難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例...

7
●症 要旨:症例は 58 歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した 1 症例を経験した.ステロイドパルス療法にて臨床所見・画像共に一時的に改善が得られたが,ステロイド 減量に伴い再増悪を認めた.感染合併を疑いステロイド投与を中止したが,臨床所見・画像共に悪化した. ステロイドとシクロスポリンによる免疫抑制療法の併用にて一時的に改善傾向が得られたが,約 3 週間後 に発熱の再燃・β-D-グルカンの増加が認められた.抗真菌薬・ST 合剤投与を行ったが状態は改善せず,全 経過約 5 カ月後に死亡した.剖検時の肺組織学的所見では,新旧の器質化肺炎の所見を広範に認め,その 原因として肺感染症が最も考慮された.また,侵襲性肺アスペルギルス症が直接死因となった. キーワード:骨髄異形成症候群,好中球アルカリフォスファターゼ活性,器質化肺炎, 侵襲性アスペルギルス症 Myelodysplastic syndrome,Neutrophil alkaline phosphatase activity, Organizing pneumonia,Invasive aspergillosis 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome : MDS) に合併する肺病変は,好中球の量・質的異常に起因する 感染症,肺胞蛋白症,BOOP,肺胞出血,肺血栓塞栓症 など多彩である .特に BOOP もしくは BOOP 様病変 を含んだ間質性肺病変に関しては,ステロイドへの反応 性についての記載も含めた報告例が散見される )~13.今 回我々は好中球アルカリフォスファターゼ活性低下を 伴った MDS に難治性器質化肺炎を合併し,ステロイド およびシクロスポリン投与で一時的に陰影の改善傾向が 得られたが,最終的に侵襲性肺アスペルギルス症を発症 して死亡した 1 剖検例を経験したので報告する. 症例:58 歳,男性. 主訴:発熱,呼吸困難. 既往歴:12 歳,虫垂炎手術,30 歳から糖尿病で食事 療法,53 歳,大腸ポリープ切除. 家族歴:姉が白血病,詳細は不明で 14 歳で死亡. 職業歴:鉄工業40年間(軽度の粉塵暴露歴あり). 喫煙歴:1 日 20 本×38 年. 現病歴:2003 年 1 月頃より悪心,全身倦怠感が出現 し,徐々に呼吸困難および湿性咳嗽を伴うようになった. 5 月下旬に近医を受診したが,胸部 X 線写真異常は指摘 されなかった.7 月 10 日,39℃ 台の発熱が出現したた め近医に緊急入院となった.両側上肺野に浸潤影を認め, 肺炎としてカルバペネム・マクロライド・ニューキノロ ン系抗菌薬を使用するも発熱は持続し陰影も悪化傾向を 示した.また,貧血を認め骨髄穿刺にて染色体異常を伴 う MDS(refractory anemia with excess of blasts, 46, XY,+1, der(1 ; 7) (q10:p10))と診断された.7月31 日,精査・加療目的に当科へ紹介入院となった. 入院時現症:身長 178cm ,体重 56kg ,BMI 17.6,体 温 37.0℃,血圧 124! 80mmHg ,脈拍 94! 分,呼吸数 22! 分.眼瞼結膜に貧血あり.表在リンパ節は触知せず.両 側上肺野優位に呼吸音の減弱と粗い断続音を聴取.腹 部・神経系に異常所見なし.皮疹・下腿浮腫・ばち指な し. 入院時検査所見:白血球 9,500! µl(好中球 92%), CRP 15.15mg! dl,赤沈 64mm! hr と著明な炎症所見を, また,Hb 6.7g! dl と貧血も認めた.生化学検査では軽度 の肝機能障害と糖尿病を認めた.MDS に伴う肺真菌感 染症も疑い,アスペルギルス抗原・抗体,β-D-グルカン も検索したが陰性であった.酸素 1L ! 分の経鼻投与下 での血液ガスでは PaO2 90.1Torr であった.また好中球 アルカリフォスファターゼ活性(Neutrophil alkaline 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の 1 剖検例 細野 達也 弘中 坂東 政司 星野 東明 大野 彰二 杉山幸比古 〒3290498 栃木県下野市薬師寺 3311―1 1) 自治医科大学呼吸器内科 2) 病理学教室 (受付日平成 17 年 4 月 25 日) 日呼吸会誌 44(3),2006. 185

