新学習指導要領の 教育課程編成における 理科科目の現状と課題 ·...

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特集 2012(平成24)年度から、高等学校の数学・理科 の新しい学習指導要領が先行実施される。今回の改 訂においては、言語活動の充実だけでなく、理数教 育の充実が図られた。物理、化学、生物、地学の4 領域の標準単位数の合計は6単位と変わらないもの の、各科目名・単位数が変わっている。 単位数の変更の影響と、新しい学習指導要領での センター試験の出題科目・方法などが未定の中、現 在、高等学校では2012年度からの教育課程の編成を 行っているが、いろいろな課題を抱えている。 そこで、今回の特集では、校内での検討を始めた 高等学校に話を伺い、どのような考えに基づき教育 課程の編成を行っているのか、どのような点を課題 と感じているのかについて、レポートする。なお、 各校の教育課程案は最終案ではなく、取材時点(9 月中旬から10月上旬)の内容である。 新学習指導要領の 教育課程編成 における 理科科目 の現状と課題 2 Kawaijuku Guideline 2010.11 た科目」(以下、基礎科目)から2科目選択という検討 がされていることをお知らせしている。この予測のもと、 ガイドラインのモニターの先生方にアンケート調査を実 CONTENTS 大阪府立生野高等学校…………………………p8 山口県立下関南高等学校………………………p10 山口県立豊浦高等学校…………………………p11 高校教員が挙げる課題 今回、ガイドラインのモニターの先生方にアンケート (*) を行った。その結果を中心に課題等を見ていく。 12月に大学入試センターから 基本的方針(案)が公表か? まずは、新学習指導要領の実施スケジュールを確認し ておこう。 【図表1】は過去の学習指導要領改訂の際のスケジュ ールをもとに、新しい学習指導要領の実施スケジュール を予想したものである。12月に大学入試センターから基 本的方針(案)が公表される見込みである。 河合塾ではすでにホームページ等で、国立大学協会の 自由討議の場で、センター試験の理科の出題科目として 『科学と人間生活』が出題されず、理科の「基礎を付し 【図表1】新学習指導要領 実施スケジュール 高等学校 学習指導 要領改訂 大学入試 センター (予想時期) 大学 (予想時期) 2010年度 (平成22) 2011年度 (平成23) 2012年度 (平成24) 2013年度 (平成25) 2014年度 (平成26) 2015年度 (平成27) 出題教科・科目 および出題範囲検討 数学・理科 先行実施 (年次進行) [現中2生~] 総則等 先行実施 年次進行で実施 [現中1生~] ★ ★ 12月 基本的方針(案)公表 3月 基本的方針公表 5月 最終まとめ 公表 27 28 問題作成 (数学・理科以外) 問題作成 (数学・理科) 出題教科・科目および出題範囲検討 数学・理科以外出題科目・変更予告 (平成26年3月頃までに公表) 数学・理科出題科目・変更予告 (平成25年3月頃までに公表) 数学・理科以外出題科目・変更予告 (平成26年3月頃までに公表) 数学・理科出題科目・変更予告 (平成25年3月頃までに公表) 高校教員が挙げる課題…………………………p2 各高等学校での検討状況  福島県立安積高等学校…………………………p4 茨城県立竹園高等学校…………………………p6 (*) 2010年9月8日~9月30日まで実施。メールによるアンケート。56件回答。 河合塾作成 2期制と理科の単位数の多さを生かした教育課程の編成を 理科が提案 週当たりの単位数を33から34単位へ増加、理系コースの 「理科」を増加させる 2011年度から設置の文理学科で先行して検討、『生物基 礎』の内容の変化や理科実験も課題 2012年度、2013年度の教育課程の編成に着手、1年次に 『化学基礎』を配当 現行の1年次の理科2単位をベースに、『科学と人間生活』 を含む教育課程の編成を検討

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Page 1: 新学習指導要領の 教育課程編成における 理科科目の現状と課題 · 科目とする高校はあまり多くなく、基礎科目を3つ選択 させる高校が多い。1年次に基礎科目を2科目(例えば

特集

2012(平成24)年度から、高等学校の数学・理科

の新しい学習指導要領が先行実施される。今回の改

訂においては、言語活動の充実だけでなく、理数教

育の充実が図られた。物理、化学、生物、地学の4

領域の標準単位数の合計は6単位と変わらないもの

の、各科目名・単位数が変わっている。

単位数の変更の影響と、新しい学習指導要領での

センター試験の出題科目・方法などが未定の中、現

在、高等学校では2012年度からの教育課程の編成を

行っているが、いろいろな課題を抱えている。

そこで、今回の特集では、校内での検討を始めた

高等学校に話を伺い、どのような考えに基づき教育

課程の編成を行っているのか、どのような点を課題

と感じているのかについて、レポートする。なお、

各校の教育課程案は最終案ではなく、取材時点(9

月中旬から10月上旬)の内容である。

新学習指導要領の教育課程編成における理科科目の現状と課題

2 Kawaijuku Guideline 2010.11

た科目」(以下、基礎科目)から2科目選択という検討

がされていることをお知らせしている。この予測のもと、

ガイドラインのモニターの先生方にアンケート調査を実

C O N T E N T S

大阪府立生野高等学校…………………………p8

山口県立下関南高等学校………………………p10

山口県立豊浦高等学校…………………………p11

高校教員が挙げる課題

今回、ガイドラインのモニターの先生方にアンケート(*)

を行った。その結果を中心に課題等を見ていく。

12月に大学入試センターから基本的方針(案)が公表か?

