経営者とマネジメントレビューiso...

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38 3 月号で,品質マネジメントとは品質に関して達成し たいこと(品質方針・品質目標)の実現のための組織の 統御であること,そして 4 月号ではマネジメントの過程 とは畢竟(ひっきょう)Plan-Control-Review のサイク ルを回すことであると書いた。マネジメントレビューは, その「マネジメントのサイクル」の最後の部分にあたる 活動である。品質方針や品質目標はトップだけが出すも のではなく,組織の各部門,各階層に「展開されていく べきもの」である。たとえば「わが部門の営業方針は… …」とか「当係の品質目標は……」といった具合に。と いうことは,品質マネジメントは組織の各部門・各階層 でそれぞれに,かつ相互に連携を保ちながら行われるべ き行為であり,したがってマネジメントレビューも組織 の各部門・各階層でそれぞれに,かつ連携して行われる べき活動だということになる。 規格(ISO 9001)は「必要最低限のことしか要求しな い主義」だから,マネジメントレビューに関しても「経 営者の責任」で実施すべき範囲のことしか要求していな い。しかし品質マネジメントシステムの有効性を本気で 追求しようと思う組織であれば,それだけですませるわ けにいかないことは明白である。 「ブック・レビュー」が書評であれば,「マネジメン ト・レビュー」はマネジメント評,つまりこれまで行っ てきた一連のマネジメントの経過を振り返り,客観的に その成果や問題点を考察する行為である。進歩の源泉は 自由で創造的な思考と試行にあるが,そのすべてが好ま しい結果をもたらすものではないから適当な機会にその 価値や可能性を評価して,望ましいものは残し,望まし くないものはより適切な代替手段を探索することが必要 になる。それが「レビュー」である。 たとえば,昨年 6 件発生させた不良品を今年は 3 件以 下にとどめたいというのが品質目標であったとする。昨 年は 2 ヵ月であった「平均不良品発生間隔」を今年は倍 4 ヵ月に延長しなければならない。そのために何をす るかが今年の「Plan」であり「Control」である。とこ ろが,3 ヵ月目で不良品が出てしまったとすると,これ はどうしても「Review」が必要な場面ということになる。 レビューを有効に実施するための必需品は, ①切実な目標や課題が与えられていて,マネジメントが 必要な状況があること ②目標や課題の達成を確実化する手段として何を Plan」し「Control」させたのかが明確になってい ステップアップ ISO 9001 ISO 認証取得の資源投入をムダにしない QMS の運用と審査- 経営者とマネジメントレビュー 規格解説 講師は語る -5.6 マネジメントレビューのポイント- エム・アンド・エス・クオリティーガーデン 福田 渚沙男 41各部門・各階層でのマネジメントレビュー 2マネジメントレビューの3点セット

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Page 1: 経営者とマネジメントレビューISO 9001規格が要求する,経営者にとってもっとも 重要な役割としてマネジメントレビューがある。このマ

