公益法人在宅医療助成 勇美記念財団 2015年度(前...

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0 公益法人在宅医療助成 勇美記念財団 2015年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書 口腔がん患者への生活支援体制の構築 ―質的研究による心理社会的問題点の明確化― 申請者:隅田好美 所属機関:大分大学大学院福祉社会科学研究科 提出年月日:2016 8 30

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公益法人在宅医療助成 勇美記念財団

2015年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書

口腔がん患者への生活支援体制の構築

―質的研究による心理社会的問題点の明確化―

申請者:隅田好美

所属機関:大分大学大学院福祉社会科学研究科

提出年月日:2016 年 8 月 30 日

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口腔がん患者への生活支援体制の構築

―質的研究による心理社会的問題点の明確化―

隅田好美 大分大学大学院福祉社会科学研究科

小林正治 新潟大学医歯学総合研究科組織再建口腔外科学分野

小島 拓 新潟大学医歯学総合研究科組織再建口腔外科学分野

山原幹正 敷戸グリーン歯科

Ⅰ.緒言

1.がん施策の推移

がんは 1981 年から死因の第1位を占め、2014 年のがん死病者は 368,103 人であった(が

ん研究振興財団 2015)。人口 10 万対死亡率は 293.5 人であり、総死亡の 28.9%を占めて

いる。がんの部位別の死亡数は男性では肺(24.0%)、胃(14.4%)、大腸(12.0%)、肝臓

(8.8%)の順に多く、女性では大腸(14.9%)、肺(14.0%)、胃(11.0%)、膵臓(10.2%)

の順であった。人口 10 万対死亡率において口腔・咽頭、食道、胃、喉頭、肺、膀胱では、

男性の死亡率が女性の 2 倍以上であった。

がんが国民の疾病による死亡の最大の原因となり、国民の生命及び健康にとって重大な

問題となっていることから、2006 年6月にがん対策基本法が成立し、翌年4月に施行され

た。がん対策基本法における基本的施策は①がんの予防及び早期発見の推進、②がん医療

の均てん化の促進等、③研究の推進等である。がん医療の均てん化の促進の1つとして、

がん患者の療養生活の質の維持向上が明記された。

がん対策基本法に基づき、2007 年にがん対策推進基本計画が策定され、2012 年に改訂

された。がん対策推進基本計画の全体目標は①がんによる死亡者の減少、②すべてのがん

患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の維持向上の 2 つであったが、2012 年

には③がんになっても安心して暮らせる社会の構築が追加され、治療から生活、社会へと

施策の対象範囲が広がっていった。また、重点的に取り組むべき課題として 2007 年には①

放射線療法及び化学療法の推進並びにこれらを専門的に行う医師等の育成、②治療の初期

段階からの緩和ケアの実施、③がん登録の推進の 3 つが挙げられ、2012 年には④働く世代

や小児へのがん対策の充実が追加された。

2014 年に策定されたがん研究 10 か年戦略では、「患者・社会と協働するがん研究」が目

標となった。このがん研究 10 か年戦略で取り上げられている分野の1つに、「充実したサ

バイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究」がある。サバイバーシップとは「診

断・治療後を生きている状態、あるいは生きていくプロセス全体を指す」と定義されてい

る(厚生労働省 2012)。この分野の研究の1つに、「がん患者とその家族の健康維持増進

と精神心理的、社会的問題に関する研究」があり、精神心理的不調を含めた問題と、その

原因や関連要因になり得る社会的要因に着目した研究が求められている。これらの精神心

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理的、社会的問題の支援は、治療の初期段階から実施することががん対策推進基本計画に

明記されている。

2.口腔がんの現状および先行研究

がん罹患数の 2015 年推計値は、約 982,100 人であり(男性約 56 万、女性約 42 万)、

がんの部位別罹患数では男性で前立腺(18%)、胃(16%)、肺(16%)、大腸(14%)、女

性では乳房(21%)、大腸(14%)、肺(10%)、胃(10%)の順に多い(がん研究振興財団

2015)。口腔・咽頭がんの罹患数の推計値は、男性が 13,000 人(男性のがん患者の 2%)で、

女性が 6,500 人(女性のがん患者の 2%)である。

2003 年から 10 年間に、新潟大学医歯学総合病院口腔再建外科を受診した口腔がん患者

259 例の発症部位は舌(37%)、下顎歯肉(21%)、頬粘膜(14%)の順であった。年齢は

60~70 歳代が全体の 6 割を占め、高齢な口腔がん患者が増加してきた。

口腔がんは一般的ながんと同様の問題点とともに、特有の問題が生じる。口腔がんは手

術後、摂食嚥下障害や構音障害、咀嚼障害などの口腔機能障害や顔貌の変形をきたす。ま

た、放射線治療により唾液分泌の低下、味覚異常、口腔内乾燥感などの副作用が生じる。

1990 年代には口腔がん患者の QOL 評価を行うための質問紙作成の研究が行われ(尾崎ら

1992,大村ら 1992,光藤ら 1992,苦瓜ら 1993)、摂食嚥下障害や構音障害などの口腔機能障

害の客観的評価と QOL の関連を検討する研究が行われた(砂川ら 1997)。口腔がんによる

味覚、咀嚼、嚥下、構音などの口腔機能や顔貌の変化が QOL に大きな影響を与えると報告

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されている(山本ら 2000)。また、山本らは口腔機能障害に加え、就労などの社会的変化

と、収入や支出の経済的変化が QOL の低下に関連していると報告している。(山本ら 2000)。

このような口腔機能障害や顔貌の変化により、QOL が低下するだけではなく、さまざまな

心理社会的問題も生じることから、告知直後から継続的な心理社会的支援が必要となる。

佐藤らは質的研究により、口腔機能障害や顔貌の変形による患者自身のボディイメージの

変化について明らかにし、ボディーイメージの変化したことへの援助の必要性を提唱して

いる(佐藤ら 2008)。

口腔がんの治療による直接的間接的な影響に対し、再建術や歯科補綴による形態や機能

の改善、摂食嚥下障害や構音障害へのリハビリテーションなど多職種による支援が行われ

ている。また、顔貌の変形による心理的苦痛には、リハビリメイクによる支援も行われて

いる。さらに、唾液分泌低下による 2 次的な合併症として多発性う蝕(むし歯)や進行性

歯周疾患があることから、がん治癒後もかかりつけ歯科医による継続的な口腔管理が重要

となる。前述したがん対策推進基本計画(2012)の目標の1つに、チーム医療の推進があ

る。このように口腔がん患者の QOL 向上のためには、多職種の連携によるチーム医療を行

う必要がある。

また、がん対策推進基本計画(2012)の目標には、療養生活の維持向上や安心して暮ら

せる社会の構築がある。山本らが述べたように、口腔がん患者の QOL の低下に、社会的・

経済的問題も関連している(山本ら 2000)。また、口腔がん発症後に自殺した事例を検討

した尾崎らの研究では、無歯顎のため食生活が流動食に制限されていた高齢者が、がんに

よる疼痛などで抑うつ傾向になったことに加え、山村で生活保護を受けながら独り暮らし

をおくっていたことで孤立に陥ったことが自殺の要因だと推察していた。高齢者は生に対

する執着心が希薄になることから、苦痛を乗り越えて生きようとする気力の低下が自殺願

望を助長していたと考察していた(尾崎ら 1995)。このような家庭環境や社会環境が要因

として含まれる患者の支援は、医療職だけでは限界がある。口腔がん患者の心理面や生活

問題に関する支援には、医療ソーシャルワーカー(以下「MSW」)を含めた多職種連携が必

要だといわれている(南 2000,17 立石ら 2008,村上ら 2012 )。しかし、口腔がん患者にお

けるチーム医療に、MSW が介入することは少ない。がん対策推進基本計画(2012)には、

就労問題を含めた社会的な問題に対する支援も含まれていることからも、MSW による口腔

がん患者への心理社会的支援体制を構築する必要がある。

Kleinman によると「疾患(disease)」とは治療者の視点から見た問題であり、生物医学

的モデルにより病いや障害を構成する(Kleinman=1996:4-37)。一方、「病い(illness)」

は本質的な経験や患うことの経験であり、患者や家族、社会の人々がどのように症状や能

力低下を認識しているか、患者が苦悩や問題にどのように対処すれば良いと判断している

かということも含まれる」と述べている。「疾患」としての生物医学的モデルの研究は数多

くなされ、医学的な進歩に貢献してきた。しかし。口腔がん患者の生活を支えるための研

究や心理社会的な支援する「病い」に関する研究が多いとは言い難い。Kleinman は「一個

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人の病いがもつ特有の意味を検討することで、苦悩を増幅させる悪循環を断ち切ることが

可能である」と述べている。質的研究により口腔がん患者が抱える特有の問題点を詳細に

明らかにすることは、口腔がん患者の療養生活の維持向上や安心して暮らせる社会の構築

するために急務である。

そこで、本研究では、口腔がん患者の告知後から手術後までの心理社会的苦痛の変化お

よび生活上の問題点を詳細に明らかにする。さらに、安心して暮らせる社会の構築するた

めの大学病院およびかかりつけ歯科医院の役割と連携体制の構築について検討する。

Ⅱ.研究方法

1.対象者

新潟大学医歯学総合病院口腔再建外科で手術を実施した口腔がん患者 7名とした(表 1)。

対象者の選択に関して、確定診断後から手術後の問題点を明らかにする必要があることか

ら、術後管理のために新潟大学に来院している患者とした。本研究はパイロットスタディ

ーとして行った。そのため、患者の性別、年齢、発生部位、術後の期間は特に限定しなか

った。研究協力者へは研究の主旨と個人情報の取り扱い,研究への協力を途中で拒否でき

ること等を文章に添って説明し同意を得た。

表 1 研究対象者

(性別) 年齢 傷病名 備考 手術実施

A(女) 80 歳代 左側上顎悪性腫瘍 2007 年

B(男) 50 歳代 右側口底癌 術前化学療法、術後放射線療法 2008 年

C(女) 40 歳代 右側下顎腫瘍 術後化学療法 2011 年

D(女) 60 歳代 下顎歯肉癌 2014 年

E(女) 70 歳代 右下下顎歯肉癌 2011 年

F(男) 60 歳代 両側下顎腫瘍 2012 年

G(女) 60 歳代 左側舌癌 2015 年

2.調査方法

本研究は 2 段階より成り立っている。第 1 段階として、心理社会的苦痛の変化および生

活上の問題点を明らかにした。第 2 段階では第 1 段階の結果をもとに、大学病院と地域の

かかりつけ歯科医院の役割と連携体制の構築について検討した。

第 1 段階の研究は、口腔がん患者へ質的研究を行った。質的研究とはほとんど知られて

いない研究領域や特別な問題、状況の研究に有効であり、主観的な視点に着目し相互行為

の形成とプロセスに焦点を当てる研究手法である(Uwe=2002:11)。口腔がん患者の QOL に

関する先行研究はほとんどが質問紙による研究であった。質問紙による調査では、研究者

が考えた質問項目以外の内容を知ることはできない。質的研究は研究対象者が語ったこと

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に即して、人間の認識、行為、感情、それらに関する要因や条件などを検討していく(木下