まずは、新学習指導要領の実施スケジュールを確認し

ておこう。

【図表1】は過去の学習指導要領改訂の際のスケジュ

ールをもとに、新しい学習指導要領の実施スケジュール

を予想したものである。12月に大学入試センターから基

本的方針(案)が公表される見込みである。

河合塾ではすでにホームページ等で、国立大学協会の

自由討議の場で、センター試験の理科の出題科目として

『科学と人間生活』が出題されず、理科の「基礎を付し

【図表1】新学習指導要領 実施スケジュール

高等学校 学習指導 要領改訂

大学入試 センター

(予想時期)

大学 (予想時期)

2010年度 (平成22)

2011年度 (平成23)

2012年度 (平成24)

2013年度 (平成25)

2014年度 (平成26)

2015年度 (平成27)

出題教科・科目 および出題範囲検討

数学・理科 先行実施

(年次進行) [現中2生~]

総則等 先行実施 年次進行で実施 [現中1生~]

★ ★ ★

12月 基本的方針(案)公表

3月 基本的方針公表

5月 最終まとめ 公表

平成 年度試験実施

27

平成 年度試験実施

28

問題作成 (数学・理科以外)

問題作成 (数学・理科)

出題教科・科目および出題範囲検討

★ 数学・理科以外出題科目・変更予告 (平成26年3月頃までに公表)

数学・理科出題科目・変更予告 (平成25年3月頃までに公表)

数学・理科以外出題科目・変更予告 (平成26年3月頃までに公表)

数学・理科出題科目・変更予告 (平成25年3月頃までに公表)

高校教員が挙げる課題…………………………p2

各高等学校での検討状況 

福島県立安積高等学校…………………………p4

茨城県立竹園高等学校…………………………p6

(*)2010年9月8日~9月30日まで実施。メールによるアンケート。56件回答。

河合塾作成

2期制と理科の単位数の多さを生かした教育課程の編成を理科が提案

週当たりの単位数を33から34単位へ増加、理系コースの「理科」を増加させる

2011年度から設置の文理学科で先行して検討、『生物基礎』の内容の変化や理科実験も課題

2012年度、2013年度の教育課程の編成に着手、1年次に『化学基礎』を配当

現行の1年次の理科2単位をベースに、『科学と人間生活』を含む教育課程の編成を検討

02/特集1/2010.11 10.10.26 10:58 AM ページ 1

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新学習指導要領の教育課程編成における理科科目の現状と課題特 集

Kawaijuku Guideline 2010.11 3

施したり、各高校の先生にお話を伺った。

7割の高校が校内での検討を始めたところ

詳しいアンケート結果は、7ページのコラムに掲載し

ている。9月末現在の調査で、調査数も多くはないが、

「校内で検討を始めたところ」が68%であった。「理科

の必履修科目は概ね決定」は16%、他教科の調整も含

めて「ほぼ決定」は13%である。12月の大学入試セン

ターからの発表を待って、最終決定をする高校が多いよ

うだ。アンケートによると『科学と人間生活』を必履修

科目とする高校はあまり多くなく、基礎科目を3つ選択

させる高校が多い。1年次に基礎科目を2科目(例えば

『物理基礎』『生物基礎』など)を置くパターンが目立つ。

課題としては、センター試験科目の未決定による影響、

他の教科とのバランス、週単位数増加による過密スケジ

ュールなどが挙がっている。先生方のコメントをいくつ

か紹介しよう。

■文系と理系の科目の時間のバランスを取るのが難し

い。

■数学と理科だけが先行実施のため、その2教科以外

には影響が及ばないように教育課程を組まなければ

ならないこと。また、数学・理科の中には情報担当

の先生もいるので、総コマ数の調整がうまく進まな

いこと。

■少ない授業時間をどう割り振るか。教科の取り合い

になりつつ、結局はすべて標準単位でやらざるをえ

なくなり、すべての教科の成績が沈む。特に、3番

手、4番手高校はその影響が大きいと思う。

■2年次に文理分けをしているが、かつてのように文

理分けせずに教育課程を編成したいと思っている。

しかし、入試科目(特にセンター試験)の決定が遅

いために、共通理解を得て変更する時間がとれず、

現行通りにせざるを得ないと思う。

■基礎科目を、どの順で、どの学年で履修させるのが、

一番生徒にとってよいのかに頭を悩ませている。

■1年次に『物理基礎』を全員に取らせる予定だが、

学力の高くない生徒が物理の内容についてこれるか

心配である。

■生徒の理科の選択科目ミスを防ぐために1年次にど

ういうガイダンスや基礎科目の履修方法にすればよ

いか考えておく必要がある。

■基本的には週30単位のはずである。しかし、それ

では教育課程が組めない状況になってきた。本校は、

週34単位の授業、周辺の高校でも週32単位、33単

位に変更しつつある。過密スケジュールが今後の学

力にどのように影響するか見守る必要がある。

■進学校として理科3領域を履修させる必要がある

が、1・2年次で他教科との関わりの中でどれだけ

の時間が確保できるかが課題である。現在は週32単

位で組んでいるが、増やさなければならないかもし

れない。

学習指導要領では、週当たりの標準授業時数(全日制

課程)は、30単位時間である。しかし、「基本的には週

30単位のはずであるが、それでは教育課程が組めない状

況になってきた」というコメントにあるように、週当た

りの単位数が33・34単位であれば、センター試験の基

礎科目から2科目選択(必履修として基礎科目3科目)

に対応しやすいが、それより単位数が少ないと、他教科

との調整が必要だったり、単位増の検討をしたりするな

ど、教育課程の編成に苦慮されているようである。だが、

【図表2】によると、33単位以上は18.8%に過ぎず、一

方、31単位以下は61.7%と半数を超えている。

また、各大学の試験科目の発表は、2013(平成25)年

3月頃までに公表される予定であるが、難関大で、例え

ばセンター試験において理科の基礎科目から2科目選択

を認めないなど、科目や科目数を指定した場合は、対応

できる高校とそうでない高校の差が生じる可能性があ

り、その点も課題となろう。

今後、大学入試センターの科目の発表、各大学の科目

発表を注視するとともに、各大学においては2年前と言

わず、先行実施される理科の入試科目を早めに公表する

よう要望したい。

【図表2】全日制普通科週当たりの授業時数

0

5

10

40

35

30

25

20

15

(%)

29以下 30 31 32 33 34 35 36以上 (単位数)

7.2

37.1

17.4 19.5

10.3

4.5 3.4 0.6

* 1年次について記入** 1単位時間を50分として換算

「平成19年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況の調査」(文部科学省資料)

02/特集1/2010.11 10.10.26 10:58 AM ページ 2

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に着手した。

メンバーの一人で進路主任・森下陽一郎先生(化学担当)