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

3 月号で,品質マネジメントとは品質に関して達成し

たいこと(品質方針・品質目標)の実現のための組織の

統御であること,そして 4 月号ではマネジメントの過程

とは畢竟(ひっきょう)Plan-Control-Review のサイク

ルを回すことであると書いた。マネジメントレビューは,

その「マネジメントのサイクル」の 後の部分にあたる

活動である。品質方針や品質目標はトップだけが出すも

のではなく,組織の各部門,各階層に「展開されていく

べきもの」である。たとえば「わが部門の営業方針は…

…」とか「当係の品質目標は……」といった具合に。と

いうことは,品質マネジメントは組織の各部門・各階層

でそれぞれに,かつ相互に連携を保ちながら行われるべ

き行為であり,したがってマネジメントレビューも組織

の各部門・各階層でそれぞれに,かつ連携して行われる

べき活動だということになる。 規格(ISO 9001)は「必要 低限のことしか要求しな

い主義」だから,マネジメントレビューに関しても「経

営者の責任」で実施すべき範囲のことしか要求していな

い。しかし品質マネジメントシステムの有効性を本気で

追求しようと思う組織であれば,それだけですませるわ

けにいかないことは明白である。

「ブック・レビュー」が書評であれば,「マネジメン

ト・レビュー」はマネジメント評,つまりこれまで行っ

てきた一連のマネジメントの経過を振り返り,客観的に

その成果や問題点を考察する行為である。進歩の源泉は

自由で創造的な思考と試行にあるが,そのすべてが好ま

しい結果をもたらすものではないから適当な機会にその

価値や可能性を評価して,望ましいものは残し,望まし

くないものはより適切な代替手段を探索することが必要

になる。それが「レビュー」である。 たとえば,昨年 6 件発生させた不良品を今年は 3 件以

下にとどめたいというのが品質目標であったとする。昨

年は 2 ヵ月であった「平均不良品発生間隔」を今年は倍

の 4 ヵ月に延長しなければならない。そのために何をす

るかが今年の「Plan」であり「Control」である。とこ

ろが,3 ヵ月目で不良品が出てしまったとすると,これ

はどうしても「Review」が必要な場面ということになる。

レビューを有効に実施するための必需品は, ①切実な目標や課題が与えられていて,マネジメントが

必要な状況があること ②目標や課題の達成を確実化する手段として何を

「Plan」し「Control」させたのかが明確になってい

連 載 ステップアップ ISO 9001

-ISO認証取得の資源投入をムダにしないQMSの運用と審査-

経営者とマネジメントレビュー

規格解説 講師は語る -5.6 マネジメントレビューのポイント-

エム・アンド・エス・クオリティーガーデン

福田 渚沙男

第4回

1.各部門・各階層でのマネジメントレビュー 2.マネジメントレビューの3点セット

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ること ③採用した手段の有効性や合目的性を一貫性をもって評

価できる,なんらかの「基準」があること の 3 点セットである。①を欠くとレビューの必要性が自

覚されず,②を欠くとせっかくレビューしても価値のあ

るアウトプットは出てこない。そして③を欠くレビュー

は組織を迷走させてしまう危険が大きい。 規格が 5.6 で要求しているマネジメントレビューも,

考え方としては同じことである。自分で出した品質方針

の意図(何をどこまでやりたいか)は,経営者自身が誰

よりも一番よく知っている。その実現のために構築し運

用している品質マネジメントシステムが「引き続き適切

で妥当で有効か」について,5.6.2 で要求されている内容

を含む諸情報を自分自身の「想い」と対比させてレビュ

ーを行う。結果として出てくる意思決定の内容は a)やり方,やらせ方の修正 b)製品品質に関するねらいどころの修正 c)追加して必要になる資源の調達対策 が主なものであろう。これらが5.6.3の要求に対応する。 経営者が品質マネジメントシステムの構築と運用に深

くコミットしていれば,マネジメントレビューはさまざ

まな機会を捉えてひんぱんに行う気分になるはずであり,

これが規格 5.1 d)項の要求に対応している。 (Susao FUKUDA)