2003:158)。そのため、口腔がん患者の心理社会的苦痛の変化や生活上の問題点を詳細に明

らかにするには有効な研究手法である。

インタビューは、インタビューガイドに沿って半構造化面接を行った。インタビューの

内容は 1.疾患について知ったきっかけと医師からの説明(病状告知、手術の説明を含む)

2.病状告知から現在までの苦しかったことや大変だったこと(身体的、精神的、社会的苦

痛と日常生活)、3.悩んでいるときの心の支え、である。インタビューは対象者の許可を

得て録音し、逐語録を作成した。

分析はグラウンデッドセオリーの技法に基づいて行った。グランデッドセオリーは、デ

-タに密着した分析から独自の概念をつくる技法である。人間行動の予測と説明に優れて

いるとともに、実践的活用のための理論であることから、教育、看護、医療、介護、臨床

心理士などのヒューマン・サービス領域における研究に適しているといわれている(木下

2007)。グラウンデッドセオリーを用いた分析では、相互作用とプロセスに焦点を当てる(木

下 1999:158)。プロセスは一連の行為をつなぐことを意味する(Strauss=1999:149)。一連

の流れをつなぐ作業とは、「時間の経過の中で行為/相互行為に影響を与えている条件の変

化」と「その変化への応答としての行為/相互行為」や「行為/相互行為が行われた結果、

起こった帰結」をつなぐ作業である(Strauss=1999:156 )。変化とは、行為に十分影響を

及ぼすほどの「条件の変化」である。

本研究では最初に逐語録のデータを時系列に並べ、データの意味を現わすコード名をつ

けた後、類似のコードを集めてカテゴリーに分類した。その中で、口腔がんの確定診断、

手術等の治療、術後の生活、転移という日常生活に大きな転機をもたらす「条件の変化」

による患者の行為とその帰結について分析した。カテゴリーごとに条件、文脈、行為/相互

行為の戦略、帰結に配慮してサブカテゴリーを関連づけることで、それぞれの条件がもた

らした心理社会的苦痛や生活上の問題点の変化のプロセスと社会的相互作用について詳細

に検討した。

第 2 段階では第 1 段階の分析結果をもとに、病状告知後からの歯科専門職や他の医療・

福祉専門職による包括的・継続的な心理社会的支援、生活支援について検討した。特に、

大学病院とかかりつけ歯科医院の役割と連携体制を検討した。

なお、本研究は聞き取り調査を実施する新潟大学歯学部倫理委員会の承認を得た(承認

番号 27-R14-8-11)。

Ⅲ.研究結果

告知後から手術後の変化のプロセスについて分析するなかで、時系列の変化として<確

定診断までのプロセス><治療と心理的変化><転移に対する心理状態><生活への影響

(口腔関係)><生活への影響(全般)>のカテゴリーが見いだされた。変化をもたらし

た社会的相互作用については、<疾患に対する他者との相互作用(家族との関係)><疾患

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に対する他者との相互作用(他者との関係)><疾患に対する他者との相互作用(同病者の

影響)><治療後の地域の医療機関との関係>が見いだされた。また、時間を超えたカテ

ゴリーとして<病いへの思い><心の支え>があった。

各カテゴリーの分析結果を記載するに当たり、研究協力者の言葉は「 」で記載し、筆

者が作成した言葉は< >で示している。また、逐語録の部分では読みやすくするために

「あの」「え~」などの言葉は省略し、( )で筆者が言葉を補った

1.口腔がん患者の心理社会的問題点

1)確定診断までのプロセス

大学病院における確定診断までの流れに関するカテゴリーは、<治癒しない口腔内の症

状><地域の歯科医院・病院から大学病院の紹介><地域の病院で悪性だと説明><大学

病院受診後直ぐに入院><大学病院での告知>であった。

<治癒しない口腔内の症状>に対し、内科や耳鼻咽喉科を含む複数の医療施設の受診す

る場合と、受診しないで放置する場合があった。また、家族がインターネットで情報収集

し、がんを疑う人もいた。しかし、家族からの「がんかもしれない」という情報を本人は

認めたくなかったという(G)。<地域の歯科医院・病院から大学病院の紹介>について、「大

学病院は敷居が高い(A)」と感じていた人もいたが地域の病院やかかりつけ歯科医の紹介

治癒しない口腔内の症状

確定診断までのプロセス

家族との告知

確定診断の受け取り方大学病院での告知

大学病院受診後直ぐに入院

大学病院受診前に確信・覚悟地域の病院で悪性だと説明

地域の歯科医院・病院から大学病院の紹介

歯への過信から放置複数の医療施設の受診 インターネットの情報で口腔がんを疑う

ショック

受け止められない・ 認めたくない気持ち

後悔・すぐに受診しなかったことへの後悔・生活習慣が招いたことだという後悔

大変な病気だという認識がない

平静な気持ち

覚悟していたとおりの告知

「どうして私が」という思い↑

・家族で初めてのがん患者

不安でいっぱい

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があったため、外来の予約や入院まで早く進んだと感じていた。

本人が「がん」と認識するのは、地域の病院やかかりつけ歯科医師の言動により<大学

病院受診前に確信・覚悟>する場合と、<大学病院での告知>で初めて知る場合があった。

また、改善しない症状について<インターネット情報でがんを疑う>場合もあった。大学

病院での<確定診断の受け取り方>は、がんと認識した時期により異なっていた。大学病

院で初めてがんと認識した人には、<受け止められない・認めたくない気持ち><ショッ

ク><不安でいっぱい><「どうして私が」という思い>があった。「良くないもの」とい

う認識をもって大学病院を受診した人は、<覚悟していたとおりの告知><大変な病気だ

という認識がない><平穏な気持ち>であった。がんと診断されたときに<後悔>する人

もいた。後悔には自覚症状を認識して放置したことへの後悔と、喫煙などの生活習慣が招

いたことだという後悔があった。

2)治療と心理的変化

確定診断後、治療(外科的処置、化学療法、放射療法)、定期検診の流れによる心理的変

化は下記の通りであった。

確定診断後、<予定していた行事を中止するかどうかの選択>が必要になった。また、

疾患に対する<情報収集>を行っていた。情報には知り合いの医療職からの情報やインフ

ォームドコンセントの用紙をしっかり読むなど<医療的根拠がある情報>と、食事療法や

民間療法などの<医学的根拠がない情報>があり、<医学的根拠がない情報>では、<情

報による混乱>が生じていた。さまざまな情報や経験から<疾患に対する自分なりの分析

>を行い、<ストレスが疾患に影響>していると考えたり(AEG)、<家族にがん患者がい

ることでの覚悟>をしていた人がいた。家族にがん経験者がいる C は「必ずいつかは(が

んに)なると思っていた」といい、「ステージもまだ1だったので、いよいよ来たなぐら

いで、あんまりその時のショックがなかったですね」という。

最回の<手術に対する気持ち>には、<疾患を受け止める前に手術><手術の覚悟><

悪いところを徹底的に取る><手術は主治医に任せる受動的気持ち><手術に対する安心

感>があった。

入院と手術が急に決まった人は「まだ起こっていることが現実的じゃないというか受け

止められてないような感じで(C)」と、<疾患を受け止める前に手術>となった。<手術

の覚悟>では、禁酒禁煙を開始した人(B)や、入院前に「ある程度の(自宅の)身の回り

は整理します(B)」という人がいた。

手術では<悪いところを徹底的に取る>ことを望んでいたが、<手術は主治医に任せる

受動的気持ち>であった。「俺がどうのこうの言うより、先生がやりたいようにどうぞって

(B)」という人や、医学的知識がないため必要な判断は主治医に任せる(E)、「(説明を)

聞いてもしょうがないなっていう(ことが)、たぶん一番大きかったかもしれません(G)」

という人もいた。しかし、詳細な説明を受けることや手術前に主治医の顔を見ることが、

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<手術に対する安心感>に繋がっていた。

<手術直後の身体的苦痛>には、痰や発熱、傷への恐怖で食べられないことや、<固定

除去や抜糸の恐怖>があった。しかし、手術前に手術後の同病者の経過を見ていたことで

<傷は時間とともに改善するという思い>があった。また、「命に別状はない」という主治

医の説明で、手術後は「がん」よりも<身体的変化に向き合う時間>となった。

手術前後の<化学療法><放射線療法>の<副作用の苦痛>の強さには個人差があった。

また、苦痛に対する不安は今の状態だけではなく、「髪の毛が全部なくなるのではないか」

など、これから生じる<副作用の恐怖>を感じている人もいた。

手術後の<定期的な検査>で 5 年近く<術後の良好な経過>をたどった人は、「(問題は)

