分離工学演習3「ガス吸収塔の設計」crystallization.eng.niigata-u.ac.jp/sepeng03.pdf分離工学演習3(ガス吸収塔)...

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分離工学演習3(ガス吸収塔) 1 分離工学演習3「ガス吸収塔の設計」 1.充填塔 円筒状の塔内に充填物を詰めた液分散型の装置であり、圧力損失が小さく、構造が単純で安価である。 気液接触方式は、一般に向流操作が用いられる。塔頂より供給される吸収液は、充填物を濡らしながら 流下する。塔の中腹に設けられた液再分布板(ディストリビューター)で液を再分散し、偏流(チャネリン グ)を抑止する。塔底より供給されるガスは、充填物の間隙を通って上昇する。充填物の表面上で気液接 触することで、ガス側の目的成分が吸収液側へ物質移動する。充填物には、表面積と空隙率が大きく、 丈夫なものが望まれる。不規則充填物は、取り扱いが容易だが偏流が起こりやすい。規則充填物は、積 み重ねて充填する。高価だが偏流が起こりにくい。吸収液の選定について、回収の成分がアセトンやア ンモニアなど水溶性の場合は水、ベンゼンなど油溶性の場合は鉱油(灯油や軽油など、石油留分に含ま れる炭化水素油)、二酸化炭素や硫化水素など酸性ガスの場合はアルカリ溶液が用いられる。 図1 向流充填塔と充填物 2.ガス吸収速度 二重境膜モデルでは、ガス側と液側に境膜を仮定し、気液界面においてガスと液は溶解平衡の状態に あると考える。このとき、溶質のガス吸収速度 N A [mol/(m 2 s)]は、ガス側と液側で次式のように表される。 ガス側(G) N AG = k G (p A p Ai ) = k G P T (y A y Ai )= k y (y A y Ai ) (2.1) 液側(L) N AL = k L (C Ai C A ) = k L C T (x Ai x A )= k x (x Ai x A ) (2.2) ただし、C A は溶質濃度[mol/m 3 ]C T は全濃度[mol/m 3 ]P T は全圧[Pa]p A は溶質の分圧[Pa]k G , k L , k x , k y は境膜物質移動係数、x A , y A は溶質のモル分率[]。添え字 i は気液界面における値。 希薄溶液の場合は、溶解平衡下において Henry の法則が成り立つ。 ガス側(G) p A =HC A * (2.3) または y A =mx A * (2.4) 界 面(i) p Ai =HC Ai (2.5) または y Ai =mx Ai (2.6) 液 側(L) C A =(1/H)p A * (2.7) または x A =(1/m)y A * (2.8)

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分離工学演習3(ガス吸収塔)

1

分離工学演習3「ガス吸収塔の設計」

1.充填塔

円筒状の塔内に充填物を詰めた液分散型の装置であり、圧力損失が小さく、構造が単純で安価である。

気液接触方式は、一般に向流操作が用いられる。塔頂より供給される吸収液は、充填物を濡らしながら

流下する。塔の中腹に設けられた液再分布板(ディストリビューター)で液を再分散し、偏流(チャネリン

グ)を抑止する。塔底より供給されるガスは、充填物の間隙を通って上昇する。充填物の表面上で気液接

触することで、ガス側の目的成分が吸収液側へ物質移動する。充填物には、表面積と空隙率が大きく、

丈夫なものが望まれる。不規則充填物は、取り扱いが容易だが偏流が起こりやすい。規則充填物は、積

み重ねて充填する。高価だが偏流が起こりにくい。吸収液の選定について、回収の成分がアセトンやア

ンモニアなど水溶性の場合は水、ベンゼンなど油溶性の場合は鉱油(灯油や軽油など、石油留分に含ま

れる炭化水素油)、二酸化炭素や硫化水素など酸性ガスの場合はアルカリ溶液が用いられる。

図1 向流充填塔と充填物

2.ガス吸収速度

二重境膜モデルでは、ガス側と液側に境膜を仮定し、気液界面においてガスと液は溶解平衡の状態に

あると考える。このとき、溶質のガス吸収速度 NA [mol/(m2・s)]は、ガス側と液側で次式のように表される。

ガス側(G) : NAG = kG(pA-pAi) = kGPT(yA-yAi)= ky(yA-yAi) …(2.1)