は、「2年後に理科、数学の先行実施が迫っている新しい

教育課程の編成については、4月から懸案事項として認識

しており、5月には教育課程の研修会などに参加して情報

を集めていました。来年6月には新課程について県に報告

することになっています。そこで、9月中旬を目途に理科

の具体案を作成し、全体に諮ることにしました」と話す。

現行課程の単位数を超えないよう理科の原案を作成

理科の教育課程の原案を作るにあたり、最初に意識し

たのは「学校全体のビジョンを考えること」だったとい

う。

先生同士での話の際には、新しい学習指導要領におい

ては文部科学省の方針として理数教育の充実が謳われて

いること、また同校の特色として、例年理型クラスが多

いことや、医学科志望者が40~50名程度いることも勘

案して、理科に特化するような教育課程を編成すること

を検討してはどうかという案も出たという。

「しかし、センター試験の科目がはっきりしないこと

や、大学入試にもきちんと対応する必要がありますし、

各教科のバランスもあります。本来であれば我々がやり

たい教育課程を組んでその先に大学入試があるべきで、

納得いかない面もあるのですが、現実的には『現在の単

位数をできるだけ超えないこと』を、新課程を考

える基準にしました」(森下先生)

新課程案は、まずは理科担当の教員で原案を作

成し、それを教育課程委員会で検討する。他教科

との調整は9月下旬からのため、変更の可能性は

あるが、<表>が9月中旬段階での新課程の案で

ある。

「本校は週5日7時限のため、生徒たちへの負

担も大きく、部活動の時間や先生への質問の時間

を確保するためには、単位数を減らすという話も

ありましたが、現実的に各教科の時間数を減らす

福島県郡山市に位置する福島県立安積あ さ か

高等学校は、

1884年に創立され、126年の伝統校である。以前は男子

校であったが2001年より共学化、2002~2006年度にか

けて、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定

され、2007年度からは福島県科学技術教育推進事業科

学技術教育拠点校(CSEE校)に指定されている。理

科教育に力を入れていることから、現行の課程での理科

の単位数は文型11単位、理型21単位と理型の単位数が

多くなっている。東京大7名、東北大33名と難関国立

大への進学者も多い。

今回は、進路指導主事(化学担当)森下陽一郎先生と

理科主任(生物担当)遠藤直哉先生に話を伺った。

4月から「教育課程委員会」を通じ理科の具体案を検討

安積高校は、1学年8クラスで、2年次から文型、理型

のコースに分かれる。例年、理型クラス数が文型クラス数

を上回り、現2・3年生では理型5クラス、文型3クラス

である。毎日7時限(1時限50分)で、1週間当たりの単

位数は33単位となっている。

理数教育に力を入れている同校は、今回の新しい教育課

程(以下、新課程)の編成を「教育課程委員会」を通じて

4月より着手している。同委員会のメンバーは、各部(進

路、教務、各教科)主任で構成されている。夏休み前には

教育課程委員会を開き、今年の夏休みから新課程案づくり

4 Kawaijuku Guideline 2010.11

遠藤直哉先生

1年次は『生物基礎』と『物理基礎』を配当2期制と理科の単位数の多さを生かした教育課程の編成を理科が提案

福島県立安積高等学校森下陽一郎先生

<表>安積高等学校 新課程での理科の教育課程の編成案

生物

化学

物理

地学

2基礎

2基礎

Ⅰ期

理型

Ⅱ期

文型

理型

1年 2年 3年

現行 : 文型11単位 理型21単位。上記の場合、文型11単位 理型20単位 物・生5.5で計21単位 2年次文型は週4時間で実施。Ⅰ 期は化学基礎or地学基礎 Ⅱ 期は生物・地学から選択(1年次に決定)。 生物はⅡ 期から開講。 *科目の前の数字は単位数。丸数字は選択科目であることを示す。

文型

②本編

②本編

③本編

4基・本

③本編

③本編

③本編

5

②基礎

②基礎

02/特集1/2010.11 10.10.26 10:59 AM ページ 3

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のは難しい。理科は現行の課程で文型は11単位、理型

は21単位であり、1単位減らす案で、全体の会議に諮

る予定です」(遠藤先生)

1年次は『生物基礎』『物理基礎』の2科目を必修に

現在の理科の教育課程は、次の通りである。

1年次:5単位(『理科総合A』2単位、『生物Ⅰ』3単位)

2年次:

文型3単位(『化学Ⅰ』『地学Ⅰ』から1科目選択)

理型6単位(『物理Ⅰ』『化学Ⅰ』各3単位)

3年次:

文型3単位(『化学Ⅰ』『生物Ⅰ』『地学Ⅱ』から1科目

選択)

理型10単位(『化学Ⅱ』5単位必修、『物理Ⅱ』『生物Ⅱ』

5単位から1科目選択)

理科の新課程案は、3年間の単位数を、理型クラスは現

在の21単位より1つ減って20単位。文型は11単位で現行

課程と変わっていない。

生物担当で原案作成の中心となった遠藤直哉先生は、こ

の新課程の原案について、「理想、大学入試への対応、教

員のやりくり等、いろいろな要素のバランスを取りながら

試行錯誤してたどりついたもの」と話す。

1年次の必履修科目は、『生物基礎』と『物理基礎』の

2科目各2単位を考えている。「1年次で生徒をしっかり

鍛えないと、2・3年での学力の伸びが難しくなるので、

英語・数学・国語など他教科も1年次で単位がほしい。ま

た1学年8クラスあるので、理科の教員数等を考えると理

科は2科目が妥当と考えています」(森下先生)

