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ISSN 02875241 名古屋市衛生研究所報 59 Annual Report of Nagoya City Public Health Research Institute No.59 名古屋市衛生研究所 Nagoya City Public Health Research Institute

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ISSN 0287-5241

名古屋市衛生研究所報

第 59 号

Annual Report of Nagoya City Public Health Research Insti tute

No.59

2 0 1 3

名古屋市衛生研究所 Nagoya City Public Health Research Institute

目 次

報文

繊維製品のホルムアルデヒド試験法における問題点の検討 岩間雅彦,鈴木昌子 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 1

繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染・判別法(第 5 報) 岩間雅彦,鈴木昌子 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 7

繊維製品中ホルムアルデヒド樹脂加工/移染・判別法の迅速試験法 岩間雅彦,鈴木昌子 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 15

形態安定加工シャツのホルムアルデヒドの最近の状況と 20 年間のまとめ 岩間雅彦,鈴木昌子 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 21

資料

名古屋市感染症発生動向調査患者情報 2012 年の調査結果

瀬川英男,児島範幸,牛田寛之,長谷部哲也,平光良充,原田裕子 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 27 名古屋市における自殺死亡率の月次変動

平光良充 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 35 名古屋市内における蚊のウエストナイルウイルス調査(2012)

横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎,小平彩里 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 39 アセチルコリンエステラ-ゼ阻害剤用迅速キットの液状食品中の有機リン系殺虫剤の比色定量における適用性について

濱崎哲郎 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 43

他誌発表論文抄録 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 49

学会等発表 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 58

著書 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 63

Contents

Original papers Examination of Problems in Test Method for Determination of Formaldehyde in Textile Goods

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 1 A Method for Discrimination of Conjugation or Migration of Formaldehyde on Textile Products ( V )

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 7 A Rapid Test Method for Discrimination of Conjugation or Migration of Formaldehyde on Textile Products

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 15 Researches on Formaldehyde in Shape-stabilizing Finished Shirts in 1994-2013

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 21 Reports Summary of Nagoya City Infectious Disease Surveillance for Case Incidence in 2012

Hideo SEGAWA, Noriyuki KOJIMA, Hiroyuki USHIDA, Tetsuya HASEBE, Yoshimichi HIRAMITSU and Yuko HARADA - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 27

Monthly Trends of Suicide Mortality in Nagoya City Yoshimichi HIRAMITSU - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 35

Surveillance of Mosquitoes for West Nile Virus in Nagoya City (2012) Hiroaki YOKOI, Yuuki KAMITE, Shin-ichiro SHIBATA and Akari KODAIRA - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 39

Application of a Rapid Kit-Assay System for Acetylcholinesterase Inhibitors to Colorimetric Determination of Organophosphorus Insecticides in Liquid Foods

Tetsuo HAMASAKI - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 43

Summaries of Papers Published in Other Journals - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 49 Presentations at Meetings - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 58 Books - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 63

報 文

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 1-5 (2013)

-1-

繊維製品のホルムアルデヒド試験法における問題点の検討

岩間雅彦,鈴木昌子

Examination of Problems in Test Method for Determination of Formaldehyde in Textile Goods

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI

繊維製品のホルムアルデヒドの試験操作等について検証し,問題点の確認を行った.公定法では,試料調製

時に繊維を細かく切るとされているが,細かく切った場合と切らない場合で測定値に大きな違いは認められな

かった.また公定法では,抽出時に時々振とうするとされているが,振とうしない場合もほとんど同じ測定値

であった.一方,常時振とうした場合は,時々振とうするより高めの値となった.アセチルアセトン試液の経

時変化を見たところ,室温保存した試液が,測定直前に調製した試液と同等な測定値を示すのは,1 週間の保

存までであった.1000 mg/L の標準原液を用いて調製した 0.4 µg/mL の標準液について,試験者,光度計,試

験日を組み合わせて合計 45 測定を行ったところ,吸光度 0.050~0.053 と,ほぼ安定した値であった.また,

0.4 µg/mL の標準液が使用可能なのは,冷蔵庫内保存で 1 カ月までであった.さらに,基準値と測定値の有効数

字に関する問題点および JIS との整合性について述べた.

キーワード:家庭用品,ホルムアルデヒド,繊維製品,アセチルアセトン,標準液,JIS Key words : household products,formaldehyde,textile goods,acetylacetone,standard solution,JIS

緒 言 繊維製品のホルムアルデヒド(HCHO)は,規制開始の

1975 年から 40 年近く経った現在も,公定法1)の試験操作

等に関する質問・相談が,全国各地の検査機関や研究所等

から当研究所によく寄せられている. ルーチンワーク等,多数検体の試験時には,確かな測定

値を効率のよい操作で得ることが求められる.HCHO の

試験操作条件の検討については,規制開始当時に行われた

猪子らの報告2)があるが,これは例数の少ない簡易的なも

のである.そこで今回,試験操作の基礎的事項等について

改めて検証し,問題点の確認等を行った.

調 査 方 法 1.試薬・装置 試薬は特級品を用い,公定法に従って調製した.標準液

の調製には,関東化学製 ホルムアルデヒド標準原液(水

質試験用,1000 mg/L,メタノール溶液,アンプル入り)

を使用した. 吸光度の測定には,島津製作所製 自記分光光度計

UV-265FS(フローセル付),UV-2450(同)および分光

光度計 UV-1200 を用いた(光度計 A・B・C).振とう抽

出には,ヤマト科学製 振とう恒温槽 BT-25 を用いた.

2.遊離ホルムアルデヒド測定方法 遊離 HCHO の測定は,基本的に公定法の乳幼児用繊維

製品の試験法に従って,抽出・発色・吸光度測定(測定波

長:414 nm)を行った.ただし,A0 の測定には緩衝液を

用いるのが適当3)と考えられるため,そのようにした.

3.試験布

抽出条件の検討には,以下の布を使用した. 布 A:移染布(綿 100%,乳幼児用シーツ,ふち部分) 布 B:移染布(綿 100%,乳幼児用ロンパース, ラバープリント部分) 布 C:加工布(綿 50%/ポリエステル 50%, 大人用ワイシャツ,本体部分) 布 D:加工布(綿 100%,大人用ワイシャツ,本体部分) 布 E:加工布(綿 100%,乳幼児用帽子,本体部分) このうち布 A・B・E は,行政検査で基準違反となった

検体の残り布である.検体残量が少ないため,同一条件で

のばらつきを見る複数測定は不可能であった.布 E は検体

残量が特に少なく,一部の実験にのみ使用した. 布 C・D は,ノーアイロンシャツを対象に行った調査

4)

で遊離 HCHO 量が布 A・B・E に近かった製品の身頃生

地を,乳幼児用の検体とみなして使用した. なお,これらの布の移染と加工の判別は,樹脂加工/移

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-2-

染・判別法5)を用いて事前に行った.

結果および考察

1.繊維試料を細かく切る必要性について 公定法では,繊維を「細かく切ったもの」を試料とする

とされているが,多数検体の試験時には,細かく切る作業

により試料調製に長時間を要する. 猪子らの報告

2)では,細かく切った場合と切らない場合

で大きな違いは認められないとしているが,これは 1 種類

の樹脂加工布のみによる実験なので,今回,移染布を含む

5 種類の布を用い,細かく切る影響について検証した. 布 A~E をそれぞれ 2 枚に切り分け,1 枚は 10 mm 角

に細かく切って 2.50 g を採り,1 枚はそのまま 2.50 g まで

切り縮めた(抽出時に水に浸るように,数 cm 以下の幅に

なるように切った).これらの布について,抽出・発色・

吸光度測定を行った. 結果を表 1 に示した.吸光度差(A-A0)の「細かく切

る」と「そのまま」の差は,最大で 0.003,平均 0.001 で

あった.切り分けた 2 枚の遊離 HCHO 量が加工や移染の

不均等により全く同じでない可能性と,検査成績の値とし

て表す際に吸光度差の値が 1 桁上に四捨五入6)されること

を考え合わせると,実質的な差はほとんどないといえる. なお,細かく切ると表面積が増加し,例えばアップリケ

などの部分品は,内部からの溶出が着用時の実態より多く

なる可能性も懸念される(そのような部分品は量が少ない

ため,今回は実験可能な基準違反検体に遭遇しなかった). また,公定法の「細かく切る」は,試料の均一化が目的

と考えられるが,製品は複数の部位から成ることが多く,

部位ごとの測定が必要で,乳幼児用製品の試験では部分品

は公定法の試料量(2.50 g)程度しかないことも多いため,

均一化はあまり意味を持たない.さらに,基準違反の場合

に検査後のサンプルを確認のため保存するには,細かく切

らずになるべく原形を残す方がよい. これらのことも考え合わせ,繊維を細かく切っても切ら

なくても測定値がほぼ同じであったことから,試料は「抽

出時に水中に確実に浸る程度の大きさ以下に切る」ことで

充分ではないかと考える. 2.抽出時の振とうについて 公定法では,40℃の水浴中で「時々振り混ぜながら」抽

出,とされている.しかし,この操作は多数検体の試験時

には煩わしいとの声が多く,また,どのくらいの間隔で振

とうするかは定められていない. 猪子ら

2)はこれについても実験を行い,時々振とうと振

とうしない場合はほぼ同じで,常時振とうは高め,として

いるが,これも 1 加工布のみによる実験であるので,移染

布を含む 4 種類の布で,改めて検証した. 布 A~D を用い,振とうしない(静置),時々振り混ぜ

る(時々),常時振とう(常時)という各条件で抽出し,

発色・吸光度測定を行った.なお,比較実験であるので,

試料を極力均一化すべく,布は細かく切った.「時々」は

15 分間隔で水平に軽く 2 往復振り混ぜ,「常時」は振と

う恒温槽を用いて水平に約 120 往復/分で振とうした. 結果は表 2 に示した.吸光度差(A-A0)の「時々」と

の差は,「静置」では最大でも 0.002 しかなかった.前述

のように検査成績は 1 桁上に四捨五入されるので,差はほ

とんどないといえる.これに対し「常時」は「時々」より

高い傾向で,最大で 0.009 高くなった. この結果から,「時々」では振とうの度合いが一定でな

いことも考え合わせると,抽出は「静置」で行えばよいと

思われる. 3.アセチルアセトン試液の色づきと発色能力の経時的変

化について アセチルアセトン試液(AA 試液)は,調製後,時間と

ともに試液自体が黄色く色づいてくる.公定法には「用時

調製」と明記されているが,当研究所への質問・相談時の

情報によれば,作り置きの AA 試液を使い続けているとい

う検査機関もある.そこで,AA 試液の経時変化について

検証した. 公定法に従って調製した AA 試液を,透明の試薬瓶中で

室温保存し(保存試液),精製水を対照として AA 試液そ

のものの吸光度を測定し,色づきの経時変化を見た. 表 3 に示したように,AA 試液の色づきは,24 時間まで

は吸光度 0.002 と,ほとんど変わらなかったが,1 週間で

0.009,1 カ月では 0.030,さらに 2 カ月では 0.051 と上昇

し,1 カ月頃から肉眼でも黄色の着色が確認された. また,発色能力の経時変化を見るため,各測定の当日に

調製した 0.4 µg/mL の標準液を,上記の保存試液および測

定直前に調製した AA 試液(直前調製試液)を用いてそれ

ぞれ発色させ,吸光度を測定した(対照液は,公定法のと

おり,精製水+AA 試液). 結果は,表 3 に示したように.直前調製試液に比べ,1カ月保存した保存試液は吸光度 0.004,2 カ月では 0.008低い測定値となった. これらのことから,AA 試液は公定法のとおり用時調製

を原則とし,保存した試液を使用する場合は,AA 試液の

色づきが多くなり始める1週間程度までとすべきではない

かと考える. なお,AA 試液は公定法では「用時調製」とされている

のに対し,ISO 14184-17)(以下,ISO)では,調製から

12 時間経過してから使用することとされている.これは,

色づきの影響を避ける目的で,前者は調製後すぐに発色に

使い,後者は色づきが安定してから使うという方針の違い

と思われる.ISO では「少なくとも 6 週間は使用可能」と

しているが,吸光度の経時変化に対応するために校正曲線

の作成を推奨している.これに対し,吸光度差が基準値

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-3-

表1. 試料を細かく切る場合とそのままの場合の吸光度値の比較

試料 吸光度A 吸光度A0 吸光度差(A-A0)

細かく切る そのまま 細かく切る そのまま 細かく切る そのまま 差 a)

布A 布B 布C 布D 布E

0.047 0.076 0.069 0.100 0.113

0.050 0.079 0.072 0.103 0.112

0.010 0.008 0.006 0.001 0.041

0.011 0.008 0.007 0.001 0.043

0.037 0.068 0.063 0.099 0.072

0.039 0.071 0.065 0.102 0.069

+ 0.002 + 0.003 + 0.002 + 0.003 - 0.003

a) (そのまま)-(細かく切る)

表2. 抽出時の振とう条件による吸光度値の比較

試料 吸光度A 吸光度A0 吸光度差(A-A0)

静置 時 々 常時 静置 時 々 常時 静置 時 々 常時 差(静置)a) 差(常時)b) 布A 布B 布C 布D

0.048 0.074 0.070 0.102

0.047 0.076 0.069 0.100

0.048 0.087 0.073 0.105

0.010 0.007 0.005 0.001

0.010 0.008 0.006 0.001

0.011 0.010 0.007 0.001

0.038 0.067 0.065 0.101

0.037 0.068 0.063 0.099

0.037 0.077 0.066 0.104

+ 0.001 - 0.001 + 0.002 + 0.002

0.000 + 0.009 + 0.003 + 0.005

a) (静置)-(時々) b) (常時)-(時々)

表3. アセチルアセトン試液の色づきと発色能力の経時変化

試液 保存期間 (調製時) 6時間 24時間 1週間 1カ月 2カ月

吸光度

保存試液のみ 0.000 0.002 0.002 0.009 0.030 0.051

標準液を保存試液で発色 - b) 0.051 0.051 0.051 0.048 0.044 標準液を直前調製試液で発色 0.050 0.052 0.051 0.051 0.052 0.052

差 a) - - 0.001 0.000 0.000 - 0.004 - 0.008 a) (標準液を直前調製試液で発色)-(標準液を保存試液で発色) b) 該当せず

表4. 標準液の吸光度測定結果

試験日1 試験日2

試験者Ⅰ 試験者Ⅱ 試験者Ⅰ 試験者Ⅱ

光度計A 光度計B 光度計C

0.052 / 0.051 / 0.051 0.051 / 0.051 / 0.051 0.051 / 0.052 / 0.050

0.051 / 0.051 / 0.051 0.050 / 0.050 / 0.050 0.050 / 0.051 / 0.051

0.051 / 0.051 / 0.051 0.052 / 0.052 / 0.052 0.052 / 0.052 / 0.052

0.051 / 0.051 / 0.051 0.052 / 0.052 / 0.052 0.052 / 0.052 / 0.052

試験日3 試験日4 試験日5

試験者Ⅰ

光度計A 0.052 / 0.052 / 0.053 0.050 / 0.051 / 0.051 0.051 / 0.051 / 0.051

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-4-

である家庭用品の公定法では,吸光度の経時変化を避ける

べく,用時調製が望ましいと考えられる.

4.標準液の調製とその吸光度測定値 公定法では,局方ホルマリンを希釈して,ヨウ素液等を

用いて標定し,標準液を調製するとされている.しかし,

平成 19 年の特定化学物質障害予防規則8)の改正で HCHO

が特定第 2 物質に変更され,1%以上を含有する薬品を取

り扱う場合は多くの規定が適用されるようになった.調査

方法 1.試薬・装置 に示した標準原液は,1%未満なの

でこれに該当しない.平成 16 年の公定法改正の基礎とな

った五十嵐らの研究9)でも,この標準原液が使用されてい

ることから,これを使用することは問題ないと思われる.

今回,この標準原液を使用した場合の,標準液の測定値の

ばらつきなどについて検討した. 2 人の試験者が,3 台の光度計を用いて,5 回の試験日

にわたって試験した(2 日目までで試験者と光度計による

差が少ないことを確認したので,3 日目からは試験者 1 人

で 1 台の光度計で行った).それぞれの試験当日に各人が

別々の標準原液(同一ロット)のアンプルを開け,2,500倍(50 倍を 2 回)希釈して 0.4 µg/mL の標準液を調製し,

それを試験管 3 本に取って,それぞれ発色・吸光度測定を

行った. 結果は,表 4 に示したように,吸光度 0.050~0.053 と,

ほぼ安定した値で,試験日による試薬の調製の差や,試験

者,光度計による標準液の測定値のばらつきは,ほとんど

問題ないと思われる範囲であった. 5.標準液の経時変化

標準液を保存した場合の経時変化について検討した.前

項と同様に 0.4 µg/mL の標準液を調製し,一部を採り,発

色・吸光度測定を行った.残液を冷蔵庫内に保存して,1週間後,1 カ月後および 2 カ月後に,同様に発色・吸光度

測定を行った. 調製日に 0.050 であった吸光度値は,1 週間後も 1 カ月

後も 0.050 と変化がなかった.しかし,2 カ月後には 0.042となり,0.008 低下した.このことから,0.4 µg/mL の標

準液が使用可能なのは,冷蔵庫内保存で 1 カ月までという

ことがわかった. また,温度の影響を見るため,別に調製した 0.4 µg/mLの標準液を室温で保存したところ,調製日に吸光度 0.052であったのが,1 カ月後には 0.039 となり,0.013 低下し

た.このことから,標準液の保存は冷蔵庫内が推奨される. なお,0.4 µg/mL は,公定法の乳幼児用製品の試験法に

おける標準液の濃度であり,乳幼児用以外の製品の試験法

における標準液は 4 µg/mL である.その 4 µg/mL の標準

液について,厚生労働省監修の家庭用品規制実務便覧10)

の公定法の注 12 に,「吸光度 0.53 以下となったものは用

いてはならない」とあり,これは公定法制定の基礎となっ

た大場ら11)

の報告に基づくものと見られるが,前項や上記

の結果からも経験上からも,「0.53 以下」は厳しすぎると

思われる.検量線はほぼゼロ点を通る直線9,10)

であり,

1/10 濃度の 0.4 µg/mL の標準液のデータではあるが,我々

と同じ標準原液を使用した,五十嵐ら9)の 5 研究機関によ

るクロスチェックにおいても,吸光度は 0.049,0.050,0.050*

,0.054*,0.057 という結果で,0.053 以下の方が

多かった(*:0.5μg/mL の吸光度から換算した値).

6.基準値と測定値・有効数字 行政検査の現場では,検査成績の値が基準値前後となる

場合,基準適合/不適合の分かれ目となるので,慎重な値

の取り扱いが必要である.以下,吸光度計の読み取り値を

小数点以下 3 桁として,有効数字等について考察する.

乳幼児用繊維製品の基準は 2 つの値から成り,「吸光度

差 A-A0が 0.05 以下,あるいは 16 ppm(繊維 1g あたり

の溶出量(µg))以下」であるので,不適合の要件は「吸

光度差 A-A0が 0.06 以上,かつ 17 ppm 以上」となる.

そして厚生省の通知6)では「試験値は 1 桁下まで求めて四

捨五入」するとされている.

吸光度差 A-A0については,読み取り値の差が 0.054 の

場合は四捨五入により 0.05 となり,適合である.読み取

り値の差が 0.055の場合は,四捨五入により 0.06となり,

不適合である.このように,有効数字 2 桁が四捨五入され

て 1 桁になるので,通知どおりの取り扱いである.

これに対し,ppm は,A-A0と AS(標準液の吸光度)

から算出される.A-A0が 0.055 の場合,ASが 0.054 なら

16.3 ppm と算出され,16 ppm と四捨五入されて適合であ

る.ASが 0.053 なら,16.6 ppm と算出されて 17 ppm と

四捨五入され,不適合である.このように,有効数字 2 桁

のA-A0と,同じく2桁のASから,3桁のppm を算出し,

再び 2 桁に四捨五入することになる.このことから,ppmの基準については,値の信頼性および通知の趣旨を満たす

か否かについて,検討の余地があると思われる.

ppm の基準は,吸光度差による基準がわかりにくいとの

声で追加されたものであるが,もともと吸光度差 A-A0

の 0.05 という基準値が,ジメドンによる確認試験の確認

限界から設定されたことに鑑みると,基準値は吸光度差で

表し,参考値として ppm の値を併記する,という形にす

ることも考えられる.

7.JISとの整合性 JIS L 104112)

(以下,JIS)は,家庭用品の公定法との

整合化を図っている.2011 年改正のための原案作成委員

会に当研究所からも委員として参加し,これまでの検討を

踏まえて改正原案を作成したが,その改正の結果,現時点

では家庭用品の公定法といくつかの違いが生じている. 家庭用品の公定法では,A0 の測定には精製水を使用し,

通知6)により「A の測定で濁りを生じた場合」のみ「緩衝

液を用いる」としている.これについて,我々は実験デー

タ3)および公定法制定時の厚生省主催の研修会資料

13)を

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-5-

根拠に,「すべての場合に緩衝液を用いて A0 の測定を行

う」ことが適当であると指摘してきたが,委員会で検討の

結果,JIS はそのように改正された.家庭用品の公定法も,

改定時にこの点を検討すべきと考える.なお,同通知には,

A0測定時の対照液に誤りがある3)ので,その訂正の明文化

も望まれる. また,同通知

6)により「基準値に近い場合,硫酸デシケ

ータ中に放置し再試験」するとされているが,これについ

ても,我々は実験データ3)をもとに「かえって誤差が生じ

る可能性があるため行わない方が良い」と指摘してきた.

これを受けて,JIS ではこの改正で「予備乾燥及び調湿」

を行わないよう明記した(ISO にも同様な記載がある).

家庭用品についても,このような明文化が望まれる. さらに,改正により,JIS に樹脂加工/移染・判別法

5)

が附属書 JE として収載された.また,JIS では,抽出や

発色の加温時に「栓を一度緩める」操作が推奨されていて,

これは多数検体を試験する現場での「加温中に栓が飛んで

外れることが多い」という声を反映したものである.これ

らの事項についても,家庭用品の公定法の改定時には,追

加等が検討されるべきと思われる.

結 語 繊維製品の HCHO の試験操作等について検証するとと

もに,これまでに我々が指摘し,JIS で改正された事項等

について述べた. これらに加え,規制対象品目についても検討の余地があ

る.衣類は時代とともに市場状況等が変化するため,規制

開始から 40 年近く経った現在,行政検査の現場では,ど

の品目に分類すべきか迷う製品もある.また大人用ワイシ

ャツやブラウスは,欧州の自主基準 Oeko-Tex Standard 10014)

では「肌に直接触れる」という分類で規制対象とな

っているが,家庭用品の公定法では「中衣」に分類されて

いるため規制対象外である.これらの製品は,肌に接する

面積が大きく,形態安定加工された製品の調査4),15)

にお

いて下着等の基準値である 75 ppm を超える製品も見ら

れることから,規制について検討する必要があると考える.

さらに,繊維製品以外にも目を向けると,木製の玩具や,

MDF(中密度繊維板)を使用した文具等で,非常に高い

値の製品が市場にある16)

ことから, これらの規制につい

ても検討が必要と思われる.

謝 辞 この研究の一部は,受託行政検査の基準違反検体および

受託調査の検体を使用して行った.委託元の当市健康福祉

局環境薬務課の方々に感謝いたします.

本研究の要旨は,一部を第 49 回全国衛生化学技術協議

会年会(2012,高松)の部門別研究会で講演,また一部は

第 50 回全国衛生化学技術協議会年会(2013,富山)で発

表した.

文 献 1) 厚生省令第 34 号“有害物質を含有する家庭用品の規制に

関する法律施行規則”昭和 49 年 9 月 26 日(1974)

2) 猪子忠徳,中林 喬,遊離ホルムアルデヒド:測定上の問題

点の検討と移染試験,繊消誌,17,198-203(1976)

3) 岩間雅彦,鈴木昌子,青山大器,中島重人,繊維製品のホル

ムアルデヒド試験法に関する検討,名古屋市衛研報,52,1-5

(2006)

4) 岩間雅彦,鈴木昌子,形態安定加工シャツのホルムアルデヒ

ドの最近の状況と 20 年間のまとめ,名古屋市衛研報,59,

21-26(2013)

5) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加

工/移染・判別法(第 5報),名古屋市衛研報,59,7-13(2013)

6) 厚生省環境衛生局企画課長通知 “有害物質を含有する家庭

用品の規制に関する法律の運用に伴う留意事項について”

昭和 50 年 2 月 17 日,環企第 48 号(1975)

7) ISO 14184-1 : 1998 , Textiles ‒ Determination of

formaldehyde ‒ Part 1: Free and hydrolized formaldehyde

(water extraction method) (1998) 8) 労働省令第 39 号“特定化学物質障害予防規則”昭和 47 年 9

月 30 日,(1972)

9) 五十嵐良明,鹿庭正昭,土屋利江,有害物質含有家庭用品規

制法のホルムアルデヒド試験方法の改定にかかわる検討,国

立衛研報,121,16-24(2003)

10) 保健衛生安全基準 家庭用品規制関係実務便覧,第一法規,

東京,1975(2012 まで加除),p.2059 の 3

11) 大場琢磨,中村晃忠,小嶋茂雄,毛利純子,家庭用品に含有

される化学物質の試験法について,医薬品研究,6,196-205

(1975)

12) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法(2011)

13) 各都道府県政令市地方衛生研究所等家庭用品担当技術職員

研修会,資料 No. 2,昭和 50 年 7 月 31 日(1975)

14) International Association for Research and Testing in the Field of Textile Ecology,Oeko-Tex Standard 100,Edition

03/2000 (2000) 15) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

本勝彦,形態安定加工されたズボン,ブラウス,ポロシャ

ツのホルムアルデヒドに関する調査,名古屋市衛研報,43,

4-8(1997)

16) 岩間雅彦,鈴木昌子,100 円ショップで販売されている木

製玩具・ボード類のホルムアルデヒド溶出量調査(2012),

名古屋市衛研報,58,35-39(2012)

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 7-13 (2013)

-7-

繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染・判別法(第 5 報)

岩間雅彦,鈴木昌子

A Method for Discrimination of Conjugation or Migration of Formaldehyde on Textile Products ( V )

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI

繊維製品のホルムアルデヒドの基準違反原因を判別する試験法を開発し,改良を続けてきたが,JIS 規格に

収載されるにあたってさらに検討を行い,試験操作に関する記号の整理や判別基準の明確化等を行った.また,

過去約 5 年間の行政検査での基準違反製品等,93 検体の判別結果について検討した.違反製品と類似品等を 1事例とまとめると,乳幼児用繊維製品 34 事例のうち,明らかに移染と判別できたのは 14 事例,樹脂加工は 11事例で,計 25 事例(73%)で確定的に判別を行うことができた.残りの 9 事例のうち,6 事例は総合的に判

断・確認して移染と判別でき,3 事例は特殊なプリントや製品内の移染等のため判別に注意が必要であった.

