格納工程のバラツキ改善による 生産性の向上 - logistics · 2015-11-25 · 48...
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全日本物流改善事例大会2015・物流合理化賞―受賞企業に学ぶ物流合理化の工夫―
格納工程のバラツキ改善による生産性の向上
山内 節子Setsuko Yamauchi
東芝ロジスティクス㈱ 大分ロジセンター大分運輸㈱
物流合理化努力賞〈物流業務部門〉
1.職場概要
私たちの職場のある大分市は高崎山の猿、豊後水道の関アジ、関サバで皆様に知られている。
東芝大分工場では、テレビなどに使用される画像処理用半導体や携帯電話などに使用されるCMOSイメージセンサー、車載用半導体などを生産している(図表1)。
2.業務概要
東芝ロジスティクス(株)大分ロジセンターでは、東芝大分工場で生産される半導体の倉入れから梱包作業を行っており、全国に向けて出荷している。作業は倉入れ、受入れ、格納、ピッキング、小分け、梱包に分類される(図表2)。
3.現状把握
3.1 工程別KPIの把握ピッキング・格納・小分け・梱包の4工程のうち、
小分け・梱包工程については2013年上期に改善に
取り組み、成果を出した。2013年下期は他工程に比べバラツキが改善されていない格納工程に着目し、活動を進めることにした(図表3)。
3.2 格納工程のKPIの把握2013年上期の月別格納個数(平均)は22,060箱で、
1箱当たりの格納工数(平均)は10.89秒であった。効率の悪い月は12.14秒、良い月は9.69秒で2.45秒のバラツキがあった(図表4)。
1ケ月を日別単位でみた場合、効率の悪い日と良い日の差は1箱あたり6秒を超えており、平均では7.43秒であった(図表5)。
図表1 職場紹介
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図表2 作業の流れ
図表3 各工程のKPIグラフ(2013年9月)
図表4 格納工程のKPIグラフ 図表5 格納工程のバラツキ幅
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4.改善目標・活動計画
改善目標は、バラツキのもっとも少ない小分け工程並みにするには50%の削減が必要だが、今回は半分の25%削減とした。数値目標は2013年上期の平均格納時間を1箱あたり、7.43秒から5.57秒にする。スケジュールは図表6の通り。
5.現状分析
5.1 格納工程の作業フロー格納工程は「①製品のステータス確認」から「⑧
最終確認」まで8作業ある。1ロケーション分、全ての製品を格納し終えるまで「③製品を台車に積み替える」~「⑦ハンディターミナル(以下H/T)操作荷卸し」の手順を繰り返す(図表7)。
5.2 ビデオ撮り・ブレーンストーミングによる問題点の洗い出し
まず作業者6名一人ひとりの作業をビデオ撮りし、結果をメンバー全員で確認。ブレーンストーミングを実施し、他の作業者との違いを一人ひとり報告した。同じ作業手順書で作業しているつもりでも、細かい点で違う作業をしていることがわかり、改めて作業手順書が不十分なことに気付いた。考えられるバラツキ要因は
以下の3つに分類することができた。①製品タイプによるバラツキ②作業方法、動作の違いによるバラツキ③運搬距離によるバラツキ
6.詳細分析
6.1 製品タイプによるバラツキ製品タイプによるバラツキは、タイプ別に工数に
差があることがわかった。しかし、タイプの割合は工場側の要件になり、現場ではコントロールできないため、今回の改善からは対象外とした。
6.2 作業方法、動作の違いによるバラツキ作業方法、動作の違いによるバラツキは、同じ作
業手順書で作業していても細かな点では違うことがわかった。さらに格納作業手順を8工程・31の動作に分解し、4つの作業要素(作業・確認・移動運搬・積み替え)にまとめた(図表8)。
作業要素をグラフ化してみると作業の中の「H/T操作」「ヒモ処理」、移動運搬の中の「製品の格納」
「台車への積み付け」にバラツキ幅が多く出ていることがわかった(図表9)。
6.3 運搬距離によるバラツキ運搬距離によるバラツキは、現状は品種別で格納
しているため広範囲になっており、改善前の格納棚
図表6 スケジュール
図表7 格納工程の作業フロー
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面積は124m2であった(図表10)。格納実績(移動回数、箱数、ロケーション番号)から移動運搬距離を算出したところ928mであった(図表11)。
図表9 作業者間のバラツキ幅
図表11 運搬距離算出表
図表10 棚への格納頻度とレイアウト
7.対策の実施
7.1 作業方法、動作の違いによるバラツキ改善対策として以下の7つの項目が挙げられた。
対策①:ヒモ処理サイクル化対策②:ヒモ用袋の設置対策③:H/T操作タッチペン使用禁止対策④:H/T操作方法変更対策⑤:H/T操作手順の変更対策⑥:運搬箱数の見直し対策⑦:近接格納
本誌面では対策①及び対策③について説明する。
図表8 格納作業手順のまとめ
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(1)対策①:ヒモ処理サイクル化
ヒモ処理の「切る・取る・丸める・捨てる」といった動作をサイクル化し、作業のムラをなくした。統一前は最初に全てのヒモを切り、床に落とし、最後にまとめて捨てるという方法だったが、床に落としたヒモが作業の妨げになり見た目も悪いため、1段単位でヒモを丸め最後に捨てるという作業に統一した(図表12)。