1年のうちに『生物基礎』と『物理基礎』を学ぶこと

で、2・3年次の理科選択が判断しやすくなり、その結

果、不本意選択の生徒が減るのではという思いもあると

いう。

2期制を活用し文型クラスでは前期・後期で科目を変更

同校の理科の新課程案で特徴的といえるのが、文型クラ

スの組み方だろう。

同校は2期制である。その特色を生かし、2年次には前

期(Ⅰ期)に『化学基礎』か『地学基礎』を選択にし(2

単位)、後期(Ⅱ期)に『生物』『地学』(2単位)を選択、

3年次に『生物』『地学』(3単位)を履修する構成である。

なお、文型クラスの『化学』は、例年選択者が少ないので、

『生物』と『地学』のいずれかの選択となる。

この組み方ができるのは、もともと2期制だったからで、

「教員の負担や成績処理システム等との兼ね合いを考える

と大変な部分も多いが、生徒たちのことを思うと、現時点

ではこの案がベストだと思っています。本校は進学校なの

で、やはりセンター試験や難関大の入試に対応できるかは

重要。現段階では、センター試験が基礎科目2つで受験で

きるのか、基礎を付さない科目(本編)となるのかまだわ

からないが、文型の生徒でも基礎を付さない科目で受験で

きるようにしており、旧帝大を始めとした難関大の受験に

対応できる」(遠藤先生)

この案では、2年次の前期に3科目の必修科目の履修を

完了し、後期には受験科目を学ぶ。特に文型で生物で受験

しようと考えている生徒は、前期に化学基礎、後期に生物

を履修することができる。現行では、2年次の文型に生物

を配置していないため、1年と3年の間に空白ができてし

まい、3年初期は抜け落ちた部分を鍛え直す時間になって

いたという。

遠藤先生はこの組み方について、「文型の生徒にとって、

2年次の後期から実際にセンター試験で使うであろう科目

を学べるのは、意義が大きいと思う」と説明する。

履修科目の決定時期が早い分ガイダンスが大事に

この新課程案の問題点を挙げるとしたら、文型の生徒は、

受験科目を1年次の前期に、まだ履修していない「地学」

か基礎科目を学んでいる「生物」か、という選択をしなけ

ればならない点だと遠藤先生は話す。教育課程編成上、そ

の段階での決定は致し方ないことだという。

そのため、新課程案を十分生かしていくために、1年の

早い段階での進路指導が欠かせないと、森下先生も遠藤先

生も感じている。

「1年次4月のオリエンテーションから、将来に向けて

の学部・学科選びや志望校選びについて、しっかりガイダ

ンスすることが大事になってくる。例えば、工学部等では

物理が必要ですから、志望校を選ぶときになって『やっぱ

りこの科目を履修しておけばよかった』とならないよう、

指導していきたいと思っている」(森下先生)

今後、先行実施の理科と数学の教育課程の編成案をもと

に、2012年度以降の教育課程の具体案作成に取りかかり、

来年の早いうちに確定する予定である。

Kawaijuku Guideline 2010.11 5

特 集新学習指導要領の教育課程編成における理科科目の現状と課題特 集

02/特集1/2010.11 10.10.26 10:59 AM ページ 4

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6 Kawaijuku Guideline 2010.11

茨城県立竹園高等学校は、緑と学術研究施設に恵まれ

た筑波研究学園都市のほぼ中央に位置している。1979

(昭和54)年に創立された高校で、ほぼ全員が大学進学

を希望し、東京大、京都大、東北大など難関大をはじめ

として例年約160名が国公立大へ進学している。「普通

科」「国際科」の2つの科があり、55分授業、2学期制

を採用している。

今回は、教務主任の高橋俊和先生、2学年主任でもあ

る理科主任の村上潤先生に話を伺った。

現行の33単位から1つ増やして34単位に

竹園高校は、1学年8クラスで男女ほぼ半数。入学時は

一括募集だが、2年進級時に「普通科(スタンダードコー

ス)6クラス」「国際科(アカデミックコース)2クラス」

の2つの科と、それぞれの文系コース、理系コース、計4

コースに分かれる。

2年後に向けて、同校でも教育課程の編成が進行中だ。

まずは今年6月に、各教科主任と教務主任に教頭先生が加

わり、第1回目の会合が行われた。今回、話を伺った教務

主任の高橋俊和先生、2学年主任で生物担当の村上潤先生

もそのメンバーである。

「最初に話し合ったのは、全体の単位数をどうするかと

いうことです。本校では、これまで週当たり33単位で組ん

でいましたが、6時間目と7時間目がある日があり、この

ぶら下がりの状態をできれば解消したいという気持ちがあ

りました。そこで新課程では34単位で組むことを提案しま

した」(高橋先生)

8月中に各教科が要望を出し、それを9月いっぱいで集

約して全体を調整。全体の単位数を決定し、年内にはほぼ

確定させる予定だ。現在は、全体のカリキュラムが固まり

つつある段階だという。

理系コースの理科で1単位増文系は『生物基礎』を1・2年次で計3単位

理科のカリキュラムも、大枠がほぼ決まった段階だと

村上先生は話す<表>。

理科でまず考えたのは、「1年次に何の科目をやるか

と普通科と国際科の単位を揃えてほしい」ということ。

まだ確定はしていないが、『物理基礎』『生物基礎』(各

2単位)の予定である。

2年次は、文系が『化学基礎』2単位と『生物基礎』

1単位の計3単位。理系が『化学基礎』『化学』を必修

で各2単位と、『物理』『生物』から1科目選択で3単位

の計7単位を予定している。現行では2年次の理系は計

6単位であり、ここで1単位増やすことになる。

「この編成で、理系の生徒は2年次に『化学基礎』と

『化学』を連動させることができます。文系の生徒は、2

年次は理科が3単位なのですが、そのうちの1単位を使

って『生物基礎』を継続すれば、この科目を手厚くする

ことができます。本校は生物選択者が多く、センター試

験のことを考えると、『生物基礎』はきっちりと教えた

いと思いました」(村上先生)

3年次は、文系が『化学』『生物』から1科目選択で

3単位。理系が『化学』4単位は必須で、『物理』『生物』

から1科目選択で4単位の計8単位を予定している。

他教科との調整次第で理科はもう1単位増の可能性も

同校の場合、新課程の編成にあたっての大きな特徴は、

総単位数を1単位増やすこと、その増加分を理系の場合は

理科に充てることだろう(文系の単位増の科目は検討中)。

「現在は医学科の理科3科目に対応するために、7時限

目に置いて対応しています。生徒にとっても担当の教員に

とっても負担が重いのですが、新課程では単位数増により

この点が解消されるので、今よりよい時間割の編成になる

と思います」(高橋先生)

