大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタ...

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Title 大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタリン グが健康に関する認知や行動に及ぼす影響( fulltext ) Author(s) 栗田,智史; 池田,克紀 Citation 東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系, 63: 57-70 Issue Date 2011-10-31 URL http://hdl.handle.net/2309/111958 Publisher 東京学芸大学学術情報委員会 Rights

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Title 大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタリングが健康に関する認知や行動に及ぼす影響( fulltext )

Author(s) 栗田,智史; 池田,克紀

Citation 東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系, 63: 57-70

Issue Date 2011-10-31

URL http://hdl.handle.net/2309/111958

Publisher 東京学芸大学学術情報委員会

Rights

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大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタリングが

健康に関する認知や行動に及ぼす影響

栗 田 智 史*・池 田 克 紀**

健康・スポーツ科学講座

(2011年6月27日受理)

KURITA, S.* and IKEDA, K.** : Self-monitoring of Walking by Use of Pedometer and Its Effects on Cognitions of

Health and Health Related Behavior among College Students. Bull. Tokyo Gakugei Univ. Division of Arts and Sports Sci-

ences., 63 : 57―69. (2011) ISSN 1880―4349

Abstract

The purpose of this project was to clarify the effects of self-monitoring of walking by use of pedometer and its effects

on cognitions of health and health related behaviors. After a three week program of pedometer monitoring to a 278 experi-

mental group of college students a questionnaire on cognitions of healthy behaviors and health behaviors was adminis-

tered through a web site, and the steps of daily walking behavior were recorded on the same web site. To control group

consisted of 236 college students the same questionnaire were administered at about the end of the walking program of the

experimental group.

The main results were as follows :

The pedometer monitoring affected attitudes and behavior toward daily exercise and walking, but no evidence of affects

toward sleeping and eating behaviors.

It was found that the control group which took part in the three week walking program with pedometer monitoring was

more vivid psychologically than the control and if the walking program were longer other better effects to other psycho-

logical parameters could have been expected.

The students in experimental group were higher in self-efficacy on walking and other health related behaviors.

The results indicated that the self-monitoring of walking by use of pedometer would change the cognitions of health and

health behavior and moreover it was suggested that the pedometer monitoring would affect the other health related cogni-

tions and behavior.

It was summarized that self-monitoring of one health behavior would reflect on increasing interests on other health be-

haviors and stimulate the self-monitoring of other health related behaviors followed by changes of cognitions of other

health and health related behaviors.

Key words : pedometer monitoring, cognition of health and health related behavior

*Graduate School, Tokyo Gakugei University

**Department of Health and Sport Science, Tokyo Gakugei University

* 東京学芸大学大学院 修士課程** 東京学芸大学 健康・スポーツ科学講座

東京学芸大学紀要 芸術・スポーツ科学系 63:57-69,2011.

