全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  ·...

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全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証 Skills of whole-body coordination balance sport slackline: Generating hypotheses based on empirical knowledge and testing it 児玉謙太郎 1 菊池雄介 2 山際英男 3 Kentaro KODAMA 1 , Yusuke KIKUCHI 2 , and Hideo YAMAGIWA 3 1 神奈川大学 Kanagawa University 2 はこだて未来大学 Future University Hakodate 3 東京都立東部療育センター Tokyo Metropolitan Tobu Medical Center Abstract: In the practical field of slacklining, a balance sport, instructors tell their empirical knowledge based on their personal embodied experience to beginners. The present study tries generating hypotheses from their empirical knowledge and testing it quantitatively. We conducted a preliminary experiment to examine the hypothesis. We report the results and discuss the current approach to skill science. スラックラインの身体技能 スラックラインは,ベルト状の綱(ライン)の上 でバランスをとるスポーツである(図 1).ナイロン /ポリエステル製のラインの上に乗ると,ラインが 弛み,上下・左右方向の揺れや,前頭面での回転が 発生するため,支持面は不安定となる.この不安定 なラインの上で,バランスをとるためには,手足を 含む全身の協調が必要となる.図 1 のように片脚で 立位姿勢を保持するにも,常に揺らぎながら全身を 協調させ,動的にバランスを保つ必要がある.競技 としてのスラックラインでは,ラインの上で立った り,歩いたりするだけでなく,ジャンプや宙返りと いったアクロバティックな技を競うこともある. 1 Slacklining (Granacher, Iten, Roth, & Gollhofer, 2010) スラックラインがスポーツ競技として確立された のは,2007 年頃であり,スラックラインに関する学 術的な研究は限られている.その多くは,スラック ラインがバランス能力に及ぼす効果を検証するもの である (e.g., [1]).スラックラインは,不安定なライ ン上でバランスをとる必要があるため,バランス能 力の向上が期待されている.一方,その身体技能に 関する先行研究は,著者らが調べた限り,ラインへ 外乱を与えた後の回復運動を分析した事例研究しか 存在しない [2].この先行研究では,外乱後のバラ ンスの回復という限定的な状況を調べており,スラ ックラインの基本的な身体技能に関しては検討され ていない. 他方,スラックラインの実践の現場では,熟達者・ 指導者の経験に基づいて,スラックラインの基本的 な身体技能,コツについて,初心者へ指導が行われ ている.スラックラインの身体技能の学習過程では, 初めに片脚立ち(図 1)からスタートする.そして, その状態で一定時間バランスを保てるようになると, 続いて,歩行,ターン…と,より難易度の高い課題 へと進む(e.g., [3]).そのため,最初の片脚立ち課題 をマスターすることがスラックラインの基本的な身 体技能であり,片脚立ちの状態を保持できる能力が, 他の課題の基礎にあると考えられる.片脚立ち課題 は,例えば 30 秒間その状態を補助なしで保持できる ようになるまでにもそれなりの時間を要する.また, 単に 30 秒間ラインの上に乗り続けることができれ ば良いのではなく,適切な身体の状態に達し,その 状態でバランスを保持することが求められる. SIG-SKL-22 2016-03-04 1

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Page 1: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

全身協調バランススポーツldquoスラックラインrdquoの身体技能

経験知に基づく仮説生成とその検証

Skills of whole-body coordination balance sport ldquoslacklinerdquo Generating hypotheses

based on empirical knowledge and testing it 児玉謙太郎 1 菊池雄介 2 山際英男 3

Kentaro KODAMA1 Yusuke KIKUCHI

2 and Hideo YAMAGIWA

3

1神奈川大学 Kanagawa University 2はこだて未来大学 Future University Hakodate

3東京都立東部療育センター Tokyo Metropolitan Tobu Medical Center

Abstract In the practical field of slacklining a balance sport instructors tell their empirical knowledge

based on their personal embodied experience to beginners The present study tries generating hypotheses

from their empirical knowledge and testing it quantitatively We conducted a preliminary experiment to

examine the hypothesis We report the results and discuss the current approach to skill science

スラックラインの身体技能

スラックラインはベルト状の綱(ライン)の上

でバランスをとるスポーツである(図 1)ナイロン

ポリエステル製のラインの上に乗るとラインが

弛み上下左右方向の揺れや前頭面での回転が

発生するため支持面は不安定となるこの不安定

なラインの上でバランスをとるためには手足を

含む全身の協調が必要となる図 1 のように片脚で

立位姿勢を保持するにも常に揺らぎながら全身を

協調させ動的にバランスを保つ必要がある競技

としてのスラックラインではラインの上で立った

り歩いたりするだけでなくジャンプや宙返りと

いったアクロバティックな技を競うこともある

図 1 Slacklining (Granacher Iten Roth amp

Gollhofer 2010)

スラックラインがスポーツ競技として確立された

のは2007年頃でありスラックラインに関する学

術的な研究は限られているその多くはスラック

ラインがバランス能力に及ぼす効果を検証するもの

である (eg [1])スラックラインは不安定なライ

ン上でバランスをとる必要があるためバランス能

力の向上が期待されている一方その身体技能に

関する先行研究は著者らが調べた限りラインへ

外乱を与えた後の回復運動を分析した事例研究しか

存在しない [2]この先行研究では外乱後のバラ

ンスの回復という限定的な状況を調べておりスラ

ックラインの基本的な身体技能に関しては検討され

ていない

他方スラックラインの実践の現場では熟達者

指導者の経験に基づいてスラックラインの基本的

な身体技能コツについて初心者へ指導が行われ

ているスラックラインの身体技能の学習過程では

初めに片脚立ち(図 1)からスタートするそして

その状態で一定時間バランスを保てるようになると

続いて歩行ターンhellipとより難易度の高い課題

へと進む(eg [3])そのため最初の片脚立ち課題

をマスターすることがスラックラインの基本的な身

体技能であり片脚立ちの状態を保持できる能力が

他の課題の基礎にあると考えられる片脚立ち課題

は例えば 30秒間その状態を補助なしで保持できる

ようになるまでにもそれなりの時間を要するまた

単に 30 秒間ラインの上に乗り続けることができれ

ば良いのではなく適切な身体の状態に達しその

状態でバランスを保持することが求められる

SIG-SKL-22 2016-03-04

1

ここでいう適切な身体の状態とは指導者の経験

知に基づいて記述すると次のようになるすなわち

筋レベルでは適度に筋の緊張を緩め表層筋とい

うより深層筋を使いラインと自己身体の動揺に対

して動的に持続的に微調整ができるような状態

であり関節レベルでは関節を固定せずに可動性

(あそび)をある程度残しラインの動揺を全身で

吸収補償できるよう手足体幹を協調させた状態

であるスラックラインでは自己身体の動きがラ

インの動揺を大きく増幅させる要因となりうるため

ラインという環境との動的で緩やかなカップリング

が求められる

ここでは熟達者や指導者の身体的な経験に基づ

く知識を経験知と呼ぶスラックラインではその

バランス制御においてラインの傾きや動揺自己

身体の重心や手足の位置動きをとくに触覚的な

知覚を通じて知ることが重要と考えられるがこの

経験知を言語化し客観的に説明することは難しい

しかしそれを客観的に記述し定量的に示すこと

ができれば彼ら彼女らの経験知を科学的に裏付

けるエビデンスを提供しより説得力のあるかたち

で指導を実施することができるようになるであろう

また例えば熟達者と初心者のパフォーマンスを

比較することで当事者も自覚できていないような

熟達者の特徴を抽出することができればより効果

的で安全な指導法の提案にもつながると考えられる

そこで本研究ではスラックラインの身体技能

を明らかにするにあたり熟達者指導者の経験知

や研究者自身の体験も重視しそれらと既存の身体

運動科学や認知科学の知見を照らし合わせ仮説の

生成を試みるまた生成された仮説については

センサなどの機器による計測およびそのデータ

の定量的な解析を通した検証を試みるこのような

仮説生成と仮説検証の循環的プロセスを通じ身体

知への理解を深めたい以下その具体的な方法と

現時点で得られている予備実験のデータを報告し

今後の展望について議論する

経験知に基づく仮説生成

本発表では現時点で得られている情報に基づき

生成した仮説について述べる具体的にはリハビ

リテーションの現場でスラックラインを介入の一環

として実践している指導者の経験知と著者が参加

しているスラックライン教室で指導者から教わった

内容および著者ら自身の経験知に基づき以下

の暫定的な仮説を生成した

まずスラックラインという不安定な環境に身体

を定位させ続けるためには重心をラインと支持脚

の接触面に投影させ続けなければならないしかし

スラックラインはその性質上捩れによる傾きが

生じやすいためこの課題を遂行することは容易で

ないまた行為者自身の動きや身体に内在する

揺らぎによりラインの動揺が増幅することもある

そのため片脚立ち課題では重心の接触面への投

影という課題達成のために全身を持続的に動かし

ながら動的にバランスを保ち続ける必要がある

そこでスラックラインの指導現場では上記の

重心の接触面への投影という課題を達成させるため

に次のように指導される両手を挙げ左右に並

行に動かすこと軽く腰を落とし支持脚の膝の力

を抜くこと背筋を伸ばし視線は前方へと向ける

ことこれらの指導を質量中心位置の調整という

観点から捉え直すと次のように換言できよう(図 2)

1)水平方向両手を挙げ左右方向に並行に協調さ

せて動かし質量中心の位置を調整する

2)垂直方向下肢の筋の緊張を適度に緩め膝関節

を柔軟に曲げラインの動揺を吸収する

3)前後方向上体を起こし重心をラインと支持脚

の足底との接触面に投影するよう保つ

定量的な仮説検証

これらの仮説を定量的に検証するため現在次

のように行動変数のあたりをつけている

1)両手の協調性その安定性また両手協調と質

量中心およびラインの位置関係

2)支持脚の膝関節の柔軟性膝とラインの協調関係

3)重心と接触面の位置関係

いずれの変数も最終的には身体と環境(ライン)

の関係の定量化を視野に入れ計測解析を行って

いきたい本発表ではその予備実験として仮説

1)の両手の協調性について定量的に検証した結果を

報告する

予備実験

実験デザイン スラックラインの基本的な身体技能を明らかにす

るため実験課題として片脚立ち課題を採用する

独立変数として身体技能レベルを想定し技能レベ

ルの異なる実験参加者をリクルートする従属変数

として仮説 1)の両手の協調性を定量化するため

両手の水平方向の位置変化の時系列データに対し

体肢間協調研究で広く採用されている相互再帰定量

化分析 (Cross recurrence quantification analysis eg

[4])を実行し両手の協調の安定性を再帰率結合強

度を最大線長という指標で評価する [4]

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図 2 本研究の仮説

1)水平方向2)垂直方向3)前後方向

実験参加者 3 年以上のスラックライン経験と指導者としての

経験も有する経験者 1 名(40 歳男性身長 175cm)

とスラックラインを始めたばかりの初心者 1名(30

歳男性身長 1745cm)の 2 名が参加した実験

手続きは神奈川大学における人を対象とする研究

に関する倫理審査委員会にて承認されており実験

参加者には同意のもと実験に参加してもらった

装置 実験はスラックライン専用の装置 SLACKRACK300

(GIBBON SLACKLINES長さ 3m 高さ30 cm)を使用して実施された身体動作の計測には光学式 3 次元モーションキャプチャ装置 (OptiTrack V120 Trio

NaturalPoint Inc) が使用されデータは 120 Hzでサンプリングされた反射マーカーは両手の人差し指の先に取り付けられた

手続き 実験参加者にはできるだけ長く片脚立ち課題を

続けてもらった疲労の影響を最小限に抑えるため

1 セッションは 3分とし適宜休憩を挟みながら

5 セッション繰り返してもらった

データ分析 本発表ではスラックラインの身体技能レベルを

評価する指標として連続して片脚立ちを持続でき

た時間(持続時間)を求めた具体的には5 秒以

上持続できた試行をカウントし各試行の持続時間

を求め平均値を求めた

仮説 1)両手の協調性を定量化し検証するため

両手の水平方向の位置データに対して次のような

分析を行ったまず片脚立ち課題を 15秒以上持続

できた試行のみを抽出し試行開始直後の 5 秒間と

終了直前の 5 秒間は定常的な状態でない場合が多い

ため分析対象から除外した残された区間を 5 秒ず

つに分割し5 秒間の分析区間を抽出した以上の

手順で抽出された両手の時系列データは平滑化後

以下に示す相互再帰定量化分析により定量化された

本研究では両手の協調性を相互再帰定量化分析

によって算出される再帰率最大線長という指標で

評価した再帰率は体肢間協調の安定性(確率的な

ノイズの程度)最大線長は体肢間協調の結合強度

(外乱に対するアトラクター強度)として解釈され

ている [4]これらを上記の 5 秒間の分析区間ごと

に求め実験参加者ごとに平均し比較した分析に

はR ldquocrqardquo package (version 106) [5]を用いた(遅延

時間 200埋込み次元 3半径 25)

結果考察

図 3は左右の手の水平方向の位置変化(20秒間)

を示した時系列である(上経験者下初心者)

時系列からも両手の協調関係について経験者では

一定の協調関係を保ち協調していること初心者で

は両手が別々に動きときに交差していることが

見てとれる(図 3)

図 3 両手の水平方向の位置の変化

上)経験者下)初心者

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図 4は片脚立ち課題の持続時間を実験参加者ご

とに平均した値を示している経験者は平均 10725

秒初心者は平均 2039 秒と経験者のほうが 5 倍

以上長く片脚立ちを持続できていたこの結果より

片脚立ち課題における技能レベルが 2 名の実験参加

者で大きく異なることが明らかとなった

図 4 片脚立ち持続時間(エラーバー標準偏差)

図 5は両手協調の安定性を指標する再帰率を実

験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 2295初心者は平均 1701と経験者のほ

うが再帰率が高かったこの結果より片脚立ち

課題で経験者のほうが両手の協調が安定している

ことが示唆された

図 5 再帰率(エラーバー標準偏差)

図 6 は両手協調の結合強度を指標する最大線長

を実験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 12637初心者は平均 7067と経験者のほうが

最大線長が長かったこの結果より片脚立ち課題で

経験者のほうが両手の協調の結合が強いことが示唆さ

れた

図 6 最大線長(エラーバー標準偏差)

以上の予備実験の結果よりスラックラインの身

体技能レベルと両手の協調性に関連性があることが

示唆されたこのことは仮説 1)の通りスラック

ラインの片脚立ち課題においては経験者は両手を

左右に協調させることで質量中心の水平方向の位

置を調整し動的にバランスを保っている可能性を

示唆している [6]

今後の課題

本発表ではスラックラインの基本的な身体技能

を明らかにするため経験知に基づいて仮説を生成

しその一部を予備実験のデータから検証した結果

について報告した予備実験の結果部分的に仮説

を支持する結果が得られ技能レベルが高い経験者

のほうが両手の協調性が高いことが示唆された今

後この可能性を量的に検討するためサンプル数

を増やした本実験を行う予定である

本発表で検討した仮説は暫定的なものであった

そのため今後この仮説自体についても再考し

アップデートをしていく予定である具体的には

スラックライン熟達者やプロ選手へのインタビュー

といった方法によるアプローチも視野に入れている

このように本研究では実践と学術を循環させ

ながら身体知へとアプローチしていく方法論を重視

しているつまり当事者らが実践の現場で培って

きた経験知や現場で抱えている課題を学術的な研究

の俎上に乗せエビデンスを蓄積し課題を解決し

再び実践へとフィードバックしていくhellipという循環

であるさらに実践へのフィードバックの結果

新たに生じる仮説や問題を再び学術的研究の中で

検討していくことで現象の理解は深まると考える

このような方法論自体を洗練させていくことも今後

の長期的な目標である

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参考文献

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dynamics Cognitive Science 29(4) 531ndash57 (2005)

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Proceedings of Second International Workshop on Skill

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スキルとしての日本酒の味覚言語化

福島宙輝1

Hiroki Fukushima1

1慶應義塾大学 1Keio University

はじめに 本稿では日本酒を例題にスキルとしての味覚の言語化を検討するスキルとしての味覚言語化を考える上でも大きな問いのひとつは「味わいを言語化するには何を語らなければならないか」とものになるだろう本研究ではこの問いに対して「味覚言語化の熟達者は何を語っているか」「味覚言語化の初心者にはどのように言語化を支援できるか」というふたつの観点からアプローチする具体的には言語記号を用いた事態構成のなかでも重要な役割を果たす名詞と動詞副詞の3つの品詞を対象に名詞動詞は言語化支援方略を副詞については熟達者による音象徴語(オノマトペ)の使用を分析する感覚と言語記号の関係すなわち記号接地問題

[Harnad 1990]は近年言語獲得に応用され[今井ら

2015]あるいは機械学習の文脈ではマルチモーダルな入力情報による創発的な記号過程が検討されており [長井amp中村 12]旧来記号論言語学で理論化されてきた「二重分節」の概念などが実装的に応用されている [谷口amp椹木 15]しかしマルチモーダルとは言え味覚と嗅覚については実装されていないのが現状であるたしかに直観的には味覚や嗅覚が言語記号あるいは記号的な環境の認知に特に役立っているようには思えず視聴覚の優位性は確かなものであるしかし人間の記号系において味覚嗅覚が視覚や聴覚の概念形成にも寄与することは明らかであり(例えば[Lakoff amp

Johnson 80 Lakoff 87])人間の感覚情報を基盤にしたマルチモーダルな記号過程を考える上では味覚嗅覚を含めることは必須である

味覚記号接地の困難さ

機械学習の分野において味覚嗅覚の研究が進行しない原因の一つにはセンシングの困難さが考えられる味覚嗅覚は化学感覚であり実装にはハード面での困

難さがあるしかしセンサの問題を解決しても視覚や聴覚のようには記号過程を解明できないものと思われる

その要因は弁別閾閾値経験と学習の問題など生理学的な要因を含んで検討すれば多岐に渡るが本研究ではとくに言語記号との関連を論じたい筆者らが味覚及び嗅覚の言語的な記号過程に関してその阻害要因として考えるものは以下の二点である

bull 味覚嗅覚の記号過程は視覚や聴覚に比べてトップダウン情報が優位であること bull 感覚情報をカテゴリ化し記号対象を同定できたとしてもそれに対応する記号(表意体)が自然言語には十分に存在しないこと この問題群に関して本稿では味覚を中心に議論するまず以下でこの二点を概説し次項以降でその解決に向けた理論的枠組みを示す

(1) 第一の要因

人の味認知が単なるセンサ情報の分類では済まされない背景には味覚認知におけるトップダウン情報の優位性があるここでのトップダウン情報は多岐にわたるものであるが比較的低次なものとしては食物嫌悪学習 ( t a s t e

aversion learning conditioned taste aversion)や味覚嗜好学習(conditioned taste preference)などの味覚と内臓感覚との連合学習が挙げられる[山本 08]また味覚と嗅覚味覚と視覚の間にも連合学習が成立することも明らかになっており味覚認知は対象の見た目(果物の色など)やパッケージのデザインなど対象への先入観によっても容易に変容するという特徴を持つ [日下部amp和田

11]このように基本的な味認知のレベルから味覚以外の情報や先入観知識などの認知的要因が味覚認知に対してトップダウン的に影響を与えることは現在では広く知られている[Rolles 09]

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従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

参考文献Harnad S (1990) The symbol grounding problem Physica D

Nonlinear Phenomena 42(1) 335-346Lakoff G (1987) Women fire and dangerous things What

categories reveal about the mind Cambridge Univ PressLakoff G amp Johnson M (1980) Metaphors we live by

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Neuronal and computational principles In J Dreher amp L Tremblay (Eds) Handbook of reward and decision making

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深谷昌弘 amp 田中茂範 (1996) コトバの〈意味づけ〉論 紀伊國屋書店

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瀬戸賢一編著 山本隆 楠見孝 澤井繁男 辻本智子 山口治彦 小山俊輔 (2005) 味ことばの世界 海鳴社

田中茂範 amp 深谷昌弘 (1998) 〈意味づけ論〉の展開 紀伊國屋書店

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谷口忠大 amp 椹木哲夫 (2005) 身体と環境の相互作用を通した記号創発 表象生成の身体依存性についての構成論 システム制御情報学会論文誌 18(12) 440-449

長井隆行 amp 中村友昭 (2012) マルチモーダルカテゴリゼーション 経験を通して概念を形成し言葉の意味を理解するロ

ボットの実現に向けて(記号創発ロボティクス) 人工知能学会誌 27(6) 555-562

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

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200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

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200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

SIG-SKL-22 2016-03-04

31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 2: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

ここでいう適切な身体の状態とは指導者の経験

知に基づいて記述すると次のようになるすなわち

筋レベルでは適度に筋の緊張を緩め表層筋とい

うより深層筋を使いラインと自己身体の動揺に対

して動的に持続的に微調整ができるような状態

であり関節レベルでは関節を固定せずに可動性

(あそび)をある程度残しラインの動揺を全身で

吸収補償できるよう手足体幹を協調させた状態

であるスラックラインでは自己身体の動きがラ

インの動揺を大きく増幅させる要因となりうるため

ラインという環境との動的で緩やかなカップリング

が求められる

ここでは熟達者や指導者の身体的な経験に基づ

く知識を経験知と呼ぶスラックラインではその

バランス制御においてラインの傾きや動揺自己

身体の重心や手足の位置動きをとくに触覚的な

知覚を通じて知ることが重要と考えられるがこの

経験知を言語化し客観的に説明することは難しい

しかしそれを客観的に記述し定量的に示すこと

ができれば彼ら彼女らの経験知を科学的に裏付

けるエビデンスを提供しより説得力のあるかたち

で指導を実施することができるようになるであろう

また例えば熟達者と初心者のパフォーマンスを

比較することで当事者も自覚できていないような

熟達者の特徴を抽出することができればより効果

的で安全な指導法の提案にもつながると考えられる

そこで本研究ではスラックラインの身体技能

を明らかにするにあたり熟達者指導者の経験知

や研究者自身の体験も重視しそれらと既存の身体

運動科学や認知科学の知見を照らし合わせ仮説の

生成を試みるまた生成された仮説については

センサなどの機器による計測およびそのデータ

の定量的な解析を通した検証を試みるこのような

仮説生成と仮説検証の循環的プロセスを通じ身体

知への理解を深めたい以下その具体的な方法と

現時点で得られている予備実験のデータを報告し

今後の展望について議論する

経験知に基づく仮説生成

本発表では現時点で得られている情報に基づき

生成した仮説について述べる具体的にはリハビ

リテーションの現場でスラックラインを介入の一環

として実践している指導者の経験知と著者が参加

しているスラックライン教室で指導者から教わった

内容および著者ら自身の経験知に基づき以下

の暫定的な仮説を生成した

まずスラックラインという不安定な環境に身体

を定位させ続けるためには重心をラインと支持脚

の接触面に投影させ続けなければならないしかし

スラックラインはその性質上捩れによる傾きが

生じやすいためこの課題を遂行することは容易で

ないまた行為者自身の動きや身体に内在する

揺らぎによりラインの動揺が増幅することもある

そのため片脚立ち課題では重心の接触面への投

影という課題達成のために全身を持続的に動かし

ながら動的にバランスを保ち続ける必要がある

そこでスラックラインの指導現場では上記の

重心の接触面への投影という課題を達成させるため

に次のように指導される両手を挙げ左右に並

行に動かすこと軽く腰を落とし支持脚の膝の力

を抜くこと背筋を伸ばし視線は前方へと向ける

ことこれらの指導を質量中心位置の調整という

観点から捉え直すと次のように換言できよう(図 2)

1)水平方向両手を挙げ左右方向に並行に協調さ

せて動かし質量中心の位置を調整する

2)垂直方向下肢の筋の緊張を適度に緩め膝関節

を柔軟に曲げラインの動揺を吸収する

3)前後方向上体を起こし重心をラインと支持脚

の足底との接触面に投影するよう保つ

定量的な仮説検証

これらの仮説を定量的に検証するため現在次

のように行動変数のあたりをつけている

1)両手の協調性その安定性また両手協調と質

量中心およびラインの位置関係

2)支持脚の膝関節の柔軟性膝とラインの協調関係

3)重心と接触面の位置関係

いずれの変数も最終的には身体と環境(ライン)