当然ないだろうなと思っている(F)」「絶対大丈夫だって自分で思っている(E)」など、検

査後の不安はなく、<術後の経過が良いことへの安心感・喜び>を感じていた。また、主

治医から結果が良好だと伝えられることで、「やっぱりそれが嬉しくて、また頑張っていか

なければと思って」と、生活の励みとなっている人がいた。

定期的な検査 術後の良好な経過

放射線療法

手術直後の身体的苦痛

手術に対する気持ち

予定していた行事を中止するかどうかの選択

情報収集

治療と心理的変化

化学療法

身体的変化に向き合う時間

傷は時間ともに改善するとう思い

固定除去・抜糸の恐怖

副作用の恐怖副作用の苦痛

情報による混乱

医学的根拠がある情報

医学的根拠がない情報

術後の経過が良いことへの安心感・喜び

確定診断後

治療

定期健診

ストレスが疾患に影響

家族にがん患者がいることでの覚悟

疾患に対する自分なりの分析

手術の覚悟

疾患を受け止める前に手術

手術に対する安心感

悪いところを徹底的に取る

手術は主治医に任せる受動的気持ち・主治医が良いと思う方法に任せる

・任せるので知識は必要ない

初回の手術

病院での同病者の存在

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再び転移することへの不安5年経過後も病から解放されない気持ち

転移がないことでの精神的な安定

転移に対する心理状態

転移の心配

転移

再発への覚悟

転移後の治療経過が良好なことでの精神的な安定

5年経過するまでは安心できない気持ち

5年説への思い

がんの怖さを再認識

冷静さの欠如

転移により死と向きあう

告知以上のショック

転移後の手術の真剣な受け止め

大変な病気だという認識がない

平静な気持ち

覚悟していたとおりの告知

確定診断

初回の手術

悪いところを徹底的に取る

手術に対する安心感

手術は主治医に任せる受動的気持ち・主治医が良いと思う方法に任せる

・任せるので知識は必要ない→すぐにサイン

3)転移に対する心理状態

<転移の心配>では、<5 年説への思い>と<再び転移することへの不安>があった。5

年生存率が患者にとっての1つのキーワードとなり、手術後<5 年経過するまでは安心で

きない気持ち>があった。また、手術後 5 年以上経過した人も<5 年経過後も病いから解

放されない気持ち>を持ち続けていた。しかし、転移の不安を抱えながらも<転移がない

ことでの精神的な安定>を感じていた。

<転移>により病いの捉え方が大きく変化した。確定診断時では<大変な病気だという

認識がない><覚悟していたとおりの告知><平穏な気持ち>と感じていた人も、<がん

の怖さの再認識><告知以上のショック><冷静さの欠如>を感じた。C は「最初にがん

になった(ときは)死が自分に降りかかっているっていう感じじゃなくて」という。しか

し、リンパ節への転移により「もっと(他に)転移すれば、ほんとに死と向き合わなくち

ゃいけないんだろう(C)」と<転移により死と向き合う>ようになった。

初回の手術では<悪いところを徹底的に取る>ことで<手術に対する安心感>を感じ

たり、医学的知識がないことで<手術は主治医に任せる受動的気持ち>であった人も、転

移の手術時には「手術の説明を良く聞いた(G)」と<転移後の手術の真剣な受け止め>を

していた。手術後も<再発への覚悟>をしていたが、<転移後の治療経過が良好なことで

精神的な安定>を取り戻していた。

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2.口腔がん患者の生活の問題点

1)生活への影響(口腔関係)

口腔機能に関する問題は、<義歯による影響><話すことへの影響><食生活への影響

><術後の後遺症>に分類できた。<義歯の影響>は長期間話すことや食生活への影響に

も関連していた。

<話すことへの影響>では、舌の機能や歯牙の状態等で<話しにくい言葉の存在>があ

った。手術後の<言語機能訓練>では、「汗びっしょりになるほど、言葉が出てこない(D)」

という。退院後、家族や他者との会話で<聞き取れない経験>を繰り返すことで、「人と話

をするのがだんだん、だんだん億劫になる(F)」「精神的にやっぱり大変(D)」など<話す

ことの消極的・精神的苦痛>が生じていた。しかし、1 年ぐらいで話すことを躊躇しなくな

ってきた(D)という人や、理解してもらえない言葉の経験を積み重ねることで、その言葉

を別な言葉に置き換える(F)など、<他の言葉への置き換え>を行う人がいた。

<食生活への影響>では、<食べるものの変化>と<食べることへの苦労>があった。

摂食嚥下機能評価後、必要な人は<摂食嚥下リハビリ>を受けていた。また、食形態が変

化した人は、退院後の生活で<入院中の食事を参考>にしていた。

<食べるものの変化>は食形態の変化に加え、味覚、臭い、硬さ、温度など多岐にわた

っていた。B は手術後食べることができたが、放射線治療後から嚥下困難となった。また、

臭いやリンゴなどを咬む音に「変な刺激」を感じたり、調味料に強い刺激を感じるため、

調味料を一切入れないで食べるという。D は熱い物を食べることができず、食物の刺激を

強く感じるため、調理中に味見ができなくなったことが不便だという。F は「健常者と比

べると不便はありますね。こんな声だし、話もできないし、おいしいものは食べられない

し」といい、流動食しか食べることができないことについて、「噛んで初めて、これはおい

しいなと思うんじゃないかな」という。

<食べることへの苦労>では、義歯が長期間安定しなかったことでの苦労や、他の身体

の状態と比較して食べる苦労が大きいというものがあった。Dは「至って手足は動くから、

もう家で何かをしているには全然不都合なことはない」という状態でも、下顎が無歯顎に

なったことで食べるものに苦労するという。

しかし、食べることができる食材や形態が限定されている人も<食へのこだわり>をも

っていた。F は体に良いという決まった食材を毎日摂取することで、風邪を引くことがな

いという。「たぶん、そのおかげだと。食生活しかないと思いますね。食べ物でしょ。この

体内は(F)」という。

食事への影響が大きい人の中で、<食べることができる環境なのにおいしい物が食べら

れない悔しさ>について語った人がいた。B は流動食の生活になり、「本当に大病して、何

もしないでおいしいもの食べたいなあと思うけどなあ。今それが一番かなあ。今それが一

番ですね。あれも食べたいこれも食べたい、(中略)お金もそういうのに費やせることがで

きるような環境になったのにおいしいものは食べられない」という。

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<手術前の食生活の継続>をしている人は、「全然不便はない(E)」「(生活が)負担じゃ

なかったので良かった(C)」と感じていた。C は入院中に咬むことができなくなった同病

者と出会ったことで<食生活に変化がないありがたさ>を教えられたという。しかし、転

移して歯を喪失することで、食べることができなくなるのだという不安も感じていた。

その他の<術後の後遺症>として<顔面への影響><口腔乾燥><感覚が無い・しびれ

><マスクが放せない><体力低下><肩が上がりにくい>が挙げられ、それらが日常生

活だけではなく仕事や対人関係に影響していた。

自営業を継続している D は、<口腔乾燥>が強いことで仕事中に咳込むことがあり、続

けて話すと舌がもつれるという。そのため、水を飲みながら会話を続けている。「多少お客

さんとお話したりするので、(口が)乾き気味になりますね。それが一番ちょっとあれかな」

という。また、A は「精神的に辛いこと」という質問に対し、鼻水がずっとでることや就

寝時に義歯を外すと唾液が流出するため、1 日中<マスクが放せない>と答えた。夏もマ

スクを取ることができない。「しょうがないと思っているけど、できれば夏くらい取りたい

けど」という。

<感覚が無い・しびれ>で、E は口唇の感覚が無いため、食事中に口からこぼれ出るこ

とが不便だという。友人と食事をするときには小さな手鏡を側に置き、口唇から食物がこ

ぼれていないか確認しながら食べるという。「それが今、困るといえば困るけども慣れたと

義歯による影響

術後の後遺症

生活への影響(口腔関係)

話すことへの影響言語機能訓練

他の言葉への置き換え

話すことの消極化・精神的苦痛

聞き取れない経験

話しにくい言葉の存在

食生活への影響

入院中の食事を参考

食生活に変化がないありがたさ

手術前の食生活の継続

食べることへの苦労

食べるものの変化 摂食嚥下リハビリ

食へのこだわり

食べることができる環境なのに、おいしい物が食べられない悔しさ

*味見ができない不便さ*放射線治療後の嚥下困難*臭い *味覚*硬さ *温度

義歯が合わないことでの苦労

身体的状態に比較した食べることの苦労

マスクが放せない顔面への影響

肩が上がりにくい

体力低下口腔乾燥

感覚が無い・しびれ

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いえば慣れたけど」と感じていた。

技術職としての仕事を継続している人は、仕事への復帰後に<体力の低下>を感じ、長

時間作業を継続することが困難になっていた。<肩が上がりにくい>という人は、日常生

活で高いところの物を取るときには不便を感じていたが、幸い仕事には影響がなかった

(B,G)。

2)生活への影響(全般)

生活への影響として<経済的な影響><仕事への影響><抗がん剤による日常生活への

影響><自己管理><困ったことはない>があった。

治療費が高いため、保険に加入していなければ<経済的な影響>が大きくなる。C は仕

事を継続しているが、がんの治療費の支出が増え、さらに離職による収入が減少すると「二

重に苦しくなる」と考えていた。

<仕事への影響>では、<職場への迷惑><自営業の心配><手術後の仕事への影響>

があった。<職場への迷惑>では、長期間休むことや、何度も入院することで同僚達に迷

惑をかけるという思いがあった。<発病による退職>では、がん発症後にアルバイトを辞

めた人がいた。定年後に発病した B は、退職後に発症して良かったと感じていた。さらに、

「会社さ辞めてから病気が分かって良かったの」と他者からも言われたという。仕事を継

続している C は、1 年間に 2 回、合計 4 ヶ月休職したことに対して「職場に迷惑をかけて

いるっていう、そのなんか精神的な感じが一番気になるとこでしたね」という。C の職場

は<職場へのカミングアウトと協力>体制が組まれた職場であった。最初にがんであるこ

とを職場に伝え、他の職員からの協力を得られているという。それでも、退院の翌日から

出勤するなど<退院後すぐに職場復帰>していた。また、自分は恵まれた職場だが他の人

がそうだとは限らないため、多くの職場での<休みやすい職場環境の必要性>を感じてい

た。

<自営業の心配>では、G は自営業では入院のために収入が少なくなったとしても保障

がないという。娘と自営業を営んでいたため、お店を継続することはできた。しかし、「お

客さんが減りますよね。当然ね」といい、「日常生活で一番変わって、困ったことはそれ(お

店)ですかね。当然売り上げも下がりますしね」という。

<発病後の仕事への影響>では、抗がん剤による影響、体力低下による影響、手術の後

遺症による影響などがあった。仕事を継続しながら抗がん剤を服用している場合、仕事を

休むほどではないが、常に体のだるさを感じていた。技術職では体力が低下したことで、

長時間作業を継続することが難しくなった。接客業では話すことへの影響があった。

しかし、仕事は<病気以外に打ち込む時間>でもあった。「滅入っている暇はない(F)」

「仕事があるから気がまぎれてる(G)」など病気のことを忘れることができる時間であっ

た。既婚者である C は、仕事と家庭の両立のため時間に追われ「仕事が始まれば病気と向

き合っている時間もない」といい、それが「仕事のありがたみ」であり、前向きになれた

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要因の1つだと考えていた。また、B は体力低下により長時間作業を継続することはでき