液側(L) : NAL = kL(CAi-CA) = kLCT(xAi-xA)= kx(xAi-xA) …(2.2)

ただし、CAは溶質濃度[mol/m3]、CTは全濃度[mol/m3]、PTは全圧[Pa]、pAは溶質の分圧[Pa]、kG, kL, kx, ky

は境膜物質移動係数、xA, yAは溶質のモル分率[-]。添え字 i は気液界面における値。

希薄溶液の場合は、溶解平衡下において Henry の法則が成り立つ。

ガス側(G) : pA=HCA* …(2.3) または yA=mxA* …(2.4)

界 面(i) : pAi=HCAi …(2.5) または yAi=mxAi …(2.6)

液 側(L) : CA=(1/H)pA* …(2.7) または xA=(1/m)yA* …(2.8)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

2

ただし、H と m は Henry 定数。

溶解平衡の場合、溶質の移動速度は、ガス側と液側とで等しいこ

とから、次式が成り立つ。

NAG=NAL=NA …(2.9)

式(2.1)および式(2.2)のいずれを用いても NAを求めることができ

るが、pAi, CAi, yAi, xAiの測定が困難である。したがって、これらを

含まない総括基準のガス吸収速度式を導く。

ガス側総括吸収速度式の導出について、式(2.1)、式(2.2)、式(2.9)

より次式が成り立つ。

A G A Ai L Ai A( ) ( )N k p p k C C …(2.10)

上式の第 2 項と第 3 項を変形すると、次式のようになる。

AA Ai

G

N p pk

…(2.11) および AAi A

L( )HN H C C

k …(2.12)

辺々加えると、次式のようになる。

A AA Ai Ai A

G L( ) ( )N HN p p H C C

k k …(2.13)

A Ai Ai AA

G L

( ) ( )1

p p H C CNk H k

…(2.14)

式(2.5)および式(2.7)をそれぞれ代入すると、ガス側総括吸収速度式を得る。 * *

A Ai Ai A A AA

G L G L

( ) { (1 ) }1 1

p HC H C H p p pNk H k k H k

…(2.15)

*A G A A( )N K p p G

G L

11

Kk H k

…(2.16)

G G L

1 1 HK k k

…(2.17)

ただし、KG はガス側総括物質移動係数[mol/(m2・s・Pa)]。

液側総括吸収速度式の導出について、式(2.10)の第 2 項と第 3 項を変形すると、次式のようになる。

A A Ai

G

N p pHk H

…(2.18) および AAi A

L

N C Ck

…(2.19)

辺々加えると、次式のようになる。

A A A AiAi A

G L( )N N p p C C

Hk k H …(2.20)

Ai A A AiA

G

( ) {( ) }1 1L

C C p p HNk Hk

…(2.21)

式(2.3)および式(2.5)をそれぞれ代入すると、液側総括吸収速度式を得る。 * *

Ai A A Ai A AA

G G

( ) {( ) }1 1 1 1L L

C C HC HC H C CNk Hk k Hk

…(2.22)

界面(i)ガス(G) 液(L)

pA, yA

CA, xA

pAi, yAi

CAi, xAi

kG

kL

kx

ky

分離工学演習3(ガス吸収塔)

3

*A L A A( )N K C C L

L G

11 1

Kk Hk

…(2.23)

L L G

1 1 1K k Hk

…(2.24)

ただし、KLは液側総括物質移動係数[m/s]。

上記と同様の手順にしたがうと、モル分率基準の総括吸収速度式が導かれる。

*A y A A( )N K y y y

y x

11

Kk m k

…(2.25)

y y x

1 1 mK k k

…(2.26)

ただし、Kyはガス側モル分率基準総括物質移動係数[mol/(m2・s)]。

*A x A A( )N K x x x

y

11 1x

Kk mk

…(2.27)

x y

1 1 1

xK k mk …(2.28)

ただし、Kxは液側モル分率基準総括物質移動係数[mol/(m2・s)]。

3.操作線と液ガス比

ガス側から液側への溶質の移動量と液側における溶質の吸収量が等しいと仮定するとき、塔頂と中腹に

おける溶質の成分物質収支式は、次式で表される。

GMT y + LMTt xt = GMTt yt + LMT x …(3.1)

