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[動薬検フォーラム] 米国の動物用医薬品に係る法令・制度の解説 -日本の法令・制度との比較を交えて- 小川 (受付年月日:平成 27 6 2 日) 米国の動物用医薬品に係る薬事行政について調査するため,平成 27 1 12 日から 2 28 日まで米国農務省及び米国保健福祉省を訪問した。米国の法令・制度に関する次の 情報を収集し,日本のそれらと比較したので報告する。 1.動物用医薬品の分類及び規制担当 2.製造管理・品質管理の方法 3.動物用生物学的製剤の検定 4.飼料及び飲水添加型の抗菌性物質の規制 医薬品の開発,製造,販売等において,その医薬品の特性にあった要件を求めるために は,医薬品を適切に分類することが重要である。 米国における動物用医薬品の分類には Biological Product (生物学的製剤), Pesticide (殺虫 剤などの有害生物を対象とする製剤), Drug Biological Product 及び Pesticide 以外の動物用医 薬品)の3つがある。その規制の担当は, Biological Product は農務省動物用生物学的製剤セ ンター( Center for Veterinary Biologics 。以下「 CVB 」という。 ) Pesticide は環境保護庁, Drug は保健福祉省動物用医薬品審査センター( Center of Veterinary Medicine 。以 下「 CVM 」という。) である。 医 薬 品 の 分 類 及 び 規 制 の 担 当 は ,原 則 ,法 令 に 定 め ら れ た 定 義 へ の 該 当 性 で 判 断 さ れ る 。 Biological Product Virus, Serum, Toxin Act (ウイルス・血清・毒素法)で規制される。その定 義は 9 Code of Federal Regulations (連邦規則集。以下「 CFR 」という。) 101.2 に規定されてお り,その概要は, ・ウイルス,血清,毒素,又はその類縁物質 Treatment (動物の疾病の予防・診断・管理・治療等)を目的として使用されるもの ・免疫機構又は免疫反応を直接刺激するもの,補助するもの,増強するもの,又は促進 するもの などである。 Pesticide Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act (連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)で規制 される。定義は 40 CFR 152.3 に規定されており,その概要は, ・有害生物( Pest )の予防,殺虫・殺菌・殺鼠,忌避,緩和を効能とする物質で, Drug Animal Feed に分類されないもの などである。 Drug Federal Food, Drug, and Cosmetic Act (連邦食品医薬品化粧品法)で規制される。定義 は同法セクション 201 ( 21 U.S.Code 321 ) に規定されており,その概要は, ・米国薬局方などに収載されているもの 米国の動物用医薬品に係る法令・制度の解説-日本の法令・制度との比較を交えて- 121

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[動薬検フォーラム]

米国の動物用医薬品に係る法令・制度の解説

-日本の法令・制度との比較を交えて-

小川 孝

(受付年月日:平成 27 年 6 月 2 日)

本文

米国の動物用医薬品に係る薬事行政について調査するため,平成 27 年 1 月 12 日から 2月 28 日まで米国農務省及び米国保健福祉省を訪問した。米国の法令・制度に関する次の情報を収集し,日本のそれらと比較したので報告する。

1.動物用医薬品の分類及び規制担当

2.製造管理・品質管理の方法

3.動物用生物学的製剤の検定

4.飼料及び飲水添加型の抗菌性物質の規制

1.動物用医薬品の分類及び規制担当

医薬品の開発,製造,販売等において,その医薬品の特性にあった要件を求めるために

は,医薬品を適切に分類することが重要である。

1.1.米国の分類方法及び規制担当の決定方法

米国における動物用医薬品の分類には Biological Product(生物学的製剤), Pesticide(殺虫剤などの有害生物を対象とする製剤),Drug( Biological Product 及び Pesticide 以外の動物用医薬品)の3つがある。その規制の担当は, Biological Product は農務省動物用生物学的製剤センター( Center for Veterinary Biologics 。以下「CVB」という。 ), Pesticide は環境保護庁,Drugは保健福祉省動物用医薬品審査センター( Center of Veterinary Medicine。以下「 CVM」という。)である。

医薬品の分類及び規制の担当は,原則,法令に定められた定義への該当性で判断される。

Biological Product は Virus, Serum, Toxin Act(ウイルス・血清・毒素法)で規制される。その定義は 9 Code of Federal Regulations (連邦規則集。以下「CFR」という。) 101.2 に規定されており,その概要は,

・ウイルス,血清,毒素,又はその類縁物質

・ Treatment(動物の疾病の予防・診断・管理・治療等)を目的として使用されるもの・免疫機構又は免疫反応を直接刺激するもの,補助するもの,増強するもの,又は促進

するもの

などである。

Pesticide は Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)で規制される。定義は 40 CFR 152.3 に規定されており,その概要は,・有害生物( Pest)の予防,殺虫・殺菌・殺鼠,忌避,緩和を効能とする物質で, Drugや Animal Feed に分類されないもの

などである。

Drug は Federal Food, Drug, and Cosmetic Act(連邦食品医薬品化粧品法)で規制される。定義は同法セクション 201(21 U.S.Code 321)に規定されており,その概要は,・米国薬局方などに収載されているもの