ISO 9001 の第 5 章では,トップマネジメントとして

の経営者が自ら実施すべき要求事項を定めているが,こ

れは品質マネジメントの原則(ISO 9000 の序文 0.2)を

考慮して ISO 9001 が記述されているからである。QMSを導入・展開して(経営者として想い描いた)効果を得

るためには,第 5 章の中でも品質方針の設定,品質目標

の設定およびマネジメントレビューに経営者が強く関与

し,リーダーシップを発揮することが重要である。 以下に,経営者(および組織)にとっての効果的な方

針展開の進め方,マネジメントレビューのあり方につい

て,具体例をまじえて述べる。

ISO 9001 の 5.4.1 項では,部門および階層で品質目標

を設定すること,達成度が判定可能であること,品質方

針との整合性がとれていることの 3 項目しか要求してい

ない。設定した品質目標をどのように展開し,その実施

状況をどうフォローし,達成度をどう判定して,判定後

の処置をどうするのかなどについては,組織の自主性に

任されている。また,組織として重要な売上・利益など

の業績目標を含めた経営目標の設定・展開についても,

要求事項としては明確に言及していない。 QMS による効果を得る(感じる)ためには,何をね

らいに ISO 9001 を導入したのかを明確にする必要があ

実践ガイド

効果的な方針展開とマネジメントレビュー

前田建設工業㈱ 情報システムサービスカンパニー 部長 辻井 五郎

1.はじめに 2.品質目標の展開とその効果的達成

3.経営者が実施(conduct)するマネジメントレビュー

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

る。審査登録がねらいであるなら,登録された段階でね

らいは達成されたことになるが,そうではなく,想い描

いたねらい(売上の向上など)があったはずである。 そのためには,①導入のねらいを明確にし,②導入段

階の現状レベルを把握し,③数年後のあるべき姿(到達

レベル)を明確に示すことが必要である。すでに認証取

得済みの組織については,現時点での現状レベルの把握

と,今後の到達レベルを明示することで課題が明確にな

り,その改善によって効果を評価することができるであ

ろう。 まず,経営者(および組織)として何をどうしたいの

か(どうしたかったのか)を明確に示すことが必要であ

る。すなわち,品質に関する課題(実施事項)や目標を

組み込んだ中期(通常 3 ヵ年)の経営計画の作成が大切

である。これらの関係を図 1に示す。

これにより,想い描いたねらいが目に見える形で明確

になり,中期的に,かつ年度ごとに何をどうする必要が

あるのかと,経営層の意思の統一が可能となる。 これらの中期経営計画をもとに,今年度の経営目標を

(品質目標を含めて)定め,その達成方策を明確にし,

年度方針として策定する。いわゆる年度社長方針書であ

る。これを部門・階層へ展開する。部門においては,具

体的な実施事項とその結果を評価する管理項目・目標値,

活動スケジュール(日程)などを明確にした部門実施計

画書を作成する。ここまでが,品質目標を効果的に展開

するための計画段階である。その一例を表 1 に示す。な

お,組織の規模によっては,年度社長方針書か,部門実

施計画書のいずれかで十分であろう。 多くの(とくに小規模の)組織では,この計画書の策

定までを,品質目標の設定・展開と称している。したが

ISO 図 1 ISO 導入のねらいの明確化

表 1 年度部門実施計画書

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って,計画書にもとづき活動したのか,その結果,目標

は達成したのか,目標未達時の処置はどうしたのかなど

については,曖昧なままである。少し進んだ組織でも,

年 2 回の割合で目標値と実績値のみ把握して,達成度を

評価している程度である。これでは,期待した効果を得

るのは困難である。しかし規格が要求しているのは,こ

の範囲(レベル)までであり,それ以上のことは組織に

委ねられている。 では,設定した品質目標について期待した効果を出す

には,どうすればよいだろうか。そのためには,何とい

っても月次(または四半期)で PDCA を回していくこと

である。また,目標値の月次(または四半期)計画と実

績が対比できるグラフを作成・表示し,期末を予測して

早めに処置を打つことである。その一例を表 2に示す。 品質目標を効果的に達成するためのやり方を述べてき

たが,品質目標の展開において効果を得る(感じる)た

