酸性硫酸塩土壌の発現とその対策いる(松尾1991).おおよそo1%である.これは...
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酸性硫酸塩土壌の発現とその対策
誌名誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture
ISSNISSN 03695247
著者著者 水野, 直治
巻/号巻/号 91巻4号
掲載ページ掲載ページ p. 413-420
発行年月発行年月 2016年4月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat
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413
酸性硫酸塩土壌の発現とその対策
水野直治*
〔キーワード〕.イオウ,海成粘土,酸性硫酸塩土
壌,硫化水素,硫化鉄
1. はじめに
酸性硫酸塩土壌とはイオウ化合物が異常に高く
存在し,酸化条件で強酸性になる土壌のことである.
高含有率のイオウを含む土壌は現在陸地であって
も,太古に海あるいは汽水にあって粘土の堆積で出
来た海成層,あるいはさきに報告した十勝岳泥流の
ように火山活動による火山砕屑物の堆積層や母岩
がイオウ化合物を含む熱水によって変性し,これか
らできた土壌である(水野 2016).
これらの酸性硫酸塩土壌が現代の大型土木機械
による改良山成工などの農地造成,あるいは客土材
料として搬入され,多量のイオウが農地に付加され
る場合がある.イオウが還元性の土中深く存在する
問,土壌は中性であるが,地上に現れ空気に触れて
酸化されるとイオウ化合物(多くは硫化鉄FeSまた
は二硫化鉄FeS2)は強酸性の土壌(pH2~4)に変
わる.
酸性硫酸塩土壌の問題は農地の基盤整備に限っ
たことではない.著者に持ち込まれた問題でも,高
速道路建設に伴う多量の土壌の掘削によって海成
粘土が使われ,そこから流れ出る酸性水で養殖泥舗
が死滅したとか,河川|築堤を行い,被覆の芝が何度
蒔きなおしても枯れ上がるので原因はなにかとい
うもので、あった. これらはみな酸性硫酸塩土壌のた
めに起こった事故であった
2. 海水に起因する酸性硫酸塩土壌と
熱水変質由来土壌
1)海成粘土
海水にはイオウ(S)として 926mg/kg含有されて
いる(松尾 1991).おおよそ O1%である.これは
日本の河川水イオウ含有平均値(小林 1971, so/ーとして 10.6ppm)の 260倍になる.一般に海水中で
は硫酸イオンとして存在するが,これが何らかの条
件で酸化還元電位が低い還元条件になると鉄イオ
.元酪農学園大学獣医学研究科(NaoharuMizuno)
ンと結合して硫化鉄(FeS)あるいは二硫化鉄(パ
イライト Fe2S))となり沈殿し,粘土と共に海底に
堆積する.これが海成粘土である.
特に湾などの閉鎖されたところに洪水などで土
砂が流れ込み,貝類などが多量に死滅腐敗すると海
水の還元化が進む.このようなところでイオウはマ
イナスイオン(S2一)となって鉄イオンと結合し,粘
土とともに沈殿してイオウ含有率の高い海成粘土
ができる.クボタ鉄工が調査した,かつて大阪湾
だ、った土地の海成粘土の柱状図を図 lに示す(アー
バンクボタ 1984)
図Iからも明らかなように,柱状図の深さは800m
にも及ぶが,海成粘土も均一にイオウを含んでいる
のではなく ,層によって値にバラツキがある.これ
は聞に火山灰を挟んでいるためばかりではなく,そ
の時々の還元電位の差やそれに係わる有機物の存
在量でも変化するものと思われる.
地層名深さ s (m) (%)
柱状図
。nHv
nu
層
層積丘積
沖段堆
200
300
400
大阪500
層群
600
700
800
図l 大阪市田中元町のボーリング柱状図アーバンクボタ(1984)
0369-524 7 /15/¥500/1論文/JCOPY
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414 農業および園芸第 91巻第4号 (2016年)
2)北海道における酸性硫酸塩土壌の分布
図2は北海道開発土木研究所で調べた酸性硫酸塩
土壌の分布を示す.これからも分かるとおり,酸性
硫酸塩土壌は日本海沿岸に沿って圧倒的に多く,特
に新第三紀層(2300万年~258万年前)の海成粘土
で見出される一方,熱水変質土壌は千島火山帯(巽
2012)に属する後志管内で見出される.この地帯は
温泉やかつては重金属鉱山の多かった地帯でもあ
る.熱水変質土壌とは,マグマが冷えて固まるとき
に,マグ、マから分離したイオウを多量に含む熱水の
作用を受けた岩石に由来する土壌である
問題の発端は,この地帯を流下する尻別川の築堤
にこの土壌が使われ,堤防を覆う芝を何度播種して
も枯れるということで相談を持ち込まれた.芝が生
育しないと工事完了の検査が通らないのである.現
場に行き, pH メータで測ってみると,堤防の土壌
のpHは2~3の強し、酸性を示した.そこで炭酸カル
シウムを施用し,中和しないと芝は生育しないとの
助言を行った経緯がある.
