常温での高結晶配向性セラミックス 積層材料の形成技術 -...
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常温での高結晶配向性セラミックス積層材料の形成技術
横浜国立大学 大学院工学研究院
システムの創生部門
准教授 長谷川 誠
2018年6月19日JST東京本部別館ホール
東京都千代田区五番町7K’s五番町
1
→ 環境保護膜の必要性
100 mm
セラミックスTBCs
ボンドコート
Ni基超合金
C.V. Cojocaru, et al. (2013)
BSAS
Mullite
Silicon
SiC/SiC
セラミックスEBCs
ボンドコート
✓ 例えば、耐熱構造部材について
基材の力学特性と耐環境性の両立は難しくなっている。
背景 ~セラミックス積層材料の必要性~
APS法 (大気プラズマ溶射)、EB-PVD法 など
TiAlN CrSiN
✓ 工具の耐摩耗性の向上として
M. Furuno et. al (2010)
http://www.hokunetsu.com/
CVD法AIP 法
(アークイオンプレーティング)
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従来の成膜にあたっての問題点
室温にて原料粉末と同一組成・結晶構造を有し、緻密質なセラミックス膜が形成できる新たな手法が求められる。
✓ 成膜時に基板の温度が高くなる✓ 熱膨張係数の違いによる熱応力の発生
✓ 目標の組成・結晶構造を得るためのトライアルが必要
✓ 材料系によっては、基材を加熱しないと結晶化した膜が形成せず、アモルファスとなる
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1980年代*エアロゾル化ガスデポジッション*エアロゾルタイプジェットプリンティング世の中で一番最初の実施例林超微粒子プロジェクト
C. Hayashi, Oyo buturi, 54 (1985) 687–693.
2000年代*エアロゾルデポジション産総研 明渡Gr.
機能材料への適用
エアロゾルデポジション(AD)法微粒子、超微粒子粉末材料をガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通して基板に噴射して皮膜を形成する技術 → セラミックス粉末を加熱することなく、結晶質かつ緻密質に成膜が可能
J. Akedo et al. Synthesiology(2008)
4J. Akedo (2006)
✓ 結晶粒径20nm以下✓ 緻密で結晶質✓ 配向はランダム
粒子の破壊あるいは塑性変形による成膜
プラズマの発生による成膜
粒子
基材
E. Fuchita et al. (2016)
常温衝撃固化現象
J. Akedo et al. (2006)
AD法における成膜原理
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PZT
a-Al2O3
X-Y ステージ
基材
原料粉末
θノズル
成膜室
ヒーター
He
排気装置
グローブボックス
N2
キャリアガス
粉末巻上用ガス
粉末搬送用ガス
➢ 緻密質膜を形成➢ 室温環境下での成膜➢ 金属・ガラス・セラミックス等の様々な基板上に成膜可能
➢ 使用粉末と同一組成・結晶構造の膜
AD法の特徴
➢ 圧電膜➢ 絶縁膜➢ 耐プラズマ性膜など
AD膜の想定される用途
低真空中で粉末を基板に高速衝突させて膜形成
エアロゾルデポジション(AD)法の特徴微粒子、超微粒子粉末材料をガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通して基板に噴射して皮膜を形成する技術 → セラミックス粉末を加熱することなく、結晶質かつ緻密質に成膜が可能
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成膜におけるパラメーター➢ 粉末・前処理
粉末:200℃, 1 h (例えば) ガラス容器:100℃, 1 h (例えば) 基板:ガラス、セラミックス、金属等 粉末種類:Al2O3、YSZ等 粒径: 0.15~4.2 mm
➢ AD装置 基板温度:R.T.~高温 ガラス容器温度:100~200℃ ノズル幅:5 mm、 20 mm 等 キャリアガス:任意 チャンバー:N2 等
➢ AD成膜条件 ノズル角度:90°、60° ノズル距離:1 ~10 mm 以上 走査速度:任意 mm/min 成膜回数:任意回数 粉末搬送流量:0~30 L/min 粉末巻上流量:0~30 L/min
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①種々の粒子での成膜例
②室温成膜における結晶配向
③基板加熱・熱処理が結晶配向に与える影響
