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MWE2014 WS03-01 生活環境に存在する電磁波エネルギーからの電力回収 Electromagnetic Energy Harvesting in Living Environment 北沢 祥一 鴨田 浩和 久々津 直哉 小林 野瀬 浩一 池永 佳史 野口 宏一朗 吉田 洋一 Shoichi KITAZAWA Hirokazu KAMODA Naoya KUKUTSU Koichi NOSE Yoshifumi IKENAGA Koichiro NOGUCHI and Yoichi YOSHIDA ATR 波動工学研究所 ルネサスエレクトロニクス株式会社 概要 我々は、非常時の電源やバッテリーレスシステムへの展開を考え、生活環境に存在する放送・通信用 の電磁波からのエネルギーハーベスティングの研究開発を行ってきた。本研究では、複数の周波数帯か らの電磁波エネルギーを 1m 2 のアンテナパネルで回収し、規定した電力束密度(286μW/m 2 )の環境下 において 1.5V100µW の電力を回収することを目標と設定した。開発した電磁波からのエネルギー回 収システムのイメージを左図に示す。国内各地での電測結果から、 215MHz 帯の V-High マルチメディア 放送、500MHz 帯の地上波デジタル放送、800MHz 帯の携帯電話基地局からの電磁波を回収対象に選定 し、 3 周波数帯を受信する高効率なアンテナパネル、受信した電磁波を直流に変換する RF-DC 変換回路、 得られた DC 電力を集約し 1.5V に変換する DC/DC 回路の開発を行った。これらを組み合わせて電磁波 エネルギー回収パネルを試作・評価した結果、右図に示す電波暗室での評価環境において、 1.5V120µW の出力を得た。さらに、センサを搭載した 2.4GHz 帯の ZigBee 端末を駆動できることを確認した。また、 評価環境より低い電力束密度の実環境でも実験を行い、低消費電力の LCD 温度計の連続駆動ができる ことを確認した。 電磁波エネルギー回収システムのイメージ 電波暗室での実験 Abstract We have conducted research and development of electromagnetic harvesting from ambient radio waves. The goal of this project is to obtain 1.5V, 100μW DC output with 1m 2 harvesting panel under defined environment condition. To achieve this, we have developed a triple band harvesting panel with 1m 2 size that comprises highly-efficient antennas, RF-DC conversion circuits, and DC/DC circuits. The developed panel has achieved more than 120 μW of power generation at 1.5 V under a defined environment in an anechoic chamber. RPH11送信信号 形式 負荷抵抗 [k] 出力電圧 [V] 出力電力 [μW] CW 11 1.22 136 18 1.47 120 変調 13 1.26 124 20 1.46 106 DC出力 1.5V, 100μW アプリケーション DC/DC 回路 RF-DC 変換回路 アンテナ -20dBm 1 n 放送局 送信所 携帯電話等 基地局 RPHパネル 1 n

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MWE2014 WS03-01

生活環境に存在する電磁波エネルギーからの電力回収Electromagnetic Energy Harvesting in Living Environment

北沢 祥一† 鴨田 浩和† 久々津 直哉† 小林 聖† 野瀬 浩一‡ 池永 佳史‡ 野口 宏一朗‡ 吉田 洋一‡

Shoichi KITAZAWA† Hirokazu KAMODA† Naoya KUKUTSU† Koichi NOSE‡ Yoshifumi IKENAGA‡ Koichiro NOGUCHI‡ and Yoichi YOSHIDA‡

†ATR 波動工学研究所 ‡ルネサスエレクトロニクス株式会社 概要

我々は、非常時の電源やバッテリーレスシステムへの展開を考え、生活環境に存在する放送・通信用

の電磁波からのエネルギーハーベスティングの研究開発を行ってきた。本研究では、複数の周波数帯か

らの電磁波エネルギーを 1m2 のアンテナパネルで回収し、規定した電力束密度(286μW/m2)の環境下

において 1.5V、100µW の電力を回収することを目標と設定した。開発した電磁波からのエネルギー回

収システムのイメージを左図に示す。国内各地での電測結果から、215MHz 帯の V-High マルチメディア

放送、500MHz 帯の地上波デジタル放送、800MHz 帯の携帯電話基地局からの電磁波を回収対象に選定

し、3周波数帯を受信する高効率なアンテナパネル、受信した電磁波を直流に変換するRF-DC変換回路、

得られた DC 電力を集約し 1.5V に変換する DC/DC回路の開発を行った。これらを組み合わせて電磁波

エネルギー回収パネルを試作・評価した結果、右図に示す電波暗室での評価環境において、1.5V、120µWの出力を得た。さらに、センサを搭載した 2.4GHz 帯の ZigBee 端末を駆動できることを確認した。また、

