新型コロナウイルスの伝播について:最新の知見の …...2020/07/09 · 1 / 15...
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非公式日本語訳 (2020 年 8 月 21 日)
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新型コロナウイルスの伝播について:最新の知見の予防策への示唆 サイエンティフィック・ブリーフ(科学的事項に関する概説)
2020 年 7 月 9 日版
原文(英語):
Transmission of SARS-CoV-2: implications for infection prevention precautions Scientific brief
9 July 2020 https://www.who.int/publications/i/item/modes-of-transmission-of-virus-causing-covid-19-implications-for-ipc-precaution-recommendations
本文書は、2020 年 3 月 29 日に公表された「COVID-19 の原因となるウイルスの伝播様式:感染
予防と制御(IPC)の予防策の推奨事項に対する示唆(Modes of transmission of virus causing COVID-19: implications for infection prevention and control (IPC) precaution recommendations)」と題するサイエンティフィック・ブリーフ(科学的事項に関する概説)を更新したものであり、
COVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2の伝播について利用可能な新たな科学的根
拠が含まれている。
概要 このサイエンティフィック・ブリーフは、SARS-CoV-2 の伝播様式の概要、いつ感染者がウイル
スを感染させるかについて知られていること、医療施設の内外での感染予防と制御策に対する示
唆について説明している。このサイエンティフィック・ブリーフはシステマティックレビューで
はない。むしろ、これは WHO とパートナーが実践している、査読付きジャーナルの出版物と、
プレプリントサーバー上の非査読原稿を、迅速なレビューし統合したものを反映している。プレ
プリントの知見は、査読がない場合は注意して解釈されるべきである。またこのサイエンティフ
ィック・ブリーフは、WHO 健康危機管理プログラム(WHO Health Emergencies Programme)とCOVID-19への IPCに関する準備策、用意、対応のための特別専門家諮問パネル(ad hoc Experts Advisory Panel for IPC Preparedness, Readiness and Response to COVID-19)、WHO の暫定的
な COVID-19IPC ガイダンス策定グループ(COVID-19 IPC GDG)との電話会議や、関連する技
術的背景を持つ外部の専門家のレビューにより、種々の議論からも情報を得ている。
COVID-19 の世界戦略的準備・対応計画(1)の包括的な目的は、ウイルスの感染を抑制し、関連す
る疾患や死亡を防ぐことで COVID-19 を制御することである。現在のエビデンスは、COVID-19の原因となるウイルスである SARS-CoV-2 が人から人へと主に拡大することを示唆している。
SARS-CoV-2 がどのように、いつ、どのような環境で拡がるか理解することは、伝播の鎖を断ち
切るために効果的な公衆衛生上の、また感染予防と制御策を開発するために非常に重要である。
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感染経路 このセクションでは、接触感染、飛沫感染、空気感染、媒介物を介した感染、便経口感染、血液
感染、母子感染、動物から人への感染を含む、SARS-CoV-2 の感染様式について簡単に説明する。
SARS-CoV-2 に感染すると、主には呼吸器疾患が引き起こされ、その重症度は軽度のものから重
症化して死亡するものまで様々である。しかし感染しても症状が出現しない人もいる。
接触感染および飛沫感染
SARS-CoV-2 の伝播は、咳嗽、くしゃみ、会話、歌を歌った時に排出される、唾液といった感染
分泌物や呼吸器飛沫を介して、感染者との直接的、間接的、密接な接触によって発生しうる(2-10)。
呼吸器飛沫は径が 5~10μm 以上であるのに対し、5μm 以下の飛沫は飛沫核やエアロゾルと呼
