高磁場中における日本酒酵母の...

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高磁場中における日本酒酵母の 活動に関する研究 松下研究室 03232022 黒木 章太郎 平成 19 2 23 電子情報工学科

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  • 高磁場中における日本酒酵母の

    活動に関する研究

    松下研究室

    03232022

    黒木 章太郎

    平成 19 年 2 月 23 日

    電子情報工学科

  • 目次

    第1章 序論 1

    1.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.2 酒造方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.3 酵母の働き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1.4 磁場が及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

    1.4.1 磁場配向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1.4.2 磁気力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 1.4.3 MHD 効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 1.4.4 磁気対流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

    1.5 冷凍機冷却型超伝導マグネット・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1.6 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

    第2章 実験 12

    2.1 試料準備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.2 磁場装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2.3 振とう装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 2.4 全菌数測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2.5 生菌数測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

    第3章 結果と検討 19

    3.1 静置培養・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3.1.1 全菌数測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3.1.2 生菌数測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

    3.2 振とう培養・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 3.2.1 温度による変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 3.2.2 磁場強度による変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

    3.3 再現性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 第4章 まとめと今後の課題 44

    4.1 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44

    i

  • 4.2 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 参考文献 47

    ii

  • 表目次

    2.1. 生菌数測定の希釈率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 3.1. 10 T 中 15℃下における静置培養全菌数測定値・・・・・・・・・・・ 20

    3.2. 10 T 中 15℃下における静置培養生菌数測定値・・・・・・・・・・・ 21 3.3. 0 T 中 25℃下における振とう培養測定値・・・・・・・・・・・・・・ 25 3.4. 10 T 中 30℃下における振とう培養測定値・・・・・・・・・・・・・27 3.5. 10 T 中 25℃下における振とう培養測定値・・・・・・・・・・・・・29 3.6. 10 T 中 20℃下における振とう培養測定値・・・・・・・・・・・・・31 3.7. 近似式の定数値(1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 3.8. 各温度における増殖スピード・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 3.9. 5 T 中 25℃下における振とう培養測定値・・・・・・・・・・・・・・ 35

    3.10. 1 T 中 25℃下における振とう培養測定値・・・・・・・・・・・・・37 3.11. 近似式の定数値(2)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 3.12. 各磁場における増殖スピード・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 3.13. 5 T 中 25℃下における再現性実験測定値・・・・・・・・・・・・・41 3.14. 同条件での増殖スピード比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・43

    iii

  • 図目次

    1.1. 日本酒の酒造工程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

    1.2. 酵母の電子顕微鏡写真・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.3. 酵母の代謝ルート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.4. ビオ・サバールの法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1.5. 微小円柱に対する電流要素・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 1.6. 冷凍機冷却型超伝導マグネット・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 1.7. 高磁場下での大腸菌生菌数推移・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 1.8. 超伝導マグネットの磁場勾配とシャーレの位置・・・・・・・・・・ 10 1.9. 酵母の沈殿分布(a)シャーレ底の吸光度(b)沈殿パターンの様子・・・・11 2.1. ピペットマンとエッペンチューブ・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 2.2. 冷凍機冷却型 10 T 超伝導マグネットの磁場イメージ・・・・・・・・13 2.3. 振とう装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 2.4. 菌数計算盤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 2.5. 酵母のコロニー形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 3.1. 10 T 中 15℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 20 3.2. 10 T 中 15℃下における酵母生菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 22

    3.3. 10 T 中 15℃下における規格化酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・23 3.4. 10 T 中 15℃下における規格化酵母生菌数の時間依存性・・・・・・・23 3.5. 0 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 26 3.6. 0 T 中 25℃下における増殖期比較・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 3.7. 10 T 中 30℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 28 3.8. 10 T 中 30℃下における増殖期比較・・・・・・・・・・・・・・・・28 3.9. 10 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 30 3.10. 10 T 中 25℃下における増殖期比較・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 3.11. 10 T 中 20℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 32 3.12. 10 T 中 20℃下における増殖期比較・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 3.13. 増殖スピード差における温度依存性・・・・・・・・・・・・・・・34 3.14. 5 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 36 3.15. 5 T 中 25℃下における増殖期比較・・・・・・・・・・・・・・・・36 3.16. 1 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・・・・ 38

    iv

  • 3.17. 1 T 中 25℃下における増殖期比較・・・・・・・・・・・・・・・・38 3.18. 増殖スピード差における磁場依存性・・・・・・・・・・・・・・・40 3.19. 5 T 中 25℃下における再現性酵母全菌数の時間依存性・・・・・・・42 3.20. 5 T 中 25℃下における再現性増殖期比較・・・・・・・・・・・・・42

    v

  • 第1章 序論 1.1 はじめに 日本酒は、昔から伝統的に受け継がれて来た職人達の知識と技術の結晶であ

    り、日本が誇れる伝統文化の一つと言える。近年は後継者不足や近代文明によ

    る大量製造により、昔ながらの酒蔵は年々減少している。酒造りは自然の恵み

    と、大変な労力を必要とするが、それでもこうした背景の中、日本酒の伝統は

    絶える事無く、日々、我々の生活を潤している。この日本酒造りに欠かせない

    アルコール発酵を行うのが酵母である。長い歴史の中で、酵母はあらゆる面か

    ら研究されてきた。 酵母の姿を人類がはじめて見たのは 1600 年代の後半にさかのぼる。オランダ

    の A. van Leeuwenhoek が手製の凸レンズを用いて、発酵中のビールの中に微小な物体を観察し、発表したのが酵母であった。その後、生物学の研究におい

    て重宝される事となる。日本における酒造りにおいても、酵母の存在は大変重

    要な位置を占めている。それでは、こうした中で生まれる日本酒の酒造方法を

    まず述べる。 1.2 酒造方法 酒の原料は米・米麹であり、酒の種類によってアルコールを入れたりする。

    また、酒造りにおいて重要なのは、水・米・技術・酵母・気候である。これら

    の要素の最適な組み合わせで、お酒のおいしさが決まる。 ではその酒造りだが、まず米の精白から始まる。米は酒造好適米と呼ばれる

    日本酒造りに適した、大粒で心白と呼ばれる白色の不透明な領域が中心部にあ

    るものが使用される。精米された米は洗米され、水に漬けて吸水される。白米

    重量の 3割ほど吸水したところで浸漬が終わり、蒸す事により蒸米を造りだす。次に仕込みと呼ばれる段階に移る。定温の中で蒸米に麹カビを散布して混ぜ、

    米麹を作る。米麹は麹菌がつくった酵素の働きで米を溶かし、デンプンをブド

    ウ糖に変えて酵母が食べられるようにする役割を持っている。散布した麹菌の

    胞子は、発芽して菌糸が伸び始め、約二日で蒸米を完全に覆う。この麹に水と

    酵母、それに蒸米を加えて酒母というものを作る。酒母は酛(もと)ともいい、

  • まさに酒の素になる。酒母は酸性で、酵母が酸に強いのに対して、他のほとん

    どの有害菌が酸に弱いので、酒母の中では酵母だけが育つのである。その酒母

    にさらに麹・蒸米・水を3回に分けて加え、発酵するのを待つ。3回に分ける

    のは、酒母に大量の物量を添加して仕込むと酒母中の酵母や酸がうすめられ、

    雑菌が繁殖するおそれがあるからだ。このため、ある程度の期間をおいて酵母

    の増殖をはかりながら仕込んでいく方法がとられている。米の質、麹菌が繁殖

    する温度、気温の変化など、それぞれの酒蔵、それぞれの「仕込み」によって

    条件・調整法は異なる。タンクの中では麹に含まれる糖化酵素の働きにより、

    米のデンプンは糖分に変えられる。その後、酵母の働きにより糖分がアルコー

    ル発酵する。発酵は 3 週間前後で終わり、熟成したもろみをしぼり、酵母などをこし取り、ろ過する事でお酒となる。これらの製法を図 1.1 にまとめる。

    図 1.1. 日本酒の酒造工程 こうして生まれるお酒はとてもデリケートな代物で、これらの工程に少しの狂

    いや変化が生じれば、その味は大きく変わってしまう。逆に言えば、その変化

    を利用して様々な品質のお酒が全国各地で生まれ、その伝統の味を維持する事

    が重んじられている。 1.3 酵母の働き

    それでは、この工程の一つであり、酒造りの重要な要素である酵母について、

    さらに詳しく述べる。酵母は菌類に属する単細胞の微生物で、細胞の一部から

    芽を出して無生殖で増殖する。培養条件により異なるが、25~30℃位でよく成長し、100~200 分間に一度の割合で細胞分裂をする。大きさは直径が約 4~5 μmで、おおよそ球形をしている。ここで、酵母の細胞構造を図 1.2 に示す 1)。

