線天文衛星「すざく」による 超新星残骸sn1987a …jhiraga/bthesis/b...第1章 序論...

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平成 27 年度 卒業論文 X 線天文衛星「すざく」による 超新星残骸 SN1987A 観測データの解析 関西学院大学 理工学部 物理学科 平賀研究室 梅田 真衣 2016 2 22

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平成 27年度 卒業論文

X線天文衛星「すざく」による超新星残骸SN1987A観測データの解析

  

関西学院大学 理工学部

物理学科 平賀研究室

梅田 真衣2016年 2月 22日

Page 2: 線天文衛星「すざく」による 超新星残骸SN1987A …jhiraga/bthesis/b...第1章 序論 1.1 超新星残骸とは 超新星爆発とは、恒星の進化の最後に起こる爆発現象である。初期の質量が太陽質量の

目 次

目 次 i

第 1章 序論 1

1.1 超新星残骸とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.1.1 恒星の進化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 光学的に薄い熱的プラズマのX線放射過程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2.1 プラズマ温度と分類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.2.2 電離過程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.2.3 制動放射 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.2.4 輝線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

第 2章 X線天文衛星「すざく」について 6

2.1 概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2 搭載されている検出器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2.1 X線望遠鏡 XRT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2.2 X線 CCDカメラ XIS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.2.3 較正線源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

第 3章 データ解析 13

3.1 SN1987Aの概要と観測データ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.2 イメージ解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.3 スペクトル解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.3.1 スペクトル抽出領域の選定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.3.2 rmfファイルと arfファイルの作成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3.3 10keV以上でのバックグラウンドスペクトルの検証 . . . . . . . . . 17

3.4 スペクトルフィッティング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.4.1 1温度、Abundance:Solarの場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.4.2 1温度、Abundance:freeの場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.4.3 2温度、Abundance:solarの場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.4.4 2温度、Abundance:freeの場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

3.4.5 2温度+powerlawの場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

3.4.6 2温度の希薄な高温プラズマの場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

第 4章 まとめと今後の課題 28

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付 録A 解析で使用したソフト 29

謝辞 30

関連図書 31

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第1章 序論

1.1 超新星残骸とは

超新星爆発とは、恒星の進化の最後に起こる爆発現象である。初期の質量が太陽質量の8倍以上の恒星に発生し、衝撃波のエネルギーは 1051ergに達する。超新星残骸は可視光スペクトルにより水素の吸収線が見られないものを I型、見られるものを II型と分類する。I型はさらにシリコンやヘリウムの吸収線の有無により Ia型、Ib型、Ic型に分けられる。Ia型超新星爆発は、白色矮星の炭素と酸素からなる中心核で炭素の爆発的な核融合反応が起こることによって発生する。このとき、連星系を成している白色矮星が、伴星からのガスが降着してチャンドラセカ-ル限界質量 (∼1.4M⊙)を超えると、電子の縮退圧から自らの重力を支えきれないために起こる。Ib型超新星爆発は水素の外層をほとんどなくした星による爆発、Ic型は水素、ヘリウムの外層をほとんどなくした星による爆発と考えられており、II型超新星爆発は重い星 (≥10M⊙)の重力崩壊によって爆発する。

1.1.1 恒星の進化

恒星は、中心部で起こる原子核反応によって取り出されるエネルギーで重力を支えている。初めは水素の各融合反応によって安全なヘリウムが合成されるが、中心の水素が消費し尽くされるとエネルギー供給は止まり、星全体の重力収縮が起こる。結果、内部温度が上昇し、ヘリウムが燃焼し始める。ヘリウム同士の反応で CとOが生成される。太陽質量の 10倍より重い恒星はヘリウム燃焼の後にさらに元素合成が行われ、Fe原子核の合成まで進む。Feは 1原子あたりの結合エネルギーが最大であるため、これ以上の核反応は起こらず、内部圧力は急激に下がる。その結果、重力崩壊型超新星を起こす。このとき星の内部には Feの中心核ができ、その周りには順に軽い元素が層状にとり囲み、図 1.1.1のように玉ねぎ構造を形成する。

1.2 光学的に薄い熱的プラズマのX線放射過程

超新星爆発が起こると、高温となった原子は電離が発生する。この時希薄で高温なプラズマの場合、X線スペクトルは主に輝線と連続成分の二つに分けられる。輝線は、電子の遷移によって出てくるX線で、連続成分は主に制動放射である。以下では、プラズマ温度とその分類、電離過程と制動放射、輝線の発生機構について説明する。

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Fe+Ni

Si

O+Si+Mg

C+O

He

H

図 1.1.1: 大質量星の内部構造。中心に向かって重元素が含まれており、玉ねぎ構造を形成する

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1.2.1 プラズマ温度と分類

熱的プラズマ中の電子の速度分布はマクスウェル分布

f(v)dv = 4π

(me

2πkTe

)3/2

v2exp

[−mev

2

2kTe

]dv (1.2.1)

に従う。ここでmeは電子質量、vは電子速度、kはボルツマン定数である。このときkTeを電子温度といい、電子の運動エネルギーを反映する。一方、電離温度として kTzをイオンの電離状態を反映すると定義する。この時電子温度、電離温度を用いて、光学的に希薄な熱的プラズマを未電離プラズマ、電離平衡プラズマ、過電離プラズマに分類することができる。以下に各プラズマ状態の詳細を説明する。