の関係の定量化を視野に入れ計測解析を行って

いきたい本発表ではその予備実験として仮説

1)の両手の協調性について定量的に検証した結果を

報告する

予備実験

実験デザイン スラックラインの基本的な身体技能を明らかにす

るため実験課題として片脚立ち課題を採用する

独立変数として身体技能レベルを想定し技能レベ

ルの異なる実験参加者をリクルートする従属変数

として仮説 1)の両手の協調性を定量化するため

両手の水平方向の位置変化の時系列データに対し

体肢間協調研究で広く採用されている相互再帰定量

化分析 (Cross recurrence quantification analysis eg

[4])を実行し両手の協調の安定性を再帰率結合強

度を最大線長という指標で評価する [4]

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2

図 2 本研究の仮説

1)水平方向2)垂直方向3)前後方向

実験参加者 3 年以上のスラックライン経験と指導者としての

経験も有する経験者 1 名(40 歳男性身長 175cm)

とスラックラインを始めたばかりの初心者 1名(30

歳男性身長 1745cm)の 2 名が参加した実験

手続きは神奈川大学における人を対象とする研究

に関する倫理審査委員会にて承認されており実験

参加者には同意のもと実験に参加してもらった

装置 実験はスラックライン専用の装置 SLACKRACK300

(GIBBON SLACKLINES長さ 3m 高さ30 cm)を使用して実施された身体動作の計測には光学式 3 次元モーションキャプチャ装置 (OptiTrack V120 Trio

NaturalPoint Inc) が使用されデータは 120 Hzでサンプリングされた反射マーカーは両手の人差し指の先に取り付けられた

手続き 実験参加者にはできるだけ長く片脚立ち課題を

続けてもらった疲労の影響を最小限に抑えるため

1 セッションは 3分とし適宜休憩を挟みながら

5 セッション繰り返してもらった

データ分析 本発表ではスラックラインの身体技能レベルを

評価する指標として連続して片脚立ちを持続でき

た時間(持続時間)を求めた具体的には5 秒以

上持続できた試行をカウントし各試行の持続時間

を求め平均値を求めた

仮説 1)両手の協調性を定量化し検証するため

両手の水平方向の位置データに対して次のような

分析を行ったまず片脚立ち課題を 15秒以上持続

できた試行のみを抽出し試行開始直後の 5 秒間と

終了直前の 5 秒間は定常的な状態でない場合が多い

ため分析対象から除外した残された区間を 5 秒ず

つに分割し5 秒間の分析区間を抽出した以上の

手順で抽出された両手の時系列データは平滑化後

以下に示す相互再帰定量化分析により定量化された

本研究では両手の協調性を相互再帰定量化分析

によって算出される再帰率最大線長という指標で

評価した再帰率は体肢間協調の安定性(確率的な

ノイズの程度)最大線長は体肢間協調の結合強度

(外乱に対するアトラクター強度)として解釈され

ている [4]これらを上記の 5 秒間の分析区間ごと

に求め実験参加者ごとに平均し比較した分析に

はR ldquocrqardquo package (version 106) [5]を用いた(遅延

時間 200埋込み次元 3半径 25)

結果考察

図 3は左右の手の水平方向の位置変化(20秒間)

を示した時系列である(上経験者下初心者)

時系列からも両手の協調関係について経験者では

一定の協調関係を保ち協調していること初心者で

は両手が別々に動きときに交差していることが

見てとれる(図 3)

図 3 両手の水平方向の位置の変化

上)経験者下)初心者

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3

図 4は片脚立ち課題の持続時間を実験参加者ご

とに平均した値を示している経験者は平均 10725

秒初心者は平均 2039 秒と経験者のほうが 5 倍

以上長く片脚立ちを持続できていたこの結果より

片脚立ち課題における技能レベルが 2 名の実験参加

者で大きく異なることが明らかとなった

図 4 片脚立ち持続時間(エラーバー標準偏差)

図 5は両手協調の安定性を指標する再帰率を実

験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 2295初心者は平均 1701と経験者のほ

うが再帰率が高かったこの結果より片脚立ち

課題で経験者のほうが両手の協調が安定している

ことが示唆された

図 5 再帰率(エラーバー標準偏差)

図 6 は両手協調の結合強度を指標する最大線長

を実験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 12637初心者は平均 7067と経験者のほうが

最大線長が長かったこの結果より片脚立ち課題で

経験者のほうが両手の協調の結合が強いことが示唆さ

れた

図 6 最大線長(エラーバー標準偏差)

以上の予備実験の結果よりスラックラインの身

体技能レベルと両手の協調性に関連性があることが

示唆されたこのことは仮説 1)の通りスラック

ラインの片脚立ち課題においては経験者は両手を

左右に協調させることで質量中心の水平方向の位

置を調整し動的にバランスを保っている可能性を

示唆している [6]

今後の課題

本発表ではスラックラインの基本的な身体技能

を明らかにするため経験知に基づいて仮説を生成

しその一部を予備実験のデータから検証した結果

について報告した予備実験の結果部分的に仮説

を支持する結果が得られ技能レベルが高い経験者

のほうが両手の協調性が高いことが示唆された今

後この可能性を量的に検討するためサンプル数

を増やした本実験を行う予定である

本発表で検討した仮説は暫定的なものであった

そのため今後この仮説自体についても再考し

アップデートをしていく予定である具体的には

スラックライン熟達者やプロ選手へのインタビュー

といった方法によるアプローチも視野に入れている

このように本研究では実践と学術を循環させ

ながら身体知へとアプローチしていく方法論を重視

しているつまり当事者らが実践の現場で培って

きた経験知や現場で抱えている課題を学術的な研究

の俎上に乗せエビデンスを蓄積し課題を解決し

再び実践へとフィードバックしていくhellipという循環

であるさらに実践へのフィードバックの結果

新たに生じる仮説や問題を再び学術的研究の中で

検討していくことで現象の理解は深まると考える

このような方法論自体を洗練させていくことも今後

の長期的な目標である

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4

参考文献

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International Journal of Sports Medicine 31(10)

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[4] Pellecchia G L Shockley K D and Turvey M T

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dynamics Cognitive Science 29(4) 531ndash57 (2005)

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coordination skill for dynamic balancing on a slackline

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Science pp47(2015)

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5

スキルとしての日本酒の味覚言語化

福島宙輝1

Hiroki Fukushima1

1慶應義塾大学 1Keio University

はじめに 本稿では日本酒を例題にスキルとしての味覚の言語化を検討するスキルとしての味覚言語化を考える上でも大きな問いのひとつは「味わいを言語化するには何を語らなければならないか」とものになるだろう本研究ではこの問いに対して「味覚言語化の熟達者は何を語っているか」「味覚言語化の初心者にはどのように言語化を支援できるか」というふたつの観点からアプローチする具体的には言語記号を用いた事態構成のなかでも重要な役割を果たす名詞と動詞副詞の3つの品詞を対象に名詞動詞は言語化支援方略を副詞については熟達者による音象徴語(オノマトペ)の使用を分析する感覚と言語記号の関係すなわち記号接地問題

[Harnad 1990]は近年言語獲得に応用され[今井ら

2015]あるいは機械学習の文脈ではマルチモーダルな入力情報による創発的な記号過程が検討されており [長井amp中村 12]旧来記号論言語学で理論化されてきた「二重分節」の概念などが実装的に応用されている [谷口amp椹木 15]しかしマルチモーダルとは言え味覚と嗅覚については実装されていないのが現状であるたしかに直観的には味覚や嗅覚が言語記号あるいは記号的な環境の認知に特に役立っているようには思えず視聴覚の優位性は確かなものであるしかし人間の記号系において味覚嗅覚が視覚や聴覚の概念形成にも寄与することは明らかであり(例えば[Lakoff amp

Johnson 80 Lakoff 87])人間の感覚情報を基盤にしたマルチモーダルな記号過程を考える上では味覚嗅覚を含めることは必須である

味覚記号接地の困難さ

機械学習の分野において味覚嗅覚の研究が進行しない原因の一つにはセンシングの困難さが考えられる味覚嗅覚は化学感覚であり実装にはハード面での困

難さがあるしかしセンサの問題を解決しても視覚や聴覚のようには記号過程を解明できないものと思われる

その要因は弁別閾閾値経験と学習の問題など生理学的な要因を含んで検討すれば多岐に渡るが本研究ではとくに言語記号との関連を論じたい筆者らが味覚及び嗅覚の言語的な記号過程に関してその阻害要因として考えるものは以下の二点である

bull 味覚嗅覚の記号過程は視覚や聴覚に比べてトップダウン情報が優位であること bull 感覚情報をカテゴリ化し記号対象を同定できたとしてもそれに対応する記号(表意体)が自然言語には十分に存在しないこと この問題群に関して本稿では味覚を中心に議論するまず以下でこの二点を概説し次項以降でその解決に向けた理論的枠組みを示す

(1) 第一の要因

人の味認知が単なるセンサ情報の分類では済まされない背景には味覚認知におけるトップダウン情報の優位性があるここでのトップダウン情報は多岐にわたるものであるが比較的低次なものとしては食物嫌悪学習 ( t a s t e

aversion learning conditioned taste aversion)や味覚嗜好学習(conditioned taste preference)などの味覚と内臓感覚との連合学習が挙げられる[山本 08]また味覚と嗅覚味覚と視覚の間にも連合学習が成立することも明らかになっており味覚認知は対象の見た目(果物の色など)やパッケージのデザインなど対象への先入観によっても容易に変容するという特徴を持つ [日下部amp和田

11]このように基本的な味認知のレベルから味覚以外の情報や先入観知識などの認知的要因が味覚認知に対してトップダウン的に影響を与えることは現在では広く知られている[Rolles 09]

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6

従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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ボットの実現に向けて(記号創発ロボティクス) 人工知能学会誌 27(6) 555-562

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

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200GZY$

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20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

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図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 3: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

図 2 本研究の仮説

1)水平方向2)垂直方向3)前後方向

実験参加者 3 年以上のスラックライン経験と指導者としての

経験も有する経験者 1 名(40 歳男性身長 175cm)

とスラックラインを始めたばかりの初心者 1名(30

歳男性身長 1745cm)の 2 名が参加した実験

手続きは神奈川大学における人を対象とする研究

に関する倫理審査委員会にて承認されており実験

参加者には同意のもと実験に参加してもらった

装置 実験はスラックライン専用の装置 SLACKRACK300

(GIBBON SLACKLINES長さ 3m 高さ30 cm)を使用して実施された身体動作の計測には光学式 3 次元モーションキャプチャ装置 (OptiTrack V120 Trio

NaturalPoint Inc) が使用されデータは 120 Hzでサンプリングされた反射マーカーは両手の人差し指の先に取り付けられた

手続き 実験参加者にはできるだけ長く片脚立ち課題を

続けてもらった疲労の影響を最小限に抑えるため

1 セッションは 3分とし適宜休憩を挟みながら

5 セッション繰り返してもらった

データ分析 本発表ではスラックラインの身体技能レベルを

評価する指標として連続して片脚立ちを持続でき

た時間(持続時間)を求めた具体的には5 秒以

上持続できた試行をカウントし各試行の持続時間

を求め平均値を求めた

仮説 1)両手の協調性を定量化し検証するため

両手の水平方向の位置データに対して次のような

分析を行ったまず片脚立ち課題を 15秒以上持続

できた試行のみを抽出し試行開始直後の 5 秒間と

終了直前の 5 秒間は定常的な状態でない場合が多い

ため分析対象から除外した残された区間を 5 秒ず

つに分割し5 秒間の分析区間を抽出した以上の

手順で抽出された両手の時系列データは平滑化後

以下に示す相互再帰定量化分析により定量化された

本研究では両手の協調性を相互再帰定量化分析

によって算出される再帰率最大線長という指標で

評価した再帰率は体肢間協調の安定性(確率的な

ノイズの程度)最大線長は体肢間協調の結合強度

(外乱に対するアトラクター強度)として解釈され

ている [4]これらを上記の 5 秒間の分析区間ごと

に求め実験参加者ごとに平均し比較した分析に

はR ldquocrqardquo package (version 106) [5]を用いた(遅延

時間 200埋込み次元 3半径 25)

結果考察

図 3は左右の手の水平方向の位置変化(20秒間)

を示した時系列である(上経験者下初心者)

時系列からも両手の協調関係について経験者では

一定の協調関係を保ち協調していること初心者で

は両手が別々に動きときに交差していることが

見てとれる(図 3)

図 3 両手の水平方向の位置の変化

上)経験者下)初心者

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3

図 4は片脚立ち課題の持続時間を実験参加者ご

とに平均した値を示している経験者は平均 10725

秒初心者は平均 2039 秒と経験者のほうが 5 倍

以上長く片脚立ちを持続できていたこの結果より

片脚立ち課題における技能レベルが 2 名の実験参加

者で大きく異なることが明らかとなった

図 4 片脚立ち持続時間(エラーバー標準偏差)

図 5は両手協調の安定性を指標する再帰率を実

験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 2295初心者は平均 1701と経験者のほ

うが再帰率が高かったこの結果より片脚立ち

課題で経験者のほうが両手の協調が安定している

ことが示唆された

図 5 再帰率(エラーバー標準偏差)

図 6 は両手協調の結合強度を指標する最大線長

を実験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 12637初心者は平均 7067と経験者のほうが

最大線長が長かったこの結果より片脚立ち課題で

経験者のほうが両手の協調の結合が強いことが示唆さ

れた

図 6 最大線長(エラーバー標準偏差)

以上の予備実験の結果よりスラックラインの身

体技能レベルと両手の協調性に関連性があることが

示唆されたこのことは仮説 1)の通りスラック

ラインの片脚立ち課題においては経験者は両手を

左右に協調させることで質量中心の水平方向の位

置を調整し動的にバランスを保っている可能性を

示唆している [6]

今後の課題

本発表ではスラックラインの基本的な身体技能

を明らかにするため経験知に基づいて仮説を生成

しその一部を予備実験のデータから検証した結果

について報告した予備実験の結果部分的に仮説

を支持する結果が得られ技能レベルが高い経験者

のほうが両手の協調性が高いことが示唆された今

後この可能性を量的に検討するためサンプル数

を増やした本実験を行う予定である

本発表で検討した仮説は暫定的なものであった

そのため今後この仮説自体についても再考し

アップデートをしていく予定である具体的には

スラックライン熟達者やプロ選手へのインタビュー

といった方法によるアプローチも視野に入れている

このように本研究では実践と学術を循環させ

ながら身体知へとアプローチしていく方法論を重視

しているつまり当事者らが実践の現場で培って

きた経験知や現場で抱えている課題を学術的な研究

の俎上に乗せエビデンスを蓄積し課題を解決し

再び実践へとフィードバックしていくhellipという循環

であるさらに実践へのフィードバックの結果

新たに生じる仮説や問題を再び学術的研究の中で

検討していくことで現象の理解は深まると考える

このような方法論自体を洗練させていくことも今後

の長期的な目標である

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4

参考文献

[1] Granacher U Iten N Roth R and Gollhofer A

Slackline training for balance and strength promotion

International Journal of Sports Medicine 31(10)

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[2] Huber P and Kleindl R A case study on balance

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Archive (1990) 1ndash4 (2010)

[3] Keller M Pfusterschmied J Buchecker M Muumlller E

and Taube W Improved postural control after slackline

training is accompanied by reduced H-reflexes

Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports

22(4) 471ndash477 (2012)

[4] Pellecchia G L Shockley K D and Turvey M T

Concurrent cognitive task modulates coordination

dynamics Cognitive Science 29(4) 531ndash57 (2005)

[5] Coco M I and Dale R Cross-recurrence quantification

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package Frontiers in Psychology 5 510 (2014)

[6] Kodama K Kikuchi Y and Yamagiwa H Whole-body

coordination skill for dynamic balancing on a slackline

Proceedings of Second International Workshop on Skill

Science pp47(2015)

SIG-SKL-22 2016-03-04

5

スキルとしての日本酒の味覚言語化

福島宙輝1

Hiroki Fukushima1

1慶應義塾大学 1Keio University

はじめに 本稿では日本酒を例題にスキルとしての味覚の言語化を検討するスキルとしての味覚言語化を考える上でも大きな問いのひとつは「味わいを言語化するには何を語らなければならないか」とものになるだろう本研究ではこの問いに対して「味覚言語化の熟達者は何を語っているか」「味覚言語化の初心者にはどのように言語化を支援できるか」というふたつの観点からアプローチする具体的には言語記号を用いた事態構成のなかでも重要な役割を果たす名詞と動詞副詞の3つの品詞を対象に名詞動詞は言語化支援方略を副詞については熟達者による音象徴語(オノマトペ)の使用を分析する感覚と言語記号の関係すなわち記号接地問題

[Harnad 1990]は近年言語獲得に応用され[今井ら

2015]あるいは機械学習の文脈ではマルチモーダルな入力情報による創発的な記号過程が検討されており [長井amp中村 12]旧来記号論言語学で理論化されてきた「二重分節」の概念などが実装的に応用されている [谷口amp椹木 15]しかしマルチモーダルとは言え味覚と嗅覚については実装されていないのが現状であるたしかに直観的には味覚や嗅覚が言語記号あるいは記号的な環境の認知に特に役立っているようには思えず視聴覚の優位性は確かなものであるしかし人間の記号系において味覚嗅覚が視覚や聴覚の概念形成にも寄与することは明らかであり(例えば[Lakoff amp

Johnson 80 Lakoff 87])人間の感覚情報を基盤にしたマルチモーダルな記号過程を考える上では味覚嗅覚を含めることは必須である

味覚記号接地の困難さ

機械学習の分野において味覚嗅覚の研究が進行しない原因の一つにはセンシングの困難さが考えられる味覚嗅覚は化学感覚であり実装にはハード面での困

難さがあるしかしセンサの問題を解決しても視覚や聴覚のようには記号過程を解明できないものと思われる

その要因は弁別閾閾値経験と学習の問題など生理学的な要因を含んで検討すれば多岐に渡るが本研究ではとくに言語記号との関連を論じたい筆者らが味覚及び嗅覚の言語的な記号過程に関してその阻害要因として考えるものは以下の二点である

bull 味覚嗅覚の記号過程は視覚や聴覚に比べてトップダウン情報が優位であること bull 感覚情報をカテゴリ化し記号対象を同定できたとしてもそれに対応する記号(表意体)が自然言語には十分に存在しないこと この問題群に関して本稿では味覚を中心に議論するまず以下でこの二点を概説し次項以降でその解決に向けた理論的枠組みを示す

(1) 第一の要因

人の味認知が単なるセンサ情報の分類では済まされない背景には味覚認知におけるトップダウン情報の優位性があるここでのトップダウン情報は多岐にわたるものであるが比較的低次なものとしては食物嫌悪学習 ( t a s t e

aversion learning conditioned taste aversion)や味覚嗜好学習(conditioned taste preference)などの味覚と内臓感覚との連合学習が挙げられる[山本 08]また味覚と嗅覚味覚と視覚の間にも連合学習が成立することも明らかになっており味覚認知は対象の見た目(果物の色など)やパッケージのデザインなど対象への先入観によっても容易に変容するという特徴を持つ [日下部amp和田

11]このように基本的な味認知のレベルから味覚以外の情報や先入観知識などの認知的要因が味覚認知に対してトップダウン的に影響を与えることは現在では広く知られている[Rolles 09]

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従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

SIG-SKL-22 2016-03-04

22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

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200GZY$

200GZZ$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 4: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

図 4は片脚立ち課題の持続時間を実験参加者ご

とに平均した値を示している経験者は平均 10725

秒初心者は平均 2039 秒と経験者のほうが 5 倍

以上長く片脚立ちを持続できていたこの結果より

片脚立ち課題における技能レベルが 2 名の実験参加

者で大きく異なることが明らかとなった

図 4 片脚立ち持続時間(エラーバー標準偏差)

図 5は両手協調の安定性を指標する再帰率を実

験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 2295初心者は平均 1701と経験者のほ

うが再帰率が高かったこの結果より片脚立ち

課題で経験者のほうが両手の協調が安定している

ことが示唆された

図 5 再帰率(エラーバー標準偏差)

図 6 は両手協調の結合強度を指標する最大線長

を実験参加者ごとに平均した値を示している経験者は

平均 12637初心者は平均 7067と経験者のほうが

最大線長が長かったこの結果より片脚立ち課題で

経験者のほうが両手の協調の結合が強いことが示唆さ

れた

図 6 最大線長(エラーバー標準偏差)

以上の予備実験の結果よりスラックラインの身

体技能レベルと両手の協調性に関連性があることが

示唆されたこのことは仮説 1)の通りスラック

ラインの片脚立ち課題においては経験者は両手を

左右に協調させることで質量中心の水平方向の位

置を調整し動的にバランスを保っている可能性を

示唆している [6]

今後の課題

本発表ではスラックラインの基本的な身体技能

を明らかにするため経験知に基づいて仮説を生成

しその一部を予備実験のデータから検証した結果

について報告した予備実験の結果部分的に仮説

を支持する結果が得られ技能レベルが高い経験者

のほうが両手の協調性が高いことが示唆された今

後この可能性を量的に検討するためサンプル数

を増やした本実験を行う予定である

本発表で検討した仮説は暫定的なものであった

そのため今後この仮説自体についても再考し

アップデートをしていく予定である具体的には

スラックライン熟達者やプロ選手へのインタビュー

といった方法によるアプローチも視野に入れている

このように本研究では実践と学術を循環させ

ながら身体知へとアプローチしていく方法論を重視

しているつまり当事者らが実践の現場で培って

きた経験知や現場で抱えている課題を学術的な研究

の俎上に乗せエビデンスを蓄積し課題を解決し

再び実践へとフィードバックしていくhellipという循環

であるさらに実践へのフィードバックの結果

新たに生じる仮説や問題を再び学術的研究の中で

検討していくことで現象の理解は深まると考える

このような方法論自体を洗練させていくことも今後

の長期的な目標である

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4

参考文献

[1] Granacher U Iten N Roth R and Gollhofer A

Slackline training for balance and strength promotion

International Journal of Sports Medicine 31(10)

717ndash723 (2010)

[2] Huber P and Kleindl R A case study on balance

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Archive (1990) 1ndash4 (2010)

[3] Keller M Pfusterschmied J Buchecker M Muumlller E

and Taube W Improved postural control after slackline

training is accompanied by reduced H-reflexes

Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports

22(4) 471ndash477 (2012)

[4] Pellecchia G L Shockley K D and Turvey M T

Concurrent cognitive task modulates coordination

dynamics Cognitive Science 29(4) 531ndash57 (2005)

[5] Coco M I and Dale R Cross-recurrence quantification

analysis of categorical and continuous time series an R

package Frontiers in Psychology 5 510 (2014)

[6] Kodama K Kikuchi Y and Yamagiwa H Whole-body

coordination skill for dynamic balancing on a slackline

Proceedings of Second International Workshop on Skill

Science pp47(2015)

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5

スキルとしての日本酒の味覚言語化

福島宙輝1

Hiroki Fukushima1

1慶應義塾大学 1Keio University

はじめに 本稿では日本酒を例題にスキルとしての味覚の言語化を検討するスキルとしての味覚言語化を考える上でも大きな問いのひとつは「味わいを言語化するには何を語らなければならないか」とものになるだろう本研究ではこの問いに対して「味覚言語化の熟達者は何を語っているか」「味覚言語化の初心者にはどのように言語化を支援できるか」というふたつの観点からアプローチする具体的には言語記号を用いた事態構成のなかでも重要な役割を果たす名詞と動詞副詞の3つの品詞を対象に名詞動詞は言語化支援方略を副詞については熟達者による音象徴語(オノマトペ)の使用を分析する感覚と言語記号の関係すなわち記号接地問題

