省やアモイを出港するクルーズ船は、距離が比較的近い沖縄県各地(沖縄本島の那覇と中城湾、宮古島の平良に寄港するルートが主流である。

■大阪、神戸、境港、舞鶴、高知、広島、清水、横浜などへ寄港する7 泊や 8 泊の長距離クルーズツアーも販売されている。クルーズ船が上陸した後、旅行者は通常の団体ツアーと同じく、観光や買い物などを行う。寄港地でのツアーの所要時間は 5 時間程度で、宿泊は全て船中泊、航行は夜間に行う。

④商用旅行■外国への商用旅行は純粋な商用の場合もあるが、商用を

理由とした観光旅行の場合も多い。最先端の工場・施設や環境技術のほか、福祉施設・高齢者施設への関心も高いと言われる。商用旅行の場合、商用査証を取得するために、受入機関から「招請状」と「身元保証書」をそれぞれ入手する必要がある。

■公務員による公務旅行は、1990 年代後半以降、視察に名を借りた外国観光旅行が社会問題化し、随時、適正な運用を図るよう中国政府から通達が出されてきた。特に、2012 年秋に発足した習近平体制は「腐敗防止」を掲げ、その一環として導入された倹約令の影響として、外国を含む出張等が厳しい査定を受けていることなどから、現在では公務出張が大幅に減少している。

⑤インセンティブ旅行■中国におけるインセンティブ旅行の主流は、企業が取引先

や顧客を対象に実施する「招待旅行」に加え、優秀社員への「報奨旅行」や、福利厚生の一環とも言える「社員慰安旅行」がある。

■インセンティブ旅行は、習近平政権による公務員の外国出張が厳しく査定される中、特に政治に敏感な北京市を中心に減少傾向にあるが、訪日インセンティブ旅行については例外で、むしろ増加傾向にある。

■中国企業であれ、外資系企業であれ、インセンティブ旅行は業種を問わず幅広く実施されている。ただし、日本の査証申請手続きが煩雑であるとして、インセンティブ旅行を計画する段階で日本が避けられ、他国が選ばれることもある。

■訪日インセンティブ旅行の催行人数は、10人〜数十人程度であることが多い。行き先は、企業訪問や先進技術を用い

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66 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

た工場等を行程に入れることが多い。コースとしてゴールデンルート(東京⇔大阪間)がよく選ばれるが、北海道、沖縄、九州も人気がある。

■訪日インセンティブ旅行を少人数で実施する場合は、会社が旅行費用の全額を負担するか、一部を補助して一般の団体ツアーに参加することが多い。

■訪日インセンティブ旅行の実施時期は、航空券が値上がりするハイシーズンを避け、5月、9 月、11月に多く見られる。

⑥教育旅行■教育旅行の誘致は、将来的な訪日旅行のリピーターにつな

がるという観点から注目されている。■中国の教育旅行は、日本のように学校の正式な行事として

実施されるのではなく、休暇期間中に自由参加の形式で行われることが多い。中国人は伝統的に教育熱心であり、かつての一人っ子政策の影響で、一人しかいない子供への投資を惜しまない傾向があるため、教育旅行へ参加させる家庭が増えている。

■英語研修を目的とする教育旅行では、米国、英国、豪州などの英語圏を選択することが多く、夏休みを利用して期間が 2 週間程度と長い。将来の留学に向けた事前体験として参加する場合もある。

■近距離では、日本、韓国、シンガポールなどへの教育旅行が多い。実施期間は 5 日間〜 8 日間程度となる。一般的な傾向として、シンガポールへの教育旅行の場合は英語学習を目的としているが、日本や韓国への教育旅行の場合は、観光に加えて、学校交流や学習プログラムが組まれる。

■訪日教育旅行は、日本の安全なイメージから保護者に好まれる。日本人のマナーや礼節を学ばせたいという保護者も多い。

■日本では 2008 年10月から、「中国人修学旅行生に対する査証免除措置」が開始されているが、通常の団体観光査証で実施されることも多い。

■参加人数を確保するため、複数校から参加者を募るのが一般的であるが、1 校単独で実施する学校もある。訪問先の決定は、学校長など教育旅行を主催するキーパーソンの意向によるところが大きい。

■学校交流では給食体験の人気が高い。学校交流以外にも、中国の環境や食品安全の意識向上により、環境関係施設や農業生産法人の見学など、学習的要素が重視される。学校交流が以前は必須項目であったが、学校交流がない場合も増えている。

■日本側の受入校が見つからないために、学校交流を断念することもあるため、円滑に交流先を紹介できれば、地方

に教育旅行を誘致する上で大きな訴求要因となり得る。■習近平体制による倹約令の影響は、公務員である公立の

学校長をはじめ、教員にも浸透しており、公立校では、日本を含む外国への教育旅行を新たに開始することが以前に比べて低調になってきている。

■学校だけでなく、学習塾や囲碁教室が教育旅行を実施することもある。

⑦テーマ旅行(スペシャル・インタレスト・ツアー:SIT)■中国人の出境旅行経験が豊富になるにつれ、特定のテー

マを持った旅行も増えてきている。主なテーマパークを複数巡るツアーや、ヒット映画のロケ地訪問、美食、美容などが該当する。

■外国での本格的なスキー旅行需要が年々伸びている。その他にも、ゴルフ、マラソン、スキューバダイビングなどのスポーツ旅行や、人間ドックなどの医療観光への関心も高い。

