下肢静脈瘤診断におけるmr venographyの有用性下肢静脈瘤診断におけるmr...

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下肢静脈瘤診断におけるMR Venographyの有用性 旨:1997年1月より10月までに結紫併用硬化療法を施行した下肢静脈瘤症例30 例に対して, MR Venography を行い,その有用性を検討した.MR像は島津1.5T (SMT- 150X)を用い, 3D-SMASH (Shimadzu Minimum Angle Shot)法にて撮像した.撮像は, コントロールを撮像後, Gd-DTPA 15~20 m/ を撮像開始30秒後から約30秒かけて注入 し,その6分,12分後にも撮像して,得られた画像をMIPおよびsubtraction処理した 後, stereo角16度のstereo画像を作製した.その結果,全例で正常静脈系および深部静脈 系とともに明瞭に描出され,その再現性はョード剤を用いるphlebographyと比較しても全 く遜色のないものである上に,穿通枝や交通枝の描出能にきわめて優れ,回転表示および stereo表示による3次元的な位置関係も明確に把握することが可能であることから,今後, 下肢静脈瘤診断に際しては, MR Vcnographyが第1選択になるものと考えられた. (日血外会誌8 : 367-373, 1999) 索引用語:下肢静脈瘤, MRA, MR Venography はじめに 下肢静脈瘤に対する結集併用硬化療法は,近年,そ のニーズの高まりにつれて,多施設で行われるように なってきている.結紮併用硬化療法を行うためには, 静脈瘤の正確な器質的・機能的診断によって,交通枝 あるいは穿通枝を同定し,結紮しなければ,術後の瘤 透残・瘤内血栓あるいは血栓性静脈炎が生じることと なるので慎重に行う必要がある.当院においては,結 紫併用硬化療法に際してMR Venography (以下, MRV)を適用しており,その際だった有用性が認めら れるため報告する. 関西医科大学附属香里病院外科(Tel : 0720-32-5321) 同同 2 附属香里病院放射線科(Tel : 同上) 第1外科「Tel : 06-6992-1001) 〒572-8551 寝屋川市香里本通町8-45 受付:1998年2月13日 受理:1999年1月29日 対象および方法 1997年1月より10月までに当科で結紫併用硬化療 法を行ったCEAP分類C2以上の下肢静脈瘤症例で 検査に同意の得られた30例を対象として,下肢静脈 瘤の診断のためにMRV検査を行った.症例の内訳は 男性5例(53~78歳,平均年齢63.6歳),女性25例 (42~79歳,平均年齢59.2歳)であり,うち3例(男 性1例,女性2例)はSSV (small saphenous vein) type で,残る27例はGSY (great saphenous vein) typeで あった.また, CEAP分類ではC2 : 15 例,C3: 1例, C4: 9例,C5: 1例,C6: 4例であった(表1).ここで 得られた画像をもとに,交通枝・穿通枝の評価を行っ た.さらに,同症例に上行性および下行性静脈造影 (以下,静脈造影)を行い, MRVの所見と対比し, MRV の有用性と問題点を検討した. 使用MR装置は島津社製1.5T (SMT-150X)であ 小島 善詞l 白石 友邦2 充1 今村 敦3 山田 斉3 奥野 雅史3 上山 泰男3

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Page 1: 下肢静脈瘤診断におけるMR Venographyの有用性下肢静脈瘤診断におけるMR Venographyの有用性 要 旨:1997年1月より10月までに結紫併用硬化療法を施行した下肢静脈瘤症例30

下肢静脈瘤診断におけるMR Venographyの有用性

要  旨:1997年1月より10月までに結紫併用硬化療法を施行した下肢静脈瘤症例30

例に対して, MR Venography を行い,その有用性を検討した.MR像は島津1.5T (SMT-

150X)を用い, 3D-SMASH (Shimadzu Minimum Angle Shot)法にて撮像した.撮像は,

コントロールを撮像後, Gd-DTPA 15~20 m/ を撮像開始30秒後から約30秒かけて注入

し,その6分,12分後にも撮像して,得られた画像をMIPおよびsubtraction処理した

後, stereo角16度のstereo画像を作製した.その結果,全例で正常静脈系および深部静脈

系とともに明瞭に描出され,その再現性はョード剤を用いるphlebographyと比較しても全

く遜色のないものである上に,穿通枝や交通枝の描出能にきわめて優れ,回転表示および

stereo表示による3次元的な位置関係も明確に把握することが可能であることから,今後,

下肢静脈瘤診断に際しては, MR Vcnographyが第1選択になるものと考えられた.