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1.背景と目的

近年,糖尿病や高血圧などの生活習慣病患者の増加により,その予防策として運動習慣の必要性が指摘され

て久しいが,笹川スポーツ財団(2010)の調査によれば,近年の定期的な運動・スポーツの実施率は「週一回

以上」が59.0%,「週二回以上」が49.1%であり,未だ成人の約半数は運動が習慣化されていないことがわか

る。

昨今ではそのような中で,行動科学の考え方を生かしたアプローチ,すなわち行動科学の理論やモデルを応

用した身体活動,運動の促進プログラムが盛んに行われている。具体的には,目標設定やセルフモニタリング

など,主に行動療法や認知行動療法で培われてきた様々な技法を用いた,身体活動・運動行動の変容・定着が

促進されることを期待するアプローチである(池田,2006:岡,2003)。

これまでセルフモニタリングは,精神分析における逆転移のように臨床心理学的観点から論じられたものの

ほか,自覚状態理論のように社会心理学的観点から論じられたものなど多くの見解がとられてきたが(北

島,2010),本研究では行動変容の技法の一つとしてこれを位置づける。

行動変容におけるセルフモニタリングは,社会的認知理論の中の重要な構成要素であるセルフコントロール

に含まれる技法である。この技法は,例えば,自分の行動を毎日チェックシートに書き出し,自分の行動を把

握・管理することで,自分で自分自身の身体や心,行動に意識を向け,現在の心身の状態をより敏感に感じ

取って表現する(モニターする)ことである(角井ら,2006)。メリットとしては,自分の行動の変化の把握,

改善点の発見,および自己管理や目標設定が容易になることなどがあげられる(上地,2006)。

一般に社会的行動においては,その状況においての適切な行動スタイルはなにかについての規準(規範)が

存在する。規準に適合した行動を行うためには,自分の行為を自己観察・監視し,規準に合致するように自分

の行為を調整,統制しなければならない(押見,1993)が,Duvalら(1972)の自覚状態理論(self-awareness

theory)によれば,この自己モニター機制は行為者が自分自身のほうに注意を強く向けるときに作動するとし

ている。つまり,自己に注意が向かい,自覚状態になってはじめて,人は自分がもつ規準を意識するようにな

り,また自己モニター機制が作動する。セルフモニタリングとはこの一連の過程を可能にさせるもので,自分

自身のほうに注意を強く向け,自分が行為・思考している状況の展開を見守る,読み取るという機能(丸

野,1993)を用いることで,自身の内面化された規準を明確にし,自分の行為を調整,統制する。

セルフモニタリングの理論を用いた行動変容の一例として,歩数計の使用による歩行習慣の改善がある。奥

野ら(2004)は,中・高齢者を対象とした研究で,歩数計の使用は運動への動機づけとなり,今後の運動継続

への意欲に寄与することを明らかにした。この研究では被験者に1日8000歩の目標設定を行っているが,歩数

計を保持することで日頃の歩行習慣のセルフモニタリングが起こり,この目標に自身の歩数を適合させようと

要旨:本研究は,大学生を対象に,歩数計を用いた3週間の歩行習慣のセルフモニタリングが歩行習慣や心身

の健康状態,健康に関する認知に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。歩行行動のセルフモニタリン

グを行った被験者は278名であり,コントロール群は236名であった。結果については以下の通りであった。

身体的健康については,歩行習慣のセルフモニタリングを通して運動や歩行に対する意識,習慣が改善され

る。睡眠状態,食生活の変化は本研究ではみられなかった。

精神的健康については,歩行習慣のセルフモニタリングを通して精神的に活気を持つようになる。ウォーキ

ングに対する取り組み方,積極性次第では他の面でも変わる可能性がある。

健康に対する認知への影響については,歩行習慣のセルフモニタリングを通して自身の健康状態に対する認

知が改善される。また,歩行や運動に限らず他の健康行動をとることに対する自己効力感を高め,変容ステー

ジを移行させる。

以上のことから,歩数計を用いた歩行習慣のセルフモニタリングは,歩行及び運動に対する意識,習慣を変

え,また他の健康生活習慣を変えるということが示唆された。このことは,歩行習慣のセルフモニタリングを

通した日常の歩行行動の把握が自己の健康生活習慣に対する興味・関心の増大につながり,それに伴い他の生

活習慣のセルフモニタリング傾向が大きくなった結果と考えられる。

東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第63集(2011)

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自己モニター機制を作動させ,自身の歩行習慣を改善するきっかけになったと考えられる。