6 日本の競合旅行地①タイ主な観光魅力■ビーチリゾート(プーケット、パタヤ、クラビー)■食事■異国情緒(バンコク)■中国ヒット映画の撮影地(チェンマイ)■物価の安さ観光インフラ■アジア屈指の観光大国であることから、観光地を中心に簡

単な英語が通じ、個人旅行をする際に言語面での不満がそれほどない。ビーチリゾートでは中国語メニューが整備されている。

■タイの査証取得は比較的容易であり、タイに空路・陸路で到着した時点で査証を取得することも可能である。

■バンコクのコンビニでは、中国で普及している電子決済サービスのアリペイ(Alipay、支付宝)やウィーチャットペイ

(WeChatPay、微信支付)の利用が可能な店舗が多い。マイナス要素■2018 年 7月にプーケットで、中国人を乗せた遊覧船が転覆

し、40人以上が死亡した。安全性の問題から、タイ旅行を選択しない人が一部にいる。

政府観光局による外客誘致活動■中国国内 5 都市(北京、上海、広州、成都、昆明)に事

務所を設置し、インターネット、SNS などを通じて大規模

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 67

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第1章 外国旅行の動向

な広告・宣伝を展開している。■中国で知名度の高いタイ人の人気芸能人を起用し、タイの

観光イメージの向上を目指したテレビ CM など実施している。

■中国の旅行会社を対象とした大型セミナーに重点を置いた誘致活動を展開している。

②韓国主な観光魅力■ショッピング■美容、エステ■韓流ドラマ、K-POP■四季の魅力(桜、紅葉)観光インフラ■韓国の主な繁華街に観光案内所を設置し、中国語での案

内を行ったり、地下鉄等では中国語案内を整備したりして、中国人観光客の受入体制を積極的に整えている。

■韓国の観光査証は、旅行会社に提出する財産証明等、個人の経済能力を証明する資料が不要とされるなど、取得が比較的容易である。また、済州島のみを旅行する中国人に対する査証免除措置と、日本や米国などの有効な査証を保持している韓国経由の中国人乗継客に対する査証免除措置を講じている。

マイナス要素■2017 年 3 月以降、高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備

をめぐる中韓両政府の対立の影響で、中国の旅行会社は韓国行きの団体旅行の販売を中止した。2018 年 6 月より徐々に団体旅行を再開しており、2018 年暦年では 2017 年の訪韓中国人数を上回ったものの、以前の水準まで戻っていない。

政府観光局による外客誘致活動■上記のマイナス要素から、以前のようなテレビ、インターネッ

ト、雑誌などを通じた広告・宣伝や、人気芸能人の起用などは、大々的に行われていない。

③欧州主な観光魅力■異国情緒■世界遺産■数カ国周遊■先進国への文化的憧れ観光インフラ■有名観光地での多言語表記は進んでいるが、街中での中

国語の案内表示は不十分である。

■パリなどショッピングで有名な都市では、アリペイ(Alipay、支付宝)やウィーチャットペイ(WeChatPay、微信支付)での決済を導入し始めている。

■春節の時期には、春節キャンペーンをするデパートもある。■物価の高さが障壁となっているが、直行便の新規就航や、

旅行商品の価格の低下などにより、訪日旅行商品との価格差が縮まり、以前に比べて訪れやすくなってきている。

マイナス要素■欧州までの飛行時間が長く、旅行日数がかかる。■価格が下がったとは言え、旅行商品は高額であり、現地の

物価も高い。■欧州各地で発生したテロの影響はさほど大きくない。政府観光局による外客誘致活動■各国の政府観光局が誘致活動を行っているが、SNS 等で

多くのフォロワーを持ち、特定層への情報発信に影響を与えるKOL(キーオピニオンリーダー)よりも、テレビ、雑誌、ウェブサイトなど、幅広い層が接触する媒体を活用して誘致宣伝活動を行う傾向がある。

■メディア招請を積極的に展開している。

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68 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

7 訪日旅行の価格競争力北京発出境ツアー価格比較表

旅行地 旅行日数 価格(中国元)

価格(日本円)

米国(東海岸・西海岸・ハワイ全景品質の旅) 15 16,650 272,061エジプト・トルコ(全景の旅) 14 14,000 228,760ブラジル・アルゼンチン(全景の旅) 13 38,000 620,920豪州・ニュージーランド(高品質ツアー) 12 23,000 375,820スペイン・ポルトガル 11 16,000 261,440英国・アイルランド(定番ツアー) 11 18,000 294,120タイ・シンガポール・マレーシア(全景の旅) 11 3,600 58,824フランス・イタリア・スイス(定番ツアー) 10 8,500 138,890米国(東海岸・西海岸定番ツアー) 10 14,000 228,760トルコ・ギリシャ(文化の旅) 9 20,000 326,800