めには,品質目標は定量化されていることが重要である。 ISO 9001 規格が要求する,経営者にとってもっとも

重要な役割としてマネジメントレビューがある。このマ

ネジメントレビューにおいて,経営者(および組織)と

して効果を出すには,どうすればいいだろうか。 ISO 9001 規格の 5.6.1 項では,マネジメントレビュー

のねらいを「組織の品質マネジメントシステムが,引き

続き適切で,妥当で,かつ有効であることを確実にする

ために……」と規定している。また,ISO 9000 規格の

用語(3.2.3)では,品質マネジメントシステムとは「品

質に関して,方針および目標を定め,その目標を達成す

るために組織を指揮し管理するためのシステム」と定義

している。 つまり,「経営者が自ら定めた品質方針や品質目標を,

体系的に達成するための仕組み」として,引き続き機能

しているかを“適切性,妥当性,有効性”に焦点を合わ

せてレビューすることを要求している(図 2参照)。 品質方針や品質目標は経営者が自ら設定したものであ

る。中身はこれでよいのか(適切か),ねらった結果が出

ているか(妥当か),そして想い描いた効果が出ているか

(有効か)など,つくりっぱなしではなく,適切な間隔

で見直し(レビュー)するのは当然であろう。 したがって,ISO 9001 規格の 5.6.1 項では,もう 1 つ

の要求事項として,QMS の改善の機会の評価,QMS の

変更の必要性の評価を実施するように求めているのであ

る。 マネジメントレビューを経営者が 1 人で実施するのか,

管理責任者と 2 人で実施するのか,経営層とコミュニケ

ーションをかわしながら会議体で実施するのかなど,ど

のようなやり方をとるかは,組織の自由である。規格は,

あらかじめ定めた間隔で実施することしか求めていない。

経営層間での意見交換,意思統一などを考慮すれば,会

議体が望ましいといえるが,組織としてもっとも効果が

3.パフォーマンスをレビューする

表 2 活動フォローアップ表

no1.2

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

あがるやり方であれば,そのやり方でよい。 次に,インプット情報とアウトプット情報について,

事例をまじえて述べる。 ISO 9001 規格の 5.6.2 項では,7 つのインプット情報

を規定している。 たとえば a)項では,内部監査の結果や外部審査の結

果をインプット情報にすることを規定しているが,具体

的にはどのような内容をインプットするのがよいだろう

か。仮に内部監査の指摘が 5 件,外部審査の指摘が 2 件

あったとした場合,組織の QMS がどう適切で,妥当で,

どのように有効であろうか。ISO 導入後の経過年数にも

よるが,件数のみのインプット情報では答えは導き出せ

ない。 前回,前々回と比較して傾向がどうなっているとか,

規格のどの条項(またはどのプロセス)に指摘が集中し

ているなどの考察がインプットされた場合ならどうであ

ろうか。これなら,3 つの焦点(適切・妥当・有効)に

ついて,ある程度の答えが出せるであろう。 インプット情報の中で,もっとも重要な項目は c)項

の「プロセスの実施状況」である。ISO 9001 規格の 4.1の a)項では,組織の QMS に必要なプロセスを明確に

することを要求している。また同 c)項では,これらの

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図 2 マネジメントレビューのねらい

表 3 MR 記録書

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プロセスについて効果的であることを確実にするための

判断基準を求め,8.2.3 項では,これらのプロセスの監視

と適用可能時の測定を求めている。したがって「プロセ

スの実施状況」とは,4.1 の a)項で定めたプロセスを対

象に,これらのプロセスがどのような状況になっている

のかをインプットすることを求めている。すなわち,こ

の項目(5.6.2 の c)項)が組織全体を評価するパフォー

マンスの中核になっているのである。インプット情報を

含めた「MR 記録書」の一例を表 3に示す。 マネジメントレビューにおいて,経営者(および組織)

が効果を得るためには,QMS 全体の実施状況(強み,

弱み,課題など)の実態が,的確にインプットされる必

要がある。そのためには,経営者の QMS に対する,常

日頃の高い関与がもっとも重要である。 (Goro TSUJII)

