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CRISPRi:ゲノムワイドCRISPR干渉による 転写抑制スクリーニング Carlos le Sage & Benedict CS Cross Horizon Discovery, 8100 Cambridge Research Park, Waterbeach, Cambridge, CB25 9TL, United Kingdom はじめに CRISPR-Cas9を使用したプール化スクリーニングの変革的影響に基づいて、研究 者たちは触媒活性が不活性なCas9(dCas9)を開発し、遺伝的出力の調整に使 用できることを実証しました。これらのシステムは、それぞれCRISPRi (干渉)およ びCRISPRa(活性化)として知られています。 Horizon Discoveryは以前に強力なCRISPR-Cas9ノックアウトプラットフォームを 開発し、tracrRNA配列に小さな重要な変更を加えることでスクリーニング品質の 向上を実証しました(Cross et al, 2016)。ここでは、新しいオールインワンのヒト 全ゲノムCRISPRiプラットフォームを紹介し、BRAF阻害剤であるベムラフェニブに 対する耐性および感受性遺伝子の同定によってその有効性を実証します。転写 を数桁レベルで負に制御する機能は新しい手法であり、ポジティブおよびネガテ ィブ選択スクリーニング(dCas9は変異原性ではない)の両方で新規ヒットを同 定する機会を研究者に提供します。 図1. CRISPR干渉、別名CRISPRiは、転写抑制ドメイン(Krüppel関連ボックス; KRAB) に融合した触媒活性が不活性化されたCas9を使用して、特異的な遺伝子発現抑制 を実行します。 プラットフォーム設計 CRISPRiスクリーニングのために、dCas9-KRAB融合遺伝子とU6プロモーター駆 動のガイドRNAカセットを含むカスタムオールインワンレンチウイルスベクター システムを作成しました。単一のレンチウイルスインサートからのdCas9-KRAB とCRISPRの同時発現は、プール化機能ゲノミクススクリーニングに必要な非 常に効率的なターゲティング戦略を提供します。パフォーマンスをさらに向上 させるために、プール化CRISPR-Cas9ドロップアウトスクリーニングの堅牢性 を向上させることが以前に実証されている、改変したtracrRNAを使用しました (Cross et al, 2016)。最後に、ローカルヌクレオソームから離れたゲノムDNAの 場所に結合するガイドRNAのパフォーマンスが大幅に向上したことを実証した Horlbeckら(2016)による最新のガイドRNA設計に基づいて、ヒト全ゲノムガイ ドRNAライブラリーを構築しました。この第2世代のCRISPRiライブラリーには、 遺伝子あたり5つのガイドRNAが含まれ、合計19,050の遺伝子をターゲットとし ています。 概念実証スクリーニング 概念の証明として、ゲノム全体のポジティブ選択スクリーニングを実行して、ベ ムラフェニブ耐性(PLX-4032)に関連する遺伝子を特定しました。ベムラフェニ ブはBRAFキナーゼ阻害剤で、BRAF V600E機能獲得型変異を有するA375メラノ ーマ細胞で細胞増殖抑制作用があることが示されています(Davies et al, 2002; Flaherty et al, 2010; Shalem et al, 2014 )。 図2. スクリーニング概略:CRISPRiスクリーニングによりベムラフェニブに対する耐性 をモニタリングし、プラットフォームのパフォーマンスを評価しました。 CRISPRiシステムにより、遺伝子転写の減少の結果として、集団内の細胞のサブ セットがベムラフェニブ処理に耐性を持つようになると仮説を立てました。 CRISPRiスクリーニングプラットフォームの検証 16日間のベムラフェニブ処理後、スクリーニング完了後のペレットを採取し、 各ガイドRNAの相対量を次世代シーケンシングによって測定しました。その 後、MAGeCKワークフロー(Li et al, 2014)の改変バージョンを備えたCRISPR- Cas9スクリーニング分析プラットフォームでNGSデータを実行することにより、 ガイドRNAと遺伝子ヒットレベルのランキングを評価しました。発現抑制され たときに細胞集団から主要な必須遺伝子がドロップアウトすることをCRISPRiの QCの指標にしていますが、本検証では全体的に優れたQCパフォーマンスを観 察しました。 図3. DMSO処理された細胞におけるガイドRNAの存在量と、プラスミドライブラリー で処理した細胞におけるガイドRNAの存在量との比較 リボソーム遺伝子や複製に関与する遺伝子などのコア必須遺伝子の強力なドロップ アウトが観察され、強い転写抑制効果がスクリーニングで再現されたことが示され ました。 horizondiscovery.com APPLICATION NOTE

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Page 1: CRISPRi:ゲノムワイドCRISPR干渉による 転写抑制スクリー …...CRISPRiスクリーニングのために、dCas9-KRAB融合遺伝子とU6プロモーター駆 動のガイドRNAカセットを含むカスタムオールインワンレンチウイルスベクター