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・診断,治療,緩和,予防を効能とするもの

・生体構造,機能に影響を与えるもの

などである。なお,いずれも正確な定義は原文を参照されたい。

定義に合致しない製剤については,三機関の協議で決定される。特に最近はバイオテク

ノロジー技術の発展により, Biological Product と Drug の中間に位置するものが増えてきており,CVB と CVM の間で覚書(USDA & FDA 2013)が作成されている。この覚書はサイトカイン,インターフェロン,遺伝子発現治療製品,幹細胞加工製品などの分類が記載されてい

る。三機関の協議の場では,法令上の定義と覚書に基づき議論が行われ,最終的にはケー

スバイケースで判断される。

1.2.日本の分類との比較及び分類事例

米国において動物に使用される Biological Product, Pesticide 及び Drug のうち、米国の BiologicalProduct は日本の動物用生物学的製剤,米国の Pesticide は日本の動物用一般医薬品(動物用生物学的製剤及び動物用抗菌性物質製剤以外の動物用医薬品),米国の Drug は日本の動物用一般医薬品又は動物用抗菌性物質製剤に概ね類似しているが,同一ではない。

ここで,具体的な事例を一つあげて解説したい。日本でゾエティス・ジャパン株式会社

が製造販売する「インプロバック」は,米国,オーストラリア, EU などで世界的に販売されている動物用医薬品である。本製剤の成分は性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)・ジフテリアトキソイド結合物溶液で,効能は免疫学的去勢効果及び豚肉の雄臭抑制であ

る。免疫機序を利用する従来のワクチンに類似するものであるが,その目的(効能)は感

染症の予防や疾病の治療ではないという非常に特徴的な製剤である。日本では動物用一般

医薬品として承認を得ている。米国の定義では,免疫作用を利用する点が Biological Productに,生体の構造機能に影響を与える点が Drug に近いが,最終的には Drug として分類されCVM が担当している。なお,オーストラリア及び EU では,日本の分類でいう動物用一般医薬品よりも動物用生物学的製剤に近いものとして分類されている。

1.3.考察

米国における動物用医薬品の分類及び規制担当は原則,法令に定められた規定に基づき

判断されているが,個別に判断されている事例もある。そこには,科学の進歩に伴い数十

年前は明らかに特徴が異なっていた生物学的製剤と化学合成医薬品の間が埋まり,明確な

線引きが難しくなってきている背景がある。そして,その個別判断の結果,同じ医薬品で

も国によって分類が異なるものが生じている。違いの理由としては,各国の法令上の用語

の定義の違いの他,製造・販売・使用までの各種規制の違い,規制を担当する機関の利用

可能な人的資源や予算上の理由などが複雑に関係しているものと思われる。そのため,新

しい医薬品の分類を検討する際は,他国や他機関の判断結果のみを単純に参考にすること

は適切ではなく,その背景などを考慮する必要がある。そして,分類時に重要なことは,

日本の法体系の下において製造・販売・使用の段階ではどのように規制すれば,また,科

学的にはどのように審査すれば,その医薬品の品質,有効性及び安全性を担保できるかと

いう基本に立ち返って議論することであると考えられる。いずれに分類するかは,その議

論の結果である。

2.製造管理・品質管理の方法

承認時に確認された医薬品の有効性及び安全性を担保するためには,承認時に用いた試

作ロットと同等の品質の市販ロットを恒常的に供給できるように製造管理・品質管理する

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必要がある。以下,米国における Biological Product と Drug の製造管理・品質管理の方法や国際的な調和活動への対応状況について解説する。

2.1. Biological Product の製造管理・品質管理の方法2.1.1.米国の Biological Product の製造管理・品質管理の方法米国の動物用医薬品のうち Biological Product の製造管理・品質管理については,農務省の

CVB がその規制を担当している。CVB は, 9 CFR 115 に基づき製造所の検査を行うことができる。この調査は日本の Good Manufacture Practice (以下「GMP」という。 )実地調査に類似するものであるが,CVB では通称, 9 CFR inspection と呼ばれており,GMP という用語を使用していない。

製造所の検査では, 9 CFR に規定された要件への適合性を確認する。 9 CFR 108 Facilityrequirements for licensed establishments(許可製造所の施設要件)には,製造を適正に行うためのハード面の要件が規定されている。 9 CFR 109 Sterilization and pasteurization at licensed establishments(許可製造所における滅菌,殺菌)には,滅菌機器及び条件が規定されている。 9 CFR 113Standard requirements(標準的要件)には,品質管理のための無菌試験,マイコプラズマ否定試験,迷入ウイルス否定試験などの一般的な試験法や,ワクチンごとの規格及び検査方法

(医薬品各条)などが規定されている。 9 CFR 114 Production requirements for biological products(生物学的製剤の製造要件)には,製造担当者の要件,承認を受けた製造方法(Outline of Production)どおり製造しなければならない規定,貯蔵方法などが規定されている。 9 CFR 116 Records andreports(記録・報告)には,製造管理・品質管理の記録の要件が規定されている。 9 CFR 117Animals at licensed establishment(許可製造所における動物)には,製造に用いる動物の取扱いと処理方法が規定されている。

