dpcデータを⽤いた 周術期における 抗菌薬の使⽤状況に関する...
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DPCデータを⽤いた周術期における
抗菌薬の使⽤状況に関する分析○得津 慶1、村松 圭司1、⼤⾕ 誠2、松⽥ 晋哉1
1産業医科大学公衆衛生学 2産業保健データサイエンスセンター
第13回⽇本ヘルスサポート学会学術集会2018年8⽉29⽇
抄録[背景・⽬的]抗菌薬の不適切な使⽤を背景として、抗菌薬の効果が低い薬剤耐性菌が拡⼤し、世界的な問題となっている。我が国における抗菌薬使⽤の特徴として、多くの種類の細菌に効果がある広域スペクトラム抗菌薬の使⽤割合が⾼いことが挙げられ、多剤耐性菌の増加と関係していると考えられている。
外科⼿術では、周術期感染症を予防するため抗菌薬が投与され使⽤される抗菌薬は術式ごとにガイドラインによって規定されていることが⼀般的である。しかしながら、実際の抗菌薬選択は合併症等の患者側の状態や医師や医療機関の慣例等の様々な要因により、必ずしもガイドライン通りに使⽤されていない。適切な抗菌薬選択を推進するためには、周術期における抗菌薬使⽤の状況を明らかにする必要がある。
[結果]「術後感染予防抗菌薬適正使⽤のための実践ガイドライン」において、推奨グレードAとされる予防的抗菌薬の明記のある術式について、DPC研究班が収集したデータを⽤いて、術式・都道府県・抗菌薬成分別の⼊院数・1⼊院あたりの使⽤量合計の平均・使⽤⽇数の平均・点数合計の平均を集計した。
2014年度及び2015年度において、腹腔鏡下胆嚢摘出術が⾏われた⼊院数は129,097件であった。本⼿術において唯⼀の推奨グレードAとされているセファゾリン(CEZ)が⽤いられた⼊院数は62,495件(48.4%)、広域スペク
トラムをもつメロペネム(MEPM)は3,429件(2.67%)であった。MEPMを使⽤した⼊院件数の割合は、最⼩値が⼭梨県の1.08%、最⼤値が栃⽊県の6.44%であった。CEZを使⽤した⼊院数の割合は、併存症に糖尿病をもたない場合は48.5%、もつ場合は47.6%であった。⼀⽅で、MEPMを使⽤した⼊院数の割合はそれぞれ、2.34%、4.62%であった。
⼀⽅、同様にCEZが唯⼀の推奨グレードAとされている⼈⼯膝関節置換術または⼈⼯股関節置換術が⾏われた⼊院数は134,113件であった。そのうちCEZを使⽤した⼊院は104,971件(78.2%)、MEPMを使⽤した⼊院は760件(0.57%)であった。
[考察]ガイドラインにおいてCEZが唯⼀の推奨グレードAとされる術式においても、その他の抗菌薬が多く使われていた。CEZやMEPMが使⽤される割合は術式や糖尿病の合併有無によっても異なっていた。複雑な病態ほど広域スペクトラムをもつ抗菌薬が選択されることが多いと考えられるが、都道府県によるMEPM使⽤状況の違いは、予防抗菌薬の選択において地域差があることを⽰唆した。
[結語]周術期の予防抗菌薬の使⽤状況は、推奨抗菌薬の使⽤が最多であった点において概ねガイドラインに沿った傾向であったと考えられるが、術式や地域による使⽤状況の違いが認められた。抗菌薬選択の違いを⽣む要因について更なる研究が必要と考えられた
キーワード:予防抗菌薬、ガイドライン、DPCデータ
⽬次• 背景• ⽅法• 結果と考察• 結語
フレミングの警告
“ペニシリンが商店で誰でも買うことができる時代が来るかもしれない。そのとき、無知な⼈が必要量以下の⽤量で内服して、体内の微⽣物に⾮致死量の薬剤を曝露させることで、薬剤耐性菌を⽣み出してしまう恐れがある。”
This file is made available under the Creative Commons CC0 1.0 Universal Public Domain Dedication
ペニシリンを発⾒したアレキサンダー・フレミング
1945 年ノーベル医学⽣理学賞受賞講演にて
背景
薬が効かない耐性とは
グラム陰性桿菌に対する重要な抗菌薬とされる抗⽣物質「コリスチン」に耐性をもつ遺伝⼦mcr-1が初めて確認されたE.Coli
This image is a work of the National Institutes of Health, part of the United States Department of Health and Human Services. As a work of the U.S. federal government, the image is in the public domain.