この歩数計を用いた行動変容の研究はまだ少なく,大学生を対象とした場合の変化は明らかになっていな

い。また,歩行習慣のセルフモニタリングによって,心身の健康状態や健康に対する認知に具体的にどのよう

な変化が起こるかも具体的に明らかになっていない。研究対象を広げ,またセルフモニタリングが健康に関す

る行動の認知過程に及ぼす影響を明らかにすることで,行動変容の技法としての可能性をさらに広げることが

でき,今後の運動促進プログラムなどの進展につながると考えられる。

そこで本研究では,大学生を対象に歩数計を用いたウォーキングプログラムを行い,その実施群と対照群を

比較することで,歩行習慣のセルフモニタリングが,歩行習慣や心身の健康状態,健康に関する認知に及ぼす

影響を明らかにすることを目的とした。

2.研究方法

2.1 調査対象

調査対象は東京学芸大学の学生518名であった。ウェルネス概論の授業参加者278名(男性148名,女性130

名,平均年齢19.7歳)をウォーキングプログラムの実施群,別の授業参加者の236名(男性85名,女性151名,

平均年齢19.2歳)を質問紙回答のみの対照群として調査を行った。

2.2 調査方法

本研究では,実施群についてはWebサイト「Health Promotion Program」を通じて調査を行った。まず,ラ

イフスタイルや健康行動に関するアンケートに回答し,Web上のカレンダーに3週間歩数の記録を行い,そ

の後同一内容のアンケートに回答し,終了とした。学生には歩数計を保持させ,それを用いて歩数の記録を

行った。起床時から就寝時までの歩数計の保持を指示するのみで,その他の歩行習慣,生活習慣に対する介入

はとらなかった。調査期間は学生によって開始日が異なったため,2010年11月10日から12月22日までとなっ

た。

対照群については,授業時間に実施群と同一内容の質問紙を配布し,その場で記入,回収した。調査日は2010

年12月8日であった。

2.3 調査内容

本研究の調査内容は,身体的健康(運動習慣,食習慣など)11項目,精神的健康29項目,健康に対する認知

(健康行動に対する自己効力感や変容ステージなど)5項目であった。また,実施群の事後アンケートでは本

プログラムの感想を追加した。

これらの内容について,実施群の事後の回答と対照群の回答を比較検討した。

3.結果

3.1 平均歩数

図1に実施群全体の3週間の平均歩数の変化を示す。3週間全体の平均歩数は,9242歩(男性9013歩,女性

9452歩)であった。歩数計の保持によらず,3週間を通しての歩数の増加傾向は見られなかった。また,男女

の比較では女性の方が平均歩数の多い結果となった。

3.2 身体的健康

身体的健康の質問内容は睡眠状態や運動習慣,食習慣などで,それぞれの質問回答において実施群と対照群

で比較した。質問内容は,厚生労働省の「労働省 平成11年度作業関連疾患の予防に関する研究『労働の場に

おけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書』成果物(下光,2000)」において報告された職業性ス

トレス簡易調査票より一部を引用した。

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3.2.1 睡眠状態

「毎日ぐっすり眠っていますか?」という問いに対し,「かなりあてはまる」,「よくあてはまる」,「少しあ

てはまる」,「あてはまらない」の4件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定

を用いて比較検討した。

結果は,「かなりあてはまる」から「あてはまらない」までの各選択肢の割合は,実施群が順に13.7%(38

人),25.9%(72人),45.7%(127人),14.7%(41人),対 照 群 は11.7%(28人),22.9%(55人),44.6%

(107人),20.8%(50人)で,2群の間に有意差は認められなかった。

睡眠状態においては歩行習慣のセルフモニタリングの影響はみられなかった。

3.2.2 運動習慣

「運動習慣はありますか?」という問いに対し,「ほぼ毎日(行っている)」,「週2,3回」,「週1回」,「月

1,2回程度」,「行っていない」の5件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定

を用いて比較検討した。

結果は,「ほぼ毎日」から「行っていない」までの各選択肢の割合は,実施群が順に12.2%(34人),23.7%

(66人),19.8%(55人),9.7%(27人),34.5%(96人),対照群が13.1%(31人),27.5%(65人),11.0%

(26人),9.3%(22人),39.0%(92人)で,2群の間に有意差は認められなかった。

運動習慣の有無においては,歩行習慣のセルフモニタリングの影響はみられなかった。

3.2.3 運動を習慣化することに対する関心

「運動習慣を習慣化することについて関心はありますか?」という問いに対し,「関心があり実行してい

る」,「関心があり,すぐに実行したい」,「関心はあるが,今すぐ実行しようとは思わない」,「関心はない」の

4件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討した。結果を図

2に示す。

図1 3週間の全体の平均歩数

図2 運動を習慣化することに対する関心(%)

東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第63集(2011)

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結果は,「関心があり実行している」から「関心はない」までの各選択肢の割合は,実施群が順に20.1%(56