実際に製造所で行われる検査では VETERINARY SERVICES MEMORANDUM NO. 800.91(USDA1999)に基づき,次の14項目を調査する。(1)Licenses and Permits(許認可)(2)Personnel(職員)(3)Facilities(構造)(4)Equipment(設備)(5)Sanitation(衛生)(6)Establishments and/or Products Pending Licensure(承認前施設・製品)(7)Seeds & Cells(シード及び細胞)(8)Production ( through batching)(製造)(9)Final production (filling through packing)(最終製品)(10)Labels(表示)(11)Testing(検査)(12)Animals(動物)(13)Distribution(流通)(14)Miscellaneous(雑則)

各項目の調査は Audit(記録の調査)と Observation(施設と製造方法の調査)を行う。2.1.2.日本の動物用生物学的製剤の製造管理・品質管理の方法

日本の動物用生物学的製剤では,米国保健福祉省の FDA が提唱した GMP の手法が採用されている。日本における動物用生物学的製剤の製造管理・品質管理の要件は, 1961 年より「動物用生物学的製剤の取扱いに関する省令」(昭和 36 年農林省令第 4 号。平成 26 年 11

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月 25 日廃止)に設けられていた。また,製造所等の構造設備の要件については「動物用医薬品等取締規則」(昭和 36 年農林省令代 3 号)に定められていた。さらに, 1972 年より「動物用生物学的製剤基準」(昭和 47 年農林省告示第 47 号)に製法,性状,品質,貯法等に関する基準が設けられている。これらの法令は米国の Biological Product の法令と同様,動物用生物学的製剤に特化した内容である。その後, 1962 年より FDA が採用している GMPの手法を,日本では 1980 年代に指針として導入し,現在の「動物用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令」(平成6年農林水産省令第18号)及び「動物用医薬品製造所等

構造設備規則」(平成17年農林水産省令35号)として法体系を整備している(社団法

人動物用医薬品協会 2006)。2.1.3.米国と日本の比較

動 物 用 生 物 学 的 製 剤 に 関 連 す る 製 造 管 理 ・ 品 質 管 理 の 法 令 に つ い て は , 米 国 で は

Biological Product に特化した内容が 9 CFR や MEMORANDUM に規定されているのに対し,日本では動物用生物学的製剤以外の動物用医薬品にも共通する内容が省令や通知に規定されて

いる。米国の場合,特に 9 CFR 113 の標準的要件は日本の動物用生物学的製剤基準のように,医薬品各条が設けられ,個別の製剤の品質管理法が規定されている。この法体系は GMP関連法令が整備される前の日本の法体系に類似するものと考えられる。一方,日本の現在

の GMP 関連法令は製造管理と品質管理部門のクロスチェック体制などの運営組織,製造管理・品質管理業務の基準書類とその業務の記録,製造所の施設要件に関する一般的な事

項を定めたものである。個別の製剤の製造管理・品質管理の方法については GMP 関連法令には記載されておらず,製造販売承認申請書,動物用生物学的製剤基準に基づき製造業

者が規定している。

製造管理・品質管理の基準への適合性調査については,米国農務省では法令に定められ

た要件( Requirement)に製造業者の製造管理・品質管理の方法が適合しているかを検査しているのに対し,日本の農林水産省では法令に定められた規範( Practice)に基づき製造業者が製造管理・品質管理を実施しているかを検査している。米国の場合,要件として動物

用の Biological Product の製造所の施設要件,滅菌・殺菌要件,製造要件,品質管理要件などが法令( 9CFR)に規定されている。一方,日本の場合,規範として組織運営,基準書類の作成,記録の方法が GMP 関連法令に規定されている。2.1.4.考察

市販されるシリアル(ロット)の品質を確保する手法として,製造業者の製造管理・品

質管理の方法について検査するという基本的な考え方は日米で同じである。ただし,米国

の場合,保健福祉省の FDA が提唱し,医薬品の製造管理・品質管理手法として現在,世界的に採用されている GMP 体系とは異なる方法で,農務省は Biological Product に対し独自の規制を続けている。一方,日本の場合,世界的な動向の中で FDA の GMP 体系の方法を採用し,動物用生物学的製剤以外にも共通する方法で規制を行っている。

2.2.Drug の製造管理・品質管理の方法2.2.1.米国の Drug の製造管理・品質管理の方法米国の動物用医薬品のうち Drug の製造管理・品質管理の方法については, CVM がその

規制を担当している。Drug の場合, Federal Food, Drug, and Cosmetic Act 501(a)(2)(B)に基づき,GMP に準じて製造されていないものは Adulterated Drug(不良医薬品)と見なされ,販売等が禁止されている。

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医薬品の製造管理・品質管理の基準は, 21 CFR 210, 21 CFR 211, 21 CFR 225 及び 21 CFR 266に規定されている。