ないが、「昔から行ってきた仕事」を継続することは、「自分の趣味や好きなことをやっ

ていられるから今もこうしている」と考えていた。

<抗がん剤による日常生活への影響>では、転移から 1 年間抗がん剤を服用していた C

は、常に疲れや体のだるさを感じていたが、服用が終わったことで「普通に生活してます」

という。

口腔がん発症後、体力維持のための努力や頻繁な口腔ケアなどの<自己管理>を行って

いた。F は家庭菜園は体力的に大変だが、「体の機能的にはいいんじゃないかなと」退院

後すぐに再開していた。また、健康的な食材を食べるなど食生活にこだわったり、腫瘍マ

ーカーが上がらないように健康管理をするなど<健康への努力>をしていた。発病前のス

トレスが発症の要因の1つだと考えていた G は「自己管理がなっていない」と考え、スト

レスを溜めないというのではなく、ストレスと感じないようしようと考えていた。「自分

がストレスと思えばストレスだし、同じことでもストレスと感じない人もいますもんね」

という。また、主治医から「食べたり笑ったりお話したりそれがリハビリだ」と説明を受

けたことで、友人と話したり食事に行くことを楽しんだり(E)、大きな声で新聞を読む(F)

など<自主的リハビリ>を行っていた。

口腔がんの治療により日常生活への影響が大きい人がいる一方で、<困ったことはない

健康への努力 自主的リハビリ

生活への影響(全般)

抗がん剤による日常生活への影響

自己管理

困ったことはない

休みやすい職場環境の必要性

発病後の仕事への影響

病気以外に打ち込む時間

自営業の心配

職場へのカミングアウトと協力退院後直ぐに職場復帰発病による退職

職場への迷惑仕事への影響*仕事を休むことでの迷惑*退職後に発病:迷惑をかけなくて良かったという思い

*病気のことから離れられる時間

*抗がん剤の影響*体力低下による影響*手術の後遺症におる影響

経済的な影響

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>という人もいる。手術直後は身体的な支障があったが、「後はあんまり生活にも、支障

はなかったですね」という人もいた。障害の程度によって、手術後の生活は「全然普通(E)」

と感じている人もいる。

3.疾患に対する他者との相互作用

1)家族との関係

家族は主治医からの病状や手術の説明を本人と一緒に聞き、「もう死ぬんじゃないか(と

いう)ぐらい心配(G)」するなど<家族の悩み・心配><本人以上の落ち込み>があった。

そのような家族に対し、本人は<家族に迷惑をかけたという思い>をもっていた。迷惑に

は家族を不安にさせたという精神的な迷惑と、本人に合わせた食事を別に作ってくれる(A)

などの実質的な支援に対する思いがあった。

家族のひとりががんを発症することは、家族にとって大きな出来事である。そのような

問題に対し<別々に悩む家族>と<問題を共有する家族>に分かれた。

<別々に悩む家族>では、<普段通りの接し方の家族><腫れ物に触れるような接し方

の家族><病気について触れない両者>があった。本人も<家族に悩みを打ち明けない>

状態であった。本人は病いに関する悩みを配偶者や子ども、本人の兄弟姉妹にも話すこと

はなく「自分の中でそういうことは片づけなきゃないと思った(D)」「人に話して相談にの

ったというのは、ありません(F)」という。また<病気について触れない両者>では、「私

もなるべく(病いのことについて)触れないようにして、普通にしていました(D)」とい

う。しかし、本人や家族の「普通」は意識して普通に振る舞うことであり、「ごく普通の生

活を続けようと。平常心で続けようと思ったんです。でも、もう人には話をしないで普通

の生活を続けようって(D)」と語られていた。

<問題を共有する家族>には<家族と相談><家族・親戚との楽しみ><家族が支え>

があった。<家族と相談>には、確定診断後から今後のことを話しあった家族や、配偶者

家族に迷惑をかけたという思い

本人以上の落ち込み

家族の悩み・心配 別々に悩む家族

問題を共有する家族

病気について触れない両者

家族に悩みを打ち明けない

普段通りの接し方の家族

腫れ物に触れる接し方の家族

家族が支え

家族・親族との楽しみ

家族と相談

疾患に対する他者との相互作用(家族との関係)

*家族の精神的支*通院の送迎*家族の協力

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や子どもだけではなく、本人の兄弟姉妹にもすぐに話したという人もいた。また、<家族・

親戚との楽しみ>がストレスの解消となり、「今はストレスもない(E)」という人もいた。

<家族が支え>には、仕事を休んで受診に付き添ってくれるなど<通院の送迎>や、本人

に合わせた食事を作ったり、本人に変わって家事をしてくれるなどの<家族の協力>と<

家族の精神的支え>があった。しかし、最初に述べたようにこのような家族の協力を、<

家族に迷惑をかけたという思い>で捉えている人もいた。

2)他者との関係

他者との関係では、病いのことを告げる<他者へのアウトカム>と家族以外の<他者に

は告げない>があった。病いについて告げる他者には職場や友人などがある。<友人との

関係の継続>には、病いのことを告げることで友人関係を継続する場合と、普通の生活を

送るために告げないという選択があった。

<他者へのアウトカム>では、入院時に職場の協力を得るために、職場の上司や同僚に

口腔がんであると告げていた(C)。また、E は「がんなんていう普通の病気だわっていう

感じ」「なんにも隠さないで平気」と考え、友人に口腔がんについて告げたという。一方、

D は<他者には告げない>ことで「ごく普通の生活を続けようと。平常心で続けよう」と

考えた。他者に告げない理由の1つに<同情されたくない>という思いもあった。B は「自

分の病気なんて人さ教えるもんでもねえ」とい、良い面でも悪い面でも「特別扱いされる

のは嫌だ」と考えていた。<遠い他者には忘れられる存在>では、B はがんだと伝えた人

から「そうだったか?」と言われた経験をしていた。

<食生活の変化による社会関係への影響>では、<義歯を外すことへの抵抗感><外出へ

疾患に対する他者との相互作用(他者との関係)

食生活の変化による社会関係への影響

遠い他者には忘れられる存在

同情されたくない

他者には告げない他者へのアウトカム

友人との関係の継続

社会関係の減少

外出への影響

社会関係の減少→親しい友人、同病者との付き合いの継続

(職場・旅行先)義歯を外すことへの抵抗感

普通の生活を続けたい

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の影響><社会関係の減少>があった。40 歳代の C は普通に食事をすることが可能だっ

たが、<義歯を外すことへの抵抗感>が強く、職場での口腔ケアは人がいないところで行

っていた。また、友人との旅行中、就寝時に義歯を外して洗面所に置くことに、女性とし

ての抵抗感があったという。

D は固形物が食べられないために外食が難しくなり、外出時には半日で帰宅できる行動

しか取らないという。しかし、「全然不便じゃなくって。どこか悪くて思うように動けない

とか歩けない人から比べれば、まだ幸せな方かなと思ってますけど」という。しかし、「食

べるものが限定されるようになった(D)」ことが、<社会関係の減少>に繋がる場合もあ

った。同窓会や飲み会など大勢の人が集まるところへは、「他の出席者が気を遣う(B)」た

め参加しないという(B,D)。また、B は家族とも一緒に食事をしていなかった。しかし、

普通の食事が困難になった人でも、親しい友人や同病者との付き合いは継続していた。

3)同病者との関係

同病者との関係には<同病者からの情報><悩んでいるときの救い><同病者の状態を

見た経験><病状が重い同病者との比較>があり、同病者との出会いにはメリットとデメ

リットがあった。また、退院後も<同病者との付き合いの継続>をする人がいた。

入院中に同室者の病いの経験を聞くことや、明るい同病者の存在が、心の支えの1つに

なっていた。「最初(病院に)入ったばっかりの時は、本当に泣いてばっかりいたんだけど、

それが吹っ飛びました(A)」という。入院中に<同病者の状態を見た経験>には、<同じ

状態になることへの恐怖>などネガティブな経験と<快復への予想と決意>などポジティ

ブな経験があった。<同じ状態になることへの恐怖>には、<放射線治療への恐怖><食

べられなくなることへの恐怖><転移への恐怖>があった。D はお茶を飲むことさえでき

ない放射線治療中の同病者を見ることで、自分には耐えられないという気持ちが強く「(放

射線治療を)したくないという方が強くて、怖い、怖い、怖いというだけですかね」と、

放射線治療を拒否した。C は咬むことができなくなった同病者に、食事中「なんでも食べ

られていいねえ」と何度も言われたことで、自分の再発をして歯牙を喪失すると食べられ

なくなるという不安があった。しかし、「自分は何でも食べられるし、そのありがたみを

そのおばあちゃんから教えられた」という。また、転移した同病者と話すことで、自分も

そうなるのかと感じていた(B、E)。

ポジティブな経験としては、手術を終えた同病者が回復する姿を見て、D は「1 日 1 日楽

になる」「みんなが我慢して一生懸命に耐えているのを見てるから、特に私もあんな風に

して頑張らなきゃなって思う気持ちだけでしたから」と考えた。

<病状が重い同病者との比較>には<自分は軽度だという実感><動けることのあり

がたさを実感><重度の他の疾患との比較><食べられることのありがたさを実感><転

移した同病者との比較><亡くなった同病者との比較>があった。テレビなどでがん患者

の話を聞くことで<自分は軽度だという実感>し、手術により食事に制限がある人も動く

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ことが困難な人と比較して<動けることのありがたさを実感>していた。70 歳代の E は他