なお、今後、他教科との調整や、文系の教育課程の編成

との兼ね合いもあるが、2年次理系の必修科目である『化

学』を、予定している2単位から3単位に増やしたいとい

う要望が理科の先生方から挙がっているという。というの

も、同校の理系選択者は近年、増加傾向であるからだ。

週当たりの単位数を33から34単位にするという大きな

村上潤先生

週当たりの単位数を33から34単位へ増加理系コースの「理科」を増加させる

茨城県立竹園高等学校高橋俊和先生

02/特集1/2010.11 10.10.26 10:59 AM ページ 5

Page 6: 新学習指導要領の 教育課程編成における 理科科目の現状と課題 · 科目とする高校はあまり多くなく、基礎科目を3つ選択 させる高校が多い。1年次に基礎科目を2科目(例えば

変更を行うため、理科と数学の先行

実施分だけでなく、単位数34への

変更を「もし可能であれば前倒しし

て実施したい」(高橋先生)という

希望もあり、今後さらに新課程での

教育課程編成について検討を深める

予定である。

Kawaijuku Guideline 2010.11 7

特 集

<表>竹園高等学校 理科の教育課程の編成案

文 系 理 系

1年 理科総合A(2) 理科総合B(2)

   2年 化学 Ⅰ 生物 Ⅰ

(3)

    3年 化学 Ⅰ 生物 Ⅰ

(3)

1年 理科総合A(2) 理科総合B(2)

   2年 化学 Ⅰ(3) 生物 Ⅰ 物理 Ⅰ

(3)

    3年 化学Ⅱ(4) 生物Ⅱ 物理Ⅱ

(4)

文 系 理 系

生物基礎(2)

物理基礎(2)

   2年

化学基礎(2)

生物基礎(1) (3)

    3年

化学

生物 (3)

1年

生物基礎(2)

物理基礎(2)

1年    2年

化学基礎(2) 化学(2)

生物

物理

    3年

化学(4)

生物

物理 (4)

【現行課程】

【新課程案】

●大学入試センターは、理科の受験科目を早く公表すべき。学校のカリキュラムを組む上で、非常に困る。また、実際の現場の状況を勘案して、先行実施をするべきであろう。移行時期に理科が時間割上組むことが困難なのは明らか。

●理系大学がどのくらい基礎科目を採用してくれるかなども気になり、教育課程編成の方が後回しになるという本末転倒の状態になっている。

●理科教育を重要視することの大切さは言わずもがなだが、理系学部志望の生徒に対するセンター試験の負担(必修)をもう少し減らしてあげないと、ますます「理科離れ」「文転」が起きる。また新課程のセンター試験で仮に『生物』などが設定された場合、標準単位数が多くなりすぎ、どのように出題するかが心配である。まさか、基礎科目部分を除いた『生物』の出題をするとは思えないが。

●根本的に授業時間がない。「総合」をやめて、土曜日もせめて

ひと月に2回復活させれば何とかなるのではないか。●週30単位で教育課程が組めるような教育内容にしてほしい。あれもこれもといって、すべてを取り入れるために現場が混乱しつつある。また大学の共通試験科目という理念を大切にして、大学ごとに受験科目が異なるのではなく、国公立大(せめて国立だけでも)は同じ科目で受験できるようにしてほしい。

●1980年代後半から90年代前半の指導要領のような理科の全領域を概観できるような科目があったほうがよいのではないか。また、特に学力的に余裕がある生徒が多くないが大学進学を希望する生徒の多い高校の場合、大学入試が高校の授業内容を規定する傾向が強い。理系離れ、物理離れを防ぎ、科学技術立国を推進するには、大学入試の与える影響の大きさを考え、理系、特に物理選択者がより有利になるような施策が必要なのではないか。

高校教員へのアンケートより◎

C O L U M N

新学習指導要領の教育課程編成における理科科目の現状と課題特 集

【図表】新課程における理科の教育課程の検討状況

[質問] 貴校での理科の教育課程の編成については、現在、どのような状況 でしょうか。 該当 の選択肢に○をしてください。

 ②と回答した高校

・1年次は理科2科目を予定。進路部は合計32単位を考えるが、異論あり。 ・1年次に物理基礎と化学基礎、2年次に生物基礎。理系は2年次に生物または物理と化学をそれぞれ3単位、3年次にも生物または物理と化学をそれぞれ3単位の予定。文系・総合コースは、3年次に生物演習2単位、特進コース文系は3年次に生物演習3単位、合計33単位。 ・1年次に物理基礎、化学基礎、生物基礎を2単位ずつ履修。2・3年次に文系は化学と生物から1科目を選択、理系は化学を必修、物理と生物から1科目を選択、計2科目を履修。 ・1年次に物理基礎と生物基礎。2年次は共通で化学基礎、そして物理2単位と生物2単位の選択。3年次に文系は物理、化学、生物の演習を2単位。理系は化学4単位を共通で、物理4単位と生物4単位から1科目を選択。  ③と回答した高校

・1年次に科学と人間生活、生物基礎を2単位づつ。2年次に物理基礎、化学基礎、地学基礎をそれぞれ3単位で文系1つ、理系は2つ選択する。3年次に物理、化学、生物、地学をそれぞれ4単位で文系1つ、理系は2つ選択する。 ・1年次に化学基礎を2単位。2年次に文系は科学と人間生活2単位と生物基礎2単位、理系は化学4単位と物理基礎2単位と生物基礎2単位を配置。3年次に文系は化学基礎演習2単位と生物基礎演習2単位、理系は化学3単位と物理と生物の選択5単位を配置。普通科目の履修単位数は1学年・2学年は合計30、3学年は32。

校内での検討を始めたところ

理科の必履修科目は概ね決まったが、他教科との調整や各学年への 配置はこれからの予定

理科の必履修科目、他教科の調整、学年の配置もほぼ決定

その他

④ 3.6%

① 67.9%

②16.1%

③12.5%

(56件)

大学や大学入試センター等への要望

02/特集1/2010.11 10.10.26 10:59 AM ページ 6

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8 Kawaijuku Guideline 2010.11