Upload: others

Post on 09-Nov-2020

5 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

●症 例

要旨:症例は 58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した1症例を経験した.ステロイドパルス療法にて臨床所見・画像共に一時的に改善が得られたが,ステロイド減量に伴い再増悪を認めた.感染合併を疑いステロイド投与を中止したが,臨床所見・画像共に悪化した.ステロイドとシクロスポリンによる免疫抑制療法の併用にて一時的に改善傾向が得られたが,約 3週間後に発熱の再燃・β-D-グルカンの増加が認められた.抗真菌薬・ST合剤投与を行ったが状態は改善せず,全経過約 5カ月後に死亡した.剖検時の肺組織学的所見では,新旧の器質化肺炎の所見を広範に認め,その原因として肺感染症が最も考慮された.また,侵襲性肺アスペルギルス症が直接死因となった.キーワード:骨髄異形成症候群,好中球アルカリフォスファターゼ活性,器質化肺炎,

侵襲性アスペルギルス症Myelodysplastic syndrome,Neutrophil alkaline phosphatase activity,Organizing pneumonia,Invasive aspergillosis

緒 言

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome : MDS)に合併する肺病変は,好中球の量・質的異常に起因する感染症,肺胞蛋白症,BOOP,肺胞出血,肺血栓塞栓症など多彩である1).特に BOOPもしくはBOOP様病変を含んだ間質性肺病変に関しては,ステロイドへの反応性についての記載も含めた報告例が散見される2)~13).今回我々は好中球アルカリフォスファターゼ活性低下を伴ったMDSに難治性器質化肺炎を合併し,ステロイドおよびシクロスポリン投与で一時的に陰影の改善傾向が得られたが,最終的に侵襲性肺アスペルギルス症を発症して死亡した 1剖検例を経験したので報告する.

症 例

症例:58 歳,男性.主訴:発熱,呼吸困難.既往歴:12 歳,虫垂炎手術,30 歳から糖尿病で食事

療法,53 歳,大腸ポリープ切除.家族歴:姉が白血病,詳細は不明で 14 歳で死亡.職業歴:鉄工業 40 年間(軽度の粉塵暴露歴あり).

喫煙歴:1日 20 本×38 年.現病歴:2003 年 1 月頃より悪心,全身倦怠感が出現

し,徐々に呼吸困難および湿性咳嗽を伴うようになった.5月下旬に近医を受診したが,胸部X線写真異常は指摘されなかった.7月 10 日,39℃台の発熱が出現したため近医に緊急入院となった.両側上肺野に浸潤影を認め,肺炎としてカルバペネム・マクロライド・ニューキノロン系抗菌薬を使用するも発熱は持続し陰影も悪化傾向を示した.また,貧血を認め骨髄穿刺にて染色体異常を伴うMDS(refractory anemia with excess of blasts, 46,XY,+1, der(1 ; 7)(q10 : p10))と診断された.7月 31日,精査・加療目的に当科へ紹介入院となった.入院時現症:身長 178cm,体重 56kg ,BMI 17.6,体

温 37.0℃,血圧 124�80mmHg,脈拍 94�分,呼吸数 22�分.眼瞼結膜に貧血あり.表在リンパ節は触知せず.両側上肺野優位に呼吸音の減弱と粗い断続音を聴取.腹部・神経系に異常所見なし.皮疹・下腿浮腫・ばち指なし.入院時検査所見:白血球 9,500�µl(好中球 92%),