• 未電離プラズマ (kTe > kTz)

電子温度が電離温度よりも高いプラズマである。再結合よりも電離が優勢なプラズマであり、電離進行プラズマともいう。観測されている若い超新星残骸の多くはこのプラズマである。

• 電離平衡プラズマ (kTe = kTz)

電子温度と電離温度が等しいプラズマである。電離と再結合が等しい確率で起こっているプラズマである。年齢を経た超新星残骸の多くはこのプラズマである。

• 過電離プラズマ (kTe < kTz)

電子温度が電離温度よりも低いプラズマである。電離よりも再結合が優勢なプラズマである。通常の超新星残骸の進化理論では実現されていないプラズマであったが、近年初めて過電離プラズマが発見された。

プラズマ状態の概念図を図 1.2.1にまとめた。

1.2.2 電離過程

超新星爆発が起こると、衝撃波によって周囲の電子とイオンが加熱されるが、電子より質量が重いイオンが大きなエネルギーを持つことになる。そして、イオンの一括した運動はランダムになることで熱エネルギーに変化し、その後はクーロン相互作用によって徐々にイオンから電子にエネルギーが分配される。次に、エネルギーをもらったガス中の電子が、衝突によって周りのイオンを次々に高階電離をしていく。このイオンの割合がこれ以上変化しなくなった状態で電離平衡となる。電子温度が高くなるにつれ、高階電離が進む。

1.2.3 制動放射

連続成分では主に、熱的制動放射、再結合連続放射、二光子崩壊からなり、それぞれ電子の free-free(電子が自由状態から別の自由状態への遷移)、free-bound(特定の波長の光子が吸収・放出される遷移)、bound-bound(束縛状態間での遷移)遷移によるものある。温

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未電離プラズマ

電離平衡プラズマ

過電離プラズマ

電離

再結合

温度

kTe>kTz

kTe=kTz

kTe<kTz

プラズマ状態

若い超新星残骸

多くの超新星残骸

年齢を経た超新星残骸

近年発見された

図 1.2.1: プラズマ状態の概念図

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度が数 keVの電離平衡プラズマでは熱的制動放射が支配的となるため、今回は熱的制動放射について述べる。制動放射は、電子がプラズマ中のイオンによるクーロン場から加速度を受けることによって放出される。電子がマクスウェル分布をしている時の放射強度は、

dW

dV dtdν=

25πe6

3mec3

(2π

3kme

)1/2

Te−1/2Z2nenie

hν/kTegff (1.2.2)

= 6.8× 10−38Z2neniTe−1/2e−hν/kTegff [ergs s

−1 cm−3Hz−1] (1.2.3)

で表される (Rybicki & Lightman 1979)。ここで、eは電荷、cは光速、Z は原子番号、neは電子密度、niはイオン密度、hはプランク定数、gff は速度で平均したガウント因子であり、X線領域の典型的な熱的プラズマの場合、

gff =

(3

π

kTe

)(1.2.4)

で近似される。式 (1.2.2)から、hν ≪ kTeの領域では ehν/kTe が 1に近づくため制動放射のスペクトルが平坦になり、hν > kTeの領域では ehν/kTe が 0に近づくため指数関数的に落ちていくことがわかる。従って、hν ≃ kTeの領域でスペクトルの形からプラズマの温度を測定することができる。

1.2.4 輝線

輝線は、異なる 2つのエネルギー準位間での bound-bound遷移に付随する単色の放射である。水素原子の輝線エネルギーは、

E = Ry

(1

n2− 1

n′2

)(1.2.5)

によって表される。ここで Ry はリュードベリー定数、n、n′は異なるエネルギー準位である。H-like(電子が 1つ付いた原子)な重元素は、

E ∼ Z2Ry

(1

n2− 1

n′2

)(1.2.6)

で近似される。ここで Zは原子番号である。イオンからの輝線はライマン α線 (Lyα、2p → 1s)、ライマン β線 (Lyβ、3p → 1s)などである。次に、輝線の放射過程について説明する。まず自由電子がイオンに衝突し、束縛電子を上の準位に励起する (衝突励起)、もしくは内側の電子殻に束縛されている電子を弾き飛ばす (衝突電離)ことでイオンを励起する。その後、上の準位にある電子が下の準位に遷移する。電子が励起準位に再結合した後、そのエネルギーで他の電子がより上位の準位に励起される。その後、すぐにオージェ電子を放出して自動電離するか、または励起された電子の一方が下の準位に遷移する。後者の過程を二電子再結合といい、輝線のエネルギーはより上位に電子が励起されているため通常の遷移よりわずかに低いエネルギーとなる。このような遷移による輝線をサテライトラインという。