  • 図 1.2. 酵母の電子顕微鏡写真

    細胞の外側は細胞壁でおおわれ、外層は主としてマンナン-タンパクからでき

    ており、その内側にはグルカンの層がある。このグルカンの層が、細胞壁の強

    さを保持するのに役立っていると考えられている。細胞壁には以上のマンナン、

    タンパク質、グルカンの他に脂質やキチンその他の物質もふくまれている。細

    胞分裂後に残る出芽痕にはキチンが多く含まれており、キチン合成が出芽痕形

    成、及び細胞分裂に関与している事が分かる。細胞の 1 回の分裂が終わってから次の分裂が終わるまでの間を細胞周期と呼ぶが、真核細胞である酵母は、こ

    の周期を正確に一定の順序で進行する。 しかし、酵母はどんな環境下でもアルコールを造り出すのかと言えば、そう

    ではない。酵母は生命維持のために、様々な酵素を使って糖分であるグルコー

    スをピルビン酸まで分解する。これは、人間から微生物までがもっている生命

    維持のための代表的な代謝ルートである。 その後、ピルビン酸から2方向ヘルートが分かれる。まず、酸素欠乏状態の

    ときにピルビン酸はアセトアルデヒドを経て、エタノールヘと変えられる。つ

    まり、アルコール発酵をする。酸素がある状態では酵母は酸素呼吸をするので、

    ピルビン酸を炭酸ガスと水、生活に必要なエネルギーを発生させたりしながら、

    循環させる。この代謝ルートを図 1.3 に示す。

    図 1.3. 酵母の代謝ルート

  • 酵母の性質の一つとして、酸素が有っても無くても生育できる点が挙げられる

    が、このように酵母に発酵作業を活発にさせる為には、容器上部に泡ができる

    事で下部が酸素欠乏状態になる事が条件といえる。実際の酒蔵において、発酵

    中の醪では炭酸ガスが発生して酸素欠乏状態となり、これに転落して死亡する

    事故も昔は珍しくなかった。このような事から酒蔵には必ず一人、酸素欠乏・

    硫化水素危険作業主任者の資格を持った人がいなければならない。 1.4 磁場が及ぼす影響 最近の科学技術の進歩につれて、我々が強い磁場に曝露される機会はしだい

    に増加している。職業人が曝露されていた加速器、核融合炉、エネルギー貯蔵

    マグネット等の他、核磁気共鳴イメージング、磁気浮上超高速列車といった、

    いまでは一般市民や傷病者までが曝磁される時代となっている。しかし、磁場

    の生体に対する影響、特に人体影響については解明されてはいない。我々人類

    は、X 線などの放射線が広く実用化されるにつれて、次第にその犠牲者が増加してしまった歴史があり、物理的エネルギーを人体影響が解明されないまま長

    時間利用すると、場合によっては大変なことになる一つの例と言える。そこで、

    磁場を印加する事により生じる諸現象をまず理解する事により、磁場が及ぼす

    影響の究明を行う事が必要だといえる。では、まず磁場について次に述べる。 電荷のまわりに電界ができるように、電流が流れている導線のまわりには磁

    気的な磁場が生じる。定常電流からは時間的に一定な静磁場ができる。磁場は

    ベクトルであり、その強さを表すものとして磁束密度 B を定義する。B の単位はテスラ(T)であり、N/(A・m)の次元をもつ。ここで図 1.4 のように、回路 C の微小部分を流れる電流(電流要素 Ids)がまわりの点 P につくる磁束密度は、ビオ・サバールの法則により

    20 d

    4d

    rrsIBr

    ×=

    πμ

    (1.1)

    と表せる。ただし、r は Ids から点 P に至る距離、rrはその方向の単位ベクトル、

    0μ は真空の透磁率である

    70 104

    −×= πμ N/ 2Α (1.2)

    とする。

  • I

    Ids Pθ ds rrr

    dB

    図 1.4. ビオ・サバールの法則 式(1.1)より、アンペールの右ねじの法則に従って、dB の方向は Ids と rrでつくる平面に垂直であり、向きは Ids から rrの向きに右ねじを回すときのねじの進行方向となる。dB の大きさは Ids と rrのなす角をθとすれば

    θπ

    μ sin4

    dd 20

    rsIB =

    となる。回路 C の全体を流れる電流が点 P につくる磁束密度は、電流要素 Idsからの寄与を回路全体にわたって線積分すれば求まり

    ∫×

    =C r

    rsIB 20 d

    4

    r

    πμ

    となる。ビオ・サバールの法則は、広がりのある空間 V を電流が流れている場合に一般化できる。図 1.5 のように電流の流れる方向に長さ ds、断面積 dS の微小円柱(体積 dV=dsdS)をとれば、この円柱に対する電流要素は電流密度 i を用いて

    VisSisI dd)d(d == となる。

  • I

    ds i

    図 1.5. 微小円柱に対する電流要素 dS

    したがって、微小領域 dV を流れる電流要素 idV が r だけ離れた点 P につくる磁束密度は、dV から点 P に向かう方向の単位ベクトルを rrとすれば、式(1.1)より

    20 d

    4d

    rrViBr

    ×=

    πμ

    となり、空間 V 全体にわたって体積分すれば

    ∫×

    =V

    Vr

    riB d4 2

    0r

    πμ

    が求まる。この磁束密度 B と磁場の強さ H との比をその物質の透磁率といい、式(1.2)の真空の透磁率を用いれば、次のような関係が成り立つ。磁化を M とすれば、

    MBH −=0μ

    と表される。H、M の単位は A/m となり、磁場の強さは単に磁場あるいは磁界ともいう。 1.4.1 磁場配向 この磁場が引き起こす種々の現象を述べる。まず、分子や微結晶などに磁気

    的な異方性がある場合には、これらの粒子には磁場方向に配向しようとするト

    ルクが働く。強磁性体のように永久双極子を持つ場合には、外部磁場方向に自

    らの内部磁場を向けることで安定に配向する。粒子の磁気的異方性については、

    分子の構造の異方性に基づくものと、粒子の形状の異方性に基づくものとに分

    類できる。 磁石以外で磁場ともっともよく相互作用するものはコイルである。コイルに

  • 磁石を近づけると反対方向の磁化を持とうとして誘導電流が流れる。有機化合

    物の中でもっとも理想的なコイルとして働く構造はベンゼン環であるが、それ

    は自由に動けるパイ電子が平面上の構造をとっている為、コイルのように振る

    舞うからである。しかし、分子内に誘導電流が流れているような状態は熱力学

    的に不安定なので,ベンゼン環に磁場を作用させると誘導電流が流れず、ベン

    ゼン環の分子平面が磁場と平行になる向きに磁場配向する。タンパク質の場合

    には、ペプチド結合がコイルの働きをし、ペプチド平面が磁場と平行になる向

    きに磁場配向しようとする。その為、ペプチド平面がその軸方向に平行に配列

    しているアルファ・へリックス構造は磁場方向に配向しようとし,ペプチド平

    面が多く平行に配列しているベータ・シート構造も同様の磁場配向作用を示す。

    また、芳香性アミノ酸の芳香環も同様である。これより、これら3つの構造が

    分子内部で特定の方向に配列しているほど,磁気的な異方性が強いことになる。

    故に、膜タンパク質などがもっとも磁気的異方性が強いタンパク質である。 また、分子自体が磁気的異方性を示さない場合でも、粒子の形状が異方的な

    場合には磁場配向する。例として、磁気的に等方的な分子でも、その結晶の形

    が針状や板状など異方的ならば,結晶自体の帯磁率が方向によって異なるため、

    磁場配向する。 1.4.2 磁気力 磁場が一様でなく、位置 z により磁場の強さ H が違うような磁場勾配が存在する下では磁気力が発生する。物質の統計を M、モル濃度の磁気の感受性をとすれば、