(日血外会誌8 : 367-373, 1999)

索引用語:下肢静脈瘤, MRA, MR Venography

はじめに

 下肢静脈瘤に対する結集併用硬化療法は,近年,そ

のニーズの高まりにつれて,多施設で行われるように

なってきている.結紮併用硬化療法を行うためには,

静脈瘤の正確な器質的・機能的診断によって,交通枝

あるいは穿通枝を同定し,結紮しなければ,術後の瘤

透残・瘤内血栓あるいは血栓性静脈炎が生じることと

なるので慎重に行う必要がある.当院においては,結

紫併用硬化療法に際してMR Venography (以下,

MRV)を適用しており,その際だった有用性が認めら

れるため報告する.

関西医科大学附属香里病院外科(Tel : 0720-32-5321)同同

2

附属香里病院放射線科(Tel : 同上)

第1外科「Tel : 06-6992-1001)

〒572-8551 寝屋川市香里本通町8-45

受付:1998年2月13日

受理:1999年1月29日

        対象および方法

 1997年1月より10月までに当科で結紫併用硬化療

法を行ったCEAP分類C2以上の下肢静脈瘤症例で

検査に同意の得られた30例を対象として,下肢静脈

瘤の診断のためにMRV検査を行った.症例の内訳は

男性5例(53~78歳,平均年齢63.6歳),女性25例

(42~79歳,平均年齢59.2歳)であり,うち3例(男

性1例,女性2例)はSSV (small saphenous vein) type

で,残る27例はGSY (greatsaphenous vein) typeで

あった.また, CEAP分類ではC2 : 15 例,C3: 1例,

C4: 9例,C5: 1例,C6: 4例であった(表1).ここで

得られた画像をもとに,交通枝・穿通枝の評価を行っ

た.さらに,同症例に上行性および下行性静脈造影

(以下,静脈造影)を行い, MRVの所見と対比し, MRV

の有用性と問題点を検討した.

 使用MR装置は島津社製1.5T (SMT-150X)であ

小島 善詞l   白石 友邦2   平   充1   今村  敦3

    山田  斉3   奥野 雅史3   上山 泰男3

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表1 症例呈示およびMRV ・ Venography所見

日血外会誌 8巻3号

No. Age Sex Locate CEAP

MR Venography Venographycom. vein perforator toial Clearness com.vein perforator total

(Uiigh] (calf)(ihigh] (cain i^diigh (calf)(thigh (calf)

