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調節弁のキャビテーションについて
ID1-8000-4600
計装資料
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目 次
1. はじめに.......................................................................................................................................1
2. キャビテーションとは .................................................................................................................1
3. キャビテーション・エロージョンとは ........................................................................................1
4. キャビテーション・エロージョンの事例.....................................................................................2
4.1. キャビテーションの発生度合いを表すキャビテーション係数 KC .......................................... 4
4.2. キャビテーション・エロージョンに対する調節弁の対応 ...................................................... 5
4.2.1. 材質面での対応 .................................................................................................................5
4.2.2. 構造面での対応 .................................................................................................................7
5. おわりに.....................................................................................................................................12
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1. はじめに
調節弁は各種プラントにおいて、圧力、流量、温度、液面等のプロセス変数を制御する操作端として
重要な機能を担っているが、調節弁が使用される流体条件は極めて幅広く、キャビテーションが発生
するような厳しい条件下で使用されるケースも避けられない。
ここではキャビテーション及び、キャビテーションに起因して発生が懸念される調節弁内部のエロージョ
ン(壊食)への対応について述べる。
2. キャビテーションとは
以下に、調節弁内部で発生するキャビテーションについて述べる。
キャビテーションは、流体が調節弁内部を通過する過程で、最大流速時、流体圧力が、その流体の飽
和蒸気圧以下に下がり、その後再び飽和蒸気圧以上に圧力回復する過程で流体中に生じる一連の
気泡の発生と消滅による現象である。
流体が調節弁内部を通過する場合、調節弁の流路面積の減少に伴い流速が増加し、それに伴い弁
一次側圧力(P1)は徐々に低下する。最縮流部通過直後に流体が最大流速に達し、流体圧力が最も
低下する。この圧力をベナ・コントラクタ圧(PVC)という。その後の流路の拡大により、流体圧力は弁二
次側圧力(P2)まで回復する。ベナ・コントラクタ圧(PVC)が流体の飽和蒸気圧(PV)より低下した場合に、
流体の一部が沸騰して気泡が発生する。その後、流速が低下し、弁二次圧力が流体の飽和蒸気圧よ
り上昇した場合、この気泡が消滅する。この気泡発生から消滅に関わる一連の現象をキャビテーション
と言う。
弁二次側圧力が流体の飽和蒸気圧より低い時、気泡は消滅することなく二次側へ流れていく。この場
合の現象をキャビテーションと分けてフラッシングという。
図 1 に調節弁の内部を通過する流体の圧力・流速変化の様子を示す。流体は最縮流部(図のバルブ
ではバルブプラグとシートリングの隙間)を通過するときにその流速が最大となり、圧力降下も最大とな
る。この時の圧力 PVC が流体の飽和水蒸気圧を下回ると気泡が発生し、その気泡が圧力の回復ととも