人),39.6%(110人),36.7%(102人),3.6%(10人),対 照 群 が17.6%(42人),28.9%(69人),41.8%

(100人),11.7%(28人)で,2群の間で回答に有意差が認められた(p<.01)。

運動を習慣化することについての関心においては,実施群のほうが高いということが明らかになった。

3.2.4 現在の運動習慣の改善について

「あなたの運動習慣のどの部分を改善したいと思いますか?」という問いに対し,「運動の頻度を増やした

い」,「運動の強度を増やしたい」,「運動を継続する時間を増やしたい」,「特にない」の4つの中から複数回答

した。実施群と対照群の各選択肢毎の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討した。結果を表

1に示す。

結果は,“頻度”,“強度”,“時間”,“特にない”の順で,実施群が71.9%,17.6%,28.8%,8.3%,対照群

が61.3%,15.8%,22.5%,19.2%であった。「運動の頻度を増やしたい」で実施群が有意に多く(p<.01),

また「特にない」で対照群が有意に多く(p<.01),他の2つにおいては2群の間に有意差は認められなかっ

た。

実施群のほうが運動習慣の改善に意欲があるということが示唆された。

3.2.6 歩行に対する意識

「健康づくりのためにどれくらい意識して歩いていますか?」という問いに対し,「ほぼ毎日(歩いてい

る)」,「週2,3回」,「週1回」,「月1,2回程度」,「ほとんど歩いていない」の5件法で回答した。実施群と対

照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討した。結果を図3に示す。

結果は,「ほぼ毎日」から「ほとんど歩いていない」までの各選択肢の割合は,実施群が順に24.8%(69

人),22.3%(62人),20.1%(56人),6.8%(19人),25.9%(72人),対照群が30.9%(73人),11.0%(26

人),4.7%(11人),8.9%(21人),44.5%(105人)で,2群の間で回答に有意差が認められた(p<.01)。

歩行に対する意識においては,実施群のほうが高いということが明らかになった。

表1 現在の運動習慣の改善したい点

項目 実施群 対照群 有意差

運動の頻度を増やしたい71.9%(200人)

61.3%(147人)

実施群>対照群*

運動の強度を増やしたい17.6%(49人)

15.8%(38人)

n.s.

運動を継続する時間を増やしたい

28.8%(80人)

22.5%(54人)

n.s.

特にない8.3%(23人)

19.2%(46人)

実施群<対照群*

*p<.01

図3 歩行に対する意識(%)

栗田・池田:大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタリングが健康に関する認知や行動に及ぼす影響

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3.2.7 歩行を習慣化することに対する関心

「健康づくりを意識して歩行を習慣化することについて関心はありますか?」という問いに対し,「関心が

あり実行している」,「関心があり,すぐに実行したい」,「関心はあるが,今すぐ実行しようとは思わない」,

「関心はない」4件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討

した。結果を図4に示す。

結果は,「関心があり実行している」から「関心はない」までの各選択肢の割合は,実施群が順に18.0%(50

人),38.8%(108人),32.4%(90人),10.8%(30人),対 照 群 が15.1%(36人),19.3%(46人),42.9%

(102人),22.7%(54人)で,2群の間で回答に有意差が認められた(p<.01)。

歩行を習慣化することについての関心においては,実施群のほうが高いということが示唆された。

3.2.8 食習慣

「食事時間は不規則である」「朝食はほとんどとらない」「間食は多いほうである」など,食習慣について好

ましくない内容の選択肢9つから,該当するものを複数回答し,その合計の平均値を比較した。

結果は,実施群が3.24,対照群が2.98で有意差は認められなかった。食習慣得点においては,歩行習慣のセ

ルフモニタリングの効果は認められなかった。

3.2.9 食事の摂取状況(悪)

「満腹になるまで食べる」,「インスタント,ファーストフードをよく食べる」,「味付けは濃い方である」な

ど,食事の摂取状況について好ましくない内容の選択肢9つから,該当するものを複数回答し,その合計の平

均値を比較した。

結果は,実施群が2.60,対照群が2.72で有意差は認められなかった。食事の摂取状況(悪)得点において

は,歩行習慣のセルフモニタリングの効果は認められなかった。

3.2.10 食事の摂取状況(良)

「食事のときは食品の組み合わせを考える」,「野菜類は好きで毎日食べる」,「果物を毎日食べる」など,食

習慣について好ましい内容の選択肢11個の中から,該当するものを複数回答し,その合計の平均値を比較し

た。

結果は,実施群が3.88,対照群が3.48で有意差は認められなかった。食事の摂取状況(良)得点においては,

歩行習慣のセルフモニタリングの効果は認められなかった。

3.2.11 現在の食習慣の改善について

「健康のために食生活を改善することに関心はありますか?」という問いに対し,「関心があり実行してい

る」,「関心があり,すぐに実行したい」,「関心はあるが,今すぐ実行しようとは思わない」,「関心はない」4

件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討した。結果を図5

に示す。

図4 歩行を習慣化することに対する関心(%)

東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第63集(2011)