    MX

    zHHMXF M ∂∂

    =

    で表される。磁場勾配を上ってゆく方向に磁気力が働く物質は帯磁率が正の強

    磁性体および常磁性体で、逆に磁場勾配を下ってゆく物質が反磁性体である。

    タンパク質や水をはじめほとんどの有機物は反磁性体であるが、タンパク質結

    晶を結晶化容器の器壁に接触させることなく成長させることができれば、結晶

    中へのひずみの導入などを防ぐ事ができる為、有力な結晶化方法であると考え

    られている。 1.4.3 MHD 効果 電荷Qを持つ荷電粒子が速度 で磁束密度Bの磁場の中を運動しているとき、磁場より受ける力は、

    v

  • =F Q )( Bv× となり、この力をローレンツ力という。磁場中で電解質溶液に電流を流した場

    合、磁場と直角方向に電流が流れるとこのローレンツ力が働くため、溶液には

    大きな流れが生じる。これを MHD(Magneto hydrodynamic)効果と呼ぶ。ローレンツ力は大きな力なので、多くの磁場効果の中でも早くに見つかった効果で

    ある。この効果の例として、タンパク質の結晶化溶液に磁場下で電流を流すよ

    うな場合には、十分大きな影響を及ぼすと考えられている。 また、溶液に電流を流さずとも、溶液中のイオンなどの電荷を持った化学種

    が一定の方向に運動することでも、これらの化学種にローレンツ力が働く。溶

    液中に引加された電流ではなく、特定化学種のイオン個々にローレンツ力が働

    くため、上述の MHD 効果とは区別され、マイクロ MHD 効果と呼ばれている。例として、結晶が成長している場合には、沖合の溶液から結晶表面へ溶質分子

    の流れができる。そのため、溶質分子が電荷を持っている場合には個々の溶質

    分子にローレンツ力が働き、分子の拡散運動はローレンツ力の方向に曲げられ

    る。 1.4.4 磁気対流 1.4.2 で説明した磁気力の他に、系内の帯磁率に不均一がある場合、及び系内の帯磁率が均一でも磁場に不均一がある場合には,これらに基づき磁気力が働

    く。そのため、磁気力に基づいた磁気対流が発生することになる。この効果を

    うまく応用する事ができれば、系内の対流を抑制できたり、望みの向きに磁気

    対流を流し、系内を攪拌させたりすることができる。 以上述べてきたような磁場下での種々の影響がこれまで分かってきたが、生

    物に与える影響のように、未だに解明されていない部分もある。 1.5 冷凍機冷却型超伝導マグネット 近年の超伝導分野の発展により、冷凍機冷却型超伝導マグネットを用いて、

    10 T の高磁場が長時間安定して印加できるようになった為、高磁場中での生物活動を調べる事ができるようになった。図 1.6 にこの装置を示す。従来の超伝導マグネットでは通常、液体ヘリウムで冷却されてきたが、本実験で用いるよう

    な冷凍機冷却型のマグネットでは、エポキシ樹脂などで含浸して安定性を強化

    したものであり、液体ヘリウムによる浸漬冷却は必要としない。この為、この

    ような冷凍機などによる伝導冷却法は、安定性が増すと共に運転コストが大幅

    に削減される。これにより高磁場下での研究が容易になった。

  • 図 1.6. 冷凍機冷却型超伝導マグネット

    1.6 本研究の目的 現在、細胞の機能や構造の基本的な調節機構を解明するために、分子生物学

    や生理学、さらに遺伝学の研究材料として広く利用されているのが酵母である。

    酵母の細胞の構造や、生活環は高等生物に近い共通性をもち、増殖や死滅とい

    ったサイクルが一定して行われる酵母は、外部影響の効果を確認し易い。こう

    いった真核生物を研究する事で基礎生物学の発展につながる。この酵母に上述

    の冷凍機冷却型超伝導マグネットにより高磁場を印加する。実際に微生物分野

    での研究として、図 1.7 に示すように、大腸菌を 43℃の 5.2~6.1 T の磁場下で1.5 g/L のグルタミン酸を加えた 25%の LB 培地中で好気的培養した時、安定期の細胞数が地磁場に比べて 10 万倍多かったという Horiuchi らの磁場の印加による大腸菌死滅の抑制効果の研究や 2)、

  • 図 1.7. 高磁場下での大腸菌生菌数推移

    40 20 60 80 t(h)

    Ikehata らによる、出芽酵母に 5 T の磁場を 2 時間かけた時、図 1.8 に示す超伝導マグネット内の位置により図 1.9 で表すような沈殿パターンに違いが見られた 3)といった報告がされている。

    図 1.8. 超伝導マグネットの磁場勾配とシャーレの位置

    10

  • 図 1.9. 酵母の沈殿分布(a)シャーレ底の吸光度(b)沈殿パターンの様子 これまで述べてきた酵母や醸造条件の少しの違いで味が変わるお酒の性質上、

    高磁場を印加する事で酵母に変化が起これば味が変化する可能性は高く、それ

    によるお酒造りの新たな品質が生まれる可能性が期待できる。これを踏まえ、

    本研究では高磁場を印加して酵母が受ける影響や活動を調べ、研究する事が目

    的である。

    11

  • 第2章 実験 2.1 試料準備 現在の酒造りでは、協会酵母と呼ばれる各地の酒造場から優秀な酵母を分離

    し、純粋に培養した酵母を使用している。協会酵母にも様々な種類が有るが、

    最初の静置培養実験では呼吸機能が比較的弱く、発酵機能が強く、10~15℃の低温でもよく発酵する協会酵母7号(k-7)と呼ばれる酵母を使用した。 福岡県工業技術センターにおいて、最初に、通常 1/mL で飽和する協会酵母 7 号を 1.25 mL 採取し、米麹と水で作成した酵母などを培養するときに培地として用いられるグルコース濃度 15%の麹汁 100 mLに入れることにより、酵母濃度 1/mL を作り出した。これを 30℃で三日間寝かせ、お酒の密度と同じになるようにした。この液体試料をピペットマンにより 625 μL 採取し、エッペンチューブに 2 回入れる事により、1.25 mL の試料を用意し、これを 14 個作る事で 2 パターンの一週間分の試料の用意とした。このピペットマンは 70%のエタノールによって消毒され、先端のチップ、及びエッペンチューブは 121℃、高圧状態に設定したオートクレイブにより殺菌し、無菌状態としている。図 2.1 の上部にピペットマンと下部にエッペンチューブを示す。

    8100.2 ×

    6105.2 ×

    図 2.1. ピペットマンとエッペンチューブ また、二回目以降の振とう培養実験では、日本酒酵母に変わって実験酵母を

    使用した。この酵母を富栄養培地である YPD(Yeast extract Peptone Dextrose)