さらに,乳幼児用繊維製品を,推定分を含めて基準違反原因をまとめたところ,移染が 21 事例,樹脂加工は

13 事例と,移染の方が多く,販売店舗での移染より,製造・流通段階での移染と考えられる事例が多かった.

なお,違反の原因部位は,移染の事例ではプリント部が半分以上を占め,樹脂加工では,飾りなどの付属品が

最も多かった.

キーワード:家庭用品,ホルムアルデヒド,繊維製品,樹脂加工,移染,加水分解,JIS Key words : household products,formaldehyde,textile goods,resin finishing,migration,hydrolysis,

JIS

緒 言 繊維製品のホルムアルデヒド(HCHO)は,「有害物

質を含有する家庭用品の規制に関する法律施行規則」1)

により規制されている.当研究所でも規制開始当初から

継続して行政検査を行っているが,基準違反事例は後を

絶たない2).

基準違反の場合には,行政指導すべき対象を明確にす

るために,違反原因の特定が望まれる.原因が樹脂加工

であれば製造段階に問題があると考えられ,移染であれ

ば,販売店舗をはじめとして,どの段階で移染が起きた

かの調査が行われる. 塩酸抽出による「繊維製品中 HCHO の樹脂加工/移

染・判別法」は,樹脂の分解を促進させるべく希塩酸を

用いた抽出を行い,水抽出に比べて遊離 HCHO が増加

するかどうかを見ることにより,違反原因が樹脂加工か

移染かについての知見を得る試験法である. 我々はこの判別法を開発し,1985 年の発表以来,改

良・検討を続けてきた3)-7).この判別法は,1993 年

に厚生省主催の全国家庭用品安全対策担当係長会議で紹

介され,2004 年にはクロスチェックによるバリデーショ

ンの結果が五十嵐らにより報告8)されたこともあり,現

在では行政検査機関のみならず民間の繊維関係の検査機

関など,全国で広く利用されている.

これらの実績から,2011 年に改正された JIS L 1041(樹脂加工織物及び編物の試験方法)に,この判別法が

「附属書 JE 塩酸抽出判別法」として収載された9).

これに際し,当研究所から「JIS 改正原案作成委員会」

に委員として参加し,判別法についてのさらなる検討や

表現の改良等を行ったので,前報7)以降に実施した判別

事例の検討結果と併せて報告する.

調 査 方 法 1.試薬・装置

試薬は特級品を用い,公定法1)に従って調製した.

吸光度の測定には,自記分光光度計 島津製作所製

UV-265FS(フローセル付)を用いた.

2.判別法の操作

操作の流れを図 1 に示す.操作は,特に明記する以外

は公定法に準じる.

出生後 24 月以内の乳幼児用繊維製品(乳幼児用製品)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-8-

は 2.50 g,それ以外の繊維製品(その他用製品)は 1.00 g を 200 mL 共栓瓶に採る.繊維は,ろ過時に共栓瓶か

ら流出しないよう,細かく切らない(公定法のように細

切しなくても,測定値に影響はない10)).

次に,以下のように 4 回抽出を行う.

1 回目(公定法に相当):繊維を,精製水 100 mL を

用いて 40℃で 60 分間抽出し,G2 ガラスろ過器でろ過

して 1 回目の抽出液とする.ろ過の際,繊維が共栓瓶か

らなるべく流出しないように,また抽出液は充分に流出

するように注意して操作する.この繊維を,共栓瓶に入

ったまま,2 回目の抽出に再使用する.

2 回目:1 回目と同様に,繊維をもう一度精製水 100 mL で抽出,ろ過し,2 回目の抽出液とする.さらにこの

繊維を 3 回目の抽出に再使用する.

3 回目:0.1%塩酸 100 mL で繊維を同様に抽出,ろ過

し,3 回目の抽出液とする.さらにこの繊維を 4 回目の

抽出に再使用する.

4回目:1%塩酸 100 mLで繊維を同様に抽出,ろ過し,

4 回目の抽出液とする.

1,2,3,4 回目の抽出液を,それぞれ次項に示すよう

に発色させて吸光度 A および A0を測定し,吸光度差(A-A0)の値を,それぞれ A1,A2,A3,A4とする.

3.発色および吸光度測定

発色操作および吸光度の測定は公定法に準じて行う. A0の測定には,公定法では精製水を用いるとされてい

るが,我々の研究など11),12)をもとに,JIS13)では

緩衝液を用いるように改正されたので,この研究でも緩

衝液を用いた.

吸光度測定は,波長 414 nm で行った.

4.判別事例の検討対象検体

2007 年 5 月~2012 年 9 月の間に当研究所で行政検査

を行い,その結果が基準違反であった市販繊維製品と,

その違反原因追究のために検査した,同一製品や類似品

(色違い,サイズ違いなど),計 93 検体について,判

別法の結果を検討した.

結果および考察

1.記号の変更・追加

A1,A2,A3,A4 は,前報7)までは,①,②,③0.1,

④1と表記していたが,JIS との整合性を取るため,この

ように表記を改めた.

また,前報で「塩酸抽出増加」と呼んでいた値を,A+

とした.判別は,この A+ の値によって行う.

A+=(A3,A4のいずれか高い方)-A2

なお,公定法に相当する A1の値は,移染による HCHOと,樹脂の分解による遊離 HCHO が複合している可能

性がある値なので,判別には用いない.

2.判別に用いる数値の桁数

A1,A2,A3,A4 および A+の値は,必ず小数点以下 2桁に四捨五入して判別に用いることとする.もとより公

定法の値は厚生省の通知14)によって小数点以下 2 桁に

四捨五入することとなっているのにもかかわらず,これ

までに当研究所に寄せられた判別結果の問い合わせ等で,

小数点以下 3 桁のままで A2と A3,A4を比較して,判別

に迷った例をよく目にするが,小数点以下 2 桁にして単

純化した上で比較するべきである.

3.判別基準および違反原因判別の表現

一般に,樹脂加工がある場合は,塩酸抽出による吸光

度差の値が,水抽出に比べてかなり高い値となる.

そこで,まず塩酸抽出による増加分の値である A+によ

って樹脂加工の有無を判定し,その結果から,公定法で

基準違反となった原因を判別する. なお,以下の“樹脂加工”は,染料などの材料に由来

する場合を含む.

1)乳幼児用製品

1) A+が 0.02 以下の場合:

“樹脂加工なし”と判定.

→ 基準違反原因は“移染である”と判別する.

移染の有無は直接には知り得ないが,樹脂加工がない

ことから,基準違反の原因は移染であると考えられる.

2) A+が 0.05 を超える場合:

“樹脂加工あり”と判定.

図 1. 判別法の操作の流れ

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-9-

→ 基準違反原因は“樹脂加工の可能性が高い”と

判別する.

樹脂加工のある場合でも,必ずしもそれに由来する遊

離 HCHO が多く存在するとは限らず,移染の影響の方

が大きい可能性も否定はできないことから,正確には,

このように表現するのが適当と考えられる7). 3) A+が 0.03~0.05 の場合:

→ このデータのみでは確定的な判別はできない.

加工の度合いや繊維の複合などによっては値がこの範

囲に入る可能性がある.この場合は,可能ならば同一製

品や類似品の検査結果も参照し,包装の有無,保管の状

態なども考え合わせ,総合的に原因を判断することが望

ましい.

2)その他用製品

その他用製品は,公定法では測定結果を,繊維 1g あ

たりの溶出量(µg/g)で表すが,判別法では,乳幼児用

製品と同様に吸光度差(A-A0)の値を用いて A+を求め

ることとし,判別基準も乳幼児用製品と同一とする.

その他用製品は違反事例が少ないため,前報7)までは

明確な判別基準を設けていなかったが,今回検討した結

果,吸光度差の値を用いる方が判別しやすいと判断した.

また,その他用製品は,これまでの例から,樹脂加工の

場合は塩酸抽出で何倍も高い値となるなど,明らかに判

断できる場合がほとんどであるので,抽出比は乳幼児用

製品と異なるが,統一のために判別基準は乳幼児用製品

と同一とした.

4.判別事例の検討

判別法を市販製品に適用した結果について検討した.

基準違反製品とその同一製品や類似品をまとめて,一

つの“事例”とする.表 1~5 の No.の欄で,数字は事例

No.を表し,同一製品等の検体がある場合は,検体ごと

に a~d のアルファベットを付して示した.

測定は製品の各部位について行ったが,表には原則と

して,その検体で公定法の値が最も高い部位のデータを

示した.

1)乳幼児用製品:A+がすべて 0.02 以下の事例

表 1 に示すように,事例に含まれる検体すべての A+

の値が 0.02 以下であったのは 14 事例で,これらは,判

別基準から明らかに“移染”と判別できた.

表 1 の 46 検体のうち,A+の値が判別基準上限の 0.02であったのは 3 検体しかなかったように,移染の場合は,

A+は多くがゼロに近い値となる.

なお,No. 05c のように A1が 0.05 以下の類似品等に

ついては,“違反”検体ではないので,判別法の結果の

表現は,“樹脂加工なしと確認した”ということになる.

2)乳幼児用製品:A+が 0.05 を超える事例

表 2 に示すように,事例に含まれる検体の A+の値が

0.05 を超えたのは 11 事例で,これらは,判別基準から

明らかに“樹脂加工がある”と判定された.

表 2 のうち No. 18c,22c を除く 23 検体の A+の値は,

最低でも 0.10 で,このように樹脂加工のある場合は,判

別基準下限値の 0.05 を大きく超える検体が多かった.

No. 18c,22c はそれぞれ色違いの類似品であり,A+

は 0.02 以下で樹脂加工なしと確認され,公定法の値も低

かった.これらの事例では,染色工程で使用された材料

等が基準違反の原因と見られ,色違いの類似品には異な

る種類の染色材料等が使われたと推察される.

表 1. A+ がすべて 0.02 以下の事例(乳幼児用製品)

No. A1 A2 A3 A4 A+

01 a b c d

0.0 6 0.0 3 0.0 6 0.0 7

0.0 2 0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 1 0.0 1 0.0 1 0.0 2

0.0 2 0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0

02 a b c

0.0 6 0.0 5 0.0 7

0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 2 0.0 2 0.0 3

0.0 2 0.0 2 0.0 3

0.0 0 0.0 0 0.0 1

03 a b c d

0.0 6 0.0 6 0.0 6 0.0 7

0.0 1 0.0 2 0.0 1 0.0 1

0.0 2 0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 2 0.0 2 0.0 1 0.0 1

0.0 1 0.0 0 0.0 1 0.0 1

04 a b c

0.0 7 0.0 7 0.0 6

0.0 2 0.0 1 0.0 2

0.0 1 0.0 1 0.0 1

0.0 2 0.0 2 0.0 1

0.0 0 0.0 1 - 0.0 1

05 a b c

0.0 7 0.0 6 0.0 2

0.0 2 0.0 2 0.0 1

0.0 2 0.0 2 0.0 1

0.0 2 0.0 1 0.0 2

0.0 0 0.0 0 0.0 1

06 a b c

0.0 8 0.0 6 0.0 8

0.0 1 0.0 1 0.0 1

0.0 1 0.0 1 0.0 2

0.0 1 0.0 1 0.0 1

0.0 0 0.0 0 0.0 1

07 a b c d

0.0 8 0.0 9 0.0 7 0. 10

0.0 1 0.0 1 0.0 1 0.0 1

0.0 1 0.0 1 0.0 1 0.0 1

0.0 1 0.0 1 0.0 2 0.0 1

0.0 0 0.0 0 0.0 1 0.0 0

08 a b

0. 13 0.0 6

0.0 2 0.0 2

0.0 2 0.0 1

0.0 1 0.0 1

0.0 0 - 0.0 1

09 a b c d

0. 15 0. 16 0. 19 0. 17

0.0 1 0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 2 0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 1 0.0 2 0.0 1 0.0 2

0.0 1 0.0 0 0.0 0 0.0 0

10 a b c d

0. 16 0.0 4 0.0 2 0. 12

0.0 4 0.0 1 0.0 0 0.0 2

0.0 2 0.0 1 0.0 0 0.0 1

0.0 4 0.0 1 0.0 1 0.0 2

0.0 0 0.0 0 0.0 1 0.0 0

11 a b

0. 10 0.0 8

0.0 2 0.0 2

0.0 3 0.0 3

0.0 2 0.0 2

0.0 1 0.0 1

12 a b c d

0.0 6 0.0 8 0.0 8 0.0 7

0.0 2 0.0 3 0.0 2 0.0 2

0.0 2 0.0 3 0.0 2 0.0 2

0.0 3 0.0 4 0.0 4 0.0 2

0.0 1 0.0 1 0.0 2 0.0 0

13 a b c

0.0 8 0.0 6 0.0 7

0.0 2 0.0 1 0.0 1

0.0 2 0.0 1 0.0 1

0.0 1 0.0 3 0.0 1

0.0 0 0.0 2 0.0 0

14 a b c

0.0 9 0.0 7 0.0 5

0.0 2 0.0 1 0.0 1

0.0 2 0.0 2 0.0 2

0.0 1 0.0 1 0.0 3

0.0 0 0.0 1 0.0 2

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-10-

3)乳幼児用製品:A+が 0.03~0.05 の検体を含む事例 表 3 に示すように,A+が 0.03 や 0.04 となる検体を含

む事例は 6 事例あった.

これらは,判別基準に従えば“総合的に判断”するこ

とになるが,実際には,これまでの経験から,A+が 0.03程度の場合は移染であることが多い.判別基準の設定に

あたっては,確実性を高めるために,移染と判別する A+

の上限を 0.02 と低めに設定してあるが,このような低い

レンジの値は測定誤差などにより多少変動することも考

えられる.

そこで,A+が 0.03,0.04 となった検体について,移

染であることを確認するため,長期保管したサンプルに

ついて公定法の再測定を行った.対象は,当初の検査後,

該当部位のサンプルが厚手ポリ袋(0.08mm 厚)中に密

封保管されて,1 g 以上残っていた検体(No. 27b,28,29a,30b)で,保管期間は,検体により約 1~3 年であ

る.この再測定では,残存検体量が少ないためサイズを

縮小し,繊維 1.00 g を水 40 mL で抽出した. その結果,当初の公定法の値(A1)と比較して,保管

後の公定法の値(A1’)の値が,2 検体は 0.04 減少し,

2 検体は 0.02 と少しだけ増加した.樹脂加工がある場合

は,樹脂の経時的分解で保管後の値が大きく増加する傾

向がある15)が,その現象が見られなかったので,これ

らの検体は移染であると確認することができた.

残りの,事例 No. 26,31 については,検体残存量が

不足していたためこの長期保管後の再測定はできなかっ

た.しかし,それぞれの事例に属する他の検体の A+が

0.02 以下と低く,移染と判別されたことから,この 2 事

例についても,移染の事例であると判断した.

4)乳幼児用製品:特殊な事例

判別にあたり注意が必要であった特殊な 3 事例を,表

4 に示した.

(1) 特殊な加工の製品の事例 事例 No. 32 の基準違反部位は「箔プリント部」である.

No. 32a の検査を行ったところ A+は 0.02 で,判別基準

に従えば移染となるが,一般に A2は A1よりかなり低い

値となることが多いのに,A2は 0.16 で,A1の 0.19 より

少し低いのみであった.

このため,No. 32a の 4 回抽出後の検体を確認したと

ころ,プリントの箔が一部剥がれていた.抽出時の振と

うによって箔がだんだん剥がれ,その接着部分から

HCHO が徐々に遊離してくるなど,測定値に影響がある

可能性が考えられたので,同一製品・類似品の No. 32b,

表 2. A+ が 0.05 を超える事例(乳幼児用製品)

No. a) A1 A2 A3 A4 A+

15 a b

0.0 9 0. 11

0.0 1 0.0 1

0. 11 0. 17

0. 11 0. 13

0. 10 0. 16

16 a b c

0. 18 0. 19 0. 29

0.0 3 0.0 3 0.0 5

0. 20 0. 22 0. 35

0.0 8 0.0 9 0. 15

0. 17 0. 19 0. 30

17 a b c

0. 10 0. 11 0. 23

0.0 2 0.0 3 0.0 6

0. 15 0. 12 0. 16

0. 28 0. 34 0. 47

0. 26 0. 31 0. 41

18 a b c*

0. 10 0.0 9 0.0 1

0.0 0 0.0 3 0.0 0

0. 29 0. 43 0.0 1

0. 28 0. 36 0.0 2

0. 29 0. 40 0.0 2

19 a b

0.0 6 0.0 6

0.0 2 0.0 1

0. 24 0. 27

0. 34 0. 41

0. 32 0. 40

20 a b c

0. 10 0. 10 0. 11

0.0 1 0.0 2 0.0 2

0. 15 0. 20 0. 19

0. 53 0. 55 0. 64

0. 52 0. 53 0. 62

21 0. 37 0. 28 0. 45 0. 84 0. 56 22 a b c*

0. 12 0.0 4 0.0 0

0.0 3 0.0 1 0.0 0

1.06 0. 66 0.0 0

0. 68 0. 57 0.0 1

1.03 0. 65 0.0 1

23 a b

0. 21 0.0 6

0. 10 0.0 3

1.5 0. 35

3.1 1.6

3.0 1.6

24 0.0 6 0.0 3 1.8 3.1 3.1 25 a b

0. 42 0. 40

0. 14 0. 12

> 3 > 3

> 3 > 3

> 3 > 3

a) *:色違いの類似品で,加工なしと判定

表 3. A+ が 0.03~0.05 の検体を含む事例(乳幼児用製品)

No. A1 A2 A3 A4 A+ A1’a) A1’- A1

26 a b c

0.0 6 0.0 5 0.0 4

0.0 1 0.0 1 0.0 1

0.0 3 0.0 3 0.0 2

0.0 2 0.0 4 0.0 2

0.0 2 0.0 3 0.0 1

- b) - -

- - -

27 a b c

0. 11 0. 14 0. 11

0.0 4 0.0 4 0.0 4

0.0 5 0.0 7 0.0 6

0.0 2 0.0 2 0.0 3

0.0 1 0.0 3 0.0 2

- 0. 10 -

- - 0.0 4 -

28 0.0 7 0.0 3 0.0 6 0.0 2 0.0 3 0.0 9 0.0 2 29 a b

0.0 7 0.0 4

0.0 2 0.0 2

0.0 5 0.0 5

0.0 4 0.0 3

0.0 3 0.0 3

0.0 9 -

0.0 2 -

30 a b c

0. 10 0.0 8 0. 10

0.0 4 0.0 2 0.0 2

0.0 5 0.0 6 0.0 3

0.0 4 0.0 2 0.0 3

0.0 1 0.0 4 0.0 1

- 0.0 4 -

- - 0.0 4 -

31 a b

0.0 6 0.0 6

0.0 2 0.0 2

0.0 4 0.0 5

0.0 4 0.0 4

0.0 2 0.0 3

- -

- -

a) 検体を長期密封保管した後に測定した A1 b) 試験せず

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-11-

32c の抽出時には,より穏やかに振とうしたところ,箔

の剥がれは少なく,A2は No. 32a より低い値となった.

この結果から,No. 32a の A+の値 0.02 は箔の剥がれ

の影響が大きいと思われるので,この値によって移染と

判別はしなかった.No. 32b,32c の A+は 0.05,0.07 で,

0.05 以上となったが,これらの値にもある程度影響があ

ることが考えられるので,この事例については,“樹脂加

工の可能性が高い”との推定のみで,断定はできなかっ

た. このように,特殊な加工の製品の場合は,A2の値にも

注目するなど,注意が必要であると考えられる.

(2) 製品内の移染が考えられる事例

事例 No. 33 は,1 製品から 2 つの部位を表に示した.

公定法で基準違反の部位は「本体」であったが,判別法

の結果,この部位は移染と判別された.そして,公定法

で高めの値ではあるが基準値以内の「ラメプリント部」

の方が,樹脂加工ありと判定された.

この結果から,基準違反の原因は「ラメプリント部」

の樹脂加工で,製品内で移染が起こり,「本体」の方が

遊離 HCHO を多く保持しやすい生地であったため,公

定法の値が高くなったと推察された.

このように,基準違反原因の追究のためには,公定法

の値が基準値以下の部位も含め,なるべく製品のすべて

の部位に判別法を適用することが望まれる.

(3) 繊維素材に注意が必要な事例

事例 No. 34 も 2 つの部位を表に示した.「プリント

部」は明らかに移染と判別されたが,「ライン部」は A+

が 0.14 で,この部位に樹脂加工があるように見える.

しかし,この“ライン”は,繊維の芯の周りを金色の

細いテープを組んで包んだような紐状になっていて,こ

れらの素材は不明であった.ビニロンなど繊維の素材に

よっては,塩酸抽出すると繊維自体が加水分解するもの

もある4),16)ので,そのような素材であるなら,A4 の

高い値は素材に由来し,樹脂加工ではない可能性もある.

また,他の部位を移染する場合は,その部位自体もあ

る程度は HCHO を保持し,A1が多少は高い値となると

考えられるが,この部位の A1はほぼゼロであったので,

移染源となった可能性は低い.

これらのことから,この事例では,「ライン部」に樹

脂加工があった可能性よりも,他からの移染であった可

能性の方が高いと推察された.

このように,特殊な素材の可能性がある場合は,判別

を慎重に行い,総合的に判断することが必要である.

5)乳幼児用製品のまとめ

以上の結果をまとめると,乳幼児用製品 34 事例のう

ち,明らかに移染と判別できた事例は 14,明らかに樹脂

加工があると判定できた事例は 11,総合的に判断して移

染と判別した事例は 6,判別に注意が必要な特殊な事例

は 3 であった.

検体数としては,乳幼児用製品 90 検体のうち,判別

基準から明らかに移染と判別(または樹脂加工なしと確

認)できた検体は 55,明らかに樹脂加工があると判定で

きた検体は 23,総合的に判断して移染と判別した検体は

7,判別に注意が必要な特殊な検体は 5 であった.

このように,この判別法は,多くの乳幼児製品におい

て確定的に判別を行うことができた.

6)その他用製品の事例

表 5 に,その他用製品の事例を示した.基準違反は 2事例のみであったので,事例 No. 36 は違反品,類似品そ

れぞれについて,全部位(いずれも公定法の値が基準値

の 75µg/g を超えた)のデータを示した. 計 7 部位のうち,No. 35 および No. 36a,36b の「表

布」および「裏布」の 5 部位については,A+が 0.00~0.01で,明らかに移染と判別できた.

また No. 36a,36b の「えり芯」の 2 部位については,

いずれも A+が 1.39 で,明らかに樹脂加工があると判定

できた.なお,事例 No. 36 の「表布」および「裏布」は,

「えり芯」から製品内で移染が起きたと推定される.

このように,この判別法は,その他用製品においても

確定的に判別を行うことができた.

5.乳幼児製品の基準違反原因と部位別の傾向

1)基準違反原因の傾向

上記の結果から,乳幼児製品 34 事例の,推定を含め

た基準違反原因は,移染が 21 事例,樹脂加工は 13 事例

で,移染の方が多いという結果であった.

