規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 ·...

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生命保険論集第 185 号 147規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 (久留米大学 准教授) 1.はじめに 2.生命保険業における規制緩和(1990年代半ば以降を中心に) 3.生命保険市場の構造変化 4.生命保険会社のマーケティング活動の変化 5.おわりに 1.はじめに 日本では、戦後長らく許認可およびそれに関連する行政指導などの 手段により、国民・事業者を直接規制する行政、すなわち「事前規制 型」行政が行われた。生命保険業に関しても、産業全体の安定性を優 先することを政策課題と位置付けられ、商品や価格に関する認可制な どに代表される護送船団行政が展開されてきた。それにより「同一商 品同一価格」原則が形成され、大手生保企業を中心に、似通った商品 を同じ価格で女性営業職員チャネルを通して販売する横並びのマーケ ティングを展開した。その結果、販売チャネルの拡大に奔走した企業 がマーケットシェアを伸ばし、生命保険市場における上位企業の集中 度が高まった。しかし、1990年代以降の世界経済のグローバリゼーシ ョンの流れの中で、従来の直接規制から、市場規律を重視し、公正・

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Page 1: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

生命保険論集第 185 号

―147―

規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

金 瑢

(久留米大学 准教授)

1.はじめに

2.生命保険業における規制緩和(1990年代半ば以降を中心に)

3.生命保険市場の構造変化

4.生命保険会社のマーケティング活動の変化

5.おわりに

1.はじめに

日本では、戦後長らく許認可およびそれに関連する行政指導などの

手段により、国民・事業者を直接規制する行政、すなわち「事前規制

型」行政が行われた。生命保険業に関しても、産業全体の安定性を優

先することを政策課題と位置付けられ、商品や価格に関する認可制な

どに代表される護送船団行政が展開されてきた。それにより「同一商

品同一価格」原則が形成され、大手生保企業を中心に、似通った商品

を同じ価格で女性営業職員チャネルを通して販売する横並びのマーケ

ティングを展開した。その結果、販売チャネルの拡大に奔走した企業

がマーケットシェアを伸ばし、生命保険市場における上位企業の集中

度が高まった。しかし、1990年代以降の世界経済のグローバリゼーシ

ョンの流れの中で、従来の直接規制から、市場規律を重視し、公正・

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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透明な取引の枠組みやルールに基づく「事後チェック型」の間接規制

への転換が進められ、保険業界においても1995年保険業法改正を機に、

規制緩和が進むようになった。

本研究では、規制緩和が生命保険業にどのような影響を与えたのか

を、産業組織論のアプローチを用いて検証することを目的としてい

る1)。そのためにまず、1995年保険業法の抜本改正から近年までの、

生命保険業における規制の動向を参入規制、販売規制および価格規制

を中心に概観する。次に、規制緩和後の生命保険市場の変化について、

集中率およびハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)といった市場

構造の指標を用いて分析する。さらに、価格戦略、商品戦略および販

売チャネル戦略といった生命保険会社のマーケティング活動がどのよ

うに変化したのかを考察する。

2.生命保険業における規制緩和(1990年代半ば以降を中心に)

ここでは、1995年保険業法改正から近年までの参入、販売および価

格に関する主な規制緩和について考察する。

①参入(業務)規制

まず、1995年保険業法の抜本改正により、生損保の子会社方式によ

る相互参入が可能となった。これを受けて、1996年10月に損保会社11

社が生保子会社を設立した。

次に、第三分野(傷害、疾病、介護保険)については、2001年1月に

大手生保会社と損保会社の生保子会社の参入が解禁された。

②販売規制

まず、1995年保険業法改正により、保険仲立人(ブローカー)制度が

1)規制緩和後(1990年代半ば以降)の生命保険産業の効率性や生保会社の生産

性について、計量分析を行った研究として、柳瀬・播磨谷(2009)などがある。

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生命保険論集第 185 号

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導入され、生保募集人の一社専属制の見直しが実施されることとなっ

た。生保募集人のうち、一定の資格を持つ代理店が2社以上の生保会

社の代理店として販売することが可能となった。

次に、銀行等における保険の販売(いわゆる銀行窓販)が2001年4月

から段階的に解禁され、2002年10月から個人年金保険など、2005年12

月から一時払終身保険、一時払養老保険および保険期間10年以下の平

準払養老保険など、2007年12月からすべての保険商品が販売できるよ

うになった。

③価格規制

まず配当については、1996年の新保険業法の施行により、配当申請

書が配当届出書となり認可から外れるようになった。また、80%以上

という配当比率規制が2002年から20%に引き下げられた。

次に、保険料については、2006年4月から基礎書類で事業費を記載

しなくてもよくなったことから、付加保険料が保険商品の認可対象か

ら外れ、事後的なモニタリング制度に移行した。これを受けて、2008

年にネット販売専門の生命保険会社が2社誕生した。

3.生命保険市場の構造変化

市場構造を測定する指標として、集中率、ハーフィンダール・ハー

シュマン指数(HHI)などがあるが、以下では、これら2つの指標を用い

て規制緩和後の生命保険市場の変化について考察する。

3-1 集中率(concentration ratio)指標を用いた分析

(1) 保険料収入

保険料収入については、公表されているデータが全保険(個人保険、

個人年金、団体保険および団体年金などの合計)と個人保険の2つに区

分されているため、全保険と個人保険に分けて集中率を分析した。表

1は、全保険に関して、1991年から2011年までの5年ごとのマーケッ

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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トシェア上位10社をまとめたものである。表2は、上位企業の累積集

中度を示したものである。2つの表から次のようなことが明らかにな

った。①1996年改正保険法の施行に伴って、損害保険会社による生命

保険市場への参入が多数みられたが、1996年と2001年の上位企業の集

中度は1991年のそれよりも高いので、新規参入により市場が競争的に

なったという現象は見られなかった。②2001年の上位1社、3社および

4社の集中度が最も高い。1997年から2000年まで国内企業7社が経営

破たんし、その後外資系企業に買収され営業再開となったが、マーケ

ットシェアを国内大手企業をはじめとする他社に奪われた結果となっ

た。③2002年10月に銀行等の金融機関における個人年金の販売が解禁

され、銀行窓販に積極的に取り組んだ企業がマーケットシェアを大き

く伸ばした。たとえば、2006年にアリコ(現在のメットライフアリコ)