参考文献 [1] 細谷克也編著,西野武彦,新倉健一著(2002):『品質経営シ

ステム構築の実践集』,日科技連出版社。 [2] 細谷克也編著,西野武彦著(2003):『超簡単!ISO 9001 の

構築』,日科技連出版社。 [3] 細谷克也編著,青木昭,西野武彦,松本健著(2004):『ISO

9001 プラス・アルファでパフォーマンス(業績)を向上する』,

日科技連出版社。

4.まとめ

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

T.K 私どもの会社では,年 1 回,マネジメントレビュ

ーとして規格 5.6.2 の a)~g)の項目(表 1)を管理責

任者から社長に報告しています。これについて社長から

コメントをもらい,継続的改善につなげています。社長

も忙しく,なかなかコメントが出てこないのが現状で,

管理責任者がそのつど改善することを考えています。 Y.K 私のところでは,2000 年版移行の時に形式的なこ

とはやめました。わが社でやっていることで,規格で要

求しているマネジメントレビューに相当するものを考え

てみました。すると 1 年に 1 回どころか,ものによって

は毎週とか月 1 回とか,いろいろな会議体でやっている

のです。そこで,これはこの会議,これはこちらでやっ

ていくというように棲み分けました。 S.K いつでもやっている,という考え方はいいですね。

今,会社がやっていることを,マネジメントレビューの

どこに当てはめればいいかを考えてみる。 Y.K うちでも,年 2 回は品質システム全体を大局的に

見るようにしています。しかし,マネジメントレビュー

のインプットを全部そろえて「はい,マネジメントレビ

ューです」という形ではない。1 年間で分割しているス

タイルです。 M.H 私のところは年 2 回と決めていますが,それでは

遅いと感じることが多く,毎月の品質管理委員会でクレ

ーム対応を中心にレビューをしています。 S.H うちは年 2 回ですが,現在はほとんど ISO の推進

担当者に改善の指示が出て,現場のほうにはなかなか出

てきません。もっとパフォーマンス向上ということを考

えさせるようなことをやっていかなければいけないのか

なと思います。 T.N ある期間の反省点をまとめて,次にどう生かして

いくか,経営者が一度立ち止まって確認しようという

ISO のいいところもあります。わが社でも,毎月の事業

執行会議があります。それもマネジメントレビューに位

置づけよう。しかし,それに加えて半期ごとに反省会を

しよう,評価しようという二段構えにしています。 M.H 以前はどちらかというと定期審査のためにやって

いました。でも,それはおかしいと考えたのです。定期

審査を機会にまとめられるという意味では有効なのかな

と思っていますが。 S.K 審査の方法も,a)から g)まで,「ちゃんとイン

プットされていますか」と確認していく。マネジメント

レビューに該当する会議がいくつかあるなら,その資料

を見せてもらい,「これはここでやっています」でいい。

そのほうが現実的かもしれない。 ただ,規格では「あらかじめ定められた間隔でマネジ

メントレビューを実施すること」となっていますから,

そこは決めておく。 Y.A わが社でもマネジメントレビューは年に 2 回実施

しています。アウトプットを具体的な指示で出していま

マネジメントレビューをディスカッションする

週一でも年一でも「マネジメントレビュー」

ISO推進者会議

ディスカッションメンバー

T.K (建設コンサルタント業) テーマリーダー

Y.K (電子機器,事務機器メーカー) H.M (コンクリート製品製造,土木業)

S.K (QMS 主任審査員) N.S (精密部品メーカー)

M.H (衣類・肌着メーカー) G.S (機械・装置メーカー)

S.H (建設コンサルタント業) T.G (QMS 主任審査員)

T.N (システム開発業) A.K (紙製品メーカー)

Y.A (通信機器メーカー)