評価環境より低い電力束密度の実環境でも実験を行い、低消費電力の LCD 温度計の連続駆動ができる

ことを確認した。

図 電磁波エネルギー回収システムのイメージ 図 電波暗室での実験

Abstract We have conducted research and development of electromagnetic harvesting from ambient radio

waves. The goal of this project is to obtain 1.5V, 100μW DC output with 1m2 harvesting panel under defined environment condition. To achieve this, we have developed a triple band harvesting panel with 1m2 size that comprises highly-efficient antennas, RF-DC conversion circuits, and DC/DC circuits. The developed panel has achieved more than 120 μW of power generation at 1.5 V under a defined environment in an anechoic chamber.

RPHパネル送信側

距離約11m

送信信号形式

負荷抵抗[kΩ]

出力電圧[V]

出力電力[μW]

CW11 1.22 13618 1.47 120

変調13 1.26 12420 1.46 106

DC出力1.5V, 100μW

アプリケーション

DC/DC回路

RF-DC変換回路

アンテナ

-20dBm

1

n

放送局送信所

携帯電話等基地局

RPHパネル

1

n

1. はじめに 光、温度、振動、電磁波など生活環境に存在する、

微小なエネルギーからの電力回収(エネルギーハー

ベスティング)は、バッテリレスのデバイスや、バ

ッテリを補完する技術として有望である。特に、建

物や橋、トンネル等の構造物でのヘルスケア用に配

置しているセンサでの電源の確保は重要であり、こ

の技術は有効な手段の一つとして期待されている。 我々は、生活環境に存在する、放送・通信用に送

信されている、電磁波からのエネルギーハーベステ

ィングに注目した。この電磁波からのエネルギーハ

ーベスティングに関しては、Colorado 大の Popovicらが広帯域 (2-18GHz) レクテナアレーからの電力

回収 [1]、 Intel の Sample らは、テレビの送信所

(ERP=960kW)から 4km ほど離れた場所で、利得

5dBi のアンテナを用い、60µW の電力を得た[2]こと

などを報告している。また Pinuela らは、ロンドン市

内でテレビ放送・携帯電話基地局の電磁波の電力束

密度の評価と、電力回収を報告している[3]。国内で

は、東京大学の浅見らや、横浜国立大の新井らによ

って、FM・TV 放送、携帯電話基地局等の電磁波か

らの電力回収、バッテリレスのセンサネットワーク

への応用等が報告されている[4-7]が、強電界地域で

の検討が主である。 本報告では、我々が実施した研究開発の概要と、

開発した 3 周波数帯に対応するアンテナ、電磁波を

直流に変換する RF-DC 変換回路、DC 出力を 1.5V に

変換する DC/DC回路、そしてそれらを組み合わせた

電磁波エネルギー回収パネル(RPH パネル)を用い

て実証実験を行った結果について述べる。

2. 電磁波エネルギー回収技術 本研究開発は、総務省の委託研究「電磁波エネル

ギー回収技術の研究開発」(平成 24~25 年度)を、

ATR とルネサスエレクトロニクスが共同受託し、実

施した[8]。我々の電磁波エネルギー回収システムの

イメージを図 1 に示す。複数の周波数帯からの電力

回収を目的とし、1 平方メートルのアンテナパネルに

は、対象とする周波数を受信するモノバンドアンテ

ナを複数配置している。各アンテナで受信した電磁

波は、RF-DC 変換回路で高周波 (RF) を直流 (DC) に変換し、この DC 出力は DC/DC 回路にて 1.5V に

昇圧している。本研究開発では、RF-DC 変換回路の

電力変換効率は-20dBm 入力時 30%以上、DC/DC 回

路での電力変換効率 70%以上を目標とし、システム

全体として出力電圧 1.5V で 100µW 程度の電力を回

収することを目標とした。

図 1 電磁波エネルギー回収システムのイメージ

3. 電磁波環境の評価

電磁波エネルギー回収システムの設計にあたって、

対象とする周波数の選定が必要である。そこで、周

波数割当てや無線局の免許情報を基に、76-108MHzの FM 放送・ V-Low マルチメディア放送、

207.5-222MHz の V-High マルチメディア放送 (V-High)、470-710MHz の地上波デジタル放送 (DTV)、800MHz 帯、900MHz 帯、2.1GHz 帯の携帯電話基地

