認知症の理解と対応 -...
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認知症の理解と対応
Ⅰ.認知症とは何か?
脳の細胞が壊れることによって
精神機能の全般的な低下がおこり日常の個人的生活に支障が生じる
認知症とは?
・精神機能の全般的低下:記憶、見当識、理解力、判断力、感情表現、性格、他
・身辺自立機能の低下:食事、更衣、入浴、整容、排泄、他
・身体機能の低下:細かい運動→大きな運動→無意識の運動
脳は、人間の、すべての
精神と身体の活動を企画、命令、統御
する
認知症を起こす病気=脳の細胞を壊す病気
その他頭部外傷薬物中毒
感染症クロイッツフェルドヤコブ
AIDS梅毒
脳血管障害脳梗塞脳出血動脈硬化
変性疾患アルツハイマー病レビー小体病前頭側頭型
認知症
AD×HDS-R得点
得点
和光病院 CP 落合真弓2010年6月
AD・DLB・FTD(視覚情報の構成課題)
得点 P<0.01
(n=486) (n=27) (n=16)和光病院 CP 落合真弓
2010年6月
前頭側頭型×HDS-R得点
得点
(n=8)
(n=8)
和光病院 CP 落合真弓2010年6月
認知症の始まり
• 原因が違えば、初発症状も違う
–物忘れ、見当識障害
–元気がない、意欲がない、やる気がない
–家の中が急に雑然とした
–仕事のミスが増えた
–そのほか色々
• これらの症状は、認知症以外でも起こる
• だから、素人判断をしてはいけない
中核症状と周辺症状
ADLの障害
認知機能障害運動機能障害
BPSD
中核症状
周辺症状
Ⅱ.認知症の中核症状
アルツハイマー病になると
アルツハイマー病が進行すると
見当識の障害
• 時間に関する見当識–時間感覚:「ちょっと待って」が待てない
–日、月、年、季節が分からない
• 場所に関する見当識–位置感覚:暗いところだと方角が分からない
–地理感覚:明るくても迷子になる
• 人間関係に関する見当識–自分と周囲の人との関係が分からない
–自分自身が分からない
ステーキにしよう!
ご飯を3合
大根おろし・みそ汁
スープ・サラダ
サンマにしよう
お冷やをチン・めざし・梅干し
認知症になるとこれができない(実行機能障害)
お祖父さんと二人か・・
高校生の孫が来る!
サンマがおいしそう!
ワーキングメモリーの機能
15万円の羽根布団
お断り
売れなければ心中
年金
家族数
娘の注意
ワーキングメモリーの正常老化
15万円の羽根布団
お断り
売れなければ心中
年金
家族数
娘の注意
買います
押し売り
年をとると
1,WMが小さくなる
2,不要の情報を捨てられなくなる
認知症のワーキングメモリー
普段60万円の羽根布団が、今なら15万円!!年金
家族数
娘の注意
認知症が始まると
年金はいくら?
家族は何人?
押し売り 15万円は高い?
WMが崩壊する
お買い得!!!高い!
長期記憶は保たれる単純な判断もできる
実行機能・WMの障害に加え、理解力、判断力の低下が起こると・・・
• 一度にいくつもの事を処理できなくなる
–家事ができなくなる
• いつもと違うことに対応できなくなる
–来客が嫌
–葬式で混乱
• 抽象的な概念と具体的な行為が乖離
– 「倹約が大事」でも、「セールスマンが気の毒な人だから」訪問販売の不要な羽布団を買ってしまう
まっすぐお持ち下さいませ!!
性格の変化
DNADNA
教育・学習・経験
DNA
DNA
DNA
地が出る(VD)
「らしさ」を失う(AD)
病的性格傾向(FTD)
Ⅲ.認知症の周辺症状
身辺自立機能の障害精神症状・行動上の問題
日常行動の援助の原則
• 「できることをしてあげたためにできなくなる」心配より、「今まで難なくできていたことが、なぜか、できなくなった」という現実に直面させることの被害を思うべき!