★ 日本(ゴールデンルート、北海道 温泉グルメの旅) 8 9,000 147,060台湾(島巡り定番ツアー) 8 4,200 68,628ベトナム・カンボジア(古都探訪の旅) 8 5,500 89,870ロシア(モスクワ・サンクトペテルブルク) 8 7,500 122,550

★ 日本クルーズ(福岡・長崎) 7 5,500 89,870タイ(プーケット) 7 4,500 73,530

★ 日本ゴールデンルート(東京・大阪) 6 6,500 106,210★ 日本(北海道 温泉美食の旅) 6 8,000 130,720

モルディブ 6 13,900 227,126バリ島 6 4,980 81,373タイ(バンコク・パタヤ) 6 3,500 57,190

★ 日本(東京) 5 4,500 73,530★ 日本(九州) 5 5,000 81,700★ 日本(中部・昇龍道) 5 9,000 147,060★ 日本(沖縄) 5 4,500 73,530

香港・マカオ(定番ツアー) 5 3,200 52,288韓国(ソウル・済州) 5 3,000 49,020韓国(済州島周遊) 4 2,400 39,216

注:2018年 8月時点。★は訪日ツアー。1中国元= 16.34 円で算出(2018年 10月 10日時点のレートで換算)

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 69

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第1章 外国旅行の動向

上海発出境ツアー価格比較表

広東省発出境ツアー価格比較表

旅行地 旅行日数 価格(中国元)

価格(日本円)

米国・カナダ(全景) 14 25,300 413,402フランス・イタリア・スイス 10 10,000 163,400英国 10 14,000 228,760ニュージーランド北島 9 13,300 217,322米国西海岸 9 10,000 163,400台湾(全島) 8 5,000 81,700豪州グレートバリアリーフ 8 12,800 209,152バンコク・パタヤ(豪華) 6 3,480 56,863バリ島 6 5,000 81,700グアム 6 5,500 89,870

★ 日本(東京・富士山・大阪) 6 6,200 101,308★ 日本(豪華) 6 11,000 179,740★ 日本(東京・北海道) 6 8,500 138,890

韓国 5 2,900 47,386シンガポール 5 5,000 81,700

★ 日本(東京)個人観光 5 3,500 57,190★ 日本(九州) 5 4,800 78,432★ 日本(中部・昇龍道) 5 9,000 147,060★ クルーズ(福岡) 5 4,500 73,530★ 日本(沖縄) 4 5,000 81,700

注:2018年 8月時点。★は訪日ツアー。1中国元= 16.34 円で算出(2018年 10月 10日時点のレートで換算)

旅行地 旅行日数 価格(中国元)

価格(日本円)

米国・カナダ 16 12,000 196,080欧州(英国・フランス・スイス・イタリア等周遊) 12 9,900 161,766米国東海岸 12 9,000 147,060米国西海岸 10 7,500 122,550英国 10 11,000 179,740ロシア 10 6,000 98,040豪州 8 12,000 196,080

★ 日本(東京、東北、北海道) 7 9,000 147,060★ 日本(ゴールデンルート、北海道) 7 9,600 156,864★ 日本(ゴールデンルート) 6 5,500 89,870

ドバイ 6 4,500 73,530タイ(バンコク、パタヤ、アユタヤ) 6 2,500 40,850タイ(プーケット、ピーピー島) 5 2,700 44,118

★ 日本(九州) 5 4,200 68,628★ 日本(沖縄) 5 5,500 89,870★ 日本(中部・昇龍道) 6 6,380 104,249

韓国 5 販売なしモルディブ 5 11,000 179,740シンガポール・マレーシア 5 2,200 35,948台湾 5 4,200 68,628韓国(済州島) 4 販売なし

注:2018年 8月時点。★は訪日ツアー。1中国元= 16.34 円で算出(2018年 10月 10日時点のレートで換算)注:広東省では、2017年 3月以降、2019年 2月時点までの間、訪韓ツアーが販売されていない。

Page 13: 外国旅行の動向 - Japan National Tourism …中国 第 1章 外国旅行の動向

70 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

訪日ツアーの価格帯■訪日ツアーの価格は他のアジア諸国に比べて高く、ヨー

ロッパ諸国や豪州、米国の高価格ツアーの価格帯に近づいている。

■ゴールデンルート(東京、富士山、京都、大阪などを周遊するルート)を中心とする本州ツアーは、5 泊 6 日〜 6 泊 7日で 5,000 元〜 9,000 元程度、北海道を含むツアーは8,000 元〜1 万元前後、沖縄へのツアーは、4 泊 5 日で5,000 元〜 6,000 元程度で販売されている。

