講義の総括と...
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2012(平成24)年1月27日
東京大学政策ビジョン研究センター
工学系研究科技術経営戦略学専攻
教授 坂田 一郎
講義の総括と
公共セクターのイノベーション
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社会システムと産業第13回
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「市場」は、「神のみえざる手(アダム・スミス)」によって、 動かされるものなのか? 「経済活動」はその結果なのか? 実際には、「神のみえざる手」は存在しない。・・・・ 現実は、様々な法制度、基準、慣行によって、創り出されるもの。 (例えば、会社法、税制、会計基準、学校教育法、国立大学法人法) そうした制度などに沿って、プレイヤーが活動する。 いわば、サッカーと同じ、作られたゲーム。 経済活動はスピーディに変化をしている。 その結果生まれた、変化の遅い法制度、基準、慣行などと経済活動 の「溝」が、経済活動の効率を損ない、イノベーションを制約する。 この「溝」を埋めていくのが、政策(システム改革)の最大の課題。
社会システム論の本質
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○「オープン化」 ○「グローバル化」 ○「ネットワーク化」 ○「知識経済化」、「知の爆発」 ○学術と産業技術の接近 ○「ユーザーイノベーション」 ○「ニューワーク」 ○「新J型モデル」 ○「グリーン・グロース」、「グリーンジョブ」
時間
知識量
ルネッサンス
産業革命
前近代
授業における変化のキーワード
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「イノベーション・システム」と「コーポレイト・システム」は、この10数年間に大きな改革が進んだ。「失われた10年」との評価は必ずしも正しくない。システム改革の功罪の検証と修正も必要。 →授業で取り上げた領域 ○ 「イノベーション・システム」: 包括的改革プログラム、産学連携システム、特許制度、 地域イノベーションシステム等 ○ 「コーポレイト・システム」 : 会社法制の抜本改正、LLP・LLC(パートナーシップ法)
この10年間のシステム改革
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研究企画
ロードマップ 探索研究 実用化研究
試作
実証 生産 マーケティング
知的財産等
の管理や
規格・標準化
狭義のイノベーション(産業創出)プロセス
知的財産権制度(特許法、著作権法)、学校教育法
研究助成制度、R&D投資減税、大学等技術移転法
環境規制、安全規制、新技術の国際標準 など
ファイナンス (資金調達・運用、会計・税務)
組織編成
事業提携 経営戦略
複雑な相互作用
重要な企業外・環境条件
講義に関連したシステム(制度)のマッピング
本講義の主な対象
会社法制、組織再編税制 企業会計基準、証券市場ルール
国の戦略ビジョン
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今後のシステム改革の課題
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特に、「課題(溝)」が残ると考えられるのは、1)医療のような安心・安全に関する規制が必要な分野、2)グリーン、金融、情報・コンテンツのような変化のスピードが非常に早い分野、3)教育のような官に近いサービス分野、の3領域。
<最近話題になっているシステム改革> ○発送電分離 ○医療IT(国民ID、ゲノムコフォート等) ○秋入学(国際化、ギャップイヤー) ○財政と社会保障の一体改革
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法制制度などの改正だけでは、必ずしも、想定した方向へと 経済社会が動かないのも事実。「静止摩擦力」は意外に大きい。 なぜか? ・・・自分だけ動くと損をする、旧システムに安住・周囲が 動いていると見えないと動かない 従って、向かうべき方向(「ビジョン」)について、コンセンサスを作る ことも必要となってくる。世界レベルでもコンセンサス形成の動き (「グリーン・グロース」「インクルーシブグロース等)。 (代表例) ○「新日本創生論」「日本再生戦略」(今後) ○OECD「グリーン・グロース戦略(2010)」 ○「第4期科学技術基本計画(2011)」 ○「イノベーション25(2007)」 ○「技術戦略ロードマップ(2006~)」
静止摩擦力を乗り越える仕掛け
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「日本型政府モデル」の変質・再定義
「伝統的な日本政府モデル」の見方
(出典)竹内弘高「日本型政府モデルの有効性」に坂田加筆
1.安定した官僚機構を持つ中央政府による積極的介入(特に、通産省) 2.経済成長に貢献する特定産業の重点育成 3.輸出の積極的促進 4.広範にわたる「指導」、許認可、規制 5.国内市場の選択的保護 6.外国企業による直接投資の制限 7.緩慢な独占禁止法運用 8.政府主導による不況産業の合理化 9.カルテルの公認 10.規制に縛られた金融市場及び限定的コーポレイト・ガバナンス制度 11.政府主導の共同研究開発プロジェクト 12.堅実なマクロ経済政策
1990年代以降、抜本的に変質