[Harnad 1990]は近年言語獲得に応用され[今井ら

2015]あるいは機械学習の文脈ではマルチモーダルな入力情報による創発的な記号過程が検討されており [長井amp中村 12]旧来記号論言語学で理論化されてきた「二重分節」の概念などが実装的に応用されている [谷口amp椹木 15]しかしマルチモーダルとは言え味覚と嗅覚については実装されていないのが現状であるたしかに直観的には味覚や嗅覚が言語記号あるいは記号的な環境の認知に特に役立っているようには思えず視聴覚の優位性は確かなものであるしかし人間の記号系において味覚嗅覚が視覚や聴覚の概念形成にも寄与することは明らかであり(例えば[Lakoff amp

Johnson 80 Lakoff 87])人間の感覚情報を基盤にしたマルチモーダルな記号過程を考える上では味覚嗅覚を含めることは必須である

味覚記号接地の困難さ

機械学習の分野において味覚嗅覚の研究が進行しない原因の一つにはセンシングの困難さが考えられる味覚嗅覚は化学感覚であり実装にはハード面での困

難さがあるしかしセンサの問題を解決しても視覚や聴覚のようには記号過程を解明できないものと思われる

その要因は弁別閾閾値経験と学習の問題など生理学的な要因を含んで検討すれば多岐に渡るが本研究ではとくに言語記号との関連を論じたい筆者らが味覚及び嗅覚の言語的な記号過程に関してその阻害要因として考えるものは以下の二点である

bull 味覚嗅覚の記号過程は視覚や聴覚に比べてトップダウン情報が優位であること bull 感覚情報をカテゴリ化し記号対象を同定できたとしてもそれに対応する記号(表意体)が自然言語には十分に存在しないこと この問題群に関して本稿では味覚を中心に議論するまず以下でこの二点を概説し次項以降でその解決に向けた理論的枠組みを示す

(1) 第一の要因

人の味認知が単なるセンサ情報の分類では済まされない背景には味覚認知におけるトップダウン情報の優位性があるここでのトップダウン情報は多岐にわたるものであるが比較的低次なものとしては食物嫌悪学習 ( t a s t e

aversion learning conditioned taste aversion)や味覚嗜好学習(conditioned taste preference)などの味覚と内臓感覚との連合学習が挙げられる[山本 08]また味覚と嗅覚味覚と視覚の間にも連合学習が成立することも明らかになっており味覚認知は対象の見た目(果物の色など)やパッケージのデザインなど対象への先入観によっても容易に変容するという特徴を持つ [日下部amp和田

11]このように基本的な味認知のレベルから味覚以外の情報や先入観知識などの認知的要因が味覚認知に対してトップダウン的に影響を与えることは現在では広く知られている[Rolles 09]

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従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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ボットの実現に向けて(記号創発ロボティクス) 人工知能学会誌 27(6) 555-562

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

SIG-SKL-22 2016-03-04

22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

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200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

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Page 5: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

参考文献

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5

スキルとしての日本酒の味覚言語化

福島宙輝1

Hiroki Fukushima1

1慶應義塾大学 1Keio University

はじめに 本稿では日本酒を例題にスキルとしての味覚の言語化を検討するスキルとしての味覚言語化を考える上でも大きな問いのひとつは「味わいを言語化するには何を語らなければならないか」とものになるだろう本研究ではこの問いに対して「味覚言語化の熟達者は何を語っているか」「味覚言語化の初心者にはどのように言語化を支援できるか」というふたつの観点からアプローチする具体的には言語記号を用いた事態構成のなかでも重要な役割を果たす名詞と動詞副詞の3つの品詞を対象に名詞動詞は言語化支援方略を副詞については熟達者による音象徴語(オノマトペ)の使用を分析する感覚と言語記号の関係すなわち記号接地問題

[Harnad 1990]は近年言語獲得に応用され[今井ら

2015]あるいは機械学習の文脈ではマルチモーダルな入力情報による創発的な記号過程が検討されており [長井amp中村 12]旧来記号論言語学で理論化されてきた「二重分節」の概念などが実装的に応用されている [谷口amp椹木 15]しかしマルチモーダルとは言え味覚と嗅覚については実装されていないのが現状であるたしかに直観的には味覚や嗅覚が言語記号あるいは記号的な環境の認知に特に役立っているようには思えず視聴覚の優位性は確かなものであるしかし人間の記号系において味覚嗅覚が視覚や聴覚の概念形成にも寄与することは明らかであり(例えば[Lakoff amp

Johnson 80 Lakoff 87])人間の感覚情報を基盤にしたマルチモーダルな記号過程を考える上では味覚嗅覚を含めることは必須である

味覚記号接地の困難さ

機械学習の分野において味覚嗅覚の研究が進行しない原因の一つにはセンシングの困難さが考えられる味覚嗅覚は化学感覚であり実装にはハード面での困

難さがあるしかしセンサの問題を解決しても視覚や聴覚のようには記号過程を解明できないものと思われる

その要因は弁別閾閾値経験と学習の問題など生理学的な要因を含んで検討すれば多岐に渡るが本研究ではとくに言語記号との関連を論じたい筆者らが味覚及び嗅覚の言語的な記号過程に関してその阻害要因として考えるものは以下の二点である

bull 味覚嗅覚の記号過程は視覚や聴覚に比べてトップダウン情報が優位であること bull 感覚情報をカテゴリ化し記号対象を同定できたとしてもそれに対応する記号(表意体)が自然言語には十分に存在しないこと この問題群に関して本稿では味覚を中心に議論するまず以下でこの二点を概説し次項以降でその解決に向けた理論的枠組みを示す

(1) 第一の要因

人の味認知が単なるセンサ情報の分類では済まされない背景には味覚認知におけるトップダウン情報の優位性があるここでのトップダウン情報は多岐にわたるものであるが比較的低次なものとしては食物嫌悪学習 ( t a s t e

aversion learning conditioned taste aversion)や味覚嗜好学習(conditioned taste preference)などの味覚と内臓感覚との連合学習が挙げられる[山本 08]また味覚と嗅覚味覚と視覚の間にも連合学習が成立することも明らかになっており味覚認知は対象の見た目(果物の色など)やパッケージのデザインなど対象への先入観によっても容易に変容するという特徴を持つ [日下部amp和田

11]このように基本的な味認知のレベルから味覚以外の情報や先入観知識などの認知的要因が味覚認知に対してトップダウン的に影響を与えることは現在では広く知られている[Rolles 09]

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従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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ボットの実現に向けて(記号創発ロボティクス) 人工知能学会誌 27(6) 555-562

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

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[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

SIG-SKL-22 2016-03-04

24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

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200GYX$

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200GZY$

200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

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Page 6: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

スキルとしての日本酒の味覚言語化

福島宙輝1

Hiroki Fukushima1

1慶應義塾大学 1Keio University

はじめに 本稿では日本酒を例題にスキルとしての味覚の言語化を検討するスキルとしての味覚言語化を考える上でも大きな問いのひとつは「味わいを言語化するには何を語らなければならないか」とものになるだろう本研究ではこの問いに対して「味覚言語化の熟達者は何を語っているか」「味覚言語化の初心者にはどのように言語化を支援できるか」というふたつの観点からアプローチする具体的には言語記号を用いた事態構成のなかでも重要な役割を果たす名詞と動詞副詞の3つの品詞を対象に名詞動詞は言語化支援方略を副詞については熟達者による音象徴語(オノマトペ)の使用を分析する感覚と言語記号の関係すなわち記号接地問題

[Harnad 1990]は近年言語獲得に応用され[今井ら

2015]あるいは機械学習の文脈ではマルチモーダルな入力情報による創発的な記号過程が検討されており [長井amp中村 12]旧来記号論言語学で理論化されてきた「二重分節」の概念などが実装的に応用されている [谷口amp椹木 15]しかしマルチモーダルとは言え味覚と嗅覚については実装されていないのが現状であるたしかに直観的には味覚や嗅覚が言語記号あるいは記号的な環境の認知に特に役立っているようには思えず視聴覚の優位性は確かなものであるしかし人間の記号系において味覚嗅覚が視覚や聴覚の概念形成にも寄与することは明らかであり(例えば[Lakoff amp

Johnson 80 Lakoff 87])人間の感覚情報を基盤にしたマルチモーダルな記号過程を考える上では味覚嗅覚を含めることは必須である

味覚記号接地の困難さ

機械学習の分野において味覚嗅覚の研究が進行しない原因の一つにはセンシングの困難さが考えられる味覚嗅覚は化学感覚であり実装にはハード面での困

難さがあるしかしセンサの問題を解決しても視覚や聴覚のようには記号過程を解明できないものと思われる

その要因は弁別閾閾値経験と学習の問題など生理学的な要因を含んで検討すれば多岐に渡るが本研究ではとくに言語記号との関連を論じたい筆者らが味覚及び嗅覚の言語的な記号過程に関してその阻害要因として考えるものは以下の二点である

bull 味覚嗅覚の記号過程は視覚や聴覚に比べてトップダウン情報が優位であること bull 感覚情報をカテゴリ化し記号対象を同定できたとしてもそれに対応する記号(表意体)が自然言語には十分に存在しないこと この問題群に関して本稿では味覚を中心に議論するまず以下でこの二点を概説し次項以降でその解決に向けた理論的枠組みを示す

(1) 第一の要因

人の味認知が単なるセンサ情報の分類では済まされない背景には味覚認知におけるトップダウン情報の優位性があるここでのトップダウン情報は多岐にわたるものであるが比較的低次なものとしては食物嫌悪学習 ( t a s t e

aversion learning conditioned taste aversion)や味覚嗜好学習(conditioned taste preference)などの味覚と内臓感覚との連合学習が挙げられる[山本 08]また味覚と嗅覚味覚と視覚の間にも連合学習が成立することも明らかになっており味覚認知は対象の見た目(果物の色など)やパッケージのデザインなど対象への先入観によっても容易に変容するという特徴を持つ [日下部amp和田

11]このように基本的な味認知のレベルから味覚以外の情報や先入観知識などの認知的要因が味覚認知に対してトップダウン的に影響を与えることは現在では広く知られている[Rolles 09]

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従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

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200GYX$

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10$

0$

10$

20$

30$

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987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

SIG-SKL-22 2016-03-04

27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

SIG-SKL-22 2016-03-04

31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

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Page 7: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

従って味覚の記号表象過程(味覚を記号的にどう表現するか)記号接地(味覚と言語記号をどうつなげるか)を考える上ではボトムアップ的なセンサ情報処理のみでは味覚の特性を反映できないこととなる

(2) 第二の要因

第二の要因は言語とカテゴリに関するものであり端的に言うならば言語記号に対する指示対象の不在あるいはカテゴリ化された感覚に対する言語記号の不在という問題であるすなわち知覚情報をカテゴリ化することで指示対象を切り出すことができたとしても我々の使用する言語(少なくとも日本語)の中には味覚のカテゴリに適する言語記号がごく少数しか存在しないということである自然言語は概して視覚的な対象(シニフィエ)に対して聴覚的な音声(シニフィアン)を対応させるといういわば視聴覚優位の記号系であり味覚を直接表象する語(シニフィアン)は極めて限定的である瀬戸らの一連の研究[瀬戸 03 瀬戸ら 06]は日本語で味を表現することば(「味ことば」)を網羅的に収集し分析した嚆矢といえるものであるがそこで示された分類図(p29)を見ても直接的に味覚を表現することばがいかに限定的かを知ることができる言語が異なればカテゴリ化のしかたが異なる[Tay lo r

8 9 ]ようにモダリティ(五感)が異なればカテゴリも異なる例えば味覚世界と視覚世界を比較すればそのカテゴリ化の粒度に大きな差があることは容易に創造できる視覚聴覚の言語表象と味覚嗅覚の言語表象は異なる記号システムによるものと考えるべきである 人が自らの環境世界に生起する事象を把握し主体的に事態構成をしていく第一のプロセスは「モノ」的世界の表現すなわち名詞世界を表現することによる世界の分節化の実現である世界の分節化について深谷ら [深谷amp田中 1996

1998]は「差異化」「一般化」「典型化」の相互作用による概念形成論を提唱するが味覚においてもこの原理は共通している味覚の表現においてもまずは味の要素として何が感じられるかを表現することが目標となるこれは味覚の知覚対象を把握し差異の体系を自らのうちに構築するというプロセスである味覚を表現しようとするならば味Aと非味Aを差異化し同時に一般化と典型化を図る相互連関を起こすことが求められる

味覚の名詞表現支援

味覚の名詞表現支援を考える際にまずもって必要なのは名詞であろう味わいを表すことばとして典型的なものはワインのテイスティングワードであるワインはその歴史的背景からテイスティングワードの体系化がなされ他に類を見ない表現技法が確立されているテイスティングとサービングのプロであるソムリエは1 0 0を超すテイスティングとそれに紐づくべき香りの対応を記憶しワインの複雑な香りの中からその構成要素としてのテイスティングワードを的確に検出する米のワインと称される日本酒にはこれまでテイスティングワードのような表現は存在しなかった日本酒の醸造において重視されたのは品質管理のための異臭検知であり「老香(ひねか)」や「日光臭」といった管理用語が発達した一方で魅力的な味わいを表現することばはなく「甘い辛いフルーティ」などといった貧弱なことばで表現されているのが現状であるこのようにそもそもの表現手段駒としての表現語彙がないという状況において味わいを表現するのは土台無理な話であるしかし裏を返せば記号表現の確立していない知覚対象に対してどのような支援を行えば表現が可能になるかという問いをたてることができる本稿では詳細は割愛するが筆者はこれまでに名詞表現の支援方略として事典形式の支援を試みた味わいに限らずからだを用いた学びを起こすには新たな変数としてのことばが重要である[諏訪 2015]ことばの獲得により世界を観る眼からだが変わり新しいからだは新しいことばを産むからであるこうしたサイクルの入り口として筆者は事典を通した学びを提案するただしこの際用いるのは通常の事典や辞書では不十分である辞書はある事柄に普遍的なldquo意味rdquoを記述したものであり編集者個人の意味づけはできるだけ排除されるしかし身体知の学びにおいては他者の意味づけを追体験できることのほうが重要である

関係性を表現する動詞の世界 我々の用いる自然言語は視覚情報によるカテゴリに対して聴覚情報としての音素の組み合わせを対応させたものが主要であるわけてもこれはモノ的世界を表す名詞表現において顕著である本章までに我々は味覚表現におけるモノ的世界を検討したしかし留意しておかなければならないのは例えば「リンゴの味」といったときそこでは味覚による世界の分節化は行われていないということである味覚での世界の分節化が行われている部分があるとするならばそれはいわゆる五味や

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その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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20

いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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21

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

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200GXX$

200GXY$

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20$

10$

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20$

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987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

SIG-SKL-22 2016-03-04

28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

SIG-SKL-22 2016-03-04

29

- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

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スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

SIG-SKL-22 2016-03-04

33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

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本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

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うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

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Page 8: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

その複合体としての「コク」程度であるこの点を瀬戸[2003 2005]はメタファ研究の観点から「甘い辛い酸っぱい苦い塩辛い旨い」といった基本の表現以外は味わいの表現がすべて比喩であることを指摘する このように味覚と世界の分節化を考えるとき他のモノ的世界と同様に味覚も独自に差異化一般化典型化の体系を持つかあるいは階層的カテゴリ体系を持つかは疑問であるこの点については味覚を含む近感覚が階層的処理体系を持たないために言語表現に馴染まないとする指摘もある[例えば浅野 amp 渡邉 2014]

関係性を語る

味わいの表現は味わいの構成要素とその関係性の記述から成る味わいの構成要素とは「旨み」や「コク」といった名詞や形容詞で語られる領域である一方その要素がどのように関係しあっているかは動詞で表現されうる領域である動詞世界はモノではなくモノの動きや働きそして概念を指示対象とするという特徴があるために曖昧で多義的であるひっしゃはそうした動詞というものが根源的に抱える曖昧性と多義性を前提とし適切な動詞表現を産出するためのツールとして「日本酒味わい図式」を提案した(原稿末図)[福島2013]動詞はコト世界の表現を支える存在である動詞の機能とは端的に言えば図式構成機能である (田中 amp

深谷 1998)図式構成機能(schema-forming

function)とは事態を構成するために必要な要素(項)の配列を構成し個々の項に意味役割を割り振る動詞の働きである図式構成機能によって状況記述のスクリプトが提供されるここでは動詞自体に確たるldquo意味rdquoがあるのではない文中の名詞句などの要素を変数とした時に動詞は単純で曖昧な関数としての意味構成機能を持つことに注意したい動詞の意味づけプロセスは強く個に依存する動詞は無限の状況に対して変数に構成図式という関係性を与え我々の動的な認知を可能とする

副詞世界の味覚表現 味わいを表すオノマトペ

ここでは副詞世界の中でも音象徴語に注目する音象徴語は認知的な際立ちの小さい味覚感覚に対して参照点構造を与えると考えられるがこれまで何のために何を表現するために音象徴語が用いられているかという点

は明らかにされてこなかった筆者は味覚の言語化の熟達者がどのように音象徴語を用いているかをワインと日本酒の味覚表現コーパスの分析から分析した結果として音象徴語の使用原理に関して以下の知見を得た[福島2016]まずワインのコーパスからは味ことば分類における場所や作り手製造プロセスなどの「状況表現」に含まれるようなものまたは価格などの定量的な要素は音象徴語によって表現される頻度が低いことが示されたこの傾向は語は少ないものの日本酒においても確認された一方日本酒ワインに共通して音象徴語を含む文に頻度が高かったのは味ことば分類表における「食味表現」であったこの点に関してワインコーパスからは個別具体的な味の要素ではなく複合的な食味表現が共起しやすいことが示された日本酒コーパスの分析からは食味表現の中でも口に入ってからの時系列で言うならば「最初と最後」すなわち味が感じられる瞬間や現れる様子そして喉を通るさまやその後の口中の感覚を表現するために音象徴語がより重点的に用いられることが示された

音象徴語の中間的参照枠としての機能

筆者はワインと日本酒の味覚表現において音象徴語が参照枠として働くということを明らかにした特に日本酒では味わいの中でも香りの「現れ方」や「消え方」により強い共起が示された日本酒の基本味である甘味旨味酸味苦味渋味あるいは基本的な香りとしてのリンゴやバナナメロンといった語はどれも有意差が検出されなかったことは実際に際立って感じられる味の要素には音象徴語は必要とされないすなわち参照枠を経由せずとも記号接地(感覚と言語を繋ぐこと)が可能であることを示している「そこにある味」に対して「出てくる味」や「消えていく味その消え方」の暗黙性が高いことは明らかでありその暗黙的であいまいな感覚を表現するために参照枠として音象徴語が用いられたものと考えられる

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

SIG-SKL-22 2016-03-04

24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

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200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

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身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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20

いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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21

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

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200GXX$

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20$

10$

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20$

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987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

SIG-SKL-22 2016-03-04

28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

SIG-SKL-22 2016-03-04

29

- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

SIG-SKL-22 2016-03-04

33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

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34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

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Page 10: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

身体知の言語化とその段階モデル間身体性に注目して

The Stage Model to Verbalization of Embodied KnowledgeFocusing on the Intercorporeite

山田雅敏 13lowast 里大輔 2 坂本勝信 1 小山ゆう 2 松村剛志 1 砂子岳彦 1 竹内勇剛 3

Masastoshi YAMADA13 Daisuke SATO2 Masanobu SAKAMOTO1 Yu KOYAMA2

Takeshi MATSUMURA1 Takehiko SUNAKO1 Yugo TAKEUCHI3

1 常葉大学1 Tokoha University

2 浜松大学2 Hamamatsu University

3 静岡大学創造科学技術大学院3 Graduate School of Science and Technology Shizuoka University

Abstract Several studies have reported that the meta-cognitive verbalization is effective toacquire the embodied knowledge as Tacit Knowledge in sportsOn the other handResearchissue that is left are as followsFew studies have focused on the interaction between learner andteacherThereforeit is important that the interaction about the effectiveness of meta-cognitiveverbalization to acquire the embodied knowledge in sports must be discussedPurpose of thisstudy is to build the stage model (XY f g) of the mathematical coaching process between learnerand teacher by functionalTherebyit is possible to describe the coaching process of embodiedknowledge that is very difficult or impossible to explain by verbalization

1 はじめに

11 研究の背景と身体知の定義スポーツは生涯にわたり心身ともに健康で文化的

な生活を営む上で不可欠のものとなっている(文部科学省スポーツ基本法平成 23年法律第 78号)スポーツの持つ重要性は幼児の発育から青少年の健全な育成また高齢者対象の生涯スポーツによる健康増進そして経済発展への寄与から国際友好への貢献など多岐にわたる [1]加えて東京五輪開催も決定しており国民のスポーツに対する関心が今後ますます高まると予想される このような社会的背景のもとスポーツ活動を通して身体が学び知る「身体知」は多くの研究領域で注目されており学術的重要性も高まっている身体知はことばによる表現が難しいもしくは不可能な暗黙知に位置づけられる [2][3]そのため身体知の意味するところは学問領域により多少の異なりを見せるが本研究では古川らに倣い「訓練によって身体が覚えた高度な技」と定義する [4]

lowast連絡先常葉大学健康プロデュース学部健康柔道整復学科       431-2102 静岡県浜松市北区都田町 1230 番地       E-mail yamadahmtokoha-uacjp

12 身体知の熟達と意識高度な技を身体に覚えさせるためには訓練の動作

によって生じる身体感覚を強く意識することが重要となる [3] たとえば研究代表者が長年コーチを務めるバスケットボールのフリースローを例に挙げてみようシューターの前に立ちはだかるディフェンスはおらずゴールまでの距離は一定であるこの条件下でシュートがすべて決まるかと言えば入る場合もあれば落ちる場合もある時にはリングにすら当らないときもあるだろうもし選手が何も考えずにただ闇雲にシュートを打っていたならば熟達は期待できないフリースローを何度も繰り返す再現期間の中で強い意識により身体がシュートが入るという感覚を覚え確率良くシュートを決めることが可能になる 藤波は身体知の獲得のためには意識的な練習が必要であるとした上で(1)学習者が気づきにくい点をデータで示す(2)用具を変えて異なった感覚を体験させる(3)動作の原理を考えさせるなどの点に配慮する必要があることを指摘している [5]また市川らのボールジャグリングの身体スキル獲得過程に注目した研究によると高くパフォーマンスが向上した参加者の時間間隔の安定性と意識的に着目していた点には特徴的な差異があるもののそれらの相互対応の可能性を示唆している [6]

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

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200GYX$

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10$

0$

10$

20$

30$

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987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

SIG-SKL-22 2016-03-04

27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

SIG-SKL-22 2016-03-04

31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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13 身体知の熟達と言語化一方ただ身体感覚に意識を向けるだけではなく積

極的に身体の動きや体感について言語化する試行が身体知の熟達に関係するとの報告がされている諏訪は「身体知とは身体に覚え込ませることが重要なldquo知rdquoでありそれを必ずしも言語化する必要はないもしくは言語化の試みは身体に覚え込ませることへの障害になるかもしれない」という多くの考え方があることを重重に理解した上で 次の仮説を立てている [7]

本来言語化を行うことが難しいldquo身体知rdquoを敢えて言語化しようとする試みが身体知の獲得を促進するという仮説を有しているつまり言語化は身体知獲得のための有効なツールであるという主張である『身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化(2015)』

諏訪らはボウリングに関して学習者の身体部位の単語数概念間関係の増加詳細な意識から全体的な意識への変化がパフォーマンス向上に関連していたことを明らかにしている [8]またダーツ投げについて多くの概念の関係を定常的にことばにできるようになることとパフォーマンスの急上昇に深い関係があることを示唆している [9][10]その他スポーツに関してはスノーボーディング [7]やスポーツフィッシング [11]についても同様の研究成果を報告している加えて研究代表者のこれまでの研究成果においても疾走上達に関する言語化の変化とパフォーマンス向上には強い関係があることが実験的検証により明らかにされた [12] 以上身体知の熟達に対する言語化の研究については多くの知見が蓄積されており認知科学人工知能学の研究領域の発展に寄与する成果をあげていると言えよう