1 66 M Lt C4 1 1 1 ○ 3 VOOT 1 6 1 O 8

2 61 F Rt C5 ○ 3 ○ 4 7 moderate ○ 4 O 2 6

3 79 F Rt C4 1 2 ○ 3 6 clear 1 5 O 1 7

4 42 F Rt C2 ○ 1 1 2 4 moderate ○ 2 ○ 1 3

S 57 F Lt(&Rt) C2 1 1 ○ 4 6 dear 1 3 O 1 5

6 62 F Rt(&Lt) C6 1 3 1 2 7 dear O 5 1 1 7

7 78 M Lt C2 O 1 ○ 2 3 clear ○ 2 ○ 1 3

8 57 F Lt C2 1 1 ○ 1 3 moderate O 2 1 1 4

9 60 F Lt C2 ○ 2 1 3 6 daer O 3 ○ 2 5

10 S4 F Lt C2 1 2 ○ 3 6 moderate O 2 1 2 5

11 58 F Rt C2 1 1 1 7- 5 moderate 1. 2 1 1 4

12 67 F Rt C4 ○ 3 1 5 9 clear O 5 1 1 7

13 69 F Rt C2 O Z O 2 4 clear ○ 2 O 1 3

14 48 F Rt(&Lt) C2 1 2 ○ 3 6 dear O 2 O 2 4

15 76 F Rt(&Lt) C4 1 3 1 3 8 clear ○ 4 ○ 1 5

16 79 F Rt C2 1 2 1 2 6 clear 1 3 1 ○ 4

17 53 M Rt C4 O 2 1 5 8 clear ○ 3 O 2 5

18 48 F Rt C4 ○ 2 1 5 8 clear ○ 3 O 2 5

19 71 F Rt C4 O 3 1 3 7 clear O 4 ○ 1 5

20 50 F Rt C2 1 2 2 2 7 dear 1 4 1 ○ 6

21 70 F u C3 O 2 ○ 3 5 moderate O 3 O 2 5

22 50 F Rt(&Lt) C4 1 2 1 3 7 clear 1 4 O 1 6

23 59 F Lt C6 ○ 3 3 3 9 clear ○ 3 1 2 6

Z4 60 M Lt C6 1 3 ○ 5 9 dear O 4 O 3 7

2S 53 F Lt C2 ○ Z 1 4 7 clear O 2 1 1 4

26 46 F Lt(&Rt) C2 1 1 ○ 2 4 clear ○ 2 1 ○ 3

27 53 F Rt C2 1 3 1 1 6 clear ○ 3 ○ O 3

28 62 F Rt C2 O 2 O 4 6 clear O 4 ○ 1 5

29 61 M Rt C6 O 3 1 3 7 clear ○ 3 1 1 5

30 48 F Rt C4 O 2 ○ 5 7 moderate ○ 3 ○ ○ 3

MEAN 0.50 2.06 0,66 2.96 6.20 0.23 3.23 0.40 1.13 4,93

SD 0.51 0.73 0.71 1.30 1.73 0.43 1.10 0.50 0.78 1.41

MRV ・ Venography で認められた交通・穿通枝(数)を示す

交通枝・穿通枝ともthigh ・calfに分けて計量した.

Clearnessは,「clear」「moderate」「poor」の3段階で示す.

る.撮像方法は3D-SMASH (Shimadzu Minimum

Angle Shot)法を用い,撮像条件は下腿部ではTr=13

msec, Te二6.70 msec, Flip-angle 13°,matrix 256×

256, MAT (FOV Reduction) = 75 %, 2 mm x 64 slice

(1 mmx128 slice), FOV 450mm, total二2'39”,inter-

val二3'00”, SAG-pilotを使い, CORにてplanning,

大腿部ではMAT = 80%, 1.5mmX128 sliceとした.

 使用コイルはbody coilで,両側下腿膝寓部と大腿

腸骨部を冠状断で撮像した.撮像プロトコールは,ま

ず,下腿膝寞部を対象としてcontrol像を撮像し1回

目画像とした.次にGd-DTPA 15~20 m/ (男性20

m/,女性15 m/)を前腕静脈より2回目画像開始30秒

後から約30秒かけて注入し,これを2回目画像とし

た.その後,2回目撮像開始から6分後に3回目画像

を,12分後に4回目画像の撮像を開始した.最後に時

間的に可能であれば両側大腿腸骨部を同様の方法で撮

像した.1回の撮像時間は2分39秒である.得られた

原画像をMIP (maximum intensityprojection)処理し

た後,4回の画像からsubtractionによって動脈相,動

静脈相,静脈相に分けて画像化し,それぞれの画像か

らstereo角16度のstereo画像を作製した.

 なお,本稿において,交通枝とは表在静脈間を交通

あるいは分岐する静脈枝を指し,穿通枝とは表在静脈

と深部静脈を交通する静脈枝を指すものとして, Sa-

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1999年4月 小島ほか:下肢静脈瘤におけるMRV

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           図I MRV後面像(症例22)

後面よりのViewで,向かって右が右側下肢となる.

左:大腿部のMRV像.両側ともDodd穿通枝(4)が明瞭に描出されている

右:膝腐・下腿MRV像.右下肢では後脛骨静脈に2本の穿通枝(4)が,右下

腿に前脛骨静脈系の穿通枝(⇒)が3本認められる.