CRP 15.15mg�dl ,赤沈 64mm�hr と著明な炎症所見を,また,Hb 6.7g�dl と貧血も認めた.生化学検査では軽度の肝機能障害と糖尿病を認めた.MDSに伴う肺真菌感染症も疑い,アスペルギルス抗原・抗体,β-D-グルカンも検索したが陰性であった.酸素 1L�分の経鼻投与下での血液ガスでは PaO2 90.1Torr であった.また好中球アルカリフォスファターゼ活性(Neutrophil alkaline

難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の 1剖検例

細野 達也1) 弘中 貢2) 坂東 政司1)

星野 東明1) 大野 彰二1) 杉山幸比古1)

〒329―0498 栃木県下野市薬師寺 3311―11)自治医科大学呼吸器内科2)同 病理学教室

(受付日平成 17 年 4月 25 日)

日呼吸会誌 44(3),2006. 185

Page 2: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

Fig. 1 Chest radiograph taken in July 2003, showing

air space consolidation in both upper lung fields.

Fig. 2 Chest CT scan obtained in July 2003, showing

air space consolidation in both upper lobes.

Table 1 Laboratory findings on admission

SerologyPeripheral blood

CRP 15.15 mg/dl/μl9,500 WBC

mg/dl1,334 IgGMyelocyte 1%

mg/dl105 IgA%14  Stab

mg/dl62 IgM%78  Seg

×40 RAPA%1  Eos

(-) ANA%4  Mon

mg/dl137 C3%3  Lym

mg/dl18 C4Hb 6.7 g/dl

U/ml52.1 CH50%21.9 Ht

/μl19.4×104 Plt

pg/ml4.8β-D-glucanESR 64 mm/hr

(-) Aspergillus antigen

(-) Aspergillus antibodyBiochemistry

TP 5.1 g/dl

Blood gas analysis (O2 1L/min, NC)Alb 1.9 g/dl

7.459 pHmU/ml36 AST

Torr36.9 PaCO2mU/ml32 ALT

Torr90.1 PaO2mU/ml455 LDH

mU/ml740 ALP

BALF (rt B2b)mg/dl8 BUN

recovery rate 27.3%mg/dl0.40 Cre

total cell count 12.3×105/mlNa 133 mEq/l

Macro 4.6%mEq/l3.7 K

Lym 47.1%mEq/l98 Cl

Neu 48.1%mg/dl7.4 Ca

%0.2  EosBS            258 mg/dl

1.08 CD4/CD8 ratioHbA1c 7.5%

NAP score 72 (156-271)

phosphatase activity : NAP score)は 72(正常範囲:156~271)と低下していた(Table 1).入院時画像所見:当科入院時の胸部X線写真では両

側上肺野末梢優位のコンソリデーションを認めた(Fig.1).胸部 CTでは両側上肺野背側胸膜直下に非区域性の

186 日呼吸会誌 44(3),2006.

Page 3: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

Fig. 3 Clinical course

エアブロンコグラムを伴ったコンソリデーションを認めた(Fig. 2).また,下葉にも同様な陰影を軽度認めた.入院後経過(Fig. 3):8月 1日(入院第 2病日)に気

管支肺胞洗浄を施行した.総細胞数とリンパ球・過分葉した好中球分画の増加を認めたが(Table 1),白血化の所見は認められず,真菌や抗酸菌も含めた病原体は検出されなかった.また,8月 11 日(第 12 病日)に施行した経気管支肺生検では,マッソン体を伴った胞隔炎の所見を認めたが,肺胞腔内のポリープ状器質化物内には,好中球やフィブリンの存在はなく,また肉芽腫も認められなかった(Fig. 4).抗菌薬投与に反応していないため,MDSに伴った広範な器質化肺炎の病変と考えステロイド投与を開始した.インスリン投与による血糖コントロール下に,気管支肺胞洗浄後よりメチルプレドニンゾロン 500mg�日によるパルス療法を行ない,その後はプレドニゾロン 30mg�日で維持した.発熱・炎症反応・画像共に改善したものの 8月下旬より再燃を認めた.各種培養を施行したが有意な所見は得られなかった.しかし感染の合併を疑い抗菌薬・抗真菌薬の投与を開始し,改善傾向が軽度得られたものの,著明な改善は認められなかった.MDSの白血化も疑い,9月 12 日に骨髄穿刺を,9月 16 日に気管支肺胞洗浄を施行したが,有意な所見は得られなかった.経過より感染合併を強く疑い,ステロイド薬を中止し抗菌治療を中心に施行した.しかし,ステロイド薬中止数日後から発熱・炎症所見の再燃