局を候補とした。そして、対象とする周波数帯域で

の電力束密度を、標準ダイポールアンテナとスペク

トラムアナライザーを用い、ATR 周辺の大阪、京都、

奈良と、東北地方で測定した[9]。宮城県名取市、ATR周辺の 2 か所での測定結果を一例として図 2 に示す。

V-High、DTV は安定しており、800MHz 帯携帯電話

基地局(800M)は基地局の場所に依存するが、この 3周波数帯域を対象として検討を進めることとした。

図 2 電力束密度の測定例

この測定も踏まえ、本研究での RPH パネルの評価

環境は、「基準周波数にて効率 80%のダイポールアン

テナで受信した時のアンテナ出力端電力が-20dBmとなる電力束密度の環境」とした。ここで基準周波

数は、大阪・東京で DTV の基幹局の送信帯域中央の

518MHz とした。これより、評価環境の電力束密度

は、286μW/m2 となる。

DC出力1.5V, 100μW

アプリケーション

DC/DC回路

RF-DC変換回路

アンテナ

-20dBm

1

n

放送局送信所

携帯電話等基地局

RPHパネル

1

n

0

100

200

300

400

500

名取 南生駒 ATR

電力

束密

度[μ

W/m

2 ] V-HighDTV800MHz

4. アンテナ設計 本研究に用いるアンテナとして、広帯域アンテナ

や複数周波数で共振するアンテナ等を検討したが、

後段の RF-DC 変換回路との整合性や、システム全体

での変換効率を考慮し、各周波数に対応するモノバ

ンドアンテナを選択した。ここで、アンテナの性能

評価指数は開口効率とし、前述の評価環境の電力束

密度 286μW/m2と、RF-DC変換回路の電力変換効率、

DC/DC回路の電力変換効率の目標値から 3 周波数の

平均で 55.5%のアンテナ開口効率と設定した。 アンテナの基材は、使用するシーンを考慮し、リ

ジッド基板(比誘電率 3.7、基板厚 0.8mm)とフレキ

シブル基板(比誘電率 3.0、基板厚 0.1mm)の 2 種、

アンテナ基板のサイズは 50cm 角とした。その基板面

内に、各周波数帯域に対応したモノバンドアンテナ

を配置することとした。このとき、各アンテナ間の

相互結合が開口効率に大きく影響するため、これを

考慮し、また開口効率の最大化のみを追求しても、

RF-DC 電力変換効率の非線形性により、最終的に得

られる DC 電力が最大化されるとは限らず、この非

線形性も考慮した。また、RF-DC 変換回路から出力

した DC 電力を集約するための DC 配線が、アンテナ

性能を劣化させることも明らかとなったが、チョー

クインダクタを配線上に挿入するなどし、性能劣化

の低減を図った。

図 3 リジッド基板アンテナの構成

表 1 アンテナ開口効率(リジッド基板)

効率 (%)