に崩壊することで、非常に大きな衝撃圧を発生させる。この崩壊が調節弁本体、もしくは内弁の近傍で
起きると、深刻な機械的損傷を引き起こすこととなる。
3. キャビテーション・エロージョンとは
キャビテーション現象において、発生した気泡が弁二次側の圧力回復により消滅するときに生じる数
百気圧にも達する衝撃圧により、近傍の部品にエロージョン(壊食)が発生すると考えられる。
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図 1 調節弁内部の流体圧力の状況
4. キャビテーション・エロージョンの事例
実際に発生したキャビテーション・エロージョンによる調節弁損傷の例を写真 1~写真 4 に示す。 写真 1 に示した例のように、弁選定時には流体条件が不明で、問題が発生して初めてキャビテーショ
ンが発生し得る条件であったことがわかる場合も少なくない。
流体名:温水
P1:---
P2:---
全開差圧:---
全閉差圧:---
温度:---
比重:---
材質:SCPH2
KC:---
使用期間:2 年 8 ヶ月
写真 1 エロージョン事例 1(偏心回転弁ボディ)
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流体名:温水
P1:3.9 MPa
P2:2.0 MPa
全開差圧:1.9 MPa
全閉差圧:---
温度: 200℃
比重:---
材質:SUS630
KC:0.78
使用期間:不明
写真 2 エロージョン事例 2
流体名:冷却水
P1:1.6/1.6/1.6 MPaG
P2:0.2/0.03/-0.03 MPaG
全開差圧:1.4MPa
全閉差圧:1.63 MPa
温度:25/ /25℃
比重:0.996
材質:SCS14 ステライト盛金
KC:0.96
使用期間:4 年
写真 3 エロージョン事例 3(偏心回転弁プラグ)
プラグ
シートリング
ステライト盛金
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流体名:純水
P1:117/150 kgf/cm2
P2:--- kgf/cm2
全開差圧:--- kgf/cm2
全閉差圧:169 kgf/cm2
温度:125℃
材質:SUS316 ステライト盛金
KC:---
使用期間:3 ヶ月弱
写真 4 エロージョン事例 4(ケージ単座弁)
4.1. キャビテーションの発生度合いを表すキャビテーション係数 KC
キャビテーション現象の度合いを表す指標として次式に示す“キャビテーション係数”が定義されている。
V1
21C PP
PPK−−
=
ここで
KC:キャビテーション係数
P1:弁一次側圧力(絶対圧)
P2:弁二次側圧力(絶対圧)
PV:飽和蒸気圧力
KC が大きくなるほどキャビテーションは発生しやすくなる。
なお、KC が同じでも弁の形状やサイズの違いなどの寸法効果により、影響の度合いは異なる。弊社で
は KC が 0.5 を超えた場合は次節に示すキャビテーション・エロージョンに対する対応が必要であるとし
ている。
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4.2. キャビテーション・エロージョンに対する調節弁の対応
キャビテーション・エロージョンへの対応としては、大きく分けて構成部品の材質面と調節弁構造面で
の対応が挙げられる。
1. 材質面での対応
気泡の消滅時に発生する衝撃エネルギーに耐え得る材質の選定
2. 構造面での対応
キャビテーション自体の発生を抑制する構造
発生した気泡を調節弁構造物から離れた位置で消滅させる構造
以下に代表的な対応方法について述べる。
4.2.1. 材質面での対応
1) 弁本体への対策
軽度のキャビテーション・エロージョンや蒸気・熱水によるシート部エロージョンが想定される場合は、
内弁(プラグ、シートリング、ケージ等)の硬化処理または硬度の高い材料を採用することが有効で
ある。
プロセス流体が熱水や飽和蒸気などで、バルブの縮流部でキャビテーション、フラッシングや蒸気
の凝縮によるドレンが発生すると、弁本体ニ次側や内弁絞り部の金属表面に浸食現象が現れる。
この場合、機械的強度の高い材料を採用することにより侵食を抑制し、長寿命化が図れる。
耐エロージョン材料としては、「硬度の高い材料、靭性や疲労強度に優れた材料(Cr-Mo 鋼、ステン
レス鋼など)」が適している。なお、100℃以上の熱水には、Cr-Mo 鋼またはステンレス鋼の使用が
望ましい。
KC が 0.5 以上になる場合は、キャビテーション・エロージョンの対策を推奨する。弁本体については
弁構造により影響が大きく異なるため、この数値はあくまでも目安である。