を認め,画像も左下肺野まで陰影が増大・悪化したため,10 月 19 日よりステロイド薬投与を再開した.また,MDSに対する治療としてシクロスポリンによる免疫抑制療法も 10 月 27 日より併用した.発熱・炎症所見・画像共に改善傾向が得られたが, 11 月中旬より微熱が出現した.ST合剤・イトラコナゾールの予防内服も行っていたが,11 月 2 日 9.1pg�ml であった β-D-グルカン値が,11月 18 日には 778.4pg�ml と著増した.血小板減少も認めたため,シクロスポリン中止,イトラコナゾールよりミカファンギンへの抗真菌薬の変更,ST合剤の増量などを行った.アスペルギルス抗原や喀痰のニューモシスティス PCR検索では陽性所見は認められなかった.その後は急速に状態が悪化し,DIC・サイトメガルウイルス網膜炎・白血球数 7万台の類白血病反応などの合併を認め,11 月 29 日永眠された.CTの推移では,両側上肺野のコンソリデーションは器質化の進行に伴い収縮し,下肺野には 10 月 2 日より結節影が出現し 11 月 21日には空洞を伴った陰影が認められた.剖検所見:肉眼所見では肺は,左 970g ,右 570g で

重量は増加しており,上葉には気腫性病変を認めた.また,両肺尖部から背側部にかけて胸膜癒着を認めた.左S3・舌区・下葉は硬く含気に乏しく,左 S6b・右肺に灰白色調の小結節病変の散在を認めた(Fig. 5).上葉では,炎症細胞浸潤像の乏しい,膠原線維の密な肺胞腔内線維化の所見をびまん性に認めた(Fig. 6(a)(b)).中・下

難治性器質化肺炎を伴ったMDSの 1剖検例 187

Page 4: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

Fig. 4 Transbronchial lung biopsy revealed polypoid

plugs of connective tissue in the alveolar space with

mononuclear cell infiltration in the alveolar septa. Nei-

ther neutrophilic infiltration nor fibrin was shown in

the intraluminal organizing plugs ((a) HE stain,(b)

EVG stain).

Fig. 5 Macroscopic findings of the left lung : emphyse-

matous changes were seen in the upper lobe. Most ar-

eas of the S3, lingual segment, and inferior lobe were

hard, which means that pneumatization was poor.

Pleural adhesion of the apical portion was recognized

(arrow), and gray-whitish nodular lesions were also

seen in the lower lobe (arrowhead).

葉では比較的幼若からやや進行した肺胞腔内器質化を認め(Fig. 6(c)(d)),上葉の所見と合わせ繰り返された肺感染症が原因であることが最も考えられた.また,左S6b などに認められた灰白色調の小結節病変部では,膿瘍の所見を認め,膿瘍内にアスペルギルス菌糸塊を多数認め出血性梗塞と考えられた(Fig. 7).心臓・甲状腺・腎臓にもアスペルギルス菌糸による膿瘍の所見を認めた.なお,ニューモシスティスとサイトメガロウイルスの免疫組織学的検査を施行したが,陽性細胞は認められなかった.また骨髄には,MDS白血化の所見は認められなかった.以上より本症例はNAP score 低下を伴ったMDSに,肺感染症を繰り返し,難治性器質化肺炎を呈したものと考えられた.また最終的に侵襲性アスペルギルス症を発症し死亡したと思われた.