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ご紹介するAD成膜での特徴
新たに制御ができる新技術
15mm Mo sub.Microstructure of as-coated state
Th
ickn
ess, t
/ n
m
0 1 2 3 40
200
400
600
800
1 2 3 400
200
400
600
800
Sapphire sub. 10 L/min
Al2O3成膜後の一例(特徴①)
1 μm
15 L/min
Distance , l / mm
Mu
llite
AD
coat
ing
As-coat 50nm
・ Thickness of Coating
9
SEM像
TEM像
20 30 40 50 60 70
YSZ powder As-coat
As-coat
断面組織
5mmMo Substrate
YSZ Coating
YSZ Coating
Mo Substrate
Inte
nsi
ty2θ
✓ 均一かつ結晶質なYSZの成膜体が得られる
✓ 断面から緻密な膜が形成されていることが確認できる
1 mm
5 mm
SubstrateSubstrate
粉末:YSZ
YSZ成膜後の一例 (特徴①)
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SEM像
SEM像
粉末X線回折パターン
Gas flow rate:15 L/min
ND TD
Al2O3膜表面より得られた集合組織
Counter line:multiple of random level
Layer thickness: ~ 1 mm
0001 10ത10
ത1100
01ത100001
ത1100
01ത100001
✓ (0001)面が成膜面から20度程度傾いた繊維集合組織が形成する
(特徴②)
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正極点図
逆極点図
流量変化に伴う膜の集合組織
1 μm
8 L/min
(特徴②)(0001)8 L/min
Vf :~ 18
(0001)
Vf : ~ 22
15 L/min
膜厚:~1 μm Vf :主成分から15 °以内の体積率
0 10 20 300
10
20
30
40
50
Volu
me F
raction o
f
Ma
in C
om
ponent, V
f(%
)
Random
Gas Flow Rate, F / L/min
✓ 流量の増加とともに、集合組織が発達
S. M. Wiederhorn (1969)
✓ へき壊による集合組織形成ではない12
Fracture plane
Fracture energy [J/m2]
0001 > 40
10ത10 7.3
10ത12 6.0
SEM像正極点図
流量:15 L/min
[0001] [10ത10]
膜厚:~1 μm 膜厚:~5 μm 膜厚:~10 μm
[0001] [10ത10] [0001] [10ത10]
ND ND ND
[11ത20] [11ത20] [11ത20]
(0001) (0001) (0001)
✓ 膜厚の増加により、成膜面に平行となる(0001)面も見られる
(特徴②)
膜厚増加に伴うAl2O3膜の集合組織変化
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正極点図
逆極点図
① 底面すべり0001 11ത20
② 柱面すべり ③ 錐面すべり11ത20 1ത100 10ത11 ത1101
Slip Systems in 𝜶-Al2O3 Lattice Rotation(Plastic Deformation)
Slipdirection
Slip planenormal
Particle
Compression
Sub.Sub.
Critical Resolved Shear Stress (CRSS)
0.1
1
10
0 200 400 600 800
CR
SS
, 𝜏
/G
Pa
500℃RT
Temperature, T / ℃
Al2O3粒子の衝突による塑性変形(特徴②)
J.D.Clayton (2010)
BasalPrism
Pyramidal 𝜏𝑝𝑦𝑟 > 𝜏𝑏𝑎𝑠 > 𝜏𝑝𝑟𝑖
𝑚 =𝑚𝑝𝑟𝑖
𝜏𝑝𝑟𝑖𝜏𝑝𝑟𝑖
=𝑚𝑏𝑎𝑠
𝜏𝑏𝑎𝑠𝜏𝑝𝑟𝑖
=𝑚𝑝𝑦𝑟
𝜏𝑝𝑦𝑟𝜏𝑝𝑟𝑖
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室温(27℃)における結晶格子回転底面すべり:𝜏𝑏𝑎𝑠 = 4.3 GPa柱面すべり:𝜏𝑝𝑟𝑖 = 3.2 GPa
錐面すべり:𝜏𝑝𝑦𝑟 = 6.2 GPa
CRSS (𝜏𝑐):臨界分解せん断応力
室温
0ത111
10ത11
ത1012