■宿泊施設の質・料金や、ツアーに含まれていない自己負担額の大小などに照らし合わせて、一般的にツアーごとに、価格がデラックスとレギュラーの 2 段階で設定されている。デラックスではショッピングを極力抑え、全行程に日本語可能なベテラン添乗員が付くツアーとなっている。

■近年、昇龍道(中部)ツアーは人気が出てきており、ツアーの催行本数が増えている。昇龍道ツアーは少人数で催行されたり、高級宿での宿泊が含まれていたりすることもあるため、他の旅行地のツアーに比べて価格が高くなる傾向がある。

他の主要国・地域のツアー価格に対する競争力欧州諸国■長距離移動になり、かつ10 日間前後と長めの日程である

ため、1万元〜1万 5,000 元程度と、訪日旅行よりも高額である。大型連休にツアー参加者が集中する傾向が見られるが、中国人にとって憧れの地であり人気が高い。

■1 度に数カ国周遊するツアーが多く販売されているが、1 カ国、または「フランス+イタリア」など2 カ国のみに滞在するリピーター向けのツアーや、テーマ旅行も増えている。

韓国■2017 年 3 月、政治的な要因により、中国での訪韓団体ツ

アーの販売が制限された。その後、2018 年 6 月から、徐々に韓国行きのツアーが再開しているが、まだ数は多くない。

(2018 年 9 月時点)■ソウル滞在型のツアーは、3 泊 4日で 2,500 元〜3,000 元、

ソウルと済州島を訪問するツアーは、4 泊 5 日で 3,000 元〜 4,000 元程度と、訪日旅行よりも低い価格帯となっている。

東南アジア諸国■一般的には、4 泊 5 日〜 5 泊 6 日前後の日程で、3,000 元

〜 5,000 元で販売されているが、中国人の人気渡航先となっており、各旅行会社の過当競争が熾烈であるため、ツ

アーの価格破壊が進んでいる。■低価格で行ける旅行地であり、そうしたイメージが定着して

いるが、その一方で、ビーチリゾートの人気が高まっており、プーケットやバリ島などの高級ホテルに滞在する高額ツアーも造成・販売されている。タイ・シンガポール・マレーシアを周遊するツアーやクルーズ商品もある。

8 日本のイメージ 8-1 一般的な日本のイメージ■特定非営利活動法人「言論 NPO」が行った 2017 年の「第

13 回日中共同世論調査」によると、中国人の日本に対する印象は、「良くない」が 2016 年の 76.7% から約 10 ポイント減の 66.8% と、5 年ぶりに 6 割台に下がった。「良い」が2016 年の 21.7% から約 10 ポイント増の 31.5% と、5 年ぶりに 3 割台に回復した。

■同調査で、中国人が日本に対して「良い」印象を持つ理由としては、「日本人は礼儀があり、マナーを重んじ民意が高い」が 61.8%(2016 年は 52.9%)で最も多かった。続いて、

「日本製品の質が高い」が 53.5%(2016 年は 46.8%)となった。

■中国人が日本に対して「良くない」印象を持つ理由としては、2016 年(63.6%)と同様に、「歴史をきちんと謝罪し反省していない」が最も多く、6 割を超えた(67.4%)。続いて、

「尖閣諸島の国有化」(63.0%)となった。「日本が米国その他の国と連携して中国を包囲しようとしているから」も53.2% と、5 割を超えた。

■一方、インターネットを介して、日本を旅行中もしくは日本に住んでいる中国人が発信する情報に触れる機会も増えている。生活のしやすさや安全面など、世論調査には表れない意見・関心・共感などが、SNS で率直に語られている。

8-2 旅行地としての日本のイメージ■2015 年頃まで、団体ツアーで初訪日する多くの中国人旅行

者にとって、主な訪日旅行のイメージとは、大都市(東京・大阪)、富士山、京都の史跡をつなぐゴールデンルートで、ショッピングにいそしむというものであった。

■その後、旅行地は多様化し、ゴールデンルートに加えて、北海道、中部、九州、沖縄などへと広がった。

■実際に日本を旅行した人が投稿した中国のサイト(馬蜂窩など自由旅行の行程をシェアするサイト。例:http://www.mafengwo.cn/i/8203126.html)の写真を見ると、北海道は、きれいな海辺でカモメなどと戯れている風景や、冬の

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 71

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第1章 外国旅行の動向

旭山動物園でのペンギンの行進、パウダースノーの中でのスキーや雪遊び、夏の美瑛の大地の風景などが掲載されている。都会の街歩きとは違った北海道の魅力が浮かび上がっている。

■また、中国人がよく利用する検索サイト 「百度(バイドゥ)」、「捜狐(ソウフー)」で日本の温泉について検索すると、日本で訪ねたい温泉地として、中部(岐阜県の奥飛騨温泉、山梨県の石和温泉)、関東(群馬県の草津温泉)、関西(兵庫県の有馬温泉)、九州(大分県の由布院温泉)などが上がっている。訪日旅行を考える際に、「温泉」は重要なキーワードとなっており、お勧めの温泉を懸命に探している様子がネットの書き込みで見て取れる。