ばれる(11)。呼吸器飛沫感染は、感染者と濃厚接触(1 メートル以内)をした場合に起こる可能性
がある。感染者はこの時呼吸器症状(咳嗽やくしゃみなど)がある感染者や、会話したり歌った
りしている:このような状況下では、ウイルスを含む呼吸器飛沫が、感染しやすい人の口、鼻、
目に到達し、感染を引き起こす可能性がある。感染しやすい宿主と汚染された物体や表面との接
触を含む間接的な接触感染(媒介物を介した感染)も可能性がある。(下記参照)。
空気感染
空気感染とは、長距離・長時間をかけて空気中に浮遊しても感染力を維持する飛沫核(エアロゾ
ル)の飛散による感染性物質の拡大と定義されている(11)。SARS-CoV-2 の空気感染は、エアロ
ゾルを発生させる医療処置(「エアロゾルを発生させる手技」)中に発生する可能性がある(12)。
WHO は科学界とともに、特に換気が悪い屋内環境では、エアロゾルを発生させる手技がない場
合にも SARS-CoV-2 がエアロゾルを介して拡大する可能性があるかどうか、積極的に議論し、評
価してきた。
呼吸の物理学と流体物理学は、エアロゾルを介した SARS-CoV-2 の伝播に関するメカニズムの可
能性についての仮説を生み出してきた(13-16)。これらの説は、1)多数の呼吸器飛沫が蒸発するこ
とで微細なエアロゾル(5μm 未満)を生成し、2)通常の呼吸や会話の結果、呼気中にエアロゾ
ルが生成されることを示唆している。その結果、感染しやすい人はエアロゾルを吸入する可能性
があり、感染を成立させるのに十分な量のウイルスがエアロゾルに含まれていれば、感染する可
能性がある。しかし、呼気飛沫核やエアロゾルを生成するために蒸発する呼吸器飛沫の割合、あ
るいは他人に感染させるために必要な SARS-CoV-2 の量は知られていない。一方で、他の呼吸器
ウイルスについては研究がある(17)。
ある実験研究では、通常の発話中に空気中に残る様々な大きさの液滴の量を定量化した。しかし、
著者らはこれが独立した仮説に依拠していることを認めており、人及び SARS-CoV-2 について検
証されてはいない(18)。別の最近の実験モデルでは、健康な人が咳嗽や会話を介してエアロゾル
を生成しうることが分かっており(19)、さらに別のモデルでは、発話中の粒子の放出率に関して、
個体間で差が大きく、発声の振幅の増加と正の相関があることが示唆されている(20)。これまで
のところ、この種のエアロゾルのルートによる SARS-CoV-2 の伝播は実証はされていないが、こ
のような感染経路の可能性が示唆されていることを考慮すると、さらなる研究が必要である。
実験研究では、制御された実験室条件下で、高出力ジェトネブライザーを使用して感染性サンプ
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ルのエアロゾルを生成してきた。これらの研究で分かったことは、空気サンプル内のエアロゾル
に潜む SARS-CoV-2 ウイルスの RNA が、ある研究では最大 3 時間まで(21)、別の研究では 16 時
間まで、生存可能で増殖可能なウイルスが検出された(22)。これらの知見は人の正常な咳嗽の状
態を必ずしも反映しない、実験的に作成されたエアロゾルから得られたものである。
症状が出現した COVID-19 患者が治療されているが、エアロゾルを発生させる手技は行われてい
ないような医療施設で実施された複数の研究で、空気サンプル中に SARS-CoV-2 の RNA が存在
することが報告されている(23-28)。一方で医療施設と非医療施設の両方で行われた同様の研究で
は、SARS-CoV-2 の RNA の存在は確認されなかった。さらに空気サンプル中に生存ウイルスが
見つかった研究はない(29-36)。SARS-CoV-2 の RNA が見つかったサンプルの中で、大量の空気中
から探しても検出された RNA の量は極めて少なく、空気サンプルから SARS-CoV-2 の RNA を
検出したある研究でも、増殖可能なウイルスを同定することができなかったと報告している(25)。
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)ベースの分析を用いた RNA の検出からは、伝播が可能
で、感染を引き起こす可能性がある、複製及び感染可能(生存可能)なウイルスの存在を必ずし
も示すものではない(37)。
COVID-19 の地域的初発例に曝露した、エアロゾル発生手技がない状態にいる医療従事者が最近
クリニカルレポートを出したところによると、個人用防護具(PPE)の構成要素としてのマスク
の着用を含め、接触および飛沫感染予防策が適切に取られている場合には院内感染は認められな