大阪府立生野高等学校は1920(大正9)年に創立され

た90年の歴史を持つ高校であり、京都大8名、大阪大24

名をはじめとして国公立大に85名(2010年3月卒業者)

が進学している。

昨年度、大阪府教育委員会が指定した「進学指導特色

校」10校のうちの1校に入ったことを受けて、2011(平

成23)年度から普通科に加えて新たに「文理学科」が設

置されることになった。さらに、今年度から5年間、

SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定も受け

ている。

今回は、SSH担当で生物科の北浦隆生先生に話を伺った。

物理・化学・生物の基礎科目を必履修に

生野高校は1時限70分5限で、週当たり34単位の教育

課程である。1年生は10クラス、2年生は9クラス、3年

生が8クラスであり、3年生から文系、理系Ⅰ、理系Ⅱ

(数学Ⅲ・数学Cのない理系)の3つの類型に分かれる。

現在の普通科の理科の教育課程は次の通りである。

1年次:4単位(『理科総合A』『理科総合B』各2単位)

2年次:5単位(『化学Ⅰ』2単位必修、『物理Ⅰ』『生物

Ⅰ』3単位から1科目選択)

3年次:

文系2単位(学校設定科目「物理セミナー」「化学セミ

ナー」「生物セミナー」2単位から1科目選択)

理系Ⅰ-8単位(『化学Ⅱ』4単位必修、『物理Ⅱ』『生

物Ⅱ』4単位から1科目選択)

理系Ⅱ-4単位または8単位(『物理Ⅱ』『化学Ⅱ』『生

物Ⅱ』各4単位から1あるいは2科目選択)

同校では来年度から文理学科が設置される予定のため、

先に文理学科の教育課程を編成し、教育委員会に提出して

いる。

普通科の新課程での教育課程の検討にあたっては、各教

科の代表が集まる「教育課程委員会」で年度当初から話し

合いを進めている。しかし、まだ、来年度についての案が

できたところで、新課程普通科の最終決定には至っていな

い。

生物担当の北浦隆生先生は、次のように方針を説明する。

「新課程では、1年次に『生物基礎』2単位と『物理基

礎』2単位を、2年次に『化学基礎』2単位を配当し、そ

れ以外に基礎を付さない科目を置く予定です。それが何単

位かは検討中です。もし、現行の3単位が単位増となれば、

他教科との調整が必要です。3年次は、文系2単位、理系

8単位を考えています<表>」

全生徒が生物・物理・化学の基礎科目を履修するため、

普通科の文系の生徒は、履修する科目を2年次後期に決め

る予定である。

来年度新設の文理学科の文系コースでは、1年次での

『物理基礎』2単位、2年次の『化学基礎』2単位のほか、

1~3年の各学年に2単位ずつ生物を設けることが決まっ

ている。「生物に決めた理由の1つは、現行課程になった

際、中学校で『イオンを扱わないこと』とされたため、高

校の化学についていけない生徒が随分出てきたからです。

中学校も新しい学習指導要領が出て状況は少し変わりまし

たが、化学を十分消化しきれない生徒でも、生物を地道に

積み上げていけば大学受験に対応できるのではないかと考

えました」(北浦先生)

ところで、近畿地区以西の医学科では、理科3科目を課

す大学が多い。現在は、生物を選択できるよう特別枠を設

定して対応している。「しかし、2009年度入試から大阪大

医学科が2科目受験に変わり、さらに京都府立医科大・大

阪市立大も2科目に減らしたため、近畿地区で2011年度入

試に理科3科目を課す大学は、奈良県立医科大、京都大の

2大学に減りました。本来であれば医師になるには生物を

履修した方がよいとは思いますが、大学受験での生徒の負

担や、理科3科目を課す大学の減少を考えると、新課程で

は理系では2科目をしっかり教えるという方向に進んでい

くと思います」(北浦先生)

週34単位のため、大きな混乱はない

新課程での理科の教育課程の編成をめぐって、同校では

大きな混乱は起きていない。もともと週当たりの単位数が

34単位と余裕があり、体育などの時間数も多いため、「ど

こかを少し動かすのは可能」だからだ。

北浦隆生先生

2011年度から設置の文理学科で先行して検討教育課程だけでなく『生物基礎』の内容の変化や理科実験も課題

大阪府立生野高等学校

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Kawaijuku Guideline 2010.11 9

「また、新課程では理科の単位

が偶数になったので、他教科の2

単位・4単位と差し替えることが

できるようになり、調整しやすく

なりました。理科が3単位・3単

位から2単位・4単位に変わった

のは、『偶数にしてほしい』とい

う意見が出ていたからだと聞いて

います」(北浦先生)

もし、2年次後期の理科の科目

を選択科目にした場合は、2年次

で文理分けが進むことも予想される。

「現在は2年次の段階では、数学の中身で多少文系、理

系が分かれています。2年次後期に数学Ⅲ・数学Cが入る

よう授業を組んでいて、理系志望の生徒はこれを受講する

ようにしています。ですから2年次で数学Ⅲ・数学Cを受

けた生徒は3年次になって文系に変えることは可能です

が、その逆は難しい。現在、理科は、2年次は『化学Ⅰ』

が必修で、もう1つは『物理Ⅰ』か『生物Ⅰ』を選ぶこと

になっていますが、理系の生徒には『物理がいいね』とい

う話はしています。あまり早い段階で進路分けをさせたく

はないのですが、『2年生の時点でおおざっぱには文理の

進路を決めよう』と伝えています」(北浦先生)