考 察

本症例はNAP score 低下を伴ったMDSに器質化肺炎を合併し,免疫抑制療法に一時的に反応したものの最終的には侵襲性アスペルギルス症を発症し死亡に至っ

た.MDS経過中のBOOP pattern を含む間質性肺疾患の合併は会議録も含め 23 例報告されている(Ta-ble 2)2)~13).血小板減少による出血傾向などの危険のためTBLBによる組織検体で診断が行なわれている例が多く,主な所見として,�器質化肺炎,�感染症に起因する好中球浸潤などが認められているが,器質化肺炎の原因に関しては詳細は不明である.本症例では,剖検時の肺組織学的検査で,新旧混在した器質化肺炎であること,またポリープ状にならず気腔を埋め尽くす器質化病変はBOOPパターンとはいえず,当科入院前からの一連の病態を感染源が特定できない繰り返す肺感染症による器質化肺炎であったと考えた.治療としてはステロイド薬投与が 17 例に行なわれ,16 例で治療に反応が認められている.しかし,長期経過観察が行なわれた 10 例のうち 9例が再発している.また,繰り返す敗血症や侵襲性アスペルギルス症などで 7例の死亡が報告されており,MDSに合併したBOOP様病変の長期的予後は不良であると思われる.本症例の肺病変は胸部CTにて非区域性分布を示し,

非感染性の器質化肺炎を疑わせる所見であった.MDSに合併したBOOP様病変の画像所見では,気道に沿った浸潤影,非区域性の浸潤影やコンソリデーション,粒

188 日呼吸会誌 44(3),2006.

Page 5: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

Fig. 6 (a) and (b) showed diffuse intraluminal organiza-

tion with highly dense collagen fibers and poor cell in-

filtration in the upper lobe. (c) and (d) show intra-

luminal organization in the lower lobe (EVG stain).

Fig. 7 (a) (b) Microscopically, gray-whitish nodular le-

sions demonstrated an abscess in which many Asper-

gillus hyphae were recognized (HE stain). (c) Macro-

scopic findings of the heart : multiple abscesses were

recognized.

状網状影,スリガラス状陰影,胸水など多彩であり,陰

影の移動についての記載も認められた.しかしながら組織所見や感染症と画像所見についての関連について検討されたものは認められなかった.また,MDSに合併した肺感染症において本症例の様な画像所見を呈したとする報告は確認できず,多彩な画像所見を示すMDSに合併したBOOP様病変も含め,今後の症例集積による検討が必要と考えられた.本症例での感染防御因子として,糖尿病合併の関与も

あるが,MDSに起因する好中球機能異常が重要であったと思われる.MDSではしばしば好中球減少が問題と

難治性器質化肺炎を伴ったMDSの 1剖検例 189

Page 6: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

Table 2 Characteristics of 23 reported cases of inter-

stitial lung disease associated with MDS

cases

5open lung biopsyDiagnostic procedures

1VATS

11TBLB

4BAL

2radiology

11organizing pneumoniaPathological findings

6neutrophil infiltration

1blast cell infiltration

16responseSteroid therapy

1non-response

recurrences in 10 cases Prognosis

9 with long term observa- tion

7deaths

なるが,本症例では経過中好中球減少は認められなかった.また,シクロスポリンなどの免疫抑制療法にて画像も含め反応が得られた時期においても好中球増加は認められず,機能低下を好中球増加にて代償し病態の改善が得られたとは考え難い.また,本例では好中球機能異常の評価としてNAP score のみの評価であったが,遊走能や還元能などの他の好中球機能検査も施行すべきであったと思われた.MDSではNAP score を含めた好中球機能低下が種々の程度に存在するが,好中球機能とMDSの予後についての検討では,特に refractory ane-mia(RA)において低値を示した群では感染症の高率な合併での死亡が多く予後不良とする報告も認められ14)15),本例においても病原体は検出されなかったが,感染症が器質化肺炎の原因と考えられた.MDSに対する治療は,国際予後判定システム(inter-