かった(38, 39)。これらの観察から、エアロゾル感染はこの条件下では発生しなかったことが示唆
される。エアロゾルを発生させる手技が実施されていない場所の空気サンプルから生存可能な
SARS-CoV-2 が検出できるかどうか、またエアロゾルが伝播において果たしている役割は何かを
判断するためには、さらなる研究が必要である。
医療施設以外では、屋内の混雑した場所に関連したアウトブレイクの報告がいくつかあり(40)、
例えば合唱隊の練習中(7)、レストラン(41)、フィットネスクラス(42)での飛沫感染と組み合わさ
れたエアロゾル感染の可能性が示唆されている。これらのイベントでは、特に屋内の特定の場所、
例えば混雑した空間や換気が不十分な場所など、感染者との長時間にわたる近距離のエアロゾル
感染を否定することができない。しかし、これらのクラスターの詳細な調査から、クラスター内
でのヒト-ヒト感染は、飛沫や媒介物による伝播から説明できることも示唆している。さらに、
これらのクラスターの濃厚接触による感染は、少数の症例から多くの人への感染を容易にした可
能性があり(例えばスーパースプレッド現象)、特に物理的な距離が保たれていないにもかかわら
ず、手指衛生が実施されず、マスクが使えない場合などである(43)。
媒介物を介した感染
感染者によって排出された呼吸器分泌物や飛沫は、表面や物体を汚染し、媒介物(汚染された表
面)を発生させる可能性がある。RT-PCR によって検出された生存可能な SARS-CoV-2 ウイルス
および RNA は、周囲の環境(温度と湿度を含む)および表面の種類に応じて、数時間から数日間
の間、これらは表面に存在することができ、特に COVID-19 患者が治療されていた医療施設では
高濃度であった(21, 26, 28, 31-33, 36-44, 45)。したがって感染はまた、感染者からのウイルスで汚染され
た周囲や物体(例えば聴診器や体温計など)に触れた後、口、鼻、目に触れられることによって
間接的に発生する可能性がある。
SARS-CoV-2の表面汚染と特定の表面上でのウイルスの生存に関する一貫したエビデンスがある
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にもかかわらず、媒介物を介した感染を直接証明した具体的な報告はない。感染の可能性がある
表面に接触した人も感染者と濃厚接触をしていることが多く、呼吸器飛沫と媒介物を介した感染
の区別は難しい。しかし感染者の周辺の環境汚染に関する一貫した知見や、他のコロナウイルス
や呼吸器ウイルスもこの方法で感染する可能性があることを考えると、SARS-CoV-2 の伝播様式
としては媒介物を介した感染もあり得るものだと考えられる。
その他の感染経路
SARS-CoV-2RNA は、患者の尿や糞便などの生物学的サンプルにおいても検出されている(46-50)。
ある研究では1人の患者の尿からも生存可能なSARS-CoV-2が検出された(51)。便検体からSARS-CoV-2 を培養した 3 つの研究も存在する(48, 52, 53)。しかしながら、現在までに糞便や尿を介した
SARS-CoV-2 の伝播の報告は公表されていない。
血漿または血清のいずれかで SARS-CoV-2 の RNA が検出されたことがいくつかの研究で報告さ
れており、ウイルスは血球内で複製することができることがわかる。しかし、血液感染の役割は
依然として不明であり、血漿中および血清中のウイルス力価は低いため、この経路による伝播の
リスクは低い場合があることを示唆している(48, 54)。現在のところ、データは限られているが、
感染した妊婦から胎児への SARS-CoV-2 の子宮内感染のエビデンスはない。WHO は最近、母乳
育児と COVID-19 に関するサイエンティフィック・ブリーフを公表した(55)。サイエンティフィ
ック・ブリーフの中で、SARS-CoV-2 に感染した母親数人の母乳サンプルから RT-PCR によって
ウイルス RNA 断片が見つかったが、ウイルスを分離できるかどうか調査した研究では、生存可
能なウイルスは見つかっていないことを説明している。SARS-CoV-2 の母から子への伝播は、母
乳中の増殖性および感染性ウイルスが乳児の標的部位に到達し、乳児の防御システムに打ち勝つ
ことが必要である。WHO は、COVID-19 疑い例または確定例の母親であっても、母乳育児を開始
する、または継続するよう推奨すべきであるとしている。
これまでのエビデンスは、SARS-CoV-2 がコウモリの既知のベータコロナウイルスと最も密接に
関連していることを示している。最初に知られた人の症例への伝播を促進したのか、という点に