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A.マクロ政策重視派 金融政策を中心としたマクロ経済調整を重視。 金融危機からの脱却は、かなりの程度、マクロ政策の効果。 需要サイドのコントロールを強調 B.構造改革派 ・システム及び制度改革を重視する立場 ・ビジョンや先導的なプロジェクトを重視する立場 ・ミクロ的な介入も併用すべしとする立場 (備考)①金融危機時においても、ゼロ金利のような金融政策と、産業再生法や産業再生 機構のようなミクロ介入的な手法を併用。 ②航空宇宙産業のような世界的国策産業は、一般産業とは別に考える必要。
経済政策に関する2つの大きな考え方
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(出典)坂田作成
主要テーマ 手法 代表事例
1.成長に適したマクロ経済環境作り ○成長型の税制 ・税制構造・法人税の改革○大きな経済的なショックへの対処 ・経済対策○マクロ経済のリスクマネイジメント ・アジアとのパートナーシップ
2.広義の経済・社会システム整備 ○コーポレイト・システム改革 ・商法の現代化 (システムの実験を含む) ・LLP法制の新設
○イノベーション・システム改革 ・産業技術競争力強化法・大学等技術移転促進法・R&D投資減税
○雇用・就活システム改革 ・派遣業法の規制緩和・ジョブカフェモデル
○金融システム改革 ・電子債権法・産業再生法
○教育・就活システム改革 ・子供の職業教育・専門職大学院の創設支援
○地域経済システム改革 ・地域クラスター
3.将来ビジョンの形成 ○経済ビジョンの策定 ・新産業創造戦略(システムをあり得べき方向で稼働させる手法) ○技術や社会の将来像の認識共通化 ・技術戦略マップ、ロードマップ
4.介入的措置 ○危険や環境に関する最低水準規制 ・技術や環境に関する標準 (主に社会的規制が多い分野) ・品質要求
○参入ルールの設定
現在の経済政策の類型(システム改革重視)
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①分野・セクターを超えた横断的な制度の改革 ex.企業組織法制、金融制度、教育システム、国際税制 ②複数の制度改革のベスト・ミックス(「相互補完性」の考慮) ex.コーポレイトシステムとイノベーションシステム
③改革のスピード・アップ(「制度時間」と「技術時間」の乖離!) ④専門性を高めること、専門的なルール・メイク ex.M&Aルールの設定、世界金融市場の変化に対応した市場改革 ⑤官民のコラボレーション (経済全体での専門サービスのアウトソーシングの流れ、 意志の摺り合わせを超えた協働作業、インセンティブメカニズムの設計) ⑥アカウンタビリティ、コンプライアンス、ユーザーフレンドリーなインターフェース (積極的な広報、社会運動化の術、連結会計など)
公共セクターの改革課題
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A分野 B分野 C分野
従来型政府のイメージ
「ホッチキス」
・本省組織 ・地方組織 ・関連実施機関 ・産業又は職能団体
各省の一次調整システム 内閣府・官房の二次調整システム
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①横断的な政策論議、決定の仕組みの導入 ②トップダウンの強調(コンセンサス型から急進的な改革へ、背景に、 旧システム維持のメリット低下、コスト上昇) ③専門スタッフの拡大 (人事ルートの関連づけ、専門スタッフ職、中途採用) ④ネットワーク型政府、ネットワークのガバナンス、 「熟議」や「民の公共」のメカニズム (専門組織やNPO・NGOとの連携、効果的なアウトソーシング、 先駆的な例として「技術戦略ロードマップ」) ⑤電子政府(ただし、官に近いところほど遅れ)
変化しつつある公共セクター
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依然として残る公共システムの課題
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①模索中の横断的な検討・決定メカニズム (「経済財政諮問会議」、「国家戦略本部」) ②トップダウンを支える政策インフラの在り方 ③我が国における専門スタッフ層の薄さ ④社会・市民との対話、合意形成のメカニズムの模索 (過ぎ去った「審議会」時代) ⑤インタネットから3Gの時代へ、世界と日本の官のギャップ
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○国会における法案の審議時間の制約 (現実的に、法律レベルの制度の新設・改訂については量的制約)
○官庁や独立行政法人に出向後、民間に戻った場合2年は、関連の業務 に就けない(流動性の制約)。 (例えば、医薬品・医療機器の薬事承認の審査)
○公務員の給与表への拘束 (高度なプロフェショナルを期間限定で高級で雇用することは難しい。)
○政府の予算書では、事業費の交付先を、独立行政法人、民間などで予め区分。 予算成立後、変更することは原則出来ない。 (プロジェクトの実態に応じ、柔軟に官民の役割を設定し直すことは難しい。)
○働き方の柔軟性の制約 (非常勤職員=短期任用との考え方)
制度上の障害の例
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○システムや環境の変化は、スピード・アップしている。 かつ、聖域もなくなりつつある。 ○その中で、従来あった「境界線」も消えつつある。 (例)医療と工学の連携、産学の連携、ユーザーイノベーション、 地域クラスター=横の柔軟な取引ネットワーク ○リーダ-たる人材への期待は、 ・変化やそのスピードに対する高い感度 ・「境界」意識を持たない思考 ・多様なプロフェッショナルを使いこなすマネイジメント力 ・組織を超えたネットワーク力
最後に