生物の教科書の中身が大幅に変わり指導のノウハウの若手教員への継承も課題に

今回は、新課程での理科の教育課程編成を中心に話を伺

ったが、大阪府高等学校生物教育研究会で事務局長を務め

る北浦先生は、「新課程では『生物基礎』の教科書の内容

が大きく変わる。これこそが最大の課題になると思います」

と指摘する。

『生物基礎』では、第1編「生物と遺伝子」、および第3

編「生物の多様性と生態系」において、一部『生物』と重

複した分野がある。これらの分野は『生物基礎』でその概

要を扱い、『生物』で詳しい内容が扱われる予定だが、『生

物基礎』で遺伝子と代謝の概要がどの程度扱われるかが注

目されているのだ。

「この30年間は、1975(昭和50)年代に作られた枠組み

を基本に、『内容を易しくする』という方向で教科書の改

訂がなされてきました。ところが今回の改訂では、『新し

い科学的知見に対する観点から指導内容を刷新する』とさ

れ、DNAなど最新の科学が多く盛り込まれる可能性があ

特 集新学習指導要領の教育課程編成における理科科目の現状と課題特 集

ります。これまでの『易化』の流れが変わるため、現場で

は混乱するのではないでしょうか。

私は2つの課題があると思います。1つは、中学校と高

校の移行の点です。中学校の学習指導要領の改訂では『遺

伝の規則性と遺伝子』が中学校に戻りました。中学校では

メンデルの法則の最初の部分(優性の法則、分離の法則)

を教えるだけで、高校からはいきなりDNAに入る。この

移行をどうスムーズに進めていくかという課題です。実感

を持って教えるのはかなり難しいでしょう。

2つ目は、高校では最新科学の実験が安全性や素材・機

器、費用の面からできないことです。『これまで高校でや

っていた基本的な実験や観察も並行してやるべきだ』(教

科書の内容とは別に)という話も出ていますが、教科書の

実物をまだ見ていないので、授業の具体的な中身をどう構

築するかは今のところ読めていません」

実験については、教員の団塊の世代の退職等の世代交代

により、これまで伝承されてきた実験のノウハウが絶えて

しまうことを北浦先生は懸念している。

「大阪では数年前から生物教員の新採用を再開しました

が、その前の16年程度は新採用がなかったように聞いて

います。現在は大量に若手教員を採用していますが、ここ

数年で団塊の世代が完全にいなくなります。30代から40

代半ばの教員が非常に少ないこともあって、先生間の文化

の伝承は困難になっています。高校の実験はある意味職人

芸の世界に近く、知っておくべき細かなノウハウがたくさ

んあるのですが、今新しく入ってきている先生たちは高校

時代がちょうど『ゆとり世代』で、実験経験が少ない上、

大学での実験実習も削減されています。教育課程も大切で

すが、これまで高校で培ってきた実験のノウハウを若手教

員に伝える必要があると思っています」(北浦先生)

<表>生野高等学校 新課程での理科の教育課程の編成案

文 系 理 系

生物基礎(2)

物理基礎(2)

   2年

化学基礎(2)

生物(2)

   3年

生物(2) (4) (4)*

1年

生物基礎(2)

物理基礎(2)

1年    2年

化学基礎(2)

生物

物理

   3年

化学(4)

生物

物理

【文理学科】

【普通科】 * 2年次に選択した科目から1科目選択

文 系 理 系

生物基礎(2)

物理基礎(2)

   2年

化学基礎(2)

生物

物理

  3年

化学

生物

物理

1年

生物基礎(2)

物理基礎(2)

1年    2年

化学基礎(2)

生物

物理

   3年

化学(4)

生物

物理

* 2年次に選択した科目から1科目選択

(未定) (未定) (2)

(4)*

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10 Kawaijuku Guideline 2010.11

1905(明治38)年に創立された下関市立下関高等女

学校を前身とする下関南高等学校は、2003年の共学化

と同時に単位制を導入した。生徒の95%が進学を目指

し、例年約50名の生徒が国公立大に合格している。

今回は、進路指導部長の松村成通先生と、理科主任

(物理担当)の児玉康史先生に話を伺った。

基礎科目を3科目必履修、1年次は『化学基礎』

下関南高校は各学年4クラスの高校で、文理分けは2年

次から実施している。週当たりの授業時数は32単位で、現

在の理科の教育課程は次の通りである。

1年次:『理科総合A』2単位

2年次:

文系3単位(『化学Ⅰ』『生物Ⅰ』から1科目選択)

理系7単位(『化学Ⅰ』3単位必修、『物理Ⅰ』『生物Ⅰ』

4単位から1科目選択)

3年次:

文系2単位(『理科総合A』『化学Ⅰ』『生物Ⅰ』から1

科目選択)

理系7単位(『化学Ⅱ』3単位必修、『物理Ⅱ』『生物Ⅱ』

4単位から1科目選択)

新課程では1年次に『化学基礎』、2年次は文理共通で

『物理基礎』と『生物基礎』の履修を検討している。新課

程の編成方針に関して、理科主任で物理を教える児玉康史

先生は次のように説明する。

「教務が作った複数の案をもとに、これまで3回の会議

を行いました。理科の単位数が増えるのは理科教員にとっ

てありがたいことですが、時間数の関係上、現行課程を大

きく変えることはできません。従って1年次に基礎科目を

2科目履修させるのは難しい。また、本校は女子の生徒が

8割を占め、文系希望者の割合が高く生物履修者が多いた

め、1年次は『化学基礎』を教えるのがよいのではないか

という話になっています」

2年次は、文系は『物理基礎』『生物基礎』を2単位ず

つ配当し、理系はさらに『化学』3単位を置く予定である。

3年次については、「現行の課程でも文系は1コースのみ

が2単位を履修していますが、現行に比べて新課程では文

系の2年次は4単位と1単位増加となります。仮に、3年

次で演習を設けるとなると単位数が現状より増加するた

め、検討中です。しかし、本校は単位制ですので、選択科

目を含めて組み方はいろいろ考えられます」(児玉先生)