    12

  • 合成培地を用いて培養した。これはイーストエキス、ポリペプトン、グルコー

    スの栄養素をそれぞれ 1:2:2 の割合で調合し、この溶液 5 mL 中に実験酵母をおおよそ 1/mL 程度の濃度になるよう加え、この試料を磁場印加用と対照の二つをコニカルチューブに入れて用意した。

    6100.5 ×

    2.2 磁場装置

    福岡大学にあるジャパンマグネットテクノロジー社製の冷凍機冷却型10 T超伝導マグネットを用いて磁場を印加した。 磁場をかけた状態についての説明の前に、この装置について述べる。円柱形の

    機器の中央部に円筒形の入れ物が有り、中には水が入っている。最初の実験で

    はこの水の水位を 28.5 cm に調節して、サンプルに均一な静磁場が発生するようにした。水はジェネレーターにより温度管理を行い、一定に保つように設定

    した。この装置の磁場の状態を表したものを図 2.2 に示す。この状態の装置で磁場をかけた。

    28.5 cm

    磁場安定領域

    図 2.2. 冷凍機冷却型 10 T 超伝導マグネットの磁場イメージ 同じように円筒形機器に水を張り、磁場のかかっていない定常状態における

    対照試料として、同じく試料と装置の準備をした。静置培養実験では、これら

    の試料を一日おきに磁場中と地磁場中からそれぞれ一つ取り出し、7 日間繰り返す事により、一週間分の実験試料を得た。磁場をかけた試料を A、磁場をかけなかった試料を B とし、経過日数に応じて、A1、A2…A6、A7、B1、B2…B6、

    13

  • B7 というように区別しておく。 また、振とう培養実験では水の水位をコニカルチューブの下部が浸かる程度

    に調整し、温度一定に保つように設定した。この状態で振とう装置を作動させ、

    規定経過時間毎に磁場中と地磁場中からそれぞれ 100 L の試料を取り出した。ここでも同様に、磁場をかけた試料を a、磁場をかけなかった試料を b とし、経過時間に応じて、a0、a1…a9、a10、b0、b1…b9、b10 というように区別しておく。

    μ

    2.3 振とう装置 最初に行った静置培養実験では、後述するように培養環境の問題があった。

    加えて、一週間という実験時間の長さも短所であった。これらを改善する為に、

    培養方法を振とう培養に切り替えた。振とう培養する利点として、溶液中の液

    体が攪拌され、十分に養分が行渡り、エアレーションも行う事ができる点であ

    る。静置培養で起こっていたエッペンチューブ底部での酵母や栄養分・老廃物

    の蓄積が防げ、培養環境面の改善が期待できる。さらに振とう実験では温度を

    20~30℃と高く設定し、静置培養では一週間かかった培養時間を一日に早める措置を取り、繰り返し実験を行い易くした。これらの培養環境改善により、同

    条件下での実験を繰り返し行う事が可能となり、再現性の高い実験が行える。

    次に、振とう装置自体について述べる。 本実験で使用する振とう装置は、空気の出し入れによってピストン運動を行

    う、アルバック九州社製のエアーシリンダー型振とう装置である。ストローク

    幅は 1 cm で、0.4 秒で一往復するように設定した。この先端にコニカルチューブを挿入するのだが、エッペンチューブから容器を変更した理由は、小さなエ

    ッペンチューブを7個用意した場合、それぞれで培養環境が違ってくる恐れが

    ある為に、大きな一つの容器にまとめる事とした。振とう装置を図 2.3 に示す。 図 2.3 の右図で示すような縦長い器具の先端にコニカルールチューブをはめ、空気の出し入れによりピストン運動を行う。

    14

  • 図 2.3. 振とう装置 2.4 全菌数測定

    次に、実験試料の測定方法を述べる。酵母数の測定にはその試料毎に適切な

    希釈を行い、菌数計算盤上の酵母を顕微鏡により観察し、1 mL 中の数を割り出す。まず、菌数計算盤について説明する。 この装置はカバーグラスとの間に一定の深さがあり、図 2.4 のような方眼を

    刻んだスライドグラスに菌浮遊液をとり、顕微鏡下で区画内の全菌数が計算で

    きる。この時、採取する容器であるエッペンチューブの底に酵母が固まってい

    る場合がある為、試料液内が均一になるように振って良く混ぜる。スライドグ

    ラスの方眼は、深さ 0.1 mm、方眼間隔 0.05 mm となっている。つまり、1 区画の菌数を xとして、次のような計算により 1 mL 中の全菌数 が分かる。 n

    15

  • 図 2.4. 菌数計算盤 まず、図 2.4 で示した部分である 1 区画の体積V を求める。

    mm 1.0mm 05.0mm 05.0 ××=V

    mL 105.2cm 105.2mm 105.2

    7

    37

    34

    ×=

    ×=

    ×=

    よって、1 区画の菌数を xとして、1mL 中の全菌数 は n

    105.2 7−×

    =xn

    6100.10.4

    −×=

    x

    1/mL (2.1) 6100.4 ×= xとなり、以上より 1 区画の菌数を測定すれば全菌数が求まる事が分かる。 また、振とう培養実験では一律に 10 倍希釈ではなく、酵母菌数が 100 前後に

    なるように試料各々に適した希釈を行い、精度の高い測定を行った。ここで、

    後の議論として を磁場を印加して培養した試料の酵母数、 を対照として地

    磁場で培養した試料の酵母数と定義しておく。

    Mn cn

    16

  • 2.5 生菌数測定 生菌数を測定するには、酵母がコロニーを形成したかどうかを見れば分かる。

    コロニーを形成していれば、その酵母は生きていた事になるからである。図 2.5にこの様子を示す。

    1cm

    図 2.5. 酵母のコロニー形成 この方法を平板培養法と呼び、予め底皿に薄く寒天培地を張り、そこに試料を

    混ぜる。ここで、シャーレに 300 前後の酵母菌が散布されるように希釈を行った。 希釈率を表 2.1 に示す。シャーレを 4 皿用意し、それぞれに#1、#2、#3、#4

    の記号を割り振った。今回の生菌数測定では#1、#3 にはシャーレに 50 L。#2、#4 にはシャーレに 100 L の希釈した試料を、エタノールとガスバーナーによる熱で殺菌したガラス棒により、シャーレ上に薄く延ばし散布した。

    μμ

    表 2.1. 生菌数測定の希釈率

    A1、B1 A2、B2 A3、B3 A4、B4 A5、B5 A6、B6 #1、#2 3 万倍 5 万倍 7 万倍 10 万倍 10 万倍 12 万倍 #3、#4 10 万倍

    希釈のやり方についてだが、数万倍という希釈の為に二度に分けて希釈を行っ

    た。例を挙げると、A1-#1 の場合試料から 10 L を取り出し、水 990 L と合μ μ

    17

  • わせて 100 倍希釈の試料を作り出す。この 100 倍希釈試料から 2 L を取り出し、水 600 L と混ぜて 3 万倍希釈の試料を得た。このように希釈した資料を散布したシャーレ 48 個を、30℃一定で三日間培養を行い、コロニーの生育を促した。この時シャーレを引っくり返して、雑菌が培地表面に落ちる事がないよ

    うに考慮した。

    μμ

    18

  • 第3章 結果と検討 3.1 静置培養 実験の記録を以下に述べる。2006 年 9 月 14 日 16 時に磁場をかけ、15 日の

    15 時 30 分に最初の試料を取り出した。続けて 16 日には 15 時 25 分に、17 日には 14 時 5 分に試料を取り出したが、17 日の 19 時頃に台風による停電で、18日の 16 時 9 分まで磁場のかかっていない状態が続いた。19 日、20 日、21 日は16 時に試料を取り出したが、停電による 21 時間のロスにより、用意した試料一週間分ではなく 6 日分の計 12 試料のみを得た。実験は 10 T の静磁場で行い、酵母の培養温度を 15℃とした。 3.1.1 全菌数測定 次に、光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、