369

pheno-Femoral Junction (SFJ)およびSapheno-Pop-  あるいは瘤遺残は認めていない.

litealJunction (SPJ)は含まないものとした.              考  察

          結  果             SMASIP)とは,いわゆるTurbo-Gradient撮像法の

 1)全症例において検査にかかわる合併症を認めず, 一種であり,島津製作所製MRIにて実行可能な高速

全例において,深部静脈は下腿3系統,大腿・腸骨静  撮像法の名称である(ちなみに, Siemens社製では

脈が明瞭に描出され,深部静脈の血栓・閉塞は認めな  Turbo-FLASH, Elscint社製ではTurbo-SHORTとい

かった(図1).                   う).高速撮像法は,本来,短いスキャンタイムの利点

 2)表1に対象症例のプロフィールおよびMRV・静  を利用した,動的機能検査,ダイナミック造影,時間

脈造影で確認された交通枝・穿通枝数を示す. MRV画  のかかる3D撮像などへの応用が期待された撮像法で

像の鮮明度あるいは視認度は「poor」「moderate」  ある.近年, MRAの分野において,従来からのTOF

rclear」と主観的に分類したが,「poor」1例(3.3%), (Time-O卜Flight)法, PC (Phase Contrast)法に加え

「moderate」7例(23.3 %)で,残る73%は「clear」で  てT1値短縮造影剤を使用したMRAが盛んに報告2・3)

あり,交通枝・穿通枝は全症例で確認し得た.ただ,  され,その撮像方法にSMASHに代表されるTurbo-

「poor」の1例は表在静脈が著しく増生しており,穿  Gradient系の高速撮像法を用いる場合が多くみられ

通枝の判別に難渋した. MRVにて確認し得た交通枝  る.

は大腿で平均0.50本,下腿で平均2.06本,穿通枝は大   高速撮像法が用いられる理由は次の2点によるとこ

腿で平均0.66本,下腿で平均2.96本であり,合計で平  ろが大きい.すなわち,高速撮像法は短いTrのため画

均6.20本であった.静脈造影にて確認し得た交通枝は  像のS/Nが悪く,また小さいFlip-angleのために組

大腿で平均0.23本,下腿で平均3.23本,穿通枝は大腿  織間コントラストがつきにくい.そこに注入直後の比

で平均0.40本,下腿で平均1.13本であり,合計で平均  較的高濃度の造影剤による高コントラストが生じるこ

4.93本であった(MRV ・静脈造影ともSFJおよび  とで明瞭な血管コントラストが得られるわけである.

SPJは含まない).治療は全例に結紫術を行い,瘤の遺  さらに,高速撮像法は,その名の通り,短いスキャン

残した5例にのみ術後1週間後に硬化剤(3%ポリド  タイムであるため,目的血管への造影剤の通過タイミ

カノール)を注入した.術後3ヵ月間の観察では再発  ングにターゲットを絞った画像を得ることができるた

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日血外会誌 8巻3号

        図2 MRV正面像と静脈造影像(症例27)

MRV:右小伏在静脈(-・)は拡張し,2本の大伏在静脈との交通枝(t)を認

める.深部静脈からの穿通枝は認められない.

静脈造影像:中央写真では,下腿下部小伏在静脈系の静脈瘤(★)は描出され

ていない.右写真では,表在静脈系(★)のみ造影されていて全体像がつかみ

にくい.

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        図3 MRV後面像と静脈造影像(症例17)

MRV:左写真(大腿部).左大腿では大伏在静脈と深部静脈が交差(4)してい

るが交通枝ではない.

MRV :中央写真(膝寫・下腿部).右大伏在静脈は拡張・蛇行し,1本(・-)は

膝部で分岐し,後脛骨静脈およびヒラメ筋静脈へ,下腿下部では4本(4=・)に

分岐し,うち1本はCockett交通枝(-・)として後脛骨静脈に流入する.

静脈造影像(下行性静脈造影):右写真.造影剤が鼠径部より下腿まで大伏在静

脈を逆流し,穿通枝を介して深部静脈へ流入するのがみられる(↑).