• 今日できたことが、明日はできないかも知れない・・・認知症のケアは子供のしつけではない
一緒にみそ汁を作ろう!
豆腐のみそ汁を作ろう
鍋で出汁をとる
再び火に掛け豆腐を入れる
冷蔵庫から豆腐を取り出す
何作ってるんだっけ?
冷や奴だったかな??
豆腐のみそ汁
みそ汁の具
おいしそうなみそ汁ができたね!
???
日常生活動作の援助
• 「失禁に対してどう対応すればいいですか?」という質問には答えようがない– 「失禁」という言葉には手がかりが乏しい
• 「昨日の夜中、お手洗いに行こうとして玄関で排尿してしまった。昼間は、間違えないのに・・・・」という記述なら対応のヒントがある–観察したことを、日常的な言葉で表現すると豊かな情報が得られる
排泄の失敗への対応
• 放尿・放便:便意はある、自室ではだめだという意識もある、場所が分からない(見当識障害)– 見当識を補強する
• トイレを汚す– 衣類の着脱に手間取る(着衣失行):着やすい衣類– 便器の使い方が分からない(実行機能障害):指導する、自動的水洗
• 間に合わない– 尿意、便意の即迫(身体の器質的変化):早めの誘導
• 尿意、便意の微弱化、喪失(認知症の進行)– おむつ以外の選択肢が狭まる
精神症状や問題行動(BPSD)への対応
• 正しい評価をする
– 「徘徊」、「暴力」、「妄想」などの術語をやめ、具体的に、自分の言葉で情況を描写する
–その時のその人の中核症状を評価する
–環境、心理状況、素質、薬物の影響を評価する
• 評価に基づいて仮説を立てる
• 仮説に基づいて対策を考える
• やってみる、失敗したら振り出しに戻る
妄想の理解と対応
財布をしまい忘れた 財布がなくなった記憶障害
素質因心理・環境因
その他
事実
中核症状
ゆがんだ外界認知
ものとられ妄想
嫁の家族が怪しい
被害妄想
嫁が盗んだ
「徘徊」の理解と対応
• 「帰宅が遅れて夜になり、家に帰ろうとして道に迷った」→地理的見当識障害を補う
• 「夕方になると、両親が心配しているから家に帰るといって遠い郷里に歩いて帰ろうとする」→意識の混濁を治療
• 「買い物に行き、レジで支払い中にいなくなった」→目を離さない
• 「目的なく歩き続ける」→・・・・
Ⅳ.認知症の診断と治療
早期診断の重要性
• 治療可能な病気を見逃さない
–内分泌障害、脳腫瘍、うつ病・・・
–薬の誤った使い方:向精神薬、血圧の治療薬、風邪薬・・・
• 自分の病気を理解できる→進行しても病識を保つ→BPSDが減る
• 自分の将来を自分で準備できる→成年後見制度、地域福祉権利擁護事業、その他
認知症の診察(和光病院の場合)
• PSWによる事前面接、予診票記入
• 初診
–専門医の問診
–身体検査、頭部CT、基本的な心理検査
• 追加の検査:詳しい心理検査、MRI、SPECT等の検査(外注)
• 2回目の診察
–検査の説明、治療方針の相談
認知症の治療
• 薬物療法
–認知症の原因となる病気に対する薬物療法
– BPSDに対する薬物療法
• 薬によらない治療
–認知リハビリ(メモリートレーニング、環境整備)
–気持ちを穏やかにするための心理療法
–家族の支援
アルツハイマー病の治療薬
1,異常なタンパク合成を阻害
2,異常なタンパクの増殖を防ぐ=分解する 3,細胞活性を高める
ドネぺジル(ガランタミン)(リバスチグミン)
アルツハイマー病
認知リハビリ施行群の経過(松田修)
【治療内容】 【抗認知症薬のみ】 【抗認知症薬+認知リハビリテーション】(15ヶ月) (46ヶ月)
測定時期(ヶ月)
(セッション回数)
抗認知症薬開始 認知リハビリテーション開始(56歳) (57歳)
註) 言語性記憶 = 日本版Wechsler Memory Scale Revisedの言語性記憶指標.MMSE = Mini-Mental State Examinationの合計得点.