21 CFR 210「 CURRENT GOOD MANUFACTURING PRACTICE IN MANUFACTURING, PROCESSING,PACKING, OR HOLDING OF DRUGS; GENERAL」には定義などの一般事項が記載されている。21 CFR 211「 CURRENT GOOD MANUFACTURING PRACTICE FOR FINISHED PHARMACEUTICALS」

には製造施設が準拠すべき事項が規定されている。その目次は次のとおりである。

A. General Provisions (一般事項)B. Organization and Personnel (組織・職員)C. Buildings and Facilities (構造)D. Equipment (設備)E. Control of Components and Drug Product Containers and Closures (品質管理)F. Production and Process Controls (製造管理)G. Packaging and Labeling Control (包装・表示)H. Holding and Distribution (保管・流通)I. Laboratory Controls (品質管理施設)J. Records and Reports (記録・報告)K. Returned and Salvaged Drug Products(返送・回収医薬品)この 21 CFR 211 は人用医薬品と共通であり,原則,人用医薬品と同じ規範が求められて

いる。

21 CFR 225「 CURRENT GOOD MANUFACTURING PRACTICE FOR MEDICATED FEEDS」は MedicatedFeed(医療用飼料), 21 CFR 266「CURRENT GOOD MANUFACTURING PRACTICE FOR TYPE AMEDICATED ARTICLES」は Type A Medicated Article に特化した医薬品の製造管理・品質管理の基準である。なお,Medicated Feed と Type A Medicated Article については後述の4において説明する。

2.2.2.日本の動物用一般医薬品及び動物用抗菌性物質製剤の製造管理・品質管理の

方法

米国の 21 CFR 211 に相当する日本の動物用医薬品の基準は,「動物用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令」(平成6年農林水産省令第18号)及び動物用医薬品製造所

等構造設備規則(平成17年3月29日農林水産省令第35号)である。ただし,日本の

場合,人用医薬品の基準は「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関す

る省令」(平成16年厚生労働省令第179号)及び薬局等構造設備規則(昭和36年2

月1日厚生省令第2号)であり,動物用医薬品の基準と別の省令になっている。また,そ

の内容も動物用よりも人用医薬品の基準の方が規定が多いものとなっている。

2.2.3.考察

米国の場合,動物用と人用の Drug は同じ基準に基づき規制が行われている。米国の FDAと日本の人用医薬品の GMP を担当する厚生労働省などは共に医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム(後述の2.3参照)に参加しており,その手法は同等とみなせる。この

ことから,Drug(Biological Product と Pesticide 以外の動物用医薬品)は米国の方が日本よりも厳しい規制を執っていると考えられる。

2.3 医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム( PIC/S)医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム( The Pharmaceutical Inspection Convention and

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Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme,以下「 PIC/S」という。) は,世界各国の医薬品の

「製造管理・品質管理基準」と「基準への適合性に関する製造事業者の調査方法」につい

て,国際間での整合性を図る団体である。ヨーロッパの薬事行政当局が中心となり 1995 年に設立されている。

2.3.1.米国の動向

米国は PIC/S へ 2011 年より参加している。PIC/S へは FDA として加盟しており,人用の Drugの規制を担当する医薬品評価研究センター(Center for Drug Evaluation and Research),人用のBiological Product を担当する生物製剤評価研究センター( Center for Biologics Evaluation andResearch),及び動物用の Drug を担当する CVM が PIC/S のメンバーである。FDA は PIC/S より得られる情報を海外にある製造所の GMP 調査における参考資料として

活用している。 PIC/S へ加盟した場合,メンバー間で他国の査察レポートを交換することができる。 FDA は他の加盟国が行った海外の製造所に関する査察レポートを PIC/S へ求め,自国の規制要件を満たすかどうかの判断に用いる。 PIC/S からの査察レポートは FDA の調査を補助するものであり,その調査結果をそのまま受け入れる相互承認という位置付けで

はない。

一方,動物用生物学的製剤の規制を担当している CVB は FDA と異なる規制を続けており,現在, PIC/S への参加計画はない。2.3.2.考察

米国では担当機関によって PIC/S への対応状況が異なっている。米国 FDA により提唱された医薬品の GMP は,WHO を介して世界に広められ,現在の国際調和の流れとなっている背景がある。そのため, CVB が仮に PIC/S へ参加を計画した場合は, FDA が実施している GMP への調和作業が想定され, FDA が参加した時よりも CVB は多くの課題をクリアしなければならないと思われる。

動物用医薬品を担当する海外の規制当局の PIC/S への参加の動向については注視が必要である。動物用医薬品の規制当局として PIC/S に参加している機関は FDA( CVM)の他,英国やフランスなどの担当機関が参加しているが,人用医薬品のようには多くはない。PIC/Sへ参加する場合,自国の規制を PIC/S へ調和する見直しが求められる。日本の場合,人用医薬品と動物用医薬品の基準が異なっている。人用医薬品の GMP を担当する厚生労働省などは PIC/S の加盟機関であることから,農林水産省が PIC/S へ参加する場合は動物用医薬品の基準の引上げが求められることが想定される。また,参加には費用や PIC/S に対応する人的リソースも必要である。ただし,参加することによる情報共有などのメリットがあ