おける中間宿主の役割は依然として不明である(56, 57)。SARS-CoV-2 の中間宿主の可能性につい
ての調査に加え、さまざまな動物種における SARS-CoV-2 の感受性をよりよく理解するために、
多数の研究が進行中である。現在のエビデンスは、SARS-CoV-2 に感染した人が、犬(58)、猫(59)、
養殖ミンク(60)を含むその他の哺乳類に感染させることを示唆している。しかしながら、これら
の感染した哺乳類が人への感染に重大なリスクをもたらすかは依然として不明である。
感染者はいつ他者に感染させるのか? 感染者がいつ SARS-CoV-2 を拡散するかを知ることは、ウイルスがどのように拡散されるかと同
じように重要である(上述)。WHO は最近、病気の重症度に基づいて、どのような場合に人に感
染が広がる可能性があるのかについて知られていることをまとめたサイエンティフィック・ブリ
ーフを発表した(61)。
このサイエンティフィック・ブリーフの中では、エビデンスから、SARS-CoV-2 の RNA は、症
状が出現する 1-3 日前に人から検出され、RT-PCR によって測定された最高のウイルス量は症状
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出現の日頃に観察され、その後時間の経過とともに徐々に減少していくことが示唆されている(47,
62-65)。RT-PCR 陽性の期間は、一般的に無症状の人では 1-2 週間で、軽度から中等度の人では 3週間とされている(62, 65-68)。重度の COVID-19 患者においては、それはさらに長くなる(47)。
ウイルスの RNA の検出は、人が感染力があり他人にウイルスを感染させることができることを
必ずしも意味しない。感染力のある SARS-CoV-2 の存在を評価するために患者サンプルのウィル
ス培養を使用した研究は、現在のところ限られている(61)。内容は、端的に言うと、生存可能なウ
イルスが分離されているのは、無症状の症例(69)、症状出現から 8-9 日目までは軽度から中等度
の患者、さらに重度の患者からはそれ以上の期間分離されている(61)、ということである。ウイル
スの排出期間に関する詳細は、WHO のガイダンス文書である「COVID-19 患者を隔離から解除
するための基準(Criteria for releasing COVID-19 patients from isolation)」に記載されている(61)。
感染した患者の中での生存可能なウイルス排出の期間を決定するためにはさらなる研究が必要
である。
有症状の感染者は主に飛沫と濃厚接触で他者に感染させうる
SARS-CoV-2の伝播は、主に飛沫感染や有症状の感染者との濃厚接触を介すると考えられている。
中国における COVID-19 症例 75,465 人の分析では、クラスターの 78-85%が家庭内で発生して
おり、感染は濃厚接触と長時間の接触によって起こることが示唆されている(6)。韓国での最初の
患者の研究では、13 人の二次症例のうち 9 人が家庭内の接触者の中で発生したことが示されて
いる(70)。家庭環境以外では、礼拝所、ジム、職場などの場所で、有症状の症例との物理的な濃厚
接触があった人、食事を共にした人、密閉された空間に 1 時間以上いた人も感染のリスクが高か
った(7, 42, 71, 72)。その他の報告では、他の国での家族内での二次感染に関する同様の知見がこれ
を裏付けている(73, 74)。
無症状の感染者も他者に感染させうる
中国からの初期のデータは、症状がない人が他人に感染させる可能性があることを示唆している(6)。無症状の感染者からの伝播の役割をより良く理解するために、症状がその後にも出現しなか
った感染者からの感染(無症状の伝播)(75)と症状がその時点では出現していなかった感染者から
の伝播(症状出現前の伝播)を区別することが重要である。この区別は、伝播を制御するための
公衆衛生上の戦略を策定する際に重要である。
コミュニティにおける真に無症候性の感染の程度は不明のままである。感染症が無症候性である
人の割合は、年齢によって異なる可能性が高く、これは年齢が高くなるほど基礎疾患の有病率が
高くなることや(したがって年齢が高くなるほど重症の疾患を発症するリスクが高くなる)、小児
は成人と比較して臨床的な症状を示す可能性が低いことを示す研究から言える(76)。米国(77)や中
国(78)の初期の研究からは、検査時に症状がなかったことから、多くの症例が無症候性であった
と報告されているが、これらの人々の 75-100%から後に症状が出現したと報告された。最近のシ