    表3.1に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た1 mL中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.1 に示す。ここで、近似式とし

    て および、 を用いた。 65M 105.210616.6 ×+×= tn 65c 105.210456.9 ×+×= tn

    19

  • 表 3.1. 10 T 中 15℃下における静置培養全菌数測定値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値

    A1 14 12 15 17 13 15 10 14 18 14.2 A2 29 15 11 18 16 24 24 19 17 19.2 A3 13 18 17 12 18 5 4 11 12 12.2 A4 14 25 18 17 14 13 21 19 16 17.4 A5 21 15 26 16 17 9 15 16 21 17.3 A6 18 24 17 13 28 28 16 19 15 19.7 B1 7 13 7 5 6 4 11 10 12 8.3 B2 18 18 37 24 33 27 16 36 27 26.2 B3 22 15 21 13 16 20 19 13 16 17.2 B4 49 40 35 27 38 40 37 32 40 37.5 B5 33 41 28 49 37 30 22 35 30 33.8 B6 23 19 35 33 28 28 27 34 37 29.3

    0 50 100 150106

    107

    108

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    t(h)

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.1. 10 T 中 15℃下における酵母全菌数の時間依存性 図 3.1 におけるグラフにより、時間経過と共に酵母が増えているのが分かる。

    さらにこの増殖は勢いが衰え、ある値で収束している。これは酵母が試料の栄

    養分を食い尽くし、増殖に歯止めがかかった為であり、生物学的観点から見て

    20

  • 妥当であり、この事を確認できた。ここで最も注目すべき点は磁場による影響

    があるのかどうかとう事だが、グラフより磁場をかけた試料の方が増殖活動が

    抑えられている事が読み取れる。 3.1.2 生菌数測定 次に、生菌数測定で得た値を表 3.2 に示す。この値から明らかに#3、#4 は希

    釈の段階で失敗し、十分なデータが得られなかったので、後からの考察に考慮

    しないものとする。残りの#1、#2 を平均し、1 mL 中の生菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.2 に示す。ここで、近似式として

    および、 を用いた。 65M 105.210053.2 ×+×= tn 65c 105.210617.3 ×+×= tn

    表 3.2. 10 T 中 15℃下における静置培養生菌数測定値

    #1 #2 #3 #4 A1 25 32 7 20 A2 62 119 6 27 A3 71 132 12 25 A4 38 97 3 26 A5 39 88 2 14 A6 33 95 7 19 B1 20 26 5 20 B2 69 129 21 38 B3 74 158 20 39 B4 59 117 10 22 B5 48 90 80 154 B6 78 144 17 27

    21

  • 0 50 100 150106

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (C

    .F.U

    ./ml)

    MF(10 T)

    contrast

    cM

    図 3.2. 10 T 中 15℃下における酵母生菌数の時間依存性 ここまでの実験を通して、全体的な実験手法として改善の余地があると考え

    た。まず、試料を磁場にかける際に 14 個の試料の状態が水に浮いているもの、沈んでいるものでバラバラだったという事が挙げられる。この状態の悪さを顕

    著に示したのが、前述の全菌数測定の時で、試料によってはエッペンチューブ

    の底に酵母が固まっていたり、固まっていなかったりした為である。また、菌

    数測定においても測定力の無さを痛感した。チップやエッペンチューブの蓋内

    部は、雑菌を付けない為にも余計な物に触れさせてはいけないのだが、実験中

    触れてしまった事が多々あった。同様に正確な測定について、シャーレに試料

    を散布する際に他の雑菌が混入しないように蓋を少しだけ開け、すばやく処理

    しないといけないのだが、明らかに目に見える他の菌が生育していたシャーレ

    が有った。また、図 3.1、3.2 から読み取れるように生菌数が全菌数をはるかに上回るという本来ならば有り得ない実験結果となった。しかしながら、磁場を

    印加した影響については、両者共に磁場を印加した試料では増殖が抑えられて

    いる事で一致する。ここで、全菌数と生菌数のそれぞれの最大値で規格化した

    グラフを図 3.3 と図 3.4 に示す。ここで、近似式として およ

    び、 を用いた。両グラフにおいて、磁場を印加した試料の規

    530.02M 10592.6 tn

    −×=

    595.02c 10328.4 tn

    −×=

    22

  • 格化した数値が、対照と比べて高い事が見てとれ、全菌数・生菌数共にこの傾

    向がある事を示している。

    0 10010–2

    10–1

    100S

    tand

    ardi

    zatio

    n Y

    east

    num

    ber n

    ,n

    t(h)

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.3. 10 T 中 15℃下における規格化酵母全菌数の時間依存性

    0 10010–2

    10–1

    100

    t(h)

    Sta

    ndar

    diza

    tion

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.4. 10 T 中 15℃下における規格化酵母生菌数の時間依存性

    23

  • 3.2 振とう培養 これらの事から、正確な実験データを得る為の改善策として、磁場中に投入

    する試料を同条件にする為に 7 個に分けていた試料を一つにまとめ、振る事が望ましいと考え、振とう実験へと移行する。 また、磁場を印加して培養する試料 a と、対照として地磁場中で培養する試

    料 b の酵母の発育状態が、磁場を印加しない 0 T においては差が無い事をまず証明する。温度を 25℃一定で固定して、0 T 下で培養を行った最初の試料 a0、b0 は等しく、後の a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 2 時間後、a3、b3 は 4 時間後、a4、b4 は 6 時間 15 分後、a5、b5 は 9 時間後 、a6、b6 は 12 時間後、a7、b7 は 16 時間後、a8、b8 は 21 時間後、a9、b9 は 26 時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、表 3.3 に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL 中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.5に示し、増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.6 に示す。図 3.5 では、 0=t

    での 、 の値をそれぞれ 、 と定義し、Mn cn M0n c0n γ を定数とすれば、 お

    よび、 の近似式を用いた。以下の全ての実験において、これらの近似

    曲線を導入する。

    γtnn 0MM =

    γtnn 0cc =

    24

  • 表 3.3. 0 T 中 25℃下における振とう培養測定値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値

    a0 26 21 34 27 36 26 44 25 17 14 27.0a1 43 46 36 35 52 47 33 40 38 40 41.0a2 58 63 70 50 56 54 70 64 70 47 60.2a3 131 95 120 113 104 119 132 101 93 106 111.4a4 160 170 155 145 165 140 175 140 150 175 157.5a5 370 285 375 240 260 265 390 265 320 375 314.5a6 380 470 470 420 410 430 430 520 490 590 461.0a7 500 420 650 420 610 560 530 590 610 630 552.0a8 580 660 590 580 610 700 710 690 520 500 614.0a9 760 570 860 690 590 650 610 770 780 670 695.0b0 21 24 31 30 30 30 28 24 25 28 27.1b1 39 32 38 51 41 54 33 38 43 46 41.5b2 64 58 61 57 60 65 61 67 62 68 62.3b3 110 104 124 100 108 101 103 121 101 114 108.6b4 150 155 200 205 140 200 185 125 200 210 177.0b5 240 335 270 250 280 395 290 275 360 290 298.5b6 440 580 520 580 380 450 470 520 520 370 483.0b7 520 500 510 520 630 450 520 620 550 620 544.0b8 620 770 720 580 710 560 580 650 550 710 645.0b9 740 780 550 750 760 570 870 730 830 680 726.0

    25

  • 0 10 20 30

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(0 T)contrast

    Mc

    図 3.5. 0 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性

    0 2 4 6

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(0 T)contrast

    Mc

    図 3.6. 0 T 中 25℃下における増殖期比較

    26

  • 図から読み取れるように、試料 a と b に違いは無く、図 3.6 の試料 a と b の傾きの差が 0.002 1/mL・h とほぼ無い事からも、磁場をかけるマグネット内での 0 T での培養と、地磁場中での培養に違いは見られなかった。