表 1 マネジメントレビューへのインプット

a) 監査の結果 b) 顧客からのフィードバック c) プロセスの実施状況および製品の適合性 d) 予防処置及び是正処置の状況

e) 前回までのマネジメントレビューの結果に対する

フォローアップ

f) 品質マネジメントシステムに影響を及ぼす可能性

のある変更 g) 改善のための提案

JIS Q 9001:2000 5.6.2 より

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すが,私の悩みはその指示事項のフォローです。インプ

ットとして前回のフォローアップが必要ですが,それが

年 1 回や 2 回でいいのか。 H.M 正式なマネジメントレビューは年 1 回実施してい

ます。あとは臨時に設定したり,または日常の管理もマ

ネジメントレビューの一部とみなしたりしています。

ISO を使って業務をやるのだと社員に意識付けるための,

一つの手段として利用している面もあります。 では,アウトプットはどうするか。システムとしての

マネジメントレビューの位置づけは,やはり年度末に来

期の予算,方針も含めて議論して,結論を出そうという

捉え方をしています。1 年間の反省をし,どこに弱点が

あったか。では来期はシステム上,ここに重点を置こう

というようなことに結論を出すことが必要です。 N.S 日々の問題処置,サービスの処置などを上手に是

正処置に乗せ,再発防止にどんどん反映できるような方

法があるといいのかもしれませんね。 T.K マネジメントレビューとは何かと考えると,「1年に 1 回報告すること」ではない。「マネジメントレビ

ュー」とは呼ばないが,実際には日常的にいろいろな是

正処置,お客様からの情報を経営に取り入れている。し

かし,それは記録に残らないから,1 年に 1 回,とくに

「マネジメントレビュー」として機会を設定していると

いうことでしょうか。 H.M 少し違います。うちで設定しているマネジメント

レビューには,アウトプットがきちんと決められていま

す。そして有効性はどうだったか。1 年間,われわれは

このシステムを有効に運用したのだろうか。どこに弱点

があったのかを見出して,アウトプットにする。やはり

日常的にやっている業務上のマネジメントレビューと,

1 年間動かしてきたシステムのマネジメントレビューの

両方が必要でしょう。規格でいうマネジメントレビュー

は,その最後のものをいっているのではないでしょうか。 このマネジメントレビューを,自分たちの目標を達成

するための 1 つの手段としてうまく機能したかどうかと

いう反省会と考え,翌年の事業計画に生かせるようなア

ウトプットをもってくるのです。

G.S マネジメントレビュー会議は年 1 回,その半年後

に経営者へフォローアップ報告を 1 回実施しています。

しかし,かぎられた時間で要求されたすべての項目につ

いて経営者に報告し,ディスカッションするのには無理

があります。実際には,QC 会議や新製品に対するレビ

ューの会議など,それぞれの要求事項に該当する別の会

議があります。各会議のレポートは経営者に上がってい

ますので,年 1 回のマネジメントレビューはその総括に

なります。たとえば重大なクレームが発生すると,シス

テムの部分から見直さなければいけない。そういったも

ののまとめをマネジメントレビューにおいて報告し,改

善提案をして,それに対するトップマネジメントの意見

をもらって,記録に残し,改善のアウトプットにもって

いく。しかし,正直なところ,形式的に必要だからやっ

ているところがあり,経営者はあまり乗り気ではありま

せん。だから,マネジメントレビューとして実施してい

る会議が有効かという話になると,私は疑問をもってい

ます。 T.N 本来は主体である経営者,つまりレビューする側

に意識がない。年度はじめに経営者から品質目標とか,

事業計画の一環で今年度の計画が出ますよね。それに対

して,品質面での総括した結果を見せてくれ,と経営者

が自らいうように,どうやって事務局がもっていくか。 S.K マネジメントレビューは,経営者が参画すると位

経営者はどう関与していくか

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

置づけられていますね。回数はともかく,まず本当に経

営者が真剣に関与しているのか。そもそも品質マネジメ

ントシステムの導入は,本当はトップダウン形式でやっ

たはずですから,経営者はそのくらいのことはわかって

いなければならないのです。やはりトップが関与してい

ないと,システムが機能しないし,マネジメントレビュ

ーの位置づけがなくなってくるのではないかと思ってい

ます。 T.G まず,これはトップダウンなのです。物事には仕

組みがある。それを動かすために,どうやって仕掛けて

いくか。マネジメントレビューの場合は,これはもう経

営者自らがやらなければいけない。 しかし,私が審査で見てきたところでは,形式的なと

ころが圧倒的に多いです。お膳立てはだいたい管理責任

者がしておく。規格が要求しているから,年 2 回くらい

実施して,その結果の記録が紙 1 枚程度で,指示事項も

たいしたことは書いていない。 しかし,QMS の基本,一番重要な部分がマネジメン

トレビューです。もちろん,いろいろな会議体で PDCAをまわして実施すればいい。その全体像を,トップがマ

クロ的に見ていく。中長期計画ともリンクさせながら,

これでいいのかという確認をして,今後どうしていくの

かを考える。そのためには,トップがどれだけ意識をも

ってやるかが重要です。 経営者がどれだけ自覚をもって取り組むか。あるいは

その自覚をもたせるために,どういう仕掛けを管理責任

者がしていくのか。トップの意思表示がきちんと出てく

れば,社員もトップの背中を見て,やらざるを得なくな

る。 T.N いくら現場のほうで改善活動をしていても,上の

理解がないとつぶれてしまう。逆に何も現場になくても,

トップが鶴の一声で「こういうことをやろう」といえば,

すぐに動き出す。せっかくこういうシステムを導入して

いるのだから,トップにそれを理解してもらえないと,

いくら事務局ががんばってもダメです。 G.S 正直なところ,経営が厳しい状況にある中,

「QMS が大事です。QMS をしっかりとやらなければい

けないのです」と話をしても,ではそれをやってどれだ

けお金がもうかるのかというところにきてしまう。QMSをうまく利用すればロスコストが減って,当然利益が上

がってくるという話の仕方はありますが,QMS の維持

管理の重要性を唱えることは管理責任者に任されていま

す。 経営者が強く関与するように仕向けるのも管理責任者

の努力次第といわれればたしかにそのとおりですが,ど

うすればいいか,非常に悩んでいるところです。 S.K 資源はみんな経営者が握っているわけでしょう。

そうすると「任せるからそっちで考えてくれ」では済ま

されない。「こういうふうにやってくれ」といわないと。 G.S 「知らないよ」というわけではないけれども「任

せるよ」となってしまう。マネジメントレビューのアウ

トプットの話で,あらかじめ管理責任者がある程度用意

するというのが現実ですね。 A.K 当社の場合はまさにトップダウンで,社長が音頭

を取ってやっている。そういう点で事務局はやりやすい

と感じています。 ただ,品質目標がなかなかうまくいっていない。具体

的にはクレーム,不具合の件数,処理損,処理費用の額

があまり減っていない。方法論がまずいのだろうと思っ

ています。 H.M アウトプット 3 項目(表 2)が規格にあります。

記録にはどう整理していますか。「有効性が見受けられ

る」とか,審査のために一般的な議事録としてまとめて

いるのか。 S.K マネジメントレビューのアウトプットは指示です。

いいインプット,いいアウトプットを

表 2 マネジメントレビューからのアウトプット

a) 品質マネジメント及びそのプロセスの有効性の改善 b) 顧客要求事項への適合に必要な製品の改善 c) 資源の必要性

JIS Q 9001:2000 5.6.3 より

Page 10: 経営者とマネジメントレビューISO 9001規格が要求する,経営者にとってもっとも 重要な役割としてマネジメントレビューがある。このマ

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「決定及び処置を含むこと」と書いてあるでしょう。 a)と b)と c)はカテゴリーをいっているだけで,a)なら有効性の改善に対する指示や決定はあったかどうか