この移染 21 事例のうち,7 事例は製品がプラスチック

製の袋で包装されていた.包装された状態では移染が起

きない17)と考えられるので,この 7 事例については,

表 4. 特殊な事例(乳幼児用製品)

No. 部 位 A1 A2 A3 A4 A+

32 a b c

箔プリント部 箔プリント部 箔プリント部

0. 19 0. 15 0. 12

0. 16 0.0 9 0.0 8

0. 17 0. 14 0. 15

0. 18 0. 13 0. 13

0.0 2 0.0 5 0.0 7

33

本 体 ラメプリント部

0.0 6 0.0 4

0.0 2 0.0 2

0.0 2 0.0 3

0.0 1 0. 15

0.0 0 0. 13

34

プリント部 ライン部

0. 16 0.0 1

0.0 2 0.0 2

0.0 1 0.0 2

0.0 1 0. 16

- 0.0 1 0. 14

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-12-

移染は販売店舗の環境により起きたのではなく,製品自

体が移染されていたと推定される. 残りの,無包装の 14 事例については,違反原因追究

のために複数店舗で再試買を行った事例が 11あったが,

このうち 8 事例は別店舗でも基準違反となった.異なる

店舗でいずれも基準違反ということは,どのような環境

でも移染しやすい製品であったという可能性は否定され

ないものの,店舗への納入以前に製品自体が移染されて

いた可能性が高いと考えられる.

これらを合わせると,移染 21 事例のうち,製品自体

が移染されていたと推定,または可能性が高いと考えら

れる事例が 15 あることになる.

移染は,店舗での発生が以前から問題視されていたが17),以上のことから,現状は,移染は店舗よりも製造・

流通段階で多く起きている可能性が高いと推察される.

2)基準違反の部位別の傾向

移染の 21 事例を,移染された部位で集計すると,本

体 4,プリント部 13,その他(ふち,リブ部など)4であり,プリント部が半分以上を占めた.

一方,樹脂加工があるとされた 13事例の原因部位は,

本体 4,プリント部 3,その他(飾りなど)6 という結

果であった.飾りなどの付属品が多いのは,本体とは別

に製造されて特別な加工がなされるなどの理由があるの

かもしれない.

プリント部が移染されていた 13 事例の中には,ラメ

プリントが 3 事例,ラバープリントが 1 事例あった.ま

た樹脂加工と判定または推定されたプリント部 3 事例の

うち,箔プリントとラメプリントが 1 事例ずつあった.

このような特殊なプリントは公定法で高い値を示す例が

多く18),今回の調査以前にも,発泡プリントと推定さ

れる厚手のプリントの製品で 434 ppm(A1=1.41),フ

ロッキープリントの製品で 1,220 ppm(A1=3.99 相当)

という極めて高い値の事例があり18),これらも判別法

により樹脂加工と判別された.

市販製品の検査において対象製品を選択する際には,

以上のような傾向も参考にするとよいと思われる.

結 語

乳幼児用製品 34 事例のうち,25 事例(73%)は判別

基準から明らかに樹脂加工/移染の判別ができた.総合

的に判断した 6 事例を含めると,31 事例(91%)につ

いて判別を行うことができた.検体数としては,90 検体

のうち,総合的に判断した 7 検体を含め,85 検体(94%)

について判別を行うことができた. その他用製品 2 事例(3 検体)については,いずれも

明らかに樹脂加工/移染の判別ができた.

このように,この判別法は,多くの繊維製品において

確定的な判別を行うことが可能である.

謝 辞

この研究において,判別法の表記等についてご助言・

ご協力いただいた,(社)繊維評価技術協議会 鷲見繁樹

氏(JIS 改正原案作成委員会 事務局)に感謝いたします.

この研究は,受託行政検査の検体を使用して行った.

委託元の当市健康福祉局環境薬務課の方々に感謝いたし

ます.

本研究の要旨の一部は,第 48 回全国衛生化学技術協

議会年会(2011,長野)で発表,また一部は,第 49 回

全国衛生化学技術協議会年会(2012,高松)の部門別研

究会で講演した.

文 献 1) 厚生省令第 34 号 “有害物質を含有する家庭用品の規制に

関する法律施行規則”昭和 49 年 9 月 26 日(1974)

2) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品のホルムアルデヒド行政検

査における基準不適合率等の 37 年間の推移,名古屋市衛

研報,57,25-29(2011)

3) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,津山明宣,松下武彦,石

原利克,繊維製品中のホルムアルデヒドの検討,第 22 回

全国衛生化学技術協議会講演集,78-79(1985)

4) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,津山明宣,繊維製品中ホ

表 5. その他用製品の事例

No. 部 位 A1 A2 A3 A4 A+ µg/g a)

35 レース 0. 16 0.0 7 0.0 7 0.0 8 0.0 1 120 36 a b

表 布 裏 布 えり芯 表 布 裏 布 えり芯

0. 11 0. 10 0. 12 0. 17 0. 16 0. 15

0.0 2 0.0 2 0.0 6 0.0 3 0.0 3 0.0 7

0.0 2 0.0 2 0. 50 0.0 4 0.0 3 0. 49

0.0 1 0.0 1 1.45 0.0 3 0.0 3 1.46

0.0 0 0.0 0 1.39 0.0 1 0.0 0 1.39

82 79 92 130 124 114

a) A1を用いて算出した,繊維 1g あたりの HCHO 溶出量

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-13-

ルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判別法(第 1 報)加水

分解を利用した 3 回抽出試験法の検討,名古屋市衛研報,

37,66-69(1991)

5) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,津

山明宣,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判

別法(第 2 報)基準不適合製品の原因判別事例,名古屋市

衛研報,37,70-74(1991)

6) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

本勝彦,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判

別法(第 3 報)改良法(4 回抽出試験法)の検討,名古屋

市衛研報,42,11-16(1996)

7) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,鈴木昌子,三谷一憲,繊

維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判別法(第 4

報)―通風・密封保管実験による判別結果の検証等―,名

古屋市衛研報,49,1-6(2003)

8) 五十嵐良明,鹿庭正昭,岩間雅彦,山野辺秀夫,辻 清美,

長谷川一夫,中尾朱美,土屋利江,繊維製品のホルムアル

デヒド加工判別法のバリデーション,国立衛研報,122,

21-25(2004)

9) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法,

p.49-52(2011)

10) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品のホルムアルデヒド試験法

における問題点の検討,名古屋市衛研報,59,1-5(2013)

11) 岩間雅彦,鈴木昌子,青山大器,中島重人,繊維製品のホ

ルムアルデヒド試験法に関する検討,名古屋市衛研報,52,

1-5(2006)

12) 各都道府県政令市地方衛生研究所等家庭用品担当技術職

員研修会,資料 No. 2,昭和 50 年 7 月 31 日(1975)

13) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法,p.

5-9(2011)

14) 厚生省環境衛生局企画課長通知 “有害物質を含有する家庭

用品の規制に関する法律の運用に伴う留意事項について”

昭和 50 年 2 月 17 日,環企第 48 号(1975)

15) 岩間雅彦,鈴木昌子,中島重人,繊維製品のホルムアルデ

ヒド ― 基準違反事例についての検討 ―,名古屋市衛研報,

55,11-16(2009)

16) 猪子忠徳,中林 喬,遊離ホルムアルデヒド:測定上の問

題点の検討と移染試験,繊消誌,17,198-203(1976)

17) 小嶋茂雄,中村晃忠,鹿庭正昭,飯田和子,大場琢磨,衣

料品店における衣類へのホルムアルデヒドの移染について,

衛生試験所報告,94,69-72(1976)

18) 岩間雅彦,鈴木昌子,規制対象外繊維製品のホルムアルデ

ヒド ― 特殊プリント T シャツの実態調査 ―,名古屋市

衛研報,56,1-6(2010)

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 15-19 (2013)

-15-

繊維製品中ホルムアルデヒド樹脂加工/移染・判別法の

迅速試験法

岩間雅彦,鈴木昌子

A Rapid Test Method for Discrimination of Conjugation or Migration of Formaldehyde on Textile Products

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI

当研究所が開発し改良してきた繊維製品中ホルムアルデヒドの「樹脂加工/移染・判別法」は,多くの検査

機関で用いられ,繊維関係の JIS にも収載されている.今回,操作時間を短縮する迅速試験法(迅速法)を考

案し,実用性について検討した.迅速法では,従来法で 60 分であった 2,3,4 回目の抽出時間を,それぞれ

30 分に設定した.この迅速法を違反事例の 19 検体(乳幼児用製品 12 検体,その他用製品 7 検体)に適用し

た結果,従来法で移染と判別された検体は,迅速法でも同様な測定値を示し,いずれも移染と判別できた.ま

た,従来法で加工があると判別された検体は,迅速法と従来法の測定値の差が大きい傾向も一部で見られたが,

いずれも判別基準の値は大きく超えていて,明らかに加工があると判別できた.このように,迅速法は操作時

間を 90 分短縮でき,多くの場合において従来法と同様に明確な判別が行えることがわかった. キーワード:家庭用品,ホルムアルデヒド,繊維製品,樹脂加工,移染,抽出時間 Key words : household products,formaldehyde,textile goods,resin finishing,migration,extraction time

緒 言 繊維製品のホルムアルデヒド(HCHO)が基準違反の

場合に,その原因についての知見を得るための「樹脂加

工/移染・判別法」を,我々は開発し,改良を続けてきた1)-6).この判別法は多くの検査機関などで用いられ,

JIS L 1041 にも収載されている7).

この判別法に関する問い合わせが,開発元である当研

究所によく寄せられるが,その中に「時間がかかるので

実施が困難な場合がある」という声があった.このため,

操作時間を短縮する迅速試験法(迅速法)を考案し,こ

れまでの方法(従来法)と比較することにより,その実

用性について検討した.

調 査 方 法

1.試薬・装置

試薬は特級品を用い,公定法8)に従って調製した.

吸光度の測定には,自記分光光度計 島津製作所製

UV-265FS(フローセル付)を用いた.

2.従来法および迅速法の操作

図 1 に示すように,操作の流れは従来法および迅速法

とも同じである.操作は,特に明記する以外は公定法に

準じる.

出生後 24 月以内の乳幼児用繊維製品(乳幼児用製品)

は 2.50 g,それ以外の繊維製品(その他用製品)は 1.00 g を 200 mL 共栓瓶に採る.公定法では繊維を細切する

が,測定値に影響はない9)ので,ろ過時に共栓瓶から流

出しないよう,判別法では細かく切らない.

次に,以下のように 4 回抽出を行う.

1)従来法

1 回目:繊維を,精製水 100 mL を用いて 40℃で 60分間抽出し,G2 ガラスろ過器でろ過して 1 回目の抽出

液とする.ろ過の際,繊維が共栓瓶からなるべく流出し

ないように,また抽出液は充分に流出するように注意し

て操作する.この繊維を,共栓瓶に入ったまま,2 回目

の抽出に再使用する.

2 回目:1 回目と同様に,繊維をもう一度精製水 100 mL で抽出,ろ過し,2 回目の抽出液とする.さらにこの

繊維を 3 回目の抽出に再使用する.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-16-

3 回目:0.1%塩酸 100 mL で繊維を同様に抽出,ろ過

し,3 回目の抽出液とする.さらにこの繊維を 4 回目の

抽出に再使用する.

4回目:1%塩酸 100 mLで繊維を同様に抽出,ろ過し,

4 回目の抽出液とする.

1,2,3,4 回目の抽出液を,それぞれ以下に示すよう

に発色させて吸光度を測定し,吸光度差(A-A0)の値を,

それぞれ A1,A2,A3,A4とする.

2)迅速法

2,3,4 回目の抽出時間を,30 分とする.それ以外は

従来法と同様とする.

3.発色および吸光度測定

発色操作および吸光度の測定は公定法に準じて行う. A0の測定には,公定法では精製水を用いるとされてい

るが,我々の研究など10),11)をもとに,JIS12)では

緩衝液を用いるように改正されたので,この研究でも緩

衝液を用いた.

吸光度測定は,波長 414 nm で行った.

4.判別基準

樹脂加工/移染の判別は,塩酸抽出による吸光度差の

増加分に相当する,A+の値によって行う.

A+=(A3,A4のいずれか高い方)-A2

A+が 0.02 以下の場合は加工がないので「移染」,0.05を超える場合は「加工」と判別する.A+が 0.03~0.05の場合は,確定的な判別は行わず,他のデータも合わせ

て総合的に判断する.

5.比較検討試験の検体

従来法と迅速法の比較検討試験には,2003 年 9 月~

2011 年 9 月の間に当研究所で行政検査を行い,その結

果が基準違反であった市販繊維製品と,その違反原因追

究のために検査した同一製品や類似品(色違い,サイズ

違いなど)のうち, 2 つの判別法を適用できる量のサン

プルが残っていた 19 検体(乳幼児用製品 12 検体,その

他用製品 7 検体)を使用した. 試験部位は,基本的に各製品の基準違反部位のうち,

最も HCHO の値が高かった部位を使用したが,その他

用製品は違反事例が少ないため,一部は 1 製品から複数

の部位を検体として使用した.

結果および考察

1.迅速法の抽出時間の設定

判別法の抽出は,当初は 3 回目までで,判定の正確さ

を期するため,塩酸濃度はあまり高くない 0.1%を採用し

ていた1)-3).しかし,樹脂加工の種類などによっては,

0.1%塩酸の pH値では加水分解が進みにくく判別しにく

い事例が出てきたため,また移染の判定も行いやすくす

るため,4 回目の 1%塩酸抽出を追加した4)という経緯

がある. このため,迅速法では,抽出回数を少なくするのでは

なく,測定結果を判別に用いる 2,3,4 回目の抽出時間

を短くするべく,検討を行った. 小嶋ら13)によれば,樹脂加工布からの HCHO 抽出量

は,抽出時間 60 分を 100%とすると 15 分で約 70%,

30 分では約 90%であった.このことを参考にして,従

来法で 60 分であった 2,3,4 回目の抽出時間を,迅速

法では 30 分に設定した.

なお,1 回目の抽出は公定法に相当することから,抽

出時間は 60 分のままとした.また A1 は,移染による

HCHO と,樹脂の分解による遊離 HCHO が複合してい

る可能性がある値なので,従来法でも迅速法でも判別に

は用いない.

2.乳幼児用繊維製品の測定結果の比較

乳幼児用製品の検体について,従来法と迅速法により

測定した結果を,表 1 に示した.

1)移染と判別された検体

No. 1~5 は,従来法で A+が判別基準値の 0.02 以下と

なり,移染と判別された検体である.これらは迅速法で

も A+が 0.02 以下で,いずれも明らかに移染と判別でき

た.従来法と迅速法の A+ の差は 0.01 以下であった.

このように,移染の場合は,移染により蓄積されてい

た遊離 HCHO が 1 回目の抽出で繊維から無くなり,そ

の後の塩酸抽出でも遊離 HCHO は増加せず,A+ の値は

図 1. 従来法および迅速法の操作の流れ

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-17-

ほとんど高くならないため,判別はどちらの方法でも明

確に行える. なお,No. 1 は,迅速法では A1 の値が低めに出たが,

これは,迅速法の測定が従来法の 3 週間後のため,移染

した HCHO が保管中に揮散等により減少した可能性が

ある.A2,A3,A4については従来法と同様な値であり,

同様な判別を行うことができた. 2)加工と判別された検体

No. 6~9 は,従来法で A+が判別基準値の 0.05 を超え,

加工があると判別された検体である.

このうち No. 6,7 は,ほとんどの測定値が従来法と迅

速法で同様な値を示し,迅速法でも A+が 0.05 を超えた

ので,明らかに加工があると判別できた.

No. 8,9 については,類似品も含めて測定した結果,

迅速法のA+ が,従来法より0.06~0.16低い値であった.

それでも,迅速法の A+は最低でも 0.27 と,判別基準値

の 0.05 を大きく超えたので,迅速法でも明らかに加工が

あると判別できた.

樹脂加工の場合は,3,4 回目の塩酸抽出時に,加水分

解により遊離 HCHO が増加するが,従来法と迅速法に

用いた 2 枚の布に,加工の‘むら’がある可能性もあり,

加水分解の度合いも種々の状況の影響を受けると考えら

れるので,加水分解のない移染の場合よりも,測定値の

ばらつきが大きい傾向があると思われる.

3.その他用繊維製品の測定結果の比較

その他用製品の検体について,従来法と迅速法により

測定した結果を,表 2 に示した.

1)移染と判別された検体

No. 101~103 は,従来法で A+が判別基準値の 0.02 以

下となり移染と判別された.これらは迅速法でも A+が

0.02 以下で,いずれも明らかに移染と判別できた.すべ

ての測定値が従来法と迅速法でほとんど同様な値を示し,

A+の値にも差がなかった.

2)加工と判別された検体

No. 104,105 は,従来法で A+が判別基準値の 0.05 を

超え,加工ありと判別された検体である(No. 105b,105b'は同一検体で,確認のために再測定した).

このうち No. 104 は,類似品も含めて測定した結果,

迅速法の A+が 0.09,0.31 高い値であった.また No. 105は,類似品とともに測定した結果,逆に迅速法の A+が

0.46~0.50 低かった. このように,従来法で加工ありと判別されたその他用

製品は,従来法と迅速法の A+の値に差が大きい傾向が見

られた.それでも,No. 104,105 とも,迅速法の A+は

表1. 乳幼児用繊維製品 従来法と迅速法の比較 a) 事例 No.

A1

A2

A3

A4

A+ b)

判別 A+の差

c)

特記事項 検体種別/部位

1 0.07 0.03

0.02 0.01

0.01 0.01

0.01 0.01

- 0.01 0.00

移染 移染

+ 0.01 迅速法は従来法の 3週間後に測定

よだれかけ/本体

2 0.09 0.09

0.03 0.02

0.04 0.04

0.02 0.04

0.01 0.02

移染 移染

+ 0.01

シャツ/本体

3 0.07 0.08

0.04 0.03

0.05 0.05

0.02 0.02

0.01 0.02

移染 移染

+ 0.01

ドレス/しま布

a

4

b

0.06 0.06

0.02 0.02

0.02 0.02

0.02 0.02

0.00 0.00

移染 移染

0.00

類似品 (サイズ違い)

カバーオール

/本体 0.07 0.06

0.03 0.02

0.03 0.02

0.03 0.02

0.00 0.00

移染 移染

0.00

5 0.04 0.04

0.01 0.01

0.02 0.01

0.02 0.02

0.01 0.01

移染 移染

0.00

Tシャツ/本体

6 0.05 0.05

0.03 0.02

0.14 0.14

0.05 0.04

0.11 0.12

加工 加工

+ 0.01

シャツ/本体

7 0.10 0.10

0.02 0.01

0.29 0.24

0.37 0.35

0.35 0.34

加工 加工

- 0.01

ワンピース/本体

8 0.17 0.17

0.04 0.04

0.39 0.33

0.31 0.32

0.35 0.29

加工 加工

- 0.06

Tシャツ/本体

a

0.09 0.09

0.01 0.01

0.17 0.14

0.37 0.31

0.36 0.30

加工 加工

- 0.06

類似品

(色違い) a,b:包装なし c :包装あり

Tシャツ/本体

9 b

0.15 0.15

0.04 0.03

0.15 0.12

0.39 0.30

0.35 0.27

加工 加工

- 0.08 c 0.19

0.19 0.04 0.04

0.15 0.11

0.55 0.39

0.51 0.35

加工 加工

- 0.16 a) 上段:従来法,下段:迅速法 b) (A3と A4の高い方の値)-(A2の値) c) (迅速法の A+の値)-(従来法の A+の値)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-18-

最低でも 0.65 であり,判別基準値の 0.05 を大きく超え

たので,従来法と同様に,明らかに加工があると判別で

きた.

結 語

従来法と迅速法の比較検討試験を行った結果,全ての

検体において同一の判別結果が得られた. 判別基準では,A+が 0.03~0.05 の場合は確定的な判

別は行わないが,今回はこの範囲に該当する検体はなく,

そのような検体の比較検討試験は行えなかった.しかし,

これまでの判別事例6)によれば,実際の製品においては

A+ がそのような範囲の値となることは少なく,「ゼロに

近く明らかに移染」,または「かなり高い値で明らかに

加工」という事例が多いので,迅速法でも明確に判別が

行えるケースが大部分であると考えられる.

従来法は,バリデーション14)も行われ,より確実な

方法であるが,迅速法は,抽出時間が 90 分短縮できる

ことから,短時間で結果を出す必要がある場合などに有

用性があると考えられる.

謝 辞

この研究は,受託行政検査の検体を使用して行った.

委託元の当市健康福祉局環境薬務課の方々に感謝いたし

ます.

本研究の要旨の一部は,第 49 回全国衛生化学技術協

議会年会(2012,高松)で発表した.

文 献 1) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,津山明宣,松下武彦,石

原利克,繊維製品中のホルムアルデヒドの検討,第 22 回

全国衛生化学技術協議会講演集,78-79(1985)

2) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,津山明宣,繊維製品中ホ

ルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判別法(第 1 報)加水

分解を利用した 3 回抽出試験法の検討,名古屋市衛研報,

37,66-69(1991)

3) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,津

山明宣,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判

別法(第 2 報)基準不適合製品の原因判別事例,名古屋市

衛研報,37,70-74(1991)

4) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

本勝彦,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判

別法(第 3 報)改良法(4 回抽出試験法)の検討,名古屋

市衛研報,42,11-16(1996)

5) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,鈴木昌子,三谷一憲,繊

維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/移染 判別法(第 4

報)―通風・密封保管実験による判別結果の検証等―,名

古屋市衛研報,49,1-6(2003)

6) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂

加工/移染・判別法(第 5 報),名古屋市衛研報,59,7-13

(2013)

7) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法,

p.49-52(2011)

8) 厚生省令第 34 号“有害物質を含有する家庭用品の規制に

関する法律施行規則”昭和 49 年 9 月 26 日(1974)

表2. その他用繊維製品 従来法と迅速法の比較 a) 事例 No.

A1

A2

A3

A4

A+ b)

判別 A+の差

c)

特記事項 検体種別/部位

101 0.15 0.15

0.03 0.02

0.02 0.02

0.03 0.02

0.00 0.00

移染 移染

0.00

寝間着/裏布

102 0.15 0.16

0.02 0.02

0.03 0.03

0.02 0.02

0.01 0.01

移染 移染

0.00

寝間着/表布

103 0.15 0.16

0.07 0.06

0.07 0.06

0.08 0.07

0.01 0.01

移染 移染

0.00 測定液に濁りあり (素材:毛 混紡)

パジャマ/レース

a

104 b

0.75 0.78

0.17 0.09

1.69 1.70

0.21 0.28

1.52 1.61

加工 加工

+ 0.09

類似品

(色違い) くつした/フリル 0.89

0.92 0.22 0.13

2.18 2.40

0.33 0.33

1.96 2.27

加工 加工

+ 0.31 a

0.11 0.11

0.05 0.03

0.43 0.18

1.16 0.68

1.11 0.65

加工 加工

- 0.46 類似品

寝間着/えり芯

105 b

0.14 0.13

0.07 0.04

0.44 0.19

1.20 0.71

1.13 0.67

加工 加工

- 0.46 同一 検体

再測定

(柄違い)

b' 0.15 0.15

0.07 0.04

0.46 0.21

1.25 0.72

1.18 0.68

加工 加工

- 0.50 a) ,b) , c) 表1 と同じ

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-19-

9) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品のホルムアルデヒド試験法

における問題点の検討,名古屋市衛研報,59,1-5(2013)

10) 岩間雅彦,鈴木昌子,青山大器,中島重人,繊維製品のホ

ルムアルデヒド試験法に関する検討,名古屋市衛研報,52,

1-5(2006)

11) 各都道府県政令市地方衛生研究所等家庭用品担当技術職

員研修会,資料 No. 2,昭和 50 年 7 月 31 日(1975)

12) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法,p.

5-9(2011)

13) 小嶋茂雄,大場琢磨,衣類中の遊離ホルムアルデヒドの定

量,分析化学,24,294-298(1975)

14) 五十嵐良明,鹿庭正昭,岩間雅彦,山野辺秀夫,辻 清美,

長谷川一夫,中尾朱美,土屋利江,繊維製品のホルムアル

デヒド加工判別法のバリデーション,国立衛研報,122,

21-25(2004)

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 21-26 (2013)

-21-

形態安定加工シャツのホルムアルデヒドの

最近の状況と 20 年間のまとめ

岩間雅彦,鈴木昌子

Researches on Formaldehyde in Shape-stabilizing Finished Shirts in 1994-2013

Masahiko IWAMA and Masako SUZUKI

形態安定加工シャツの遊離ホルムアルデヒド(HCHO)について,当研究所は製品の発売当初から調査を続

けてきた.今回,最近の状況と,20 年間のまとめについて報告する.2013 年の調査では,大人用下着などの

基準値である 75 ppm を超える製品は 30%で,規制対象製品の不適合率 0~1%と比べると,かなり高い割合

であった.20 年間の調査のまとめでは,75 ppm を超える製品の割合は,1994・95 年の調査では 46%と高か

ったが,2002・04 年は 17%,2008・09・10 年は 3%と,一時は低くなる傾向があったものの,2013 年は 30%と高くなった.より強い形態安定性能を求める動きや,綿 100%の製品の増加,そして新しい加工法の追加も

あり, HCHO が高い値を示す製品がいまだに販売されていることがわかった. キーワード:ホルムアルデヒド,家庭用品,繊維製品,シャツ,形態安定,樹脂加工 Key words : formaldehyde,household product,textile goods,shirt,shape stability,resin finishing

緒 言 形態安定加工シャツは,「ノーアイロンシャツ」など

として 1993 年に発売され,20 年が経過した今では,市

販されているシャツの多くを占めるに至っている. 我々は,その発売以前からシャツ・ブラウス等の遊離

ホルムアルデヒド(HCHO)について調査1)を行い,形

態安定加工繊維製品の HCHO についても,シャツ・ブ

ラウス・ズボン等を対象に,調査を続けてきた2)-8).