以下報告する現地の問題は,いずれも図 2の地域
内にあり ,問題が発生してから対策法の助言を求め
られ,あるいは現場で指導したものである
Q
広島盆X火白骨蝿拘A働水嚢貿鋤
3. 現地に発生した問題と対策
1)海岸近くの水田に発生した酸性硫酸塩土壌
イネ生育障害土壌
問題は,岩内町近くの日本海から !km以内の水
田で発生した(図 3,4).最初は水田に雷が落ちて
イネが消えているとのことであった.現地に行って
みると,イネは明らかに秋落ちイネの症状であり,
根は黒くぼろぼろの状態であった(写真 I).
本地域は 1981年に基盤整備を行ったが,障害の
発生は切土の部分で、あった.障害は当年にもあった
が,翌年はさらに被害が拡大し,調査と対策の依頼
があった.1983年に直径 lOcmの円筒状のパイプで
土壌を lmの深さまで採取し, 20cmごとに土壌を分
け,乾燥後アノレカリ溶融法による全イオウの分析
(Purvis and Peterson 1956)を行った.結果を図 5
に示す.
土壌は砂質土,粘土あるいは泥炭が交互に層をな
しており,園 5からも明らかなように,イオウの含
有率はその泥炭層で特に高いもっとも高い泥炭は
Clの40~60cmに位置する泥炭で,イオウの含有率
は 10%にも及ぶものもあった.泥炭層でなぜこのよ
うにイオウ含有率が高いのか明らかではない.近く
海鼠・沖積層;.世
・溝碩’I。絹鱒32庸}:化石的
書簡3紀膚j
〈〉淘歳竃
、p.
図 2 各種の酸性硫酸塩土壌が見いだされた地点石渡(1995).
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水野 :酸性硫酸塩土壌の発現とその対策 415
図 3 イネの障害発生場所
写真 l イネが消えた周りのイネ
を流れる掘株川の上流に温泉や重金属鉱山が存在
したことも一要因かも しれないが,銅などの重金属
含有率は 30mg/kgの一般土壌のレベルで、あること
から,鉱山の影響は考えられない. この地区は標高
が3m程度であることから,縄文の海進の時期には
海中にあったものと考えられ,海水の影響があった
のかも しれない.いずれにしても,切り土によって
下層にあったイオウが出てきたのである.
水田は土壌の酸化還元条件でpHが上下し一定し
ないので,畑土壌状態での pHを知るため,土壌を
1%の過酸化水素に 24時間浸漬放置し,その後 pH
E C3
C4 Cl /づ
85
A4
A5
図4 ほ場の調査地点
を測定した.イオウの含有率が 01%以下のところ
で pH4.5 の正常な値を示した以外はいずれも
pH2.0~3.8のきわめて低い範囲にあり,大部分は
pH2.0~2.5の範囲にあった.改良に当たっては,下
層のイオウも還元条件で、は硫化水素のガス状とな
り,下層から上昇してくるので,作土のみの改良で
は問題の解決にはならないと考えた.
そこで改良に当たっては,①イオウを石灰で中和
する,②置土する,③下層のイオウを暗渠で除去す
る,が挙げられる.置土に先立ち,ここでは地表下
80cm 付近に暗渠排水があるが,置土をするとさら
に深い位置になるのと, イオウをできるだけ作土に
上がってくる前に除去するため,この暗渠より上部
30cmに集水管をさらに埋設した 石灰の施用量は
イオウの平均含有率を 0.5%とし,これが全量硫酸
イオンになった場合にこれに見合う石灰を粗砕炭
酸カルシウムで施用した.その量はつぎのとおり .
