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日本の家庭用ゲーム企業の生き残り方 ―「レベルファイブ」の資本蓄積過程と
戦略の分析から
七邊信重
(マルチメディア振興センター)
自己紹介
専門
通信、放送の調査
ビデオゲーム文化・産業の研究
社会学、経営学、ゲーム研究
著作
『デジタルゲームの教科書』(共著)
『妖怪ウォッチが10倍楽しくなる本――妖怪ウォッチのゲーム・アニメ学』
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問題設定
「なぜ、1990年代後半に福岡に設立された中
小企業レベルファイブが、少数の大企業が主導する家庭用ゲーム(コンソールゲーム)産業で、成長を達成し得たか?」
コンソールゲーム産業: 寡占型の産業
コンソールゲームの制作・製造・宣伝・販売には、巨額の資金、設備、人材、知識が必要。
90年代後半以降、高性能端末向けゲームの大容量化(特にグラフィックの3D化・HD化)と、制作人数・期間の増大で、制作費急増(小山 2010)。
ファミコン用ゲーム: 800万円(12人月)
PS3用ゲーム: 14億円(2,000人月)
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問題設定
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他に、パッケージ製造費、ライセンス料、宣伝費、販売費やそのためのノウハウが必要。
経営資源を持つ少数の大企業に構成・支配される寡占型の産業(Rayna他: 2014: 65)
五大ゲーム販売企業――任天堂、ソニー、マイクロソフト、アクティビジョン・ブリザードおよびエレクトロニック・アーツ――だけで、2008年度のゲーム業界の売り上げ全体の70%を占めている。(Goldberg & Linus Larsson 2012=2014: 49)
「厳しい環境にもかかわらず、レベルファイブが成長を達成し得たのはなぜか?」
2014年国内ゲーム市場ランキング
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タイトル ハード 販売会社 売上本数
1位 妖怪ウォッチ2 元祖・本家 3DS レベルファイブ 305万0,178本
2位 ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア 3DS ポケモン 246万4,850本
3位 モンスターハンター4G 3DS カプコン 238万1,177本
4位 大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS 3DS 任天堂 206万6,022本
5位 妖怪ウォッチ2 元祖・本家 3DS レベルファイブ 200万7,327本
6位 妖怪ウォッチ 3DS レベルファイブ 99万4,346本
7位 マリオカート8 Wii U 任天堂 84万2,053本
8位 ドラゴンクエストモンスターズ2 3DS スクウェア・エニックス 74万8,139本
9位 星のカービィ トリプルデラックス 3DS 任天堂 68万7,957本
10位 大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U Wii U 任天堂 47万8,366本
本研究の意義
先行研究
産業構造の分析が中心。企業分析は少ない。
「コンソール産業」では、今後、中小企業の成長の見込みは薄いと分析
「ゲーム産業でベンチャー的な企業が活躍するという英雄時代は、終焉しつつある」(田中 2003: 118, 139)。
レベルファイブの経営戦略の分析を通して、産業の成熟化の中でも、中小のゲーム会社が存続・成長するための条件に関する知見が得られる。
成熟化が進むモバイルゲーム産業にも適用可能。 6
構成
問題設定
本研究の意義
レベルファイブの成長過程
制作会社(デベロッパ)時代
販売会社(パブリッシャ)時代
成長を支えた戦略
ドメイン戦略
資源戦略
競争戦略
結論と今後の課題 7
レベルファイブの成長過程 制作会社時代
リバーヒルソフト時代(1989~1998)
日野晃博氏: プログラマ、ディレクタ。RPG、AVG、3Dの制作技術や集団開発ノウハウを習得
会社設立(1998年)
SCE副社長:PS2ゲーム開発と会社設立を打診
PS2用RPG「ダーククラウド」(154万本)→名声
転機(2004年)
ドラゴンクエストⅧ: シリーズ初の3D→資金
九州のゲーム制作会社の互助組織「GFF」
産学官連携組織「福岡ゲーム産業振興機構」(2006)
インターンシップ、コンテスト→情報ネットワーク、信頼、人材
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レベルファイブの成長過程 販売会社時代
販売事業参入(2006年)
DS用AVG「レイトン教授と不思議な町」(2007)
「脳トレ」ブームの要因は「気軽さ」。「お母さんにもできるゲーム」「脳トレから一歩ゲーム寄りのものが売れると分析。「頭の体操」のゲーム化