今回は,そのうち形態安定加工シャツについて,最近の

調査結果と,20 年間にわたる調査のまとめについて報告

する.

調 査 方 法 1.調査対象製品

1994~2013 年に,名古屋市内のデパート,スーパー

マーケット(スーパー),紳士服店等で店頭販売されて

いた,「形態安定」に類する製品表示のあるワイシャツ,

計 239製品について調査した.製品の選択にあたっては,

店舗,製造国,素材,メーカーなどがなるべく片寄らな

いようにした.サイズの内訳は,成人男性用 229 製品,

小学生~高校生用 10 製品である.

2.試薬・装置

試薬は特級品を用い,家庭用品の公定法9)に従って調

製した.吸光度の測定には,自記分光光度計 島津製作所

製 UV-265FS(フローセル付)および UV-2450(同)を

用いた. 3.遊離ホルムアルデヒド測定方法

遊離 HCHO は,公定法の乳幼児用以外の繊維製品の

測定法に準じて抽出・発色・吸光度測定を行い,繊維 1 gあたりの溶出量(ppm)として求めた(傾向を見るのが

目的であるので,定量下限を考慮せず,低い値もそのま

ま数値で表した). A0の測定には緩衝液を用い10),11),吸光度測定は波

長 414 nm で行った.測定は,各製品の身頃生地(本体)

およびえり芯について行ったが,今回は本体の値につい

て報告する. さらに,すべての検体に,塩酸加水分解抽出による樹

脂加工/移染・判別法12),13)を適用し,HCHO 系の

加工の有無を見た.

結果および考察 1. 2013 年の調査

最近の製品の状況を知るため,2013 年 3~6 月に市販

されていた成人男性用ワイシャツ 20 製品を対象に,調

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-22-

査を行った.その結果を表 1 に示した. ワイシャツは「中衣」に分類されるため家庭用品規制

法の規制対象ではないが,皮膚と多く接触するので,遊

離 HCHO の測定結果は,大人用下着などの基準値であ

る 75 ppm と比較することとし,表 1 で 75 ppm を超え

る値は下線を付して示した. 75 ppm を超えたのは,20 製品中 6 製品(30%)であ

った.これは,規制対象製品の不適合率(大人用製品:

0~1%) 14)と比べると,かなり高い割合である.また,

遊離 HCHO の最高値は 236 ppm であり,後述するよう

に,これは 20 年間の調査の中でも最も高い値である. 2013 年の調査における特徴は,製品表示に,形態安定

やノーアイロンの‘特段の’性能を強調する表現の製品

が,「その他加工」の,主に紳士服店の製品で見られた.

表 1 にこれらを“特徴的表示”として示したが,このよ

うな表示の製品は,4 製品中 3 製品が 75 ppm を超える

など,高い値の傾向であった.このような表示が,複数

のメーカーの製品で見られたことから,より強い形態安

定性を求める動向があると見られ,その結果として樹脂

加工が強く施される製品が多くなった可能性が考えられ

る. なお,樹脂加工/移染・判別法の結果は,1 製品を除

き「樹脂加工あり」と判別された.「樹脂加工なし」と

判別された No.17 は,製品に「形態安定加工」と表示さ

れていたものの,ポリエステル混紡率が高い(65%)製

品なので,実際は加工は施されておらず,素材の形態安

定性を期待した製品ではないかと推定される. 2.20 年間の調査のまとめ

形態安定加工シャツについての 20 年間のデータを,

調査の区切りごとにまとめ,調査製品数と,遊離 HCHOが 75 ppm を超えた製品数等を,表 2 に示した.以下,

西暦の下 2 桁を取り,それぞれ,94・95 調査2),97・98調査4),99 調査5),00 調査6),02・04 調査8),08・09・10 調査,11・12 調査,13 調査とする.

1)加工法ごとの傾向

(1) VP 加工および Nano Proof VP(Vaper Phase)加工15)(Miracle Care)は,HCHO等の混合ガスを用いて行う加工で,ノーアイロンシャツ

発売当初に“形状記憶シャツ”として登場した.75 ppmを超える製品の割合は,20 年間の調査の全体では 28%

表 1. 製品の遊離ホルムアルデヒド,ホルムアルデヒド系加工の有無および製品表示等(2013)

加工種別 No. 遊離

HCHO a) 加工 b) 素 材 c) 製造国 包 装 店舗種類 特徴的表示d)

V P 1 82 ○ 綿 100 ベトナム 有 デパート

Nano Proof 2 60 ○ 綿 100 日本 有 デパート

S S P

3 4

42 38

綿 50 / P 50 綿 100

中国

中国

デパート

スーパー

Non Care

5 6

135 67

綿 100 綿 100

日本

中国

デパート

スーパー

その他加工

7 8 9

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

236 197 99 77 44 35 30 20 19 18 13 5 5 4

綿 100 綿 55 / P 45

綿 100 綿 100

綿 93 / P 7 P 65 / 綿 35

綿 100 綿 50 / P 50 綿 55 / P 45 綿 50 / P 50 P 65 / 綿 35 綿 50 / P 50 綿 50 / P 50 P 65 / 綿 35

中国

中国

中国

中国

中国

ミャンマー

中国

ミャンマー

ラオス

中国

ミャンマー

バングラデシュ

中国

ミャンマー

紳士服店

スーパー

紳士服店

スーパー

紳士服店

スーパー

紳士服店

スーパー

スーパー

紳士服店

紳士服店

紳士服店

デパート

紳士服店

… MAX 超 …

… MAX

perfect …

a) 単位:ppm (下線:> 75 ppm) b) 樹脂加工/移染・判別法による HCHO 系加工の有無( ○:あり,-:なし) c) 数字は%,P:ポリエステル d) 本文参照

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-23-

であったが,2000 年頃から低減化の傾向が見られ,99調査までをまとめると 38%であるのに対し,00 調査以

降では 12%となった.

Nano Proof16)は,VP 加工にナノテクノロジー技術

を適用した加工で,2004 年からから製品が発売された.

調査した製品は,すべて 75 ppm 以下であった.

(2) SSP 加工および Non Care SSP(Super Soft Peach Phase)加工17)は,液体ア

ンモニア処理後に樹脂加工を行う,ノーアイロンシャツ

発売当初からの加工である.75 ppm を超える製品の割

合は,20 年間の全体では 57%であったが,2008 年頃か

ら低減化の傾向が見られ,02・04 調査までをまとめると

71%であるのに対し,08・09・10 調査以降では 8%と,低

くなった.

Non Care18)は,SSP 加工にナノテクノロジー技術を

適用した加工で,2003 年から製品が発売された.75 ppmを超える製品の割合は,20%であった.

(3) 現在は製品が店頭に見られない加工

D/A19)(Double Action),FM20)(Form Memory),NBS21)(UPMAKE),MAXSTABLE22),LA22)

(LAVORUJU)の各加工は,いずれも樹脂加工である

が,これらの加工の製品は 99 調査まで店頭に見られた

ものの,それ以降ほとんど見られなくなった.

これらのうち,ノンホルムアルデヒドをうたう D/A 加

工は,調査した 10 製品すべてが 75 ppm 以下であった.

これに対し,FM 加工は,調査した 9 製品すべてが 75 ppm を超え,94・95 調査では,その調査の最高値となる

162 ppm の製品があった.このように,加工法によって,

製品の HCHO 対策に差があったと推察される.

(4) その他加工 以上のような加工の名称が表示されていない製品は,

「その他加工」としてまとめた.

75 ppm を超える製品の割合は,20 年間の調査の全体

では 14%であった.このうち 11・12 調査までをまとめ

ると 11%であるのに対し,13 調査は 29%と,高い割合

であった.

2)形態安定シャツ全体としての傾向

(1) 調査店舗について

20 年間にわたる調査のため,調査対象の店舗は閉店や

新規出店などもあり,また市場動向の変化等もあって,

製品を調査した店舗とその種類は一定ではない.

紳士服店の製品は,08・09・10 調査では調査せず,11・12 調査では 1 製品のみである.これは,その前の 02・04調査で「その他加工」がすべて 75 ppm 以下であり,こ

の頃から紳士服店の製品は「その他加工」が中心となっ

たため調査対象にしなかったことと,11・12 調査では,

衣料品店,スーパー等の店舗のプライベートブランド

(PB)製品を調査対象としたためである(この頃の

HCHOの行政検査でPB製品の基準違反が相次いだこと

から,そのような調査を行った).なお,PB 製品は,

ほとんどが「その他加工」で,すべて 75 ppm 以下であ

った.

(2) 75 ppm を超える製品の割合

形態安定加工シャツ全体の,75 ppm を超える製品の

表 2. 調査製品数および遊離ホルムアルデヒドが 75ppm を超えた製品数 a),遊離ホルムアルデヒド最高値(1994-2013)

加工種別 調 査 年(西暦 下 2 桁)

94・95 97・98 99 00 02・04 08・09・10 11・12 13 V P

Nano Proof 4 / 9

- b)

1 / 9 -

6 / 11 -

1 / 6 -

0 / 7 0 / 4

0 / 3 0 / 5

1 / 1 0 / 1

13 / 46 ( 28%)

0 / 10 ( 0%)

S S P Non Care

6 / 9 -

5 / 8 -

10 / 11 -

5 / 6 -

4 / 8 1 / 5

1 / 8 0 / 3

0 / 2 -

0 / 2 1 / 2

31 / 54 ( 57%)

2 / 10 ( 20%)

D / A

F M

N B S MAXSTABLE

L A

0 / 4 3 / 3 1 / 2 0 / 1 0 / 1

0 / 4 4 / 4 0 / 3 1 / 3 0 / 1

0 / 2 1 / 1 0 / 1 0 / 1 -

1 / 1 -

0 / 10 ( 0%)

9 / 9 (100%)

1 / 6 ( 17%)

1 / 5 ( 20%)

0 / 2 ( 0%)

その他加工 3 / 8 2 / 10 2 / 13 1 / 9 0 / 10 0 / 10 0 / 13 4 / 14 12 / 87 ( 14%)

全 体 17 / 37 (46%)

13 / 42 (31%)

19 / 40 (48%)

7 / 21 (33%)

6 / 35 (17%)

1 / 29 ( 3%)

0 / 15 ( 0%)

6 / 20 (30%)

69 / 239 ( 29%)

最高値 c)

(加工種別)

162 (FM)

217 (VP)

206 (SSP)

183 (VP)

158 (SSP)

82 (SSP)

46 (SSP)

236 (その他)

236 (その他)

a)(75ppm を超えた製品数)/(調査製品数) b) 調査せず(店頭になし) c) 遊離 HCHO(単位:ppm)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-24-

割合は,20 年間の全体では 29%であった.94・95 調査

から 00 調査までは 31~48%という高い割合であったが,

02・04 調査では 17%と,低減化の傾向が見られた.そし

て,上記のような条件で行った 08・09・10 調査では 3%,

11・12 調査は 0%と,低い結果となった.ところが,13調査では,前述のように“特徴的表示”が見られたため,

紳士服店の製品も調査したところ,30%という,再び高

い割合となった.

(3) 調査年ごとの遊離 HCHO 最高値 表 2 の下部に,調査年ごとの遊離 HCHO の最高値を

示した.

全体としての最高値は,13 年調査の 236 ppm で,「そ

の他加工」の製品であった.なお,その次に高い 217 ppm(97・98 調査の最高値)は,VP 加工の小学生用のワイ

シャツであった.

(4) 製造国について 調査した製品の製造国について,表 3 にまとめた.

HCHO の行政検査に関する集計14)では,1994 年以

降は中国製の製品が最も多いが,形態安定加工シャツは,

表 3 のように発売当初はほとんどが日本製であった.そ

の後,徐々に他の国の製品が増え,02・04 調査以降は中

国製が最も多くなった.これは,形態安定加工技術に,

当初は国内でしか対応していなかったためではないかと

思われる.

13 調査では,製造国は中国はじめ 6 カ国であったが,

このうち VP 加工等のブランド名のある加工および前述

の“特徴的表示”の製品は,ベトナムの 1 製品以外はす

べて中国製か日本製であった.形態安定加工製品が主流

になった現在,多様な国の製品が見られるが,その性能

が特に期待される製品は,技術的な理由で中国製や日本

製が中心になっているのかもしれない.

(5) 製品の素材について

調査した製品のうち,素材が綿 100%である製品の割

合などについて集計し,表 4 にまとめた.

発売当初は綿 100%の形態安定加工シャツは少なく,

94・95調査のうち綿 100%の製品は全体の 5%であった.

その後,この割合は 02・04 調査では 34%に上昇し,最

近の 13 調査では 45%となった.

この調査では,調査対象製品の選択の際,できるだけ

多様な製品を選んでいることと,調査時期によっては意

図的に製品を選定していることから,市場における製品

の素材の割合を正確に反映しているものではない.ただ,

02・04 調査から加わった Non Care はすべて綿 100%で

あるなど,綿 100%が増加の傾向にあることは確かと思

われる. 13 調査の“特徴的表示”の製品についても,4 製品の

うち綿 100%が 2製品,綿 93%が 1製品であった.また, 13調査において 75 ppmを超えた 5製品のうち 4製品は

綿 100%であった. 綿 100%の布地は,ポリエステル中心の布地よりしわ

になりやすいことから,形態安定加工が強く施される可

能性があると考えられる.

表 3. 調査した製品の製造国

調 査 年(西暦 下 2 桁)

94・95 97・98 99 00 02・04 08・09・10 11・12 13 製 造 国 ・ 製 品 数

日 本 35 インドネシア 1 (無表示) 1

日 本 27 中 国 7 インドネシア 4 タ イ 2 ベトナム 2

日 本 22 中 国 5 タ イ 3 インドネシア 3 ベトナム 2 北朝鮮 1 (無表示) 4

日 本 13 中 国 4 ベトナム 2 タ イ 1 インドネシア 1

中 国 16 日 本 11 タ イ 3 インドネシア 3 ベトナム 2

中 国 13 ベトナム 7 日 本 4 バングラデシュ 2 タ イ 1 インドネシア 1 ミャンマー 1

中 国 9 インドネシア 2 ベトナム 1 バングラデシュ 1 ミャンマー 1 ラオス 1

中 国 11 ミャンマー 4 日 本 2 ベトナム 1 バングラデシュ 1 ラオス 1

表 4. 調査した製品のうち綿 100%製品の割合および綿 100%製品の加工種別

調 査 年(西暦 下 2 桁)

94・95 97・98 99 00 02・04 08・09・10 11・12 13 綿100%製品の

割合(%) 5 7 15 10 34 45 53 45

加工種別 a) ・

製品数 b)

SSP 2 (1) SSP 1 VP 1 FM 1 (1)

SSP 5 (5) VP 1 (1)

SSP 1 (1) VP 1

NC 5 (1) SSP 4 (2) NP 1 他 2

SSP 6 NC 3 NP 2 他 2

SSP 2 他 6

他 4 (3) NC 2 (1) SSP 1 VP 1 (1) NP 1

a) NC:Non Care,NP:Nano Proof,他:その他加工 b) ( ) 内:75ppm を超えた製品数

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-25-

結 語

形態安定加工シャツの調査年ごとの 75 ppm を超え

る製品の割合は,当初はかなり高かったが,一時は低減

化の傾向が見られた.加工法別に見ても,VP 加工や SSP加工において,それぞれある時期から低減化の傾向が見

られた.しかし,最近の調査では「その他加工」で高い

値の製品が多くなったことから,再び高めの割合となっ

た.より強い形態安定性能を求める動きや,綿 100%の

製品の増加,そして新しい加工法が加わったこともあり,

形態安定加工シャツは,製品によってはまだ高い値のも

のがあることがわかった.

ワイシャツは,日本では中衣に分類されるため,出生

後 24 月以内の乳幼児用製品しか規制対象となっていな

い.しかし肌に直接接触する面積も広いことから,欧州

の自主基準であるエコテックス23)では,下着と同様の

基準が設けられている.日本においても,法による規制

等,何らかの対策がなされるべきではないかと考える.

なお,この調査は,新品の製品についての調査である.

形態安定加工シャツの HCHO は,洗濯することにより

減少するが,加工によっては保管中に樹脂の分解により

再び増加する傾向が見られる6),8),24),25)ため,肌

の弱い人などは注意が必要である.

謝 辞

この研究の一部は,本市健康福祉局健康部環境薬務課

の受託調査として行い,また一部は,国立医薬品食品衛

生研究所からの受託試験として行った.委託元の方々に

感謝いたします.

本研究の要旨は,第 50 回全国衛生化学技術協議会年

会(2013,富山)で発表した.

文 献 1) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,津

山明宣,山本勝彦,市販ブラウス・シャツ等のホルムアル

デヒドについて,名古屋市衛研報,38,54-56(1992)

2) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

本勝彦,いわゆる「ノーアイロンシャツ」のホルムアルデ

ヒドに関する調査,名古屋市衛研報,41,15-19(1995)

3) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

本勝彦,形態安定加工されたズボン,ブラウス,ポロシャ

ツのホルムアルデヒドに関する調査,名古屋市衛研報,43,

4-8(1997)

4) 岩間雅彦,中島重人,山本勝彦,ノーアイロンシャツのホ

ルムアルデヒド溶出量および市販状況に関する調査(第 1

報)平成 9 年度調査,名古屋市衛研報,47,30-35(2001)

5) 岩間雅彦,中島重人,山本勝彦,ノーアイロンシャツのホ

ルムアルデヒド溶出量および市販状況に関する調査(第 2

報)平成 10 年度調査,名古屋市衛研報,47,36-41(2001)

6) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,三

谷一憲,形態安定加工シャツのホルムアルデヒドの現状,

名古屋市衛研報,47,1-6(2001)

7) 岩間雅彦,通信販売されている形態安定加工繊維製品のホ

ルムアルデヒド,繊消誌,43,200-203(2002)

8) 岩間雅彦,鈴木昌子,青山大器,野口昭一郎,三谷一憲,

中島重人,形態安定加工シャツのホルムアルデヒド ― 最

近の動向について ― ,名古屋市衛研報,51,1-5(2005)

9) 厚生省令第 34 号“有害物質を含有する家庭用品の規制に

関する法律施行規則”昭和 49 年 9 月 26 日(1974)

10) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品のホルムアルデヒド試験法

における問題点の検討,名古屋市衛研報,59,1-5(2013)

11) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法,p.

5-9(2011)

12) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂

加工/移染・判別法(第 5 報),名古屋市衛研報,59,7-13

(2013)

13) JIS L 1041 : 2011,樹脂加工織物及び編物の試験方法,

p.49-52(2011)

14) 岩間雅彦,鈴木昌子,繊維製品のホルムアルデヒド行政検

査における基準不適合率等の 37 年間の推移,名古屋市衛

研報,57,25-29(2011)

15) 伊藤 博,素材メーカーの機能性加工商品,ミラクルケア

(VP加工)商品とその展開,繊維機械学会誌,48,P313

-P322(1995)

16) http://www.nikkeibp.co.jp/archives/291/291179.html (平成 25 年 11 月 25 日現在)

17) 大場正義,素材メーカーの機能性加工商品,形態安定加工

「スーパーソフトピーチフェーズ(SSP)」,繊維機械学会

誌,48,P323-P330(1995)

18) http://www.nisshinbo-textile.co.jp/products/noncare/(平成 25 年 11 月 25 日現在)

19) 辻本 裕,形態安定素材ダブルアクションについて,染色

工業,42,304-308(1994)

20) 増永敏幸,形態安定加工(1)当社の形態安定加工商品群,

染色,14,74-79(1996)

21) 村尾武之,クラボウ形態安定加工,HP 加工および NBS

加工について,繊維科学,36,38-40(1994)

22) 日比 暉,天然繊維の形状保持,綿の形態安定加工,繊維

学会誌,50,P-553-P-558(1994)

23) International Association for Research and Testing in the Field of Textile Ecology,Oeko-Tex Standard 100,

Edition 03/2000(2000)

24) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-26-

本勝彦,ノーアイロンシャツの洗濯および保管によるホル

ムアルデヒド量の変化,名古屋市衛研報,45,10-15(1999)

25) 岩間雅彦,中島重人,青山大器,大野浩之,鈴木昌子,山

本勝彦,洗濯及び保管によるノーアイロンシャツ中の遊離

ホルムアルデヒド量の変化,J. Health Sci.,45,412-417

(1999)

資 料

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 27-33 (2013)

-27-

名古屋市感染症発生動向調査患者情報 2012 年の調査結果

瀬川英男,児島範幸,牛田寛之,長谷部哲也,平光良充,原田裕子

Summary of Nagoya City Infectious Disease Surveillance for Case Incidence in 2012

Hideo SEGAWA, Noriyuki KOJIMA, Hiroyuki USHIDA, Tetsuya HASEBE, Yoshimichi HIRAMITSU

and Yuko HARADA

名古屋市における感染症発生動向調査の患者情報について 2012 年の結果を過去のデータとの比較をまじ

え報告する.インフルエンザ定点,小児科定点および眼科定点からの報告数をこれまでの 10 年間の中で比較

すると,RS ウイルス感染症(これまでの 9 年間の中での比較)の患者報告数は多かった.A 群溶血性レンサ

球菌咽頭炎,水痘,手足口病,突発性発しん,ヘルパンギーナ,流行性耳下腺炎の報告数は少なかった. キーワード:感染症発生動向調査,患者情報,患者報告数 Key words: infectious disease surveillance, case report, case incidence

緒 言

名古屋市では,平成 11 年(1999 年)4 月 1 日に施行

された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に

関する法律」1)(以下,感染症法)およびその改正法な

ど2)-12)に基づき,感染症発生動向調査を実施してき

た.その結果は毎週(月報は月単位で)集計と分析を行

い,インターネットの Web サイトなどで公表している.

ここに 2012 年(平成 24 年)分{第 1 週(2012 年 1 月

2 日~1 月 8 日)~第 52 週(2012 年 12 月 24 日~12 月

30 日)}の患者情報の調査結果をまとめたので報告する.

調 査 方 法

1.分析データ 2012 年に感染症発生動向調査により市内 16 保健所で

収集され,感染症サーベイランスシステムにより国立感

染症研究所感染症情報センターに集約された患者情報を,

名古屋市衛生研究所疫学情報部(名古屋市感染症情報セ

ンター)において取得し,これを用いた.また比較のた

め過去の同調査結果を用いた. 感染症法などは制定後もたびたび改正されてきた.そ

の内容は,疾患の類型の変更,疾患の追加,届出基準の

変更などであった.感染症発生動向調査では,診断した

患者全員をすべての医療機関が報告する全数報告疾患と,

指定届出機関(以下,定点と略す)と呼ばれる,市内か

ら一定の基準で選ばれた医療機関が患者を診断した場合

にその数を報告する定点報告疾患の 2 種類に疾患を大別

している.また疾患は,それぞれの重篤性などを考慮し,

一類感染症から五類感染症に分けられている.この分類

では一般的な傾向として,数字が小さいほど重篤性が高

い.一類から四類感染症はすべて全数報告疾患であり,

五類感染症は全数報告疾患と定点報告疾患に分けられて

いる.定点の種類は 5 つあり(表 1),それぞれが決めら

れた疾患についてのみ報告を求められている.さらに定

点報告疾患は,毎週報告されるもの(週報)と月に 1 度

報告されるもの(月報)に分けられている.表 1 に定点

の区ごとの配置状況を示した.一類から五類感染症とは

別に新型インフルエンザ等感染症などが定められている.

結果および考察

区名 小児科定点インフル

エンザ定点眼科定点 STD定点 基幹定点

千種 5 5 1 1 1東 4 4北 5 5 1 2 1西 4 4 1 1中村 5 5 1 1中 4 4 2

昭和 4→5a) 4→5a) 1 1

瑞穂 5 5 1 1熱田 4 4 1中川 4 4 1港 4 4 1南 4 4 1 1守山 5 5

緑 5→4a) 5→4a) 1 1

名東 4 4 1 1天白 4 4 1 1

計 70 70 11 15 2 a) 2012 年第 44 週から

表1. 五類定点把握感染症の区別定点数(2012 年)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-28-

類型 疾患 人数

一類 エボラ出血熱,他 0

二類 結核 787(199)[12]【2】

三類 コレラ 0

細菌性赤痢 5(1)

腸管出血性大腸菌感染症 38(8)

腸チフス 1

パラチフス 0

四類 つつが虫病 2

デング熱 7

マラリア 2

レジオネラ症 16

五類 アメーバ赤痢 36

急性脳炎(ウエストナイル脳炎,西部ウマ脳炎,ダニ媒介脳炎,東部ウマ脳炎,日本脳炎,ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)

7

劇症型溶血性レンサ球菌感染症 5

後天性免疫不全症候群 100(66)〔4〕【1】

梅毒 18(10)

バンコマイシン耐性腸球菌感染症 1

風しん 39

麻しん 5 1.一類から五類全数把握感染症の報告 2012 年の報告状況は,表 2 のとおりであった. 2.五類定点把握感染症の報告 2012 年の五類定点把握感染症について,名古屋市内の

区別患者報告数(週報対象疾患)を表 3 に,年齢階層別

患者報告数(週報対象疾患)を表 4 に,年別患者報告数

(2003 年~2012 年)を表 5 に,性感染症(STD)年齢

階層別患者報告数(月報対象疾患)を表 6 に,基幹定点

把握感染症の年齢階層別患者報告数(月報対象疾患)を

表 7 に示した.また,2010 年から 2012 年のインフルエ

ンザ・小児科・眼科各定点からの「週別患者報告数/定

点数」(定点当たり患者報告数週平均)の推移を図 1 お

よび図 2 に示した. 以下に各感染症の発生動向を記す. 1) インフルエンザ(鳥インフルエンザおよび新型イン

フルエンザ等感染症を除く。)〔インフルエンザ定点:週

報〕 2012 年の患者報告数は 14,281 人(定点当たり患者報

告数週平均:3.92 人)で,これまでの 10 年間で 4 番目

に多い報告数となった.インフルエンザは 2012 年第 1週以降増加を続け,第 4 週をピークとし,その後減少を始

め第18週に定点当たり患者報告数週平均1.0人を下回り

終息した. 2)RS ウイルス感染症〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 1,347 人(定点当たり患者報告数

週平均 0.37 人)で,これまでの 9 年間で最も多かった.