V-High DTV 800M 平均 シミュレーション 85.2 51.0 39.8 58.7

実測 99 46 44 63

リジッド基板でのアンテナの構成を図 3 に示す。

V-High はベントダイポール(50Ω 平衡給電)、DTVと 800M は方形ループアンテナ(100Ω平衡給電)で

あり、それぞれの給電点に RF-DC 変換回路用のサブ

基板を実装する構造とした。本構造において、開口

効率は表 1 に示すように、3 周波数の平均で目標と

していた 55.5%を超えた。またフレキシブル基板は、

単体または1×2に配置して使用することを目的に設

計を行った。アンテナは、V-High はベントダイポー

ル(50Ω 平衡給電)、DTV はツインループアンテナ

(100Ω 平衡給電)、800M は方形ループアンテナ

(100Ω 平衡給電)とした(図 4)。開口効率は 3 周

波数の平均でシミュレーションでは 55.5%を超え、

測定ではわずかに下回る 52%であった。

図 4 フレキシブル基板アンテナの構成

5. RF-DC 変換回路

RF-DC 変換回路は、RF-DC 変換回路への入力信号

レベル-20dBm の環境下において、1.5V 程度の電圧で、

単層アンテナ 1m2当たり 100μW以上の電力を継続的

に出力可能となるシステムの要求を満たすように設

計するのが目標である。1m2 当たりには約 50 個のア

ンテナが実装されると想定し、RF-DC 変換回路とそ

の後段に接続される DC/DC 回路に要求されるトー

タルの電力変換効率 η は、η=100μW/(-20dBm×50)=0.2 以上を目標とした。

図 5 RF-DC 変換回路と DC-DC 回路の従来技術と

の性能比較 過去に発表されている RF-DC 変換回路と DC/DC

回路の性能を図 5 に示す。本研究開発での各回路に

対する入力電力の設定状況を考慮し、RF-DC 変換回

路に関しては入力電力が-20dBm 時、DC/DC 回路に

関しては入力電力が数 μW 時と、各々の条件下での

電力変換効率に着目し、両者それぞれが世界トップ

レベルの性能を目指し、RF-DC 変換回路の電力変換

効率を 0.3、DC/DC回路の電力変換効率を 0.7 と目標

設定した。この目標値を達成すれば、トータルの電

表面 裏面(透視図)

V-High用

DTV用800M用

DC配線

RF-DC変換回路基板実装場所

表面 裏面(透視図)

V-High用

DTV用 800M用800M用 DC配線

400MHz帯(地デジ)

800/900MHz帯

2.4GHz帯

1 10 100

40

30

50

60

70

DC-DCコア入力電力 [mW]

(入力電圧 約100mV)

従来技術

目標値

1000-20 -10

10

20

30

RF-DC変換回路入力電力 [dBm]

Effic

iency

[%]

目標値

従来技術

Effic

iency

[%]

力変換効率 0.3×0.7=0.21>0.2 を実現できる。 3 章での電力束密度測定の結果、RF-DC 変換回路

へ到達する電磁波の電圧は、mV オーダーであること

が判明したので、RF-DC 変換回路の設計では mV オ

ーダーの極低電圧入力を想定することとした。 高効率な RF-DC 変換回路を開発するためには、シ

ミュレーション結果が実測結果と合うように整備さ

れた RF 基板パターンのシミュレーション環境が必

要である。そこで、まず本研究開発で用いるリジッ

ド基板で、特性評価パターン等を搭載した評価基板

を試作し測定を行った。その測定結果をシミュレー

ション環境に反映することで、高効率な RF-DC 変換

回路開発に向けた設計環境・手法を確立した。RF-DC変換回路の高効率化に対しては、

(1)ダイオードデバイスの改良による方法 (個別部品使用 RF-DC)

(2)ダイオード構成の工夫による方法 (オンチップトランジスタ使用 RF-DC)