全モル速度基準 GMT および LMT は塔内で変化することから、取扱いが複雑となる。これは、ガス側の溶

質が液側へ吸収されることで混合ガス中の溶質のモル速度 GMAが減少し、液側の溶質のモル速度 LMAが

増大するためである。したがって、これらを塔内でほとんど変化しない同伴ガスおよび純溶媒基準 GMB

および LMBに変換する。

全モル速度を 1 とするとき、塔の中腹におけるモル比の関係は次式で表される。

(全ガス GMT) : (溶質 GMA) : (同伴ガス GMB) = 1 : y : (1-y) …(3.2)

(全液 LMT) : (溶質 LMA) : (純溶媒 LMB) = 1 : x : (1-x) …(3.3)

上式を比例配分することで、次式が導かれる。

MBMT 1

GGy …(3.4) および MB

MT 1LL

x …(3.5)

同様にして、塔頂(t)における量論比より次式を得る。

MBMTt

t1GG

y …(3.6) および MB

MTtt1

LLx

…(3.7)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

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図2 向流充填塔の物質収支 1)

表1 充填塔内の吸収速度解析に用いる記号

流体相 モル速度またはモル分率 塔頂(t) 中腹 塔底(b) 混合ガス 溶質のモル速度 GMA [mol/(m2・s)] GMAt GMA GMAb

溶質のモル分率 y [-] yt y yb 同伴ガスのモル速度 GMB [mol/(m2・s)] GMBt GMB GMBb 全モル速度 GMT [mol/(m2・s)] GMTt

(=GMAt+GMBt) GMT (=GMA+GMB)

GMTb (=GMAb+GMBb)

吸収液 溶質のモル速度 LMA [mol/(m2・s)] LMAt LMA LMAb 溶質のモル分率 x [-] xt x xb 純溶媒のモル速度 LMB [mol/(m2・s)] LMBt LMB LMBb 全モル速度 LMT [mol/(m2・s)] LMTt

(=LMAt+LMBt) LMT (=LMA+LMB)

LMTb (=LMAb+LMBb)

式(3.4)~(3.7)を式(3.1)に代入すると、同伴ガスと純溶媒基準の成分物質収支式、操作線の式が導かれる。

t tMB MB

t t1 1 1 1y xy xG L

y y x x …(3.8)

MBt t

MB( )LY X X Y

G t t

t tt t

, , , , , ,1 1 1 1

y xy x Y Y X Xy y x x

…(3.9)

溶質濃度が希薄の場合(x, y<<1)、1-x≒1, 1-xt≒1, 1-y≒1, 1-yt≒1 が成り立つ。さらに、式(2.4)および

式(3.5)より GMT≒GMB、LMT≒LMBが成り立つ。式(3.8)より成分物質収支式、式(3.9)より操作線の式を得る。 MT t MT t( ) ( )G y y L x x …(3.10)

MTt t

MT( )Ly x x y

G …(3.11)

操作線は、塔の高さ方向における溶質の組成分布を表しており、塔内の任意の位置で測定された溶質

組成(x, y)は、操作線上にプロットされる。操作線、すなわち塔内の組成分布は、塔頂組成(xt, yt)が固定さ

分離工学演習3(ガス吸収塔)

5

れると液ガス比 LM/GMによって変動する。工業的には、液流速 LM(吸収液の必要量に相当)あるいは塔

底の液組成 xb(溶質の吸収量に相当)を見積もりたい場合が多く、塔の運転条件としての液ガス比 LM/GM

をもとにこれらの条件を図上で検討できる。操作線が平衡線と交わると物質移動の推進力が零となり、

分離に必要な塔高は無限大となり分離不能となる。このときの液ガス比を最小液ガス比(LM/GM)minと呼び、

式(3.9)および式(3.11)より次式で表される。

b t b b t tMB* * *

MB b t b b t tmin

( /1 ) ( /1 )( /1 ) ( /1 )

Y Y y y y yLG X X x x x x

…(3.12)

b tMT*

MT b tmin

x yLG x y

(希薄条件) …(3.13)

ただし、xb*は塔底における溶質ガス組成 yb に対する液側の平衡組成[-]。

一般に、液ガス比 LM/GMは、最小液ガス比(LM/GM)minの 1.25~2.0 倍程度に設定される。

図3 操作線と最小液ガス比 1)