■九州は、中国からの距離が近く、鉄道網・高速道路網が発達し、温泉を楽しむことができる旅行地として知られつつある。加えて、福岡では街歩きとショッピング、長崎では原爆投下の歴史、鎖国時代に国際交流のあった街並み、入り組んだ海岸線、島の景観などが体感できる。熊本、宮崎、鹿児島などの景勝地や温泉地もあり、滞在日数やテーマ、ルートを変えた旅程が旅行会社などから提示されている。

■九州へはクルーズ旅行も人気を集めており、春節などの休暇時期にショッピングを兼ねた旅行を楽しんでいる。博多港の統計によると、2018 年のクルーズ船の寄港回数は279回で、その半数以上は上海、天津、大連、青島などとの間の航路に就航している。

■2019 年 1月に国土交通省が発表した資料によれば、2018年の訪日クルーズ旅客数は前年比 3.3% 減の 244.6 万人、クルーズ船の寄港回数は前年比 5.9% 増の 2,928 回となった。クルーズ船の寄港回数は過去最高を記録した。

■2017 年の観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、訪日旅行に関する期待内容は、訪日前、日本滞在中、次回訪日の各段階とも日本食が最多で、ショッピング、繁華街の街歩き、自然・景勝地、温泉入浴なども上位を占めた。地方の自然景観や温泉地などの魅力が、訪日中国人の旅行地の分散化を促している。

9 評価の高い日本の旅行地①東京■東京は、中国では大阪と並び知名度が高く、リピーター旅

行者の訪問も多い。■団体ツアーの訪問先としては、浅草、皇居、銀座、新宿、

秋葉原、渋谷、お台場と、近郊の東京ディズニーリゾートなどが多くのツアーに組み込まれている。銀座は東京を代

表するショッピングエリアとして認識されている。■個人旅行者は観光だけでなく、着物をレンタルして街を歩

いたり、祭りや花火大会など、その時期でしかできない体験を楽しんだりする人もいる。

②箱根・富士山■日本の象徴として富士山の知名度は高く、ゴールデンルー

トには欠かせない観光地の一つとなっている。■東京滞在型ツアーでも、箱根 1 泊や日帰りで富士山 5 合目

まで行くオプション(別料金の任意参加ツアー)が付いていることが多い。

■ゴールデンルートの団体ツアーの宿泊先として、箱根や富士山近郊の温泉旅館での体験は人気がある。

③北海道■雄大な自然や新鮮な食べ物、避暑地などのイメージが定着

している。■華東・華南地域では雪に対する憧れも強い。■主な人気旅行地は、札幌、小樽、登別、洞爺湖で、それ

に加えて、夏季には、知名度が高い富良野のラベンダー畑も北海道ツアーの目玉となる。

④関西地方■観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、2017 年

の訪日中国人の都道府県別訪問率は、大阪府(54.7%)が東京都(57.3%)に迫っている。中国各地と関西空港を結ぶ航空便増も影響している。

■日本らしい建築物、街並み、文化を体験できる京都や、活気のある大阪は人気があり、知名度も高い。東京と並んでゴールデンルートの中核を成している。

■関西を巡るツアーでは、京都、大阪、神戸または奈良を組み合わせる場合が多い。

■京都では、平安神宮、金閣寺、清水寺、西陣織会館、大阪では、大阪城、心斎橋、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどが人気旅行地である。

■桜・紅葉の名所が多いことも知られている。■関西空港の発着枠の制約から、新規就航が難しく、座席

の供給不足が課題となっている。

⑤沖縄■中国でビーチリゾートの人気が高まっている中、日本政府

は 2011 年に中国人を対象に、沖縄で 1 泊以上することを要件とした個人観光数次査証の発給を開始した。これを受けて、沖縄は一躍知名度を高めた。

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72 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

■上海から那覇へは直行便で 2 時間と近く、また、医療環境が優れていることもあり、東南アジアのビーチリゾートと比べて子供連れで安心して訪問できる環境にある。

■華東地域を中心に、団体ツアー、個人旅行とも人気がある。

■広東省やアモイからのクルーズ船の寄港地になっている。

⑥中部地方(昇龍道)■昇龍道は、中部・北陸地方(富山・石川・福井・長野・岐

阜・静岡・愛知・三重・滋賀)を「龍」に見立てた観光ルートであり、近年知名度が上がっている訪問先である。

■歴史的な街並み、豊かな自然、物作りの伝統・文化体験などが注目されている。

■温泉宿での宿泊、カニなどの海産物や和牛が各地で味わえることも魅力である。

10 訪日旅行の不満点■査証の手続きが煩わしい。■レストランの閉店時間が早い。■レストランの予約が難しい。■デパートの閉店時間が早い。■地方都市の夜の繁華街が賑やかでない。■地方都市では夜、店が閉まるのが早い。■ホテルの客室・トイレ・浴室が狭い。■ショッピングの時に中国語での商品の説明がない。■モバイルでの決済ができない。■免税カウンターの列が長い。■両替が不便である。■鉄道会社が複数あり、乗り場や料金が異なっているため、