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2) 内弁への対策
内弁(プラグ、シートリング、ケージ等)の損
傷が予測される場合は、硬化処理を施した
材料を選定する。硬化処理はフラッシング
やキャビテーション・エロージョンが予想さ
れる流体やスラリー成分を含む流体に適用
されるが、一般的には流体条件から図 2に示す範囲を目安にしている。
また、流体温度や常用差圧から硬化処理
が不要と判断される場合でも、スタートアッ
プ時に長時間にわたって過酷な条件での
運転が予想される場合には硬化処理を行
う必要がある。
以下に代表的な硬化処理を紹介する。
(1)熱処理硬化によるもの
a.析出硬化系ステンレス鋼(SCS24、SUS630)
17Cr-4Ni-4Cu の成分材料で主にケージ弁、偏心軸回転弁用の硬化処理として使用される。
本体材料が炭素鋼または Cr-Mo 鋼の場合に適用する。耐食性は SCS13A とほぼ同等となっ
ている。
b.マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)
Ni を含まない 17Cr マルテンサイト系ステンレスで主に単座弁用の硬化処理として使用される。
本体材料が炭素鋼または Cr-Mo 鋼の場合に適用する。
100℃以上の熱水やミストを含む蒸気、耐キャビテーション・エロージョン対策に使用される。
(2)盛金硬化によるもの
ステンレス母材に盛金(溶接)を行うもので、以下の種類がある。
a.コバルト基合金(例:ステライト)
W・Cr・Co の合金で耐エロージョン用として、プラグ、シート部の表面に溶接盛金して使用す
る。硬度が高く、耐食性に優れる。
b.Ni 基合金(例:コルモノイ)
Ni・Crを基本とし、BまたはMoを含むもので、ステライトと同様にプラグ、シート部の表面に盛
金して使用され、有機酸やアルカリに対して優れる。
図 2 硬化処理を必要とする温度・常用差圧範囲
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4.2.2. 構造面での対応
弊社ではKCを目安にして、添付参考資料:キャビテーション・エロージョンに対する調節弁選定例一覧
に示す、さまざまな調節弁を用意している。以下に代表的な構造を説明する。
1) ケージ単座弁
高差圧条件で単座弁を使用する
場合、ケージ形単座弁を選択す
ることで、弁本体の形状を変更す
ることなく、キャビテーション・フラ
ッシング対策を行うことができる。
高差圧条件ではキャビテーション
が発生しやすくなるため、通常の
単座弁では図 3 上に示したよう
に流体がポート部を通過した際に
発生した気泡が弁本体部内壁付
近で消滅するなどしてエロージョ
ンを引き起こすことがある。
この対策として、図 3 下に示すケ
ージ単座構造を採用することによ
り、気泡はケージ穴を通過して下
流へスムーズに運ばれるため弁
本体部内壁付近への直撃を防ぐ
ことができる。
2) 多孔ケージ弁
この形式は図 4 に示すように、ケージに多数の小穴を
設けた構造で、流路を細分化することにより流体のエ
ネルギー分散を狙っている。また、各小穴から出た噴
流が対向する噴流とケージ内壁面から離れた中央部
で衝突することにより、圧力が回復し、ケージ壁面での
エロージョンを回避している。
図 3 ケージ形単座弁
図 4 多孔ケージ弁
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3) ラビリンストリム形弁
急激な減圧がおこなわれる液体サービスに使用さ
れる調節弁では、プラグとシートリングそれぞれの
シート部が、発生したキャビテーションによるエロ
ージョンを受けて損傷し、その結果、弁全閉時の
シートリークが増大してしまうことがある。
この対策として、図 5 に示すようにプラグとシートリ
ングのシート部の下流側に、流体抵抗となるラビリ
ンス構造を採用することで、キャビテーションの発
生位置をシート部の下流側に移動させることがで
きる。
流体がプラグのラビリンス(迷路)部を通過する時
に、急拡大、急縮小を繰り返す。このラビリンス部
が流体抵抗となりエネルギーが放出され、通過後
にその流体の圧力が低下する。その結果、シート
部近傍でのキャビテーション・エロージョンの損傷
を避けることができる。
4) 多段減圧構造
多段減圧構造とは、図 6 に示すように多段階の減圧機構により入口圧力を段階的に減圧させるこ
とで最縮流部の圧力を PVC 以上とすることにより、キャビテーションの発生を抑制する。調節弁の 2次側にオリフィスを付加する場合(後述)と比較し、広い開度領域で減圧効果を高められる。
図 6 多段減圧構造
図 5 ラビリンストリム形弁
圧力 [絶対圧]
PV P2
P1
調節弁内部の位置
入口
出口
多段減圧
一段減圧