第 1 週に定点当たり患者報告数週平均 1.0 人を示した後

は,報告数に増減はあるものの減少を続け,第 14週に 0.2人となりその後も少ない状態で推移した.そして第 36週頃から増減を繰り返しながらも緩やかな増加傾向を示

し,第 38 週以降増減はあるものの一定水準を維持し

た状態となり第 50 週にピークを示した後,比較的高い

水準のまま 2012 年を終えた.

3)咽頭結膜熱〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 691 人(定点当たり患者報告数週

平均 0.19 人)で,これまでの 10 年間では 5 番目に多か

った. 患者は 79.3%が 1歳から 5歳の乳幼児であった.

患者報告数の動向を見ると,第 11 週,第 19 週,第 25週(この年の最高報告数),第 32 週,第 37 週にピー

表 2. 一類から五類全数報告疾患の報告数

(2012 年)

( )内は無症状病原体保有者数再掲,[ ]内は疑似症

患者数再掲,【 】内は感染症死亡者の死体数再掲,〔 〕

内は後天性免疫不全症候群のその他数再掲.※多数の疾

患が対象となっているため,二類・四類・五類は報告の

あった感染症のみを掲載

上表の左にある☆○△◇は、下表の同一記号行との関連を示す.灰色の部分は、報告対象の定点がその区に無いことを示す.a) 鳥イ

ンフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く,b) 平成 24 年 43 週まで 4 定点、44 週から 5 定点,c )平成 24 年 43 週まで

5 定点,44 週から 4 定点,d) 髄膜炎菌性髄膜炎はのぞく,e) オウム病を除く

疾患\保健所 千種 東 北 西 中村 中 昭和b) 瑞穂 熱田 中川 港 南 守山 緑c) 名東 天白 合計

☆ インフルエンザa) 838 545 1,134 1,067 1,362 392 480 497 276 1,301 621 1,880 1,330 573 865 1,120 14,281○ RSウイルス感染症 63 22 92 329 274 10 1 24 5 4 366 71 18 58 10 1,347○ 咽頭結膜熱 44 12 70 231 21 6 15 10 30 67 36 26 102 21 691○ A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 132 63 322 340 78 65 308 3 89 47 175 168 245 124 346 318 2,823○ 感染性胃腸炎 1,395 388 1,841 1,647 1,525 823 1,090 403 138 663 2,039 1,809 1,529 1,251 1,171 1,402 19,114○ 水痘 172 59 213 245 100 27 20 6 25 198 76 139 217 61 201 140 1,899○ 手足口病 24 18 24 151 17 5 6 3 17 9 39 30 8 14 14 379○ 伝染性紅斑 20 17 116 81 10 2 3 10 2 21 10 13 24 21 350○ 突発性発しん 89 44 115 285 46 23 5 22 30 17 91 132 65 135 49 1,148○ 百日咳 8 7 6 3 1 1 1 24 2 3 2 13 71○ ヘルパンギーナ 84 56 133 269 44 21 8 12 27 32 83 116 177 230 62 1,354○ 流行性耳下腺炎 38 33 83 96 47 9 19 3 27 125 51 79 64 17 117 11 819△ 急性出血性結膜炎 6 6△ 流行性角結膜炎 7 21 9 15 15 15 2 4 23 111◇ 細菌性髄膜炎d)

◇ 無菌性髄膜炎 1 1◇ マイコプラズマ肺炎 3 3◇ クラミジア肺炎e)

計 2,906 1,265 4,175 4,756 3,542 1,374 1,964 928 643 2,424 3,057 4,770 3,782 2,336 3,265 3,210 44,397

☆ インフルエンザ定点数(延べ週数) 260 208 260 208 260 208 217 260 208 208 208 208 260 251 208 208 3,640○ 小児科定点数(延べ週数) 260 208 260 208 260 208 217 260 208 208 208 208 260 251 208 208 3,640△ 眼科定点数(延べ週数) 52 52 52 52 52 52 52 52 52 52 52 572◇ 基幹病院定点数(延べ週数) 52 52 104

表 3. 区別患者報告数(週報対象疾患・2012 年)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-29-

疾患/年齢階層 -5ヵ月 -11ヵ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10-14歳 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 80歳以上 計

インフルエンザa) 75 174 558 637 815 1,118 1,202 1,016 796 681 592 2,066 577 809 1,153 852 450 335 238 137 14,281

疾患/年齢階層 -5ヶ月 -11ヶ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10-14歳 15-19歳 20歳以上 計

RSウイルス感染症 197 372 387 187 111 57 24 5 2 2 2 1 1,347

咽頭結膜熱 4 22 158 88 116 109 77 44 10 11 10 17 3 22 691

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 2 22 85 111 256 368 412 342 240 205 137 183 22 438 2,823

感染性胃腸炎 172 1,071 2,477 1,653 1,586 1,453 1,156 877 691 537 467 1,446 612 4,916 19,114

水痘 29 81 269 271 315 305 239 136 80 61 27 59 6 21 1,899

手足口病 2 21 85 58 58 48 44 24 11 11 4 6 2 5 379

伝染性紅斑 7 19 17 46 48 48 41 33 36 26 22 7 350

突発性発しん 22 518 491 87 13 6 2 2 1 2 1 3 1,148

百日咳 7 2 4 3 1 1 1 3 9 4 7 13 1 15 71

ヘルパンギーナ 15 65 283 257 214 195 133 75 37 22 12 28 4 14 1,354

流行性耳下腺炎 2 22 57 94 131 154 99 72 73 34 57 6 18 819

疾患/年齢階層 -5ヶ月 -11ヶ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10-14歳 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上 計

急性出血性結膜炎 1 1 1 3 6

流行性角結膜炎 1 1 2 2 1 2 2 2 4 22 31 16 10 5 10 111

疾患/年齢階層 0歳 1-4歳 5-9歳 10-14歳 15-19歳 20-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳 65-69歳 70歳以上 計

細菌性髄膜炎b)

無菌性髄膜炎 1 1

マイコプラズマ肺炎 2 1 3

クラミジア肺炎c)

表 4. 年齢階層別患者報告数(週報対象疾患・2012 年)

a) 鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く,b) 髄膜炎菌性髄膜炎はのぞく,c) オウム病を除く

報告 定点 疾患     \     年 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

インフルエンザ インフルエンザ* 9,558 8,266 16,571 11,338 13,140 6,701 31,063f) 2628f) 19,072g) 14,281

小児科 RSウイルス感染症 9a) 116 143 224 568 466 336 775 1,164 1,347

〃 咽頭結膜熱 467 683 709 1,257 680 917 483 482 1,050 691

〃 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 2,924 3,093 2,906 4,243 3,994 4,508 3,180 2,580 3,013 2,823

〃 感染性胃腸炎 13,250 14,004 13,507 20,522 16,980 17,326 14,617 20,413 16,082 19,114

〃 水痘 3,228 2,278 2,608 2,889 3,041 2,452 2,205 2,266 2,108 1,899

〃 手足口病 1,654 454 611 2,765 520 2,174 549 1,800 4,143 379

〃 伝染性紅斑 529 631 217 767 835 93 122 323 1,317 350

〃 突発性発しん 1,351 1,336 1,377 1,374 1,287 1,428 1,273 1,189 1,177 1,148

〃 百日咳 13 15 13 12 37 119 50 73 43 71

〃 風しん 26 66 17 17 5 ・e) ・ ・ ・ ・

〃 ヘルパンギーナ 1,808 1,640 2,666 1,383 1,747 1,689 1,773 2,374 1,630 1,354

〃 麻しん 36 3 10 19 14 ・e) ・ ・ ・ ・

〃 流行性耳下腺炎 1,208 2,234 1,962 1,240 831 1,129 950 1,111 641 819

眼科 急性出血性結膜炎 5 9 7 4 4 3 - - 6 6

〃 流行性角結膜炎 401 335 366 325 122 173 127 93 101 111

基幹 細菌性髄膜炎** - - - - 1b) 7 - - 2h) -

〃 無菌性髄膜炎 2 - - - 1b) 2 - - 1h) 1

〃 マイコプラズマ肺炎 15 2 - 11 119b) 139 25 31 48h) 3

〃 クラミジア肺炎*** - - - - 74b) 136 43 35 15h) -

〃 成人麻しん 0 0 0 4b) ・e) ・ ・ ・ ・

STD 性器クラミジア感染症 508 422 369 362 677c) 772 715 702 693 684

〃 性器ヘルペスウイルス感染症 170 97 77 96 305c) 311 297 250 242 273

〃 尖圭コンジローマ 104 116 87 103 187c) 218 185 173 153 147

〃 淋菌感染症 572 390 344 304 369c) 393 360 454 420 365

基幹 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症 73 88 109 77 95d) 144 113 200 236h) 235

〃 ペニシリン耐性肺炎球菌感染症 - 1 - 8 28d) 46 12 87 39h) 21

〃 薬剤耐性緑膿菌感染症 1 - 9 2 3d) 3 - - 1h) -

〃 薬剤耐性アシネトバクター感染症 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1h) i) -

週報

月報

a) 11 月 5 日から 52 週の集計,b) 22 週からそれまでの1定点を 5 定点に変更,c) 4 月からそれまでの 14 定点を 15 定点に変更す

るとともに標榜科のバランスも調整,d) 6 月からそれまでの 1 定点を 5 定点に変更,e) 1 月 1 日から全数把握対象疾患に変更,f)

新型インフルエンザ等感染症を含む,g) 3 月 31 日までは新型インフルエンザ等感染症を含み,それ以後は除く,h) 第 14 週(月

報は 4 月)からは 4 定点に,第 35 週(月報は 9 月)からは 2 定点に変更,i) 2 月 1 日から施行

表 5. 五類定点把握感染症の年別患者報告数(2003 年~2012 年)

「・」 は報告疾患ではなかったことを,「-」は報告がなかったことを示す.

*:鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く,**:髄膜炎菌性髄膜炎は除く,***:オウム病を除く

疾患\年齢階層 -5ヵ月 -11ヵ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10-14歳 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 80歳以上 計

インフルエンザa) 75 174 558 637 815 1,118 1,202 1,016 796 681 592 2,066 577 809 1,153 852 450 335 238 137 14,281

疾患\年齢階層 -5ヶ月 -11ヶ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10-14歳 15-19歳 20歳以上 計

RSウイルス感染症 197 372 387 187 111 57 24 5 2 2 2 1 1,347

咽頭結膜熱 4 22 158 88 116 109 77 44 10 11 10 17 3 22 691

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 2 22 85 111 256 368 412 342 240 205 137 183 22 438 2,823

感染性胃腸炎 172 1,071 2,477 1,653 1,586 1,453 1,156 877 691 537 467 1,446 612 4,916 19,114

水痘 29 81 269 271 315 305 239 136 80 61 27 59 6 21 1,899

手足口病 2 21 85 58 58 48 44 24 11 11 4 6 2 5 379

伝染性紅斑 7 19 17 46 48 48 41 33 36 26 22 7 350

突発性発しん 22 518 491 87 13 6 2 2 1 2 1 3 1,148

百日咳 7 2 4 3 1 1 1 3 9 4 7 13 1 15 71

ヘルパンギーナ 15 65 283 257 214 195 133 75 37 22 12 28 4 14 1,354

流行性耳下腺炎 2 22 57 94 131 154 99 72 73 34 57 6 18 819

疾患\年齢階層 -5ヶ月 -11ヶ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10-14歳 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上 計

急性出血性結膜炎 1 1 1 3 6

流行性角結膜炎 1 1 2 2 1 2 2 2 4 22 31 16 10 5 10 111

疾患\年齢階層 0歳 1-4歳 5-9歳 10-14歳 15-19歳 20-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳 65-69歳 70歳以上 計

細菌性髄膜炎b)

無菌性髄膜炎 1 1

マイコプラズマ肺炎 2 1 3

クラミジア肺炎c)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-30-

図 1. インフルエンザ定点,小児科定点当たり患者報告数の推移グラフ

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-31-

疾患名 性別 0歳 1-4歳 5-9歳10-14

歳15-19

歳20-24

歳25-29

歳30-34

歳35-39

歳40-44

歳45-49

歳50-54

歳55-59

歳60-64

歳65-69

歳70歳以

上 計

男 0 0 0 0 22 81 95 73 67 44 42 20 6 3 1 1 455

女 0 0 0 1 36 83 44 29 22 6 8 0 0 0 0 0 229

男 0 0 0 0 1 7 16 17 19 20 9 6 1 2 0 4 102

女 0 0 0 0 4 20 30 27 27 20 15 16 7 4 0 1 171

男 1 0 0 0 3 10 18 14 14 19 16 5 2 5 5 6 118

女 0 0 0 0 0 11 5 1 2 3 1 5 0 0 0 1 29

男 0 0 0 0 19 61 61 63 58 33 28 7 8 3 0 1 342

女 0 0 0 0 6 7 3 6 0 1 0 0 0 0 0 0 23

性器クラミジア感染症

性器ヘルペスウイルス感染症

尖圭コンジローマ

淋菌感染症

表 6. 性感染症(STD)年齢階層別患者報告数(月報対象疾患・2012 年)

図 2. 小児科定点,眼科定点当たり患者報告数の推移グラフ

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-32-

クを形成し,それ以外の時期には報告数の少ない週も見

られる昨年と同様に増減の激しい 1 年であった.

4)A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 2,823 人(定点当たり患者報告数

週平均 0.78 人)で,これまでの 10 年間では少ない方か

ら 2 番目だった.患者の発生動向を見ると,第 4 週,第

11 週,第 24 週にピークを示す年初からの比較的報告数

の多い時期と,第 29 週頃から年末までの報告数の少な

い時期が観察された.この期間の最少報告週は第 33 週

であった.患者は 3 歳から 8 歳児が多く,この年齢範囲

で 64.6%を占めた.

5) 感染性胃腸炎〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 19,114 人(定点当たり患者報告数

週平均 5.25 人)で,これまでの 10 年間では多い方から

3 番目だった.患者の発生動向を見ると,年初の報告数

の多い時期(第 3 週で定点当たり患者報告数週平均 8.33人)から,第 41 週頃まで緩やかな減少傾向を示し,そ

の後増加し第 49 週にピークを作る例年と同じパターン

を示した.

6) 水痘〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 1,899 人(定点当たり患者報告数

週平均 0.52 人)と,これまでの 10 年間で最も少なかっ

た.患者の 73.7%が 1 歳から 5 歳の幼児であった.第 1週に定点当たり患者報告数週平均 1.1 人を示した後は,

報告数に増減はあるものの減少を続け,その後増加に転

じ第 23 週にピークを示し,再び減少傾向を示した後,

徐々に増加し第 52 週にピークを示した.

7) 手足口病〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 379 人(定点当たり患者報告数週

平均 0.10 人)と,これまでの 10 年間では最も少なかっ

た.例年のような患者報告数のピークは見られなかった.

患者は 1 歳から 5 歳児の年齢区分に多く,この年齢

範囲で全体の 77.3%を占めた.

8) 伝染性紅斑〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 350 人(定点当たり患者報告数週

平均 0.10 人)で,これまでの 10 年間では.少ない方か

ら 5 番目であった.患者報告数は第 4 週,第 13 週と第

17 週に小さなピークを示した.

9) 突発性発しん〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 1,148 人(定点当たり患者報告数

週平均 0.32 人)と,これまでの 10 年間で最も少ない報

告数となった. 例年どおり年間を通し大幅な増減は見ら

れなかった.

10) 百日咳〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 71 人(定点当たり患者報告数週

平均 0.02 人)で,これまでの 10 年間で 3 番目に多かっ

た.

11) ヘルパンギーナ〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 1,354 人(定点当たり患者報告数

週平均 0.37 人)で,これまでの 10 年間では最も少なか

った.患者は 1 歳から 4 歳児が中心で,この年齢範囲で

報告の 70.1%を占めた.患者報告数は第 28 週にピーク

を示した.

12) 流行性耳下腺炎〔小児科定点:週報〕

年間の患者報告数は 819 人(定点当たり患者報告数週

平均 0.23 人)で,これまでの 10 年間では少ないほうか

ら 2 番目であった.患者報告数は,第 22 週から第 43 週

を幾分報告数の多い時期とみることも可能であろうが,

増減はあるものの,年間を通してみると季節的な変動は

ほとんど無かった.患者は 5 歳児を中心に 3 歳児から 8歳児に多く,この年齢範囲で全体の 76.1%を占めた.

13) 急性出血性結膜炎〔眼科定点:週報〕

年間の患者報告数は 6 人(定点当たり患者報告数週平

均 0.01 人)で,患者は 1 歳から 70 歳以上の年齢区分ま

での幅広い範囲で報告された.全て第 40 週と第 42 週の

同一医療機関からの報告であった.

14) 流行性角結膜炎〔眼科定点:週報〕

年間の患者報告数は 111 人(定点当たり患者報告数

週平均 0.19 人)で,これまでの 10 年間の中では少な

い方から 3 番目だった.患者は 0 歳から 70 歳以上まで

の幅広い年齢範囲にみられた.

15) 細菌性髄膜炎(髄膜炎菌性髄膜炎は除く)〔基幹

定点:週報〕

報告は無かった.

16) 無菌性髄膜炎〔基幹定点:週報〕

30 歳から 34 歳で 1 人(定点当たり患者報告数週平均

図 2. 小児科定点,眼科定点からの定点当たり患者報告数の推移グラフ

疾患名 0歳 1-4歳 5-9歳10-14歳

15-19歳

20-24歳

25-29歳

30-34歳

35-39歳

40-44歳

45-49歳

50-54歳

55-59歳

60-64歳

65-69歳

70歳以上

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症

20 18 8 0 2 3 1 4 4 1 3 6 7 13 13 132 235

ペニシリン耐性肺炎球菌感染症

2 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 1 1 1 13 21

薬剤耐性緑膿菌感染症

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

薬剤耐性アシネトバクター感染症

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

表 7. 基幹定点把握感染症の年齢階層別患者報告数(月報対象疾患・2012 年)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-33-

0.01 人)の報告があった.

17) マイコプラズマ肺炎〔基幹定点:週報〕

年間の患者報告数は 3 人(定点当たり患者報告数週平

均 0.03 人)であった.報告年齢階層を観察すると,5 歳

から 9 歳児 2 人と 25 歳から 29 歳の成人 1 人であった.

18)クラミジア肺炎(オウム病を除く)〔基幹定点:週

報〕

報告は無かった.

19)性器クラミジア感染症〔STD 定点:月報〕

年間の患者報告数は 684 人(定点当たり患者報告数月

平均 3.80 人)であった.男性は 455 人で,20 歳から 39歳の範囲で全体の 69.5%を占めた.女性は 229 人で,15歳から 39 歳の範囲で全体の 93.4%を占めた.

20) 性器ヘルペスウイルス感染症〔STD 定点:月報〕

年間の患者報告数は 273 人(定点当たり患者報告数月

平均 1.52 人)であった.男性は 102 人で,25 歳から 44歳で全体の 70.6%を占めた.女性は 171 人で,20 歳か

ら 54 歳の範囲で全体の 90.6%を占めた.

21) 尖圭コンジローマ〔STD 定点:月報〕

年間の患者報告数は 147 人(定点当たり患者報告数月

平均 0.82 人)であった.男性は 118 人で,0 歳及び 15歳以上の幅広い年齢階級から報告があった.20 歳から

49 歳の範囲で全体の 77.1%を占めた.女性は 29 人で,

20 歳から 24 歳の範囲をピークにそれ以上の年齢階級の

多くから報告があった.

22) 淋菌感染症〔STD 定点:月報〕

年間の患者報告数は 365 人(定点当たり患者報告数月

平均 2.03 人)であった.男性は 342 人で,20 歳から 49歳の範囲で全体の 88.9%を占めた.女性は 23 人で,15歳から 34 歳の範囲で全体の 95.7%を占めた.

23) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症〔基幹定

点:月報〕

年間の患者報告数は,235 人(定点当たり患者報告数

月平均 9.79人)であった.0歳から 4歳児が全体の 16.2%を占め,70 歳以上が全体の 56.2%を占めた.

24) ペニシリン耐性肺炎球菌感染症〔基幹定点:月報〕

年間の患者報告数は 21 人(定点当たり患者報告数月

平均 0.88 人)であった.70 歳以上が 61.9%を占めた.

25) 薬剤耐性緑膿菌感染症 〔基幹定点:月報〕

報告は無かった.

26) 薬剤耐性アシネトバクター感染症〔基幹定点:月

報〕

報告は無かった.

結 語

名古屋市における感染症発生動向調査の患者情報に

ついて 2012 年の結果を過去のデータとの比較をまじ

え報告した.インフルエンザ定点,小児科定点および

眼科定点からの報告数をこれまでの10年間の報告数の

中で比較すると,RS ウイルス感染症(これまでの 9 年

間の中での比較)の患者報告数は多かった.A 群溶血

性レンサ球菌咽頭炎,水痘,手足口病,突発性発しん,

ヘルパンギーナ,流行性耳下腺炎の報告数は少なかっ

た.

文 献

1) 厚生労働省法律第百十四号“感染症の予防及び感染症の患

者に対する医療に関する法律”平成 10年 10月 2日(1998)

2) 名古屋市健康福祉局長通知“重症急性呼吸器症候群

(SARS)防疫対策実施要領の改正について”平成 15 年

10 月 15 日,15 健健第 325-17 号(2003)

3) 厚生労働省法律第百四十五号“感染症の予防及び感染症の

患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改定

する法律”平成 15 年 10 月 16 日(2003)

4) 厚生労働省政令第 208 号“インフルエンザ(H 五 N 一)

を指定感染症として定める等の政令”平成 18 年 6 月 2 日

(2006)

5) 厚生労働省健康局結核感染症課長“感染症の予防及び感染

症の患者に対する医療に関する法律第 12条第 1項及び第

14 条第 2 項に基づく届出の基準等について”平成 18 年 3

月 8 日,健感発第 0308001 号(2006)

6) 厚生労働省法律第 106 号“感染症の予防及び感染症の患

者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律”平

成 18 年 12 月 8 日(2006)

7) 厚生労働省健康局長“感染症発生動向調査事業実施要綱の

一部改正について”平成 19 年 3 月 29 日,健発第 0329007

号(2007)

8) 厚生労働省令第 159 号“感染症の予防及び感染症の患者

に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省

令”平成 19 年 12 月 28 日(2007)

9) 厚生労働省結核感染症課長“新型インフルエンザ(豚イン

フルエンザ H1N1)に係る症例定義及び届出様式につい

て”平成 21 年 4 月 29 日,健感発第 0429001 号(2009)

10) 厚生労働省健康局結核感染症課長“新型インフルエンザに

係る症例定義及び届出様式の改定について”平成 21 年 5

月 9 日,健感発第 0509001 号(2009)

11) 厚生労働省健康局結核感染症課“新型インフルエンザ

(A/H1N1)の季節性インフルエンザへの移行について”平

成 23 年 3 月 31 日(2011)

12) 厚生労働省健康局結核感染症課長“感染症の予防及び感染

症の患者に対する医療に関する法律第 12条第 1項及び第

14 条第 2 項に基づく届出基準等の一部改正について”平

成 23 年 1 月 14 日,健感発 0114001 号(2011)

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 35-38 (2013)

-35-

名古屋市における自殺死亡率の月次変動

平光良充

Monthly Trends of Suicide Mortality in Nagoya City

Yoshimichi HIRAMITSU

名古屋市における 1998~2011 年の自殺死亡率について月次変動を調査した.性・年齢階級別にみると,20~64 歳男性には月次変動が認められ,月別自殺死亡率は 12 月が通年と比較して有意に低く,また有意な差で

はなかったが,3 月が通年と比較して高い傾向がみられた.20~64 歳女性,65 歳以上男性および 65 歳以上女

性には月次変動が認められなかった.以上の結果から,自殺死亡率の月次変動を踏まえて,3 月またはその直

前の時期に 20~64 歳男性向けの自殺対策を行うことが,自殺死亡率を低下させるためには効果的であると考

えられた. キーワード:自殺死亡率,月次変動,人口動態統計 Key words: suicide mortality, monthly trend, vital statistics

緒 言 自殺死亡の月次変動に関しては,これまでも,全国を

対象とした調査から一保健所管内に限定した調査まで,

いくつかの調査結果1)-7)が報告されている.これらの

調査結果は,おおむね春から初夏において自殺死亡のピ

ークがあった点で共通するが,秋にも自殺死亡が増加す

る二峰性ピークであったという調査結果3),5),6)もある.