4.塔高

塔頂からの高さ方向における任意の微小区間 z~z+dz における混合ガスおよび吸収液中の溶質の物質

収支は、溶質のガス吸収速度 NA [mol/(m2・s)]を用いてそれぞれ次式で表される。

S(GMT y)z=z+dz = S(GMT y)z=z + NAdA …(4.1)

S(LMT y)z=z+dz = S(LMT y)z=z + NAdA …(4.2)

dA = aSdz …(4.3)

ただし、a は充填層体積当たりの気液接触界面積[m2/m3]、A は気液接触界面積[m2]、S は塔の断面積[m2]。

上式において、全モル速度基準(GMT, LMT)は塔の高さ方向で変化することから、同伴ガスおよび純溶媒基

準(GMB, LMB)に変換して定数化する。式(3.4)と式(3.5)を代入して式(4.3)を用いると、次式の通りとなる。

MB MBd

A1 1d

z z z z z

y yG G zy

S S aSy

N …(4.4)

MB MBd

A1 1d

z z z z zSL SL

xNx aS zx

x …(4.5)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

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図4 向流充填塔内の微小収支 1)

ここで、導関数の定義式は、次式で与えられる。

dΔ 0 Δ 0

( ) ( )d ( d ) ( )lim limd ( d ) ( d )

z z z z zz z

f z f zf f z z f zz z z z z z z

…(4.6)

上式で f(z)=[y(z)/1-y(z)]とおくと、式(4.4)は次式のようになる。

dAMB

( /1 ) ( /1 )d

z z z z z ay y y y

Gz

N …(4.7)

AMBdd 1

ayGz y

N …(4.8)

AMB dd1

zyG N ay

…(4.9)

式(4.5)についても同様にして、次式が導かれる。

AMB dd1

zxL N ax

…(4.10)

希薄条件の場合(x, y<<1)、1-x≒1 および 1-y≒1 が成り立つことから、式(4.9)と式(4.10)はそれぞれ次式

で表される。 AMBd dzG N ay …(4.11) および AMBd dzL N ax …(4.12)

気相基準に着目する場合、式(2.1)あるいは式(2.16)を式(4.11)に代入して NA を消去し、塔底から塔頂まで

積分すると、塔高 Z [m]が導かれる。 A G T i( )N k P y y …(2.1)’

b

t

MBG G

G T i

dy

yZ G y H N

k aP y y

b

t

MB

GG G

T i

d,y

yH yG

k aP yN

y …(4.13)

ただし、HGは気相移動単位高さ[m](気相 HTU)、NG は気相移動単位数[-](気相 NTU)。

分離工学演習3(ガス吸収塔)

7

* *A G A A G T( ) ( )N K p p K P y y G

G L

11

Kk H k

…(2.16)’

b

t

MBOG OG

G T*

dy

y

G y H Ny y

ZK aP

b

tOG OG

G T

MB*

d,y

yH

PG

ay

K yN

y …(4.14)

G G L

1 1 HK a k a k a

…(4.15)

ただし、HOGは気相基準総括移動単位高さ[m](気相基準総括 HTU)、NOG は気相基準総括移動単位数[-](気

相基準総括 NTU)、KGa は気相基準総括容量係数[mol/(m3・s・Pa)]。

液相基準に着目する場合、式(2.2)あるいは式(2.23)を式(4.12)に代入して NAを消去し、塔底から塔頂まで

積分すると、塔高 Z [m]が導かれる。 A L T i( )N k C x x …(2.2)’

b

t

MBL L

L T i

dx

xZ L x H N

k aC x x

b

t

MB

LL L

T i

d,x

xH xL

k aC x xN …(4.16)

ただし、HLは液相移動単位高さ[m](液相 HTU)、NLは液相移動単位数[-](液相 NTU)。

* *A L A A L T( ) ( )N K C C K C x x L

L G

11 1

Kk Hk

…(2.23)’

b

t

MBOL OL*

L T

dx

xZ L x H N

aC x xK

b

tOL OL

L T

MB*d,

x

xH L x

x xN

K aC …(4.17)

L L G

1 1 1K a k a Hk a

…(4.18)

