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0 自然体験活動を学校で! -学校教育における意義 と留意点Q&A- 能條 北海道教育大学岩見沢校 アウトドアライフ専攻

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自然体験活動を学校で!

-学校教育における意義

と留意点Q&A-

能 條 歩

北 海 道 教 育 大 学 岩 見 沢 校

ア ウ ト ド ア ラ イ フ 専 攻

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はじめに

まだあまり現場には浸透していないようですが、文部科学省は総務省・農林水

産省と連携して、「子ども農山漁村交流プロジェクト~120万人・自然の中での体

験活動の推進~」というプロジェクトを開始しています。このプロジェクトでは、

「学ぶ意欲や自立心、思いやりの心、規範意識などを育み、力強い子どもの成長

を支える教育活動として、小学校における農山漁村での長期宿泊体験活動を推進

する。全国2万3千校(1学年120万人を目標)で体験活動を展開することを目指し、

今後5年間で、①農山漁村における宿泊体験の受入体制を整備、②地域の活力をサ

ポートするための全国推進協議会の整備等を進める。」ということが目的として

謳われています。そしてすでに平成20年度には、①農山漁村での1週間程度の宿

泊体験活動をモデル的に実施し、これらの活動を通じて、課題への対策、ノウハ

ウの蓄積等を行う、②セミナー等による情報提供等を行い体験活動の実施に向け、

国民各層を通じた気運醸成を図る、③関係機関での情報の共有化等を図り、地域

の自立的な活動につなげる、等の取り組みが企画されました

(http://www.maff.go.jp/j/press/nousin/nouson/pdf/070831_1a.pdf)。

この動きに対応して、平成20度から「小学校長期自然体験活動支援プロジェク

ト」が開始され、5年後から全国に約23000校ある小学校全てにおいて導入される7

日間程度の長期自然体験活動に対応するために、学校外からこの活動をサポート

する指導者の養成も始まっています。しかし、まだ学校現場への周知や研修が十

分に行われているとはいえず、どこの学校現場へ出かけていっても「なんのこと

ですか?」「具体的なことを聞いていませんが。。」「どんな意義があるのでし

ょう?」「どう指導したらいいのかわかりません」「テキストも事例もないなか

での実施は不安です」などという声が聞かれ、制度的な問題もさることながら、

教育的な意義に関する部分での戸惑いがみられるのが現状です。

本論では、こうした戸惑いや疑問について、筆者がかかわった上記のプロジェ

クト(「自然体験活動指導者養成事業」および「小学校自然体験活動プログラム

開発事業」)を通して見えてきたことを、いくつかのポイントにしぼり、Q&A形式

で整理してみたいと思います。

※本研究をまとめるにあたり科研費(基盤研究(B)自然体験学習の指導者養成システムに関する

総合的研究<課題番号:20300252>)の一部を使用しました。

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目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

Q;学校教育で自然体験活動を行うことにどんな意義がありますか?

A1;不足しがちな原体験を補完することができます・・・・・・・・5

A2:「授業で学んだことを,どういう場面で活かせるか」を子ども自

身が考える場面が作られます・・・・・・・・・・・・・ ・・・・7

A3;こどもが自己効力感をもつことにつながります・・・・・・・8

A4;感動する体験がこどもの成長を促します・・・・・・・・・・10

A5;豊かな価値観に触れることができます・・・・・・・・・・・11

A6;自然や環境に対する行動に変化が生じます・・・・・・・・・12

A7;配慮が必要なこどもたちも一緒に活動することができます・・13

Q;教科の学習と自然体験学習にはどんな関連付けができますか?

A1;教育基本法や学校教育法では,自然体験活動を充実するよう定め

られています・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

A2;学習指導要領では,各教科に自然体験活動に基づく学習が位置づ

けられています・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

A3;問題解決学習により“生きる力”を獲得する場合に有効です・18

A4;具体物による環境教育の場を提供します・・・・・・・・・・19

A5;環境教育ににとって重要な教材を提供します・・・・・・・・20

A6;生物の多様性について学ぶことができます・・・・・・・・・21

Q;自然体験学習をうまく学校の年間指導計画に位置づけることができるでしょ

うか?

A1;学習指導要領にそったかたちで位置づけることができま

す・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

A2;長期キャンプでの自然体験活動も,学校教育の中に位置づけるこ

とができます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

A3;長期キャンプでの自然体験活動は,様々な教科に位置づけ可能で

す・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

Q;自然体験学習には,どのような教育理論的背景がありますか?

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A1;体験学習法という理論によって組み立てられています・・・・33

A2;「自然体験学習」という用語には,「自然の中で行なう体験的学

習」「体験学習によって自然を学ぶ」などの意味が含まれます・・35

A3;自然体験学習には,目的からみると「原体験補完」「シミュレー

ション・追体験」「マクロ自然観の獲得」などの形式があります・36

A4;自然体験学習は,内容からみると「体験的アクティビティー」「感

性的アクティビティー」「理性的アクティビィー」の3つに分類でき

ます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

A5;自然体験学習には,こどもの発達を促す心理学的意味もありま

す・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

A6;さまざまなスキル(技能)を,具体的に活用する中で学ぶことが

できます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

A7;3日程度より,1週間程度の活動が効果的なようです・・・・・41

Q;自然体験学習を学校での学習の一環として行う場合,どのような点に留意す

べきですか?

A1;自然体験学習と授業では目的に違いがあります・・・・・・・44

A2;自然体験活動は,これまで主に学校外で行われてきたので,社会

教育の特質を前提としたものが多くなっています・・・・・・・・45

A3;授業のまとめは「ふりかえり」と「わかちあい」で行います・47

A4;自然体験活動は全日程を一つのプログラムととらえて流れを組み

立てます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49

A5;長期の体験学習の場合,特定のプログラムのない日も必要で

す・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50

Q;体験をつみかさねることと知識を得ることはどちらが重要ですか?

A1;体験と知識は対立する概念ではありません.両者を関連づけるこ

とが重要です・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

Q;野外での自然体験学習を指導するにはどのような力量が必要ですか?

A1;自然を理解することのほか,安全管理等についての力量も求めら

れます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

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Q;さまざま感覚で自然をとらえる活動には,具体的にどのようなものがありま

すか?

A1;教材の使い方や解説がセットになったパッケージドプログラムが

あります・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56

Q;自然体験学習を指導するにあたって安全に配慮することが必要なのは当然で

すが,その他にはどのような配慮が必要になりますか?

A1;科学的知識として,指導者が自然事象のつながりを知っているこ

とは,事物の名前を知っていることよりも重要です・・・・・・・58

A2;こどもたちの科学的知識の定着度が領域別に異なっていることに

も注意すべきでしょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

A3:一定の割合で色弱の人が参加者のなかに含まれています.・・61

A4;「地域から学ぶ/地域で学ぶ」という意識が必要です・・・・63

A.5;キャンプなどの宿泊型の学習では,プログラムなどの組み立て方

によって効果にちがいがあります ・・・・・・・・・・・・・・・64

Q;自然体験学習の評価はどのようにして行いますか?

A1;こども一人ひとりの成長を評価します・・・・・・・・・・・66

おわりに・引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

付録1 プログラム企画・実施時のチェックリスト・・・・・・・・・・・70

付録2 自然体験アクティビティー事例集・・・・・・・・・・・・76

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Q.;学校教育で自然体験活動を行うことにどんな意

義(効果)がありますか?

A.1;不足しがちな原体験を補完することができます

現代のこどもたちは自然体験や生活体験が不足しているといわれています。例

えば平成16年に東北と関東の1都9県の小学4年~中学3年生を対象とした調

査では、「日の出・日の入りを見たことがない」というこどもが50%を超えてい

たことが報告されています(川村学園女子大学子ども調査研究チーム,2004;第

1表)。都市部と郡部ではこうした結果に差が出るものと思われるかもしれません

が、「周囲の自然環境の差異が自然体験や生活体験の不足の原因である」とは必

ずしもいえないことがこの調査の結果から見えてきています。こうした現代的な

課題を背景に、学校教育にも体験的な活動をベースにする生活科や総合的な学習

の時間が新設され、各教科においても体験的な学習が推奨されるようになりまし

た。最近提起されている小学校での長期自然体験活動の導入等も、こうした流れ

の中に位置づけることができます。

そもそも体験学習には、「こどもが学習に主体的に関わる場面が生じる」「既に

持ち合わせている知識(学習内容)を、具体的な体験の場面で系統的に再構成で

きる」「知識や技能が実際に活用できる場面に遭遇することで、学習の意義を実

感できる」などの利点があることが知られています(日本ネイチャーゲム協会・

体験型環境教育研究会編、2007)。また、自然を直接体験するなかで行われる学

習には、これらの意義の他にも“あつい”“ざらざら”“まぶしい”などを感じ取

るような「原体験」を補完するという役割を持たせることが可能です。日常での

慢性的体験不足により原体験が不足しがちな現状の中、体験をベースとした思考

や行動のために、原体験を補完する自然体験学習が必要不可欠なものであると考

えられるようになってきているのです。

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第1表 日の出・日の入りを見た経験の地域間比較(数値は%。川村学園女子大学子ども調査研

究チーム,2004;www10.plala.or.jp/t2saitou/16nentaiken.pdf)

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A.2;「授業で学んだことを、どういう場面で活かせるか」をこども

たち自身が考える場面が作られます

自然体験学習には衣・食・住のすべての場面を含めることができますので、これ

まで得た学びの意味をこどもたち自身が確認・再構成し、どんな意義のあるもの

を学んできたのかを実感することができます。また自然体験学習によるホンモノ

との接触には、「習得できる情報量をさらに増やし、そこに体験が加わることに

よって一見分散していた情報同士がリンクするという連続的過程によって知の

ネットワークが構成される」という重要な意義があります。身近な自然の減少に

伴って五官を通した体験的な遊びが減少したことが、最近のこどもたちの深刻な

知のネットワーク構築阻害要因のひとつである(鈴木、2005)という指摘をあわ

せて考えてみると、これらの阻害要因を取り除くにあたって、自然体験学習は必

要かつ最も効果的な手段といえるでしょう。

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A.3;こどもたちが自己効力感を持つことにつながります

自己効力感(self-efficacy)とは、個人がある状況において必要な行動を効果

的に遂行できる可能性の認知をさします(成田ほか、1995)。つまり、「自分はこ

ういう目的に対して、こんなことができる(ようになった)ぞ!」という気持ち

の事をいいます。

Bandura(1995)は、自己効力感の育成に影響するものとして、「制御体験(成功

経験)」「社会的モデルによる代理体験」「社会的説得」「生理的・感情的状態」

の4つをあげています。

「制御体験」とは、「絶えず変化する生活環境を規制する適切な行動を考え出

して実行するための認知的・行動的・自己制御的な手段を獲得できるような体験」

をさします。つまり、ある状況をコントロールする(切り抜ける)ために、(元々

持っていた習慣的行動ではなく、)より適切な行動で成功したという体験が、「自

分はできるぞ!」という効力感をもつことにつながるのです。

「代理体験」とは、自分と似たような人が忍耐強く努力して成功するのを見る

こと(がんばってできるようになった友達などを見ること)です。この場合重要

なのは「モデルと自分との類似性」で、類似性が高ければ高いほど、モデルの成

功や失敗の影響を受けやすくなるとされています。近年キャンプ等において、こ

どもたちと年齢の近い学生ボランティアのような存在が、むしろ大人の存在より

重要視されるようになってきていますが、こうしたことを考えるとその理由をよ

く理解できます。

「社会的説得」とは、それを習得する能力があるといわれて何かの行動をすす

められるような場合、自己肯定的な考えが自己効力を増していくことを言います。

「君ならできるはずだからやってみて!」といわれたことに対しては、多少障害

があっても「できるんじゃないかな。。」と努力を続けることができます。そうい

う励ましが「社会的説得」となっています。逆に考えると、「自分にはそれを遂

行する能力が欠けている」と感じている子は、困難に直面するとすぐあきらめる

ようになってしまうともいえます。「ほめて伸ばす」とは教育の場面でよくいわ

れることですが、単にほめるということではなく、できそうなことに関してうま

く“説得”してあげることが必要なのです。

「生理的・感情的状態」とは、「ストレス反応や緊張状態は、遂行能力が低下

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しているというサインでもある」ということです。簡単にいえば、気分も大いに