ステマティックレビューでは、真に無症候性の症例の割合は 6-41%であり、プールされた推定値
は 16%(12-20%)であると推定されている(79)。しかし、このシステマティックレビューに含ま
れる全ての研究には重大な制限がある(79)。例えば、いくつかの研究では、検査時に無症候性であ
った人に症状が出現したかどうかを確認するためにどのような追跡調査を行ったかが明確に記
述されていなかったり、「無症候性」を全く症状が出現しなかった人ではなく、発熱や呼吸器症状
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を発症しなかった人と非常に狭く定義していたりするものもあった(76, 80)。無症候性感染症を明
確かつ適切に定義した中国の最新の研究では、症状が出現しなかった感染者の割合は 23%であっ
たことが示唆されている(81)。
複数の研究で、人は自分自身が体調不良になる前に他人に感染させることが示されているが(10, 42,
69, 82, 83)、これは利用可能なウイルス排出のデータによって裏付けられている(上記参照)。シン
ガポールでの伝播に関するある研究では、二次症例の 6.4%が症状出現前の伝播によるものであ
ったと報告されている(73)。あるモデル化研究では、推定された連続間隔と潜伏期間に基づいて
伝播の日時を推測し、最大 44%(25-69%)の伝播が症状が出現する直前に発生した可能性があ
ると推定された(62)。モデル化研究からの推定値の大きさが、利用可能な経験的データと異なる
理由は不明である。
無症状の感染者からの伝播は調査が困難である。しかし、詳細な接触者追跡活動、症例や接触者
間の疫学調査から情報を収集することは可能である。加盟国が WHO に報告した接触者追跡活動
からの情報、利用可能な伝播に関する研究、最近のプレプリントのシステマティックレビューか
ら得られた情報によると、症状のない人は、症状が出現した人よりもウイルスを伝播させる可能
性が低いことが示されている(10, 81, 84, 85)。ブルネイ、中国広州、中国台湾、韓国の 4 つの個別の
研究では、無症候性感染者の 0-2.2%が他の人に感染させたのに対し、症状が出現した人は 0.8-15.4%であったことが明らかになった。
感染に関して残る疑問
SARS-CoV-2 の伝播に関する多数の疑問は残っており、これらの疑問に答えるための研究は現在
進行中であり、奨励されている。現在のエビデンスは、SARS-CoV-2 は主に呼吸器飛沫と接触の
経路を介して人と人の間で伝播することを示している。しかし、エアロゾルを発生させる手技が
使用されている医療施設ではエアロゾル化も伝播の可能性がある。そして COVID-19 の伝播は、
適切な PPE が着用されていない場合に、症状が出現する前後の人と濃厚接触(1m 以内の、長時
間にわたる、高度疑い例または確定例との対面での接触)をしている他の人へと発生しているこ
とを示唆している。伝播は感染しても無症状のままの人から起こる可能性があり、その程度は十
分に解明されておらず、さらなる研究が急務となっている。医療施設外での空気感染の占める役
割と程度、特に換気が悪い閉鎖的な環境での空気感染の程度についても、さらなる研究が必要で
ある。
研究を継続することで、理解が深まることが期待される領域として、以下が挙げられる。飛沫、
物理的接触、媒介物を含む様々な感染経路の相対的な重要性(これにはエアロゾルを発生させる
手技がない場合の空気感染の役割も含む)、伝播に必要なウイルスの量、様々な閉鎖的な環境で観
察されるようなスーパースプレッド現象を促進する人や状況の特徴、感染の過程を通して無症状
のままでいる感染者の割合、ウイルスを他の人に感染させる真の無症候性の人の割合、無症状及
び症状出現前の伝播を促進する特定の要因、無症候性と症状出現前の人から伝播する全ての感染
の割合について。
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感染予防への示唆 感染者がいつ、どのような環境で、どのようにしてウイルスを伝播させるのかを知ることは、伝
播の鎖を断ち切るための制御策を開発し、実施するために重要である。多くの科学的研究が利用
可能になってきているが、伝播を調査する研究は全て、実施されている感染予防の介入、調査に
使用された方法の厳密さ、研究デザインの限界とバイアスなど、その研究が実施された状況と環
境を考慮して解釈されるべきである。
COVID-19 を引き起こすウイルスの伝播の鎖を断ち切るためには、感染者と他の人の間での濃厚
接触を制限することが中心になる。これは利用可能なエビデンスと経験から明らかである。伝播
の予防には、疑い例をできる限り早く特定し、検査し、感染症例を隔離することが最善である(88,