CRISPRi:ゲノムワイドCRISPR干渉による転写抑制スクリーニングCarlos le Sage & Benedict CS CrossHorizon Discovery, 8100 Cambridge Research Park, Waterbeach, Cambridge, CB25 9TL, United Kingdom

はじめにCRISPR-Cas9を使用したプール化スクリーニングの変革的影響に基づいて、研究者たちは触媒活性が不活性なCas9(dCas9)を開発し、遺伝的出力の調整に使用できることを実証しました。これらのシステムは、それぞれCRISPRi(干渉)およびCRISPRa(活性化)として知られています。

Horizon Discoveryは以前に強力なCRISPR-Cas9ノックアウトプラットフォームを開発し、tracrRNA配列に小さな重要な変更を加えることでスクリーニング品質の向上を実証しました(Cross et al, 2016)。ここでは、新しいオールインワンのヒト全ゲノムCRISPRiプラットフォームを紹介し、BRAF阻害剤であるベムラフェニブに対する耐性および感受性遺伝子の同定によってその有効性を実証します。転写を数桁レベルで負に制御する機能は新しい手法であり、ポジティブおよびネガティブ選択スクリーニング(dCas9は変異原性ではない)の両方で新規ヒットを同定する機会を研究者に提供します。

図1. CRISPR干渉、別名CRISPRiは、転写抑制ドメイン(Krüppel関連ボックス; KRAB)に融合した触媒活性が不活性化されたCas9を使用して、特異的な遺伝子発現抑制を実行します。

プラットフォーム設計CRISPRiスクリーニングのために、dCas9-KRAB融合遺伝子とU6プロモーター駆動のガイドRNAカセットを含むカスタムオールインワンレンチウイルスベクターシステムを作成しました。単一のレンチウイルスインサートからのdCas9-KRABとCRISPRの同時発現は、プール化機能ゲノミクススクリーニングに必要な非常に効率的なターゲティング戦略を提供します。パフォーマンスをさらに向上させるために、プール化CRISPR-Cas9ドロップアウトスクリーニングの堅牢性を向上させることが以前に実証されている、改変したtracrRNAを使用しました(Cross et al, 2016)。最後に、ローカルヌクレオソームから離れたゲノムDNAの場所に結合するガイドRNAのパフォーマンスが大幅に向上したことを実証したHorlbeckら(2016)による最新のガイドRNA設計に基づいて、ヒト全ゲノムガイドRNAライブラリーを構築しました。この第2世代のCRISPRiライブラリーには、遺伝子あたり5つのガイドRNAが含まれ、合計19,050の遺伝子をターゲットとしています。

概念実証スクリーニング概念の証明として、ゲノム全体のポジティブ選択スクリーニングを実行して、ベムラフェニブ耐性(PLX-4032)に関連する遺伝子を特定しました。ベムラフェニ

ブはBRAFキナーゼ阻害剤で、BRAF V600E機能獲得型変異を有するA375メラノーマ細胞で細胞増殖抑制作用があることが示されています(Davies et al, 2002; Flaherty et al, 2010; Shalem et al, 2014 )。

図2. スクリーニング概略:CRISPRiスクリーニングによりベムラフェニブに対する耐性をモニタリングし、プラットフォームのパフォーマンスを評価しました。

CRISPRiシステムにより、遺伝子転写の減少の結果として、集団内の細胞のサブセットがベムラフェニブ処理に耐性を持つようになると仮説を立てました。

CRISPRiスクリーニングプラットフォームの検証16日間のベムラフェニブ処理後、スクリーニング完了後のペレットを採取し、各ガイドRNAの相対量を次世代シーケンシングによって測定しました。その後、MAGeCKワークフロー(Li et al, 2014)の改変バージョンを備えたCRISPR-Cas9スクリーニング分析プラットフォームでNGSデータを実行することにより、ガイドRNAと遺伝子ヒットレベルのランキングを評価しました。発現抑制されたときに細胞集団から主要な必須遺伝子がドロップアウトすることをCRISPRiのQCの指標にしていますが、本検証では全体的に優れたQCパフォーマンスを観察しました。

図3. DMSO処理された細胞におけるガイドRNAの存在量と、プラスミドライブラリーで処理した細胞におけるガイドRNAの存在量との比較リボソーム遺伝子や複製に関与する遺伝子などのコア必須遺伝子の強力なドロップアウトが観察され、強い転写抑制効果がスクリーニングで再現されたことが示されました。

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Page 2: CRISPRi:ゲノムワイドCRISPR干渉による 転写抑制スクリー …...CRISPRiスクリーニングのために、dCas9-KRAB融合遺伝子とU6プロモーター駆 動のガイドRNAカセットを含むカスタムオールインワンレンチウイルスベクター