最縮流部 PVC
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上記の構造に加えて、図 7 に示すように流し方向を横か
ら下へとすることで、キャビテーション気泡を下流配管へ
スムーズに流すことにより壁面の損傷を防止する方法も
ある(アングル弁)。但し、この場合は下流配管への考慮
(十分な直管長を持たせる等)が必要である。
4-1)多孔多段減圧構造
この弁は、4 個のケージを積層し、
入口部と出口部のケージに多孔
部を設けて 2 段階の減圧機構とし、
中間部に 3 段のコンタード形プラ
グを組み込み、精密な流量特性
を実現する(図 8 参照)。
また全閉状態において使用され
ることも想定し、シート着座時に流
体中の微小なスケールが着座部
にかみ込まれ、極めて微小な流
路をキャビテーション流が通過す
ることを防ぐ工夫が必要となる。本
構造では、コンタードプラグの第 2段・第 3 段のプラグ肩部とケージ
ポート部に嵌合部を設けて微小
流れに対する抵抗要素とし、上流
側の第 1 段プラグに加工されてい
るシート部の壊食の進展を、抑え
る構成としている。
使用例:高圧ポンプミニマムフローライン
図 7 多段減圧構造(アングル弁)
図 8 多孔多段減圧構造
トリム
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4-2)二段減圧オリフィス構造
この構造は、図 9 に示すように、プラグ縮流部とオリフィスにより減圧を分散することで、キャビテー
ションの発生を抑制する。シート材に高硬度のタングステンカーバイトや焼結ダイヤモンドなどを使
用できるので、キャビテーション・エロージョン以外にスラリーによるアブレージョンなども抑えられる。
使用例:尿素プロセス、高圧スラリーライン
4-3)二段減圧遊動シートリング
この構造は、図 10 に示すように縮流部を 2 箇所設け、減圧を分散させキャビテーションを抑制する。
一段目のシートがエロージョンにより機能しなくなった場合は、シートリングが流体圧により上方へ移
動することで、二段目のシートが機能するため、延命が図られる。
使用例:ボイラー制御ライン
図 9 二段減圧オリフィス構造
図 10 二段減圧遊動シートリング
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5) オリフィスプレート
バルブ下流側配管に図 11 に示すようなオリフィスプレートを設置し、バルブにかかる圧力を分散し
キャビテーションの発生を軽減する。
図 11 オリフィスプレートの設置
オリフィスプレートは Cv 値が固定して
いるため、図 12 に示すようにバルブ
の開度によってその効果が異なり、バ
ルブ開度が高いほどオリフィスプレート
部での減圧比率が高くなり、より高い
効果が得られる。なお、多孔タイプを
採用することで、整流効果が高まり、2次側配管のエロージョン低減効果も得
られる。
図 12 オリフィスプレートの動作特性
オリフィスプレート
バルブ開度 (%)
圧
力
配
分
(%)
0
100
100
オリフィスプレート
バルブ
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5. おわりに
キャビテーションの発生に起因する要素は極めて多いとされている。
主要なものでは、流体と弁本体および内弁の接触面の形状や性状、流速や圧力の変動、液体の物理
的性質、液体に溶解している物質などがあり、これらを考慮した厳密な一般的理論は確立されていな
い。これは、キャビテーション・エロージョンの発生及びその影響を完全に予測することは困難であるこ
とを意味する。
本資料で紹介した様々な対策は、キャビテーション・エロージョンの影響をできる限り低減するために、
以下の方針に沿って考えられたものである。
(1) 材料面では、耐キャビテーション・エロージョン性に優れた材料を選定する。
(2) 構造面では、キャビテーションが発生した場合、その影響が圧力容器である弁本体、もしくは配管
におよんで損傷するのを極力避ける。すなわち、万一キャビテーションが発生してもその影響がで
きる限り内弁にとどまるように調節弁を設計する。
キャビテーション・エロージョンの発生が懸念される調節弁を長期にわたり安全に運用するためには、
調節弁の重要度に応じて定期的な分解点検を実施し、必要に応じて内弁交換を推奨する。
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参考資料:キャビテーション・エロージョンに対する調節弁選定例一覧
Note
資 料 番 号資 料 名 称
ID1-8000-4600�調節弁のキャビテーションについて
発 行 年 月発 行
2013 年 7月 初版アズビル株式会社