と東京海上日動フィナンシャル(旧スカンディア)がそれぞれ第5位と

6位となった。④簡易生命保険の民営化により誕生したかんぽが2011

年保険料収入においてトップとなった。多くの国内大手企業のマーケ

ットシェアが低下している中で、銀行窓販にいち早く力を入れた明治

安田がシェアを伸ばした。

表1 上位企業のマーケットシェア(保険料収入)

1991年 1996年 2001年 2006年 2011年

① 日本 15.7 日本 19.7 日本 22.1 日本 17.5 かんぽ 19.1

② 第一 14.1 第一 13.0 第一 15.8 第一 11.9 日本 14.9

③ 住友 12.5 住友 11.4 住友 11.4 住友 10.6 明治安田 14.4

④ 明治 8.9 明治 8.4 明治 8.9 明治安田 9.3 第一 8.5

⑤ 朝日 6.7 朝日 6.5 安田 5.4 アリコ 5.0 住友 7.2

⑥ 三井 5.9 三井 6.1 朝日 4.2 東京海上日動フィナンシャル 4.0 アフラック 4.8

⑦ 安田 5.4 安田 5.0 大同 4.1 アフラック 3.9 アリコ 3.8

⑧ 太陽 4.4 太陽 4.3 三井 4.0 大同 3.1 太陽 2.5

⑨ 東邦 4.2 大同 4.1 太陽 4.0 三井 2.9 ジブラルタ 2.5

⑩ 千代田 3.5 千代田 2.9 アフラック 3.1 富国 2.6 ソニー 2.3

(注①:単位は%である。 ②:保険料収入は、個人保険、個人年金、団体保険および団体年金などの合計である。) 出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

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生命保険論集第 185 号

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表2 上位企業の累積集中度(保険料収入)

累積集中度 1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

CR1 15.7 19.7 22.1 17.5 19.1

CR3 42.3 44.1 49.2 39.9 48.5

CR4 51.2 52.5 58.1 49.2 57.0

CR5 57.9 59.0 63.5 54.1 64.2

CR8 73.6 74.3 75.9 65.1 75.3

CR10 81.3 81.3 82.9 70.6 80.1

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

次に、個人保険分野における集中度をまとめたのが表3と表4であ

る。2001年以降上位1社、3社および4社の集中度が低下したこと、

外資系企業がマーケットシェアを伸ばし、2011年に3社が上位10社の

中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと

が分かる。

表3 個人保険における上位企業のマーケットシェア(保険料収入)

1991年 1996年 2001年 2006年 2011年

① 日本 16.1 日本 19.6 日本 20.3 日本 18.1 明治安田 16.3

② 第一 15.5 第一 15.0 第一 13.8 第一 12.2 日本 13.2

③ 住友 13.1 住友 11.8 住友 11.4 住友 9.4 かんぽ 12.7

④ 明治 8.2 明治 7.2 明治 7.1 明治安田 8.6 第一 8.5

⑤ 朝日 6.6 朝日 5.3 アフラック 5.0 アフラック 6.9 住友 8.0

⑥ 三井 5.8 太陽 5.0 朝日 4.5 アリコ 5.0 アフラック 7.3

⑦ 太陽 5.6 三井 4.7 太陽 4.4 大同 4.2 メットライフアリコ 4.5

⑧ 安田 4.5 安田 3.9 大同 4.1 ソニー 3.9 ソニー 3.6

⑨ 協栄 3.3 大同 3.8 三井 4.0 三井 3.3 大同 2.7

⑩ 大同 3.0 アフラック 3.1 安田 3.8 太陽 3.2 プルデンシャル 2.2

(注:単位は%である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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表4 個人保険における上位企業の累積集中度(保険料収入)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

CR1 16.1 19.6 20.3 18.1 16.3

CR3 44.7 46.4 45.5 39.7 42.2

CR4 52.9 53.6 52.6 48.3 50.7

CR5 59.5 58.9 57.6 55.2 58.7

CR8 75.4 72.5 70.6 68.3 74.1

CR10 81.7 79.4 78.4 74.8 79.0

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

さらに、生命保険企業の業績を表す指標の一つとして、年換算保険

料2)が2004年度頃から公表されるようになった。当初は第三分野(医療

保険など)の数字のみが公表されていたが、翌2005年度以降は個人保険

と個人年金といった個人分野における新契約および保有契約の年換算

保険料が公表されるようになった。以下では、2005年以降の個人分野

における新契約の年換算保険料に関して集中度を分析する。

表5と表6はそれぞれ年換算保険料に関して、個人分野における上

位企業のマーケットシェアと累積集中度をまとめたもので、①2005年

から2007年にかけて個人分野における集中度が低下傾向にあったが、

その後簡易生命保険の民営化によって誕生したかんぽの市場参入によ

り上位企業のマーケットシェアが上昇したこと、②保険の銀行窓販の

段階的な解禁に伴い、2008年度頃までは、個人年金の銀行窓販に注力

した生保企業のマーケットシェアの伸びが著しかったが(たとえば、三

井住友海上メットライフやアリコなど)、その後一時払終身保険の新契

2)年換算保険料は、一時払や月払など、払込方法が異なる保険料収入を1年

あたりに換算した金額で、月払なら12回を乗じて求めるが、一時払の場合は、

保険料を保険期間で除して求める。

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生命保険論集第 185 号

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約販売が急増した生保企業が上位を占めるようになった(たとえば、明

治安田や日本など)ことが、明らかになった。

表5 個人分野(個人保険+個人年金)における上位企業のマーケットシェア(年換算保険料)