    3.2.1 温度による変化

    10 T 中 30℃下で試料を培養する。まず、最初の試料 a0、b0 は等しく、後の

    a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 2 時間後、a3、b3 は 4 時間後、a4、b4 は 6 時間後、a5、b5 は 9 時間後 、a6、b6 は 12 時間後、a7、b7は 24 時間後、a8、b8 は 27 時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、表 3.4 に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL 中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.7 に示し、増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.8 に示す。 表 3.4. 10 T 中 30℃下における振とう培養測定値

    25 区画中の全菌数の測定値 平均値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値a0 47 58 47 44 49.0 b0 47 58 47 44 49.0a1 104 61 91 81 84.3 b1 110 98 96 96 100.0a2 189 168 152 174 170.8 b2 174 145 154 173 161.5a3 51 49 30 50 450.0 b3 63 48 45 55 527.5a4 90 91 92 123 990.0 b4 66 119 108 122 1037.5a5 141 127 98 113 1197.5 b5 175 137 130 153 1487.5a6 149 142 148 165 1510.0 b6 185 163 181 185 1785.0a7 223 248 262 230 2407.5 b7 226 173 206 209 2035.0a8 229 219 249 237 2335.0 b8 263 268 250 311 2167.5

    27

  • 0 10 20 30

    107

    108

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(10 T)

    contrast

    t(h)

    Mc

    図 3.7. 10 T 中 30℃下における酵母全菌数の時間依存性

    0 2 4 6

    107

    108

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(10 T)

    contrast

    t(h)

    Mc

    図 3.8. 10 T 中 30℃下における増殖期比較

    28

  • 同様に 10 T 中 25℃下で試料を培養する。まず、最初の試料 a0、b0 は等しく、後の a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 2 時間後、a3、b3 は4 時間後、a4、b4 は 6 時間後、a5、b5 は 9 時間後 、a6、b6 は 12 時間後、a7、b7 は 15 時間後、a8、b8 は 21 時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、表 3.5 に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL 中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.9 に示し、増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.10 に示す。

    表 3.5. 10 T 中 25℃下における振とう培養測定値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値

    a0 25 27 22 34 27.0 b0 35 22 33 22 28.0a1 27 38 26 41 33.0 b1 37 36 37 35 36.3a2 43 58 34 43 44.5 b2 45 51 52 58 51.5a3 59 65 79 70 68.3 b3 61 93 137 71 90.5a4 103 147 177 169 149.0 b4 217 198 173 163 187.8a5 323 343 356 358 345.0 b5 418 337 396 402 388.3a6 760 710 630 680 695.0 b6 890 610 106 830 609.0a7 1200 1100 1280 760 1085.0 b7 920 960 840 930 912.5a8 1450 1230 1230 1310 1305.0 b8 1330 990 1100 1290 1177.5

    29

  • 0 10 20 30

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.9. 10 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性

    0 2 4 6

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.10. 10 T 中 25℃下における増殖期比較

    30

  • 次に 10 T 中 20℃下で試料を培養する。まず、最初の試料 a0、b0 は等しく、後の a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 2 時間後、a3、b3 は3 時間後、a4、b4 は 5 時間後、a5、b5 は 7 時間後 、a6、b6 は 9 時間後、a7、b7 は 12 時間後、a8、b8 は 15 時間後、a9、b9 は 20.5 時間後、a10、b10 は 25時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、表 3.6 に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL 中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図3.11 増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.12 示す。

    表 3.6. 10 T 中 20℃下における振とう培養測定値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値

    a0 25 17 18 34 23.5 b0 31 23 6 32 23.0a1 34 35 34 41 36.0 b1 25 53 61 56 48.8a2 72 65 27 49 53.3 b2 47 50 53 76 56.5a3 50 58 69 84 65.3 b3 58 86 70 91 76.3a4 87 103 73 99 90.5 b4 95 95 94 133 104.3a5 174 164 122 147 151.8 b5 182 161 150 207 175.0a6 254 216 311 220 250.3 b6 258 282 246 253 259.8a7 540 300 310 330 370.0 b7 300 450 360 360 367.5a8 470 720 840 800 707.5 b8 570 820 630 770 697.5

    a9 850 830 770 840 822.5 b9 910 990 980 870 937.5

    a10 1050 1060 700 1140 987.5 b10 910 1180 920 910 980.0

    31

  • 0 10 20 30

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.11. 10 T 中 20℃下における酵母全菌数の時間依存性

    0 2 4 6

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(10 T)

    contrast

    Mc

    図 3.12. 10 T 中 20℃下における増殖期比較

    32

  • 以上のような磁場強度を 10 T に固定しての、3 種類の温度条件を変えて振と

    う培養実験を行った。ここで用いた近似式の定数 、 、Mn cn γ について表 3.7 に

    示す。 表 3.7. 近似式の定数値(1)

    Mn 、γ cn 、γ

    10 T – 30℃ 610919.15 × 、1.047 610948.17 × 、1.029 10 T – 25℃ 610122.3 × 、1.349 610969.3 × 、1.248 10 T – 20℃ 610742.3 × 、1.124 610681.4 × 、1.055

    これら 3 種類の温度で一様に言える事は、増殖期において磁場をかけた試料の方が対照に比べて増殖が抑えられている点である。どれ位抑えられているかを

    知る為に、増殖期の分裂スピードを変数 v、d はそれぞれの温度で変わるとすれば、 の点を通るようにして、0=t )exp( dvtn += の近似直線の傾きから求める。

    これを表 3.8 と図 3.13 より示す。ただし、 は磁場をかけた試料の定数。 を

    対照試料の定数とする。

    Mv cv

    表 3.8. 各温度における増殖スピード

    磁場(a) Mv 対照(b) cv 差 Mc vv −

    10 T – 30℃ 0.567 0.600 0.033 10 T – 25℃ 0.266 0.309 0.043 10 T – 20℃ 0.366 0.439 0.073

    33

  • 20 300.03

    0.04

    0.05

    0.06

    0.07

    0.08

    T(℃)

    diffe

    renc

    e of

    slo

    pe|v

    – v

    |

    Mc

    図 3.13. 増殖スピード差における温度依存性 これより、温度を下げた方が磁場の効果がより鮮明に現れる事が分かった。

    この事から、酵母の活動は温度の要素に左右され、磁場の効果があるとしても

    高い温度だとその効果が確認し難くなると考えられる。よって、温度を下げて

    磁場の効果が顕著に現れるように実験をする事が望ましい。 また、酵母数が飽和する安定期においては、磁場を印加した試料の方が対照

    に比べて数が多くなっている。しかし、温度や時間によって一様には言えず、

    酵母の各成長段階において、磁場効果そのものに違いが生じるのかもしれない。 最終的な酵母数は培地の栄養状態によって決定するのだが、増殖期とは反対に

    磁場を印加する事で飽和数が上がる傾向にある。 3.2.1 磁場強度による変化

    温度依存について述べたが、温度を下げ過ぎれば酵母の活動が鈍り、繰り返

    し実験を行う事が難しくなる。図 3.8、3.10、3.12 を比べて、条件 25℃の場合と 20℃の場合に変わりがないように見えるが、明らかに条件 30℃の場合と 25℃の場合とで、磁場の影響がはっきりと違っているのが見て取れる。よって、以

    下の実験では温度は 25℃に固定し、磁場の強度を変えて効果を検証する。 まず、25℃一定中の 10 T における培養は、前述の 3.2.1 節中に述べた通りで

    34

  • ある。 次に 25℃一定中の 5 T の試料を培養する。まず、最初の試料 a0、b0 は等し

    く、後の a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 3 時間後、a3、b3 は 4 時間後、a4、b4 は 6 時間後、a5、b5 は 9 時間後 、a6、b6 は 12 時間後、a7、b7 は 16 時間後、a8、b8 は 22 時間後、a9、b9 は 26 時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、表 3.9 に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL 中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.14 示し、増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.15 示す。

