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Page 1: bsw3.naist.jp · Web view図1自然突然変異の発生原因として複製エラーと自然DNA損傷が重要です。これらの原因による突然変異の発生は多段階の機構で抑制されています。図2

図 1自然突然変異の発生原因として複製エラーと自然 DNA損傷が重要です。これらの原因による突然変異の発生は多段階の機構で抑制されています。

図 2 DNA損傷により複製フォークの進行が阻害された時、その解消法には組換え修復、複製フォーク後退、損傷乗り越え DNA合成の3つがあります。

図 4 突然変異の研究( A)、複製酵素の精製と生化学的解析( B)、細胞生物学( C)、複製フォークの進行速度の一分子解析( D)を、大腸菌を用いて行っています。

図 3 真核生物の複製フォークでは、三種類の複製型 DNAポリメラーゼが協調して効率良い DNA 複製を行い複製エラーの発生を低く抑えています。 DNA損傷で停止した複製フォークでは、真核生物でも大腸菌でも特別なバイパスDNAポリメラーゼが働きます。

研究・教育の 概要

私たちの研究室では、親(親細胞)から子(娘細胞)へ

の遺伝情報の正確な伝達がどのような仕組みに支えられて

いるのか、あるいはこれとは逆に、不正確な遺伝情報の伝

達により引き起こされる突然変異はどのようなプロセスを

経て発生するのかについて研究を進めています。 DNAおよび生命の基本的問題や生物進化の分子機構に強い興味

を持つ若い人達に、将来独立した研究者や社会人として活

躍できる力を養える教育にも全力を注いでいます。

主 な 研 究 テ ー マ

1 ) 突然変異の発生と抑制の分子機構(図1) DNA複製エラーの発生メカニズムと修復機構 活性酵素や栄養環境により生じる突然変異

2 ) 染色体およびゲノムの維持と再編の分子機構(図2)

遺伝子組換えの制御機構

DNA損傷応答や細胞周期チェックポイントの役割3) DNA 複製装置の構造と機能の解明(図3) DNAポリメラーゼの機能 複製フォークの進行の動態や、進行阻害の回復過程

私たちは、「細胞内のゲノムの正確な複製機構」や「突然

変異の発生機構の解明」が生物の本質的な理解に必須である

にも拘わらず、ほとんど手が付けられていない課題であると

考えています。この観点から、大腸菌(図4 -C )を材料

として用いて、分子遺伝学の手法(図4)を駆使しながら多

面的な研究を精力的に推進しています。

「突然変異の発生機構」では、 DNA 上の小さな変化

(点突然変異)の第一番 目の発生原因は、 DNA 複製の誤

り(複製エラー)であることが分かってきました(図1)。

これに加えて、細胞内での酸素呼 吸などで生じる活性酸素な

どが DNA に傷を与え(図1の自然 DNA 損傷)、その

結 果として複製エラーが誘発されることも突然変異の重要な

もう一つの原因となっています。ただし、これらの複製エ

ラーや DNA 損傷の大部分は、細胞が持つ多数の DNA修復機構(図1、図2)や DNA 損傷応答機構(チェック

ポイント機構)により巧 妙にかつ高い効率で取り除かれ、普

通の環境中で生育する細胞の突然変異(自然突然変異)は非

常に低い頻度でしか生じないように制御されています。私た

ちは、酸化損傷と修復機構の DNA 合成エラーが希に生じ

る自然突然変異の重要な原因であることを明らかにしてきま

した(図4 -A )。

また、複製フォークの進行阻害(複

製ストレス)は細胞内の様 々な要因

で生じており、ゲノム不安 定性を引

き起こします。そのため、「ゲノム

の正確な複製と維持」の問題にアプ

ローチするには、複製フォークが細

胞内のゲノム上をどの様に移動して

いるのかについても理解を深めるこ

と が 重 要 で す ( 図 3 、 図 4 -D )。私たちは、ゲノム上の複製

フォークの進行は一様でなく、止ま

りやすい特定のゲノム領 域があるこ

とや、 DNA 損傷応答時に発現す

る遺伝子によって進行速度が低下す

ることも明らかにしてきました。

主 な 発 表 論 文 ・ 著 作

[1] H. Maki, Annual Review of Genetics, 36, 279-303, 2002

[2] K. Hasegawa et al., Genes to Cells, 13, 459-469, 2008

[3] S. Ide et al., Science, 327, 639-696, 2010

[4] M. Ikeda et al., Nucleic Acid Res., 42, 8461-8472, 2014

[5] KW. Tan et al., Nucleic Acid Res., 43, 1714-1725, 2015

[6] HP. Lai et al., Genes to Cells, 20, 817-833, 2015

[7] C.T. Lim et al., Nucleic. Acid Res., 43, 9804-16, 2015

[8] M.T. Akiyama et al., Genes to Cells,

21, 907-914, 2016

原核生物分子遺伝学

統合システム生物学分野

教授 :真木 壽治 :[email protected]准教授 :秋山 昌広 :[email protected]:/ /bsw3.naist . jp /maki /

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