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結果は,「関心があり実行している」から「関心はない」までの各選択肢の割合は,実施群が順に13.7%(38

人),51.4%(143人),28.8%(80人),6.1%(17人),対照群が6.7%(16人),56.9%(136人),30.1%(72

人),6.3%(15人)で,2群の間で回答に有意差は認められなかった。

食習慣の改善に対する関心については,歩行習慣のセルフモニタリングの効果は認められなかった。

3.3 精神的健康

精神的健康の質問内容は「活気がわいてくる」,「ひどく疲れた」,「憂うつだ」など29項目で,厚生労働省の

「労働省 平成11年度作業関連疾患の予防に関する研究『労働の場におけるストレス及びその健康影響に関す

る研究報告書』成果物(下光,2000)」において報告された職業性ストレス簡易調査票より一部を引用した。

すべて「ほとんどいつもあった」,「しばしばあった」,「時々あった」,「ほとんどなかった」の4件法で回答し

た。次に,全項目を“活気”,“イライラ感”,“疲労感”,“不安感”,“抑うつ感”,“身体愁訴”の6つにカテゴ

リー分けし,選択肢の番号を点数化して,実施群と対照群の平均値を一元配置分散分析を用いて比較した。点

数が高いほどその精神的状態が強い傾向にある。結果を表2にまとめる。

3.3.1 活気

質問内容は「活気がわいてくる」,「元気がいっぱいだ」,「生き生きする」の3項目で,合計12得点で比較し

た。

結果は,それぞれの平均値は実施群が7.49,対照群が6.61で,2群の間で有意差が認められた(p<.01)。活

気得点においては,実施群のほうが高いということが明らかになった。

3.3.2 イライラ感

質問内容は「怒りを感じる」,「内心腹立たしい」,「イライラしている」の3項目で,合計12得点で比較し

た。

結果は,それぞれの平均値は実施群が5.59,対照群が5.77で,2群の間で有意差は認められなかった。イラ

イラ感得点においては,歩行習慣のセルフモニタリングの効果はみられなかった。

3.3.3 疲労感

質問内容は「ひどく疲れた」,「へとへとだ」,「だるい」の3項目で,合計12得点で比較した。

表2 精神的健康の結果

項目 実施群 対照群 有意差

活気 7.49 6.61 実施群>対照群*

イライラ感 5.59 5.77 n.s.

疲労感 7.06 7.13 n.s.

不安感 5.79 5.45 n.s.

抑うつ感 11.0 11.51 n.s.

身体愁訴 17.48 17.87 n.s.

*p<.01

図5 食生活を改善することに対する関心(%)

栗田・池田:大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタリングが健康に関する認知や行動に及ぼす影響

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結果は,それぞれの平均値は実施群が7.06,対照群が7.13で,2群の間で有意差は認められなかった。疲労