図3.リハ開始後の量的指標の得点変化
46
(8) (24) (64) (88) (136) (160) (184)
16 22 34 40認知リハ前 2 6
-80
-60
-40
-20
0
20
40
-8
-6
-4
-2
0
2
4
言語性記憶
MMSE
認知リハ開始前の成績との差
言語性記憶 MMSE
場所に関する見当識を補う認知リハー見当識を補強する感覚を活用するー
• 廊下に突き出した表示をする
–前しか見ていなくても目に入る(注意の障害)
–抽象化された図案より文字(抽象思考の障害)
• 視覚情報を強化する=廊下に明かりをつける、見通せる場所に必要なものを配置する
• 行動を習慣化して作業記憶を作る(例:いつも同じトイレに誘導する)
Ⅴ.認知症の予防
認知症の「予防」(1)
• アルツハイマー病はじめ、変性疾患を原因とする認知症には確立された予防法はない
• 脳の動脈硬化や小梗塞などの病変は、アルツハイマー病の発症や進行を促進する
• 脳血管性認知症の予防には可能性がある–高血圧、糖尿病、高脂血症、不整脈等々の早期発見、早期治療
認知症の「予防」(2)
• 頭と体の適度な運動、適度な刺激、バランスのとれた栄養、適度な休息と睡眠– 「適度」の程度は人によって異なる
–認知症予防は疑わしいが、高齢者の健康な生活にとっては必ず役立つ
• 人生の時期によってやることが違う– 30代、40代:できるだけ上記のことに気をつける
– 50代、60代:身体と精神の変化に順応する
– 70代以降:じたばたしない
Ⅵ.終わりに
「観察される障害」と「体験される障害」
• 私たちは、検査所見、診察所見、観察所見として認知症症状を見ている
• 認知症患者は障害を体験する– 「馬鹿になってしまって・・・」、「すっかり呆けてしまって・・・」、「私が壊れていく」
– 「あなた、私を見捨てないで頂戴ね 」
– 「明日のことを考えようと思うのに、辻褄の合わぬことばかり。一日一日、惚けが進む。神様、助けて下さい」
家族が考えるべき事(1)
• 自由に柔軟に
– 「正しい家族介護」なんてない!!
–マニュアルを知る、マニュアルを信用しない
–失敗を反省しない、悔やまない
• 介護のために介護者を犠牲にしない
– 『在宅介護』は常に良い介護というわけではない
–使えるサービスは積極的に使う
–不幸は伝染する、幸福も伝染する
家族が考えるべき事(2)
• 地元の口コミ情報を大事にする
–新聞、雑誌、テレビは当てにならない
–市報、区報などを活用する
• サービスの質は、見て、感じて判断する
–理屈より、「感じ」が大事
• 医療保険、介護保険を守る責任を自覚する
–守るべきもの、どうでも良いものを取捨選択する
援助するプロが考えるべきこと
• 自分の価値観を押しつけない
• リスク管理をする、優先順位をつける
• 情報格差、サービス利用能力格差に留意– も援助を必要とする人が情報から疎外され、サービスから疎外され、不満さえ言えない
• 関連制度全体を視野に入れたマネジメント–制度の隙間に落とさない
• 代替案を示さずに、「もっと、ふさわしい施設がある」と言わない
市民として心掛けるべきこと
• 「若ぶる中年」、「元気はつらつ高齢者」を目指すのは愚か者
–中年が疲れやすいのには意味がある
–衰えない高齢者はいない
• 加齢を加速しないために
–できるだけ毎日、屋外に出る
–生活のリズムを作る
• 「世のため人のため」を考える
終わりに
• 年寄りは尊敬すべき人・・・とは限らない
• 私たちはいつもやさしい・・・わけではない
• 他人の気持ちに共感し、それを受容する・・・なんて、できっこない
知ろうとする努力は大切、分かったと思う気持ちは傲慢