2 問題提起

21 身体性の枠組み従来の諸研究の特徴は主に学習者の身体性に焦点

が当てられていることにある本研究における身体性とは認知科学事典に倣い「知的な行動の多くが身体と環境の自律的な相互作用から生じる」という考えを意味している [13][14] また身体性については哲学においても研究対象とされることが多くたとえばフッサール現象学により身体性を徹底的に追求し現象学的還元を行ったメルロ=ポンティ(1959)が代表として挙げられる[15][16]近年この身体性の概念はロボットの開発設計でも応用されており環境の中でアフォーダンスを知覚しながら様々な行動パターンを生み出すことが可能となっている [13] もちろん当該研究領域においても身体性は重要な概念となる藤波は認知科学人工知能学の歴史を紐解いた上で人間は何かしらの「環境」に埋め込

まれ周囲から情報を取り出し生きている以上環境や状況の影響を考慮することが必要不可欠な条件であると指摘している [5]また諏訪は未だ知覚できていない環境要因が常に存在するとした上で「(身体知の熟達とは)身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセス」と主張している [7] これらの意見を鑑みると従来の諸研究における身体知の研究では主に学習者の身体と環境との二項関係に焦点が当てられていたと言えよう

22 残された課題残された課題は先行研究では学習者の身体性の

みがその対象となり教授者は特に議論されてこなかったことにあるしかし本来のスポーツ現場に照らし合わせるならば学習者が具体的経験をする環境には身体知に精通した教授者がいることが一般的である特に学習者自身が動作を確認できない場合教授者からの言葉によるフィードバックが非常に重要となる [3]たとえ教授者が存在しない場合であっても対象となる身体知に関する教材や資料映像など何かしらの媒体を通して教示されているだろう たとえば市川らは実験参加者に対してジャグリング用のボールの投げ方について図解された解説シートを配布しエキスパートの実践映像を視聴させている [6]また諏訪らの報告にはボウリングに関する教示について詳しい記載はないが [8]ボウリングは日本において一般的に広く普及されているスポーツであり約 9か月間(204日)ボウリング場に通ったと報告されていることからスコアの高い競技者の動作を観察する機会が多々あったと推測されるダーツ投げも同様に8ヶ月間 56日の期間に413ゲームを友人と競いながら行っていると報告されており学習者は他者のパフォーマンスを身近で観察していたことだろう [9][10]さらに山田らのスポーツフィッシングに関する文献では元プロアングラーの熟達者に帯同しポイント移動を行っており熟達者のことばが学習者のメタ認知記述の言語化に対して影響を与えたと考えられる [11] 次に学習者の有限なる時間(特に競技スポーツの場合)をいかに効率良く使いパフォーマンス向上に結びつけるかはスポーツのコーチングにおいて無視することができないたとえば大武らは投球動作のパフォーマンス向上に効果があるとされる言語化されたスキルを伝達する介入群と伝達しない統制群に分け投球の球速変化について検討を行ったその結果球速の変化に有意な差はなかったものの両群ともに球速が向上した一方個人における球速変化の人数は介入群が多いことから言語化された身体技能の伝達がパフォーマンスの向上を短時間で引き起こす場合があることを報告している [17] ここでもし仮に学習者のみの言語化によって対象となる身体知がある程度上達したとしてもその道を専門とする教授者が評価した場合に正しい方向に向かっていないケースも考えられるまた教授者から見て間違った言語化が修正されず続けられた場合学習者の身体知の熟達を妨げる場合も十分あり得

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るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

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200GZY$

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20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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200GZZ$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 12: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

るさらに良い身体感覚を生み出した言語化が次の段階で必要であるとは限らない [18]この場合その言語化自体が常に変化し続ける身体と環境との関係を再構築することへの足枷となる可能性も考えられる 以上のように身体知の熟達に対する言語化を探究するにあたり教授者と学習者の間(あいだ)に生じるインタラクションを考慮することが当該領域における残された課題であると考えられる

23 間身体性への端緒身体の学びにおいて教授者と学習者の身体の間(あ

いだ)に生じるインタラクションは身体を視覚的に捉えることができる物理的な身体の形状だけで起こるものではなく両者の体表を超えて広がる身体空間を含む [13]この両者の体表を超えて間(あいだ)に広がる身体空間に生み出される身体性こそメルロ=ポンティが伝えた「間身体性 1」である [16][19]阪田は認知科学の視座から身体の学びを論ずる中で「我々の身体は他者からの影響を受けつつ その一方で 他者に主体的に働きかけながら 相互に含み合う関係にある」と述べた上で 教授者と学習者のそれぞれの拡張する身体が 相互に含み合い 交錯する地点に(身体の)学びは位置していると強調している [13] ここで教授者と学習者のインタラクションを取り上げることによってメルロ=ポンティが伝えようとした間身体性についてすべてを語ることができないことは重重に理解しているが本研究の試みが当該領域における間身体性への端緒となればと考える 本研究ではより認知科学的人工知能学的なアプローチを目指して両者のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しモデルの妥当性について実践的検証を行うことを目的する期待される研究成果として伝えることが難しいとされる身体知のコーチングを数理モデルの構築によって段階的に分析できるため身体知の熟達に関する解明の一助を担い新しい知見が得られることが予想される

3 段階モデルの構築

31 初歩的な歩行の指導の例歩行を例にとって初歩から高度へと熟達する過程

からモデルを模索するたとえば教授者から初歩的な歩行を学びたい学習者がいると仮定する(図 1参照)教授者の言葉がけによって学習者にまず一歩目の歩行が可能になるように導くことを想定する教授者と学習者は言葉のキャッチボールをしなが

ら段階的な歩行の熟達を目指すはじめに教授者が「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出

1私の二本の手が「共に現前」し「共存」しているのはそれがただ一つの身体の手だからである他人もこの共現前(compresence)の延長によって現れてくるのであり彼と私とは言わば同じ一つの間身体性(intercorporeite)の器官なのだMaurice Merleau-Ponty哲学者とその影(1985)

して左足に体重を移す」と指示するその指示に対して学習者はその通りに実行する場合もあればできない場合もあろうともかくそのときの感覚を言語化してもらうと「左右にぐらぐらする」と言うかもしれないそれを聞いて教授者は次の指示「その左右のぐらぐらを大事にしながら歩いてみよう」と指導し学習者は再びそれを実行に移すこのときも上手くいくこともいかないこともあり得るが上記の過程を見てもわかるように教授者は学習者に対して最初の具体的な数値を用いた指示から学習者が歩行のときに感じた左右の振り子感覚を伝えるようになるなぜならばその振り子感覚が教授者の求める歩行を可能にする身体感覚だからである そこでこの歩行訓練の例をもとにしてモデルを構築を試みるまず教授者による指示「50cm右足を出す」を指示 xとするおそらく 50cmでなくともよいはずで48cmだろうが51cmだろうが大きな違いはさほどない可能性が高いしかし50cmが学習者にとって最適な目安だったとするとxは極値を持つことが要請されるそしてxに対して実数に値をとる f(x)を評価関数とするこの評価関数は教授者の指示にいかに近づけているかを評価するものでありdx(t)dtによって評価の最も高い状態 xが決められるすなわちこの評価関数の極値によって教授者の指示が表される

df(x)

dx= 0 (1)

これは任意の微少量だけ動いたとしても関数の値が変化しない極値(定常)であることを意味する 次に教授者の指導を実行した学習者に自らの身体感覚を言語化してもらうその学習者の言語化が教授者が求める歩行の身体感覚に沿わないときさらなる言葉がけがなされる一方この身体感覚が簡単に学習者に伝わればよいが往々にして困難な場合が多いのではないだろうかなぜならばこの感覚こそが言語化が難しいもしくは言語化が不可能な暗黙知に位置づけられる身体知のためである それゆえ教授者はその学習者に適した段階的な指導法を考案して自らの身体感覚のいわばコピー

図 1 初歩的な歩行の指導の例

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12

を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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21

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

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[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

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200GZZ$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

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contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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29

- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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を試みるコピーしたい技術は具体的な指示「50cm右足を出す右足に体重を移し左足を 50cm出して左足に体重を移す」ではなくことばによって伝え難い歩行に伴う抽象的な身体感覚であるこの際教授者の停留値と学習者の曲線が異なるときは齟齬となるので教授者は学習者の認識に沿って指導をするこの様子は図 2のように汎関数の停留値を求める変分原理によって表現できるここでは停留曲線が一点に収束する場合を停留値とするたとえば時間などのパラメータを取らない場合がこれに該当するなおこの停留値は「自然の運動は常に最も簡単で最短のルートを通る」という最少作用の原理 2 に従う[20]

図 2 身体知の熟達を表現した汎関数の模式図

32 教授者と学習者のインタラクション次に初歩的な歩行から高度な歩行を目指して教

授者と学習者が言語的インタラクションによって互いに身体感覚を共有していく様を表現するはじめに変数空間を設定し教授者が要請する方向性を評価関数 f で示すまた教授者の言葉による指導を xで表しそれを実行した学習者の言葉による感想の表現をy とする指導表現 xと感想表現 y は交互に交わされていき次第に指導者の期待する目標に近づいていく指導表現と感想表現は何回か繰り返されるのでk = 1 2 middot middot middot N に対してxk yk とする指導表現はいくつかの要素で構成されているとすると

xk = (xk1 x

k2 middot middot middotxk

nk) (2)

となるただしnk は k 番目の指導の次元(指導の数)であるy についても同様であるが次元は異なるxk

lはk回目の指導の l番目の指導であるさらにxk

lが時系列に変化する場合はtの関数 xkl(t)と

なるたとえば第 1回目の第 1番目の「まず右足を50cm前に出す」という指導は時間によってその動作が実現されていくので時間の関数 x1

1(t)によって2最少作用の原理Principle of Least Action 物事は常に最小

の労力で起こることを意味する原理この原理の発見が力と運動の関係を記述する方程式の定式化につながりポテンシャルエネルギーや運動エネルギーといった重要な概念を生み出した

表される実はパラメータ tは時間である必要はないその事例に対して適切なパラメータを選んでよいものとする指導者のアドバイスに対して学習者がそれを実行に移した結果どのように実現したかを同じ変数 xで表すものとするその学習者の実行結果に対して教授者の指導からどのぐらい隔たりがあるのかを数値化できたならばそれは評価関数を設定したことにほかならないk 回目の指導への学習者の実行結果 xk(t)に対する評価を関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)で表すならばこれが評価関数となるこの評価関数fk(xk(t) dxk(t)dt)に対して作用積分 Ik[xk]を次のように定めることができる

Ik[xk] =

int t1

t0

fk(xk(t) dxk(t)dt)dt (3)

この作用積分の停留値は次のオイラー方程式

dfk(xk(t) dxk(t)dt)

dt

minusdfk(xk(t) dxk(t)dt)

d(dxk(t)dt)= 0 (4)

によって導かれる停留値は教授者が要請する選手の動きであるそれは単に指導 xk(t)を実行すればいいというわけではない言葉による指導 xk(t)は学習者が理解しやすい形に表した具体的な指示であって教授者の伝えたい身体感覚はその指示を忠実に実行した後に学習者によって気づかれることが期待されている学習者の気づきが不十分でそれが学習者の感想 yk(s)に表われると仮定する(ここでsは適当なパラメータとする)そして次に学習者の感想 yk

について教授者は次の指示 xk+1(t)を与えることになるそのためには学習者の感想 ykについて評価する必要がある学習者の感想 ykに対する教授者の評価関数を gk(yk(s) dyk(s)ds)とすると

Jk[yk] =

int s1

s0

gk(yk(s) dyk(s)ds)ds (5)

となるこの作用積分(汎関数)の変分が指導者の期待する動作を表すように評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)を設定する教授者の指導 xk と学習者の感想 yk の間には強い相関関係にあるが個人差があるものと予想されるまた教授者の指導 xk のもとで学習者がそれを実行した感想 yk に次の教授者の指導 xk+1

が与えられてそれに対する学習者の感想 yk+1 がもたらされるというk による段階ができるこの段階は教授者が学習者の熟達状況を観て熟達がなされたと評価するまで続けられるモデルは変数 xk tと評価関数 fk(xk(t) dxk(t)dt)および変数 yk tと評価関数 gk(yk(s) dyk(s)ds)よるものなので構築した段階モデルを (XY f g)と記すことにする [21]ただしX = (xk(t) dxk(t)dt)f = fk(xk(t) dxk(t)dt)Y = (yk(s) dyk(s)ds)g = gk(yk(s) dyk(s)ds)k = 1 2 middot middot middot N とする図 3 はこの段階モデルを表現したものである学習者の言語化が時間の経過とともに教授者の停留値に近づいていく様子が表

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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21

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

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[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

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200GZZ$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

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contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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29

- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

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35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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図 3 指導の段階モデル (XY f g)と身体知の熟達の評価(観察)

現されている ここで最終的に学習者の身体知の熟達を評価できるのは学習者の言語化ではなく教授者が学習者の身体動作を観察することにあるなぜならば教授者の期待と学習者の身体知のズレが認識できる最終手段が観察だからであるよって言語的インタラクションに限ってもモデルに資することが可能であることを確認したい

33 関数化の工夫教授者と学習者の言語的インタラクションにおける

ポイントは評価関数にあるこれは教授者の伝えたい身体感覚を陽に与える(明示的にパラメータを指定する)ことを意味するため評価関数を有効に決めることが重要な課題となる教授者の指導X や学習者の感想 Y が定量的な場合は関数化しやすいしかしインタラクティブなコミュニケーションは時間の経過とともに次第に抽象度が増していき最終的に熟達者でなければうかがい知れないような抽象度の高い感覚的表現になると予想される特に「鳩尾をはめる」「身体を一本に」など抽象度のとても高いわざ言語のような身体感覚の表現はパラメータによる関数化に工夫が必要となるその工夫には次の 2つの方法が考えられる 一つは感覚的表現に対してあくまで定量的表現にこだわれば身体動作の解析ポイントを押さえて厳密に行う方法であるそのためには複合的な水準による変数を決定する必要があるその複数ある水準の合成的関数とはテンソル関数であるAiという水準と Bj という水準によってその合成的に得られる身体感覚をテンソル関数 Cij とするテンソル関数に対

して評価関数を与えることができるしかし理論上の記述はできるが実践研究の段階においては重心加速度など複雑な計算が含まれる もう一つは学習者の身体感覚の表現に対してそれを言語的な意味空間(以下言語的意味空間)と捉えて教授者が期待する身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法であるこれはいくつかのパラメータに整理された身体感覚を表現した空間となる言語的意味空間の設定はそのまま評価関数に反映するので教授者と学習者双方にとって参考になる空間モデルとなると予想される

4 モデルの妥当性の実践的検証ここで身体知の熟達に関する数理モデル (XY f g)

を理論的に構築できる見通しがついたことを確認した上で実践的検証に移る数理モデルは数学の性質上明晰性論理性を有しており信頼性は担保されている一方どのような数理モデルであれ抽象化と本質的要素の抽出作業を通していったんは実践の世界を離れるがそれは再び実践の世界と結び付けられることで妥当性が確認されなければならない [22]また構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められるそこで本研究ではモデルの妥当性を検証するために以下の実践を行った

41 実践課題実践課題は立位姿勢(以下立位)および歩行動

作(以下歩行)であるこの立位と歩行は人が生

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14

まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

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200GZZ$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 15: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

まれてから生きていく中で自然に身につけた身体知であるそのためこれらの身体感覚を意識することはほとんどないなぜならば実際に人は立つことができ歩くことができるからであるそれでは熟達の伸び代がないのかというとそうとばかりは言えない実は立位や歩行は非常に複雑な姿勢動作であり身体が最適な筋運動の協調性と骨格の支持性を理解しバランスを取りながら立ち歩いている [23] 一方立位と歩行は人間の基本的な身体動作であるが故にスポーツの競技特性ごとに理想とする形に違いがあることが分かっている [23][24]そこで本研究ではラグビーやサッカーバスケットボールといったミドルパワーが必要とされるスポーツ種目に適した立位と歩行を対象とするなおミドルパワーとはハイパワー(一瞬にして大きなパワーを発揮する運動)とローパワー(運動時間が長くパワーが低い運動)の中間に位置し運動時間が 30秒~3分間持続するような力を意味する [1]

42 教授者教授者は上記の立位と歩行に熟達し学習者を正

しく評価できることが求められるそこで本実践ではスポーツ教育学が専門の研究分担者(第 2筆者)を教授者(以下教授者)とした教授者の略歴は次の通りである競技実績として中学時代の 100m全国チャンピオンをはじめ高校大学時代には全国レベルで活躍した現在は大学および実業団の陸上競技部監督に従事する傍らドイツプンデスリーガ所属のプロサッカー選手をはじめ国内外のスポーツ選手を対象に指導をしている速く走るための身体の軸を作る立ち方 3 や効率的な歩き方の向上を重視した指導により静岡市内の高校を全国高校ラグビー大会初出場に導き強化に貢献した立位と歩行を熟達させる独自の指導方法が評価され2015年日本ラグビーU-18U-17日本代表コーチに就任し現在に至る

43 学習者実験協力者(以下学習者)は本学女子バスケッ

トボール部に所属する大学生(女子 208歳plusmn 42)8名であるこのうち教育実習による不参加(2名)と練習中による怪我(1名)の 3名を除いた計 5名を対象に分析を行ったすべての学習者は本実践を受けるまでは本格的な陸上指導を受けた経験はなかったなお熟達者の指標として学習者が全員女子であることを考慮して教授者が指導する陸上競技部所属の大学生(女子 20歳以下熟達者 X)1名に協力を仰いだ熟達者 Xは約 20か月間の指導を受け教授者の身体感覚と同じ立位と歩行であると評価されているなお熟達者 Xは県陸上競技選手権大会 400mリレーで優勝し東海選手権出場資格を獲得するなどの競技実績を有している

3教授者はこの立位の状態を「ゼロポジション」と命名しスプリント理論を構築している

44 教授方法第 1 段階(2015116)として教授者が考案した

立位と歩行のプログラムを学習者に課した言語的インタラクション以外の要因があることを反駁するために教授者の実演は行わず言葉がけのみの指導とした(図 4参照)なお第 1段階の指導は「踵で立って10度体を傾ける」「その状態でお尻を 10cm手前に出す」などなるべく具体的な数値を用いて指導を行ったその後トレーナー指示のもと同じプログラムを継続し自らの身体の動かし方や体感気付きや感想環境への知覚などをできる限りノートに記録した教授者はノートを定期的に確認しなるべく学習者が使用した言葉を使ってノートへの記述による指導(20151112の第 2段階と20151126の第 3段階の 2回)を行った

図 4 立位と歩行の指導風景(第 1段階)

45 倫理的配慮学習者の同意のもと言語化促進前(以下促進前)

と言語化促進後(以下促進後)にスポーツ栄養士管理栄養士の研究分担者(第 4筆者)による身体組成計測(体成分分析装置 InBody720使用)を行いコンディションチェックを行ったまたスポーツトレーナーが全ての実践に帯同指示し安全に細心の注意を払い実施した 4なお熟達者 Xの身体組成計測は行わなかった

46 実践期間と場所実践期間は2015年 11月 6日から 12月 5日であっ

た場所は本学の屋外陸上競技場と屋内体育館で実施した

5 身体知の熟達に対する評価学習者の立位と歩行を評価するに際しいかに優れ

た機器によって動作解析を行ったとしても長年その道を専門とした教授者の直接的な観察に勝る手法はないしかし教授者の大局的な観察は主観的な評価

4本研究は研究代表者の所属機関の平成 27 年度第 2 回研究倫理審査において承認されている

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であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

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200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

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200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

SIG-SKL-22 2016-03-04

31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 16: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

であるだけに評価方法は多様化され信頼性と妥当性を担保するには限界があるのも事実である [25]そこで信頼性についてそれぞれ同日に 2回ずつ撮影された立位と歩行のデータのひとつを評価し一定期間をあけてもう片方のデータを再度評価する平行検査法を用いて検討した一方教授者の評価に対する妥当性を検証するために促進前後の立位と歩行の測定を実施し臨床的見地から局在的な解析を行った

51 立位と歩行の解析511 測定方法測定機器はデジタルカメラPanasonic DMC-FZ200

LUMIXを使用した立位の測定方法は前面側面(左右)後面の四方向から全身が写る距離を保ちそれぞれ 2回ずつ撮影(インテリジェントオートモード)した(図 5参照)歩行の測定方法は無風状態のアリーナにおいて1m間隔にミニバーを設置し20mの自由歩行(速さを一定に保つことを教示する以外は自由に行う歩行)を実施した定常の歩行を評価するのに適切な加速歩行路の距離を考慮しデジタルカメラを中間地点(10m)に設置し2回の撮影を行ったデジタルカメラは動画機能ハイスピードモード(120fpsHD)に設定し右側面から撮影したさらに20m歩行タイムを記録した(図 6参照)

512 解析方法理学療法士の研究分担者(第 5筆者)と相談の上臨

床評価の基準に則り以下の解析を行った(図 7参照) 立位では四方向の画像のうち歩行と同方向である右側面に注目した全身の傾斜は外果を通る床への垂直線と耳垂の角度 α1 と肩峰の角度 α2 に上肢の傾斜は大転子を通る床への垂直線と耳垂の角度 β1

と肩峰の角度 β2 に下肢の傾斜は外果を通る床への垂直線と大転子の角度 γ1 にそれぞれ注目し画像解析ソフト Image Jを用いて解析を行った 歩行では一歩行周期に注目した一歩行周期とは片側の踵が接地(踵接地)し両足で体を支えながら(両下肢支持期)次第に逆側の踵が地面から離れ(踵離地)片足で体を支える(単下肢支持期)状態から再び両下肢支持期を経てもう一度単下肢支持期の状態となり同側の踵が再び踵接地するまでの動作(以下重複歩)であるこの重複歩が撮影された動画データを動画編集ソフト Adobe Premiereに取り込むその後開始肢位と最大可動域到達時のフレームを視認にて抽出し画像編集ソフトAdobe Photoshopに取り込み画像化したこの画像をもとにそれぞれ大転子と肩峰を結んだ直線と肘関節との角度の肩関節屈曲 θ1と肩関節伸展 θ2歩幅W と身長H との比率を画像解析ソフト Image Jを用いて解析した

513 学習者全体の解析結果表 1に立位および歩行の促進前後の解析結果を示

す学習者全体で実践による立位と歩行がどの程度変化したかを確認するために促進前後の各項目についてt検定(対応あり)により検証した 立位については有意水準 5で t 検定(両側)に

図 5 促進前の立位(左)と促進後(中)と比較(右)

図 6 20m歩行の測定風景

より検証した全体の傾斜を確認する α1(t(4)=288plt05)と α2(t(4)=297plt05)下肢の傾斜を確認する γ1(t(4)=297plt05)は促進前後で有意な差があることが分かった一方上肢の傾斜を確認する β1(t(4)=144ns)と β2(t(4)=182ns)は有意な差が認められなかった 次に歩行については立位と同じく有意水準 5で t検定(両側)により検証した肩関節屈曲 θ1(t(4)=284plt05)と 20m歩行のタイム(t(4)=470plt05)には促進前後で有意な差があることが分かった一方肩関節伸展 θ1(t(4)=070ns)歩幅W と身長Hとの比率(t(4)=127ns)は有意な差が認められなかった そこで有意な差があった計測項目に対して熟達者Xの値に近づいたかどうかを検証した帰無仮説H0

を熟達者 Xの計測値に設定し有意水準 5で t検定(対応なし)により検証したところ促進前に有意な差があったすべての項目が促進後は α1(t(4)=017ns) α2(t(4)=069ns) γ1(t(4)=109ns) θ1(t(4)=180ns)20m歩行のタイム(t(4)=255ns)と有意な差が認められなかった 以上の結果から促進前に有意差があった計測項目に関して促進後で学習者全体として熟達者 Xの数値に近づいたことが確認された