⽣物が⾃分に対して何らかの作⽤を持った薬剤に対して抵抗性を持ち、これらの薬剤が効かない、あるいは効きにくくなる現象のこと。
Wikipedia
薬剤耐性菌が拡⼤
抗菌薬の効果が低い薬剤耐性菌が拡⼤し、世界的な問題となっている。The Review on Antimicrobial Resistance, Chaired by Jim OʼNeill
Global Action Plan
これらの耐性菌に対し、2015年5⽉のWHO総会では、
耐性菌に関するGlobal Action Planが採択された。
この計画では、加盟各国が薬剤耐性に関する国家⾏動計画を
策定する必要がある。
我が国のアクションプラン
これを受け、我が国では2016年4⽉にアクションプランが作成された。
我が国における薬剤耐性の現状
1⼈あたり使⽤量は低い⽔準だが幅広く効果を⽰す(広域スペクトル)抗菌薬の割合が⼤きい
広域スペクトラム抗菌薬の不適切使⽤により薬剤耐性が拡⼤
カルバペネムの使⽤量が減少するとIPM耐性緑膿菌と
多剤耐性基緑膿菌の検出率は有意に低下
宮崎博章, ⼊江利⾏, 素元美佐, 溝⼝裕美, 永⼭眞紀: カルバペネム薬の使⽤制限下によるイミペネム耐性緑膿菌と多剤耐性緑膿菌の検出率の推移. 環環境感染誌2006; 21 (3): 162-6
周術期の予防抗菌薬
外科⼿術では⼿術部位感染の予防のために
抗菌薬が使⽤される
ガイドラインが予防抗菌薬を規定
• 原則的に、RCTにより⾮使⽤の場合と⽐較し有意に術野感染か低率となる抗菌薬が適応
• 原則的に、⼿術部位の常在細菌叢に抗菌活性を有する薬剤選択を⾏う
推奨グレードと推奨抗菌薬が術式ごとに規定されている
実際の使⽤は必ずしもガイドライン通りではない
「本カイトラインはあくまても標準的な指針である」
• 実際の診療⾏為を強制しない
• 個々の患者の個別性や施設の状況を加味して最終的に⽅針を決定
抗菌薬の使⽤状況を明らかにする必要がある
DPCデータを利⽤して集計
DPC研究班が収集したデータを⽤いて
「術後感染予防抗菌薬適正使⽤のための実践ガイドライン」において
推奨グレードAとされる予防的抗菌薬の明記のある術式について
術式・都道府県・抗菌薬成分別の⼊院数1⼊院あたりの使⽤量合計の平均・使⽤⽇数の平均・点数合計の平均を集計した。
⽅法
腹腔鏡下胆嚢摘出術総⼊院数 129097
⼊院数合計(件) 使⽤量合計平均(単位) 使⽤⽇数平均(⽇) 点数合計平均(点) 総⼊院数での割合
CEZ 62,495 5.0 1.3 1,971 48.54%SBT/CPZ 30,186 15.0 4.2 9,192 22.91%
CMZ 28,616 9.2 2.4 4,495 22.04%CTM 11,463 8.4 2.3 4,634 8.89%
その他 5,876 14.1 2.8 158,597 4.08%FMOX 4,552 11.4 3.1 17,340 3.51%
SBT/ABPC 4,071 28.5 5.1 21,307 2.98%MEPM 3,429 43.4 8.9 47,540 2.43%CTRX 3,379 19.0 5.3 10,504 2.38%
TAZ/PIPC 3,368 29.2 6.4 79,300 2.34%PIPC 2,104 14.0 3.2 6,332 1.64%AMK 835 6.7 2.0 2,175 0.60%
結果 考察
抗⽣剤略称
0K 5K 10K 15K 20K 25K 30K 35K 40K 45K 50K 55K 60K 65K
⼊院数
CEZ
CMZ
SBT/CPZ
CTM
FMOX
SBT/ABPC
CTRX
MEPM
61,797
27,084
25,946
11,040
4,147
2,882
2,305
1,521
抗⽣剤略称
CEZ
CMZ
SBT/CPZ
CTM
FMOX
SBT/ABPC
CTRX
MEPM
各抗菌薬を使⽤した延べ⼊院数総⼊院数 129097
広域スペクトラムを持つMEPMが少数ながら予防的に使⽤されている 推奨のCEZは多数派
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
各抗菌薬の投与⽇数総⼊院数 129097