影響を与えるということでしょうか。つまり、「自己効力感は肯定的な気分で強

まり、落胆した気分で下がる」ということですので、「身体の状態を向上させる」

「ストレスやネガティブな感情を減少させる」「身体の状況を把握する」といっ

たことが重要といえます。

自然体験学習によってこどもが成長することを経験的に感じている指導者は

多いと思われますが、「自然体験学習のどういう点がこどもの成長を促すのか」

については明示されていませんでした。こうした心理学的な背景を考えると、「な

ぜこどもの成長を促すか」という点についての答えのひとつがそこにあるように

思われます。「制御体験(成功の経験)」「社会的モデルによる代理体験」「社会

的説得」「生理的・感情的状態」の 4つは、自然体験学習の場に限って見られる

ものではありませんが、自然の中での体験学習にこうした体験につながりやすい

活動が多いということは容易に想像できると思います。もちろん学校などでの日

常的学習活動においてもこうしたことを意識して取り入れることは可能ですが、

それを容易に組み込みうるところが自然体験学習のよいところといえるでしょ

う。

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A.4;感動する体験がこどもたちの成長を促します

自然への気づきを目的とした体験学習では、こどもたちがいろいろな意味での

感動を得られるようなプログラムが組まれますが、「自然に対する感動体験」と

自己肯定感との間には関連性があり、さらに感動体験はこどもの自己効力感と自

己肯定意識を高めることも明らかとなっています(西山、1995;佐伯ほか、2006)。

つまり、自然体験学習の場で多くの感動体験を持つことは、こどもたちの自己効

力感と自己肯定感を高めることにもつながるのです。

また、こどもたち自身の内的状態が変化することによって、(自分の考え方や

気分だけでなく)他人に対する行動までもが変化するので、「感動体験には、昨

今失われているといわれている「心の豊かさ」を育むための重要な役目がある」

という指摘もあります(佐伯ほか、2006)。

感動には「動機付け」「認知的枠組みの更新」「他者志向・対人受容」の3つに

関連する効果があり、「主に驚きを伴ったもの(意外性・驚き、発見、初体験、

稀少性、予期せぬ好転など)が多く、自他を問わず一生懸命で真剣な様(懸命さ・

真剣さ、苦労、想いの強さなど)や精神的に弱っている際の情緒的支援などによ

って喚起され、個人の何かを変えうるものである」ことが指摘されています(戸

梶、2004)。このことから、感動を効果的にマネジメントできれば、「動機付け」

「認知的枠組みの更新」「他者志向・対人受容」にかかわる様々な効果を期待で

きると考えられます。驚きを伴うことが多いと考えられる自然体験学習は、その

点でも意義あるものと言えますし、昨今のこどもたちに体験が不足しているとい

う現状は、逆に以前より多くの驚きを伴う体験活動を企画することが容易になっ

ている可能性が高いため、むしろ“チャンスの時期”と捉えることもできるので

はないでしょうか。

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A.5;豊かな価値観に触れることができます

自然体験活動は、農山漁村だけでなく都市公園などの様々な場所でも実施でき

ますし、青少年自然の家のような自然体験施設でもたくさんのプログラムが実施

されています。こうした様々な場所での体験活動には、一口に自然体験学習とく

くるのが困難なほどたくさんのメニューがあります。

同じ第一次産業でも、農林業と漁業ではその産業に従事している人たちの自然

観や地域の歴史性に違いがあることは、それらの地域をよく知らなくても想像で

きることと思います。したがって、異なる地域でこどもたちが自然体験活動をす

ることは、すなわちたくさんの異なる価値観に触れることにつながるといえるで

しょう。

私たちが何かの行動を起こす時のよりどころ(行動規範)には、「善か/悪か」

「損か/得か」「快か/不快か」などの尺度があり、この尺度は成長するにつれ

て「快/不快」→「損/得」→「善/悪」という順で獲得されます。上位の尺度

を意識できるようになっても、それまでの尺度を捨て去るわけではないので、実

際の行動は「不快だが正しいことだから」とか「正しくないけど得だから」とい

う具合に、いくつかの組み合わせによっておこります。どういう組み合わせを選

択するか(どういう行動規範を持つか)は一人ひとりの価値観に依存します。人

の価値観は、所属する社会の文化的背景やその人の知識(経験)に大きく依存す

るので、自分の育ってきた地域と違う文化的/自然環境的背景をもつ地域での体

験活動は、多くの驚きや感動を生むことにつながり、たくさんの“新たな価値観

への気づき”を生みます。このように自然体験活動には、「こどもたちが行動規

範となる自分の価値観を獲得するための有益な情報をもたらす」という側面もあ

るのです。

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A.6;こどもたちの自然や環境に対する行動に変化が生じます

自然体験学習には、すぐ目に見える効果となかなか目には見えづらい効果があ

ります。知識や技能・思考法を獲得するために行われる学習は、効果が見えやす

く評価もしやすいものです。しかし,自然体験学習には「こどもの自然に対する

考え方や行動の方向性を(少し)変える」という潜在的効果もあります。

通常の自然体験学習は短期間で、こどもたちはまたすぐに日常の生活に戻って

しまいます。したがって、その「方向性の変化」は見えないほどわずかなもので、

学習を行ったことによりこどもたちの行動が劇的に変化するということは少な

いでしょう。しかしそのほんの少しの「方向性の変化」は、未来へ行けば行くほ

ど最初とは違った方向へこどもたちを成長させます。見えないほんの少しの変化

であっても、短期的・明示的な効果よりも大きな教育効果を生むことが期待でき

るのです。

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A.7;配慮が必要なこどもたちも一緒に活動することができます

近年の学校では,注意欠陥・多動性障害や広汎性発達障害など,集団での学習

にあたって配慮が必要なこどもたちが増えてきているといわれています.学校

(学級)単位で行う自然体験学習も集団での学習場面は多いのですが,これらの

こどもたちに対する配慮のために,全体の活動が制限されるという場面はそれほ

ど多くないようで,活動中の様子を見ていても学校生活で配慮が必要なこどもた

ちであることに気づかない場合さえあります.

自然の中での活動は安全に関する制限はあるものの,自由に工夫して取り組む

ことや失敗することが多く,時間配分も比較的自由度が高くなっているため,ど

の子にも自分のペースで活動できる場面を多くしなければならなくなっていま

す.また,体験は個人の感覚によって様々に異なることが前提ですので,自分の

感じたことや考えたことがみんなにも受け入れられやすいという状況にあるこ

とも,いっしょに学習活動できる状況(インクルーシブ教育といいます)を生み

出しやすいことにつながっているのかもしれません.このように,自然体験学習

はインクルーシブ教育に適していると考えられており,新たな教育の可能性を持

つものとしても期待されるようになってきています.

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Q.;教科の学習と自然体験学習にはどんな関連付け

ができますか?

A.1;教育基本法や学校教育法では、自然体験活動を充実するよう定

められています

平成18年に改正された教育基本法では、あらたに第二条(教育の目標)に「四

生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。」との文

言で、自然と環境に関して学ぶことが明示されました。そして、これを受けて改

訂された学校教育法でも、第二十一条に「二 学校内外における自然体験活動を

促進し、生命および自然を尊重する精神ならびに環境の保全に寄与する態度を養

うこと。」が、そして第三十一条に「(前略)自然体験活動その他の体験活動の充

実に努めるものとする。」という記述がなされています。このことは、「こども

たちの現状を考えて、新たに取り組まなければならないことが盛り込まれた」と

考えることもできますが、「重要性は認識されていたものの位置づけが不明確で

扱いづらかった自然体験が、今後は学校教育の場でも堂々と扱えるようになっ

た」と考えることもできます。

一般的には、学校教育の場で取り組まれる体験活動は、多くの場面で教科の目

的を達成する手段としてとらえるべきものです。しかしこの法改正によって、自

然体験そのものを目的とする体験活動の重要性が示され、その活動の盛り上がり

が期待されていると言えるのではないでしょうか。

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A.2;学習指導要領では、各教科に自然体験活動に基づく学習が位置

づけられています

小学校における具体的学習内容の最低基準を定めたものとして学習指導要領が

あります。すべての学校はこれに基づいて、学校ごとに教育課程(カリキュラム)

を定めることになっています。小学校の学習指導要領には、国語・社会・算数・

理科・生活・音楽・図画工作・家庭・体育の9教科と道徳・外国語活動・総合的

な学習の時間・特別活動などの教科外活動の内容が示されています。学校では、

これらの内容に基づいて作成された教科書を元に、毎日の授業が展開されている

わけです。 学習指導要領には、たとえば以下に例示するような部分を見ると、「自然」「環

境」「体験学習」といった文言が使用されて学習内容が規定されているのがわかり

ます(以下にあげたものは各教科などの記述部分の一例です。詳しくは

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/index.htmをご覧ください)。 総則

第1 教育課程編成の一般方針

2 学校における道徳教育は,(中略)家庭や地域社会との連携を図りながら,集団宿泊活動やボランティア活動,自然体験活動などの豊かな体験を通して児童の

内面に根ざした道徳性の育成が図られるよう配慮しなければならない。

国語 第3 指導計画の作成と内容の取扱い

3 教材については,次の事項に留意するものとする。

(2) 教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。

キ 自然を愛し,美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと。

社会

〔第5学年〕

1 目標

(1) 我が国の国土の様子,国土の環境と国民生活との関連について理解できるようにし,環境の保全や自然災害の防止の重要性について関心を深め,国土に対する

愛情を育てるようにする。 理科

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第1 目標

自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を

愛する心情を育てるとともに,自然の事物・現象についての実感を伴った理解を

図り,科学的な見方や考え方を養う。 生活

〔第1学年及び第2学年〕

1 目標

(2) 自分と身近な動物や植物などの自然とのかかわりに関心をもち,自然のすば

らしさに気付き,自然を大切にしたり,自分たちの遊びや生活を工夫したりする

ことができるようにする。

(3) 身近な人々,社会及び自然とのかかわりを深めることを通して,自分のよさや可能性に気付き,意欲と自信をもって生活することができるようにする。 図画工作

〔第1学年及び第2学年〕

2 内容

A 表現

(1) 材料を基に造形遊びをする活動を通して,次の事項を指導する。

ア 身近な自然物や人工の材料の形や色などを基に思い付いてつくること。 家庭

2 内容

D 身近な消費生活と環境

(2) 環境に配慮した生活の工夫について,次の事項を指導する。

ア 自分の生活と身近な環境とのかかわりに気付き,物の使い方などを工夫でき

ること。 体育

第3 指導計画の作成と内容の取扱い

2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。

(4) 自然とのかかわりの深い雪遊び,氷上遊び,スキー,スケート,水辺活動などの指導については,地域や学校の実態に応じて積極的に行うことに留意すること。 総合的な学習の時間

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2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。

(3) 自然体験やボランティア活動などの社会体験,ものづくり,生産活動などの体験活動,観察・実験,見学や調査,発表や討論などの学習活動を積極的に取り入

れること。 特別活動

〔学校行事〕

2 内容

(4) 遠足・集団宿泊的行事

自然の中での集団宿泊活動などの平素と異なる生活環境にあって,見聞を広め,

自然や文化などに親しむとともに,人間関係などの集団生活の在り方や公衆道徳

などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと。

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A.3;問題解決学習により“生きる力”を獲得する場合に有効です

問題解決学習法(Problem-Solving-Learning)は、アメリカの教育学者ジョン・

デューイが提唱した学習方法で、予め準備した授業案に従って系統的な知識注入

型の教育を行うのではなく、「テーマに基づいて疑問に思っていることや学びた

いと思うことを考えながら確認していく過程で、試行錯誤を繰り返しながら学び

を得ていくもの」です(課題解決学習という場合もあります)。近年よく使われ

る“生きる力”という文言に、(どういった内容をさすのか不明瞭な場合もあり

ますが、)問題解決能力(生きていくのにあたって出くわす様々な問題を自ら解

決していく能力)が含まれるとするのは異論のないところでしょう。今日の学校

教育では、問題解決学習がひろく取り入れられるところとなっており、ほとんど

の単元は「身近な自然事象や生活体験」→「不思議(問題)を抽出」→「疑問の

解決のための仮説を設定」→「検証方法を考える」→「実験・観察・調査」→「仮

説の是非の検討」という流れを持っています。

しかし、典型的な問題解決学習型教科であるはずの理科などにおいても、長ら

く「思考力が身に付いていない」という問題が指摘されており、理科教育学と認

知心理学の両面からの研究により、学校で学んだ知識(学校知)が日常の生活体

験(日常知)と乖離している点に問題がありそうだということが指摘されていま

した(湯澤ほか、1998)。つまり、「学んだことが日常生活のどの部分と関連する

のか」ということが、こどもたちに明示的でなかったということになります。こ

のことを受け、問題解決学習の流れの最後は「仮説の是非の検討・確認」で終わ

るのではなく、その後にもう一度「身近な自然事象や生活体験」にもどり、学習

したことが日常の中でどういう意味を持つかを確認できるようにすべきであると

言われるようになってきています。

自然体験学習は、その中に知識を活用したり想起したりする場面を含むので、

学校で学んだことの意義をこどもたち自身が確認する場としても重要です。そし

てこのことは、自然体験学習が生きる力を獲得する有力な教育方法であることを

示します。

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A.4;具体物による環境教育の場を提供します

以前の環境教育の目的は「環境について知ること」とされていました。もちろ

んその裏には、「環境を保全するため」などの目的意識があったと思います。し

かし近年では、単に「知ること」にとどまるのではなく「環境について理解し、

その保全のための行動主体を育てること」が環境教育の目的であると考えられる

ようになってきています。つまりそれだけ環境に関する“状況”が切羽詰ってき

ているということでしょう。

ただ知るだけにしても、その対象を具体的に学ぶ場合に体験的な手法が有効な

のは言うまでもありません。たとえば,医学生が(画像だけでなく)実際の人体

を解剖する経験を持たなければいけないように,「理解して行動できるように」

というところを目指すのであれば、その対象の持つ一般性や特殊性について実物

と対応した知識(生きた知識)を持たねばなりません。環境は,私たちを取り巻

く「生物と非生物の相互作用(自然)」と「人間の諸活動」の産物ですから、自

然を体験的に学ぶことこそ環境教育の根幹をなす部分といってもよいでしょう。

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A.5;環境教育にとって重要な教材を提供できます

では,どのような環境教育を目指すことが望ましいと言えるのでしょうか?

現状の環境教育は、国語や理科のような教育学的な系統性も確立していません

し,学習指導要領のような吟味された学習内容の提示も行われていません。つま

り,「何を、どの学年で、どのような教材で取り上げたらいいのか」について,

定まったものがないということです。さまざまな実践により、学校現場で効果的

と思われるたくさんの事例がありますが,それが発達段階に即しているかどうか

の吟味や,各学年において何を教育すべきなのかについてもほとんど研究されて

いないように思われます.そういった現状で明確な回答を述べるのは難しいとこ

ろですが,小学校低~中学年では環境教育・科学教育に共通する重要性を持つ具

体的な自然事象を用いた学習,とくに身の回りで見ることができる事象に対して

気づきを持つこと,すなわち原体験となるような「多様性」「階層性」「個別性」

などに関する認識を深めることが必要と考えられます.また,中~高学年では自

然事象の裏側にある“見えない関係”にまで気づきを得られるような活動を通し

て,地域的な環境問題の地球規模での広がりについて考えることが必要かと思い

ます.中等教育では学習が抽象的なものになるので,シミュレーションや自然の

法則性の学習に基づいて,「条件を人為的にコントロールすることによってどの

ようなことが起こるか(起こっているか)を考え,それが自然界のどこで起こっ

ている現象にあたるかを考えるような場面」が必要でしょう.そういった“場面”

や“教材”として,自然体験学習は重要な意味を持ってくると言えます.なお,

環境概念ではかなり重要とされる「生態系」「ニッチ」「生物の生態」などに関

する学習(マクロ自然観の獲得)が,現状の学校教育で十分に取り組まれていな

いことには注意する必要があると思います(後述).

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A.6;生物の多様性について学ぶことができます

自然体験学習では,理科や社会科で生態系という概念を学ぶのに必要な,「生物

の多様性」ということを体験を通して学ぶことができます.自然の豊かな地域に

おける学習活動が,都市部ではなかなか感じられない「生物の多様性」という概

念を肌で感じとらせることにつながるのです.

「生物の多様性」には「種の多様性」「遺伝子の多様性」「生態系の多様性」

の3つの概念があり,そのどれもがきちんと守られないといけないと考えられてい

ます.

「種の多様性」とは,文字通りたくさんの種類の生物が存在することです.一見

人間にとって邪魔な存在に見える生き物でも,それらを含めた生物どうしのつな

がりが生態系をつくっていることを忘れてはいけないのです.