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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21

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

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200GYX$

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20$

10$

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10$

20$

30$

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50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

SIG-SKL-22 2016-03-04

29

- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

SIG-SKL-22 2016-03-04

33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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表 1 立位と歩行の解析結果および教授者の評価

骨格筋量 (kg) 体脂肪率 () α1 α2 β1 β2 γ1

学習者 身長 cm 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

学習者 A 1775 305 298 155 176 27 72 40 74 08 57 35 62 48 81学習者 B 1619 235 242 194 178 38 38 51 46 15 16 22 29 81 76学習者 C 1680 246 245 209 181 21 55 25 57 08 36 06 28 45 84学習者 D 1580 230 236 231 210 43 52 36 53 34 19 20 11 49 86学習者 E 1660 241 246 288 265 15 53 12 48 -04 13 -08 03 32 99熟達者 X 1690 - - - - - 53 - 52 - 19 - 16 - 90

θ1 θ2 歩幅身長 20m歩行 立位の採点 歩行の採点

学習者 前 後 前 後 前 後 前 後 教授者の採点 1 前 後 前 後

学習者 A 212 314 163 297 054 061 7rdquo72 10rdquo14 hArr 33 33 33 33学習者 B 222 221 339 257 068 058 8rdquo68 10rdquo33 hArr 11 21 11 11学習者 C 248 288 424 430 062 059 8rdquo73 9rdquo51 hArr 23 11 33 11学習者 D 227 322 183 292 058 053 9rdquo13 11rdquo40 hArr 33 22 33 32学習者 E 417 455 490 465 062 055 8rdquo72 12rdquo24 hArr 33 22 33 32熟達者 X - 389 - 231 - 056 - 11rdquo96 hArr - 0 - 0

1 教授者の採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と近い立位および歩行ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた

図 7 立位と歩行の解析項目

52 学習者の立位歩行に対する教授者の評価結果

統計的に学習者全体として促進後に熟達者 Xに近づいたことを確認したところで次に教授者の身体知の評価に移る教授者は学習者の立位と歩行が撮影された画像映像データを視認し平行検査法によって2回ずつ採点した採点に関しては最少作用の原理に則り教授者の身体感覚と同じ動作である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う動作である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)を与えた採点結果は表1(下段右側)に示す通りである採点の信頼性を検証するために得られた 2回の評価についてCronbach

のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=93(gt80)と十分な値が得られたこの採点結果より学習者の立位歩行に対する教授者の評価は表 2に示す通りとなった

表 2 身体知の熟達に対する教授者の評価結果

学習者 教授者の評価結果

学習者 A 促進前後ともに評価が低かった学習者 B 促進前後ともに評価が高かった学習者 C 促進後に評価がとても高くなった学習者 D 促進後に評価が高くなった学習者 E 促進後に評価が高くなった

53 教授者の評価に関する妥当性の検証ここで促進前後ともに評価が低かった学習者Aと

促進前後ともに評価が高かった学習者Bそして促進後に評価がとても高くなった学習者 Cに注目する教授者の評価の妥当性を検証するために3名の学習者に加え熟達の指標として熟達者 Xを加えた計 4名について理学療法士の研究分担者(第 5筆者)が臨床的見地から視認による分析を行った はじめに熟達者 Xの立位については骨盤がやや前方に移動し体幹部を重力に対抗して垂直に伸展(以下抗重力伸展)させていた歩行については立位と同様に体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり手の振り出しが振り子様に前後へと送り出されていた 次に学習者 Aの立位については促進前は上部胸椎が後弯しており重心性が少し後方に位置している一方促進後は上部胸椎の後弯は改善されたも

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のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

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処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

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200GYX$

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10$

0$

10$

20$

30$

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987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

SIG-SKL-22 2016-03-04

27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

SIG-SKL-22 2016-03-04

31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

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Page 18: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

のの肩峰と大転子を結ぶ角度( β2=62)が大きいため体幹が傾斜し前のめりの状態であった歩行については促進前は体幹部が上部胸椎の後弯が強く前傾姿勢となっている一方促進後は上部胸椎の後弯を減少させた前傾姿勢であるが上部体幹の前傾角度が大きく立位と同じく前のめりの状態であった以上促進前後ともに立位と歩行に変化は確認されたものの教授者が求める変化ではないと考えられる 次に学習者 Bの立位については促進前は骨盤をやや前方に移動して抗重力伸展の姿勢で比較的熟達者 Xに近い立位であった一方促進後は骨盤が若干後方移動しており( γ1=81rarr 76)肩峰と大転子の角度もやや減少していた( α2=51rarr 46)そのため重心線が支持面の後方に若干移動している結果であったが促進前と同じく熟達者 Xとほぼ変わらない立位であった歩行については促進前後で大転子と肩峰を結んだ線がほぼ垂直であり視認による変化は確認できなかった体幹部が固定された抗重力伸展の歩行であり促進前後ともに熟達者に近い歩行であった そして学習者 Cの立位については促進前は骨盤が前方に位置しているが首が屈曲しているため肩峰の位置がより後方に位置していたこれはバランスを取るためと推測される一方促進後は骨盤をさらに前方に移動しているが体幹を重力に対抗して垂直に伸展(抗重力伸展)させている立位であり熟達者 Xに近い立位へと変化した歩行については促進前は進行方向に対して大転子の位置よりも肩峰の位置が後方にあるためのけ反ったような歩行であったが促進後は逆に進行方向に対して肩峰の位置が大転子の位置よりも前方に位置するようになり熟達者 Xに近い歩行へと変化したことが確認された 以上学習者 A学習者 B学習者 Cの身体知の熟達に対する教授者の評価について信頼性と妥当性ともに担保されたことが確認された

6 学習者の言語化に対する評価次に学習者が記入したそれぞれの言語化に対して

教授者が評価を行った評価方法に関しては教授者の身体感覚に近い言葉と遠い言葉のトポロジーを決める方法で採点した教授者の身体感覚と同じ言語化である場合は 0点近い場合は 1点遠い場合は 2点全く違う言語化である場合は 3点と教授者に近い動作ほど低い得点(0点~3点の 4件法)としたなお教授者が評価できない言語化や気持ちの表現(「皆も同じように難しく感じているんだぁと共感できて今日は良かった(2015124)」)などの言語化については採点から除外した 言語化に対する評価の信頼性について学習者の言語化を評価し一定期間をあけて再度同じ言語データを評価する再検査法を用いて検討したその結果Cronbach のアルファ係数(IBM SPSSC Statistics22使用)を算出したところアルファ係数=87(gt80)の値が得られた2回の評価に差異があった場合は教

授者が学習者の言語化を再度確認し最終的に採点を行った

61 パラメータの設定段階ごとに採点された学習者の言語化を(1)身体

パラメータ(知覚や行為に関する言語化)と(2)思考パラメータ(意識推測不安疑問に関する言語化)の 2つに区分したたとえば身体パラメータの要素では「腸腰筋が伸びる感じで歩けた(20151113)」「ふわふわ感はあまりなくなってきた(20151114)」など思考パラメータの要素では「膝をスムーズに動かすって何だろう(2015116)」「股関節伸展ができているかまだ不安(20151110)」などが挙げられる 

62 言語的意味空間の結果身体パラメータと思考パラメータについてそれぞ

れ評価の高い要素順に並び替えて関数化し言語的意味空間を作成した結果が図 8である言語的意味空間は学習者の言語化が教授者の身体感覚に近づくほど原点(停留値)に収束していく様子が表現されるまた学習者の各段階における言語的意味空間の面積の推移を図 9に各段階ごとの身体パラメータと思考パラメータのそれぞれの要素数を図 10に示す

621 第 1段階第 1段階ではそれぞれの学習者が教授者からの

具体的な指導を受けその言葉がけを自分なりに理解し身体感覚の気づきや体感思考などを言語化していることが示された学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く「膝をスムーズに動かすって何だろう(20151110)」「難しいけどまずはやっぱり股関節の伸びと重心を意識しよう(20151111)」などの言語化が確認されたそれに対して学習者 B と学習者 C は身体パラメータの要素数が多く思考パラメータの要素数が少なったたとえば学習者 Bは「お尻の位置を少し変えただけで重心が変わることが分かった(2015116)」学習者 Cは「腰を前に出す時お尻がキュっとなった(20151111)」などの言語化が確認された

622 第 2段階第 2段階では教授者の指導が具体的であれ抽

象的であれその言葉がけを自分なりに理解しながら実行しその行為を通して体感した身体感覚を言語化していることが確認されたたとえば教授者からの指導「すべての動作を三角定規の 45度を意識する」に対して学習者 Aは「頭の中で三角定規を浮かべて歩けた(20151114)」教授者からの指導「フワフワしているのは力が逃げているから」に対して学習者 Bは「ふわふわしないように意識したら足の動きが悪くなった(20151113)」教授者からの指導「前に押し出す感覚でお尻をキュッとする」に対して学習者 Cは「お尻とハムの間を意識して行った前に出す感じでやった」など指導に応えるような言語化が確認されたまたすべての学習者で思考パラメータの要素数に比べて身体パラメータの要素数が多く

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図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

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[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

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[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

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加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

SIG-SKL-22 2016-03-04

24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

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200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

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に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 19: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

図 8 学習者の言語的意味空間の推移

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図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

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[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

SIG-SKL-22 2016-03-04

22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

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200GZY$

200GZZ$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 20: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

図 9 言語的意味空間の面積の推移

図 10 各段階のパラメータの要素数

さらに言語的意味空間が教授者の身体感覚に近づいていることが示された 

623 第 3段階第 3 段階の結果次の通りである学習者 A につ

いて「今日は足をいつもより大きく前に出してみた(20151127)」の言語化が確認されたしかし教授者から見て歩幅を大きくするオーバーストライドはパフォーマンスを低下させるため評価は 3点と低かったなお歩幅と身長の比率の結果を見ると学習者Aのみが促進後に増加(054rarr 061)しているまた第 1段階から第 2段階で収束していた言語的意味空間が第 3段階では大きな広がりを見せたこれは学習者 Aの言語化が教授者の身体感覚から遠ざかったことを意味するさらに他の学習者と比べて身体パラメータの要素が少なく思考パラメータの要素が多かった次に学習者 Bは「この前の計測でモデル歩きっぽいって言われた(2015121)」の言語化が確認されたこの理由として一般的にファッションモデルの歩き方は股関節の伸展を使って上丹田や鳩尾を意識する歩行であり教授者の身体感覚に近いためと推測されるしかしファッションモデルの歩き

は両踵を一直線上に着地しながら過度に腰を捻るような動作であり継続して言語化すると目標とするパフォーマンスに影響する可能性が高いため教授者の評価は 3点と低かったさらに学習者 Cに関しても「腰を振る (捻る)ようなイメージですると腸腰筋が伸びていたと思う(20151120)」の言語化が確認されたがこの表現についても学習者 Bと同じくファッションモデルの歩行に近いため教授者の評価は低かった 

7 考察本研究では教授者と学習者のインタラクションを

考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築しその妥当性について実践的検証を行うことを目的としたその結果数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがつき言語的意味空間により実践の世界へ結びつけることができた 一方構築した数理モデルがより有意義なものであるためには実践から何かしら新しい知見が得られることが求められる [22]そこで本研究の目的に鑑み(1)教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性(2)言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義の視点から考察する ここで留意すべきことは実践課題の立位と歩行は人間が生まれてから自然と身につけた基本的な身体動作であり学習者の生活に密接に結びついている点にあるたとえば「立つことを意識し続けるのは難しいけど普段から心がけたい(2015116)」「歩き方が体に染みついてきて本当にいつも通り歩けている感じ(2015125)」「これだけ歩行練習やってきてみんな同じことを意識してやってるはずなのにちょっとずつ歩き方が違う(2015125)」などの言語化が確認されている一方学習者に対して日常生活における立位と歩行の実行や他者の観察を統制管理することは研究の遂行上不可能である以上を留意し考察を始める

71 教授者と学習者のインタラクションを考慮する必要性

先行研究の多くは身体知の熟達に対する言語化に関して多くの知見を蓄積してきた本実践の教授者と学習者とのインタラクションを考慮した場合でも先行研究を支持する結果が示され諏訪らの主張と同様の傾向を示した一方学習者全体として統計的に熟達したものの教授者が求める立位と歩行には変化せずに熟達しなかった学習者 Aも確認された

711 学習者の主体的な言語化阪田によれば身体の学びの中で学習者は教授

者からことば以上の何かを主体的に読み取る必要があると述べるたとえば本実践の「腕は鳩尾から付いているイメージ(20151126)」の指導を見ても当然のことながら物理的に腕は鳩尾から付いていないしかし学習者は「どうすれば腕が鳩尾から付いて

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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21

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

[2] PolanyiMThe Tacit DimensionPeter SmithGloucesterMass(1983)

[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

[4] 古川康一植野研尾崎知伸神里志穂子川本竜史渋谷恒司白鳥成彦諏訪正樹曽我真人瀧寛和藤波努堀聡本村陽一森田想平身体知探究の潮流 -身体知の解明に向けて-人工知能学会論文誌 20巻 2号 SP-App117-128(2005)

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[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

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200GZZ$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

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contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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29

- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

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うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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いる感覚が得られるのだろうか」と主体的に考え実行することが重要となる しかし学習者の主体的な言語化は必ずしも教授者の指導した内容や求める身体感覚と一致するとは限らないたとえば623で述べたように学習者Aが主体的に歩幅を広げるような言語化を例にとっても教授者からは身体感覚と全く違うものとして低く評価される もし仮に教授者がいないとすると間違った言語化は修正されないため身体知の熟達を妨げる可能性は十分に考えられるもちろん学習者のみでも時間が経過すればいつかは歩幅を広げたことが間違いであることに気づくことはあり得るしかし問題提起でも主張したようにスポーツのコーチングにおいて学習者の持つ時間には限りがある熟達の妨げになるような言語化を修正し熟達に導くのはその道を専門とする教授者にほかならないだろう

712 良い身体感覚を生み出した言語化鈴木らは学習者の身体を取り巻く環境は常に変

化しているためある段階でスキル行使に必要な環境の情報が次の段階で必要であるとも限らないと述べている [18]諏訪も身体知の熟達の過程を身体と環境の関係を常に再構築し続ける漸進的プロセスであると主張しているように [7]身体が環境から取り出す情報は常に変化しているわけであるここで学習者だけで情報の変化に対応できれば問題ないのだが身体感覚は人それぞれ差異があるため往々にして難しいケースが多いこのような場合に第三者からの客観的な視点が重要となるたとえば本実践で良い身体感覚を生み出した「ファッションモデル」「腰を捻る」の言語化を見ても教授者はそれらの言語化が次の段階で必要なくなり将来的に言語化自体が身体知の熟達を妨げる可能性があることを予測し低い評価を与えている 仮に教授者が存在しなかったとしたら学習者は良い身体感覚を生み出した言語化を持ち続け歩行を実行する可能性が高いと予想される特に良い身体感覚を生み出した言語化は学習者にとって手放し難いものであるある段階で必要であった言語化が次の段階で不要となったのにもかかわらずその言語化を手放すことができない学習者に対してデータ提示や用具を変えたり動作の原理を再度考えさせ [5]新たな気づきや視点を持たせることができる一番近い存在こそ対象の身体知に熟達した教授者なのである

72 言語化に注目して身体知の熟達をモデル化する意義

一般的にモデル化のメリットは抽象化と本質的要素の抽出作業によって現象の性質をより深く考察できることにある本実践においても表現が難しいとされる身体知の熟達過程を段階的に分析した結果身体知の熟達に対応するような特徴的な言語的意味空間の変化が見出されたたとえば熟達しなかった学習者 Aは身体パラメータの要素数に比べて思考パラメータの要素数が多く最終的に言語的意味空間

が広がった今後パラメータの再検討は必要であるが数理モデルに関する評価関数の蓄積によって身体知の熟達現象が予測できる可能性が示された また数理モデル (XY f g)に基づく言語的意味空間は学習者が持つ無駄な身体感覚の言語化から離れ教授者の身体感覚に近くなるにつれて停留点に収束していく除算的な評価であるこれは従来のパフォーマンスを到達目標ごとに数段階に分けて記述し熟達度合を加算的に示すルーブリックとは違った新たな評価へと発展する可能性を有すると考えられる 一方本実践では教授者の実演は行わなかったが教授者と学習者との言語化のみのインタラクションの限界も見受けられたさらに言語の曖昧性多義性類似性などの性格から定量的な評価が困難となるとともに予想に反して学習者の言語化自体が教授者から評価して身体知の熟達を妨げる可能性も示唆された しかしことばに注目して身体知の熟達をモデル化することに意味がないかというとそうとは限らない言語化は自他を結ぶコミュニケーションの手段であり意識の表現としては(曖昧性多義性類似性があるといえども)最も信頼できる手段のひとつであることばによって我々は目に見える形で教授者と学習者のインタラクションが垣間見られるのである

8 まとめと今後の課題本研究では間身体性の視座から教授者と学習者

のインタラクションを考慮した上で身体知の熟達に対する言語化の数理モデルを構築し実践において妥当性を検証することを目的としたその結果として数理モデル (XY f g)を理論的に記述できる見通しがついたまたモデルの妥当性を実践的検証により確認しその結果新しい知見が得られた 今後の課題は次の通りである一つは本研究の立位と歩行から発展した形として疾走について実践的検証を行う計画であるここでただ直線方向に速く走ることだけに注目するのではなく疾走から止まる動作や緩急ある走り方サイドステップバックランなどスポーツの競技特性に応じた疾走について検証することも視野に入れている もう一つの課題として教授者の変容である本研究では間身体性の端緒として教授者と学習者のインタラクションを考慮することの重要性を主張したしかしこれは学習者だけの熟達だけでなく教授者も新たな視点を得て学習者と共に変わっていくことを意味する間身体性において身体の経験の変容をめぐるこの未完結性 [27]を引き受けることは教授者も同じなのであるよってこの検証はこの知見を確かなものにするために必須であると考える 以上が今後の課題として挙げられるがまずは身体知の熟達に対する言語化の数理モデル (XY f g)について理論的に記述できる見通しがつきモデルの妥当性について実践的検証を行ったことを再度確認し稿を閉じることとする

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[3] 日本認知心理学会監修三浦佳世編知覚と感性北大路書房(2010)

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[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

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[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

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SIG-SKL-22 2016-03-04

22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

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13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

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200GZY$

200GZZ$

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重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

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26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

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contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

SIG-SKL-22 2016-03-04

30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

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[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

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[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

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知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

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Page 22: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

参考文献[1] 公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目 I 第 3章トレーニング論 I(2012)

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[5] 藤波努 リズムで超える時間の壁 身体知へのアプローチ映像情報メディア学会技術報告Vol30No68pp71-76 (2006)

[6] 市川淳三輪和久寺井仁ノービスによる身体スキル獲得過程 身体動作と着眼点の検討第 29回人工知能学会全国大会(2015)

[7] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌Vol20pp525-532(2005)

[8] 諏訪正樹伊東大輔身体スキル獲得プロセスにおける身体部位への意識の変遷第 20回人工知能学会全国大会(2006)

[9] 諏訪正樹高尾恭平パフォーマンスは言葉に表れる-メタ認知的言語化によるダーツの熟達プロセス第 21回人工知能学会全国大会(2007)

[10] 諏訪正樹スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化学習方法論(how)を探究する実践情報処理学会(2007)

[11] 山田雅之栗林賢諏訪正樹スポーツフィッシングにおける身体知獲得支援ツールのデザイン第26回人工知能学会全国大会(2012)

[12] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛疾走上達とメタ認知的言語化に関する情報学的研究常葉大学健康プロデュース学部第 10巻第 1号(2016)

[13] 佐伯胖監修渡部信一編阪田真己子小島秀樹「学び」の認知科学事典VIびとテクノロジー 2学びと身体空間-メディアとしての身体から感性を読み解く3認知ロボティックスにおける「学び」大修館書店(2011)

[14] 日本認知科学会編認知科学事典共立出版(2002)[15] 竹田青嗣現象学入門日本宝生出版協会(1989)[16] Maurice Merleau-Ponty(著)竹内芳郎木田元

滝浦静雄佐々木宗雄二宮敬朝比奈誼海老坂武(訳)シーニュ2みすず書房(1985)

[17] 大武美保子荻原陽介豊田涼阿部健祐太田順言語化された身体技能の伝達に関する研究投球動作スキル伝達による球速変化の解析人工知能学会第 10回身体知研究会予稿集SKL-10-02(2011)

[18] 鈴木宏昭大西仁竹葉千恵スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ人工知能学会誌 23巻 3号SP-A(2008)

[19] 砂子岳彦間身体性のモデル常葉大学経営学部第 2巻第 2号pp15-20(2015)

[20] Payk Parsons 編Martin Rees 序言30秒で学ぶ科学理論示唆に富んだ 50の科学理論STUDIOTAC CREATIVE(2013)

[21] 山田雅敏里大輔坂本勝信小山ゆう砂子岳彦竹内勇剛身体知の言語化とその階層モデル電子情報通信学会言語と思考研究会pp41-46(2016)

[22] 長谷川計二「数理モデルと実証」によせて理論と方法Vol20 No2pp135-136(2005)

[23] ジェームズアマディオ著橋本辰幸監訳フェルデンクライスメソッドWALKING簡単な動きをとおした神経回路のチューニングスキージャーナル株式会社(2006)

[24] 木寺英史本当のナンバ常歩スキージャーナル株式会社(2004)

[25] 対馬栄輝変形性股関節症患者における歩行分析について理学療法研究 22号(2005)

[26] 市橋則明(編)運動療法学 障害別アプローチの理論と実践第 2版(2014)

[27] 奥井遼メルロ= ポンティにおける「間身体性」の教育学的意義 「身体の教育」再考京都大学大学院教育学研究科紀要pp111-124(2011)

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22

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

SIG-SKL-22 2016-03-04

24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

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200GYZ$

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200GZY$

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20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

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200GZZ$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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41

Page 23: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

加速度センサーを用いた回転物体の運動解析 Motion analysis of the rotated objedt using the acceleration sensor

野田茂穂 113 姫野龍太郎 1213 奥野敬丞 1

Shigeho NODA1 Ryutaro HIMENO12 and Keisuke OKUNO2

1理化学研究所13 情報基盤センター13 計算工学応用開発ユニット 1CEA ACCC RIKEN

2理化学研究所13 情報基盤センター 2 ACCC RIKEN

Abstract Movement of a flying object is determined by the angular velocity in addition to the initial velocityThe flying speed can measure immediately but it is not easy to measure the angular velocity immediatelyIn this report we are discuss about the measurement device and the processing method for the obtaining the angular velocity immediately

はじめに13

13 これまで我々は球技において流体力が軌跡に及ぼ

す影響を実験とシミュレーション(Fig13 1)で明らか

にしてきたその中でも特に回転する野球ボール

が空気力を受け軌跡が変化することを詳細に研究

してきた[1]その結果回転するボールでは回転軸

の方向と回転数がわかれば軌跡を予測ができる事が

わかっている13

13

13 Fig13 113 Stream13 Line13 around13 the13 ball13

13

13 同様な現象は他の球技でも適用でき卓球やテニ

スといったものにも適用できる13

13 我々は実験結果やシミュレーションの結果をわ

かりやすく説明する事にも取り組んでおりバーチ

ャルリアリティなどを利用したシステムも開発して

きた[2]13 ビデオ画像からボールの回転数や回転軸

の情報を推察しボールの軌跡をシミュレーション

しバーチャルリアリティを用いた説明は軌跡の

変化と回転の情報の違いを体感的に示すことができ

理解を深めることができるしかしながら画像処

理技術や様々な制約から即時に競技者にこのよう

な情報をフィードバックすることはできていない

競技者のパフォーマンス向上という視点では即時

に情報を提供することが手技の修正などに活かせる

そこで我々はリアルタイムなセンシングシステム

の構築を目指している13

まずは市販のセンサーを用いてアメフトボールの

シミュレータの構築を試みた結果市販のセンサ

ーでは様々なセンサーが含まれており重く電源も

長持ちしないまた測定データのノイズなどでそ

のままの使用は難しいものがあるそのため我々は

飛翔中の物体の回転軸と回転数を計測するセンサー

システムを開発した

システムの概要13

13 本センサーシステムはセンサー部通信部処理

部で構成されているセンサー部は複数の三軸加速

度センサーで構成されており加速度センサーの出

力値を処理することで回転情報を得ることができる

(Fig13 213 Table13 1)また内部のメモリーに記録する

ことができる通信部はUSB通信と無線通信で構成さ

れており計測中のデータのモニタリングやメモリ

ーに格納されたデータを取り出すために用いられる

処理部は加速度センサーで取得したデータを処理す

るソフトウェアであり通信部を通じて得られたデ

ータをパーソナルコンピュータなどで処理を行う

SIG-SKL-22 2016-03-04

23

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

SIG-SKL-22 2016-03-04

24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

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200GXX$

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SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