自殺死亡に季節変動がみられる原因としては,職場の異

動や転勤などの社会生活が背景にあるという指摘3)や,

日照時間の季節変動が抑うつ状態に影響を与えるという

指摘2),3)がなされている.自殺死亡が増加する時期を

狙って重点的に自殺対策を行うことにより,効率良く自

殺死亡率を低下させることができると考えられる.そこ

で,名古屋市でも自殺死亡に月次変動がみられるか確認

することを目的として,調査を行った.

調 査 方 法 調査期間は 1998~2011 年とした.自殺死亡数に関す

る資料は,1998~2011 年の人口動態統計を使用した.

人口は,名古屋市公式ウェブサイト8)に掲載されている

各年 10 月 1 日現在の推計人口(国勢調査年においては

国勢調査人口)を使用した.月別自殺死亡率(10 万人あ

たり,以下同様)は,各月の死亡数を年換算した後,当

該年 10 月 1 日現在の推計人口で除して算出した.1998~2011 年の 14 年間における平均月別自殺死亡率は,各

月の自殺死亡率の合計を 14 で除して算出した. 月次変動の有無を検討する際には,Friedman 検定を

使用した.通年の自殺死亡率と月別自殺死亡率の差を検

討する際には,Wilcoxon の符号付き順位和検定を使用し

た.有意水準(α)は 5.00%とした上で,多重比較を行

う場合は,Holm 法により有意水準の調整を行った.な

お,統計処理には R version 3.0.1 を使用した.

結 果

1998~2011 年における平均自殺死亡率は 21.15(95%

図 1. 月別にみた自殺死亡率(1998~2011) ○;平均値, ;月別自殺死亡率

0

10

20

30

40

50

60

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

最大値

75%点

中央値

25%点

最小値

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-36-

信頼区間;20.51~21.80)であった.平均月別自殺死亡

率は,5 月が 23.75(95%信頼区間;20.74~26.75)で

最も高く,次いで 2 月が 22.97(95%信頼区間;20.86~25.08),3 月が 22.71(95%信頼区間;20.70~24.73)であった.反対に,12 月が 17.47(95%信頼区間;15.72~19.22)で最も低かった.月次変動の有無を検討した結

果,月次変動が認められた(p = 0.0258).通年の自殺死

亡率と月別自殺死亡率の差を検討した結果,統計学的に

有意な差ではなかったが,12 月が通年と比較して低い傾

向がみられた(p = 0.0067,α = 0.0042)(図 1). 男女別に月次変動の有無を検討した結果,男性では月

次変動が認められた(p = 0.0268)が,女性では有意な

月次変動が認められなかった(p = 0.4082).男性につい

て,通年の自殺死亡率と月別自殺死亡率の差を検討した

結果,12月が通年と比較して有意に低かった(p = 0.0031,α = 0.0042)(図 2). 調査期間において 9 歳以下の自殺死亡数が 0 人であっ

たため,年齢階級を 10~19 歳,20~64 歳,65 歳以上

に区分して,年齢階級別に自殺死亡率の月次変動を調べ

た。 10~19 歳について男女別にみると,男女ともに自殺死

亡数が 0 人または 1 人の月が多かったため,10~19 歳

男女の月別自殺死亡率について月次変動の有無を検討す

ることは避けた(図 3(A)). 20~64 歳について男女別に月次変動の有無を検討し

た結果,男性では月次変動が認められた(p = 0.0058)が,女性では有意な月次変動が認められなかった(p = 0.5495).20~64 歳男性について,通年の自殺死亡率と

月別自殺死亡率の差を検討した結果,12 月が通年と比較

して有意に低く(p = 0.0040,α = 0.0042),また,有

意な差ではなかったが,3 月が通年と比較して高い傾向

がみられた(p = 0.0085, α = 0.0045)(図 3(B)). 65 歳以上について男女別に月次変動の有無を検討し

た結果,男女とも有意な月次変動は認められなかった

(男;p = 0.5733, 女;p = 0.1811)(図 3(C)).

考 察

性別に月別自殺死亡率をみた場合,男性では,月次変

動が認められ,12 月が通年と比較して有意に低く,また

有意な差ではなかったが,2 月,3 月や 5 月が通年と比

較して高い傾向がみられた.この結果は,春に高く冬に

低いという全国の月次変動3)とおおむね同様の結果であ

った.一方,女性では,月次変動が認められなかった. 性・年齢階級別に月別自殺死亡率をみた場合,20~64

歳男性では,月次変動が認められ,12 月が通年と比較し

て有意に低く,また有意な差ではなかったが,3 月が通

年と比較して高い傾向がみられた.一方,20~64 歳女性,

65 歳以上男性および 65 歳以上女性では月次変動が認め

られなかった. 20~64 歳男性においてこのような月次

変動がみられた原因としては,決算や異動・転勤などの

職場における社会活動の季節変動が抑うつ状態の発生や

悪化に寄与したためではないかと考えられる.また,65歳以上では,男女とも月別自殺死亡率に有意な月次変動

がみられなかったが,これは,すでに退職している者が

多く,日常生活が季節変動の影響をそれほど受けていな

いことが原因ではないかと考えられる.

図 2. 性・月別にみた自殺死亡率(1998~2011) *;p <0.05,○;平均値, ;月別自殺死亡率

0

10

20

30

40

50

60

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(男性)

*(男性)

0

10

20

30

40

50

60

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(女性)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-37-

以上の結果より,自殺死亡率の月次変動を踏まえれば,

3 月,もしくはその少し前の時期に,勤労男性向けの自

殺対策を行うことが,名古屋市の自殺死亡率を低下させ

るために効果的と考えられる. 本調査の限界として,本調査は,1998~2011 年の 14

年間を対象に行ったものであるため,今後も同様の月次

(A)10~19 歳

(B)20~64 歳

(C)65 歳以上

図 3. 性・年齢階級・月別にみた自殺死亡率(1998~2011)

*;p <0.05,○;平均値, ;月別自殺死亡率

0

5

10

15

20

25

30

35

40

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(男性)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

自殺死亡率(人口

10万人あたり)

(女性)

0

10

20

30

40

50

60

70

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(男性) *

0

10

20

30

40

50

60

70

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(女性)

0

20

40

60

80

100

120

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(男性)

0

20

40

60

80

100

120

月別自殺死亡率(人口十万人あたり)

(女性)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-38-

変動が続くとは言えない点が挙げられる.月別自殺死亡

率は雇用状況などの社会情勢に伴って変動することから,

今後は本調査と異なる月次変動となる可能性もあると考

えられる.したがって,今後も最新の自殺死亡の情報を

取り入れながら,月次変動を随時調査していく必要があ

ると考えられる.

文 献 1) 上野正彦,庄司宗介,浅川昌洋:老人の自殺.日大医学雑

誌,40,1109-1119(1981)

2) 江頭和道,鈴木尊志,阿部和彦:日本各地の月自殺率と月

間日照時間.精神医学,29,735-740(1987)

3) 藤井賢一郎,栗栖瑛子:わが国における自殺死亡の季節周

期性について.日本公衆衛生雑誌,36,829-838(1989)

4) 境野正武,尾形親,松村父征生,何頌躍,神崎賢一郎,藤

谷登,的場梁次:佐賀県下における自殺例の疫学的研究

1981 年-1990 年.法医学の実際と研究,35,371-380(1992)

5) 國井敏,栗崎恵美子,阿部すみ子,水澤郁文,郡司啓文,

平岩幸一:福島県における自殺の統計的検討(1989-1995

年).福島医学雑誌,47,233-241(1997)

6) 緒方剛,設楽恵利,中村好一:人口動態調査にみる茨城県

古河保健所管内の自殺の時間的分布.厚生の指標,50,

34-38(2003)

7) 山内貴史,竹島正,稲垣正俊:1998 年以降のわが国におけ

る自殺死亡の季節変動.公衆衛生,76,574-577(2012)

8) http://www.city.nagoya.jp/shisei/category/67-5-5-0-0-0-0-0-0-0.html (平成 25 年 4 月 30 日現在)

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 39-41 (2013)

-39-

名古屋市内における蚊のウエストナイルウイルス調査(2012)

横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎,小平彩里

Surveillance of Mosquitoes for West Nile Virus in Nagoya City (2012)

Hiroaki YOKOI, Yuuki KAMITE, Shin-ichiro SHIBATA and Akari KODAIRA

名古屋市におけるウエストナイル熱対策の一環として,2012 年 5 月から 10 月にかけて市内 8 地点にドライ

アイスを併用した吸引トラップを設置して,蚊成虫の捕集調査を行った.捕集された蚊は 4 属 6 種(シナハマ

ダラカ,ヒトスジシマカ,オオクロヤブカ,カラツイエカ,アカイエカ群,コガタアカイエカ)7,145 頭であ

った.雌の蚊を対象としてウエストナイルウイルスの保有について遺伝子検査を行った結果,ウエストナイル

ウイルス特異的遺伝子はすべての検体で検出されなかった. キーワード:蚊,ウエストナイルウイルス,名古屋市 Key words: mosquito, West Nile virus, Nagoya City

緒 言 米国におけるウエストナイル熱の流行は依然として続

いており,2012 年の発症者(疑い例を含む)は 5,674名,死者は 1999 年の流行開始以来最大の 286 名と報告

された1).

ウエストナイルウイルスは,自然界において鳥類と蚊

で感染サイクルを形成していることから,国内各地でウ

エストナイルウイルスに関する蚊の調査が行われており,

名古屋市では平成 17 年度(2005 年度)から,蚊のウエ

ストナイルウイルス調査を行ってきた2)-8).今回は,

平成 24 年度(2012 年度)の調査結果を報告する.

調 査 方 法 1.蚊の捕集調査 調査は,名古屋市内の公共機関敷地や公園など図 1 に

示した 8 地点を調査地点として,2012 年 5 月 8 日から

10 月 30 日までの期間,隔週,合計 12 回行った. 蚊の捕集法については,すでに報告した4)ので略記す

る.交流電源型ライトトラップを,ファンのみを作動さ

せて吸引トラップとして用い,ドライアイスを併用し,

約 24 時間作動させて蚊を捕集した.捕集した蚊は,冷

凍した後,実体顕微鏡下で観察し,おもに「ウエストナ

イル熱媒介蚊対策ガイドライン」9)および佐々ら10)を

参考に同定した. 2.ウエストナイルウイルス検査 雌の蚊を対象としてウエストナイルウイルスの保有に

ついて RT-PCR 法により遺伝子検査を行った.同定後の

雌成虫を,調査日,調査地点,種類ごとに最大 50 頭を 1プールとし,-80℃で保存した後,検査に使用した. RT-PCR 法は,ウエストナイルウイルス病原体検査マニ

ュアル11)に従い,ウエストナイルウイルス特異的プラ

図 1. 名古屋市内における蚊の調査地点(2012) 1:千種区(生活衛生センター),2:西区(公園),3:北区(事

業所敷地,公園に隣接),4:瑞穂区(衛生研究所),5:熱田区

(事業所敷地,公園に隣接),6:港区(1)(事業所敷地),

7:港区(2)(下水処理場),8:港区(3)(公園)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-40-

イマー(WNNY514,WNNY904)を使用して行った.

結果および考察

2012 年の全調査期間に捕集された蚊の種類ごとの調

査地点別捕集数を表 1 に示した.シナハマダラカ Anopheles sinensis,ヒトスジシマカ Aedes albopictus,オ

オクロヤブカ Armiceres subalbatus,カラツイエカ Culex bitaeniorhynchus,アカイエカ群 Cx. pipiens group および

コガタアカイエカ Cx. tritaeniorhynchus の4属6種7,145頭(雄 165 頭,雌 6,980 頭)の蚊が捕集された.捕集さ

れた蚊のうち,アカイエカ Cx. p. pallens とチカイエカ Cx. p. molestus の 2 亜種については,形態学的手法での

同定が困難なため,アカイエカ群として取り扱った. 最も高い割合で捕集された種類はアカイエカ群で

5,852 頭(捕集割合 81.9%)であった.次いでヒトスジ

シマカが 1,099 頭(15.4%)捕集された.コガタアカイ

エカは 189 頭(2.6%),シナハマダラカは 3 頭(0.04%),

オオクロヤブカおよびカラツイエカは各 1 頭(0.01%)

捕集された. アカイエカ群は全調査地点で優先して捕集され,各調

査地点における捕集割合は 48.1~99.8%であった.ヒト

スジシマカは全ての調査地点で捕集され,各調査地点に

おける捕集割合は 0.1~35.2%であった.コガタアカイ

エカは 4 調査地点で捕集され,調査地点 8(港区(3))では 185 頭捕集された(21.0%).他の調査地点におけ

る捕集数は 0~2 頭であり,捕集割合は 0~1.0%であっ

た. ウエストナイルウイルスの遺伝子検査は,雌成虫合計

261 プールについて行い,ウエストナイルウイルス特異

的遺伝子はすべての検体で検出されなかった. 本市を含め,国内各地でウエストナイルウイルスに関

する蚊の調査が行われているが,現在までのところウエ

ストナイルウイルスが蚊から検出されたという報告はな

い.しかし,捕集された蚊の 90%以上を構成するアカイ

エカ群およびヒトスジシマカからウエストナイルウイル

スが米国において検出されている1)ことから,今後も調

査地点,捕集方法など調査方法を検討しつつ,名古屋市

内における蚊およびウエストナイルウイルスの調査を継

続して行う必要があるものと考えられる.

結 語 2012 年 5 月から 10 月にかけて,名古屋市内の 8 地点

にドライアイスを併用した吸引トラップを設置して行っ

た蚊成虫の捕集調査の結果,4 属 6 種(シナハマダラカ,

ヒトスジシマカ,オオクロヤブカ,カラツイエカ,アカ

イエカ群,コガタアカイエカ)7,145 頭を捕集した.雌

の蚊を対象として RT-PCR 法により検査を行った結果,

ウエストナイルウイルス特異的遺伝子は全ての検体で検

出されなかった.

謝 辞 調査の実施にあたり,トラップの設置にご協力いただ

いた各調査地点各位に厚くお礼申し上げます.なお,本

報告は本市健康福祉局環境薬務課からの受託調査として

当研究所,生活衛生センター,環境薬務課の協力のもと

に行われた調査結果をまとめたものである.

文 献 1) http://www.cdc.gov/westnile/resources/pdfs/Mosquito%2

0Species%201999-2012.pdf(平成 25 年 9 月 9 日現在)

2) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎:名古屋市内における蚊

のウエストナイルウイルス調査(2005).名古屋市衛研報,

52,19-21(2006)

3) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎:名古屋市内における蚊

表 1. 名古屋市内で捕集された蚊の種類ごとの調査地点別捕集数(2012)

調査地点 シナハマダラカ ヒトスジシマカ オオクロヤブカ カラツイエカ アカイエカ群 コガタアカイエカ

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

1:千種 0 0 7 64 0 0 0 0 3 188 0 1 2:西 0 0 0 19 0 0 0 0 3 186 0 2 3:北 0 0 0 13 0 0 0 0 1 116 0 0 4:瑞穂 0 0 68 608 0 0 0 0 9 1,233 0 0 5:熱田 0 0 4 41 0 0 0 0 8 109 0 0 6:港(1) 0 0 0 2 0 0 0 0 0 30 0 0 7:港(2) 0 0 0 5 0 0 0 0 55 3,486 0 1 8:港(3) 0 3 6 262 0 1 0 1 1 424 0 185

計 0 3 85 1,014 0 1 0 1 80 5,772 0 189

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-41-

のウエストナイルウイルス調査(2006).名古屋市衛研報,

53,35-37(2007)

4) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎:名古屋市内における蚊

のウエストナイルウイルス調査(2007).名古屋市衛研報,

54,13-16(2008)

5) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎:名古屋市内における蚊

のウエストナイルウイルス調査(2008).名古屋市衛研報,

55,67-70(2009)

6) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎,小平彩里:名古屋市内

における蚊のウエストナイルウイルス調査(2009).名古

屋市衛研報,56,35-37(2010)

7) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎,小平彩里:名古屋市内

における蚊のウエストナイルウイルス調査(2010).名古

屋市衛研報,57,21-23(2011)

8) 横井寛昭,上手雄貴,柴田伸一郎,小平彩里:名古屋市内

における蚊のウエストナイルウイルス調査(2011).名古

屋市衛研報,58,27-29(2012)

9) ウエストナイル熱媒介蚊対策研究会:ウエストナイル熱媒

介蚊対策ガイドライン.(財)日本環境衛生センター,川崎,

2003 10) 佐々学,栗原毅,上村清:蚊の科学.図鑑の北隆館,東京,

1976 11) 高崎智彦,倉根一郎:ウエストナイルウイルス病原体検査

マニュアル(第 4 版).国立感染症研究所,2006

名古屋市衛研報 (Ann. Rep. Nagoya City Public Health Res. Inst.), 59, 43-48 (2013)

-43-

アセチルコリンエステラ-ゼ阻害剤用迅速キットの液状食品中の

有機リン系殺虫剤の比色定量における適用性について

濱崎哲郎

Application of a Rapid Kit-Assay System for Acetylcholinesterase Inhibitors to Colorimetric Determination of Organophosphorus Insecticides in Liquid Foods

Tetsuo HAMASAKI

抽出操作後に精製を行わず,検出系で呈色試薬として 5, 5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸を用いて試料中の

アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤を比色定量する一市販迅速キットについて,液状食品中のマラ

チオン等 4 種の有機リン系殺虫剤(OPs)の残留分析への適用性を検討した.本キットで抽出溶媒として使用

するアセトニトリルに関しては,これが酵素-呈色反応液中に 7%(v/v)存在すると,OPs の検出・判定が困難

となったことから,アセトニトリル残存を防ぐための AChE 添加前での充分な風乾操作実施の必要性が示唆さ

れた.更に,OPs が試料抽出液中から GC-FPD により検出されなかった牛乳等 8 種の試料について,抽出-

酵素-呈色反応の全キット過程の分析を行ったところ,試料によっては試験液の吸光度(416 nm)が大きく低

下し(例.豆乳:33%),偽陽性と判定される場合が見出された.また,試料に OPs を添加した試験では陰性-陽性色調変化図による目視比色のみでは抽出物の影響を排除できない事例(野菜ジュース:橙緑色化-偽陰性)

も認められた.しかし,OPs を含まない試料同一種の食品を利用し,これに対する分析対象試料の抽出-酵素

-呈色反応試験液の吸光度比を求めて OPs を定量する方法を適用すれば,このキット検査において生じうる誤

差は容易に縮小化できる可能性があることが明らかにされた. キーワード:アセチルコリンエステラーゼ,よう化アセチルチオコリン,5, 5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸,

有機リン系殺虫剤,液状食品試料抽出物,アセトニトリル,化学性食中毒 Key words: acetylcholinesterase, acetylthiocholine iodide, 5, 5’-dithiobis-2-nitrobenzoic acid,

organophosphorus insecticide, extract of liquid food sample, acetonitrile, food poisoning

緒 言 呈色試薬として 5, 5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸

(DTNB)を使用1)-6)してコリンエステラーゼ阻害剤

を検出する検査キットには,食品中の有機リン系殺虫剤

(OPs)やカーバメート系農薬等を比較的短時間で検出

しうる利便性があることが推測される.輸入加工流通食

品に関しては OPs 混入事案7)が発生した例があり,OPs等による健康被害発生2),7)が疑われ,その原因を探り,

混入食品種の特定等8)を早急に行う際には,一次資料と

してのデータを簡便,かつ集約的に収集するツールとし

て,この酵素(阻害)-呈色反応の原理を利用した検査キ

ットの有用性は高い可能性があると考えられる.しかし

ながら,実試料を用いて,その OPs 等の残留分析への適

用性を調べた報文5),6)はあまり多くは認められない.

そこで,今回,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)

阻害度を目視による比色からのみではなく,試験液吸光

度からも求められる利点があり,操作書において精製操

作を行うことが示されていない迅速性の高い一市販キッ

トについて,これを利用して,各種液状食品中の OPs(4種:マラオクソン,マラチオン,ダイアジノン,メタミ

ドホス)をより正確に定量するための検討を種々行った. この OPs を鋭敏に検出するための操作手法等を調べ,

OPs 検出色調に与える抽出物の影響等を探索する過程

において,見出された試料抽出物のバックグラウンド影

響等により生じたと考えられる比色検出-判定誤差を比

較的容易に補正し,OPs の食品混入等をより精度を高め

て評価するための分析方法導入を考案し,この方法の試

料分析における適用可能性に関する若干の検討も試みた. 得られた知見をここに併せて報告する.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-44-

実 験 方 法 1.試料 平成 21 年 11 月から平成 22 年 8 月に名古屋市内で販

売されていた乳脂肪分 3.5%以上の成分無調整の牛乳,乳

脂肪分 4.2%の加工乳,乳脂肪分 1.5%の低脂肪牛乳,カ

ルシウム,鉄分強化表示のある乳脂肪分 0.7%の乳飲料,

野菜ジュース,大豆固形分を 6%以上含有する低カロリ

ー調整豆乳,並びに根昆布だし(原材料:昆布エキス)

の 7 種の液状食品と水を試料とした.なお,水について

は,蒸留水を Milli-Q Labo 小型超純水製造装置(日本ミ

リポア 株)により更に精製したものを用いた. 2.試薬類 1)標準品および標準溶液等 標準品(液):マラチオンは和光純薬工業(株)製で純

度が 99.3%のものを使用した.メタミドホスは和光純薬

工業(株)製で純度が 99.7%のもの,もしくは,

Sigma-Aldrich 社製の 100 µg/mL の アセトニトリル溶

液を購入して利用した.ダイアジノンは和光純薬工業

(株)製で純度が 99.8%のものを用いた.マラオクソン

は Sigma-Aldrich社製で純度が 93.0%のものを使用した. 標準溶液等:マラチオンに関しては標準品を残留農薬・

PCB 試験用の n-ヘキサン,および同グレ-ドのアセト

ン(1:1)混液に溶解し,その標準原液(2000 µg/mL)を調製した.各種検討に用いた標準溶液は,この標準原

液の溶媒を低流量の高純度窒素で除去して HPLC 用ア

セトニトリルに置換後,順次アセトニトリルで希釈する

ことにより作成した.マラチオン以外の OPs については,

その標準品(液)の必要量を秤取後,アセトニトリルを

用いて溶解,希釈して,各々,標準原液,標準溶液を調

製した. 2)キット分析等に用いた試薬類 水:蒸留水を先に示した方法で精製したものを用いた.

OPs 抽出用の試薬類:試料からの OPs 抽出溶媒とし

て HPLC 用アセトニトリルを,また,OPs 抽出補助剤

として MAIAⓇ-SALTS(LIOFILCHEM 社)を使用した. AChE-呈色反応用の試薬類:哺乳類 AChE 等を含む凍

結乾燥 MAIAⓇ-MEDIUM(LIOFILCHEM 社),更に,

基質のよう化アセチルチオコリン,および DTNB を含む

MAIAⓇ-STARTER(LIOFILCHEM 社)を購入した.

これらは操作書(キットマニュアル:LIOFILCHEM 社)

に従い,規定量の水(対 MAIAⓇ-MEDIUM:3.5 mL,対 MAIAⓇ-STARTER:2.5 mL;用時調製)を加え,溶

解させてから試験に利用した. 3.装置および器具等 ウェル中の試験液の吸光度測定には東洋曹達工業(株)

のマイクロプレートリーダーMPR-4A(416 nm)を使用

した.

なお,試料中の OPs の存在等を調べる場合には,ガス

クロマトグラフ(GC-FPD:526 nm;GC-14A,島津製

作所 株)を利用した.GC 用のカラムは J&W 社製 DB-1(0.53 mm i.d., ×30 m, 1.5 µm 膜厚)を使用した.カラ

ム恒温槽温度は 140℃(1 分)-20℃/分-200℃(0 分)

-10℃/分-250℃(2 分)に,また,注入口温度および

検出器温度は 270℃に設定した.キャリヤーガス(窒素)

流量は 20 mL/分,フレーム燃料ガスである水素と空気は

共に 0.8 kg/cm2に調圧して分析した.試験液の GC 注入

量は 5 µL とした. 4.キット試料分析 1)試料からの OPs の抽出操作 キットマニュアルに準じて,試料 4 mL を 50 mL 広口

遠心沈殿管に採取後,アセトニトリル 4 mL を加え,1分間振とうした.この後,MAIAⓇ-SALTS 2 g を加え,

直ちにこの塩が分散溶解するように 1 分間振とうした.

更に,振とう後の溶液に対して 10℃,3000 rpm の条件

で 10 分間遠心分離を行い,得られた上清のアセトニト

リル層を AChE-DTNB 呈色反応等用の試験に供した. 2)AChE-DTNB 呈色反応の分析操作 キットマニュアルに従って,呈色反応試験用アセトニ

トリル溶液 100 µL をウェルに分注後,アセトニトリル

を除去するため,室温設定の家庭用ドライヤーでこれに

送風する操作を行った.この後,100 µL の MAIAⓇ

-MEDIUM 溶液をウェルに加え,室温で 50 分間インキ

ュベートした.そして,50 µL の MAIAⓇ-STARTER 溶

液を添加し,室温,遮光下において定められた時間(例.