めに,呼吸制止下で短時間のスキャンが可能であり,

初期より腹部血管MRAの報告4)が多いが,われわれ

は,これを動脈相・静脈相の別々の映像化のために用

いた.また,撮影時間の長い3D撮像などの高分解画像

においても,比較的短時間の撮像が可能であり,われ

われの下肢MRV5)では,広FOV (Field Of View)の

分解能維持と多方向Viewを再構成するための,奥行

きデータ収集を目的とした撮像パラメータ設定を行う

ことで,従来,困難とされていた6)穿通枝の描出が可

能となった(図2).

 MRVと静脈造影とでは描出された交通・穿通枝数

に有意の差は認められなかったが,症例毎での結果が

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1999年4月 小島ほか:下肢静脈瘤におけるMRV

        図4 MRV正面像と静脈造影像(症例25)

MRV(左写真):右側では大腿部大伏在静脈から分岐する交通枝(4)が認めら

れる.

左側ではDodd穿通枝(4)と交通枝からのびる静脈瘤(-)が認められる.

静脈造影像(右写真):左大腿部大伏在静脈から分岐する静脈瘤と太いDodd

穿通枝(4)が認められるが,中枢側の大伏在静脈が造影されていない(★).

異なったことの理由は,静脈造影では,1)表在静脈相

では径2mm以下といった細い表在静脈まで造影され

るために交通枝の数が多くカウントされる. 2) retro-

spectiveにフィルムを検討する結果,静脈造影は2次

元画像であるので穿通枝と交通枝の判別が不可能であ

り,多くが交通枝としてカウントされる.3)静脈造影

はDynamic examinationであるので穿通枝は逆流が

あり,かつ流量の多い分枝が造影される傾向にあるた

めMRVより穿通枝が少なくカウントされる.さらに,

Dynamicであるが故に検査中でも同一部位の再検観

察が行い難いなど,手技上の拙劣が結果に大きく影響

する, 4) Dynamicであるために穿通枝やSFJ ・ SPJ

といったJunctionや深部静脈の逆流の有無を診断で

きる,ことなどがあげられた.

 これに対して, MRVでは,1)客観的に3次元的に

立体視して観察することが可能であるため,穿通枝の

同定が容易である.2)同一フィルムで観察できるの

で全体像が把握しやすく,個別に静脈瘤造影(varico-

graphy)などの付加検査を行う必要がない. 3) Static

な検査であるので静脈拡張程度はわかるが逆流の有無

が診断できない.4)検査手技によって映像の明瞭度

                         5

371

が左右されない,などが特徴であり,形態学的診断に

関しては, MRVの方が優れていると考えられた

(図3).

 結紫併用硬化療法について,われわれはエコー検査

およびドップラー聴診器にてSFJ/SPJおよび穿通枝

の逆流の有無を確認した後に,逆流の認められるSFJ/

SPJおよび穿通枝の結紫を行い,1週間後に遺残した

瘤内に3%ポリドカノールを注入するといった方法を

行ってきた.穿通枝の結紫適応に関して,静脈径4 mm

以上の穿通枝は弁不全を伴うことが多い7)ため,結紫

の適応とされており, Darkeら8)は,静脈造影で診断さ

れた不全交通枝のうち9%の症例のみが臨床的に意義

があると報告しているが, stasissyndromeや術後再発

の原因9)として不全穿通枝の果たす役割は大きいもの

と考えられ,結紫併用硬化療法における穿通枝処理は

近年,ますます重要性を増している10)われわれの

MRVでは径2mm以上の穿通枝は全例で描出されて

おり,これ以下でも血流の多い穿通枝は描出可能であ

り,穿通枝の描出能はきわめて優れており,結紫を行

うにあたっては必須の検査とも考えられる(図4).

 ただ, SFJやSPJといったJunctionや深部静脈の逆

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372

流の有無や程度の把握が血管系の変化から推測される

のみであることから, MRV施行例では結紫併用硬化

療法を行うにあたっては,術前に逆流程度の把握およ

び位置のマーキングのためにDuplex Scan あるいはエ

コー検査十ドップラー検査が必須ではある.しかし,

エコー検査のみでは,よほど熟練した術者が行わない

限り下肢全体の瘤化した表在静脈の把握は困難であり,

日血外会誌 8巻3号

          文 献

1)西村直二郎,武尾和浩,清水公治他:MRI装置の

  臨床ソフトウェアVI.島津評論,53 : 153- 157,

  1996.