    表 3.9. 5 T 中 25℃下における振とう培養測定値 25 区画中の全菌数の測定値 平均値

    a0 33 43 44 39 39 45 38 34 42 31 38.8a1 31 36 42 40 34 41 47 37 35 44 38.7a2 91 93 74 96 102 104 83 73 97 103 91.6a3 124 137 148 122 140 100 108 101 138 101 121.9a4 215 170 150 180 195 135 150 170 165 160 169.0a5 370 315 305 405 355 395 380 315 315 375 353.0a6 440 420 490 460 380 490 490 460 480 560 467.0a7 470 490 470 530 530 480 470 450 410 490 479.0a8 770 650 640 670 740 610 670 700 720 680 685.0a9 910 790 740 810 700 760 690 660 650 690 740.0b0 38 40 37 32 42 35 28 38 46 37 37.3b1 45 39 58 42 47 40 46 43 39 38 43.7b2 126 105 89 129 97 109 87 103 125 106 107.6b3 121 166 133 150 148 141 159 137 176 130 146.1b4 180 180 235 240 235 225 230 245 195 230 219.5b5 400 465 330 345 425 370 425 520 330 385 399.5b6 600 610 560 440 610 600 620 510 640 470 566.0b7 620 500 720 630 540 720 570 580 630 710 622.0b8 650 750 660 660 600 740 700 690 830 710 699.0b9 640 960 630 850 670 660 860 710 850 790 762.0

    35

  • 0 10 20 30

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(5 T)contrast

    Mc

    図 3.14. 5 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性

    0 2 4 6

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(5 T)contrast

    Mc

    図 3.15. 5 T 中 25℃下における増殖期比較

    36

  • 同様に 25℃一定中の 1 T の試料を培養する。まず、最初の試料 a0、b0 は等しく、後の a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 2 時間後、a3、b3 は 4 時間後、a4、b4 は 6 時間後、a5、b5 は 9 時間後 、a6、b6 は 12 時間後、a7、b7 は 16 時間後、a8、b8 は 21 時間後、a9、b9 は 26 時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した結果を、表 3.10 に示す。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.16 示し、増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.17 示す。

    表 3.10. 1 T 中 25℃下における振とう培養測定値

    25 区画中の全菌数の測定値 平均値a0 24 24 33 30 24 20 23 29 36 28 27.1a1 44 36 49 47 40 49 35 37 39 39 41.5a2 63 64 57 52 51 56 57 60 58 61 57.9a3 101 88 97 88 118 104 104 99 105 92 99.6a4 175 245 230 250 245 250 285 265 220 220 238.5a5 380 345 355 360 450 360 360 365 410 430 381.5a6 530 550 470 480 460 500 600 510 480 570 515.0a7 490 440 470 620 630 450 450 770 600 490 541.0a8 510 600 690 680 680 710 520 650 610 630 628.0a9 880 520 880 660 620 700 880 700 700 640 718.0b0 28 30 23 28 28 36 22 25 30 26 27.6b1 39 34 41 42 46 43 40 35 43 44 40.7b2 60 52 74 73 70 59 73 60 54 68 64.3b3 91 110 116 113 94 97 92 103 113 104 103.3b4 305 220 190 265 160 245 260 245 250 310 245.0b5 500 295 415 470 440 355 470 365 405 370 408.5b6 560 570 580 500 480 560 470 630 540 670 556.0b7 650 630 710 700 750 710 600 610 510 700 657.0b8 920 1050 830 830 690 1010 870 750 800 800 855.0b9 740 960 840 900 780 1020 740 980 1040 760 876.0

    37

  • 0 10 20 30

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(1 T)contrast

    Mc

    図 3.16. 1 T 中 25℃下における酵母全菌数の時間依存性

    0 2 4 6

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(1 T)contrast

    Mc

    図 3.17. 1 T 中 25℃下における増殖期比較

    38

  • 最後に 25℃一定中の 0 Tの試料の培養については、前述の 3.2節の通りである。 以上のような温度を 25℃に固定しての、4 種類の磁場強度を変えて振とう培養

    実験を行った。ここで用いた近似式の定数 、 、Mn cn γ について表 3.11 に示す。

    表 3.11. 近似式の定数値(2)

    Mn 、γ cn 、γ

    10 T – 25℃ 610122.3 × 、1.349 610969.3 × 、1.248 5 T – 25℃ 610672.5 × 、0.958 610879.6 × 、0.936 1 T – 25℃ 610746.5 × 、0.972 610582.5 × 、1.043 0 T – 25℃ 610543.5 × 、0.953 610621.5 × 、0.958

    これら 4 種類のうち、磁場をかけた試料で一様に言える事は、増殖期におい

    て磁場をかけた試料の方が対照に比べて増殖が抑えられている点である。温度

    変化と同様、どれ位抑えられているかを知る為に、増殖期の分裂スピードを変

    数 v、d はそれぞれの磁場強度で変わるとすれば、 0=t の点を通るようにして、の近似直線の傾きから求める。これを表 3.12と図 3.18より示す。

    ただし、 は磁場をかけた試料の定数。 を対照試料の定数とする。

    )exp( dvtn +=

    Mv cv

    表 3.12. 各磁場における増殖スピード

    磁場(a) Mv 対照(b)v c 差 Mc vv −

    10 T – 25℃ 0.266 0.309 0.043 5 T – 25℃ 0.286 0.346 0.060 1 T – 25℃ 0.354 0. 359 0.005 0 T – 25℃ 0.366 0.364 0.002

    39

  • 0 5 1010–3

    10–2

    B(T)

    diffe

    renc

    e of

    slo

    pe|v

    – v

    |

    Mc

    図 3.18. 増殖スピード差における磁場依存性 これより、磁場を上げた方が磁場の効果がより鮮明に現れる事が分かった。

    しかし、図 3.18 から磁場効果がある磁場強度によりピークを経た後は、それ以上の効果は現れていない。この事を確証する為、加えてどの強さでもっとも違

    いが現れるのか、さらに細かく磁場の強さを割り振っての、繰り返し実験が必

    要である。 また、酵母の増殖期以外は磁場強度により効果の現われ方が違っていた。10 T

    や 5 T といった高磁場では最終的な飽和状態では磁場印加試料と対照試料とで大きな違いは見られなかったが、1 T においては図 3.16 で見て取れるように磁場を印加した試料の胞和状態が対照に比べて明らかに下回っている。弱い磁場

    だと効果が後から少しずつ現れ、安定期において顕著に効果が生じたと考えら

    れるが、この真偽を問うには低磁場での実験を細かく行う必要がある。 3.3 再現性

    これまで述べてきたように、繰り返し実験を行って再現性を確認する事は大

    変重要である。ここで、同条件で行った実験を示して再現性を確認する。条件

    は 25℃一定下での 5 T の磁場中での培養である。表 3.13 に測定値を示す。試料a0、b0 は等しく、後の a1、b1 は実験開始より 1 時間後に採取し、a2、b2 は 3

    40

  • 時間後、a3、b3 は 4 時間後、a4、b4 は 6 時間後、a5、b5 は 9 時間後 、a6、b6 は 12 時間後、a7、b7 は 16 時間後、a8、b8 は 22 時間後、a9、b9 は 26 時間後に採取した。これらの試料を光学顕微鏡により菌数計算盤上 25 区画中の全菌数を測定した。これらの値の平均値に、式(2.1)を用いて得た 1 mL 中の全菌数と、時間経過による変化をグラフで表したものを図 3.19 示し、増殖期での分裂スピードを表すグラフを図 3.20 示す。ここで、図 3.19 の近似式として