10ത11 01ത12
0ത111
1ത102
0001
ത12ത10
01ത10
ത2110
ത1010
ത1100
1ത100
10ത1011ത202ത1ത10
1ത210
0ത110
ത1ത120
ത1101ത1101
すべり方向すべり面
①A
B
B
②
①
A
A
B
①
1:① (0001)[ത12ത10] A
1:① (ത2110)[01ത10] A
1:① (ത1110)[01ത11] A
2:① (0001)[ത2110] B
2:② (ത12ത10)[ത1010] B
2:① (ത1110)[10ത11] B
底面すべり
柱面すべり
錐面すべり18°
錐面すべり 2
底面すべり 1
柱面すべり 1
(特徴②)規格化したシュミット因子
(𝑚𝑛)
15
成膜時に基板加熱を施したAl2O3膜
走査距離, l / mm
膜厚
, t
/ μm
合計流量:15 L/min 粒子衝突角度:90 °
基板加熱温度:100℃以上
1 μm
5 mm
0 5 100
10
20
✓ 膜厚5 μmの成膜体が得られる。
✓ 緻密な膜が形成されている。
(特徴③)
16
SEM像
100 200 300
0
0.2
0.4
0.6
0.8
5 mm
室温
剥離の発生
均一な膜を成膜できず
高温で成膜した試料
合計流量:15 L/min
基板加熱によるAl2O3膜の成膜レート成膜レート
, μm
/m
in・cm
2
低い
高い
基板加熱温度低い 高い
(特徴③)
17✓ 基板加熱温度の上昇とともに、成膜レートは向上する
合計流量:15 L/min
基板加熱温度:100℃以上(0001) {10ത10}
[0001] [10ത10]
NDTD
[0001] [10ത10]
膜厚:~5 μm
[11ത20] [11ത20]
(特徴③)
基板加熱を施して成膜した場合の集合組織
18✓ 成膜面に平行となる(0001)面も見られる
正極点図
逆極点図
Al2O3薄膜の熱処理に組織変化Mullite AD coating Mullite AD coating
As-coat 1273K, 5h 1573K, 100h
50nm 50nm 50nm
Mullite AD coating
M. Hasegawa et. al (2016)
(特徴③)
Mullite Substrate, 1673K 1h+1573K 100h
Al2O3
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TEM像
EBSD / IPF Map
正極点図
新技術の特徴のまとめ
•異なる種類の粉末について、緻密かつ結晶質な膜が形成可能。膜厚は10数mm程度までは制御できる。
•粒子の塑性変形によって膜の結晶配向が制御できる。粒子のすべり系の把握により、配向の予測が可能となる。
•加熱によるすべり系の変化や結晶粒成長(再結晶)によって、結晶配向を変化させることが可能。
20
想定される用途
•プラズマや強酸などの過酷な化学的アタックに対する防食膜
•被切削材の移着抑制に優れる切削用工具表面皮膜
•摺動用部材
•耐熱材料用の環境バリアコーティング
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実用化に向けた課題
•現在、複数種類の一般的なセラミックス粉末について緻密かつ結晶質な結晶配向を有する膜の形成が可能なところまで開発済み。しかし、難焼結性材料など成膜しにくいと考えられる粉末についても同様に成膜可能かについては今後も実験的検討が必要である。
•今後、用途に応じて求められる膜の特性について実験データを取得し、実際に適用可能となる膜の形成条件についてスクリーニングを行いながら、最適条件を見出していく。
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企業への期待
•成膜が難しい材料については、粉末の造粒プロセスや粉末の成膜前の処理によって成膜できると考えています。
•AD法による成膜の特長およびその特性を生かしたい企業との共同研究を希望致します。
•また、成膜中の基材への熱の影響を避けたい場合、厳密な組成の膜が必要な場合、粒子の混合による複合化した膜が求められる場合、本技術の導入が有効と思われます。
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本技術に関する知的財産権
•発明の名称:結晶配向セラミックス積層材料及びその製造方法
•出願番号:特願2014-131393
•出願人:国立大学法人横浜国立大学、一般財団法人ファインセラミックスセンター
•発明者:香川 豊、西岡 潔、長谷川 誠、櫻田 修、吉田 道之、北岡 諭、田中 誠、松平 恒昭、林 一美
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