表層から 30cmの土量は
300t×0.5% (S)×3=4.5t/10a
である.0.5×3はイオウが硫酸イオンとなり ,この
中和に必要な炭酸カルシウムはイオウの重量の3倍
(当量比は 1: I)になるからである.さらに有毒な
硫化水素が発生することを考え,この防止のための
鉄材として,転炉砕(Cao:45~53%, MgO : 6%,
P20s・2~3%,Si02: 13~15% , MnO: 2~4%, Fe305:
15~18%) lt/lOaを置土に混入した.その他鉄材施
用によるリン酸欠乏の発生を考慮、して,その対策と
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416 農業および園芸第 91巻 第4号 (2016年)
Al
JJ長 Cl
M
主ョむ
LμL]
GhFIL 札口
四[七C4 円コ
lトIi
E
晶一
イオウ宮有率fS%)
図 5 調査地点の土壌層位別イオウ含有率C:粘土, S 砂土, P 泥炭
表 1 7月中旬の排水の pHとSO/濃度
排水口 pH
A 6.0
B 5.3
B 5.1
c 6.4 c 3.2
かんがい水 6.5
掌上 ー新設の集水管,
担乙並佐]15
87
128
22
93
0
下旧集水管
してようりんを 100kg/10a施用した.
改良年秋の収穫後土壌pHは5.6~6.9におさまり,
イネの障害は見られなかった.また,暗渠排水から
流れ出る硫酸イオンも旧設置集水管と新設置集水
管の双方からも流れ出るが,下層からの流出の方が
明らかに高かった.
以上のように,酸性硫酸塩土壌の酸性矯正は一般
の酸性土壌の改良とは異なり,中和に必要な石灰量
が桁違いに高いことである.
j毎成粘土客土による被害:
図2にも示されているように,北海道では多くの
海成粘土の分布がある.ここで示す例は,図 2の20
番の地点であるこの地帯は樽前山の火山灰土地帯
で,水田で、は漏水の問題があった.そのため補助事
業で、200haにもおよぶ大規模な客土事業が行われた.
問題が現れたのは事業の翌年の春である.
これらの事業では,客土材料は粘土含有率(36%
以上)と pHの測定だけで済まされていた.したがっ
てイオワの含有率を測定することはなった.海成粘
土を掘り出した時点では硫化鉄や二硫化鉄である
ため, pHは中性であり,客土材として使用許可が
下りる.また,農家もそれまで、漏水に苦しんできた
ために粘土含有率の高い暗青緑色(海成粘土の色で
ある)の粘土を望んだ客土材料中のイオウは半年
か l年で硫酸に変わり,強酸性を呈する.そして写
真2の状態になる.その後のほ場は写真3のように
全く植物の育たない土壌に変わった.
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水野酸性硫酸塩土壌の発現とその対策 417
写真2 海成粘土客土ほ場の雪解け後のほ場この後これらの秋まきコムギは枯死する。
写真4 海成粘土(新第三紀)掘削当初はH音育緑で, pHは中性.
写真4はこの土とり場である.掘り出した当時は
暗青緑色であったが,半年も経てば黄褐色に変化し,
酸性化するこの時点、で pHを測定すればわかるが,
そのような規則はない.ここでも客土した粘土のイ
オウ含有率は l~2%にも達し,広大な農地は多量の
炭酸カノレ、ンウムの施用で土壌の中和がなされた.ま
た,ここでは I)で示したような下層にイオウが存
在しないので,客土中のイオウの中和で対策は済ん
だ.
2)熱水変質酸性硫酸塩土壌
問題発生の経緯
この問題が発生したのは,図 2の 32番の地点で
ある.客土に用いた酸化した原土の pH (H20)は
2.0であり,過酸化水素によって酸化させた後の pH
(H202)は, 1.4と極端に低い.客土した水田は写
真5のようにイネはほ場の半分にようやく生き残っ
ていた.客土土壌を採取した小高い山は地元では以
写真3 植物の消えた海成粘土の客土地
写真 5 熱水変質酸性硫酸塩土壌客土水田の被害
前から木の生育の悪い山として知られていた.客土
材料の土壌はこの山の土壌であった.
客土した水田作土のpHは2.8~5.1の範囲にあり,
特に畑土壌では pH3以下の強い酸性土になった.
土壌の改良のための酸性矯正に要する石灰施用量
は,先にも述べたようにイオウ(S)と当量の炭酸
カル、ンウム量とした.すなわち S:Iに対し,炭酸
カノレ、ンウムは重量として 3倍とし,改良する作土の
土壌量は lOa当たり 150tでイオウの量を計算した.