交通システムが不統一。■鉄道の乗り換えが難しい。■新幹線・特急列車の予約が不便。(人気の観光列車には自

由席を増設してほしい。)■新幹線・特急列車にスーツケースを置く場所がない。■地方の駅舎には、エレベーターやエスカレーターが完備さ

れていない。■交通費が高い。■レンタカーの運転ができない。■中国語の路線図が欲しい。■空港・駅・街中などでの中国語の表記が少ない。■全般的に中国語・英語が通じない。■通りの名前が書かれた標識が少なく、住所が見つけにくい。■無料 WiFi が通じにくい / 無料 WiFi が通じない。

■日本人は親しみにくい / 友好的ではないと感じる。

11 訪日旅行の買い物品目■中国では一般的に、国内企業の製品は外国製品及び外資

系企業の製品と比較して、安全・品質上の信頼性、並びにデザイン・機能性の面で必ずしも評価が高いとは言えず、総じて外国系の製品のほうが、価格が高くても人気がある。

■中国政府は国内産業を保護するため、外国製品に対して高い関税を課している。また、外資系企業は企業戦略により、中国国内での販売価格を自国よりも高めに設定しているため、中国人旅行者は出境旅行の際に買いだめをする傾向が強い。自宅用以外にも、親戚・知人に頼まれたものも購入するため、買い物の量が非常に多くなる。事前にウェブサイトや雑誌で下調べをし、製品を指名買いする旅行者も増えている。中には、出境旅行先で購入した物品を、「淘宝網(タオバオワン)」などの中国のネットショップで販売する人たちもいる。

■訪日中国人が旅行中に買い物で消費する額は、1 人当たり平均 11 万 9,319 円である(観光庁「訪日外国人消費動向調査 平成 29 年」)。リピーターになるほど購入金額が増える傾向にある。

■日本の百貨店や大型家電量販店、ドラッグストアでは、中国語ができる店員の配置や免税専用レジの設定など、受入環境の整備に力を入れている。決済方法についても、中国版デビットカード「銀聯カード」だけでなく、アリペイ(Alipay、支付宝)やウィーチャットペイ(WeChatPay、微信支付)といったモバイル決済が可能な店舗も増えてきている。

■消費傾向としては、中国で買うより安く購入できるもの、日本でしか手に入らないもの、新しく発売されたもの(他人が持っていないもの)、デザインや機能性に優れた製品を購入することを好む。デジタル製品から医薬品まで、「メイド・イン・ジャパン」に対する信頼度が高い。

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第1章 外国旅行の動向

■購入率の高い買い物品目

購入率順位 品目 購入率

(%)購入者単価(円)

1位 化粧品・香水 79.7 49,1532 位 医薬品・健康グッズ・トイレタリー 73.1 26,4963 位 菓子類 70.5 10,8584 位 その他食料品・飲料・酒・たばこ 60.5 13,2785 位 服(和服以外)・かばん・靴 44.4 45,8856 位 電気製品 27.7 37,2277 位 マンガ・アニメ・キャラクター関連商品 14.3 11,2288 位 カメラ・ビデオカメラ・時計 13.7 61,326

資料:観光庁「訪日外国人の消費動向調査 平成 29年」

■人気の買い物品目

菓子土産用として菓子の需要は高い。コンビニ等で菓子を購入し、日本滞在中にホテルに持ち帰って食べる人も多い。

化粧品

資生堂、コーセー、ファンケル、DHCなど。高級化粧品だけでなく、比較的安価な商品にも人気がある。中国人女性はスキンケアを重視するため、化粧水、美容液、肌パックシートなどを特によく購入する傾向にある。

医薬品・健康グッズ

安全性に対する信頼が高く、目薬、風邪薬、頭痛薬、ビタミン剤などの人気が高い。また、酵素や青汁など健康に関する商品も購入している。

日用品など

肌に触れるもの、口に入れるものなど、安全性が気になるものをドラッグストアでまとめ買いする人が多い。洗顔料、シャンプー、ヘアカラー、ヘアスタイリング剤、歯磨き粉、粉ミルク、紙おむつなどが該当する。また、保温マグボトルの人気も高い。

服飾・雑貨類

品揃えが豊富で、中国国内より安価であり、人気が高い。購入の対象は、洋服、靴、ストール、化粧ポーチなどの小物類、日傘、ストッキングなど幅広い。

デジタル製品・家電

一時期に比べて落ち着いたが、炊飯器、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電気シェーバー、温水洗浄便座などが購入されている。また、美顔器やナノイオンドライヤーなど、美容関連の商品の人気も高い。

高級ブランド品(バッグ、時計など)