「遺伝子の多様性」とは,たとえば私たちはみなヒトという同じ種の生物ですが,

持っている遺伝子は皆同じというわけではなく,体格や病気などに対する耐性に

関するさまざまな遺伝子レベルでの違いを持っています.この遺伝子レベルの“個

性”は,肌の色のように一目で分かるものもあれば,血液型のように分析してみ

るとわかるものもありますし,まったく体に反映されていない“遺伝子だけの個

性”もあります.こうした,同じ種内で見られる様々な遺伝子の多様性も,その

種が環境の変化に耐えて絶滅を免れるためには必要なバラエティーと考えられま

す.全員が同じ遺伝子を持っていたとしたら,温暖化や寒冷化などの環境の激変

がおこった場合に,一挙に全滅する危険性が高まってしまうからです.

「生態系の多様性」は,海・山・森・湿地など,生物が非生物(温度や水・空気

など)とが様々に影響し合ってできた“自然環境のかたまり”としてのいろいろ

な生態系をさします.たとえば,湿地には他の場所には見られない特有の動植物

がたくさんいますので,湿地という生態系の減少はすなわりそこに暮らす生き物

たちのすみかの減少に直結してしまうのです.こどもたちが,日常生活する地域

から離れて異なる地域を訪れることは,まさに多様な生態系に触れるチャンスと

いえるでしょう.

ところで生物の多様性は,「人間の活動に伴うインパクト(例.開発に伴う森

林の減少)」「人間活動の縮小に伴うインパクト(例.里山の荒廃)」「移入種

などによるインパクト(例.アライグマによるタヌキの減少)」などによる“危

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機”にさらされています.自然体験学習の場では,これらの“危機”の原因や結

果になっている状況に直に接する場面がたくさんありますので,生きた教材に事

欠かないばかりでなく,こどもたちが多くの考えを巡らすきっかけも提供してく

れます.

なお,環境問題の解決のためのさまざまな保全・保護策が国際的な協調のもと

に計画されるようになっていますが,特定の絶滅危惧種を保護するだけではなく,

「その生物の属する生態系全体を守らないと結局は自然を守ることに繋がらな

い」という考え方が主流になってきています.そしてこのような考え方のもとに

生物多様性条約が締結されており,この条約にそった形で日本でもさまざまな国

家戦略が立てられています.農山漁村などの自然豊かな場所でこどもたちに自然

体験学習を促すことは,多様性豊かな自然に触れることで,現在わたしたちがお

かれている危機的状況を乗り越えようという国家戦略の柱の一つでもあるのです.

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Q.;自然体験活動をうまく学校の年間指導計画に位

置づけることができるでしょうか?

A.1;学習指導要領にそったかたちで位置づけることができます

学習指導要領には自然体験活動が随所に位置づけられていますが,実際に「こ

こでこういう自然体験活動をせよ」とは書かれていません。しかし,様々な単元

で行われている通常の学習形態をいろいろな自然体験活動で置き換えることが

可能です。たとえば,6年生の理科の「生き物のくらしとかんきょう」の単元で

ネイチャーゲームなどのパッケージドプログラムを取り入れようとした場合,そ

れを指導計画に位置づけるとすれば,第2表のような形になります。このように

単元計画にうまく組み込むためには,実施しようとする活動を「導入」「展開」

「まとめ」のどの部分で実施するのか,すなわちその活動の目的をどこに置くの

かをよく考え,「通常の学習形態のどの部分に代替にできるか」を見極める必要

があります。

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第2表 理科第6学年「生きもののくらしとかんきょう」の指導計画.理科9時間 総合4時間 全

13時間分.(東京書籍編,2007)

学 習 活 動

教師の支援・準備

動物や植物が生きていくために必要なことが,呼吸や食べるこ

と(光合成)であることをまとめる。さらに身近な場所にすむ生

き物どうしの呼吸や光合成における「酸素-二酸化炭素」のつなが

りについて話し合う。

・他の生き物と関わ りがあることと

い う視点を明確する。

給食の献立の食材を調べ,食材で使われている生き物が「食べ

る-食べられる」関係でつながっていることを知る。

・食材に肉が入って いると進めやす

い。

動物に食べられなかった植物(落ち葉など)や死んだ動物は,

どうなるのかを予想し,具体的に実験や観察の計画を立てる。

(実験)死んだ動物を食べる生き物を捕まえるためには,落とし

穴にどんなものを入れたら捕まえることができるのかを話し合い

,落とし穴をつくる。

・落とし穴に雨水が 入らないように

工 夫する。

(5)

(6)

(7)

(観察)近くの防風林で生き物や落ち葉を観察する。

(観察するもの)・樹木や草などの植物 ・野鳥や昆虫などの動物

・落ち葉などできるだけたくさんの生き物

(採集してくるもの) ・落ち葉と土

・防風林の中で五感 をはたらかせて

、 生き物の様子の変 化に気づかせ

る。

(観察)防風林で採取した落ち葉と土をじっくり観察する。「食べ

る-食べられる」関係の生き物に矢印を引くことによって,防風林

の中にはたくさんの生き物がすんでいて,それらが関わり合って

いることを調べる。

・土壌動物を観察す る。

10

ネイチャーゲーム「食物連鎖」

ゲームを通して,生き物どうしのかかわりについて,実験・観

察でまとめたことと結びつけて考えることができるようになる。

プロジェクトワイルド「オーディア!」

ゲームを通して,生き物と水や食べ物の関わりについて,実験

や観察でまとめたことと結びつけて考えることができる。

・荷造りロープ

(200m)

・観察した生き物カ ードと洗濯ばさ

(11)

(実験・観察)ジャガイモからデンプンを取り出し,観察する。

・顕微鏡

12

水に溶けないデンプンを植物はどのように体内を移動させてい

るのか,動物と比べながら話し合う。

13

海の中の生き物のつながりを考えることによって,生き物はど

この場所でも他の生き物や食物や水,空気を通じて関わり合って

生きていることを知る。また,ヒトもそのかかわりの中で生きて

おり,食物連鎖によって,有毒物質もつながっていることを知る。

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A.2;長期キャンプでの自然体験活動も,学校教育の中に位置

づけることができます

( 1 週間程度の)長期キャンプのような場合と普段の授業等で

単発で実施する場合とでは,自然体験活動の位置づけの仕方が少

し違ってきます。

長期の自然体験キャンプ等の場合は,40時間以上にもなる体験

学習の時間を一つの教科でカウントすることは事実上不可能でし

ょうから,プログラムの中身をみながら複数の科目に位置づける

必要があります.第 3 表( NPO 法人ねおす,

http://www.cone.jp/html/leader10/program01.html )と第 4 表(国

立青少年自然の家,未公表資料)は,長期の自然体験キャンププ

ログラムに,位置づけが可能と考えられる教科や特別活動の名称

を記入した例です。ここに紹介した長期キャンププログラムは,

学校での自然体験活動としての活用のためのモデルプランとして

実施されたもので、学校長期自然体験活動指導者と教員とが相談

しながら作成したプログラムですから,キャンプの活動自体が複

数の教科にうまく位置づけられるように工夫されていて、農村で

実施した農家の人たちとの交流プランを含むもの(第○○表)と

研修施設での自然体験活動中心のもの(第○○○表)という特徴

があります.

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第 3 表 NPO 法人ねおす まるごと自然体験! 7Days キャンプ プログラム一覧

2008年 7 月 27日;始めての場所,仲間がどんなものなのかを知る

16: 00~ 17: 30 オープニング

キャンプの始まりの意識付け。 1 週間のスケジュールと、キャンプ地の地域の説明

やスタッフと参加者のお互いを知る活動を行う。 【特別活動】【道徳】

2008年 7 月 28日;お互いの関係を深め合う/森での活動を楽しみ,自然に親しむ

07: 00~ 08: 00 朝プログラム ※自由参加

「野菜おすそ分け訪問」

地域の農家を訪問し、野菜の収穫をし、おすそわけをいただく活動を通し、地域の

人との関わりをもって、実際に土から生えている野菜の姿や収穫の方法などを学ぶ。

参加を希望者で行い、意欲のある子どもの興味・関心に沿って行う。 【理科】【社

会科】【道徳】

「朝ごはんつくろう隊」

朝食をつくる活動を通して、生活に必要な調理の基礎技術を学ぶ。また、収穫した

野菜を朝食に使って、農業とのつながりを学ぶ。参加を希望者で行い、意欲のある子ど

もの興味・関心に沿って行う。 【家庭科】

09: 00~ 10: 30 アイスブレイク・しっぽオニ・キャッチ・ステップ・何曜日?・

ご対面・私はだれでしょう

参加者やスタッフの興味や関心をお互いに知り、仲を深める。また、地域に住む動

物を知る活動を行うことで、森への活動の意識付けを行う。 【特別活動】【道徳】

12: 30~ 15: 00 歌才ブナ林散策

森の散策を通じて、自然のもつ多様性を知ったり、水の流域の始点であることを感

じる。 【理科】

20: 00~ 20: 30 夜の神社へ行こう ※自由参加

暗闇を体験することで、夜の暗さを実感する。 【特別活動】 2008年 7 月 29日;町や人との交流を楽しむ/川での活動で水に親しむ

07: 00~ 08: 00 朝プログラム ※自由参加

「野菜おすそ分け訪問」【理科】【社会科】【道徳】

「朝ごはんつくろう隊」【家庭科】

09: 00~ 13: 00 黒松内町 ポイントラリー

プログラム実施地域である黒松内町の文化に触れたり、地域の人との交流もねらっ

て、受け入れ地域の子ども達と合同でポイントラリーを行った。 【社会科】【特別活

動】【道徳】

14: 30~ 16: 30 朱太川/水辺(川)の活動

地区を流れる川で、フローティングや川渡り、生き物観察などを行うことで、水の

流れを感じたり、自然の中で体を動かし身体技術の向上をねらった。【理科】【体育】

20: 00~ 20: 50 夜の海へ行こう ※自由参加

川の終着点である海で水の流れを感じたり、焚き火をすることで火の扱いや物が燃

える仕組みを学ぶ。 【理科】【特別活動】

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2008年 7 月 30日;水の活動に親しむ/いつもの自分より,少し挑戦してみる

07: 00~ 08: 00 朝プログラム ※自由参加

「野菜おすそ分け訪問」【理科】【社会科】【道徳】

「朝ごはんつくろう隊」【家庭科】

09: 50~ 13: 10 政泊漁港/水辺(海)の活動

磯や漁港で身体技能の向上を図ったり、水の流れを感じるために、飛び込みや水中

環境や漁港の観察などを行った。 【体育科】【理科】【社会科】

14: 00~ 16: 30 完全休養

身体を休息させて、これまでの活動で築かれたお互いの関係性を深め合うことを目

的とした休息時間を設けた。また、掃除・洗濯など生活に必要な技術を学ぶ活動も行っ

た。 【道徳】【特別活動】【家庭科】

20: 00~ 21: 00 中間ふりかえり

自分達の興味・関心がどんなところにあるのかを自己認識するため、これまでの活

動をふりかえり、今後の活動の見通しを立てた。 【道徳】【特別活動】

2008年 7 月 31日;農家との交流を楽しむ/暮らしを支える技術を知る

07: 00~ 08: 00 朝プログラム ※自由参加

「野菜おすそ分け訪問」【理科】【社会科】【道徳】

「朝ごはんつくろう隊」【家庭科】

09: 00~ 11: 00 農家訪問ツアー

生産現場である農家を訪れ、その暮らしや仕事を学ぶため、畑作農家を班に分かれ

て訪れ、農家の敷地内の動植物や器具を観察したり、実際に農作業の体験も行った。各

農家の事情が分かるように農家ごとに別の内容を実施した。 【社会科】【理科】

13: 00~ 14: 00 農家訪問ふりかえり

農家の暮らしを別の視点でも理解するために、各農家での体験を各班が発表するこ

とで共有した。 【社会科】【道徳】

14: 00~ 16: 00 野外行動技術トレーニング

野外で調理や宿泊する技術を身につけるため、調理の基礎やテントの張り方などを

学んだ。 【特別活動】【家庭科】

16: 00~ 20: 00 農家泊(野外泊)

集団活動を通しながら、自然と親しんだり生活に必要なものを学ぶため、農家の敷

地内で野外泊を行った。 【特別活動】【道徳】

2008年 8 月 1 日;自分たちで活動を創る

09: 00~ 10: 30 子ども会議

自分達の興味・関心を実現する方法を学ぶために、仲間づくりや企画作りを行っ

た。 【特別活動】【道徳】

11: 00~ 16: 00 子どもプラン

目前で生じる課題に対応する力を育成するため、自分達で企画した活動を班ごとで

行った。 【特別活動】【道徳】

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19: 20~ 20: 00 さよならパーティー

感謝の気持ちを伝えたり、地域の特色を学ぶために、お世話になった農家さんや、

地域の食材を利用したメニューを紹介してもらう講師を招いた。 【道徳】【社会科】

20: 00~ 20: 30 子どもプラン報告会

自分達の行動を見つめたり、共有するため、また人前で発表する力の育成のため、

子どもプランの報告会を行った。 【特別活動】【道徳】

2008年 8 月 2 日;達成感を表現し 7 日間の体験を深化する

07: 00~ 08: 00 朝プログラム ※自由参加

「野菜おすそ分け訪問」【理科】【社会科】【道徳】

「朝ごはんつくろう隊」【家庭科】

11: 00~ 11: 30 クロージング

キャンプの終りを意識してこれまでの活動をふりかえるため、修了式とふりかえり

を行った。 【特別活動】【道徳】

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第 4 表 国立日高青少年自然の家 雪はともだち プログラム一覧

2009年 1 月 6 日

日ごとの目標;一週間をともに過ごすために必要なコミュニケーションをはかる。自然へ

の意識を持たせる。

活動テーマ;仲間になろう

13: 50~ 17: 00 開会式(出会いの集い/アイスブレイク)

「出会いの集い」キャンプの意識付け。 1 週間のスケジュールと、キャンプ地の地

域の説明お互いを知る活動を行う。

「アイスブレイク」意識が自然に向くようなアイスブレイクを実施。【特別活動】

19: 00~ 21: 00 冬の保存食作り(「簡単鮭漬」「干飯」)

「簡単鮭漬」「干飯」づくり【家庭科】【算数】

2009年 1 月 7 日

日ごとの目標;雪に慣れる。イグルーを核とした活動拠点を作る。

活動テーマ;基地をつくろう

09: 00~ 16: 00 イグルー作り

「イグルー作り」雪をブロック状に切り出してイグルーを作る。【特別活動】

「雪の観察」雪そのものを観察し,雪の性質や結晶の様子を知る【理科】

20: 00~ 21: 00 ミニレクチャーとふりかえり

「雪中泊への備え」雪中泊の準備と心構え,交代で雪中泊するための順番決め。

【特別活動】

「ふりかえり」一日の活動を話し合い,記録する【道徳】【国語】

「イグルー泊(女子)」( 22: 00~)