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年

① 日本

13.3

三井住友海上メットライフ

13.5

三井住友海上メットライフ

13.8

かんぽ

20.7

かんぽ

19.5

かんぽ

24.7

かんぽ

22.9

② 住友

10.2

日本

11.5

日本

8.9

三井住友海上メットライフ

11.0

マスミューチュアル

9.1

日本

8.3

明治安田

9.5

③ アリコ

9.9

住友

8.2

かんぽ

7.5

日本

9.6

日本

7.7

明治安田

7.5

日本

9.3

④ 第一

8.1

アリコ

7.1

住友

6.9

住友

6.3

住友

7.2

第一

7.3

第一

5.2

⑤ アフラック

5.2

第一

7.0

アリコ

6.5

第一

4.4

三井住友海上メットライフ

7.2

住友

6.4

メットライフアリコ

5.2

⑥ ハートフォード

4.7

東京海上日動フィナンシャル

4.5

第一

5.6

アリコ

4.4

明治安田

5.9

アリコ

4.6

住友

4.8

⑦ 明治安田

4.0

マスミューチュアル

4.4

マスミューチュアル

4.6

明治安田

4.1

大同

5.3

アフラック

3.9

アフラック

4.1

⑧ 大同

4.0

明治安田

4.3

明治安田

4.1

アフラック

3.4

第一

4.9

三井住友海上メットライフ

3.9

三井住友海上プライマリー

3.7

⑨ アクサ

3.7

アフラック

3.9

アフラック

4.0

マスミューチュアル

3.1

アフラック

3.2

アクサ

2.6

アクサ

3.0

⑩ ソニー

3.0

大同

3.5

ING

4.0

ING

2.3

アクサ

3.0

ソニー

2.5

ジブラルタ

2.6

(注①:単位は%である。

②:かんぽ生命の2007年度の数値は2007年10月1日~2008年3月31日の合計である。

出典:各社決算資料より作成。

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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表6 個人分野(個人保険+個人年金)における上位企業の累積集中度(年換算保険料)

2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年

CR1 13.3 13.5 13.8 20.7 19.5 24.7 22.9

CR3 33.4 33.2 30.2 41.3 36.3 40.5 41.7

CR4 41.5 40.3 37.1 47.6 43.5 47.8 46.9

CR5 46.7 47.3 43.6 52.0 50.7 54.2 52.1

CR8 59.4 60.5 57.9 63.9 66.8 66.6 64.7

CR10 66.1 67.9 65.9 69.3 73.0 71.7 70.3

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。

③:かんぽ生命の2007年度の数値は2007年10月1日~2008年3月31日の合計である。

出典:生命保険会社各社決算資料より作成。

(2) 保有契約高

次に、保有契約高に関して、個人保険、団体保険および両者の合計

における集中度について分析する。

表7と表8はそれぞれ個人保険市場における上位10社のマーケット

シェアと累積集中度をまとめたもので、2つの表から次のようなこと

が明らかになった。①上位3社のシェアが低下傾向にある一方、中堅

(または準大手)の大同、ソニーやプルデンシャルがシェアを伸ばして

いる。②上位企業の集中度はほぼ一貫して低下しており、個人保険市

場における競争が激しくなってきたことが分かる。

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生命保険論集第 185 号

―155―

表7 個人保険における上位企業のマーケットシェア(保有契約高)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

① 日本 23.8 日本 23.1 日本 23.0 日本 21.7 日本 18.8

② 第一 16.4 第一 16.4 第一 17.0 第一 17.1 第一 16.0

③ 住友 15.2 住友 15.0 住友 14.9 住友 13.7 住友 11.9

④ 明治 8.9 明治 9.2 明治 9.1 明治安田 12.1 明治安田 10.3

⑤ 朝日 6.9 朝日 5.6 朝日 5.6 朝日 4.3 ソニー 4.1

⑥ 三井 5.6 三井 5.3 安田 5.3 三井 3.9 大同 4.0

⑦ 安田 5.4 安田 5.3 三井 4.7 大同 3.7 ジブラルタ 3.6

⑧ 協栄 3.2 協栄 3.4 大同 3.0 富国 3.2 朝日 3.3

⑨ 千代田 3.0 千代田 3.0 富国 2.8 ソニー 2.9 プルデンシャル 3.3

⑩ 大同 2.5 大同 2.5 ジブラルタ 2.1 プルデンシャル 2.4 富国 3.0

(注:単位は%である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

表8 個人保険における上位企業の累積集中度(保有契約高)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

CR1 23.8 23.1 23.0 21.7 18.8

CR3 55.4 54.5 55.0 52.4 46.7

CR4 64.3 63.8 64.1 64.6 56.9

CR5 71.2 69.4 69.7 68.9 61.1

CR8 85.3 83.4 82.7 79.7 72.0

CR10 90.8 88.9 87.6 85.1 78.2

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

表9と表10は団体保険市場の状況をまとめたもので、①2003年明治

と安田の合併により誕生した明治安田のシェアが高く約30%となって

おり、個人保険よりも団体保険において合併による規模の経済性が大

きかったこと、②団体保険市場の集中度はほぼ一貫して上昇しており、

また、個人保険市場のそれより高いことが分かった。

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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表9 団体保険における上位企業のマーケットシェア(保有契約高)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

① 日本 16.4 日本 16.7 日本 18.6 明治安田 29.1 明治安田 29.5

② 第一 12.2 第一 11.7 安田 17.4 日本 22.6 日本 24.7

③ 明治 11.7 明治 11.5 明治 13.0 第一 14.5 第一 13.7

④ 住友 11.5 安田 11.2 第一 12.9 住友 9.2 住友 8.8

⑤ 安田 9.9 住友 10.3 住友 10.0 三井 3.9 富国 4.3

⑥ 三井 6.8 三井 6.5 三井 5.7 富国 3.8 三井 3.8

⑦ 朝日 5.8 朝日 5.9 富国 3.2 大同 3.2 太陽 2.8

⑧ 日本団体 3.9 千代田 3.9 アクサグループライフ 3.0 太陽 2.7 カーディフ 2.7

⑨ 千代田 3.8 日本団体 3.7 朝日 3.0 アクサ 2.0 大同 2.4

⑩ 協栄 3.6 協栄 3.3 大同 2.9 AIG エジソン 1.2 三井住友あいおい 1.4

(注:単位は%である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

表10 団体保険における上位企業の累積集中度(保有契約高)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