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第2章 X線天文衛星「すざく」について

2.1 概要

「すざく」(Astro-E2)は「はくちょう」「てんま」「ぎんが」「あすか」に続く 2005年 7

月 10日に打ち上げられた日本で 5番目の X線天文衛星である。衛星は直径 2.1mの八角柱の機体を基本として、軌道上で鏡筒を伸展後の全長 6.5m、重量は 1650kg、太陽パネルを広げた際の幅は 5.4mになる。姿勢は、太陽電池パネルが太陽から 30度以内の方向を常に向くように制御され、観測機器は太陽電池パネルの軸に対して垂直に向けられているので、観測可能な範囲は太陽から 60 − 120度の角度範囲に限定される。すざく衛星は 1日に地球を 15周しているが、地上局 (鹿児島・内之浦)から衛星と通信ができるのはその内の 5回だけであり、通信時間も 10分である。その時間内に観測データの地上転送、コマンドの送信等が行われる。すざく衛星は高度約 570km、軌道傾斜角 31度、軌道周期 96分の略円軌道である。この低高度略円軌道は、バックグラウンドが低い利点があるが、殆どの天体が軌道周期の約 1/3の間地没してしまうので、観測効率は決して良くないという欠点がある。また、すざく衛星は 2015年に観測が困難な状態となり、科学観測を終了した。

2.2 搭載されている検出器

すざく衛星には5つの軟X線検出器とそれに対応したX線反射望遠鏡を5台搭載している。5つの軟X線検出器には 4台のX線CCDカメラのXIS(X-ray Imaging Spectrometer ,各検出器名はXIS0,XIS1,XIS2,XIS3)とX線マイクロカロリメータ (XRS ,X-ray Spectrometer)

である。XISは 0.2-12keVのエネルギー領域を観測可能とし、典型的なエネルギー分解能は 130eVである。XRSは 2005年 8月 8日、冷媒である液体ヘリウムが全て気化し消失してしまったため、それ以降の観測が不可能になった。加えて 1つの硬 X線検出器であるHXD(Hard X-ray Detertor)も搭載し、10 − 700keVのエネルギーの X線を観測できる。今回の解析では HXD、XRSで観測されたデータを用いないため、以下では SN1987Aの観測の際に用いたXRTとXISについて述べる。

2.2.1 X線望遠鏡 XRT

X線は物質中で強く吸収され屈折率が 1よりわずかに小さいため、屈折レンズを作ることができず、反射鏡は全反射でしか利用することができない。そこで金の鏡面でX線が 1

度以下で全反射することを利用して集光した。XRTはアルミ薄板にレプリカ法で鏡面を形成したレプリカミラーを焦点に、XISを置くもの (XRT-I; それぞれXRT-I0、XRT-I1、XRT-I2、XRT-I3)が 4台と、XRSを置くもの (XRT-S)が 1台が搭載され、厚さ 178µmの

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図 2.1.1: 下から見上げたすざく衛星

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図 2.1.2: 側面から見たすざく衛星の内部構造

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薄膜型反射望遠鏡を同心円状にXRT-Iは 175枚、XRT-Sは 168枚並べ、光学系として双曲面と放物面からなるWolter I型と呼ばれるものを使用する (図 2.2.1)。すざく衛星で使用されている多重薄板型X線望遠鏡は、Chandra衛星に搭載されているX線望遠鏡HRMA

のように基盤を直接研磨する方式に比べて結像性能は劣るが、小型軽量で開口率が高い。しかし 4分円を組み合わせて作られているため、像が 4分円のつなぎ目で途切れてしまい、点源が蝶々型に見えてしまう。また、視野中心から約 20− 70′離れたところに明るいX線源があると、正規では 2回反射するのに対し視野外から焦点面に達する迷光が発生していしまうという問題がある。

図 2.2.1: WolterI型光学系。八隅真人 修士論文より抜粋。

2.2.2 X線CCDカメラ XIS

すざく衛星は 4台のXISを搭載し、0.2− 1.2keVの帯域での観測を可能とする。しかしその内の XIS2は、2006年 11月に電荷漏れと思われる異常が発生したため、以後の観測を中止した。XISの性能を表 2.2.2に示す。X線CCDにX線光子が入射すると、空乏層で光電吸収され、その結果生じた光電子X

線のエネルギーに比例した数の光電子が生成される。この光電子がエネルギーを失うまでSi原子と衝突を繰り返し、電子・正孔対が作成される。その数は入射 X線のエネルギーに比例し、およそE0/WSiとなる。この時、E0は入射X線のエネルギー、WSiは Siの平均電離エネルギー (∼3.65eV)である。このようにしてできた電子を電極部に集め、電子数に対応する電気信号を計測することによって入射X線のエネルギーを決定することができる。また、可視光と比較して X線光子数は少ないため、どの画素にいつ X線が到達したか入射位置と到達時間も決めることができる。

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表 2.2.1: X線望遠鏡XRT-Iの性能

台数 4

反射材 Au

直径 399mm

鏡面数 (1台あたり) 1400

焦点面距離 4.75m

重量 (1台あたり) 19.5kg

入射角 0◦.18-0◦.60

角分解能 (HPD) 2′.0

視野@1keV/7keV 19′/19′

有効面積 (1台あたり)@1.5keV/7keV 450cm2/450cm2

表 2.2.2: すざく衛星XISの性能

視野 17.8′×17.8′

エネルギー帯域 0.2-12 keV

有効ピクセル数 1024×1024

1ピクセルのサイズ 24µm×24µm

エネルギー分解能 ∼150 eV(@6 keV)

有効面積 (XRT-Iを含む) 340cm2(FI)、[email protected]

350cm2(FI)、[email protected]

入射角 0◦.18-0◦.60

時間分解能 8 s

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XISの 4台のCCDカメラのうち、XIS1のみ裏面照射型 (Back-Illuminated:BI)であり、残りの 3台 (XIS0,XIS2,XIS3)は表面照射型 (Front-Illuminated:FI)である (図 2.2.2)。BI