ただし、HOLは液相基準総括移動単位高さ[m](液相基準総括 HTU)、NOLは液相基準総括移動単位数[-](液

相基準総括 NTU)、KLa は液相基準総括容量係数[1/s]。

HTU(移動単位高さ Height of Transfer Unit)は、1回の分離に必要な塔高に相当し、塔の分離性能を表す。

値が小さい程、より低い塔高(低コスト)で1回の分離が済むので、塔の分離性能が良い。NTU(移動単

位数 Number of Transfer Unit)は、推進力の逆数に相当することから、物質移動のしにくさ、すなわち分離

の難度を表す。値が小さい程、物質移動速度が大きく、分離が容易。HTU と NTU の積が塔高 Z に相当

することの解釈について、充填塔を棚段塔に置き換えて考える。棚段塔の塔高は、棚の段数と段間隔の

積で決まる。これを充填塔に置き換えると、HTU が棚段の段間隔に相当し(1回の分離に棚段1枚が必

要となり、段間隔が一つ生じる。)、NTU が棚段の段数に相当する。(分離の難度を分離の必要回数、すな

わち棚段の必要枚数とみなす。)

5.移動単位高さHTU

5.1 総括HTU

気相基準の総括 HTU(HOG)と各相 HTU(HG, HL)の関係は、式(4.15)に GMB/PTを乗じることで導かれる。

MB MB MB

G T G T L T

G G HGK aP k aP k aP

…(5.1)

MBOG G L

MB

mGH H HL

T

T

C HmP

…(5.2)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

8

液相基準の総括 HTU(HOL)と各相 HTU(HG, HL)の関係は、式(4.18)に LMB/CTを乗じることで導かれる。

MB MB MB

L T L T G T

L L LK aC k aC Hk aC

…(5.3)

MBOL L G

MB

LH H HmG

T

T

C HmP

…(5.4)

式(5.2)および式(5.4)におけるヘンリー定数 m と H の関係式の導出について、ヘンリー定数の定義式は次

式で与えられる。

yA=mxA …(5.5) および pA=HCA …(5.6)

式(5.5)に全圧 PTまたは全濃度 CTを乗じると、次式のようになる。

pA=mxAPT …(5.7) または CTyA=mCA …(5.8)

上式を式(5.6)に代入して溶質の分圧 pAと濃度 CAを消去し、式(5.5)を用いると、ヘンリー定数 m と H の

関係式が導かれる。

TAT

AyCmx P H

m …(5.9)

A2 T

T A

C Hm yP x

…(5.10)

T

T

C HmP

…(5.11)

5.2 各相HTU

気相 HTU(HG)の推算式として、アンモニア-水系に対する Fellinger(フェリンジャー)の式がある。

2 3G G

m

nGH c ScL

GG

G GSc

D …(5.12)

ただし、G はガスの質量速度[kg/(m2・s)]、L は液の質量速度[kg/(m2・s)]、ScG は気相基準のシュミット数[-]、

μG はガスの粘度[Pa・s]、ρG はガスの密度[kg/m3]、DG は溶質の気相拡散係数[m2/s]、c, m, n は定数。

液相 HTU(HL)の推算式として、Sherwood-Holloway(シャーウッド・ハロウェイ)の式がある。

1 2L L

L

1n

LH Sc LL

L LSc

D …(5.13)

ただし、L は液の質量速度[kg/(m2・s)]、ScLは液相基準のシュミット数[-]、μLは液の粘度[Pa・s]、ρLは液

の密度[kg/m3]、DLは溶質の液相拡散係数[m2/s]、α, n は定数。

5.3 気相容量係数 kGa

総括 HTU(HOG, HOL)の別の推算方法として、式(4.15)および式(4.18)中の容量係数(kGa, kLa)を別個に求め

て総括容量係数(KGa, KLa)を計算し、式(4.14)および式(4.17)に代入することもできる。

疋田(ひきた)らは、気相容量係数 kGa から気相境膜係数 kG を分離して、種々の充填物に対する次の

無次元式を報告している。

分離工学演習3(ガス吸収塔)

9

表2 Fellinger の式における定数(SI単位系)

充填物 称呼寸法 c m n G [kg/(m2・s)] L [kg/(m2・s)]

ラシヒリング

3/8 in 1/2 in

1 in 1(1/2) in 1(1/2) in

2 in

0.722 1.04 0.648 0.968 0.803 1.04

0.45 0.43 0.32 0.38 0.38 0.41

0.47 0.60 0.51 0.66 0.40 0.45

0.28~0.69 0.28~0.69 0.28~0.83 0.28~0.97 0.28~0.97 0.28~1.10

0.69~2.10 0.69~2.10 0.69~6.30 0.69~2.10 2.10~6.30 0.69~6.30

ベルルサドル

1/2 in 1/2 in

1 in 1(1/2) in

0.629 0.428 0.537 0.759

0.30 0.30 0.36 0.32

0.74 0.24 0.40 0.45

0.28~0.97 0.28~0.97 0.28~1.10 0.28~1.40

0.69~2.10 2.10~6.30 0.69~6.30 0.69~6.30

表3 Sherwood-Holloway の式における定数(SI単位系)