り, GMP 制度が今後より発展していく中で PIC/S は無視できない大きな流れとなると思われる。

3.動物用生物学的製剤の検定

医薬品の品質を担保する手法の一つとして,製造ロットごとの品質を国が検査し,それ

に合格したもの以外のロットの販売等を制限する検定制度がある。

3.1.製薬企業が行う Product Inspection の手続米国の動物用の Biological Product は Product Inspection(検定)の対象である。Licensee or Permittee

(以下「製薬企業」という。)は,CVB が 9 CFR 113.6(a)に基づき行う Biological Product の Purity,Safety, Potency, Efficacy の検査を受けなければならない。Product Inspection の対象はすべての製剤かつそのすべての Serial(以下「シリアル」という。

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日本のロットと同じ概念である。)である。 Product Inspection の合格の通知があるまでは,製薬企業はそのシリアルを出荷してはならない (9 CFR 113.6(a))。製薬企業は, 9 CFR 113.3 の規定に基づき,米国で製造又は米国へ輸入する全てのシリア

ルについて,製造完了後,そのシリアルを代表するサンプル(ワクチンや診断薬の最終製

品)を CVB へ提出しなければならない。申請様式は APHIS Form 2020 である。 Sampling(以下「収去」という。)は多くの場合その製薬企業の職員が行う。その職員は CVB によって認定された担当者で, Sampler(以下「サンプラー」という。)と呼ばれる。サンプラーは 9CFR 113 及び VETERINARY SERVICE MEMORANDUM NO. 800.59(USDA 2013)に規定された収去方法に従って対象となる最終製品を CVB へ送付する。その後,製薬企業が行う最終製品の品質管理試験を開始する。その結果を APHIS Form 2008(以下「様式 2008」という。)に記載し,CVB へ提出する( 9 CFR 113.5(c) , 116.7)。なお,海外へ輸出するシリアルについても同様に CVB へ提出しなければならない。3.2.国が行う Product InspectionCVB が行う Product Inspection は,2種類の調査からなり,様式 2008 の書面調査と,サンプ

ルを用いてラボで行う Test(以下「規格試験」という。)である。書面調査は全シリアルについて行われている。一方,規格試験は,規格試験用として全シリアルのサンプルが CVBへ提出されているが,その中から抽出されたシリアルについて行われている。サンプルが

提出された後,ワクチンにあっては7日以内,診断薬にあっては3日以内に規格試験の実

施の有無を決定する(VETERINARY SERVICE MEMORANDUM NO. 800.53,USDA 2014)。規格試験に係る製薬企業の費用はなく,国の費用である。

米国の Product Inspection は,書面調査を基本とし,サンプルの規格試験は補助的に行われている。主となる書面調査の信頼性を確保する取組としては,製造所の検査( 9 CFR 115.1Inspection of Establishments)の他,承認審査における規格試験法のバリデーション成績の評価と Prelicense Test(以下「承認前検査」という。)がある。承認前検査は,製薬企業が設定した製剤の規格及び検査方法を CVB が承認前に検査するものである。原則,承認されるすべての品目が対象である。なお,特に新しいマスターシードを用いて製造する生ワクチンや

遺伝子組換え微生物を用いて製造するワクチンについては,Prelicense Serial(試作シリアル)に加えてマスターシード及びマスターセルシードの提出を求め,性状解析を行っている。

3.3.米国と日本の検定制度との比較

米国の Biological product も日本の動物用生物学的製剤も国がシリアル(ロット)ごとの出荷の可否の判断に関与している。米国の Product Inspection の対象は製造するすべての製剤かつすべてのシリアルである。日本も同様に,原則,全ての生物学的製剤を検定の対象とし

ている。ただし,シードロット製剤及び診断薬であって製造管理・品質管理上のリスクや

動物衛生に与える影響の低い製剤を検定の対象から除いており,日本は米国と異なる新し

い取組を進めている。

米国の Product Inspection の特徴としては,製造直後に検定申請とサンプルの提出が行われることである。この時点で,そのシリアルが規格に適合するものなのかは製薬企業自身も

把握していない。そのため,製薬企業が行う最終製品の品質管理試験で不適合となったも

のについても CVB は製造実績を把握することができる。このシステムにより,CVB は単にそのシリアル出荷の適否を確認しているだけではなく,承認後に製造する全てのシリアル

の製造管理・品質管理の一貫性を確認することができる。そして,製造業者が自ら出荷不

可と判断したものであっても,製造上の問題点の報告・改善を求めることが可能である。

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一方,日本は原則,製造業者が行う最終製品の品質管理試験終了後に検定申請が行われ,

サンプルが提出されている。

米国の Product Inspection の主体は,製薬企業が行った試験成績を書面上で調査することである。そのため,その試験結果の信頼性を確保する必要がある。承認申請時には,申請者