national prognostic scoring system : IPSS)と年齢に応じて適応が推奨されている16)17).本例では予後不良因子とされている 7番染色体異常を認めた.MDSそのものに対する治療としてはビタミンD3やビタミンK2の投与を行ったが,血液学的にも呼吸器症状を含め,臨床的には改善は得られなかった.またMDSにおける免疫抑制療法の有用性の報告も認められることより18)19),MDS・肺病変双方への効果を期待してシクロスポリン投与を行った.MDSについては明らかな効果は判定できず,肺病変への反応も一時的であり,最終的にイトラコナゾールの投与下にもかかわらず侵襲性肺アスペルギルス症を合併し死亡した.MDSのシクロスポリンへの反応は,IPSS スコアやHLA・染色体異常の形態などが指標として挙げられ,また,効果発現にも数カ月を要するとされており,今後本症例のようにNAP score 低下を伴っ

たMDS例に,難治性器質化肺炎を合併した場合,より早期からシクロスポリン投与などの積極的な治療を開始することで予後が改善するか検討が必要と思われた.

結 語

NAP score 低下を伴ったMDSに難治性の器質化肺炎を合併した 1例を経験した.経過中に感染原因病原体は一度も検出されず,抗菌薬治療でも明らかな改善は認められなかった.一方,MDSに対して免疫抑制療法を行ない一時的に肺病変は反応したと判断されたが,最終的に侵襲性アスペルギルス症を合併し死亡された.剖検では明らかなBOOPの所見は認められず,繰り返す感染症によると推定される新旧の器質化肺炎の像が確認された.MDSに肺病変が出現した時は,NAP score などの好中球機能評価をすべきであり,その低下が認められる場合には感染制御と同時にMDSに対して早期の治療を考慮すべきと考えられる.謝辞:本例の治療において御指導頂きました本学血液学教室幹細胞制御研究部の古川雄祐先生に深謝致します.本論文の要旨は,第 161 回日本呼吸器学会関東地方会(2004年 9 月,東京)にて発表した.

引用文献

1)梅田正法,白井達男:呼吸器症候群 骨髄異形成症候群における肺合併症.領域別症候群 4.日臨.日本臨床社,大阪,1994 ; 665―668.

2)Lazarus AA, McMillan M, Miramadi A : Pulmonaryinvolvement in Sweet’s syndrome (acute febrileneutrophilic dermatosis). Preleukemic and leukemicphases of acute myelogenous leukemia. Chest1986 ; 90 : 922―924.

3)Thenholder MF, Becker GL, Cervoni MI : The myel-odysplastic syndrome and bronchiolitis obliterans.Ann Intern Med 1990 ; 112 : 714―715.

4)Takimoto CH, Warnock M, Golden JA : Sweet’ssyndrome with lung involvement. Am Rev RespirDis 1991 ; 143 : 177―179.

5)Komiya I, Tanoue K, Kakinuma K, et al : Superoxideanion hyperproduction by neutrophils in a case ofmyelodysplastic syndrome . Association withSweet’s syndrome and interstitial pneumonia. Can-cer 1991 ; 67 : 2337―2341.

6)Matsushima T, Murakami H, Kim K, et al : Steroid-responsive pulmonary disorders associated withmyelodysplastic syndromes with der (1q ; 7p) chro-mosomal abnormality. Am J Hematol1995 ; 50 : 110―115.

7)Tamaki Y, Seyama K, Takahashi H, et al : Progres-

190 日呼吸会誌 44(3),2006.

Page 7: 難治性器質化肺炎を合併した骨髄異形成症候群の1剖検例症 例 要旨:症例は58歳,男性.好中球機能低下を伴った骨髄異形成症候群に,難治性の器質化肺炎を合併した

sive interstitial pneumonia associated with myelo-dysplastic syndrome : implication of superoxide hy-perproduction by neutrophils. Respirology1997 ; 2 : 295―298.