2009年 1 月 8 日

日ごとの目標;五感をフル活用して今ここの自然をたっぷり味わう。

活動テーマ;世界を広げよう

09: 00~ 12: 00 周辺探検ハイキング

「発見ビンゴ」活動するフィールドをよく知るとともに,自然の美しさや厳しさ・

不思議さを知るために,ビンゴをしながらハイキングする.【道徳】

13: 00~ 17: 00 基地充実作戦

「基地周辺の環境整備」トンネル作り,雪中ダイニング作りなど。

「雪中埋没体験」雪の性質を理解するとともに危険さを知る【体育(保健)】

19: 00~ 20: 00 ふりかえり

「冬の暮らし今昔」と「明日からの生活」について話あう 【国語】【総合】【道

徳】

20: 00~ 21: 00 ナイトプログラム

「アイスキャンドル作り」【図工】

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「イグルー泊(男子)」( 22: 00~) 2009年 1 月 9 日

日ごとの目標;自然と関わる文化・知恵に触れ,「昔」と「今」の自然とかかわり方の違

いに気づく。

活動テーマ;未知との遭遇/先人の知恵を知ろう

09: 00~ 11: 00 メンテナンスプログラム

「自由空間」洗濯・掃除・休養・学びを深める読書,などの時間として各自が過ご

し方を決めて過ごす。

11: 50~ 12: 00 アイヌ文化体験プログラム1

「アイヌ舞踊」「アットゥシ織」「ムックリ」などの地元のアイヌ文化について,

地元の方に教えてもらう。 【総合】【音楽】【図工】

13: 00~ 20: 00 アイヌ文化体験プログラム 2

「シトづくり」シト作りという料理を通して,食文化を学ぶ【家庭科】

「ムックリ作り」楽器を作り演奏する【図工】

20: 00~ 21: 30 ふりかえりと翌日の意思決定

「ふりかえり」振替裏と記録の作成。 【国語】

「コース別選択プログラムガイダンス」翌日のコース別活動のプレゼンを聞き,自

分がどれに参加するかの意思決定をする【道徳】

2009年 1 月 10日

日ごとの目標;自らの興味・関心に基づいて自然と積極的に関わる。

活動テーマ;自分の意志で自然とつながろう

09: 00~ 21: 30 コース別選択プログラム 1

「冬の滝&山小屋探検コース」氷の滝探し,スノーシューツアー(山小屋泊)。

「冬の森遊び狩人コース」弓矢作り,笛作り,尻滑り,ナイトハイク(施設泊)。

「雪遊びマスターコース」自己決定プログラム.イグルー泊再チャレンジ(イグル

ー泊)。

2009年 1 月 11日

日ごとの目標;体験したことを整理してわかちあい,未来に向けて自らの暮らしを考える。

活動テーマ;体験をわかちあおう

07: 00~ 11: 00 コース別活動プログラム 2

「朝活動」ハイキングほか

「イグルー解体の儀」イグルーを全員で解体する。

11: 00~ 16: 00 体験発表会準備

「ぼくらの体験ポスター作り」コース別プログラムでどのようなことをやったか,

どんなことを感じたかを他のコース選択者に伝えるための発表会の準備。 【総合】

16: 00~ 17: 00 体験発表会

「ポスターセッション~体験をわかちあおう~」 【総合】

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19: 00~ 21: 00 全体ふりかえり

「ふりかえり」全体で,ここまでの体験をふりかえる 【国語】【道徳】 2009年 1 月 12日

日ごとの目標;これからの自分の生活の行動目標目標を持つ。

活動テーマ;明日への一歩を踏み出そう

09: 00~ 10: 00 撤収準備

「清掃・片付け」【特別活動】

10: 30~ 12: 30 冬の保存食を楽しもう

「保存食を食べる」初日に作った保存食を食べ,昔の食文化について学ぶ 【家庭

科】

13: 30~ 13: 30 閉会式

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A.3;長期キャンプでの自然体験活動は,様々な教科に位置づけ可能

です

前述の長期キャプのプログラム表には、個々の活動をどの教科に位置づけるつ

もりで企画したかが書かれていましたが、これらの活動は例示された教科以外に

も位置づけることは可能です。たとえば、5年生の年間学習計画の例を見ると、

ちょうど夏ごろの時期に以下のような単元が示されています

(http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/information/200406/ten01290.htm)。

国語;話の組み立てをくふうして̶ニュースを伝えあおう̶(11時間配当)

社会;食べ物とふるさとさがし̶これからの食料生産と私たち̶(5時間配当)

理科;台風と天気の変化(4時間配当)/流れる水のはたらき(14時間)

図工;島で見つけたものは(クラフト 1̶0時間配当)

家庭科;料理って楽しいね!おいしいね!(12時間配当)

保健;不安なとき・なやみがあるとき(1時間配当) これを見ると、上記の単元の学習内容を、キャンプの中で行なわれる「情報交

流(国語)」「農家での実習(社会)」「明日の天気により活動内容を考える(理科)」

「川での活動(理科)」「ネイチャークラフト(図工)」「郷土料理/野外調理(家

庭科)」「一日のふりかえり(保健)」などの場面に含めるのは、それほど困難では

ないと思われます。これらの時間数だけでも50時間以上になりますし、この他に

「体育」「総合」「特別活動」「道徳」など、学習を自然体験活動で置き換えること

が可能なものがたくさんありそうです。学校の一週間の授業時数は30時間弱です

ので、長期の自然体験活動をその内容から見て適切な教科に振り分けることは十

分に可能と考えてよいでしょう。

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Q.;自然体験学習には、どのような教育理論的背景

がありますか?

A.1;体験学習法という理論によって組み立てられています

第1図 体験学習法のスパイラルなプロセス

自然体験学習等で使われる「体験学習法」という用語は,一般にはKolb et al.

(1971)のLearning Process Modelのことをさします(津山、1991;第1図).こ

の体験学習法は、「(1)具体的な体験,(2)その体験を内省し自他の体験を観察

する,(3)経験したことを抽象的に考え一般化を試みる,(4)新しい体験に導く

ために自分の行動の仮説化を行う」という4ステージを作ること,そして「ステ

ージ(4)の後に次の体験活動のステージ(1)をおくという循環過程により、さ

まざまな試行的行動を実践することで学び方を学びつつスキル獲得のための学

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習につなげる」というものです(Osland et al.,2001)。

この4ステージは、「体験する(Do)」→「見つめる(Look)」→「考える(Think)」

→「わかる(Grow)」のように多少文言を変えて扱われることもありますが、ス

パイラルなプロセスを通じて学習を深める効果的な指導法として、さまざまな場

面で注目を集めています(体験学習法調査研究会,2000)。

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A2.「自然体験学習」という用語には、「自然の中で行う体験的学習」

「体験学習によって自然を学ぶ」などの意味が含まれます

現状では、「自然体験学習」という用語の意味が、学習形態や学習方法を指

すのか、あるいは学習内容を示すのかが、使用する人によってさまざまな状況

となっています。

学習の形態を示す言葉だとすれば、それは「自然の中(または野外)で行わ

れる体験活動全般」を指すものとなります。たとえば、キャンプをすることで

「人間関係を学ぶ」のも「生態系について学ぶ」のもどちらも「自然体験学習」

ということになります。「人間関係」や「生態系」について学ぶには、キャン

プ以外にも方法があると思いますが、「自然体験することで学習する活動」な

ので、「自然体験学習」と表現するわけです。一方で、学習内容を示す言葉で

あるととらえるなら、「体験的学習により自然について学ぶこと」と捉えるこ

とができます。この場合は、学校で行っている実験や観察も、自然(の一部)

を体験を伴った形で学習するので自然体験学習に含めることができそうです。

いずれの立場でこの言葉を捉えて学習機会を設定するかによって、その目的も

評価の方法も異なってくるはずですので、注意が必要です。

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A3.自然体験学習には、目的からみると「原体験補完」「シミュレー

ション・追体験」「マクロ自然観の獲得」などの形式があります

自然体験学習の形式

既に述べたように、自然体験学習という用語には、学習方法を示すために使用

される場合と学習内容を示すために使われる場合とがあります。そして、そのい

ずれの場合においても別な高次の目的があって、自然体験学習はそのための手段

となっている場合が多いようです。たとえば理科の授業における自然体験学習の

目的を科学的自然観(科学的なものの見方)の獲得と考えた場合、それは学習内

容とその目的によって「原体験補完、シミュレーション・追体験,マクロ自然観

の獲得」の3形式に大別できます(能條、2006)。

教科の基礎・基本

前述の3つの形式は、教科の基礎・基本とも密接な関わりがあります。理科教

育の基礎・基本を学習指導要領の目標に見られるような内容と押さえるだけでは,

授業で取り上げる具体的な学習内容のどの部分が基礎的なもので,どこが基本的

なものなのかはよくわかりません.単純に、理科=科学教育とするならば、“基

礎”とは科学的な自然観を身に付けるためのベースになるものでしょうから,そ

れらは主として「経験的に得られる自然に対する認知」をさすことになります。

つまり,幼児期からの様々な経験から得られる「自然界にみられる特徴や共通性」

への気づきがそれ以降の学習の“基礎”になるのです。このような考え方に基づ

けば,“基礎”は,「多様性・階層性・因果性・論理性・再現性・規則性など、自

然界に見られる諸性質への気づき」(この気づきの獲得は、体験を多少整理(再

構成)することによって得られるものです)と言い換えることができます。そし

て、この“基礎”に対応する“基本”とは、「自然事象を理解するための基本的

考え方(具体的には原子・分子論/エネルギー論/進化論/環境論/宇宙論のよ

うな自然科学的概念をさす)」と整理できます。

基礎・基本と3形式の関係

基礎・基本の定義に前述の自然体験学習の3形式を重ねあわせると、おおむね

「原体験補完」は基礎的体験のため、「シミュレーション・追体験」は基本的自

然観の獲得のためと整理できます。ところが「マクロ自然観の獲得」は、実は学

校教育ではあまり取り上げられていません。つまり、目の前の自然のありのまま

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の関係をとらえたり、ある生物とそれを取り巻く他の生物や物理的環境(水・温

度など)との相互作用や、その生物がどのようにして環境に適応しているかとい

った“見えない関係”を知り、そのマクロスケール的関係性にも気づくという

「マクロ自然観の獲得」をなかなか扱えないでいることは、現状の学校教育の弱

点であるともいえるわけです。したがって、「マクロ自然観の獲得」は自然体験

学習を実施することにより成果が期待される固有の領域とも言えるものであり、

ここにも自然体験学習を実施する意義があるといえるでしょう。

前述の3形式は、ある自然体験学習を学習系統のどこに位置づけるかを考える

際のよりどころとなります。つまり、自然体験学習を実施する場合、それをどの

ような目的で基礎・基本の充実に結びつけるかを考えるときに有効な分類方法な

のです。

ここでは、理科を例に取り上げてきましたが、他の教科でも「基礎と基本=基

礎的認識とそれから導出された事象を理解するための基本的考え方」と整理でき

ると思われますので、ほぼ同様の分類ができるでしょう。

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A4.自然体験学習は、内容からみると「体験的アクティビティー」「感

性的アクティビティー」「理性的アクティビティー」の3つに分類で

きます。

目的性というよりはその活動内容の面から、自然体験学習を「体験的アクティ

ビティー…感覚を伴う行動によって自然に働きかける外的活動中心のもの」「感

性的アクティビティー…感性によって自然から受け取る内的活動を中心とする

もの」「理性的アクティビティー…理性によって自然から受け止める内的活動を

中心とするもの」の3類型化する考え方もあります(山際、1994、能條、2006)。

この類型に基づき、体験的アクティビティーを土台として、感性的アクティビ

ティーと理性的アクティビティーを実施することによって“内なる自然(価値判

断の基準にもなる自然に対する実感や生きた知識)”を確実なものとすることが

できるとされています。

体験的アクティビティーは「体験すること自体に意義があり、体験の受け取り

方は各自にまかされ、指導者の意図的方向付けはあまりされないもの」、感性的

アクティビティーは「自然を感じ、日ごろ気づかなかった自然に気づく活動」、

理性的アクティビティーは「自然を知る活動であり、科学的気質を育んで、自然

を広がりをもってみることができるようになる」と整理されています。実際には、

ひとつのアクティビティーのある部分が体験的に、またある部分は感性的なアク

ティビティーに位置づけられるということも多く、また同じ体験活動でもやりか

たによっては別な類型に分類できる場合もあります。したがって、この類型はあ

るアクティビティーを性格付けして固定的に分類するためのものではなく、むし

ろ自分がどういう意図で行うのかを整理する時に役立つもの、すなわち「その活

動がこどもたちにとってどういう意味を持つか(持たせられるか)」を考えるた

めの尺度です。

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A.5;自然体験学習には,こどもの発達を促す心理学的な意味もあり

ます

自然体験活動に取り組んできた人たちは、経験的に自然体験活動が癒しの効果

を持っていることを知っています。実は「なぜ自然が人を癒すのか」という点に

ついて言及している研究はあまり多くありません。しかし、癒し効果を活用した

森林療法などのセラピー系の活動もたくさんありますし、実際に学校外で自然体

験活動(アウトドア活動)がブームになったことなどを見ても、少なからぬ癒し

効果があることは間違いなさそうです。言ってみれば「理屈は説明できないが効

果があるのは確かめられている」というのが現状でしょう。「なぜかはわからな

いが効く薬」という感じで、ややすっきりしない感じもありますが、理論的背景

の解明は今後の研究に待つ他ありません。

このように、癒し効果についてはやや判然としない部分が残されていますが、

心理学的研究がまったくなされていないわけではありません。たとえば自然体験

活動の心理学的特徴として、「感覚運動的な活動である」「予測不可能である」「試

行錯誤がしやすい」「命にふれ、環境や人とのリレーション(つながり)を体験

できる」「達成感を体験できる」等の点があげられています(石崎、2006)。これ

らを簡単にまとめると、心理学的な自然体験学習の特徴は「自然という外界から

の刺激に対し、試行錯誤を伴う体験的な活動を通して達成感が得られる」ところ

にあるということになるでしょうか。

心理学者のDeciは、人がアクティブに行動する時には、内発的動機付けが必要

であると述べています。そして、「やる気の元が自分の外にある(外発的動機付

け)よりも、自分の内面にある(内発的動機付けの)方が、創造性・責任感・健

全な行動・持続性に優れる」とされています。また、1)自律性(自分で自分の

行動を選択する悦び)、2)有能感(自分が有能であると感じられる悦び)、3)