が行った規格試験方法のバリデーション成績を書面で審査するとともに,国自らもその方

法の妥当性を検証している。日本でも新しい製剤については,承認前に事前の検討を行う

ことが多いが,米国の場合は原則,全品目を行っている。これにより,製薬企業が設定し

た規格試験方法の妥当性を CVB は承認前に調査し,その試験結果の信頼性を確認することで,書面調査の有効性を担保している。

米国の Product Inspection において,規格試験よりも書面調査に重点が置かれている要因として考えられることは,米国の動物用生物学的製剤の年間シリアル数の多さである。日本

でシードロット制度が導入される直前の年間の検定数が 1000 ロット未満であったことを考えると,米国の年間シリアル数 15000 前後は圧倒的に多い。また, Product Inspection に係る費用は,日本は製造販売業者が負担する仕組みであるが,米国には製薬企業に負担させる仕

組みはなく,国が負担している。米国の膨大なシリアル全てに対して規格試験を実施する

人的資源や経費を国が負担することは合理的ではない。限られた人的資源,経費を最大限

生かすため,リスクに基づき優先順位を付けて対応している。

米国の Product Inspection では,書面調査は全てのシリアルについて行われているのに対し,規格試験は全てのシリアルのサンプルを提出させた後,その中から抽出して行われている。

一方,日本の検定では,規格試験は検定対象となっている製剤の全てのロットについて行

われている。なお,参考資料として製造記録の提出を求めているが,その記録の書面調査

のみで合否を決定するのではなく,国が行う規格検査に重点が置かれている。国が行う規

格試験は,米国の場合,書面調査を補助する調査と考えられるが,日本の場合,検定対象

ロットの出荷の可否判断を製薬企業と国の両者で行うダブルチェックの意味合いが大き

い。

国が行う規格試験のためのサンプルの収去については,日本の場合,第三者である都道

府県の薬事監視員が行っているが,米国の場合,検定を申請した当事者である製薬企業の

職員が行う。以前は国の職員が収去を行っていたが,シリアルを代表するサンプル抽出が

公正に行われるよう,サンプラーの認定条件が定められ,民間への業務移管が進められて

いる。

3.4.考察

米国も日本も動物用生物学的製剤の製造管理・品質管理については,その他の動物用医

薬品よりも国が深く関与する制度を設けている。一般的に,化学合成医薬品に比べて生物

学的製剤は製造工程・品質試験上のバラツキが大きい。そのため,米国も日本も化学合成

医薬品についてはシリアル(ロット)ごとの出荷の可否判断に国は関与していないが,生

物学的製剤では検定制度により品質管理の一部を国が担っている。

近年,製薬企業の製造技術や製造管理・品質管理の手法が発展し,以前より品質の均質

な生物学的製剤を製造できるようになってきた。日本の場合は,シードロット製剤及び診

断薬の一部の検定を除外し,生物学的製剤以外の動物用医薬品と同様,ロットごとの出荷

の可否判断には国は関与しない仕組みへ移行している。米国の場合は,全シリアルを ProductInspection の対象としているが,製薬企業が行う自家試験や収去などの品質管理業務の信頼性を高め,国の検定制度に費やす人的資源・費用を軽減する仕組みを構築している。将来

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米国の動物用医薬品に係る法令・制度の解説-日本の法令・制度との比較を交えて-

的には化学合成医薬品と同様,一定の品質の製品を安定的に製造する体制作りに規制の重

点を移し,国の関与が最小限となる規制が望まれる。

4.飼料及び飲水添加型の抗菌性物質の規制

家畜に用いる抗菌性物質には,家畜の餌や飲水に添加し,飼育群単位で使用されるもの

がある。その使用に際しては,耐性菌の出現のリスクを管理していく必要がある。米国の

リスク管理方法を理解する上で重要である「Medicated feed(医療用飼料)」,「Veterinary FeedDirective(VFD) regulation(獣医飼料指示書)」及び「Guidance for Industry #213(業界向け指針第 213 号」について解説する。4.1 Medicated feed について米 国 で は 抗 菌 性 物 質 を 含 む 飼 料 は , 抗 菌 性 物 質 以 外 の 医 薬 品 を 含 む 飼 料 と と も に

Medicated feed として分類されている。Medicated feed は飼料の製造業者にて製造される。Medicated feed の製造では,3つの製品, Type A medicated article, Type B medicated feed, Type Cmedicated feed が取り扱われる。Type A medicated article は,Type B medicated feed,Type C medicated feed,又は別の Type A medicated

article を製造するために用いる Drug であり,Medicated feed の原薬である。Type A medicated articleを製造する医薬品の製造業者は,医薬品の承認申請( New Animal Drug Application 又はAbbreviated New Animal Drug Application)が必要である。Type B medicated feed は, Type C medicated feed,又は別の Type B medicated feed を製造するため

に用いる医療用飼料の中間製品である。

Type C medicated feed は,動物に医療用の飼料として与える製品,又は別の Type C medicatedfeed を製造するために用いる医療用飼料である。 Type A から C のうち, Type C のみが動物へ直接与えられるものである。