CR1 16.4 16.7 18.6 29.1 29.5

CR3 40.4 39.9 49.0 66.2 67.8

CR4 51.8 51.1 61.9 75.4 76.6

CR5 61.7 61.4 71.9 79.3 80.9

CR8 78.2 77.7 83.9 89.0 90.2

CR10 85.6 84.7 89.8 92.2 93.9

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

個人保険と団体保険の合計について、上位企業のマーケットシェア

と累積集中度をまとめたのが表11と表12で、次のようなことが明らか

になった。①保険料収入よりも保有契約高において、上位企業の集中

度が高く、上位3社のマーケットシェアの合計が50%を超えた。②商

品ポートフォリオにおける保障性商品(死亡保障)の割合が高い国内企

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生命保険論集第 185 号

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業のシェアが高い3)。

表11 上位企業のマーケットシェア(保有契約高)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

① 日本 21.6 日本 21.3 日本 22.0 日本 21.9 日本 20.5

② 第一 15.1 第一 15.1 第一 16.0 明治安田 16.6 明治安田 16.0

③ 住友 14.1 住友 13.7 住友 13.7 第一 16.4 第一 15.3

④ 明治 9.8 明治 9.9 明治 10.1 住友 12.5 住友 10.9

⑤ 安田 6.7 安田 7.0 安田 8.3 三井 3.9 大同 3.5

⑥ 朝日 6.5 朝日 5.7 朝日 5.0 大同 3.6 富国 3.4

⑦ 三井 6.0 三井 5.7 三井 5.0 朝日 3.4 三井 3.1

⑧ 協栄 3.3 協栄 3.3 大同 3.0 富国 3.4 ソニー 3.0

⑨ 千代田 3.2 千代田 3.3 富国 2.9 ソニー 2.2 ジブラルタ 2.9

⑩ 大同 2.6 大同 2.7 ジブラルタ 1.9 プルデンシャル 1.8 朝日 2.4

(注:単位は%である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

表12 上位企業の累積集中度(保有契約高)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

CR1 21.6 21.3 22.0 21.9 20.5

CR3 50.8 50.0 51.7 55.0 51.8

CR4 60.6 59.9 61.7 67.5 62.8

CR5 67.3 66.9 70.0 71.4 66.3

CR8 83.1 81.6 82.9 81.7 75.8

CR10 88.9 87.5 87.7 85.7 81.1

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

3)主要会社の新契約の商品構成については表17を参照されたい。

Page 12: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

―158―

(3) 総資産

総資産に関して、上位企業のマーケットシェアおよび累積集中度を

まとめたものが表13と表14であり、2つの表から次のようなことが明

らかになった。①上位5社までの累積集中度はほぼ上昇傾向にあると

いえる。②簡易生命保険の民営化、外資系企業の業績好調などを背景

に、国内企業はシェアを大きく落としている。

表13 上位企業のマーケットシェア(総資産)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

① 日本 20.6 日本 21.3 日本 24.6 日本 23.5 かんぽ 28.7

② 第一 14.4 第一 14.9 第一 16.2 第一 15.3 日本 15.6

③ 住友 12.6 住友 12.4 住友 12.5 明治安田 12.2 第一 9.6

④ 明治 8.7 明治 8.9 明治 9.3 住友 10.6 明治安田 9.1

⑤ 朝日 6.7 朝日 6.4 安田 5.3 三井 3.7 住友 7.3

⑥ 三井 5.4 三井 5.4 三井 4.5 アリコ 3.0 ジブラルタ 2.6

⑦ 安田 4.7 安田 4.9 朝日 4.2 太陽 3.0 アフラック 2.4

⑧ 千代田 3.9 太陽 3.6 太陽 3.7 大同 2.9 メットライフアリコ 2.3

⑨ 太陽 3.6 千代田 3.1 大同 3.3 朝日 2.9 三井 2.2

⑩ 東邦 3.6 協栄 3.0 富国 2.6 富国 2.7 太陽 1.9

(注:単位は%である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

表14 上位企業の累積集中度(総資産)