の 2 つの切り口から並行して検討を行い、RF-DC変換回路の高効率化に最も有効な方式を決定するこ

ととした。 (1)の方法では、ダイオードデバイスのどこを改良

するとRF-DC変換回路の電力変換効率を改善できそ

うか検討するため、個別部品のショットキーダイオ

ードについてフィージビリティスタディを行った。

その結果、パッケージ寄生容量を除去した場合に電

力変換効率改善効果の可能性があるという知見を得

た。そこで、パッケージ無しのショットキーダイオ

ードデバイスを実装した RF-DC 変換回路を試作し、

パッケージ品を実装したRF-DC変換回路との比較評

価を行った。結果としては、基板実装時の寄生容量

成分を完全に除去することは難しく、電力変換効率

改善効果は 3%以下程度にとどまることが分かった。 (2)の方法では、IC チップ内の高周波特性が RF-DC

変換回路の特性に影響を与えるので、IC チップ設計

と基板設計を同時に精度よく取り扱えるシミュレー

ション環境が必要である。したがって、RF-DC 変換

回路のチップ試作を行い、評価基板の測定結果を用

いて実測とシミュレーションの合せ込みを行った。

またチップ試作の際、半波整流方式や、全波整流方

式等の複数のRF-DC変換回路方式を試作し電力変換

効率の相対的な比較評価を同時に行った。この試作

評価により、IC チップ設計と基板設計を同時に精度

良く扱えるシミュレーション環境構築と、オンチッ

プトランジスタ使用RF-DCとして最も高効率なダイ

オード構成の明確化を達成した。 次に(1)と(2)の検討結果を比較したところ、(2)のチ

ップを用いる方法の方が、(1)の方法よりも大きな電

力変換効率改善効果の可能性を示した。そこで、各

回路パラメータの最適化を含め、再度チップ試作を

行い、RPH パネルに搭載する形状で RF-DC 変換回路

基板を対象となる 3 周波数帯それぞれについて製造

した (図 6)。評価実験の結果、高い電力変換効率を

示し、目標値である 30%を超えることを実機確認し

た(図 7)。

図 6 RF-DC 変換回路基板

図 7 RF-DC 変換回路の電力変換効率

6. 電源管理回路 電源管理回路は、要素技術を確立するため、複数

個のアンテナ (およびRF-DC 変換回路) からの電力

入力に対応し、電力変換効率の向上を図った DC/DC回路の設計および評価を行った。その結果、入力電

圧 100mV、出力電圧 1.5V、負荷 100μW で電力変換

効率 70%が得られた。続いて、自己消費電流の低減

技術を導入して電力変換効率を向上させるとともに、

図 8 に示す RPH パネルに搭載するためのインター

フェースを備えた DC/DC 回路の設計を行い、その

DC/DC 回路を実装した電源 IC を開発した。なお、

1m 角の RPH パネルは 50cm 角の子パネル 4 枚で構

成され、各子パネルに電源 IC を 1 個ずつ搭載してい

る。 前記で設計した DC/DC 回路を評価した結果、

100μW の負荷時に電力変換効率 78%が得られた。ま

た、自己消費電流の評価を実施した結果、無負荷時

の自己消費電流は1m角のRPHパネルに搭載する電

源 IC (DC/DC 回路) 4 個を合わせて 2.8μA であるこ

とを確認した。

図 8 RPH パネルの構成

7. 実験結果 7.1. 電波暗室での実験

開発した 3 周波アンテナ、RF-DC 変換回路、

DC/DC回路を組み合わせ、RPHパネルを試作した。

評価環境は、図 9(a)に示すように、電波暗室内に信

号発生器、送信アンテナを設置して RPH パネルの位

置で V-High、DTV、800M の各周波数帯域で電力束

密度が評価基準の 286μW/m2となるように設定した。

RPH パネルは、図 9(b)に示すように、50cm 角の子

パネルからの回収電力を、それぞれ DC/DC 回路で

1.5V に昇圧し、これを並列接続して出力電力を評価

した。この際、CW と実環境でサンプリングした変

調波 2 種類の電波を用いた。 評価結果を、表 2 に示す。出力電圧が約 1.5V で

120μWの出力が継続的に得られ、目標である100μW以上の DC 電力回収が可能であることを確認した。

図 9 電波暗室の評価系

表 2 出力電力

送信信号 形式

負荷抵抗 [kΩ]

出力電圧 [V]

出力電力 [μW]

CW 11 1.22 136 18 1.47 120

変調 13 1.26 124 20 1.46 106

さらに RPH パネルの出力を、図 10 に示すセンサ

(照度、加速度、温度)を搭載した 2.4GHz 帯の

ZigBee 端末に接続して駆動実験を行い、20 秒に 1回程度センサ情報の送出ができることを確認した。

図 10 無線センサ駆動実験ブロック図

7.2. 実環境での実験 実環境でのエネルギーハーベスティング実験は、

ATR の社屋から約 11km 離れた生駒山から送信され

ている、V-High、DTV の 2 周波数帯を対象に行った。

このとき標準ダイポールアンテナで測定した電力束

密度はそれぞれ、180μW/m2、81μW/m2 であった。

実験には、フレキシブル基板のアンテナ(V-High×1, DTV×2, 800M×4)を 2 枚用い、この環境におい

て約 1.5V 出力、12μW の電力が得られ、470μF コン

デンサを入れることで、平均消費電力 15μW の LCD温度計の連続駆動に成功した(図 11)。

図 11 実環境での電力回収実験の様子

DC 出力を電気二重層キャパシタに蓄電すること

で、消費電力の大きいデバイスの駆動も可能となる。

これについても検討し 15mF のキャパシタには 2 時

間程度、100mF には 6 時間程度で DC/DC回路の無負

荷出力電圧近くまで蓄電できることを確認した。(図 12)そして、電気二重層キャパシタに蓄電すること

により、消費電力の大きなデバイスを間欠的にでは

あるが駆動できることも確認した。

子パネル(50cm角)