の疾患で足腰が痛くて動くことが困難な友人に比べ、「1時間でもその辺を歩くのは平気」

「元気、元気」と<動けることのありがたさを実感>していた。また、病院で動くことが

できない人に出会うなど、<重度の他の疾患との比較>により、食事が難しいだけで、不

自由はない、自分が軽度だと考えていた(B、E、G)。

入院中に同病者と情報交換をしていた人は、退院後も<同病者との付き合いの継続>を

していた。しかし、同病者の状態が悪化し手紙の返事も困難となり付き合いが途切れてし

まったり(A)、何度も転移したり化学療法の話を聞くことで、「私はそこまでいかないん

だなあ」と感じていた(D)。

4)治療後の地域の医療機関との関係

手術後の治療の継続について、<大学病院とかかり付け医との連携><放射線治療後の

地域の歯科医院での治療が困難><地域で専門治療が受けられる病院の必要性>があった。

手術後、近隣の歯科医院で口腔ケアの定期検診をおこない大学病院でがんに関する定期

検診を受けている E は、歯科医師同士が連携していることで、すごく安心しているという。

しかし、近隣の歯科医師と大学病院の連携がない場合もある。B は放射線治療を行ってい

たことで、近隣の歯科医院での治療が困難だといわれ、大学病院で歯科治療も行うために、

県外から片道 2 時間かけて通院していた。

同病者との付き合いの継続

病状が重い同病者との比較

同病者の状態を見た経験

悩んでいるときの救い

同病者からの情報

快復への予想と決意

同じ状態になることへの恐怖

疾患に対する他者との相互作用(同病者の影響)

*放射線治療への恐怖*食べられなくなることへの不安*転移への不安

手術のための入院時

重度の他の疾患との比較

食べられることのありがたさを実感

転移した同病者との比較

(食事が困難)動けることのありがたさを実感

自分は軽度だという実感

亡くなった同病者との比較

*私はそうならないという思い

入院時の同室者

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新潟大学に時間をかけて県外から通う患者も少なくない。地域の病院と大学病院で連携

し手術後の管理を行う場合もあった。住居地に専門的治療や管理を行える病院がないため

に、大学病院だけで術後管理を行う場合もあった。常勤の仕事をしている人は、毎月受診

のために 1 日休みを取る必要があった。そのため<地域で専門治療が受けられる病院の必

要性>について語っていた。また、現在 80 歳代の A は、体力低下により県外からの受診

が困難になるのではないかと心配していた。通院を継続するために毎日歩いて脚を鍛えて

いるという。

4.口腔がんへの思いと心の支え

1)病への思い

がんに罹患したことで<生に対する考え>が変化し、<今を見つめた生き方>をしてい

た。<生に対する考え>では死生観に関する語りが多く、<命を落としたくないという気

持ち><死を覚悟><生きていることの実感>があった。

<命を落としたくないという気持ち>には「歯で命を落としたくない(A)」「絶対死に

たくない(E)」というものがあった。E はがんに罹患する前には「いつ死んでもいい」と

言っていたが、「いつ死んでもいいって、おこがましいこと言えないなっていうのが現在の

気持ち」だという。そして「ちょっと長生きしたいなって。みんなにお世話になりながら」

と考えていた。

D は入院時には<死を覚悟>し、「取りあえず取っておいた物」を「片付けなければいけ

ないと思ったのかもしれない」と、家族が不在中に家の整理を始めたという。また、D は

手術のリスクの説明を聞いていたことで、麻酔から覚めたときには、「ああ、生きてた。ま

たここから始まるんだな」と<生きていることの実感>があるという。さらに、「夜寝て、

朝目が覚めたときに『ああ、生きてた。また今日から始まる』ってそういう感覚が、毎日

いつまで通えるかという不安

放射線治療後の地域の歯科医院での治療が困難

大学病院とかかり付け医との連携

地域で専門的治療が受けられる病院の必要性

治療後の地域の医療機関との関係

*遠方からの受診*高齢*地域に治療ができる病院がない

*かかり付け医での口腔ケアを継続(3ヶ月健診)*かかり付け医と大学病院主治医の連携→安心

*遠方の大学病院にて治療

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毎日続いて 15 年経った」という。

<今を見つめた生き方>では、D は「自分の都合の良いように生きてきているから(中

略)自分自身を中心にして」といい、「毎日生活してその食事以外は困ったことはないなあ

っ」という。B は手術に対して「いい場合は治るかもしれんし、運が悪い場合はまあ…」

といい、「余分な生活、もらってると思って」と表現した。また、大学病院で重度の患者に

出会ったことで「自分も…そのくらいだ(食事ができない)。別にそんなに不自由も何もな

い」というが、「ほんとうのこというと、今置かれた状態をずっと維持しよう」と考えてい

た。

2)心の支え

がん罹患後の心の支えは、<自分自身><快復と仕事と性格><みんなに親切にしても

らう>であった。<自分自身>が心の支えだと答えた人は、仕事や日常生活などで問題が

生じたときの<ストレスコーピング特性の継続による疾患への対処>が関係していた。ス

トレスコーピングには<人に相談しないで自分自身で対処><悩まないようにしてきた>

<ポジティブな志向>があった。

B は「心の支えは何ですか」という質問に「自分自身」と答えた。他の人に告げても「他

人事」なので、「自分で処理するしかない」「悪い物なら悪い物でもしょうがねえと思うし

かねえ」という。管理職であった F は、職場では自分で判断し部下に指示をだしてきた。

そのため、<人に相談しないで自分自身で対処>することが身についていた。「自分で経験

したことを踏まえて、これから起きることをいろいろ考えて一番良いこと」を「頭の中で

シュミレーション繰り返し」一番良いと思われることを選択してきた。そのため、口腔が

んに関する悩みを家族に話すことはなかったという。また、B も F も<悩まないようにし

てきた>という。F は今までも「自分で考えたことなんで、くよくよしたって意味がない」

「あんまり悩みはしない」「それ以上はもう頑張ったってあんまり意味がない」と考えてい

た。

<ポジティブな志向>で、楽天的な性格だという E は、手術後の日常生活に「ストレス

的な物」があるが、「いろんな人がいるから面白いのよ、世の中はって感じだから、人にな

生きていることの実感

死を覚悟

命を落としたくないという気持ち

病いへの思い

今を見つめた生き方

生に対する考え

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んか言われても」「がんなんていう普通の病気だわ」という。F は今までの人生でも「なる

ようにしかならない」「もがいても仕方がない」と考えて対処してきた。また、「そこまで

言うなら頑張ろう」とも考えてきた。口腔がんについては「手術したときには精一杯、身

体的な、気持ち的な持ちようは、自分は頑張る」ので、「徹底的に病巣は取ってくれと。私

も今何歳なんで、何歳まで生きたいんで、だから(主治医に)お願いした」という。

Cは「心の支えは」という質問に対し<快復と仕事と性格>と答えた。ポジティブで「物

事を悪く考えない性格」であり、仕事で嫌なことがあっても、「明日になればちょっと違

うかもしれない」と考えて生活してきたという。そのため、がんが発症したときも「たぶ

ん、それとたぶん同じような感じだと思うんですけど、今考えれば」といい、「このまま

自分はたぶん死ぬことはないだろうって、なぜか漠然と思えたんです」という。しかし、

転移したときには「死のことも考えました」という。転移の手術後、「その人の生命力っ

てすごいな」と感じ、退院後生活で順調に快復を感じることで心配が薄れた。「体が回復

していったのと合わせて、精神的にも前向きになれていったかなっていう感じはしますね」

という。<快復と仕事と性格>の相互作用で「みんなうまい方にいって、自然と精神的に

も楽になっていったのかなっていう気はします」という。

<みんなに親切にしてもらう>では、Aは「子供もみんな大切にしてくれるし、あの何

にも言うことないけど、後は自分が養生すればいいんでしょう」という。

Ⅳ.考察

1.病状告知

がん対策推進基本計画(2012)では、がんと診断された時から緩和ケアを行い、全ての

がん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上を目標としている。がん患者

の精神的支援の第一歩は告知である。不適切な方法で告知をされた場合、患者は病気を受

け入れることができなかったり、医師に対して不信感をもつといわれている(Girgis

al.1995,Baile et al.2000,Vincenzo et al.1995)。インフォームドコンセントが提唱され、

自分自身

心の支え

快復と仕事と性格

みんなに親切にしてもらう

悩まないようにしてきた

ポジティブな志向

人に相談しないで自分自身で対処

ストレスコーピング特性の継続による疾患への対処

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患者自身が治療方法を選択するための支援を重視するようになった。Buckman は「悪い知

らせ」を伝える告知(Breaking the bad news)の「悪い知らせ」とは「患者の将来への見

通しを根底から否定的に変えてしまうもの」と定義し、「悪い知らせによる衝撃の大きさ

は、患者が期待している願望や計画と医学的現状との隔たりの大きさに比例する」という

( Buckman 1992=2000:13)。

本研究では、大学病院での確定診断および手術の説明について、しっかりと主治医がイ

ンフォームドコンセントを行っている。1950~1960 年代には「悪い知らせ」を患者に伝える

べきでないという考えが主流であり、がんと診断した医師の 9 割が患者に告げないとして

いた(Baile et al.2000)。1970 年代には 9 割の医師が、基本的には患者に伝えると考えて

いた。Girgis はがんの告知を「告知しない(Nondisclosure)モデル」「全てを話す(Full

Disclosure)モデル」「個々に合わせた告知(Individualized Disclosure)モデル」の 3

つに分類した(Girgis et :1995)。がんの告知は「告知をしないモデル」から「個々に合わ

せた告知」へと変化しており、「伝えるか否か」から「いつ伝えるか」「いかに情報を分

かち合うか」という議論に変化している( Buckman 1992=2000:9)。

告知では医師が提供する情報と、患者が必要と考えている情報の範囲が一致することが

重要である。1992 年、Buckman はがん告知のコンセンサスとして、患者の感情的な反応に

応答する SPIKES の 6 つのステップを示した(Buckman 1992=2000)。①面談をする環境を

整える(Setting) ②患者が自分の病気をどの程度理解しているかを知る(Perception)

③病気の診断、予後、詳細について患者がどの程度知りたいかを理解する(Invitation)