購入の対象は、グッチ、ルイ・ヴィトン、コーチ、ロレックス、などである。関税が高い中国よりも安く購入できる。

12 日本の食に対する嗜好■北京、上海、広州などの大都市では、日本料理店が数多

く営業している。日本の外食チェーン店や個人事業者も積極的に中国でのレストラン経営に参入しており、中国でも本格的な日本料理を楽しむことができる。寿司、刺身、天ぷら、ラーメンなどは広く知られており、日系のコンビニエン

スストアで売られるおでんやおにぎりも親しまれているなど、大都市では日本食は既に生活に根付いていると言ってよい。地方都市でも、日本料理店の数は徐々に増加している。

■日本食は健康に良いという認識も浸透しており、訪日旅行の動機に「食事」を挙げる人も多いが、中国人にとって食の基本はあくまでも中国料理である。そのため、訪日回数の多いリピーターでない限り、旅行中に毎食日本料理が良いという人は多くなく、旅行中に一度は中国料理を求める傾向がある。

■中国人にとって、一般的に日本食は淡白に感じられるので、七味やコショウなどの調味料を食卓に用意しておくと良い。刺身にわさびをたっぷりつける人もいる。

■生ものを受け付けない人や、宗教上の理由で豚肉を食べられない人もいるので、注意する必要がある。

■日本では食事の際に、見た目の美しさを重視する傾向があるが、中国では客が食べきれないほどの量の食事を提供することが礼儀とされており、食事の量や品数が多いことを好む。団体旅行で多いビュッフェ形式では、中国人の習慣から、自分の分だけではなく、同じテーブルの人の分まで一緒に取ろうとすることから、結果として料理を必要以上に取ってしまう人も多いようである。

■中国人は体を冷やすことを嫌うため、温かい料理、火の通った料理を好む。

■水は、冷水以外に常温の水やお湯も提供できると喜ばれる。食後にお茶や白湯を飲む習慣があるので、お湯の準備をしておくとよい。

■食後に果物を食べる習慣がある。■日本で中国人に特に人気のある食品は、寿司、海鮮、牛

肉料理、うなぎなどであるが、ラーメン、牛丼、カレーなどの B 級グルメの知名度も上がっている。個人旅行者の増加に伴い、居酒屋などで庶民的な雰囲気の中、気軽に日本食を楽しみたいというニーズも増えている。

13 接遇に関する注意点■中国人の接遇にあたって大事なのは、日本の習慣に当ては

めずに相手を理解し、日中の文化や習慣の違いを説明することである。例えば、トイレで紙を流さないのは、中国ではトイレットペーパーの質があまり良くなく、配管が細くて詰まりやすいため、便器の隣に専用ゴミ箱を設置して処理をしているためである。

■一般的な留意事項として、個人主義が浸透しているため、規制の多い団体行動はやや苦手である。直前まで計画を

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74 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

詰めず、臨機応変に物事を決めることが多い。■中国人は総じて特別扱いを喜ぶため、歓迎の気持ちを表

す横断幕「熱烈歓迎」の掲示や、手軽なお土産を用意すると良い。なお、無理を承知で頼んでくることがよくある。

■言語面では、片言の英語を話すが、年齢が高くなるほど、基本的には中国語しか話さないので、中国語(簡体字)の資料・情報・案内板などが必要となる。中国人観光客の多くはショッピングを楽しみに日本を訪れることから、ショッピング施設では商品の説明が中国語でないと満足にショッピングを楽しめない。中国語を話せる従業員がいることが望まれる。

■中国ではモバイル決済が普及しており、さほど並ぶことなく精算ができる。日本では、ショッピングの際に並ぶ行列が長く感じられるため、モバイル決済の導入や、免税手続きをスムーズに行うなどの工夫が求められる。

■温泉での入浴は日本での欠かせない楽しみであり、人気がある。しかし、日本の浴場の入り方を知らない人が大半なので、「タオルを浴槽に入れない」などの基本事項を事前にイラスト入りで説明するなどし、中国人も日本人も気持ち良く入浴を楽しめる環境を整えることも肝要である。

■食事について、中国人は医食同源の考え方から温かい料理を好む。また、中国は国土が広大なことから、地域によって味の好みが多様である。調味料(特に七味唐辛子)を食卓に用意しておくと、必要に応じて個人で好みの味に調整できるので喜ばれる。

■中国人と一口に言っても、日本を訪れる観光客は比較的素養が高い中間層以上が中心である。説明すれば日本の習慣(マナー)を尊重する素地を持っている場合が多い。

■日本の各商業施設・宿泊施設などで、列の割り込みなどのマナー違反が見られるが、その場で指摘することは重要である。日本人は、事を大きくしないようその場でマナー違反を指摘しない傾向があるが、中国人は、何も指摘されないと「問題ない」と解釈してしまいがちである。しかし、指摘をすれば理解されることが多く、中国語が話せなくても、列に並ぶ程度のことは英語や身振り等で伝わるため、その場で指摘するのが一番効果的である。