89)。さらに、感染者の濃厚接触者を全て特定することが重要であり(88)、これにより感染者を隔
離して(90)伝播の鎖を断ち切り、更なる拡大を抑えることができる。濃厚接触者を隔離すること
で、二次症例となる可能性がある人たちは、感染した場合でも、症状の出現前、ウイルスを排出
し始める前に、すでに他の人たちと隔離されているため、さらなる拡大の機会を防ぐことができ
る。COVID-19 の潜伏期間、すなわちウイルスへの暴露から症状の出現までの時間は、平均して
5-6 日であるが、14 日に及ぶことがある(82, 91)。したがって、確定例への最後の暴露から 14 日間
は、隔離を行う必要がある。接触者が別の生活空間で隔離することができない場合、自宅での 14日間の隔離が必要となる。自己隔離中の人は、ウイルスの拡大を予防するために、物理的距離の
対策を使用している間に支援を必要とする場合がある。
症状のない感染者がウイルスを伝播させ得ることを考慮すると、市中感染があり a 物理的距離の
確保といったその他の予防策が不可能な公共の場所では、布製のフェイスマスクの使用を推奨す
ることが賢明である(12)。布製のマスクは、適切に製作、着用されていれば、着用者から空気中や
環境中に排出される飛沫に対するバリアとしての役割を果たすことができる(12)。しかし、マス
クは、頻回な手指衛生、可能な場合は物理的距離の確保、咳エチケット、環境の洗浄と消毒を含
む、包括的な予防措置の一環として使用する必要がある。また、推奨される予防策には、特に物
理的距離の確保が困難な場合、屋内の混雑した集まりをできるだけ避け、閉鎖的な環境下では良
好な環境の換気を確保することも含まれる(92, 93)。
長期療養施設を含む医療施設では、COVID-19 IPC GDG によるエビデンスとアドバイスに基づ
き、WHO は COVID-19 患者の治療を行う際の飛沫及び接触に関する予防策、そしてエアロゾル
を発生させる手技を実施する際の空気感染に関する予防策を引き続き推奨する。また WHO は、
リスク評価に基づくアプローチを用いて、他の患者に対しても標準的予防策または伝播様式に基
づく予防策を推奨している(94)。これらの推奨事項は、欧州集中治療医学会や米国集中治療医学
会(95)や米国感染症学会が作成したものを含む、他の国内および国際的なガイドラインと一致し
ている(96)。
さらに、COVID-19 のコミュニティ内伝播が発生している地域では、WHO は、臨床部門で働く医
療従事者や介護提供者は、シフト全体を通して、全ての日常の活動中に医療用マスクを継続的に
着用すべきであると助言している(12)。エアロゾルを発生させる手技を実施している施設では、
N95、FFP2、FFP3 の保護マスクを着用する必要がある。米国疾病対策予防センター(97)、欧州疾
a 「伝播の鎖に結びつかない(接触者追跡が行えない)大量の症例、センチネルサーベイランスによる大量の症
例、国/領域/地域における複数の無関係なクラスターを含む(これらにのみ限定はされないが)要因を評価して定
義された局所感染の大規模アウトブレイクの経験」として WHO によって定義された。 https://www.who.int/publications/i/item/who-2019-nCoV-surveillanceguidance-2020.7
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病予防管理センター(98)を含むその他の国や組織は、COVID-19 患者のケアに関わるあらゆる状
況での空気予防策を推奨している。しかし、保護マスクが不足した場合には、医療用マスクも選
択肢の一つとして使用を検討している。
WHO のガイダンスはまた、医療施設における経営上の、また工学的な管理の重要性と、全ての
PPE の合理的かつ適切な使用(99)、そしてこれらの推奨事項に関するスタッフのトレーニングの
重要性を強調している(WHO・新型コロナウイルス[COVID-19]に対する IPC のコース
(https://openwho.org/courses/COVID-19-IPC-EN)で利用可能)。WHO は安全な労働環境におけ
るガイダンスも提供している(92)。
本文書の要点 主な知見
• SARS-CoV-2 がどのように、いつ、どのような環境で人々の間で拡大するか理解すること
は、伝播の鎖を断ち切るための効果的な公衆衛生上の対策と感染予防策を開発するために
非常に重要である。
• 現在のエビデンスは、SARS-CoV-2 の伝播は主に唾液、呼吸器分泌物などの感染した分泌
物を介した直接的、間接的、濃厚接触を通して、または感染者が咳嗽、くしゃみ、会話、