④患者の希望や反応に合わせて情報を共有する(整理と教育)(Knowledge) ⑤患者の感

情に応答する(Emotions) ⑥計画を立てて完了すること(Strategy Summary)である。1995

年に Girgis は構造化された告知に関する医学教育が必要であると指摘し、がん告知のガイ

ドラインを提唱した。1996 年に日本でもガイドラインが作成された。

患者は医師の説明が遠回しであったり、言葉が専門的すぎること、情報が多すぎること、

医師が患者のニードに適切に答えていないことを不満だと感じ、励ましや希望、安心を与

えてくれる告知を望んでいるといわれている(Girgis et:1995,Okamuraet et al:1998)。

本研究では、患者が必要と考えている情報の範囲が一致することで、精神的な安定につな

がっていた。大学病院受診前からがんと認識していた人は、確定診断時に<大変な病気だ

という認識がない><平穏な気持ち>と感じていた。手術の説明についても、患者の「生

き続けたい」というニーズや<悪いところを徹底的に取る>という主治医への期待と主治

医の説明が一致したことから、<手術に対する安心感>に繋がっていたと推察される。ま

た、手術後に主治医から「命に別状はない」と説明されたことで精神的に安定し、自分自

身の快復力に生命力の凄さを感じ、精神的に前向きになれた人もいた。主治医から定期検

診の結果が良好だと伝えられることで、「頑張っていかなければならない」と前向きな気持

ちになった人もいた。しかし、自分の意思を強く主張しないという日本の文化的思考が強

いことや主治医への信頼感、さらに、医学的知識がないことで<手術は主治医に任せる受

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動的気持ち>であった。

大学病院の確定診断時に初めてがんと認識した人は、主治医の説明にショックを受け、

不安を抱えていた。また、確定診断時には平穏な気持ちであった人も、転移したという説

明にはショックを受け冷静さを失っていた。主治医は「転移」という患者の「生き続けた

い」というニーズに反する説明をすることになる。2001 年の調査では、日本の口腔外科医

の 48.9%が口腔がんの告知を積極的に行っていた(立石ら 2001)。しかし、63.6%が告知

後の精神的サポート体制が不十分だと考えていた。がんの確定診断時だけではなく、転移、

化学療養や放射線療法の副作用、再手術により障害が重度化することなど、さまざまな段

階で精神的苦痛が生じる。そのため、診断時からの継続的な精神的ケアを行う体制が必要

だといえる。

がん発症後に悩んでいたときの心の支えが<自分自身>だと答えた人は、過去の人生に

おいて問題が生じたときの対処方法で、がんに関する悩みも解決しようとしていた。また、

家族同士での口腔がんへの向き合い方も、今までの家族の関係性や家族間での問題対処方

法と一致していた。Rudnick は筋萎縮性側索硬化症患者のパーソナリティーのアセスメン

トに基づいた告知方法を検討していた。パーソナリティーのタイプによって、対処や防御

メカニズムが特徴づけられ、診断を受けたときの患者の対処方法は、今までの生活で生じ

た問題への対処方法と一致していたと報告している(Rudnick 2000)。

口腔がん患者への精神的支援は、確定診断後から継続的に各段階に合わせて行うことが

重要である。さらに、精神的支援には、患者本人と家族のストレスコーピング特性にそっ

たした支援が有効だと考える。

2.口腔機能障害と QOL

Quality of Life は「生命の質」や「生活の質」と訳される。<生に対する考え>とし

て、転移の不安と向き合いながら<命を落としたくないという気持ち><死を覚悟>につ

いて語られた。また、口腔機能障害や顔面の変形により発症前の生活の質や社会関係が変

化した人もいた。口腔がん患者の QOL の向上のための支援では「生命の質」と「生活の質」

の両方を視野に入れる必要がある。

QOL の定義は統一された概念がないが、主観的側面と客観的側面があり、多次元に捉え

なければならないということは、多くの研究者のコンセンサスを得ている( Lawton

1991=1998,Brown 1997=2002,WHO 2002)。口腔がん患者の QOL に関する研究では、質問紙に

よる患者の主観的な QOL 評価と、言語機能や摂食嚥下機能(苦瓜ら 1993,砂川ら 1997,山本

ら 2000)、進行度および治療方法(砂川ら 1997)などの専門職による客観的評価との関連

について検討している。

WHO は QOL を「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関

わる自分自身の人生の状態についての認識」と定義し、身体的領域、心理的領域、自立の

レベル、社会的関係、生活環境、精神性/宗教/信念の 6 つの領域について客観的な認識

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と主観的な自己申告から測定しようとした(WHO 2002)。それぞれの下位項目として、①身

体的側面:痛みと不快、活力と疲労、睡眠と休養、②心理的側面:積極的感情、思考・学

習・記憶・集中力、自己評価、ボディーイメージと外見、否定的感情、③自立のレベル:

移動能力、日常生活能力、薬物治療や治療への依存、仕事の能力、④社会的関係:人間関

係、ソーシャルサポート、性行為、⑤生活環境:安全と治安、居住環境、経済的資源、医

療社会福祉サービスの利便性と質、新しい情報と技術の獲得の機会、余暇活動への参加と

機会、物理的環境(人工、騒音、交通、気候)、交通機関、⑥精神性/宗教/信念:スピ

リチュアリティーを挙げている。本研究では口腔がん患者の確定診断後から現在に至る心

理社会的苦痛や生活上の問題点が、WHO が提唱する QOL の 6 つの領域での要因に、相互に

関連するプロセスを見いだすことができた。

顔貌の変形や歯牙や舌の一部喪失によるボディーイメージの変化は、「心理的領域」「自

立のレベル」の日常生活能力(食事)や仕事の能力(コミュニケーション)、「社会的関

係」、「生活環境」に影響する。佐藤らが行った研究では、顔貌の変化の辛さ、摂食障害

の辛さとともに、「人目が気になる」ということが語られ、そのことが外出の減少に繋がっ

ていた(佐藤ら 2008)。西倉は人がお互いを顔で認識することや、顔が言語的・非言語的

コミュニケーションにおいても大きな役割を担うことから、人が共存する場では顔が関心

の焦点になるという。つまり、直接顔貌の変化に対して他者から何か言われなくても、視

線で傷つくことが多い(西倉 2009:14)。本研究では調査時に顔貌の変化や傷跡が見える人

もいたが、「人目が気になる」という悩みについて語られなかった。しかし、手術後は「が

ん」よりも<身体的変化に向き合う時間>となったと語った人がいた。

「苦しかったり大変だったこと」という質問に対し、<話すことへの影響><食生活へ

の影響>が多く語られた。口腔機能低下により食事や会話に支障をきたすことで、QOL が

低下するといわれている(苦瓜ら 1993,砂川ら 1997)。<食べるものの変化>は食形態の

変化以外にも、味覚、臭い、硬さ、温度など多岐にわたっていた。摂食嚥下機能や咀嚼機

能の低下により「生活環境」が大きく変化した人もいる。外食が困難になり半日で帰宅で

きる外出しかしなくなったなど日常生活の制限が生じたり、家族と同じ物が食べられない

ために夫婦別々に食事をしている人がいた。さらに、<食生活への影響>では、食形態が

変化したことで、友人との食事を避けるなど「社会的関係」の減少に繋がっていた。

「心理的領域」では<食べることができる環境なのにおいしい物が食べられない悔しさ

>というネガティブな感情が語られた。瀧田らは口腔がん患者へのケアでは「『おいしさの

感覚』・嗜好性の充足から表出される陽性情動とポジティブな精神神経疫学的相関への期待

は大きい」と述べている(瀧田ら 2002)。また、50~70 歳の一般高齢者への終末期医療に

関するアンケートで、「食べられなくなれば人生終わり」「食べる喜びは最後の特権」など、

「食べる喜びの人生における根源的意義を示唆するコメント」が記述されていたと報告し

ている。口腔がん患者の自殺の理由について検討した研究では、流動食しか食べられない

ことに加え、社会環境や生活環境の要因により孤独に陥ったことでがん患者の心理的苦痛

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が助長され、自殺に至ったと報告している(尾崎ら 1995)。食生活の変化によるネガティ

ブな心理的影響は、生きる意欲の低下に繋がる可能性が高いといえる。

しかし、本研究では自分が食べることができる範囲の食材で、健康志向に配慮した<食

へのこだわり>を持っている人がいた。また、大きく食生活が変化した人も、自分より重

度の口腔がん患者や他の疾患により寝たきりとなっている人と比較して、<動けることの

ありがたさを実感>していた。一方、手術後も手術前の食生活を継続することができた人

は、食事が困難になった同病者に出会うことで<食生活に変化がないありがたさ>を感じ

ると同時に、再発して歯を喪失することで食べられなくなるのだという不安を感じていた。

<話すことへの影響>では、<話しにくい言葉の存在>により、退院後には家族や他者

との会話で<聞き取れない経験>をしていた。<聞き取れない経験>を繰り返すことが<

話すことの消極的・精神的苦痛>となり、「社会的関係」に影響を及ぼしていた。

また、<話すことへの影響>は、「自立レベル(仕事の能力)」にも影響を及ぼす。会話

が困難になることで離職を余儀なくされる場合や、話すことが少なくてもいい部署への配

置換えが必要となる場合もある。本研究では常勤で就労していた人は、食事や会話に大き

な影響がなかったため仕事を継続していた。また、自営業を継続している人に、接客中に

話し続けることが大変だと感じている人もいた。仕事への影響は、<話すことへの影響>

だけではなく、手術や化学療法の影響による体力低下や体のだるさを感じることで、仕事

を長時間継続することが困難になるなど仕事に支障をきたしたり、肩が上がりにくくなる

ことやスムーズに会話できないなど身体的機能面での影響があった。

がん対策推進基本計画(2012)には就労を含めた社会的問題への支援が含まれているが、

必ずしも全ての相談員が就労に関する知識や情報を十分に持ち合わせているとは限らな

い。そのため、「MSW がおこなうがん患者への就労支援相談のマニュアル」が作成された。

しかし、厚生労働省研究班によると、がんに罹患した勤労者の 30%が依願退職し、4%が

解雇されている。口腔がんの StageⅢ・Ⅳでは手術前に就労をしていた人の 53.8%が身体的

原因により退職しており(山本ら 2000)、一般的ながんと比較して高い割合である。仕事

を継続している人だけではなく、発症後にアルバイトを離職した人や、退職後に発症した

人、「職場に迷惑をかける」ということが語られていた。そのことが、話すことが困難にな

った口腔がん患者の高い離職率に繋がっている要因だと推察される。

「自立レベル」の領域である労働能力や趣味、精神的余裕の自己評価が低い人の QOL が

低いという報告もある(苦瓜ら 1993)。また、口腔がん患者の心理面や生活問題に関する

支援に MSW を含めた多職種連携が必要だといわれている(南 2000,立石ら 2001,村上ら

2012)。現在、新潟大学医歯学総合病院の口腔がん患者に対する MSW の介入は、終末期の

緩和ケアが必要な場合の転院支援や、胃瘻造設により在宅での管理が必要となった場合の

在宅療養環境を整えるための支援であり、就労支援は行われていない。現代の日本社会で

は、一度退職すると再就職が困難である。MSW の業務指針には入院、入院外を問わず、生

活と療養の状況から生ずる心理的・社会的問題の解決、社会復帰、経済的問題の解決に関

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する援助が定められている。就労支援が必要な口腔がん患者には、MSW と連携することで