充填物 称呼寸法 α n 充填物 称呼寸法 α n

ラシヒリング

3/8 in 1/2 in

1 in 1(1/2) in

2 in

3100 1400 430 380 340

0.46 0.35 0.22 0.22 0.22

ベルルサドル 1/2 in

1 in 1(1/2) in

690 780 730

0.28 0.28 0.28

0.352 3psBM G

MM G G G

1.02(1 )

G D Gk pjG D

ps

G0

( )100 ~ 5 00

10

D G 適用範囲: …(5.14)

ただし、jMは物質移動に関する j 因子[-]、G は混合ガスの質量流速[kg/(m2・h)]、GM は混合ガスのモル流

速[kmol/(m2・h)]、kG は気相境膜物質移動係数[kmol/(m2・h・atm)]、pBM は同伴ガス(B)の分圧の対数平均値

[atm]、μG はガスの粘度[cP]、ρG はガスの密度[g/cm3]、ε は空隙率[-]、DG は溶質の気相拡散係数[cm2/s]、

Dpsは充填物と表面積の等しい球の相当径[cm]。

気液接触界面積 a の推算について、疋田は諸家の実測値を整理し、次式を報告している。

ラシヒリング: 0.455

t0.0406 na L

a 0.48

p0.83n D- …(5.15)

ベルルサドル: 0.455

t0.0078 na L

a 0.98

p0.495n D- …(5.16)

at は塔の単位容積当たりの充填物の全表面積[m2/m3]、L は液の質量速度[kg/(m2・s)]、σ は液の表面張力

[dyn/cm]、Dp は充填物の称呼寸法[cm]。

恩田らは、水に対する各種ガスの吸収実験に基づき、気相容量係数 kGa から気相境膜係数 kGを分離し

て、次の無次元式を報告している。

2 3 0.352.0BM G

M t pM G G t G

5.23 ( )Gk p Gj a DG aD

t G

~ 102 00Ga 適用範囲: …(5.17)

ただし、称呼寸法 15 mm 以下のラシヒリング、ベルルサドルに対しては、5.23 の代わりに 2.0 を用いる。

気液接触界面積 a の推算について、恩田らは濡れ面積 aw に等しいものと仮定し、次式を報告している。

分離工学演習3(ガス吸収塔)

10

0.05 0.20.1 0.752 2w t c

2t t L L L t

1 exp 1.45a a LL La a g a

…(5.18)

ただし、σcは充填物材質の液の臨界表面張力[dyn/cm]。

式(5.14)または式(5.17)より気相境膜物質移動係数 kG を、式(5.15)、式(5.16)、式(5.18)より気液接触界面積

a を別個に計算して乗ずることで、気相容量係数 kGa を求めることができる。

表4 恩田らの式における σc

充填物の材質 σc [dyn/cm]

鋼 ガラス 磁器

カーボン 塩ビ

ポリエチレン パラフィン

75 73 61 56 40 33 20

5.4 液相容量係数 kLa

疋田らは、液相容量係数 kLa から液相境膜係数 kLを分離して、次の無次元式を報告している。

1 60.45 0.5 2 3L p L pL

2L L L L L

4k D gDLCaD D

L

04 5 1 000 ~La

 適用範囲: …(5.19)

C=0.31(ラシヒリング)、C=0.37(ベルルサドル)

気液接触界面積 a の推算には、式(5.15)または式(5.16)を用いる。

恩田らは、液相容量係数 kLa から液相境膜係数 kLを分離して、次の無次元式を報告している。

1 32 3 0.5 2 3L p L p 0.4L

t p2L L L L L

40.00202 ( )k D gDL a D

aD D

L~ 24. 004 1 6L

a 適用範囲: …(5.20)