電源基板

電源基板接続ケーブル

アンテナ面配線面電源基板

電源IC

子パネル

DC/DC回路

子パネル

子パネル

子パネル

DC/DC回路

DC/DC回路

DC/DC回路

(a) 測定系の概観 (b) RPHパネルのブロック図

RPHパネル送信側

距離約11m

100uW(1.5V)

RFレシーバ(USB)

2.4GHzZigBee

1uF

VoltageDoubler

60uW(3.0V)

300uF

2.7Vでオン

照度センサ加速度センサ温度センサ

RF

PC

センサノード

センサノード

Voltage Doubler

RF レシーバ

RPHパネル

DC/DC回路 470µF LCD

温度計

SW

RF-DC変換回路

LCD温度計

出力電圧

図 12 電気二重層キャパシタへの充電特性

8. まとめ 生活環境に存在する、放送・通信用の電磁波からの

高効率な電力回収を目指したエネルギーハーベステ

ィングの研究開発を紹介した。本研究開発では、放

送の V-High, DTV と携帯電話の 800MHz 帯を対象

として、高効率の 3 周波帯アンテナの構成法や、低

入力電力での高効率 RF-DC 変換回路、高効率の

DC/DC 回路技術を確立した。これらを組み合わせた

電磁波エネルギー回収パネルを、評価環境として定

めた電力束密度(各周波数で 286μW/m2)にて、目

標である 1.5V で 100μW 以上の DC 電力回収が可能

であることを確認した。また、評価環境よりも弱い

電磁波環境である実環境でも実験を行い、低消費電

力デバイスの駆動を行えることを確認した。 謝辞 本研究開発は、総務省委託研究「電磁波エネルギー

回収技術の研究開発」により実施した。

文 献 [1] J.A. Hagerty, F.B. Helmbrecht, W.H. McCalpin, R. Zane, Z.B.

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[9] 花澤理宏, 鴨田浩和, 北沢祥一, 阿野進, 中原久雄, 伴弘司, 小林聖, ”受信電力測定による電磁波エネルギー回収の適用性検討“ 2013 年信学総合大, B-1-114 P114, March 2013.

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[12] 北沢 祥一, 鴨田 浩和, 花澤 理宏, 阿野 進, 伴 弘司, 小林 聖, “放送、通信用の電波を対象とした電磁波エネルギー回収の回路検討,” 信学技報, vol. 112, no. 381, MW2012-143, pp. 5-10, Jan. 2013..

[13] S. Kitazawa, M. Hanazawa, S. Ano, H. Kamoda, H. Ban and K. Kobayashi “Field Test Results of RF Energy Harvesting from Cellular Base Station,” Proc. of 6th GSMM, Sendai Japan, April 2013.

[14] 北沢 祥一, 鴨田 浩和, 伴 弘司, 小林 聖, “放送、通信に用いる 3 周波数帯からの電磁波エネルギーの回収,”通信技報 WPT2013-26, pp.49-54, Nov. 2013

[15] H. Kamoda, M. Hanazawa, S. Kitazawa, H. Ban, N. Kukutsu, K. Kobayashi," Design of Rectenna Array Panel Taking into Account Mutual Coupling for RF Energy Harvesting," 2014 IEEE Radio and Wireless Week (RWW 2014).

著者紹介

北沢 祥一 ATR 波動工学研究所,主任研究員,[email protected]

鴨田 浩和 ATR 波動工学研究所,研究員,[email protected]

久々津 直哉 ATR 波動工学研究所,環境通信室長,[email protected]

小林 聖 ATR 波動工学研究所,前所長,現在 NTT

野瀬 浩一 ルネサスエレクトロニクス株式会社,課長,

[email protected] 池永 佳史 ルネサスエレクトロニクス株式会社,技師,

[email protected] 野口 宏一朗 ルネサスエレクトロニクス株式会社,技師,

[email protected] 吉田 洋一 ルネサスエレクトロニクス株式会社,担当,

[email protected]

00.20.40.60.8

11.21.41.6

0 120 240 360 480 600 720 840

Volta

ge [V

]

Time [Min.]

15mF

100mF