関係性(仲間と一緒に取り組んでいると感じる悦び)の3つの悦びを感じたとき

に内発的動機付けがえられるといわれていますが、多くの自然体験活動にこうし

た場面が含まれるであろうことは想像に難くないことでしょう。自然体験活動の

癒し効果の元が、実はこうした「喜び」にも関係していると言えるのかもしれま

せん。

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A.6;さまざまなスキル(技能)を,具体的に活用する中で学ぶこと

ができます

こどもたちが学ぶ様々な知識は,生きるのに必要なさまざまなスキルや知恵の

集大成といえます。しかし,スキルはそれがどのような場面で使われるものなの

か(スキルを使用する状況)という情報とセットで提供されないと,実際に活用

できるスキルとしては身に付きづらいものです。

たとえば,こどもたちがカンナという道具の使い方を学習し,木材をきれいに

カンナがけできるようになったとしましょう。しかしその際に,「どういう場面

でカンナがけが必要になるのか」が学ばれていなければ,実際にカンナがけを必

要とする状況がこどもたちにはわからずじまいになります。使える場面がわから

なければ,スキルを活用することができないでしょうから,だんだんカンナがけ

そのものができなくなってしまうでしょう。このことは,「学習者が、学習の目

的とその価値(適応可能場面)を理解できなければ,学習効果は発揮されずに終

わり,やがてその学習内容は忘却される」と言い換えることができます。

自然体験活動は,衣・食・住に関わるスキルを自然を直接体験する中で学ぶこ

とができますので,スキルが実際の場面の中で学ばれるため大変効果的と言えま

す。

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A7;3日程度より,1週間程度の活動のほうが効果的なようです

宿泊を伴う活動の前には,こどもたちは初めての場所や自宅を離れての寝食,

そして人間関係に関することなど,さまざまな“初体験”が待ち受けていると想

像していることでしょう.このため,わくわくした期待感を持つ一方で,行く前

から何らかのストレスもあるものと思われます.あるいは,学校は全員参加が原

則ですから,中には行きたくないというネガティブな気持ちを持って望む子もい

ることでしょう.こうした始める前から既に存在する何らかのマイナス要因(ネ

ガティブ感情)に,キャンプ中の疲労やストレスが徐々に加わって,ストレスが

時間の経過とともに蓄積していくものと考えられます.

一方で,できなかったいろいろなことができるようになったり,新しい学びを

たくさん得たりすることからくる達成感や満足感といったポジティブな感情も

また徐々に蓄積していくものと考えられます.最終的に得られる体験活動の効果

は,このポジティブな感情からネガティブな感情を引いた部分にあたると考えら

れますので,これらを概念的に表すと第○図のようになります.この図に示した

ように,ポジティブ感情とネガティブ感情がちょうど等しくなる部分(A)は,

活動を始めてからある一定程度時間が経過したところで現れます.したがって,

A点を過ぎてからが,体験活動の効果を高めるために重要な時間帯ということに

なるわけで,それには(経験的にではありますが)やはり3日間程度では短いと

考えられます.

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第○図 活動の効果とストレスの関係(概念図その1)

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第○○図 活動の効果とストレスの関係(概念図その2)

またこの図を見ると,事前学習などを行って体験学習に対する期待を高めること

などによって,「行く前のネガティブ感情」を減らすことができれば短期間の体験

活動でより大きな効果を出すことができると考えることができます.

さらに,学習中に適度の休息日を作ったり,こどもたちの疲労やストレスの様

子に配慮してそれらを軽減する方策をとることでも,より少ない期間で A 点を迎

えることができると考えられます(第○○図).

日本キャンプ協会編(2008)には,3泊4日以上のキャンプとそれ未満のキャン

プで全体効果を比較すると,3泊4日以上の場合の方が効果が高かったという結果

が示されています(なお,この傾向は3泊~8泊まで同様に見受けられますが,9

泊以上になると日数の長さによる効果の違いが見られなくなっています).3泊以

上とそれ未満で効果に差が見られることの原因はまだはっきりとはしていません

が,前述のようなポジティブ-ネガティブ感情の転換点が3日目以降に現れてくる

ことを意味しているものと考えられます.

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Q.;自然体験学習を学校での学習の一環として行う

場合、どのような点に留意すべきですか?

A.1;自然体験学習と授業では目的に違いがあります

これまでの自然体験学習は、学校(学校教育)と学校外(社会教育)の両方で

実施されてきました。どちらかといえば、学校外の自然体験学習のほうが規模も

大きくメニューも豊富だったといえるでしょう。

学校と学校外の自然体験学習にはいくつかの違いがあります。学校での体験学

習は、通常はある教科学習の一部であり、その教科の目的を達成するための手段

の一つに過ぎません。これに対して学校外での体験学習は、何かの目的を達成す

るための手段であることもあれば、体験自体が目的になっていることもあり,そ

の時によって様々です。したがって、学校外で行われている自然体験活動プログ

ラムが優れているからといって、そのまま学校のカリキュラムに取り入れること

は適切でない場合も多くあります。それらを導入するにあたっては、どのような

目的にあわせて組み立てられたプログラムかに注意し、学校での目的に合ったア

レンジを行うことが必要です。

たとえば、自然を五官で感じることを目的に組み立てられたプログラムを、教

科の目的の中に「五官で感じる」ことをきちんと位置づけすることなくそのまま

実施することは、「やりっぱなし(ただ体験させただけ)」という批判を受けるこ

とにつながりかねません。しかし、自然体験学習では五官を使うこと自体が非常

に重要な目的のひとつになる場合もあり、体験することだけでも目的を達成でき

る場合があるため、体験学習にそうした位置づけがなされていれば、授業におい

て実施しても「やりっぱなし」の批判はでてこないでしょう。「やりっぱなし」

の批判は、「学習活動の目的を達成できずに単に体験活動を行っただけ」という

場合に起こりうる指摘です。目的達成に向けてプログラムされていない体験は、

体験ではあっても体験学習とはいえません。

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A.2;自然体験活動は、これまで主に学校外でおこなわれてきたので、

社会教育の特質を前提としたものが多くなっています

社会教育(学校外教育)と学校教育には、

1)内発的動機(やりたい人が参加)⇔学校では否応なく全員参加

2)異年齢集団⇔学校では多くの場合同年齢集団

3)有償⇔義務教育では無償

4)途中リタイヤあり⇔授業は途中で抜けられない

5)内容の選択は自己責任(自分で選ぶ)⇔学習指導要領の範囲内での学習内容

6)多くの場合1日単位でプログラムされている⇔授業は(「国語の次は算数」の

ように)1時間単位で細切れ

7)学びの意味付けは学習者自身が行なう⇔授業の意味が学習者にとって自明で

ないこともある

などの違いが見られます。社会教育の特質はいずれも学校教育にはあまり見られ

ないもので、そうしたことが前提になっていることで、危険がつきまとったり経

費がかかったりする活動を継続することが可能だったという側面もあります。今

後、社会教育で実施されていたような活動を学校での授業として実施する場合に

は、これまでのような“暗黙の了解”が成立していない場所での活動であるとい

うことを意識する必要が出てくることでしょう。

ところで、自然体験活動を指導してきた様々な団体で構成する自然体験活動推

進協議会(略称CONE)では、

1)自然体験活動は、自然の中で遊び学び、感動する喜びを伝えます

2)自然体験活動は、自然への理解を深め、自然を大切にする気持ちを育てます

3)自然体験活動は、豊かな人間性、心の通った人と人とのつながりを創ります

4)自然体験活動は、人と自然が共存する文化・社会を創造します

5)自然体験活動は、自然の力と活動に伴う危険性を理解し、安全への意識を高

めます

の五つからなる自然体験活動憲章を定めて、自然体験活動の普及にあたってきま

した。これらの憲章に現れている内容がこれまで自然体験活動で希求されてきた

ことであるとするならば、“暗黙の前提”が異なることに注意は必要であるもの

の、こどもたちが興味を持ち、内発的な動機を得られるように教育課程上の意義

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付けをきちんと行なうことで、前提の違いを乗り越えて素敵な学習活動を展開で

きるのではないでしょうか。

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A.3;授業のまとめは「ふりかえり」と「わかちあい」で行います

授業の「まとめ」と体験活動の「まとめ」

学校の授業では、最後に「まとめ」を行い、その授業でどのようなことを学ん

だのかを確認する時間を持ちます。たとえば算数の授業では、その過程でどうい

う感想や印象を持ったとしても、最終的には「1+1=2 である」的なことを授業の

まとめとして確認しなければいけません。しかし自然体験学習での体験は全くの

個人的なものであり、すべてがこども個人の感覚に基づくものです。つまり、同

じ体験活動を何人か行ったとしても、どう感じるかは人によって違ってきてしま

います。たとえば、ある食べ物を味わったときに,おいしいと感じた人もいれば,

まずいと思う人もいることがあり得ますが、このときに,「まずい」といった人

に対して「違う。おいしいと感じるはずだ。」などといってもしかたありません。

まずい/うまいが個人の好みによるものであるように、同じ刺激に対する反応に

も個人差があるので、体験学習においても受け取り方に個人差があるのは当然な

のです。したがって、個人差があるものを指導者がひとくくりにまとめてしまう

ことは、自分の体験や感性を否定されるこどもたちがでてくることにつながって

しまいます。このような「体験のまとめの“強要”」が繰り返されると、やがて

こどもたちは自分の体験を学びに結びつけることを放棄するようになってしま

うでしょう。最後は先生の言うまとめを受け入れるしかなくなってしまうのです

から、自分の意見を持つことの意味を見失い、自分で考えることをやめ、他者の

経験を無条件に受け入れてしまうような人格を生み出すことにもつながりかね

ません。そういうことにならないために,自然体験学習のまとめは「ふりかえり」

や「わかちあい」と呼ばれる活動で行なわれています。

「ふりかえり」と「わかちあい」のちがい

「ふりかえり」と「わかちあい」は基本的には異なるものです。「ふりかえり」

とは、「何を体験したのか」「そのとき何を感じたか/考えたか」を時系列にそっ

て想起して整理することをいいます。また「わかちあい」は、同じ体験活動を共

有した人たち同士で考えたことや気づいたことを紹介しあうことにより、他の人

がどんなことを感じていたのかを知り、自分にはなかった気づきをえることで体

験をより豊かなものにするためのものです。この二つによってその時の体験は整

理されますが、活動の場を共有した参加者間でもそれが同じ形で整理されるとは

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限りません。感性を重視する活動を取り入れる時には、特にその辺りに十分留意

する必要があるでしょう。

しかし、上述のことは授業のまとめをしないということではありません。国語

で物語教材を扱う時と同じように、「学習内容のまとめとして整理すべき部分」

と、「感性に基づく個人的なものでありまとめてはいけない部分」とがあること

に留意すればよいのです。そのためには、

1)体験活動時間の確保

2)ふりかえり(体験内容が定着されるように促す)

3)受容(個人の感覚や体験を否定しない)

4)わかちあい(全員で気づきを共有できる場を提供する)

5)授業のまとめ(共通する部分があれば...

確認する)

などに留意した展開が求められます。もし体験学習によって実感のこもる部分を

「まとめ」として一般化したいのであれば、わかちあいが自然にまとまってくる

ようなプログラムを考えるか、わかちあいを通して得られた気づきを次の学習テ

ーマとして追及していくような流れを作るといった工夫が必要になります。

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A4;自然体験活動は全日程を一つのプログラムととらえて流れを組

み立てます

通常の学校では,1時間ごとに教科が変わる形で学習がすすめられています.

一日中算数ばかりではこどもたちの集中力も持続しないでしょうし,「理科は一

週間ぶりだなぁ」などという状況が続くと,以前に学習した内容をすっかり忘れ

てしまうということが起こりかねませんので,毎日少しずつ時間を割く形で学習

が進められるのはある意味当然のことでしょう.

一方の自然体験学習は,(特に長期の場合は)全日程を一つの学習活動として

「流れ」を考えて作られています.自然体験学習では,一つひとつの活動をアク

ティビティと呼び,複数のアクティビティでつくられている活動全体のことをプ

ログラムといいますが,プログラムには全体を通底する「流れ(テーマ)」があ

るわけです.

たとえば,学校の授業の感覚でいくと,「午前中は農業体験(イモ掘り)/午

後は川遊び」というプログラムを組み,午前と午後の活動にこれといった関連性

がなくてもそれぞれのアクティビティ(この場合はイモ掘りと水遊び)が充実し

た学習内容を含んでいればよしとされます.しかし,「実際に接している自然物

から得た体験による学び」を重要視する自然体験学習では,「その地域で学ぶこ

と(その地域を学ぶこと)」「その時間に学ぶことが最も良いこと」などを考慮し

てアクティビティを組み合わせます.「なぜイモ掘りの後に川へ行ったのか」が

こどもたちにも理解できるような「流れ」を考えることで,「今ここにあるもの,

今ここだからできること」から学ぶことが自然体験学習の利点を生かす方法とい

えます.たとえば,「この地域の農業は川の流域に発展してきた.川は輸送路/

水源/漁場/遊び場であり,その自然の恩恵を背景にしてこの地域が成り立って

いた」ということを学ぶためにいろいろな“仕掛け”を含めるようにし,それに

よって「イモ掘り→川遊び」というプログラムに「流れ」を作り出すようします.

したがって,豊富に体験活動が用意されていたとしても,コマ割りのようにた

だアクティビティが割り振られているだけの体験活動では,自然体験活動のよさ

が半減してしまうことには注意が必要です.

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A5;長期の体験学習の場合,特定のプログラムのない日も必要です

「プログラムがない」というのは,こどもたちにとっては「自由時間」という

ことになります.つまり,1 週間程度の体験学習の場合,中間で半日~1 日程度

の「自由時間」をおくのがよいということです.この時間は,もちろん安全管理

はしているのですが,一見「放置」しているように見える場合もあります.学校

での学習活動を考えると,先生(指導者)が教育活動(指導)をしていない時間

帯が長いのはよくないように思われるのも無理もないのかもしれません.