は FIとは反対側 (電極が無い方)からX線を入射させるCCDカメラであるため、電極による吸収がなく低エネルギー側で検出効率は高いが、空乏層が薄いため高エネルギー側(>4keV)では検出効率が FIより劣る。すざく衛星の BIは FIとエネルギー分解能がほぼ等しい。

図 2.2.2: CCDの断面図。八隅真人 修士論文より抜粋。左がFI型CCDで右がBI型CCD

である。

2.2.3 較正線源

XISのカメラボンネットの内部には、55Fe較正線源 (半減期 2.7年)がそれぞれ 2個ずつ装着されていた (図 2.2.3)。これは、軌道上での放射線損傷による性能の劣化に対応するためであり、XISのCCDのセグメントA,Dの読み出し口に遠い側のコーナーにX線が照射された。この結果Mn-Kα(5895eV)とMn-Kβ(6492eV)の特性X線によるエネルギーの絶対較正 (キャリブレーション)を軌道上で行っていた。

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図 2.2.3: 各 XISに装着されている CCDのセグメントの位置。八隅真人 修士論文より抜粋。四隅のドット柄で示されている扇形の場所が、キャリブレーション用の線源からのX

線が当たるところである。

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第3章 データ解析

3.1 SN1987Aの概要と観測データ

SN1987Aは、1987年に太陽系から約 50kpc離れた大マゼラン雲で発生した超新星の残骸であり、爆発の数ヶ月後からX線放射が確認され、現在も膨張し続ける天体である。可視光などの観測から視直径約 1.7秒角とわかっているが、「すざく」衛星の角度分解能が 2

分角であるため点源 (拡がっていない)として観測された。今回、「すざく」衛星に搭載されている検出器 XISを用いた SN1987Aの観測データを使用した。本論文で用いるデータの概要を表 3.1.1に示す。SN1987Aに関する観測データはDARTS(https://darts.isas.jaxa.jp/astro/suzaku/

/public_list/public_seq.html)に掲載されているデータを取得した。またXISは 4台のCCDカメラ (XIS0,XIS1,XIS2,XIS3)から構成されているが、XIS2は 2006年 11月に不具合が生じた為、今回用いる SN1987Aの観測データでは使用されていない。さらに、今回はXIS3で観測されたデータのみを解析した。以下の解析では、すざくチームから提供されている標準的な解析ツール HEAsoft(version 6.17)を用いた。ライトカーブ、イメージ、スペクトルの抽出には領域の指定には HEAsoftに付属されている解析ソフトとしてXSELECT(version 2.4)を使用し、領域などの画像解析には SAOImageのDS9を用いた。また、XSPEC(version 12.9.0)を用いてスペクトルのフィッティングを行った。

表 3.1.1: 観測データの概要

SNR 観測 ID 観測開始日 観測時間 検出器の種類

SNR1987A 707020010 2012年 11月 2日,12:20:44 81.3ksec XIS0,XIS1,XIS3

3.2 イメージ解析

始めに、XSELECTを用いて SN1987AのX線イメージを作成した。イメージに表示させるエネルギー範囲は 0.5− 10keVに指定し、図 3.2.1に示す。この図の中心に写っている赤い天体が SN1987Aであるが、点線源にも関わらず蝶々型に SN1987Aが広がっている。これは、すざく衛星に搭載されているX線望遠鏡XRTのミラーが 4分円を組み合わせて作られているために、像が 4分円のつなぎ目で途切れてしまい、点源が蝶々型に見えてしまうからである。また、図 3.2.1の左上に点源とは異なったイメージが写っている。これは SN1987Aではなく、同じ大マゼラン雲で観測されるタランチュラ星雲 (30 Dor C)から発せられるX線

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である。以下の解析では、この星雲の影響を受けないように解析した。

0 1 2 6 12 26 52 105 211 420 837

37:36.0 5:36:00.0 34:24.0 32:48.0

-69:

05:0

0.0

-69:

15:0

0.0

25:0

0.0

Right ascension

Dec

linat

ion

SNR 1987A

図 3.2.1: SN1987Aのイメージ画像。エネルギー範囲は 0.5-10keVであり、log表示である。検出器はXIS3である。また、colorbarは明るくなるにつれて 1pixelあたりの photon

数が多いことを示しており、図の白い破線は横軸が赤経、縦軸が赤緯である。

3.3 スペクトル解析

3.3.1 スペクトル抽出領域の選定

SN1987Aの点源とバックグランドの領域指定を以下の手順で作成した。まず、XSELECTを用いてすざく衛星が観測した SN1987Aの全体イメージを作成した。

(図 3.2.1)しかし中心にある天体は、天体由来のX線とは別にバックグラウンドが含まれた

14

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ままなので、それを除去しなければならない。そこで画像表示ソフトDS9を用いて、蝶々型に広がった点源とバックグラウンドの各部分の領域を図 3.3.1のように指定した。それぞれの領域を指定する際 SKY座標で行い、点源の円の中心と大きさ、二種類あるバックグラウンドの位置と大きさは目視で決定した。ただし、点源の領域についてはXRTの角分解能が 2分であるため、それ以上の大きさに設定し、イメージの二隅に 55Fe較正線源(半減期 2.7年)が 2個搭載されていることに加え、図 3.3.1の左上には SN1987Aとは異なる天体 (30 Dor C)が観測されたため、バックグラウンドの領域指定ではそれに重複しない場所を選択した。