抗⽣剤略称1
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
Avg.使⽤⽇数平均
MEPM
SBT/ABPC
CTRX
SBT/CPZ
FMOX
CMZ
CTM
CEZ
10.1
6.3
6.2
5.4
3.6
3.5
3.1
2.5
抗⽣剤略称1
MEPM
SBT/ABPC
CTRX
SBT/CPZ
FMOX
CMZ
CTM
CEZ
MEPMの平均投与期間はかなり⻑い
推奨であるCEZは投与期間も短い
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
抗⽣剤略称
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600 2800 3000 3200 3400 3600
Avg.点数合計平均
FMOX
MEPM
SBT/ABPC
SBT/CPZ
CTM
CMZ
CTRX
CEZ
3,311
2,925
2,006
1,455
1,214
1,107
1,070
768
抗⽣剤略称
FMOX
MEPM
SBT/ABPC
SBT/CPZ
CTM
CMZ
CTRX
CEZ
各抗菌薬を使⽤した⼊院中の薬価点数総⼊院数 129097
MEPMなどを使⽤した⼊院の薬価点数はかなり⾼い
推奨であるCEZを使⽤した⼊院の薬価点数は少ない
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
術式によって 使⽤状況は異なる
術式
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
合計⼊院数の%
⼈⼯関節置換術股・膝
⼦宮全摘術
腹腔鏡下胆嚢摘出術 18.90%
23.94%
19.73%45.02%
47.74%
10.67%
14.72%
73.13%
8.04%
8.44%
8.13%
抗⽣剤略称
MEPM
CTRX
SBT/CPZ
TAZ/PIPC
CFPN-PI
SBT/ABPC
CMZ
NULL
CTM
CEZ
MEPMの使⽤割合は⾼まるCEZの使⽤割合が低いほど
⼊院中のMEPMの使⽤割合は地域によっても差が⾒られた
0.02028 0.05068
⼊院数割合
都道府県名
⻑崎県
新潟県
⼭⼝県
富⼭県
島根県
三重県
⿅児島県
和歌⼭県
宮崎県
愛媛県
⽯川県
⼤分県
⾹川県
福井県
広島県
⾼知県
岐⾩県
福岡県
奈良県
群⾺県
栃⽊県
愛知県
熊本県
滋賀県
静岡県
埼⽟県
宮城県
岡⼭県
⼤阪府
⻑野県
茨城県
兵庫県
千葉県
⿃取県
⻘森県
北海道
東京都
⼭梨県
秋⽥県
神奈川県
徳島県
福島県
沖縄県
京都府
佐賀県
⼭形県
岩⼿県
0.00
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
⼊院数割合
5.07%
4.93%
4.72%
4.56%
4.55%
4.45%
4.43%
4.43%
4.17%
4.11%
4.04%
4.00%
3.85%
3.80%
3.73%
3.62%
3.59%
3.55%
3.50%
3.45%
3.42%
3.39%
3.38%
3.31%
3.27%
3.13%
3.05%
3.03%
3.02%
2.99%
2.91%
2.86%
2.85%
2.82%
2.81%
2.74%
2.69%
2.59%
2.56%
2.55%
2.49%
2.45%
2.45%
2.28%
2.13%
2.09%
2.03%
⻑崎 5.07%
岩⼿ 2.03%
⼤都市圏・東北が多い⻄⽇本・北陸が⽬⽴つ
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
都道府県名1
栃⽊県
⻑崎県
宮崎県
福井県
愛媛県
⽯川県
⼭⼝県
広島県
新潟県
富⼭県
⼤分県
岡⼭県
佐賀県
⾼知県
和歌⼭県
北海道
⼤阪府
福岡県
宮城県
⿃取県
⻑野県
⿅児島県
⻘森県
滋賀県
島根県
秋⽥県
⾹川県
熊本県
岐⾩県
三重県
京都府
兵庫県
静岡県
愛知県
奈良県
東京都
茨城県
神奈川県
沖縄県
岩⼿県
群⾺県
埼⽟県
千葉県
⼭形県