離職前からの早期からの介入が重要だといえる。

仕事を継続している人にとって、仕事は<病気以外に打ち込む時間>であり、前向きに

なった要因の1つであった。自分のできる範囲で仕事を継続することは「趣味」だと表現

する人もいた。佐藤らは「障害と共に生きるための工夫や技術を身に付けて適応」する手

段の1つとして、「自分の仕事や役割を遂行することで自分の存在意義が確認できる」こと

だと考察している(佐藤ら 2008)。つまり、仕事を継続することで、自分の存在意義を確

認し生きがいを感じる可能性が高くなるといえる。このようなことからも、就労支援は経

済的安定を支える「生活の質」の支援に加え、「生命の質」の支援だともいえる。口腔がん

の治療を行いながら仕事を継続することで経済的な安定を図るとともに、生きがいを持っ

て生きるという「生命の質」の支援を行うためにも、MSW を含めた連携体制の構築が必要

だと考える。

3.社会的相互作用と QOL

1)家族および友人との関係

ソーシャルワークでは、クライエントの問題を捉えるときに「人と環境の相互作用」を

重視し、「人と環境の相互作用」を調整することで問題解決を図る。環境には物理的環境と

社会的環境があり、社会的環境には人間環境と社会環境がある(Garmain1992:234)。人間

環境には家族や近隣、ネットワーク、地域などがあり、社会環境には政治・社会体制、経済

的環境、法・行政的環境、文化的環境がある(Garmain1992:234)。先に述べたがん対策基本

法やがん対策推進基本計画などのがん施策は、社会環境の1つである。ここでは確定診断

後からの治療のプロセスにける心理的変化と生活問題に影響を与えた「人間環境」につい

て検討する。「人間環境」には口腔がん発症前から関係性を継続している家族、友人、職場

の関係者などと、発症後に関係性が生じた同病者がある。医療関係者は発症前から関係性

を継続しているかかりつけ医と、発症後に関係性を結んだ地域の病院や大学病院の医療関

係者がある。

家族や友人などの関係は、発症前の関係が大きく影響する。家族のひとりががんを発症

するという大きな出来事に対して、問題を共有する家族と共有しない家族がある。問題を

共有する家族では、家族とこれからのことについて話しあったり、家族に悩みを相談する

ことで、患者にとって家族が心理的な支えとなっていた。また、家族との楽しみがストレ

ス解消となっていた。問題を共有しない家族は、本人と家族が別々に悩んでいた。しかし、

問題を共有しない家族もお互いがお互いを気遣う結果として、病気のことに触れないよう

に努めたり、普段通りに接していた。また、通院の送迎などの実質的な協力を行っていた。

発症前に良好な関係性の友人とは、発症後も付き合いを継続していた。その際、友人に

病いのことを告げる場合と告げない場合がある。病いについて告げない理由には、普通の

生活を送るために告げないというものや、「特別扱いされるのは嫌だ」というものがあった。

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また、食生活が変化したことで同窓会には参加しなくなった人もあり、それほど親しいと

はいえない知人との関係性が途絶え、社会関係が減少することもある。

ソーシャルワーカーはクライエントのニーズとストレングスを理解するために社会生

活歴(social history)をアセスメントする(Johnson and Yanca=2004:170-81)。社会生

活歴をアセスメントする目的は、クライエントと環境の相互作用の理解、クライエントの

独自性の理解、クライエントの充足されていないニーズを充足する可能性のある方法を見

いだすことである。問題に対する対処や防御メカニズムが特徴づけられ、診断を受けたと

きの対処方法は、今までの生活で生じた問題への対処方法と一致している(Rudnick 2000)。

発症前の口腔がん患者と他者の人間関係の築き方を理解することで、患者個々の口腔がん

による問題の独自性を理解することが可能となる。また、過去の問題に対する対象方法を

知ることで、個々の患者に即した口腔がんによりニーズを充足するための方法を見いだす

可能性が高くなる。

2)同病者との関係

がん発症後に関係性が生じた同病者の存在は、患者の病いに対する考え方に大きな影響

を与えていた。入院中の同病者からの情報は、直接話すことで情報を得るだけではなく、

同病者の手術後の闘病生活を見ることで得た情報もある。患者会などのセルフヘルプグル

ープの特徴には、「共通の体験をもつ当事者」ということがある(Katz 1993=1997,石川 1998,

岡 1999)。入院中の明るい同病者の存在が、心の支えになったという人がいた。セルフグ

ループではお互いの問題点を共有することによって信頼関係が生まれ、メンバーが結びつ

いているといわれている(Katz 1993=1997,中田 2000)。そのため、手術後口腔機能障害の

影響により友人との交流が少なくなった人も、同病者と情報交換を継続している。また、

手術を終えた同病者が回復する姿を見ていたことで、手術直後に自分も頑張らなければい

けないと考えている人もいた。Katz はセルフヘルプグループでの経験は、「もしその人が

出来るのなら、わたしも出来る」というように、他者のうまくいった対処法を観察するこ

とによって、自分も同じ対処方法を身につけることが出来ると感じるという( Katz

1993=1997:46)。

<食生活への影響><話すことへの影響>について多くを語っていた人も、自分より重

症な同病者と比較することで、自分の病いや障害は軽度だと表現することもあった。しか

し、重症の同病者の影響はポジティブなものだけではなく、ネガティブなものもあった。

重度の同病者の闘病生活を身近で見ていることで、<食べられなくなることへの恐怖><

転移への恐怖>など<同じ状態になることへの恐怖>を感じている場合もあった。<放射

線治療への恐怖>から放射線治療を受けないという自己決定をした人もいた。

Borkman はセルフヘルプグループで得ることが出来る知識を体験的知識(Experiential

Knowledge)とよび、専門的知識(Professional Knowlege)や素人の知識(Lay Knowledge)

と区別している(Borkman 1976)。体験的知識は同じ問題をもつ人々の経験を抽出したもの

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で、核心をついた間違いのないものだという。同病者と問題を共有することで、「ひとりで

はない」と感じ前向きになれるだけではなく、療養生活の具体的な情報を得ることができ

る。本研究でも同病者との交流により前向きに考えることができたり、他の社会関係が減

少しても同病者との関係を継続している。そのため、同病者との関係を構築することは専

門職としての大切な支援の 1 つである。しかし、口腔がん患者では疾患の状態も治療方法

も個人差が大きく、ネガティブな影響も少なくない。専門職として同病者との関係に関す

る支援について今後検討していく必要があると考える。

4.大学病院およびかかりつけ歯科医院の連携体制の構築について

1)地域の医療機関との連携

聞き取り調査による結果を踏まえ、大学病院およびかかりつけ歯科医院の連携について

検討した。

2005 年ごろより地域包括ケア体制の整備が進められ、「社会保障制度改革国民会議報告

書」(2013 年)では、「病院完結型」から「地域完結型」の医療に変わらざるを得ないと指

摘し、医療機能の分化・連携や地域包括ケアシステムの構築など医療・介護の提供体制の

再構築に取り組んでいくことが必要だと提言している。2012 年に策定されたがん対策推進

基本計画には、地域の医療・介護サービスの提供体制構築が、がん医療の個別目標として

掲げられている。口腔がんの手術後、近隣のかかりつけ歯科医院で口腔ケアの定期検診を

おこない、大学病院でがんに関する定期検診を受けている人がいた。歯科医師同士が連携

していることで安心していた。佐藤らは口腔機能障害や顔貌の変形による患者自身のボデ

ィイメージの変化について明らかにし、ボディーイメージの変化したことへの援助の必要

性を提唱している(佐藤ら 2008)。その援助ために病院・在宅・地域が連携するシステム作

りが必要だと述べている。

医療提供体制については、がん患者がその居住する地域にかかわらず、等しく科学的根

拠に基づく適切ながん医療を受けることができるよう拠点病院の整備が進められてきた。

2012 年4月現在、397 拠点病院が整備され、2次医療圏に対する拠点病院の整備率は 68%

となっている。新潟県には都道府県がん診療連携拠点病院以外に、地域がん診療連携拠点

病院が 7 か所ある。確定診断を受けるまでの流れは、<大学病院とかかり付け医との連携

>により行われていた。しかし、手術後は地域で専門的な治療を受けることが困難である

ことから、がんの定期健診に加え、歯科治療も新潟大学で行っている人もいた。遠方から

通っている高齢者は、いつまで通い続けられるのかという不安を持っていた。また、遠方

から受診し、なおかつ常勤で就労している人も<地域で専門治療が受けられる病院の必要

性>を感じていた。

口腔がんの手術後、唾液分泌低下による 2 次的な合併症として多発性う蝕(むし歯)や

進行性歯周疾患があることから、がん治癒後もかかりつけ歯科医による継続的な口腔管理

が重要となる。新潟大学では大学で再発のリスク管理をする場合が多い。頻繁に大学病院

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への受診が困難な場合には、開業医ではなく地域の病院に依頼するほうが多い。新潟県は