2) Prince, M.R・,Narasimham, D.L・,Stanley, J. C.

  et al.:Breath-hold Gadlinium-enhanced MR

  angiography of the abdominal aorta and its major

  branches. Radiology, 197 : 785-792, 1995.

的確に把握していない場合は術後瘤内血栓が生じたり’ 3)

かえって増大するような症例もみられる. MRVでは

位置・性状が客観的に把握できるため,的確に瘤化し

た表在静脈の処理が行いうるものと期待され,治癒率

の向上・手技の安定化に向けて,いわゆる“MRV ori-

ented venous ligation”ともいえる術式を提唱したい.

今後, MRVは下肢静脈瘤診断・治療に際して第1選

択になりうるものと考えられた.

          結  語

 l)下肢静脈瘤症例にMRVを施行した結果,交通

枝・穿通枝が鮮明に描出され,全体像の把握も容易で

あった.

 2) MRVは,形態学的検査であるため逆流の有無を

把握することはできないため,結紫併用硬化療法を行

うに際してはDuplex Scanが必須である.

 3) MRVでは,径2mm以上の交通枝・穿通枝が描

出可能であるため,いわゆる“MRV oriented venous

ligation”ともいえる術式が下肢静脈瘤の治癒率向上

に寄与するものと考えられた.

 4) MRVはDuplex Scan とともに,下肢静脈瘤診断

において第】選択になりうるものと考えられた.

天沼 誠,田村綾子,渡辺恒也他:Gd-DTPA持

続静注を用いた骨盤,下肢動脈の3次元MR

angiography.日磁医誌,16:13-21,1996.

4)天沼 誠,長谷川真,榎本京子他:Gd-DTPAを

  用いた呼吸停止下大動脈の三次元MR angiogra-

  phy.日本医放会誌,54 : 1352- 1358, 1994.

5)白石友邦,新貝欣久,池田茂樹他:下肢静脈疾患

  におけるMR Venography. 映像情報(M),28:

  1449-1454, 1996.

6)田島なつき,保坂純郎,伊藤公―郎他:下肢静脈

  瘤のMRA.日磁医誌,15: 203-211, 1995.

7) Phillips,G. W. L. and Cheng, L. S.:The value of

  ultrasound in the assessment of imcompetent

  perforating veins. Austaralas. Radio!・, 40 : 15-18,

  1996.

8) Darke, S. G. and Penfold, C.:Venous ulceration

  and saphenous ligation.Eur. J. Vase. Surg・,6: 4-

  9, 1992.

9)新本春夫,重松 宏,武藤徹一郎他:下肢静脈造

  影における穿通枝描出の試み.静脈学,3: 6フ-73,

1992.

10) Kanter, A・, Gardner, M. and Isaacs, M.:Iden-

   tificationof arteriovenous anastomoses by duplex

   ultrasound. Implications for the treatment of

   varicose veins. Dermatol. Surg・,21: 885-889,

   1995.

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1999年4月 小島ほか: 下肢静脈瘤におけるMRV

Evaluation of Leg Varicose Veins by MR Venography

373

Yoshifumi Kojima1, Tomokuni Shiraishi2,Mitsuru Taira1, Atsushi Imamura3,

Hitoshi Yamada3, Masafumi Okuno3 and Yasuo Kamiyama3

1 Department of Surgery,Kansai Medical University,Kohri Hospital

2 Department of Radiology, Kansai Medical University,Kohri Hospital

3 FirstDepartment of Surgery,Kansai Medical University

Key words: Varicose veins,MRA, MR venography

Preoperative evaluation was conducted on 30 patients with leg varicose veins by MR venography

(MRV), and compared with conventional venography, MR images were performed by the 3D-SMASH

Method. Compared with venography, MRV could more clearly demonstrate leg varicose veins with

perforating veins than venography. It could detected fine varicose veins more than 2 mm in diameter, and

deep veins.Furthermore, 3D observation enables accurate detection of the location of perforating vein.In

conclusion, MRV is useful for the diagnosis of leg varicose vein. (Jpn. J. Vase. Surg., 8: 367-373, 1999)