なのです。b)と c)もそうです。たとえば資格者が足り

なかったら,「資格者を今年度中に 2 人にしなさい」と

いうように具体的な指示が経営者から出てこなければお

かしい。 a)から g)のインプットについて社長の指示が出てく

ると,このアウトプットの 3 つのどこかに流れてくると,

私は解釈しています。要は経営者から「これをやってく

ださい」という指示が出てくるかどうか。そこがポイン

トではないでしょうか。抽象的なことばかりがアウトプ

ットとして書いてあるのでは,何もやることがない。 N.S アウトプットは,現状はこうで,何が問題だから,

誰が,いつまでに改善しなさいという具体的な内容。そ

れで最終的にはトップが全部確認して,承認をするかど

うかというところまでは追い込んでいく。 S.K マネジメントレビューのインプットに,プロセス

の実施状況がありますが,皆さんはどんなことをインプ

ットしていますか。 H.M うちは「8.2.3 プロセスの監視・測定」の 3 ヵ月

ごとの結果です。 T.G 「プロセスの実施状況および製品の適合性」だか

ら,プロセスが悪ければ製品も悪くなる。やはり 8.2.3項が関係しますね。それぞれの仕事をプロセスとすれば,

必ずポイントがある。この工程ならばここが押さえどこ

ろ,という部分を押さえて,そこがうまくいっていれば

いいという程度と,私は考えています。 Y.K そうするとマネジメントレビューの場に提供する

情報は,その管理項目の管理グラフなどですか。 T.G それも入るでしょうね。製品がコストに見合った

かとか,製品の要求事項に見合ったものをどうやってつ

くり込んでいくかというのがプロセスでしょう。結果と

して,製品,成果品がきちんとできていれば,プロセス

もよしと思えばいいでしょう。製品の 1 個 1 個というよ

りも,たとえば不適合発生率が工場の目標の 0.1 パーセ

ント以下になっている。もっと抑えようとすると,逆に

コストアップになる。だからこれくらいが妥当かなとい

う線がある。 Y.K そういう情報がプロセスの実施状況のデータとし

て提供されるわけですね。 S.K たとえば品質目標でロスを 500 にしているのに,

半期の段階ですでに 400 になっている。これはどこか変

えなければいけないのではないか。そういうこともプロ

セスの実施状況を見ている,ということでしょうね。 T.G 製造現場なら,MTBF(Mean Time Between Failure),平均故障間隔というのがありますね。それが

どのくらいになっているか。メンテを適切にやっている

かどうか。それもプロセスの監視の 1 つになるかもしれ

ないですね。 Y.K 開発プロセス,新商品開発の工程というと,どう

いうもので見ていけばいいのでしょうか。 T.G やはり過去の事例との比較になるのではないでし

ょうか。 S.K たとえば開発の期間を定めていたら,その期間に

納まるように順調に進んでいるか。それを見ているとし

たら,それはそのプロセスの監視をしているのでしょう。 Y.K いいマネジメントレビューのために,いい情報を

提供する。そこにも管理責任者の役目があるのでしょう

ね。 T.K そして,経営者は提供されたものをうのみにする

だけではいけない。QC の基本でファクトコントロール

です。現場で,現物を,現実に。マネジメントレビュー

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

は意思決定機関みたいなものでしょう。 S.K アウトプットがちゃんと出ているか。そしてその

ために,インプットをきちんとしているか。やはりそう

いうことがきちんとできているところが,マネジメント

レビューをうまく使っているところでしょう。

ISO 推進者会議(IPC:ISO Promoter committee)へのご入会は随時受け付けています (会期は 8 月から翌年 7 月までの 1 ヵ年,年会費:30,000 円/1 名)