気液接触界面積 a の推算には、式(5.18)を用いる。

6.移動単位数NTU

6.1 総括NTU

図積分により求めることができる。気相基準総括 NTU(NOG)の場合、塔頂(yt)から塔底(yb)までの気相モ

ル分率 y を適当な間隔に分割し、区画ごとの y に対応する液相モル分率 x を操作線の式より求める。操作

線の式より得られた x を平衡線の式に代入して y*を求め、区画ごとの y に対応する 1/(y-y*)を計算する。

y に対して 1/(y-y*)を点綴(てんてい)し、区画ごとに生成する台形面積の和を求める。液相基準総括

NTU(NOL)についても同様の方法で求めることができる。

平衡線と操作線がともに直線の場合は、推進力の対数平均を用いて解析的に求めることができる。

b

t

b t

mO *G *

l

d( )

y

yN y yy

y y y y

* ** b b t t

lm * *b b t t

( ) ( )( )

ln{( )/( )}y y y yy y

y y y y …(6.1)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

11

b

t

b t

mO *L *

l

d( )

x

xN x xx

x x x x

* ** b b t t

lm * *b b t t

( ) ( )( )

ln{( )/( )}x x x xx x

x x x x …(6.2)

図5 図積分の方法 1)

6.2 各相NTU

気相および液相 NTU(NG, NL)を求めるには、まず気液界面濃度(xiおよび yi)を図上で推定する必要があ

る。すなわち、操作線上の任意の点(x, y)より対応線(タイライン)を引き、平衡線との交点(xi, yi)を読む。

対応線は、次式のようにして導かれる。

A G T i L T i( ) ( )N k aP y y k aC x x …(2.1)’ (2.2)’

L Ti i

G T( )

k aCy y x xk aP

…(6.3)

対応線の傾きに気相および液相基準の移動単位高さ(HTU)を代入すると、次式のように導かれる。

MBG

G T

GHk aP

…(4.13) および MBL

L T

LHk aC

…(4.16)

G G GL T MB L MB MB MLB

G T MB G L MB L MB L MGB

H H Hk aC L H L L S Qk aP G H H G H G S H Q

…(6.4)

ただし、QMGBは同伴ガスのモル流量 [mol/s]、QMLBは純溶媒のモル流量 [mol/s]。

実用的には全モル基準を用いる方が便利である。その場合は、次式のように導かれる。

TG

MTG aPk

GH …(4.13)’ および TL

MTL aCk

LH …(4.16)’

G G GL T MT L MT MT MLT

G T MT G L MT L MT L MGT

H H Hk aC L H L L S Qk aP G H H G H G S H Q

…(6.5)

ただし、QMGTは全ガスモル流量 [mol/s]、QMLTは全液モル流量 [mol/s]。

分離工学演習3(ガス吸収塔)

12

全モル基準である QMGT と QMLT は、塔内で値が変化する。便宜上、塔頂と塔底におけるモル流量の算術

平均を用いる。気液界面濃度(xiおよび yi)を求めた後は、図積分を用いて積分項を計算することで、気相

および液相 NTU(NG, NL)を求めることができる。

平衡線と操作線がともに直線の場合は、推進力の対数平均を用いて解析的に求めることができる。

b

t

b t

i lmG

i

d( )

y

yN y yy

y y y y b bi t ti

i lmb bi t ti

( ) ( )( )

ln{( )/( )}y y y yy y

y y y y …(6.6)

b

t

b t

i lmL

i

d( )

x

xN x xx

x x x x b bi t ti

i lmb bi t ti

( ) ( )( )

ln{( )/( )}x x x xx x

x x x x …(6.7)

図6 気液界面濃度(xi, yi)の求め方 1)

単位換算

1 in(インチ)=2.54 cm

1 ft(フィート)=12 in=0.3048 m

1 lb(ポンド)=0.4536 kg

1 gal(ガロン)=0.004546 m3

1 lb/ft3(ポンド毎立方フィート)=16.02 kg/m3

1 cP(センチポアズ)=0.0006720 lb/(ft・s)=0.001 Pa・s

参考文献

1)新潟大学工学部化学システム工学科編(山際和明著); 拡散操作Ⅱ「ガス吸収」,1-3-6 章

2)吉田文武, 森 芳郎編; 詳論 化学工学Ⅱ「単位操作Ⅱ」, 朝倉書店(1967), 16・179~16・186 章

3)藤田重文, 東畑平一郎編; 化学工学Ⅲ(第 2 版)「物質移動操作」, 東京化学同人(1972), 3.6 章

4)疋田晴夫; 改訂新版 化学工学通論Ⅰ, 朝倉書店(1982), 6.4 章

5)水科篤郎, 桐栄良三; 化学工学概論, 産業図書(1979), 3.1.4 章

6)化学工学協会編; 化学工学便覧(改訂四版), 丸善(1978), 6.6 章

分離工学演習3(ガス吸収塔)