このようにして必要な石灰を求め,施用した.その
後でイオウを含まない土壌をその上に置土し,新し
い作土とした.
改良の対象となったほ場別の改良前 pH,イオウ
の含有率,必要な石灰量,客土量および改良後の土
壌 pHを表 2に示した
酸性矯正だけで解決されない水田土壌
表2のようにイオウと当量の炭酸カルシウムの施
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418 農業および園芸第91巻第4号 (2016年)
表2 土壌pH,イオウ含有率,石灰施用量,客土量および改良後土壌pH
ほ場No. 改良前pH s % CaC03 t/lOa 客土の深さ(cm) 改良後£H4.1 1.21 2.5 10 5.8
2 3.1 0.61 3.2 15 5.4
3 4.1 0.53 1.9 10 6.9
4 3.7 0.91 2.8 10 6.3
5 4.9 0.44 1.9 5 6.5
6 4.0 0.30 0.8 5 6.5
7 3.6 1.23 1.3 10 6.2
8 4.9 0.88 0.5 10 6.9
9畑土壌 2.8 0.64 1.9 15 6.6 *上:新設の集水管,下 旧集水管
表3 改良4年後の土壌pH,イオウ含有率およびイオウの残留率
ほ場No. pH (H20)
作土 下層土5.3-6.2 4.9-6.6
2 5.9-6.5 5.3-6.4
3 5.4・6.7 6.0-6.7
4 4.6・6.0 5.5-5.7
7 5.0-5.2 4.6-5.5
8 5.7・6.4 6.0-6.4
9畑土壌 5.7・6.0 5.3-6.2
下層土は改良前の作士.
用で、酸性矯正は可能で、あった.しかし水田土壌では
それで済まない問題がある.土壌の還元条件で生じ
る硫化水素(H2S)である.イネは硫化水素で根が
腐食し,秋の落水とともに枯れ上がるのが秋落ち水
田である.化学肥料を使うようになった昭和 10年
代から昭和 20年代にかけて大きな問題となり(大
杉・川口 1938),国の事業としてこの対策がなされ
てきた.硫酸根を含む肥料を水田に使用しなくなっ
たのはこのためである.
もし窒素肥料 9kg/10aを硫安で施用すると,イオ
ウ(S)としてはほぼ 10kg/10aの施用となる. 10年
で100kg/10aの施用である.作土の土壌量を 100t/10a
として計算すると,土壌当たりのイオウの施用量は
10年で 0.1%となる.これに比較し,客土で入るイ
オウは桁外れで、ある.表2からも明らかなように 1%
を超える土壌が出てくる.硫安の使用 10年で施用
されるイオウの 10倍ものイオウが,酸性硫酸塩土
壌で入る計算となる.
北海道の水田土壌169点を土壌別に調べたイオウ
含有率は平均値が 0.06%であり,その中で 0.05%を
超えたのは灰色低地土,グライ低地土,泥炭土のよ
s (%) Sの残留率作土 下層土 (%)
0.10司 0.22 0.34-0.58 43-60
0.03-0.15 0.03”0.20 11-51
0.04-0.13 0.15-0.65 51-107
0.08・0.20 0.o7・0.43 35-100
0.11-0.33 0.43圃0.86 58・94
0.10・0.15 0.10・0.30 34・40
0.04-0.07 O.o3・0.o7 15-18
うに還元条件になりやすい土壌のみで、あった(水野
1989).したがって,イオウ含有率が 0.1%というの
は高含有率に入る.
表3は水回土壌に入ったイオウがどの程度流出す
るか,中和,客土 4年後に再調査した結果である.
土壌の pHは4年後でもイネの生育に支障のある値
でないが,イオウの流失は進んでいないことがわか
る.客土材料にはほとんどイオウが含まれていな
かったにも関わらず,その客土で構成されている作
土は下から上昇してきたイオウで高まり,中にはほ
とんどイオウの流失していないところも見受けら
れた.これに対して畑土壌ではいずれも S含有率が
0.1%以下の一般的な土壌に近い低い値まで低下し
ていた.