感得点においては,歩行習慣のセルフモニタリングの効果はみられなかった。

3.3.4 不安感

質問内容は「気がはりつめている」,「不安だ」,「落ち着かない」の3項目で,合計12得点で比較した。

結果は,それぞれの平均値は実施群が5.79,対照群が5.45で,2群の間で有意差は認められなかった。不安

感得点においては,歩行習慣のセルフモニタリングの効果はみられなかった。

3.3.5 抑うつ感

質問内容は「憂うつだ」,「何をするのも面倒だ」,「物事に集中できない」,「気分が晴れない」などの6項目

で,合計24得点で比較した。

結果は,それぞれの平均値は実施群が11.00,対照群が11.51で,2群の間で有意差は認められなかった。抑

うつ感得点においては,歩行習慣のセルフモニタリングの効果はみられなかった。

3.3.6 身体愁訴

質問内容は「めまいがする」,「体のふしぶしが痛む」,「首筋や肩がこる」などの11項目で,合計44得点で比

較した。

結果は,それぞれの平均値は実施群が17.48,対照群が17.87で,2群の間で有意差は認められなかった。身

体愁訴得点においては,歩行習慣のセルフモニタリングの効果はみられなかった。

3.4 健康に関する認知

健康に対する認知,健康行動に対する自己効力感や変容ステージなどについて質問し,各項目で比較した。

質問内容はヤマハ発動機安全衛生グループの「ライフスタイルチェンジチャレンジ パーソナルプロフィール

アンケート」より一部を引用した。

3.4.1 現在の健康状態に対する認知

「あなたの健康は良くなっていますか?」という問いに対し,「良くなっている」,「変わらない」「悪くなっ

ている」の3件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討した。

結果を図6に示す。

結果は,「良くなっている」から「悪くなっている」まで順に,実施群は13.3%(37人),77.7%(216

人),9.0%(25人),対照群は7.5%(18人),68.6%(164人),23.8%(57人)で,2群の間で回答に有意差

が認められた(p<.01)。

自身の健康状態の認知においては,実施群のほうが良いということが明らかになった。

3.4.2 現在の健康状態に対する満足感

「現在の健康状態についてどの程度満足しているか?」という問いに対し,「満足している」,「わからな

い」,「満足していない」の3件法で回答した。実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用い

図6 現在の健康状態に対する認知

東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第63集(2011)

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て比較検討した。結果を図7に示す。

結果は,「満足している」から「満足していない」まで順に,実施群は30.6%(85人),33.1%(92人),

36.3%(101人),対照群は23.8%(57人),35.6%(85人),40.6%(97人),で,2群の間に有意差は認めら

れなかった。

現在の健康状態に対する満足感においては,歩行習慣のセルフモニタリングの影響はみられなかった。

3.4.4 健康行動に対する自己効力感

「もっと運動したりまたは身体的に活動的であり続ける」,「脂肪の摂取を控えたり少ない状態を続ける」,

「減量したり適正な体重を維持し続ける」,「飲酒量を控えたり,ほとんど飲まないかまったく飲まないでい

る」,「効果的なストレスへの対処を行う」の5項目の健康行動に対する自己効力感について,それぞれ0%~

100%の10%毎の選択肢で回答し,実施群と対照群の平均値を二元配置分散分析を用いて比較した。結果を図

8にまとめる。

結果は,全項目で実施群の自己効力感が対照群より有意に高い傾向がみられた(「効果的なストレス対処を

行う」が p<.05で,それ以外はすべて p<.01)。これらの健康行動に対しては,歩行習慣のセルフモニタリン

グの効果があるということが明らかになった。

3.4.5 健康行動の変容ステージ

「もっと運動する」,「脂肪の多い食べ物を減らす」,「減量の努力をする」,「飲酒量を減らす」,「よりよいス

トレス対処法を見つける」の5項目の健康行動に対する変容ステージについて質問回答した。

「もっと運動する」,「脂肪の多い食べ物を減らす」の2項目については,「6ヶ月以内には考えられない(無

関心期)」,「6ヶ月以内に始める(関心期)」,「30日以内に始める(準備期)」,「既に行っている(6ヶ月以

図7 現在の健康状態に対する満足感

図8 健康行動に対する自己効力感(%)

栗田・池田:大学生における歩数計を用いた歩行のセルフモニタリングが健康に関する認知や行動に及ぼす影響

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内,行動期)」,「既に行っている(6ヶ月以上,維持期)」の無関心期から維持期までの5件法で回答した。