日数が長くなると,こともたちはたくさんの経験を重ねるため,精神的にも肉

体的にも疲労が蓄積しがちになり,学習効果や意欲も低下してきます.また,普

段体験したことのない自然の中での生活ですから,「もっとやってみたいこと」

「自分でためしてみたいこと」などが出てくることもあるでしょう.「自由時間」

は「休息してもいいし,やってみたいことにチャレンジしてもいい時間」として

こどもたちに与えられます.そしてこどもたちは,その時間をつかって自分のこ

れまでの経験をふりかえって整理したり,自主的によりいっそう深めたりします.

「自由時間」はそういった「深化の時間」として確保されるべき時間帯です.あ

たえられたプログラムをこなしていくだけでなく,その地域の自然の中での自分

らしい過ごし方を見つけることができれば,それ自体がすばらしい自然体験学習

となるのです.

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Q.;体験をつみかさねることと知識を得ることはど

ちらが重要ですか?

A.1;体験と知識は対立する概念ではありません.両者を関連づける

ことが重要です

「体験だけさせればよいのでもなく、知識を詰め込むだけでいいわけでもな

い」というのは誰しも思うことではないかと思いますが、それでは両者をバラン

スよく学習の場に位置づけるには、どういう考え方を元にすればいいのでしょう

か。

たとえば「たき火をする」という体験活動の場面を考えてみましょう。子ども

たちのなかには、すでにたき火をしたことがある子とない子がいることと思いま

す。つまり、この体験活動については、子どもたちを「体験済み/未体験」の2

グループに分けることができます。同様に、燃焼や道具の使い方などの知識を「持

っている/いない」の2グループに分けることもできます。この二つの分け方は

別々の尺度を用いていますので、子どもたちはそれぞれ第2図の4領域のどこか

に含まれることになります。この4領域はそれぞれ以下のような領域であるとい

えます。

領域1;「たき火をしたこともあるし、どうしたらよく燃えるのかなどの知識

も持っている」→体験と知識が統合されているので、実感を伴った理解が得られ

ている。理解していることを活用して、異なる場面でもたき火をすることができ

る。

領域2;「たき火はしたことがあるが、どういう場合によく燃えるのか等につい

ての知識を学んでいない」→たき火は実行可能なものであることはわかるが、ど

うやったらうまくできるのかはわからない。したがって、状況に適した活用がで

きないし、たき火以外の燃焼現象とたき火をする時の注意事項等の関係性などに

は気づかない。

領域3;「燃焼やたき火のしかたについての知識はあるがやったことはない」→

自分にとってはたき火というのはイメージできるだけのもので、どのくらい熱い

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第2図 知識と体験の関係と学習の成立

のか/どこまでやったら危険なのか/簡単なことなのかどうか、などについて

はわからない。

領域4;「たき火をしたこともないし、それについての情報に接したこともない」

→たき火についての認識がほとんどない。極端な場合、そういう行為がこの世の

中に存在するかどうかも認知していない(本人にとっては存在していないのと同

じ)。

この場合の教育活動の目的としては、まずは子どもを領域1に含まれるように

すること、すなわち実感を伴った理解を得られるようにすることでしょう。それ

には、第3図に示すように、第2図のA-A’ラインを右に移動させ、B-B’ライン

を下に移動させるような活動をプログラムすることが必要になります。「A-A’ラ

インを右に移動させる」ということは、知識や情報を獲得させることに他なりま

せん。学校での教科の学習でも取り組めますが、理性的アクティビティーの活用

によって自然体験学習の場で取り組むことも可能です。また、「B-B’ラインを下

に移動させる」ということは、体験活動を充実させて実感を持たせることを意味

します。この活動は自然体験活動そのものであり、感性的アクティビティーなど

感覚をフルに使う活動によって実感の得られる体験を充実させることで可能と

なります。こうした活動により、領域4の“見えない領域” に隠れていたもの

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第3図 知識と体験の拡張による新たな気づき

を一人ひとりの子どもが発見することが「自然に対する気づき」につながり、同

時に「実感を伴った理解を増やし、行動につなげられる生きた知識の獲得に繋が

るもの」といえます。したがって、体験と知識はどちらかが優先されるというも

のではなく、こういう考えに基づいてバランスよくカリキュラムに取り入れるこ

とが求められていると言えるでしょう。

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Q.;野外での自然体験学習を指導するにはどのよう

な力量が必要ですか?

A.1;自然を理解することのほか、安全管理などについての力量も求

められます。

自然体験活動にかかわる団体の多くは、自然体験学習を行う指導者には,1)自然体験活動の理念,2)自然の理解,3)参加者の把握,4)自然・人・社会・文化のかかわり,5)安全対策,6)自然体験活動指導法,7)自然体験活動の基礎技術,8)プログラム作り,などに関する理解が必要であるとしています。これらは、NPO 法人自然体験活動推進協議会の指導者養成共通カリキュラムの主な項目となっていて、それぞれが学校における授業とは多少異なる理念や方法論

によって成り立っています。これらの力量をつけるための研修に際して重要なの

は、「目的に沿った体験活動」「学習者主体の活動」「今ここにあるもの,ここで

できること」などをキーワードとした学習をいかに安全に組み立てられるか、と

いうことです。自然体験学習は人と自然が直接する場面ですので、その指導者に

は自然と人との関係を考えるための場面を安全に提供し、それを生かせる教育活

動の展開が求められるのです。

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第4表に、自然然体験活動推進協議会の設定している標準カリキュラムに準拠した指導者養成のモデルカリキュラムの例を示します(能條,2007)。自然体験活動指導者が、おおむねここに紹介されているような活動についての研修してい

ることをふまえておくと、連携して学校での自然体験活動を組み立てていく際に、

どの部分について具体的なアドバイスをもらえばいいかもわかると思います。

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Q.;さまざまな感覚で自然をとらえる活動には、具

体的にどのようなものがありますか?

A.;教材の使い方や解説などがセットになったパッケージドプログ

ラムがあります。

たとえばネイチャーゲーム1、プロジェクトワイルド2、プロジェクト WET3、PLT4などが,“即戦力”として活用可能なパケージドプログラムとしては有名です。これらは、学校教育での活用も視野に入れた構成になっていて、大変取り組

みやすい活動がたくさん含まれています。ただし、どれも体験学習法に基づいた

指導法が原則になっていますので、学校教育にこれを導入する際には、通常の学

習法とは違う配慮も必要です。したがって,これらのプログラムをコーディネー

1ネイチャーゲームは,1979 年にアメリカでジョセフ・コーネルが発表した自然体験プログラムで,日本では

(社)日本ネイチャーゲーム協会が普及活動を行っています。いろいろなゲーム型式のアクティビティーを通して,自然の不思

議や仕組みを学び,自然と自分が一体であることに気づくことを目的としており,自然に関する特別な知識がなくても,豊か

な自然の持つさまざまな表情を楽しめるように工夫されています。洗練されたアクティビティーがたくさんあり,五官を使っ

て活動するための様々な配慮がなされている点で,自然体験学習指導者養成の観点からは外すことのできないものでしょう。

現在,ネイチャーゲームのアクティビティーは 150 種類ほどありますが,どれもが自然の中だけでなく,町中の公園や,学校

の校庭でも手軽にできるよう配慮されていることついては,学校教育への活用という点から見た場合に高い評価を与えて良い

ものと思います。また、「自然や環境への理解が深まる」「さまざまな感覚による自然体験が得られる」「自然の美しさや面白

さを発見できる」「他者への思いやりや生命を大切にする心が育つ」「感受性が高まる」などの効果が期待される活動が多いこ

とから,様々な学校教育の場面での活用が可能であるといえるでしょう(http://www.naturegame.or.jp/)。 2プロジェクト・ワイルドは,野生生物をテーマにして環境教育について学び,環境保全活動を行うことで人間

が野生生物と共存し,地球環境に良い影響を与えることを目的として,1980年からアメリカのWRECC(西部地域環境教育協議会)

と,WAFWA(西部地域魚類・野生生物局協会)が共同で開発を始め,1983 年に正式に公表されたプログラムです。これまでに,

全米で90万人以上の指導者養成が行われており,日本では1999年から(財)公園緑地管理財団が普及活動を開始し,8500名の

エデュケーター(一般指導者)と350名のファシリテーター(上級指導者)が養成されました(2005年4月現在)。それぞれの

アクティビティーは必ずしも野外活動を伴うものでありませんが,活動を通して生態系の仕組みや人と野生動物の共存などに

ついて多くの学びを得られるものとなっています(http://www.Projectwild.jp/intro_list1.html)。 3プロジェクトWET (Water Education for Teachers)は,水や水資源に対する認識・知識・理解を深め責任感を促

すことを目標として開発された「水」に関する教育プログラムで,主にアメリカで開発された「水」に関する90以上のア

クティビティが盛り込まれています。学校教育における様々な教科に応用できるように配慮されていて,計算する/身体活

動を含む/思いを絵や音で表現する/文章能力を養なう/議論する/疑似体験する,などのさまざまな学習に繋がる活動があ

ります。どちらかといえば野外活動は少なく,むしろ科学的な水の性質を体験的に学習する場面で効果的なアクティビティー

が多くなっていますが,それらをふまえた上で,「水をどう管理したりシェアしたりすべきか」という、国際社会では重要な視

点であるにもかかわらず日本ではあまり意識されていない“水は限りある資源である”ということを学ぶことができるという

点に特色をもつ、ユニークなプログラムであるといえます。日本では,2003年から(財)河川環境管理財団が普及活動を開始し

ています(http://www.project-wet.jp/)。 4 PLTはProject Learning Treeの略で,森林や木(植物)をテーマにした環境教育プログラムです。前述のプロジ

ェクトワイルドやプロジェクトWETに先駆けてアメリカで開発されたもので,木や森林を自然界への「窓」と位置づけ,子ども

たちがまわりの世界・世界の中の自分の住んでいる地域・それに対する自分たちの責任について学ぶことを目指した活動とな

っています。これは、1970 年代半ばにアメリカ合衆国の森林管理を改善しようということで,アメリカ森林協議会・森林製品

産業貿易協会が,西部13州の教育委員会や資源局からの代表者で構成されるアメリカ西部地域環境教育協議会との協同事業

として活動を開始したものです(http://www.k3.dion.ne.jp/̃ eric-net/plteric.htm)。

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トして教育課程に盛り込む際には、単によさそうな活動をつまみ食い的に組み合

わせるのではなく,地域の自然やこどもの状況にマッチした体験学習として設定

することが必要です(能條、2006)。 このようなパッケージドプログラムの他にも、いろいろな活動を自然体験活動

として位置づけることは可能です。巻末に参考としてパッケージドプログラムな

どのいくつかのアクティビティーをどのように学校教育に位置づけるかを含め

たプログラムとして紹介します。

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Q.;自然体験学習を指導するにあたって安全に配慮

することが必要なのは当然ですが、その他にはどの

ような配慮が必要になりますか?

A.1;科学的知識として、指導者が自然事象のつながりを知っている

ことは、事物の名前を知っていることよりも重要です

自然体験学習指導者を対象に実施したアンケート調査では、「役立った自然科学

的知識や技能」として、「生物の名称」「生態系の仕組み」「生活文化(自然物の利

用/食用など)」「地域的な人と自然の関わり」「天気/気象」「生物の生態や成長」

などが共通して上位を占め、「原子・分子論」「水溶液/イオン」「エネルギー論」

「土壌・岩石・化石の名称」などはともに低いという結果になりました(能條ほ

か、2009)。また、「今後学んでみたい自然科学的知識や技能は?」という質問でも、ほぼ同様の項目が上位を占めていました。このことから、細かな知識よりも、

自然ガイドなどを中心とする活動に役に立つのは自然事象のつながりに関する知

識であることが見えてきます(もちろんある程度の知識が必要になるのは当然で

すが)。 「生き物の名前を教える」ということは伝統的なガイド方法ではありますが、

今日の自然体験学習では「名称を教えること」を目的としたガイド法はあまりよ

しとされていません(もちろん、学習の目的をどこに置くかにもよりますが)。た

とえば「これはなんですか?」と質問を受けた場合に、「コマクサだよ」と名称を

教えてしまうと、そこで学習が完結してしまいます。私たち自身が「これはなん

ですか?」と質問する場面を考えてみましょう。その問いかけの背後には、「名前

を知りたい」ということの他に、「どうしてここに咲いているのか?」「なんでこ

んな形なんだろう?」「食べられるのかな?」など、さまざま興味があったのでは

ないでしょうか。実際に口から出てくる問いかけは(特にこどもの場合)「これ何

ですか?」という問いかけになっている場合が多いと思いますが、それは単に名

称を聞いているわけではないと考えるべきでしょう。そう考えると、もちろんい

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ろいろな自然物の名前を知っている方が豊かな学習を提供できるとは思いますが、

そういうことよりも、自然の事物のつながりやできごとの因果関係について考え

ることのできる指導者の方が、自然を豊かに伝えていくことができるのではない

かと思われます。そういった意味で、生物や岩石の名称よりも、「自然の見方」「生

態系のつながり」などを伝えるインタープリテーションの方が重要なのではない

でしょうか。

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A.2;こどもたちの科学的知識の定着度が領域別に異なっていること

にも注意すべきでしょう

全国の公立小・中学校教員を対象として実施された定着度調査(加藤,2008)では、小学校で定着率の悪い項目として、「昆虫の体のつくり」「食べ物の消化吸

収」「血液の働き」「乾電池のつなぎ方」「ものの溶け方」「ふりこ」「影の動き」「月

や星の動き」「水・水蒸気・結露」「天気の変化」「岩石と地層」「土地の作りと変

化」などがあがり、なかでも天文・地質・気象に関するものについては,60%以上の教員が定着率が悪いと述べられています。一方中学校では、「大気圧」「水溶

液の濃度」「中和」「電気回路」「原子・分子論」「時間と速さ」「地層」「地震」「天

気」「四季の星座」「自転と公転」「太陽系の構造」等の定着率が悪いとされ、ここ

でもやはり天文・地質・気象の定着度が際立って低くなっています。マクロ自然

観に関するものは、大人もこどももあまりイメージを持てずにいることが、この

調査からも見えてきます。 加藤(2008)は、小・中学校の連続性と関連性の観点から、生物・地学領域において、「自然事象に対する直接体験の不足が、定着度の不十分さにつながってい

る(中略)学校教育で自然体験の部分から保証しなければならない現状は、まさ

に憂慮すべき事態である」と述べています。「既習事項なので理解できるだろう」

という安易な考えではなく、基礎的な直接体験の場を生かして定着度を補うよう

な場面設定も必要だということになりそうです。

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A.3;一定の割合で色弱5の人が参加者のなか含まれています