    および を用いた。 077.16M 10714.2 tn ×= 136.16c 10626.2 tn ×=

    表 3.13. 5 T 中 25℃下における再現性実験測定値

    25 区画中の全菌数の測定値 平均値a0 29 28 30 30 24 35 23 32 19 33 28.3a1 37 32 30 26 35 40 31 26 34 32 32.3a2 37 35 42 30 38 30 38 30 35 35 35.0a3 44 40 49 33 49 43 37 48 51 49 44.3a4 75 56 77 54 76 76 55 66 69 65 66.9a5 121 118 110 129 123 122 116 128 130 130 122.7a6 246 245 264 221 223 233 223 223 253 231 236.2a7 390 320 330 380 330 470 480 330 310 460 380.0a8 590 520 570 590 560 560 550 550 500 500 549.0a9 600 640 690 630 660 790 610 610 610 780 662.0

    a10 760 650 650 750 600 930 670 720 580 600 691.0b0 20 25 24 31 29 26 31 33 28 29 27.6b1 27 27 36 39 30 29 35 37 31 39 33.0b2 40 29 27 32 28 41 43 27 37 33 33.7b3 33 34 37 42 25 39 40 52 46 44 39.2b4 69 73 72 73 79 77 71 82 70 77 74.3b5 154 151 149 154 140 132 137 140 137 141 143.5b6 315 334 323 305 312 310 307 356 299 339 320.0b7 450 470 420 430 450 400 470 440 450 450 443.0b8 600 590 670 650 580 550 600 550 660 580 603.0b9 730 840 760 750 640 690 770 600 750 740 727.0

    b10 670 790 840 810 680 840 730 900 640 890 779.0

    41

  • 0 10 20 30

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(5 T)contrast

    Mc

    図 3.19. 5 T 中 25℃下における再現性酵母全菌数の時間依存性

    10

    107

    108

    t(h)

    Yea

    st n

    umbe

    r n ,

    n (1

    /ml)

    MF(5 T)contrast

    Mc

    図 3.20. 5 T 中 25℃下における再現性増殖期比較

    42

  • 酵母増加の立ち上がりは、酵母の前培養の状態によって変わってくる。酵母

    が眠っていた場合、活動を再開するのに時間がかかる事が有る為、最も活動が

    盛んなダブリングタイム中について比較検討しなければならない。この事を考

    慮して図 3.20 より得た増殖期の分裂スピードを、 4=t の点を通るようにして、の近似直線の傾きから求める。ただし、v、d を定数とし、 は

    磁場をかけた試料の定数。 を対照試料の定数とし、表 3.14 に示す。

    )exp( dvtn += Mv

    cv

    表 3.14.同条件での増殖スピード比較

    磁場(a) Mv 対照(b)v c 差 Mc vv −

    5 T – 25℃ 1 回目 0.286 0.346 0.060 5 T – 25℃ 2 回目 0.208 0.264 0.056

    1回目と2回目の分裂スピード Mc vv − の差が0.004と違いはほとんど無かった。

    これより、同条件下においての再現性が確認できた。

    43

  • 第4章 まとめと今後の課題 4..1 まとめ 本研究において、高磁場中での酵母の活動に影響があるかどうかを検証する

    為に、温度と磁場強度の二観点から実験を行った。まず、磁場を発生させずに

    培養環境のみ磁場発生時と同様にして実験を行った際は、マグネット内の試料 aと対照 b において違いは皆無だった事を先に述べる。この事を踏まえた上で、今回の実験を通して二つの結論に達した。 ●まず、培養温度が高い場合、酵母の増殖活動の要因である温度依存が強い為、

    磁場効果が見えにくくなった。その為、培養温度は酵母活動の影響に支障が無

    い程度に低く抑えると最も磁場効果は表れる事が分かった。本実験においては、

    10 T 中 20℃下において、磁場印加試料の方が対照に比べて増殖期における酵母数が最大で 0.7 倍抑えられた。 ●酵母の増殖期での磁場強度による効果の違いについて、0~5 T 間でのある磁場の強さまでは、磁場印加試料の方が対照に比べて増殖が抑えられた。この効

    果は磁場が強くなるにつれて顕著になっていくが、効果のピークを過ぎればそ

    れ以上での強い磁場を印加しても効果は期待できない。 また、安定期においては 1 T 中 25℃下で最大 0.7 倍増殖が抑えられ、その効

    果が顕著に表れた。よって、酵母活動の各ステージにおいて磁場の影響がそれ

    ぞれ違ってくる可能性がある。 本実験において、全条件において一様に言える事は、酵母の増殖期において

    磁場を印加すると増殖活動が抑えられるという点である。この事に関しては全

    ての実験において効果は表れ、再現性も高いと考えられる。しかし、磁場強度

    依存における磁場効果を立証する為には、さらに磁場強度条件を細かく割り振

    り、実験を重ねて再現性がある事を述べる必要がる。

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  • 4..2 今後の課題 磁場を印加した事で、酵母内のどの細胞に影響を及ぼしたのか、またその原

    因については特定していない。原因究明に当たり、遺伝子操作によって作られ

    た酵母変異株を用いる事により、特定の細胞での効果を検証する価値がある。 また、日本酒を造るといった実用段階においては、本実験では日本酒酵母で

    はなく実験酵母の使用や、酒造は 15℃程度で行われるが実験期間の短縮化を狙い 25℃前後での実験も行った。これらの培養条件の変更により、磁場の影響がまた違ってくる可能性は十分考えられる。また、一度に磁場を印加できる量に

    限りがある為、酒造する際においてはなんらかの工夫や装置の開発が必要であ

    るが、マグネット径内容積以上の磁場酒製造は困難な為、酵母のどの成長段階

    で影響が顕著か、磁場の印加時間との因果関係等を付きとめ、できるだけ短期

    間で試料を入れ替えて酒造する方法や、マグネット外程度の磁場の強さでも十

    分影響が現れるならば、装置周辺での酒造を検討するといった事が必要である。

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  • 謝辞

    本研究は私一人の力では到底行う事はできませんでした。各分野のエキスパ

    ートの方々の指導、助言といった温かく見守って下さる環境下で初めて、研究

    を行う事ができました。多大な御指導、助言をして下さった九州工業大学の 松下照男先生、木内勝先生。私の研究と人生を導いて下さった小田部荘司先生。

    生物学の観点から多大な御指導と、毎回の試料の準備をして下さった仁川純一

    先生。失敗の実験でさえ価値がある事を教えて下さった福岡大学の松本泰國先

    生。麹汁を作って頂いた福岡県工業技術センターの大場孝宏先生。酵母の実験

    方針にアドバイスを下さった福岡国税局鑑定官の木曽邦明先生。装置のサポー

    トをして下さったアルバック九州株式会社の瀬戸氏に深く感謝致します。また、

    松下・小田部研究室の皆様や、福岡大学での実験を応援してくれた両親に感謝

    致します。

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  • 参考文献

    1)柳島直彦、酵母の生物学(東京大学出版会) 2)S. Horiuch, Y. Ishizaki, K. Okuno, T. Ano, M. Shoda, Bioelectrochemistry

    149-153 (2001) 53. 3)M. Ikehata, M. Iwasaka, J. Miyakoshi, S. Ueno, T. Koana, Journal of

    Applied Physics 10 (2003) 93. 4)太田照男、新しい電磁気学(培風館) 5)山村泰道、北川盈雄、電磁気学演習(サイエンス社) 6)北澤宏一、尾関寿美男、谷本能文、山口益弘、磁気科学(アイピーシー) 7)尾瀬あきら、夏子の酒(講談社) 8)三浦登、磁気と物質(産業図書) 9)志賀健、宮本博司、上野照剛、磁場の生体への影響(てらぺいあ)

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