「減量の努力をする」,「飲酒量を減らす」,「よりよいストレス対処法を見つける」の3項目については,上記

の無関心期から準備期までの3つに加えて「現状で問題ない」の選択肢を加えた4件法で回答した。

これらの質問に対する実施群と対照群の結果について,クロス集計と χ2検定を用いて比較検討した。それ

ぞれのステージの割合を表5にまとめる。「現状で問題ない」の割合は維持期の欄に記載した。

結果は,「もっと運動する」を除いて2群の間に有意差がみられた。すべての項目で実施群のほうが行動期,

維持期の割合が多い傾向にあり,歩行習慣のセルフモニタリングの効果があるということが示唆された。

4.考察

4.1 平均歩数

本研究では,被験者に歩数計を持たせ,3週間日頃の歩行習慣のセルフモニタリングを行わせた。実施群に

対しては歩数計を保持すること以外,歩行習慣に対して何も介入をとらなかったが,全体の歩行数に大きな増

加はみられなかった。

奥野ら(2004)の研究では中高年を対象に歩数計を保持させ,3か月の歩行数の変化を調べているが,そこ

では対象を歩数計使用の主観的有効感の有無で2群に分けて調べており,主観的有効感の有り群の歩行数は開

始月に比し1か月目,2か月目,3か月目と有意に増加し,無し群は開始月より有意な変化はなかったが,減

少傾向がみられたとしている。本研究においても,歩数計使用の主観的有効感で実施群を2群に分ければ,異

なる結果が得られたかもしれない。

また,Web上のカレンダーでの歩数記録は,利用者の意欲の向上を図る目的から8000歩以上の日は達成の

印として数値がカラーで表示されるように作成されているため,実施群はそこで得られる満足感からより歩行

数を増やそうとする努力の必要性を感じなかったということも考えられる。

厚生労働省(2010)の調査では一日あたりの平均歩数は最も多い20代男性で9107歩,20代女性で8170歩とし

ているが,それに比すると本研究の参加者は調査期間十分な活動量であったということが示唆される。

4.2 身体的健康

本研究では身体的健康について,睡眠状態,運動や歩行習慣,またそれらに対する関心,食習慣に関する質

問を行った。

睡眠状態に関しては,2群の間に有意差は認められなかった。ウォーキングのような一定のリズムで行う運

動はセロトニン神経系を活性化し(有田,2009),それが睡眠導入作用のあるホルモンであるメラトニンの分

泌を促すことが明らかになっている。実施群の事後アンケートでは,終了後の感想として「ぐっすり眠れるよ

うになった」など睡眠状態が改善したという回答がいくつか得られたが,全体としては対照群と有意な差はみ

られなかったため,実施群の中でも個人差があったと考えられる。

表3 健康行動の変容ステージ(%)

無関心期 関心期 準備期 行動期 維持期 有意差

もっと運動する実施群 23.7 27.3 13.3 17.6 18.0

n.s.対照群 19.1 29.4 31.9 4.3 15.3

脂肪の多い食べ物を減らす

実施群 39.9 18.7 12.6 13.7 15.1p<0.01

対照群 35.5 17.9 28.2 7.7 10.7

減量の努力をする実施群 47.5 14.7 7.6 ― 30.2

p<0.01対照群 42.1 18.3 16.6 ― 23.0

飲酒量を減らす実施群 6.8 10.1 11.9 ― 71.2

p<0.01対照群 8.1 3.8 22.0 ― 66.1

よりよいストレス対処法を見つける

実施群 28.4 19.4 7.6 ― 44.6p<0.01

対照群 19.6 15.7 22.6 ― 42.1

東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第63集(2011)

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運動習慣については,現在の運動習慣の有無については2群の間に有意差は認められなかったが,それに対