自然体験学習では、多くの活動に色を使って判断する場面が含まれています。

しかし、日本の場合、男子で約5%、女子でも0.2%の割合で色弱の人が含まれて

います。このぐらいの割合になると学校の40人学級の場合は1~2名の割合で含

まれていることになります。色弱の場合、日常生活にはあまり支障がないので、

“異常”という言葉は適切ではなく、これほどの割合で含まれているということ

は、むしろABO式血液型のようなある種の個性(遺伝的多型)と考えていいと思

います。

自然体験学習の場で「同じ色を探そう!」「この色は?」といった問いかけを

する場合は注意が必要です。少なくても,色の名前を問うのは適切ではない場合

が多いと思われます。

そもそも医学的な意味で色弱と診断されない人どうしでも、他人の見ている色

が同じように自分にも見えているのかどうかは確かめようがありません。ある人

にある色をさして名前を聞いて「赤です」と答えた場合、実はその人の「赤」と

私の「緑」が同じものだったとしても、それを確かめることはできません。どの

ように見えていても覚えている名前で答えるからです。ここでも、「体験は個人の

ものである」ということが意味を持ってきます。

参考までに、どのように見え方が異なるかを第3図に示します。第3図の左は

もとのアクティビティシートで,右側はコンピューターでシミュレートした色弱

の人の見え方を示しています.ヒトの目には3種類の色を感じる細胞があり,そ

れぞれR・G・B(Red・Green・Blue)の波長をとらえています.ほとんどの色弱のタ

イプはRの機能が弱いP型(または1型といいます)かGの機能が弱いD型(ま

たは 2 型といいます)で(http://www.happycolors.net/sikijaku.html),両者の見

え方は似ています(機能の強弱によって見え方には個人差があります).第4図を

みてもわかるように,色弱は一般に赤と緑の区別がしづらい場合が多く,黒板(実

は“緑板”)に赤いチョークで字を書いてはいけないと言われているのはこのため

5色盲や色弱という用語には差別用語としてのイメージがあり,言い換えも進められているが,科学的には「色

盲は遺伝的多型と考えるべきで, “異常”や“害”ではない.したがって,言い換えたとしても色覚異常・色覚障害という用

語はむしろ本質からはなれた“問題用語”と考えられる.この意味で,むしろ色盲の方が価値判断を含まない語である点でまし

だと思われるが,差別用語として問題視されがちな用語であることも否めない.そこで,本論では色盲という用語は使用せず,

岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学)の提言にそって,(学術的には使われなくなっているものの)差別用語感の少ない色弱とい

う用語を使用する(http://www.nig.ac.jp/color/mou.html).

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第4図 色の見え方の例

左;C型(一般色覚者),中央;P型(1型)色覚者,右;D型(2型)色覚者

日本ネイチャーゲーム協会の「森の色あわせ」カードとパブリックドメインソフトの ImageJ 1.33U

およびVischckを使用.

です.文部科学省の作成したカラーバリアフリー(色によるバリアをなくすこと)

教育のための指導資料では,色の名称を聞くことが不適切であることなど、参考

になる多くの留意事項が紹介されています

(http://www.pref.osaka.jp/hokentaiku/hoken/sikikaku.html)。

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A.4;「地域から学ぶ/地域で学ぶ」という意識が必要です

たとえばA村でもB町でも校庭の畑でもやろうと思えば「イモ掘り体験」はで

きます.しかし,「この地域はどうしてイモ作りをしているのか」「なぜこの時期

に収穫なのか」「地域のお祭りが収穫期に合わせて行われているのはなぜか」とい

ったことを,地元の人に教えてもらいながらのイモ掘り体験は,どこの場所でや

っても同じ単なるイモ掘り体験ではなく,その地域に行ったから,そしてその地

域の人に話をしてもらったからこそ学べるということがたくさん含まれます.こ

どもたちにとっても,受け入れる側の地域にとっても,体験活動を単にアクティ

ビティとしてとらえてしまうと,その地域で体験するということの意義が忘れ去

られてしまう危険性があることには留意しなければいけません.わざわざ学校を

離れて別の地域に行った(来た)のですから,活動を通して異なる自然と文化・

歴史についてもたくさんの学びが得られるようにしたいものです.

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A.5;キャンプなどの宿泊型の学習では,プログラムなどの組み立て

方によって効果にちがいがあります

日本キャンプ協会編(2008)は,多くのデータに基づいて以下のような報告を

行っています.学校での長期自然体験学習においてもこれらの点に留意すること

が必要でしょう.

「参加者数や班編制について」

活動の効果として「自分や人とのつながり」を重視するばあい,参加人数は21

~40 人ぐらいの「全員の顔が見える規模」がよく,(学校の場合あまり当てはま

らないかと思いますが)班を作る場合にも「知らないものどうしを同じ班にした

方がいい」という結果が出ています.また,生活をともにする班は途中で変更す

ることなく,同じメンバーとじっくり向き合うことがよいとされています.

「プログラムについて」

現地において,環境学習や環境に配慮した行動についての指導が行われた上で,

生活体験(野外炊事やテント泊などの野外での衣食住)や野外スポーツ(登山な

どの小集団で協力しながら困難を乗り越えるもの)により自然環境との密接な関

わりをもち,創意工夫・挑戦・協力・我慢が伴なう活動が学習効果の向上につな

がると指摘されています.

「生活・環境」

「民家や農家に近いが自然に囲まれている環境」のほうが「近くに民家はなく,

非常に自然が豊富」な環境よりも効果が高いことがわかりました.一方で,「自然

がほとんどない」とか「自然が少ない」といった環境での効果はさほど高くあり

ません.このことは,里山のような「人と自然が共存している環境」で人と自然

のつながりを体験することがよいことを示唆します.

また,宿舎泊とテント泊の両方をふくむものの効果が高いことが示されていま

す.さらに,「施設が整っていない」「悪天候の日があった」といった場合に学習

効果の高いことも指摘されています.ありのままの自然に触れたり,工夫して代

用することなどが,自分や人と自然との関係を見直すことに大きく影響している

ものと考えられます.

「指導者について」

指導者(実際の体験の指導者だけでなく引率者や裏方スタッフなどを含む)1

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人に対する参加者の数が 3人未満の方が 効果が高いことがわかっています.ま

た,指導者の間で体験活動の目的を共通理解しておくことが重要で,そのための

事前打ち合わせなどに多くの時間を割くことが,こどもたちにも良い結果を与え

ることがわかっています.しかしこのことは,どの体験活動もすべての指導者で

取り組まねばいけないという意味ではありません.個々のプログラムを担当者に

丸投げするのではなく,教員・自然体験活動指導者・受け入れ先地域や施設関係

者などのすべてのスタッフが,入念な打ち合わせにより「この学習活動の目的は

何か」ということについての共通理解を持つことが大切なのです.

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Q.;自然体験学習の評価はどのようにして行うので

しょうか?

A.1;こども一人ひとりの成長を評価します

授業時数との兼ね合いを考えれば、長期自然体験での学習活動の多くを

国語や図工などの教科の一部に位置づけることが必要とされますので、そ

の教科の学習目標を達成できたかどうかという形での評価は可能かと思い

ます。しかし一方で、自然体験学習全体の教育的効果を“形にして残す”

ことも、こどもたちの成長記録として重要になります。この作業は、「地

域の人や自然の中で学ぶことによって、どういった教育効果(こどもの成

長)があったのか」「学校では学べなかったどんなすばらしいことが学べ

たのか」「こどもたちはどんな“生きる力”をつけたのか」を、こどもた

ち一人ひとりの個人内成長を元に記載することになります。しかし自然体

験学習は、一人ひとりの感覚がもとになった学習活動が多いので、ペーパ

ーテストによる到達度評価で数値的な評価を行うのは大変困難なものと考

えられます。 学校教育の中にも、こども個人の興味・関心にもとづく課題を体験的な

活動によって解決するという「総合的な学習の時間」があります。「総合

的な学習の時間」でも、ペーパーテスト等を使って数値的な評価すること

は適当でないとされており,「信頼される評価方法」「多様な評価方法」

「学習状況の課程を評価する方法」を用いるようにとされています。そこ

では、多様な評価方法として、

・発表や話し合いの様子,学習や活動の状況などの観察による評価

・レポート,ワークシート,ノート,作文,絵などの制作物による評価

・学習活動の過程や成果などの記録や作品を計画的に集積したポートフォ

リオによ

る評価

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・一定の課題の中で身に付けた力を用いて活動することによるパフォーマ

ンス評価

・評価カードや学習記録などによる児童の自己評価や相互評価

・ 教師や地域の人々等による他者評価 などが例示されています

(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syokaisetsu/index.htm)ので、これらの評価方法を参考にすると、体験学習全体の評価を記述するこ

ともできるのではないかと思います。

たとえば、「日々の作業がどんなことだったのか」「その日どんな情報

を仕入れたり作業をしたりしたのか」「その時に何を考えたり工夫したり

したのか」を綴ったポートフォリオなどから、「こどもが今どこまで課題

解決に近づいたか」「最終的にどのようなことを学んだのか」を読み解く

ことは可能でしょう。また、教員がこどもの日々の状況をつかんだり,こ

どもたち自身が自分のこれまでの学びをふりかえったりできるようになれ

ば,「やりっぱなし」批判を受けることもなくなります。 作成するポートフォリオなどは、作文や絵だけでなく、デジカメでとっ

た活動成果や農家の方に聞いた話,もらったパンフレットや料理のレシピ

などのあらゆるものを対象とします.「記録作りのための活動」になると

つまらないかも知れませんが,そういうものを使ってふりかえりができて,

長期自然体験の最終日にはこども一人ひとりの「オリジナル報告書」が出

来上がっているような“仕掛け”作りをするというのもいいかも知れません.

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おわりに

現在のところ、学校への自然体験活動の導入に際して障壁になっている(なり

そうな)ものは、「プログラム例の不足」「指導者不足」「資金不足」「安全管理」

「教育方法」「自然体験活動の意義」「評価の方法」などと思われます。本論では、

主に「教育方法」「自然体験活動の意義」などについて述べました。それ以外の

論点は他に譲りますが、学校教育において行われる自然体験学習は、多くの場合

は学校教育の目的を達成する「手段」に過ぎません。目的と手段を混同して、学

習効果を損ねることのないように気をつける必要があるでしょう。本論を通じて、

現代の学校教育にとって自然体験学習が大変有意義かつ効果的なものであるこ

とについてご理解いただき、学校現場での導入に向けての一歩を踏み出していた

だく際の参考にしていただければ幸いです。

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湯澤正通ほか(1998)認知心理学から理科学習への提言。北大路書房、244p.

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付録1

プログラム企画・実施時の

チェックリスト

プログラムを作ったり運営したりするときには,様々な点に配慮しなければい

けません.そこで,いくつかの点に気を配って実施できるようにチェックリスト

をあげてみました.まだまだ意を配らなければいけないことはありますが,「こ

んな企画を考えてみよう」「この企画を実施しよう」というときに,一度これを

使って確認してみてはいかがでしょうか.

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プログラム企画時のチェックリスト ○ プログラムをつくる時には以下の点に留意しましょう。

ねらいの達成

□ ねらいや意義が明確なプログラムになっていますか? □ 地域の「自然」「ひと」から学べるプログラムになっていますか? □ 全体のながれ(フロー)ができていますか? □ こどもが自分で考えて自由に使える時間(“深化の時間”)は確保されていますか?

□ こどもが活動全体をふりかえる時間はありますか?

学校教育への適合

□ アクティビティと教科学習との関連に配慮できていますか? □ こどもの心身の発達段階をふまえていますか? □ 学校や学級の状況や人間関係(教員と子ども、こどもどうし)に配慮していますか?

□ 指導者の役割分担や教職員の勤務体制について考慮していますか?

□ スタッフ間、スタッフと教員との間で目的の共有はできていますか?

活動内容と安全管理 □ フィールドについての情報は十分ですか? □ 装備品等の確保はできていますか? □ 具体的な危険とそれ回避する方法を考えてありますか? □ 緊急時の対応について配慮していますか? □ 予算のめどは立っていますか? □ 荒天時の活動場所やプログラムは考えてありますか?

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説明責任 □ 保護者にもねらいや意義が理解できる内容となっていますか? □ 保護者の理解の得られる費用設定になっていますか? □ 保護者の理解を得られる日程となっていますか? 芳賀一郎(2009)平成21年国立日高青少年自然の家企画事業「自然体験活動指導者養成研修会」資料 を改変

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プログラム実施時のチェックリスト ○ プログラムを実施する時には以下の点に留意しましょう。

ねらいを伝える

□ 伝えたい思いは、分かりやすくて短い言葉になっていますか? □ なぜその思いを伝えたいのか、理由を分かりやすく説明することができますか?

□ そのプログラムが終わった後、参加者に言わせたい「一言」は何ですか?

参加者のニーズ

□ その思いを伝える相手は、どこにすんでいますか? □ その思いを伝える相手は、何歳ぐらいの人ですか? □ その思いを伝える相手は、普段は何を考え、何をしている人ですか?

□ その思いを伝える相手は、あなたとどんな時間を過ごしたいでしょうか?

伝える方法

□ その思いを伝える方法は、ベストの方法ですか? □ その方法は、自分たちのスキルで提供できるもの・ことですか? 安全管理

□ その方法で、安全に提供できることがを説明できますか? □ 参加者の事故やけがを未然に防ぐ手立てをしましたか? □ 事故やけがが起きてしまった時の手立てを確立していますか? □ それらの危険をスタッフ間で共有できていますか? □ スタッフの安全を確保できていますか?

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道具について

□ 目的を達成するために必要十分な数が揃っていますか? □ 使う道具は、安全なものですか? □ 参加者の使い方をできるだけ想定できていますか? □ 十分に整備され、丁寧に使ってもらえる状態になっていますか。 アクティビティデザイン

□ 参加者の前に立つときの、スタッフの役割分担は明確ですか? □ スタッフすべてが、プログラムの詳細にわたるまで理解していますか?

□ 様々な手法や活動が、目的に向かった「ストーリー」として無理なく組み立てられていますか?

□ 様々な手法や活動をつなげるストーリーを伝えるための、「問いかけ」は用意してありますか?

パフォーマンス

□ 参加者の前に立つときの服装は、指導者として適切ですか? □ 参加者を前向きにさせる表情、立ち居ふる舞いをしていますか? □ すべての参加者の心に響くように言葉を発することができていますか?

□ 参加者を十分に理解し、配慮して言葉を選んでいますか? □ 人前でしゃべっている自分に酔ってはいませんか? その他

□ 「はじめます」「終わります」がはっきりしていますか? □ 人権を侵害するような差別的・侮蔑的な言動は取っていませんか?