Type A medicated article を使用して Type B 又は Type C の Medicated feed を製造する飼料の製造業者は,Medicated feed mill license が必要な場合がある。Type A medicated article は,withdrawal period(使用禁止期間)のない Drug(カテゴリーⅠ)と定められた Drug(カテゴリーⅡ)の二つに分類されている。カテゴリーⅡに分類される Type A medicated article を使用して医療用飼料を製造する場合は,Medicated feed mill license が必要である。なお,抗菌性の Type A medicated articleは全てカテゴリー II に分類される。4.2 Veterinary Feed Directive(VFD) regulation についてDrug や Medicated feed の Dispensing status(以下「調剤方法」という。)には3種類あり,

Over-The-Counter(以下「OTC」という。), Prescription(処方箋),Veterinary Feed Directive(獣医飼料指示書。以下「VFD」という。)がある。調剤方法が OTC の Drug 又は Medicated feed については,農家は獣医師の診療なしに購入できる。調剤方法が Prescription の Drug については,農家は購入前に獣医師の診療が必要で,獣医師から発行された処方箋を医薬品販売店

へ提出して購入する。調剤方法が VFD の Medicated feed については,農家は購入前に獣医師の診療が必要で,獣医師から発行された VFD を飼料の Distributor(販売業者)へ提出して購入する。処方箋と VFD の違いは,処方箋は獣医師が農家と医薬品販売業者へ発行するのに対し,VFD は農家と飼料の販売業者に発行する点が異なる。VFD の指示書は 21 CFR 558.6 (a)(4)に規定された記載事項(品目名,用法,効能,使用

禁止期間など)が記載され,2年間の保管義務がある。指示書は獣医師によって 3 枚発行され,原本は飼料の販売業者,写しの一部は獣医師,残りの一部は農家に発行される。

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4.3 Guidance for Industry #213 について2013 年 12 月に CVM から業界へ向けた指針 Guidance for Industry(以下「GFI」という。) #213

「New Animal Drugs and New Animal Drug Combination Products Administered in or on Medicated Feed orDrinking Water of Food-Producing Animals: Recommendations for Drug Sponsors for Voluntarily Aligning ProductUse Conditions with GFI #209」が公表された。これは,ヒトの医療上重要な抗菌性物質を含む飼料又は飲水添加型の医薬品の食用動物への慎重使用を推進する指針である。

本指針が対象としている抗菌性物質は次に掲げるものである。

・ aminoglycosides(アミノグリコシド系)・ lincosamides(リンコマイシン系)・macrolides(マクロライド系)・ penicillins(ペニシリン系)・ streptogramins(ストレプトグラミン系)・ sulfonamides(サルファ薬)・ tetracyclines(テトラサイクリン系)

これは,ヒトの医療上重要なものであり,ランク付けは GFI #152( FDA 2003)で規定されている。

対象となる抗菌性物質を含む製剤の承認を既に得ている製薬企業は,承認事項の変更手

続を行うことになる。製剤の効能のうち,成長促進( For increased rate of gain and improved feedefficiency)を目的とするものは,その効能を削除する変更手続が行われる。また,これらのうち,効能が成長促進のみのものについては,承認が整理されることとなる。調剤方法

については,Medicated feed は OTC から VFD へ,飲水添加型の Drug は OTC から Prescription へ変更される。対象となる製剤及びその製薬企業の一覧が FDA のウェブサイトで公表されている(注1)。この手続については,製薬企業も自主的に取り組むことを合意しており, 3年以内には Type A medicated article や Drug の効能及び調剤方法の変更申請が実施される予定である。

対象となる抗菌性物質を含む製剤の承認を新たに得ようとする場合は,今後は調剤方法

と効能が制限されることになる。 1993 年以前は,多くの Type A medicated article 及び飲水添加型 Drug は OTC 医薬品として承認されていた。その後,米国では VFD 制度を導入し,新しい飼料又は飲水添加型の抗菌性物質については,VFD 又は処方箋医薬品として承認されてたが,実際に新しく VFD 医薬品として承認されたものは Tilmicosin と Florfenicol の2つのみであった。今後,新しく承認される製剤の調剤方法については Type A medicated article の場合は VFD 医薬品,飲水添加型 Drug の場合は処方箋医薬品として承認される。また,効能については,成長促進を目的としたものは今後は認められない。

4.4 考察

米国では,抗菌性物質を添加された飼料は目的に関わらず Medicated feed に分類される。一方,日本では,抗菌性物質を飼料へ添加するもののうち,使用する目的が治療である場

合は動物用医薬品,飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進(成長促進)の場合

は抗菌性飼料添加物に分類される。このように,飼料へ添加する抗菌性物質については米

国では剤型で,日本では使用目的で分類が行われている。

米国の場合は,Medicated feed という区分を設け,医薬品の有効成分を飼料に混合する製造工程を飼料製造業者に認めている。飼料に有効成分を混合して給餌する際,期待する効