する関心や改善したい点についてはいくつか有意差がみられた。実施群においては,半数以上が運動を習慣化

することに対して関心を持っており,特に運動の頻度を増やしたい傾向にあるということが示唆された。ま

た,歩行に対する意識,歩行を習慣化することに対する関心においては,どちらも2群の間に有意差が認めら

れ,実施群の方が高かった。

これらの結果については,実施群の歩行習慣のセルフモニタリングが直接に影響した結果であると考えられ

る。歩数計を通じて自身の歩行習慣を監視することで普段よりも自身の歩行習慣に注意が向けられ,個々人で

日頃の運動量の不足などそれぞれ気づきがあり,これから改善していこうとする意志が働いたものと思われ

る。

食習慣や食事の摂取状況,また食生活の改善に対する関心については,2群の間に有意な差は認められな

かったが,実施群の方が良い傾向にあった。実施群の事後アンケートの感想では,「食事のバランスに気を使

うようになった」,「健康に気をつけるようになった」といった回答が得られており,日頃の歩行習慣のセルフ

モニタリングが他の生活行動のセルフモニタリングにも波及していることが示唆される。これは,日頃の歩行

行動の把握が自己の健康生活習慣に対する興味・関心の増大につながり,それに伴い他の生活習慣のセルフモ

ニタリング傾向が大きくなった結果と考えられる。自己の行為を調整・統制するうえではその規準が必要であ

るが,本研究では被験者に食習慣,食事摂取の規準となる知識やガイドラインを提示しなかったため,それに

関して講義などを行えば,異なる結果が得られたかもしれない。

4.3 精神的健康

精神的健康においては,“活気”で実施群が有意に高かった。ウォーキングは快感を増幅させる神経伝達物

質であるドーパミンの分泌を促し,それにより快感を覚えやる気が高まってくる(植田,2009)。実施群は日々

の歩行運動のセルフモニタリングを通して意識的に歩いていくことにより,このドーパミンの分泌が高まった

ことが考えられるが,これは本研究の分析の範疇ではない。また,実施群の事後アンケートで「あまり歩いて

いないことに気づき,1日に最低でも6000から7000歩は歩こうと思いました」,「歩数の少ない日には明日は

もっと歩こうと目標を持つことができた」といった感想が得られたことから,歩行数を管理する中で自身の歩

行数に基準や目標ができ,それを日々達成していくことにより精神的に活気が生じたということも考えられ

る。

他の項目においては有意差はみられなかったが,“不安感”をのぞき実施群の方が低い傾向にあった。池田

(2006)は社会人を対象に80日間のウォーキングプログラムを行い,その前後で同じ質問内容で被験者の精神

的健康状態を調べている。参加者をプログラム参加の積極性により3群に分け,前後で比較を行っているが,

そこでは“身体愁訴”以外に前後で有意な変化は見られず,積極的な参加者ほど良い状態にあるという結果が

得られている。ウォーキングの精神的効果は,上記のやる気を高める以外にもリラックス効果,気分転換など

の効果がある(植田,2009)。本研究においても実施群を歩行に対する積極性により分類すれば,異なる結果

が得られたかもしれない。

4.4 健康に対する認知

まず,健康状態に対する認知,満足感については実施群の方が有意に高かった。認知に関しては「変わらな

い」と答えたものが半数以上を占めたが,「悪くなっている」と答えたものは対照群の方が大きな割合を占め

た。本ウォーキングプログラムは3週間の短期間で,また睡眠状態や精神的健康のほとんどの項目において2

群で有意差は見られなかったため,実施群の身体の健康状態が改善されたことは考えにくい。健康状態は変わ

らないが,歩行習慣のセルフモニタリングを機に他の健康生活習慣のセルフモニタリング傾向が大きくなり,

行動の修正がとられそれまでより多く健康行動をとるようになったため,このような結果になったと考えられ

る。満足感の結果についても,同様に解釈できる。

次に,健康行動に対する自己効力感においても全項目で実施群の方が有意に高かった。これも歩行習慣のセ

ルフモニタリングを通した,日頃の歩行行動の把握が自己の健康生活習慣に対する興味・関心の増大につなが

り,それに伴い他の生活習慣のセルフモニタリング傾向が大きくなった結果と考えられる。実際に,実施群の

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事後アンケートでは「健康に対する意識の面で大きく変わった」,「以前よりも規則正しい生活を送れるように

なった」などの感想が得られており,自身の健康に対する関心の増大により,歩行以外の様々な健康行動をと

ろうとする意志が働くようになったと思われる。

最後に,変容ステージにおいてもほとんどの項目で2群の間に有意差がみられ,実施群の方が行動期,維持

期の傾向が強いことが明らかになった。変容ステージの移行には自己効力感,意思決定バランスなどの要因が

ある。歩行習慣のセルフモニタリングによる自己の健康やそれに関わる生活全体の自身の行動に対する関心の

高まり,また歩行習慣や他の健康行動に対する自己効力感の高まりが,このような結果をもたらしたと考えら

れる。

5.まとめ

本研究は,大学生を対象に,歩数計を用いた歩行習慣のセルフモニタリングが歩行習慣や心身の健康状態,

健康に関する認知に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。得られた知見は以下のとおりである。

1)身体的健康への影響

身体的健康については,歩行習慣のセルフモニタリングを通して運動や歩行に対する意識,習慣が改善され

る。睡眠状態,食生活の変化は本研究ではみられなかった。

2)精神的健康への影響

精神的健康については,歩行習慣のセルフモニタリングを通して精神的に活気を持つようになる。ウォーキ

ングに対する取り組み方,積極性次第では他の面でも変わる可能性がある。

3)健康に対する認知への影響

健康に対する認知については,歩行習慣のセルフモニタリングを通して自身の健康状態に対する認知や満足

感が改善される。また,歩行や運動に限らず他の健康行動をとることに対する自己効力感を高め,変容ステー

ジを移行させる。

以上のことから,歩数計を用いた歩行習慣のセルフモニタリングは,歩行及び運動に対する意識,習慣を変

え,また他の健康生活習慣を変えるということが示唆された。今後はウォーキングに対する積極性などで対象

者の特性を分類し,セルフモニタリングにより変化のある者とない者の差を明確にしていくことが必要と思わ

れる。

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