□ 開催前に、参加者に十分な情報が行きとどいていますか?(集合・解散の場所と方法、服装、持ち物、どういう活動がなされる

のか、など)

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□ 保護者の信頼を得るよう努力していますか?(命を預ける対象として信頼されているか/信頼できるプログラムか)

□ 適切な広報活動がなされていましたか? □ チラシや案内は、見やすくかつ的確な表現、必要十分な情報が書かれていましたか?

上田 融(2009) NPO法人ねおす平成21年度小学校長期自然体験

活動指導者養成事業資料 を改変

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付録2

自然体験アクティビティー

事例集

ここに紹介した事例には,どの教科の時間に落とし込みやすいかが参考として

書かれていますが,特別活動や総合はどれも適応可能なので省略しました。また,

活動の後に記録を作成させることで国語に,他地域と比較することで社会科に適

応できるものもたくさんあります。したがって,ここに紹介する実践事例は,導

入やふりかえり(まとめ)のやりかたを変えることで,様々な授業に取り入れる

ことができるものと思います。

この資料集は,「能條 歩(2007)アクティビティ事例集 環境教育に関する

アクティビティ.野外教育指導者養成のための研修プログラム,国立日高青少年

自然の家,48-57.」を一部改変しました.

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1.ね ら い 雪は地層と同様に層状に堆積していることに気づき,断面を観察するこ

とによってわかる堆積順序や氷への変化の度合いなどから,そのシーズン

の雪の降り方などを振り返り,雪が圧力を受けることで次第に氷へと変わ

っていくことを知る。

2.教 科 理科

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

乱されていない積雪断面を選び,雪面の観察を行う。 (2)準備するもの

スコップ,霧吹き,色水,バーナー(ガスの燃料缶に取り付けるタイプのもの)

(3)活動手順

1.擾乱されていない積雪のある場所を選び,スコップで断面を

出す。 2.色水を霧吹きで断面にまんべ

んなくスプレーする。 3.断面をバーナーであぶり,表

面の雪を少し融かす。 4.堆積層が現れたら観察する。 (4)指導上の留意点

積雪層の数,厚さ,粒径などの違いに着目し,降雪の回数・量・氷への変化の様子

などに気づかせる。色水が溶け出して衣服につくと取れなくなるので注意する。また,は

じめはなるべく手付かずの場所を観察したほうがよいが,風が巻き込むところなどを観察

してみるのも面白い。雪を地層と同じように考えて,過去の状況を推測するとよい。

アクティビティ 1 活動名

積雪断面調べ

積雪断面(バーナーであぶって観察しているところ)

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1.ね ら い 生態系の「食う・食われるの関係」が,網の目のようになっていて,多

くの生き物が相互または間接的に関わりあっていることに気づく。

2.教 科 理科

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋内外いずれも可

5.実施内容

(1)活動の概要

PLT(Project Learning Tree)はアメリカで開発された木を教材とした

環境教育系のパッケージドプログラムである(詳細はhttp://www.eric-net.org/参照)。このアクティビティーは,その中のひとつで,紐を使って食物網を考える活動である。 (2)準備するもの

ロープまたは荷造り紐(人数×10m程度)

(3)活動手順

1.参加者に円状に並んでもらう。 2.一人にその地域に見られる植物の名前をひとつ言ってもらい,その役をお願い

して紐の端を持ってもらう。 3.その植物を食べる動物を考え,別な人にその動物役をやってもらい紐を渡す。 4.さらにその動物を食べるもの,そのまた次に食べるもの(誰も食べなければそ

の死骸をたべるもの)…と紐を渡しながら網目を作り,スタートに戻す。 5.「農薬散布の影響を受ける人は紐をゆすろう」などの指示により,ひとつの生き

物が影響を受けるとそれが全体に波及することに気づかせる。 (4)指導上の留意点

「花粉と昆虫」のような生態に関わる関係を利用してもよい。食物連鎖についての

学習が終わっている方がよいが,低学年でも生き物のつながりを意識することはできる。

アクティビティ 2 活動名

生き物どうしのつながり(PLT)

できあがった食物網

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1.ね ら い 生態系のバランスは動的な平衡関係であることを知る。

2.教 科 理科・社会

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋内外いずれも可

5.実施内容

(1)活動の概要

プロジェクト・ワイルドは野生生物を題材にして,アメリカで開発された環境教育

系のパッケージドプログラムである(詳細はhttp://www.projectwild.jp/参照)。このアクティビティーは,ゲームによって動的平衡を学ぶ活動である。

(2)準備するもの

ホワイトボード

(3)活動手順

1.参加者に「シカ・環境要素(水・食料・すみか)」の役割を割り振る。 2.参加者を半分にわけ,シカ役と環境要素の2グループに分ける。 3.環境要素は「水」「食物」「すみか」とし,それぞれのポーズを決める。 4.シカ役,生息環境役とも整列して対面し後ろを向いて任意にポーズを決める。 5.合図によって振り向き,シカ役は同じポーズの環境要素をパートーナーとしてシカの陣地につれて行く。

6.つれてこられた環境要素は次回シカ役に,環境要素を確保できなかったシカ役とシカに選ばれなかった環境要素は次回環境要素役になる。

7.各ラウンドを 1年に見立て,シカの数をグラフ化する。 (4)指導上の留意点

必ずしもシカでなくてもよいので,地域にみられる動物を題材にするとよい。また,

単なるゲームに終わらないために,生態系の基礎知識の復習につなげたり,生態学では重

要だが学校教育ではあまり学ぶ機会のない「動的平衡」という概念についての理解が深め

られるようなふりかえりを心がけるとよい。また,応用編として肉食獣役を作ると,さら

に「食う・食われるの関係」のバランスがどのように保たれているかも考察できる。

アクティビティ 3 活動名

オー,ディア!(プロジェクト・ワイルド)

動的平衡状態にあるシカの頭数変動

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1.ね ら い 資源としての水の貴重さを知り,生活の中での使い方を振り返る。

2.教 科 社会・理科・体育・家庭科

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

プロジェクトWETは水を題材にして,アメリカで開発された環境教育系のパッケージドプログラムである(詳細は http://www.project-wet.jp/参照)。このアクティビティーは,水汲み競争を通じて,資源としての水について考えるものである。 (2)準備するもの

バケツ,水,容器

(3)活動手順

1.昔の生活など,水道を使わずに,水源から水を運ぶ生活様式について考える。

2.参加者を二つに分け,水源に見立てた水場から家庭

に見立てたバケツまで,水汲

みリレー競争をする。 (4)指導上の留意点

たとえば環境汚染問題やアウトドアスポーツの場としてなど,さまざまな場面で水

は野外活動でも学習素材として活用されているが,環境教育という観点から見た場合,意

外と忘れられがちなのが「資源としての水」という観点である。日本のように水資源が豊

富なところはむしろ世界の中ではまれなこと,限りある資源の共有ということを考えるこ

とが環境問題の解決にも大きく関係すること,などをふりかえりで実施するための場とし

て,野外活動で遊びの一部として水と接する場面を好機と捉えて指導するとよい。

アクティビティ 4 活動名

水運び( プロジェクト WET)

白熱する水汲みリレーの様子

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1.ね ら い 自然に見られる美しさをわかちあい,観察力を高める。

2.教 科 図工・理科

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

ネイチャーゲームは,自然への気づきを目的として,アメリカで開発された環境教

育系のパッケージドプログラムである(詳細は http://www.naturegame.or.jp/参照)。このアクティビティーは,自然物を美術作品に見立てて鑑賞会を行う活動である。 (2)準備するもの

額縁にする紙,洗濯ばさみ,タイ

トルを書くための紙(ポストイットでも

よい)

(3)活動手順

1.気に入った自然物に“額縁”をおいたりとめたりして,タイ

トルをつける。 2.参加者同士で鑑賞しあう。 (4)指導上の留意点

小さな自然物だけでなく,“額縁”からみえる風景や木漏れ日の様子などを作品とす

ることもできることを伝えるとよい。また,写真のように洗濯ばさみなどを使った“空中

の作品化”も視野が広がるので推奨したほうがよい。感性が重要視されるプログラムであ

るので,気分的に落ち着いているところで実施するほうがよい。また,夜間に懐中電灯な

どでライトアップするとまったく印象が変わって感動的である。美術作品を作るというこ

とよりも,自然の事物を作品化する過程で,いろいろなものをじっくり観察して気づきを得ることが目的となっていることに留意する。

アクティビティ 5 活動名

森の美術館( ネイチャーゲーム)

“額縁”によって作品となった自然物

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1.ね ら い 雪の重みや雪中での音の伝わり方を知り,埋没した場合の危険について

学ぶ。

2.教 科 理科・体育・保健

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

深さ 1m以浅の雪中に 1分ほど埋没体験する。 (2)準備するもの

スコップ

(3)活動手順

1.深さ 1m程度で,身長にあわせた穴を掘る。

2.埋没する人は,穴の中で口元に呼吸のための空間を確保

してうつぶせに横たわる。 3.足元から静かに雪をかけ,

全身を埋没させる。 4.だいたい 1分ほどしたら,頭のほうから掘り出す。 (4)指導上の留意点

呼吸するために口周り空間の確保を忘れないこと。また,埋没中は身動きが取れず,

暗闇で埋没者の声は外にほとんど聞こえず,かなり心細くなるため信頼関係のできていな

いグループでは実施しないほうがよい。また,危険なので上からかける雪は押し固めず,

埋めるときも静かにかけなければ埋没する人は痛いので注意する。あまり深く埋めなくて

も,20~30cm程度埋まって体が完全に隠れるくらいで力の無い人は身動きできない。 最後に,どんな感想を持ったかを聞き,屋根からの落雪や雪崩に巻き込まれたとき

のことなどを考え,雪の持つ危険性についても考える時間を持つ。

アクティビティ 6 活動名

雪中埋没体験

外から声をかけているところ(埋没者には外の音が聞こえる

が,外には埋没者の声はよく聞こえない)

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1.ね ら い 自然の中を歩きながら景色や事物に触れ,自然を体感する。 2.教 科 体育・理科

3.実施時間 3時間

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

自然を観察できるコースを歩

くことで地域の自然を体感するとと

もに,地域の生態系・環境やその成

り立ちについて学ぶ。 (2)準備するもの

ハンマー,ルーペ

(3)活動手順

1.あらかじめ下見したコースを列を作って歩く。

2.体力差のある集団の場合は,先頭にサブリーダーを,

最後尾にリーダーを配置す

る。 3.起伏のないルートの場合はおおむね30~40分移動するごとに,休憩をかねて15

~20分程度の自然観察の時間をとる。登山の場合は,起伏に合わせて休憩する。 (4)指導上の留意点

自然科学的な解説よりも自然体験学習的意義に重み付けし,地形・岩石・動植物な

ど,存在物そのものに気づきを得ることを優先する。また,説明役と安全管理役の複数の

指導者を配置し,観察やサンプル採取にはミニマムインパクトを心がける。整列して歩く

ことではなく,自然に触れ合いながら歩くことに意義があることを忘れずに指導にあたる。

アクティビティ 7 活動名

軽登山/ハイキング

移動中はこのように列が伸びやすいので,安全管理上の注意が必要

概念よりも,実際に見ることができるもの,触れられるものを示す

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1.ね ら い 生き物が敵から身を守ったり獲物を捕らえるために行っている保護色や

擬態などについて学び,観察力を養う。

2.教 科 理科・図工

3.実施時間 1時間

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

自然の中に人工物をおき,じっくり観察して見つけ出す。 (2)準備するもの

人工物(さまざまな色や形の小物) バンダナ

(3)活動手順

1.トレイルなど一方向に歩ける場所に,人工物をセットする。 2.参加者は一列に並び,無言で順番にセットされた人工物を探す。見つけても,

他の人に知らせない。 3.最後に全員でセットされていた人工物を回収し,見つけやすい(あるいは見つ

けづらい)形や色について考え,生き物達の保護色や擬態のことを考える。 (4)指導上の留意点

セットする人工物は隠すのではなく,見つけやすいか見つけづらいかを考えるため

におく。指導するときは,単なるゲームに

終わらないようにするために,昆虫の擬態

などの話を織り交ぜながらの振り返りを行

い,生き物達の生態を学ぶ活動であること

を意識する。

アクティビティ 8 活動名

カモフラージュ(ネイチャーゲーム)

トレイル脇で人工物を一列になって捜す様子

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1.ね ら い 冬の野外の様子に親しむと同時に,雪の物理的性質を知る。

2.教 科 理科・体育

3.実施時間 4時間~

4.実施場所 屋外

5.実施内容

(1)活動の概要

イグルーを作ったり,野外炊飯をすることで,楽しみながら冬を体感する。 (2)準備するもの

スコップ,のこぎり,炊飯道具

(3)活動手順

1.イグルーを作るため,台形の雪ブロックを切り出して,円形に積

み上げる。切り出しは,のこぎり

を使って切れ目を入れた後,スコ

ップを使ってブロック上に“取り

出す”ようにする。あまり大きく

作ると運ぶのが大変なので,適当

な大きさを考える。 2.大人 2 人程度が寝られるぐらい

になるように円形に積んでいく

(多少狭くても後から床面を掘り

下げて広げられる)。台形の雪ブロ

ックの上底が内側になるように積

み重げて円形する。多少の隙間は

あとから雪でふさげばよい。

アクティビティ 9 活動名

イグルー作り,スノーキャンプ 見つけやすいもの,見つけづらいものを考える

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3.「浴槽の栓」状に切り出した丸い雪ブロックで天井にふたをする。

その後,入り口を開けて中に入り,

床面を掘り下げて居住空間を確保

する。あまり入口を大きくすると,

冷気が入り込んで寒くなるので注

意する。入口にはブルーシートな

どで“ドア”をつけると風除けに

なる。

4.完成したら周囲をチェックして隙間は雪でうめておく。

(4)指導上の留意点

作成したイグルーに寝る場合は,床

にダンボールや断熱マットを引き,スリー

シーズン用寝袋を2枚重ねにしてスキーウェアのまま寝る。寝る前には乾いた下着に

着替えること。春先などで暖かい場合は,

万一天井が崩落したときに備えてスコップを持って入る。夜になると作業しづらいので,

日がくれる前に作業が終われるように十分日程に余裕を持ったプログラムにすること。 活動が終わった後は,万一,別の人が杯って遊んだりして事故が起きることを防ぐ

ために,イグルーをつぶすところまでをアクティビティーとする。イグルーはあまり大き

く作ると内部の温度が低くなる傾向があるので,必要以上に大きくしないこと(下図は

2006年 2月の岩見沢市におけるデータ)。