雪のため大学病院への受診が困難となる地域もある。そのような地域では口腔管理を地域

の病院が行い、半年に 1 度程度、大学病院でがんの再発の管理を行っているが、全ての地

域に連携可能な病院があるとは言い難い現状である。また、口腔がんの手術や化学療法、

放射線療法後の歯科治療については、すべての歯科医院が対応できるということではない

現状である。新潟県歯科医師会では、がん患者の治療を行う歯科医師の登録制度を開始し

たが、積極的な歯科医師が多いとはいえない。

がん治療における医科歯科連携を促進するため、2012 年の診療報酬改定で周術期口腔機

能管理が施設された。2013 年周術期口腔管理を実施している歯科医療機関は、医科歯科併

設病院で 62.9%、歯科診療所で 35.0%だったが、歯科を併設していない医療機関ではわず

か 6.7%であった(厚生労働省 2013a)。歯科医療機関で周術期口腔ケアを実施していてい

ない理由で一番大きいものは「医療機関からの依頼がない」であった。一方、医療機関が

実施していない理由で多いのは、「どのような医療機関が周術期口腔機能管理を実施できる

のか情報がない」「連携を行う際の歯科医師の受け入れ体制が確保できない」が多かった。

2014 年の保険診療改定で、医科歯科連携を促進するために、医療機関が口腔内の管理が

必要であると判断した患者に関する情報提供を行うことで算定できる歯科医療機関連携加

算や、周術期口腔機能管理を実施した患者に対する手術料の加算として、周術期口腔機能

管理後手術加算が新設された。しかし、新潟大学では手術前日に周術期口腔機能管理の依

頼がくることがあるという現状である。新潟大学では 2015 年に入退院センターが設置さ

れ、入院中の必要なサポートを行うために入院前の生活状況について聞いたり、看護師や

管理栄養士、医療ソーシャルワーカなど多職種によるサポートを実施している。今後、周

術期口腔機能管理を促進するためにも、入退院センターが窓口となり、がんにより入院の

予定が決まった時点で、院内の歯科や歯科医院へ周術期口腔機能管理を依頼するシステづ

くりが必要だと考えている。併せて周術期口腔管理を地域の歯科医師会との協力体制の構

築が必要となる。

歯科を併設していない病院では、周術期口腔機能管理を依頼するにあたり、歯周疾患や

他の口腔に関するトラブルを抱えている患者のスクーリニングをどうするかという問題が

生じる。大分県では歯科のないリハビリテーション病院で歯科衛生士が雇用され、入院患

者の口腔管理や歯科治療に際し、歯科医師会等とのコーディネーターの役割を担っている

病院が約 10 施設ある。入院時に患者の口腔内のアセスメントを歯科衛生士が行い、必要な

場合は歯科医師へ訪問診療を依頼する。歯科を併設していない病院で周術期口腔機能管理

を促進する上で、歯科衛生士の役割が大きいと考える。しかし、現在は歯科を併設してい

ない病院では、歯科衛生士が口腔管理のコーディネートの役割を担っても、診療報酬など

の病院の収入には繋がらない。口腔機能管理により在院日数の削減効果が統計学的に有意

であり、その効果は 10%以上だといわれている(厚生労働省 2013b)ことから、今後、歯

科を併設していない病院での歯科衛生士の採用が増え、周術期における医科歯科連携が推

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進されることを期待したい。

2)高齢者口腔がん患者の地域包括ケア

日本の高齢化率が 14%を超え高齢社会を迎えた頃より、高齢者や認知症患者の口腔がん

の治療の選択に関する研究が見られ(柳澤ら 1994,中山ら 1995,山田ら 1997)、2015 年に

は 90 歳以上の超高齢者への外科的治療の選択に関する研究も報告されている(坂本ら

2015)。新潟大学においても高齢者の口腔がん患者が増加傾向にある。高齢者の治療の選

択には、手術による合併症のリスクや廃用症候群のリスク、快復力の減退など身体的要因

以外にも、家族の協力体制(柳澤ら 1994,山田ら 1997)や経済状態(柳澤ら 1994,中山ら

1995)、交通等の社会的要因(柳澤ら 1994)が受診の遅れや術後管理に影響している。ま

た、身体的ストレス、入院による環境の変化が精神面のストレスとなるとなり、精神障害

や認知症発症の危険性につても考慮する必要があるといわれている(大島ら 1998)。

高齢や認知症などのために口腔内の自己管理や食事管理が困難になることも多い。ま

た、日常生活で調理や、交通が不便な病院への送迎など、具体的な家族の協力体制が必要

となる。しかし、老々介護のため家族介護力が低下している場合も少なくない。特に後期

高齢者の口腔がん治療では医療的な管理に加え、介護体制を構築することで在宅療養生活

を支援する必要がある。その際、訪問診療を行うかかりつけ歯科医師と大学病院の連携が

必要となるだけではなく、かかりつけ歯科医師の役割として、他のサービス提供者にも、

介護を行う際の口腔がんに伴う配慮について周知することが重要となる。

また、本研究では、食生活の変化により社会関係が減少していた。高齢者は閉じこもり

によりフレイルになり、全身の介護状態が悪化する可能性が高い。さらに、一人暮らしの

高齢者が食べることの制限が社会的孤独となり、自殺の要因の1つとなっていたケースも

報告されている(尾崎ら 1995)。このようなことから、高齢者の口腔がん患者の退院時に

は ADL の低下が見られなくても、地域のかかり付け歯科医や地域包括支援センターに情報

提供することで、見守り体制を構築することが必要な場合もあると考える。

Ⅴ.最後に

本研究では、口腔がん患者の告知後から手術後までの心理社会的苦痛の変化および生活

上の問題点を詳細に明らかにしてきた。口腔がんの発症部位、治療内容、口腔機能障害の

重症度により、生活上の問題点が異なるだけではなく、患者本人の社会背景やこれまでの

問題対処方法が影響していた。本研究は口腔がん患者への心理的社会的支援のパイロット

研究として実施した。今後、口腔がん患者の支援を行うための研究を進めるにあたり、口

腔機能障害の重症度別に検討する必要があると考える。

さらに、安心して暮らせる社会の構築するための大学病院およびかかりつけ歯科医院の

役割と連携体制の構築には、地域の特性を考慮して検討していく必要があると考える。

なお、研究は公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の助成による。

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(参考資料)大分におけるリハビリテーション病院との医科歯科連携

歯科を併設していない湯布院厚生年金病院(現JCHO湯布院病院)において、2011 年

から医科歯科連携部が設置され、常勤の歯科衛生士が2名在籍している。入院時に歯科衛

生士が患者の口腔内の評価を行い、歯科治療が必要な場合には歯科医師会に連絡を行う。

歯科医師会の登録歯科医が訪問診療を行う。患者が退院したのちには、各地域歯科医師会

が横の連携を取り、継続した在宅でのフォローを行う。

歯科衛生士が入院時に ROAG(Revised Oral Assessment Guide)を使用して口腔のアセ

スメントを行う。ROAG には、声、嚥下、口唇、歯・義歯、粘膜、歯肉、舌、唾液(口腔乾

燥)について、1度から3度の3段階で評価し、点数が低いほど口腔内の状態は良い。9

点以上の人は訪問診療を要請し、8点以下の場合には病院の歯科衛生士が日常的な口腔ケ

アで対応するという。客観的なシステムによりここで振り分けるのが重要となる。歯科医

師が訪問診療を行う場合には、病院の言語聴覚士や看護師が立ち会い、患者に関する情報

交換を行いながら治療を進める。退院時には ROAG のほとんどの項目で改善が見られた。

8

入 院

口腔アセスメントROAG

歯科衛生士介入指示(口腔ケア)(日常的口腔ケア)

訪問歯科診療

ゆふ医科歯科連携システム

ROAG ≧9

ROAG ≦8 yes

no

歯科検診診療判断 yes

no

医科歯科連携介入フロー

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個人の歯科医師が対応するだけでは、限界があるが、歯科医師会の複数の登録歯科医が

対応することで迅速な支援が可能となる。また、地域の中核病院と地元の歯科医師会が連

携し、さらに各地域の医科歯科連携が進むことで、退院後、患者が大分県のどの地域に居

住していたとしても、在宅療養の支援体制も継続が可能となる。

大鶴歯科医師会 56

地域歯科医師会とリハビリ病院との連携(イメージ)

地域歯科医師会大鶴歯科医師会

地域リハ病院湯布院厚生年金病院

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リハビリテーション病院および在宅の訪問診療で歯科医師が担う役割として咀嚼機能の

回復、嚥下・発語機能の回復、口腔ケアだと考える。歯科医師会による連携体制を構築す

ることで、研修会や勉強会を行い、歯科医師のレベルアップを図ることも行ってきた。病

院や患者からの要請を受けて対応するのではなく、どのようなことへも対応できるように

準備しておくことが重要となる

大鶴歯科医師会 58

医科歯科連携の肝(キモ)3つの輪

咀嚼機能の回復

口腔ケア嚥下・発語機能の回復

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研究を終えた感想

本研究を終え、病状告知後からの緩和ケアの重要性を再認識した。がん患者へは身体的、

精神的、社会的、スピリチュアルのトータルペインに対する支援が重視されているが、口

腔がん患者において社会的苦痛やスピリチュアルペインに対する支援が行われているとは

言い難い現状であった。この研究結果を歯科専門職および社会福祉専門職に伝えることで、

口腔がん患者の心理社会的支援を連携して行う必要性を伝えていきたいと考える。

さらに、本研究をパイロット研究として実施したことで、口腔がん患者の心理社会的支

援について検討していくことの必要性が認められ、今年度の科研費が採択された(「口腔が

ん患者のアイデンティティの再構築をめざして―QOL の変化と要因の明確化―」)。2016 年

度~2019 年度の 3 年間で、告知直後の患者への追跡調査を実施し、口腔がん患者の心理社

会的支援について、がん発症からの時期別、口腔機能障害別、重症度別の問題点を詳細に

分析し、多職種連携による支援を検討していく予定である。

本研究方法は他の歯科領域の疾患にも応用することが可能であり、アイデンティティの

支援を視野に入れたパイオニアの研究となりうると考える。