SIG-SKL-22 2016-03-04

27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

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図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41

Page 24: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

処理の結果として回転数回転軸を得ることができ

る13

13

Fig13 213 Layout13 of13 the13 sensors13

13

Table13 113 Type13 of13 the13 sensors13

13

無線通信を用いてセンサー部と処理部を接続する

ことによりタイムラグなく計測結果を競技者に示す

ことが可能になる13

13 Fig13 313 Picture13 of13 the13 sensor13 with13 WiFi13 system13

13

センサー部は複数の三軸加速度センサーを組み合

わせ樹脂で固めることで構成されている(Fig13 3)

加速度センサーは軽量(Table13 2)であり消費電力

も小さいため長時間の測定が可能となる加速度

センサーで角速度ベクトルを測定するために設置

位置をずらした複数の加速度センサーで同時に計測

できるものとした(Fig13 2)13

13

13

Table13 2Waight13 of13 sensor13

13

回転しながら飛翔する物体の運動では空気力は

進行方向逆向きの空気抵抗と回転により生じるマグ

ヌス力に分けることができる13

式1に回転半径 r の位置にあるセンサーの加速度

の式を示す

r = minusM minusωtad +ω2r minusω 2 l i r( )l (1)

r AccelarationMωt Rotation_Matrixad Force_ from_Airω Anguler _Velocityr Rotation_Radiusl Axis_of _ rotation

回転マトリックスMは回転軸と角速度すなわち角速度ベクトルから求めることができる 右手系の各座標軸の dL の位置に加速度センサーを配置しその座標中心にも加速度センサーを配置し

合計四つの加速度センサーを用いている 加速度センサーの値から角速度は2式で求められる

ω 2 =

rX minus rB( )x + rY minus rB( )y + rZ minus rB( )z2dL

(2)

センサーは Fig 4に示すように 3Dプリンターで作成した球体の殻に格納され表面は硬式野球の革を

貼り付けて実際の硬式球と同じ重量になるように調

整されている

13

LOGICAL PRODUCT

ボール内蔵型

回転数回転軸センサ

取扱説明書

LP-WSDBBS1-0B Ver100

Page514

2 ボール内蔵型回転数回転軸センサ

21 概要

ボール内蔵型回転軸回転数センサは異なる4つの加速度センサーを等間隔に配置することで

ボールが投じられる際にはたらく遠心力および加速度信号からボールの回転数等パラメータを

算出するために開発されたワイヤレスセンサーモジュールです

電池を含めた総重量は約16gと非常に軽量であると共に重量バランスを考慮しています各種

投球動作時の計測を行うことができるよう設計されたワイヤレスセンサーモジュールです

22 外観および各部の名称とはたらき

221 各部の名称とはたらき

A) 充電電池 本機を動作させるための充電電池です

B) 充電 LED 充電時LEDは赤色に点灯します

C) 有線接続コネクタ PC と有線で通信するためのコネクタです別途USB 変換コネクタを接続した後USBケーブルにて PC と接続します

D) 予備バッテリー用ケーブル 重量バランスを取る際に接続できるよう予備のバッテリーケーブルを設けておりま

す同梱されているバッテリーを接続すれば動作時間を倍にすることができると共

に重量バランスを取りやすくなります

E) 動作 LED 電源が ONの場合1秒間に1回点滅します

(A)

(B)

(C)

(D)

(E)

Type Measuring range

Low G Acceleration Sensor

plusmn5G ~100Hz

High G Acceleration Sensor

plusmn200G ~100Hz

コンポーネント名称 質量

13 13 下基板 226g

13 13 中基板 225g

13 13 上基板(RFモジュール) 170g

13 13 電池 213g

13 13 有線ケーブル 074g

樹脂包埋後の重量(電池1個

含む) 167g

SIG-SKL-22 2016-03-04

24

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

100$

0$

100$

200$

300$

400$

500$

0$ 200$ 400$ 600$ 800$ 1000$ 1200$ 1400$

5GX$

5GY$

5GZ$

200GXX$

200GXY$

200GXZ$

200GYX$

200GYY$

200GYZ$

200GZX$

200GZY$

200GZZ$

20$

10$

0$

10$

20$

30$

40$

50$

987$ 997$ 1007$ 1017$ 1027$ 1037$ 1047$ 1057$ 1067$ 1077$

5GX$

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200GZY$

200GZZ$

SIG-SKL-22 2016-03-04

25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 25: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

13 Fig 4 The ball with sensor

13

テスト結果13

13 テスト投球での計測結果を Fig 5に示す投手がモーションを開始し指からボールがリリースされる

ときに大きな加速度を検出し捕球時にはさらに大

きな加速度検出するFig 6 Leftは飛翔中の各加速度センサーの値をプロットしたものである回転によ

る周期的な値を示している1 式を時間平均した処理を行うため2 次の最小二乗法を用いてデータを平滑化し処理を行っている(Fig 6 Right)

Fig 5 Results of test case

Fig 6 Left Close up for flying section Right The graph of smoothed data 13 本テスト結果では回転数が 12[rpm]程度であり別途開発している高速度ビデオを用いた計測システム

と同等な値を示している

まとめ 13 タイムリーにボールの回転情報が得られるセンサ

ーシステムの開発を行っている高速度ビデオを用

いたシステムとの計測結果の評価を行っているとこ

ろであるが概ね良好な結果を得ており今後検証

を進めていく 13 本システムは比較的安価に作成することもでき

計測結果をタイムリーに競技者にフィードバックす

ることができパフォーマンスの向上に寄与できる

システムとして開発を進めていく

参考文献 [1] 高見圭太宮嵜武姫野龍太郎バックスピンする球体

に働く負のマグナス力 ~飛翔実験による測定~ながれ Vol 28 pp 347-356 (2009)

[2] 重谷隆之黒川原佳吉川広幸野田茂穂姫野龍太郎4D13 Visualizer を用いたグラフィックスクラ

スタの開発可視化情Vol24SupplNo1(2004 年)13

300$

200$

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100$

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25

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

SIG-SKL-22 2016-03-04

33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41

Page 26: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

重心運動を指標としたパーキンソン病の潜在リスクの推定 Estimating the Potential Risk of Parkinsonrsquos Disease using Center-of-Pressure

Trajectories

日高13 昇平 113 ブアテッド ワニパット 113 藤波13 努 1

Shohei Hidaka1 Wannipat Buated1 Tsutomu Fujinami1

1北陸先端科学技術大学院大学 1Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract Patients of the Parkisonrsquos disease typically show motor disorders such as involuntary limb shakings slow walking and so on These symptoms have been used in the medical diagnosis of the Parkinsonrsquos disease This study explores the possibility of an easy and practical way to assess the potential risk of the Parkinsonrsquos disease based on the postural control reflected on the center-of-pressure (CoP) trajectories We report our early attempts describing the basic CoP statistics common and difference across healthy subjects and patients

はじめに13

パーキンソン病は根本的な治療法が発見されていな

い進行性の神経性疾患のひとつである中年以降に

発症が増加し典型的な症状として安静時に不随

意的な手足の震えがおこるなど運動制御に関して

障害が発生する発症後も長期にわたって緩やか

に症状が進行しリハビリによる生活改善などを行

うことが多い13

13 こうした背景を踏まえ本研究では発症前の段

階で潜在的な運動障害を検出し予防的な措置をと

る可能性を高めるために重心運動から簡便に運動

障害のリスクの推定方法を開発を目的とするこの

方法は予防的な目的のみならず発症後もリハビ

リの効果測定に用いるなど長期にわたるパーキン

ソン病の各ステージで有効に働くと考えられるこ

れまで医療現場では医療従事者による質問紙

(Hoehn13 amp13 Yahr13 scale13 [3])を用いた定性的な診断が

行われてきたこうした診断方法は専門家による

判断が必要な上定量的にリハビリの効果等を計測

するのには不向きである13

13 こうした実務的な要請を踏まえ本研究では も

基本的で労力を要求しない動作の一つと考えられる

静止時の重心運動に着目したヒトはldquo静止rdquoして

いるときにもその重心は常にゆらいでいる大自

由度系である身体を静止させるには多数の筋を協

調的に働かせる必要がありこうした均衡は動的に

維持されている先行研究ではこうした動的な均

衡状態を非線形系として分析しそこから身体的

心理学的な情報を得ようとする試みが報告されてい

る13 (Riley13 amp13 Orden13 [4])こうした研究では身体

運動のゆらぎを確率的なノイズとみなさずむしろ

そのゆらぎを情報とみなし分析するこうした分析

は単に身体運動の物理的なメカニズムのみならず

対象者の運動制御の特性を知る手段として可能性を

秘めているしかし身体は複雑な相互作用を行う

大自由度系でありデータとして与えられる状態空

間の軌道を意味のある要素に分節化する方法論が

確立されていない点が一つの問題として挙げられ

る13

13 これに対し本研究ではフラクタル次元(点次元)

に基づき状態空間上の軌道を自動的に分節化するク

ラスタリングを提案する力学系のある種のldquo同一性rdquo

はフラクタル次元で特性づけられる(Grassberger13 amp13

Procaccia13 198313 [1])つまり同一の次元をもつ

2 つの力学系に対しそれらを 1 対 1 に対応付ける

滑らかな写像が存在するこの性質を定量化する手

法としてHidaka13 amp13 Kashyap13 [2]は点次元の推定法

(次元クラスタリング)を提案しているこの点次元

は各データ点に推定され時系列の各時点での次元

の変化を定量化できるまた点次元でクラスタ化さ

れた点の集合は同一の力学的性質を反映するもの

とみなせる13

提案分析法の検証13

13 運動データ解析の中核である次元クラスタリング

法の性能を検証するため重心が 1次元2 次元の切

り替えながらランダムに生成される時系列(ウィー

SIG-SKL-22 2016-03-04

26

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

SIG-SKL-22 2016-03-04

27

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

SIG-SKL-22 2016-03-04

31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41

Page 27: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

ナー過程)であると想定した人工データを分析した

生成した 10000 点のデータのうち1-2500 点は X

軸のみ2501-5000 点は 2 次元上5001-7500 点は Y

軸のみ4 番目の 7501-10000 点は再度 2 次元上の

ランダムウォークである図 1(a)はそのデータの Y

軸上の時系列図 1(b)は(XY)平面を示すこの 2

次元系列(XY)に対し次元クラスタリングを適用し

た次元推定の結果を各点の赤青色で示している

この結果から次元クラスタリング法により潜在す

る次元の違いを正しく推定できることが示された13

13

予備実験立位重心運動の計測13

13 パーキンソン病患者からのデータ収集に先立って

少数の健常者を対象とした予備実験を行ったこの

予備実験では静止時の重心のゆらぎにおける開

眼閉眼の影響および外的な摂動による揺らぎを

検討したこうした基礎的な条件において次元ク

ラスタリングによる特徴づけにより検出できる揺ら

ぎの性質を確認する13

13

データ収集13

5 名(男性 3 名女性 2 名)の被験者から立位および

座位時の重心軌跡を足下または座面に置いた圧セン

サー(Nintendo13 WiiFit)によって計測し特定条件下

の重心軌道を取得した課題として開眼および閉

眼しての立位静止立位して静止時に外的な力で撹

乱また被験者が自ら腕振り動作を行う条件を設定

した計測時間は各条件 30 秒または 1 分間で100Hz

のサンプリングレートで各試行およそ 3000 または

6000 点の時系列データが得られた13

13

結果考察

図 2(左)13 開眼時および閉眼時の重心運動の平均次元および平均速度(右)立位静止時と腕振り動作時の重心運動の平均次元および平均速度

図113 1 次元2次元ランダムウォークの混合デー

タに対する次元クラスタリングの結果例13

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13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 28: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

13 開眼および閉眼しての立位静止した場合の重心の

平均次元を分析した(図 2(左))平均的なゆらぎの

速度においては開眼時と閉眼時には大きな差が見

られたものの平均的な次元としては大きな差は見

られなかった一方個別の被験者の次元分析の結

果では特に姿勢が大きくゆらぐ場合に他の時点

とは顕著に異なる次元が被験者に共通して同定され

たこの結果と一貫して被験者が自発的に腕振り

をして場合に重心の運動の性質は顕著に変化した

(図 2(右))これは腕振りのように全身の協調が求

められる特定の動きをする場合重心運動の次元は

全身のバランス制御の性質を反映しているのではな

いかと考えられる13

13 この点をさらに確認すべく立位して静止してい

る被験者を実験者が物理的に引っ張る実験を行っ

た(図 3)この実験では 30 秒の自然立位の後1 分

間の外乱フェーズ(図 3 赤い区間)においてランダム

なタイミングで被験者に外的な力を加えその後再

度 30 秒間の自然立位を行ったこの分析から外乱

の瞬間に特徴的な次元(緑)が同定された興味深い

点は外乱なしでも姿勢が大きくゆらぐ際には類

似の次元を示すこと(青の囲い)であるこれは外乱

でも内的なゆらぎあっても重心が大きくゆらぐ場

合には通常(赤いデータ点)とは異なり類似のメ

カニズム(緑のデータ点)により姿勢を修正している

事が示唆される13

13 以上の結果から(1)さまざまな身体的な条件下で

類似の点次元分布が見られ(2)外乱や自発的な腕振

り運動などとあわせることで特定の次元を持つ成

分の特徴づけが可能である事が示唆された13

13

立位安静腕振り運動時の重心運

動パーキンソン病患者と健常者13

13 予備実験で行った外乱条件はパーキンソン病患

者の姿勢制御の困難性を鑑みれば手続きとして現

実的ではないそこでパーキンソン病患者が自身

で安全な範囲で類似の状況を作り出す動作として

腕振り運動時の重心運動を検討することにした

データ収集 13 小松市やわた健康スタジオでリハビリを受けてい

るパーキンソン病患者 8名(69歳-80歳平均 738歳 女性 6名男性 2名)に担当医師の協力の下で実験参加をお願いした各参加者は圧力センター

(Nintendo WiiFit)の上に乗った上で立位安静立位腕振りの運動を行いそのときの重心運動を計測し

たまた対照群としてタイ王国スリバレノリ病

院(Srivareenoi primary hospital Samutprakan Thailand)の健常若年者 10 名(60 歳未満 7-57 歳平均 368 歳男性 7名女性 3名)をおよびパーキンソン病でない高齢者 11名(60歳以上 60-80歳 平均 7054歳 男性4名女性 7名)から同様の実験手続きで重心運動を

13

図 3外乱条件で得られた重心軌跡(前後方向)の分析結果の例4つのクラスタが推定され外乱のあ

る場合にクラスタ 2(緑)のみが顕著に同定された13

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28

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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- 1 -

チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 29: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

計測した

結果考察

図 4 はパーキンソン病患者および健常者の立位安静

時と腕振り運動時の次元差およびその散布図を表す

図 4(左)は健常な若年者ほど腕振り時の次元が小

さく高齢者およびパーキンソン病の患者ではその

差が小さいもしくは腕振り時の次元のほうが大きい

ことを示している図 4(右)に示す散布図では健

常若年者(60 歳未満)健常高齢者(60 歳以上)およ

びパーキンソン病患者が重複をもちながらも異な

る分布を持つことがわかるこれらの 3 群のなかで

はパーキンソン病患者において2つの運動条件で

の差が も小さくなる傾向があった13

13 この結果は安静腕振り運動条件の重心軌道の

次元解析によって得られた統計量を用いることで

3つの群を分類することが可能であることを示唆し

ている今後適切な機械学習の分類アルゴリズム

を利用することで簡便に計測できる運動からパ

ーキンソン病患者に固有の特徴量を検出し潜在的

なリスクや症状の進行度合いを定量化することがで

きると期待できる13

参考文献 [1] Grassberger P amp Procaccia I Characterization of

strange attractorsPhysical review letters13 50(5) 346-349

(1983) [2] Hidaka S amp Kashyap N On the Estimation of

Pointwise Dimension eprint arXiv13122298 (2013) [3] Hoehn M Yahr M Parkinsonism onset progression

and mortality Neurology 17 (5) 427ndash42 (1967) [4] Riley M A Van Orden G C Tutorials in

contemporary nonlinear methods for the behavioral sciences National Science Foundation (2005)

図 4(左) 健常者(赤)とパーキンソン病患者(青)の年齢(x軸)と腕振り静止時の次元差(右)腕振りと静止時の次元の散布図

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チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

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図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 30: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

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チェロ演奏動画の目視によるデータ獲得と演奏スタイルの分類 On Clustering Cellists using Acquired Data through Performance Movies Observation

古川康一1 升田俊樹2 西山武繁3

Koichi Furukawa Toshiki Masuda Takeshige Nishiyama

1 慶應義塾大学 2 チェリスト 3フリー

Keio University Cellist Free

By specifying a set of more than ten characteristic attributes related to cello playing such as ldquoright elbow heightrdquo ldquovertical

movement of the wrist on bow reverse actionrdquo and ldquothe degree of left-right body trunk motionrdquo we collect a set of data from

observation of 46 cellists movies on YouTube and conduct clustering and decision tree analyses to identify a set of clusters

As a result we succeeded in obtaining five clusters which may be useful in finding a cello playing style suited for each player

1 はじめに スキルの獲得において個人差への対処は大きな問題であ

るたとえ演技者の厳密な計測に基づく一見客観的と思えるス

キルの解明研究においても演技者個人のもつ個人差により

得られた結論は一般性を持つとは言い難いまたスキルの習

得においてもトレーナーの教示は自身の経験に基づく面が多

いのでトレーナーの持つ固有性に囚われてしまい学習者とト

レーナーの相性が悪いと指導が困難になることも多い

本研究ではこのような個人差の問題を解決する手掛かりとし

てチェロの演奏を題材としてチェリストの分類を行ったより

具体的にはインターネットの YouTube にアップロードされた国

内外のチェリスト46名に対して著者が目視により様々な属性

についてのデータを獲得しクラスタリング決定木分析などの

データ分析の手法によりチェリストの分類を試みた本論文は

その研究についての報告である

本論文の構成は以下のとおりである2章では関連研究を

サーベイする3章ではどのようにして属性選択を行ったのか

を述べる4章では演奏動画の目視によるデータ獲得方法と

そこでの問題点について議論する5章6章ではそれぞれ得

られたデータのクラスタリングおよび決定木分析について述べる

7章ではデータ分析の結果についての考察を行う8章では

本論文のまとめと今後の課題について述べる

2 関連研究 スキル獲得の過程において学習者が目指すべき身体操作

の方法は 1 つの解に収束するとは限らない身体操作の方法

を分類することはスキル獲得の過程を促進する上で不可欠な

課題である例えばスポーツの現場において 4 スタンス理論と

呼ばれる実践的理論が知られている[1]4 スタンス理論では

アスリートの身体的特徴を 4 種類のタイプに分けそれぞれ理

想的な身体の使い方が存在するとされている

スキルの獲得支援を目指す研究においても学習者の特性

に合わせた支援を実現するために身体操作の方法を分類す

る試みが為されている(例えば[2][3]など)これらの先行研究で

は演技者の身体操作をビデオカメラで撮影あるいはモーショ

ンキャプチャシステムなどのセンサを用いて計測しそのデータ

を処理して身体操作方法の分類を行う身体操作方法の分類

に際してはスキルに関する知識を用いて分類のための着眼点

を絞り込む場合とスキルに関する知識を用いずに分類を行う

場合がある

本研究では一流のスキルを有する演技者のデータを多量

に収集可能であることから YouTube にアップロードされた動画

を分析対象としたまた分類に際しては演技者にとって有意

義な知見を獲得することを企図してスキルに関する知識をもっ

て着眼点を絞り込むこととした

3 属性選択

31 事前の知見に基づく属性選択 属性選択はチェリスト分類の成否を分ける問題である重要

な属性を網羅していれば分類はうまくいくであろうしかしなが

ら不必要に多くの属性を選んでもそれらが重複している可能

性もありデータ獲得の手間が掛かり実際にはうまくいかない

本実験では初めは著者間の議論を通じて17項目を選び測

定を開始したそれらの項目は国籍男女別体格手の大き

さなどの一般的な事柄チェロの演奏に関わる弓のアップ動

作での力の入れ方(肘で押すか手首で引っ張るか)弓を返す

時に手首を前後方向に曲げるか否かあるいは体を大きく揺

らすかチェロを寝かせるか立たせるかなどである

32 属性選択の見直し これらの17項目に対してデータ獲得を行い予備的にクラス

タリングを行ったそれらの予備実験を通じて属性の過不足を

発見しその見直しを行ったそれらの見直しの理由は(1)属

性の重複による不要属性の除去(2)計測の困難性による属性

の除去(3)計測中の新たな発見による属性の追加の3つで

ある以下にそれらについて具体例を取り上げながら紹介する

(1)属性の重複

当初取り上げた属性には「体格」の他に「腕の長さ」「手

の大きさ」の2属性が含まれていたがこれらについては測

定を通してそれらの項目間の相関が高く別の属性として

取り上げる必要がないことが判明した

(2)計測の困難性による属性の除去

属性「弓のアップ動作での力の入れ方肘で押すか手首で

引っ張るか」「姿勢の違い前屈みか垂直か後傾か」

「左腕のポジションチェンジの仕方肘が先か同時か手

が先か」などは判定が微妙でありデータ獲得が困難であ

ることが判明し測定項目から除去することとしたたとえば

姿勢の違いでは横方向からの姿勢を観察する必要があるが

ビデオではそのような画面はほとんど得られなかった

(3)計測中の新たな発見による属性の追加

複数の演奏動画を観察中にそれまで気がつかなかった

以下のようないくつかの特徴的な体の動きを発見した

i 弓先での手首の落ち込みありなし

ii 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

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30

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図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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31

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 31: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