図 3.3.1: 点源とバックグラウンドの領域指定。緑色の実線が点源のスペクトル抽出領域であり、緑色の点線がバックグランドのスペクトル抽出領域である。

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3.3.2 rmfファイルと arfファイルの作成

XSELECTでスペクトルを表示させると、縦軸が photon counts、横軸が channel波高値となりエネルギーとの対応づけが必要となる。そこで拡張子が.rmfとなる rmfファイルを作成することによって対応づけが可能となり、後にXSPECでスペクトルを表示する際にも横軸がエネルギーとなる。また、天体からのX線のフラックスを正確に求めるためには、正確な検出器の有効面積

(arf)が必要となり、観測ごとの arfを作成する必要がある。今回は点源について rmfファイル、arfファイルを作成し、バックグラウントは rmfファイルのみを作成した。まず、点源について以下の手順で rmfファイル、arfファイルを作成した。始めに rmfファイルについて、XSELECTで点源部分の領域を抽出し、スペクトルファイル (拡張子.pha)を作成した。次にHEAsoftに含まれている rmfファイル作成ツール xisrmfgenを用いて点源に対する rmfファイルを作成した。arfファイルについて、XSELECTで channel一つに対して一つの値として読み取る bin1

に設定し、そのスペクトルファイルを作成した。xisrmfgenの場合と同様に HEAsoftに含まれている arfファイル作成ツール xissimarfgenを用いて表 3.3.1の設定で作成した。

表 3.3.1: XIS3に関する arfファイル作成時の設定

xissimarfgenが指定した項目 入力した値

Instrument name XIS3

Source mode SKYXY

Source position x(pixcel) 730.30293

Source position y(pixcel) 751.7948

Number of ARF 1

Region mode SKYREG

Region file 2012xis33x35x5 region source.reg

Output arf file 2012xis33x35x5 region arf source 4juman.arf

Limit mode NUM PHOTON

Number of photons for each energy 400000

Input PHA or EVENT file to get observation mode 2012xis33x35x5 region arf source bin1.pha

XIS get-coordinate mask image file none

Input GTI file ae707020010xi3 0 3x3m066l cl.evt.gz

Input attitude file ae707020010.att.gz

Input rmf file 2012xis33x35x5 region source resp.rmf

Energy step file default

次に、バックグラウンドの rmfについて作成した。点源の場合と同様に、XSELECTでバックグラウンド領域を抽出しスペクトルファイルを作成した。そして、xisrmfgenを用いてバックグラウンドに対する rmfファイルを作成した。

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3.3.3 10keV以上でのバックグラウンドスペクトルの検証

3.3.1で指定した領域が、実際にバックグラウンドを正しく差し引けているかを確かめるために、3.3.2で作成したそれぞれの rmfファイル、arfファイルと XSPEC、HEAsoft

に含まれている grpphaを用いて点源とバックグラウンドの比較を行う。まず点源について、一つの binあたりの統計をよくするために grpphaで 20counts/bin

に groupingした。また、点源の領域の面積とバックグラウンドの領域の面積が異なるため、単一面積当たりの photon数で比較する必要がある。よって、3.3.2で作成したスペクトルファイルを単一面積当たりの photon数に変更するために、grpphaを用いてスペクトルファイルの中にあるBACKSCAL(検出器面上での面積に相当する factor)に書かれている数値を、AREASCALに書き換え、単一面積当たりの photon数に正した。次にバックグランドについては、grpphaを用いて 3.3.2で作成したスペクトルファイルを点源の場合と同様に 20counts/binに groupingした後、BACKSCALに書かれている数値をAREASCALに書き換え、単一面積当たりの photon数に変更した。図 3.3.2に、XIS3

について点源とバックグラウンドのスペクトルの比較を表す。

1 100.5 2 5

0.01

0.1

110

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

Energy (keV)

data

umedamai 28−Jan−2016 12:00

図 3.3.2: 単位面積当たりの XIS3 についての点源とバックグラウンドの比較。0.5keV−15.0keVの範囲を示しており、黒線が点源、赤線がバックグラウンドである。

図 3.3.2より、XISの検出効率が低下する 10keV以上において、検出されたX線はバックグラウンド由来だと考えられる。従って 10keV以上のそれぞれのスペクトルがほぼ同一の photon数を表しているため、バックグラウンドスペクトルは正しい見積もりができていることが確認された。

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3.4 スペクトルフィッティング

バックグラウンドを差し引いた点源スペクトルを用いて、スペクトルフィッティングを以下の手順で行った。

3.4.1 1温度、Abundance:Solarの場合

まずフィッティングを、星間吸収に関するモデルの wabsと、電離プラズマからのX線放射モデルの apecを wabs*apecの形で導入し、Abundanceの値は太陽組成比 (solar)と同じ1にしたまま動かさずフィッティングした。結果を図 3.4.1、表 3.4.1に示す。この時 reduced

χ2 = 4.93であった。reduced χ2 とは、式 (3.4.1)のように χ2 を自由度 (d.o.f :degree of

freedom)で割った値であり、reduced χ2が 1に近づくほどフィッティングがスペクトルに合っていることを示す。

reducedχ2 =

(χ2

d.o.f

)(3.4.1)