お問合せ先:日科技連・ISO 研修事業部 IPC 担当:波田野 崇(TEL.03-5379-1233) 今回のテーマ「マネジメントレビュー」は,メンバー

の意見が収束していないところがおもしろいと思います。

何となく,いい放しというような面も見られます。 確かに,私も審査をしていてさまざまなマネジメント

レビューにお目にかかりますが,当然のことながら,内

部監査とマネジメントレビューに力を入れている組織は,

QMS がうまく機能して効果があがっているようです。 まず,T.K さんが口火を切ったように,マネジメント

レビューはどれくらいの頻度で実施するのがよいのでし

ょうか? 規格では「定められた間隔(planned interval)」となっています。審査に行きますと,圧倒的に多いのが

年 1 回で,あとは毎月 1 回とか 3 ヵ月に 1 回などがあり

ます。この間隔は,組織の大きさやトップと現場との距

離が関係しているようです。 最近多くなりつつあるのが,Y.K さんや H.M さんが発

言しているように,月 1 回あるいは週 1 回あるいは毎日

といった頻度で,トップに必要事項を報告して指示を仰

いでいる例です。これをプチ・マネジメントレビューと

位置づけ,さらに年度末に規格が要求しているインプッ

トをそろえて1年間のQMSの運用状況などを見直し(マ

ネジメントレビューを実施し),総括的なレビューをして

いる組織が増えているようです。 マネジメントレビューの目的は,規格にも要求されて

いるようにトップマネジメントが実施し,そして自組織

の QMS が適切,妥当かつ有効であることを確実にする

ことです。ディスカッションで多くの方が発言されてい

ますが,やはりトップが管理責任者に「任せるよ」にな

ってしまっては,マネジメントレビューの効果は発揮で

きず,セレモニーになってしまうでしょう。 ◆◆◆

2 番目のテーマとして「経営者はどう関与していくか」

とありましたが,ISO 推進者の会議でのテーマとしては

ちょっと重いテーマでしょう。S.K さんや T.G さんのよ

うな QMS の審査員は「経営者の自覚が必要」と発言さ

れていますが,それ以外の各企業での推進メンバーの

方々は,どう自覚させるかに悩んでいるようです。そこ

がこの議論がちょっとかみ合っていないところです。 私の個人的な意見としては,マネジメントレビューを

セレモニーにしないためには,インプットの情報を魅力

あるものにすることです。たとえば内部監査で指摘事項

がまったくない状態だと,トップとしても判断のしよう

がないからです。このインプット情報を魅力あるものに

一口アドバイス

QMS 主任審査員 篠原 健雄((財)日本科学技術連盟 嘱託)

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することに関しては管理責任者の責任が重大と考えます

が,いかがでしょうか。たとえば,プチ・マネジメント

レビューで報告することは,すぐに経営層の指示を必要

としている事項でしょうから,経営層は非常に興味があ

るはずです。年次のマネジメントレビューは,規格が要

求している a)~g)の 7 項目を報告することになりますが,

その時に 1 年前のマネジメントレビュー時と比べ,何が

どの程度よくなった,悪くなったという報告があれば興

味がもてると思います。これは,規格 8.4 項のデータの

分析を生かすことが大事と考えます。 ◆◆◆

そこで次のテーマです。いいインプットといいアウト

プットとは何でしょうか? いいインプットに対する考え方は,ディスカッション

の中で皆さんが発言しているような事項でいいつくされ

ていると思われます。アウトプットに関する議論はほと

んどありませんでしたが,N.S さんが発言しているのが

アウトプットの本質でしょう。アウトプットは,上述し

たように,「QMS が,引き続き適切で,妥当で,かつ有

効であることを確実にするため」にトップが指示するも

のです。審査に行ってマネジメントレビューのアウトプ

ットを確認した時に,往々にして規格 5.6.3 項が要求し

ているアウトプット a),b),c)ともに「とくになし」と

記録されたものを見せられることがあります。マネジメ

ントレビューは QMS を継続的に改善していく 1 つの重

要な位置を占めているはずですから,そんな時は「とく

にないということは,継続的改善をしないということで

すか?」と少し嫌みのようにいうこともあります。 いずれにしても,インプットを有効なものにしないと

有効なアウトプットは得られないでしょう。規格 5.6.3項 a)~c)にトップが指示を出せるようなインプットをし,

指示が出たら誰がいつまでに対応するかを明確にして途

中経過をプチ・マネジメントレビューで報告するような

仕組みをつくると,トップにも継続的改善がわかりやす

くなるのではないでしょうか。 (Takeo SHINOHARA)

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