CRISPRiスクリーニングヒット同定ベムラフェニブ処理後、100倍を超える濃縮を示す375のガイドRNAが見つかり、その多くは同じ遺伝子を標的としていました。

図4:ベムラフェニブ治療後のsgRNAの濃縮DMSO(x軸)対ベムラフェニブ処理(y軸)の16日後のスクリーニング条件でのlog2変換ガイドRNAカウントの散布図。ベムラフェニブで処理された状態(円で囲まれている)で濃縮されたガイドの中には、同じ遺伝子を複数回ターゲットとする一連のガイドRNA(色で強調表示)がありました。

次に、各遺伝子をターゲットとするそれぞれのガイドからの同化スコアを使用して、遺伝子レベルのヒット同定が行われました。最高ランクの遺伝子には、MED12、NF1、CUL3、TADA1、NF2、およびTADA2Bがあり、これらの遺伝子の喪失によりベムラフェニブに対する耐性が付与されることが知られています(Huang et al, 2012; Whittaker et al, 2013; Shalem et al, 2014)。さらに、メディエーター(MED15、MED16、MED23、MED24)またはSAGA(TAF5LおよびTAF6L)複合体に属するメンバーがさらに見つかります。

さらに特定された多くのヒットがMED複合体のメンバーであることがわかりました。これらの遺伝子は、CRISPRノックアウトテクノロジーを使用して実施される同等のスクリーニングでは特に検出されません。

図5:ベムラフェニブスクリーニング分析のデータ:A. 各遺伝子および関連するp値のlog2倍濃縮を示す全スクリーニングデータ。ハイライトされたヒットは、以前にCRISPRノックアウトスクリーニングによってすでに同定および検証されています。B. 強調表示された各ヒットの個別のガイドパフォーマンス濃縮レベルを各遺伝子毎に示しました。

重要なことは、耐性のトップヒットの個々のガイドRNAのランク付けを評価するとき、うまく機能しなかったガイドRNAはごくわずかであることです。それはCRISPRiの堅牢性を示し、遺伝子出力を効果的にダウンレギュレートしてベムラフェニブへの耐性を可能にするその能力を反映しています。

興味深いことに、スクリーニングはベムラフェニブ耐性因子を特定するために特別に設計されましたが、その抑制が化合物に対する感受性を増加させる遺伝子には、EGFRとITGB5が含まれていました。これは、CRISPRaテクノロジーによって、発現が増強されたときにベムラフェニブ耐性を助けると既に報告されている2つの遺伝子です(Konermann et al, 2015)。

この発見は、特定の表現型の高選択圧処理条件のために検出ウィンドウが小さい場合でもヒットの同定を可能にするガイドRNAの高レベルのパフォーマンスを示すものです。

図6:ベムラフェニブ処理群で激減していることが判明した遺伝子には、ITGB5とEGFRが含まれます。これらは、この薬剤による処理に対して感受性であることが判っている因子です。

概要概念実証アプローチを使用して、CRISPRiプラットフォームがBRAF阻害剤であるベムラフェニブに対する耐性を生み出す能力を調べました。以前にCRISPR-Cas9ノックアウト技術によりベムラフェニブ処理に対する耐性を付与することが示されているすべての検証済み遺伝子を特定することができました。全体として、プラットフォームのパフォーマンスは非常に高く、優れた精度とヒット識別能力を備えていました。

遺伝子操作ツールの新しいメンバーとして、CRISPRiは、必須遺伝子の関与する表現型など、低形質の表現型を研究するために非常に貴重です。

方法A375メラノーマ細胞をHorizonのCRISPRi-dCas9レンチウイルスに低MOIで感染させ、細胞ごとに単一のコンストラクトが組み込まれるようにしました。組み込まれたレンチウイルスを含む細胞は、非形質導入細胞を排除するために抗生物質で選択しました。その後、スクリーニング投与フェーズが開始され、細胞集団は、ベムラフェニブ(2µM)またはコントロール(DMSO)を含む培地で、それぞれ2連で処理しました。対照処理細胞が集団倍加16に達したとき、最終ペレットを収集し、ゲノムDNAを抽出し、各条件でのガイドRNA量をNGSで測定しました。

ReferencesCross, B. C. S. et al., Sci. Rep. 2016; 6(31782) Davies et al., Nature. 2002 Jun 27;417(6892):949-54 Flaherty et al., N. Engl. J. Med. 2010 Aug 26;363(9):809-19 Horlbeck, M. A. et al., eLife. 2016; 5 Huang et al., Cell. 2012 Nov 21;151(5):937-50 Konermann, S. et al., Nature. 2015;517(7536):583-8 Li et al., Genome Biol. 2014;15(12):554 Shalem et al., Science. 2014 Jan 3;343(6166):84-7 Whittaker et al., Cancer Discov. 2013 Mar;3(3):350-62

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