13

付録 充填物特性

分離工学演習3(ガス吸収塔)

14

設計問題1

2 mol%のメタノールを含む 25℃、1atm の空気 500 m3/h を向流充填塔の塔底より供給し、水を塔頂より供

給して、メタノールの 90%を吸収除去したい。塔頂より供給される水には、メタノールは含まれていな

い。また、塔底より排出される水中のメタノール濃度は 4 mol%に設定される。気相 HTU(HG)=1.2 m、液

相 HTU(HL)=0.2 m のとき、充填塔高 Z [m]を以下の手順で求めよ。充填層高を塔高とみなしてよい。溶解

平衡式は、y*=0.25x で表されるものとする。

(1-1)塔底におけるメタノールと空気の全ガス流量 QMGTb [kmol/h]を求めよ。

(1-2)塔頂におけるメタノールのモル分率 yt [-]を求めよ。

(1-3)液ガス比 LMB/GMB [-]を求めよ。

(1-4)操作線の式を求めよ。ただし、希薄条件を仮定する。

(1-5)対応線の傾きを求めよ。

(1-6)図積分を用いて気相 NTU(NG)を求めよ。

(1-7)塔高 Z [m]を求めよ。

図 1 対応線を用いた界面濃度 yiの解析(作成中)

作図しやすい様に、対応線の傾き(Tie line slope)を左端に引いておく。

答(1-1)20.4 kmol/h (20450 mol/h), (1-2)0.002, (1-3)0.442, (1-4)y=0.442x+0.002, (1-5)-2.68(-2.65 も可),

(1-6)4.13, (1-7)5.0 m

y y i 1/(y -y i) 台形面積

0.02 0.0110 111.10.017 0.00925 129.0 0.36020.014 0.0075 153.8 0.42430.0110.0080.0050.002

合計

表1 気相移動単位数N Gの計算(作成中)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

15

設計問題2

1 in(称呼寸法 2.54 cm)磁性ラシヒリングを不規則充填した充填塔を用いて、温度 25℃、1 気圧の下、微量

のアセトン蒸気を含む空気と水を向流接触させて、空気中のアセトンを吸収除去したい。空気の流量

QG=3000 kg/(m2・h)、水の流量 QL=8000 kg/(m2・h)とする。気相基準総括 NTU(NOG)=9.30 のとき、充填塔高

Z [m]を以下の手順で求めよ。充填層高を塔高とみなしてよい。溶解平衡式は、y*=2.26x で表されるもの

とする。計算に必要な物性値を以下に示す。

・気相のシュミット数 ScG=1.29

・液相のシュミット数 ScL=703

・液粘度 μL=8.02×10-4 Pa・s

・空気の分子量 29

・水の分子量 18

(2-1)Fellinger の式より気相 HTU (HG) [m]を求めよ。(式への代入には SI 単位系を用いよ。)

(2-2)Sherwood-Holloway の式より液相 HTU (HL) [m]を求めよ。(式への代入には SI 単位系を用いよ。)

(2-3)気相基準総括 HTU(HOG) [m]を求めよ。

(2-4)塔高 Z [m]を求めよ。

答(2-1)0.482 m, (2-2)0.353 m, (2-3)0.668 m, (2-4)6.2 m

●自分の力で解くこと。どうしても分からなければ、途中まででよい。

(真面目に解いていることが伝われば、極端に低い点数にはならない。)

●過去の解答やクラスメートが作成したレポートを書き写さないこと。

(採点する側の気持ちを考えること。ズルをするような自分に満足か?)

●書き写しが疑われる場合は、当人を呼び出して事情を聴取する。

(不正が明らかとなった場合は、当該レポートを受理しない。不合格。)

分離工学演習3(ガス吸収塔)

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x0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05

y

0.000

0.005

0.010

0.015

0.020

y0.000 0.005 0.010 0.015 0.020 0.025

1/(y

-yi)

0

100

200

300

400

500

600