8)Drent M, Peters FP, Jacobs JA, et al : Pulmonary in-filtration associated with myelodysplasia. Ann On-col 1997 ; 8 : 905―909.

9)Scully RE, Mark EJ, McNeely WF, et al : Case reco-rds of the Massachusetts General Hospital. Weeklyclinicopathological exercises. Case 5-1998. A 51-year-old man with myelodysplasia and a pulmonaryinfiltrate. N Engl J Med 1998 ; 338 : 453―461.

10)Wohlrab JL, Anderson ED, Read CA : A patientwith myelodysplastic syndrome, pulmonary nod-ules , and worsening infiltrates. Chest2001 ; 120 : 1014―1017.

11)甲原芳範,雨宮由明,三重野龍彦,他:骨髄異形成症候群に合併したBOOP様病変 3症例の検討.日呼吸会誌 2000 ; 38 : 605―609.

12)三戸克彦,山上由理子,山形英司,他:発熱と肺浸潤影が繰り返し認められた骨髄異形成症候群関連肺病変の 1例.日呼吸会誌 2000 ; 38 : 874―879.

13)島貫由理,鈴木 勉,高橋和久,他:骨髄異形成症

候群の経過中に器質化肺炎に伴う浸潤影が出現した1例.日呼吸会誌 2004 ; 42 : 665―670.

14)井原章裕,古林孝保,石川勝憲:Myelodysplasticsyndrome(MDS)26 自験例の臨床的検討.IRYO1993 ; 47 : 737―742.

15)Okamoto T, Okada M, Yamada S, et al : Flow-cyto-metric analysis of leukocyte alkaline phosphatase inmyelodysplastic syndromes. Acta Haematol1999 ; 102 : 89―93.

16)Bowen D, Culligan D, Jowitt S, et al : Guidelines forthe diagnosis and therapy of adult myelodysplasticsyndromes. Br J Haematol 2003 ; 120 : 187―200.

17)吉田弥太郎,緒方清行,谷脇雅史,他:骨髄異形成症候群.吉田弥太郎編.新しい診断と治療のABC19.最新医学社,大阪,2004.

18)Shimamoto T, Ohyashiki K : Immunosuppressive tr-eatments for myelodysplastic syndromes. Leuk Ly-mphoma 2003 ; 44 : 593―604.

19)Yamada T, Tsurumi H, Kasahara S, et al : Immuno-suppressive therapy for myelodysplastic syndrome :efficacy of methylprednisolone pulse therapy withor without cyclosporine A. J Cancer Res Clin Oncol2003 ; 129 : 485―491.

Abstract

An autopsy case of myelodysplastic syndrome complicated by recurrent organizing pneumonia

Tatsuya Hosono1), Mitsugu Hironaka2), Masashi Bando1), Motoaki Hoshino1),Shoji Ohno1)and Yukihiko Sugiyama1)

1)Division of Pulmonary Medicine, Department of Medicine and 2)Department of Pathology, Jichi Medical School

We reported an autopsy case of a 58-year-old-man, who developed intractable organizing pneumonia accom-panying myelodysplastic syndrome with neutrophil hypofunction. Slight clinical improvement was obtained bysteroid pulse therapy, but re-exacerbation occurred during steroid tapering. Infection was suspected, and we ad-ministered antibiotics and antifungal agents, while holding steroid administration. However, both the clinical find-ings and images deteriorated. By both steroid and cyclosporine treatment, a slight improvement was temporarilyobtained, but he died. The findings of lung tissue on autopsy showed extensive old and new organized pneumonia,and, as for the etiology of the intractable pneumonia, the likelihood of the lung infectious disease was consideredmost likely. In addition, invasive pulmonary aspergillosis led directly to death.

難治性器質化肺炎を伴ったMDSの 1剖検例 191