25℃の場合 8 分間;20℃の場合,10 分間)インキュベ

-トした後,反応停止剤としてのアセトニトリルを 100 µL 加え,3 分間更にインキュベ-トし,これの吸光度を

測定(Sa 値)した.このとき,同一プレート上で抽出遠

心処理上清試料種に対応する,MAIAⓇ-STARTER 溶液

を添加しないブランク用ウェルを設置し,これから得ら

れた吸光度値を Sa 値から差し引いた. なお,キットに付属していた目視判定用陰性-陽性色調

変化図(COLOR CARD;LIOFILCHEM 社)を利用し

た比色判定も同時に試みた. 5.OPs 濃度と AChE 活性

OPs 濃度と AChE 活性の関係を調べ,それぞれの OPsの AChE 阻害 20%濃度(IC20)を求めるために,ダイア

ジノンは 1-1000 µg/mL,メタミドホスは 0.1-10 µg/mL,マラチオンは 10-500 µg/mL,マラオクソンは

0.001-10 µg/mL の各々の濃度区間内において,5 もし

くは 6 種類の試験濃度を設定し,AChE-DTNB 呈色反応

を行った.AChE 活性は以下の式から得た. AChE 活性(%)=100×(OPs 標準溶液の AChE-DTNB

試験液の吸光度)/(アセトニトリルの AChE-DTNB 試

験液の吸光度)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-45-

表 1. 試料に添加した有機リン系殺虫剤の抽出率

ダイアジノン b) メタミドホス b) マラチオン b) マラオクソン b)

水 98.2 86.7 88.8 88.9

野菜ジュ-ス 99.7 119.7 118.9 112.5

根昆布だし 102.2 125.8 121.9 126.3

豆乳 97.3 91.5 92.5 79.2

低脂肪牛乳 c) 96.1 110.2 111.4 114.6

低脂肪乳飲料 d) 100.1 108.3 110.8 98.4

牛乳 96.6 112.7 110.8 97.4

高乳脂肪牛乳 e) 89.7 99.1 97.6 84.2

試 料抽出率 (%) a)

a) 平均抽出率(n=2).アセトニトリル層を GC-FPD(526 nm)に

より分析.各試料(4 mL):供試 4 殺虫剤は不検出(<0.02 µg/mL). b) 添加有機リン系殺虫剤溶液(400 µL)の濃度;ダイアジノン ,メタ

ミドホス,マラチオン:各 20 µg/mL,マラオクソン:0.35 µg/mL. c) 乳脂肪分=1.5%. d) 乳脂肪分=0.7%; Ca,Fe 強化乳飲料. c) 加工乳.

IC20は,これを挟む,作成した OPs 濃度-AChE 活性

グラフにおける直近の 2 種の試験濃度とこれらに対する

各 AChE 活性値から得られた一次式(Y=aX+b)より算

出した.実験は 4 回行った. 6.キット検査判定に影響を及ぼす要因等 1)AChE-DTNB 呈色反応液中のアセトニトリルの影響

IC20の OPs 標準溶液を作成し,その 100 µL をウェル

に分注した.この後,室温送風設定のドライヤーにより

溶媒を除去し,MAIAⓇ-MEDIUM溶液を加える直前に,

あらかじめ用意したアセトニトリル影響検討用の水溶液

(アセトニトリル含有率:0,25,50,100%;v/v)20 µLを添加して AChE-DTNB 呈色反応の分析操作を行った

(最終液量:計 270 µL).このとき,OPs=0 µg/mL で,

かつ添加アセトニトリル=0%の条件での AChE-DTNB試 験 液 の 吸 光 度 に 対 す る 各 検 討 条 件 に お け る

AChE-DTNB 試験液の吸光度の比の値を求めた.実験は

4 回実施した. 2)試料抽出物の影響 試料に OPs を添加しない条件でキットマニュアルに

準じたアセトニトリル等を用いた抽出操作を施し,得ら

れた抽出遠心分離後の上清液( a 液)について

AChE-DTNB 呈色反応分析を行った.このとき,アセト

ニトリルの AChE-DTNB 試験液の吸光度に対する a 液

の AChE-DTNB 試験液の吸光度の比を算出した.実験

は 6 回行った. 3)試料抽出液を利用する相対吸光度法

IC20の 10 倍濃度の OPs 標準溶液を作成し,この標準

溶液 400 µL を試料に加え,混和後,アセトニトリル 3.6 mL を添加等して,キット法に準じた振とう抽出-遠心

分離-AChE-DTNB 呈色反応分析を行い,並行して OPs無添加条件(OPs=0 µg/mL:アセトニトリル =400 µL)で,同様の試験も実施した.試験後,OPs 無添加試料抽

出液の AChE-DTNB 試験液の吸光度に対する OPs 添加

試料抽出液の AChE-DTNB 試験液の吸光度の比を計算

した(RAb-E).また,このとき,アセトニトリルの

AChE-DTNB 試験液の吸光度に対する IC20 の標準溶液

の AChE-DTNB 試験液の吸光度の比も求めた(RAb-S).そして,RAb-S,RAb-E の値をそれぞれ比較した.実験

は 3 回実施した.

結果および考察 1.試料からの OPs の抽出率

OPs 抽出の操作において,汎用される試験管(例.口

径 15 mm;20 mL 用)中の試料等に MAIAⓇ-SALTS を

加えるキットマニュアルの示す振とう操作等を行うと,

試料によってはこの塩が容易に分散溶解しない現象が認

められ,OPs 検出が妨げられる可能性があることが考え

られた.そこで,これを防ぐため,今回の各試験の抽出

時には 50 mL 広口遠心沈殿管(口径:24 mm;管本体

内径:30 mm)を用いて,塩添加後は速やかに激しく振

とう操作を行うことにした. 試料からの OPs の抽出率を調べるために,まず,あら

かじめ採取した 4 mL の試料にダイアジノン,メタミド

ホス,マラチオンは各 20 µg /mL,マラオクソンの濃度

は 0.35 µg/mL である 4OPs混合標準溶液 400 µL を添加

し,混和した.この後,これに 3.6 mL のアセトニトリ

ルを添加し,キット法に従い 1 分間振とうした.そして,

MAIAⓇ-SALTS を利用する激しい振とう抽出と遠心分

離を行い,得られたアセトニトリル層に脱水のために残

留農薬試験用の無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業 株)

1 g を加えた後,この液について GC-FPD 分析を行い,

OPs 抽出率を計算した(n=2).豆乳へマラオクソンを添

加した場合,抽出率が最も低く,79.2%であったが(表

1),試料からの抽出操作において,それぞれの OPs の大

きな損失は生じていないと考えられた. 2.試料中の OPs

AChE-DTNB 呈色反応分析を行う前に,あらかじめ各

分析対象試料について抽出等の操作を行い,得られたア

セトニトリル上清液を脱水後,その液を GC-FPD により

分析した.なお,このとき,4OPs 各 0.02 µg/mL の標準

混合溶液を GC-FPD に注入し,各ピ-ク高も測定した.

そして,試料抽出脱水液の GC-FPD クロマトグラム上の

各 OPs 保持時間にその標準品ピークより高いピークが

現れるかどうかを調べたが,0.02 µg/mL を超える各 OPsは,各々の試料から検出されないことが確かめられた.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

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図 1. 有機リン系殺虫剤による AChE 活性の阻害

(○): マラオクソン,(■): メタミドホス,(●): マラチオン,

(▲): ダイアジノン.n=4; エラーバー: S.D..

図 2. メタミドホスおよびダイアジノンによる AChE 阻害-呈色反応に与えるアセトニトリルの影響 n=4; エラーバー: S.D..

図 3. マラチオンおよびマラオクソンによる AChE 阻害-呈色反応に与えるアセトニトリルの影響 n=4; エラーバー: S.D..

表 2. 試料抽出物の検出系への干渉

水   94.9±5.42

野菜ジュ-ス   56.9±31.31

根昆布だし   72.4±11.77

豆乳   67.3±12.39

低脂肪牛乳   90.9±8.81

低脂肪乳飲料   83.0±9.79

牛乳   84.5±4.73

高乳脂肪牛乳   86.2±9.94

試 料 a) 相対吸光度(%) b)

a) 各試料:供試 4 殺虫剤は不検出(<0.02 µg/mL).殺虫剤無添加. b) 相対吸光度(%)=100×(試料抽出液の AChE-DTNB 試験液の

吸光度)×1/(アセトニトリルの AChE-DTNB 試験液の吸光度).

平均値±S.D.. n=6.

0

20

40

60

80

100

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 10000

濃 度 (μg/mL)

AC

hE-活

性 (

%)

3.OPs 濃度と AChE 活性 このキットで検出可能な各 OPs の濃度範囲はその化

学構造の違いにより図 1 に示すように大きく異なってい

た.このとき求められた AChE 阻害率の各標準偏差は比

較的小さかった.また,目視でその阻害が生じたと判別

しうる OPs 濃度は,AChE 阻害率が 10%以上の水準で

あることが観察された.マラオクソン,メタミドホス,

マラチオン,ダイアジノンの IC20値は各々,0.035,2.14,60.7, 202.1 µg/mL と求められた. なお,マラチオンはマラオクソンより1700倍高い IC20

値を示したことから,本キットにはオクソン体化試薬が

含まれていないことが推定された.

4.キット検査判定に影響を及ぼす要因等 1)AChE-DTNB 呈色反応液中のアセトニトリルの影響 有機溶媒の AChE 活性に及ぼす影響等に関して,

Mishra ら3)は,メタノールやエタノール等の共存によ

りその活性の低下が誘発することを報告しているが,ア

セトニトリルの影響については明らかにしていない.今

回,試料を用いない条件で,メタミドホス,ダイアジノ

ン(図 2),また,マラチオン,マラオクソン(図 3)に

ついて,各々,アセトニトリルのこれらの検出に与える

影響に関する検討を行った.まず,添加アセトニトリル

濃度の増加に伴い,概して各 AChE 活性(5-メルカプト

-2-ニトロ安息香酸の生成量)は低下することが確かめら

れた.更に,添加アセトニトリル濃度が 0%の場合,0 µg/mLの OPs濃度と各 OPs添加条件間においておよそ

20%程度の AChE 阻害率の差の存在が記録されたが,添

加アセトニトリル試験液濃度が高くなるに従って,その

差が小さくなり,OPs の存在が判別しにくくなる傾向が

認められた.特に,呈色反応試験液の総液量の 7%に相

当する実験条件(添加試験液アセトニトリル濃度

=100%)においては,ウェルでの試験液の退色が OPsによるものと特定することは難しいと思われた.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-47-

表 3. 飲用乳・乳飲料中の有機リン系殺虫剤のキット残留分析における試料抽出液利用-相対吸光度法の導入

相対吸光度 (%) E/S比 相対吸光度 (%) E/S比 相対吸光度 (%) E/S比 相対吸光度 (%) E/S比標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S 標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S 標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S 標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S

S E (%) S E (%) S E (%) S E (%)

ダイアジノン 82±12.6 78±21.4 96 73±19.7 85±17.4 116 90±3.9 82±5.4 91 87±4.5 91±6.9 105

メタミドホス 81±7.6 79±10.9 98 72±17.6 83±3.5 115 85±4.5 79±2.0 93 83±3.2 85±4.1 102

マラチオン 68±7.5 76±3.8 112 67±2.2 67±2.1 101 63±2.3 68±2.9 108 71±5.4 80±5.9 113

マラオクソン 76±7.4 83±7.8 110 69±3.4 72±1.2 105 71±1.1 79±1.1 112 79±1.6 82±7.3 103

有機リン系殺虫剤

高乳脂肪牛乳 牛 乳 低脂肪牛乳 低脂肪乳飲料

a) 有機リン系殺虫剤濃度:各 IC20値.相対吸光度(%)=100×(殺虫剤標準液の AChE-DTNB 試験液の吸光度)/(アセトニトリルの

AChE-DTNB 試験液の吸光度);平均値±S.D.,n=3;検出波長=416nm. b) IC20の 10 倍濃度の有機リン系殺虫剤標準溶液 400 µL を試料 4 mL に添加. 相対吸光度(%)=100×(殺虫剤添加試料抽出液の

AChE-DTNB 試験液の吸光度)/(殺虫剤無添加試料抽出液の AChE-DTNB 試験液の吸光度);平均値±S.D.,n=3.

表 4. 飲用乳・乳飲料以外の試料中の有機リン系殺虫剤のキット残留分析における試料抽出液利用-相対吸光度法の導入

相対吸光度 (%) E/S比 相対吸光度 (%) E/S比 相対吸光度 (%) E/S比 相対吸光度 (%) E/S比標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S 標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S 標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S 標準液 a) 抽出物 b) 100×E/S

S E (%) S E (%) S E (%) S E (%)

ダイアジノン 69±14.5 72±17.0 104 86±15.7 72±4.5 84 58±8.6 52±1.3 90 92±6.1 91±7.1 99

メタミドホス 66±16.0 76±7.6 114 86±9.9 87±3.5 102 56±4.2 66±2.4 118 88±6.3 92±8.5 104

マラチオン 66±1.1 73±6.2 111 76±9.8 75±6.4 99 65±5.4 70±8.0 109 71±6.2 84±39.7 119

マラオクソン 69±3.3 74±3.8 107 77±6.0 91±10.5 118 72±5.9 80±7.8 111 74±9.9 73±35.0 99

有機リン系殺虫剤

水 野菜ジュース 根昆布だし 豆 乳

a) 有機リン系殺虫剤濃度:各 IC20値.相対吸光度:表 3 脚注に記述.平均値±S.D.,n=3. b) 有機リン系殺虫剤標準溶液の試料添加量,相対吸光度:表 3 脚注に記述.平均値±S.D.,n=3.

AChE-DTNB 試験に用いる溶液が OPs 標準溶液の場

合,20℃以上の室温下ではドライヤーによる風乾開始後,

およそ 7 分間でウェル中のアセトニトリルは消失したよ

うに観察された.しかし,実試料分析においては,試料

種によってはアセトニトリル層にその成分が多く移行し

たと視認されることがあり,風乾操作を行っても,ウェ

ルでゲル状の薄膜が残存する事例(例.豆乳:20 分間風

乾)があった.アセトニトリル層へ風乾除去しにくい試

料成分等が多く抽出される場合,その風乾残渣中に微量

のアセトニトリルが共存する可能性があることが推測さ

れる.これに起因する誤判定を防ぐためには,抽出物に

対する風乾操作を充分に行うことが重要であると考えら

れた. 2)試料抽出物の影響

COLOR CARD だけを利用した比色分析においては,

今回,試料によっては,誤った判定が導かれる事例があ

ることが見出された.例えば,豆乳の場合,これを試料

として抽出-AChE-DTNB 呈色反応を行ったところ,試

験液が白濁化し,OPs 無添加条件であっても,陽性と判

定された.一方,これとは対照的に,野菜ジュースの場

合,試験液に陰性類似色調(橙緑色)が強く現れ,OPs無添加の場合だけでなく,IC20の OPs を添加した条件に

おいても,目視比色のみでは,誤って陰性と判定された. そこで,マイクロプレートリーダーを利用して試料抽

出物の検出系への干渉可能性を調べたところ,表 2 に示

すように OPs が添加されていなくても,その抽出液の

AChE-DTNB 試験液吸光度が大きく低下する場合(例.

豆乳:32.7%,目視判定と類似;野菜ジュース:43.1%,

目視判定と相異)があることが明らかとなった.これら

認められた目視や分光光度計による比色分析における検

出・判定に関する誤差の発生には,その試料抽出物由来の

化合物の分子による光の吸収等の影響が関与している可

能性があると推定される. これらの結果から,食品種によっては目視や分光光度

計を利用するこのキットによる通常の OPs 残留分析に

おいて判定誤差が生じるおそれがあることが示唆された. 3)試料抽出液を利用する相対吸光度法 そこで,更に,このキットを活用してより正確に試験

結果の判定を行うために,OPs を含まない試料と同一種

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-48-

の食品の抽出液を使用して,これに対する分析対象の試

験液の吸光度比を求める試料抽出液利用-相対吸光度法

(抽出液のバックグラウンド影響も加味する定量法)の

適用可能性を検討した.表 3,表 4 にその検討結果をま

とめて示した. 算出された相対吸光度比値について,RAb-S と RAb-E

との間で比較を行ったところ,両者の値は極めてよく類

似していた(84-119%).この事実は,OPs 濃度-RAb-E値の検量線を作成し,その定量を試みることにより,精

製を行わないこのキット検査において生じうる判定上の

誤りは容易に補正できるであろうことを示唆するものと

考えられた. なお,この検討において,マラチオンの RAb-S に対す

る RAb-E 値の低下はほとんど認められなかった.この

ため,昆布類に多く含まれるヨウ素化合物や Ca,Fe 強

化乳飲料中の含 Fe 化合物等が関与するマラチオンに対

する酸化(マラオクソンの生成)反応は振とう抽出等の

分析過程では起こらなかったと推定された.

結 語

精製を行わない DTNB を利用する AChE 阻害物質迅

速検出用の一市販キットについて,これの液状食品 OPs残留分析への適用性を検討し,以下の知見を得た. 1.試料分析においては,アセトニトリルを利用した

OPs 抽出時に加える MAIAⓇ-SALTS を速やかに分散

溶解させるように広口遠心沈殿管等を用いて,激しい

振とう操作を行うことが重要であった. 2.健康被害を考慮に入れ,体内でオクソン体化する

OPs 種も検査対象として,このキットを利用して試験

を行う際には,試験操作へ適当な酸化反応ステップを

採り入れる必要性があることが示唆された. 3.酵素-呈色反応液中に振とう抽出溶媒由来のアセトニ

トリルが残存することを防ぎ,OPs 検知を困難としな

いためには,抽出物に対する風乾操作を充分に行う必

要があることが認められた. 4.目視での比色のみでは試料抽出物によっては誤判定

が導かれる事例が見出された.また,分光光度計を使

用して溶媒と OPs のみの組成の標準溶液から作成し

た検量線に基づいて OPs 定量を試みる場合において

も,誤差が生じるおそれがあることが判明した.しか

し,OPs を含まない試料と同種の食品の抽出液を活用

する相対吸光度法を適用すれば,野菜ジュース等の分析

において認められたその検出・判定に関する誤差は簡便

に縮小化され,より正確に検査を行える可能性があるこ

とが明らかにされた. 得られた知見は,OPs による化学性食中毒が疑われ,

このキットを利用して被害拡大防止のための混入食品種

の探索・推定等をより判定精度を高めて速やかに行う必

要がある場合,有用な参考資料になると思われる. 本研究の要旨は,第 49 回全国衛生化学技術協議会年

会(2012,高松)において発表した.

文 献 1) Ellman, G.L., Courtney, K.D., Andres, V., Jr. and

Featherstone, R.M.: A new and rapid colorimetric

determination of acetylcholinesterase activity. Biochem. Pharmacol., 7, 88-95, (1961)

2) Wilson, B.W., Seiber, J.N., Stelljes, M.E., Henderson, J.D., Archer, T.E., Pollock, G.A. and Knaak, J.B.:

Bioassays for detection of aldicarb in watermelon. Bull. Environ. Contam. Toxicol., 42, 159-166, (1989)

3) Mishra, N.N., Pedersen, J.A. and Rogers, K.R.: Highly sensitive assay for anticholinesterase compounds using

96 well plate format. ACS Symposium Series, Oxford

University Press, New York, 2002, No. 806, p.289-305 4) 上條恭子,高野伊知郎,小林麻紀,田村康宏,富澤早苗,

立石恭也,酒井奈穂子,永山敏廣,井部明広:コリンエス

テラ-ゼ活性阻害を利用した簡易キットによる農薬の分析.

東京健安研セ年報,57,179-182,(2006)

5) 田澤英克,江端智彦,高寺貴秀:残留農薬検査キット「ア

グリケム TM」の開発,塗料の研究,151,88-92,(2009)

6) 上條恭子,小林麻紀,大塚健治,田村康宏,富澤早苗,岩

越景子,佐藤千鶴子,井部明広,永山敏廣,高野伊知郎:

簡易キットによる有機リン系農薬の迅速検査法の検討.東

京健安研セ年報,62,139-144,(2011)

7) 中国産冷凍餃子を原因とする薬物中毒事案について-行

政及び事業者等の対応の検証と改善策-,平成 20年 7月,

厚生労働省医薬品局食品安全部,p.1-36

8) 食品由来健康被害原因物質検査マニュアル,p.1-14,平成

21 年 2 月,地方衛生研究所全国協議会理化学部会.

他誌発表論文抄録,学会等発表および著書

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-49-

他誌発表論文抄録

Phenotypic and Genetic Analyses of Campylobacter jejuni Lior Serotype 76 Isolated from Chicken Meat and Clinical Specimens

Masakado Matsumoto*1, Reiji Hiramatsu*1, Kazuhiro Yamada*1, Masahiro Suzuki*1,Yoshio Miwa*2, Mitsutaka Yabutani, Yuhki Nagai*3, Michiyo

Tsuchiya*4,Makiko Noda*5, Akihiro Nagata*6, Keiko Kawakami*7,Tomoko Shima*8, Norio Tatsumi*9, Hiroko Minagawa*1

Japanese Journal of Infectious Diseases, 66, 72-75 (2013)

The aim of this study was to examine the link

between Campylobacter jejuni isolates obtained

from chicken meat (n=7) and gastroenteritis

patients (n=744). In total, 751 isolates were

subjected to Lior serotyping. All the isolates

from chicken meats were serotyped as Lior

serotype 76 (LIO76). Among 23 of the identified

LIO76 strains, 13 strains (6 from chicken meat

and 7 from clinical specimens) were

indistinguishable by Penner serotyping,

antimicrobial susceptibility testing, and

pulsedfield gel electrophoresis. These strains

were isolated in 2 different Japanese

prefectures in 2004–2005, suggesting that

chicken meat is an etiological agent of

Campylobacter gastroenteritis and that a

diffuse outbreak occurred during this time.

Therefore, a continuous surveillance program

should be established in Japan in order to

prevent Campylobacter gastroenteritis,

especially large-scale food-borne outbreaks.

*1 Aichi Prefectural Institute of Public Health *2 Aichi Prefectural Ichinomiya Health Center *3 Mie Prefecture Health and Environment

Research Institute *4 Gifu Municipal Institute of Public Health *5 Gifu Prefectural Research Institute for

Health and Environmental Sciences *6 Fukui Prefectural Institute of Public Health

and Environmental Science *7 Ishikawa Prefectural Institute of Public

Health and Environmental Science *8 Toyama Institute of Health *9 Anjo Kosei Hospital

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-50-

入門講座 微生物の基礎知識 「クドア・セプテムプンクタータ」

柴田伸一郎

感染と消毒 Antiseptics and Disinfectants for Infection Control, 59, No.2, 81-84 (2013)

ここ数年前から,食後数時間程度で一過性の嘔

吐や下痢を発症し,軽症で終わる有症事例が問題

視されるようになってきました.これらの共通点

は,特定の病因物質が検出されず,生食用の生鮮

食品(ヒラメの刺身、馬肉刺身)が共通食として

供されていることが多いことが集計されてわかっ

てきました.

厚生労働省は,全国調査を実施し原因の検討・

予防策についての研究を実施し,その成果をもと

に,薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の食中

毒部会と乳肉水産食品部会に諮り,2011年6月に,

ヒラメ喫食が関与している原因不明有症事例は,

寄生虫の一種である Kudoa septempunctata (ナ

ナホシクドア 以下 K. septempunctata)が関与

していること,馬刺しについては,寄生虫の一種

である Sarcocystis fayeri (フェイヤー住肉胞子

虫)が関与していることが強く示唆されるとの提

言をまとめました.この報告を受けた厚生労働省

は各自治体宛てに,当該寄生虫に起因すると考え

られる有症事例が報告された際には食中毒として

取り扱うよう通知を出しました(2011 年6月 17

日食安発 0617 第3号,http://www.mhlw.go.jp/

topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/gyousei/dl/1

10617_02.pdf).また,2011 年7月 11 日付厚労

省 通 知 ( 食 安 監 発 0711 第 1 号 ,

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/sy

oku-anzen/gyousei/dl/110711_01.pdf)で暫定法と

し K. septempunctata 検査法を同時に各自治体

宛に通知しました.こうして、粘液胞子中である

K. septempunctata が食中毒の原因として世間に

知れ渡ることとなりました.

また,2011 年 6~12 月までに報告されたヒラメ

のクドア食中毒(33 件)(表 1),アニサキス食中

毒(25 件),S. fayeri による食中毒(フェイヤー

住肉胞子虫食中毒)(2 件)を合わせた寄生虫性食

中毒事例は 60 件を数え,カンピロバクター,ノロ

ウイルスに次いでいました.

このような事実から,寄生虫性食中毒は注目さ

れ , そ の 中 で も 一 番 発 生 件 数 の 多 い K.

septempunctata が注目されています.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-51-

食品に混入した動物毛のPCR-APLP法を用いた種識別法

宮崎仁志,加藤友香里,谷口 賢,寺田久屋

食品衛生学雑誌, 53, No.4, 172-176 (2012)

食品に混入した動物毛の種を識別するための簡

便,迅速かつ低コストの方法を検討した.ヒトお

よび愛玩動物等(ネコ,イヌ,ウサギ,ラット,

マウス)または家畜(ブタ,ウシ,ウマ,ヤギ,

ヒツジ,ニワトリ)を識別する対象とした.解析

する手法として PCR-APLP 法を採用した.ミト

コンドリア DNA の 16S rRNA 遺伝子から ND1

遺伝子にかけての領域を標的とし,動物によって

増幅産物長が異なるようにプライマーを設計した.