歌った際に排出される呼吸器飛沫を通して人と人の間で起こることを示唆している。
• エアロゾルを発生させる手技と呼ばれる特定の医学的手技によって、エアロゾルと呼ばれ
る非常に小さい飛沫が発生する医療施設では、ウイルスの空気感染が発生する可能性があ
る。屋内の混雑した空間に関連したアウトブレイクの報告の中には、例えば合唱隊の練習
中、レストラン、フィットネスクラスなどでの飛沫感染に加えて、エアロゾルによる伝播
の可能性が示唆されているものがある。
• また、感染者の呼吸器飛沫が物体に着地し、媒介物(汚染された表面)が発生する可能性
もある。環境汚染は多くの報告がされているので、手を洗う前にこれらの表面を触れたり、
目、鼻、口を触れることで、人にも感染する可能性がある。
• 現在分かっていることに基づくと、COVID-19 の伝播は主に症状が出現している時に人か
ら発生しており、症状が出現する直前に、長時間に渡って他の人と密に接触している時に
も発生する可能性がある。症状が出現していない人でもウイルスを他人に感染させること
があるが、どの程度まで感染するのかは未だ明らかになっておらず、この分野ではさらな
る研究が必要とされている。
• 様々な感染経路の相対的な重要性、エアロゾルを発生させる手技がない場合の空気感染の
役割、伝播の発生に必要なウイルス量、スーパースプレッド現象の環境因子とリスクファ
クター、無症候性及び症状が出現する前の伝播の程度を明らかにするために、質の高い研
究が緊急に必要とされている。
いかに感染を予防するか
COVID-19 戦略的準備・対応計画(1)の包括的な目的は、ウイルスの伝播を抑制し、関連する病気
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や死亡を予防することで COVID-19 を制御することである。我々が理解している限りでは、ウイ
ルスは主に接触や呼吸器飛沫を介して拡散する。いくつかの状況下では、空気感染が起こる場合
がある(例えばエアロゾルを発生させる手技が実施されている医療施設、室内の混雑した換気が
悪いその他の場所)。このような事例を調査し、COVID-19 の伝播の実際の重要性を評価するため
には、より多くの研究が急務である。
伝播を防ぐためには、WHO は以下のような包括的な対策を推奨している。
• 疑い例を速やかに特定し、検査し、適切な施設で全症例(感染者)を隔離する。
• 感染者の濃厚接触者を全て特定して検疫し、症状が出現しているものを検査し、感染して
いて治療が必要な場合は隔離できるようにする。
• 布製のマスクは、市中感染がある公共の場所など、物理的距離の確保などのその他の予防
策が不可能な特定の状況で使用する。
• COVID-19 の疑い例と確定例を治療する医療従事者による接触と飛沫の予防策、またエア
ロゾルを発生させる手技が実施されている際の空気感染予防策の使用。
• すべての臨床現場で働く医療従事者と介護提供者は、シフト全体を通して全ての日常的な
活動の間、医療用マスクを継続的に使用する。
• 頻回な手指衛生、可能であれば物理的距離の確保、咳エチケットを常に実践する;人ごみ
の多い場所、密接した環境、換気の悪い閉鎖された空間を避ける;他の人を保護するため
に過密で閉鎖的な空間では布製のマスクを着用する;全ての閉鎖された環境での換気を良
くし、適切な環境の洗浄と消毒を確実に行う。
WHO は、この重要なトピックに関する新たなエビデンスを注意深く監視し、より多くの情報が
利用可能になり次第、このサイエンティフィック・ブリーフを更新していく。
参考資料 1. Operational planning guidance to support country preparedness and response. Geneva: World Health
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WHO は、この Scientific Brief(科学的事項に関する概説)に影響を与える可能性があるあらゆ
る変化に対し、状況の監視を注意深く継続する。 変化が生じた場合、WHO は更新版を発表する。そうでない場合、この暫定ガイダンスは発行日
から 2 年をもって失効とする。
© World Health Organization 2020. Some rights reserved. This work is available under the CC BY-NC-SA 3.0 IGO licence.
WHO reference number: WHO/2019-nCoV/Sci_Brief/Transmission_modes/2020.3