能が得られる均等な濃度の飼料を与える必要があるが,一般的に,農家が農場において餌

小川 孝

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に医薬品成分を均一に混合することは困難である。米国の Medicated feed の仕組みは,飼料製造業者に混合を行わせることにより均一な有効成分を含む飼料の流通を可能としてい

る。日本の場合は,医療目的のものは医薬品に分類され,その製造は医薬品の製造業の許

可が必要である。そのため,Medicated feed に該当するものを飼料製造業者が製造販売することは難しいと考えられる。

米国は,飼料又は飲水添加型の抗菌性物質による耐性菌のリスク管理として,使用目的

の制限(成長促進目的での使用を禁止)及び流通の制限(OTC での調剤方法を廃止し,獣医師の監督下での使用に制限)を実施する予定である。これらの抗菌性物質は,成長促進

以外の医療目的で,獣医師のコントロールの下で使用されることとなる。つまり,耐性菌

出現の責任が農家から獣医師へ移ることになる。

米国と日本では,飼料に添加する抗菌性物質の規制体制が異なる。そのため,米国の制

度をそのまま参考にすることはできないが,日本の制度にあった今後の取組を検討する上

で,米国の新しいリスク管理措置の効果に関する情報収集は重要と考えられる。

注1 List of Affected Applications, Implementing Guidance for Industry #213http://www.fda.gov/AnimalVeterinary/SafetyHealth/AntimicrobialResistance/JudiciousUseofAntimicrobials/ucm390429.htm

5.総括

米国と日本では動物用医薬品の品質,有効性及び安全性の確保の方法が異なる部分があ

る。本稿では,米国の動物用医薬品の分類,製造管理・品質管理の方法,動物用生物学的

製剤の検定,飼料及び飲水添加型の抗菌性物質の規制の違いについて日本の法令・制度と

の比較を交えて解説を試みた。このような相違は,今回の調査項目以外の法令・制度にお

いても認められるだろう。ただし,米国も日本も動物用医薬品に必要な規制を行うことに

より保健衛生の向上を図るという目的は同じであり,同じ目標に向かって薬事行政が行わ

れているものと考えられる。法令・制度を俯瞰すれば,異なる部分より類似する部分の方

が多いのではないかと考えられた。

今回,法令・制度の全体像を把握することの重要性を再認識した。例えば,日本の動物

用生物学的製剤で全ロット検定を実施していたシードロット制度導入前を振り返ると,全

シリアルの規格試験を行っていない米国の検定制度は日本よりも緩いという印象を筆者は

持っていた。今回,米国の検定制度の全体像を改めて理解し,規格検査という側面のみを

比較するのではなく,動物用生物学的製剤の品質を制度全体としてどのように確保してい

るのかという視点が欠けていたことを反省した。日本と海外の動物薬事制度の調和活動が

進められていく中で,日本にはない海外の法令・制度を参考にして新しい制度を検討する

ことがある。そのような場合は,単に部分的な側面の最適化を目指すのではなく,新しい

制度を組み込んだ後の全体像を再考する視点が重要であると考えられる。

参考資料

FDA (2003) Guidance for Industry #152 Evaluating the Safety of Antimicrobial New Animal Drugs with Regardto Their Microbiological Effects on Bacteria of Human Health Concern. Meryland, USA.FDA (2013) Guidance for Industry #213 New Animal Drugs and New Animal Drug Combination Products

Administered in or on Medicated Feed or Drinking Water of Food-Producing Animals: Recommendations for DrugSponsors for Voluntarily Aligning Product Use Conditions with GFI #209 Meryland, USA.

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小川 孝

社団法人動物用医薬品協会 (2006) 動物用医薬品の GMP 解説書(基準の各条解説と Q&A,手順書モデル),東京

USDA (1999) VETERINARY SERVICES MEMORANDUM No.800.91 Categories of Inspection for LicensedVeterinary Biologics Establishments. Washington, DC, USA.USDA (2013) VETERINARY SERVICES MEMORANDUM NO. 800.59 Veterinary Biological Product

Samples . Washington, DC, USA.USDA (2014) VETERINARY SERVICES MEMORANDUM NO. 800.53 Release of Biological Products.

Washington, DC, USA.USDA and FDA (2013) MEMORANDUM OF UNDERSTANDING Between the ANIMAL AND PLANT

HEALTH INSPECTION SERVICE, UNITED STATES DEPARTMENT OF AGRICULTURE and the FOOD ANDDRUG ADMINISTRATION, DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES, APHIS Agreement #04-9100-0859-MU, FDA Serial # 225-05-7000. Washington, DC, USA.

謝辞

本報告は米国保健福祉省,米国農務省及び農林水産省消費・安全局及び動物医薬品検査所

の関係各位の協力のもと行った調査結果を取りまとめたものです。米国保健福祉省動物用

医薬品審査センターの Dr. Merton Smith 氏,Mr. Jon Scheid 氏及び Dr. Steve Yan 氏,米国農務省動物用生物学的製剤センターの Dr. Connie Schmellik-Sandage 氏及び Dr. Kylius Wilkins 氏,また,本調査において御協力,御指導,御助言いただいた皆様に深謝いたします。

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