10−5

10−4

10−3

0.01

0.1

1

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

data and folded model

1 2 5−5

0

5

(dat

a−m

odel

)/erro

r

Energy (keV)umedamai 27−Jan−2016 22:37

図 3.4.1: XIS3についての 1温度、Abundance:Solarのモデルフィット。図の上側がスペクトルとモデルを表しており、図の下側がモデルを基準としてスペクトルの差を表している。

1温度のみのモデルフィットの場合、図3.4.1において0.5keV−1.0keV付近と、3.0keV−8.0keV

付近のフィッティングがスペクトルに対し値が低くなっているので合っていない。よってAbundanceを freeにした。

18

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表 3.4.1: XIS3に関する 1温度、Abundance:solarの時のモデルフィッティングの結果

modelの名称 Parameter 値 フィッティング時の状態

wabs NH(×1022cm−2) 0.64 free

apec kTe(keV) 0.77 free

apec Abundance 1.00 frozen

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 1.40×10−2 free

reduced χ2 4.93

3.4.2 1温度、Abundance:freeの場合

モデルは wabs*apecのままとし、表 3.4.1のAbundanceを freeのみ設定を変更して再度フィッテングを行った。その結果を図 3.4.2、表 3.4.2に示す。この時 reduced χ2 = 3.27

であった。

表 3.4.2: XIS3に関する 1温度、Abundance:freeの時のモデルフィッティングの結果

modelの名称 Parameter 値 フィッティング時の状態

wabs NH(×1022cm−2) 9.59×10−2 free

apec kTe(keV) 0.96 free

apec Abundance 7.62×10−2 free

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 2.30×10−2 free

reduced χ2 3.27

Abundanceを freeに変更した場合、図3.4.2において0.5keV付近の吸収と、3.0keV−8.0keV

付近のフィッティングがスペクトルと合っていない。また表3.4.2ではAbundanceが7.62×10−2

となり元素の存在がほぼ無いことを表している。これは元素が無いにも関わらず輝線が表れていることになるので、物理的に合わない。よってこのモデルを低温成分 (apec)と高温成分 (apec)に分け、星間吸収の効果 (wabs)を加えたモデルに変更した。

3.4.3 2温度、Abundance:solarの場合

フィッティングモデルに新たに apec(低温成分)を wabs*(apec+apec)として導入し、Abundanceはどちらの apecも solarに固定してフィッティングを行った。結果を図 3.4.3、表 3.4.3に示す。この時 reduced χ2 = 3.40であった。モデルを 2温度に変更した場合、1keV付近の輝線がモデルに合っていないこと、6.5keV

付近でモデルには輝線が表れているがスペクトルでは表示されていないため、低温成分、高温成分のAbundanceを freeとしてフィッティングを行った。

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10−4

10−3

0.01

0.1

1

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

data and folded model

1 2 5−4

−2

0

2

4

(dat

a−m

odel

)/erro

r

Energy (keV)umedamai 27−Jan−2016 22:46

図 3.4.2: XIS3についての 1温度、Abundance:freeのモデルフィット。図の上側がスペクトルとモデルを表しており、図の下側がモデルを基準としてスペクトルの差を表している。

表 3.4.3: XIS3に関する 2温度、Abundance:solarの時のモデルフィッティングの結果

modelの名称 Parameter 値 フィッティング時の状態

wabs NH(×1022cm−2) 0.70 free

apec kTe(keV) 0.22 free

apec Abundance 1.00 frozen

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 0.10 free

apec kTe(keV) 1.28 free

apec Abundance 1.00 frozen

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 7.37×10−3 free

reduced χ2 3.40

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10−4

10−3

0.01

0.1

1

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

data and folded model

1 2 5

−5

0

5

(dat

a−m

odel

)/erro

r

Energy (keV)umedamai 27−Jan−2016 23:10

図 3.4.3: XIS3についての 2温度、Abundance:solarのモデルフィット。図の上側がスペクトルとモデルを表しており、図の下側がモデルを基準としてスペクトルの差を表している。また、上側の点線はベストフィットモデルであり、実線がベストフィットである。

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3.4.4 2温度、Abundance:freeの場合

モデルは wabs*(apec+apec)のままとし、apecのAbundanceを両方共 freeとした後、フィッティングを行った。結果を図 3.4.4、表 3.4.4に示す。この時 reduced χ2 = 2.25であった。

10−4

10−3

0.01

0.1

1

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

data and folded model

1 2 5−5

0

5

(dat

a−m

odel

)/erro

r

Energy (keV)umedamai 27−Jan−2016 23:12

図 3.4.4: XIS3についての 2温度、Abundance:freeのモデルフィット。図の上側がスペクトルとモデルを表しており、図の下側がモデルを基準としてスペクトルの差を表している。また、上側の点線はベストフィットモデルであり、実線がベストフィットである。

0.5keV付近と 4.0keV−8.0keVの部分がモデルと合っていない点、また 0.8keV−3.0keV

の部分についても輝線がモデルと一致していない点があり、Abundanceが低温成分に関しては 5.00と、高温成分に関しては 0.19で少なすぎるため、輝線が表れないモデルとなってしまう。よって高温成分をAbundanceを各元素ごとに設定できる vapecに変更し、2温度成分に加えてべき関数の powerlawも加えた。