画面に「目的」を示す、登場人物の声優に有名俳優・女優を起用などの工夫で、幅広い層(カジュアル層)にアピール(1,783万本)
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レベルファイブの成長過程 販売会社時代
クロスメディア展開(2008年~)
小学館、バンダイ、テレビ東京、電通等と協力。安価か無料で楽しめる漫画・アニメを先に開始、子どもに浸透した時期の夏休みにゲームを販売
DS用RPG「イナズマイレブン」(2008年、511万)
PSP用RPG「ダンボール戦機」(2011年、123万)
妖怪ウォッチ(2013年~、3DS用RPG)
女の子や大人にも馴染みやすい、コミュニケーションを誘発するフィクション世界
主人公、大人向けのネタ・ギャグ、「妖怪」、「笑い」
2015年10月現在、831万本 10
クロスメディア展開
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ゲーム・玩具等の発売直前に内容に合わせたアニメを放映、ゲームの複数バージョンを発売、定期的に新作を出すなどの工夫で子どもの関心を維持
妖怪ウォッチ:より時間をかけて子どもに浸透させる
タイトル(ゲーム) ゲーム
イナズマイレブン2008年8月ゲーム
ダンボール戦機2011年1月マンガ
2011年3月アニメ
2011年6月ゲーム
妖怪ウォッチ2013年7月ゲーム
妖怪ウォッチ2 元祖・本家2014年7月ゲーム
先行メディア
2012年12月マンガ
2008年5月マンガ
2014年1月アニメ、玩具
成長を支えた戦略: 分析枠組
戦略(榊原 2002: 36-37)
組織が目標・目的・標的を実現するために行う基本的決定
①ドメイン戦略
組織の活動範囲の決定
企業の活動範囲: 製品や顧客などで表現できる
②資源戦略
経営資源の獲得・蓄積・配分に関する決定
③競争戦略
産業内での高い成果の実現・維持のための決定
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成長を支えた戦略
ドメイン戦略: ハードコア層→カジュアル層
女性、シニア(2006~) 「レイトン教授」
男の子(2008~2013) 「イナイレ」「ダンボール」
子ども・親・祖父母(2013~) 「妖怪ウォッチ」
資源戦略: 組織外資源の活用
産学官連携: 人材/情報・信用の獲得(2004~)
他業種連携: メディアミックス活用(2006~)
競争戦略: 「差別化」戦略
製品の差別化:誰でも楽しめる「カジュアルゲーム」
世界観、遊びやすさ、中断可能性など(七邊 2015)
マーケティングの差別化: 「フリー」+メディアミックス 13
結論と今後の課題
コンソール産業で中小企業だったレベルファイブが成長のため策定・実行した戦略を分析。
競争優位の構築・維持のため、「ドメイン戦略」「資源戦略」「競争戦略」のそれぞれに関して、独自戦略を自覚的に策定・実行していた。
中小ゲーム企業の成長のための示唆を提示。
カジュアル層向けゲームの提供、組織外資源の活用、製品・マーケティングの差別化など。
今後の課題
他の成長企業(コンソール・モバイルゲーム、電子コミック、音楽ストリーミングなど)の戦略との比較分析
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文献
Goldberg, Daniel, Linus Larsson, 2012, Minecraft: block, pixlar och
att göra sig en hacka, Norstedts.(=羽根由訳,2014,『マインクラフト――革命的ゲームの真実』角川学芸出版.)
七邊信重,2015,『妖怪ウォッチが10倍楽しくなる本――妖怪ウォッチのゲーム・アニメ学』,三才ブックス.
小山友介,2010,「ゲーム産業の全体像」デジタルゲームの教科書制作委員会編『デジタルゲームの教科書――知っておくべきゲーム業界最新トレンド』ソフトバンククリエイティブ,3-12.
Rayna, Thierry and Ludmila Striukova, 2014, ‘Few to Many’: Change
of Business Model Paradigm in the Video Game Industry,
Communications & Strategies, 94: 61-81.
榊原清則,2002,『経営学入門(上)』日本経済新聞社.
田中辰雄,2003,「大企業への集中とその背景」,新宅純二郎・田中辰雄・柳川範之編『ゲーム産業の経済分析』東洋経済新報社,117-143.
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ご静聴、ありがとうございました。
「妖怪ウォッチ」の魅力、レベルファイブの成長過程や経営戦略の具体的記述にご関心がある方は、拙著『妖怪ウォッチが10倍楽しくなる本』をご覧下さい。
七邊信重(Hichibe, Nobushige)
twitter: yakumo415