1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年

CR1 20.6 21.3 24.6 23.5 28.7

CR3 47.6 48.5 53.2 51.0 53.9

CR4 56.3 57.4 62.5 61.5 63.0

CR5 63.0 63.8 67.8 65.2 70.3

CR8 77.1 77.7 80.1 74.1 77.6

CR10 84.3 83.8 86.0 79.6 81.7

(注①:単位は%である。

②:CR○は、上位○社のマーケットシェアの合計を指す。

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

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生命保険論集第 185 号

―159―

3-2 ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)による分析

ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)は、個別事業者ごとに

当該事業者の事業分野占拠率(%)を二乗した値を計算し、これを当該

品目に係る全事業者について合計したものであり、その算出式は次の

とおりである4)。

Ci:i番目の事業者の事業分野占拠率(%) n:事業者数

以下では、保険料収入、保有契約高および総資産の3項目に関して、

1991~2011年の5年ごとの生命保険産業のHHIを算出し、検討を行う。

計算するにあたって、保険料収入については、前述したように、公表

されている統計データが全保険と個人保険の2つに区分されているた

め、個人保険分野と全保険分野ごとにHHIを算出した。保有契約高につ

いては、個人保険、団体保険および両者の合計ごとにHHIを算出した。

表15は計算結果をまとめたものである。個人保険については、HHIが低

下傾向にあることから、市場が競争的になりつつあるといえるが、団

体保険の場合、逆に集中の度合いが高まった結果となっている。

4)公正取引委員会HPより引用。

HHI=

Page 14: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

―160―

表15 生命保険産業のHHI

1991 年 1996年 2001年 2006年 2011年

保険料収入

個人保険 938 974 935 814 865

全保険 899 963 1,086 817 1,000

保有契約高

①個人保険 1,288 1,242 1,239 1,185 974

②団体保険 935 925 1,167 1,710 1,803

①と②の合計 1,155 1,123 1,176 1,257 1,120

総資産 1,033 1,060 1,219 1,131 1,341

企業数 30 44 40 38 43

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

4.生命保険会社のマーケティング活動の変化

4-1 販売規制の変化がチャネルに与えた影響

(1) 契約者の加入チャネルの変化

図1は、生命保険文化センターが3年ごとに実施している『生命保

険に関する全国実態調査』の「直近加入契約(民保)の加入チャネル」

の結果をまとめたものである。営業職員は依然として主力チャネルで

あるが、2012年の数値は1991年のそれより2割以上減少した。一方、

代理店(保険代理と銀行・証券会社)と通信販売経由の加入が増加した。

Page 15: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

生命保険論集第 185 号

―161―

1991 1994 1997 2000 2003 2006 2009 2012

その他 5.5 6.5 5.7 9.0  7.7 9.1 11.2 8.7

勤務先 6.4 5.2 3.0  3.2

保険代理店 3.4 2.9 4.0  8.8 6.7 7.0  6.4 6.9

銀行・証券会社 1.5 1.9 1.2 1.3 1.7 3.3 2.6 4.2

通信販売 0.3 0.7 0.6 3.3 5.7 9.1 8.7 8.8

営業職員 89.3 88.0  88.5 77.6 71.8 66.3 68.1 68.2

0102030405060708090

100図1 生命保険の加入チャネル

(注①:単位は%である。

②:「通信販売」は、「インターネット」と「テレビ・新聞・雑誌など」の合計である。

出典:生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査』各年版より作成。

(2) 営業職員と代理店

次に、大手企業の主力チャネルである営業職員と、近年増加した代

理店について検討する。

図2と図3はそれぞれ、営業職員数、代理店数および代理店登録募

集人数の推移を表したものである。営業職員は1990年代以降減少し続

けており、2011年の人数は1991年の約4割程度となった。一方、代理

店は増加傾向であり、とりわけ保険の銀行窓販が解禁されて以降、登

録募集人が急増した。その結果、銀行窓販による保険販売が増え、営

業職員を主力チャネルとして位置づける大手企業の中に、銀行窓販チ

ャネルの保険料収入が営業職員のそれを上回るようになった会社が現

れた5)。

5)たとえば、明治安田の2011年度決算説明資料によると、販売チャネルごと

の保険料収入は次のようである。2011年度の場合、営業職員15,931億円、銀

行窓販24,589億円で、2010年度の場合、営業職員14,014億円、銀行窓販15,135

億円である。また、新契約年換算保険料についても、銀行窓販チャネルが営

営業職員

保険代理店

通信販売

勤務先

銀行・証券会社

その他

Page 16: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

―162―

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000図2 営業職員数の推移

営業職員数 実動営業職員数

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

180,000

200,000

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

4,000,000

5,000,000

6,000,000

7,000,000

8,000,000

9,000,000

10,000,000

1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

代理店数

登録募集人数

図3 生保代理店と登録募集人の推移

代理店数 募集代理店登録募集人

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

業職員チャネルを上回った。

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生命保険論集第 185 号

―163―

(3) 販売チャネルの効率性

以下では、1991~2011年の統計データを用いて、主要企業における

販売チャネル(営業職員、代理店登録募集人)と事業費6)、保険料収入、

保有契約高の相関関係を分析することにより、販売チャネルの効率性

について検討する(相関係数をまとめたのが表16である)。

まず事業費との相関については、①従来営業職員を主力チャネルと

する企業のうち、保険の銀行窓販解禁を機に代理店を大幅に増やした

企業では、代理店登録募集人数と事業費の間に逆相関(負の相関)が確

認された。②第一、日本、明治安田、住友および三井の場合、高い逆

相関がみられたが、富国ではほとんど相関がない結果となった。③代

理店を主な販売チャネルとする企業の場合、大同では逆相関が確認さ

れたが、メットライフアリコとアフラックでは高い正相関となってい

る。④営業職員を主力チャネルとする大手企業は、販売チャネルの多

様化により事業費を削減することができたと思われる。

次に保険料収入との相関については、①第一、朝日、三井、住友、

太陽、大同、ソニー、プルデンシャルおよびメットライフアリコにお

いて、営業職員(実動営業職員)と保険料収入との間に高い相関が確認

された。日本の場合、弱い逆相関が確認された。1990年代以降営業職

員が増加したソニー、プルデンシャルおよびメットライフアリコでは

保険料収入が増大したのに対して、営業職員チャネルが縮小した国内

企業では保険料収入が減少した。②代理店登録募集人と保険料収入と

の間に高い相関が確認されたのはメットライフアリコ、アフラックと

ソニーのみであった。第一、三井、住友、大同においては高い逆相関

が確認された。ただし、多くの国内企業が銀行窓販における一時払終

身保険等の解禁以降銀行窓販に力を入れたことを鑑みて、2006~2011

6)新契約費、販売チャネルの手数料などに関するデータが入手できないため、

事業費を用いた。

Page 18: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

―164―

年の統計データを用いて代理店登録募集人と保険料収入の相関関係を

分析したところ、次のような結果が得られた。明治安田(相関係数0.78)