3.4.5 2温度+powerlawの場合

低温成分は apecのままで設定し、高温成分をAbundanceが各元素について設定が可能な vapecに変更した。モデルは wabs*(powerlaw+apec+vapec)に設定し、以下の手順でフィッティングを行った。まず、各Abundanceの存在比が同じ元素をリンクさせてフィッティングを行った際にリンクさせた元素が同時に変動するようにした。具体的にはC=N=O、Mg=Al=Si=S=Ar=Ca、Fe=Niとし、HeのAbundanceを 1に固定した。He以外の元素をリンクさせ、同時に移

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表 3.4.4: XIS3に関する 2温度、Abundance:freeの時のモデルフィッティングの結果

modelの名称 Parameter 値 フィッティング時の状態

wabs NH(×1022cm−2) 0.51 free

apec kTe(keV) 0.26 free

apec Abundance 5.00 free

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 6.05×10−3 free

apec kTe(keV) 1.20 free

apec Abundance 0.19 free

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 1.66×10−2 free

reduced χ2 2.25

動するように設定した。つまり O=Ne=Mg=Feを行った。ここまで設定した後に初めてフィッティングを行った。次に、一つずつまとまったリンクから各元素を外していった。まず Sを外しフィッティングをかけた。次にMgをリンクから外してフィッティングをかけた。これでMg,Al,Si,Ar,Ca

が同時に動いた。この後に低温成分 (apec)のAbundanceを 0.5に固定した。その後、Oと固定していた Feをリンクから外し、SiをMgのリンクから外した。ここで一度フィッティングを行った。CaとMgのリンクを外しフィッティングを行うとC,N,OのAbundanceが0になってしまったので、C,N,OのAbundanceを 0.5に固定した。この時点でプロットを行うとモデルの Caの輝線がスペクトルに比べて出ていたため、He=Caとしてリンクした。Heを 0.5で固定し、フィッティングを行った後、powerlawのPhoton Indexを freeにした。ここまでフィッティングを行った後、一度全ての vapecの各元素の Abundanceが free

になってしまったので、以下の手順で再びフィッティングを行った。Mg=Alでリンクをし、フィッテングを行った後、Ar=Caでリンクをし、フィッテングを行った。次に、Fe=Niでリンクをし、He=C=N=Oでリンクをして Heの Abundance

の 0.5を C,N,Oに対応させフィッティングを行った。reduced χ2 = 1.02となり各輝線のフィッティングも一致した。結果を図 3.4.5、表 3.4.5に示す。しかし、図 3.4.5の高温成分側のフィッテングがスペクトルに対し下回っていることに加え、vapecの各元素のAbundanceが異常に多い。また、powerlaw成分の fluxが想定以上に大きいことから、高温の連続成分をべき関数ではなく、高温成分で再現することを再度試みた。

3.4.6 2温度の希薄な高温プラズマの場合

電離平衡プラズマからの X線放射モデル (vapec)と電離非平衡プラズマからの X線放射モデル (vnei)に星間吸収の効果 (wabs)を入れたモデルスペクトルで χ2 フィッティン

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10−4

10−3

0.01

0.1

1

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

data and folded model

1 2 5−4

−2

0

2

(dat

a−m

odel

)/erro

r

Energy (keV)umedamai 21−Jan−2016 15:57

図 3.4.5: XIS3についての 2温度+powerlawのモデルフィット。図の上側がスペクトルとモデルを表しており、図の下側がモデルを基準としてスペクトルの差を表している。また、上側の点線はベストフィットモデルであり、実線がベストフィットである。

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表 3.4.5: XIS3についての 2温度+powerlawのフィッティング結果

modelの名称 Parameter 値 フィッティング時の状態

wabs NH(×1022cm−2) 0.31 free

powerlaw PhotonIndex 2.90 free

powerlaw normalization 3.05×10−3 free

apec kTe(keV) 0.28 free

apec Abundance 0.50 frozen

apec Redshift 0.0 frozen

apec normalization 1.14×10−2 free

vapec kTe(keV) 0.79 free

vapec He 0.50 frozen

vapec C 0.50 =vapecのHe

vapec N 0.50 =vapecの C

vapec O 0.50 =vapecの C

vapec Ne 305.14 free

vapec Mg 148.18 free

vapec Al 148.18 =vapecのMg

vapec Si 151.02 free

vapec S 192.04 free

vapec Ar 456.45 free

vapec Ca 456.45 =vapecのAr

vapec Fe 51.00 free

vapec Ni 51.00 =vapecの Fe

vapec Redshift 0.0 frozen

vapec normalization 4.73×10−5 free

reduced χ2 1.02

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グを行い、それぞれのパラメータの最適値を得た。フィッティング方法は、まず vapecとvneiの各元素同士をリンク付けし、vapecのNiを vapecのFeとリンク付けした。ここで一度フィッティングを行った後、vapecのAlと vapecのMgをリンク付けし、再びフィッティングを行った。結果、0.6keVの低温と 3.6keVの高温成分からなる 2温度のプラズマモデルでスペクトルをよく再現できることがわかった。この時 reduced χ2 = 1.09であり、フィッティング結果を図 3.4.6に、パラメータの結果を表 3.4.6に示す。