■中国の旅行会社では、ツアー出発前の旅行説明会で、ツアーの参加者に対して日本の習慣を説明するなどの対応を始めており、今後の改善が期待される。

14 訪日旅行の有望な旅行者層■中国では 1997 年に団体観光が正式に解禁されてから20

年以上が過ぎた。目覚ましい経済発展を背景に、出境旅

行需要は右肩上がりで拡大している。■訪日中国人の中には出境旅行が習慣化している人が多い

上、訪日査証の発給要件の緩和措置もあり、中国人観光客の旅行形態の割合は、2016 年以降、個人旅行が団体旅行の比率を上回っている。

■訪日旅行は、距離の近さやツアーの質の良さ、ショッピング需要に対する満足度の高さなどから、20 歳代〜 30 歳代を中心に幅広い世代に人気がある。

■リピーターほど地方への訪問率が上がり、景勝地の観光や温泉入浴、四季の体感やスキーなどの体験への関心も高い。

■家族旅行・親子旅行

属性 ・20歳代〜 40歳代のホワイトカラー

旅行形態・団体旅行・子供連れ・老親連れ

訴求ポイント ・…ショッピング、温泉、自然、テーマパーク、美食、クルーズ

費用、日数など

・…周遊型(ゴールデンルートなど)で 5泊 6日程度、7,000 元前後

・都市滞在型で 4泊 5日程度、5,000 元前後・クルーズで 4泊 5日程度、4,000 元前後

選定の背景

・…夫婦共働きが一般的で、安定した収入があり、出境旅行への関心が高い。

・…一人っ子政策の影響により、子供を大事にしているため、治安が良く子供向けの娯楽が多い日本は、旅行先として適している。

・…品質への意識が高く、日本製品への信頼感を持っている。

効果的な宣伝方法

・ウェブサイト、SNSを使った情報発信・…通勤時を狙った地下鉄(ライトボックスなど)、タクシー、オフィスビル(デジタルサイネージ)、ラジオなどの広告

・繁華街でのイベント実施

■20 歳代〜 30 歳代の若者層

属性・…20 歳代〜 30歳代の男女、大卒のホワイトカラー、特に女性

・一定の経済力がある。

旅行形態 ・個人旅行・友人同士、恋人同士、同僚

訴求ポイント ・ファッション、美食、美容、自然

費用、日数など

・4日間〜 7日間・…査証・航空券・ホテルがセットになったパッケージ商品(5,000 元台〜)

・…5日間程度の都市滞在型商品(5,000元台〜)

選定の背景

・…「80 後(バーリンホウ)」、「90 後(ジョウリンホウ)」と呼ばれる 1980 年代〜 1990年代に生まれた世代は、個性を重んじ、自分のための消費を惜しまないと言われる。

・訪日旅行の経験があるリピーターが多い。・…ツアーに組み込まれにくい旅行地やサービスでも、誘客が期待できる。

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 75

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第1章 外国旅行の動向

効果的な宣伝方法

・…ウェブサイト、SNS(微博・微信)を使った情報発信

・インフルエンサーを起用した情報発信・…ライフスタイルやファッションを紹介する媒体(雑誌、ウェブサイト)への記事・広告掲載

・…旅行専門ポータルサイトへの旅行記掲載、動画サイトなどへの広告掲載

■インセンティブ旅行への参加者

属性 ・…20 歳代〜 50歳代のホワイトカラー、販売員などの男女

旅行形態 ・団体旅行または手配旅行

訴求ポイント・ショッピング、温泉、自然、美食・…特徴あるガラディナー(歓迎ディナー)、チームビルディングの内容

費用、日数など

・…周遊型(ゴールデンルートなど)で 5泊 6日程度

・都市滞在型で 4泊 5日程度・規模は数十名程度が主流・…費用は手配内容によるが、人数が多ければ安く、少なければ高額になる傾向がある。

・参加費用は一部ないし全額を主催者が負担

選定の背景

・…日本が一般の旅行で人気の目的地になっているため。

・…次回以降、プライベートで訪日旅行をする動機付けになる。

・少人数の場合はツアーにかける費用が高い。

効果的な宣伝方法

・インセンティブ旅行商談会への参加・…主催企業や手配旅行会社への働き掛け(招請、セールス訪問)

・MICE 専門誌への広告掲載・…支援制度の充実(空港やホテルでの歓迎横断幕か電子サインの掲示、ウェルカムレターや粗品の配布、各種手続きや交通面における優遇策、下見費用の補助、会議場使用料の割引、歓迎会での娯楽提供等)

■教育旅行への参加者

属性 ・小学校から高校までの児童・生徒旅行形態 ・団体旅行

訴求ポイント・…学校交流、環境技術学習、自然学習など、教育的効果のあるプログラム

・衛生面、安全面での安心感

費用、日数など

・…5 泊 6 日程度で、夏期休暇など学校が休みの時期に実施される。

・…費用は手配内容によるが、一般の団体旅行よりも高い。

選定の背景 ・将来のリピーター化が期待できる。

効果的な宣伝方法

・学校長などキーパーソンの視察招請・…旅行会社と提携して、教諭や保護者に対して説明会を行う。