ヒトおよび愛玩動物等または家畜の識別用に 2 本

の PCR チューブを用意し,それぞれに共通のフォ

ワードプライマーと種特異的リバースプライマー

6 種類を含むように反応液を調製した.増幅産物

長の確認をアガロースゲル電気泳動により行った.

検討した方法を動物毛 52 試料に適用したところ.

すべての試料から想定された長さの増幅産物が得

られた.

医食住のマイコトキシン[8] マイコトキシンの分析法 (1)食品分野 7-2)総アフラトキシン II〔IAC カラム〕

谷口 賢

防菌防黴, 40, No.9, 579-585 (2012)

平成23年8月16日付け食安発0816第1号「総アフラ

トキシンの試験法について」により総アフラトキ

シンに対する試験法が通知された.この中で示さ

れたイムノアフィニティカラム(IAC)法は,ア

フラトキシンの定量を妨害する夾雑物の多い食品

において非常に有効な方法である.しかし,通知

法に示されたIAC法を直接適用不可能な食品や,

操作に注意を要する点が存在する.そこでIAC法

を用いた総AFの試験法の注意点,また様々な食品

に対する適用例について紹介した.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-52-

イムノアフィニティカラムによる総アフラトキシン試験法

谷口 賢

マイコトキシン, 62, No. 2, 127-131 (2012)

平成23年8月16日付け食安発 0816第1号「総ア

フラトキシンの試験法について」において総アフ

ラトキシンに対する試験法が通知された.この中

で穀類,豆類および種実類については多機能カラ

ム法を,香辛料や加工食品,その他多機能カラム

では精製が不十分な試料に対してはイムノアフィ

ニティカラム法を適用できるとされている.しか

し,当研究所および国立医薬品食品衛生研究所で

検討した結果,イムノアフィニティカラム法にお

いて,通知文中「II.妥当性評価の方法」に示さ

れた真度を満たさない試料が存在することが判明

した.そこで、種々の試料に対するイムノアフィ

ニティカラム法の適用性およびその改良法を検討

し,日本マイコトキシン学会第70回学術講演会の

ワークショップで紹介した.本稿では、総アフラ

トキシンの試験法におけるイムノアフィニティカ

ラム法の注意点およびこの検討結果について述べ

た.

Three new species and a new combination of the genus Heterlimnius HINTON from Asia (Coleoptera: Elmidae)

Yuuki Kamite

Koleopterologische Rundschau, 82, 291-299 (2012)

Three new species of the genus Heterlimnius

HINTON (Coleoptera: Elmidae) are described

from Asia: H. horii, H.quadrigibbus and H.

yokoii. Optioservus trachys (JANSSENS) is

transferred to Heterlimnius. The H. trachys

species group is newly proposed for these four

species. Keys to all species of the H. trachys

species group and a world check list of the

genus Heterlimnius are provided.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-53-

Pyrethroid pesticide exposure and risk of childhood acute lymphocytic leukemia in Shanghai

Ding G*1, Shi R*1, Gao Y*1, Zhang Y*1, Kamijima M*2, Sakai K, Wang G*1, Feng C*1, Tian Y*1

Environmental Science and Technology, 46, 13480-13487 (2012)

Significant amounts of pyrethroid pesticides

are used throughout China. Previous studies

have suggested that exposure to pesticides may

increase the risk of childhood cancer; however,

few studies have focused on pyrethroid

metabolites. We investigated five nonspecific

metabolites of pyrethroid pesticides found in

children's urine and examined the correlation

with childhood leukemia. We conducted a

hospital-based case-control study of childhood

acute lymphocytic leukemia (ALL) in Shanghai

between 2010 and 2011. The study included 176

children aged 0-14 years and 180 controls

matched for age and sex. Compared with those

in the lowest quartiles of total and individual

metabolites, the highest quartiles were

associated with an approximate 2-fold

increased risk of ALL [total metabolites: odds

ratio (OR) = 2.75, 95% confidence interval (CI),

1.43-5.29; cis-DCCA: OR = 2.21, 95% CI,

1.16-4.19; trans-DCCA: OR = 2.33, 95% CI,

1.23-4.41; and 3-PBA: OR = 1.84, 95% CI,

1.00-3.38], and most of the positive trends were

significant (p < 0.05). Our findings suggest that

urinary levels of pyrethroid metabolites may be

associated with an elevated risk of childhood

ALL and represent a previously unreported

quantitative exposure assessment for childhood

leukemia.

*1 Shanghai Jiao Tong University School of

Medicine *2 Nagoya City University Graduate School of

Medicine Sciences

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-54-

Interlaboratory study of LC-UV and LC-MS methods for the simultaneous determination of deoxynivalenol and nivalenol in

wheat

Koji Aoyama*1, Hajime Akashi*2, Naoki Mochizuki*3, Yuji Ito*4, Takashi, Miyashita*5, Soohyung Lee*6, Motoki Ogiso*7, Mamoru Maeda*8, Shigemi Kai*

9, Hiroki Tanaka*10, Hiroko Noriduki*11, Hisaaki Hiraoka*1, Toshitsugu Tanaka*12, Eiichiro Ishikuro*7, Yoshinori Itoh*13, Toshihiro Nagayama*14,

Masahiro Nakajima, Shigehiro Naito*15 and Yoshiko Sugita-Konishi*13

Food Hygiene and Safety Science, 53, 152-156 (2012)

To evaluate LC methods with UV or MS

detection for simultaneous analysis of

deoxynivalenol (DON) and nivalenol (NIV) in

wheat, an interlaboratory study was conducted

in 11 laboratories. DON and NIV were purified

using a multifunctional column, and their

concentrations were determined using LC-UV

or LC-MS (/MS). No internal standards were

used. Three fortified wheat samples (0.1, 0.5

and 1 mg/kg), one naturally contaminated

wheat sample, and one blank wheat sample

were used. The recoveries ranged from 90% to

110% for DON and from 76% to 83% for NIV.

For DON, the relative standard deviations for

repeatability (RSDr) ranged from 1.1% to 7.6%.

the relative standard deviations for

reproducibility (RSDR) ranged from 7.2% to

25.2%. For NIV, the RSDr ranged from 2.0% to

10.7%, and the RSDR ranged from 7.0% to

31.4%. Regardless of sample and detector, the

HorRat values for DON and NIV ranged from

0.4 to 1.4. Both LC-UV and LC-MS (/MS)

methods were considered to be suitable for

application as an official method. *1 Food and Agricultural Materials Inspection

Center *2 Nisshin Seifun Group Inc. *3 Asahi Breweries Ltd. *4 Kirin Group Office Company Ltd. *5 Kewpie Corporation *6 Rural Development Administration *7 Japan Food Research Laboratories *8 Japan Frozen Foods Inspection Corporation *9 Kanagawa Prefectural Institute of Public

Health *10 Suntory Business Expert Ltd. *11 Japan Grain Inspection Association *12 Kobe Institute of Health *13 National Institute of Health Sciences *14 Tokyo Metropolitan Institute of Public

Health *15 National Food Research Institute

.

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-55-

Development of an immuno-affinity column for ochratoxin analysis using an organic solvent-tolerant monoclonal antibody

Mikiko Uchigashima*1, Yukie Yamaguchi (Murakami)*2, Hiroshi Narita*2, Masahiro Nakajima, Shiro Miyake*1

Methods, 56, 180-185 (2012)

Two kinds of monoclonal antibodies (MoAbs)

OCA-10A and OCA-1B, were prepared based on

their specificity to ochratoxin A (OTA) and

ochratoxin B (OTB) and their tolerance to 40%

methanol. In an indirect competitive

enzyme-linked immunosorbent assay, the half

maximal inhibitory concentration value of

OCA-10A was 27 ng/mL for OTA and 17 ng/mL

for OTB, and that of OCB-1B was 2 ng/mL for

OTA and 13 ng/mL for OTB. Immuno-affinity

columns (IACs) using these MoAbs were

prepared with agarose gel beads. The IAC with

OCA-1B showed a NaCl-dependent binding

ability to OTA and OTB, while interestingly,

the IAC with OCA-10A bound to them without

NaCl. The IAC with OCA-10A showed a high

methanol tolerance when compared with

existing IACs, as expected from the high

methanol tolerance of OCA-10A itself. Such

tolerance was maintained for the application of

the cocoa extract with 70% methanol and the

wheat extract with 60% acetonitrile, while the

tolerance was slightly altered by interference

from the cocoa extract. Examinations with

organic solvents at higher concentrations than

the allowable level in existing IACs showed that

OTA and OTB spiked with wheat, cocoa and red

wine could be purified with high recovery. The

newly developed IAC is expected to show

sufficient clean-up ability for food analyses.

*1 HORIBA Ltd. *2 Kyoto Women’s University

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-56-

有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(有害物質含有家

庭用品規制法)におけるトリフェニル錫化合物(TPT)及びトリブ

チル錫化合物(TBT)の試験法改定に係わる検討

河上強志*1,伊佐間和郎*1,中島晴信*2,吉田 仁*2,大嶋智子*3,大野浩之, 上村 仁*4,塩田寛子*5,菊地洋子*5,松岡厚子*1,西村哲治*1,6

薬学雑誌, 132, 1197-1208 (2012)

有害物質含有家庭用品規制法で規制されている

トリフェニル錫化合物(TPT)及びトリブチル錫

化合物(TBT)試験法の改定に向けて,これまで

に開発してきた分析法を基に改良を加えた試験法

を考案し,繊維製品,水性接着剤及び油性塗料に

ついて既知濃度(0.1,1.0,10 µg/g)の同一試料

を用いて 6 機関で妥当性を検討した.その結果,

TPT について繊維及び油性塗料試料では,試料保

管時に脱フェニル分解したと考えられ,試料作製

時に比べて濃度が大幅に低下していた.しかしな

がら,分析値の CV 値は概ね 10%以下であり分析

法の精度には問題ないと考えられた.TBT の測定

値については,配布試料と比べていくつかの 0.1

µg/g試料で120%を超えたり 70%未満となったり

したが,それ以外の試料では 70~120%の範囲内

となり,CV 値についてもそのほとんどが 10%以

下と精度も問題ないと考えられた.今回,試験に

用いた試料中の TPT 及び TBT の濃度範囲は,現

行法の基準値を下回っており,本試験法は現行法

よりも低濃度まで測定できた.一方,改正試験法

としては,夾雑物質や測定機器の状態などが分析

値に影響すると考えられたことから,サロゲート

標準物質を使用し対照試料を用いた比較試験とす

ることが望ましいと考えられた.また,TPT につ

いては繊維及び油性塗料試料中での分解が考えら

れたことから,実際の検査では試料入手後に速や

かに分析することが望ましいと思われる.

*1 国立医薬品食品衛生研究所 *2 大阪府立公衆衛生研究所 *3 大阪市環境科学研究所 *4 神奈川県衛生研究所 *5 東京都健康安全研究センター *6 帝京平成大学

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-57-

日本産キタマルヒメドロムシ属(和名新称)について (ヒメドロムシ科)

上手雄貴

さやばねニューシリーズ,8,22-26(2012)

キ タ マ ル ヒ メ ド ロ ム シ 属 ( 和 名 新 称 )

Heterlimnius は Hinton (1935) によって新北区

産 8 種を元に設立された属である.日本における

キタマルヒメドロムシ属に関しては,Kamite

(2009) によって初めてその存在が明らかにされ

た.キタマルヒメドロムシ属およびマルヒメドロ

ムシ属は互いによく似ており,幼虫の中・後胸腹

板硬化片以外での区別が困難である.そこで,今

回は日本産キタマルヒメドロムシ属に関して得ら

れた知見を整理した.

日本産シジミガムシについて

上手雄貴,森 正人*1,司村宜祥*2,松井英司*3

さやばねニューシリーズ,9,12-15(2013)

シジミガムシ Laccobius bedeli は Sharp

(1884) によって Yokohama,Oyama,Sendai,

Hakodate の 1 雄 5 雌の標本を元に記載された種

である.本属の種は同定が非常に難しく,環境省

(2012)のレッドリスト第4次改訂において,シ

ジミガムシが絶滅危惧 IB 類に,ミユキシジミガ

ムシが準絶滅危惧に新規に選定されたこともあり,

保全生態学的な研究を行う上でも早急に詳細な解

説が必要な状況にある.そこで,本種の形態的特

徴や分布,生態などの情報を整理した.また,同

定の便を図るために,日本産シジミガムシ属の亜

属への検索,およびシジミガムシ亜属 3 種の種へ

の検索表を作成した.加えて日本産シジミガムシ

属のチェックリストも作成した.

*1 環境科学大阪株式会社 *2 横浜市 *3 熊本県玉名市

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-58-

学 会 等 発 表

遠隔都市に伝播した集団感染で VNTR が

有効であった事例 平光良充

第 87 回日本結核病学会総会

(2012 年 5 月 11 日 広島)

名古屋市における感染症発生動向調査での

性感染症患者定点見直しの効果

瀬川英男,秋田祐枝

第 58 回名古屋市公衆衛生研究発表会

(2012 年 5 月 17 日 名古屋)

名古屋市の結核について

平光良充

平成 24年度地方衛生研究所全国協議会東海北陸支

部環境保健部会

(2012 年 10 月 11 日 名古屋)

「暮らしとこころの健康」に関するアンケ

ート調査結果

平光良充,牛田寛之,秋田祐枝

平成 24年度地方衛生研究所全国協議会東海北陸支

部環境保健部会

(2012 年 10 月 11 日 名古屋)

名古屋市における感染症発生動向調査に基

づく定点報告疾患の警報発生状況

瀬川英男

第 71 回日本公衆衛生学会総会

(2012 年 10 月 26 日 山口)

インターネットに投稿される結核に関する

質問の傾向

平光良充,牛田寛之

平成 24 年度愛知県公衆衛生研究会

(2013 年 1 月 18 日 東浦)

感染症発生動向調査におけるクラウドを利

用した広域情報の共有について

児島範幸

第 26 回公衆衛生情報研究協議会研究会

(2013 年 1 月 25 日 那覇)

知識共有コミュニティにおける結核に関す

る話題

平光良充

第 88 回日本結核病学会総会

(2013 年 3 月 29 日 千葉)

名古屋市におけるインフルエンザの流行

(2012/2013 シーズン) 中村保尚

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

微生物部会

(2013 年 3 月 8 日 鈴鹿)

名古屋市におけるノロウイルスおよびサポ

ウイルス検出状況 小平彩里

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

微生物部会

(2013 年 3 月 8 日 鈴鹿)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-59-

ウイルス感染症定点観測成績(2012) 鈴木直喜

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

微生物部会

(2013 年 3 月 8 日 鈴鹿)

名古屋市における平成 24 年度食中毒発生

状況及び腸管系病原菌検出状況 高木恭子

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

微生物部会

(2013 年 3 月 8 日 鈴鹿)

名古屋市内の一病院で分離した Bacillus cereus の分子疫学解析 藪谷充孝

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

微生物部会

(2013 年 3 月 8 日 鈴鹿)

日本に流通する食品中の T-2 トキシン、

HT-2 トキシンおよびゼアラレノン汚染実

態調査(平成 23 年度) 竹内 浩*1,吉成知也*2,青山幸二*3,中島正博,

谷口 賢,橋口成喜*4,甲斐茂美*5,田端節子*6,

田中敏嗣* 7,佐藤孝史* 8,松井好之* 9,

小木曽基樹*10,石黒瑛一*10,小西良子*2 *1 三重県保健環境研究所 *2 国立医薬品食品衛生研究所 *3 (独)農林水産消費安全技術センター *4 川崎市衛生研究所 *5 神奈川県衛生研究所 *6 東京都健康安全研究センター *7 神戸市環境保健研究所 *8 (財)食品分析開発センターSUNATEC *9 (財)日本冷凍食品検査協会

*10 (財)日本食品分析センター

第 104 回 日本食品衛生学会学術講演会

(2012 年 9 月 21 日 岡山)

名古屋市における食品の放射性物質検査に

ついて

宮崎仁志,土山智之,寺田久屋

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

(2012 年 11 月 22 日 高松)

キャッサバ中シアンの定量

加藤友香里,宮崎仁志,寺田久屋

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

(2012 年 11 月 22 日 高松)

食品中の酸化防止剤一斉分析法の検討

小林美紀,宮崎仁志,寺田久屋

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

(2012 年 11 月 22 日 高松)

木酢液および竹酢液中の変異原の解析

小野田 絢,麻野間正晴,寺田久屋,滝埜昌彦*1,

糠谷東雄*2

日本環境変異原学会第 41 回大会 *1 アジレント・テクノロジー(株)

*2 静岡県立大学大学院 生活健康科学研究科

(2012 年 11 月 29 日 静岡)

名古屋市における食品の放射能検査につい

土山智之,宮崎仁志,寺田久屋

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

支部衛生化学部会

(2013 年 2 月 7 日 名古屋)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-60-

Occurrence of T-2 toxin, HT-2 toxin and zearalenone in retail foods in Japan Tomoya Yoshinari*1, Koji Aoyama*2

Masahiro Nakajima, Masaru Taniguchi,

Hiroshi Takeuchi*3, Shigeki Hashiguchi*4,

Shigemi Kai*5, Setsuko Tabata*6,

Toshitsugu Tanaka*7,

Yoshiko Sugita-Konishi*1 *1 National Institute of Health Sciences *2 Food and Agricultural Materials Inspection

Center *3 Mie Prefecture Health and Environment

Research Institute *4 Kawasaki City Institute for Public Health *5 Kanagawa Prefectural Institute of Public

Health *6 Tokyo Metropolitan Institute of Public

Health *7 Kobe Institute of Health

Society of Toxicology's 52nd Annual Meeting and

ToxExpo 2013

(March 13, 2013, San Antonio, USA)

0 歳児~2 歳児用水遊び場の衛生管理 田中聡子*1,松永久宜*1,志築和枝*1,

水野修一*1,鈴木昌子,大野浩之

*1 名古屋市瑞穂保健所

第 58 回名古屋市公衆衛生研究発表会

(2012 年 5 月 20 日 名古屋)

中皮腫患者の肺内石綿の濃度とその繊維サ

イズの経年変化(第 2 報) 酒井 潔,久永直見*1,柴田英治*2,

上島通浩*3,市原 学*4,那須民江*4 *1 愛知教育大学保健環境センター *2 愛知医科大学医学部

*3 名古屋市立大学大学院医学研究科 *4 名古屋大学大学院医学研究科

第 85 回日本産業衛生学会

(2012 年 5 月 31 日 名古屋)

肺内の含鉄小体濃度と石綿・非石綿繊維の

長さ別濃度との関係

鈴木隆佳*1,榊原洋子*2,酒井 潔,愈 日在*3,

林 鉉述*4,柴田英治*1,久永直見*2,

小林章雄*1 *1 愛知医科大学医学部 *2 愛知教育大学保健環境センター *3 湖西大学校(韓国) *4 東国大学校(韓国)

第 85 回日本産業衛生学会

(2012 年 5 月 31 日 名古屋)

ヒト肺組織における石綿繊維量と酸化・ニ

トロ化DNA損傷およびDNA修復酵素発現

との関連 平工雄介*1,酒井 潔,柴田英治*2,

上島通浩*3,久永直見*4,村田真理子*1 *1 三重大学大学院医学研究科 *2 愛知医科大学医学部 *3 名古屋市立大学大学院医学研究科 *4 愛知教育大学保健環境センター

第 85 回日本産業衛生学会

(2012 年 5 月 31 日 名古屋)

イオンクロマトグラフ-ポストカラム法に

よる金属製焼き網皮膜中の 6 価クロム試験

法の検討 大野浩之,鈴木昌子,六鹿元雄*1,河村葉子*1

*1 国立医薬品食品衛生研究所

第 104 回日本食品衛生学会学術講演会

(2012 年 9 月 20 日 岡山)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-61-

中皮腫患者の肺内石綿・非石綿繊維濃度と

その表面積 酒井 潔,久永直見*1,柴田英治*2,

上島通浩*3,内藤久雄*4,市原 学*4,

那須民江*4 *1 愛知教育大学保健環境センター *2 愛知医科大学医学部 *3 名古屋市立大学大学院医学研究科 *4 名古屋大学大学院医学研究科

平成 24 年度日本産業衛生学会東海地方会学会

(2012 年 11 月 3 日 岐阜)

中皮腫患者の肺内石綿・非石綿繊維サイズ

及び濃度 柴田英治*1, 酒井 潔, 久永直見*2,

鈴木隆佳*1, 上島通浩*3, 那須民江*4 *1 愛知医科大学医学部 *2 愛知教育大学保健環境センター

*3 名古屋市立大学大学院医学研究科 *4 名古屋大学大学院医学研究科

平成 24 年度日本産業衛生学会東海地方会学会

(2012 年 11 月 3 日 岐阜)

建設業従事者における石綿曝露職歴、胸膜

肥厚班、肺内石綿・非石維濃度の関係 久永直見*1,酒井 潔,柴田英治*2,

鈴木隆佳*2,内藤久雄*3,上島通浩*4,

市原 学*3 *1 愛知教育大学保健環境センター *2 愛知医科大学医学部 *3 名古屋大学大学院医学研究科 *4 名古屋市立大学大学院医学研究科

平成 24 年度日本産業衛生学会東海地方会学会

(2012 年 11 月 3 日 岐阜)

肺内の含鉄小体濃度と石綿・非石綿繊維の

長さ別濃度との関係-日本における非石綿

疾患剖検例の検討- 鈴木隆佳*1,榊原洋子*2,酒井 潔,愈 日在*3,

林 鉉述*4,柴田英治*1,久永直見*2,

小林章雄*1 *1 愛知医科大学医学部 *2 愛知教育大学保健環境センター *3 湖西大学校(韓国) *4 東国大学校(韓国)

平成 24 年度日本産業衛生学会東海地方会学会

(2012 年 11 月 3 日 岐阜)

繊維製品中ホルムアルデヒドの樹脂加工/

移染・判別法 ― 迅速法についての検討 ― 岩間雅彦,鈴木昌子

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

(2012 年 11 月 22 日 高松)

100 円ショップの木製玩具・ボード類のホ

ルムアルデヒド溶出量 ― 最近の調査結果 ― 岩間雅彦,鈴木昌子

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

(2012 年 11 月 22 日 高松)

簡易検査キットによる有機リン系殺虫剤の

食品残留分析における試料抽出液を利用す

る相対吸光度法の適用 濱崎哲郎

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

(2012 年 11 月 22 日 高松)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-62-

繊維製品等のホルムアルデヒド

― 検査・判別法の実状および規制対象外製

品の調査 ―

岩間雅彦,鈴木昌子

第 49 回全国衛生化学技術協議会年会

部門研究会講演

(2012 年 11 月 22 日 高松)

Heterlimnius 属ヒメドロムシとその近縁

属群の系統分類学的研究(コウチュウ目,

ヒメドロムシ科)

上手雄貴

第 3 回日本甲虫学会大会水生甲虫分科会

(2012 年 12 月 2 日 豊橋)

0 歳児~2 歳児用水遊び場の衛生管理 田中聡子*1,松永久宜*2,志築和枝*3,鈴木昌子,

大野浩之

*1 名古屋市南保健所

*2 名古屋市瑞穂保健所

*3 名古屋市東保健所

平成 24 年度愛知県公衆衛生研究会

(2013 年 1 月 18 日 東浦)

器具・容器包装及び玩具試験における市販

混合標準液の使用例 大野浩之,鈴木昌子

平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会東海・北陸

支部衛生化学部会

(2013 年 2 月 7 日 名古屋)

生活用品試験法 器具・容器包装および玩

具試験法 スチレンなどの揮発性物質のガ

スクロマトグラフィーによる定性および定

量:o-ジクロロベンゼン法 三宅大輔*1,早川賢治*1,河村葉子*2,

有薗幸司*3,太田敬司*4,大野浩之,尾崎麻子*5,

金子令子*6,羽石奈穂子*6,松井秀俊*7,

六鹿元雄*2

*1 (財)日本食品分析センター *2 国立医薬品食品衛生研究所 *3 熊本県立大学 *4 (財)食品環境検査協会 *5 大阪市立環境科学研究所 *6 東京都健康安全研究センター *7 東洋製罐(株)

日本薬学会第 133 年会

(2013 年 3 月 29 日 横浜)

名古屋市衛研報 No.59 (2013)

-63-

著 書

胸膜全書~胸膜疾患のグローバルスタンダード~(中野孝司編)

酒井 潔(部分執筆)

医薬ジャーナル社,大阪,2012

(ISBN 978-4-7532-2603-0 C3047)

感染と消毒 Vol.19 No.2 Antiseptics and Disinfectants for Infection Control(幸書房編)

柴田 伸一郎(部分執筆)

サラヤ株式会社,大阪,2012

(ISBN978-4-7821-0371-5 C3047)

平成 25 年 度 所報編 集 委 員

中 島 正 博(委員長)

中 野 勝 宏

濱 中 篤

平 光 良 充

鈴 木 直 喜

土 山 智 之

鈴 木 昌 子

名古屋市衛生研究所報 第 59号

編集兼発行 名古屋市衛生研究所

〒467-8615 名古屋市瑞穂区萩山町1-11 電話 (052) 841-1511(代) FAX (052) 841-1514

発行年月日 平成25年12月 (Published 2013 )

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