- 2 -

図 2 クラスタ数による2乗誤差の合計の変化

チェリスト名 SexBodySize

ElbowHight

WristVBend

WristDent

NeckMove

HeadCelloDist

CelloAngle

BodyMove

LeftArmAngle

GraspFingerWidth

RightPalmShape

Ofla Harnoy Female S 05 No Yes Big 1 05 1 0 05 Flat法上 閑 Female S 03 Yes Mid Small 03 0 05 0 05 Flat浦川 うらら Female S 06 Yes Yes Small 0 05 1 05 0 FlatTanya Anisimova Female S 05 Yes Yes Big 0 05 05 0 1 FlatMari Endoh Female S 1 Yes Mid Big 06 05 1 1 1 Flat河村 治 Male S 05 Yes Mid Big 07 0 1 0 1 TwistMarie-Elisabeth HeckerFemale S 0 Yes Yes Big 08 05 1 0 1 TwistYoko Hasegawa Female S 05 Yes Yes Big 05 05 05 0 05 TwistSol Gabetta Female L 05 Yes Yes Big 07 05 1 0 1 TwistTatiana Vassilieva Female L 1 Yes Yes Big 1 05 1 0 05 Twist新倉瞳 Female S 05 Yes No Small 02 05 1 0 05 Twist三宅依子 Female S 07 Yes Mid Small 03 05 1 05 05 Twistデュプレ Female S 05 Yes Yes Big 0 05 1 1 05 TwistKateryna Bragina Female S 07 Yes Yes Big 05 05 1 1 05 Twist矢口里菜子 Female S 05 Yes Yes Big 02 05 1 1 1 TwistFGuye Male L 07 Yes Mid Small 0 0 05 1 05 FlatJian Wang Male S 08 Yes Mid Small 05 05 0 0 0 Flat Lynn Harrell Male L 06 No Mid Small 02 1 0 0 05 FlatJanos Starker Male L 07 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPiatigorsky Male S 02 No Mid Small 05 0 05 0 0 TwistRostropovich Male L 0 No Yes Small 0 0 05 0 0 FlatPaul Tortelier Male L 07 No Mid Small 03 0 0 0 05 FlatMichaela Fukačovaacute Female L 06 No Yes Small 0 0 0 0 05 FlatAmit Peled Male L 07 Yes Yes Big 03 0 0 1 0 FlatMario Brunello Male S 1 No No Big 1 1 05 0 05 Flat柏木広樹 Male S 02 No No Big 0 05 1 0 1 FlatDavide Amadio Male S 0 Yes No Big 1 1 1 0 05 Flat長谷川 彰子 Female S 05 No No Big 0 1 0 0 05 TwistRintaro Kaneko Male S 05 No No Big 08 1 1 05 0 FlatMikloacutes PEREacuteNYI Male S 1 No No Big 1 1 1 05 05 TwistMischa Maisky Male S 05 No No Big 0 05 1 0 05 FlatSteacutephane Teacutetreault Male S 07 No Mid Big 05 05 1 1 05 FlatPierre Fournier Male S 05 No No Big 05 0 0 05 05 Flat岡本侑也 Male S 05 Yes No Big 05 05 0 0 05 Flat長谷川 康弘 Male S 0 No No Small 02 05 0 0 0 FlatPabro Casals Male S 05 No Yes Small 0 05 05 0 05 Flat上野 通明 Male S 07 No No Small 02 0 05 0 0 FlatDai MIYATA Male S 05 No Yes Big 0 0 0 0 05 FlatBenedict Kloeckner Male S 05 No Mid Small 03 05 05 1 05 TwistLeonard Rose Male L 05 No Mid Small 02 0 1 05 0 TwistTruls Moslashrk Male L 08 No Yes Small 0 0 1 05 05 TwistYo-Yo Ma Male L 05 No No Big 07 0 1 1 1 FlatMichael Schonwandt Male L 08 No No Big 0 0 1 1 05 FlatLuka Sulic Male L 08 Yes No Small 02 0 1 1 1 TwistTsuyoshi Tsutsumi Male L 07 Yes No Small 0 0 05 1 05 FlatXavier Phillips Male L 07 No No Big 0 05 0 0 1 Twist

図 1 46名のチェリストの測定結果

iii 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

iv (C線での)右掌の形捻らない捻る

これらの4属性のうち iiiivの3属性は実際後のデータ分

析において重要な働きをなしていることが判明したすな

わちこれらの3属性とも分類を左右する属性であったこれ

らの属性の気づきがどのようにしてなされたかはメタ認知

などの注意深い実験を行っていなかったので詳しく述べる

ことはできないが同時にタイプの異なる演奏者の動画を見

続ける過程でそれらの相違に気がついたものと思われる

結果として選択された12項目は以下のとおりである

1 男女別

2 体格

3 高弦での右肘の高さ

4 弓返し時における手首の前後屈伸の有無

5 弓先での手首の落ち込みの有無

6 首の動きの大きさ

7 頭とチェロ間の距離

8 チェロの角度

9 体幹の左右の動きの置きさ

10 第1ポジションでの左手の角度肘下がり中間水平

11 弓の持ち方指閉じ中間指拡張

12 (C線での)右掌の形捻らない捻る

4 目視によるデータ獲得 各チェリストについて演奏動画を観察し選ばれた属性の値

を目視により決めた各属性の値は0~1 の数値としほとんど

の属性は01 の 2 値あるいは 0051 の3値とした例外とし

て「肘の高さ」「頭とチェロの距離」の2属性は連続値とした

このような属性値のレンジの選択はクラスタリングにおいて属

性間に優劣がつかないようにするためである

41 チェリストの選択 分類データを収集するためのチェリストはYouTube サイトか

ら選んだ選択に当たり小中学生は除外したそれはほかの

チェリストと比べて体格が違いすぎることとチェロのスキルが発

展途上であると思われたからである

42 実験者の目視によるデータ獲得 チェリストごとに属性を意識しながら動画を観察して適切と

思われる属性値を決定したその際に重要なのは計測精度を

上げることであるこの問題を回避するために測定属性の厳密

化と測定基準の揺れの防止を図った

測定属性の厳密化の例としては「頭とチェロ間の距離」があ

るその測定値を得るために当初は2値とし頭とチェロの距

離を見た目で判断していたが動きを伴うので正確性を欠いた

より正確性を期すために初めに頭とチェロの距離の定義を明

確にしたすなわち頭(より厳密には首)とチェロのネックの空

間的な隔たりを測定することとしたまた動きを伴うので継続

的に離れている度合いも考慮に入れて測定値を得た

測定基準の揺れの問題を回避するために一度目の測定で

はチェリストごとにすべての項目を測定したが二度目は属性ご

とにチェリストを横断して短時間の間に測定値を比較しながら

測定を続けたまた何人かのチェリストについては2回測定し

それらの差異を調べたその結果違いがあった項目について

は再度見直して測定値の修正を行った得られた測定値を

図 1に示す

5 クラスタリング チェリストのクラスタを発見するためにk-means 法によるクラ

スタリングを実施した利用したソフトウエアはWeka-jp に含ま

れているプログラムであるWeka-jp は日本語対応の Weka で

あるがクラスの属性ごとの出力に標準偏差が付加されており

元の Weka より優れているのでこちらを採用したk-means 法

のパラメータにはクラスタ数がある本実験ではクラスタ数を

3~6 に変化させて実施したその中から最適なクラスタ数を割り

出した最適性の判定は自明ではないがそのひとつの目安は

クラスタ内での二乗誤差の合計であるその数の変化を図 2 に

示すこのグラフからクラスタ数5が妥当であることが読み取れ

るその第1の理由はクラスタ数が 3 から 5 に変化するにつれ

て2 乗誤差の合計が急激に減少しているがクラスタ数が6に

なるとその減少が止まりわずかながら上昇に転じているがこ

のことからクラスタ内の散らばりがクラスタ数5で最も低くなってい

ることが分かるまたクラスタ数が増すと必然的により近いクラ

スタが出現することが予想されるのでその理由によってクラス

タ内の2乗誤差の合計が減少するのでクラスタ数6の2乗誤差

の合計はその分減少していると考えられクラスタ数5の方が

より優れていることが分かるもうひとつの目安は得られたクラ

スタへのデータの分布状況であるクラスタを多くしすぎると2

とか3などの極端に少ない数の要素しか含まないクラスタが現れ

ることがあるが今回の実験を通してクラスタ5の場合のデータ

の分布はそのような結果に陥っていない

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図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

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- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

SIG-SKL-22 2016-03-04

33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41

Page 32: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

- 3 -

図 7 クラスタ 134の再クラスタリングによる決定木

図 4 チェリストクラスタの決定木

図4 チェリストの決定木分析の結果

クラスタ 0 クラスタ 3

クラスタ 2

クラスタ 3

クラスタ 1

クラスタ 4

クラスタ 4 クラスタ 1

クラスタ数を5としたときの各クラスタに分けられたチェリストのグループを図 3に示す

6 決定木分析によるクラスタの特徴付け 5 章で得られた各チェリストのクラスタ番号をクラスとして決

定木分析を行った使用したソフトウエアはクラスタリングと同様

Weka であるただしWeka-jp は決定木のグラフ化の機能が欠

落していたので元の Wekaを利用した決定木プログラムのパ

ラメータとしては minNumObjを 3に設定したまた Test options

としてはUse training setとしたその理由としてはデータ数が

十分でないので training set と test set に分けたりcross

validationを行うなどの方法を採ると興味深い決定木が得られな

いことが分かったからである得られた決定木を図 4に示す

図 4 の決定木において楕円ノードは判定に選ばれた属性

を表しそこから出るアーク上の値はその枝の属性値を表す

長方形ノードは末端ノードであり決定されたクラスタを表す長

方形に含まれる情報はldquoクラスタ名(分類されたレコード数誤

分類数)rdquoを表す決定木のldquo良さrdquoの尺度の一つは正解率で

ある図 4 の決定木の正解率は848である図 4 の決定木

から読み取れるのは第1にトップノードが性別になっている点

とクラスタ1およびクラスタ3が男性女性の両グループに分離

している点であるこの分離現象を解消するために我々はつ

ぎに性別属性を除いて決定木を作成してみたその結果を図 5

に示す図 5 に示す性別属性を除いた決定木の正解率は

870で性別属性を含む場合よりもむしろ正解率は上がっ

ているその代わり末端ノードの数は8 ノードから 10 ノードに

増えている興味深いのはこの決定木に現れる分類属性であ

る本決定木に新たに現れた分類属性には「頭とチェロ間の

距離」「チェロの角度」「右掌の形」の 3 つであるこの中には

予備実験の後に加えられた 4 属性のうちの 1 属性が含まれて

いる最初の決定木に2つの新属性(i および ii)が含まれてい

るので全体で 4属性のうち 3属性が含まれていることになる

図 4図 5 から分かるように依然としていくつかのクラスタが2

箇所以上の枝に分かれているこれらの分離を回避するために

いくつかのクラスタを選択してそれらのチェリストを再クラスタ化

することを考えた再クラスタ化するクラスタを選ぶためにクラス

タ間距離の計算を行なったクラスタ間距離は両クラスタに属し

ているすべてのレコード対の2乗距離を求めその最小値最

大値平均値を求めたそれらの結果を図 6に示す

この結果からクラスタ134が相互に近いことが分かるこ

の結果は図 4 での分離クラスタと一致するのでつぎにこの3ク

ラスタに属しているチェリスト群を再度クラスタリングして決定木

を求めたその決定木を図 7に示すまたこの再クラスタリング

によって図 3 のグレーで示した 3 名のチェリストがクラスタ1か

らクラスタ4に移動した

クラスタ0浦川 うらら Sol Gabetta Yoko Hasegawa

Tanya Anisimova Tatiana Vassilieva Kateryna Bragina

Mari Endoh du Pre 矢口里菜子Marie-E Hecker

クラスタ1Ofla Harnoy Steacutephane Teacutetreault 金子鈴太郎Mario Brunello Pierre Fournier Mikloacutes PEREacuteNYI

柏木広樹 岡本侑也 Mischa Maisky

Davide Amadio 長谷川 康弘 宮田大

長谷川 彰子 上野 通明 Xavier Phillips

クラスタ2FGuye Michael Schonwandt Yo-Yo Ma

Amit Peled Luka Sulic 堤剛

クラスタ3法上 閑 Jian Wang 三宅依子河村 治 Piatigorsky Leonard Rose

新倉瞳 Benedict Kloeckner

クラスタ4 Lynn Harrell Michaela Fukačovaacute Paul Tortelier

Janos Starker Pabro Casals Truls Moslashrk

Rostropovich

図 3 k-meansによるチェリストのクラスタリングの結果

図 5 性別属性を除いた決定木

クラスタ対 最小距離 最大距離 平均距離

2-4 234 633 44

3-4 138 775 451

1-4 149 841 459

0-3 218 779 469

1-3 233 748 482

1-2 234 829 515

2-3 283 755 519

0-1 235 889 528

0-2 401 788 568

図 6 クラスタ間2乗距離を平均距離でソートした結果

SIG-SKL-22 2016-03-04

32

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

SIG-SKL-22 2016-03-04

33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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41

Page 33: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

- 4 -

図 457 から各クラスタの特徴を抽出することが可能である

それらを以下に示す

i クラスタ0

クラスタ0は女性チェリストのクラスタで手首の前後屈伸

および首の動きがともに大である代表的なチェリストは

du Preacute で小さな体を有効に使うために首や体を大きく

使っていると考えられる

ii クラスタ1

クラスタ1のチェリストの特徴は小柄で首を大きく動かし

かつ手首の前後屈伸をしない点であるとくに手首の

前後屈伸を行わない点がクラスタ0と異なる男性女性

がともに含まれ代表例は男性はMischa Maisky 女性は

Ofla Harnoyである

iii クラスタ2

クラスタ2のチェリストは大柄の男性チェリストでありその

特徴は第1ポジションで左肘を上げる点であるさらにチェ

ロを寝かせて構えているYo-Yo Maが代表的奏者である

iv クラスタ3

クラスタ3のチェリストは首の動きが小さく小柄であり頭

とチェロの間の距離が大きめである手首の前後屈伸を利

用しているか利用していない場合は右掌を捻っている

代表的奏者は Leonard Rose であるまた3 名の日本人

女性チェリストが含まれている

v クラスタ4

RostropovichPabro Casals に代表される男性チェリストの

クラスタで首の動きが小さく第1ポジションで左肘を下

げ頭チェロ間の距離が小さく右掌の捻りがないのが特

徴であるクラスタ2と近いが違いは第1ポジションでの左

肘の高さである

クラスタを分ける属性はチェリストのタイプを考える上で重

要であるクラスタ0とクラスタ1を分ける「手首の前後屈伸の有

無」は弓を返す時に必要な腕の柔軟性をどのようにして確保

するのかに関わっているクラスタ0に見られるように手首の前

後屈伸を利用するととくに手首を柔軟性の主としていることが

読み取れるまたそのほかにも首や体幹の動きを活用して体

全体で柔軟性を確保しているクラスタ1は手首の前後屈伸を

利用していないがその場合には手首の左右方向の動きあるい

は指の柔軟性などを利用していると思われる手首の前後屈伸

の利点は屈伸幅を大きく取れる点であるが欠点としては手首

の屈伸方向と弓の動きの方向が一致していないので弓の返し

時に常に掌を捻る必要があるこのため腕全体の動きに伴う

力(動作依存トルク)が弓に効率良く伝わらないと思われる体

全体の動きがより激しくなるのもその理由かも知れない

クラスタ2の特徴である左肘の角度を水平に保つ特徴も注

目に値する左肘を水平に保つためには腕力を必要とするの

で全員が大柄の男性チェリストであるこの姿勢は弓のダウ

ン方向の動きに対して反力を生成すると考えられ弓の力強い

速い動きが可能になる一方クラスタ134に見られる左肘

を下ろす奏法は弾き方としてはより自然である姿勢に無理が

ないので柔らかい音楽が期待できる

7 考察 正確なクラスタリング結果を得るためにはデータ数が少なす

ぎるが得られた結果はこれまで知られてなく著者にとっても

驚きであったクラスタリング過程で妥当なクラスタ数が決まった

ことも興味深いこれまでいろいろのタイプのチェリストが存在

することは経験的にも知られていたが動画の目視とデータ分

析の手法によりこのような結果が得られたことは興味深い

我々は各クラスタの特徴付けのためにさらに各チェリストの

演奏の印象を記録しそれらの印象とクラスタの関連づけを行っ

たこの作業は著者のうちプロのチェリストが担当したさらに

各演奏者がどのクラスタに属しているを知ることの影響を排除す

るために分類結果が未知の状況で行ったそして最後にクラ

スタリングの結果に従って評価結果自身を分類した評価結

果の詳細は述べないが以下にその概要について述べる

クラスタ0の奏者は「軽い音楽」「響きが軽い」というほか

にはない感想が見られたこのクラスタが女性のみからなること

と照らし合わせると納得がいく

クラスタ1の奏者は「スケールが大きい」「暖かい音」「音

が豊か」などのポジティブな評価と合わせて「面白みがない」

「メリハリが効いていない」などのマイナスの評価も見られたこ

のクラスタの特徴である「手首の前後屈伸をしない」点との関連

が考えられるかもしれない

クラスタ2の奏者は「音量がある」「音が響いている」などの

プラスの評価がある一方「硬い響き」「自然の流れがない」な

どのマイナスの評価も見られる大柄の男性チェリストで左肘

を上げて音量を確保していると考えられるその反面頑張り

すぎて硬い響きを生じてしまうのかもしれない

クラスタ3の奏者は概して評価が低い「音楽に伸びがな

い」「音が固い」などの評価が見られるこのクラスタは奏法の

特徴も定まっていない頭とチェロの間の距離が大きいなど問

題のある特徴もありあまり推奨したくないグループかも知れな

クラスタ4の奏者は「音が豊か」「響きが良い」などのプラス

の評価が多い大柄の男性チェリストが多いのでクラスタ2に

似ているただし左肘を上げないなどより自然な奏法になっ

ている全般的に評価が高い

8 おわりに 本論文ではYouTube にアップロードされたチェリストの演奏

動画から12の属性について目視によるデータの収集を行い

クラスタリング決定木分析により5つのグループに分類した

並行して演奏の印象を収集しそれら2つのデータを突き合わ

せて各クラスタの音楽的な特徴の抽出を行った

本研究はデータ数観測精度など不十分なところもあり

さらなる精緻化が必要であると考えられるが今後何人かのア

マチュアチェリストに結果を配布して結果の有用性の検証を行

っていきたい

謝辞 論文中のデータ分析について沖縄国際大学の金城敬太氏

と日本大学の尾崎知伸氏のご協力をいただいた深謝する

参考文献 [1] 廣戸聡一4スタンス理論-正しい身体の動かし方は 4つあ

る-池田書店(2007)

[2] 松本鮎美三上弾川村春美小島明動作学習支援のためのフォーム分類手法の検討-小学生の逆上がりを題

材とした分類に有効な画像特徴量の検証-映像情報メ

ディア学会技術報告Vol39No51pp9-12(2014)

[3] 久保有也橋本雄太石田博基小方博之松村大吾パタースイングのフォーム分類日本機械学会ロボティク

スメカトロニクス講演会rsquo081A1-I03(2008)

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33

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

SIG-SKL-22 2016-03-04

34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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Page 34: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

ジャグリングの熟達における思考過程の分析

‐3ボールカスケードの事例より‐

Analysis of Thought Process in Learning Juggling

-In Case of 3-ball Cascade-

内山光太 1 伊藤毅志 1

Kota Uchiyama1 Takeshi Ito

1

1電気通信大学情報理工学部情報通信工学科 1 Department of Communication Engineering and Informatics

The University of Electro-Communications

Abstract

The aim of this research is to analyze the thought process in embodied knowledge acquisition on juggling

We planned an experiment on learning 3-ball cascade We instructed seven beginner subjects to practice

3-ball cascade of juggling over 2 weeks We investigated the acquisition process of embodied knowledge

by awareness of issue in detail using analysis of verbal reports and video data As the result in order to

acquire embodied knowledge it was suggested that it is important to decompose the problem and to

clarify the issue they should be conscious of

1 はじめに

我々はスポーツやダンスなどの運動技能を習得す

る際様々な動作スキルを会得するそれらの動作

スキルの多くは日常生活では使用しない複雑で難解

なものが多いその複雑で難解な動作をただやみく

もに練習して習得することは大変困難である

スポーツ科学の分野ではこのような動作スキル

を効率よく獲得するため身体知の習得過程に関す

る研究が行われてきた身体知とは身体が覚えこ

み獲得した知識のことである例えばスポーツや

ダンスといった身体運動では熟達によってどのよ

うに身体を動かすべきなのかを頭で考えずとも身体

が動くようになるこのように経験や訓練によって

身体が覚えこむ技やコツなどの知識は身体知と呼ば

れ近年多くの研究がなされている

身体知を獲得するためには外部から身体の動か

し方ややり方のコツを教示されるだけではなく

学習者自身が重要な要素に関する気づきを得ること

が重要である学習者本人の中で何かコツや動作の

やり方を頭ではなく身体で理解したときすなわち

ldquo体得した時rdquo身体知は獲得されるそのため特

に意識せずに練習をしていてもあるタイミングで

身体がその動作を覚え身体知を獲得することは起

こりうるしかし諏訪は自身の動きや体感をど

のように認知しているかを言語化することは身体

知獲得において有効であるというldquoメタ認知的言語

化理論rdquoを提唱している[1]この理論によると学

習者自身が自身の体感を認知することを認知する

すなわちldquoメタ認知rdquoすることで身体知獲得が促さ

れることを指摘している

身体知獲得の研究題材として本研究ではジャグ

リングを例に挙げたジャグリングは技の習得が

明確な目標として設定しやすく熟達度を測りやす

いという利点がある更にジャグリングは技能の

習得に際し筋力や持久力といった個々の体力差に

よる優劣もつきにくいまた特定の運動経験や知

識を持たない者でも習得できる可能性が開かれてい

るこれらの理由から身体知における学習実験題

材として適していると考える

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34

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

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35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

SIG-SKL-22 2016-03-04

36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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41

Page 35: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

本研究ではジャグリングのもっとも基本的な技

の一つであるldquo3ボールカスケード(以下カスケ

ード)rdquoを題材に身体知獲得までの学習過程におけ

る思考過程を分析しカスケードの習熟に重要な要

素を明らかにしていく

2 ジャグリング

ジャグリングとは手に保持できる程度の道具を使

った特殊な技能や芸のことであり日本では昔から

お手玉として親しまれてきた近年ジャグリング

を取り入れた大道芸サーカスや様々な形のステー

ジ上でのパフォーマンスメディアの露出などによ

り目にする機会も多くなり一般にも広まりを見せ

ている

ジャグリングはボールやクラブなどの道具を複数

個空中へ投げあげたりキャッチしたりするトスジャ

グリングが最も有名であるこの他にも一般的にジ

ャグリングとみなされる技術にはお椀を 2 個繋げ

たようなコマを 2 本のスティックに紐を通したハン

ドスティックで回すことにより操るディアボロ2

本の短い棒でセンタースティックという長い棒を浮

かせる回すなどして操るデビルスティックなどの

道具で道具を操るものや水晶やボールなどを体か

ら離さずにまるで浮いているように見せたり身体

や手の上を転がしたりするコンタクトジャグリング

ボールを投げ上げるのではなく地面に叩き付けて跳

ね返ったものをキャッチするバウンスジャグリング

など様々な種類がある

本研究ではトスジャグリングの中で最も基本的な

技とされているボールを使ったldquoカスケードrdquoとい

う技を題材とするカスケードとは一般的に 3 つ以

上の奇数個のボールを用い左右の手で交互に逆側

の手へトスを行いキャッチする前に次のトスを繰り

返す技である

図 1カスケードのイメージ図([4]p8より)

3 関連研究

カスケードに関する研究の例として以下の 2 つが

挙げられる

ひとつ目は田中らによるカスケードを用いた身

体知の研究である田中らは身体知研究としてカス

ケードにおける習熟過程を取り上げジャグリング

未経験合計 8 名の実験参加者に対してカスケードを

平均 100 回できる状態を学習目標にし練習を継続

させる実験を行った[2]練習時間は特に指定せず

各自自由に練習を行って良いこととし練習を行った

日には「その日テスト」という5回のトライアルを

実施しカメラで記録した練習実施後には参加者

の主観的報告を質問紙によって記録させたまた

ジャグリングの動作を身に付けるうえでのコツは何

か参加者本人が「できない」状態と「できる」状

態の差異をどのように感じているか調べるため実

験期間中一週間に一回の頻度で一時間程度の聞き取

り調査を実施した

その結果聞き取り調査からカスケードを身体化

するコツとして次の三点をあげている

視点を定めることによる身体空間の拡張

考えないようにすることで心身の二元性を解消

リズムを理解することによる動作の周期性の調節

またカスケードが「できないこと」から「でき

ること」に変化するのは意図的な調節によって徐々

にできるようになっていくという連続的な運動学習

モデルは当てはまらず動作の只中で心身の二元性

が解消される瞬間偶然の一致によってなされると

している

二つ目は市川らによるカスケードにおける身体

スキル獲得に関する研究である市川らは「カスケ

ードの体幹と上肢の動きの安定性がどの熟達段階で

確立されるのか」と「身体スキル獲得に向けての意

識に関する言語報告」の二点について調べた[3]参

加者 11名に 7日間カスケードを練習させ先行研究

にもとづいて参加者の熟達段階を三段階に分類した

そして異なる学習段階の参加者間で身体動作の安

定性及び言語報告の比較を行った その結果「体

幹と上肢の安定性が確立される熟達段階が異なるこ

と」「上肢の動きの安定性の確立が受動運動で現れ

たこと」「学習曲線が停滞している実験参加者は特

に個々の身体部位に着目して練習を行っていたこ

と」が明らかになった

田中らはコツに関するインタビューを行っている

が何に意識をして練習をしていたのかについては

触れていないまた市川らは練習中に関する意識

についてインタビューしているがそれぞれの熟達

段階の参加者の状態について分析を行っておりど

SIG-SKL-22 2016-03-04

35

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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36

