きのこ通信014 「新刊紹介!~増補改訂新版 日本の...
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きのこ通信014
2011 年 12 月 18 日 「新刊紹介!~増補改訂新版 日本のきのこ~」
文 幸徳伸也
今年も残りわずかとなりました。
冬本番となり、キノコはほとんど見かけなくなりましたね。
そんな寂しい時期は野山でキノコを探すのではなく、家で図鑑をめくってキノコを探してはい
かがでしょうか?
今回の通信は家でキノコ採りをする人には必携の新しい図鑑の紹介です。
新しい図鑑を購入して来年のキノコシーズンに備えましょう!
「増補改訂新版 日本のきのこ」
増補改訂版監修 保坂健太郎・細矢剛・長沢栄史
出版社 山と渓谷社
「日本のきのこ」は通信003で紹介した日本で“最高”の図鑑です。
その「日本のきのこ」が大幅に改訂され、さらに一部内容が追加されました。
それが「増補改訂新版 日本のきのこ」です
では一体どこが変わったのでしょうか?
まずは、旧版(第7刷)と見比べてみましょう。
①表紙
増補改訂新版 旧版(第7刷)
基本的に大きくは変わっていません。
増補改訂新版の表紙のほうがわずかにカラフルに感じます。
②値段
増補改訂新版 旧版(第7刷)
8400 円(税込み)
4630 円(税込み)
増補改訂新版は約 8400 円と旧版の約2倍です。
値段を見れば増補改訂新版の内容に期待してしまいますね。
③写真
増補改訂新版 旧版(第7刷)
今回の改訂は大幅な改訂と聞いていましたので写真もほとんど差し替えられているのかと思
っていました。
しかし、ほとんどのキノコの写真は増補改訂新版と旧版で同じです。
少し残念です。
④解説
増補改訂新版 旧版(第7刷)
写真と同様で増補改訂新版と旧版の写真解説はほとんど同じです。
⑤掲載順序
キノコの掲載順序は旧版の配列と同じです。
こう見るとほとんど変わっていないみたいですね。
写真も同じ、解説も同じ、掲載順序も同じです。変わったのは表紙だけみたいですね。
しかし、心配することはありません。
変わっている箇所がいくつかあります。
次は増補改訂新版と旧版(第7刷)の違いを見ていきましょう。
旧版と増補改訂新版の違いは?
①写真の差し替えがある
旧版の写真で同定が間違っていた場合や同定が怪しい場合は、解説と種名はそのままで
写真だけが差し替えられています。
例えばテングタケの写真の場合
増補改訂新版 旧版(第7刷)
右側旧版の「テングタケ」の写真はおそらく「イボテングタケ」と思われます。
それで、増補改定新版ではテングタケの正しい写真に差し替えられたのでしょう。
余談ですが、差し替えられた写真の枚数は 19 枚です(幸徳調べ)
②種名と解説の変更がある
写真のキノコの名前はAであったが、後の研究で名前がBであった場合があります。
その場合は写真は変えずに、その種名と解説が変わっています。
例えば、旧版「シメジモドキ」の場合
↓
増補改訂新版では
「ウメハルシメジ」と名前が変わっています。
ハルシメジはたくさんの種類があることは以前から分かっていました。
ただ、旧版が出た頃はまだ種名を特定するまで至らなかったようです。
ところが、旧版が出てから増補改訂新版が出るまでの間に、研究者の成果で種名が特定できる
までになったようです。
それで「シメジモドキ」から「ウメハルシメジ」と名前が変わったのですね。
また、種・写真ともに削除されて、新たな種とその写真が掲載されているキノコもあります。
例えば、旧版 388 ページに「キカラハツタケ」というキノコがあります。
しかし、増補改訂新版では「ヒロハチャチチタケ」というキノコに種・解説ともに変わってい
ます。
キカラハツタケは一体どこに行ってしまったのでしょうか?