と太陽(相関係数0.89)では高い相関、日本(相関係数0.49)では中程度

の相関が確認された。一方、富国(相関係数-0.83)では高い逆相関、第

一(相関係数-0.52)ではかなり高い逆相関が確認された。③募集人合

計と保険料収入との間に、高い相関が確認されたのはメットライフア

リコ、アフラックとソニーであった。

最後に、保有契約高との相関については、①第一、日本、朝日、明

治安田、三井、住友、ソニー、プルデンシャル、メットライフアリコ

において営業職員と(実動営業職員)と保有契約高との間に高い相関が

確認されたが、太陽の場合、高い逆相関が確認された。1990年代以降

営業職員が増加したソニー、プルデンシャルおよびメットアリコでは

保有契約高が増大したのに対して、営業職員が減少した国内企業では

保有契約高が減少したこととなった。つまり、営業職員と保有契約高

の関係については、大手を中心とした多くの企業にあっては「営業職

員が増大すればするほど業績(保有契約高)が伸びる」という通説は未

だに当てはまると思われる7)。②代理店登録募集人と保有契約高との

相関については、ソニー、メットライフアリコとアフラックでは高い

相関が確認されたが、第一、日本、明治安田、三井と住友では高い逆

相関が確認された。代理店登録募集人と保険料収入との相関関係を分

析する際と同様の手法を使い、2006~2011年の統計データを用いて、

代理店登録募集人と保有契約高との相関関係を分析したが、1991~

7)米山(1997)は、営業職員に関する通説を、1988年の営業職員数と保有契約

高の統計データを用いた回帰分析によって検討し、大手企業の場合には通説

は妥当するが、中位企業の場合は妥当しないことを明らかにした。また、1958

年から88年までの10年ごとの営業職員数と年末保有契約高のZスコアの散布

図を用いて時系列的な変化について分析を付け加え、両者の相関関係は時代

とともにより強くなる傾向があることを明らかにした。米山(1997)pp.69-77

参照。

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生命保険論集第 185 号

―165―

2011年の統計データを用いた分析結果とほとんど同じであった。

表16 販売チャネルの効率

営業職員

実働営業

職員

代理店登録募

集人②

①と②の

合計

営業職員

実働営業

職員

代理店登録募

集人②

①と②の

合計

営業職員

実働営業

職員

代理店登録募

集人②

①と②の

合計

日本 0.96 0.98 -0.76 -0.74 -0.33 -0.21 -0.26 -0.28 0.76 0.84 -0.93 -0.92

第一 0.98 0.93 -0.84 -0.83 0.76 0.81 -0.90 -0.90 0.77 0.80 -0.89 -0.89

明治安田 0.97 0.98 -0.83 -0.82 0.55 0.58 -0.41 -0.40 0.83 0.85 -0.90 -0.90

住友 0.98 0.98 -0.84 -0.82 0.85 0.87 -0.75 -0.73 0.87 0.89 -0.95 -0.95

三井 0.98 0.99 -0.93 -0.90 0.90 0.94 -0.94 -0.92 0.91 0.95 -0.96 -0.95

朝日 0.99 1.00 -0.43 0.56 0.97 0.98 -0.42 0.54 0.94 0.96 -0.49 -0.45

大同 0.68 0.69 -0.55 -0.53 0.81 0.77 -0.76 -0.75 0.30 0.24 -0.11 -0.10

太陽 0.94 0.91 -0.29 -0.12 0.86 0.91 -0.33 -0.18 -0.74 -0.79 0.64 0.52

富国 0.32 0.44 -0.15 -0.14 0.32 0.53 -0.32 -0.32 -0.13 -0.12 0.43 0.43

ソニー 0.96 0.99 0.77 0.81 0.85 0.93 0.92 0.94 0.87 0.95 0.89 0.92

プルデンシャル 0.99 0.99 0.44 0.99 0.98 0.98 0.53 0.98 1.00 0.99 0.49 1.00

メットライフアリコ 0.97 0.77 0.94 0.94 0.89 0.70 0.84 0.84 0.97 0.77 0.95 0.95

アフラック 0.92 0.92 0.93 0.93 0.94 0.94

事業費との相関関係 保険料収入との相関関係 保有契約高との相関関係

4-2 生保企業の商品構成の変化

以下では、規制緩和後の生保企業の商品戦略について、商品構成の

変化を中心に検討する。

1990年代に入ると、バブル崩壊後の経済停滞による所得の伸び悩み、

少子化と高齢化の同時進行といった人口動態の変化、市場の成熟化、

消費者ニーズの多様化、規制緩和による競争激化など生保企業を取り

巻く環境が大きく変化する中で、従来の契約高拡大至上主義のマーケ

ティング活動に限界が生じ、顧客と長期にわたって良好なリレーショ

ンシップを構築・維持するための顧客志向のマーケティング活動を展

開する必要性を認識する会社が増え始めた。たとえば、明治(当時)は、

2000年に「ライフアカウントL.A.」(積立利率変動型終身保険)という

商品を開発し、顧客側にとっては自分のライフステージに合わせて少

ない負担で保障の見直しができること、企業側としては顧客との長期

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

―166―

的な取引によって安定的な収益の向上を実現することを、目指そうと

したのである。これを機に、他社においても類似の保険商品が開発さ

れ8)、顧客との関係性構築の重要性が多くの生保企業に認識されるよ

うになった。

次に、1990年代以降の生命保険新契約(個人保険)の推移についてみ

てみよう。図4の保険種類別新契約件数では、医療保険が増えつつあ

り、銀行窓販が解禁されてからはそれまでは減少傾向にあった終身保

険が増加した。図5の保険種類別新契約高をみると、1995年までは個

人保険新契約高に占める割合が最も高い商品は終身保険であったが、

その後定期付終身保険が主力商品となり、2001年以降は定期保険、終

身保険、定期付終身保険、利率変動型終身保険が上位を占めるように

なった。

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

14,000,000

16,000,000

1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

図4 保険種類別新契約件数

(注:単位は件である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

8)たとえば、2001年に発売された住友の「LIVE ONE(スミセイ総合生活口座

『ライブワン』)、朝日の「保険王」、三井の「ザ・ベクトル」、第一の「堂堂

人生『保険工房』」などである。

終身

養老

定期

利率変動型終身

医療

定期付終身

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生命保険論集第 185 号

―167―

0

20,000,000

40,000,000

60,000,000

80,000,000

100,000,000

120,000,000

140,000,000

160,000,000

1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

図5 保険種類別新契約高

(注:単位は百万円である。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

最後に、主要企業の商品構成について検討する。表17は2011年度に

おける主要企業の個人保険種類別新契約件数の占有率をまとめたもの

である。この表から次のようなことが明らかになった。①明治安田、

第一、日本、住友など銀行窓販に積極的に取り組む大手企業において、

終身保険の販売が増加した。とりわけ明治安田の場合、新契約件数の

約6割を終身保険が占めている。②医療保険や介護保険については、

国内企業の間で戦略の違いがみられた。

終身

養老

定期

利率変動型終身 定期付終身

Page 22: 規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察 · 中に入ったことなどから、個人保険分野における競争が激化したこと が分かる。