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

SIG-SKL-22 2016-03-04

37

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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41

Page 36: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

うすれば熟達が進むのかという観点で分析が行われ

ていないまた具体的にどこの身体部位に着目し

ているのかについては述べられていない具体的な

着目点を調べることで初心者の熟達を妨げる要因

を把握することが出来ると考えられる

以上のようにカスケードの習熟を題材に人間の

熟達化についての検討は行われているが多くの研

究では参加者に目標を与えるのみで具体的な練習

方法の統制をとらなかったためスキルの獲得が出

来なかった参加者も多くまた獲得できたとしても

単にその参加者の本来的な身体性能や思考傾向知

識の違いが影響している可能性が検討されていない

またどの熟達段階で何に気が付いていたかとい

う点については詳しく調べられていない

そこで本研究では参加者に一律に一般的な練習

方法について教示を与え知識面での統制を行う

その上で参加者がカスケードを練習する際に何に

意識しているのかを分析し参加者の意識の違いが

身体知の獲得過程においてどのように影響するのか

を明らかにしていく

4 予備実験

41 目的

ジャグリング初心者にカスケードを練習させるこ

とでカスケードを習熟していく過程でどんな点

にどのような気づきを得るのかその思考内容を明

らかにする

42 方法

421 実験参加者

学生 2名(20歳女性27歳男性)がボランティア

として実験に参加したなお両名ともジャグリン

グ未経験右利きであった

422 手続き

トスジャグリングの最も基本的な技である「カス

ケード」を題材とした三回の練習の撮影及び自

宅練習をおよそ二週間に渡って行わせそこで得ら

れた発話データと学習記録フォームから意識の違い

を分析した実験は謝金を支払わずボランティア

として実施した

なおボールはジャグリングショップナランハの

「ビーンバッグノーマル(直径 66mm重さ 130g)」

を用いた

具体的に以下のような流れで学習実験を行った

① 実験開始日練習方法の教示+撮影一回目

参加者に対して実験者が「ボールジャグリング入

門第二版」[4](以後教本)に基づいたカスケード

の練習方法を教示した教本ではカスケードの練習

をボール1つのみ使用ボール2つを使用ボール

3つを使用の三段階に分けている本研究ではそ

れぞれを「ステップ1」「ステップ2」「ステップ

3」と呼ぶ

参加者には教本を参考に自由に練習をさせ最後

にキャッチ回数テストをさせたこの間参加者に

はマイクを付けさせ考えている内容を発話するよう

教示しその様子をビデオカメラにて撮影した練

習終了後キャッチ回数テストの結果やその日特

に意識した点や気が付いた点をldquo学習記録フォームrdquo

につけさせた

② 開始翌日から約一週間自宅での練習

1日最低 10 分以上は自宅にて練習を行うように

教示した毎回の練習後にはキャッチ回数テストを

させその結果と「気づき」等を学習記録フォーム

に記録させその都度すぐにメールにて提出させた

③ 開始約一週間後撮影二回目

練習方法の教示をしないこと以外は①の撮影一

回目と同様に練習とキャッチ回数テストの様子を撮

影し練習終了後学習記録をつけさせた

④ 撮影二回目翌日から三回目の前日自宅での練習

②と同様の方法で自宅練習をさせた

⑤ 開始約二週間後撮影三回目

③と同様の手続きで実施した

423 教示内容

参加者には 100 キャッチを目標に実験を進めるよ

うに教示を与えたまた気づいたことを言語化す

ることが学習に効果的であること自身が気づいた

ことを他者が理解出来ないような表現でも感覚的

表現でも構わないので言語化し記録することが有用

であることを強調して説明し出来るだけたくさん

ldquo学習記録rdquoとして記述するように教示した

カスケードのやり方については教本に沿って教示

した

424 学習の記録方法

学習の記録方法は大別して2つある一つは参

加者が一人で学習している時に学習について記録さ

せる学習記録でありもう一つは実験開始日一

週間後二週間後に行う 3 回の撮影であるそれぞ

れの記録方法について以下に説明する

1)学習記録フォームによる報告

実験参加者にはカスケードの練習をした直後に

気づいたことを学習記録フォームにできるだけ詳細

に記録させ報告させた参加者には事前に学習に

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おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

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Page 37: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

おいて自身で気がついたことを反芻して記録を取

ることの重要性について強く教示してできるだけ

詳細に気づいたことなどを記録させるように指導し

ておいた学習記録フォームは記述後速やかにメ

ールで実験者に報告するように教示し記述内容が

不十分であれば次回以降の記述を精緻にするよう

に教示した

2)ビデオカメラによる記録

実験参加者には初回一週間後二週間後に実

際に対面してカスケードの練習をさせたその際

にはいつもと同じように練習をさせ意識してい

ることや気づいたことを発話するように教示した

その様子はすべてビデオカメラで録画してどの

ような行動でどんな発話を行っているのかをすべて

記録した

43 実験結果

参加者二人のキャッチ回数と累計練習時間の関係

を以下の図に示す

図 2キャッチ回数と累積練習時間の関係

参加者αは目標回数 100 回を達成し参加者βは

目標達成出来なかった二名の累計練習時間は大差

が無いにも関わらず参加者αの方が参加者βよりも

急激にキャッチ回数が増えていた以後参加者αを

達成者α参加者βを未達成者βと呼ぶ

各参加者のステップごとの累積練習時間の増加を

調べると達成者αは各ステップをバランス良く練

習しており特にステップ2に一番練習時間を割い

ていた一方で未達成者βはステップ1とステップ

2はあまり練習せずにほとんどの時間をステップ

3に割いていた

次に達成者αと未達成者βの学習記録から双方

の意識の違いについて分析したところ以下のよう

な違いが見られた

達成者αは練習 6 回目までしか身体の動かし方に

関する意識が見られなかった一方で未達成者βは

全ての練習で具体的な身体の動かし方を意識してい

達成者αは初回からコンスタントに「リズム」や

「タイミング」について意識していた一方で未達

成者βは「リズム」や「タイミング」に関する意識

が 12 回目の練習まで一度も確認されなかった

44 考察

達成者と未達成者のステップの練習時間の違いか

らステップ3のみを練習するよりもステップ1や

ステップ2の練習を行うことがカスケード習得に効

率的であることが示唆されるこれはステップ1

やステップ2の練習で熟達に必要な何らかの気づ

きを得たと考えられる達成者αの学習記録にも「2

ボールで動きが安定するまで3ボールの練習を少

なくするべき」という記述が見られた

結果にある学習記録からの以下の二点の参加者の意

識の違いがあったと考えられる

達成者は身体部位への意識が途中から見られなく

なった

達成者はリズムやタイミングに関して未達成者よ

りもより多く意識していた

この内容は関連研究において述べた田中らの考察

であるldquoカスケードのコツの一つはリズムを理解す

ることによる周期性の調節rdquo市川らの考察である

ldquo学習曲線が停滞している実験参加者は特に個々

の身体部位に着目して練習を行っており時間的要

素や空間的要素に関する新たな着眼点の発見は高

いパフォーマンスとの関係を示唆したrdquoとも一致し

ているこれらのことからカスケードにおいて

「個々の身体部位への意識に固執せずにリズムや

タイミングといった時間的観点へと意識を変えてい

くこと」が熟達化にとって重要であると考えられる

ただしどの段階で何に気づいているのかについて

より詳細に分析を行う必要がある

5 本実験

51 目的

予備実験の結果及び関連研究からカスケードの

学習においては「リズムやタイミング」を認識する

ことが重要であると考えられたそこで本実験で

はより参加者人数を増やし予備実験の内容に明示

的にリズムやタイミングの教示を含んだ指導法を与

えた場合本当に学習が進むのかもし学習が進ん

だとしたら具体的にどのような気づきが促された

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ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

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39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41

Page 38: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

ために学習が進んだと考えられるのかを明らかにし

ていく

52 方法

521 実験参加者

学生男女 8 名が実験に参加したしかしそのう

ち 1 名は小学 4 年生から中学 3 年生にかけてのおよ

そ五年間新体操を経験していた新体操ではボー

ルやクラブなどの道具を投げてキャッチするといっ

たジャグリングに非常に関連のある動作スキルが必

要になるそのため他参加者と事前に身に付けて

いた身体スキルに差が出てしまい実験統制が取れな

いことが考えられるため残り 7 名(男性 5 名女性

2 名平均 220 歳SD=185)を分析対象とした

なお参加者は全員ジャグリング未経験者で右利きで

あった

522 手続き

本実験ではモチベーション維持のため参加者には

謝金を支払う形で行ったまた撮影日の練習時間

を 1時間に固定自宅練習の際は最低 30分練習する

ように指示した

その他の点は予備実験と同様の手続きで 2 週間に

渡って実験を行った

523 教示内容

予備実験の教示内容に「カスケードにおいてリ

ズムやタイミングが重要であるためそれらを意識

しながら練習してください」という内容を追加して

教示を行った

学習記録にタイミングやリズムに関する記述が見

られない場合はその都度メールにて再度こちら

から意識するように促した

524 学習の記録方法

予備実験と同様の方法で学習の記録を行った

525 謝金について

本実験は二週間の間学習記録フォームの記述

を継続しカスケードの上達を目指さなくてはなら

ないため参加者には高いモチベーションを継続さ

せる必要があると考える事実予備実験を実施し

た際は目標を達成できなかった参加者は実験後半に

は練習中に座り込む時間が長くなりldquo練習が楽しく

ないrdquoなどの発言がみられるなど著しいモチベーシ

ョンの低下が見られた

モチベーション維持のために本実験では参加者

に謝金を支払う形として行った拘束時間に対し支

払う謝金について時給(1000 円時間(電気通信

大学研究補助等謝金単価規定による))に加え自宅

練習については 1日最低 30 分の練習をさせ日数times

05 時間(それ以上 1日に練習しても謝金は変わらず

学習記録を提出しなかった日はカウントしない)を

加算し更に参加者のモチベーションを維持するた

めに最終日のキャッチ回数に応じて以下のように

謝金が増える旨を伝えた

表 1キャッチ回数と追加謝金

最終日連続キャッチ

回数

追加謝金

20キャッチ未満 0時間

20~49キャッチ 1時間(1000円)

50~99キャッチ 3時間(3000円)

100キャッチ以上 10時間(10000円)

カスケードにおいて100 回連続でキャッチ出来

るようになることは初心者にとっての一つの大き

な目標であるとされておりそれを目安にしたま

た20回50 回という段階は本実験に先立って行

った予備実験の結果をもとに学習がうまくいかな

い実験参加者にとっての中程度の目標になると考え

設定した段階的な謝金の設定にしたのはあまり

上達できなかった実験参加者にとっては実験後半

になるとモチベーションの著しい低下が予想される

実験後半でも次の段階のキャッチ回数を目指すこと

で一定のモチベーションを維持できるように段階

的な謝金の設定にした具体的には成功者には上

記の時間簡単な追加インタビューを行うという形で

謝金を支払った

53 実験結果

531 キャッチ回数と練習時間

参加者 7 名のキャッチ回数と累計練習時間につい

て目標回数 100 回達成者を図 3 に未達成者を図 4

に示すなお参加者 Aについては一週間後の撮影二

回目の時点で目標回数である 100 回を大きく超える

結果だったためそこで実験を終了した分析対象

とした実験参加者 7 名のうち 4 名が実験期間内に目

標キャッチ回数である 100 回に到達した一方で残

り 3 名については目標回数に到達した 4 名と練習時

間に大きな差はないが目標回数には到達しなかっ

た以後目標キャッチ回数に到達した参加者をldquo達

成者rdquo到達しなかったものをldquo未達成者rdquoと呼ぶ

SIG-SKL-22 2016-03-04

38

図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

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図 3キャッチ回数と累積練習時間の関係(達成者)

図 4キャッチ回数と累積練習時間の関係(未達成者)

また各参加者のステップごとの練習時間の割合

を調べた達成者と未達成者で特に大きな特徴の違

いは見られなかった以下の図は結果の一例である

図 5ステップごとの練習時間の割合(達成者 BC)

図 6ステップごとの練習時間の割合(未達成者 F)

532 投げる速度について

各参加者の実際の投げる速度を調べるために各

撮影日のテストで最もキャッチ回数が多い試行を対

象とし動画データから以下のような 5 つの分類に

細かく分けて時間を計測したなお計測の際は

Windows media Playerのコマ送り機能(60フレーム)

を用いた

ボールを投げてから次のボールを投げるまでの時

ボールを取ってから次のボールを取るまでの時間

ボールを投げてからボールをキャッチするまでの

時間

ボールをキャッチしてから手を下げきるまでの時

手を下げきってからボールを投げるまでの時間

結果から上記 5 つの分類全てにおいて達成者

と未達成者の間で特徴の違いは見られなかったが

ボールを投げる間隔ボールを取る間隔について

撮影二回目と撮影最終日を比較すると参加者全員

が撮影最終日の方が時間が短かった

533 学習記録内容

学習記録の記述内容を ldquoキャッチ位置rdquoldquoリリー

ス位置rdquoldquoボールの軌道rdquoldquoボールの高さrdquoldquo身体

の動かし方rdquoldquoリズムrdquoldquo視線rdquoldquoその他rdquoの 8 要

素に分類分けを行った

その上で特に各参加者がどの程度リズムを意識

していたのかを調べたリズムに関する記述は例え

ば次のようなものである

「ボールを投げるリズムが走らないようにする」

(達成者 B 練習 9回目)

「いつもよりもゆっくり投げてペースを一定に保て

るようにボールの最高点を見てから投げる」

(達成者 C 練習 9 回目)

以上のようなldquoリズムrdquoldquoペースrdquoldquoテンポrdquoな

どの記述を同一の分類としたその結果練習期間

二週間の学習記録の中で最低 4回最高 12 回平均

8 回以上と参加者全員からリズムに関する記述が多

SIG-SKL-22 2016-03-04

39

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41

Page 40: 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身 …2016/03/04  · 全身協調バランス・スポーツ“スラックライン”の身体技能: 経験知に基づく仮説生成とその検証

く見られた

54 考察

541 意識することによる変化

関連研究の田中らはカスケードを習得するには心

身の二元性の解消が重要であり運動を意図的に調

節することで可能になっているわけではないと結論

付けているしかしこの結論には疑問点が残る

田中らは実験中のインタビューで「考えない」こと

の重要性を多くの参加者が指摘しインタビュー中

「試行中このように考えて動作を修正したらうまく

いった」といった発言がなかったとあるが田中ら

の実験ではインタビューを一週間に一度しか行って

いないため重要な気づきがあったタイミングを見逃

している可能性があるまた田中らの実験では教

材内容が不十分であるためにカスケードに対する

知識が不足し参加者の目標設定が困難であったこ

とが理由として考えられる実際に本実験では達成

者の学習記録から以下のような記述が見られた

「ボールが前に行かないように意識したところ前

回よりもかなり続けることができた」(達成者A 練

習 3回目)

「カスケードのリズムを遅くしたことで浮いてい

るボールを見られる時間が増えキャッチミスする

ことが格段に減った」(達成者 C 練習 4 回目)

このことからも運動を意図的に調節することは

習熟を妨げる要因ではなくむしろ運動の調整に関

する的確な改善点を意識することができれば熟達が

促進されるのではないかと考える

542 各ステップの練習時間

予備実験時に目標達成者がステップ 1ステッ

プ 2 の練習を目標未達成者に比べて多くやっている

ことからステップ 1 やステップ 2 の練習が熟達に

おいて重要だと考えていたしかし本実験の結果

から単純に目標達成者の方がステップ 1 やステッ

プ 2 を多く練習しているというわけではないことが

分かる特に未達成者 F については練習終盤までス

テップ 1やステップ 2の練習を継続して行っていた

このことからただやみくもにステップ 1 やステッ

プ 2を練習すれば良いわけではなく何を目的とし

てステップ 1やステップ 2を練習するのか意識する

ことが重要だと考えられる

そこで各ステップの練習時間について達成者 B

と達成者 Cに注目した結果から達成者 B のグラフ

を見ると練習 4 回目ではステップ 3 に多く練習時間

を割いているのに対して練習 5 回目と 6 回目では

ステップ 2 に多く練習時間を割いているまた達成

者 C も同様に練習 3 回目~5 回目ではステップ 2 を

全く練習していないが練習 6 回目~練習 8 回目で

はステップ 2 の練習に時間を割いているこの 2 人

は学習記録に以下のようなステップ 2 の練習をする

目的について記述をしていた

「横に投げることを意識するためにステップ 2を重

点的に行う」(達成者 B 練習 5回目)

「ステップ 2の練習時に投げている手はきちんと同

じ線上にあるかを確かめるため首を下げて手を見な

がら確認したその後のステップ 3 ではステップ 2

で確認した手の動き(肘から先が回るように上下し

ているか)をイメージした」(達成者 C 練習 7回目)

目標達成者全員が上記のようなステップ 2 の練

習についての記述やステップ 2 が重要であるなど

の記述が書かれていた一方で未達成者 F は確か

にステップ 1 やステップ 2 に練習時間を多く割いて

いるが上記のような記述は一回も見られなかった

また他の参加者はステップ 2 が出来るようになっ

たらステップ 3 をやる又は飽きてきたら他のステ

ップに移るというような練習方法だったが未達成

者 Fはステップ 2を何分間したらステップ 3をやる

というような練習をしていたこのことからも未

達成者 F はあまり各ステップの違いの意味を意識し

ていなかったのではないかと推測される

このことからステップ 2 で何を習得するか目的を

意識した上でステップ 2 の練習を多く行うことがカ

スケード習得に効果的であることが示唆される

543 リズムに関する学習記録報告

予備実験の際は目標達成者がリズムやタイミング

に関する学習記録の記述が多く未達成者がほとん

どなかったが本実験では「リズムやタイミングが

重要であるためそれらを意識して練習を行うように」

と強く教示を与えて実験を行ったため参加者全員

の学習記録からリズムやタイミングに関する記述が

多く得られたしかしそれでも目標達成出来ない

参加者は 3 名いたこのことからただリズムやタ

イミングが重要だと意識するだけでなくリズムや

タイミングがどう重要なのかどういう風に意識す

るべきなのか更に具体的に意識することが重要であ

ると考えられる

そこで目標達成者のリズムに関する学習記録の

具体的な記述内容について着目したところ達成者

全員からldquoテンポを遅めにキープするrdquoldquoリズムが

走らないようにするrdquoldquo全体的に一拍遅くするrdquoな

ど表現の仕方はさまざまだがリズムを遅くすると

いった内容の記述が平均 5 回と多く書かれていた

またその中で達成者 Aについては最終日の一回の

みそういった内容の記述が見られたが実験終了後

SIG-SKL-22 2016-03-04

40

「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

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「最初からもっとゆっくりするべきだった」という

発言をしていた一方で目標未達成者の学習記録に

はそういった内容の記述をしたものは 3 名中 2 名で

あったが記述回数も達成者が平均 5 回だったのに

比べ未達成者は平均 15 回しか書かれていなかっ

たまた実験期間中二回記述していた未達成者 F

は練習の初日と最終日に記述をしており未達成者

はどちらも継続的にそれらを意識はしていなかった

そこで更に実際に熟達するほどリズムが遅くな

っているかを調べたが達成者と未達成者で大きな

特徴の違いは見られなかったまたボールトス間

隔ボールキャッチ間隔ともに撮影 2 回目の時と

比べて撮影最終日の方がより時間が短くなっていた

参加者は一人もいなかった逆に学習が進むにつれ

てリズムが速くなっていたということである

このことは次のように考えられる達成者は意識

したことにより実際にリズムが遅くなった時期もあ

ったがその後熟達が進むにつれてまたリズムが早

くなっていった熟達が進んだことにより身体知

を獲得しリズムを遅くせずとも続けられるように

なったためリズムがまた早くなっていったと考えら

れる本実験では撮影を行うのは二週間の実験期間

のうち一週間に 1 度合計 3 回のみでありそれ以外

の期間は学習記録の提出のみの自宅学習であった

また撮影初日についてはキャッチ回数が極端に少

ないため時間を計測するのに十分な回数が確保で

きていなかった自宅学習の動画データが無いため

本実験ではその期間のリズムの速さについて確認す

ることは不可能である今後実験期間全てを動画

に記録するなどして更に詳細な分析を行うことで

実際にリズムを遅くすることがカスケードの身体知

獲得に有効であるのか検証する必要がある

544 問題点の分解

カスケードは日常生活では行わない取る投げ

るといった複雑で多様なスキルを要する課題である

初心者がこの多様なスキル全てを同時並行的に獲得

することは困難であるそのため必要なスキルを

分解し理解していくことで一つ一つ順を追って獲

得する必要がある

達成者 4 人中 3 人から「意識することを一つに絞

った方が良い」という内容の記述が見られた一方

で未達成者は一人もこういった内容の記述はなか

った前述の「リズムを遅くすることを意識するこ

と」もこの問題点の分解を促しているのではないか

と考えられるリズムが遅くなることで空中に浮い

ているボールを見られる時間が増え一つ一つの動

作を慌てずに行うことが出来るためであるまたス

テップ 1 やステップ 2 のようにボールの数を減らし

て練習することも必要な動作スキルを削ることに

よって問題点の分解に直結しているそのためス

テップ 3 がうまく出来ない場合はステップ 2 にス

テップ 2 が出来ない場合はステップ 1 に戻ることに

よって情報量を減らし何が出来ていないのか問題

点を発見しやすくすることが効果的であると考えら

れる教本にもldquoうまく出来ない場合はボールを減

らしてもう一度練習するのが良いでしょうrdquoという

記述がされていた

このことから一度に様々なことを意識するので

はなく問題点を分解することによって重要なポイ

ントを一つ一つ意識し練習していくことが重要だ

と考えられるこのことはカスケードの習得のみに

限らずジャグリング全般またスポーツやダンス

などあらゆる身体スキル獲得において同様のことが

言える可能性がある

6 おわりに

本研究ではジャグリングのカスケードを題材に

およそ二週間に渡って初心者に練習させることで

その熟達過程における思考過程を分析した

結果からカスケードの身体知獲得において以

下の3つのことが重要であることが示唆された

1) 運動を意識的に調整することは習熟を妨げる

要因ではなくむしろ運動の的確な改善点を意

識すること

2) ただやみくもに練習をするのではなく何を目

的にその練習を行っているのかを意識するこ

3) 意識するべき部位や課題を細分化し問題点の

分解を行うこと

今後の展望としてこれらのことが他の身体スキ

ル獲得においても有用であるのか更に他の課題の

実験を行うことで身体知獲得過程の詳細な分析を行

っていきたい

参考文献

[1] 諏訪正樹身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化人工知能学会誌vol20(5) pp 525-532(2005)

[2] 田中彰吾小河原慶太身体知の形成‐ボールジャグリング学習過程の分析‐人体科学vol19(1)

pp69‐82(2010)

[3] 市川淳三輪和久寺井仁 運動計測と言語報告

に基づく身体スキル獲得に関する実験的検討人工

知能学会論文誌 vol30(3) pp585‐594(2015)

[4] 中島潤一郎ボールジャグリング入門 第二版

pp1‐12ナランハ(2001)

SIG-SKL-22 2016-03-04

41