酸化鉄とイオウ:
高イオウ土壌で水稲を硫化水素から守るにはど
うするか.これは他の有害物質対策と同じく有害物
質を不活性にすればよい.硫化水素の場合は硫化水
素の水素と鉄を入れ替えれば不溶性の硫化鉄とな
る.村上(1965)によると酸性硫酸塩土壌は多量の
酸化鉄を持つので,酸化還元電位は高く維持され,
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419
図 6
は 1.36±0.66%で、あった(水野 1989).これから見
てもこの土壌の流離酸化鉄が特に低いのではなく ,
イオウ含有率が異常に高いのである.したがって対
策と してはイオウの除去を考えるべきで,表 3から
も明らかなように,方法は酸性矯正後,2~3年間を
畑土壌状態にしておいてから水田に戻すことが現
実的だろう .
酸性硫酸塩土壌の判定法:
酸化される前の酸性硫酸塩土壌は中性であり,酸
性になるかどうか pH(H20)測定では判別できない.
そこで石渡(1995)は 2%の過酸化水素(H202)と
土壌を 10: 1の割合で混合し,24時間後 pHを測定
し,pH3.5以下を酸性硫酸塩土壌としている.
もう lつの方法としては,土壌を lOOml容量の三
角フラスコなどにとり,これに 2~3規定の塩酸を
加えると硫化物が存在する場合は硫化水素が発生
しその匂いがする.もし2%程度の酢酸鉛を染み込
ませて乾燥させた脱脂綿をカラムにつめ,その三角
フラスコにつなぐと,脱脂綿は硫化鉛となって黒く
なる.これで土壌に硫化物の存在することが判明す
る.
まとめ
I)大型重機の発達により,深層部の土壌が農地に
入る機会が多くなった.深層部の土壌にはイオウ化
合物を多量に含む海成粘土や熱水変質土壌がある
場合がある.これらの土壌の硫化物は酸化によって
強酸性の硫酸になり,あるいは水田の還元条件で硫
化水素になり,農作物にダメージを与える.
2)酸性硫酸塩土壌で付加されるイオウの量は桁外
れに大きく ,肥料で付加される量とは比較にならな
い.またその酸性矯正のための炭酸カルシウムは重
量にしてイオウの 3倍必要である.
3)水田土壌の還元条件で、硫化水素となるイオウは
イネに大きなダメージを与え,秋落ち水田の原因と
なる.防止には当量比でおおよそイオウの 5倍以上
の遊離酸化鉄-Feが必要である
4)イオウに見合う遊離酸化鉄のないほ場(酸性硫
酸塩土嬢の入った土壌の大半)では,炭酸カル、ンウ
ム中和後,2~3年間畑土壌状態にしてイオウを酸化
し,硫酸イオンと して流出をはかり ,その後水田に
戻す.
5)農地に投入される土壌が酸性硫酸塩土壌かどう
酸性硫酸塩土壌の発現とその対策
硫化水素は生じないと報告している しかしながら
現実は硫化水素の被害が発生している.もし酸性硫
酸塩土壌の硫化物がパイライ ト(二硫化鉄,金色を
しているので判断できる)である場合は当量比で鉄
がイオウの 2分の lしか含まれない.すなわちパイ
ライ トの化学組成は Fe 46.6%, S : 53.4%である
(Duda and Rejl 1986) .
志賀(1962)によれば,硫化水素と反応できる鉄
は遊離酸化鉄-Feよりも低く ,老朽化水田では 7分
の l,普通水田でも 2分の l以下であるという. こ
のことは土壌に含まれる鉄がすべてイオウイオン
(S2・)と反応するのではないことを示唆している
この実験調査でイネの生育障害と遊離酸化鉄
-Fe :イオウの関係を調査した結果を図 6に示す.
これからも硫化水素による障害は遊離酸化鉄-Fe/S
当量比で鉄がイオウの6倍以上必要なことが明らか
になった.表 3に示したほ場作土の遊離酸化鉄-Fe
は 1.3~1.8%の範囲にあり, Fe/Sの当量比も大半が
4以上を示した.しかし下層土は 0.6~6の範囲にあ
り,石灰による酸性矯正のみで客土の無いままで
あったらイネの生育障害は避けられなかったであ
ろう
北海道における水田土壌中の全鉄含有率の平均
値は 4.04±0.95であるが,遊離酸化鉄-Feの含有率
a
, ..
銀腐れ 靖夫
遊離酸化鉄ーFe/S当量比と水稲の生育障害の関係、.:作土,圃 下層土
水里子
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比
-
420 農業および園芸第 91巻第4号 (2016年)
か判定する方法として, l~2%の過酸化水素(H202)
に 24時間浸潰し,その後 pHを測定し, pH3.5以下
の土壌がこれに該当する.
文献
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