規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

―168―

表17 主要生保会社の個人保険種類別新契約件数の占有率(2011年度)

終身定期付

終身

積立利

率変動

型終身

定期 養老定期付

養老医療 介護 その他

日本 23.3 33.6 10.4 3.1 9.2 0.9 11.7 7.8

第一 35.7 24.3 3.9 8.6 19.7 7.8

明治安田 58.2 13.8 16.7 1.3 1.0 5.3 3.6

住友 20.4 37.7 16.4 0.9 1.8 0.1 16.9 5.8

三井 22.6 1.7 55.5 1.8 3.0 11.1 4.3

朝日 5.0 22.5 20.1 0.4 45.9 4.0 2.1

大同 4.7 75.3 5.1 15.0

太陽 0.6 4.0 13.4 25.2 14.4 42.5

富国 2.4 0.6 1.6 0.3 57.8 22.2 15

ソニー 22.6 13.2 6.5 27.6 6.0 24.2

プルデンシャル 29.5 20.4 0.4 16.4 0.6 33.3

メットライフアリコ 24.5 6.5 0.9 67.4 0.7

アフラック 10.7 1.9 0.1 77.6 9.6 (注①:単位は%である

②:三井の場合、転換契約が含まれている。)

出典:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年版より作成。

4-3 価格戦略―規制緩和により価格競争が行われたのか?

生保企業の価格戦略については、保険料と配当の2つの側面から考

察する必要がある。

まず保険料についてみてみよう。バブル崩壊後の経済低迷に伴う可

処分所得の低下の状況を受けて、顧客の保険料負担の軽減などといっ

た価格戦略の重要性がますます高まった。そこで、5年ごと利差配当

付保険を開発し、利差配当のみを5年ごとに分配することで保険料を

低廉にしたことや、配当を行わないことを条件に保険料をより低廉に

した無配当保険の発売、健康状態などによって保険料の割引を行なう

リスク細分型保険の発売、一定基準以上の高額契約に対して保険料を

割り引く制度の導入等が実施された。1999年には顧客囲い込み戦略と

して、契約者単位の新たな割引制度を設ける企業が相次いだ9)。

9)たとえば、日本の「ニッセイ保険口座」、第一の「生涯設計ドリームパッケ

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生命保険論集第 185 号

―169―

さらに、2006年4月から付加保険料が自由化となり、ネット販売専

門のライフネットが自社のホームページで保険料の内訳を公表するよ

うになった。これを機に、経済専門誌などでも、生保各社の保険料比

較の記事が誌面を飾るようになり、消費者の生命保険価格への関心が

高まった10)。このような背景のもとで、従来横並びであって生保企業

の保険料水準に格差が出始めた。金融庁が2012年10月に生保会社の保

険料算出の基礎率の1つである予定利率の目安となる標準利率を2013

年4月から1.5%から1.0%に引き下げると決めたことを受け、生保各

社が料率改定を行ったが、その対応に違いがみられた(表18参照)。①

多くの企業が予定利率を引き下げたのに対して、日本は長期定期保険

以外の主力商品については保険料を据え置いた。また、太陽は保障性

商品について料率改定を行わなかった。②一時払終身保険の改定後の

予定利率については、ほとんどの会社が同じ水準を設定したが、平準

払契約においては引き下げ幅に格差が生じた。たとえば、5年ごと利

差配当タイプの商品の場合、第一、三井、朝日および富国の4社は

1.15%に引き下げたのに対して、住友は1.25%に、ソニーは1.6%に引

き下げた。

ージ」、住友の「スミセイライフマイレージサービス」、朝日の「朝日生命サ

ンクスサービス」などがある。

10)たとえば、『週刊ダイヤモンド』2009年3月14日号「まだまだあった! 保

険のムダ〈総点検〉」、『週刊ダイヤモンド』2011年10月8日号「ネット生保誕

生3年で本格化の兆し 生命保険料の仁義なき低価格競争」など。

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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表18 主要生保各社における2013年4月保険料率(予定利率)の改定

平準払契約 一時払契約

毎年配当

5年ごと配当・5年

ごと利差配当・3年

ごと利差配当

無配当 一時払終身 一時払年金

日本

長期定期

1.15%

(1.65%)

据え置き 据え置き 1.0%(1.4%) 0.6%(0.7%)

第一 1.15%

(1.65%)

1.35%

(1.85%)

明治

安田

1.15%

(1.5%)

1.3%(1.65%) 1.5%(1.85%) 一時払退職後

終身1.0%

(1.5%)

住友 1.25%

(1.65%)

1.0%(1.4%) 0.75%(据え

置き)

三井 1.0%(1.5%) 1.15%

(1.65%)

1.35%

(1.85%)

1.0%(1.4%) 0.7%(1.0%)

朝日 1.0%(1.5%) 1.15%

(1.65%)

1.35%

(1.85%)

1.0%

(1.25%)

1.0%(据え置

き)

太陽

保障性商品

1.85%(据え置

き)、貯蓄性商品

1.65%(1.85%)

1.0%(1.3%) 1.0%(1.2%)

富国 1.15%

(1.65%)

1.5%(1.85%) 1.0%(1.4%) 0.9%(1.2%)

ソニー

終身介護1.6%

(1.65%)、学資

1.6%(1.85%)

積立利率変動

型終身1.6%

(2.0%)、養

老・生前給付保

険1.7%

(2.0%)

5年ごと利差

配当付介護

1.0%(1.5%)

メットライ

フアリコ

積立利率変動

型1.0%(1.5

%)、医療1.25

%(1.5%)

アフラック

死亡・こども

1.25%(1.85%)、

3大疾病・介護

1.25%(2.35%)