10−4

10−3

0.01

0.1

1

norm

aliz

ed c

ount

s s−

1 keV

−1

data and folded model

1 2 5−4

−2

0

2

(dat

a−m

odel

)/erro

r

Energy (keV)umedamai 9−Feb−2016 10:24

図 3.4.6: 2温度の希薄な高温プラズマのフィッティング。図の上側がスペクトルとモデルを表しており、図の下側がモデルを基準としてスペクトルの差を表している。また、上側の点線はベストフィットモデルであり、実線がベストフィットである。

このモデルの場合、図 3.4.6のモデルフィットはスペクトルによく合っている。

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表 3.4.6: XIS3について 2温度の希薄な高温プラズマのフィッティング結果

modelの名称 Parameter 値 フィッティング時の状態

wabs NH(×1022cm−2) 0.17 free

vapec kTe(keV) 0.67 free

vapec He 2.75 frozen

vapec C 9.00×10−2 frozen

vapec N 1.00 frozen

vapec O 0.25 free

vapec Ne 0.41 free

vapec Mg 0.37 free

vapec Al 0.37 =vapecのMg

vapec Si 0.47 free

vapec S 0.56 free

vapec Ar 0.92 free

vapec Ca 1.31 free

vapec Fe 0.19 free

vapec Ni 0.19 =vapecの Fe

vapec Redshift 0.0 frozen

vapec normalization 1.00×10−2 free

vnei kTe(keV) 3.65 free

vnei H 1.00 frozen

vnei He 2.75 =vapecのHe

vnei C 9.00×10−2 =vapecの C

vnei N 1.00 =vapecのN

vnei O 0.25 =vapecのO

vnei Ne 0.41 =vapecのNe

vnei Mg 0.37 =vapecのMg

vnei Si 0.47 =vapecの Si

vnei S 0.57 =vapecの S

vnei Ar 0.92 =vapecのAr

vnei Ca 1.31 =vapecの Ca

vnei Fe 0.19 =vapecの Fe

vnei Ni 0.19 =vapecのNi

vnei τ(s/cm3) 3.48×1010 free

vnei Readshift 0.0 frozen

vnei normalization 2.00×10−3 free

reduced χ2 1.09

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第4章 まとめと今後の課題

スペクトル解析の結果、2012年における SN1987AのX線放射は、2温度の希薄な高温プラズマであることがわかった。その電子温度は低温成分が 0.67keV、高温成分が 3.65keV

となった。また、Abundanceは、Ca以外の重元素はいずれもサブソーラ程度であることがわかった。ただし、今回は誤差の見積もりまで至らなかったので、誤差を含めた物理パラメータについての議論は今後の課題である。今回の解析では XIS3で観測されたデータのみを使用した。今後、他の検出器 (XIS0,

1)を合わせた詳細解析を行い、検出器の個性による偶発的結果ではないことを確かめる。XIS1については裏面照射型のCCDカメラであるため、低エネルギー側の検出効率が他の検出器より良い上、3検出器と合わせることで統計が上がり、精密な議論ができると考えられる。得られたパラメータから、周辺物質の密度を調べ、他の衛星観測結果と合わせて、X線フラックスの時間発展を調べていく。

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付 録A 解析で使用したソフト

• XSELECT

eventファイルに様々なフィルタをかけて、イメージ・スペクトルを抽出することを

主な目的としているソフトウェアである。

• XSPEC

XSELECTや grpphaで抽出したスペクトルに rmfや arfで対応付けを行い、スペク

トルを表示させたり、フィッティングを行うことを目的とするソフトウェアである。

• DS9

FITSイメージなどを可視化することを目的としたソフトウェアである。

• grppha

binまとめを行うことに加え、AREASCALを書き換えられるソフトウェアである。

• xisrmfgen

XISの channel波高値 (PHA)とエネルギー (E)との対応付けファイル (rmf)を作成

するソフトウェアである。

• xissimarfgen

観測ごとの検出器の有効面積を表すファイル (arf)を作成するソフトウェアである。

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謝辞

本論文を作成するにあたり、様々な方に大変お世話になりました。この場を借りて心か

らお礼を申し上げます。

平賀純子准教授には本研究の機会を与えてくださった上、お忙しいにも関わらずX線天

文学やデータ解析の基礎から丁寧に教えて頂きました。また本論文の較正も行って頂きま

した。心から感謝しております。

同期の児嶌君と濱田君にもお世話になりました。お二人にはゼミで私が内容の解釈に

困っている際、いつも助け舟を出してくださいました。児嶌君は物事の意味を浅く考捉え

てしまう私に疑問を唱え、深く考える力を教えてくださいました。濱田君はいつも焦って

しまう私に対して落ち着くように配慮してくださいました。重ねて感謝申し上げます。

新しい研究室で右も左もわからない中、平賀純子准教授、児嶌君、濱田君のお力添えで

本論文を完成させることができました。お礼を申し上げます。

最後にこれまで支えてくださった全ての人に感謝したいと思います。ありがとうござい

ました。

平成 28年 2月 22日平賀研究室梅田真衣

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関連図書

• 「すざく」ファーストステップガイド 第 4.0.3版 (Process Version 2.1-2.3)

• 八隅真人,2014,修士論文,京都大学

• 大西隆雄,2011,修士論文,京都大学

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