おそらく、旧版の「キカラハツタケ」というキノコの同定が間違っていたのでしょう。
それでキカラハツタケの写真を差し替えようとしたのですが、良い写真がなかったためにまっ
たく別のキノコに代えざるを得なかったのではないかと推測しています。
余談ですが、種名・解説に大きな変更があった種は 34 種です(幸徳調べ)
③食毒の表記に変更がある
旧版が出版されてから増補改訂版が出るまでの間に新たに毒キノコとわかったキノコの表記
が変わっています。
シモコシの場合
旧版(第7刷)
増補改訂新版
旧版では●が 3 個でかなり美味しいキノ
コとされています。
しかし、増補改訂版では●が 3 個になり
で逆に猛毒のキノコとされています。
余談ですが、食毒変更があったのは 5 種です(幸徳調べ)
④新規収録種がある
巻末付近に「新規収録種」と題して 16 種掲載されています。
ここに掲載されているキノコは旧版には掲載されていません。
もちろん他の図鑑に載っていないキノコがほとんどです。
16 種と少ないのが残念ですが一体どんなキノコが載っているのでしょうか?
それは増補改訂新版を購入してのお楽しみということにしてください。
私もはじめてカラー写真で見るキノコがありましたよ。
余談ですが、他の図鑑に載っていないキノコが 7 種あります。(幸徳調べ)
⑤最新の分類がわかる
最近、キノコもDNAの情報をもとにして分類作業が進められています。
ただし、その情報を掲載している図鑑はこれまで国内ではありませんでした。
そのため、アマチュアの方のほとんどがDNAによる分類を知らない方もたくさんいます。
それが増補改訂新版ではDNAの情報をもとにした最新の分類体系で掲載されています。
例えば、「ヒナノヒガサ」というキノコがあります。
旧版では「キシメジ科」となっています。
しかし、増補改訂新版では「ヒナノヒガサ科」と変更されています。
この変更もDNA解析による結果であると言われています。
個人的には衝撃的な事実です。
余談ですが、変更のあった種はいくつあるのかわかりません。(幸徳調べず)
さて、①~⑤まで旧と新の変更点を解説しました。
この中で増補改訂新版の一番の目玉は「⑤最新の分類がわかる」ということです。
ただし、この「最新の分類がわかる」というポイントが、キノコ入門者の方にとって目玉にな
るかと言われると疑問に残ります。
旧版の分類がわかっている中級者~上級者の人にとっては最新の分類は興味深い情報です。
しかし、キノコ入門者の方にはなんのことやらまったくわからないはずです。
「ヒナノヒガサ」の所属が「キシメジ科」から「ヒナノヒガサ科」に変わったのにはびっくり
しました。
ただし、このように驚くのも「ヒナノヒガサ」を知っていて、なおかつ「キシメジ科」という
ことがわかっているということが前提です。
もし、「ヒナノヒガサ」を知らないなら「へぇ~」と関心することもありませんし、興味深い
情報ではありません。
増補改訂新版での最新の分類は入門者の方にはちょっと難しいです。
旧版を熟読していないと、増補改訂新版のおもしろさはわかりません。
むしろ、旧版を見ずに増補改訂版を初めに見てしまうと、どういうキノコが何科になるのかが
分からずに混乱すると感じました。
そんな理由で、
まだ、旧版を手に入れてない方は旧版の購入をお勧めいたします。
すでに絶版になっているので入手は難しいかもしれません
ただ、古書店なら売っているかもしれませんね。
旧版と見比べてこそ、増補改訂新版の価値がわかります。
こういう風に書くと増補改訂新版まるで良くないように思いますね。
しかし、「増補改訂新版 日本のきのこ」は
日本で一番信用できる最新の図鑑
であることは間違いありません。
決して買って損をすることはありません。
しかし、一番のネックは 2 倍になった値段ですね。
値段が2倍になっているからと言って、2 倍の情報量になっているかと言えば決してそうでは
ありません。
なぜ、そんなに高くしたのか!
と怒りたくなります。
値段が高いことですし、旧版でも十分役に立ちますから、旧版を持っている人なら急いで買わ
なくても大丈夫です。
財布に余裕が出来たときに購入されたらと思います。
まぁしばらくは絶版にならないでしょうから慌てて購入することもないでしょう。
余談ですが、通信003で紹介した図鑑評価基準の増補改訂新版の点数は
16 点
です。
旧版は 19 点です。
増補改訂新版のマイナスポイントとしては、
①値段が高くなっていること
②ピンボケの写真がある(ヒロハチャチチタケ)
この 2 点です。