(注:①カッコ内は改定前の予定利率である。

②日本生命の一時払終身と一時払年金の予定利率の引下げは 2013 年1月1日からで

ある。) 出典:各社HPより作成。

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生命保険論集第 185 号

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次に配当についてみてみよう。井口(1996)は、1960年1月に大蔵

省(当時の監督官庁)が契約者配当の個別化・自由化の方針を打ち出し

た以降、生保企業間の配当格差が徐々に生じるようになったと指摘し

た11)。近年では、2002年から配当比率規制が20%に引き下げられ、各

社間で配当格差が拡大するようになった。図6は主要企業のディスク

ロージャー資料で公表されている利差配当の配当基準利回りをもとに

利差配当率の推移をまとめたものである。図7は利差配当率の最も高

い企業と最も低い企業の差を表したものである。この2つの図からわ

かるように、大手と中堅企業の間だけではなく、大手企業間でも配当

格差が拡大した。

0.00%0.05%0.10%0.15%0.20%0.25%0.30%0.35%0.40%0.45%0.50%0.55%0.60%

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

図6 主要生保会社の利差配当率の推移

日本

第一

住友

明治安田

朝日

大同

太陽

富国

(注:毎年配当タイプ、平準払、予定利率1.5%の個人保険・個人年金

保険契約の利差配当率である。)

出典:各社ディスクロージャー資料より作成。

11)井口(1996)pp.92-94参照。

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0.20%

0.30%

0.40%

0.50%

0.60%

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

図7 主要生保会社の利差配当率の格差

出典:各社ディスクロージャー資料より作成。

5.おわりに

以上、本稿では1990年代半ば以降生命保険業における参入(業務)、

販売チャネル、価格面での規制緩和が生命保険市場、生命保険会社の

マーケティング活動にどのような影響を与えたのかを考察した。論文

を結ぶにあたって、明らかにした分析結果を要約的に述べておきたい。

第一に、生命保険市場の構造変化については、1990年代半ば以降個

人保険分野における上位企業のマーケットシェアやハーフィンダー

ル・ハーシュマン指数(HHI)が低下傾向にあることから、競争的になり

つつあると言えるが、団体保険分野においては集中度が上昇傾向にあ

った。

第二に、生保企業は従来護送船団行政の下で似通った商品を同じ価

格で販売する横並びのマーケティングを展開したが、規制緩和により

各社の戦略に格差が生じるようになった。まず商品戦略については、

大手企業を中心に終身保険や定期終身保険などの死亡保障商品を主力

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生命保険論集第 185 号

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商品と位置付ける企業が多いが、医療保険の取組みに違いがみられる

ようになった。中堅の国内企業の中には、死亡保障中心の商品構成か

ら医療保障中心の商品構成に戦略転換を行った企業が現れた(たとえ

ば、富国)。価格競争については、まず配当においては各社間の格差が

広がりつつあり、保険料の計算基礎率の一つである予定利率について

も各社のスタンスに違いがみられるようになった。

第三に、銀行窓販、ネット販売など生命保険の販売チャネルが多様

化したことである。大手企業の主力販売チャネルは依然として女性営

業職員であるが、銀行窓販経由の保険加入が増え、営業職員チャネル

を通しての保険料収入を上回る大手企業が現れた。また、販売チャネ

ルの効率性を検討するために、主要企業の販売チャネル(営業職員、代

理店登録募集人)と事業費、保険料収入、保有契約高の相関関係を分析

した。その結果、販売チャネルの多様化は、生保企業の事業費削減に

貢献したことが確認できたが、メットライフアリコ、アフラックとソ

ニーを除く多くの企業においては保険料収入と保有契約高の増大をも

たらしていないことが分かった(ただし、銀行窓販に注力した一部の国

内企業では代理店登録募集人の増加は保険料収入の増大をもたらし

た)。

(本稿は、平成24年度生命保険文化センター研究助成金による成果で

ある。ここに記して深く感謝申し上げる。)

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規制緩和が生命保険業に与えた影響に関する一考察

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[参考文献]

井口富夫(1996)『現代保険業の産業組織―規制緩和と新しい競争』NTT

出版

岩瀬大輔(2011)「規制緩和後の生命保険業界における競争促進と情報

開示」日本保険学会『保険学雑誌』第612号

植草益・井手秀樹・竹中康治・堀江明子・菅久修一(2002)『現代産業

組織論』NTT出版

金瑢(2008)「日本における生命保険の銀行窓販に関する一考察」久留

米大学商学会『久留米大学商学研究』第14巻第1号

生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査』各年版

広海孝一(1985)『保険業界』教育社

保険研究所『インシュアランス 生命保険統計号』各年版

水島一也(2006)『現代保険経済(第8版)』千倉書房

柳瀬典由・播磨谷浩三(2009)「規制緩和後の業界再編と生命保険業に

おける効率性変化―確率的フロンティアDistance Functionの

推定によるアプローチ―」生命保険文化センター『生命保険論

集』No.169

米山高生(1997)『戦後生命保険システムの変革』同文舘

米山高生(2009)「戦後型保険システムの転換―生命保険の自由化とは

何だったのか?―」日本保険学会『保険学雑誌』第604号

[ホームページ]

朝日生命保険株式会社 http://www.asahi-life.co.jp/

アメリカンファミリー生命保険株式会社 http://www.aflac.co.jp/

公正取引委員会 http://www.jftc.go.jp/

住友生命保険相互会社 http://www.sumitomolife.co.jp/

ソニー生命保険株式会社 http://www.sonylife.co.jp/

第一生命保険株式会社 http://www.dai-ichi-life.co.jp/

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生命保険論集第 185 号

―175―

太陽生命保険株式会社 http://www.taiyo-seimei.co.jp/

日本生命保険相互会社 http://www.nissay.co.jp/

富国生命保険相互会社 http://www.fukoku-life.co.jp/

三井生命保険株式会社 http://www.mitsui-seimei.co.jp/

明治安田生命保険相互会社 http://www.meijiyasuda.co.jp/

メットライフアリコ生命保険株式会社 http://www.metlifealico.co.jp/