(2)対策③:H/T操作タッチペン使用禁止
タッチペンを使用すると、H/Tを使う度に「タッチペンを取る」→「スキャンする」→「タッチペンを元に戻す」といった動作が必要なため、H/T操作は基本的に指で行うように統一した(図表13)。(3)結果
対策①~⑦の実施により、31の動作を21の動作に削減・標準化することができた。改善前にビデオ
撮りした一人あたりの工数は1,027秒だったのに対し、改善後の工数は968秒で59秒(▲5.7%)削減した(図表14)。
7.2 運搬距離によるバラツキ改善(1)移動距離の改善
格納方法を品種別格納から入り数別格納へ変更し、格納エリアを収縮することから着手した。続いて格納頻度の高い製品を通路寄りに配置し移動距離の短縮を図った(図表15)。(2)結果
改善前・後でほぼ同数の箱数格納実績日を選び比較したところ、改善前に比べ運搬距離は115m(▲12%)短縮された。1ケ月の格納箱数から算出すると4,372mの削減になる(図表16)。
図表12 ヒモ処理サイクル化
図表13 H/Tタッチペン使用禁止
図表14 作業手順(改善前→改善後)
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8.効果の確認
7.1及び7.2のバラツキ改善の結果、2013年上期の平均バラツキ7.43秒に対する削減目標(▲25%)の5.57秒に対し、1月~ 3月のバラツキ平均は5.00秒(達成率112%)であった。格納工数(平均)自体も2013年上期に比べ2.51秒削減できた。
9.歯止め
9.1 品質チェックリストの作成月1回巡回し、統一した項目の遵守状況を確認する。
工数が目標値を超えた場合は、要因調査を実施する。
9.2 上流工程への改善要望ヒモの括り方や結び目の位置など作業工数の削
減、ゴミの削減に繋がる項目は、上流工程に要望し改善検討してもらう(図表17)。
10.反省と今後の取り組み
10.1 反省良かった点としては作業手順書の重要性を再認
識できたこと。ビデオ分析を実施したことで一人ひとりの細かい作業方法の違いを知ることができたこと。苦労した点はエリア収縮のための古口品やス
図表15 格納エリア収縮
図表16 運搬距離削減結果
図表17 改善要望事例
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選考評
本事例は2015年度「物流合理化努力賞」に輝いた東芝大分工場で生産される半導体の物流作業に関する改善事例である。当該職場の作業は倉入れ、受入れ、格納、ピッキング、小分け、梱包の6作業に分類されるが、物流改善は過去より継続的に実施されており、すでに小分けと梱包工程は2013年度上期に改善に取り組んで成果を挙げている。今回は他工程に比べてバラツキが改善されていない格納工程に着目して改善活動を行ったものである。
本事例の着目する点は、第一に、工程ごとに1箱当たりの工数などのKPIを常時/定量的に把握しており、当該KPIに基づいて気付き/問題点把握を行い、物流改善を行う仕組みが職場に構築されていることである。毎年、改善すべきテーマを明確に持って着実に改善に繋げていることは、他の職場で大いに参考になる事例と言える。
第二に改善活動において、定量的な目標設定と体系的なSTEPを踏んだアプローチをしっかりと行って改善を実施していることである。今回であれば、まずは前年改善事例の実績を参考に、平均格納時間を25%削減する5.57秒に設定。目標設定した上で、作業方法のバラツキの現状分析ではビデオ分析により、同じ作業手順書で作業をしていても細かい点で違う作業をしていることに着目。作業方法・動作の違いによるバラツキを把握するために、8工程・31
動作・4作業要素に分解・整理して、個別動作のバラツキを1箱当たりの工数で評価し、課題となる作業要素をあぶり出し、当該要素作業の改善を行う体系的なプロセスを踏んで改善を行っている。
第三に、解決に向けて現状分析/課題抽出に基づき、現場に即した現実的な改善策を講じていることである。運搬距離によるバラツキ改善には、格納方法の品種別から数別格納への変更やレイアウトの変更により運搬距離を短縮した改善を。作業改善では
「ヒモ処理の切る・取る・丸める・捨てる」作業を「ヒモを丸め最後に捨てる」作業に統一することや、「H/Tのタッチペン使用を禁止して指で操作する」など、一見単純にも見えるが現場作業を細かく見直した、現実的な対策を行っていることに特徴がある。
結果についても定量的に評価して、初期の目標である25%削減を超える33%削減を実現しており、遵守状況の確認やPKIでのトレースなど歯止め策もしっかり講じている。
すでに来年度に向けた新たな課題も提起されているなど、本事例は物流改善活動を継続的に実施し、課題を一つ一つクリアしていく物流改善の好例である。
今後も引き続き作業改善に取り組んで、職場の改善文化のさらなる醸成と作業効率化を実現し、来年、再度この全日本物流改善事例大会で発表を聞けることを楽しみにしている。
「格納工程のバラツキ改善による生産性の向上」全日本物流改善事例大会2015 実行委員 中原 敬一郎(山九㈱ ロジスティクス・ソリューション事業本部 企画部長)
ロームーブ品の移動に時間がかかったこと、移動距離を集計するのに手間取ったこと、などである。悪かった点は現状把握に時間がかかったことが挙げられた。
10.2 今後の取り組み今後は、まだビデオ分析ができていないピッキン
グ工程を対象に、作業手順書の整備とバラツキ改善に向け活動を継続していきます。