3年次の理系は、『化学』2単位と『物理』または『生

物』を5単位とする予定だが、2・3年次の理科の総単位

数は現行課程と変わらない予定である。

全体方針を見据えたうえで教科ごとの戦略を立てる

下関南高校では、2012年度入学生の教育課程とあわせて、

2013年度からの教育課程を2学期中に決める予定だ。

進路指導部長の松村成通先生は、「2012年度は理科と数学

の先行実施ですが、教務はそれと平行して2013年度からの

全面改訂に備えて、新しい全体像を考えたいと思っていま

す。基本的には、現行の週32単位でと考えています。本来

は理科の教育課程をきっかけに、学校全体の教育課程の在

り方を考えることが必要だと思っていますが、今回はそう

いう流れにはなっていません。とはいえ、単に『単位数を

増やしたい』だけでは合意は得られないと思います。教務

から、『最初に全体の編成方針を決めたうえで、各教科は増

単が必要な理由を明確にしてほしい』という方針が出され

ていますが、個人的には理系は英・数・理、文系は国・

英・社をベースに単位増を検討すべきと考えています」

進路指導の面では、「限られた授業時数でやりくりする

なかで、受験科目ではない科目を3年次で履修させるのも

1つの方法です」と松村先生は言う。「2単位といっても

1年間フルに使っている1・2年よりは影響は少ないとい

う考え方もできます。理科の教育課程の編成をどうするか

という視点だけでなく、全体的な視野で教育課程を考える

ことが重要だと考えています」(松村先生)

松村成通先生

2012年度、2013年度の教育課程の編成に着手基礎3科目のうち、1年次に『化学基礎』を配当

山口県立下関南高等学校

<表>下関南高等学校 新課程での理科の教育課程案文 系 理 系

1年次

化学基礎(2)

2年次

生物基礎(2)

物理基礎(2)

3年次

検討中

1年次

化学基礎(2)

2年次

化学(3)

生物基礎(2)

物理基礎(2)

3年次

化学(2)

生物

物理 (5)

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Kawaijuku Guideline 2010.11 11

特 集新学習指導要領の教育課程編成における理科科目の現状と課題特 集

山口県立豊浦高等学校は、1792年に長府藩校の敬業館として創立された、110年を超える歴史を持つ高校である(単位制)。男子校であったが、2003年に共学化。生徒の多くは地方の国公立大への進学を希望しており、国公立大に例年70名程度合格している。今回は、進路指導課長(生物担当)の松本直哉先生、

物理担当の脇坂一夫先生に話を伺った。

2年次もしくは3年次に理科1単位増加を検討中

豊浦高校は、1年生は5クラス、2・3年生は6クラ

スで、2年次に文理分けを実施している。現在の授業時

数は週当たり31単位で、理科の教育課程は次の通りで

ある。

1年次:『理科総合A』2単位

2年次:文系3単位(『化学Ⅰ』『生物Ⅰ』『地学Ⅰ』か

ら1科目選択)

理系7単位(『化学Ⅰ』3単位必修、『物理Ⅰ』

『生物Ⅰ』4単位から1科目選択

3年次:文系3単位(2年次と同じ科目のⅡ)

理系8単位(『化学Ⅱ』4単位必修、『物理Ⅱ』

『生物Ⅱ』4単位から1科目選択)

新課程の編成にあたっては、1学期の半ば頃から教科

主任が集まる教育課程検討委員会で月1回程度話し合

い、これまで4回の会議を行った。進路指導課長の松本

直哉先生は、「一番課題となっているのは先行実施であ

ることです。他教科の先生方に理科は単位数を増やさな

いと対応できない状況を説明し、文系は2年次に1単位

増、理系は3年次に1単位増の方向で検討を進めており、

12月までに決定する予定です」と話す。

物理の脇坂一夫先生は、「全面改訂であれば一から組

み直すことができますが、理科の単位だけ増加となれば

『どの科目を減らすか』、それが難しければ『週の単位数

を増やすか』という話になります。しかし単位増にして

も先行実施の1学年だけ増やすことは学校全体としてで

きません」

現在6時限の授業を7時限にする案も検討されたが、

文武両道が基本方針のため、部活動の時間を減らすこと

は避けたい。数学は大きく変化しないこともあり、理科

のために学校全体の教育課程を見直す方向に持って行く

のは困難な状況にある。「理科としては2単位増が望ま

しいのですが、現状では1単位増が限度です。しかしこ

れで案がまとまれば、全面実施のときに理科の単位数を

もう1単位増やすことはできず、悩ましいところです」

(脇坂先生)

1学年の理科2単位が教育課程の編成を困難に

文系生にどの科目を履修させるかという問題もある。

「8単位であること、文系生に基礎科目を3科目履修さ

せることはきついことを考えると、基礎科目2科目と、

『科学と人間生活』を必履修にする案も考えています」

(松本先生)

理系生は『科学と人間生活』は受験科目とはならない

と考えられるため、1年次は文系・理系とも基礎科目を

配当したいが、『科学と人間生活』との兼ね合いもあっ

て引き続き検討している。

「1年次の理科が2単位であるのが問題の根幹です。

本来は1年次で基礎科目を2科目履修するのが望ましい

のですが、現行2単位の高校が4単位に増やすのは困難

です。山口県内では多くの高校が1年次は2単位です。

1年次に4単位ある高校はスムーズに編成できるでしょ

うが、本校にとっては厳しいですね」(松本先生)

理系は、基礎科目とそうでない科目を同学年に配当で

きるか、調査を進めている。「理系は、現在『物理Ⅰ』

『物理Ⅱ』を1時間ずつ追加して、4単位・4単位にし

ています。新課程では2単位・4単位のため1時間ずつ

追加すると、3年次に物理5単位になります。化学もあ

るので、3年次に毎日物理と化学の授業があるよりは、

今と同じように2・3年次に4単位ずつ履修させよう

と、2年次に『物理基礎』と『物理』を置くという案が

出ています」(脇坂先生)

なお、文系生がセンター試験で基礎科目2科目受験とな

った場合には、どの科目をとるべきかという問題もある。

「一般的には生物と化学ですが、化学は暗記量も相当

多く、文系の生徒には大変だと思います。教員の問題は

ありますが、生物・地学の2科目で受けるのも1つの方

法でしょう」(松本先生)

「今春のセンター試験は計算問題が増えていましたが、

それ以前の流れを見ると、計算問題は減っています。物

理は理科的な思考力が必要ですが覚えることは少ない。

文系の生徒が物理を選択するというのもあり得るかもし

れません」(脇坂先生)

松本直哉先生

現行の1年次の理科2単位をベースに『科学と人間生活』を含む教育課程の編成を検討

山口県立豊浦と よ ら

高等学校

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