徳島県
福島県
⼭梨県
0.000
0.002
0.004
0.006
0.008
0.010
0.012
0.014
0.016
0.018
0.020
0.022
0.024
0.026
0.028
0.030
0.032
0.034
0.036
0.038
0.040
0.042
0.044
0.046
当⽇mepm⼊院数割合
4.3%
4.0%
3.7%
3.5%
3.4%
3.1%
2.9%
2.8% 2.8%
2.6%
2.5%
2.4% 2.4% 2.4%2.3% 2.3% 2.3%
2.2% 2.2% 2.2% 2.2%
2.1%
2.0% 2.0% 2.0%2.0% 1.9%
1.9%1.8%
1.8% 1.7% 1.7%1.7% 1.7% 1.7%
1.6% 1.6%1.6%
1.5%1.5%
1.4% 1.4%1.4%
1.3%
1.0%1.0%
0.9%
0.00875 0.04339
当⽇mepm⼊院数割合MEPMの予防的使⽤割合栃⽊ 4.3%
⼭梨 0.9%
東北は良好⼀部が⽬⽴つ
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
都道府県名1
徳島県
⼤分県
⻑崎県
宮城県
岩⼿県
福岡県
福島県
広島県
埼⽟県
神奈川県
東京都
島根県
千葉県
静岡県
兵庫県
沖縄県
⼭⼝県
⿅児島県
⾹川県
京都府
⼭梨県
岡⼭県
秋⽥県
⻑野県
北海道
茨城県
佐賀県
⽯川県
宮崎県
⿃取県
富⼭県
三重県
滋賀県
⻘森県
愛知県
福井県
⼤阪府
奈良県
栃⽊県
和歌⼭県
愛媛県
熊本県
群⾺県
新潟県
岐⾩県
⾼知県
⼭形県
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
0.45
0.50
0.55
0.60
0.65
0.70
0.75
0.80
0.85
0.90
0.95
当⽇cez以外⼊院数割合
93.2%
79.0%
74.1%73.6%
72.7%
70.0% 69.6% 69.6%68.6% 68.3%
67.5%66.5%
65.8% 65.4%64.8% 64.7% 64.6%
64.0% 63.8%63.1% 63.0%
62.5% 62.4% 62.3% 62.3%
60.7% 60.7% 60.3% 60.0% 59.9%59.3%
58.4%57.3% 56.9%
56.0%55.5%
54.8% 54.4%53.8%
53.0%51.8%
51.3%
48.4% 48.4% 48.2%47.2%
37.9%
CEZ 以外の予防的使⽤割合徳島 93.2%
⼭形 379%
関⻄・中部は良好⼀部が⽬⽴つ
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
糖尿病を合併すると、推奨抗菌薬の使⽤割合は低下する
抗⽣剤略称 dm
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50
SUM([⼊院数])/SUM({EXCLUDE[抗⽣剤略称]:(SUM([⼊院数]))})
CEZ 0
1
CMZ 0
1
SBT/CPZ 0
1
CTM 0
1
FMOX 0
1
SBT/ABPC 0
1
CTRX 0
1
MEPM 0
1
45.5%
43.1%
19.8%
19.7%
18.8%
20.0%
8.2%
7.6%
3.0%
2.9%
2.0%
2.5%
1.6%
2.2%
1.0%
1.9%
dm
0
1
腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合
MEPMの割合が上昇
CEZの割合が低下
周術期の予防的抗菌薬使⽤の状況に改善の余地があることが⽰唆された• 周術期の予防抗菌薬の使⽤状況は、
推奨抗菌薬の使⽤が最多であった点においては概ねガイドラインに沿った傾向であったと考えられる
• 少数ながら広域スペクトラムを持つ抗菌薬が使⽤されその使⽤⽇数や点数は⼤きいものであった
• 術式・糖尿病合併の有無による使⽤状況の違いが認められた• 地域による使⽤状況の違いが認められた• 抗菌薬選択の違いを⽣む要因について
更なる研究が必要と考えられた。
結語